説明

炭化珪素半導体装置の製造方法

【課題】電極膜と配線導体素片との間のコンタクト抵抗が低く、電極膜から配線導体素片が剥離しにくい炭化珪素半導体装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】n型炭化珪素基板またはn型炭化珪素領域1の表面に、ニッケル膜2と、酸化ニッケル膜3と、をこの順に積層し、酸化しない状態で熱処理をおこなう。熱処理をおこなうことで、ニッケル膜2の一部がニッケルシリサイド膜4となる。つぎに、酸化ニッケル膜3を塩酸溶液で除去し、ニッケルシリサイド膜4の表面にニッケルアルミ膜5と、アルミニウム膜6と、をこの順に積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化珪素(以下、SiCとする)は、熱的、化学的、機械的に安定であり、発光素子や高周波デバイスや電力用半導体装置(パワーデバイス)など、様々な産業分野への適用が期待されている。たとえば、SiCを用いた高耐圧のMOSFETは、シリコン(Si)を用いた高耐圧のMOSFETよりもオン抵抗が低いという利点を有する。また、SiCを用いたショットキーダイオードは、シリコンを用いたショットキーダイオードよりも順方向の降下電圧が低いという利点を有する。
【0003】
本来、パワーデバイスのオン抵抗とスイッチング速度とは、トレードオフ関係にある。しかしながら、SiCを用いたパワーデバイスには、低オン抵抗化と高速スイッチング速度化とを同時に達成できる可能性がある。ここで、SiCを用いたパワーデバイスの低オン抵抗化、または、高速スイッチング速度化のためには、オーミック・コンタクトにおけるコンタクト抵抗の低減が必要である。
【0004】
近年、n型SiC領域に低抵抗のオーミック・コンタクトを形成する方法として広く活用されている技術としては、電極膜を被着させることでオーミック電極構造体を形成し、このオーミック電極構造体を800℃〜1200℃の高温で熱処理する技術が挙げられる(たとえば、下記特許文献1、下記特許文献2または下記特許文献3参照。)。電極膜は、たとえば、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、チタン(Ti)などである。特に、電極膜としてニッケルを用いた場合、オーミック・コンタクトにおいて、10-6Ωcm2オーダーの実用的なコンタクト抵抗値が得られている。このように、ニッケルを用いたオーミック・コンタクトは、極めて有望なオーミック・コンタクトであるといえる。
【0005】
図11は、従来の、ニッケルを用いたオーミック・コンタクトのX線光電子分光法による深さ方向の元素分析結果を示す説明図である。図11においては、縦軸は元素の含有率であり、横軸はスパッタリング時間(任意目盛)である。図11に示すオーミック・コンタクトは、まず、SiC基板上に、一般的に用いられるニッケル膜をスパッタ法によって成膜する。ついで、真空中(たとえば、5×10-4Pa以下)において、1000℃で5分間の熱処理をおこなう。高温で熱処理されることにより、ニッケル膜の表面には、Ni−Si−Cが混合した導電性の加熱反応層(ニッケルシリサイド膜)が形成される。そして、ニッケルシリサイド膜の表面付近には、SiC基板から拡散するカーボン(C)が多く析出し、ほぼカーボンで覆われることとなる。
【0006】
表面にカーボンが析出したニッケル膜などの電極膜に、アルミニウム膜などの配線導体素片を接続すると、電極膜と配線導体素片との間のコンタクト抵抗が上昇するという問題がある。また、析出したカーボンにより、電極膜から配線導体素片が剥離しやすいという問題がある。
【0007】
カーボンの析出を低減する方法としては、オーミック電極の材質を、炭化物を形成しやすい金属と、ニッケルと、の合金とし、この合金膜の上にニッケル膜を形成する方法が提案されている(たとえば、下記特許文献4参照。)。また、別の方法としては、オーミック電極を、ニッケルシリサイド膜と、第1のニッケル膜と、チタン膜と、ニッケルおよびシリコンが交互に形成された膜と、第2のニッケル膜と、をこの順に積層する方法が提案されている(たとえば、下記特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3303530号公報
【特許文献2】特開2002−175997号公報
【特許文献3】特開平8−64801号公報
【特許文献4】特許第3646548号公報
【特許文献5】特開2006−202883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献4または5に記載された技術では、ニッケル膜などの電極膜にアルミニウム膜などの配線導体素片を接続する場合については記載されていない。したがって、たとえば、ニッケル膜の表面にシリコン酸化膜が形成された場合、配線導体素片を接続することができない可能性があるといった問題がある。また、上述した特許文献5に記載された技術では、積層する膜が多いため、製造の工程が煩わしく、コストがかかるといった問題がある。
【0010】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、電極膜と配線導体素片との間のコンタクト抵抗が低い炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。また、この発明は、電極膜から配線導体素片が剥離しにくい炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、まず、n型炭化珪素基板、または、炭化珪素基板の表面に形成されたn型炭化珪素領域の表面に、ニッケル膜を形成する。ついで、ニッケル膜の表面に、酸化ニッケル膜を形成する。そして、熱処理をおこない、ニッケル膜の一部にニッケルシリサイド膜を形成する。その後、酸化ニッケル膜を除去し、酸化ニッケル膜の除去されたニッケルシリサイド膜の表面にアルミニウム膜を形成することを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、酸化ニッケル膜を除去した後に、ニッケルシリサイド膜の表面に、ニッケルアルミ膜を形成する。ついで、このニッケルアルミ膜の表面に、アルミニウム膜を形成することを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、ニッケル膜を0.05μm以上0.2μm以下の厚さで形成し、酸化ニッケル膜を0.05μm以上0.15μm以下の厚さで形成することを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、ニッケルアルミ膜を5nm以上20nm以下の厚さで形成し、アルミニウム膜を2μm以上4μm以下の厚さで形成することを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、ニッケルの含有率が40at%以上60at%以下で、残りがアルミニウムのニッケルアルミターゲットを用いたスパッタ法によってニッケルアルミ膜を形成することを特徴とする。
【0016】
上述した各発明によれば、酸化ニッケル膜を形成した後に、熱処理をすることで、ニッケルシリサイド膜の表面へのカーボンの析出を抑えることができる。
【0017】
また、上述した各発明によれば、カーボンが表面に析出していないニッケルシリサイド膜を形成し、このニッケルシリサイドの表面にアルミニウム膜を形成することができる。これによって、電極膜と配線導体素片との間のコンタクト抵抗が低く、電極膜から配線導体素片が剥離しにくいオーミック電極を形成することができる。
【0018】
また、上述した各発明によれば、カーボンが表面に析出していないニッケルシリサイド膜の表面に、接着層としてのニッケルアルミ膜を形成し、その上にアルミニウム膜を形成することができる。これによって、電極膜から配線導体素片が、さらに剥離しにくいオーミック電極を形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、電極膜と配線導体素片との間のコンタクト抵抗を低くすることができるという効果を奏する。また、電極膜から配線導体素片を剥離しにくくすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【図2】本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造過程を示す断面図である。
【図3】本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造過程を示すフローチャートである。
【図4】炭化珪素半導体装置に酸化ニッケル膜を形成した実験の試料について示す説明図である。
【図5】実験1の試料のX線回折法による生成物特定の結果を示す説明図である。
【図6】実験1の試料のX線光電子分光法による深さ方向の元素分析結果を示す説明図である。
【図7】実験2の試料のX線回折法による生成物特定の結果を示す説明図である。
【図8】実験2の試料のX線光電子分光法による深さ方向の元素分析結果を示す説明図である。
【図9】ニッケルシリサイド膜の上にアルミニウム膜を形成する方法と、アルミニウム膜の付着力と、の関係を示す説明図である。
【図10】本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を用いたMOSFETの構造を示す断面図である。
【図11】従来の、ニッケルを用いたオーミック・コンタクトのX線光電子分光法による深さ方向の元素分析結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図1に示すように、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、n型SiC領域1に、ニッケルシリサイド(Ni2Si)膜4と、ニッケルアルミ(NiAl)膜5と、アルミニウム(Al)膜6と、がこの順に積層された構造となっている。
【0023】
つぎに、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。図2は、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造過程を示す断面図である。また、図3は、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造過程を示すフローチャートである。図3に示すように、まず、ニッケル電極形成前の洗浄をおこなう(ステップS301)。ステップS301においては、たとえば、n型SiC基板またはn型SiC領域1を有する素子の表面層を洗浄する。
【0024】
つぎに、ステップS301において洗浄されたn型SiC基板またはn型SiC領域1の表面層に、ニッケル膜2を成膜する(ステップS302)。さらに、ステップS302において成膜されたニッケル膜2に、酸化ニッケル(NiO)膜3を成膜する(ステップS303)。ステップS302およびステップS303においては、たとえば、DCスパッタリング法によって成膜する。本実施の形態においては、DCパワーを300W、圧力を0.4Paに設定し、基板温度を特に加熱せずにスパッタする。また、ステップS302においては、たとえば、スパッタリングをアルゴン(Ar)ガスのみでおこなう。ステップS303においては、たとえば、アルゴンガスに酸素を20%混合したガスをスパッタガスとして、ニッケルターゲットによっておこなう。
【0025】
ここで、酸化ニッケル膜3の厚さが薄すぎると、基板最表面へのカーボンの拡散を抑制することができない。一方、酸化ニッケル膜3の厚さが厚すぎると、後述する工程でエッチングによって酸化ニッケル膜3を除去するのに時間がかかる。したがって、酸化ニッケル膜3の厚さは、たとえば、0.05μm〜0.15μm程度が好ましい。一方、ニッケル膜2の厚さが薄いと、スパッタリングの制御が困難である。また、オーミック・コンタクトが取れない可能性がある。したがって、ニッケル膜2の厚さは、0.05μm〜0.2μm程度が好ましい。
【0026】
つぎに、熱処理をおこなう(ステップS304)。これによって、ニッケル膜2の一部がニッケルシリサイド膜4となる。ステップS304においては、たとえば、真空の状態において高温で熱処理をおこなう。具体的には、5×10-4Pa以下に排気した状態において、1000℃で2分間の熱処理をおこなう。その後、室温まで冷却する。なお、ステップS304においては、真空の状態で熱処理をおこなうとしたが、これに限るものではない。具体的には、熱処理によって酸化しなければよく、たとえば、アルゴン雰囲気中などでおこなってもよい。ただし、窒素雰囲気中は好ましくない。これによって、図2に示すように、n型SiC領域1に、ニッケル膜2(表面がニッケルシリサイド膜4)と、酸化ニッケル膜3と、がこの順に積層された構造となる。
【0027】
つぎに、塩酸溶液によるウエットエッチングにより酸化ニッケル膜3を除去する(ステップS305)。これによって、ステップS304における熱処理によってニッケル膜2の表面に形成されたニッケルシリサイド膜4が最表面となる。ステップS305においては、たとえば、塩酸を、約50℃に加熱し、約6分間のエッチングをおこなう。そして、純水によって洗浄し(ステップS306)、乾燥させる。ステップS305においては、塩酸の濃度は、酸化ニッケル膜3が溶ける濃度であればよい。ただし、塩酸の濃度が薄すぎると、酸化ニッケル膜3を除去するのに時間がかかる。また、酸化ニッケル膜3が溶けない可能性がある。したがって、塩酸は、10〜37%程度の塩化水素を含んだものが好ましい。
【0028】
つぎに、ニッケルシリサイド膜4の上にニッケルアルミ膜5を成膜し(ステップS307)、続けて、その上にアルミニウム膜6を成膜する(ステップS308)。ステップS307およびステップS308においては、たとえば、DCスパッタリング法によって成膜する。本実施の形態においては、DCパワーを300W、圧力を0.4Paに設定し、基板温度を150℃にする。そして、真空の状態において、連続して、アルゴンガスのみでスパッタする。ステップS307においては、ニッケルアルミターゲットの成分割合はニッケルが40〜60%であり、残りがアルミニウムである。
【0029】
ここで、ニッケルアルミ膜5の厚さが薄いと、接着層としての機能を果たさない。また、ニッケルアルミ膜5の厚さが厚いと、アルミニウム膜6より抵抗が高くなってしまう。したがって、ニッケルアルミ膜5の厚さは、たとえば、5nm〜10nmが好ましい。一方、アルミニウム膜6の厚さが薄いと、ニッケルアルミ膜5の方が抵抗が高くなってしまう。アルミニウム膜6の厚さは、厚い方がよいが、厚くすると形成に時間がかかってしまう。たとえば、4μmの厚さのアルミニウム膜6を形成する場合、1時間程度かかる。したがって、アルミニウム膜6の厚さは、たとえば、2μm〜4μmが好ましい。
【0030】
つぎに、n型SiC領域1からのカーボンの析出を抑制するための検討をおこなった。図4は、炭化珪素半導体装置に酸化ニッケル膜を形成した実験の試料について示す説明図である。図4に示すように、実験1の試料は、n型SiC領域1の上に酸化ニッケル膜3を成膜した構成である。酸化ニッケル膜3の厚さは、たとえば、0.2μmである。また、実験2の試料は、n型SiC領域1の上にニッケル膜2を成膜し、さらに、ニッケル膜2の上に酸化ニッケル膜3を成膜した構成である。したがって、実験2の試料は、上述した本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置と同様の構造である。ニッケル膜2および酸化ニッケル膜3の厚さは、たとえば、ともに0.1μmである。この実験1および実験2の試料を、真空(たとえば、5×10-4Pa以下)の状態において、1000℃で5分間の熱処理をおこなう。
【0031】
まず、実験1の試料に対して検討をおこなう。図5は、実験1の試料のX線回折法(XRD)による生成物特定の結果を示す説明図である。図5においては、縦軸は強度であり、横軸は回折線の角度(2θ)である。図5に示すように、実験1の試料においては、SiCのピーク以外には、酸化ニッケルのピークが観測されるのみである。また、図6は、実験1の試料のX線光電子分光法(XPS)による深さ方向の元素分析結果を示す説明図である。図6においては、縦軸は元素の含有率であり、横軸はスパッタリング時間(任意目盛)である。図6に示すように、実験1の試料においては、n型SiC領域1および酸化ニッケル膜3には反応がまったく観測されない。
【0032】
つぎに、実験2の試料に対して検討をおこなう。図7は、実験2の試料のX線回折法による生成物特定の結果を示す説明図である。図7においては、縦軸は強度であり、横軸は回折線の角度(2θ)である。図7に示すように、実験2の試料においては、SiCのピーク以外に、酸化ニッケルと、ニッケルと、ニッケルシリサイドのピークが観測される。また、図8は、実験2の試料のX線光電子分光法による深さ方向の元素分析結果を示す説明図である。図8においては、縦軸は元素の含有率であり、横軸はスパッタリング時間(任意目盛)である。図8に示すように、実験2の試料においては、ニッケル膜2に、n型SiC領域1からシリコンとカーボンが拡散している。このため、ニッケル膜2の一部がニッケルシリサイド膜4になる。また、酸化ニッケル膜3には、カーボンは拡散しないが、シリコンが表面まで拡散している。さらに、XPSの結合エネルギーシフトから、拡散したシリコンによって酸化ニッケル膜3の表面がSiO2膜となっていることがわかる。
【0033】
このように、実験1および実験2の試料では、カーボンが最表面層まで拡散されない。また、n型SiC領域1の上にニッケル電極を形成する場合、ニッケル膜2の上に酸化ニッケル膜3を形成してから、熱処理(アニール)することにより、カーボンが表面まで拡散していないニッケルシリサイド膜4が形成される。ニッケルシリサイド膜4は、ニッケル膜2より低抵抗である。したがって、実験2の試料が本発明の炭化珪素半導体装置に適していることがわかる。
【0034】
ここで、酸化ニッケル膜3の表面に形成されたSiO2膜は絶縁物である。また、酸化ニッケル膜3も極めて高抵抗な半導体である。したがって、アルミニウム膜6を形成する場合、SiO2膜および酸化ニッケル膜3を除去する必要がある。実際のデバイスにおいては、オーミック電極以外にもSiO2膜が形成されている部分があるため、フッ素によってSiO2膜を除去することはできない。このため、たとえば、塩酸によって、酸化ニッケル膜3を除去することで、酸化ニッケル膜3の表面に積層されたSiO2膜をともに除去する。本実施の形態においては、たとえば、塩酸を37%含有した溶液を50℃に湯煎して、この中に約6分間、実験2の試料を入れてエッチングをおこなった。これによって、SiO2膜が表面に積層された酸化ニッケル膜3が剥離され、ニッケルシリサイド膜4が最表面となる。
【0035】
つぎに、上述の方法によって最表面となったニッケルシリサイド膜4の上に、配線材料としてアルミニウム膜6を形成する方法を検討する。図9は、ニッケルシリサイド膜4の上にアルミニウム膜6を形成する方法と、アルミニウム膜6の付着力と、の関係を示す説明図である。図9においては、付着力は、テープを貼り付けて剥がす方法によって確認した。アルミニウム膜6およびニッケルアルミ膜5は、DCスパッタリング法によって、DCパワーを300W、圧力を0.4Paに設定し、スパッタガスをアルゴン、基板温度を150℃にして成膜した。ニッケルアルミ膜5をスパッタするためのニッケルアルミターゲットの組成は、ニッケルが50%とし、アルミニウムが50%とした。ニッケルアルミ膜5の厚さは、10nmとし、アルミニウム膜6の厚さは、3μmとした。
【0036】
ここで、ニッケルアルミ膜5の組成は、ニッケルシリサイド膜4と、アルミニウム膜6と、の密着性を上げるため、および、ニッケルアルミ膜5の抵抗を高くしないために、どちらかの元素に偏らない組成とする。また、ニッケルアルミ膜5の厚さは、薄すぎると密着性を保つことができない。しかしながら、抵抗を小さくするためには、できるだけ薄い方がよい。したがって、たとえば、ニッケルアルミ膜5の厚さを、10nmくらいにするのが好ましい。
【0037】
図9に示すように、実験3は、従来の、酸化ニッケル膜3が形成されていない基板にアルミニウム膜6を形成する方法と、アルミニウム膜6の付着力と、を示す。実験3の試料は、カーボンが多く析出された表面層に、直接アルミニウム膜6が形成されている。実験3の試料は、ニッケル膜2を成膜した後に、アルミニウム膜6を成膜する。この場合、テープによる剥離実験を1回おこなうだけで、アルミニウム膜6の全面が剥がれてしまう。これは、試料の表面に析出したカーボンと、アルミニウムと、の密着性が弱いためである。少しでも密着性をよくするために、高い基板温度に加熱して密着性を保つ方法が提案されているが、アルミニウム膜6の剥がれる素子が多く、歩留まりが悪い。
【0038】
これに対し、実験4の試料は、ニッケル膜2を成膜した上に、さらに酸化ニッケル膜3を成膜し、その後に、アルミニウム膜6を成膜する。この場合、テープによる剥離実験を1回おこなうだけで、アルミニウム膜6がほぼ剥がれてしまう。これは、試料表面のカーボンの析出は抑えられるが、酸化ニッケル膜3とアルミニウム膜6との密着性がよくないためである。
【0039】
また、実験5の試料は、ニッケル膜2を成膜した上に、さらに酸化ニッケル膜3を成膜し、その後に、酸化ニッケル膜3を塩酸で除去してから、アルミニウム膜6を成膜する。この場合、テープによる剥離実験を数回おこなうと、アルミニウム膜6の一部が剥がれる程度であり、アルミニウム膜6の密着性が改善される。これは、試料表面のカーボンの析出が抑えられ、また、酸化ニッケル膜3が除去されたことで、ニッケルシリサイド膜4の上にアルミニウム膜6が成膜されているためである。
【0040】
実験6の試料は、ニッケル膜2を成膜した上に、さらに酸化ニッケル膜3を成膜し、その後に、酸化ニッケル膜3を塩酸で除去してから、接着層として10nmの厚さのニッケルアルミ膜5を成膜して、その上にアルミニウム膜6を成膜する。したがって、ニッケルシリサイド膜4の上に、ニッケルアルミ膜5が成膜された後に、さらにアルミニウム膜6が成膜されたこととなる。この場合、テープによる剥離実験を数十回おこなっても、アルミニウム膜6が剥離しなかった。これは、ニッケルアルミ膜5が、ニッケルシリサイド膜4およびアルミニウム膜6とよく密着するためである。
【0041】
このことから、本実施の形態で示すように、n型SiC領域1にニッケルを用いてコンタクト電極を形成し、その上に配線材料としてアルミニウム膜6を形成する場合、ニッケル膜2の上に、酸化ニッケル膜3を形成する。そして、熱処理をおこなって、ニッケル膜2をニッケルシリサイドとカーボンの混合膜(ニッケルシリサイド膜4)とする。さらに、塩酸溶液を用いて、酸化ニッケル膜3を剥離した後に、ニッケルアルミ膜5と、アルミニウム膜6と、をこの順に続けて積層する。これによって、付着力が強くて、アルミニウム膜6の剥離の可能性が少ない、信頼性の高いオーミック電極が形成される。したがって、実験5または実験6の試料が、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置に適しており、実験6の試料がより本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置に適していることがわかる。
【0042】
つぎに、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を適用したデバイスについて説明する。図10は、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を用いたMOSFETの構造を示す断面図である。図10に示すように、このMOSFETは、基板10の表面層にドリフト層11が設けられている。ドリフト層11の表面層の一部には、2つのボディ領域12がそれぞれ離れて設けられている。ドリフト層11の表面層の、2つのボディ領域12の間の領域は、JFET(Junction Field−Effect Transistor)領域14となっている。ボディコンタクト領域15は、それぞれのボディ領域12の表面層の一部に設けられている。ソースコンタクト領域16は、それぞれのボディ領域12の表面層の、ボディコンタクト領域15よりJFET領域14に近い領域の一部に、ボディコンタクト領域15と接し、JFET領域14と接しないように設けられている。このように、JFET領域14を挟んで左右に2つのMOSFETが設けられている。
【0043】
ゲート電極17は、JFET領域14と、ボディ領域12の一部と、の表面にゲート絶縁膜18を介して設けられている。ソース電極19は、ボディコンタクト領域15と、ソースコンタクト領域16と、に接するように設けられている。また、ソース電極19は、層間絶縁膜20によってゲート電極17と隔てられている。ドレイン電極21は、基板10の裏面に接するように設けられている。
【0044】
図10に示すMOSFETにおいて、基板10がn型SiC領域であり、ドレイン電極21がニッケル膜である。したがって、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体を、ドレイン側に用いることができる。このように、本実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、炭化珪素デバイスに用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素基板を用いた半導体装置に有用であり、特に、オーミック電極に適している。
【符号の説明】
【0046】
1 n型炭化珪素基板またはn型炭化珪素領域
2 ニッケル膜
3 酸化ニッケル膜
4 ニッケルシリサイド膜
5 ニッケルアルミ膜
6 アルミニウム膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型炭化珪素基板、または、炭化珪素基板の表面に形成されたn型炭化珪素領域の表面に、ニッケル膜を形成するニッケル膜形成工程と、
前記ニッケル膜形成工程によって形成されたニッケル膜の表面に、酸化ニッケル膜を形成する酸化ニッケル膜形成工程と、
前記酸化ニッケル膜形成工程の後に、熱処理をおこない、前記ニッケル膜の一部にニッケルシリサイド膜を形成する熱処理工程と、
前記熱処理工程の後に、前記酸化ニッケル膜を除去する酸化ニッケル膜除去工程と、
前記酸化ニッケル膜除去工程によって酸化ニッケル膜の除去された前記ニッケルシリサイド膜の表面に、アルミニウム膜を形成するアルミニウム膜形成工程と、
を含むことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記酸化ニッケル膜除去工程と、前記アルミニウム膜形成工程との間に、
前記ニッケルシリサイド膜の表面に、ニッケルアルミ膜を形成するニッケルアルミ膜形成工程を含み、
前記アルミニウム膜形成工程は、前記ニッケルアルミ膜形成工程によって形成されたニッケルアルミ膜の表面に、前記アルミニウム膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記ニッケル膜形成工程は、前記ニッケル膜を0.05μm以上0.2μm以下の厚さで形成し、
前記酸化ニッケル膜形成工程は、前記酸化ニッケル膜を0.05μm以上0.15μm以下の厚さで形成することを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記ニッケルアルミ膜形成工程は、前記ニッケルアルミ膜を5nm以上20nm以下の厚さで形成し、
前記アルミニウム膜形成工程は、前記アルミニウム膜を2μm以上4μm以下の厚さで形成することを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケルアルミ膜形成工程は、ニッケルの含有率が40at%以上60at%以下で、残りがアルミニウムのニッケルアルミターゲットを用いたスパッタ法によって前記ニッケルアルミ膜を形成することを特徴とする請求項2または4に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−51435(P2013−51435A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−243974(P2012−243974)
【出願日】平成24年11月5日(2012.11.5)
【分割の表示】特願2007−212919(P2007−212919)の分割
【原出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】