説明

温水可溶型樹脂被覆ステンレス鋼板

【課題】 加工時には潤滑皮膜として働き、加工後には温水洗浄で容易に溶解除去できる有機樹脂皮膜でステンレス鋼板表面を被覆し、ステンレス鋼特有の美麗な表面肌を活用する用途に適した樹脂被覆ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】 鋼板表面から深さ:10nmまでの表層域におけるCr23に対するCr(OH)3・nH2OとのCr2p3/2ピーク強度比が0.5〜2.8に調整されたステンレス鋼板を基材とし、鹸化度:90モル%以上のポリビニルアルコール皮膜が設けられた温水可溶型樹脂被覆ステンレス鋼板である。ていることを特徴とする。皮膜樹脂としては重合度:300〜3000のポリビニルアルコールが好ましく、潤滑剤を配合しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温水洗浄によって樹脂皮膜を容易に除去できる樹脂被覆ステンレス鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板の美麗な外観を活用する用途では、加工時に鋼板表面の疵付きを防止するため、塩化ビニル等の保護フィルムをステンレス鋼板に貼り付け、加工後にステンレス鋼板から保護フィルムを剥離する方法が採用されている。保護フィルムの貼付け,剥離は作業工数を増加させることになるので、加工後の鋼板表面から容易に除去できる有機樹脂皮膜が検討されている。
【0003】
有機樹脂皮膜としてアルカリ可溶型の皮膜を形成すると、所定形状に成形されたステンレス鋼板をアルカリ洗浄することにより有機樹脂皮膜を溶解除去できる。アルカリ可溶型有機樹脂皮膜としては、たとえば鹸化度:90%以上,ガラス転移温度:50〜70℃,数平均分子量:50,000〜100,000の水溶性カルボキシル基変性ポリビニルアルコールと水溶性潤滑剤を含む皮膜(特許文献1),酸価:40〜90,イソシアネート換算ウレタン結合含有量:12〜20質量%,弾性率(100℃):1,000〜60,000N/cm2,流動開始温度:75〜170℃のカルボキシル基含有ウレタン樹脂皮膜(特許文献2)等がある。
【特許文献1】特開2000-169753号公報
【特許文献2】特開平11-158651号公報
【0004】
アルカリ可溶型の有機樹脂皮膜は、アルカリ洗浄によって容易に除去できるため、従来の保護フィルムを使用する場合と比較して工程負荷が軽減される。しかし、アルカリ洗浄のために専用設備が必要で、アルカリ洗浄後の水洗工程も必要になる。しかも、アルカリ洗浄液の取扱いに注意を要し、洗浄廃液の処理にかかる負担も余儀なくされる。
アルカリ洗浄に代えて温水洗浄で有機樹脂皮膜を除去できると、設備,処理等にかかる負担から加工メーカが解放され、美麗な外観を活かしたステンレス鋼板の各種用途への一層の展開が図られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ステンレス鋼板表面に対する有機樹脂皮膜の密着性,有機樹脂種に応じた温水への溶解度について種々調査・検討した結果、親水化処理したステンレス鋼板表面に鹸化度の高いポリビニルアルコール皮膜を形成することにより、高温多湿化で膨潤することなく、しかも温水洗浄で容易に除去できる有機樹脂皮膜を鋼板表面に設けた樹脂被覆ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の温水可溶型樹脂被覆ステンレス鋼板は、鋼板表面から深さ:10nmまでの表層域におけるCr23に対するCr(OH)3・nH2OとのCr2p3/2ピーク強度比が0.5〜2.8に調整されたステンレス鋼板を基材とし、鹸化度:90モル%以上のポリビニルアルコール皮膜が設けられていることを特徴とする。
皮膜樹脂としては、重合度:300〜3000のポリビニルアルコールが好ましい。
ポリビニルアルコール皮膜に潤滑剤を含ませると、加工時の滑りが改善され鋼板表面の疵付きが防止される。潤滑剤としては、ポリエチレン樹脂粉末及びポリエチレン樹脂の粒子表面にフッ素樹脂微粉末が結合したポリエチレン-フッ素樹脂粉末を複合した潤滑剤が好適である。
【発明の効果及び実施の形態】
【0007】
除去容易な有機樹脂皮膜としては、アルカリ可溶型以外に水可溶型が考えられるが、水に可溶な有機樹脂皮膜では高温多湿環境に曝されると膨潤し、樹脂被覆ステンレス鋼板が相互にブロッキングする虞がある。実用的な有機樹脂皮膜とするためには、水に溶けることなく温水のみに可能な特性を付与する必要がある。本発明では、水に不溶で温水に可溶とする観点からポリビニルアルコールを皮膜の主樹脂に選択し、OH基含有量の指標である鹸化度を90モル%以上に調整することによって水に不溶で温水に可溶な有機樹脂皮膜に改質している。
【0008】
鹸化度が温水可溶性に及ぼす影響は、次のように説明できる。鹸化度が高いことは、ポリビニルアルコールのOH基含有量が多いことを意味する。鹸化度:90モル%以上では多量のOH基があるため、隣接するOH基間で水素結合が生じ、水分子による水和作用が阻害されるため常温の水に不溶となる。他方、温水環境下では分子の運動エネルギーが大きくなってOH基間の水素結合が切れやすくなり、フリーなOH基が水分子と水和反応する結果、有機樹脂皮膜が温水に溶解する。
【0009】
皮膜の主樹脂であるポリビニルアルコールは、樹脂被覆ステンレス鋼板の加工性を改善するため重合度:300〜3000のポリビニルアルコールが好ましい。重合度の増加に従い皮膜強度が向上し、加工時にカジリ疵等の欠陥が生じがたいポリビニルアルコール皮膜となる。重合度が皮膜強度,加工性に及ぼす影響は、重合度:300以上で顕著になる。しかし、3000を超える重合度のポリビニルアルコールでは、樹脂の結晶性が高くなって脆化し、却ってカジリ疵が加工時に発生しやすくなる。
【0010】
ステンレス鋼板表面に対するポリビニルアルコール皮膜の密着性は、鋼板表面を親水化処理することにより改善される。
アクリル樹脂やウレタン樹脂では、導入したOH基がステンレス鋼板表面のOH基と反応して有機樹脂皮膜の密着性を高める。他方、ポリビニルアルコールはOH基が相互に接近しやすい分子構造であり、分子間でOH基が相互に水素結合すると分子中のOH基がステンレス鋼板表面に配向せず、ポリビニルアルコール皮膜の密着性が低下する。
【0011】
密着性向上に必要な量のOH基をステンレス鋼板/有機樹脂皮膜の界面に確保するため、ステンレス鋼板表面を親水化処理することにより酸化皮膜のクロム酸化物をクロム水酸化物に変えている。親水化処理で鋼板表面に多量のOH基を存在させると、ポリビニルアルコール中のOH基が鋼板表面に優先配向されて鋼板表面のOH基と反応するため、ポリビニルアルコール皮膜の密着性が向上する。
【0012】
ステンレス鋼板表面は、リン酸及び/又はリン酸化合物と硝酸とを含む混酸水溶液で洗浄することにより親水化処理される。リン酸(リン酸化合物),硝酸の混酸水溶液に代え、塩酸,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等の水溶液も親水化処理液として使用可能である。
親水化処理で鋼板表面から深さ:10nmまでの表層域をCr23に対するCr(OH)3・nH2OのCr2p3/2ピーク強度比が0.5〜2.8となるように改質すると、後述の実施例にもみられるように密着性に優れたポリビニルアルコール皮膜を形成できる。他方、0.5未満のピーク強度比では鋼板表面が十分に親水化されず、ポリビニルアルコール皮膜の密着性が不足しがちになる。逆に2.8を超えるピーク強度では、ステンレス鋼板表面が部分的にエッチング過剰となり、ステンレス鋼板本来の美麗な外観が損なわれる。
【0013】
ポリビニルアルコール皮膜に潤滑剤を分散させると、樹脂被覆ステンレス鋼板の加工時に金型に接する素材の滑りが改善され、樹脂被覆ステンレス鋼板の加工性が向上する。潤滑剤としては、常用のフッ素樹脂粉末やポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂粉末、ABS,ポリスチレン等のスチレン系樹脂粉末、塩化ビニル,塩化ビニリデン等のハロゲン樹脂粉末等を使用可能であるが、ポリエチレン樹脂及びポリエチレン-フッ素樹脂粉末を樹脂塗料に複合分散させることが好適である。ポリエチレン-フッ素樹脂粉末は、ポリエチレン樹脂の粒子表面にフッ素樹脂微粉末を結合させた複合粒子であり、加熱・軟化したポリエチレン樹脂粒子にフッ素樹脂微粉末を接触・吸着させることにより製造される。
【0014】
ポリエチレン樹脂,ポリエチレン-フッ素樹脂粉末を複合添加した樹脂塗料で成膜した有機樹脂皮膜は、以下の理由で優れた潤滑性を示す。
ポリエチレン-フッ素樹脂粒子は、粒子表面に結合したフッ素樹脂微粉末によって耐熱性が付与され、ポリエチレン樹脂粉末に比較して若干比重が大きくなっているものの、比重が大きく液中で安定分散しない従来のフッ素樹脂粒子単独に比較して水溶液中の分散安定性も向上している。
【0015】
ポリエチレン樹脂粒子,ポリエチレン−フッ素樹脂粒子を配合した樹脂塗料を下地金属板に塗布した状態では、ウエットな樹脂塗膜にポリエチレン樹脂粒子,ポリエチレン-フッ素樹脂粒子が懸濁する。乾燥・焼成時の昇温過程で、樹脂塗料から水分が蒸発し、樹脂塗膜の膜厚が減少するに伴い、樹脂塗膜の表面からポリエチレン樹脂粒子,ポリエチレン-フッ素樹脂粒子が突出する。
樹脂塗膜の乾燥・焼成時に100〜200℃の範囲に板温が通常設定されており、ポリエチレン樹脂は種類,分子量によって異なるものの融点が100〜130℃の範囲にある。乾燥・焼成時の加熱温度がポリエチレン樹脂粒子の融点を超えると、樹脂塗膜から突出しているポリエチレン樹脂粒子がリフローし、ブリードしたポリエチレン樹脂で樹脂塗膜の表面が覆われる。他方、ポリエチレン-フッ素樹脂粒子は、ポリエチレン樹脂の粒子表面にフッ素樹脂微粉末が結合して耐熱性が高くなっているので、ポリエチレン樹脂粒子の融点を超える高温状態でもブリードすることなく初期の粒形状を維持する。
【0016】
樹脂塗膜からポリエチレン-フッ素樹脂粒子が突出し、樹脂塗膜の表面一部又は全部がブリードしたポリエチレン樹脂で覆われているため、塗装金属板の潤滑性,加工性が大幅に改善される。潤滑性,加工性の改善は、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子,ブリードしたポリエチレン樹脂によって樹脂塗膜の表面におけるポリエチレン濃度が高くなることに加え、樹脂塗膜から突出するポリエチレン-フッ素樹脂粒子がプレス加工時にコロの機能を呈することに起因すると推察される。ポリエチレン-フッ素樹脂粒子の一部は加工変形の進行に応じて一部圧潰されるが、圧潰されたポリエチレン-フッ素樹脂粒子がポリエチレン樹脂の供給源となり、プレス加工時に高面圧がかかったときでも優れた潤滑作用を期待できる。
【実施例1】
【0017】
板厚:0.8mmのSUS304ステンレス鋼板2B仕上げ材を塗装原板に使用した。pH12.5,液温:60℃のアルカリ脱脂液に5秒浸漬することにより脱脂,洗浄した後、リン酸:12g/l,硝酸:2g/lの混酸水溶液(液温:60℃)に浸漬し、水洗,乾燥することによりステンレス鋼板を親水化処理した。混酸水溶液への浸漬時間によって、ステンレス鋼板表面の改質状況を制御した。親水化の程度は、鋼板表面から深さ:10nmまでの表層域をXPS分析し、Cr23に対するCr(OH)3・nH2OのCr2p3/2ピーク強度比で定量化した。なお、親水化処理していないステンレス鋼板表面のCr2p3/2ピーク強度比は0.2であった。
【0018】
親水化処理後のステンレス鋼板表面にポリビニルアルコール水溶液をバーコータで塗布し、到達板温:100℃で加熱・乾燥することによりポリビニルアルコール皮膜を形成した。
ステンレス鋼板の親水化表面,樹脂塗料の主成分であるポリビニルアルコールの鹸化度,重合度と共に形成されたポリビニルアルコール皮膜の膜厚を表1に示す。
【0019】

【0020】
得られた各樹脂被覆ステンレス鋼板から試験片を切り出し、次の試験に供した。
〔ブロッキング試験〕
有機樹脂皮膜が相互に対向する状態で複数枚の試験片(サイズ:50mm×50mm)を重ね合わせて梱包し、40℃,95%RHの雰囲気に24時間保管した後、開梱した。そして、試験片を個々に分離することによりブロッキングの発生状況を調査した。ブロッキングなく当初の塗膜表面が維持されていた試験片を○,ブロッキング起因の表面欠陥が塗膜面に発生した試験片を×として耐ブロッキング性を評価した。
〔温水溶解試験〕
80℃の温水に試験片を浸漬し、浸漬時間の経過に伴う有機樹脂皮膜の溶解状況を調査した。有機樹脂皮膜の溶解除去に要した時間が1分以下を◎,1〜2分を○,2〜5分を△,5分以上を×として温水に対する溶解性を評価した。
【0021】
〔潤滑試験〕
サイズ:30mm×250mmの試験片を用いてドロービード試験(金型のビード高さ:4mm,加圧力:3.0kN)し、金型摺動時の引抜き力を測定した。引抜き力が1.0kN以下を◎,1.0〜1.5kNを○,1.5〜2.0kNを△,2.0kN以上を×として潤滑性を評価した。
〔カジリ試験〕
同様に試験片をドロービード試験した後、金型が摺動した部分の有機樹脂皮膜の残存率を調査した。皮膜残存率が80面積%以上を◎,60〜80面積%を○,40〜60面積%を△,60面積%未満を×として耐カジリ性を評価した。
【0022】
表2の調査結果にみられるように、本発明例No.1〜13の樹脂被覆ステンレス鋼板は、耐ブロッキング性,有機樹脂皮膜の温水溶解性,皮膜密着性の何れも良好であった。ポリビニルアルコールの重合度を300〜3000の範囲に維持したNo.1〜11では、過酷な加工条件下でも潤滑性が良好でポリビニルアルコール皮膜にカジリ疵等の欠陥が発生しなかった。重合度が300未満のポリビニルアルコール皮膜(No.12)や3000を超えるポリビニルアルコール皮膜(No.13)を設けた樹脂被覆ステンレス鋼板は、潤滑性,耐カジリ性に若干劣るものの、親水化処理していないステンレス鋼板を原板に用いた樹脂被覆ステンレス鋼板No.16に比較すると格段に加工性に優れていた。
【0023】
他方、鋼板表面の親水化が不十分な比較例No.14の樹脂被覆ステンレス鋼板では、親水化処理していないステンレス鋼板No.16と同様にポリビニルアルコール皮膜の密着力が不足するため加工時にカジリ疵が発生し、皮膜損傷に起因して潤滑性も低下した。鹸化度が90モル%に達しないポリビニルアルコールから成膜された有機樹脂皮膜No.15では、ブロッキングが発生し、スタックして保管する際に塗膜面の劣化が避けられなかった。また、アクリル樹脂塗膜で被覆したステンレス鋼板No.17,ウレタン樹脂塗膜で被覆したステンレス鋼板No.18は、加工後にステンレス鋼板から樹脂塗膜を除去する際にアルカリ洗浄が必要とし、温水洗浄では樹脂塗膜を溶解除去できなかった。
【0024】

【0025】
また、前掲条件下のドロービード試験後に有機樹脂皮膜の残存率を計測し、Cr2p3/2ピーク強度比で表されるステンレス鋼板の親水化度との関係を調査した。図1の調査結果にみられるように、Cr2p3/2ピーク強度比が0.5〜2.8の範囲に維持されているステンレス鋼板では良好な皮膜密着性を示していたが、0.5に達しないCr2p3/2ピーク強度比では不十分な親水化処理のため有機樹脂皮膜の密着性に劣っていた。皮膜密着性はCr2p3/2ピーク強度比が大きくなるほど改善されたが、2.8を超えるCr2p3/2ピーク強度比ではステンレス鋼板表面に肌荒れが目立つようになった。
【0026】
更に、鹸化度を種々代えたポリビニルアルコール皮膜で被覆した樹脂被覆ステンレス鋼板を20℃の常温水及び80℃の温水に浸漬し、ポリビニルアルコール皮膜が溶解除去されるまでの時間を計測した。その結果、鹸化度:90モル%以上のポリビニルアルコール皮膜は、常温水にほとんど溶解しなかったが、温水浸漬した場合には1分以内でほぼ完全に溶解除去した。温水に対するポリビニルアルコール皮膜の溶解は、鹸化度が高くなるほど短時間に完了する傾向にあった(図2)。他方、90モル%に達しない鹸化度では、常温水にも溶解するため高温多湿環境に曝されると皮膜が膨潤し、樹脂皮膜が相互にブロッキングする虞がある。
【実施例2】
【0027】
表1の試験No.3,4,6,8,9のポリビニルアルコール水溶液に、ポリエチレン樹脂:フッ素樹脂の重量比が9:1となる割合でポリエチレン樹脂粉末,ポリエチレン-フッ素樹脂粉末を添加した塗料(表3)を用意した。
【0028】

【0029】
親水化処理したステンレス鋼板に塗料を塗布し、実施例1と同じ条件下でポリビニルアルコール皮膜を形成した。
得られた各樹脂被覆ステンレス鋼板の物性を実施例1と同じ条件で調査した。表4の調査結果にみられるように、耐ブロッキング性,ポリビニルアルコール皮膜の温水溶解性,密着性を劣化させることなく、潤滑性,耐カジリ性が改善されていた。すなわち、ポリエチレン-フッ素樹脂粉末,ポリエチレン樹脂の複合添加により、温水にのみ溶解するポリビニルアルコール皮膜の特性を維持しながら加工性が改善された樹脂被覆ステンレス鋼板が得られることが判る。
【0030】

【産業上の利用可能性】
【0031】
以上に説明したように、親水化処理したステンレス鋼表面に鹸化度の高いポリビニルアルコール皮膜を形成することにより、加工時の潤滑性が確保され、所定形状に加工された後では温水洗浄によって容易に皮膜を溶解除去できる樹脂被覆ステンレス鋼板が得られる。しかも、切板をスタックした保管時等の際にブロッキング現象が生じ難く、皮膜の潤滑機能,ひいては樹脂被覆ステンレス鋼板の加工性が良好に保たれる。温水洗浄による皮膜の溶解除去が可能なことは、加工メーカ側の負担を大幅に軽減し、美麗な表面肌を活用する用途に適したステンレス鋼板として重宝される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ステンレス鋼板の親水化度がポリビニルアルコール皮膜の密着性に及ぼす影響を表したグラフ
【図2】温水,常温水に対するポリビニルアルコール皮膜の溶解性が鹸化度で異なることを示したグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面から深さ:10nmまでの表層域におけるCr23に対するCr(OH)3・nH2OとのCr2p3/2ピーク強度比が0.5〜2.8に調整されたステンレス鋼板を基材とし、鹸化度:90モル%以上のポリビニルアルコール皮膜が設けられていることを特徴とする温水可溶型樹脂被覆ステンレス鋼板。
【請求項2】
ポリビニルアルコールの重合度が300〜3000である請求項1記載の温水可溶型樹脂被覆ステンレス鋼板。
【請求項3】
ポリビニルアルコール皮膜が潤滑剤を含んでいる請求項1記載の温水可溶型樹脂被覆ステンレス鋼板。
【請求項4】
ポリエチレン樹脂粉末及びポリエチレン樹脂の粒子表面にフッ素樹脂微粉末が結合したポリエチレン-フッ素樹脂粉末からなる潤滑剤を使用する請求項3記載の温水可溶型樹脂被覆ステンレス鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52446(P2006−52446A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235188(P2004−235188)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】