説明

溶接継手の製造方法

【課題】管の端面の溶け落ちやフランジの熱歪みが抑制されるとともに溶接品質を十分に満足することができる溶接継手の製造方法を提供する。
【解決手段】管1と板状のフランジ2から成る溶接継手の製造方法であって、フランジ2の貫通孔3の小径部3a内に管1の端面1aを途中配置した状態で、貫通孔3の大径部3bと小径部3aを繋ぐ段部3cの最内側に角部3dを形成し、角部3dに電極5aを指向させてTIG溶接トーチ5を回動し、段部3cを溶融して管1を全周溶着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管とフランジの接合に用いられる溶接継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の内燃機関に接続される排気管同士の締結は、それぞれの排気管の端部に板状のフランジを溶接固定し、このフランジ同士をボルト、ナット等により締結することが行われている。
【0003】
そして、排気管の端部にフランジを溶接固定してなる溶接継手の製造方法として、フランジ内の環状段部と管端部との間に溶接部を形成することが一般的である。例えば、特許文献1には、図6に示すように、フランジ101の貫通孔の内周面に段部102を形成し、段部102と管103の端面104とを同一面にして溶接トーチ105を端面104に沿って回動し、貫通孔と管を全周溶着することが開示されている。このような溶接には、溶接棒(ワイヤ)をアーク熱で溶融させるMIG溶接が一般的に使われる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される溶接継手の製造方法にTIG溶接を適用する場合、TIG溶接トーチ105の電極105aを段部102と端面104の中間に指向させてTIG溶接すると、端面104の肉厚がフランジ101の肉厚に対しはるかに小さい、すなわち、端面104の熱容量がフランジ101の熱容量よりも小さいため、端面104に溶け落ち部106が発生するおそれがある。そこで、図7に示すように、電極105aを熱容量の大きいフランジ101側(図の左方向)にずらして指向させると、端面104の溶け落ちの問題は解消されるものの、フランジ101に対する入熱量が増加するため、フランジ101が熱によって歪んでしまい、フランジ締結面107の平面度が悪化し、フランジ同士の締結性(シール性)が損なわれるおそれがある。また、フランジ101にクレータ108が生じるおそれがあり、溶接品質を十分に満足することができないおそれがある。
【0005】
【特許文献1】実開昭63−154888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題に鑑み、フランジ内の環状段部と管端部とをTIG溶接で接合するにおいて、管の端面の溶け落ちやフランジの熱歪みが抑制されるとともに溶接品質を十分に満足することができる溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明によれば、管と板状のフランジから成る溶接継手の製造方法であって、前記フランジの貫通孔の小径部内に前記管の端面を途中配置した状態で、前記貫通孔の大径部と前記小径部を繋ぐ段部の最内側に角部を形成し、該角部に電極を指向させてTIG溶接トーチを回動し、前記段部を溶融して前記管を全周溶着する。
【0008】
2番目の発明では、1番目の発明において、小径部と管の間に溶加材を介在した状態でTIG溶接トーチを回動する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フランジ内の環状段部と管端部とをTIG溶接で接合するにおいて、管の端面の溶け落ちやフランジの熱歪みが抑制されるとともに溶接品質を十分に満足することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を図1乃至図5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
図1及び図2は本発明の第1の実施形態に係る溶接継手の製造方法を示し、溶加材を用いないTIG溶接例である。図1は管1の端面1aとフランジ2の貫通孔3を溶接する前の状態を示す断面図であり、管1の軸1bより左半分を表す。図2は端面1aと貫通孔3を溶接した後の状態を示す断面図である。図の上方が溶接姿勢における上方であり、管は略鉛直に支持される。
【0012】
金属製の管1は、電縫鋼管や2つのモナカ半体を溶接してなる管等、任意の管を用いることができる。また、管1の軸1bに直交する断面形状は、真円、楕円、長円、複数の異なる円弧を繋げた形状や、多角形等、任意である。また、管1は多重管でも構わないが、その際は、少なくとも1つの管に対し本発明の製造方法が適用される。
【0013】
金属製のフランジ2は管1よりも肉厚の板状体であり、その中央部には貫通孔3が穿設されている。そして、貫通孔3は小径部3aと、大径部3bと、小径部3aと大径部3bを繋ぐ段部3cから構成されている。段部3cの上面は略平面であり、段部3cの最内側に角部3dを有する。また、フランジ2と図示しないフランジ付管や排気系部品を締結するためのボルト挿通孔4が複数個、周方向に間隔を有して穿設されている。
【0014】
そして、小径部3a内に管1の端面1aを、角部3d対し軸1b方向にX量ずらして途中配置し、図示しない治具により管1とフランジ2を位置決め固定する。尚、Xの量は、後述する溶接ビード6の形成量に応じて適宜設定される。
【0015】
次に、TIG溶接トーチ5の電極5aを角部3dに指向させるとともにTIG溶接トーチ5を軸1b周りに回動し、段部3cをTIGアークにより全周溶融する。そして、溶融した段部3cは、端面1a及び小径部3aに向かって自重で流下した後、自然冷却にて固化し溶接ビード6となって端面1aと貫通孔3が全周溶着される。尚、角部3dは最小R形状であるのが望ましい。
【0016】
本実施形態によれば、管端から離隔した被溶融部(段部3c)が、溶融して溶着部へ移動するので、段部3cを溶融するだけの入熱量で管とフランジを溶接できるため、管の端面の溶け落ちやフランジの熱歪みが抑制されるとともに溶接品質を十分に満足することができる。
【実施例2】
【0017】
図3は本発明の第2の実施形態に係る溶接継手の製造方法を示す。尚、第1の実施形態と同一態様部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0018】
フランジ12における段部13cの最内側の角部13dは、面取りされている。溶接ビードを形成するために必要な被溶融体積分さえ確保できれば、段部13c及び角部13dの形状は任意である。
【0019】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果が得られる。また、縁部13dを切削加工によらず、プレス加工で形成することができ、フランジの加工コストを低減することができる。
【実施例3】
【0020】
図4は本発明の第3の実施形態に係る溶接継手の製造方法を示す。尚、第1の実施形態と同一態様部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0021】
フランジ22における段部23cの最内側の角部23dは、大きく面取りした形状である。溶接ビードを形成するために必要な被溶融体積分さえ確保できれば、このように角部23dを大面取り形状としても構わない。
【0022】
本実施形態によれば、第2の実施形態と同様な効果が得られる。
【実施例4】
【0023】
図5は本発明の第4の実施形態に係る溶接継手の製造方法を示す。尚、第1の実施形態と同一態様部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0024】
フランジ2の小径部3aと管1の外周面との間に溶加材7(ニッケルや銀や銅などのロウ材等)を介在した状態で、TIG溶接トーチを軸1b周りに回動し、TIGアークによる入熱で段部3cを溶融するのと同時に溶加材7も溶融する。溶融した溶加材7は、小径部3aと管1の外周面との隙間を埋めて両者を溶着する。尚、溶加材は貫通孔3の周方向の少なくとも一部(全周も含む)に介在すればよい。
【0025】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果が得られるとともに、管とフランジを内外両側から溶着するため、両者をよりいっそう強固に溶着することができる。
【0026】
以上、本発明の実施形態を説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に包含される。溶融部に溶接ワイヤ(溶加材)を供給しながら本発明を行っても構わない。また、本発明の前後に管の外側にTIG溶接やMIG溶接を追加しても構わない。また、フランジの貫通孔の数は任意であり、排気集合管(エキゾーストマニホールド)のように複数のブランチパイプが接続される複数の貫通孔が形成された共通フランジの継手構造にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る溶接継手の製造方法における溶着前の状態を示す断面図
【図2】本発明の第1の実施形態に係る溶接継手の製造方法における溶着後の状態を示す断面図
【図3】本発明の第2の実施形態に係る溶接継手の製造方法における溶着前の状態を示す断面図
【図4】本発明の第3の実施形態に係る溶接継手の製造方法における溶着前の状態を示す断面図
【図5】本発明の第4の実施形態に係る溶接継手の製造方法における溶着後の状態を示す断面図
【図6】従来技術1に関する溶接状態を示す断面図
【図7】従来技術1に関する他の溶接状態を示す断面図
【符号の説明】
【0028】
1 管
1a 端面
1b 軸
2,12,22 フランジ
3 貫通孔
3a 小径部
3b 大径部
3c,13c,23c 段部
3d,13d,23d 角部
5 TIG溶接トーチ
5a 電極
6 溶接ビード
7 溶加材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管と板状のフランジから成る溶接継手の製造方法であって、
前記フランジの貫通孔の小径部内に前記管の端面を途中配置した状態で、前記貫通孔の大径部と前記小径部を繋ぐ段部の最内側に角部を形成し、該角部に電極を指向させてTIG溶接トーチを回動し、
前記段部を溶融して前記管を全周溶着することを特徴とする溶接継手の製造方法。
【請求項2】
前記小径部と前記管の間に溶加材を介在した状態でTIG溶接トーチを回動することを特徴とする請求項1に記載の溶接継手の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−248190(P2009−248190A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117848(P2008−117848)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(390010227)株式会社三五 (148)
【Fターム(参考)】