湿式多板摩擦係合装置
【課題】ピストン側およびピストンと反対側のプレートの荷重作用位置を中心近辺に持ってくることにより、全てのプレートの摩擦面が係合面全体で、均一な面圧により接触をするようになり、摩擦係合過程で生ずる発熱部の偏りが防止されることによりクラッチ部の耐熱性が向上した湿式多板摩擦係合装置を提供する。
【解決手段】軸方向の少なくとも一面に摩擦材を有する内歯プレートと、内歯プレートと軸方向で交互に配置された外歯プレートとからなるクラッチ部と、内歯プレートと外歯プレートとを係合させるための押圧力を前記クラッチ部に与えるピストンとを備えた湿式多板摩擦係合装置において、クラッチ部の軸方向両側でクラッチ部に作用する荷重作用部が設けられ、荷重作用部が前記クラッチ部に接触する接触部は、摩擦係合部の中心位置から外径方向に摩擦係合部の径方向幅の約20%および内径方向に摩擦係合部の径方向幅の約20%の所定範囲内に位置し、且つ、接触部の径方向幅は摩擦係合部の径方向幅の約10%以下である。
【解決手段】軸方向の少なくとも一面に摩擦材を有する内歯プレートと、内歯プレートと軸方向で交互に配置された外歯プレートとからなるクラッチ部と、内歯プレートと外歯プレートとを係合させるための押圧力を前記クラッチ部に与えるピストンとを備えた湿式多板摩擦係合装置において、クラッチ部の軸方向両側でクラッチ部に作用する荷重作用部が設けられ、荷重作用部が前記クラッチ部に接触する接触部は、摩擦係合部の中心位置から外径方向に摩擦係合部の径方向幅の約20%および内径方向に摩擦係合部の径方向幅の約20%の所定範囲内に位置し、且つ、接触部の径方向幅は摩擦係合部の径方向幅の約10%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の自動変速機の変速用クラッチやブレーキ、またロックアップクラッチや発進クラッチなどに用いられる湿式多板係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ペーパ摩擦材からなる湿式多板クラッチ、すなわち湿式多板摩擦係合装置は、摩擦面に加える荷重により、伝達トルクが制御できること、また、トルク伝達時のスムースな係合ができる等の利点があり、主に、自動変速機の変速装置や、トルクコンバータ、発進クラッチなどに多く使用されている。
【0003】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2006−105397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動変速機(ATM)に使用される湿式多板摩擦係合装置は、耐熱性と滑らかな係合特性が要求されている。
【0005】
従来の湿式多板摩擦係合装置は、図12に示すような構成を有する。湿式多板摩擦係合装置100は、クラッチドラム101内に交互に配置された金属板にペーパ摩擦材104が貼られた内歯プレート105と金属板の外歯プレート106と、内歯プレート105及び外歯プレート106とを互いに圧接させるピストン107と、内歯プレート105及び外歯プレート106及びバッキングプレート103とそれを受け止めるスナップリング102を有している。
【0006】
ピストン107の押圧により各プレートに生じるソリ変形やクラッチドラム101の口開き変形のため、クラッチドラム101の開口側に向かうに従い、摩擦面の面圧は、外径側が強くなる傾向にある。この傾向は、クラッチドラム101の剛性が小さくなる、また、バッキングプレート104の板厚が薄くなると大きくなり、特にドラム101の開口側の摩擦材104の外径側の面圧がより大きくなる。このことは摩擦材104の全面が働いていない為による耐熱性の低下や、係合時において各プレートのスムースな動きを妨げたりして、係合特性にも悪影響を及ぼす。
【0007】
更に、近年、軽量化、ATMの多段化やコスト低減要求の高まりにつれ、クラッチドラムやバッキングプレートの軽量化が求められていると同時に。高速化によりクラッチの焼けが生ずる傾向が強くなっている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ピストン側およびピストンと反対側のプレートの荷重作用位置を中心近辺に持ってくることにより、全てのプレートの摩擦面が係合面全体で、均一な面圧により接触をするようになり、摩擦係合過程で生ずる発熱部の偏りが防止されることによりクラッチ部の耐熱性が向上した湿式多板摩擦係合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明によれば、軸方向の少なくとも一面に摩擦材を有する内歯プレートと、内歯プレートと軸方向で交互に配置された外歯プレートとからなるクラッチ部と、内歯プレートと前記外歯プレートとを係合させるための押圧力をクラッチ部に与えるピストンとを備えた湿式多板摩擦係合装置において、クラッチ部の軸方向両側でクラッチ部に作用する荷重作用部が設けられ、荷重作用部がクラッチ部に接触する接触部は、摩擦係合部の中心位置から外径方向に摩擦係合部の径方向幅の約20%および内径方向に摩擦係合部の径方向幅の約20%の所定範囲内に位置し、且つ、接触部の径方向幅は摩擦係合部の径方向幅の約10%以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【0011】
上述の構成により、係合時に荷重が摩擦面中心部に加わることにより、係合時の各プレートはスムースな動きとなり、係合特性もスムースなものとなる。また、クラッチ部の伝達効率を向上させ、トルク容量を高めることにより、より少ない枚数の摩擦板で従来と同等のトルクを伝達することも可能となる。
【0012】
接触部は、摩擦係合部(摩擦係合の最外径部と摩擦係合の最内径部間の範囲)の中心位置より外径方向に摩擦係合部幅の20%および内径方向に摩擦係合部幅の20%で定められた範囲で、且つ、その接触部の径方向幅は摩擦係合部の径方向幅の10%以下にすることにより、クラッチ内の各プレートの面圧の均一化および個々のクラッチ間の面圧分布のばらつきも小さくでき、耐熱性のある、変速性能の安定した湿式多板摩擦係合装置が提供できる。
【0013】
また、荷重作用部を曲面とすることにより、摩擦面により一層安定した均等な荷重を加えることが可能となる。凸部は、削り加工またはプレスで形成しても良いし、別体の部材をピストンもしくは、プレート部材に装着することも可能である。荷重作用部または凸部にクッション機能を持たせたり、止め輪機能を持たせたりすることも可能で、より信頼性のある湿式多板摩擦係合装置が提供できる。
【0014】
ここで、図11を用いて、本発明の請求項や実施例の説明における用語の一部を定義する。便宜上、図1の実施例を基に説明するが、これらの用語は本発明の全ての請求項や実施例及び変形例に共通であることは言うまでもない。
【0015】
内歯プレートと外歯プレートとからなるクラッチ部の軸方向両側でクラッチ部に作用する荷重作用部の接触部LPは、摩擦係合部の中心位置CPより外径方向に摩擦係合部幅Wの20%および内径方向に摩擦係合部幅Rの20%で定められた所定範囲Rで、且つ、その接触部LPの幅は摩擦係合部幅Wの10%以下にする。
【0016】
「摩擦係合部」は、摩擦係合の最外径部と摩擦係合の最内径部間の範囲を意味するものであり、「摩擦係合部幅」は、摩擦材の径方向の幅とほぼ一致する。「所定範囲」とは、摩擦係合部の中心位置CPを中心として摩擦係合部幅の内外径方向にそれぞれ20%の範囲を指すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。尚、以下説明する各実施例は、本発明を例示として示すだけであり、いかなる意味においても限定するものではない。
【0018】
図1乃至図5は、本発明の第1−5実施例にかかる湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。図1は本発明の第1実施例を示しており、湿式多板摩擦係合装置10は、軸方向の一端部(図中右側)で開放したほぼ円筒形のドラム、すなわちクラッチケース1と、クラッチケース1の内周に配置され、同軸上で相対回転するハブ9と、クラッチケース1の内周に設けられたスプライン1aに軸方向で移動自在に配置された環状の外歯プレート6と、ハブ9の外周に設けられたスプライン9aに外歯プレート6と軸方向で交互に配置され、軸方向の両面に摩擦材4が貼着された環状の内歯プレート5とからなっている。外歯プレート6と内歯プレート5とはそれぞれ複数個設けられている。
【0019】
湿式多板クラッチ10は、クラッチ部を構成する外歯プレート6と内歯プレート5とを押圧し締結させるピストン7と、外歯プレート6及び内歯プレート5を軸方向の一端で固定状態に保持するため、クラッチケース1の内周に設けられたプレート部材、すなわちバッキングプレート3とそれを保持する止め輪2を備えている。
【0020】
図1に示すように、ピストン7は、クラッチケース1の閉口端内で軸方向摺動自在に配置されている。ピストン7の外周面とクラッチケース1の内面との間にはOリング8が介装されている。また、ピストン7の内周面とクラッチケース1の円筒部(不図示)の外周面との間にもシール部材(不図示)が介装されている。従って、クラッチケース1の閉口端の内面とピストン7との間に油密状態の油圧室(不図示)が画成される。また、ハブ9には、径方向に貫通した潤滑油供給口(不図示)が設けられ、湿式多板クラッチ10の内径側から外径側へと潤滑を供給している。
【0021】
以上のように構成された湿式多板クラッチ10は、次のようにクラッチの締結及び解放をする。図1の状態は、クラッチ締結状態を示しており外歯プレート6と内歯プレート5とはそれぞれ接触している。尚、クラッチ解放状態では、不図示のリターンスプリングの付勢力により、ピストン7はクラッチケース1の閉口端側に変位している。
【0022】
解放状態からクラッチを締結するには、ピストン7とクラッチケース1との間に画成された油圧室(不図示)に油圧を供給する。油圧の上昇に伴い、リターンスプリング(不図示)の付勢力に抗して、ピストン7は、図1において軸方向右に移動し、外歯プレート6と内歯プレート5とを密着させる。これによりクラッチが締結される。
【0023】
締結後、クラッチを再度解放するには、油圧室の油圧を解除する。油圧が解除されると、ピストン7はリターンスプリング(不図示)の付勢力により、クラッチケース1の閉口端に変位して、クラッチが解放される。
【0024】
図1は、本発明の第1実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
図1に示す第1実施例では、荷重作用部は、ピストン7とバッキングプレート3に設けられている。クラッチ部に対向したピストン7の押圧面7aには、荷重作用部としての突起11が設けられている。突起11は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7はクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起11の曲面で外歯プレート6の金属面に当接する。
【0025】
また、クラッチ部を挟んでピストン7と軸方向で対向する位置に配置されたバッキングプレート3は、クラッチ部に対向した面3aに荷重作用部としての突起12が設けられている。突起12は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、固定状態のバッキングプレート3は、突起12の曲面で外歯プレート6の金属面に当接する。突起11は、ピストン7と一体に、また突起12はバッキングプレート3と一体に形成されている。
【0026】
図11で説明した関係を満たすように、突起11及び突起12は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。従って、係合時に荷重が摩擦面中心部に加わることにより、係合時の各プレートはスムースな動きとなり、係合特性もスムースなものとなる。また、クラッチ部の伝達効率を向上させ、トルク容量を高めることにより、より少ない枚数の摩擦板で従来と同等のトルクを伝達することも可能となる。
【0027】
図2は、本発明の第2実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
図2では、荷重作用部の設けられる部材が第1実施例と異なる。荷重作用部は、クラッチ部の軸方向で両端の外歯プレート6に設けられている。ピストン7に隣接する外歯プレート6には、ピストン7の押圧面7aに対向する面に突起14が形成されている。突起14は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起14の曲面がピストン7の押圧面7aに当接する。
【0028】
一方、バッキングプレート3に隣接する外歯プレート6には、バッキングプレート3に対向する面に突起15が形成されている。突起15は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起15の曲面がバッキングプレート3の面3aに当接する。本実施例においても、図11で説明した関係を満たすように、突起14及び突起15は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。突起15は、バッキングプレート3と一体に、また突起14は、ピストン7と一体に形成されている。
【0029】
図3は、本発明の第3実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。第3実施例では、荷重作用部としての突起が別体で設けられている。ピストン7の押圧面7aに凹部7bを設け、凹部7bに突起部材16を嵌合固定する。また、バッキングプレート3にも同様に凹部3bを設け、凹部3bに突起部材17を嵌合固定する。
【0030】
突起部材16と突起部材17は、ともに先端が軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。
【0031】
第3実施例においても、図11で説明した関係を満たすように、突起部材16及び突起部材17は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように配置されている。ピストン7が、クラッチ締結のために押圧力を加えると、突起部材16の先端の曲面が外歯プレート6の金属面に当接し、また突起部材17の先端の曲面も外歯プレート6の金属面に当接する。
【0032】
図4は、本発明の第4実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。本実施例では、荷重作用部の構成は第2実施例とほぼ同様だが、摩擦材の構成が異なる。本実施例では、摩擦材は内歯プレート5と外歯プレート6のそれぞれ片面に設けられている。外歯プレート6は、図中左側の面に摩擦材24が貼られ、内歯プレート5も、図中左側に摩擦材4が貼られている。従って、このような内歯プレート5と外歯プレート6とを軸方向で交互に配置すると、両端のプレートを除き、図4に示すようにそれぞれのプレートの両面に摩擦材が配置されることになる。
【0033】
荷重作用部としての突起は、第2実施例とほぼ同様の構成であり、ピストン7に隣接する外歯プレート6には、ピストン7の押圧面7aに対向する面に突起18が一体的に形成されている。突起18は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起18の曲面がピストン7の押圧面7aに当接する。
【0034】
一方、バッキングプレート3に隣接する外歯プレート6には、バッキングプレート3に対向する面に突起19が一体的に形成されている。突起19は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起19の曲面がバッキングプレート3の面3aに当接する。本実施例においても、図11で説明した関係を満たすように、突起18及び突起19は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0035】
図5は、本発明の第5実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。本実施例は、荷重作用部の構成が前述の各実施例と異なる。クラッチケース31は、その閉口端の内面31aに荷重作用部としての突起22が一体的に形成され、外歯プレート6に対向している。突起22は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。
【0036】
次に、クラッチケース1の開口端側に配置されたピストン37は、外歯プレート6に対向する押圧面37aに突起21が一体的に形成されている。突起21は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。
【0037】
その他の構成は第1−3実施例と同様であり、図11で説明した関係を満たすように、突起21及び突起22は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0038】
図6は、プレート部材の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。クラッチ部を挟んでピストン7と反対側に配置されたプレート部材、すなわちバッキングプレート33は、径方向の中間に外歯プレート6側に突出した湾曲した(曲線的に曲がった)屈曲部34を備えている。この屈曲部34の外歯プレート6側に山部35が形成され、上記各実施例の突起に相当する機能を備えている。ピストン7(図6では不図示)が押圧力をクラッチ部に与えると、押圧された最右端の外歯プレート6の右側の面が山部35の曲面に当接する。尚、ピストン7側の突起は上記各実施例と同様で良い。山部35は、ピストン7側の突起に対してクラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0039】
図7は、プレート部材の他の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。クラッチ部を挟んでピストン7と反対側に配置されたプレート部材、すなわちバッキングプレート36は、径方向の中間に外歯プレート6側に突出した直線的に曲がった屈曲部37を備えている。この屈曲部37の外歯プレート6側に山部38が形成され、上記各実施例の突起に相当する機能を備えている。ピストン7(図7では不図示)が押圧力をクラッチ部に与えると、押圧された最右端の外歯プレート6の右側の面が山部38の稜線部に当接する。尚、ピストン7側の突起は上記各実施例と同様で良い。山部38は、ピストン7側の突起に対してクラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0040】
図8は、プレート部材の更に他の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。クラッチ部を挟んでピストン7と反対側に配置されたプレート部材、すなわちバッキングプレート39は、径方向の中間で屈曲した形状を備えている。屈曲部40は外歯プレート6に対向した山部41を備えている。この屈曲部40の山部41が、上記各実施例の突起に相当する機能を備えている。ピストン7(図8では不図示)が押圧力をクラッチ部に与えると、押圧された最右端の外歯プレート6の右側の面が山部41に当接する。屈曲部41は、ピストン7側の突起に対してクラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0041】
図8では、バッキングプレート39が止め輪2の機能を備えているため、止め輪2が設けられていない。バッキングプレート39の外径側の端部42は、クラッチケース1の内周に設けられた環状溝1bに嵌合している。従って、バッキングプレート39の山部41が外歯プレート6に当接することで、クラッチ部が軸方向に脱落することを防止すると共に、ピストン7との間でクラッチ部に押圧力を印加できる。
【0042】
図9は、図8のバッキングプレート39の正面図である。全体としてC型の形状をしたバッキングプレート39は、円周方向の一部で破断した、C型の環状端部42を備えている。この環状端部42から内周側に向かって、屈曲部40を有する複数の突出部43が設けられている。突出部43は、円周方向にほぼ等間隔で配置されている。
【0043】
図10は、ピストン側に設けた荷重作用部の一例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。ピストン7の外歯プレート6に対向した面に、環状の突起7cが設けられ、この突起7cにより形成された段部に皿ばね44が介装されている。皿ばね44は、外歯プレート6に当接する荷重作用部となっている。皿ばね44は、コイルスプリングなど他の付勢部材であってもよい。
【0044】
図13は、本発明の実施例による、クラッチ開口部寄りのプレートに固定された摩擦材の面圧分布の模式図である。また、図14は、従来例によるクラッチ開口部寄りのプレートに固定された摩擦材の面圧分布の模式図である。
【0045】
図13に示すように、本発明の実施例によれば、圧痕50から明らかなように外径側から内径側へと均一な面圧分布が得られ、クラッチ内の各プレートの面圧の均一化および個々のクラッチ間の面圧分布のばらつきも小さくでき、耐熱性のある、変速性能の安定した湿式多板摩擦係合装置が提供できる。
【0046】
これに対して、従来例を示す図14は、圧痕150が外径側に片寄り、面圧分布が均一ではないことを示している。クラッチの開口側の摩擦材の外径側の面圧がより大きくなっていることを示している。従って、摩擦材の全面が働いていない為による耐熱性の低下や、係合時において各プレートのスムースな動きを妨げたりして、係合特性にも悪影響を及ぼす恐れがある。
【0047】
以上説明した本発明の各実施例において、突起はピストンまたはプレート部材に環状に設けることができる。環状に連続した状態でも、所定の間隔をあけた状態でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明の第1実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図3】図3は、本発明の第3実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図4】図4は、本発明の第4実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図5】図5は、本発明の第5実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図6】図6は、プレート部材の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図7】図7は、プレート部材の他の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図8】図8は、プレート部材の更に他の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図9】図9は、図8のプレート部材の正面図である。
【図10】図10は、ピストン側に設けた荷重作用部の一例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図11】図11は、本明細書中で用いられる用語を説明するための湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図12】図12は、従来の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図13】図13は、本発明の実施例による、クラッチ開口部寄りのプレートに固定された摩擦材の面圧分布の模式図である。
【図14】図14は、従来例によるクラッチ開口部寄りのプレートに固定された摩擦材の面圧分布の模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1 クラッチケース
2 止め輪
3 バッキングプレート
4 摩擦材
5 内歯プレート
6 外歯プレート
7 ピストン
8 Oリング
9 ハブ
10 湿式多板摩擦係合装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の自動変速機の変速用クラッチやブレーキ、またロックアップクラッチや発進クラッチなどに用いられる湿式多板係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ペーパ摩擦材からなる湿式多板クラッチ、すなわち湿式多板摩擦係合装置は、摩擦面に加える荷重により、伝達トルクが制御できること、また、トルク伝達時のスムースな係合ができる等の利点があり、主に、自動変速機の変速装置や、トルクコンバータ、発進クラッチなどに多く使用されている。
【0003】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2006−105397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動変速機(ATM)に使用される湿式多板摩擦係合装置は、耐熱性と滑らかな係合特性が要求されている。
【0005】
従来の湿式多板摩擦係合装置は、図12に示すような構成を有する。湿式多板摩擦係合装置100は、クラッチドラム101内に交互に配置された金属板にペーパ摩擦材104が貼られた内歯プレート105と金属板の外歯プレート106と、内歯プレート105及び外歯プレート106とを互いに圧接させるピストン107と、内歯プレート105及び外歯プレート106及びバッキングプレート103とそれを受け止めるスナップリング102を有している。
【0006】
ピストン107の押圧により各プレートに生じるソリ変形やクラッチドラム101の口開き変形のため、クラッチドラム101の開口側に向かうに従い、摩擦面の面圧は、外径側が強くなる傾向にある。この傾向は、クラッチドラム101の剛性が小さくなる、また、バッキングプレート104の板厚が薄くなると大きくなり、特にドラム101の開口側の摩擦材104の外径側の面圧がより大きくなる。このことは摩擦材104の全面が働いていない為による耐熱性の低下や、係合時において各プレートのスムースな動きを妨げたりして、係合特性にも悪影響を及ぼす。
【0007】
更に、近年、軽量化、ATMの多段化やコスト低減要求の高まりにつれ、クラッチドラムやバッキングプレートの軽量化が求められていると同時に。高速化によりクラッチの焼けが生ずる傾向が強くなっている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ピストン側およびピストンと反対側のプレートの荷重作用位置を中心近辺に持ってくることにより、全てのプレートの摩擦面が係合面全体で、均一な面圧により接触をするようになり、摩擦係合過程で生ずる発熱部の偏りが防止されることによりクラッチ部の耐熱性が向上した湿式多板摩擦係合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的達成のため、本発明によれば、軸方向の少なくとも一面に摩擦材を有する内歯プレートと、内歯プレートと軸方向で交互に配置された外歯プレートとからなるクラッチ部と、内歯プレートと前記外歯プレートとを係合させるための押圧力をクラッチ部に与えるピストンとを備えた湿式多板摩擦係合装置において、クラッチ部の軸方向両側でクラッチ部に作用する荷重作用部が設けられ、荷重作用部がクラッチ部に接触する接触部は、摩擦係合部の中心位置から外径方向に摩擦係合部の径方向幅の約20%および内径方向に摩擦係合部の径方向幅の約20%の所定範囲内に位置し、且つ、接触部の径方向幅は摩擦係合部の径方向幅の約10%以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果が得られる。
【0011】
上述の構成により、係合時に荷重が摩擦面中心部に加わることにより、係合時の各プレートはスムースな動きとなり、係合特性もスムースなものとなる。また、クラッチ部の伝達効率を向上させ、トルク容量を高めることにより、より少ない枚数の摩擦板で従来と同等のトルクを伝達することも可能となる。
【0012】
接触部は、摩擦係合部(摩擦係合の最外径部と摩擦係合の最内径部間の範囲)の中心位置より外径方向に摩擦係合部幅の20%および内径方向に摩擦係合部幅の20%で定められた範囲で、且つ、その接触部の径方向幅は摩擦係合部の径方向幅の10%以下にすることにより、クラッチ内の各プレートの面圧の均一化および個々のクラッチ間の面圧分布のばらつきも小さくでき、耐熱性のある、変速性能の安定した湿式多板摩擦係合装置が提供できる。
【0013】
また、荷重作用部を曲面とすることにより、摩擦面により一層安定した均等な荷重を加えることが可能となる。凸部は、削り加工またはプレスで形成しても良いし、別体の部材をピストンもしくは、プレート部材に装着することも可能である。荷重作用部または凸部にクッション機能を持たせたり、止め輪機能を持たせたりすることも可能で、より信頼性のある湿式多板摩擦係合装置が提供できる。
【0014】
ここで、図11を用いて、本発明の請求項や実施例の説明における用語の一部を定義する。便宜上、図1の実施例を基に説明するが、これらの用語は本発明の全ての請求項や実施例及び変形例に共通であることは言うまでもない。
【0015】
内歯プレートと外歯プレートとからなるクラッチ部の軸方向両側でクラッチ部に作用する荷重作用部の接触部LPは、摩擦係合部の中心位置CPより外径方向に摩擦係合部幅Wの20%および内径方向に摩擦係合部幅Rの20%で定められた所定範囲Rで、且つ、その接触部LPの幅は摩擦係合部幅Wの10%以下にする。
【0016】
「摩擦係合部」は、摩擦係合の最外径部と摩擦係合の最内径部間の範囲を意味するものであり、「摩擦係合部幅」は、摩擦材の径方向の幅とほぼ一致する。「所定範囲」とは、摩擦係合部の中心位置CPを中心として摩擦係合部幅の内外径方向にそれぞれ20%の範囲を指すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。尚、以下説明する各実施例は、本発明を例示として示すだけであり、いかなる意味においても限定するものではない。
【0018】
図1乃至図5は、本発明の第1−5実施例にかかる湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。図1は本発明の第1実施例を示しており、湿式多板摩擦係合装置10は、軸方向の一端部(図中右側)で開放したほぼ円筒形のドラム、すなわちクラッチケース1と、クラッチケース1の内周に配置され、同軸上で相対回転するハブ9と、クラッチケース1の内周に設けられたスプライン1aに軸方向で移動自在に配置された環状の外歯プレート6と、ハブ9の外周に設けられたスプライン9aに外歯プレート6と軸方向で交互に配置され、軸方向の両面に摩擦材4が貼着された環状の内歯プレート5とからなっている。外歯プレート6と内歯プレート5とはそれぞれ複数個設けられている。
【0019】
湿式多板クラッチ10は、クラッチ部を構成する外歯プレート6と内歯プレート5とを押圧し締結させるピストン7と、外歯プレート6及び内歯プレート5を軸方向の一端で固定状態に保持するため、クラッチケース1の内周に設けられたプレート部材、すなわちバッキングプレート3とそれを保持する止め輪2を備えている。
【0020】
図1に示すように、ピストン7は、クラッチケース1の閉口端内で軸方向摺動自在に配置されている。ピストン7の外周面とクラッチケース1の内面との間にはOリング8が介装されている。また、ピストン7の内周面とクラッチケース1の円筒部(不図示)の外周面との間にもシール部材(不図示)が介装されている。従って、クラッチケース1の閉口端の内面とピストン7との間に油密状態の油圧室(不図示)が画成される。また、ハブ9には、径方向に貫通した潤滑油供給口(不図示)が設けられ、湿式多板クラッチ10の内径側から外径側へと潤滑を供給している。
【0021】
以上のように構成された湿式多板クラッチ10は、次のようにクラッチの締結及び解放をする。図1の状態は、クラッチ締結状態を示しており外歯プレート6と内歯プレート5とはそれぞれ接触している。尚、クラッチ解放状態では、不図示のリターンスプリングの付勢力により、ピストン7はクラッチケース1の閉口端側に変位している。
【0022】
解放状態からクラッチを締結するには、ピストン7とクラッチケース1との間に画成された油圧室(不図示)に油圧を供給する。油圧の上昇に伴い、リターンスプリング(不図示)の付勢力に抗して、ピストン7は、図1において軸方向右に移動し、外歯プレート6と内歯プレート5とを密着させる。これによりクラッチが締結される。
【0023】
締結後、クラッチを再度解放するには、油圧室の油圧を解除する。油圧が解除されると、ピストン7はリターンスプリング(不図示)の付勢力により、クラッチケース1の閉口端に変位して、クラッチが解放される。
【0024】
図1は、本発明の第1実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
図1に示す第1実施例では、荷重作用部は、ピストン7とバッキングプレート3に設けられている。クラッチ部に対向したピストン7の押圧面7aには、荷重作用部としての突起11が設けられている。突起11は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7はクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起11の曲面で外歯プレート6の金属面に当接する。
【0025】
また、クラッチ部を挟んでピストン7と軸方向で対向する位置に配置されたバッキングプレート3は、クラッチ部に対向した面3aに荷重作用部としての突起12が設けられている。突起12は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、固定状態のバッキングプレート3は、突起12の曲面で外歯プレート6の金属面に当接する。突起11は、ピストン7と一体に、また突起12はバッキングプレート3と一体に形成されている。
【0026】
図11で説明した関係を満たすように、突起11及び突起12は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。従って、係合時に荷重が摩擦面中心部に加わることにより、係合時の各プレートはスムースな動きとなり、係合特性もスムースなものとなる。また、クラッチ部の伝達効率を向上させ、トルク容量を高めることにより、より少ない枚数の摩擦板で従来と同等のトルクを伝達することも可能となる。
【0027】
図2は、本発明の第2実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
図2では、荷重作用部の設けられる部材が第1実施例と異なる。荷重作用部は、クラッチ部の軸方向で両端の外歯プレート6に設けられている。ピストン7に隣接する外歯プレート6には、ピストン7の押圧面7aに対向する面に突起14が形成されている。突起14は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起14の曲面がピストン7の押圧面7aに当接する。
【0028】
一方、バッキングプレート3に隣接する外歯プレート6には、バッキングプレート3に対向する面に突起15が形成されている。突起15は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起15の曲面がバッキングプレート3の面3aに当接する。本実施例においても、図11で説明した関係を満たすように、突起14及び突起15は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。突起15は、バッキングプレート3と一体に、また突起14は、ピストン7と一体に形成されている。
【0029】
図3は、本発明の第3実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。第3実施例では、荷重作用部としての突起が別体で設けられている。ピストン7の押圧面7aに凹部7bを設け、凹部7bに突起部材16を嵌合固定する。また、バッキングプレート3にも同様に凹部3bを設け、凹部3bに突起部材17を嵌合固定する。
【0030】
突起部材16と突起部材17は、ともに先端が軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。
【0031】
第3実施例においても、図11で説明した関係を満たすように、突起部材16及び突起部材17は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように配置されている。ピストン7が、クラッチ締結のために押圧力を加えると、突起部材16の先端の曲面が外歯プレート6の金属面に当接し、また突起部材17の先端の曲面も外歯プレート6の金属面に当接する。
【0032】
図4は、本発明の第4実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。本実施例では、荷重作用部の構成は第2実施例とほぼ同様だが、摩擦材の構成が異なる。本実施例では、摩擦材は内歯プレート5と外歯プレート6のそれぞれ片面に設けられている。外歯プレート6は、図中左側の面に摩擦材24が貼られ、内歯プレート5も、図中左側に摩擦材4が貼られている。従って、このような内歯プレート5と外歯プレート6とを軸方向で交互に配置すると、両端のプレートを除き、図4に示すようにそれぞれのプレートの両面に摩擦材が配置されることになる。
【0033】
荷重作用部としての突起は、第2実施例とほぼ同様の構成であり、ピストン7に隣接する外歯プレート6には、ピストン7の押圧面7aに対向する面に突起18が一体的に形成されている。突起18は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起18の曲面がピストン7の押圧面7aに当接する。
【0034】
一方、バッキングプレート3に隣接する外歯プレート6には、バッキングプレート3に対向する面に突起19が一体的に形成されている。突起19は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。従って、ピストン7がクラッチ部に押圧力を印加するとき、突起19の曲面がバッキングプレート3の面3aに当接する。本実施例においても、図11で説明した関係を満たすように、突起18及び突起19は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0035】
図5は、本発明の第5実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。本実施例は、荷重作用部の構成が前述の各実施例と異なる。クラッチケース31は、その閉口端の内面31aに荷重作用部としての突起22が一体的に形成され、外歯プレート6に対向している。突起22は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。
【0036】
次に、クラッチケース1の開口端側に配置されたピストン37は、外歯プレート6に対向する押圧面37aに突起21が一体的に形成されている。突起21は、軸方向に延在する半球状の形状として形成されている。
【0037】
その他の構成は第1−3実施例と同様であり、図11で説明した関係を満たすように、突起21及び突起22は、クラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0038】
図6は、プレート部材の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。クラッチ部を挟んでピストン7と反対側に配置されたプレート部材、すなわちバッキングプレート33は、径方向の中間に外歯プレート6側に突出した湾曲した(曲線的に曲がった)屈曲部34を備えている。この屈曲部34の外歯プレート6側に山部35が形成され、上記各実施例の突起に相当する機能を備えている。ピストン7(図6では不図示)が押圧力をクラッチ部に与えると、押圧された最右端の外歯プレート6の右側の面が山部35の曲面に当接する。尚、ピストン7側の突起は上記各実施例と同様で良い。山部35は、ピストン7側の突起に対してクラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0039】
図7は、プレート部材の他の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。クラッチ部を挟んでピストン7と反対側に配置されたプレート部材、すなわちバッキングプレート36は、径方向の中間に外歯プレート6側に突出した直線的に曲がった屈曲部37を備えている。この屈曲部37の外歯プレート6側に山部38が形成され、上記各実施例の突起に相当する機能を備えている。ピストン7(図7では不図示)が押圧力をクラッチ部に与えると、押圧された最右端の外歯プレート6の右側の面が山部38の稜線部に当接する。尚、ピストン7側の突起は上記各実施例と同様で良い。山部38は、ピストン7側の突起に対してクラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0040】
図8は、プレート部材の更に他の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。クラッチ部を挟んでピストン7と反対側に配置されたプレート部材、すなわちバッキングプレート39は、径方向の中間で屈曲した形状を備えている。屈曲部40は外歯プレート6に対向した山部41を備えている。この屈曲部40の山部41が、上記各実施例の突起に相当する機能を備えている。ピストン7(図8では不図示)が押圧力をクラッチ部に与えると、押圧された最右端の外歯プレート6の右側の面が山部41に当接する。屈曲部41は、ピストン7側の突起に対してクラッチ部の軸心と平行でほぼ同一の直線上に位置するように形成されている。
【0041】
図8では、バッキングプレート39が止め輪2の機能を備えているため、止め輪2が設けられていない。バッキングプレート39の外径側の端部42は、クラッチケース1の内周に設けられた環状溝1bに嵌合している。従って、バッキングプレート39の山部41が外歯プレート6に当接することで、クラッチ部が軸方向に脱落することを防止すると共に、ピストン7との間でクラッチ部に押圧力を印加できる。
【0042】
図9は、図8のバッキングプレート39の正面図である。全体としてC型の形状をしたバッキングプレート39は、円周方向の一部で破断した、C型の環状端部42を備えている。この環状端部42から内周側に向かって、屈曲部40を有する複数の突出部43が設けられている。突出部43は、円周方向にほぼ等間隔で配置されている。
【0043】
図10は、ピストン側に設けた荷重作用部の一例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。ピストン7の外歯プレート6に対向した面に、環状の突起7cが設けられ、この突起7cにより形成された段部に皿ばね44が介装されている。皿ばね44は、外歯プレート6に当接する荷重作用部となっている。皿ばね44は、コイルスプリングなど他の付勢部材であってもよい。
【0044】
図13は、本発明の実施例による、クラッチ開口部寄りのプレートに固定された摩擦材の面圧分布の模式図である。また、図14は、従来例によるクラッチ開口部寄りのプレートに固定された摩擦材の面圧分布の模式図である。
【0045】
図13に示すように、本発明の実施例によれば、圧痕50から明らかなように外径側から内径側へと均一な面圧分布が得られ、クラッチ内の各プレートの面圧の均一化および個々のクラッチ間の面圧分布のばらつきも小さくでき、耐熱性のある、変速性能の安定した湿式多板摩擦係合装置が提供できる。
【0046】
これに対して、従来例を示す図14は、圧痕150が外径側に片寄り、面圧分布が均一ではないことを示している。クラッチの開口側の摩擦材の外径側の面圧がより大きくなっていることを示している。従って、摩擦材の全面が働いていない為による耐熱性の低下や、係合時において各プレートのスムースな動きを妨げたりして、係合特性にも悪影響を及ぼす恐れがある。
【0047】
以上説明した本発明の各実施例において、突起はピストンまたはプレート部材に環状に設けることができる。環状に連続した状態でも、所定の間隔をあけた状態でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明の第1実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図3】図3は、本発明の第3実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図4】図4は、本発明の第4実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図5】図5は、本発明の第5実施例の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図6】図6は、プレート部材の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図7】図7は、プレート部材の他の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図8】図8は、プレート部材の更に他の変形例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図9】図9は、図8のプレート部材の正面図である。
【図10】図10は、ピストン側に設けた荷重作用部の一例を示す湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図11】図11は、本明細書中で用いられる用語を説明するための湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図12】図12は、従来の湿式多板摩擦係合装置の軸方向部分断面図である。
【図13】図13は、本発明の実施例による、クラッチ開口部寄りのプレートに固定された摩擦材の面圧分布の模式図である。
【図14】図14は、従来例によるクラッチ開口部寄りのプレートに固定された摩擦材の面圧分布の模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1 クラッチケース
2 止め輪
3 バッキングプレート
4 摩擦材
5 内歯プレート
6 外歯プレート
7 ピストン
8 Oリング
9 ハブ
10 湿式多板摩擦係合装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の少なくとも一面に摩擦材を有する内歯プレートと、前記内歯プレートと軸方向で交互に配置された外歯プレートとからなるクラッチ部と、前記内歯プレートと前記外歯プレートとを係合させるための押圧力を前記クラッチ部に与えるピストンとを備えた湿式多板摩擦係合装置において、
前記クラッチ部の軸方向両側で前記クラッチ部に作用する荷重作用部が設けられ、前記荷重作用部が前記クラッチ部に接触する接触部は、摩擦係合部の中心位置から外径方向に前記摩擦係合部の径方向幅の約20%および内径方向に前記摩擦係合部の径方向幅の約20%の所定範囲内に位置し、且つ、前記接触部の径方向幅は前記摩擦係合部の径方向幅の約10%以下であることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記荷重作用部は凸部を有することを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項3】
請求項2に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は半径方向の曲面として形成されていることを特徴する湿式多板摩擦係合装置。
【請求項4】
請求項2に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は、全体が湾曲した面であることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項5】
請求項2に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は台形形状または三角形状であることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項6】
請求項1−5の何れか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は外径から内径にかけて傾斜している面または内径から外径にかけて傾斜している面より形成されていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項7】
請求項1−6のいずれか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記クラッチ部に関して前記ピストンと反対側に位置するプレート部材が、外径から内径にかけて傾斜した面を有し、クッション機能を備えていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項8】
請求項2−7のいずれか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は、前記プレート部材または前記ピストンに対し別体の部品を装着して形成することを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項9】
請求項8に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部はクッション機能を備えていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項10】
請求項1−8のいずれか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記クラッチ部に関して前記ピストンと反対側に位置するプレート部材は、止め輪機能を有することを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項11】
請求項10に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記プレート部材は、半径方向に延在する切り込みが設けられていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項12】
請求項1に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記ピストンには前記外歯プレートを押圧する荷重プレートが設けられていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項13】
請求項12に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記荷重プレートはクッション機能を有することを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項14】
請求項1に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記クラッチ部に関して前記ピストンの反対側に位置する前記プレート部材に作用する前記荷重作用部はクラッチドラムの凸部より形成されていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項15】
請求項2−14のいずれか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記荷重作用部は、前記ピストンの前記外歯プレートに対向する面に設けられていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項1】
軸方向の少なくとも一面に摩擦材を有する内歯プレートと、前記内歯プレートと軸方向で交互に配置された外歯プレートとからなるクラッチ部と、前記内歯プレートと前記外歯プレートとを係合させるための押圧力を前記クラッチ部に与えるピストンとを備えた湿式多板摩擦係合装置において、
前記クラッチ部の軸方向両側で前記クラッチ部に作用する荷重作用部が設けられ、前記荷重作用部が前記クラッチ部に接触する接触部は、摩擦係合部の中心位置から外径方向に前記摩擦係合部の径方向幅の約20%および内径方向に前記摩擦係合部の径方向幅の約20%の所定範囲内に位置し、且つ、前記接触部の径方向幅は前記摩擦係合部の径方向幅の約10%以下であることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記荷重作用部は凸部を有することを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項3】
請求項2に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は半径方向の曲面として形成されていることを特徴する湿式多板摩擦係合装置。
【請求項4】
請求項2に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は、全体が湾曲した面であることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項5】
請求項2に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は台形形状または三角形状であることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項6】
請求項1−5の何れか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は外径から内径にかけて傾斜している面または内径から外径にかけて傾斜している面より形成されていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項7】
請求項1−6のいずれか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記クラッチ部に関して前記ピストンと反対側に位置するプレート部材が、外径から内径にかけて傾斜した面を有し、クッション機能を備えていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項8】
請求項2−7のいずれか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部は、前記プレート部材または前記ピストンに対し別体の部品を装着して形成することを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項9】
請求項8に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記凸部はクッション機能を備えていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項10】
請求項1−8のいずれか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記クラッチ部に関して前記ピストンと反対側に位置するプレート部材は、止め輪機能を有することを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項11】
請求項10に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記プレート部材は、半径方向に延在する切り込みが設けられていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項12】
請求項1に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記ピストンには前記外歯プレートを押圧する荷重プレートが設けられていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項13】
請求項12に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記荷重プレートはクッション機能を有することを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項14】
請求項1に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記クラッチ部に関して前記ピストンの反対側に位置する前記プレート部材に作用する前記荷重作用部はクラッチドラムの凸部より形成されていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【請求項15】
請求項2−14のいずれか1項に記載の湿式多板摩擦係合装置において、前記荷重作用部は、前記ピストンの前記外歯プレートに対向する面に設けられていることを特徴とする湿式多板摩擦係合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−215498(P2008−215498A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54120(P2007−54120)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
【Fターム(参考)】
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