説明

温度検知機構及びガス検知装置及び火災検知装置

【課題】簡便に温度検知を行える温度検知機構、および、その温度検知機構を搭載したガスセンサ、火災検知装置を提供する。
【解決手段】光源1から検出器15に光を導く光路11を設け、光路11に、一対のFBG12,13を設け、光源1からの照射光を、波長幅がFBG12,13の通常動作温度における反射ピーク波長を含む広帯域光とし、検出器15に導入される閾値以上の波長の光を遮断するフィルタ部Fを設け、検出器15に到達した光線波長に基づき、雰囲気温度を求める処理部3を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、ガス検知装置、火災検知装置等の環境温度検知用に用いられる温度検知機構、及び、その温度検知機構を利用したガス検知装置、火災検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火災報知器では、光学的に煙や炎や熱を検知したり、あるいは、電気化学的に熱や火災に基づくガスを検知したりして、それら検知部からの出力に基づき火災を複合的に判断することが行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、火災を複合的に判断したいときに、複数の出力の検知部が異なる機構により出力を発生するものである場合、複数の検知部を1つの製品の筺体内に搭載すると、検知部を構成する部品がかさばり、製品の小型化が困難になったり、部品点数の増加に伴いコストアップしたり、消費電力の増加に伴い短寿命になったりするので、部品の共通化、検知機構の簡素化が望まれる。
【0004】
一方、本発明者らは、火災検知装置において、一対のファイバブラググレーチング(以下FBGと称する)を設け、火災に基づくガスの複数種を光学的に検知して火災を判定することのできる火災検知装置を提案している(特願2008−078628号)。FBGは、光ファイバーに紫外レーザー光を照射するなどして、光ファイバー中のコアの屈折率に周期的な強弱を持たせ、その結果ファイバー長手方向に周期的な屈折率変調(格子)を形成しておくと、周期に合致した波長の光信号のみが反射し、他の波長の光信号はこの周期的屈折率変動を感知せず通過するという特徴を有し、光ファイバーそのものに形成されるため構造が大変シンプルで、損失が少ないなどの長所があるもので、近年その利用範囲が拡大しているものである。
【0005】
上記火災検知装置では、1つの光源からの光を分割して2対のFBGに誘導する光路を設ける。それぞれのFBGにおいて一対のFBGの間に検知対象ガスが導入されるように構成しておく。ここに検知対象ガスが存在する場合、検知対象ガスに対応する波長の光が吸光されるため、出力光を、例えばキャビティリングダウン分光法等により分析すると、その吸光度に基づいてその検知対象ガスの濃度を知ることができ、その濃度の分布、推移等から火災を判定することができる。つまり、1つの光源で、2種のガスを検知し、火災を判定することができるというものである。
【0006】
また、前記FBGは、温度センサとして利用することが提案されており(例えば特許文献2)、この種の温度センサでは、温度計側の際にブラッグ波長を測定し、この測定値をあらかじめ測定しておいたブラッグ波長の温度依存性と対照することにより、雰囲気温度を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−065656号公報
【特許文献2】特開2000−088676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の技術において、火災を判定する場合、例えば火災による高温を検知するために雰囲気温度情報を利用すれば非常に有用であるため、火災検知装置を構成する場合に温度検知機構を搭載することが望ましいと考えられている。しかし、従来、火災に伴うガスを検知する機構と雰囲気温度を検知する機構とは、異なるものを用いざるを得ない場合が多く、部品の共通化、検知機構の簡素化を実現するのは困難であった。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑み、各種センサに搭載された既存の各種機器の構成を利用でき、簡便に温度検知を行える温度検知機構、および、その温度検知機構を搭載したガスセンサ、火災検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔構成〕
つまり、本発明の温度検知機構の特徴構成は、
光源から検出器に光を導く光路を設け、
前記光路に、一対のFBGを設け、
前記光源からの照射光を、波長幅が前記FBGの通常動作温度における反射ピーク波長を含む広帯域光とし、
前記一対のFBGを通過して前記検出器に導入される閾値以上の波長の光を遮断するフィルタ部を設け、
前記検出器に到達した光線波長に基づき、雰囲気温度を求める処理部を設けた
点にある。
具体的には、前記FBGの通常動作温度における反射ピーク波長域が、中心波長1630nm〜1690nmあるいは中心波長1560nm〜1590nmあるいは2320nm〜2380nmで、半値幅2nm以下であり、前記閾値が中心波長+0.1nm〜0.8nmであることが好ましい。
【0011】
〔作用効果〕
つまり、本発明の温度検知機構は、光源から検出器に光を導く光路に一対のFBGを設けたから、前記光源から広帯域光を光路に供給することにより、前記FBGにおいて特定波長の光のみを、一旦FBG間に閉じ込められて徐々に出力される光として前記検出器に出力させることができる。
【0012】
具体的には、前記FBGに広帯域光を供給すると、前記FBGの特定の反射周波数に該当する光だけが、反射させられる。ここで、たとえばFBGで反射される光が1%であるとすると、最初に広帯域光が入射する一方のFBGでは、特定の反射周波数の光が1%減少してそのFBGを通過する。通過した光は次に、他方側のFBGに達して再度、前記FBGの特定の反射周波数に該当する光だけが、反射させられる。その結果、前記広帯域光の約1%(0.99%)の光が一方側のFBGに向かって反射される。さらに、この光が、一方側のFBGに反射され、他方側のFBGに戻ってくると、その他方側のFBGでは、前記約1%の広帯域光のうち、さらに1%の光が、一方側のFBGに向かって反射される。このとき同時に前記約1%の広帯域光のうち99%は、前記検出器に向かって出射される。さらに同様の工程を経ると、前記広帯域光が、前記他方側のFBGで反射するたびに前記検出器に向かって出力を生じる。
【0013】
この出力強度は、前記FBGの反射率に応じて次第に減衰する。そのため、前記一対のFBG間における環境内で前記広帯域光が減衰する何らかの要因があれば、その要因がどの程度発生しているのかを、その出力強度を分析することによって知ることができる。具体的には、前記FBG間に吸光部があれば、前記吸光部における前記反射周波数の吸光度を知ることができるし、前記FBG間に応力が生じてひずみが発生したような場合、その応力の程度を予測することもできる。
【0014】
そして、このFBGに、本願独特の波長幅が前記FBGの通常動作温度における反射ピーク波長を含む広帯域光を導入すると、FBG固有の反射ピーク波長の光を選択的に前記FBG間に閉じこめることができる。
【0015】
前記FBGの用途としては、例えば、ガス等の分析を予定している場合、この固有の波長を、そのガスの吸光波長に一致させておく。その他の用途でも、前記FBGに形成される格子の間隔で任意に設定することができるため、前記FBGに固有の反射ピーク波長は、設定することができる。本発明の温度検知機構では、FBGの用途を限るものではなく、適宜用途に応じた反射ピーク波長を設定したFBGを用いる。
【0016】
一方、FBGは、その構成材料の熱膨張による格子幅の変化、FBG材料の屈折率の変化などが原因となり、その反射ピーク波長が変化する。前記広帯域光は、波長幅が前記FBGの通常動作温度における反射ピーク波長を含むから、前記FBGの使用可能な許容温度域では、前記FBGは、入射光に対する出射光を必ず出力することができる。この出射光は、前述のように減衰しつつ前記FBGから徐々に放出されるものであるから、その出力強度の減衰を観察することにより、この出力に基づいた種々の分光分析が可能となる。
【0017】
上記の構成から、前記FBGの出力の反射ピーク波長が、所定の閾値の波長を超えている場合、そのFBGはその閾値に対応する温度に達していることになる。したがって、例えば、閾値の波長として許容温度域の上限温度に対応する反射ピーク波長を選ぶと、閾値以上の波長の光を出力している場合、そのFBGは許容温度域を超えて使用されているといえる。
【0018】
ここで、受光素子側で出力光の強度を測定する場合など、出力光の波長を分解能高く解析することは、通常、製造コスト等の観点から採用する事は困難である。これに対して、一対のFBGを通過して前記検出器に導入される閾値以上の波長の光を遮断するフィルタ部を設けておけば、通常の温度域ではFBGの出力光が前記検出器に入力されるが、前記FBGが許容温度域を超えて使用されているときは、FBGの出力光が前記フィルタ部に遮断されて前記検出器に入力されないことになるから、検出光の波長を解析できない通常の検出器であっても、前記FBGからの出力信号を受けているか受けていないかの判定を行えれば、FBGが閾置以上のそのFBGが使用可能な許容温度域内において出力されたものであるか、その許容温度域以上の温度域で出力されたものかを知ることができ、前記装置により適切に温度情報を知ることができる。
【0019】
つまり、上記構成に加えて、前記検出器に到達した光線波長を閾値で判定する処理部を設けておくことによって、前記FBGの雰囲気温度を知ることができる温度検知機構となる。
【0020】
従って、FBGを用いる各種機器に対して、フィルタ部を設け、一般的にはコンピュータプログラム等による解析判定を行う処理部の仕様を変更する簡単な設計変更を加えるだけで、各種機器の本来の構成をそのまま利用してその各種機器に付加的な温度検知機能を付与することができた。
【0021】
また、前記光源からの照射光を、波長幅が前記FBGの通常動作温度における反射ピーク波長を含む、充分な波長幅を備えた広帯域光を利用しつつ、常温でメタンガス(中心波長1630nm〜1690nm)あるいは一酸化炭素ガス(中心波長1560nm〜1590nmあるいは2320nm〜2380nm)の濃度を測定するのに適した特性を有するとともに、約50℃〜100℃の高温で、閾値の反射ピーク波長に達するとともに、閾値の反射ピーク波長に対応する温度以下において充分な出力が得られる構成となっているから、雰囲気温度が上記高温に達したときに、前記フィルタによって検出器に達する出力が急激になくなることになり、雰囲気の火災を検知するのに適した温度検知機構とすることができる。
【0022】
尚、反射ピーク波長の半値幅は、2nm以下程度としてあると、光の透過、反射の境界が鋭く、明確に判定できるため好ましい。
【0023】
〔構成〕
また本発明のガス検知装置の特徴構成は、
光源から検出器に光を導く光路を設け、
前記光路に、検知対象ガスの吸光波長に対応する格子を有する一対のFBGを設け、
前記一対のFBG間に、雰囲気ガスを導入する検知部を備え、
前記光源からの照射光を、波長幅が前記FBGの通常動作温度における反射ピーク波長を含む広帯域光とし、
一対のFBGを通過して前記検出器に導入される閾値以上の波長の光を遮断するフィルタ部を設け、
前記検出器に到達した光線波長に基づき、雰囲気温度を求める処理部を設けるとともに、
前記検出器に到達した光線強度に基づき、前記雰囲気ガス中の検知対象ガス濃度を求める処理部を設けた
点にある。
【0024】
〔作用効果〕
つまり、前記一対のFBG間に、雰囲気ガスを導入する検知部を設け、前記FBGを前記検知部で検知すべき検知対象ガスの吸光波長の光を反射する格子とすることにより、前記一対のFBGは、検知対象ガスの吸光分析に用いることができる。また、前記処理部において前記検出器に到達した光線強度に基づき、前記雰囲気ガス中の検知対象ガス濃度を求めることができる。一方、上述の温度検知機構の構成を備えるから、処理部において、前記検出器に到達した光線波長に基づき、雰囲気温度を求めることができる。
【0025】
そのため、前記温度検知機構を備えたFBGで検知対象ガスを検知し、その濃度を解析することができるようになり、FBGを用いた信頼性の高いガス検知に加え、さらに、FBGの雰囲気温度情報も加味したガス検知、分析が行えるようになるため、さらに信頼性の高い検知対象ガスの分析が可能となった。
【0026】
また、ガス検知装置に温度検知機構を搭載するに当たって、ガス検知装置の主要な構成をそのまま利用して、フィルタ部を設ける簡単な構成の変更と、処理部において検出された出力光の有無に基づき雰囲気温度を判断させるコンピュータおよびプログラムの仕様の変更とを行う簡単な設計変更だけで、ガス検知装置本来の構成をそのまま利用してより信頼性が高く、高機能なガス検知装置を提供することができた。
【0027】
〔構成〕
また、本発明の火災検知装置の特徴構成は、
上記温度検知機構を設け、前記雰囲気温度に基づき火災を判定する判定部を設けた点にある。
【0028】
〔作用効果〕
つまり、上述の温度検知機構と判定部とを設けてあるから、前記温度検知機構の検知した雰囲気温度に基づき火災を判定することができる。したがって、前記温度検知機構の適切な温度検知に基づいて火災を判定することができ、簡単な構成で正確に火災を検知することのできる火災検知装置を提供することができた。
【0029】
〔構成〕
また、本発明の火災検知装置の特徴構成は、
上記ガス検知装置を設け、前記雰囲気温度及び前記雰囲気ガス中の検知対象ガス濃度に基づき火災を判定する判定部を設けた点にある。
【0030】
〔作用効果〕
つまり、上述のガス検知装置と判定部とを設けてあるから、前記ガス検知装置の検知した雰囲気温度および検知対象ガス濃度に基づき火災を判定することができる。したがって、ガス検知装置の適切な雰囲気温度情報及び検知対象ガス濃度に基づいて火災を判定することができ、簡単な構成で正確に火災を検知することのできる火災検知装置を提供することができた。
【0031】
〔構成〕
また、本発明の火災検知装置の特徴構成は、
光源からの光を、少なくとも
メタンガスの吸収波長の光を含むメタン検知光と、
一酸化炭素ガスの吸収波長の光を含む一酸化炭素検知光と
に分割する分割器を設け、
前記メタン検知光を検出器に導くメタン光路と、
前記一酸化炭素検知光を検出器に導く一酸化炭素光路とを設け、
前記メタン光路に、メタンガスの吸収波長に対応する格子を備えた一対のFBGを設け、
前記一対のFBG間に雰囲気ガスを導入するメタン検知部を設け、
前記一酸化炭素光路に、一酸化炭素ガスの吸収波長に対応する格子を備えた一対のFBGを設け、
前記一対のFBG間に雰囲気ガスを導入する一酸化炭素検知部を設け、
FBGを経由して検出器に導入される閾値以上の波長の光を遮断するフィルタ部を少なくとも1箇所設け、
前記光源からの照射光を、波長幅が前記FBGの通常動作温度における反射ピーク波長を含む広帯域光とし、
前記検出器に到達した光線波長に基づき、雰囲気温度を求める処理部を設けるとともに、
前記検出器に到達した光線強度に基づき、前記雰囲気ガス中のメタンガス、一酸化炭素ガス濃度を求める処理部を設け、
前記雰囲気温度及び前記雰囲気ガス中のメタンガス、一酸化炭素ガス濃度から、火災を判定する判定部を設けた
点にある。
【0032】
〔作用効果〕
つまり、上述のガス検知装置としてメタン光路のメタンガス検知装置と、一酸化炭素光路の一酸化炭素検知装置とを備え、それぞれの光路に一対のFBG及び検知部を備えた構成とするので、精度高く2種類のガスを検知することができる。
【0033】
また、上記2つの光路は、1つの光源からの光を分光器により分割し、メタンガス用と、一酸化炭素ガス用とに用いる。従って、光源を共通化した簡単な構成で、それぞれの光路をメタン検知装置と一酸化炭素検知装置とに構成することができる。
【0034】
そして、これら2種類のガスは、ガス漏れ及び火災に伴って発生するガスであるため、これらのガスの濃度の変化を測定することによって火災の発生を高い確度で検知することができる。
【0035】
この火災の発生の検知の際に、各ガスの濃度に基づいて火災を判定する場合、経時的にガスの濃度を検知し、時間的要素を加味し時間情報を用いて火災を判定することが多い。別途煙や雰囲気温度を検知する構成を搭載すると、装置が複雑化し、大型化、コストアップ、消費電力の増加、寿命の低下とうの問題を招来する。一方時間情報を参照するとしても、判定部が火災を判定するのに時間がかかったり、判断手法が複雑になったりすることが問題になりやすい。そこで、ガスによる火災の判定を行うには、火災による直接的な現象を捕らえて判断材料とすることが望まれる。具体的には、別途、煙を検知する煙検知装置や、雰囲気温度を検知する温度検知装置を設けて、煙情報、雰囲気温度情報を得るとともに、これらの要素を加味して火災を判定することが想定される。
【0036】
火災検知装置において、2種のガスの検知に加え、雰囲気温度の検知を行う場合、火災検知装置に種々の温度計を搭載することが考えられる。上述の構成においては、ガスの検知を行うのにFBGを用いる構成を採用したため、このFBGを採用した光路に実質的にフィルタを設けるとともに、一般的にはコンピュータプログラム等による解析判定を行う処理部の仕様を変更するだけで、火災検知装置の本来の構成をそのまま利用して前述の温度検知機構を搭載することができる。そのため、火災検知装置の高精度化、高機能化を果たすことができた。尚、上述の構成では、メタン用光路、一酸化炭素用光路の2種類の光路を設けたが、雰囲気温度の検知はいずれかの光路において行えば足りるので、少なくとも1つの光路にフィルタを設けて温度検知機構を形成しておけば良い。
【発明の効果】
【0037】
したがって、部品の共通化、温度検知機構の簡素化を図ることができ、高性能なガス検知装置、火災検知装置をコンパクトかつ低コストで提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の火災検知装置を示すブロック図である
【図2】FBGの第2素子から出射された光の強度の経時変化を示すグラフである
【図3】図2における(a)の減衰曲線と(b)の減衰曲線との差分を経過時間に対してプロットしたグラフである
【図4】時間tmaxを含む時間t1〜t2における光強度とメタン濃度との関係を示す図である
【図5】メタン用FBGの透過光の−10℃、50℃における波形を示す図である
【図6】メタン用FBGの反射光波長の温度依存性を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明の温度検知機構を利用した火災検知装置を説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0040】
本発明の火災検知装置を以下に示す。
図1は、本発明を模式的に示したブロック図である。火災検知装置は、例えば、火災等により発生した熱とともに、火災に関連する検知対象ガスとして都市ガス中のメタンガス及び不完全燃焼等に基づく一酸化炭素ガスを検知可能なガス検知装置を内蔵した複合型の火災検知装置として構成される。
【0041】
火災検知装置は、光源として検査光を発する発光素子1、検査光を2経路に分割する分割器2、分割された一方の検査光をメタンの検出器としてのメタンガス検知用受光素子15に導くメタン用光路11、他方の検査光を一酸化炭素ガスの検出器としての一酸化炭素ガス検知用受光素子25に導く一酸化炭素ガス用光路21を備える。また、メタン用光路11には、一対のメタンガス検知用FBG(以下、メタン用第一FBG、メタン用第二FBGと称する)12,13を備え、前記一酸化炭素ガス用光路21には、一対の一酸化炭素ガス検知用FBG(以下、CO用第一FBG、CO用第二FBGと称する)22,23、処理部3を備える。各検知対象ガス用の光路11,12において一対のメタン用第一第二FBG12,13,および一対のCO用第一第二FBG22,23の間には、雰囲気ガスを導入する検知部14,24を設けてある。また、前記メタン用第一第二FBG12,13,およびCO用第一第二FBG22,23からの出力は処理部3においてキャビティリングダウン分光法に基づき解析され、その結果に基づき判定手段4により火災の判定が行われる構成としてある。
【0042】
発光素子1は、広帯域の光を出力可能な固体発光素子の一つであるスーパールミネッセント発光ダイオード(SLED)が採用される。発光素子1から検査光として出力される光は、検知対象ガスであるメタンの吸収波長(1653nm)、及び一酸化炭素ガスの吸収波長(1568nm)を含み、所定以上の帯域幅を有するパルス光である。
【0043】
発光素子1から出力された広帯域且つ高出力の検査光は、分割器2に入射し、ここでメタンの吸収波長(1653nm)を含む長波長成分、一酸化炭素ガスの吸収波長(1568nm+)を含む短波長成分に分割される。長波長成分と短波長成分との間の分割は、例えば、1600nmを境界として行われる。
【0044】
分割器で分割された長波長成分の検査光が、メタン検知用光路に入射すると、メタン検知用光路11に設けられた一対のメタン用第一第二FBG12,13に導入される。FBGとは、光ファイバー中に回折格子を形成し、特定の波長の光のみを選択的に反射するものであり、メタン検知用には、選択波長が1653nm(半値幅:0.5〜1.0nm)反射率99%に設定される。前記メタン用第一第二FBG12,13の間には、雰囲気ガスを導入する空洞部を設けて検知部14が備えられる。
【0045】
発光素子1から照射された検査光は、分割器2を経て前記メタン用第一FBG12に入射した後、各検知対象ガスの吸収波長(1653nm近傍)に対応する成分の光をメタン用第一FBG12と、メタン用第二FBG13との間で選択的に連続反射させる。そして、この過程において、前記メタン用第二FBG13で光を反射する度に光の一部が前記メタン用第二FBG13から透過して出射する。
【0046】
メタンガス用光路11の前記メタン用第二FBG13から出射した光は、キャビティリングダウン分光法を用いて、対応するガス検知用受光素子15で検知される。ガス検知用受光素子15としては、光電子増倍管(PMT)、電荷結合素子(CCD)、フォトダイオード等を採用することができる。
【0047】
分割器2で分割された短波長成分の検査光は、一酸化炭素用光路21に入射する。一酸化炭素用光路21は、前記メタン用光路11と同様に構成されている。
【0048】
次に、メタン検知用光路11のメタン用第二FBG13から出射された検査光の挙動について説明する。
【0049】
図2は、メタン用第二FBG13から出射された光の強度の経時変化を示すグラフである。なお、このグラフでは、時間に対して光強度を連続的な曲線で描画しているが、メタン用第二FBG13から出射される光は、メタン用第一FBG12とメタン用第二FBG13との間を連続的且つ選択的に反射しつつ、その反射過程において反射光の一部がメタン用第二FBG13から経時的に出射される。出射された光は、メタン用受光素子において検知される。メタン用受光素子は、前記広帯域光のほぼ全波長域にわたる光を検出し、その光強度を出力することができるものとする。
【0050】
従って、メタン用第二FBG13からの出射光は、実際には不連続な光であり、よって、ガス検知用の受光素子15で検知される光強度も不連続となる。ただし、この不連続な出射光における不連続区間の間隔は極めて短いため、図2のグラフでは便宜上連続的な曲線で示してある。
【0051】
図2において、(a)はガス導入部22cにメタンが存在しない(すなわち、空気が存在する)場合の挙動を示したものであり、(b)はガス導入部22cにメタンが存在する場合の挙動を示したものである。
図2(a)に示されるように、空気中を進行する光は、徐々に強度が減衰する。このときの減衰曲線は、以下の式1によって表される。
【0052】
I(t)=I0exp(−(1/τ0)t) ・・・ (1)
【0053】
上記式(1)において、I0は、メタン用第一FBG12に入射し、反射することなく最初にメタン用第二FBG13から出射した光の強度(初期の光強度)である。I(t)は、メタン用第一FBG12とメタン用第二FBG13との間で連続的且つ選択的に反射を繰り返し、メタン用第二FBG13から出射した時刻tにおける光の強度である。τ0は寿命時間(緩和時間)であり、光が伝播する媒体によって決まる値である。
上記式(1)で示されるように、空気中を進行する光の強度は、時間の経過(すなわち、光路長の増加)とともに指数関数的に減少する。
【0054】
一方、(b)に示されるように、メタン中を進行する光についても、時間とともに徐々に強度が指数関数的に減衰する。このときの減衰曲線は、以下の式(2)によって表される。
【0055】
I(t)=I0exp[−(1/τ0+ρnc)t] ・・・ (2)
【0056】
上記式(2)において、ρはメタンの吸収断面積であり、nはメタンの密度であり、cは光路長である。ここで、括弧内の第一項(すなわち、1/τ0)は第二素子2bから出
射した光の減衰に関連するファクターであり、第二項(すなわち、ρnc)はメタンによる吸収に関連するファクターである。
【0057】
このように、メタン中を進行する光は、メタンの吸収波長においてその一部が吸収されるため、減衰の度合いは空気中を進行する光よりも大きいものとなる。そして、上記式(2)のメタン吸収に関連する第二項において、ランベルト・ベール則(Lambert−Beer law)を適用することができ、(a)の減衰曲線と(b)の減衰曲線との関係で、両者の強度差が明確である時間t又は時間帯Tの出射光の強度からメタンの濃度を得ることができる。
【0058】
図2に示すように、式(1)で示される(a)の減衰曲線と、式(2)で示される(b)の減衰曲線との差分を求め、この差分を経過時間に対してプロットする。
図3の差分曲線において、時間軸において極大値をとる時間tmaxは、空気中を通過する光の強度減衰曲線(ブランク)とメタン中を通過する光の強度減衰曲線との差が最大となる時間である。従って、この時間tmaxにおいて、あるいは時間tmaxを中心とする所定幅の時間帯t2−t1=Tmaxにおいて、以下に説明する所定の演算を処理部3で行うことにより、メタンの濃度がどの程度変化したかを知ることができる。
【0059】
処理部3は、メタンの濃度もしくは濃度に関係する情報を演算する。また、処理部3は、出射光の強度が、メタン用検知部14にメタンが存在しない場合の出射光の強度(ブランク)に対して所定の比率以下となった場合に、メタンが所定の濃度以上であると判定する判定手段4を備える。
処理部3は、例えば、コンピュータで構成される。判定手段4は、例えば、コンピュータに組み込まれたプログラムで構成される。
【0060】
演算手法として、時間tにおける出射光の強度(生データ)から直接メタン濃度を求めることができる。この場合、処理部3は、例えば、図4に示すように、時間tmaxを含む時間帯t1〜t2における光強度とメタン濃度との関係を示すマップを有している。ガス検知用受光素子21aから処理部3に出射光に関する情報が入力されると、処理部3は光強度を求めるとともに、判定手段4は前記マップからメタンが所定の濃度以上であるか否かを判定する。あるいは、処理部3は、図4中の矢印Pに示すように、前記マップを参照して、求めた光強度からメタン濃度を直接導出する。
また、処理部3は、マップに加えて所定の閾値S2を有することもできる。この閾値S2は、光強度がブランクにおける光強度に対して所定の比率となるように設定される。図4に示す例では、閾値S2はブランクにおける光強度に対して0.7に設定されている。ガス検知用受光素子21aから処理部3に光強度に関する情報が入力されると、判定手段4は、処理部3が求めた光強度を閾値S2と比較する。そして、当該光強度が閾値S2を下回った場合、メタンが所定濃度以上であると判定する。
閾値S2を用いて所定濃度以上のガスの有無を判定する場合は、光強度とメタン濃度との関係を示すデータは少なくとも閾値S2の前後だけあればよい。従って、マップ上に適切に閾値S2を設定すれば、マップのデータ量を少なくすることができる。また、閾値S2を時間tmaxに対して設けるようにすれば、閾値S2の設定幅が最大となるため好ましい。
【0061】
このように、本実施形態の警報装置においては、検知部に存在するメタンの濃度を、FBGの第二素子22bから経時的に出射する出射光の強度(生データ)から求めることができ、精度の高いメタン濃度判定結果を得ることができる。
【0062】
尚、一酸化炭素用光路21における検査光の挙動についてもメタン用光路11の場合と同様である。
【0063】
また、前記メタン用受光素子15とメタン用第二FBG13との間には、1653.9nm以上の波長の光を遮断するフィルタを設けてある。
【0064】
発光素子から出射された検査光が前記FBGにより反射される光の波長は、図5,6に示すように、前記FBGの温度(雰囲気温度)に依存するため、火災により発生した熱を前記FBGから出力される光の波長により判断することができる。具体的には、前記メタン検知用FBGの出力波長は、−10℃において1653.1nmであるが、50℃では、1653.7nmとなる(図5参照)。(約0.01nm/℃で変化する)前記広帯域光は、この波長域を網羅するものであり、検出器では、この波長域の光強度を経時的に測定することができる。しかし、検出器で検出波長の識別まで行う構成とするのは装置構成上複雑となり、現実的ではない。
そこで、所定波長以上の前記出力光を遮断するフィルタFを、前記メタン用第二FBGの後ろ側で前記メタン用受光素子15の手前に設けてあれば、所定波長以上の光は前記メタン用受光素子15で検出されない。つまり、雰囲気温度の上昇に伴って、メタン用第二FBG13からの出力波長が変化すると、その出力波長が前記所定波長以上になると、フィルタFによって遮断されるから、前記メタン用受光素子15の検出する出力が急激に低下する。このとき、前記所定波長として、雰囲気温度が火災であると判定される例えば65℃におけるFBG出力波長(1653.9nm)を設定しておけば、前記メタン検知用FBG12からの出力により雰囲気の火災温度を、前記判定部4において判定することができる。
【0065】
本実施形態においては、単一の固体発光素子(光源)を有する装置でありながら、複数種の検知対象ガスに対して同時に濃度検知を行うことが可能であり、さらに、ガス検知と同時に火災検知も行うことができる。このように、多角的な検知(すなわち、複数種のガス検知及び火災検知)を行うことを可能としながら、光源を共通化することができため、装置構成が大型化・複雑化することなく、省電力で合理的な警報装置を実現することができる。また、上述の警報装置に採用した温度検知機構は、ガス検知用の構成要素を有効に利用して雰囲気温度を検知する温度検知機構としてあるから、小型化・軽量化された長寿命の警報装置として実現することができる。
【0066】
尚、火災の判定手法については、前記判定部において、
前記温度検知機構が例えば65℃以上の高温を検知したとき、即座に火災と判断し、
高温でない(65℃以下の)場合には、所定濃度以上のメタンガス及び一酸化炭素ガスが検知されている場合に火災であると判断し、
高温でなく、メタンガスもしくは一酸化炭素ガスの一方のみが高濃度である場合、ガス漏れ、あるいは、不完全燃焼と判断する、
一酸化炭素ガスのみ検知され、濃度の上昇が急激である場合、高温でなくとも火災であると判断する
など、公知の種々の方法を適用することができる。
このように、判定手法のアルゴリズムに雰囲気温度、メタンガス濃度、一酸化炭素ガス濃度が含まれている場合、単に雰囲気温度のみから火災と判定される場合が含まれるとしても、火災は、雰囲気温度、メタンガス濃度、一酸化炭素ガス濃度に基づき判断されたものとし、「メタンガス濃度、一酸化炭素ガス濃度に基づいて判定」のように称するものとする。
【0067】
〔別実施の形態〕
上述の実施の形態においては、前記処理部では、閾値でガス濃度を求めたが、この他にも種々の手法でガス濃度を求めることができる。例えば、第二の演算手法として、時間帯t1〜t2における出射光の強度微分値(微分データ)からメタン濃度を求める。この場合、処理部3は、出射光の強度微分値とメタン濃度との関係を示すマップを設ければよい。また、第3の演算手法として、時間帯t1〜t2における出射光の強度積分値(積分データ)からメタン濃度を求める。この場合、処理部3は、出射光の強度積分値とメタン濃度との関係を示すマップを設ければよい。
上記の各演算手法は、夫々単独で実行してもよいし、任意に組み合わせて総合的に濃度判定を行ってもよい。
また、上記の各演算手法では、出射光の強度、強度微分値、又は強度積分値が、メタンがメタン検知部14に存在しない場合の対応する出射光の強度、強度微分値、又は強度積分値に対して所定の比率以下となった場合に、メタンが所定の濃度以上であると判定しているが、所定以上の差となった場合にメタンが所定の濃度以上であると判定することも可能である。すなわち、比較演算であれば、任意の演算手法を採用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 発光素子(光源)
2 分割器
3 処理部
4 判定手段
11 メタン用光路
12 メタン用第一FBG
13 メタン用第二FBG
14 検知部
15 メタンガス検知用受光素子(検出器)
21 一酸化炭素ガス用光路
22 CO用第一FBG
23 CO用第二FBG,
24 検知部
25 一酸化炭素ガス検知用受光素子(検出器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から検出器に光を導く光路を設け、
前記光路に、一対のファイバブラググレーチングを設け、
前記光源からの照射光を、波長幅が前記ファイバブラググレーチングの通常動作温度における反射ピーク波長を含む広帯域光とし、
一対のファイバブラググレーチングを通過して前記検出器に導入される閾値以上の波長の光を遮断するフィルタ部を設け、
前記検出器に到達した光線波長に基づき、雰囲気温度を求める処理部を設けた
温度検知機構。
【請求項2】
前記ファイバブラググレーチングの通常動作温度における反射ピーク波長域が、中心波長1630nm〜1690nmあるいは中心波長1560nm〜1590nmあるいは2320nm〜2380nmで、半値幅2nm以下であり、前記閾値が中心波長+0.1nm〜0.8nmである請求項1に記載の温度検知機構。
【請求項3】
光源から検出器に光を導く光路を設け、
前記光路に、検知対象ガスの吸光波長に対応する格子を有する一対のファイバブラググレーチングを設け、
前記一対のファイバブラググレーチング間に、雰囲気ガスを導入する検知部を備え、
前記光源からの照射光を、波長幅が前記ファイバブラググレーチングの通常動作温度における反射ピーク波長を含む広帯域光とし、
一対のファイバブラググレーチングを通過して前記検出器に導入される閾値以上の波長の光を遮断するフィルタ部を設け、
前記検出器に到達した光線波長に基づき、雰囲気温度を求める処理部を設けるとともに、
前記検出器に到達した光線強度に基づき、前記雰囲気ガス中の検知対象ガス濃度を求める処理部を設けた
ガス検知装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の温度検知機構を設け、前記雰囲気温度に基づき火災を判定する判定部を設けた火災検知装置。
【請求項5】
請求項3に記載のガス検知装置を設け、前記雰囲気温度及び前記雰囲気ガス中の検知対象ガス濃度に基づき火災を判定する判定部を設けた火災検知装置。
【請求項6】
光源からの光を、少なくとも
メタンガスの吸収波長の光を含むメタン検知光と、
一酸化炭素ガスの吸収波長の光を含む一酸化炭素検知光と
に分割する分割器を設け、
前記メタン検知光を検出器に導くメタン光路と、
前記一酸化炭素検知光を検出器に導く一酸化炭素光路とを設け、
前記メタン光路に、メタンガスの吸収波長に対応する格子を備えた一対のファイバブラググレーチングを設け、
前記一対のファイバブラググレーチング間に雰囲気ガスを導入するメタン検知部を設け、
前記一酸化炭素光路に、一酸化炭素ガスの吸収波長に対応する格子を備えた一対のファイバブラググレーチングを設け、
前記一対のファイバブラググレーチング間に雰囲気ガスを導入する一酸化炭素検知部を設け、
ファイバブラググレーチングを経由して検出器に導入される閾値以上の波長の光を遮断するフィルタ部を少なくとも1箇所設け、
前記光源からの照射光を、波長幅が前記ファイバブラググレーチングの通常動作温度における反射ピーク波長を含む広帯域光とし、
前記検出器に到達した光線波長に基づき、雰囲気温度を求める処理部を設けるとともに、
前記検出器に到達した光線強度に基づき、前記雰囲気ガス中のメタンガス、一酸化炭素ガス濃度を求める処理部を設け、
前記雰囲気温度及び前記雰囲気ガス中のメタンガス濃度、一酸化炭素ガス濃度の少なくともいずれかのガス濃度に基づき火災を判定する判定部を設けた
火災検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−54131(P2011−54131A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205092(P2009−205092)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】