説明

溶接ロボットの制御方法

【課題】 電源が遮断されたことによって溶接ロボットが停止した後、再起動させる場合に、復旧に要する時間を短縮することができる溶接ロボットの制御方法を提供する。
【解決手段】 ロボット制御装置から溶接ロボットに対して溶接プログラムを送信し、この溶接プログラムに従って溶接ロボットに多重盛溶接を行わせる溶接ロボットの制御方法において、溶接プログラムとして軌跡データとしての教示プログラムに1溶接パスごとの溶接条件を切替える溶接条件テーブルを組み込んだ実行プログラムを各溶接パスごとに送信する。これによって、トラブル等によってロボットが停止した時、停止した溶接パスに相当するプログラムから再開させることができるので、ロボット復旧時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源が遮断されたことによって溶接ロボットが停止した後、再起動させる場合に、復旧に要する時間を従来に比べて短縮することができる溶接ロボットの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
落雷等に起因するトラブルの発生により、工場の電源が遮断された場合、溶接ロボットは停止する。このようなトラブルに対処するため、一般に、鉄骨等の自動溶接システムには停止時に実行していた溶接プログラムを再スタートさせるリカバリ機能が組み込まれている。
【0003】
ところで、従来の溶接ロボットを使用した多層盛自動溶接システムにおいては、ロボット制御装置から溶接ロボットに対して実行プログラムを送信する際、データ送信時間を短縮するためにファイルサイズの大きい教示プログラムと複数のファイルサイズの小さいデータバンク(溶接条件テーブル)を1組みとして送信することが行われていた。
【0004】
即ち、ファイルサイズの大きい軌跡プログラムとしての教示プログラムを溶接パス毎に送信することによる送信データ量の増大をなくし、教示プログラムを複数の溶接パスで共用させ、1つの教示プログラムと複数パス分、例えば3回パス分のデータバンク(溶接条件テーブル)とを1つのプログラムとしてまとめて送信することが行われていた。
【0005】
図6は、従来の溶接ロボットの実行プログラムを示す説明図である。図6において、軌跡を示す教示プログラム51と、2パス分の多層盛溶接条件を示すデータ条件テーブル52及び53が1組になった実行プログラムが記載されている。
【0006】
このような実行プログラムにおいて、溶接ロボットのx、y、zの3次元方向位置、周辺機器の3次元方向位置等を制御した後、ロボットをワークに近づけ、アークONという命令の前に溶接条件テーブルであるデータバンクを呼び出す命令がなされる(データバンク呼び出し1W=無、A=無)。
【0007】
データバンクの呼び出しによってロボットは、例えば1パス目の溶接条件を認識し、この溶接条件に従って多層盛溶接における例えば1パス目の溶接作業を行う。
【0008】
次に、ループ区間があって、プログラムは始めに戻り、同様の軌跡プログラムが実行された後、第2パス目の溶接条件テーブルであるデータバンクを呼び出す命令がなされる(データバンク呼び出し1W=無、A=無)。これによってロボットは、例えば2パス目の溶接条件を認識し、以下同様にして多層盛溶接を行う。なお、1Wの「1」はパス番号とは異なり、溶接途中に条件を変えるための溶接条件番号である。
【0009】
このような1つの教示プログラムと複数のデータバンクとを1組として送信するデータ送信方法を適用した従来の溶接ロボット制御方法によれば、重複する教示プログラムの送信回数を低減できることから、全体としてのプログラム送信容量が低減し、送信時間を短縮できるという利点があった。
【0010】
しかしながら、上記従来技術には、何らかのトラブルによって一旦停止した溶接ロボットを復旧させる復旧作業の観点において以下のような問題点があった。即ち、例えばロボット制御装置から溶接ロボットに対して1つの教示プログラムと溶接第6パス目乃至溶接第8パス目のデータバンクを一組とした実行プログラムを送信し、このプログラムに従って自動溶接を行っている溶接第8パス目の途中に、停電等のトラブルが発生して溶接ロボットが停止した時、リカバリ操作を行うと、溶接第6パス及び溶接第7パスのプログラムをアークOFF状態で空運転をした後でなければ、溶接第8パスの溶接操作を再開させることができず、溶接ロボットを復旧させるまでに長時間を必要とするという問題点があった。
【0011】
トラブルによって一旦停止した溶接ロボットを復旧させる方法に関する従来技術として、例えば特許文献1(特開平03−104595号公報)、特許文献2(特開平03−136739号公報)及び特許文献3(特開2002−14709号公報)が挙げられる。
【0012】
図7は、特許文献1における産業ロボットを再起動させる際の動作フローを示す説明図である。この産業ロボット装置は、不時停止時のプログラムを記憶する記憶装置と不時停止時の状態を検出する状態検出装置を有する。
【0013】
図7において、停電等によって、産業用ロボット装置の不時停止が生じると(ステップ101)、記憶装置(図示省略)に不時停止時のプログラムが記憶され(ステップ102)、また、不時停止時の状態が状態検出装置(図示省略)によって検出される(ステップ103)。次に、不時停止時のプログラムステップと検出結果が一致するか否かが判断され(ステップ104)、一致するときは再起動装置によって産業用ロボット装置が再起動される(ステップ105)。
【0014】
一方、不時停止時のプログラムステップと検出結果が一致しなければ(ステップ104)、ステップ106を経てステップ107に進み、プログラム管制装置(図示省略)による不時停止状態検出結果に対応したプログラムの頭出しが行われる(ステップ107)。そして、ステップ108及びステップ109を経てステップ104に戻り、頭出しの結果が不時停止状態と一致すればステップ105に進んで産業用ロボット装置が再起動される(特許文献1、公報明細書第2頁左下欄10行乃至右下欄6行、図4)。
【0015】
また、図8は、産業ロボット復旧方法に関する別の従来技術を示す説明図である。この従来技術に係る産業用ロボット装置は、産業ロボット及びその周辺機器の両者をプログラムによって制御し、ワークをパレットに積み付けさせる制御装置と、産業ロボット及びその周辺機器の少なくとも一方の異常を検出して停止させる異常停止手段と、異常停止時のステップを記憶する記憶手段と、この記憶手段の記憶ステップ以降の上記プログラムによる積み付け中パレット用の積み付け残余のワークを排除する排除手段を備えたものである。
【0016】
図8において、異常発生により、異常停止手段(図示省略)が動作して産業用ロボットが停止すると(ステップ101)、報知手段が付勢されて異常報知が行われ(ステップ102)、記憶手段によって異常停止時のプログラムステップが記憶される(ステップ103)。次に、排除手段が動作して異常停止時の記憶ステップ以降のワークが排除プログラムの指令によって排除される(ステップ104)。次いで、異常停止時以降のプログラムの残余ステップが終了するまで(ステップ105)未処理ワーク排除が繰り返され、排除されたワークは人為作業によって処理される(特許文献2、公報明細書第2頁左下欄10行乃至右下欄10行、図4)。
【0017】
次に特許文献3の従来技術は、ロボットコントローラに関するものであり、このロボットコントローラは停電等による電源遮断時にその時点におけるタスク情報、ステータス情報、サーボ情報等の復電用のデータを記憶するバックアップ手段と、電源回復時にバックアップ手段によって記憶されたバックアップデータに基づいて電源遮断時のタスク状態を復元させる復元手段と、電源回復後の再起動時に、全てのプログラムが起動される間は、待ち状態を発生するダミータスクを優先順位を最も高くして実行するダミータスク実行手段を有するものであり、システムの動作中に電源が遮断されると、その時点におけるタスク情報、ステータス情報、サーボ情報等の復電用バックアップデータをバックアップRAMに記憶し、電源回復時に前記バックアップRAMに記憶されたバックアップデータに基づいて電源遮断時のタスク状態を復元し、再起動時に全てのプログラムが起動される間は、ダミータスクを優先順位を最も高くして実行するようにしたものである(特許文献3、段落0022、図2)。
【0018】
【特許文献1】特開平3−104595号公報
【特許文献2】特開平3−136739号公報
【特許文献3】特開2002−14709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上記従来技術は、いずれも電源が遮断されたことによって溶接ロボットが停止した後、復旧に要する時間を短縮することを目的としたものではなく、例えば1つの教示プログラムと複数の溶接実行データであるデータバンクを1組として送信する従来の溶接ロボット制御方法における、復旧所要時間を短縮することができないという上記課題は未解決のままである。
【0020】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、電源が遮断されたことによって溶接ロボットが停止した後、再起動させる場合に、復旧に要する時間を短縮することができる溶接ロボットの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本願第1発明に係る溶接ロボット制御方法は、ロボット制御装置から溶接ロボットに対して実行プログラムを送信し、この実行プログラムに従って前記溶接ロボットに多層盛溶接を行わせる溶接ロボットの制御方法において、前記実行プログラムとして軌跡データとしての教示プログラムに1溶接パスごとの溶接条件を切替える溶接条件テーブルを組み込んだ実行プログラムを各溶接パスごとに送信することを特徴とする。
【0022】
本願第2発明に係る溶接ロボット制御方法は、ロボット制御装置から溶接ロボットに対して実行プログラムを送信し、この実行プログラムに従って前記溶接ロボットに多層盛溶接を行わせる溶接ロボットの制御方法において、前記多層盛り溶接は1のワークにおける複数の溶接線に対し、順次溶接条件の異なる複数パスの溶接を施すものであり、前記実行プログラムは前記溶接ロボットを前記溶接線まで移動させるための軌跡データとしての教示プログラムと、前記溶接線に対して順次溶接条件の異なる溶接を施すための溶接条件テーブルとを組み合わせたものであり、この実行プログラムを各溶接パスごとに作成し、各溶接パスごとに溶接ロボットに送信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本願第1発明に係る溶接ロボット制御方法によれば、軌跡データとしての教示プログラムに1溶接パスごとの溶接条件を切替える溶接条件テーブルを組み込んだ実行プログラムを各溶接パスごとに送信するようにしたので、自動溶接中に落雷等のトラブルが発生し、電源が遮断されて溶接ロボットが停止した後、再起動させる場合に、前記トラブルによって停止した当該プログラムから再開させることができるので、溶接完了パス部分の空運転をなくし、復旧時間を大幅に短縮することができる。
【0024】
本願第2発明に係る溶接ロボット制御方法によれば、溶接ロボットを溶接線まで移動させるための軌跡データとしての教示プログラムと、溶接線に対して順次溶接条件の異なる溶接を施すための溶接条件テーブルとを組み合わせた実行プログラムを各溶接パスごとに作成し、各溶接パスごとに溶接ロボットに送信するようにしたので、各溶接パスにおけるロボットの動作と実行プログラムとが1対1で対応する。従って、トラブル等の発生による停電に起因して停止したロボットを復旧させる際、停止した溶接パスに対応する実行プログラムの始めから再開させることができるので、従来技術のように空運転をする必要がなく、ロボット復旧時間を大幅に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係る溶接ロボット制御方法に使用する装置を示すブロック図、図2はその2アーク自動溶接装置を示す説明図、図3は溶接により組み立てようとするコラム柱を示す斜視図である。
【0026】
図1において、2基の溶接ロボットの本体10がロボット制御装置14により制御される。この溶接ロボットの溶接トーチ11には、ワイヤ送給装置12により溶接ワイヤが送給され、この溶接ワイヤはトーチ11からワークの溶接部に向けて供給される。このワイヤの送給は、ワイヤ送給装置12により駆動され、ワイヤ送給装置12は溶接電源装置13に格納された送給モータ制御装置13aにより制御される。また、溶接電源装置13から溶接トーチ11に対して溶接電流値及び溶接電圧値の電源が供給され、溶接トーチ11を通過するワイヤに電源が供給される。
【0027】
2つのロボット本体10、各ロボット本体10の首先端に設けた溶接トーチ11及びワークへ溶接電力を供給する外部装置の溶接電源13は、夫々ロボット制御装置14により制御される。一方のロボット制御装置14には、溶接するワークの姿勢を制御するポジショナ20が接続されている。また、2つのロボット制御装置14は各溶接ロボット本体10の位置制御及びインターロックのために通信ケーブルで接続されている。
【0028】
ロボット制御装置14は、演算処理装置17を中心として、入力装置15、記憶装置18、ロボット本体制御装置16及び外部制御装置19が設けられている。演算処理装置17は入力装置15から入力されたデータを基に、このデータを記憶装置18に記憶したり、記憶装置18から読み出したデータを基に演算して、外部制御装置19及びロボット本体制御装置16に制御信号を出力する。ロボット制御装置14は、送給モータ制御装置13aに制御信号を出力して、ワイヤの送給速度を制御する。また、一方のロボット制御装置14はワークの姿勢を調節するポジショナ本体20を制御する。
【0029】
ロボット本体は、例えば、6軸の垂直多関節型のもので、先端アームの手首部先端に溶接トーチが設けられている。このロボット本体は、教示ペンダントである教示作業入力装置による教示作業に基づく動作と、その教示作業によって作成された教示プログラム実行データに基づいて溶接トーチ先端を再生する再生動作とを行う。
【0030】
ポジショナは、例えば、鉄骨コラムであるワークの2箇所を支持する両持1軸のもので、この支持駆動部材にワークを保持するワーククランプ部があり、このワーククランプ部にクランプしたワークの各溶接継手をロボット制御装置からの指令によりポジショナ制御装置が回転駆動させ、ロボット本体に対して適性な溶接姿勢とするものである。
【0031】
図2において、このロボット溶接装置では、2基(1対)のポジショナ31、32と、2基の溶接ロボット33、34とが設けられており、ポジショナ31、32間に溶接ロボット33が配置され、溶接ロボット33、34間にポジショナ32が配置されている。
【0032】
溶接ロボット33、34は、レール50上を走行する移動台車35を有し、この台車35上に、溶接ワイヤの供給容器37と電源装置42とが載置され、台車35のレール50に直交する方向の一端部には、アーム40、41が設置されている。このアーム40の先端部にはトーチ38が設けられており、ワイヤ供給容器37内にコイル状に巻回されて貯留されていた溶接ワイヤ39が巻き解かれてコンジットチューブ36を介してトーチ38に供給され、トーチ38を通過して溶接部に供給される。溶接電源装置42はケーブル43によりトーチ38に接続されており、トーチ38を介して溶接ワイヤ39に溶接電力を供給するようになっている。
【0033】
ポジショナ31、32は、台44に対して、回転部45が回転可能に設置されている。この回転部45は中央部が矩形に切りかかれた形状を有し、この中央切欠部には、少なくとも1対の対向する辺に、被溶接物を固定する固定具46が設けられている。
【0034】
被溶接物は図3に示すように予め仮溶接されて組み立てられており、固定具46により、被溶接物であるコラム1の面を挟持することにより、回転部45がコラム1を固定する。1対のポジショナ31、32はコラム1の長手方向に見てその切欠部が整合する(重なる)位置に設けられており、各ポジショナ31、32により1対のコラム1を挟持したときには、各コラム1の中心軸が一致するように、固定具46が調節される。
【0035】
このように、仮付けにより組み立てられたワーク(コラム柱)の1対のコラム1を夫々ポジショナ31、32により2箇所で挟持して、ワークを支持し、コラム1の端面とコラムコア3のダイヤフラム5との間の溶接部を、コラム1の端部の4辺に沿って溶接する。この場合に、コラム1の端部(又は横断面)は、4辺の直線部と、4個のコーナ部とから構成され、このコーナ部は、適宜の半径で湾曲している。従って、コラム1の端部とダイヤフラム5の表面との間の溶接線は、このコラム1の端部の外縁に沿って、4辺の直線部と4個のコーナ部とから構成されるものとなる。
【0036】
図3において、溶接対象であるコラム柱はコア3のコラム部4の4側面に仕口2を溶接接合し、コラム1をコア3のダイヤフラム5に垂直に溶接接合することによって組み立てられる。従ってコラム1とコア3のダイヤフラム5との接合線が溶接線となり、この溶接線が、例えば多層盛溶接される。
【0037】
以下、このような構成のロボット溶接装置の動作を図4に示した実行プログラムを参照しつつ説明する。図4は、本実施形態に適用される実行プログラムを示す説明図である。この実行プログラムは、軌跡データとしての教示プログラムに1パス溶接毎の溶接条件を切替える溶接条件テーブルを組み込んだものである。
【0038】
図4において、教示プログラムによってロボットがワークに接近した後、アークONという命令の前にデータバンクを呼び出す命令があり(データバンク呼び出し1W=無、A=無)、データバンクの具体的溶接条件がアークONの下流に組み込まれている。
【0039】
このような溶接プログラムに従って図3のコラム柱に対する、例えば3×8パス分の多層盛溶接を、例えば炭酸ガスをシールドガスとして使用する図2の2台の溶接ロボットを使用して行う。溶接線が直線の部分はポジショナ31、32を固定して自動溶接し、コーナ部のように溶接線が円弧状に曲がっている部分ではポジショナ31、32を回転させながら自動溶接される。
【0040】
このような溶接ロボットを用いた多層盛溶接における、例えば1番目の溶接線における第8パス目の溶接中に、停電が発生してロボットが停止した場合、リカバリ操作が行われるが、本実施形態においては、各溶接パス毎に軌跡データとしての教示プログラムに溶接条件を切替えるデータバンクを組み込んだ実行プログラムを作成して溶接パス毎に送信しているので、各溶接パスにおける溶接ロボットの動作とその実行プログラムとが1対1で対応し、前記停止した第8パス目の溶接プログラムから再開することができる。従って、ロボットの復旧に要する時間を従来技術に比べて著しく短縮することができる。
【0041】
図5は、本実施形態に適用される溶接プログラム(b)と従来技術における溶接プログラム(a)とを比較した概念図である。(a)は、軌跡データを示す教示プログラムと、3パス分の多層盛溶接条件を示すデータ条件テーブルが1組になった従来の実行プログラムであり、(b)は、軌跡データとしての教示プログラムに1溶接パスごとの溶接条件を切替える溶接条件テーブルを組み込んだ本実施形態に適用される溶接プログラムである。
【0042】
図5において、横方向が各溶接パスである第6パス、第7パス及び第8パスの溶接を示す。
【0043】
今、点Aでトラブルが発生して電源が遮断し、ロボットが停止したとすると、(a)の従来技術においては、3パス分の溶接条件を示すデータ条件テーブルが1つの教示プログラムを共用していることから、点Cである第6パスの最初まで戻りここから再開されることになる。このとき、第6パス及び第7パスに相当する溶接は完了しているので、第6パス及び第7パスに相当する部分についてはロボットは動くものの、トーチに点火されない空運転が行われ、この空運転は、実運転と同様の時間を要する。
【0044】
これに対し、(b)の本実施形態においては、3パス分の溶接条件を示すデータ条件テーブルが夫々別個の教示プログラムに組み込まれて各パスごとに独立に形成されていることから、従来技術のように、点Cまで戻る必要がなく第8パスの最初まで戻り、点Bから再開することができる。
【0045】
このように、本実施形態によれば、トラブルの発生によって停止したプログラムから直接再開することができるので、ロボットの復旧に要する時間を従来技術に比べて著しく短縮することができる。なお、本実施形態のように、各溶接パスごとに実行プログラムを作成して各溶接パス毎に溶接ロボットに送信し、これによって溶接ロボットの動作とその実行プログラムとを1対1に対応させたことにより、全体としてのデータ送信量は従来技術に比べて増大するが、LANの採用等により、送信時間が従来よりも格段に速くなっているので問題となることはない。なお、本実施形態においては2基の溶接ロボットを使用しているが、本発明はこれに限定されず、ロボットは1基でも3基以上であってもかまわない。この場合、溶接ロボットの数に対応して図1のロボット制御装置14、溶接電源装置13及びワイヤ送給装置12の台数が設定される。即ち、図1において、溶接ロボットが1台のときには2台目の溶接ロボット本体10、溶接トーチ11、ワイヤ送給装置12、溶接電源装置13及びロボット制御装置14が不要となる。また、図2の台車35、ワイヤ36、溶接ワイヤ貯留容器37、トーチ38、溶接ノズル39、アーム40、41、電源装置42、ケーブル43も溶接ロボット34の台数に対応して設定される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
停電により停止した溶接ロボットを短時間で復旧させることができる本発明の溶接ロボット制御方法はロボットを用いた自動溶接の分野で特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る自動溶接制御方法にて使用する装置を示すブロック図である。
【図2】自動溶接装置を示す図である。
【図3】溶接により組み立てようとするコラム柱を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に適用される実行プログラムの1例を示す図である。
【図5】本実施形態で適用される実行プログラムと従来技術における実行プログラムを比較した概念図である。
【図6】従来技術における溶接プログラムの1例を示す図である。
【図7】従来技術を示す説明図である。
【図8】別の従来技術を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1:コラム
2:仕口
3:コラムコア
4:コラム部
5:ダイヤフラム
10:溶接ロボット本体
11:溶接トーチ
12:ワイヤ送給装置
13:溶接電源装置
13a:送給モータ制御装置
14:ロボット制御装置
20:ポジショナ本体
31、32:ポジショナ
33、34:溶接ロボット
35:台車
36:ワイヤ
37:溶接ワイヤ貯留容器
38:トーチ
39:溶接ノズル
40、41:アーム
42:電源装置
43:ケーブル
45:回転部
50:レール
51:教示プログラム
52、53:溶接条件を示すデータ条件テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット制御装置から溶接ロボットに対して実行プログラムを送信し、この実行プログラムに従って前記溶接ロボットに多層盛溶接を行わせる溶接ロボットの制御方法において、前記実行プログラムとして軌跡データとしての教示プログラムに1溶接パスごとの溶接条件を切替える溶接条件テーブルを組み込んだ実行プログラムを各溶接パスごとに送信することを特徴とする溶接ロボット制御方法。
【請求項2】
ロボット制御装置から溶接ロボットに対して実行プログラムを送信し、この実行プログラムに従って前記溶接ロボットに多層盛溶接を行わせる溶接ロボットの制御方法において、前記多重盛り溶接は1のワークにおける複数の溶接線に対し、順次溶接条件の異なる複数パスの溶接を施すものであり、前記実行プログラムは前記溶接ロボットを前記溶接線まで移動させるための軌跡データとしての教示プログラムと、前記溶接線に対して順次溶接条件の異なる溶接を施すための溶接条件テーブルとを組み合わせたものであり、この実行プログラムを各溶接パスごとに作成し、各溶接パスごとに溶接ロボットに送信することを特徴とする溶接ロボットの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−39883(P2006−39883A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217974(P2004−217974)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】