湿式摩擦材
【課題】湿式摩擦材において、引き込み部分からセグメントピースまたは島状部分の上へのATFの余分な流れ込みを制御して、相対回転数が比較的高い領域でも優れた引き摺りトルクの低減効果が得られること。
【解決手段】相対回転数が中速の領域になると、遠心力でATFが外周部分に集まり、比較例1のセグメントタイプ摩擦材11では、引き込み長さγ1が小さいためにATFがセグメントピース13に接触して、引き摺りトルクが大きくなる。更に1500rpm程度の比較的高速の領域に入ると、比較例2のセグメントタイプ摩擦材11Aでは、矢印のように高速回転によってATFの流れに乱れが生じ、セグメントピース13に接触して引き摺りトルクが大きくなる。これに対して、実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aでは、矢印で示されるように、突起4AによってATFの流れが制御されるため、引き摺りトルクは更に小さくなる。
【解決手段】相対回転数が中速の領域になると、遠心力でATFが外周部分に集まり、比較例1のセグメントタイプ摩擦材11では、引き込み長さγ1が小さいためにATFがセグメントピース13に接触して、引き摺りトルクが大きくなる。更に1500rpm程度の比較的高速の領域に入ると、比較例2のセグメントタイプ摩擦材11Aでは、矢印のように高速回転によってATFの流れに乱れが生じ、セグメントピース13に接触して引き摺りトルクが大きくなる。これに対して、実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aでは、矢印で示されるように、突起4AによってATFの流れが制御されるため、引き摺りトルクは更に小さくなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、平板リング状の芯金にセグメントピースまたはリング形状に切断した摩擦材基材を全周両面若しくは片面に接着してなるセグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湿式摩擦材として、材料の歩留まり向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化を目指して、平板リング状の芯金に平板リング形状に沿ったセグメントピースに切断した摩擦材基材を油溝となる間隔をおいて接着剤で順次並べて全周に亘って接着し、裏面にも同様にセグメントピースに切断した摩擦材基材を接着してなるセグメントタイプ摩擦材が開発されている。このようなセグメントタイプ摩擦材は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下「AT」とも略する。)やオートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いることができる。
【0003】
一例として、自動車等の自動変速機には湿式油圧クラッチが用いられており、複数枚のセグメントタイプ摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを交互に重ね合わせ、油圧で両プレートを圧接してトルク伝達を行うようになっており、非締結状態から締結状態に移行する際に生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗防止等の理由から、両プレートの間に潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給している。(なお、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標である。)
【0004】
しかし、湿式油圧クラッチの応答性を高めるためにセグメントタイプ摩擦材と相手材であるセパレータプレートとの距離は小さく設定されており、また湿式油圧クラッチの締結時のトルク伝達容量を充分に確保するために、セグメントタイプ摩擦材上に占める油通路の総面積は制約を受ける。この結果、湿式油圧クラッチの非締結時にセグメントタイプ摩擦材とセパレータプレートとの間に残留するATFが排出され難くなり、両プレートの相対回転によってATFによる引き摺りトルクが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1においては、隣り合うセグメントピースの間に形成される油溝を区画形成し、油溝の間隔を内周側から外周側へ向かう途中で狭くすることを特徴とする湿式摩擦部材の発明について開示している。これによって、内周側から外周側へ流れるATFは、油溝の間隔が変化するポイントで堰き止められて、一部のATFがセグメントピースの表面に溢れ出てセグメントピースの表面を流れるため、ATFによる冷却効果が向上して耐熱性が向上するとともに、引き摺りトルクを低下させることができるとしている。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明においては、セグメントタイプ摩擦材においてセグメントピースの内周側の角を所定角度で切り落とすことによって、ATに組み込まれた場合に非締結状態においてセグメントタイプ摩擦材が回転したとき、内周側から供給されるATFがセグメントピースの切り落とされた部分に当接することによって、ATFが積極的に摩擦材基材の摩擦面に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が抑制され、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載の技術においては、ATFがセグメントタイプ摩擦材の芯金の内周側から供給されることを前提としており、実機においてハブ孔からのATFの供給がない仕様の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においては、引き摺りトルクを低減する効果が非常に小さく、車両における大幅な低燃費化を実現するのは困難である。
【0008】
そこで、特許文献3においては、平板リング形状の芯金に平板リング形状に沿って、摩擦材基材を複数のセグメントピースに切断して全周両面または片面に接着してなるセグメントタイプ摩擦材であって、芯金の外周からセグメントピースの外周までの引き込み量を従来よりも多くした発明について開示している。これによって、芯金の外周部分においてセグメントピースとセパレータプレートの間隙が広くなる部分が生じるため、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、引き摺りトルクを低減することができるとしている。
【特許文献1】特開2001−295859号公報
【特許文献2】特開2005−282648号公報
【特許文献3】特開2006−132581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献3に記載の技術においては、相対回転数が低い場合には確かに引き摺りトルクが低減されるが、相対回転数が比較的高くなると、遠心力によってATFが引き込み部分を含む外周部分に溜まった状態となり、高速回転によって溜まったATFの流れが乱れてセグメントピース上へ乗り上げるために、引き摺りトルクを低減する効果が小さくなるという問題点があった。このような問題点は、芯金にリング形状の摩擦材基材が接着されて、島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工によって油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材においても、同様である。
【0010】
そこで、本発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであって、セグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、引き込み部分からセグメントピースまたは島状部分の上へのATFの余分な流れ込みを制御することによって、相対回転数が比較的高い領域においても優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金に前記平板リング形状に沿って、複数個のセグメントピースに切断された摩擦材基材が、前記セグメントピースの外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の全周両面若しくは全周片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて複数個の島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて、前記島状部分の外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するリングタイプ摩擦材であって、前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側に、前記芯金の外周方向に突出する1個または複数個の突起が設けられたものである。
【0012】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1の構成において、前記突起は、前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面からの突出長さが前記引き込み長さの10%〜100%の範囲内であり、前記1個または複数個の突起の先端部分の幅の合計が前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面の長さの0%〜40%の範囲内であり、前記1個または複数個の突起の付け根部分の幅の合計が前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面の長さの10%〜50%の範囲内であるものである。
【0013】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1または請求項2の構成において、前記引き込み長さは、前記芯金の半径の0.8%〜4.2%の範囲内、より好ましくは1.5%〜3.1%の範囲内であるものである。
【0014】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、更に前記セグメントピースの内周側に、前記1個または複数個の突起に対応した1個または複数個の凹部が設けられたセグメントタイプ摩擦材であるものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金にセグメントピースまたはリング形状に切断された摩擦材基材が、複数個のセグメントピースまたは島状部分の外周側面が芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、セグメントピースまたは島状部分の外周側に、芯金の外周方向に突出する1個または複数個の突起が設けられている。
【0016】
このように引き込み部分に突出した突起を設けることによって、相対回転数が比較的高い領域において、遠心力で外周部分に溜まったATFの流れが突起によって制御され、高速回転でATFの流れが乱れてセグメントピースまたは島状部分の上へ流れ込む事態が防止されるため、相対回転数が比較的高い領域においても大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0017】
このようにして、セグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、引き込み部分からセグメントピースまたは島状部分の上へのATFの余分な流れ込みを制御することによって、相対回転数が比較的高い領域においても優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材となる。
【0018】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材においては、セグメントピースまたは島状部分の外周側面からの突起の突出長さが引き込み長さの10%〜100%の範囲内であり、1個または複数個の突起の先端部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの0%〜40%の範囲内であり、1個または複数個の突起の付け根部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの10%〜50%の範囲内である。
【0019】
ここで、「突起の先端部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの0%」の場合とは、突起の形状が先端部分の尖った三角形・五角形等である場合、または突起の先端部分が丸みを帯びたR形状である場合であり、これらの場合には突起の先端部分の幅はゼロと考えられるためである。
【0020】
本発明者は、セグメントピースまたは島状部分の外周側面に設けられる突起の大きさについて、鋭意実験研究を重ねた結果、突起の突出長さが引き込み長さの10%〜100%の範囲内であり、突起の先端部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの0%〜40%の範囲内であり、突起の付け根部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの10%〜50%の範囲内である場合に、より顕著な引き摺りトルクの低減効果が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0021】
すなわち、突起の突出長さが引き込み長さの10%未満である場合には、突起が小さ過ぎてATFを制御する効果が十分に得られず、引き込み長さの100%を超えると突起の先端が芯金の外にはみ出してしまうため、好ましくない。また、実験の結果、突起の先端部分の幅は小さいほどATFを制御する効果が大きいことが分かり、先端部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの40%を超えると、ATFを制御する効果が十分に得られない。これに応じて、突起の付け根部分の幅の合計は、外周側面の長さの10%〜50%の範囲内であることが好ましい。
【0022】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材においては、引き込み長さが芯金の半径の0.8%〜4.2%の範囲内であるため、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、湿式摩擦材の締結時における高いトルク伝達効率と、非締結時における低い引き摺りトルクとを両立することができるという作用効果を奏する。
【0023】
すなわち、引き込み長さが芯金の半径の0.8%未満であると、引き込みによって外周側にスペースを設けることによる引き摺りトルクの低減効果を十分に得ることができず、また引き込み長さが芯金の半径の4.2%を超えると、締結時における湿式摩擦材とセパレータプレートとの接触面積が小さくなって、十分に高いトルク伝達効率を得ることが困難となる。したがって、引き込み長さは、芯金の半径の0.8%〜4.2%の範囲内であることが好ましい。
【0024】
なお、引き込み長さが芯金の半径の1.5%〜3.1%の範囲内である場合には、より確実に、湿式摩擦材の締結時における高いトルク伝達効率と、非締結時における低い引き摺りトルクとを両立することができるため、より好ましい。
【0025】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材は、セグメントピースの内周側に、1個または複数個の突起に対応した1個または複数個の凹部が設けられたセグメントタイプ摩擦材であるため、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに係る発明の効果に加えて、摩擦材基材からセグメントピースを切り出す際に、セグメントピースの半径方向に間隔を空ける必要がなく連続的に切り出すことができることから、摩擦材基材をより経済的に活用することができ、より低コストで製造することができるという作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材について、図1乃至図8を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0028】
図2(a)は本発明の実施の形態1の第1変形例(実施例4)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例(実施例1)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第4変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態1の第5変形例(実施例5)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態1の第6変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0029】
図3(a)は本発明の実施の形態1の第7変形例(実施例6)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第8変形例(実施例2)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第9変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例3)の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第10変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態1の第11変形例(実施例7)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態1の第12変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0030】
図4(a)は従来(比較例1)のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は第1変形例(比較例2)に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は第2変形例に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は第3変形例に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。図5は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材(実施例1,2,3)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を、従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1,2)と比較して示す図である。
【0031】
図6(a)は本発明の実施の形態1に係る突起形状の異なるセグメントタイプ摩擦材(実施例1,4,5)における引き摺りトルクの低減効果を従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)と比較した低減率として示す図、(b)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例4)における突起幅δに対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図、(c)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1,2,6)における突起個数に対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図、(d)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例3,4,7)における突起個数に対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図である。
【0032】
図7(a)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(b)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例2)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図である。図8(a)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(b)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例2)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図である。
【0033】
図1に示されるように、本実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1は、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材から切り出した、外周側に突起4を有する複数のセグメントピース3を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝5の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0034】
ここで、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1においては、「湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材」として、セルロース繊維(パルプ)、アラミド繊維、充填剤等を混合して抄紙してなる抄紙体に、フェノール樹脂を含浸させて加熱硬化させたものを用いている。以下の各実施例においても、同様である。接着剤(熱硬化性樹脂)としては、フェノール樹脂を使用している。芯金2の片面当りのセグメントピース3の枚数は20枚であり、油溝5の間隔は2mmである。
【0035】
図1に示されるように、セグメントピース3の外周側面の長さをα、半径方向の長さをβ、芯金2の外周からセグメントピース3の外周側面までの距離すなわち引き込み長さをγ、突起4の先端部分の幅をδ、突起4の突出長さをεとすると、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1においては、α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=1.0mm,ε=1.0mmである。
【0036】
また、図1に示されるように、芯金2の外周直径をφ、セグメントピース3の外周から外周までの直径(ディスクサイズ外径)をφ1、セグメントピース3の内周から内周までの直径(ディスクサイズ内径)をφ2とすると、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1においては、φ=168mm,φ1=165mm,φ2=145mmである。したがって、1.5mm/(168mm/2)×100≒1.8より、引き込み長さγは芯金2の半径(φ/2)の約1.8%である。
【0037】
本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1においては、突起4の形状は矩形に近い台形であり、突起4の数は1個であるが、突起の形状及び個数はこれに限られるものではなく、種々の変形例が存在する。以下、それらの変形例について、図2及び図3を参照して説明する。
【0038】
図2(a)に示されるように、本実施の形態1の第1変形例(実施例4)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、突起4Aが矩形(長方形)であるセグメントピース3Aが用いられている。セグメントピース3Aの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは、いずれもセグメントタイプ摩擦材1と同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm)であり、突起4Aの先端部分(根元部分も同じ)の幅δ=1.5mm、突起4Aの突出長さε=0.9mmである。
【0039】
また、図2(b)に示されるように、本実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Bにおいては、突起4Bが上辺と下辺の差の大きい台形であるセグメントピース3Bが用いられ、セグメントピース3Bの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1と同一であり、突起4Bの先端部分の幅δ=1.0mm、根元部分の幅=2.0mm、突起4Bの突出長さε=1.2mmである。
【0040】
更に、図2(c)に示されるように、本実施の形態1の第3変形例(実施例1)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Cにおいては、突起4Cが三角形であるセグメントピース3Cが用いられ、セグメントピース3Cの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1と同一であり、突起4Cの先端部分は三角形の角であり尖った部位であるため幅δ=0mmと見做し、根元部分の幅=1.5mm、突起4Cの突出長さε=0.9mmである。
【0041】
また、図2(d)に示されるように、本実施の形態1の第4変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Dにおいては、突起4Cの形状・大きさ、セグメントピース3Dの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは全てセグメントタイプ摩擦材1Cと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=0mm,ε=0.9mm)である。異なるのは、セグメントピース3Dの内周側に、突起4Cに対応する凹部5Dが設けられている点である。
【0042】
更に、図2(e)に示されるように、本実施の形態1の第5変形例(実施例5)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Eにおいては、突起4Eが半円形であるセグメントピース3Eが用いられ、セグメントピース3Eの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1と同一であり、突起4Eの先端部分は半円形のR形状部位であるため幅δ=0mmと見做し、根元部分の幅=2.0mm、突起4Eの突出長さε=1.0mmである。
【0043】
また、図2(f)に示されるように、本実施の形態1の第6変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Fにおいては、突起4Eの形状・大きさ、セグメントピース3Fの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは全てセグメントタイプ摩擦材1Eと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=0mm,ε=1.0mm)である。異なるのは、セグメントピース3Fの内周側に、突起4Eに対応する凹部5Fが設けられている点である。
【0044】
これらの各1個の突起4,4A,4B,4C,4Eのうち突起4,4A,4C,4Eは、いずれもセグメントピース3,3A,3C,3D,3E,3Fの外周側面の中央に設けられている。したがって、突起4,4A,4C,4Eは、セグメントピース3,3A,3C,3D,3E,3Fについて、左右対称となる位置に設けられている。
【0045】
更に、図3(a)に示されるように、本実施の形態1の第7変形例(実施例6)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Gにおいては、突起4Cが三角形であり、突起4Cの数が3個であるセグメントピース3Gが用いられている。突起4Cの形状・大きさ、セグメントピース3Gの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは、セグメントタイプ摩擦材1Cと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=0mm,根元部分の幅=1.5mm,ε=1.2mm)である。異なるのは、突起4Cの個数が3個である点である。
【0046】
また、図3(b)に示されるように、本実施の形態1の第8変形例(実施例2)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Hにおいては、突起4Hが三角形であり、突起4Hの数が6個であるセグメントピース3Hが用いられ、セグメントピース3Hの外周側面の長さα及び半径方向の長さβはセグメントタイプ摩擦材1と同一(α=20mm,β=10mm)であり、引き込み長さは大きくγ=2.6mmであり、突起4Hが三角形であるため先端部分の幅δの合計=0mmと見做し、突起4Hの突出長さも大きくε=2.0mmである。
【0047】
更に、図3(c)に示されるように、本実施の形態1の第9変形例(実施例3)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Iにおいては、突起4Aが矩形(長方形)であるセグメントピース3Iが用いられ、突起4Aの形状・大きさ、セグメントピース3Iの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1Aと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=1.5mm,ε=0.9mm)である。異なるのは、突起4Aの個数が5個である点である。
【0048】
また、図3(d)に示されるように、本実施の形態1の第10変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Jにおいては、突起4Aの形状・大きさ・個数、セグメントピース3Jの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは全てセグメントタイプ摩擦材1Iと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=1.5mm,ε=0.9mm)である。異なるのは、セグメントピース3Jの内周側に、5個の突起4Aに対応する5個の凹部6Jが設けられている点である。
【0049】
更に、図3(e)に示されるように、本実施の形態1の第11変形例(実施例7)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Kにおいては、突起4Aが矩形(長方形)であるセグメントピース3Kが用いられ、突起4Aの形状・大きさ、セグメントピース3Kの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1A,1Iと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=1.5mm,ε=0.9mm)である。異なるのは、突起4Aの個数が10個である点である。
【0050】
また、図3(f)に示されるように、本実施の形態1の第12変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Lにおいては、突起4Eの形状・大きさ、セグメントピース3Lの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは全てセグメントタイプ摩擦材1Eと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=0mm,ε=1.0mm)である。異なるのは、突起4Eの個数が3個である点である。
【0051】
これらの複数個の突起4A,4C,4E,4Hは、いずれもセグメントピース3G,3H,3I,3J,3K,3Lの外周側面の中央または中央から左右にそれぞれ等距離に離れた位置に設けられている。したがって、突起4A,4C,4E,4Hは、セグメントピース3G,3H,3I,3J,3K,3Lについて、セグメントピース3G,3H,3I,3J,3K,3Lの外周側面の左右対称となる位置に設けられている。
【0052】
これに対して、従来のセグメントタイプ摩擦材について、図4を参照して説明する。図4(a)に示されるように、従来技術(比較例1)に係るセグメントタイプ摩擦材11は、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1と同様に、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13を、接着剤(フェノール樹脂)を使用して油溝5の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0053】
ここで、従来技術(比較例1)に係るセグメントタイプ摩擦材11においては、芯金2の片面当りのセグメントピース13の枚数は20枚で、油溝5の間隔も2mmで本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1と同一であり、セグメントピース13の外周側面の長さもほぼ20mmである。しかし、半径方向の長さが10.9mmとやや長く、その分だけ引き込み長さγ1が0.6mmと小さくなっている。
【0054】
また、図4(b)に示されるように、従来技術の第1変形例(比較例2)に係るセグメントタイプ摩擦材11Aは、芯金2の片面当りのセグメントピース13の枚数は20枚で、油溝5の間隔も2mm、セグメントピース13の外周側面の長さも20mm、半径方向の長さも10mm、引き込み長さγ2も1.5mm(=γ)で、いずれも本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1と同一である。
【0055】
したがって、比較例2に係るセグメントタイプ摩擦材11Aが、セグメントタイプ摩擦材1及び実施例1,2,3に係るセグメントタイプ摩擦材1C,1H,1Iと異なるのは、突起4,4C,4H,4Aを有していない点のみである。かかる構成の従来技術の第1変形例(比較例2)に係るセグメントタイプ摩擦材11Aは、上記特許文献3の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0056】
更に、図4(c)に示されるように、従来技術の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11Bは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13A,13Bを、接着剤を使用して油溝5,5Aの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース13Aの右内周角部、及びセグメントピース13Bの左内周角部には、それぞれ切り込み13Aa,13Baが設けられている。
【0057】
芯金2の片面当りのセグメントピース13の枚数は20枚で、油溝5の間隔は2mm、セグメントピース13Aの外周側面の長さは20mm、半径方向の長さは10.9mm、引き込み長さγ1は0.6mmで、いずれも従来技術(比較例1)に係るセグメントタイプ摩擦材11と同一である。したがって、比較例2に係るセグメントタイプ摩擦材11Aが、比較例1に係るセグメントタイプ摩擦材11と異なるのは、切り込み13Aa,13Baが設けられている点のみである。かかる構成の従来技術の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11Aは、上記特許文献2の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0058】
また、図4(d)に示されるように、従来技術の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11Cは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13Cを、接着剤を使用して油溝5Bの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース13Cは、外周側角部の両方に切り込み13Caが設けられている。従来技術の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11Cが、比較例1に係るセグメントタイプ摩擦材11と異なるのは、切り込み13Caが設けられている点のみである。
【0059】
以上説明した本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材及び従来技術のセグメントタイプ摩擦材のうち、本実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1C(実施例1)、第8変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1H(実施例2)、第9変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1I(実施例3)、従来技術に係るセグメントタイプ摩擦材11(比較例1)及び従来技術の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11A(比較例2)について、相対回転数と引き摺りトルクの関係を試験によって検証した。
【0060】
試験条件としては、相対回転数=500rpm〜4000rpm、ATF油温=40℃、ATF油量=1200mL/min、ディスクサイズが図1に示される外周φ1=165mm,内周φ2=145mmにおいて試験し、ディスク枚数=3枚(したがって、相手材の鋼板ディスクは4枚)、パッククリアランス=0.17mm/枚で行った。試験の結果を、図5に示す。
【0061】
その結果、図5に示されるように、相対回転数が500rpm(低速)の時点においては、実施例1乃至実施例3と比較例1,比較例2との間には殆ど差が出ていないが、相対回転数が1000rpm(中速)の時点では、既に比較例1と実施例1乃至実施例3及び比較例2との間には引き摺りトルクの大きさに明確な差が出ており、比較例1が大きくなっているのに対して、実施例1乃至実施例3及び比較例2は殆ど大きくなっていないか、逆に小さくなっている。これは、引き込み長さを大きくしたことによる引き摺りトルク低減効果が現われているものと考えられる。
【0062】
更に、相対回転数が1500rpm(比較的高速)の時点においては、比較例2と実施例1乃至実施例3との間にも明確な差が出始めており、実施例1乃至実施例3の引き摺りトルクが一段と小さくなっているのに対して、比較例2については相対回転数が1000rpm(中速)の時点と殆ど変化していない。したがって、この時点からセグメントピースの外周側面に突起を設けたことによる、ATFの流れを制御する作用効果が現われ始めたものと考えられる。
【0063】
その後、相対回転数が2000rpm,3000rpm,4000rpmと上がるにしたがって、実施例1乃至実施例3及び比較例1,比較例2に係るセグメントタイプ摩擦材1C,1H,1I,11,11Aのいずれについても、引き摺りトルクが減少して行くが、実施例1乃至実施例3に係るセグメントタイプ摩擦材1C,1H,1Iに対して、比較例1,比較例2に係るセグメントタイプ摩擦材11,11Aの方が引き摺りトルクが大きいまま推移している。
【0064】
このように、本実施の形態1(実施例1,2,3)に係るセグメントタイプ摩擦材1C,1H,1Iは、従来技術に係るセグメントタイプ摩擦材11,11A(比較例1,2)に比較して、広い相対回転数の範囲(500rpm〜4000rpm)に亘って、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。
【0065】
次に、この実験結果に基づいて、引き摺りトルク低減率を算出して評価した。引き摺りトルク低減率は、各実施例について、回転数500rpm〜2000rpmの領域の引き摺りトルクの平均値より、図4(a)に示される従来技術(比較例1)に係るセグメントタイプ摩擦材11を基準として算出した。
【0066】
まず、図6(a)に示されるように、突起が1個の場合において、突起形状による引き摺りトルク低減率の違いについて算出した。その結果、図6(a)に示されるように、突起形状が三角形の実施例1に係るセグメントタイプ摩擦材1Cの方が、突起形状が矩形(長方形)の実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1A、及び突起形状が半円形の実施例5に係るセグメントタイプ摩擦材1Eに比較して、やや引き摺りトルク低減率が大きくなっている。
【0067】
次に、図6(b)に示されるように、突起が1個で突起形状が矩形(長方形)の場合において、突起の先端部分の幅δの大きさによる引き摺りトルク低減率の違いについて算出した。その結果、図6(b)に示されるように、突起の先端部分の幅δ=1.5mmである実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aが最も引き摺りトルク低減率が大きく、突起の先端部分の幅δ=10mm,18mmと大きくなるにしたがって、引き摺りトルク低減率が急速に減少することが明らかになった。
【0068】
更に、図6(c),(d)に示されるように、突起形状が三角形及び矩形(長方形)の場合において、それぞれ突起の個数による引き摺りトルク低減率の違いについて算出した。その結果、図6(c)に示されるように、突起形状が三角形の場合には、突起の個数が1個である実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aがやや引き摺りトルク低減率が大きいものの、突起の個数が3個である実施例6に係るセグメントタイプ摩擦材1A、及び突起の個数が6個である実施例2に係るセグメントタイプ摩擦材1Hにおいても、僅かに引き摺りトルク低減率が小さくなるのみで、大きな差はないことが分かった。
【0069】
これに対して、図6(d)に示されるように、突起形状が矩形(長方形)の場合には、突起の個数が1個である実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aに比較して、突起の個数が5個(実施例3)、10個(実施例7)と増えるにしたがって、引き摺りトルク低減率が急速に減少することが明らかになった。これは、突起形状が三角形の場合には、先端部分の幅がゼロと見做せるため個数が増えても殆ど影響がないのに対して、突起形状が矩形(長方形)の場合には、個数が増えるにしたがって、突起の先端部分の幅の合計も個数分だけ大きくなるためと考えられる。
【0070】
このように、図6(a)〜(d)に示される結果から、突起の先端部分の幅δの合計が大きいほど引き摺りトルク低減率は小さくなり、突起の先端部分の幅δの合計が小さいほど引き摺りトルク低減率は大きくなることが明らかになった。しかし、図6(a)〜(d)に示されるように、いずれの実施例においても引き摺りトルク低減率はプラスの値であり、したがってセグメントピースの外周側面に1個または複数個の突起を設けることによって、従来技術に係るセグメントタイプ摩擦材11よりも引き摺りトルクが小さくなることが判明した。
【0071】
このように、比較的高速の領域においても大きな引き摺りトルクの低減効果が得られる理由について、図7及び図8を参照して説明する。図7(a),(b),(c)に示されるように、相対回転数が低い(低速の)500rpm程度の領域においては、比較例1,2のセグメントタイプ摩擦材11,11Aについても、実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aについても、ATFはほぼ同様に分布しており、したがって図5に示されるように、低速領域においては、これらの間に引き摺りトルクの差は殆ど見られない。
【0072】
しかし、これが1000rpm程度の中速領域に入ると、遠心力の増加によってATFが外周部分に集まって、図8(a)に示されるように、比較例1のセグメントタイプ摩擦材11においては、引き込み長さγ1が小さいためにATFがセグメントピース13に接触して、図5に示されるように、引き摺りトルクが大きくなる。これに対して、図8(b),(c)に示されるように、比較例2のセグメントタイプ摩擦材11A及び実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、引き込み長さγ,γ2が大きいためにATFがセグメントピース13,3Aに接触しなくなり、図5に示されるように、引き摺りトルクが小さくなる。
【0073】
そして、更に1500rpm程度の比較的高速の領域に入ると、比較例2のセグメントタイプ摩擦材11Aにおいては、図8(b)に矢印で示されるように、高速回転によってATFの流れに乱れが生じて、セグメントピース13に接触し、図5に示されるように引き摺りトルクが大きくなる。これに対して、実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、図8(c)に矢印で示されるように、突起4AによってATFの流れが制御されるため、図5に示されるように、引き摺りトルクは更に小さくなる。
【0074】
このようにして、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1I,1J,1K,1Lにおいては、引き込み部分に突出した突起を設けることによって、相対回転数が比較的高い領域において、遠心力で外周部分に溜まったATFの流れが突起によって制御され、高速回転でATFの流れが乱れてセグメントピースの上へ流れ込む事態が防止されるため、相対回転数が比較的高い領域においても大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0075】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材について、図9乃至図11を参照して説明する。図9(a)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0076】
図10(a)は本発明の実施の形態2の第1変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の第2変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の第3変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の第4変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態2の第5変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態2の第6変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0077】
図11(a)は本発明の実施の形態2の第7変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の第8変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の第9変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の第10変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態2の第11変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態2の第12変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0078】
図9(a),(b)に示されるように、本実施の形態2に係る湿式摩擦材21は、実施の形態1(セグメントタイプ摩擦材)と異なり、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材から切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(フェノール樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、複数(片面20個)の島状部分23を間に挟んで、複数(片面20本)の油溝25を形成してなるリングタイプ摩擦材である。
【0079】
ここで、本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材21においては、「湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材」として、セルロース繊維(パルプ)、アラミド繊維、充填剤等を混合して抄紙してなる抄紙体に、フェノール樹脂を含浸させて加熱硬化させたものを用いている。以下の各実施例においても、同様である。本実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21が従来のリングタイプ摩擦材と異なるのは、図9(a),(b)に示されるように、リング形状の摩擦材基材7をプレス加工する際に、島状部分23の外周側面に突起24が設けられる点である。
【0080】
本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材21においては、突起24の形状は矩形に近い台形であり、突起24の数は1個であるが、突起の形状及び個数はこれに限られるものではなく、種々の変形例が存在する。以下、それらの変形例について、図10及び図11を参照して説明する。
【0081】
図10(a)に示されるように、本実施の形態2の第1変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Aにおいては、島状部分23Aの外周側面に設けられた突起24Aが、矩形(長方形)である。また、図10(b)に示されるように、本実施の形態2の第2変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Bにおいては、島状部分23Bの外周側面に設けられた突起24Bが、上辺と下辺の差の大きい台形である。
【0082】
更に、図10(c)に示されるように、本実施の形態2の第3変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Cにおいては、島状部分23Cの外周側面に設けられた突起24Cが、三角形である。また、図10(d)に示されるように、本実施の形態2の第4変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Dにおいても、島状部分23Dの外周側面に設けられた突起24Dは三角形であるが、突起24Dがリング形状の摩擦材基材17から突出している。すなわち、突起24Dは、リング形状の摩擦材基材17が切り出される際に形成される。
【0083】
更に、図10(e)に示されるように、本実施の形態2の第5変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Eにおいては、島状部分23Eの外周側面に設けられた突起24Eが、半円形である。また、図10(f)に示されるように、本実施の形態2の第6変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Fにおいても、島状部分23Fの外周側面に設けられた突起24Fは半円形であるが、突起24Fがリング形状の摩擦材基材27から突出している。すなわち、突起24Fは、リング形状の摩擦材基材27が切り出される際に形成される。
【0084】
これらの各1個の突起24,24A,24B,24C,24D,24E,24Fのうち突起24,24A,24B,24C,24E,24Fは、いずれも島状部分23,23A,23B,23C,23E,23Fの外周側面の中央に設けられている。したがって、突起24,24A,24B,24C,24E,24Fは、島状部分23,23A,23B,23C,23E,23Fについて、左右対称となる位置に設けられている。
【0085】
更に、図11(a)に示されるように、本実施の形態2の第7変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Gにおいては、島状部分23Gの外周側面に設けられた突起24Gが三角形であり、突起24Gの数が3個である。また、図11(b)に示されるように、本実施の形態2の第8変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Hにおいては、島状部分23Hの外周側面に設けられた突起24Hが三角形であり、突起24Hの数が6個である。
【0086】
更に、図11(c)に示されるように、本実施の形態2の第9変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Iにおいては、島状部分23Iの外周側面に設けられた突起24Iが矩形(長方形)であり、突起24Iの個数が5個である。また、図11(d)に示されるように、本実施の形態2の第10変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Jにおいても、島状部分23Jの外周側面に設けられた突起24Jは矩形(長方形)であり、突起24Jの個数は5個であるが、突起24Jがリング形状の摩擦材基材28から突出している。すなわち、突起24Jは、リング形状の摩擦材基材28が切り出される際に形成される。
【0087】
更に、図11(e)に示されるように、本実施の形態2の第11変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Kにおいては、島状部分23Kの外周側面に設けられた突起24Kが矩形(長方形)であり、突起24Kの個数は10個である。また、図11(f)に示されるように、本実施の形態2の第12変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Lにおいては、島状部分23Lの外周側面に設けられた突起24Lは半円形であり、突起24Lの個数は3個である。
【0088】
これらの複数個の突起24G,24H,24I,24J,24K,24Lは、いずれも島状部分23G,23H,23I,23J,23K,23Lの外周側面の中央または中央から左右にそれぞれ等距離に離れた位置に設けられている。したがって、突起24G,24H,24I,24J,24K,24Lは、島状部分23G,23H,23I,23J,23K,23Lについて、島状部分23G,23H,23I,23J,23K,23Lの外周側面の左右対称となる位置に設けられている。
【0089】
これらの本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材24,24A,……,24K,24Lについて、上述した実施の形態1の場合と同様な条件で、相対回転数と引き摺りトルクの大きさとの関係を評価したところ、従来技術に係る突起のないリングタイプ摩擦材に比較して、広い相対回転数の範囲(500rpm〜4000rpm)に亘って、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。
【0090】
このようにして、本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材21,21A,21B,21C,21D,21E,21F,21G,21H,21I,21J,21K,21Lにおいては、引き込み部分に突出した突起を設けることによって、相対回転数が比較的高い領域において、遠心力で外周部分に溜まったATFの流れが突起によって制御され、高速回転でATFの流れが乱れて島状部分の上へ流れ込む事態が防止されるため、相対回転数が比較的高い領域においても大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0091】
上記各実施の形態においては、芯金2の両面にセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けた場合について説明したが、仕様によっては、芯金2の片面のみにセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても良い。また、上記各実施の形態においては、芯金2の片面にセグメントピースを20枚ずつ貼り付けた場合及び島状部分を20個形成した場合のみについて説明したが、芯金2の片面当たりのセグメントピースの枚数は20枚に限られるものではなく、また島状部分の数も20個に限られるものではなく、何枚でも何個でも自由に設定することができる。
【0092】
本発明を実施するに際しては、湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材及びリングタイプ摩擦材のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、製造方法等については、上記各実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施の形態1の第1変形例(実施例4)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例(実施例1)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第4変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態1の第5変形例(実施例5)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態1の第6変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図3】図3(a)は本発明の実施の形態1の第7変形例(実施例6)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第8変形例(実施例2)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第9変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例3)の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第10変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態1の第11変形例(実施例7)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態1の第12変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図4】図4(a)は従来(比較例1)のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は第1変形例(比較例2)に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は第2変形例に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は第3変形例に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材(実施例1,2,3)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を、従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1,2)と比較して示す図である。
【図6】図6(a)は本発明の実施の形態1に係る突起形状の異なるセグメントタイプ摩擦材(実施例1,4,5)における引き摺りトルクの低減効果を従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)と比較した低減率として示す図、(b)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例4)における突起幅δに対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図、(c)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1,2,6)における突起個数に対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図、(d)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例3,4,7)における突起個数に対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図である。
【図7】図7(a)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(b)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例2)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図である。
【図8】図8(a)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(b)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例2)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図である。
【図9】図9(a)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図10】図10(a)は本発明の実施の形態2の第1変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の第2変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の第3変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の第4変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態2の第5変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態2の第6変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図11】図11(a)は本発明の実施の形態2の第7変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の第8変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の第9変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の第10変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態2の第11変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態2の第12変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【符号の説明】
【0094】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1I,1J,1K,1L,21,21A,21B,21C,21D,21E,21F,21G,21H,21I,21J,21K,21L 湿式摩擦材
2 芯金
3,3A,3B,3C,3D,3E,3F,3G,3H,3I,3J,3K,3L セグメントピース
4,4A,4B,4C,4E,4H,24,24A,24B,24C,24D,24E,24F,24G,24H,24I,24J,24K,24L 突起
5,25 油溝
6D,6F,6J 凹部
7,17,27,28 リング形状の摩擦材基材
23,23A,23B,23C,23D,23E,23F,23G,23H,23I,23J,23K,23L 島状部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、平板リング状の芯金にセグメントピースまたはリング形状に切断した摩擦材基材を全周両面若しくは片面に接着してなるセグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湿式摩擦材として、材料の歩留まり向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化を目指して、平板リング状の芯金に平板リング形状に沿ったセグメントピースに切断した摩擦材基材を油溝となる間隔をおいて接着剤で順次並べて全周に亘って接着し、裏面にも同様にセグメントピースに切断した摩擦材基材を接着してなるセグメントタイプ摩擦材が開発されている。このようなセグメントタイプ摩擦材は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下「AT」とも略する。)やオートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いることができる。
【0003】
一例として、自動車等の自動変速機には湿式油圧クラッチが用いられており、複数枚のセグメントタイプ摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを交互に重ね合わせ、油圧で両プレートを圧接してトルク伝達を行うようになっており、非締結状態から締結状態に移行する際に生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗防止等の理由から、両プレートの間に潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給している。(なお、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標である。)
【0004】
しかし、湿式油圧クラッチの応答性を高めるためにセグメントタイプ摩擦材と相手材であるセパレータプレートとの距離は小さく設定されており、また湿式油圧クラッチの締結時のトルク伝達容量を充分に確保するために、セグメントタイプ摩擦材上に占める油通路の総面積は制約を受ける。この結果、湿式油圧クラッチの非締結時にセグメントタイプ摩擦材とセパレータプレートとの間に残留するATFが排出され難くなり、両プレートの相対回転によってATFによる引き摺りトルクが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1においては、隣り合うセグメントピースの間に形成される油溝を区画形成し、油溝の間隔を内周側から外周側へ向かう途中で狭くすることを特徴とする湿式摩擦部材の発明について開示している。これによって、内周側から外周側へ流れるATFは、油溝の間隔が変化するポイントで堰き止められて、一部のATFがセグメントピースの表面に溢れ出てセグメントピースの表面を流れるため、ATFによる冷却効果が向上して耐熱性が向上するとともに、引き摺りトルクを低下させることができるとしている。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明においては、セグメントタイプ摩擦材においてセグメントピースの内周側の角を所定角度で切り落とすことによって、ATに組み込まれた場合に非締結状態においてセグメントタイプ摩擦材が回転したとき、内周側から供給されるATFがセグメントピースの切り落とされた部分に当接することによって、ATFが積極的に摩擦材基材の摩擦面に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が抑制され、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載の技術においては、ATFがセグメントタイプ摩擦材の芯金の内周側から供給されることを前提としており、実機においてハブ孔からのATFの供給がない仕様の場合や、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においては、引き摺りトルクを低減する効果が非常に小さく、車両における大幅な低燃費化を実現するのは困難である。
【0008】
そこで、特許文献3においては、平板リング形状の芯金に平板リング形状に沿って、摩擦材基材を複数のセグメントピースに切断して全周両面または片面に接着してなるセグメントタイプ摩擦材であって、芯金の外周からセグメントピースの外周までの引き込み量を従来よりも多くした発明について開示している。これによって、芯金の外周部分においてセグメントピースとセパレータプレートの間隙が広くなる部分が生じるため、外周に油溜まりを発生して攪拌トルクが大きくなる場合においても、引き摺りトルクを低減することができるとしている。
【特許文献1】特開2001−295859号公報
【特許文献2】特開2005−282648号公報
【特許文献3】特開2006−132581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献3に記載の技術においては、相対回転数が低い場合には確かに引き摺りトルクが低減されるが、相対回転数が比較的高くなると、遠心力によってATFが引き込み部分を含む外周部分に溜まった状態となり、高速回転によって溜まったATFの流れが乱れてセグメントピース上へ乗り上げるために、引き摺りトルクを低減する効果が小さくなるという問題点があった。このような問題点は、芯金にリング形状の摩擦材基材が接着されて、島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工によって油溝が形成されてなるリングタイプ摩擦材においても、同様である。
【0010】
そこで、本発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであって、セグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、引き込み部分からセグメントピースまたは島状部分の上へのATFの余分な流れ込みを制御することによって、相対回転数が比較的高い領域においても優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金に前記平板リング形状に沿って、複数個のセグメントピースに切断された摩擦材基材が、前記セグメントピースの外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の全周両面若しくは全周片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて複数個の島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて、前記島状部分の外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するリングタイプ摩擦材であって、前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側に、前記芯金の外周方向に突出する1個または複数個の突起が設けられたものである。
【0012】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1の構成において、前記突起は、前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面からの突出長さが前記引き込み長さの10%〜100%の範囲内であり、前記1個または複数個の突起の先端部分の幅の合計が前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面の長さの0%〜40%の範囲内であり、前記1個または複数個の突起の付け根部分の幅の合計が前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面の長さの10%〜50%の範囲内であるものである。
【0013】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1または請求項2の構成において、前記引き込み長さは、前記芯金の半径の0.8%〜4.2%の範囲内、より好ましくは1.5%〜3.1%の範囲内であるものである。
【0014】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、更に前記セグメントピースの内周側に、前記1個または複数個の突起に対応した1個または複数個の凹部が設けられたセグメントタイプ摩擦材であるものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金にセグメントピースまたはリング形状に切断された摩擦材基材が、複数個のセグメントピースまたは島状部分の外周側面が芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、セグメントピースまたは島状部分の外周側に、芯金の外周方向に突出する1個または複数個の突起が設けられている。
【0016】
このように引き込み部分に突出した突起を設けることによって、相対回転数が比較的高い領域において、遠心力で外周部分に溜まったATFの流れが突起によって制御され、高速回転でATFの流れが乱れてセグメントピースまたは島状部分の上へ流れ込む事態が防止されるため、相対回転数が比較的高い領域においても大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0017】
このようにして、セグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、引き込み部分からセグメントピースまたは島状部分の上へのATFの余分な流れ込みを制御することによって、相対回転数が比較的高い領域においても優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材となる。
【0018】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材においては、セグメントピースまたは島状部分の外周側面からの突起の突出長さが引き込み長さの10%〜100%の範囲内であり、1個または複数個の突起の先端部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの0%〜40%の範囲内であり、1個または複数個の突起の付け根部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの10%〜50%の範囲内である。
【0019】
ここで、「突起の先端部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの0%」の場合とは、突起の形状が先端部分の尖った三角形・五角形等である場合、または突起の先端部分が丸みを帯びたR形状である場合であり、これらの場合には突起の先端部分の幅はゼロと考えられるためである。
【0020】
本発明者は、セグメントピースまたは島状部分の外周側面に設けられる突起の大きさについて、鋭意実験研究を重ねた結果、突起の突出長さが引き込み長さの10%〜100%の範囲内であり、突起の先端部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの0%〜40%の範囲内であり、突起の付け根部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの10%〜50%の範囲内である場合に、より顕著な引き摺りトルクの低減効果が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0021】
すなわち、突起の突出長さが引き込み長さの10%未満である場合には、突起が小さ過ぎてATFを制御する効果が十分に得られず、引き込み長さの100%を超えると突起の先端が芯金の外にはみ出してしまうため、好ましくない。また、実験の結果、突起の先端部分の幅は小さいほどATFを制御する効果が大きいことが分かり、先端部分の幅の合計がセグメントピースまたは島状部分の外周側面の長さの40%を超えると、ATFを制御する効果が十分に得られない。これに応じて、突起の付け根部分の幅の合計は、外周側面の長さの10%〜50%の範囲内であることが好ましい。
【0022】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材においては、引き込み長さが芯金の半径の0.8%〜4.2%の範囲内であるため、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、湿式摩擦材の締結時における高いトルク伝達効率と、非締結時における低い引き摺りトルクとを両立することができるという作用効果を奏する。
【0023】
すなわち、引き込み長さが芯金の半径の0.8%未満であると、引き込みによって外周側にスペースを設けることによる引き摺りトルクの低減効果を十分に得ることができず、また引き込み長さが芯金の半径の4.2%を超えると、締結時における湿式摩擦材とセパレータプレートとの接触面積が小さくなって、十分に高いトルク伝達効率を得ることが困難となる。したがって、引き込み長さは、芯金の半径の0.8%〜4.2%の範囲内であることが好ましい。
【0024】
なお、引き込み長さが芯金の半径の1.5%〜3.1%の範囲内である場合には、より確実に、湿式摩擦材の締結時における高いトルク伝達効率と、非締結時における低い引き摺りトルクとを両立することができるため、より好ましい。
【0025】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材は、セグメントピースの内周側に、1個または複数個の突起に対応した1個または複数個の凹部が設けられたセグメントタイプ摩擦材であるため、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに係る発明の効果に加えて、摩擦材基材からセグメントピースを切り出す際に、セグメントピースの半径方向に間隔を空ける必要がなく連続的に切り出すことができることから、摩擦材基材をより経済的に活用することができ、より低コストで製造することができるという作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材について、図1乃至図8を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0028】
図2(a)は本発明の実施の形態1の第1変形例(実施例4)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例(実施例1)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第4変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態1の第5変形例(実施例5)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態1の第6変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0029】
図3(a)は本発明の実施の形態1の第7変形例(実施例6)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第8変形例(実施例2)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第9変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例3)の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第10変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態1の第11変形例(実施例7)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態1の第12変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0030】
図4(a)は従来(比較例1)のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は第1変形例(比較例2)に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は第2変形例に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は第3変形例に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。図5は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材(実施例1,2,3)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を、従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1,2)と比較して示す図である。
【0031】
図6(a)は本発明の実施の形態1に係る突起形状の異なるセグメントタイプ摩擦材(実施例1,4,5)における引き摺りトルクの低減効果を従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)と比較した低減率として示す図、(b)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例4)における突起幅δに対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図、(c)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1,2,6)における突起個数に対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図、(d)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例3,4,7)における突起個数に対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図である。
【0032】
図7(a)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(b)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例2)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図である。図8(a)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(b)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例2)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図である。
【0033】
図1に示されるように、本実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1は、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材から切り出した、外周側に突起4を有する複数のセグメントピース3を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝5の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0034】
ここで、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1においては、「湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材」として、セルロース繊維(パルプ)、アラミド繊維、充填剤等を混合して抄紙してなる抄紙体に、フェノール樹脂を含浸させて加熱硬化させたものを用いている。以下の各実施例においても、同様である。接着剤(熱硬化性樹脂)としては、フェノール樹脂を使用している。芯金2の片面当りのセグメントピース3の枚数は20枚であり、油溝5の間隔は2mmである。
【0035】
図1に示されるように、セグメントピース3の外周側面の長さをα、半径方向の長さをβ、芯金2の外周からセグメントピース3の外周側面までの距離すなわち引き込み長さをγ、突起4の先端部分の幅をδ、突起4の突出長さをεとすると、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1においては、α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=1.0mm,ε=1.0mmである。
【0036】
また、図1に示されるように、芯金2の外周直径をφ、セグメントピース3の外周から外周までの直径(ディスクサイズ外径)をφ1、セグメントピース3の内周から内周までの直径(ディスクサイズ内径)をφ2とすると、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1においては、φ=168mm,φ1=165mm,φ2=145mmである。したがって、1.5mm/(168mm/2)×100≒1.8より、引き込み長さγは芯金2の半径(φ/2)の約1.8%である。
【0037】
本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1においては、突起4の形状は矩形に近い台形であり、突起4の数は1個であるが、突起の形状及び個数はこれに限られるものではなく、種々の変形例が存在する。以下、それらの変形例について、図2及び図3を参照して説明する。
【0038】
図2(a)に示されるように、本実施の形態1の第1変形例(実施例4)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、突起4Aが矩形(長方形)であるセグメントピース3Aが用いられている。セグメントピース3Aの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは、いずれもセグメントタイプ摩擦材1と同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm)であり、突起4Aの先端部分(根元部分も同じ)の幅δ=1.5mm、突起4Aの突出長さε=0.9mmである。
【0039】
また、図2(b)に示されるように、本実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Bにおいては、突起4Bが上辺と下辺の差の大きい台形であるセグメントピース3Bが用いられ、セグメントピース3Bの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1と同一であり、突起4Bの先端部分の幅δ=1.0mm、根元部分の幅=2.0mm、突起4Bの突出長さε=1.2mmである。
【0040】
更に、図2(c)に示されるように、本実施の形態1の第3変形例(実施例1)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Cにおいては、突起4Cが三角形であるセグメントピース3Cが用いられ、セグメントピース3Cの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1と同一であり、突起4Cの先端部分は三角形の角であり尖った部位であるため幅δ=0mmと見做し、根元部分の幅=1.5mm、突起4Cの突出長さε=0.9mmである。
【0041】
また、図2(d)に示されるように、本実施の形態1の第4変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Dにおいては、突起4Cの形状・大きさ、セグメントピース3Dの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは全てセグメントタイプ摩擦材1Cと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=0mm,ε=0.9mm)である。異なるのは、セグメントピース3Dの内周側に、突起4Cに対応する凹部5Dが設けられている点である。
【0042】
更に、図2(e)に示されるように、本実施の形態1の第5変形例(実施例5)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Eにおいては、突起4Eが半円形であるセグメントピース3Eが用いられ、セグメントピース3Eの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1と同一であり、突起4Eの先端部分は半円形のR形状部位であるため幅δ=0mmと見做し、根元部分の幅=2.0mm、突起4Eの突出長さε=1.0mmである。
【0043】
また、図2(f)に示されるように、本実施の形態1の第6変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Fにおいては、突起4Eの形状・大きさ、セグメントピース3Fの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは全てセグメントタイプ摩擦材1Eと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=0mm,ε=1.0mm)である。異なるのは、セグメントピース3Fの内周側に、突起4Eに対応する凹部5Fが設けられている点である。
【0044】
これらの各1個の突起4,4A,4B,4C,4Eのうち突起4,4A,4C,4Eは、いずれもセグメントピース3,3A,3C,3D,3E,3Fの外周側面の中央に設けられている。したがって、突起4,4A,4C,4Eは、セグメントピース3,3A,3C,3D,3E,3Fについて、左右対称となる位置に設けられている。
【0045】
更に、図3(a)に示されるように、本実施の形態1の第7変形例(実施例6)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Gにおいては、突起4Cが三角形であり、突起4Cの数が3個であるセグメントピース3Gが用いられている。突起4Cの形状・大きさ、セグメントピース3Gの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは、セグメントタイプ摩擦材1Cと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=0mm,根元部分の幅=1.5mm,ε=1.2mm)である。異なるのは、突起4Cの個数が3個である点である。
【0046】
また、図3(b)に示されるように、本実施の形態1の第8変形例(実施例2)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Hにおいては、突起4Hが三角形であり、突起4Hの数が6個であるセグメントピース3Hが用いられ、セグメントピース3Hの外周側面の長さα及び半径方向の長さβはセグメントタイプ摩擦材1と同一(α=20mm,β=10mm)であり、引き込み長さは大きくγ=2.6mmであり、突起4Hが三角形であるため先端部分の幅δの合計=0mmと見做し、突起4Hの突出長さも大きくε=2.0mmである。
【0047】
更に、図3(c)に示されるように、本実施の形態1の第9変形例(実施例3)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Iにおいては、突起4Aが矩形(長方形)であるセグメントピース3Iが用いられ、突起4Aの形状・大きさ、セグメントピース3Iの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1Aと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=1.5mm,ε=0.9mm)である。異なるのは、突起4Aの個数が5個である点である。
【0048】
また、図3(d)に示されるように、本実施の形態1の第10変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Jにおいては、突起4Aの形状・大きさ・個数、セグメントピース3Jの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは全てセグメントタイプ摩擦材1Iと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=1.5mm,ε=0.9mm)である。異なるのは、セグメントピース3Jの内周側に、5個の突起4Aに対応する5個の凹部6Jが設けられている点である。
【0049】
更に、図3(e)に示されるように、本実施の形態1の第11変形例(実施例7)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Kにおいては、突起4Aが矩形(長方形)であるセグメントピース3Kが用いられ、突起4Aの形状・大きさ、セグメントピース3Kの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγはセグメントタイプ摩擦材1A,1Iと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=1.5mm,ε=0.9mm)である。異なるのは、突起4Aの個数が10個である点である。
【0050】
また、図3(f)に示されるように、本実施の形態1の第12変形例に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Lにおいては、突起4Eの形状・大きさ、セグメントピース3Lの外周側面の長さα、半径方向の長さβ、及び引き込み長さγは全てセグメントタイプ摩擦材1Eと同一(α=20mm,β=10mm,γ=1.5mm,δ=0mm,ε=1.0mm)である。異なるのは、突起4Eの個数が3個である点である。
【0051】
これらの複数個の突起4A,4C,4E,4Hは、いずれもセグメントピース3G,3H,3I,3J,3K,3Lの外周側面の中央または中央から左右にそれぞれ等距離に離れた位置に設けられている。したがって、突起4A,4C,4E,4Hは、セグメントピース3G,3H,3I,3J,3K,3Lについて、セグメントピース3G,3H,3I,3J,3K,3Lの外周側面の左右対称となる位置に設けられている。
【0052】
これに対して、従来のセグメントタイプ摩擦材について、図4を参照して説明する。図4(a)に示されるように、従来技術(比較例1)に係るセグメントタイプ摩擦材11は、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1と同様に、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13を、接着剤(フェノール樹脂)を使用して油溝5の間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0053】
ここで、従来技術(比較例1)に係るセグメントタイプ摩擦材11においては、芯金2の片面当りのセグメントピース13の枚数は20枚で、油溝5の間隔も2mmで本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1と同一であり、セグメントピース13の外周側面の長さもほぼ20mmである。しかし、半径方向の長さが10.9mmとやや長く、その分だけ引き込み長さγ1が0.6mmと小さくなっている。
【0054】
また、図4(b)に示されるように、従来技術の第1変形例(比較例2)に係るセグメントタイプ摩擦材11Aは、芯金2の片面当りのセグメントピース13の枚数は20枚で、油溝5の間隔も2mm、セグメントピース13の外周側面の長さも20mm、半径方向の長さも10mm、引き込み長さγ2も1.5mm(=γ)で、いずれも本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1と同一である。
【0055】
したがって、比較例2に係るセグメントタイプ摩擦材11Aが、セグメントタイプ摩擦材1及び実施例1,2,3に係るセグメントタイプ摩擦材1C,1H,1Iと異なるのは、突起4,4C,4H,4Aを有していない点のみである。かかる構成の従来技術の第1変形例(比較例2)に係るセグメントタイプ摩擦材11Aは、上記特許文献3の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0056】
更に、図4(c)に示されるように、従来技術の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11Bは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13A,13Bを、接着剤を使用して油溝5,5Aの間隔を空けて交互に並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース13Aの右内周角部、及びセグメントピース13Bの左内周角部には、それぞれ切り込み13Aa,13Baが設けられている。
【0057】
芯金2の片面当りのセグメントピース13の枚数は20枚で、油溝5の間隔は2mm、セグメントピース13Aの外周側面の長さは20mm、半径方向の長さは10.9mm、引き込み長さγ1は0.6mmで、いずれも従来技術(比較例1)に係るセグメントタイプ摩擦材11と同一である。したがって、比較例2に係るセグメントタイプ摩擦材11Aが、比較例1に係るセグメントタイプ摩擦材11と異なるのは、切り込み13Aa,13Baが設けられている点のみである。かかる構成の従来技術の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11Aは、上記特許文献2の発明に係るセグメントタイプ摩擦材の一例に該当する。
【0058】
また、図4(d)に示されるように、従来技術の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11Cは、平板リング形状の鋼板製の芯金2に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材を切り出した複数のセグメントピース13Cを、接着剤を使用して油溝5Bの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース13Cは、外周側角部の両方に切り込み13Caが設けられている。従来技術の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11Cが、比較例1に係るセグメントタイプ摩擦材11と異なるのは、切り込み13Caが設けられている点のみである。
【0059】
以上説明した本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材及び従来技術のセグメントタイプ摩擦材のうち、本実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1C(実施例1)、第8変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1H(実施例2)、第9変形例に係るセグメントタイプ摩擦材1I(実施例3)、従来技術に係るセグメントタイプ摩擦材11(比較例1)及び従来技術の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材11A(比較例2)について、相対回転数と引き摺りトルクの関係を試験によって検証した。
【0060】
試験条件としては、相対回転数=500rpm〜4000rpm、ATF油温=40℃、ATF油量=1200mL/min、ディスクサイズが図1に示される外周φ1=165mm,内周φ2=145mmにおいて試験し、ディスク枚数=3枚(したがって、相手材の鋼板ディスクは4枚)、パッククリアランス=0.17mm/枚で行った。試験の結果を、図5に示す。
【0061】
その結果、図5に示されるように、相対回転数が500rpm(低速)の時点においては、実施例1乃至実施例3と比較例1,比較例2との間には殆ど差が出ていないが、相対回転数が1000rpm(中速)の時点では、既に比較例1と実施例1乃至実施例3及び比較例2との間には引き摺りトルクの大きさに明確な差が出ており、比較例1が大きくなっているのに対して、実施例1乃至実施例3及び比較例2は殆ど大きくなっていないか、逆に小さくなっている。これは、引き込み長さを大きくしたことによる引き摺りトルク低減効果が現われているものと考えられる。
【0062】
更に、相対回転数が1500rpm(比較的高速)の時点においては、比較例2と実施例1乃至実施例3との間にも明確な差が出始めており、実施例1乃至実施例3の引き摺りトルクが一段と小さくなっているのに対して、比較例2については相対回転数が1000rpm(中速)の時点と殆ど変化していない。したがって、この時点からセグメントピースの外周側面に突起を設けたことによる、ATFの流れを制御する作用効果が現われ始めたものと考えられる。
【0063】
その後、相対回転数が2000rpm,3000rpm,4000rpmと上がるにしたがって、実施例1乃至実施例3及び比較例1,比較例2に係るセグメントタイプ摩擦材1C,1H,1I,11,11Aのいずれについても、引き摺りトルクが減少して行くが、実施例1乃至実施例3に係るセグメントタイプ摩擦材1C,1H,1Iに対して、比較例1,比較例2に係るセグメントタイプ摩擦材11,11Aの方が引き摺りトルクが大きいまま推移している。
【0064】
このように、本実施の形態1(実施例1,2,3)に係るセグメントタイプ摩擦材1C,1H,1Iは、従来技術に係るセグメントタイプ摩擦材11,11A(比較例1,2)に比較して、広い相対回転数の範囲(500rpm〜4000rpm)に亘って、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。
【0065】
次に、この実験結果に基づいて、引き摺りトルク低減率を算出して評価した。引き摺りトルク低減率は、各実施例について、回転数500rpm〜2000rpmの領域の引き摺りトルクの平均値より、図4(a)に示される従来技術(比較例1)に係るセグメントタイプ摩擦材11を基準として算出した。
【0066】
まず、図6(a)に示されるように、突起が1個の場合において、突起形状による引き摺りトルク低減率の違いについて算出した。その結果、図6(a)に示されるように、突起形状が三角形の実施例1に係るセグメントタイプ摩擦材1Cの方が、突起形状が矩形(長方形)の実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1A、及び突起形状が半円形の実施例5に係るセグメントタイプ摩擦材1Eに比較して、やや引き摺りトルク低減率が大きくなっている。
【0067】
次に、図6(b)に示されるように、突起が1個で突起形状が矩形(長方形)の場合において、突起の先端部分の幅δの大きさによる引き摺りトルク低減率の違いについて算出した。その結果、図6(b)に示されるように、突起の先端部分の幅δ=1.5mmである実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aが最も引き摺りトルク低減率が大きく、突起の先端部分の幅δ=10mm,18mmと大きくなるにしたがって、引き摺りトルク低減率が急速に減少することが明らかになった。
【0068】
更に、図6(c),(d)に示されるように、突起形状が三角形及び矩形(長方形)の場合において、それぞれ突起の個数による引き摺りトルク低減率の違いについて算出した。その結果、図6(c)に示されるように、突起形状が三角形の場合には、突起の個数が1個である実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aがやや引き摺りトルク低減率が大きいものの、突起の個数が3個である実施例6に係るセグメントタイプ摩擦材1A、及び突起の個数が6個である実施例2に係るセグメントタイプ摩擦材1Hにおいても、僅かに引き摺りトルク低減率が小さくなるのみで、大きな差はないことが分かった。
【0069】
これに対して、図6(d)に示されるように、突起形状が矩形(長方形)の場合には、突起の個数が1個である実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aに比較して、突起の個数が5個(実施例3)、10個(実施例7)と増えるにしたがって、引き摺りトルク低減率が急速に減少することが明らかになった。これは、突起形状が三角形の場合には、先端部分の幅がゼロと見做せるため個数が増えても殆ど影響がないのに対して、突起形状が矩形(長方形)の場合には、個数が増えるにしたがって、突起の先端部分の幅の合計も個数分だけ大きくなるためと考えられる。
【0070】
このように、図6(a)〜(d)に示される結果から、突起の先端部分の幅δの合計が大きいほど引き摺りトルク低減率は小さくなり、突起の先端部分の幅δの合計が小さいほど引き摺りトルク低減率は大きくなることが明らかになった。しかし、図6(a)〜(d)に示されるように、いずれの実施例においても引き摺りトルク低減率はプラスの値であり、したがってセグメントピースの外周側面に1個または複数個の突起を設けることによって、従来技術に係るセグメントタイプ摩擦材11よりも引き摺りトルクが小さくなることが判明した。
【0071】
このように、比較的高速の領域においても大きな引き摺りトルクの低減効果が得られる理由について、図7及び図8を参照して説明する。図7(a),(b),(c)に示されるように、相対回転数が低い(低速の)500rpm程度の領域においては、比較例1,2のセグメントタイプ摩擦材11,11Aについても、実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aについても、ATFはほぼ同様に分布しており、したがって図5に示されるように、低速領域においては、これらの間に引き摺りトルクの差は殆ど見られない。
【0072】
しかし、これが1000rpm程度の中速領域に入ると、遠心力の増加によってATFが外周部分に集まって、図8(a)に示されるように、比較例1のセグメントタイプ摩擦材11においては、引き込み長さγ1が小さいためにATFがセグメントピース13に接触して、図5に示されるように、引き摺りトルクが大きくなる。これに対して、図8(b),(c)に示されるように、比較例2のセグメントタイプ摩擦材11A及び実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、引き込み長さγ,γ2が大きいためにATFがセグメントピース13,3Aに接触しなくなり、図5に示されるように、引き摺りトルクが小さくなる。
【0073】
そして、更に1500rpm程度の比較的高速の領域に入ると、比較例2のセグメントタイプ摩擦材11Aにおいては、図8(b)に矢印で示されるように、高速回転によってATFの流れに乱れが生じて、セグメントピース13に接触し、図5に示されるように引き摺りトルクが大きくなる。これに対して、実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、図8(c)に矢印で示されるように、突起4AによってATFの流れが制御されるため、図5に示されるように、引き摺りトルクは更に小さくなる。
【0074】
このようにして、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1I,1J,1K,1Lにおいては、引き込み部分に突出した突起を設けることによって、相対回転数が比較的高い領域において、遠心力で外周部分に溜まったATFの流れが突起によって制御され、高速回転でATFの流れが乱れてセグメントピースの上へ流れ込む事態が防止されるため、相対回転数が比較的高い領域においても大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0075】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材について、図9乃至図11を参照して説明する。図9(a)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0076】
図10(a)は本発明の実施の形態2の第1変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の第2変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の第3変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の第4変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態2の第5変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態2の第6変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0077】
図11(a)は本発明の実施の形態2の第7変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の第8変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の第9変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の第10変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態2の第11変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態2の第12変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0078】
図9(a),(b)に示されるように、本実施の形態2に係る湿式摩擦材21は、実施の形態1(セグメントタイプ摩擦材)と異なり、平板リング形状の鋼板製の芯金2の両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材から切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(フェノール樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、複数(片面20個)の島状部分23を間に挟んで、複数(片面20本)の油溝25を形成してなるリングタイプ摩擦材である。
【0079】
ここで、本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材21においては、「湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材」として、セルロース繊維(パルプ)、アラミド繊維、充填剤等を混合して抄紙してなる抄紙体に、フェノール樹脂を含浸させて加熱硬化させたものを用いている。以下の各実施例においても、同様である。本実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21が従来のリングタイプ摩擦材と異なるのは、図9(a),(b)に示されるように、リング形状の摩擦材基材7をプレス加工する際に、島状部分23の外周側面に突起24が設けられる点である。
【0080】
本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材21においては、突起24の形状は矩形に近い台形であり、突起24の数は1個であるが、突起の形状及び個数はこれに限られるものではなく、種々の変形例が存在する。以下、それらの変形例について、図10及び図11を参照して説明する。
【0081】
図10(a)に示されるように、本実施の形態2の第1変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Aにおいては、島状部分23Aの外周側面に設けられた突起24Aが、矩形(長方形)である。また、図10(b)に示されるように、本実施の形態2の第2変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Bにおいては、島状部分23Bの外周側面に設けられた突起24Bが、上辺と下辺の差の大きい台形である。
【0082】
更に、図10(c)に示されるように、本実施の形態2の第3変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Cにおいては、島状部分23Cの外周側面に設けられた突起24Cが、三角形である。また、図10(d)に示されるように、本実施の形態2の第4変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Dにおいても、島状部分23Dの外周側面に設けられた突起24Dは三角形であるが、突起24Dがリング形状の摩擦材基材17から突出している。すなわち、突起24Dは、リング形状の摩擦材基材17が切り出される際に形成される。
【0083】
更に、図10(e)に示されるように、本実施の形態2の第5変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Eにおいては、島状部分23Eの外周側面に設けられた突起24Eが、半円形である。また、図10(f)に示されるように、本実施の形態2の第6変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Fにおいても、島状部分23Fの外周側面に設けられた突起24Fは半円形であるが、突起24Fがリング形状の摩擦材基材27から突出している。すなわち、突起24Fは、リング形状の摩擦材基材27が切り出される際に形成される。
【0084】
これらの各1個の突起24,24A,24B,24C,24D,24E,24Fのうち突起24,24A,24B,24C,24E,24Fは、いずれも島状部分23,23A,23B,23C,23E,23Fの外周側面の中央に設けられている。したがって、突起24,24A,24B,24C,24E,24Fは、島状部分23,23A,23B,23C,23E,23Fについて、左右対称となる位置に設けられている。
【0085】
更に、図11(a)に示されるように、本実施の形態2の第7変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Gにおいては、島状部分23Gの外周側面に設けられた突起24Gが三角形であり、突起24Gの数が3個である。また、図11(b)に示されるように、本実施の形態2の第8変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Hにおいては、島状部分23Hの外周側面に設けられた突起24Hが三角形であり、突起24Hの数が6個である。
【0086】
更に、図11(c)に示されるように、本実施の形態2の第9変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Iにおいては、島状部分23Iの外周側面に設けられた突起24Iが矩形(長方形)であり、突起24Iの個数が5個である。また、図11(d)に示されるように、本実施の形態2の第10変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Jにおいても、島状部分23Jの外周側面に設けられた突起24Jは矩形(長方形)であり、突起24Jの個数は5個であるが、突起24Jがリング形状の摩擦材基材28から突出している。すなわち、突起24Jは、リング形状の摩擦材基材28が切り出される際に形成される。
【0087】
更に、図11(e)に示されるように、本実施の形態2の第11変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Kにおいては、島状部分23Kの外周側面に設けられた突起24Kが矩形(長方形)であり、突起24Kの個数は10個である。また、図11(f)に示されるように、本実施の形態2の第12変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材21Lにおいては、島状部分23Lの外周側面に設けられた突起24Lは半円形であり、突起24Lの個数は3個である。
【0088】
これらの複数個の突起24G,24H,24I,24J,24K,24Lは、いずれも島状部分23G,23H,23I,23J,23K,23Lの外周側面の中央または中央から左右にそれぞれ等距離に離れた位置に設けられている。したがって、突起24G,24H,24I,24J,24K,24Lは、島状部分23G,23H,23I,23J,23K,23Lについて、島状部分23G,23H,23I,23J,23K,23Lの外周側面の左右対称となる位置に設けられている。
【0089】
これらの本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材24,24A,……,24K,24Lについて、上述した実施の形態1の場合と同様な条件で、相対回転数と引き摺りトルクの大きさとの関係を評価したところ、従来技術に係る突起のないリングタイプ摩擦材に比較して、広い相対回転数の範囲(500rpm〜4000rpm)に亘って、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。
【0090】
このようにして、本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材21,21A,21B,21C,21D,21E,21F,21G,21H,21I,21J,21K,21Lにおいては、引き込み部分に突出した突起を設けることによって、相対回転数が比較的高い領域において、遠心力で外周部分に溜まったATFの流れが突起によって制御され、高速回転でATFの流れが乱れて島状部分の上へ流れ込む事態が防止されるため、相対回転数が比較的高い領域においても大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0091】
上記各実施の形態においては、芯金2の両面にセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けた場合について説明したが、仕様によっては、芯金2の片面のみにセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても良い。また、上記各実施の形態においては、芯金2の片面にセグメントピースを20枚ずつ貼り付けた場合及び島状部分を20個形成した場合のみについて説明したが、芯金2の片面当たりのセグメントピースの枚数は20枚に限られるものではなく、また島状部分の数も20個に限られるものではなく、何枚でも何個でも自由に設定することができる。
【0092】
本発明を実施するに際しては、湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材及びリングタイプ摩擦材のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、製造方法等については、上記各実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施の形態1の第1変形例(実施例4)に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例(実施例1)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第4変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態1の第5変形例(実施例5)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態1の第6変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図3】図3(a)は本発明の実施の形態1の第7変形例(実施例6)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の第8変形例(実施例2)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第9変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例3)の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第10変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態1の第11変形例(実施例7)に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態1の第12変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図4】図4(a)は従来(比較例1)のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は第1変形例(比較例2)に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は第2変形例に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は第3変形例に係る従来のセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材(実施例1,2,3)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を、従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1,2)と比較して示す図である。
【図6】図6(a)は本発明の実施の形態1に係る突起形状の異なるセグメントタイプ摩擦材(実施例1,4,5)における引き摺りトルクの低減効果を従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)と比較した低減率として示す図、(b)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例4)における突起幅δに対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図、(c)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1,2,6)における突起個数に対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図、(d)は本発明の実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例3,4,7)における突起個数に対する引き摺りトルクの低減効果を比較例1と比較した低減率として示す図である。
【図7】図7(a)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(b)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例2)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1)に対する低速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図である。
【図8】図8(a)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(b)は従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例2)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の第3変形例に係るセグメントタイプ摩擦材(実施例1)に対する高速回転状態におけるATFの接触状態を示す部分平面図である。
【図9】図9(a)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図10】図10(a)は本発明の実施の形態2の第1変形例に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の第2変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の第3変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の第4変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態2の第5変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態2の第6変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図11】図11(a)は本発明の実施の形態2の第7変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の第8変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の第9変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の第10変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(e)は本発明の実施の形態2の第11変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(f)は本発明の実施の形態2の第12変形例に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【符号の説明】
【0094】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1I,1J,1K,1L,21,21A,21B,21C,21D,21E,21F,21G,21H,21I,21J,21K,21L 湿式摩擦材
2 芯金
3,3A,3B,3C,3D,3E,3F,3G,3H,3I,3J,3K,3L セグメントピース
4,4A,4B,4C,4E,4H,24,24A,24B,24C,24D,24E,24F,24G,24H,24I,24J,24K,24L 突起
5,25 油溝
6D,6F,6J 凹部
7,17,27,28 リング形状の摩擦材基材
23,23A,23B,23C,23D,23E,23F,23G,23H,23I,23J,23K,23L 島状部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板リング形状の芯金に前記平板リング形状に沿って、複数個のセグメントピースに切断された摩擦材基材が、前記セグメントピースの外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の全周両面若しくは全周片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて複数個の島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて、前記島状部分の外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するリングタイプ摩擦材であって、
前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側に、前記芯金の外周方向に突出する1個または複数個の突起が設けられたことを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記突起は、前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面からの突出長さが前記引き込み長さの10%〜100%の範囲内であり、前記1個または複数個の突起の先端部分の幅の合計が前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面の長さの0%〜40%の範囲内であり、前記1個または複数個の突起の付け根部分の幅の合計が前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面の長さの10%〜50%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項3】
前記引き込み長さは、前記芯金の半径の0.8%〜4.2%の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
更に前記セグメントピースの内周側に、前記1個または複数個の突起に対応した1個または複数個の凹部が設けられたセグメントタイプ摩擦材であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の湿式摩擦材。
【請求項1】
平板リング形状の芯金に前記平板リング形状に沿って、複数個のセグメントピースに切断された摩擦材基材が、前記セグメントピースの外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の全周両面若しくは全周片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて複数個の島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されて、前記島状部分の外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するリングタイプ摩擦材であって、
前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側に、前記芯金の外周方向に突出する1個または複数個の突起が設けられたことを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記突起は、前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面からの突出長さが前記引き込み長さの10%〜100%の範囲内であり、前記1個または複数個の突起の先端部分の幅の合計が前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面の長さの0%〜40%の範囲内であり、前記1個または複数個の突起の付け根部分の幅の合計が前記セグメントピースまたは前記島状部分の外周側面の長さの10%〜50%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項3】
前記引き込み長さは、前記芯金の半径の0.8%〜4.2%の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
更に前記セグメントピースの内周側に、前記1個または複数個の突起に対応した1個または複数個の凹部が設けられたセグメントタイプ摩擦材であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の湿式摩擦材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−101402(P2010−101402A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272898(P2008−272898)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】
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