説明

溶液製膜の製造方法及び製造装置

【課題】配向軸の変動を抑制することができる溶液製膜の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】ポリマーと溶媒とを含むドープを流延ダイ22から支持体24上に流延して流延膜70を形成し、流延膜70を支持体24から剥ぎ取ってテンター装置42に送り、流延膜70を少なくとも乾燥して巻き取る溶液製膜の製造方法において、支持体24とテンター装置42との間に張力制御手段36を設け、張力制御手段36によって流延膜70を支持体24から剥ぎ取るテンションを一定に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜の製造方法及び製造装置に関し、特にポリマーと溶媒とを含むドープを流延ダイから支持体上に流延して流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体から剥ぎ取ってテンター装置に送り、該流延膜を少なくとも乾燥して巻き取る溶液製膜の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用途のポリマーフィルムに対する要求特性は、近年、ますます厳しくなっており、わずかな異物の含有も許容されず、フィルムの光学特性についてもその均一性の要求レベルが上がる一方である。
【0003】
溶液製膜方法は、周知の通り、ポリマーが溶媒に溶解しているドープをダイから支持体の上に流延して流延膜を形成し、流延膜を剥ぎ取って乾燥することによりフィルムを製造する方法である。この溶液製膜方法は、流延膜を支持体の上で乾燥する過程で、流延膜の流動性により流延膜の露出面が平らになろうとするいわゆるレベリング作用があり、このレベリング作用により、フィルム面の平滑性が溶融製膜に比べて優れるという利点がある。
【0004】
しかしながら、溶液製膜方法によるポリマーフィルムは、ダイから支持体上に流延する際や、流延後に支持体から剥離する際など、流延膜は溶剤を含んでいることもあり非常に柔らかく、外力等に左右され易いため、スジや横段等の欠陥が発生し易いという問題がある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1では、流延膜を支持体から剥ぎ取る剥離ローラの汚れが少ないセルロースエステルフィルムの製造方法、及びその製造方法により、カールが少なく、且つ、高い引き裂き強度を有するセルロースエステルフィルムについて開示されている。また、特許文献2では、横段のない平面性に優れた液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス等画像表示装置に有用なセルロースエステルフィルムについて開示されている。また、特許文献3では、搬送途中のフィルムに擦り傷、孔写り、しわなどの品質故障が発生しないようにした溶液製膜方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−210766号公報
【特許文献2】特開2002−28943号公報
【特許文献3】特開2006−306019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の溶液製膜法によるフィルムの製造方法では、フィルムの配向軸がばらつくという問題があった。配向軸がばらつくことにより、このフィルムが光学フィルムとして液晶装置などに使用されると、コントラストが低下するという問題が発生する。さらに、近年の液晶モニタ等の光学機器の高精細化により、要求される配向軸のばらつきの範囲が厳しくなってきた。
【0008】
従来、この配向軸の変動が起こるメカニズムがよく分かっていなかったため、有効な対策を立てることができなかった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、溶液製膜の製造方法及び製造装置において配向軸の変動を抑制することができる溶液製膜の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するために、ポリマーと溶媒とを含むドープを流延ダイから支持体上に流延して流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体から剥ぎ取ってテンター装置に送り、該流延膜を少なくとも乾燥して巻き取る溶液製膜の製造方法において、前記支持体と前記テンター装置との間に張力制御手段を設け、前記流延膜を該支持体から剥ぎ取るテンションを一定に保つことを特徴とする溶液製膜の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記目的を達成するために、一定速度で走行する支持体と、前記支持体上に近接して配置され、ポリマーと溶剤とを含むドープを前記支持体に向けて流延する流延ダイと、前記支持体上に形成された流延膜を乾燥するテンター装置と、前記支持体と前記テンター装置との間に設けられ、前記流延膜を該支持体から剥ぎ取るテンションを一定に保つ張力制御手段と、を備えることを特徴とする溶液製膜の製造装置を提供する。
【0012】
本願発明者は、支持体の速度とテンター装置での搬送速度に差が生じた場合、支持体とテンター装置との間のテンションが一定でなくなり、配向軸の変動が生じるという知見を得た。
【0013】
そこで、支持体とテンター装置との間に張力制御手段を設け、流延膜を支持体から剥ぎ取るテンションを一定に保つようにした。
【0014】
本発明により、配向軸の変動を抑制することができる溶液製膜の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【0015】
本発明において、前記張力制御手段は、ダンサーローラであることが好ましい。
【0016】
本発明において、前記支持体と前記テンター装置との間に設けられた少なくとも一つのローラの慣性は0.2kg・m2 以下である低慣性ローラであることが好ましく、0.15kg・m2 以下である低慣性ローラであることがより好ましく、0.1kg・m2 以下である低慣性ローラであることがさらに好ましい。
【0017】
ローラ慣性が高いと、速度変動への追従性が劣り、その結果、ローラ慣性によるテンション変動を招く。それ故に、低慣性にすることによりベースの速度変動に伴うテンション変動を抑制でき、配向軸をより一定に保つことが可能となる。検討の結果、0.2kg・m2 以下であれば、配向軸を安定させる効果があることを見出した。0.15kg・m2 以下であればよりよく、0.1kg・m2 以下であればさらに良いことが分かった。ここで、例えば、アルミは0.102kg・m2、CFRP(カーボン製)は0.042kg・m2 である。
【0018】
さらに、本発明において、前記支持体と前記テンター装置との間に設けられたダンサーローラのテンション付与機構のメカロスは2.5N以下であることが好ましく、1.5N以下であることがさらに好ましい。
【0019】
テンション付与機構に使用するシリンダーのメカロス(摩擦力)が大きいと、ダンサーローラが移動する際に生じるテンション変動を招く。それ故に、メカロスを抑制することでダンサーローラ移動に伴うテンション変動を抑制でき、配向軸をより一定に保つことが可能となる。検討の結果、2.5N以下であれば配向軸が安定し、さらに好ましくは1.5N以下で効果があることを見出した。
【0020】
支持体とテンター装置との間に設けられた搬送ローラやダンサーローラが上記数値以下の低慣性ローラであること、さらにテンション付与機構を上記数値以下の低メカロス機構であることで、さらに支持体とテンター装置との間のテンションを一定に近づけることができるので、さらに配向軸の変動を抑制することができる。
【0021】
本発明では、前記ポリマーはセルロースアシレートであることが好ましい。セルロースアシレートがアシル基の置換度2.0以上2.98以下のセルロースアセテートであることがより好ましい。前記セルロースアシレートはDAC(ジアセチルセルロース)またはCAP(セルロースアセテートプロピネート)であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、配向軸の変動を抑制することができる溶液製膜の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用される溶液製膜の製造装置の構成を示す構成図
【図2】本発明に係る支持体とテンター装置との間の拡大図
【図3】比較例と実施例での張力の変動を解析した結果を示す図
【図4】比較例と実施例での配向軸の変動を周波数解析した結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0025】
図1に示すように、溶液製膜の製造装置10は、フィルムの成分である例えばセルロースエステル等を溶媒中に溶解させたドープを薄板状に流延してフィルム70を作製する流延部20と、フィルム70を流延部20からテンター部40に引き渡す渡り部30と、フィルム70をフィルムの幅方向に延伸するテンター部40と、フィルム70を乾燥させる乾燥部50と、フィルム70を巻き取ってロール状にする巻き取り部60と、を主に備えて構成される。
【0026】
流延部20は、ドープを流延バンド(支持体ともいう。)24に流出させるダイ22と、ダイ22から流出したドープを薄板状に流延する流延バンド24と、流延バンド24を回転させる一組の回転ローラ26、26と、を主に含んでいる。流延ダイ22は、ドープを図示しないスリットから走行している流延バンド24上に流出させる。流延バンド24は、走行しながらドープを受け取ることにより、ドープを薄板状に流延して流延膜70を作製する。流延膜70は、流延バンド24上に付着したまま、流延バンド24とともに移動する。ここで、上記において、流延バンドを用いた流延部について説明したが、これに限定されるものではなく、流延部20は、流延バンドの代わりに流延ドラムを使用しても良い。
【0027】
渡り部30は、流延バンド24から流延膜70を剥ぎ取る剥ぎ取りローラ32と、剥ぎ取ったフィルム70をテンター部40まで運ぶ1以上の渡りローラ34と、を主に含んでいる。剥ぎ取りローラ32は、流延バンド24上に付着している流延膜70を剥ぎ取り、剥ぎ取ったフィルム70をテンター部40まで移動させる。
【0028】
テンター部40は、テンター装置42から構成されている。図示しないが、テンター装置42は、一組のレールと、レールに案内されて走行するチェーンと、チェーンに取り付けられ、流延膜70の側縁部を把持する複数のクリップと、流延膜70に乾燥空気を吹き付ける送風手段と、で構成されている。渡り部30から運ばれた流延膜70は、クリップによりその両側縁部が把持され、幅方向に張力を付与されながら搬送され、乾燥空気により溶剤が乾燥される。
【0029】
乾燥部50は、乾燥室52と、冷却室54と、を主に含んでいる。乾燥室52は流延膜70に含まれる溶媒成分をさらに蒸発させるための装置であり、そのために、その内部を温度調整するための装置、または、温度調整された空気を流延膜70に吹きかけるための装置等を備えていても良い。また、乾燥室52は、蒸発した溶媒を回収する装置(図示せず)も備えている。冷却室54は、流延膜70が略室温になるまで徐々に流延膜70を冷却するための装置であり、そのために、空調装置、温調装置などを備えていても良い。乾燥室52は、テンター部40から移動してきた流延膜70に含まれている溶媒を蒸発させて、蒸発した溶媒を回収する。次に、冷却室54では、乾燥室52で加熱された流延膜70を冷却する。冷却室を出たところには、通常、除電装置が設けられ、その除電装置により、流延膜70に帯電している電荷が除電される。
【0030】
巻き取り部60は、巻き取り装置62を主に備える。巻き取り装置62は、冷却室54から出てきた流延膜70を巻き取って、巻き取りロール64を作製する。
【0031】
次に、本発明に係る溶液製膜装置の作動について図1を参照して説明する。
【0032】
図1に示すように、フィルムの成分を溶媒中に溶解させたドープが、図示しないドープ製造装置からダイ22に供給される。ドープは、流延ダイ22のスリット(図示せず)から走行している流延バンド24上に供給される。流延バンドは、一組の回転ローラ26、26に巻き掛けられており、回転ローラ26が回転駆動されることにより、動力が伝えられて一組の回転ローラ26、26の回りを回るように走行する。
【0033】
ドープは、走行中に流延バンド24上に供給されることにより、薄板状に流延されて流延膜70になる。流延バンド24は、流延膜70を乗せて走行し、剥ぎ取りローラ32のところまで流延膜70を運ぶ。このとき、流延部20には、図示しない温調装置、送風機、凝縮器等が設けられており、温調された雰囲気内で、乾燥した空気を送風機で流延膜70に吹きかけることにより、フィルム70に含まれる溶媒成分を概ね固形分100%に対し30〜40%になるまで蒸発させ、凝縮器で溶媒成分を回収する。
【0034】
次に、剥ぎ取りローラ32は、流延バンド(支持体)24上の流延膜70を剥ぎ取り、渡りローラ34は、剥ぎ取られた流延膜70をテンター部40に運ぶ。
【0035】
ここで、支持体24の速度とテンター装置42での搬送速度に差が生じた場合や、支持体24から流延膜70を剥ぎ取る剥離荷重の変動、流延膜の膜厚・乾燥状態のムラによる弾性率の変動が発生した場合に、渡り部30(支持体24とテンター装置42との間)での流延膜70にかかるテンションが一定でなくなり、配向軸の変動が生じるという知見を得た。
【0036】
そこで、本発明では、支持体24とテンター装置42との間にダンサーローラ36を設け、流延膜を支持体から剥ぎ取るテンションを一定に保つようにした。具体的には、図1に示す通り、剥ぎ取りローラ32と渡りローラ34との2つのローラ間にダンサーローラ36を備えることができる。また、剥ぎ取りローラ32と渡りローラ34との距離が長い場合には、図2に示すように、搬送ローラ38、38を備えるようにしても良い。
【0037】
支持体24とテンター装置42との間に設けられた少なくとも一つのローラの慣性は0.2kg・m2 以下が好ましく、より好ましくは0.15kg・m2 以下、さらに好ましくは0.1kg・m2 以下である低慣性ローラであることが好ましい。
【0038】
また、ダンサーローラ36のテンション付与機構のメカロスは2.5N以下であることが好ましく、1.5N以下である低メカロス機構であることがさらに好ましい。
【0039】
支持体とテンター装置との間に設けられた剥ぎ取りローラ32、渡りローラ34、搬送ローラ38、38やダンサーローラ36が低慣性ローラであることと、ダンサーローラ36に付属するテンション付与機構37のメカロスが低メカロス機構であることで、さらに支持体とテンター装置との間のテンションを一定に近づけることができるので、さらに配向軸の変動を抑制することができる。
【0040】
ここで、図1の溶液製膜の製造装置10において、剥ぎ取りローラ32と渡りローラ34との2つのローラ間にダンサーローラを備えないものを比較例、図1のように剥ぎ取りローラ32と渡りローラ34との2つのローラ間にダンサーローラ36を備えたものを実施例として実験を行ったものを示す。流延バンド24の駆動ベルト長さは5.7m(メートル)、回転ローラ26の円周は4.1m(メートル)とした。なお、剥ぎ取りローラ32と渡りローラ34は、慣性が0.2kg・m2 の低慣性ローラとした。また、テンション付与機構37のメカロスは2.5Nの機構を採用した。
【0041】
具体的には、流延膜は厚み60μm、幅800mmのものを作成し、流延膜の幅方向の中心位置を長手方向において5.67mm周期で遅相軸の測定を行い、測定で得られた配向角の標準偏差を評価した。この結果、比較例における標準偏差を100%としたときの実施例における標準偏差が90%であった。
【0042】
図3は、この実験の比較例と実施例での張力の変動を解析した結果を示した図であり、図4は、比較例と実施例での配向軸の変動を周波数解析した結果を示した図である。
【0043】
図3が示すように、ダンサーローラ36を備えていない比較例では張力の変動が±9N程度あるものが、ダンサーローラ36を備えた実施例では張力の変動が±1N程度に抑制されていることが分かる。また、図4が示すように、ダンサーローラ36を備えた実施例では、ダンサーローラ36を備えていない比較例と比較して、流延バンド24や回転ローラ26の周期の比較的長周期な成分は半減以下に抑制されていることが分かる。
【0044】
なお、回転ローラ26は製作精度上、完全な真円ではないことや、駆動伝達系に起因する流延バンド24の駆動速度の変動は必ず発生してしまう。この速度変動により張力の変動が起き、張力の変動が配向軸の変動に関係すると考えられる。したがって、本発明では、支持体とテンター装置との間にダンサーローラを設け流延膜を支持体から剥ぎ取るテンションを一定に保つようにしたので、配向軸の変動を抑制することができる。
【0045】
剥ぎ取りローラ32が剥ぎ取った流延膜70を渡りローラ34が、テンター部40に運ぶ。
【0046】
テンター装置42では、クリップ(不図示)が流延膜70の両側縁部を把持して、末広がりに外側に移動することにより、フィルム70を幅方向に延伸することができる。クリップは、流延膜70を幅方向に延伸した後、把持を解除する。把持を解除された流延膜70は、乾燥部50に送られる。
【0047】
乾燥部50では、乾燥室52に設置された温調装置(不図示)により、乾燥室52内部の温度、湿度が調整され、さらに送風機(不図示)によって流延膜70に空気を吹き付けて、流延膜70内部の溶媒を蒸発させる。乾燥部50は、凝縮器(不図示)を備えて、乾燥室52において流延膜70から蒸発した溶媒を凝縮させて回収する。
【0048】
乾燥室52で、内部の溶媒量を調整された流延膜70は、冷却室54に送られる。冷却室54にも温調装置(不図示)が備えられ、冷却室54内の雰囲気の温度、湿度が調整されている。この冷却室54で流延膜70は、冷却される。この際、送風機(不図示)によって、空気を流延膜70に吹き付けることにより、冷却を促進しても良い。
【0049】
冷却室54で冷却された後、流延膜70は、除電装置(不図示)により、帯電した電荷を除電される。除電された流延膜70は、巻き取り部60の巻き取り装置62で巻き取られて、巻き取りロール64が形成される。
【0050】
ここで、上記においては、流延バンド24を使用する装置について説明したが、流延バンド24ではなく、流延ドラムを使用した場合でも、同様の効果を得ることができることは言うまでもない。
【0051】
なお、本発明では、溶液製膜でフィルム(流延膜)とすることができる全てのポリマーについて適用することができるが、ポリマーはセルロースアシレートであることが好ましい。また、セルロースアシレートがアシル基の置換度2.0以上2.98以下のセルロースアセテートであることがより好ましい。セルロースアシレートはDAC(ジアセチルセルロース)またはCAP(セルロースアセテートプロピネート)であることがさらに好ましい。
【0052】
ポリマーがセルロースアシレートの場合に流延膜の配向軸の変動が顕著に現れ、特にアシル基の置換度2.0以上2.98以下の低置換度のセルロースアセテートの場合に配向軸の変動が顕著に現れる。したがって、このようなポリマーを用いたときに、本発明の支持体とテンター装置との間にダンサーローラを設け、流延膜を支持体から剥ぎ取るテンションを一定に保つようにすることで、効果的に配向軸の変動を抑制することができる。
【0053】
溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0054】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0055】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子
数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0056】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
10…溶液製膜の製造装置、20…流延部、22…ダイ、24…流延バンド(支持体)、26…回転ローラ、30…渡り部、32…剥ぎ取りローラ、34…渡りローラ、36…ダンサーローラ(張力制御手段)、37…テンション付与機構、38…搬送ローラ、40…テンター部、42…テンター装置、50…乾燥部、52…乾燥室、54…冷却室、60…巻き取り部、62…巻き取り装置、64…巻き取りロール、70…流延膜(フィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを流延ダイから支持体上に流延して流延膜を形成し、この流延膜を前記支持体から剥ぎ取ってテンター装置に送り、該流延膜を少なくとも乾燥して巻き取る溶液製膜の製造方法において、
前記支持体と前記テンター装置との間に張力制御手段を設け、前記流延膜を該支持体から剥ぎ取るテンションを一定に保つことを特徴とする溶液製膜の製造方法。
【請求項2】
前記張力制御手段は、ダンサーローラであることを特徴とする請求項1に記載の溶液製膜の製造方法。
【請求項3】
前記支持体と前記テンター装置との間に設けられた少なくとも一つのローラの慣性は0.2kg・m2 以下である低慣性ローラであることを特徴とする請求項2に記載の溶液製膜の製造方法。
【請求項4】
前記支持体と前記テンター装置との間に設けられた少なくとも一つのローラの慣性は0.15kg・m2 以下である低慣性ローラであることを特徴とする請求項2に記載の溶液製膜の製造方法。
【請求項5】
前記支持体と前記テンター装置との間に設けられた少なくとも一つのローラの慣性は0.1kg・m2 以下である低慣性ローラであることを特徴とする請求項2に記載の溶液製膜の製造方法。
【請求項6】
前記支持体と前記テンター装置との間に設けられたダンサーローラのテンション付与機構のメカロスは2.5N以下であることを特徴とする請求項2〜5の何れか1に記載の溶液製膜の製造方法。
【請求項7】
前記支持体と前記テンター装置との間に設けられたダンサーローラのテンション付与機構のメカロスは1.5N以下であることを特徴とする請求項2〜5の何れか1に記載の溶液製膜の製造方法。
【請求項8】
前記ポリマーはセルロースアシレートであることを特徴とする請求項1〜7の何れか1に記載の溶液製膜の製造方法。
【請求項9】
前記セルロースアシレートがアシル基の置換度2.0以上2.98以下のセルロースアセテートであることを特徴とする請求項8に記載の溶液製膜の製造方法。
【請求項10】
前記セルロースアシレートはDAC(ジアセチルセルロース)又はCAP(セルロースアセテートプロピネート)であることを特徴とする請求項8又は9に記載の溶液製膜の製造方法。
【請求項11】
一定速度で走行する支持体と、
前記支持体上に近接して配置され、ポリマーと溶剤とを含むドープを前記支持体に向けて流延する流延ダイと、
前記支持体上に形成された流延膜を乾燥するテンター装置と、
前記支持体と前記テンター装置との間に設けられ、前記流延膜を該支持体から剥ぎ取るテンションを一定に保つ張力制御手段と、
を備えることを特徴とする溶液製膜の製造装置。
【請求項12】
前記張力制御手段は、ダンサーローラであることを特徴とする請求項11に記載の溶液製膜の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−86494(P2012−86494A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236713(P2010−236713)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】