説明

測位精度判定装置

【課題】GPS測位の位置誤差の大小が判定できる測位精度判定装置を提供する。
【解決手段】速度センサ2による速度センサ由来速度と衛星測位速度演算部6による衛星測位速度とドップラー速度演算部7によるドップラー速度と加速度センサ由来速度演算部8による加速度センサ由来速度についてそれぞれ移動距離を演算する移動距離演算部9と、衛星測位速度から得た移動距離と他の移動距離とのの差を演算し、差が閾値より大のとき、GPS測位精度が低下していると判定する精度判定部10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS測位の位置誤差の大小が判定できる測位精度判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の現在位置を検出する測位装置として、従来よりアメリカ合衆国のGPS(Global Positioning System)を利用した測位装置が知られている。GPSの測位精度は、GPS衛星の配置やそれに基づく受信感度、電離層の状態などを考慮した、精度の劣化係数(Dilution of Precision;精度低下率ともいう、以下、DOP)で評価される。DOPが大きいほど、測位精度が低い。よって、DOPの大小を基に位置誤差の推定が行われる。例えば、DOPが1のとき、5.6m程の位置誤差があると言われる。DOPは、GPS衛星から受信機に対して提供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−304096号公報
【特許文献2】特開2010−8095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GPSの測位精度をDOPで評価する場合、GPS衛星の電波を遮るビル等の障害物がない開放地などでは、比較的、DOPに比例した位置誤差を得ることができる。しかし、障害物がある場所では、障害物による電波の乱反射に起因するマルチパスが測位精度に影響をもたらし、位置誤差がDOPに比例しないことが多い。なお、マルチパスは局地的な現象であるため、GPS以外のシステムからの補正信号を利用しても、マルチパスによる測位精度低下は改善されないことがある。このため、GPSの測位情報を利用したシステム全般においても、マルチパスによるGPS測位精度低下を改善することが課題となっている。
【0005】
また、近年実用化された高感度受信機では、従来よりGPS衛星の電波が受信しやすくなったため、DOPのみでは位置誤差の大小を推定することが困難となっている。
【0006】
一般に移動体に対して様々なサービスを行う場合、移動体が認識している現在位置が正確であることが重要であるが、前述のように、従来技術ではGPS測位の現在の位置誤差の大小が判定できないため、リアルタイムに位置補正を行うのが困難である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、GPS測位の位置誤差の大小が判定できる測位精度判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、移動体に搭載されて前記移動体の速度を検出する速度センサと、前記移動体に搭載されて前記移動体の加速度を検出する加速度センサと、前記移動体に搭載されて測位衛星からの信号を受信する受信機と、前記受信機の受信信号に基づいて前記移動体の位置を測位する衛星測位部と、前記衛星測位部が求めた複数の位置間の距離を時間微分して速度(衛星測位速度という)を演算する衛星測位速度演算部と、前記受信機の受信信号に基づいて前記移動体の速度(ドップラー速度という)を演算するドップラー速度演算部と、前記加速度センサが検出した加速度から速度(加速度センサ由来速度という)を演算する加速度センサ由来速度演算部と、前記速度センサによる速度(速度センサ由来速度という)と前記衛星測位速度演算部による衛星測位速度と前記ドップラー速度演算部によるドップラー速度と前記加速度センサ由来速度演算部による加速度センサ由来速度についてそれぞれ移動距離を演算する移動距離演算部と、衛星測位速度から得た移動距離と他の移動距離との差を演算し、差が閾値より大のとき、GPS測位精度が低下していると判定する精度判定部とを備えたものである。
【0009】
前記移動距離演算部は、異なる複数の時間幅における移動距離を演算し、前記精度判定部は、時間幅ごとに移動距離間の差を演算し、いずれかの時間幅で差が閾値より大のとき、GPS測位精度が低下していると判定してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0011】
(1)GPS測位の位置誤差の大小が判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示す測位精度判定装置の構成図である。
【図2】図1の測位精度判定装置による演算の流れを示すブロック図である。
【図3】車速の時間的変化と時間幅を示すグラフである。
【図4】車速の時間的変化の実測例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0014】
図1に示されるように、本発明に係る測位精度判定装置1は、移動体(図示せず)に搭載されて移動体の速度を検出する速度センサ2と、移動体に搭載されて移動体の加速度を検出する加速度センサ3と、移動体に搭載されて測位衛星からの信号を受信する受信機4と、受信機4の受信信号に基づいて移動体の位置を測位する衛星測位部5と、衛星測位部5が求めた複数の位置間の距離を時間微分して衛星測位速度を演算する衛星測位速度演算部6と、受信機4の受信信号に基づいて移動体のドップラー速度を演算するドップラー速度演算部7と、加速度センサ3が検出した加速度から加速度センサ由来速度を演算する加速度センサ由来速度演算部8と、速度センサ2による速度センサ由来速度と衛星測位速度演算部6による衛星測位速度とドップラー速度演算部7によるドップラー速度と加速度センサ由来速度演算部8による加速度センサ由来速度についてそれぞれ移動距離を演算する移動距離演算部9と、衛星測位速度から得た移動距離と他の移動距離との差を演算し、差が閾値より大のとき、GPS測位精度が低下していると判定する精度判定部10と、精度判定部10で求めた移動距離間の差から位置誤差の補正値を演算し衛星測位部5が求めた位置を補正する位置補正演算部11とを備える。
【0015】
本実施形態では移動体として自動車(以下、車両)を用いる。速度センサ2、加速度センサ3、受信機4は、従来より車両に搭載されており、これらより直接得られる速度、加速度、位置を時間で微分あるいは積分することにより、移動距離、速度、加速度を演算することも従来より可能である。衛星測位部5、衛星測位速度演算部6、ドップラー速度演算部7、加速度センサ由来速度演算部8、移動距離演算部9、精度判定部10は、電子制御装置(Electronical Control Unit;ECU)12にソフトウェアとして搭載することができる。また、測位衛星としてはGPS衛星を利用する。受信機4と衛星測位部5と衛星測位速度演算部6とドップラー速度演算部7は、既に市販のGPS測位装置13(図2参照)に組み込まれているので、これを利用することも可能である。
【0016】
以下、本発明の測位精度判定装置1の原理と具体的動作を説明する。
【0017】
GPS測位における位置誤差を推定し、補正を簡便に行うためには、GPS衛星が提供するDOP以外の指標があると好ましい。例えば、従来から車両に搭載されている部材を利用して測位演算ができるシステムとして、速度センサ(車速センサ)2が検出する車速パルス信号や加速度センサ3が検出する加速度信号を利用した相対移動距離計測システム(自立航法システムとも言う)がある。自立航法は短期的には比較的精度が高く、しかも、マルチパスの影響でGPSによる測位精度が低下する場所でも利用が可能である。この特性を利用して自立航法による移動距離と測位衛星の受信信号から導いた移動距離とを比較し、その結果から、GPS測位における位置誤差を推定することが考えられる。この位置誤差を補正値として、GPS測位による位置が補正できることが望まれる。
【0018】
なお、従来より、GPS測位と自立航法を比較したとき、GPS測位のほうが測位精度が良い場合と自立航法のほうが測位精度が良い場合とがあるので、DOPに基づいて精度の良い方に切り替えることを行っている。しかし、課題の欄で述べたようにDOPでは位置誤差の大小を推定できない場合がある。
【0019】
そこで、本発明の測位精度判定装置1では、各センサ及び受信信号由来の速度を各々積分して移動距離を求め、相互に比較する。例えば、速度センサ由来速度から求めた移動距離と衛星測位速度から求めた移動距離との差分、あるいは加速度センサ由来速度から求めた移動距離と衛星測位速度から求めた移動距離との差分を求める。この差分は理論上では0であるから、差分が十分に小さければ、測位精度が高いと判定できる。差分があらかじめ設定した閾値より大きいとき、GPS測位精度が低下していると判定することになる。また、このときGPSの測位周期を利用してその定数倍の時間幅(時定数ともいう)を定義し、移動距離の演算に用いる。定速走行時や急加減速走行時などの速度変化の違いに応じられるよう、時定数を複数用いる。
【0020】
具体的には、図2に示されるように、速度センサ2が移動体の速度(速度センサ由来速度)を検出する。加速度センサ3が移動体の加速度を検出し、加速度センサ由来速度演算部8がその加速度から加速度センサ由来速度を演算する。GPS測位装置13からは衛星測位速度とドップラー速度が得られる。衛星測位速度は、測位周期ごとの測位位置間距離を測位周期で除したものである。ドップラー速度は、測位衛星における信号送信間隔(既知)と受信機4での信号受信間隔との差から測位衛星と移動体の相対速度を演算し、測位衛星の速度(既知)を用いて求めた移動体の速度である。測位位置が3個、4個ないし5個以上の測位衛星からの同時受信によってはじめて検出可能であるのに対し、ドップラー速度は1ないし2個の測位衛星からの受信があれば検出可能である。
【0021】
移動距離演算部9は、速度センサ2による速度センサ由来速度と衛星測位速度演算部6による衛星測位速度とドップラー速度演算部7によるドップラー速度と加速度センサ由来速度演算部8による加速度センサ由来速度についてそれぞれ移動距離を演算する。この演算は具体的には積分である。本実施形態では、積分する時間幅(時定数)として、時定数小、時定数中、時定数大の3種類を用いる。
【0022】
図3に示されるように、車両の速度は、時間的変化が大きい場合から小さい場合までさまざまである。なお、ここでは説明を簡単にするため、速度は方向成分を無視し、大きさ成分のみ取り扱う。速度の時間的変化が大きいとき、その特徴は短時間のうちに表れ、長時間観測すると平均化されて変化が緩やかになってしまう。逆に、速度の時間的変化が小さいとき、その特徴は長時間観測するほど顕著となる。よって、速度の積分によって特徴量である移動距離を演算する場合、速度変化が大(加速度が大)であれば時定数を小とし、速度変化が小(加速度が小)であれば時定数を大とするのが好ましい。時定数は小から大まで2種類でも3種類でも4種類以上でもよい。リアルタイム計測では、現時点の速度がその後どう変化するか未知であるので、全ての時定数での積分を同時に実行する。
【0023】
精度判定部10は、各移動距離間の差を演算し、衛星測位速度から得た移動距離と他の移動距離との差が閾値より大のとき、GPS測位精度が低下していると判定する。移動距離演算部9において異なる複数の時間幅(時定数)における移動距離が演算されているので、精度判定部10では、時間幅ごとに移動距離間の差を演算し、いずれかの時間幅で差が閾値より大のとき、GPS測位精度が低下していると判定する。
【0024】
例えば、図4に示されるように、実線で示した速度センサ由来速度41と破線で示した衛星測位速度42とが車両の急激な加速時に乖離していたとする。この場合、時定数小で求めた移動距離間に顕著な差が現れるので、GPS測位精度が低下していると判定できる。また、図には示さないが、車両が定速走行しているときにマルチパスによってGPS測位精度が低下すると、時定数大で求めた移動距離間に顕著な差が現れるので、GPS測位精度が低下していると判定できる。
【0025】
また、速度センサ2が検出する速度センサ由来速度は、タイヤの回転を精度よく表す車速パルス信号を用いているので、速度センサ由来速度から求めた移動距離は基本的には正確な移動距離を表すが、路面の摩擦状況によってタイヤが空転したりロックすると、正確でなくなる。この場合、加速度センサ由来速度から求めた移動距離をGPS測位から求めた移動距離と比べるとよい。
【0026】
また、衛星測位速度演算部6による衛星測位速度とドップラー速度演算部7によるドップラー速度とを比較することでもGPS測位精度の低下が分かる。
【0027】
このように、本発明の測位精度判定装置1は、衛星測位速度から求めた移動距離と他の速度から求めた移動距離とを比較することでGPS測位精度を評価するようにしたので、DOPが大きいことによってあらかじめ測位精度が低いことが知らされているときはもちろん、DOPが小さくても移動体の動きが変化しているとき、あるいは局地的にマルチパスが生じているときなどに、当該移動体においてGPS測位精度が低下していることをリアルタイムで知ることができる。
【0028】
本実施形態では、GPS測位精度が低下していると判定された場合は、位置補正演算部11において衛星測位部5が求めた位置を補正する。精度判定部10において移動距離間の差が演算されているので、位置補正演算部11では、この移動距離間の差を位置誤差の補正値とすればよい。
【0029】
このとき、移動距離としては、速度センサ由来速度を積分した移動距離、加速度センサ由来速度を積分した移動距離、衛星測位速度を積分した移動距離、ドップラー速度を積分した移動距離の4つがあり、しかも、それぞれ時定数小、時定数中、時定数大の3通りの積分で求めた値がある。どの速度に由来する移動距離の組み合わせで、どの時定数による値を採用して補正値を演算するかは、あらかじめ実験により、速度変化の大きさと移動距離の組み合わせ及び時定数との関係を調べておき、速度変化に応じて移動距離の組み合わせと時定数を選択するようにしておくのが好ましい。また、各移動距離間の差に速度変化に応じた重み付けを行って補正値を求めてもよい。
【0030】
このように、GPS測位による現在位置が補正値によって正確な位置に補正されると、移動体に対して様々なサービスが好適に提供できるようになる。また、GPS測位精度の低下が判定できることにより、低下の度合い、位置誤差の大きさ等に応じて提供するサービスのレベルやタイミングを調節することが可能となる。
【0031】
本発明の測位精度判定装置1は、さらに、加速度センサ3が検出した加速度を積分して求めた加速度センサ由来速度と速度センサ2が検出した速度センサ由来速度との比較からタイヤ空転又はタイヤロックを検出することができる。タイヤ空転又はタイヤロックが検出された場合に、速度センサ由来速度から求められる移動距離に対して補正を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 測位精度判定装置
2 速度センサ
3 加速度センサ
4 受信機
5 衛星測位部
6 衛星測位速度演算部
7 ドップラー速度演算部
8 加速度センサ由来速度演算部
9 移動距離演算部
10 精度判定部
11 位置補正演算部
12 ECU
13 GPS測位装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載されて前記移動体の速度を検出する速度センサと、
前記移動体に搭載されて前記移動体の加速度を検出する加速度センサと、
前記移動体に搭載されて測位衛星からの信号を受信する受信機と、
前記受信機の受信信号に基づいて前記移動体の位置を測位する衛星測位部と、
前記衛星測位部が求めた複数の位置間の距離を時間微分して速度(衛星測位速度という)を演算する衛星測位速度演算部と、
前記受信機の受信信号に基づいて前記移動体の速度(ドップラー速度という)を演算するドップラー速度演算部と、
前記加速度センサが検出した加速度から速度(加速度センサ由来速度という)を演算する加速度センサ由来速度演算部と、
前記速度センサによる速度(速度センサ由来速度という)と前記衛星測位速度演算部による衛星測位速度と前記ドップラー速度演算部によるドップラー速度と前記加速度センサ由来速度演算部による加速度センサ由来速度についてそれぞれ移動距離を演算する移動距離演算部と、
衛星測位速度から得た移動距離と他の移動距離との差を演算し、差が閾値より大のとき、GPS測位精度が低下していると判定する精度判定部とを備えたことを特徴とする測位精度判定装置。
【請求項2】
前記移動距離演算部は、異なる複数の時間幅における移動距離を演算し、
前記精度判定部は、時間幅ごとに移動距離の差を演算し、いずれかの時間幅で差が閾値より大のとき、GPS測位精度が低下していると判定することを特徴とする請求項1記載の測位精度判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−127899(P2012−127899A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281407(P2010−281407)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】