説明

無段変速機の変速制御装置

【課題】運転者の加速要求が大きくない場合も、加速フィーリングの向上を図れる無段変速機の変速制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン回転速度を無段階に変速して出力する無段変速機と、運転者の加速要求の大きさに応じて、通常変速モードと疑似有段アップシフトモードのうち一方のモードを選択し、選択されたモードに基づき無段変速機の変速比を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、疑似有段アップシフトモードを選択して変速比を制御するとき、前記加速要求が小さいほど低いエンジン回転速度でアップシフトを行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機を備えた車両の変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の無段変速機の変速制御では、車速とアクセル操作量に応じた変速パターンを目標入力軸回転速度のマップとして記憶し、運転状態に応じた目標入力軸回転速度から目標変速比を決定していた。
【0003】
このような従来の変速制御において、急加速を意図してアクセル操作量を急増させるキックダウン操作を行ったときは、このアクセル操作量に応じてエンジン回転速度が急激に増大するように目標変速比が決定される。
【0004】
このようにアクセル操作量を増大させた場合は、変速比を最大に設定することにより車速の低い領域でエンジン回転速度を最高領域に上昇させた後、変速比を徐々に小さくして加速するようなマップに基づいた変速を行う。
【0005】
しかし、このようなキックダウン操作による変速制御を行った場合は、エンジン回転速度が変化することなく、車速だけが増大するという事態が生じることになって乗員に違和感が与えられると共に、大きなエンジン騒音発生するという問題がある。
【0006】
このような問題に対して、急加速が要求されたと判断した場合に、エンジン回転速度を漸増および急減を繰り返しつつ車速が増加するように変速比を段階的に制御して、エンジン回転速度が増大することなく車速だけ増大するという違和感を与えることを防止すると共に、エンジン回転速度が高回転領域に長時間にわたって維持されることによる騒音の発生を防止する無段変速機の変速制御装置(特許文献1参照)が開示されている。
【0007】
なお、このように、無段変速機でありながら、あたかも有段変速機のように、車速の上昇に連動してエンジン回転速度を上昇させるとともにアップシフトを行う変速モードを、「疑似有段アップシフトモード」と呼ぶ。
【特許文献1】特開平5−332426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の特許文献1に開示された技術は、急加速が要求されたキックダウン時に、車速の上昇に連動してエンジン回転速度が上昇する疑似有段アップシフト制御を行うことによって、加速フィーリングを向上させている。
【0009】
しかしながら、引用文献1に開示された発明では、キックダウン操作が行われたことを判定して変速比の制御を行っているため、前述のような変速比を漸増および急減を繰り返す制御は、エンジン回転速度が高いときのみ行われる。そのため、アクセル操作量がそれほど大きくない場合(例えば中間開度)では、このような変速比の制御は行われない。
【0010】
しかし、アクセル開度が中間開度であっても、引用文献1の図8に示すマップのように、加速時にエンジン回転速度が増加することなく、車速だけが増加するといった運転状態が起こりうる。
【0011】
従って、運転者の加速要求が小さい場合には、前述のように、車速だけが上昇してエンジン回転速度が変化しないという運転状態が発生し、運転者が違和感を覚えると共に、加速フィーリングが低下するという問題があった。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、運転者の加速要求が大きくない場合にも、加速フィーリングの向上を図れると共に、燃費性能を向上できる無段変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施態様によると、エンジン回転速度を無段階に変速して出力する無段変速機と、運転者の加速要求の大きさに応じて、通常変速モードと疑似有段アップシフトモードのうち一方のモードを選択し、選択されたモードに基づき前記無段変速機の変速比を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、疑似有段アップシフトモードを選択して変速比を制御するとき、加速要求が小さいほど低いエンジン回転速度でアップシフトを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、疑似有段アップシフト制御を行う際に、検出された加速要求が小さいほど低いエンジン回転速度で、変速比をアップシフト側に制御することによって、車速の上昇に連動してエンジン回転速度が上昇する走行状態が繰り返し発生するので、運転者の加速フィーリングを向上することができると共に、エンジン回転速度が過大となることを防止するので、燃費性能を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
一般に、比較的小さなアクセル操作量で、ほぼ一定車速で走行する定常走行状態から、急加速を意図してアクセル操作量を急増させるキックダウン操作を行った場合は、このときのアクセル操作量に対応する目標変速比に実変速比が到達するまでにはある程度の時間がかかる。そのため、エンジン回転速度はすぐに上昇するにもかかわらず駆動力が増大せず、その間はエンジンが空吹かしされたような状態となるので、運転者に違和感を与える。
【0017】
この対策として、加速要求の大きなときには変速比変化を抑制することが考えられ、例えばスロットル開度がしきい値以上になったら変速比を一定に固定するという技術(いわゆるリニアモード)が知られている。このように、大きな変速比になる前に変速比を固定することにより、エンジン回転速度の増加に対応して、速やかに駆動力の増加をもたらすので、スロットル増加から加速感が得られるまでの時間的遅れが短くなる。
【0018】
しかしながら、このような一定変速比の決定方法では、スロットル開度を前記しきい値およびヒステリシス設定分から戻さない限り一定変速比に保たれたままとなり、運転者の当初の加速意図が満たされた後も変速比の変化が起こらないので、そのことが却って違和感をもたらすことになってしまう。換言すれば、変速比変化を発生させるためには、アクセルペダルを意図して大きく戻す操作が必要になってしまう。
【0019】
このような問題点に対して、本願発明の出願人は、牽引などによる走行抵抗の増加に係わらずキックダウン加速時には運転者の加速意図に応じた車速の上昇を確実に提供することを目的として、加速要求が所定の閾値よりも大きいときに、算出した目標変速比よりも抑制されたダウンシフト目標変速比へダウンシフトを行った後、アップシフト変速特性に基づくアップシフト目標変速比によりアップシフトを行う加速制御手段と、前記加速制御手段によるダウンシフト後に加速状態を判定する加速状態判定手段と、この加速状態が予め設定した値以下の場合には、前記アップシフトの目標変速比を加速状態に応じてダウンシフト側へ補正するアップシフト目標変速比補正手段とを備える無段変速機の制御装置(特願2002−329140号;以降、「先行発明」と呼ぶ)を提案している。
【0020】
この先行発明によると、加速要求が大きいとき(例えば、キックダウン加速時)には、変速比決定手段で決まる通常の変速よりも抑制されたダウンシフト変速特性のダウンシフト目標変速比でダウンシフトを行った後、アップシフト変速特性によるアップシフト目標変速比で変速比の小側へアップシフトを行うことで、加速途上のエンジン回転速度の過大な上昇と車両加速度の減少を抑制して、車両加速度の立ち上がりと落ち込みをバランスさせ、運転者の加速意図に応じた車両加速度を確実に得ることができる。
【0021】
ダウンシフト後に加速の伸びが鈍化したときには、アップシフトの目標変速比を加速の鈍化に応じてダウンシフト側へ補正するので、牽引や登坂などの走行抵抗が増加したときであっても、常時加速意図に応じた加速感を得ることができ、無段変速機を備えた車両の運転性を大幅に向上できる。
【0022】
ところで、この先行発明では、ダウンシフト後に、徐々にアップシフトを行う構成としているので、加速が長期化した場合には、加速中にエンジン回転速度が徐々に略一定速へと収束してしまう。
【0023】
また、キックダウンと判定したときのエンジン回転速度が比較的高い場合にも、リニアモードでの加速時に、同様に、加速中にエンジン回転速度が徐々に略一定速へと収束してしまう。
【0024】
このように、加速状態において、車速が増大しているにもかかわらずエンジン回転速度が増加しないことによる加速フィーリングの悪化によって、運転者が違和感を覚える場合がある。
【0025】
ここで、前述の従来技術は、加速要求が高いときのみ疑似有段アップシフトを行うものであり、加速要求が高くない(アクセル開度が中間開度)領域では疑似有段アップシフトが行われない。これを解決するために単純に加速要求が高くない領域まで疑似有段アップシフトを行う領域を拡大すると、次のような問題が発生する。
【0026】
つまり、加速要求が高くなければエンジン回転速度を高くする必要がないのに、単純に領域を拡大すると、エンジン回転速度が高回転速度域まで上昇して疑似有段アップシフトを行うことになるので、加速要求に対して駆動力が過大となり、その過大となった分だけ、燃費が悪化する。
【0027】
そこで、本願発明の実施の形態では、以下に説明するような制御を行うことによって、加速フィーリングを向上できると共に、燃費性能向上することができる無段変速機の制御装置を提供する。
【0028】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態の車両の無段変速機の制御装置を中心としたブロック図である。
【0029】
エンジン11は、トルクコンバータ12を備える無段変速機10が連結されている。
【0030】
これらエンジン11と無段変速機10とは、走行状態に応じて最適な運転状態となるように、エンジン11の出力や無段変速機10の変速比を制御するコントローラ1を備えている。なお、無段変速機10の無段変速機構は、Vベルト式やトロイダル式を採用することができる。
【0031】
コントローラ1は、運転状態に応じてエンジン11の燃料噴射量制御、点火時期制御等を行う。また、運転状態に応じて無段変速機10の変速比を無段階に制御する。これによりエンジン11の回転速度を制御する。すなわち、このコントローラ1が、エンジンの回転速度に基づいて無段変速機を制御する制御手段として構成されている。
【0032】
コントローラ1は、アクセルペダル操作に基づくスロットルバルブ開度TVOを検出するスロットルバルブ開度センサ5(スロットルバルブ開度検出手段)、車両の走行速度(以下「車速VSP」と呼ぶ)を検出する車速センサ4(車速検出手段)、エンジン11のエンジン回転速度Neを検出するエンジン回転センサ2(エンジン回転速度検出手段)、無段変速機10の入力軸回転速度Ntを検出する入力軸回転センサ3、無段変速機10の出力回転速度OutRevを検出する出力軸回転速度等が接続される。コントローラ1は、これらのセンサから取得した各値により、車両の運転状態を検出する。
【0033】
また、コントローラ1には、走行モード切替スイッチ13が接続されている。この走行モード切替スイッチ13は、例えば3段階(A、B、C)に切り替え可能に構成され、運転者によってこの3段階のうちいずれか一つを選択することができるよう構成されている。
【0034】
コントローラ1は、この走行モード切替スイッチ13の切り替え状態に基づいて、走行モードを決定する。例えば、走行モード切替スイッチ13が「A」に切り替えられたときは、走行モードを「スポーツモード」に設定し、エンジン回転速度Neや変速比を、ノーマルモードよりも高くなるように制御する。また、走行モード切替スイッチ13が「C」に切り替えられたときは、走行モードを「エコモード」に設定し、エンジン回転速度Neや変速比を、最も燃料消費率が少なくなるように制御する。なお、走行モード切替スイッチ13が「B」に切り替えられたときは、「ノーマルモード」とする。
【0035】
なお、車速VSPは、例えば、無段変速機10の出力軸回転速度OutRevを検出し、これに終減速比や車両の仕様に応じた定数(タイヤ半径など)を乗じることによって検出する。
【0036】
また、無段変速機10の入力軸回転速度Ntとエンジン回転速度Neとは、トルクコンバータ12がロックアップ状態のときに同一と見なせるため、以降に説明する本実施形態の制御では、エンジン回転速度Neを用いて説明する。
【0037】
次に、本発明の第1実施形態の無段変速機の制御装置の動作を説明する。
【0038】
図2は、本発明の第1実施形態の変速制御処理のフローチャートである。
【0039】
この図2に示すフローチャートの処理は、コントローラ1によって、所定の周期(例えば、数十msec毎)で実行される。
【0040】
このフローチャートによる制御は、運転状態に応じて変速比を可変制御する制御モード(以下「通常変速モード」と呼ぶ)と、無段変速機でありながら、あたかも有段変速機のように、車速の上昇に連動してエンジン回転速度を上昇させるとともにアップシフトを行う制御モード(以下「疑似有段アップシフトモード」と呼ぶ)と、を切り換えながら無段変速機10の制御を行う。
【0041】
なお、コントローラ1は、このフローチャートの処理とは別に、バックグラウンドで各センサからの検出値に基づいて、スロットルバルブ開度TVO、車速VSP、エンジン回転速度Ne等を検出する。
【0042】
まず、コントローラ1は、現在のスロットルバルブ開度TVO、車速VSP及びエンジン回転速度Neを取得する(S101)。
【0043】
次に、コントローラ1は、疑似有段アップシフトモードフラグFに基づいて、現在の制御モードが「通常変速モード」であるか「疑似有段アップシフトモード」であるかを判定する(S102)。
【0044】
疑似有段アップシフトモードフラグFがセットされている(Fの値が1である)場合は、制御モードが疑似有段アップシフトモードであると判定してステップS110に移行する。疑似有段アップシフトモードフラグFがセットされていない(Fの値が0である)場合は、疑似有段アップシフトモードではないと判定して、ステップS103に移行する。
【0045】
なお、この疑似有段アップシフトモードフラグFは初期値が0であり、後のステップS103の処理において制御モードが疑似有段アップシフトモードであると判定された場合に、ステップS107の処理においてセットされる。
【0046】
ステップS103では、ステップS101において取得した各値に基づいて、現在の制御モードが通常変速モードであるか、疑似有段アップシフトモードであるかを判定する。通常変速モードであると判定した場合はステップS104に移行する。疑似有段アップシフトモードであると判定した場合はステップS107に移行する。
【0047】
具体的には、コントローラ1は、スロットルバルブ開度TVOが所定の閾値(スロットルバルブ開度閾値)以上である場合、かつ、スロットルバルブ操作速度dTVOが所定の閾値(スロットルバルブ操作速度閾値)以上である場合に、運転者による加速要求があると判断して疑似有段アップシフトモードと判定する。なお、スロットルバルブ操作速度dTVOは、スロットルバルブ開度TVOの単位時間による微分値によって得られる。
【0048】
これら所定の閾値は、運転者による加速要求があることを判定するための閾値である。スロットルバルブ開度TVOを8段階に検出できる場合は、例えば8段階のうちの2又は3程度の開度(2/8又は3/8)をスロットルバルブ開度閾値とする。また、スロットルバルブ操作速度dTVO閾値は、例えば、踏み込み方向に60[deg/s]とする。
【0049】
スロットルバルブ開度TVO及びスロットルバルブ操作速度dTVOが、共にこれらの閾値を下回っている場合は、例えば、運転者がロードロードに釣り合う走行を要求していると判断して、通常変速モードと判定する。通常変速モードと判定した場合は、ステップS104に移行して、通常変速モードにおける変速比の設定を行う。
【0050】
この通常変速モードにおける変速比は、スロットルバルブ開度TVO、車速VSP及びエンジン回転速度Neに基づいて、従来周知の方法により決定される。
【0051】
具体的な一例として、前述の先行発明(特願2002−329140号)に記載されている方法と同様に、コントローラ1が、マップに基づいて車速VSPとアクセル操作量(スロットルバルブ開度TVO)とから該当する目標入力軸回転速度(エンジン初期回転速度Ne0)を求める。このエンジン初期回転速度Ne0を設定することにより、通常変速モードの変速比が決定される。
【0052】
次に、コントローラ1は、設定されたエンジン初期回転速度Ne0を、新たな目標エンジン回転速度tNeとして設定する(S105)。
【0053】
次に、コントローラ1は、エンジン回転速度Neがこの目標エンジン回転速度tNeに一致するように、無段変速機10を変速制御する(S106)。このステップS106の処理後、本フローチャートによる処理を一旦終了する。
【0054】
前述のステップS103の処理において、スロットルバルブ開度TVO及びスロットルバルブ操作速度dTVOが共にこれらの閾値以上である場合は、運転者によって加速要求がなされたと判断して疑似有段アップシフトモードと判定する。疑似有段アップシフトモードと判定された場合は、ステップS107に移行して、コントローラ1は、まず疑似有段アップシフトモードフラグFに1をセットする。
【0055】
次に、コントローラ1は、運転者の加速要求を満たすように、変速比のダウンシフト量を設定する(ステップS108)。
【0056】
具体的には、前述の先行発明に記載に技術と同様に、スロットルバルブ開度TVOとスロットルバルブ操作速度dTVOとから、運転者の加速意図をマップにより求める。そして、この加速意図に応じたダウンシフトの変速特性を選択する。そして、選択された変速特性から、車速VSPに応じて、ダウンシフトのための変速比の変化量を求める。
【0057】
なお、本実施形態では、変速比の変化量ではなくエンジン回転速度の変化量ΔNe1として算出し、これを現在の目標エンジン回転速度tNeに加算することで、新たな目標エンジン回転速度tNeを算出する(S109)。
【0058】
そして、この新たに算出された目標エンジン回転速度tNeに基づいて、ステップS106において変速制御がなされる。このステップS106の処理後、本フローチャートによる処理が一旦終了する。
【0059】
なお、このステップS108、S109及びS106により処理によって、疑似有段アップシフトモード移行後に行われる最初のダウンシフトによる加速制御を「初期加速」と呼ぶ。この初期加速により、まず、運転者の加速要求に対応するように、ダウンシフト制御が行われる。なお、この後に説明するステップS112において、エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度となるまで、ステップS113及びS114において変速比の変化を抑制した加速制御を行い、車両を加速させる。上記初期加速から変速比の変化を抑制した加速制御までを「リニア変速」と呼ぶ。
【0060】
前述のステップS102の処理において、制御モードが疑似有段アップシフトモードであると判定した場合は、ステップS110において、コントローラ1は、疑似有段アップシフトモードが継続しているか否かを判定する。
【0061】
なお、本フローチャートでは、ステップS103において、最初に疑似有段アップシフトモードへの移行を判定した場合は、ステップS107において疑似有段アップシフトモードフラグがセットされる。そして、次回以降の処理では、ステップS102で疑似有段アップシフトモードフラグがセットされていると判定してS110へと移行する。このステップS102からステップS110へと移行する処理は、疑似有段アップシフトモード継続の終了を判定し、疑似有段アップシフトモードフラグがリセットされるまで継続される。
【0062】
ステップS110の処理は、より具体的には、コントローラ1は、スロットルバルブ開度TVOが所定の閾値(第2のスロットルバルブ開度閾値)未満であり、または、スロットルバルブ操作速度dTVOが所定の閾値(第2のスロットルバルブ操作速度閾値)以上である場合に、運転者による加速要求が終了して、疑似有段アップシフトモード終了と判定する。疑似有段アップシフトモードの終了でない場合は、疑似有段アップシフトモードが継続していると判定する。
【0063】
スロットルバルブ開度TVOは、前述のステップS103と同じ値、すなわち、例えば8段階のうちの2又は3程度の開度(2/8又は3/8)を第2のスロットルバルブ開度閾値とする。また、第2のスロットルバルブ操作速度閾値、例えば、踏み戻し方向に60[deg/s](または踏み込み方向に−60[deg/s])とする。
【0064】
スロットルバルブ開度TVO又はスロットルバルブ操作速度dTVOがこれらの閾値を満たしたときは、コントローラ1は、疑似有段アップシフトモードが終了したと判定して、ステップS117に移行する。疑似有段アップシフトモードが終了していない(疑似有段アップシフトモードが継続)と判定した場合は、ステップS111に移行する。
【0065】
ステップS111では、まず、アップシフト判定回転速度を設定する。
【0066】
アップシフト判定回転速度とは、前述のステップS108において設定されたダウンシフトに基づいて変速制御された後、どのタイミングでアップシフトを行うかを決めうる値である。
【0067】
コントローラ1は、ステップS101で取得したスロットルバルブ開度TVOと、現在車速VSPとから、図3に例示するアップシフト判定回転速度マップを参照して、アップシフト判定回転速度を取得する。
【0068】
なお、このアップシフト判定回転速度マップは、図3で後述するように、運転者の加速要求が小さいほど、アップシフト判定回転速度が低い値となるように設定されている。また、走行モード切替スイッチ13によって選択された走行モードによって、アップシフト判定回転速度を変更することができる。
【0069】
次に、コントローラ1は、ステップS101で取得したエンジン回転速度NeとステップS111で取得したアップシフト判定回転速度とを比較して、エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度を超えたか否かを判定する(S112)。
【0070】
エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度以下である場合は、ステップS113に移行する。エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度を超えた場合は、ステップS115に移行する。
【0071】
ステップS113では、リニア変速における変速比の変化量を設定する。
【0072】
具体的には、前述の初期加速の後、変速比の変化量を抑制して、変速制御を行う。
【0073】
この制御は、前述の先行発明に記載に技術と同様に、コントローラ1が、スロットルバルブ開度TVOとスロットルバルブ操作速度dTVOとから、運転者の加速意図をマップにより求める。そして、この加速意図に応じたアップシフトの変速特性を選択する。そして、選択された変速特性から、車速VSPに応じてアップシフトにおける変速比の変化量を求める。
【0074】
なお、このとき、先行発明のように、車速の伸びに対応して徐々にアップシフト側に制御したり、駆動力が不足した場合にダウンシフト側に制御するようにしてもよい。このように、変速比の変化を抑制するように制御することで、車速VSPの上昇に連動してエンジン回転速度Neが上昇し、加速フィーリングを向上することができる。
【0075】
なお、本実施形態では、変速比の変化量ではなくエンジン回転速度の変化量ΔNe2として算出し、これを現在の目標エンジン回転速度tNeに加算することで、新たな目標エンジン回転速度tNeを算出している(S114)。
【0076】
そして、この新たに算出された目標エンジン回転速度tNeに基づいて、ステップS106において変速制御がなされる。このステップS106の処理後、本フローチャートによる処理が一旦終了する。
【0077】
このように、コントローラ1が、疑似有段アップシフトモードと判定した後、リニア変速において変速比の変化を抑制するように制御することにより、エンジン回転速度が増大する。
【0078】
前述のステップS112において、エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度を超えた場合は、ステップS115に移行し、コントローラ1は、アップシフト制御を行う。
【0079】
具体的には、コントローラ1は、アップシフト量に対応するエンジン回転速度の変化量ΔNe3を設定する。この変化量ΔNe3は、疑似有段アップシフトモードと判定された最初のダウンシフト制御時に設定された目標エンジン回転速度tNeよりも、新たに設定される目標エンジン回転速度tNeが高い値となるように設定される。すなわち、コントローラ1は、エンジン初期回転速度Ne0から変化量ΔNe3を減算した値である新たな目標エンジン回転速度tNeが、疑似有段アップシフトモードと判定された最初のダウンシフト制御時に設定された目標エンジン回転速度tNeよりも高い値となるように、ΔNe3を設定する。
【0080】
同様に、以降設定される変化量ΔNe3は、前回ステップS114において設定されたアップシフト制御時の目標エンジン回転速度tNeよりも、新たに算出される目標エンジン回転速度tNe高い値となるように設定される。
【0081】
運転者による加速要求に応じた変速制御によって、前回のアップシフト後よりも車速VSPは大きくなっている。そのため、車速VSPの伸びだけ走行抵抗(例えば、空気抵抗や無段変速機10やエンジン11の内部抵抗)が高くなっている。そこで、コントローラ1は、前回のアップシフト時の目標エンジン回転速度tNeに対して、走行抵抗の増加による駆動力不足分だけ高い値となるように補正した値を、ΔNe3として設定する。
【0082】
このようにアップシフト制御を行うことで、エンジン回転速度が一時的に減少する。これにより、運転者に有段変速機のアップシフトのような加速フィーリングを与えることができる。
【0083】
次に、コントローラ1は、設定されたΔNe3を、現在の目標エンジン回転速度tNeから減算することにより、ダウンシフト特性となる新たな目標エンジン回転速度tNeを算出する(S116)。
【0084】
そして、この新たに算出された目標エンジン回転速度tNeに基づいて、ステップS106において、コントローラ1が、変速制御を行う。このステップS106の処理後、本フローチャートによる処理が一旦終了する。
【0085】
このように、コントローラ1が、変速比の変化を抑制して、エンジン回転速度Neを増大させた後、変速比をアップシフト側に制御してエンジン回転速度Neを減少させることを、「段々アップシフト変速」と呼ぶ。この段々アップシフト変速は、加速要求が継続している間(疑似有段アップシフトモードが継続している間)は、ステップS110からS116の制御によって、繰り返し実施される。
【0086】
ステップS110において、疑似有段アップシフトモードが終了したと判定した場合は、ステップS117に移行し、コントローラ1は、疑似有段アップシフトモードフラグFをリセットする(Fの値を0に設定する)。
【0087】
疑似有段アップシフトモードフラグFをリセットした後、コントローラ1は、前述のステップS104と同様に、通常変速モードにおける変速比の設定を行い、エンジン初期回転速度Ne0を設定する(S118)。
【0088】
そして、コントローラ1は、設定されたエンジン初期回転速度Ne0を目標エンジン回転速度tNeとして設定する(S119)。
【0089】
そして、この新たに算出された目標エンジン回転速度tNeに基づいて、ステップS106において、変速制御がなされる。このステップS106の処理後、本フローチャートによる処理が一旦終了する。
【0090】
以上の処理によって、運転者の加速要求に基づいた変速制御がなされる。
【0091】
図3は、前述のアップシフト判定回転速度マップの一例の説明図である。
【0092】
図3に例示するアップシフト判定回転速度マップは、車速VSPとエンジン回転速度Neとの対応関係が、スロットルバルブ開度TVOごとに設定されたマップである。
【0093】
なお、スロットルバルブ開度TVOは、前述のように8段階に検出されるように設定されている。図3に示す例では、そのうち、疑似有段アップシフトモードの判定条件である3/8から8/8までの6段階のスロットルバルブ開度TVOそれぞれについて、車速VSPとエンジン回転速度Neとの対応関係が示されている。
【0094】
このアップシフト判定回転速度マップによると、スロットルバルブ開度TVOが小さいほど、すなわち運転者による加速要求が小さいほど、低いアップシフト判定回転速度が選択されて、より低いエンジン回転速度Neでアップシフト制御が行われるように設定されている。
【0095】
また、走行モード切替スイッチ13によって、走行モードが変更されたときは、その走行モードに対応してアップシフト判定回転速度の値を変更してもよい。具体的には、スポーツモードが選択された場合は、運転者の加速要求がより高いので、アップシフト判定回転速度を大側に補正する。一方、エコモードが選択された場合は、運転者の加速要求よりも燃費が優先されるので、アップシフト判定回転速度を小側に補正する。このように、スロットルバルブ開度TVO及び車速以外によっても、運転者の加速要求の大小を判定することができる。
【0096】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0097】
図4は、本実施形態のタイムチャートである。
【0098】
このタイムチャートは、図上方から、スロットルバルブ開度TVO、疑似有段アップシフトモード判定フラグF、エンジン回転速度Ne、車速VSP、車両の加速度G、について、左側から右側へと向かう時間軸での、それぞれの状態を示す。
【0099】
まず、車両は通常変速モードにより走行している。すなわち、この状態では、スロットルバルブ開度TVO及びスロットルバルブ操作速度dTVOは、疑似有段アップシフトモードの判定基準を満たさない程度に小さい。
【0100】
ここで、運転者によってスロットルバルブ開度TVOが操作されて、図2のフローチャートのステップS103における判定基準を満たし、コントローラ1が疑似有段アップシフトモードに移行したと判定された場合は(タイミングA)、ステップS109において初期加速の目標エンジン回転速度tNeが設定される。この初期加速によって、車速VSPは徐々に加速する。また、車速VSPの傾きより導かれる車両の加速度Gも大きくなる。
【0101】
この初期加速の後、図2のステップS112で、エンジン回転速度がアップシフト判定回転速度を超えたか否かが判定される。エンジン回転速度がアップシフト判定回転速度に満たない場合は、リニア変速において、ステップS113で設定された変速比での変速制御がなされる(タイミングB)。
【0102】
そして、エンジン回転速度Neが増加し、アップシフト判定回転速度以上と判定した場合は(タイミングC)、ステップS115において、アップシフト量の設定がなされ、このアップシフト量に基づいた変速制御がなされる。このときの目標エンジン回転速度tNeは、疑似有段アップシフトモードに移行したときの最初の目標エンジン回転速度tNe(タイミングB)よりも、走行抵抗の増加分を加味した値に設定される。
【0103】
この段々アップシフト変速の実行により、目標エンジン回転速度tNeが一旦下がるが、その後の車速VSPの伸びと共に実際のエンジン回転速度Neも伸び、加速度Gもそれに対応して右上がりのグラフを描く。
【0104】
このように、車速VSPの上昇に連動してエンジン回転速度Neが上昇し、これに伴って加速度Gも上昇することにより、加速フィーリングが向上する。
【0105】
その後、再び目標エンジン回転速度tNeが上昇し、アップシフト判定回転速度となったと判定した場合は(タイミングD)、ステップS115において、再度アップシフトが行われる。このときのアップシフト制御は、前回のアップシフト制御時の目標エンジン回転速度tNe(タイミングC)よりも、走行抵抗の増加分を加味した若干高い値に設定される。このように、段々アップシフト変速では、繰り返しアップシフトへの制御がなされる。
【0106】
このように疑似有段アップシフトモードにおいて、リニア変速の後に、段々アップシフト変速が行われることで、車速VSPの上昇に連動してエンジン回転速度Neが上昇する状態が連続して行われ、加速フィーリングを向上させることができる。
【0107】
図5は、本実施形態による変速比制御におけるエンジン回転速度Neとエンジトルクと燃料消費率と出力馬力との関係を示す説明図である。
【0108】
この図5に示す図は、エンジン回転速度Neとエンジントルクとに対応して、等燃料消費率が等高線状に実線で図示されており、等高線状の中心部が最も燃費が良い運転条件となる。また、エンジン回転速度Neとエンジントルクとに対応して、エンジン11の等馬力線が点線で図示されている。
【0109】
本実施形態では、図2のステップS111及びS112において、エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度を超えたときにアップシフトを行い、エンジン回転速度Neが下がるように制御している。
【0110】
このように制御することにより、エンジン回転速度Neの上昇が抑えられ、スロットルバルブ開度TVOに対応した適切なエンジン出力を達成できると共に、最適な燃費条件付近で運転を継続することが可能となる。
【0111】
より具体的には、疑似有段アップシフトモードに移行した後の初期加速後は、図5中の線Aに示す経路を辿る。その後、アップシフトが行われると、エンジン回転速度Neが下がり、図5中の線Bのような経路となる。再びアップシフトが行われると、図5中の線Cのような経路となる。
【0112】
このように、段々アップシフト変速より、エンジン回転速度Neを必要以上に増加させないので、常にエンジントルクと燃料消費率とが共に効率良い領域を使用することがでる。
【0113】
図6は、本実施形態による変速比制御におけるエンジン回転速度Neと出力馬力との関係を示す説明図である。
【0114】
エンジン11の出力馬力は、スロットルバルブ開度TVOごとに、エンジン回転速度Neに対する特性線を持つ。
【0115】
通常、出力馬力のピークは所定のエンジン回転速度Ne付近(図中点線で示す)にある。例えば、エンジン回転速度が4000〜6000[rpm]付近が出力馬力のピークである。エンジン11の運転状態をこの出力馬力のピークに付近に近づけることで、エンジン11の動力性能の効率が最も高くなる。
【0116】
本実施形態では、エンジン回転速度Neが、スロットルバルブ開度TVOごとに定められたアップシフト判定回転速度を超えたときにアップシフトを行い、エンジン回転速度Neが下がるように制御している。これにより、エンジン回転速度Neの上昇が抑えられ、エンジン11の動力性能の効率が高い領域で運転を継続することが可能となる。
【0117】
より具体的には、疑似有段アップシフトモードに移行した後の初期加速後は、図6中の線Aに示す経路を辿る。その後、アップシフトが行われると、エンジン回転速度Neが下がり、図6中の線Bのような経路となる。再びアップシフトが行われると、図6中の線Cのような経路となる。
【0118】
このように、エンジン回転速度Neを増加させないので、エンジンの出力馬力が高い状態を維持でき、常にエンジンの動力性能が効率良い領域を使用することがでる。
【0119】
以上のように、本発明の第1実施形態では、加速要求があったときに、疑似有段アップシフトモードに移行して、まずリニア変速においてダウンシフトを行って初期加速を行った後、変速比の変化を抑制する制御を実行して、エンジン回転速度が増大することによる騒音や運転者への違和感を低下する。
【0120】
その後、エンジン回転速度NeがステップS111で設定したアップシフト判定回転速度を超えた場合に、アップシフト制御を行うことにより、車速VSPの伸びと共に、一旦低下したエンジン回転速度Neが再び上昇することによる加速フィーリングを向上することができる。
【0121】
また、このアップシフト制御は繰り返し行われるので(段々アップシフト変速)、常にエンジン回転速度Neが過大に上昇しないように制御を行うことができ、加速時にもエンジン効率が高い領域を用いることで、燃費を向上することができる。
【0122】
また、運転者の加速要求が小さいほど低いエンジン回転速度Neでアップシフト制御を行うので、加速要求が小さいときにもエンジン回転速度Neを高くすることがなく、燃費が悪化することを防止することができる。
【0123】
<第2実施形態>
次に第2の実施形態について説明する。
【0124】
本発明の第2の実施形態は、前述の第1実施形態と比較して、アップシフト判定の基準が異なる。なお、第1実施形態と基本構成は同一であるため、その説明は省略する。
【0125】
第2の実施形態の変速制御処理は、図2に示す第1実施形態の変速制御処理のフローチャートとほぼ同一であるが、アップシフトの判定(ステップS111及びS112)が異なる。この相違点について説明する。
【0126】
前述の図2のステップS110において、疑似有段アップシフトモードが終了していないと判定した場合は、コントローラ1は、タイマのカウントアップを開始する(ステップS111に相当)。
【0127】
次に、コントローラ1は、このタイマの値が、アップシフト判定回転速度タイマ値を満了したか否かを判定する(ステップS112に相当)。タイマ値がアップシフト判定回転速度タイマ値に満たない場合は、ステップS113に移行する。タイマ値がアップシフト判定回転速度タイマ値を満了した場合は、タイマ値を一旦クリアして、ステップS115に移行する。そして、前述の第1実施形態と同様に、アップシフト制御を行う。
【0128】
その後、再びステップS111に相当する処理において、タイマ値のカウントアップを開始する。
【0129】
前述のように、第1実施形態では、リニア変速実行後、エンジン回転速度Neが、アップシフト判定回転速度を超えた場合に、段々アップシフト変速を行った。
【0130】
これに対して、第2の実施の形態では、リニア変速実行後、所定時間が経過した後に(アップシフト判定回転速度タイマ値が満了した後に)、段々アップシフト変速を行う。
【0131】
このように、所定時間毎にアップシフト制御することにより、疑似有段アップシフトモードにおいてアップシフトが定期的に行われ、運転者のドライバビリティを損なうことがない。
【0132】
なお、本実施形態のアップシフト判定回転速度タイマ値は、例えば一意の値としてもよいが、運転者の加速要求に応じて、変化させるようにしてもよい。
【0133】
図7は、第2の実施形態のアップシフト判定回転速度タイマ値のマップの一例の説明図である。
【0134】
この図7に示すマップは、車速VSPとスロットルバルブ開度TVOとアップシフト判定回転速度タイマ値との関係を示す。
【0135】
具体的には、車速VSP及びスロットルバルブ開度TVOの少なくとも一方が小さい場合には、アップシフト判定回転速度タイマ値が小さく設定される。
【0136】
このようにアップシフト判定回転速度タイマ値を設定することにより、運転者による加速要求が小さいときや、車速が低いときには、アップシフト判定回転速度タイマ値が小さく設定されることにより、段々アップシフト変速のアップシフトの間隔が小さくなり、より低いエンジン回転速度Neでアップシフト制御される。
【0137】
なお、前述の第1の実施形態と同様に、走行モード切替スイッチ13によって、走行モードが変更されたときは、走行モードに対応してアップシフト判定回転速度タイマ値を変更してもよい。
【0138】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0139】
図8は、本実施形態のタイムチャートである。
【0140】
このタイムチャートは、図上方から、スロットルバルブ開度TVO、疑似有段アップシフトモード判定フラグF、タイマ値、エンジン回転速度Ne、車速VSP、車両の加速度G、について、左側から右側へと向かう時間軸での、それぞれの状態を示す。
【0141】
まず、車両は通常変速モードにより走行している。すなわち、この状態では、スロットルバルブ開度TVO及びスロットルバルブ操作速度dTVOは、疑似有段アップシフトモードの判定基準を満たさない程度に小さい。
【0142】
ここで、運転者によってスロットルバルブ開度TVOが操作されて、第1実施形態と同様に、図2のフローチャートのステップS103における判定基準を満たし、コントローラ1が疑似有段アップシフトモードに移行したと判定された場合は(タイミングA)、ステップS109において初期加速の目標エンジン回転速度tNeが設定される。この初期加速によって、車速VSPは徐々に加速する。また、車速VSPの傾きより導かれる車両の加速度Gも大きくなる。
【0143】
この初期加速の後、図2のステップS111に相当する処理で、タイマ値のカウントアップを開始する。そして、図2のステップS112に相当する処理で、このタイマ値がアップシフト判定回転速度タイマ値を満了したか否かが判定される。アップシフト判定回転速度タイマ値に満たない場合は、まず、ステップS113で設定された変速制御がなされる(タイミングB)。
【0144】
そして、タイマ値のカウントアップが進み、アップシフト判定回転速度タイマ値を満了したと判定した場合は(タイミングC)、ステップS115において、アップシフト量の設定がなされ、このアップシフト量に基づいた変速制御がなされる。このときの目標エンジン回転速度tNeは、リニア変速実行時の最初の目標エンジン回転速度tNe(タイミングB)よりも、走行抵抗の増加分を加味した値に設定される。
【0145】
このアップシフトにより、目標エンジン回転速度tNeが一旦下がるが、その後の車速VSPの伸びと共に実際のエンジン回転速度Neも伸び、加速度Gもそれに対応して右上がりのグラフを描く。
【0146】
このように、車速VSPの上昇に連動してエンジン回転速度Neが上昇し、これに伴って加速度Gも上昇することにより、加速フィーリングが向上する。
【0147】
その後、再びタイマ値がカウントアップされ、アップシフト判定回転速度タイマ値を再度満了したと判定した場合は(タイミングD)、ステップS115において、再度アップシフトが行われる。このときのアップシフト制御は、前回のアップシフト制御時の目標エンジン回転速度tNe(タイミングC)よりも、走行抵抗の増加分を加味した若干高い値に設定される。
【0148】
このように段々アップシフト変速が行われることで、車速VSPの上昇に連動してエンジン回転速度Neが上昇する状態が連続して行われ、加速フィーリングを向上させることができる。
【0149】
以上のように、本発明の第2の実施形態では、前述の第1実施形態と同様に、加速要求があったときに、疑似有段アップシフトモードに移行して、まずリニア変速制御において、ダウンシフトを行い初期加速を行った後、変速比を抑制する制御を実行して、エンジン回転速度が増大することによる騒音や運転者への違和感を低下する。
【0150】
その後、タイマ値がアップシフト判定回転速度タイマ値を満了した場合に、段々アップシフト変速を実行することにより、車速VSPの伸びと共に、一旦低下したエンジン回転速度Neが上昇することによる加速フィーリングを向上することができる。
【0151】
また、このアップシフト制御はタイマ値のカウントアップにより繰り返し行われるので、常にエンジン回転速度Neが上昇しないように制御を行うことができ、加速時にもエンジン効率が高い領域を用いることで、燃費を向上することができる。
【0152】
また、運転者の加速要求が小さいほどアップシフト判定回転速度タイマ値の値を小さくするので、結果的に次回のアップシフト制御を行うためのエンジン回転速度Neが低くなり、加速要求が小さいときにはエンジン回転速度Neを高くすることがなく、燃費が悪化することを防止することができる。
【0153】
またさらに、第2の実施形態では、段々アップシフト変速のアップシフトのタイミングが定期的となるので、運転者が変速のリズムをつかみやすく、加速フィーリングの向上と共にドライバビリティを向上することができ、運転者への違和感をより低減することができる。
【0154】
<第3実施形態>
次に第3の実施形態について説明する。
【0155】
本発明の第3の実施形態は、前述の第1実施形態と比較して、アップシフト判定における処理が異なる。なお、第1実施形態と基本構成は同一であるため、その説明は省略する。
【0156】
第3の実施形態の変速制御処理は、図2に示す第1実施形態の変速制御処理のフローチャートとほぼ同一であるが、アップシフトの判定時の処理(ステップS111及びS112)が異なる。この相違点について説明する。
【0157】
まず、前述の図2のステップS111において、コントローラ1が、スロットルバルブ開度TVOと車速VSPとからアップシフト判定回転速度マップを参照して、アップシフト判定回転速度を取得する。
【0158】
次に、コントローラ1は、前述のステップS112に相当する処理において、以下のような処理を実行する。
【0159】
まず、コントローラ1は、エンジン回転速度Neとアップシフト判定回転速度とを比較して、エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度を超えたか否かを判定する。エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度以下である場合は、ステップS113に移行する。
【0160】
一方、エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度を超えたと判定した場合は、コントローラ1は、アップシフト制御を行うことになった場合に設定されうる目標エンジン回転速度tNeと現在のエンジン回転速度Neとの差分値が所定値以上であるか否かをさらに判定する。
【0161】
この処理について具体的に説明する。
【0162】
コントローラ1は、段々アップシフト変速において、Hi側への変速(アップシフト)を行うときに、エンジン回転速度Neが必要以上に低下しないように制御を行う。これは、エンジン回転速度Neの低下に伴って無段変速機10の出力軸トルクが低下することを防止するためである。
【0163】
具体的には、コントローラ1は、Hi側限界線を設定し、目標エンジン回転速度tNeがこのHi側限界線よりも下回らないように制御を行う。
【0164】
このHi側限界線は、車速VSPや、登坂勾配、コーナー走行時の旋回角度等に基づいて、コントローラ1によって設定される。例えば、車速VSPが大きいときは、走行抵抗が大きくなるため、これに抗するようHi側限界線が高く設定される。また、登坂勾配が大きいときも、登坂抵抗により走行抵抗が大きくなるので、同様にHi側限界線を高く設定する。また、コーナーの旋回角度が大きい場合(すなわち、ステアリング操舵角が大きい場合)は、車輪の旋回による走行抵抗が発生すると共に、コーナー走行後の立ち上がり加速が要求されるため、やはりHi側限界線を高く設定する。
【0165】
コントローラ1は、これら車速VSP、登坂勾配やステアリング操舵角に対応するマップや関数等を予め持っておき、これらの検出値に基づいてHi側限界線を設定する。なお、登坂勾配は、前後車軸のトルクの差から算出してもよいし、車両に勾配を検出するセンサを設けてもよいし、GPSにより取得した現在位置の道路状況から勾配を検出してもよい。また、コーナーの旋回角度は、ステアリングの操舵角を取得してもよいし、GPSにより取得した現在位置の道路状況から旋回角度を取得してもよい。
【0166】
ステップS112において、エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度を超えたと判定した場合は、コントローラ1は、ステップS115及びS116で実行される処理と同様の処理によって、シフトダウン制御を行うとした場合に設定されうる目標エンジン回転速度tNeを算出する。
【0167】
そして、算出された目標エンジン回転速度tNeと、Hi側限界線に対応するエンジン回転速度Neとの差分値dNeが、所定値以上であるか否かを判定する。差分値dNeが所定値に満たない判定した場合は、ステップS115に移行することなく、ステップS113に移行する。
【0168】
すなわち、エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度を超えた場合にも、差分値dNeが所定値よりも小さい場合は、コントローラ1は、その時点でアップシフトを行うことなく、疑似有段アップシフトモードによる変速比を抑制した制御を継続する。
【0169】
一方、差分値dNeが、所定値以上であると判定した場合は、ステップS115に移行し、前述のようにアップシフト制御を行う。
【0170】
このような制御によって、アップシフト制御時に、Hi側限界線に規制されてアップシフト量が過小となるような場合に、変速のタイミングを遅延させて、十分なアップシフト制御とすることができる。
【0171】
なお、差分値dNeの判定基準として用いられる所定値は、アップシフト量が適切となるように適宜決めうる値である。すなわち、アップシフト制御によって、運転者に有段変速機のシフトチェンジのような加速フィーリングを与えるようなアップシフト量となるように、かつ、アップシフト制御の間隔が短くなることで変速制御が煩雑とならないように、所定値を設定することが好ましい。
【0172】
図9は、第3の実施形態のエンジン回転速度Neに関わる部分のみを示すタイムチャートである。
【0173】
まず、車両は通常変速モードにより走行している。すなわち、この状態では、スロットルバルブ開度TVO及びスロットルバルブ操作速度dTVOは、疑似有段アップシフトモードの判定基準を満たさない程度に小さい。
【0174】
ここで、運転者によってスロットルバルブ開度TVOが操作されて、第1実施形態と同様に、図2のフローチャートのステップS103における判定基準を満たし、コントローラ1が疑似有段アップシフトモードに移行したと判定された場合は(タイミングA)、ステップS109において初期加速の目標エンジン回転速度tNeが設定され、加速を開始する。
【0175】
この初期加速の後、図2のステップS112と同様の処理で、エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度を超えたか否かが判定される。そしてさらに、目標エンジン回転速度tNeとHi側限界線に対応するエンジン回転速度Neとの差分値dNeが、所定値を下回っているか否かが判定される。
【0176】
エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度に満たない場合は、まず、ステップS113で設定された変速制御がなされる(タイミングB)。
【0177】
エンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度以上であり、かつ、差分値dNeが所定値を超えていると判定した場合は(タイミングC)、ステップS115において、アップシフト量の設定がなされ、このアップシフト量に基づいた変速制御がなされる。このときの目標エンジン回転速度tNeは、前述のように、疑似有段アップシフトモード移行時の最初の目標エンジン回転速度tNe(タイミングB)よりも、走行抵抗の増加分を加味した値に設定される。
【0178】
その後、目標エンジン回転速度tNeが上昇し、車速VSPも上昇すると、Hi側限界線も増大する。
【0179】
ここで、再びエンジン回転速度Neがアップシフト判定回転速度以上となったときに、差分値dNeが所定値を下回っていると判定したときは(タイミングD)、コントローラ1は、アップシフト制御を行うことなく、ステップS113及びS114による処理によって、リニア変速における変速比の変化が抑制された制御を継続する。
【0180】
そして、ステップS112に相当する処理において、差分値dNeが所定値を超えたか否かの判定を繰り返し、差分値dNeが所定値を超えたと判定したときに(タイミングE)、ステップS115に移行して、アップシフトへの変速制御が行われる。
【0181】
このように段々アップシフト変速が行われることで、車速VSPの上昇に連動してエンジン回転速度Neが上昇する状態が連続して発生し、加速フィーリングを向上させることができる。
【0182】
以上のように、本発明の第3の実施形態では、前述の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0183】
そして、第3の実施形態の特徴として、例えば車速VSPが大きい場合など、Hi側限界線が増大している状況において、段々アップシフト変速のアップシフト量が小さくなることがなく、加速フィーリングが低下することを防止できる。
【0184】
また、Hi側限界線により規制されて、アップシフト量が十分でない場合には、次回のアップシフト制御までの間隔が小さくなり、小量のアップシフトが短期間に発生することにより、かえって変速制御のハンチングのような違和感を運転者に与えてしまう場合がある。
【0185】
第3の実施形態では、このような運転者への違和感を防止でき、加速フィーリングを向上することができる。
【0186】
なお、第3実施形態では、第1実施形態と同様に、アップシフト判定回転速度の判定と共にHi側限界線の判定を行ったが、第2実施形態と同様に、アップシフト判定回転速度タイマ値の満了判定のときにHi側限界線の判定を行うように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】本発明の第1実施形態の無段変速機を中心としたブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態の変速制御のフローチャートである。
【図3】本発明の第1実施形態のアップシフト判定回転速度マップの一例の説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態のリニア変速におけるタイムチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態のエンジン回転速度とエンジトルクと燃料消費率と出力馬力との関係を示す説明図である。
【図6】本発明の第1実施形態のエンジン回転速度と出力馬力との関係を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態のアップシフト判定回転速度タイマ値のマップの一例の説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態のリニア変速におけるタイムチャートである。
【図9】本発明の第3の実施形態のリニア変速におけるタイムチャートである。
【符号の説明】
【0188】
1 コントローラ
2 エンジン回転センサ
3 入力軸回転センサ
4 車速センサ
5 スロットルバルブ開度センサ
10 無段変速機
11 エンジン
12 トルクコンバータ
13 走行モード切替スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン回転速度を無段階に変速して出力する無段変速機と、
運転者の加速要求の大きさに応じて、通常変速モードと疑似有段アップシフトモードのうち一方のモードを選択し、選択されたモードに基づき前記無段変速機の変速比を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記疑似有段アップシフトモードを選択して変速比を制御するとき、前記加速要求が小さいほど低いエンジン回転速度でアップシフトを行う
ことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記加速要求が小さいほど、低いアップシフト判定回転速度を設定し、
前記疑似有段アップシフトモードを選択して変速比を制御するとき、現在のエンジン回転速度が前記設定されたアップシフト判定回転速度に到達したときにアップシフトを行うことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記疑似有段アップシフトモードを選択して変速比を制御するとき、所定時間間隔でアップシフトを行うことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記加速要求が小さいほど、前記所定時間を小さく設定することを特徴とする請求項3に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記疑似有段アップシフトモードを選択して変速比を制御するとき、現在のエンジン回転速度と、アップシフトを行ったとした場合にとり得るエンジン回転速度と、の差分値が所定値を超えたときに、アップシフトを行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−7749(P2010−7749A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166967(P2008−166967)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】