説明

無段変速機のニュートラル制御装置

【課題】伝動ベルトの滑りを抑制しつつ燃費向上を図ることのできる無段変速機のニュートラル制御装置を提供する。
【解決手段】変速機ECUは、変速機構部19の出力側可変プーリ37が伝動ベルト38に滑りを生じさせないベルト挟圧力で同伝動ベルト38を挟み込むように、第1油圧調整手段の制御を通じてベルト挟圧力調整油圧を調整する。また、車両10の停車時に、トルクコンバータ12に入力される回転と同トルクコンバータ12から出力される回転との速度比が目標速度比となるように、第2油圧調整手段の制御を通じてクラッチ調整油圧を調整することで前進クラッチ33を半解放状態にするニュートラル制御を行なう。このニュートラル制御中、ベルト挟圧力調整油圧が伝動ベルト38に滑りを生じさせない最小値又はそれに相当する値になるような必要ベルトトルク容量を求め、同必要ベルトトルク容量に基づいて前記目標速度比を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機を搭載した車両の停車時に、燃費向上等を意図して、トルクコンバータの速度比が目標速度比となるようにクラッチ調整油圧を制御することで、無段変速機内部のクラッチを半解放状態にするようにした無段変速機のニュートラル制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の動力源の発生トルクを流体により伝達するトルクコンバータと車両の駆動輪との間に介在されて、その動力源の回転の変速を連続的に(無段階)に行う無段変速機の一つにベルト式無段変速機がある。このタイプの無段変速機は、可変プーリを有する変速機構部とクラッチとを備える。可変プーリは、伝動ベルトが巻き掛けられるとともに、ポンプから供給され、かつ第1油圧調整手段にて調整されたベルト挟圧力調整油圧(セカンダリ圧)により伝動ベルトに対するベルト挟圧力を可変とする。クラッチは、前記ポンプから供給され、かつ第2油圧調整手段にて調整されたクラッチ調整油圧(クラッチ圧)により係合及び解放して、トルクコンバータ及び変速機構部間を断接する。
【0003】
上記ベルト式無段変速機では、可変プーリが伝動ベルトを、同伝動ベルトに滑りを生じさせないベルト挟圧力で挟み込むように、第1油圧調整手段の制御を通じてベルト挟圧力調整油圧が調整される。この際、ベルト挟圧力調整油圧が、予め設定された下限ガード値よりも低くならないように調整されることで、伝動ベルトの滑りが確実に抑制される。この下限カード値としては、大きな駆動力が加わる状況である車両走行時を基準に設定されたものが用いられる。
【0004】
一方、ベルト式無段変速機の制御態様の1つとして、車両の停車時であって、シフトポジションが走行ポジションであるときに行なわれるニュートラル制御がある(特許文献1参照)。ニュートラル制御は、クラッチを半解放状態にすることにより、動力源の負荷を軽減し、停車時の燃費向上を図ることを目的として行なわれる。このニュートラル制御に際しては、トルクコンバータに入力される回転と同トルクコンバータから出力される回転との速度比が目標速度比となるように、第2油圧調整手段の制御を通じてクラッチ調整油圧が調整される。このニュートラル制御時にも、ベルト挟圧力調整油圧が、上述した車両走行時を基準に設定された下限ガード値よりも低くならないように調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−138198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記ニュートラル制御時には、伝動ベルトが滑らないベルト挟圧力調整油圧の最小値が、上記車両走行時を基準に設定された下限カード値に対し、低圧側へ大きく乖離する。下限ガード値によってガードされた実際のベルト挟圧力調整油圧は、上記最小値よりも大幅に高くなる。従って、実際のベルト挟圧力調整油圧は、ニュートラル制御時には、伝動ベルトの滑りを抑制する観点からは充分すぎるほど高くなる。
【0007】
このことは、クラッチ調整油圧が高くなって、ベルト式無段変速機の入力トルクが高くなっても、伝動ベルトに滑りが生じにくいことを意味する。そのため、上記トルクコンバータの目標速度比を求める際に、ベルト挟圧力調整油圧を考慮する必要がない。
【0008】
ここで、ベルト挟圧力調整油圧が高いことはたしかに伝動ベルトが滑るのを抑制するうえでは有効であるが、反面、ベルト挟圧力調整油圧を高めるためにポンプの仕事量が増える。それに伴い、ポンプの駆動のために消費される動力源の出力が増大し、燃費の点で不利である。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、伝動ベルトの滑りを抑制しつつ燃費向上を図ることのできる無段変速機のニュートラル制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、動力源の発生トルクを流体により伝達するトルクコンバータと車両の駆動輪との間に介在される変速機として、伝動ベルトが巻き掛けられるとともに、ポンプから供給され、かつ第1油圧調整手段にて調整されたベルト挟圧力調整油圧によりベルト挟圧力を可変とする可変プーリを有する変速機構部と、前記ポンプから供給され、かつ第2油圧調整手段にて調整されたクラッチ調整油圧により係合及び解放して、前記トルクコンバータ及び前記変速機構部間を断接するクラッチとを備え、前記可変プーリが前記伝動ベルトに滑りを生じさせないベルト挟圧力で同伝動ベルトを挟み込むように、前記第1油圧調整手段の制御を通じて前記ベルト挟圧力調整油圧が調整されるベルト式無段変速機に適用されるものであり、前記車両の停車時に、前記トルクコンバータに入力される回転と同トルクコンバータから出力される回転との速度比が目標速度比となるように、前記第2油圧調整手段の制御を通じて前記クラッチ調整油圧を調整することで前記クラッチを半解放状態にするニュートラル制御手段を備える無段変速機のニュートラル制御装置であって、前記ニュートラル制御手段は、前記ベルト挟圧力調整油圧が前記伝動ベルトに滑りを生じさせない最小値又はそれに相当する値になるような必要ベルトトルク容量を求め、同必要ベルトトルク容量に基づいて前記目標速度比を求めることを要旨とする。
【0011】
上記の構成によれば、ベルト式無段変速機では、可変プーリが伝動ベルトに滑りを生じさせないベルト挟圧力で同伝動ベルトを挟み込むように、第1油圧調整手段の制御を通じてベルト挟圧力調整油圧が調整される。
【0012】
また、車両の停車時には、ニュートラル制御手段により、トルクコンバータに入力される回転と同トルクコンバータから出力される回転との速度比が目標速度比となるように、第2油圧調整手段の制御を通じてクラッチ調整油圧が調整されることで、クラッチが半解放状態にされる。
【0013】
さらに、ニュートラル制御手段では、ベルト挟圧力調整油圧が伝動ベルトに滑りを生じさせない最小値又はそれに相当する値になるような必要ベルトトルク容量が求められ、同必要ベルトトルク容量に基づいて目標速度比が求められる。
【0014】
従って、ベルト挟圧力調整油圧は、上記最小値又はそれに相当する値に調整されることにより、車両走行時を基準として設定した下限ガード値を用いた場合よりも低くなる。これに伴い、ポンプの余分な仕事量が減り、ポンプの駆動のために消費される動力源の出力が少なくなって、燃費が向上する。
【0015】
また、目標速度比として、変速機構部の入力トルクが上記必要ベルトトルク容量を越えないような値に設定されることで、過度に大きな入力トルクが変速機構部に加わることがなく、伝動ベルトの滑りが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の無段変速機のニュートラル制御装置を具体化した一実施形態について、車両の駆動系の構成を示す略図。
【図2】同実施形態における油圧制御回路を示すブロック図。
【図3】同実施形態において、ニュートラル制御に用いられるトルクコンバータの目標速度比を算出する手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、車両10の駆動系の概略構成を示している。この車両10に動力源として搭載されたエンジン11の回転は、トルクコンバータ(T/C)12、ベルト式無段変速機(CVT)14及び減速歯車15を介して差動歯車装置16に伝達され、左右の駆動輪17へ分配される。
【0018】
トルクコンバータ12は、エンジン11の出力軸21に連結されたポンプ翼車22と、タービン軸(出力軸)23を介してベルト式無段変速機(CVT)14に連結されたタービン翼車24とを備えており、流体を介してポンプ翼車22とタービン翼車24との間の回転伝達を行う。表現を変えると、トルクコンバータ12はエンジン11の発生トルクを流体により伝達する。ポンプ翼車22には機械式のオイルポンプ25が連結されている。このオイルポンプ25は、ポンプ翼車22の回転(エンジン回転)に基づき駆動され、ベルト式無段変速機14を油圧駆動するためのオイルを吐出する。なお、オイルポンプ25のオイル吐出圧についてはエンジン11の出力軸21のトルク(エンジントルクTE)が大となるほど高くなる。
【0019】
ベルト式無段変速機14は、これに作用する油圧を、油圧制御回路26(図2参照)を通じて制御することによって油圧駆動される。ベルト式無段変速機14は、前後進切替え装置18及び変速機構部19を備えている。前後進切替え装置18は、油圧駆動により変速機構部19の入力回転を正転と逆転との間で反転させたり、同変速機構部19への回転入力を遮断したりする。また、変速機構部19は、油圧駆動により、後述する変速比を変更したりベルト挟圧力を調整したりする。
【0020】
前後進切替え装置18は、上記タービン軸23に一体回転可能に連結されたサンギヤ27と、サンギヤ27と同心上で回転可能に支持されたリングギヤ28と、サンギヤ27及びリングギヤ28に噛み合ってその間で回転する複数のプラネタリギヤ29とを備えている。各プラネタリギヤ29は、変速機構部19の入力軸31と連結されるキャリア32によって互いに繋がっており、サンギヤ27の外周及びリングギヤ28の内周に沿って一体回転する。
【0021】
また、前後進切替え装置18には、タービン軸23とキャリア32(入力軸31)との間を断接すべく係合及び解放される前進クラッチ33と、リングギヤ28の回転を許可又は禁止すべく係合及び解放される後進ブレーキ34とが設けられている。これらの前進クラッチ33及び後進ブレーキ34は、運転者によるシフトレバー(図示略)の操作に基づき駆動されて係合及び解放される。
【0022】
例えば、シフトレバーの操作によりシフトポジションが前進走行ポジションにされると、前進クラッチ33が係合されてタービン軸23とキャリア32とが直結されるとともに、後進ブレーキ34が解放されてリングギヤ28の回転が許可される。そのため、サンギヤ27の回転に伴い各プラネタリギヤ29(キャリア32)がサンギヤ27と同方向に回転し、変速機構部19の入力軸31が正回転方向に回転する。
【0023】
また、シフトレバーの操作によりシフトポジションが後進走行ポジションにされると、前進クラッチ33が解放されてタービン軸23とキャリア32との直結が解除されるとともに、後進ブレーキ34が係合されてリングギヤ28の回転が禁止される。そのため、サンギヤ27の回転に伴い各プラネタリギヤ29(キャリア32)がサンギヤ27とは逆方向に回転し、変速機構部19の入力軸31が逆回転方向に回転する。
【0024】
さらに、シフトレバーの操作によりシフトポジションがニュートラルポジションにされて、前進クラッチ33及び後進ブレーキ34がともに解放されると、サンギヤ27の回転が各プラネタリギヤ29を介してリングギヤ28の回転として伝達される。そのため、キャリア32が回転することはなくなり、変速機構部19の入力軸31がエンジン回転の伝達によって回転することはない。この状態は、一般にニュートラル状態と呼ばれる。
【0025】
変速機構部19は、その入力軸31に設けられた入力側可変プーリ35と、出力軸36に設けられた出力側可変プーリ37と、両可変プーリ35,37に巻き掛けられた伝動ベルト38とを備えている。伝動ベルト38は、各可変プーリ35,37との間の摩擦力を介して動力伝達を行なう。入力側可変プーリ35は、その回転中心から伝動ベルト38までの距離を変更して変速機構部19の変速比(=入力軸回転速度/出力軸回転速度)を連続的に変更すべく、入力軸31の軸方向に変位させられる。また、出力側可変プーリ37は、両可変プーリ35,37に対する伝動ベルト38の滑りが生じないようベルト挟圧力を調整すべく出力軸36の軸方向に変位させられる。
【0026】
また、車両10には、図2に示すように、各種センサ等による検出信号を含む各種信号に基づいて、上記油圧制御回路26を制御するために、変速機用電子制御装置(以下、変速機ECUという)41が設けられている。各種信号としては、例えば、シフトレバーの操作位置(シフトポジション)、エンジン回転速度NE、トルクコンバータ12の出力軸であるタービン軸23の回転速度、変速機構部19の入力軸31の回転速度、アクセルペダルの踏込み量(アクセル開度)、ブレーキペダルの踏込み量、車速等が挙げられる。
【0027】
変速機ECU41は、マイクロコンピュータを中心として構成されており、中央処理装置(CPU)が、読出し専用メモリ(ROM)に記憶されている制御プログラム、初期データ、制御マップ等に従って演算処理を行い、その演算結果に基づいて各種制御を実行する。CPUによる演算結果は、ランダムアクセスメモリ(RAM)において一時的に記憶される。
【0028】
ここで、変速機ECU41の制御対象となる油圧制御回路26について説明すると、同油圧制御回路26の油路42は、前進クラッチ33に対し、これを係合及び解放させるためのオイルを供給する。また、油路42は、出力側可変プーリ37に対し、ベルト挟圧力を調整するためのオイルを供給する。また、油路42は、上記前進クラッチ33及び出力側可変プーリ37以外の各種部位にオイルを供給する。上記オイルとしては、オイルポンプ25から吐出されるものが用いられる。
【0029】
油圧制御回路26には、オイルポンプ25のオイル吐出圧をベルト式無段変速機14の油圧駆動等に用いられる油圧であるライン圧PLに調整するプライマリレギュレータバルブ43と、ライン圧PLを基にして、出力側可変プーリ37に作用してベルト挟圧力調整油圧(セカンダリ圧)PSを調整するプーリコントロールバルブ44とが設けられている。これらプライマリレギュレータバルブ43及びプーリコントロールバルブ44は、共通のリニアソレノイドバルブSLSから出力される信号圧(油圧)により駆動制御される。プライマリレギュレータバルブ43において余剰のオイルはドレンされる。なお、リニアソレノイドバルブSLSの駆動制御は変速機ECU41によって行われる。変速機ECU41は、出力側可変プーリ37によるベルト挟圧力が伝動ベルト38と可変プーリ35,37との間に滑りが生じることのない値となるよう、出力側可変プーリ37に作用する油圧(ベルト挟圧力調整油圧)を調整すべくリニアソレノイドバルブSLSを駆動制御する。本実施形態では、上述したプーリコントロールバルブ44及びリニアソレノイドバルブSLSによって第1油圧調整手段が構成されている。
【0030】
また、油圧制御回路26には、上記ライン圧PLを、前進クラッチ33を駆動等するための油圧であるクラッチ調整油圧(クラッチ圧)PCに調整するクラッチコントロールバルブ45が設けられている。このクラッチコントロールバルブ45は、上記リニアソレノイドバルブSLSとは別に設けられたリニアソレノイドバルブSLTから出力される信号圧(油圧)により駆動制御される。このリニアソレノイドバルブSLTの駆動制御もまた変速機ECU41によって行われる。本実形態では、クラッチコントロールバルブ45及びリニアソレノイドバルブSLTによって第2油圧調整手段が構成されている。
【0031】
上記変速機ECU41によって実行される制御の1つとして、車両10の停車時であって、シフトレバーの操作位置(シフトポジション)が走行ポジションであるときに行なわれるニュートラル制御(N制御)がある。ニュートラル制御は、前進クラッチ33を半解放状態にすることにより、エンジン11の負荷を軽減し、停車時の燃料消費を抑えて燃費向上を図ることを目的として行なわれる。このニュートラル制御では、トルクコンバータ12の速度比が目標速度比TRとなるように、前進クラッチ33の係合状態に係る圧力(クラッチ調整油圧)を調整すべくリニアソレノイドバルブSLTが駆動制御される。トルクコンバータ12の速度比は、トルクコンバータ12に入力される回転と、同トルクコンバータ12から出力される回転との速度比であり、エンジン回転速度NEとタービン軸23の回転速度との比である。
【0032】
トルクコンバータ12の変速比が目標速度比TR付近の値にされることで、前進クラッチ33が完全接続状態から半解放状態となる。半解放状態は、前進クラッチ33において上流側(エンジン11側)と下流側(反エンジン11側)との間に滑りが発生した状態であり、エンジン11の発生する駆動力が前進クラッチ33においてほぼ完全に伝達される前記完全接続状態への復帰がレスポンスよく行われ得る接続状態のことである。この半解放状態においては、前進クラッチ33において若干の動力伝達が行われる。すなわち、半解放状態においてはエンジン11の負荷が完全接続状態よりも小さくなり、燃費向上が可能になる。
【0033】
次に、このニュートラル制御に用いられる目標速度比TRを算出する処理の内容について、図3のフローチャートに示す目標速度比算出ルーチンを参照して説明する。
変速機ECU41は、まずステップ110において、ニュートラル制御が実行中であるかどうかを判定する。この判定は、例えば、ニュートラル制御の実行条件の成立の有無に基づき行なわれる。ニュートラル制御の実行条件としては、例えば、シフトポジションが走行ポジションにあり、アクセル開度がゼロであり、ブレーキが踏み込まれた状態にあり、かつ車速が所定値以下(例えばゼロ)であることが挙げられる。なお、上記の4つの条件は最低限必要なものであり、これら以外の条件が含まれてもよい。
【0034】
上記ステップ110の判定条件が満たされていると、ステップ120においてニュートラル制御が安定しているかどうか、すなわち、前進クラッチ33の実際の速度比が、ニュートラル制御の開始に際し設定された最初の目標速度比TR(例えば、アイドル回転速度に対応した値)付近にあるかどうかを判定する。ここで、エンジン回転速度NEは車両10の停止に伴い低下し、その後にアイドル回転速度に収束する。また、車両10が停止した直後であって、ニュートラル制御が開始される前にはトルクコンバータ12のタービン軸23が回転を停止し、その回転速度が、エンジン11のアイドル回転速度に対し低速側に大きく乖離する。その後、ニュートラル制御が開始されると、上記速度比が目標速度比TRとなるようにクラッチ調整油圧PCが調整されることにより、前進クラッチ33が半解放状態にされて、トルクコンバータ12のタービン軸23の回転速度が上昇し、エンジン11のアイドル回転速度に近づき、両回転速度の差が小さくなる。この状態が、ニュートラル制御の安定している状態である。
【0035】
ステップ120の判定条件が満たされていると、ステップ130において、ベルト挟圧力調整油圧PSが伝動ベルト38に滑りを生じさせない最小値又はそれに相当する値になるような必要ベルトトルク容量を求める。
【0036】
ここで、ベルト挟圧力調整油圧PSを低くしていくと、出力側可変プーリ37のベルト挟圧力が低下する。ベルト挟圧力調整油圧PSが、ある値よりも低くなると、伝動ベルト38が出力側可変プーリ37に対し滑り始める。出力側可変プーリ37において、伝動ベルト38に滑りが生じない最小のベルト挟圧力を発生させるベルト挟圧力調整油圧PSが、ここでの伝動ベルト38に滑りを生じさせない最小値となる。また、最小値に相当する値とは、最小値よりも高く、かつ同最小値に近い値である。
【0037】
上記ベルト挟圧力調整油圧PSの最小値としては、別途実行されるルーチンにおいて、ベルト式無段変速機14の変速状態を示す指標である変速比と、前進クラッチ33がニュートラル制御時の標準的な状態となっているときに、エンジン11側からベルト式無段変速機14の入力軸31に入力される入力トルクとに基づいて算出されたものが用いられる。この算出に際しては、例えば、入力トルクと、変速比と、ベルト挟圧力調整油圧PSの最小値との関係を、実験等によって求めて定めたマップが参照される。このマップから、そのときの入力トルクと変速比とに対応するベルト挟圧力調整油圧PSの最小値が求められる。
【0038】
なお、上記入力トルクとしては、例えば、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷から定まるエンジンの出力トルクと、トルクコンバータ12の性能(緒元)とに基づき算出したものが用いられる。
【0039】
また、変速機構部19の入力トルクを大きくしていった場合、同入力トルクが低いときには伝動ベルト38が滑らないが、ある値を超えると伝動ベルト38は出力側可変プーリ37に対し滑り始める。伝動ベルト38に滑りが生じない入力トルクの最大値が必要ベルトトルク容量である。
【0040】
従って、ベルト挟圧力調整油圧PSが伝動ベルト38に滑りを生じさせない最小値又はそれに相当する値と、必要ベルトトルク容量とは、表現態様が異なるだけで一対一に対応している。そこで、所定の変換式を用いる等して、上記ベルト挟圧力調整油圧PSの最小値又はそれに相当する値を、上記必要ベルトトルク容量に変換する。
【0041】
次に、ステップ140において、トルクコンバータ12に入力される回転速度(エンジン回転速度NE)と、上記必要ベルトトルク容量とに基づき、同トルクコンバータ12の目標速度比TRを算出する。
【0042】
この目標速度比TRの算出に際しては、例えば、エンジン回転速度NE及び必要ベルトトルク容量を算出パラメータとする目標速度比算出用マップを参照する。この目標速度比算出用マップには、エンジン回転速度NEとトルクコンバータ12の諸元とから、変速機構部19に入力されるトルクが必要ベルトトルク容量となるような目標速度比TRが設定されている。そして、この目標速度比算出用マップから、そのときのエンジン回転速度NEと、上記ステップ130で求めた必要ベルトトルク容量とに対応する目標速度比TRを割り出す。
【0043】
ここで、シフトポジションがニュートラルポジションとされた場合には、前進クラッチ33が動力伝達のほとんど行われない状態(半解放状態よりも動力伝達量の少ない状態)となることから、トルクコンバータ12の速度比NRは、制御上採り得る最大値(理想的には1.0)に近い値となる。ただし、オイルによるひきずり等の影響を考慮すると、上記最大値は1.0よりも若干小さな値となる。そして、上記ステップ140で求めた目標速度比TRが適正な値であれば、この最大値を超えることはないはずである。
【0044】
そこで、この点を考慮し、上記目標速度比TRのガード処理を行なう。詳しくは、ステップ150において、上記ステップ140で求めた目標速度比TRが、シフトポジションがニュートラルポジションとされた場合の速度比NRから所定値αを減じたもの以下であるかどうかを判定する。この判定条件が満たされていると、ステップ160において、速度比NRから所定値αを減じたものを、最終的な目標速度比TRとして設定する。所定値αは、前進クラッチ33が上記状態であるときにオイルによるひきずり等が速度比NRに及ぼす影響分であり、ここでは一定の値である。これに対し、上記判定条件が満たされていないと、ステップ170において、上記ステップ140での目標速度比TRを最終的な目標速度比TRとして設定する。従って、速度比NRから所定値αを減じたものよりも大きな値が最終的な目標速度比TRとして設定されることはない。目標速度比TRは、最も大きな値が設定された場合でも、速度比NRから所定値αを減じたものと同一となる。
【0045】
そして、上記ステップ160,170の処理を経た後に、この目標速度比算出ルーチンを終了する。なお、上述したステップ110の判定条件が満たされていない場合(ニュートラル制御の実行中でない場合)、及びステップ120の判定条件が満たされていない場合(ニュートラル制御の実行中ではあるが、同制御が安定していない場合)には、上記ステップ130〜170の処理を経ることなく、目標速度比算出ルーチンを終了する。
【0046】
このようにして求められた目標速度比TRは、ニュートラル制御において、前進クラッチ33に作用する油圧(クラッチ調整油圧PC)を調整するためのリニアソレノイドバルブSLTを駆動制御する際に用いられる。トルクコンバータ12の速度比が、上記目標速度比TRとなるように、リニアソレノイドバルブSLTの制御を通じてクラッチ調整油圧PCが調整される。
【0047】
従って、目標速度比TRとして、変速機構部19の入力トルクが必要ベルトトルク容量を越えないような値に設定されることで、伝動ベルト38に滑りを発生させるような過度に大きな入力トルクが同変速機構部19に入力されることがない。
【0048】
また、ベルト挟圧力調整油圧PSは、上記最小値又はそれに相当する値に調整されることにより、車両走行時を基準として設定した下限ガード値を用いた場合よりも低くなる。
なお、本実施形態では、上記変速機ECU41と、同変速機ECU41によって実行される下記処理とがニュートラル制御手段に相当する。変速機ECU41による該当処理は、目標速度比算出ルーチンにおいて目標速度比TRを算出する処理(ステップ130,140)と、実際の速度比が、上記算出した目標速度比TRとなるように、リニアソレノイドバルブSLTの制御を通じてクラッチ調整油圧PCを調整することで前進クラッチ33を半解放状態にする処理である。
【0049】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)ニュートラル制御に際し、ベルト挟圧力調整油圧PSが伝動ベルト38に滑りを生じさせない最小値又はそれに相当する値になるような必要ベルトトルク容量を求め(ステップ130)、この必要ベルトトルク容量に基づいてトルクコンバータ12の目標速度比TRを求める(ステップ140)ようにしている。
【0050】
そのため、ベルト挟圧力調整油圧PSを上記最小値又は相当値に調整することにより、車両10の走行時を基準として設定した下限ガード値をニュートラル制御時にも用いた場合よりも、ベルト挟圧力調整油圧PSを低くすることができる。ベルト挟圧力調整油圧PSを低くすることでオイルポンプ25の余分な仕事量を減らし、それに伴いオイルポンプ25の駆動のために消費されるエンジン11の出力を少なくして燃費の向上を図ることができる。
【0051】
また、目標速度比TRとして、変速機構部19の入力トルクが必要ベルトトルク容量を越えないような値に設定することで、クラッチ調整油圧PCが過度に高く調整されて過度に大きな入力トルクが変速機構部19に加わることがないようにして、伝動ベルト38が滑るのを抑制することができる。
【0052】
このように、本実施形態によれば、伝動ベルト38の滑りを抑制しつつ燃費向上を図ることができるようになる。
(2)仮に、共通のリニアソレノイドバルブから、ベルト挟圧力調整油圧PSを調整するプーリコントロールバルブ44と、クラッチ調整油圧PCを調整するクラッチコントロールバルブ45とに信号圧を供給する構成を採用すると、コントロールバルブ44,45の一方を基準として信号圧を設定することとなる。この場合には、コントロールバルブ44,45の他方にとっては、信号圧が最適なものとならない場合がある。
【0053】
この点、本実施形態では、ベルト挟圧力調整油圧PSを調整するプーリコントロールバルブ44に信号圧を供給するリニアソレノイドバルブとして、クラッチ調整油圧PCを調整するクラッチコントロールバルブ45に信号圧を供給するリニアソレノイドバルブSLTとは異なるもの(リニアソレノイドバルブSLS)を用いている。そのため、これらのリニアソレノイドバルブSLS,SLTを別々に制御することで、各コントロールバルブ44,45に適切な信号圧を供給することができ、上記(1)のように、ベルト挟圧力調整油圧PS及びクラッチ調整油圧PCを適切な値に調整することができる。
【0054】
(3)目標速度比TRのガード処理を行なうようにしている(ステップ150〜170)。そのため、ステップ140において、万が一適正値よりも大きな目標速度比TRが算出されても、その目標速度比TRがニュートラル制御に用いられるのを防止することができる。
【0055】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・図3のステップ140で用いられる目標速度比算出用マップの作成に際し、目標速度比TRの採り得る上限値(=NR−α)を設定し、目標速度比TRとしてこの上限値を越える値については、同上限値を目標速度比TRとして設定してもよい。このようにすれば、ステップ150〜170におけるガード処理を省略することができる。
【0056】
・図3のステップ150〜170で用いられる所定値αは、トルクコンバータ12の個体差、機種差等によって異なるおそれがある。そのため、この所定値αを記憶しておき、随時更新(学習)させる。そして、学習後の所定値αを、ステップ150〜170の処理に用いるようにしてもよい。このようにすれば、個体差、機種差等による影響を小さくし、目標速度比TRとしてより精度の高い値を得ることができるようになる。
【0057】
・また、目標速度比TRの最大値が速度比NR(=1.0)となる標準の目標速度比算出用マップを予め作成しておく。そして、上記のように所定値αを学習し、目標速度比算出用マップ上の目標速度比TRとして、上記上限値(=NR−α)よりも大きな値については、この上限値(=NR−α)に書き換えるようにしてもよい。
【0058】
・本発明は、エンジン11に代えて電動モータを動力源として備える車両にも適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10…車両、11…エンジン(動力源)、12…トルクコンバータ、14…ベルト式無段変速機、17…駆動輪、19…変速機構部、25…オイルポンプ(ポンプ)、33…前進クラッチ(クラッチ)、37…出力側可変プーリ(可変プーリ)、38…伝動ベルト、41…変速機ECU(ニュートラル制御手段)、44…プーリコントロールバルブ(第1油圧調整手段)、45…クラッチコントロールバルブ(第2油圧調整手段)、PC…クラッチ調整油圧、PS…ベルト挟圧力調整油圧(セカンダリ圧)、SLS…リニアソレノイドバルブ(第1油圧調整手段)、SLT…リニアソレノイドバルブ(第2油圧調整手段)、TR…目標速度比。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源の発生トルクを流体により伝達するトルクコンバータと車両の駆動輪との間に介在される変速機として、
伝動ベルトが巻き掛けられるとともに、ポンプから供給され、かつ第1油圧調整手段にて調整されたベルト挟圧力調整油圧によりベルト挟圧力を可変とする可変プーリを有する変速機構部と、前記ポンプから供給され、かつ第2油圧調整手段にて調整されたクラッチ調整油圧により係合及び解放して、前記トルクコンバータ及び前記変速機構部間を断接するクラッチとを備え、前記可変プーリが前記伝動ベルトに滑りを生じさせないベルト挟圧力で同伝動ベルトを挟み込むように、前記第1油圧調整手段の制御を通じて前記ベルト挟圧力調整油圧が調整されるベルト式無段変速機に適用されるものであり、
前記車両の停車時に、前記トルクコンバータに入力される回転と同トルクコンバータから出力される回転との速度比が目標速度比となるように、前記第2油圧調整手段の制御を通じて前記クラッチ調整油圧を調整することで前記クラッチを半解放状態にするニュートラル制御手段を備える無段変速機のニュートラル制御装置であって、
前記ニュートラル制御手段は、前記ベルト挟圧力調整油圧が前記伝動ベルトに滑りを生じさせない最小値又はそれに相当する値になるような必要ベルトトルク容量を求め、同必要ベルトトルク容量に基づいて前記目標速度比を求めることを特徴とする無段変速機のニュートラル制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−276084(P2010−276084A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127936(P2009−127936)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】