説明

溶液および積層体

【課題】 溶液の安定性、消泡性に優れ、さらには積層体としたときにガスバリア性に優れたエチレン−ビニルアルコール共重合体溶液及びその積層体を提供すること。
【解決手段】 下記の構造単位(1)を含有するエチレン−ビニルアルコール共重合体及び溶媒を含有する溶液であって、好適にはアルコール系溶媒に溶解された溶液であって、さらには3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化することによって得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いた溶液。
【化1】


(ここで、Xは結合鎖であってエーテル結合を除く任意の結合鎖で、R1〜R4はそれぞれ独立して任意の置換基であり、nは0または1を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエチレン−ビニルアルコール共重合体及び溶媒を含有してなる溶液、およびそれをコーティングした積層体に関し、さらに詳しくは、溶液の放置安定性、消泡性に優れた新規なエチレン−ビニルアルコール共重合体及び溶媒を含有してなる溶液、およびそれをコーティングしたガスバリア性に優れた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略す)の皮膜は、その透明性、ガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性などに優れており、かかる特性を生かして、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料に用いられており、かかるEVOHの皮膜を形成させる場合、任意の方法が実施可能であるが、比較的膜厚の薄い皮膜が形成できる点、中空容器等の複雑な形の基材に対しても容易に皮膜の形成ができる点、および比較的簡単な装置で塗工操作ができる点でEVOHを溶媒に溶解した溶液を基材にコーティングする溶液コーティング法が注目されている。
【0003】
しかしながら、EVOHは、アルコール系溶媒に溶解した場合、一般のポリマー溶液と比較して溶液の安定性が低く、EVOHを溶解後に長期間にわたり放置した場合、溶液が徐々に白化し、このように白化した溶液を基材にコーティングした場合、塗膜の透明性等が不十分となることがあった。その対策としてEVOHの溶液を過酸化物で処理する方法(例えば、特許文献1,2参照。)が提案されている。
【特許文献1】特開平05−295119号公報
【特許文献2】特開平06−006542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の方法について本発明者が詳細に検討したところ、上記の方法では溶液の安定性は向上し溶液の白化は抑制されるものの、溶融成形等で得られたEVOH皮膜に比べてガスバリア性が劣ること、また、高速塗工を行った際に泡のかみ込みが発生し、部分的に塗工されない所が発生する等の問題があることが判明し、ガスバリア性が高く、溶液の安定性、消泡性に優れたEVOH溶液が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、かかる現況に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、下記の構造単位(1)を含有するEVOHと溶媒を含有してなる溶液が上記の目的に合致することを見出して本発明を完成するに至った。
【化1】

(ここで、Xは結合鎖であってエーテル結合を除く任意の結合鎖で、R1〜R4はそれぞれ独立して任意の置換基であり、nは0または1を表す。)
本発明においては、溶媒がアルコール系溶媒であること、さらにアルコールと水の混合溶媒であること、EVOHのエチレン含有量が10〜60モル%であること、EVOHが上記の構造単位(1)を0.1〜30モル%主鎖に有していること等が好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の溶液は、安定性、消泡性に優れ、かつガスバリア性能の優れた積層体を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に用いられるEVOHは、上記の構造単位(1)、すなわち側鎖に1,2−グリコール結合を有する構造単位を含有することを特徴とするEVOHで、その分子鎖と1,2−グリコール結合構造とを結合する結合鎖(X)に関しては、エーテル結合を除くいずれの結合鎖を適応することも可能で、その結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレンの他、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−CO−、−COCO−、−CO(CHCO−、−CO(C)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO−、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等が挙げられるが(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)、エーテル結合は溶液を基材フィルムに塗工した後の乾燥時に分解し、EVOHのバリア性能が低下する点で好ましくない。上記の中でもバリア性の点では結合種としてはアルキレンが好ましく、さらには炭素数が6以下のアルキレンが好ましい。また、さらにEVOHのガスバリア性能が良好となる点で、炭素数はより少ないものが好ましく、n=0である1,2−グリコール結合構造が直接、分子鎖に結合している構造が最も好ましい。また、R1〜R4に関しては任意の置換基であり、とくに限定されないが水素原子、アルキル基がモノマーの入手が容易である点で好ましく、さらには水素原子がEVOHのガスバリア性が良好である点で好ましい。
【0008】
本発明のEVOHの製造方法については特に限定されないが、最も好ましい構造である主鎖に直接1,2−グリコール結合構造を結合した構造単位を例とすると、3,4−ジオール−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、3−アシロキシ−4−ジオール−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法が挙げられ、また、結合鎖(X)としてアルキレンを有するものとしては4,5−ジオール−1−ペンテンや4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等とビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法が挙げられるが、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合して得られた共重合体をケン化する方法が共重合反応性に優れる点で好ましく、さらには3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとして、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを用いることが好ましい。また、これらのモノマーの混合物を用いてもよい。また、少量の不純物として3,4−ジアセトキシ−1−ブタンや1,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−1−ブタン等を含んでいても良い。また、かかる共重合方法について以下に説明するが、これに限定されるものではない。
【0009】
なお、かかる3,4−ジオール−1−ブテンとは、下記(2)式、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとは、下記(3)式、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテンは下記(4)式、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテンは下記(5)式で示されるものである。
【化2】

【化3】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
【化4】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
【化5】

(ここで、Rはアルキル基であり、好ましくはメチル基である。)
なお、上記の(2)式で示される化合物は、イーストマンケミカル社から、上記(3)式で示される化合物はイーストマンケミカル社やアクロス社から入手することができる。
【0010】
また、ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0011】
3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等とビニルエステル系モノマー及びエチレンを共重合するに当たっては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
【0012】
共重合時のモノマー成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用される。
【0013】
かかる共重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜7(重量比)程度の範囲から選択される。
【0014】
共重合に当たっては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やt−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、α,α’ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−iso−プロピルパーオキシジカーボネート]、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類などの低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられ、重合触媒の使用量は、触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して10〜2000ppmが好ましく、特には50〜1000ppmが好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により40℃〜沸点程度とすることが好ましい。
【0015】
本発明では、上記触媒とともにヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸を共存させることも得られるEVOHの色調を良好(無色に近づける)にする点で好ましく、該ヒドロキシラクトン系化合物としては、分子内にラクトン環と水酸基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、グルコノデルタラクトン等を挙げることができ、好適にはL−アスコルビン酸、エリソルビン酸が用いられ、また、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、サリチル酸等を挙げることができ、好適にはクエン酸が用いられる。
【0016】
かかるヒドロキシラクトン系化合物またはヒドロキシカルボン酸の使用量は、回分式及び連続式いずれの場合でも、酢酸ビニル100重量部に対して0.0001〜0.1重量部(さらには0.0005〜0.05重量部、特には0.001〜0.03重量部)が好ましく、かかる使用量が0.0001重量部未満では共存の効果が十分に得られないことがあり、逆に0.1重量部を越えると酢酸ビニルの重合を阻害する結果となって好ましくない。かかる化合物を重合系に仕込むにあたっては、特に限定はされないが、通常は低級脂肪族アルコールや酢酸ビニルを含む脂肪族エステルや水等の溶媒又はこれらの混合溶媒で希釈されて重合反応系に仕込まれる。
【0017】
なお、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン等の共重合割合は特に限定されないが、前述の構造単位(1)の導入量に合わせて共重合割合を決定すればよい。
【0018】
また、本発明では、上記の共重合時に本発明の効果を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよく、かかる単量体としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルエチレンカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0019】
さらに、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体、アセトアセチル基含有単量体等も挙げられる。
【0020】
さらにビニルシラン系化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン等を挙げることができる。
【0021】
得られた共重合体は、次いでケン化されるのであるが、かかるケン化にあたっては、上記で得られた共重合体をアルコール又は含水アルコールに溶解された状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0022】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー及び3,4−ジアシロキシ−1−ブテンの合計量に対して0.001〜0.1当量、好ましくは0.005〜0.05当量が適当である。
また、ケン化時の圧力は目的とするエチレン含有量により一概に言えないが、2〜7kg/cmの範囲から選択され、このときの温度は80〜150℃、好ましくは100〜130℃から選択される。
【0023】
かくして、本発明に使用されるEVOHが得られるのであるが、本発明においては、得られたEVOHのエチレン含有量やケン化度は、特に限定されないが、エチレン含有量が10〜60モル%(さらには20〜50モル%、特には25〜48モル%)、ケン化度が90モル%以上(さらには95モル%以上、特には99モル%以上)のものが好適に用いられ、該エチレン含有量が10モル%未満では積層体の高湿時のガスバリア性が低下する傾向にあり、逆に60モル%を越えると溶液の安定性が低下する傾向にあり、さらにケン化度が90モル%未満では積層体のガスバリア性や耐湿性等が低下する傾向にあり好ましくない。
【0024】
また、該EVOHのメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)についても特に限定はされないが、0.1〜100g/10分(さらには0.5〜50g/10分、特には1〜30g/10分)が好ましく、該メルトフローレートが該範囲よりも小さい場合には、溶液の安定性が低下したり、発泡性が大きくなる傾向にあり、また該範囲よりも大きい場合には、多層構造体のガスバリア性が低下したり、塗膜の強度が低下する傾向にあり好ましくない。
【0025】
さらに、得られたEVOH中に導入される上記の構造単位(1)(1,2−グリコール結合を有する構造単位)量としては特に制限はされないが、0.1〜30モル%(さらには0.5〜20モル%、特には1〜15モル%)が好ましく、かかる導入量が0.1モル%未満では本発明の効果が十分に発現されず、逆に30モル%を越えるとガスバリア性が低下する傾向にあり好ましくない。また、1,2−グリコール結合を有する構造単位量を調整するにあたっては、1,2−グリコール結合を有する構造単位の導入量の異なる少なくとも2種のEVOHをブレンドして調整することも可能であるがその際のEVOHのエチレン含有量の差は2モル%未満であることが好ましく、また、そのうちの少なくとも1種が1,2−グリコール結合を有する構造単位を有していなくても構わない。
【0026】
かくして得られたEVOHは、このままで溶媒(B)に溶解することもできるが、本発明においては、かかるEVOHに本発明の目的を阻害しない範囲において、飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等)などの滑剤、無機塩(例えばハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコールなど)、酸素吸収剤(例えば無機系酸素吸収剤として、還元鉄粉類、さらにこれに吸水性物質や電解質等を加えたもの、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等が、有機化合物系酸素吸収剤として、アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス−サリチルアルデヒド−イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト−シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン−コバルト錯体等の含窒素化合物と遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質の反応物、トリフェニルメチル化合物等が、高分子系酸素吸収剤として、窒素含有樹脂と遷移金属との配位結合体(例:MXDナイロンとコバルトの組合せ)、三級水素含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例:ポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素−炭素不飽和結合含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例:ポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例:ポリケトン)、アントラキノン重合体(例:ポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や過酸化物補足剤(市販の酸化防止剤等)や消臭剤(活性炭等)を添加したものなど)、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、充填材(例えば無機フィラー等)、他樹脂(例えばポリオレフィン、ポリアミド等)等を配合しても良い。
【0027】
さらには、本発明の目的を阻害しない範囲において、本発明に使用されるEVOHに酢酸、ホウ酸、リン酸等の酸類やそのアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属塩を添加させることが溶液の安定性を向上させる点で好ましい。
酢酸の添加量としてはEVOH100重量部に対して0.001〜1重量部(さらには0.005〜0.2重量部、特には0.010〜0.1重量部)とすることが好ましく、かかる添加量が0.001重量部未満ではその添加効果が十分に得られないことがあり、逆に0.1重量部を越えると得られる積層体の外観が悪化する傾向にあり好ましくない。
【0028】
ホウ酸金属塩としてはホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)などの他、ホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物などが挙げられ、好適にはホウ砂、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)が挙げられる。ホウ素化合物の添加量としては、EVOH100重量部に対してホウ素換算で0.001〜1重量部(さらには0.002〜0.2重量部、特には0.005〜0.1重量部)とすることが好ましく、かかる添加量が0.001重量部未満ではその添加効果が十分に得られないことがあり、逆に1重量部を越えると溶液の粘度が上昇する傾向にあり好ましくない。
【0029】
また、かかる金属塩としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸や、硫酸、亜硫酸、炭酸、ホウ酸、リン酸等の無機酸の金属塩が挙げられ、好適には酢酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩である。また、該金属塩の添加量としては、EVOH100重量部に対して金属換算で0.0005〜0.01重量部(さらには0.001〜0.05重量部、特には0.002〜0.03重量部)とすることが好ましく、かかる添加量が0.0005重量部未満ではその含有効果が十分に得られないことがあり逆に0.1重量部を越えると乾燥後の塗膜が着色する傾向にあり好ましくない。尚、EVOHに2種以上のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩を添加する場合は、その総計が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
【0030】
EVOHに酸類やその金属塩を添加する方法については、特に限定されず、ア)含水率20〜80重量%のEVOHの多孔性析出物を、酸類やその金属塩の水溶液と接触させて、酸類やその金属塩を含有させてから乾燥する方法、イ)EVOHの均一溶液(水/アルコール溶液等)に酸類やその金属塩を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法、ウ)EVOHと酸類やその金属塩を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法、エ)EVOHの製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の酸類で中和して、残存する酢酸等の酸類や副生成する酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。本発明の効果をより顕著に得るためには、酸類やその金属塩の分散性に優れるア)、イ)またはエ)の方法が好ましい。
【0031】
上記ア)、イ)またはエ)の方法で得られたEVOH組成物は、塩類や金属塩が添加された後、乾燥されても良い。
かかる乾燥方法としては、種々の乾燥方法を採用することが可能である。例えば、実質的にペレット状のEVOHが、機械的にもしくは熱風により撹拌分散されながら行われる流動乾燥や、実質的にペレット状のEVOHが、撹拌、分散などの動的な作用を与えられずに行われる静置乾燥が挙げられ、流動乾燥を行うための乾燥器としては、円筒・溝型撹拌乾燥器、円管乾燥器、回転乾燥器、流動層乾燥器、振動流動層乾燥器、円錐回転型乾燥器等が挙げられ、また、静置乾燥を行うための乾燥器として、材料静置型としては回分式箱型乾燥器が、材料移送型としてはバンド乾燥器、トンネル乾燥器、竪型乾燥器等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。流動乾燥と静置乾燥を組み合わせて行うことも可能である。
【0032】
該乾燥処理時に用いられる加熱ガスとしては空気または不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)が用いられ、該加熱ガスの温度としては、40〜150℃が、生産性とEVOHの熱劣化防止の点で好ましい。該乾燥処理の時間としては、EVOHの含水量やその処理量にもよるが、通常は15分〜72時間程度が、生産性とEVOHの熱劣化防止の点で好ましい。
【0033】
かくして目的とするEVOHあるいはその組成物(以下、これらを単にEVOHと称することがある)が得られるわけであるが、かかるEVOHには、本発明の目的を阻害しない範囲において、多少のモノマー残査(3,4−ジオール−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン、4,5−ジオール−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、4,5−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン等)やモノマーのケン化物(3,4−ジオール−1−ブテン、4,5−ジオール−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン等)を含んでいてもよい。
【0034】
かくして得られたEVOHは1種のみを用いても良いし、エチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHとブレンドして使用しても良い。そのブレンド方法としては、特に限定されず、各EVOHを水−アルコールやジメチルスルフォキサイド等の溶剤に溶解して溶液状態で混合する方法、各EVOHのケン化前のエチレン−酢酸ビニル系共重合体をメタノール等のアルコール溶媒に溶解した状態で混合して同時にケン化する方法、あるいは各EVOHを溶融混合する方法などが挙げられる。
【0035】
溶融混合における手段としては、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、プラストミルなどの公知の混練装置を使用して行うことができるが、通常は単軸又は二軸の押出機を用いることが工業上好ましく、また、必要に応じて、ベント吸引装置、ギヤポンプ装置、スクリーン装置等を設けることも好ましい。特に、水分や副生成物(熱分解低分子量物等)を除去するために、押出機に1個以上のベント孔を設けて減圧下に吸引したり、押出機中への酸素の混入を防ぐために、ホッパー内に窒素等の不活性ガスを連続的に供給したりすることにより、熱着色や熱劣化が軽減された品質の優れた溶融混合物を得ることができる。
【0036】
かくして本発明で使用されるEVOH(A)が得られるわけであるが、本発明の溶液は、かかるEVOH(A)と溶媒(B)を含有してなるもので、具体的には、EVOH(A)を溶媒(B)に溶解してEVOH溶液とすればよく、その方法について以下に説明する。
【0037】
かかるEVOHを溶解させるための溶媒(B)としては、EVOH(A)を溶解するものであれば特に限定されないが、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アルコール系溶媒、ギ酸、フェノール系溶媒等が挙げられるが、乾燥が容易であり、毒性が低い点でアルコール系溶媒が好ましく、アルコール系溶媒の中でも、炭素数が1〜4のアルコールがより溶液の安定性が良好である点で好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリブタノールが挙げられ、これらの混合溶媒または水との混合溶媒も溶液の安定性が良好である点で好ましい。また、水との混合溶媒の場合、該混合溶媒中の水の量は、10〜90重量%(さらには30〜70重量%、特には40〜60重量%)が好ましく、かかる水の量が10重量%未満又は90重量%を超えると、溶液の安定性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0038】
また、EVOH溶液中のEVOHの濃度は、1〜50重量%(さらには5〜40重量%、特には10〜30重量%)が好ましく、かかるEVOHの濃度が1重量%未満では造膜時にフィルムの透明性が低下する場合があり、また、蒸発させる溶媒の量が膨大となりコスト的にもメリットが無く、逆に50重量%を超えると溶液の粘度が高くなって泡立が激しくなり、また、残存溶剤が抜けにくくなる等塗工性が低くなって好ましくない。EVOHを溶解するにあたっては、通常攪拌下で40℃〜溶媒の沸点(さらには50℃〜溶媒の沸点、特には70℃〜溶媒の沸点)、0.1〜10時間(さらには0.5〜5時間、特には1〜3時間)程度溶解させればよい。
【0039】
かくして本発明の溶液(以下、EVOH溶液という)が得られるのであるが、本発明においては、かかるEVOH溶液に本発明の効果を阻害しない範囲で、エチレン含有量、ケン化度や変性度の異なるEVOH、クレー、シリカ、タルク等の無機物、消泡剤、スリッピング剤、界面活性剤等を添加することも可能である。
【0040】
本発明のEVOH溶液は、各種基材に塗工されて積層体とするのが有効的で、かかる基材としては特に制限はなく、熱可塑性樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したものなどの広義のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、芳香族または脂肪族ポリケトン、更にこれらを還元して得られるポリアルコール類、更には他のEVOH等が挙げられるが、積層体の物性(特に強度)等の実用性の点から、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン(ブロック又はランダム)共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等があげられ、それら各種プラスチックスの延伸あるいは未延伸フイルム、シート、中空容器あるいは紙、セロファン、セルローズアセテート、天然ゴム、合成ゴム、金属等が基材として挙げられる。かかる基材の厚みは10〜1000μm程度が適当である。
【0041】
上記の基材にEVOH溶液を塗工するにあたっては、メイヤーバー、グラビヤ及びリバースロール方式等のローラーコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法その他任意の公知方法が適用できる。又、基材の種類によってはEVOHのコーティング層との接着力を向上させるため、表面酸化処理、火炎処理、アンカーコート処理、プライマー処理等が適宜実施可能である。アンカー処理剤としてはポリウレタン系化合物やポリエステル・イソシアネート系化合物が好適に利用され得る。アンカーコート層の膜厚は0.05〜3μm程度が実用的である。又、EVOH溶液を基材に塗布した後、乾燥が行なわれる。乾燥温度は60〜120℃(さらには80〜100℃)程度の温度で3秒〜5分程度加熱すれば良い。かかる乾燥において塗膜中の揮発分が除去されるのであるが、揮発分が2重量%以下となるまで行えば良い。
【0042】
かくしてEVOHの透明な塗膜が形成されるわけであるが、その膜厚は0.05〜15μm(さらには0.1〜10μm、特には0.3〜5μm)が好ましく、かかる膜厚が0.05μm未満では充分なガスバリア性が発揮し難く、逆に15μmを超えるとその膜厚コントロールに困難を生じる場合があり好ましくない。又必要に応じて、該塗膜上に更に塩化ビニリデン樹脂コート、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体コート等によって、防湿層を形成させることも勿論可能である。
【0043】
乾燥に続いて、乾燥を実施した温度より20℃以上高くかつ140℃以下の温度、通常は100℃以上から130℃程度の温度で熱処理を施こすこともできる。かかる熱処理時間は通常1〜60秒程度である。
【0044】
上記のごとく、各種基材にEVOH溶液をコーティングした積層体は、その形状は、フィルム状、シート状、中空ビン、チューブ等任意のものであって良く、食品、飲料、薬品、医薬等の包装材料あるいは容器として有用である。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明の方法を具体的に説明する。なお、以下「%」とあるのは、特にことわりのない限り、重量基準を意味する。
【0046】
重合例1
下記の方法によりEVOH組成物(A1)を得た。
冷却コイルを持つ1mの重合缶に酢酸ビニルを500kg、メタノール100kg、アセチルパーオキシド500ppm(対酢酸ビニル)、クエン酸20ppm、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを14kgを仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、次いでエチレンで置換して、エチレン圧が35kg/cm2となるまで圧入して、攪拌した後、67℃まで昇温して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを15g/分で全量4.5kgを添加しながら重合し、重合率が50%になるまで6時間重合した。その後、重合反応を停止してエチレン含有量29モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体を得た。
【0047】
該エチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液を棚段塔(ケン化塔)の塔上部より10kg/時の速度で供給し、同時に該共重合体中の残存酢酸基に対して、0.012当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を塔上部より供給した。一方、塔下部から15kg/時でメタノールを供給した。塔内温度は100〜110℃、塔圧は3kg/cmGであった。仕込み開始後30分から、1,2−グリコール結合を有する構造単位を有するEVOHのメタノール溶液(EVOH30%、メタノール70%)が取出された。かかるEVOHの酢酸ビニル成分のケン化度は99.5モル%であった。
【0048】
次いで、得られた該EVOHのメタノール溶液をメタノール/水溶液調整塔の塔上部から10kg/時で供給し、120℃のメタノール蒸気を4kg/時、水蒸気を2.5kg/時の速度で塔下部から仕込み、塔頂部よりメタノールを8kg/時で留出させると同時に、ケン化で用いた水酸化ナトリウム量に対して6当量の酢酸メチルを塔内温95〜110℃の塔中部から仕込んで塔底部からEVOHの水/アルコール溶液(樹脂濃度35%)を得た。
【0049】
得られたEVOHの水/アルコール溶液を、孔径4mmのノズルより、メタノール5%、水95%よりなる5℃に維持された凝固液槽にストランド状に押し出して、凝固終了後、ストランド状物をカッターで切断し、直径3.8mm、長さ4mmの含水率45%のEVOHの多孔性ペレットを得た。
該多孔性ペレット100部に対して水100部で洗浄した後、0.032%のホウ酸及び0.007%のリン酸二水素カルシウムを含有する混合液中に投入し、30℃で5時間撹拌した。さらにかかる多孔性ペレットを回分式通気箱型乾燥器にて、温度70℃、水分含有率0.6%の窒素ガスを通過させて12時間乾燥を行って、含水率を30%とした後に、回分式塔型流動層乾燥器を用いて、温度120℃、水分含有率0.5%の窒素ガスで12時間乾燥を行って目的とするEVOH組成物のペレットを得た。かかるペレットは、EVOH100重量部に対して、ホウ酸およびリン酸二水素カルシウムをそれぞれ0.015重量部(ホウ素換算)および0.005重量部(リン酸根換算)含有していた。
また、このEVOH組成物のMFRは4.0g/10min(210℃、荷重2160g)であった。
【0050】
また、1,2−グリコール結合の導入量は、ケン化前のエチレン−酢酸ビニル共重合体をH−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6−DMSO)で測定して算出したところ、2.5モル%であった。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。
【化6】

【0051】
H−NMR](図1参照)
1.0〜1.8ppm:メチレンプロトン(図1の積分値a)
1.87〜2.06ppm:メチルプロトン
3.95〜4.3ppm:構造(I)のメチレン側のプロトン+未反応の3,4−ジア セトキシ−1−ブテンのプロトン(図1の積分値b)
4.6〜5.1ppm:メチンプロトン+構造(I)のメチン側のプロトン(図1の積 分値c)
5.2〜5.9ppm:未反応の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのプロトン(図1 の積分値d)
【0052】
[算出法]
5.2〜5.9ppmに4つのプロトンが存在するため、1つのプロトンの積分値はd/4、積分値bはジオールとモノマーのプロトンが含まれた積分値であるため、ジオールの1つのプロトンの積分値(A)は、A=(b−d/2)/2、積分値cは酢酸ビニル側とジオール側のプロトンが含まれた積分値であるため、酢酸ビニルの1つプロトンの積分値(B)は、B=1−(b−d/2)/2、積分値aはエチレンとメチレンが含まれた積分値であるため、エチレンの1つのプロトンの積分値(C)は、C=(a−2×A−2×B)/4=(a−2)/4と計算し、構造単位(1)の導入量は、100×{A/(A+B+C)}=100×(2×b−d)/(a+2)より算出した。
【0053】
また、ケン化後のEVOHに関しても同様にH−NMR測定を行った結果を図2に示す。1.87〜2.06ppmのメチルプロトンに相当するピークが大幅に減少していることから、共重合された3,4−ジアセトキシ−1−ブテンもケン化され、1,2−グリコール構造となっていることは明らかである。
【0054】
重合例2
下記の方法によりEVOH組成物(A2)を得た。
重合例1において、重合缶に酢酸ビニルを500kg、メタノール35kg、クエン酸20ppm、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを14kgを仕込み、次いでエチレンで置換して、t−ブチルパーオキシネオデカノエートの代わりにアセチルパーオキシド500ppm(対酢酸ビニル)を5時間かけて添加し、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを15g/分として全量4.5kgを添加しながら重合し、ホウ酸を添加しなかった以外は同様に行い、側鎖に1,2−グリコール結合を有する構造単位の導入量が2.5モル%、エチレン含有量38モル%、リン酸二水素カルシウム含有量0.005重量部(リン酸根換算)、MFRが4.0g/10分(210℃、荷重2160g)のEVOH組成物(A2)を得た。
【0055】
重合例3
下記の方法によりEVOH組成(A3)を得た。
重合例2の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの代わりに3,4−ジアセトキシ−1−ブテンと3−アセトキシ−4−オール−1−ブテンと1,4−ジアセトキシ−1−ブテンの70:20:10の混合物を用いた以外は同様に行い、1,2−グリコール導入量2.0モル%、エチレン含有量38モル%、ホウ酸含有量0.015重量部(ホウ素換算)、リン酸二水素カルシウム含有量0.005重量部(リン酸根換算)、MFRが3.7g/10minのEVOH組成物(A3)を得た。
【0056】
別途、エチレン含有量29モル%、ケン化度99.5モル%、MFR=3.5g/分(210℃、荷重2160g)ホウ酸の含有量(ホウ素換算)0.015重量部、リン酸二水素カルシウム含有量0.005重量部(リン酸根換算)、の1,2−グリコール結合を有しないEVOH組成物(A4)を用意した。
【0057】
実施例1
水50%、イソプロピルアルコール50%の混合溶媒にEVOH組成物(A1)を濃度が15%となるように添加し、還流管付きのセパラブルフラスコ内で70℃で攪拌しながら溶解し、本発明のEVOH溶液を得た。
【0058】
この溶液に関して以下の様に溶液の安定性、消泡性及びガスバリア性の評価を行った。
<溶液安定性>
溶液を23℃の恒温下に放置し、溶液が白濁してくるまでの日数で評価した。
<消泡性>
高さ36cm、内径5cm、容量500ccのメスシリンダーにEVOH溶液を100cc入れ、上部にゴム栓をして密封し、半回転させてもとに戻す操作を1秒に1回の速度で50回行ったあと静置し、1分後の泡立ちの状況を目視で確認し評価した。
○・・・溶液面に泡は見られない
△・・・溶液面に少量の泡が見られる
×・・・溶液面全体に泡が見られる
【0059】
<ガスバリア性>
厚み25μmのO−PPフィルムにポリエステル系AC剤(大日精化工業社製「セイカボンドE−263/C26」)1μmをコーティングして乾燥し、さらにEVOH溶液をバーコーターを用いて、EVOHのコーティング層(乾燥後)が3μmになるように塗工し、20℃、65%RHの条件下での酸素透過度をモコン社製「OXTRAN2−20」を用いて測定した。
【0060】
実施例2
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりにEVOH組成物(A2)を用いて以外は同様にEVOH溶液を作製し、同様に評価を行った。
【0061】
実施例3
実施例1において、溶媒(B)を水50%、エチルアルコール50%の混合溶媒とした以外は同様にEVOH溶液を作製し、同様に評価を行った。
【0062】
実施例4
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりにEVOH組成物(A3)を用いた以外は同様にEVOH溶液を作製し、同様に評価を行った。
【0063】
比較例1
実施例1において、EVOH組成物(A1)の代わりにEVOH組成物(A4)を用いた以外は同様にEVOH溶液を作製し、同様に評価を行った。
【0064】
比較例2
EVOH組成物(A4)を水50%、イソプロピルアルコール50%の混合溶媒に17%となるように溶解し、この溶液に100部に対して30%の濃度の過酸化水素水13部を添加し、80℃で20時間攪拌下で反応させた後、カタラーゼを3000ppmとなるように添加して、残存する過酸化水素を除去して15%のEVOH溶液を得た。溶液は淡黄色に着色していた。
得られたEVOH溶液について、実施例1と同様に評価を行った。
【0065】
実施例及び比較例の評価結果を表1にまとめて示す。
【0066】
〔表1〕
溶液安定性 消泡性 ガスバリア性*
実施例1 >30日 ○ 4.0
〃 2 >30日 ○ 6.0
〃 3 25日 ○ 4.0
〃 4 28日 ○ 5.5
比較例1 1日 × 4.0
〃 2 25日 × 12.3
*:cc/m・day・atm
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のEVOH溶液は、溶液安定性、消泡性に優れ、その溶液をコーティングした積層体はガスバリア性能が良好であり、食品や医療品の包装材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】重合例1で得られたEVOHのケン化前のH−NMRチャートである。
【図2】重合例1で得られたEVOHのH−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造単位(1)を含有するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)および溶媒(B)を含有してなることを特徴とする溶液。
【化1】

(ここで、Xは結合鎖であってエーテル結合を除く任意の結合鎖で、R1〜R4はそれぞれ独立して任意の置換基であり、nは0または1を表す。)
【請求項2】
構造単位(1)のR1〜R4がそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数3〜8の環状炭化水素基又は芳香族炭化水素基のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の溶液。
【請求項3】
構造単位(1)のR1〜R4がいずれも水素原子であることを特徴とする請求項1または2記載の溶液。
【請求項4】
構造単位(1)のXが炭素数6以下のアルキレンであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の溶液。
【請求項5】
構造単位(1)のnが0であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の溶液。
【請求項6】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量が10〜60モル%であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の溶液。
【請求項7】
構造単位(1)が共重合によりエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の分子鎖中に導入されたものであることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の溶液。
【請求項8】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の分子鎖中に構造単位(1)を0.1〜30モル%含有することを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の溶液。
【請求項9】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンの共重合体をケン化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の溶液。
【請求項10】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンの共重合体をケン化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の溶液。
【請求項11】
溶媒(B)がアルコール系溶媒であることを特徴とする請求項1〜10いずれか記載の溶液。
【請求項12】
溶媒(B)が炭素数1〜4のアルコールと水の混合溶媒であることを特徴とする請求項1〜11いずれか記載の溶液
【請求項13】
請求項1〜12いずれか記載の溶液を基材にコーティングしてなることを特徴とする積層体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−96818(P2006−96818A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282142(P2004−282142)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】