説明

滑動テーブル

【課題】テーブル板の円滑な移動を安定に実現することができる滑動テーブルを提供すること。
【解決手段】支持板11、支持板の上面に配置された複数個の球体12、12〜、上下に開口し且つ上側の開口14aの直径が球体の直径よりも小さな値に設定された複数個の透孔13、13、〜を備え、そして各透孔に上記球体を上下の開口から部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持している球体保持板15、および上記の複数個の球体の上に配置されたテーブル板16を含む滑動テーブルであって、上記球体保持板の複数個の透孔のうちの少なくとも一個の透孔13aの下側の開口14bの縁部の少なくとも一部が、滑動テーブルの上下を逆向きに配置したときに球体保持板の下面全体がテーブル板の表面に密着することがないように開口の内側に突出していることを特徴とする滑動テーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決めテーブルを構成する部品として用いられる滑動テーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
位置決めテーブルは、顕微鏡で観察を行なう際の試料の位置決め、精密機械加工を行なう際の加工対象物の位置決め、あるいは液晶セルを構成する二枚のガラス基板を貼り合わせる際のガラス基板の位置決めなどに用いられている。
【0003】
位置決めテーブルは、滑動可能なテーブル板を備える滑動テーブルと、前記テーブル板の駆動装置とから構成される。
【0004】
図8は、従来の滑動テーブルの構成を示す断面図である。そして図9は、図8の滑動テーブル80の拡大図である。
【0005】
図8及び図9に示す滑動テーブル80は、支持板81、支持板81の上面に配置された複数個の球体82、82、〜、上下に開口する複数個の透孔83、83、〜を備え、そして各々の透孔83に前記の球体82を上下の開口84a、84bから部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持している球体保持板85、および複数個の球体82、82、〜の上に配置されたテーブル板86などから構成されている。これと同様の構成を有する滑動テーブルは、例えば、特許文献1及び特許文献2の各文献に開示されている。
【0006】
通常、滑動テーブル80の球体保持板85の各々の透孔83の下側の開口84bの直径は、この透孔83に球体82を収容するため、球体82の直径よりも大きな値に設定される。そして各々の透孔83の上側の開口84aの直径は、球体82の直径よりも小さな値に設定される。これにより、球体保持板85は、各々の透孔83の上側の開口84aの周縁部にて複数個の球体82、82、〜に支持される。このため、球体保持板85は、テーブル板86と支持板81との間に両者に非接触な状態で配置される。
【0007】
滑動テーブル80の支持板81の周縁部は、基台98に固定されている。支持板81の下側には、補助板96が備えられている。補助板96は、支柱97を介してテーブル板86に固定されている。そして、前記の支持板81と補助板96との間には、複数個の球体92、92、〜と、各々の球体92を回転可能に保持する球体保持板95とが配置されている。このような構成により、テーブル板86が複数個の球体82、82、〜を介して支持板81に押し付けられるため、テーブル板86を支持板81の表面に沿って高精度で移動させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−242989号公報(第2図)
【特許文献2】実開平3−117537号公報(第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の位置決めテーブルにおいては、その使用の際の配置あるいは運搬の状況などにより、位置決めの精度が低下する場合がある。特に、テーブル板を円滑に移動させるため、
球体保持板に保持された球体の周囲に潤滑用のグリースを充填した場合に、位置決めの精度が低下し易い。
【0010】
本発明者等の研究により、前記の位置決めの精度の低下は、位置決めテーブルの傾斜状態(特に、テーブル板を垂直に配置した状態)での使用、あるいは位置決めテーブルを運搬する際の振動により、球体保持板がテーブル板の側に移動して、その上面の全体がテーブル板の下面に貼り付き、このテーブル板の円滑な移動を妨げることが原因で生じることが判明した。特に、球体保持板に保持された球体の周囲に潤滑用のグリースを充填すると、球体保持板の上面の全体がテーブル板の下面に前記グリースを介して強固に貼り付き、テーブル板の円滑な移動を妨げ易くなる。
【0011】
図10は、図8及び図9に示す滑動テーブル80を垂直に配置した状態を示す図である。図10に示すように、球体保持板85がテーブル板86の側に移動して、その上面(図10にて左側の表面)の全体がテーブル板86の下面(図10にて右側の表面)に貼り付くと(特に、グリースを介して貼り付くと)、テーブル板86の円滑な移動が妨げられる。このため、このテーブル板86を移動する駆動装置の負荷が大きくなり、位置決めの精度が低下する傾向にある。
【0012】
本発明の課題は、テーブル板の円滑な移動を安定に実現することができる滑動テーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、支持板、支持板の上面に配置された複数個の球体、上下に開口し且つ上側の開口の直径が球体の直径よりも小さな値に設定された複数個の透孔を備え、そして各々の透孔に上記球体を上下の開口から部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持している球体保持板、および上記の複数個の球体の上に配置されたテーブル板を含む滑動テーブルであって、上記球体保持板の複数個の透孔のうちの少なくとも一個の透孔の下側の開口の縁部の少なくとも一部が、滑動テーブルの上下を逆向きに配置したときに球体保持板の下面全体がテーブル板の表面に密着することがないように開口の内側に突出していることを特徴とする滑動テーブルにある。
【0014】
本発明の滑動テーブルの好ましい態様は、次の通りである。
(1)上記の少なくとも一個の透孔の下側の開口の縁部の少なくとも一部の突出が、この下側の開口の縁部の少なくとも一部の塑性変形により形成されている。
(2)球体保持板が互いに接合された上側球体保持板と下側球体保持板とから構成されている。
(3)上側球体保持板と下側球体保持板とが互いに同形である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の滑動テーブルでは、球体保持板の透孔の下側の開口の縁部が開口の内側に突出していて、この開口の縁部と球体とが係合すると、球体保持板はテーブル板の側に移動することができなくなる。このため、球体保持板の上面の全体が、テーブル板の下面に貼り付くことはない。従って、本発明の滑動テーブルは、テーブル板の円滑な移動を安定に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の滑動テーブルの構成例を示す断面図である。
【図2】図1の滑動テーブル10の拡大図である。
【図3】図2に示す滑動テーブル10の球体12aの近傍の部位の拡大図である。
【図4】図3に示す滑動テーブル10を上下の向きが逆向きとなるように配置した状態を示す図である。
【図5】図1及び図2に示す滑動テーブル10を垂直に配置した状態を示す図である。
【図6】本発明の滑動テーブルの別の構成例を示す断面図である。
【図7】図6の滑動テーブル60の拡大図である。
【図8】従来の滑動テーブルの構成を示す断面図である。
【図9】図8の滑動テーブル80の拡大図である。
【図10】図8及び図9に示す滑動テーブル80を垂直に配置した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の滑動テーブルを、添付の図面を用いて説明する。図1は、本発明の滑動テーブルの構成例を示す断面図である。図2は、図1の滑動テーブル10の拡大図である。そして図3は、図2に示す滑動テーブル10の球体12aの近傍の部位の拡大図である。
【0018】
図1〜図3に示す滑動テーブル10は、支持板11、支持板11の上面に配置された複数個の球体12、12、〜、上下に開口し且つ上側の開口14aの直径が球体12の直径よりも小さな値に設定された複数個の透孔13、13、〜を備え、そして各々の透孔13に上記球体12を上下の開口から部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持している球体保持板15、および上記の複数個の球体12、12、〜の上に配置されたテーブル板16などから構成されている。この滑動テーブル10は、上記球体保持板15の複数個の透孔13、13、〜のうちの一個の透孔13aの下側の開口14bの縁部が、図4に示すように滑動テーブル10の上下を逆向きに配置したときに、球体保持板15の下面(図1〜図3にて上面)の全体がテーブル板16の表面(図1〜図3にて下面)に密着することがないように開口14bの内側に突出していることに主な特徴がある。
【0019】
このように、本発明の滑動テーブル10では、球体保持板15の透孔13aの下側の開口14bの縁部が突出していて、この開口14bの縁部と球体12とが係合すると、この球体保持板15はテーブル板16の側に移動することができなくなる。
【0020】
このため、この滑動テーブル10は、図5に示すように垂直に配置して使用した場合(あるいは、運搬中に大きな振動が付与された場合)であっても、球体保持板15の上面(図5にて左側の表面)の全体が、テーブル板16の下面(図5にて右側の表面)に貼り付くことはない。従って、本発明の滑動テーブル10は、テーブル板16の円滑な移動を安定に実現することができる。
【0021】
そして、本発明の滑動テーブル10を用いて位置決めテーブルを構成すると、その運搬や使用の状態に依らない安定した高い精度での位置決めが可能になる。
【0022】
前記のように、透孔13aの下側の開口14bの縁部を、図4に示すように滑動テーブル10の上下を逆向きに配置したときに、球体保持板15の下面(図1〜図3にて上面)の全体がテーブル板16の表面(図1〜図3にて下面)に密着することがないように開口14bの内側に突出させるためには、この開口14bの縁部の形状を、例えば、次のようにして定めればよい。
【0023】
図3に示すように、滑動テーブル10のテーブル板16と球体保持板15との間隔L1は、球体保持板15の透孔13aの上側の開口14aの縁部の形状により定まる。そして、この透孔13aの下側の開口14bの縁部は、図4に示すように、滑動テーブル10の上下を逆向きに配置したときの球体保持板15の下降量L2が、上記間隔L1よりも小さくなるような形状に定める。この開口14bの縁部の具体的な形状は、例えば、球体保持板15の幾何学的な設計、あるいは試作(試作品の上記下降量L2が、上記間隔L1よりも小さいことを確認する)によって簡単に定めることができる。
【0024】
この透孔13aの下側の開口14bの縁部は、縁部の全体が開口の内側に突き出ていてもよいし、縁部の一部が開口の内側に突き出ていてもよい。
【0025】
各々の透孔13の上側の開口14aの直径は、球体12の直径の30乃至95%(特に、40乃至90%)の範囲内の値に設定することが好ましい。
【0026】
図1〜図3に示す滑動テーブル10では、前記透孔13aの下側の開口14bの縁部の突出が、この開口14bの縁部を塑性変形することにより形成されている。塑性変形の例としては、かしめ、および加熱による変形が挙げられる。
【0027】
塑性変形を利用すると、従来の滑動テーブルをそのまま利用して、その球体保持板の透孔の下側の開口の縁部を塑性変形するという簡単な操作により、本発明の滑動テーブルを構成することができる。
【0028】
また、塑性変形を利用する場合には、その作業時間を短縮するため、下側の開口の縁部が突出する透孔の数は、1〜10個の範囲内にあることが好ましく、1〜5個の範囲内にあることが更に好ましい。
【0029】
球体保持板15の透孔13、13、〜の総数(すなわち、テーブル板16を支持する球体12、12、〜の総数)は、例えば、テーブル板16のサイズ、あるいはテーブル板16に加わる荷重の大きさに応じて適切な数に設定される。
【0030】
球体保持板15には、前記のように下側の開口14bの縁部が突出する透孔13aを含む複数個の透孔13、13、〜に加えて、これらの透孔の形状とは異なる形状の透孔(例、球体12の直径よりも大きな直径を有する円柱形の透孔)が備えられていてもよい。
【0031】
図1の滑動テーブル10の支持板11の周縁部は、基台28に固定されている。支持板11の下側には、補助板26が備えられている。補助板26は、支柱27を介してテーブル板16に固定されている。そして、前記の支持板11と補助板26との間には、複数個の球体22、22、〜と、各球体22を上下の開口から部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持する複数個の透孔を持つ球体保持板25とが配置されている。
【0032】
球体保持板15の場合と同様に、球体保持板25の複数個の透孔のうちの少なくとも一個の透孔の下側の開口の縁部の少なくとも一部が、滑動テーブル10の上下を逆向きに配置したときに球体保持板25の下面(図1にて上面)の全体が支持板11の表面(図1にて下面)に密着することがないように開口の内側に突出していることが好ましい。これにより、図1に示す球体保持板25の上面の全体が、支持板11の下面に貼り付くことが防止される。このため、滑動テーブル10のテーブル板16の円滑な移動を更に安定に実現することができる。従って、滑動テーブル10を用いた位置決めテーブルの更に安定した高い精度での位置決めが可能になる。
【0033】
滑動テーブル10の支持板11、球体12、22、テーブル板16、補助板26、支柱27、そして基台28は、例えば、鋼(例、高炭素クロム鋼、ステンレス鋼)やアルミニウムに代表される金属材料から形成される。これらの部品は、軽量化のため樹脂材料から形成したり、あるいは耐熱性の向上のためセラミック材料から形成したりすることもできる。
【0034】
球体保持板15、25は、その透孔の機械加工が容易になることから、ステンレス鋼やアルミニウムに代表される金属材料、あるいはポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、そしてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂に代表される樹脂材料から形成される。
【0035】
図6は、本発明の滑動テーブルの別の構成例を示す断面図である。そして図7は、図6の滑動テーブル60の拡大図である。
【0036】
図6及び図7に示す滑動テーブル60の構成は、球体保持板65が互いに接合された上側球体保持板65aと下側球体保持板65bとから構成されていること、支持板11の下側に球体、球体保持板、補助板が備えられていないこと、支柱67の長さが基台68に到達しない長さに設定されていること、そして基台68が開口を有していないこと以外は図1の滑動テーブル10と同一である。
【0037】
球体保持板65の上側球体保持板65a及び下側球体保持板65bの各々は、例えば、樹脂成形によって作製される。そして、上側球体保持板65aと下側球体保持板65bとを、例えば、接着剤を用いて互いに接合することにより、上側の開口64aの直径が球体12の直径よりも小さく、かつ下側の開口64bの縁部が開口の内側に突出した透孔63を備える球体保持板65を簡単に作製することができる。
【0038】
図7に示すように、上側球体保持板65aと下側球体保持板65bとが互いに同形であると、両者の形状を個別に設計して作製する必要がないため、球体保持板65の低コストでの製造が可能になる。
【0039】
なお、上側球体保持板65aと下側球体保持板65bとを互いに同形とすると、球体保持板65が備える複数個の透孔63、63、〜の全てが、下側の開口64bの縁部が開口の内側に突出する透孔になる。
【0040】
この球体保持板65には、複数個の透孔63、63、〜に加えて、これらの透孔の形状とは異なる形状の透孔(例、球体12の直径よりも大きな直径を有する円柱形の透孔)が備えられていてもよい。
【0041】
本発明に従う図6の構成の滑動テーブル60は、支持板11の下側に球体、球体保持板、補助板を備えていないため、その製造コストが低く、そして組み立ても容易である。
【符号の説明】
【0042】
10 滑動テーブル
11 支持板
12、12a 球体
13、13a 透孔
14a 透孔の上側の開口
14b 透孔の下側の開口
15 球体保持板
16 テーブル板
22、22a 球体
25 球体保持板
26 補助板
27 支柱
28 基台
60 滑動テーブル
63 透孔
64a 透孔の上側の開口
64b 透孔の下側の開口
65 球体保持板
65a 上側球板保持板
65b 下側球体保持板
67 支柱
68 基台
80 滑動テーブル
81 支持板
82 球体
83 透孔
84a 透孔の上側の開口
84b 透孔の下側の開口
85 球体保持板
86 テーブル板
92 球体
95 球体保持板
96 補助板
97 支柱
98 基台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持板、支持板の上面に配置された複数個の球体、上下に開口し且つ上側の開口の直径が球体の直径よりも小さな値に設定された複数個の透孔を備え、そして各々の透孔に上記球体を上下の開口から部分的に突き出た状態で回転可能に収容保持している球体保持板、および上記の複数個の球体の上に配置されたテーブル板を含む滑動テーブルであって、
上記球体保持板の複数個の透孔のうちの少なくとも一個の透孔の下側の開口の縁部の少なくとも一部が、滑動テーブルの上下を逆向きに配置したときに球体保持板の下面全体がテーブル板の表面に密着することがないように開口の内側に突出していることを特徴とする滑動テーブル。
【請求項2】
上記の少なくとも一個の透孔の下側の開口の縁部の少なくとも一部の突出が、当該下側の開口の縁部の少なくとも一部の塑性変形により形成されている請求項1に記載の滑動テーブル。
【請求項3】
球体保持板が互いに接合された上側球体保持板と下側球体保持板とから構成されている請求項1に記載の滑動テーブル。
【請求項4】
上側球体保持板と下側球体保持板とが互いに同形である請求項3に記載の滑動テーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−276460(P2010−276460A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128963(P2009−128963)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(394000493)ヒーハイスト精工株式会社 (76)
【Fターム(参考)】