説明

減速機のシール構造

【課題】潤滑剤の漏れを防止すると共に、減速機の動力伝達の損失を低減させることができる。
【解決手段】減速機構135の入力軸(回転軸)100と、入力軸100に対して相対回転する相対回転部材120と、を備え、入力軸100と相対回転部材120との間に組み込まれた第1シール部材107を介して減速機G1の内部と外部とを仕切る減速機G1のシール構造131であって、入力軸100の減速機構135を挟んだ両側に第1、第2シール部材107、109が配置されており、第1シール部材107の摺動緊迫力が、第2シール部材109の摺動緊迫力より弱くなっており、且つ、第1シール部材107よりも減速機G1の外部側に潤滑剤吸収部材121、123が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、図6に示されるような減速機構1と、該減速機構1の入力軸2と、該入力軸2に対して相対回転する相対回転部材3、4と、を備え、前記入力軸2と相対回転部材3、4との間に組み込まれたシール部材5、6を介して減速機8の内部と外部とを仕切る減速機8のシール構造7が開示されている。
【0003】
減速機8の入力軸2の入力側には、シール部材5が配置され、出力側にはシール部材6が配置されている。減速機8内部にグリースが注入されている。これらのシール部材5、6は、自身のみで減速機8の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力を有しており、減速機8内部に密閉空間を形成し、グリースを封止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−190683(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなシール構造におけるシール部材5、6は、潤滑剤を封入するための密封空間を形成するため、入力軸を強い圧力により締め付け、減速機の動力伝達の損失を誘引してしまう。
【0006】
しかしながら、その一方でシール部材5、6がなければ、潤滑剤を封入するための密閉空間を形成することができず、潤滑剤の漏れを誘引してしまう。
【0007】
本発明では、上記の問題を解決するために、潤滑剤の漏れを防止すると共に、減速機の動力伝達の損失を低減させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、減速機構の回転軸と、該回転軸に対して相対回転する相対回転部材と、を備え、前記回転軸と相対回転部材との間に組み込まれたシール部材を介して減速機の内部と外部とを仕切る減速機のシール構造であって、前記回転軸の前記減速機構を挟んだ両側に第1、第2シール部材が配置されており、前記第1シール部材の摺動緊迫力が、前記第2シール部材の摺動緊迫力より弱くなっており、且つ、該第1シール部材よりも前記減速機の外部側に潤滑剤吸収部材が配置されている構成とすることにより、上記課題を解決した。
【0009】
本発明では、第1、第2シール部材を回転軸と相対回転部材の間に組み込んでいる。第1シール部材の摺動緊迫力を少なくとも第2シール部材の摺動緊迫力より低下させていると共に、第1シール部材の減速機の外部側に潤滑剤吸収部材を配置しているため、減速機の動力伝達の損失を低減することができ、且つこの潤滑剤吸収部材が、第1シール部材の摺動緊迫力不足により生じうる第1シール部材から減速機の外部側へ流出しようとする潤滑剤を回収し、潤滑剤が減速機から外部空間へ漏れることを防止することができる。
【0010】
特に、回転軸が低トルクで且つ出力軸より速い回転速度で回転する高速軸である場合には、第1シール部材の該高速軸を締め付ける摺動緊迫力の強度(度合い)による動力伝達損失への影響が特に大きくなるため、第1シール部材の摺動緊迫力を低下させたことにより、減速機の動力伝達の損失をより大きく低減することができる。
【0011】
また、本発明は、減速機構の回転軸と、該回転軸に対して相対回転する相対回転部材と、を備え、前記回転軸と相対回転部材との間に組み込まれたシール部材を介して減速機の内部と外部とを仕切る減速機のシール構造であって、前記シール部材は、前記回転軸又は相対回転部材に対して、自身のみで前記減速機の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力を有しておらず、且つ、該シール部材よりも減速機の外部側に潤滑剤吸収部材が配置されている構成と捉えることもできる。この構成によっても、シール部材の回転軸を締め付ける摺動緊迫力を低下させると共に、シール部材の減速機の外部側に潤滑剤吸収部材を配置しているため、減速機の動力伝達の損失を低減することができ、且つこの潤滑剤吸収部材が、シール部材から減速機の外部側へ流出しようとする潤滑剤を回収し、潤滑剤が減速機から外部空間へ漏れることを防止することができる。
【0012】
さらに、本発明は、減速機構の回転軸と、該回転軸に対して相対回転する相対回転部材と、を備え、前記回転軸と相対回転部材との間で構成され、減速機の内部と外部とを仕切る減速機のシール構造であって、前記回転軸と前記相対回転部材との間に、幅狭部分が形成され、且つ、該幅狭部分よりも前記減速機の外部側に、潤滑剤吸収部材が配置されている構成と捉えることもできる。この構成によれば、少なくとも回転軸の一側のシール部材を排除し、且つ回転軸と相対回転部材との間に幅狭部分を形成するとともに、該幅狭部分よりも減速機の外部側に潤滑剤吸収部材を配置しているため、上述したシール構造よりも、動力伝達の損失を更に低減させることができるとともに、幅狭部分により潤滑剤の流出が抑制され、またたとえ幅狭部分から潤滑剤が流出したとしても、潤滑剤吸収部材が潤滑剤を回収し、潤滑剤が減速機から外部空間へ漏れることを防止する機能を更に向上させることができる。
【0013】
なお、本発明の「シール部材」の概念には、潤滑剤が漏れることを防止するためのみに設けられた「シール部材」だけでなく、他の周辺部材に、その部材自身の本来の機能に加えて、潤滑剤が漏れることを防止する機能を付加させた、「特定の部材のシール部」の概念も含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、潤滑剤の漏れを防止すると共に、減速機の動力伝達の損失を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の一例にかかるシール構造が適用された減速機の縦断面図
【図2】図1の矢示II部で示す拡大図
【図3】第2の実施形態の一例にかかるシール構造が適用された減速機の縦断面図
【図4】第3の実施形態の一例にかかるシール構造が適用された減速機の縦断面図
【図5】本発明の実施形態の一例にかかるシール構造が適用された他の減速機の縦断面図
【図6】従来のシール構造が適用された減速機の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態の一例が適用された減速機G1の断面図である。図2は、図1の矢示IIで示す拡大図である。
【0018】
先ず減速機G1の概略から説明する。
【0019】
減速機G1は、減速機G1の出力軸として機能するフランジ体(相対回転部材)120(又はケーシング122)よりも回転速度が速い入力軸(回転軸)100、該入力軸100に対して相対回転するフランジ体120と、該入力軸100と一体的に形成された2個の偏心体102、104と、該偏心体102、104にそれぞれ組み込まれた2枚の外歯歯車110、112と、該外歯歯車110、112がそれぞれ同時に内接噛合する(1個の)内歯歯車114と、を有する偏心揺動型の減速機構135を備えている。
【0020】
入力軸100は、半径方向中央部に軸方向に沿って中空部101を備えている。この中空部101の半径方向内側に、入力軸100と非接触に相対回転する筒状部材103が配置されている。
【0021】
筒状部材103は、入力軸100の出力側が末広がりになっており、出力側において、ボルト111、113により、フランジ体120に締結されている。この筒状部材103は、半径方向中央部に軸方向に沿って中空部105を有しており、この中空部105にはケーブル等(図示略)を通して使用することができる。
【0022】
前記入力軸100に一体的に形成された偏心体102、104の偏心位相は、円周方向に180度ずれている。各偏心体102、104の外周には2個の軸受106、108が、軸方向に並べて配置されている。
【0023】
内歯歯車114の内歯は、円柱状の外ピン114Aによって構成されている。内歯歯車114の歯数は、外歯歯車110、112の歯数より「1」だけ多く設定されている。
【0024】
前記外歯歯車110、112には、それぞれ内ピン孔110A、112Aが形成されており、該内ピン孔110A、112Aを内ピン116が遊嵌・貫通している。外歯歯車110の軸方向反負荷側において、モータ側カバー118がケーシング122に固定されているとともに、外歯歯車112の軸方向負荷側において、フランジ体120が入力軸100及びケーシング122の双方に対して回転自在に配置されている。
【0025】
前記内ピン116がフランジ体120と一体化されている。
【0026】
なお、符号124、126は、入力軸100を回転自在に支持すると共に、軸受106、108の軸方向の移動規制を行う玉軸受である。また、符号115は、クロスローラ軸受である。
【0027】
この減速機G1は、上述したような構成を有しており、入力軸100の回転を大きく減速した上でフランジ体120側から取り出すことができる。なお、フランジ体120、或いはケーシング122から減速出力を取り出すように設計変更することも可能である。
【0028】
ここで、第1シール部材107を中心としたシール構造131について説明する。
【0029】
入力軸100の両端(減速機構135を挟んだ両側)には第1、第2シール部材107、109が配置されているとともに、フランジ体120とケーシング122との間には第3シール部材117が配置されており、減速機構135の内部には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。第1〜第3シール部材107、109、117のうち、第1シール部材107が本発明の実施形態に係るシール構造に関係している。
【0030】
第1シール部材107は、樹脂等の弾性部材からなり、玉軸受126の軸方向外側(出力側)において、入力軸100とフランジ体(相対回転部材)120との間に組み込まれており、減速機G1の内部と外部とを仕切っている。第1シール部材107は、フランジ体120に組付けられた第1部材107T、入力軸100に組付けられた第2部材107Uから構成されており、全体として軸方向断面でM字型に構成されている。この第1シール部材107の第1、第2部材107T、107Uは、非接触であり、中央にはわずかな隙間(幅狭部分)153を有している。これにより、この隙間153を通過するグリースの圧力損失を大きくし、グリースを通過しにくくしている。
【0031】
第1シール部材107は、入力軸100に対して、自身のみで減速機G1の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力(摺動しながら軸を締め付ける力)を有していない。具体的には、本シール構造131における第1シール部材107の第1部材107Tは、フランジ体120側に組付けられており、フランジ体120と共に回転する。一方、第2部材107Uは、入力軸100側に組付けられており、入力軸100と共に回転する。また、シール構造131の第1、第2部材107T、107Uは互いに接触していない。
【0032】
このため、当該第1シール部材107による「シールのための摺動緊迫力X1」は、零である。
【0033】
シール構造131は、後述する潤滑剤吸収部材121、123の減速機構135側にラビリンス構造160を有している。より具体的には、潤滑剤吸収部材121、123の減速機構135側(減速機G1の内部側)で、且つ第1シール部材107の反減速機構側(第1シール部材107を境にして減速機構135の存在する側と反対の側:減速機G1の外部側)において、入力軸100とフランジ体120が、わずかな隙間を有して対峙しており、グリースが両者の間を通過しにくいラビリンス構造160を構成している。
【0034】
また、このシール構造131では、2個の潤滑剤吸収部材121、123が、第1シール部材107の反減速機構側(減速機G1の外部側)に備えられている。より具体的には、一方の潤滑剤吸収部材123が、入力軸(回転軸)100との間にすき間を有するように筒状部材103に取り付けられ、他方の潤滑剤吸収部材121が筒状部材(相対回転部材と一体の部材)103との間にすき間を有するように入力軸100に取り付けられることにより、潤滑剤吸収部材123と潤滑剤吸収部材121が軸方向に沿って配置されている。
【0035】
前記第2シール部材109は、玉軸受124の軸方向外側(入力側)で、且つ入力軸100とモータ側カバー118の間に配置されている。第2シール部材109は、該第2シール部材109の一部であるリップ部109Rを入力軸100に対して付勢するばね(付勢部材)109Sを有している。即ち、第2シール部材109は自身のみで減速機G1の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力Y1を有しており、本発明は適用されていない。
【0036】
なお、このことは、換言するならば、入力軸100の出力側(一端側)に配置された第1シール部材107の摺動緊迫力X1は、入力側(他端側)に配置された第2シール部材109の摺動緊迫力Y1より弱いということでもある(X1<Y1)。
【0037】
第3シール部材117は、クロスローラ軸受115を潤滑するためのグリースが外部に漏れることを防止するために取付けられている。この第3シール部材117も、付勢部材117Sを有するシール部材であり、自身のみで減速機G1の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力Y2を有している。従って、該第3シール部材117にも、本発明は適用されていない。
【0038】
次に、シール構造131の作用について説明する。
減速機G1内の減速機構135を潤滑しているグリースが、玉軸受126の隙間から該減速機G1の外部に漏出しようとしたとき、本実施形態でのシール構造131は、以下のように作用する。
【0039】
漏出してきたグリースは、先ず、入力軸(回転軸)100とフランジ体(相対回転部材)120との間に組み込まれた第1シール部材107によって堰き止められる。即ち、第1シール部材107には、第1部材107T、第2部材107Uの間に、極めて僅かな隙間(幅狭部分)153が存在するだけである。そのため、(該第1シール部材107のみでは完全なシール機能はないものの)先ず、この第1部材107T、第2部材107Uの存在によってグリースの流れは大きく拘束される。
【0040】
第1部材107T、第2部材107Uの隙間153を通り抜けた僅かなグリースは、潤滑剤吸収部材121、123の減速機構135側(減速機G1の内部側)に形成されたラビリンス構造160に到達する。ラビリンス構造160を形成する一方側の部材である入力軸(回転軸)100は非常に高速で回転している。また、ラビリンス構造160を形成する他方側の部材であるフランジ体(相対回転部材)120及び筒状部材(相対回転部材と一体の部材)103は、偏心揺動型の減速機構135によって大きく減速された出力回転速度で、極めてゆっくり回転している。そのため、ラビリンス構造160を形成するために対峙している部材(入力軸100、フランジ体120)の相対回転速度は非常に大きい。この結果、グリースは、潤滑剤吸収部材121、123に到達する前に、このラビリンス構造160によって、その漏出圧力を殆ど失ってしまう。
【0041】
そして、該ラビリンス構造160を通り抜けてきた極めて僅かなグリースが、潤滑剤吸収部材121、123によって完全に吸着・捕捉される。即ち、一方の潤滑剤吸収部材123が、入力軸100との間にすき間を有するように、筒状部材103に取り付けられ、他方の潤滑剤吸収部材121が筒状部材103との間にすき間を有するように、入力軸100に取り付けられ、潤滑剤吸収部材123と潤滑剤吸収部材121が軸方向に沿って配置されている。
【0042】
この構成によれば、例えば、図1の上側を減速機G1を実際に設置した時の「上側」にして減速機G1を設置している場合、中空部105の上側では筒状部材103側にグリースが溜り、中空部105の下側では入力軸100側にグリースが溜る。このため、中空部105の上側のグリースは、(筒状部材103側に配置した)潤滑吸収部材123によって吸収され、減速機G1の下側のグリースは、(入力軸100側に配置した)潤滑剤吸収部材121によって吸収される。
【0043】
しかも、本実施形態では、筒状部材103と入力軸100は相対回転速度が大きい。したがって、グリースが、(筒状部材103及び入力軸100に交互に配置されている)該潤滑剤吸収部材121、123を超えて減速機G1外に漏出してしまうのを極めて効果的に防止でき、結果として、本シール構造131は、十分に高いシール性能を確保することができる。
【0044】
また、潤滑剤吸収部材121、123の交換は、ボルト111を介して筒状部材103を取り外すだけで簡易に行うことができるため、メンテナンスも容易である。
【0045】
一方、入力軸100は、低トルクで高速回転しているので、僅かな摺動緊迫力でも動力伝達効率に与える悪影響は大きいが、本シール構造131における第1シール部材107は、その第1部材107Tがフランジ体120側に組付けられ、第2部材107Uが入力軸100側に組付けられている。このため、第1部材107Tはフランジ体120と共に回転し、第2部材107Uは入力軸100と共に回転する。しかも、両部材107T、107Uは互いに接触していない。そのため、当該第1シール部材107による「シールのための摺動緊迫力X1」は、零である。
【0046】
また、ラビリンス構造160でも、入力軸100とフランジ体120、或いは入力軸100と筒状部材103は、それぞれ非接触である。更には、潤滑剤吸収部材121、123同士もすき間があるため非接触であり、摺動しない。更に、潤滑剤吸収部材121と筒状部材103の間、潤滑剤吸収部材123と入力軸100の間もすき間があり、摺動しない。要するならば、本シール構造131においては、回転部材の回転が妨げられるような(動力損失が生じるような)摺動部分が全くない。
【0047】
したがって、本シール構造131によれば、十分に高いシール性能を確保しながら、シールのために生じる動力損失を極小に抑えることが可能であり、しかもメンテナンスも容易である。
【0048】
次に、他の実施形態について説明する。
【0049】
以降の実施形態の説明においては、同一又は類似する機能を有する部材には、先の実施形態と下2桁が同一の符号を図面上で付すに留め、重複説明を省略する。
【0050】
図3に、シール構造231が組み込まれた減速機G2の概略断面図を示す。
【0051】
以下、図3に示す第2の実施形態について説明する。
【0052】
本実施形態における第1シール部材207は、第2シール部材209(109)と基本的な構造は同じであるが、リップ部207Rを入力軸200に付勢するためのばね(付勢部材)(第2シール部材209のリップ部209Rを入力軸200に付勢するばね209Sに相当)を有していない。このため、本実施形態においても、第1シール部材207の摺動緊迫力X2が、第2シール部材209の摺動緊迫力Y2より弱くなっている(X2<Y2)。
【0053】
第1シール部材207は、ばねを有していないので、入力軸200に対して、自身のみで減速機G2の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力を有してもいない。より具体的には、第1シール部材207は、第1シール部材207の内径をdとした場合に、(第1シール部材207の摺動緊迫力:X2)/(第1シール部材207の内径:d)の値が、0.2N/mm未満である。但し、第1シール部材207は、自身の一部を入力軸200及びフランジ体220に接触・摺動させているため、その摺動緊迫力X2は(零であった)先の実施形態での第1シール部材107の摺動緊迫力X1より大きくなっている(X2>X1)。
【0054】
そして、第1シール部材207の反減速機構側(減速機G2の外部側)に潤滑剤吸収部材221、223が配置されている。具体的には、上記実施形態と同様に、一方の潤滑剤吸収部材223が、入力軸200との間にすき間を有するように筒状部材203に取り付けられ、他方の潤滑剤吸収部材221が筒状部材203との間にすき間を有するように入力軸200に取り付けられることにより、潤滑剤吸収部材223と潤滑剤吸収部材221が軸方向に沿って配置されている。
【0055】
本実施形態では、第1シール部材207のシール機能がより高まっているため、シール構造231全体のシール機能は、上記実施形態におけるシール構造131のシール機能より高くなっており、グリースがより漏れにくくなっている。
【0056】
なお、本実施形態においても、入力軸200とフランジ体220が、幅狭部分253を形成するとともに、入力軸200(軸方向の先端部分)と筒状部材203(放射状に広がっている部分)が幅狭部分255を形成している。これらの幅狭部分253、255は、グリースが減速機G2内部から外部空間への流出することを困難化するラビリンス構造260を構成している。
【0057】
これにより、減速機G2内部からの外部空間への潤滑剤の漏れを先の実施形態よりも一層防止すると共に、減速機G2の動力伝達の損失を従来より低減させることができる。
【0058】
図4に示す第3の実施形態におけるシール構造331においては、上述した実施形態と異なり、独立した第1シール部材を有しておらず、入力軸300を支持する軸受326自体をシール軸受としている。つまり、本実施形態におけるシール部材は、シール軸受326内に配置されたシール片(図示略)である。
【0059】
本実施形態においても、シール軸受326のシール片(第1シール部材)は、入力軸300(と一体化された軸受326の内輪326A)に対して、自身のみで前記減速機G3の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力を有していない。換言すれば、シール軸受326のシール片(第1シール部材)の摺動緊迫力X3は、第2シール部材309の摺動緊迫力Y3より弱くなっている(X3<Y3)。
【0060】
また、シール軸受326の反減速機構側に潤滑剤吸収部材321、323を配置している。具体的には、上記実施形態と同様に、一方の潤滑剤吸収部材323が、入力軸300との間にすき間を有するように、筒状部材303に取り付けられ、他方の潤滑剤吸収部材321が筒状部材303との間にすき間を有するように、入力軸300に取り付けられ、潤滑剤吸収部材323と潤滑剤吸収部材321が軸方向に沿って配置されている。
【0061】
さらに、本実施形態においても、入力軸300とフランジ体320が、幅狭部分353を形成するとともに、入力軸300(軸方向の先端部分)と筒状部材303(放射状に広がっている部分)が、幅狭部分355を形成している。これらの幅狭部分353、355は、グリースが減速機G3内部から外部空間への流出することを困難化するラビリンス構造360を構成している。
【0062】
これにより、減速機G3内部から外部空間への潤滑剤の漏れを防止すると共に、減速機G3の動力伝達の損失を低減させることができる。
【0063】
また、シール部材を専用に配置するためのスペースを設ける必要がないため、その分減速機G3をコンパクトに構成することができるとともに、(フランジ体320中に)上記スペースを確保するための切削加工が不要となるため、フランジ体320の強度を高められると共に、該フランジ体320の加工コストを低減させることができる。
【0064】
上記実施形態を用いている減速機G1〜G3は、必ずしも上記実施形態が適用されている減速機に限らず、他の減速機に用いてもよい。
【0065】
この図5に示す実施形態における減速機G4は、いわゆる振分タイプの内接噛合遊星歯車式の減速機構435を備えている。
【0066】
図示せぬモータのモータ軸436の先端には、ピニオン437が形成されている。このピニオン437は、入力軸441に固定された入力歯車439と噛合している。
【0067】
入力軸441の軸方向中程には、入力軸歯車443が入力軸441と一体的に形成されている。入力軸歯車443は、振り分け歯車445と噛合している。振り分け歯車445は、ころ465を介して、中間軸(本実施形態における回転軸)400に支持されている。振り分け歯車445は、3本の偏心体軸447(1本のみ図示)に形成した偏心体軸歯車449と噛合している。偏心体軸歯車449の軸方向両側には、偏心体402、404が偏心体軸447と一体に構成されている。
【0068】
2枚の偏心体402、404には、それぞれ2枚の外歯歯車410、412が組み込まれている。該外歯歯車410、412は、(1個の)内歯歯車414に内接噛合している。内歯歯車414の歯数は、外歯歯車410、412の歯数より「1」だけ多く設定されている。
【0069】
入力軸441は軸受461、463を介して、偏心体軸447は軸受467、469を介して、フランジ体420、出力側フランジ体451に対して回転自在に支持されている。また、中間軸400は、出力側フランジ体451に圧入固定されている。
【0070】
モータ(図示略)のモータ軸436の回転はピニオン437を介して入力歯車439へと伝達される。入力軸歯車443が回転することにより、入力軸歯車443が固定されている入力軸441が回転する。入力軸441に形成されている入力軸歯車443が回転することにより、入力軸歯車443と噛合している振り分け歯車445も、ころ465を介して中間軸400に対して相対的に回転する。振り分け歯車445は、偏心体軸歯車449と噛合しているため、偏心体軸歯車449が形成されている偏心体軸447が回転する。各偏心体軸447に形成されている偏心体402、404が偏心回転することにより、偏心体402、404に嵌合している外歯歯車410、412が揺動回転する。外歯歯車410、412は、僅少の歯数差を有する内歯歯車414と噛合しているため、外歯歯車410、412は僅かに自転しつつ殆ど揺動のみを行う。この際、偏心体軸447の軸心は揺動していないため、外歯歯車410、412の僅かな自転成分は、該偏心体軸447の入力軸441周りの公転として、出力側フランジ体451へと伝達される。この際、出力側フランジ体451に圧入固定されている中間軸400も、出力側フランジ体451と同一回転速度で回転する。
【0071】
本実施形態に係る減速機G4のシール構造431は、中間軸400とケーシング422等との間で構成され、減速機G4の内部と外部とを仕切っている。シール構造431は、中間軸400の一端側における中間軸400とケーシング422との間の幅狭部分454のみを有しており、特にシール部材は配置されていない。
【0072】
幅狭部分454、中間軸400(軸方向の先端部分)と筒状部材403(放射状に広がっている部分)の隙間455は、潤滑剤吸収部材421、423よりも減速機構435側(減速機G4の内部側)にラビリンス構造460を構成している。これにより、グリースが、潤滑剤吸収材421、423まで到達し難くなっている。
【0073】
しかしながら、幅狭部分454及び隙間455は、当然に自身のみで減速機G4の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力を有していないため、該幅狭部分454の反減速機構側(減速機G4の外部側)に、潤滑剤吸収部材421、423が配置されている。
【0074】
このように、本発明では、必ずしもシール部材を配置する必要はなく、幅狭部分のみを形成するたけでもよい。勿論、先の実施形態のようにシール部材と幅狭部分の双方を有していてもよい。更には、シール部材があるときは、幅狭部分は必ずしもなくてもよい。いずれにしても、シール部材(及び/又は)幅狭部分のみでは減速機の内部と外部とを完全にシールする機能は有しておらず、その分、減速機の伝達ロスは低減される。そして、潤滑剤吸収部材の存在と相まって減速機の内部から外部空間へ潤滑剤が漏れることが完全に防止される。
【0075】
なお、本発明では減速機の構造は、上記の減速機の構造に限らず、他の構造の減速機にも組み込むことができる。減速機は、中空部を有していなくてもよく、またラビリンス構造を有していなくともよい。
【0076】
また、本発明は、例えば、モータ軸と回転軸が、それぞれ第1プーリと第2プーリを有しており、これらの第1、第2プーリにタイミングベルトが掛け渡されていて、第1プーリから第2プーリへ回転動力を伝達するような摩擦伝動タイプの初段の減速機と、歯車伝動タイプの後段の減速機と、を備えた減速装置に適用することができる。この種の減速装置において、例えば、後段の減速機の内部に封入しているグリースが、(グリースの種類の異なる)前段の減速機側へ漏れることを防止するために、後段の減速機の内部と外部とを仕切る減速機のシール構造に本発明を適用する場合は、後段の減速機の回転軸と相対回転部材との間にシール部材を配置し、該シール部材が、該回転軸又は相対回転部材に対して、自身のみで後段の減速機の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力を有しておらず、且つ、該シール部材よりも後段の減速機の外部側(即ち前段の減速機側)に潤滑剤吸収部材が配置されるようにすればよい。
【0077】
また、(前段の減速機のグリースが後段の減速機側に漏れることを防止するために)本発明に係るシール構造を前段の減速機に適用してもよい。この場合、前段の減速機の回転軸又は相対回転部材に対して、自身のみで前段の減速機の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力を有していないシール部材を該前段の減速機の回転軸と相対回転部材との間に配置するとともに、前段の減速機の外部側(即ち後段の減速機側)に潤滑剤吸収部材を配置するようにすればよい。
【0078】
つまり、後段の減速機の潤滑剤の漏れを防止したいのであれば、配置したシール部材よりも後段の減速機の外部側に潤滑剤吸収部材を配置し、前段の減速機の潤滑剤の漏れを防止したいのであれば、前段の減速機の外部側に潤滑剤吸収部材を配置し、前段と後段の減速機の双方向からの潤滑剤の漏れを防止したいのであれば、前段と後段の両側に潤滑剤吸収部材を配置すればよい。
【0079】
このように、「減速機の内部と外部とを仕切るシール構造」とは、必ずしも「装置全体の内部と完全な外部空間とを仕切るシール構造」のみを意味するのではなく、装置内部における特定の個別減速機の内部と外部とを仕切るシール構造としても適用することができる。このような例としては、上記に示す複数の個別減速機内間のシールの他、例えば、個別減速機とモータケース内間のシール、個別減速機とブレーキボックス内間のシール等の例が考えられる。
【0080】
なお、本発明における回転軸は、必ずしも、減速機構の出力軸よりも回転速度が速い高速軸でなくてもよい。
【0081】
潤滑剤吸収部材は、必ずしも減速機の回転軸と相対回転部材との間に配置しなくてもよく、また、必ずしも複数ある必要はなく、仮に複数ある場合でも、必ずしも半径方向に重複しないように前記回転軸と前記相対回転部材又は該相対回転部材と一体の部材とに、軸方向に沿って交互に配置されていなくてもよい。
【0082】
上記実施形態では、潤滑剤としてグリースを用いているが、グリースだけでなくオイルを用いてもよい。
【0083】
第1シール部材としては、付勢部材を有していても、完全にシールし得る摺動緊迫力を有さない程度のシール機能を有しているもの、もしくは、(過負荷のない)定常運転時でぎりぎり漏れない程度にシール機能を弱めたものでもよい。
【0084】
また、回転軸の減速機構を挟んだ両側に第1、第2シール部材が配置されており、回転軸の一側に配置された第1シール部材の摺動緊迫力が、完全にシールし得る摺動緊迫力を有しているか否かに関らず、他側に配置された第2シール部材の摺動緊迫力より弱くなっており、且つ、第1シール部材よりも減速機の外部側に潤滑剤吸収部材が配置されているような構成としてもよい。
【0085】
上記実施形態においては、第1シール部材側(第1シール部材よりも減速機の外部側)にのみ潤滑剤吸収部材が配置されているが、(第1シール部材側に加えて)第2シール部材側にも、減速機の外部側に潤滑剤吸収部材が配置されている構成としてもよい。
【0086】
また、実施形態に記載されている構成部品・要素のうち、特に記載されていないものであっても、構成部品の寸法、材質、形状、その他相対配置などは特に特定的な断りがない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0087】
100…入力軸
107…第1シール部材
120…フランジ体(相対回転部材)
121、123…潤滑剤吸収部材
131…シール構造
135…減速機構
G1…減速機
X…摺動緊迫力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機構の回転軸と、該回転軸に対して相対回転する相対回転部材と、を備え、前記回転軸と相対回転部材との間に組み込まれたシール部材を介して減速機の内部と外部とを仕切る減速機のシール構造であって、
前記回転軸の前記減速機構を挟んだ両側に第1、第2シール部材が配置されており、
前記第1シール部材の摺動緊迫力が、前記第2シール部材の摺動緊迫力より弱くなっており、且つ、
該第1シール部材よりも前記減速機の外部側に潤滑剤吸収部材が配置されている
ことを特徴とする減速機のシール構造。
【請求項2】
減速機構の回転軸と、該回転軸に対して相対回転する相対回転部材と、を備え、前記回転軸と相対回転部材との間に組み込まれたシール部材を介して減速機の内部と外部とを仕切る減速機のシール構造であって、
前記シール部材は、前記回転軸又は相対回転部材に対して、自身のみで前記減速機の内部と外部とを完全にシールし得る摺動緊迫力を有しておらず、且つ、
該シール部材よりも減速機の外部側に潤滑剤吸収部材が配置されている
ことを特徴とする減速機のシール構造。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記シール部材または第1シール部材が、該シール部材または第1シール部材の一部を前記回転軸又は相対回転部材に対して付勢する付勢部材を有していない
ことを特徴とする減速機のシール構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記シール部材または第1シール部材の、(前記摺動緊迫力)/(該シール部材または第1シール部材の内径)の値が、0.2N/mm未満である
ことを特徴とする減速機のシール構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記回転軸を支持している軸受がシール軸受であり、前記シール部材または第1シール部材が、該シール軸受内に配置されたシール片である
ことを特徴とする減速機のシール構造。
【請求項6】
減速機構の回転軸と、該回転軸に対して相対回転する相対回転部材と、を備え、前記回転軸と相対回転部材との間で構成され、減速機の内部と外部とを仕切る減速機のシール構造であって、
前記回転軸と前記相対回転部材との間に、幅狭部分が形成され、且つ、
該幅狭部分よりも前記減速機の外部側に、潤滑剤吸収部材が配置されている
ことを特徴とする減速機のシール構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記回転軸が、前記減速機構の出力軸よりも回転速度が速い高速軸である
ことを特徴とする減速機のシール構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記減速機が、前記潤滑剤吸収部材よりも該減速機の内部側にラビリンス構造を有している
ことを特徴とする減速機のシール構造。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記回転軸は、半径方向中央部に軸方向に沿って中空部を備え、
該中空部の半径方向内側に、該回転軸と非接触に筒状部材が配置され、且つ
該筒状部材と該回転軸との間に、前記潤滑剤吸収部材が配置されている
ことを特徴とする減速機のシール構造。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
前記減速機は、前記潤滑剤吸収部材を2以上備えており、
このうち、一方の潤滑剤吸収部材が、前記回転軸との間にすき間を有し、他方の潤滑剤吸収部材が、前記相対回転部材又は該相対回転部材と一体の部材との間にすき間を有するように、軸方向に沿って配置されている
ことを特徴とする減速機のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−80521(P2011−80521A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232677(P2009−232677)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】