説明

無段変速機の潤滑油供給構造

【課題】四節リンク型の無段変速機において、コネクティングロッドと揺動リンクとの連結部分に従来よりも適切に潤滑油を供給する。
【解決手段】四節リンク型の無段変速機のコネクティングロッド15の端部に設けられた小径環状部15bに、その内周面から上方に向かって外周面に開口する潤滑油孔15cが形成されている。この潤滑油孔15cは、小径環状部15bの中心軸線と出力軸3の軸線とを含む境界平面22よりも、出力軸3を回転させるときに小径環状部15bと連結ピン19とが接触する側に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四節リンク型の無段変速機の潤滑油供給構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に設けられたエンジン等の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、入力軸と平行に配置された出力軸と、入力軸に設けられた複数の偏心機構と、出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、一方の端部に偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドとを備える四節リンク型の無段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、各偏心機構は、入力軸に偏心して設けられた固定ディスクと、この固定ディスクに偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクからなる。また、揺動リンクと出力軸との間には、一方向クラッチが設けられている。一方向クラッチは、揺動リンクが出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに、出力軸に揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに、出力軸に対して揺動リンクを空転させる。
【0004】
入力軸には、ピニオンシャフトが挿入されるとともに、固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、この切欠孔からピニオンシャフトが露出している。揺動ディスクには入力軸及び固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられている。この受入孔を形成する揺動ディスクの内周面には内歯が形成されている。
【0005】
内歯は、入力軸の切欠孔から露出するピニオンシャフトと噛合する。入力軸とピニオンシャフトとを同一速度で回転させると、偏心機構の偏心量が維持される。入力軸とピニオンシャフトの回転速度を異ならせると、偏心機構の偏心量が変更されて、変速比が変化する。
【0006】
入力軸を回転させることにより偏心機構を回転させると、コネクティングロッドの大径環状部が回転運動して、コネクティングロッドの他方の端部と連結される揺動リンクの揺動端部が揺動する。揺動リンクは、一方向クラッチを介して出力軸に設けられているため、一方側に回転するときのみ出力軸に回転駆動力(トルク)を伝達する。
【0007】
各偏心機構の固定ディスクの偏心方向は、夫々位相を異ならせて入力軸周りを一周するように設定されている。従って、各偏心機構に外嵌されたコネクティングロッドによって、揺動リンクが順にトルクを出力軸に伝達するため、出力軸をスムーズに回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
変速機の潤滑構造としては、入力軸や出力軸等に油路及び油路と外周面とを連通させる油孔を形成し、油孔から潤滑油が吐出されることにより、ギアの噛合部等を潤滑する潤滑構造が知られている。
【0010】
しかしながら、本願発明者らは、上述した四節リンク型の無段変速機では、コネクティングロッドと揺動リンクとの連結部分の負荷が最も大きくなり、耐熱性、耐久性、耐摩耗性の観点から、この連結部分の適切な潤滑及び冷却が必要となること、及び従来一般に用いられていた潤滑方法では、この連結部分を適切に潤滑できない虞があることを知見した。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑み、四節リンク型の無段変速機において、コネクティングロッドと揺動リンクとの連結部分に従来よりも適切に潤滑油を供給できる潤滑油供給構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、車両の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、該入力軸と平行に配置された出力軸と、前記入力軸に偏心して設けられた固定ディスク、及び該固定ディスクに対して偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクを有する複数の偏心機構と、前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、前記入力軸には、前記固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、前記揺動ディスクには前記入力軸が挿通される挿通孔が設けられ、該挿通孔を形成する前記揺動ディスクの内周面に内歯が形成され、該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する無段変速機の潤滑油供給構造であって、前記コネクティングロッドの他方の端部と前記揺動リンクの揺動端部との何れか一方には、前記大径環状部よりも小径の小径環状部が設けられ、他方には、該小径環状部に挿入される連結ピンが設けられ、前記小径環状部には、その内周面の上方側から上方に向かって外周面に開口する潤滑油孔が形成され、該潤滑油孔は、前記小径環状部の中心軸線と前記出力軸の軸線とを含む平面を境界平面として、該境界平面よりも、前記出力軸を回転させるときに前記小径環状部と前記連結ピンとが接触する側に設けられていることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、小径環状部の内周面に、潤滑油孔から潤滑油を供給することができ、小径環状部に挿通される連結ピンとの間で生じる摩耗を適切に軽減させることができる。
【0014】
また、潤滑油孔を、境界平面よりも出力軸を回転させるときに小径環状部と連結ピンとの間で接触する側(トルク伝達時の接触側)に設けているため、出力軸が空転するときに小径環状部と連結ピンとの間で接触(非トルク伝達時の接触)しているときには、トルク伝達時の接触側に微小の隙間が生じる。この微小の隙間が生じる際に、小径環状部内が負圧となるスクイーズ効果が生じるため、潤滑油孔から潤滑油を小径環状部内に吸い込むことができる。
【0015】
[2]本発明においては、揺動リンクの揺動端部の上方に、潤滑油が流れる油路パイプを配置し、この油路パイプに、揺動リンクの揺動端部が揺動範囲の中央に位置するときに、潤滑油孔に向かって潤滑油を吐出するための吐出孔を揺動端部に対応させて複数設けてもよい。
【0016】
変速機ケース内では潤滑油が飛散し、この飛散した潤滑油の一部が変速機ケース内の上面に付着し、付着した潤滑油が滴下する。このため、潤滑油孔だけでも滴下した潤滑油が供給されるが、揺動端部の上方に吐出孔を有する油路パイプを配置し、吐出孔から吐出される潤滑油を潤滑油孔に供給すれば、より確実に小径環状部内に潤滑油を供給することができる。
【0017】
また、吐出孔は、揺動端部が揺動範囲の中央に位置するときに、吐出された潤滑油が潤滑油孔に入り込むように設けられているため、変速のために偏心機構の偏心量がどのように変化されても、適切に潤滑油孔に潤滑油を供給することができる。
【0018】
[3]本発明においては、潤滑油孔を、小径環状部に対する外側の開口が内側の開口よりも境界平面から離れるように穿設し、油路パイプを、境界平面よりも、出力軸を回転させるときに小径環状部と連結ピンとの間で接触する側に設けることができる。かかる構成によれば、潤滑油孔と吐出孔とが接近するようにコネクティングロッドが作動したときに、吐出孔から吐出した潤滑油が潤滑油孔に入り込むため、吐出孔から突出する潤滑油の潤滑油孔に対する相対的な速度を増加させることができ、潤滑油が潤滑油孔に入り込み易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の潤滑油供給構造を適用した無段変速機の実施形態を示す断面図。
【図2】本実施形態の偏心機構、コネクティングロッド、揺動リンクを軸方向から示す説明図。
【図3】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化を説明する説明図。
【図4】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化と、揺動リンクの揺動運動の揺動角θ2の関係を示す説明図であり、(a)は偏心量が最大、(b)は偏心量が中、(c)は偏心量が小であるときの揺動リンクの揺動運動の揺動角を夫々示している。
【図5】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化に対する、揺動リンクの角速度ω2の変化を示すグラフ。
【図6】本実施形態の無段変速機において、夫々60度ずつ位相を異ならせた6つの四節リンク機構により出力軸が回転される状態を示すグラフ。
【図7】本実施形態の無段変速機を示す斜視図。
【図8】本実施形態の無段変速機の潤滑油の循環経路を示す斜視図。
【図9】本実施形態の吐出孔と潤滑油孔との位置関係を示す説明図。
【図10】本実施形態の無段変速機の作動と潤滑油の供給状態との関係を示す説明図。
【図11】他の実施形態の吐出孔と潤滑油孔との位置関係を示す説明図。
【図12】他の実施形態の無段変速機の作動と潤滑油の供給状態との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の潤滑油供給構造を適用した無段変速機の実施形態を説明する。本実施形態の無段変速機は、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂インフィニティ・バリアブル・トランスミッション(Infinity Variable Transmission(IVT))の一種である。
【0021】
図1及び図2を参照して、本実施形態の無段変速機1は、図示省略した内燃機関であるエンジンや電動機等の車両用駆動源からの回転動力を受けることで入力中心軸線P1を中心に回転する中空の入力軸2と、入力軸2に平行に配置され、図外のデファレンシャルギアやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪(図示省略)に回転動力を伝達させる出力軸3と、入力軸2に設けられた6つの偏心機構4とを備える。
【0022】
各偏心機構4は、固定ディスク5と、揺動ディスク6とで構成される。固定ディスク5は、円盤状であり、入力中心軸線P1から偏心して入力軸2と一体的に回転するように入力軸2に2個1組で夫々設けられている。各1組の固定ディスク5は、夫々位相を60度異ならせて、6組の固定ディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置されている。また、各1組の固定ディスク5には、固定ディスク5を受け入れる受入孔6aを備える円盤状の揺動ディスク6が偏心させて回転自在に外嵌されている。
【0023】
揺動ディスク6は、固定ディスク5の中心点をP2、揺動ディスク6の中心点をP3として、入力中心軸線P1と中心点P2の距離Raと、中心点P2と中心点P3の距離Rbとが同一となるように、固定ディスク5に対して偏心している。
【0024】
揺動ディスク6の受入孔6aには、1組の固定ディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられている。入力軸2には、1組の固定ディスク5の間に位置させて、固定ディスク5の偏心方向に対向する個所に内周面と外周面とを連通させる切欠孔2aが形成されている。
【0025】
中空の入力軸2内には、入力軸2と同心に配置され、揺動ディスク6と対応する個所に外歯7aを備えるピニオンシャフト7が入力軸2と相対回転自在となるように配置されている。ピニオンシャフト7の外歯7aは、入力軸2の切欠孔2aを介して、揺動ディスク6の内歯6bと噛合する。
【0026】
ピニオンシャフト7には、差動機構8が接続されている。差動機構8は、遊星歯車機構で構成されており、サンギア9と、入力軸2に連結された第1リングギア10と、ピニオンシャフト7に連結された第2リングギア11と、サンギア9及び第1リングギア10と噛合する大径部12aと、第2リングギア11と噛合する小径部12bとから成る段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを備える。
【0027】
サンギア9には、ピニオンシャフト7用の電動機から成る駆動源14の回転軸14aが連結されている。駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度と同一にすると、サンギア9と第1リングギア10とが同一速度で回転することとなり、サンギア9、第1リングギア10、第2リングギア11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギア11と連結するピニオンシャフト7が入力軸2と同一速度で回転する。
【0028】
駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くすると、サンギア9の回転数をNs、第1リングギア10の回転数をNr1、サンギア9と第1リングギア10のギア比(第1リングギア10の歯数/サンギア9の歯数)をjとして、キャリア13の回転数が(j・Nr1+Ns)/(j+1)となる。そして、サンギア9と第2リングギア11のギア比((第2リングギア11の歯数/サンギア9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギア11の回転数が{j(k+1)Nr1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
【0029】
固定ディスク5が固定された入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とが同一である場合には、揺動ディスク6は固定ディスク5と共に一体に回転する。入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とに差がある場合には、揺動ディスク6は固定ディスク5の中心点P2を中心に固定ディスク5の周縁を回転する。
【0030】
図2に示すように、揺動ディスク6は、固定ディスク5に対して距離Raと距離Rbとが同一となるように偏心されているため、揺動ディスク6の中心点P3を入力中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、入力中心軸線P1と中心点P3との距離、即ち偏心量R1を「0」とすることもできる。
【0031】
揺動ディスク6の周縁には、一方の端部に大径の大径環状部15aを備え、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを備えるコネクティングロッド15の大径環状部15aが、ローラベアリング16を介して回転自在に外嵌されている。出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられている。
【0032】
揺動リンク18は、環状に形成されており、その上方には、コネクティングロッド15の小径環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、小径環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、小径環状部15bの内径に対応する貫通孔18cが穿設されている。貫通孔18c及び小径環状部15bには、連結ピン19が挿入されている。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
【0033】
図3は、偏心機構4の偏心量R1を変化させた状態のピニオンシャフト7と揺動ディスク6との位置関係を示す。図3(a)は偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、固定ディスク5の中心点P2と、揺動ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト7と揺動ディスク6とが位置する。このときの変速比iは最小となる。
【0034】
図3(b)は偏心量R1を図3(a)よりも小さい「中」とした状態を示しており、図3(c)は偏心量R1を図3(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図3(b)では図3(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図3(c)では図3(b)の変速比iよりも大きい「大」となる。図3(d)は偏心量R1を「0」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、揺動ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比iは無限大(∞)となる。
【0035】
図2に示すように、本実施形態の偏心機構4、コネクティングロッド15、揺動リンク18は四節リンク機構20を構成する。本実施形態の無段変速機1は合計6個の四節リンク機構20を備えている。偏心量R1が「0」でないときに、入力軸2を回転させると共に、ピニオンシャフト7を入力軸2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が60度ずつ位相を変えながら、偏心量R1に基づき入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり、入力軸2側に引いたりを交互に繰り返して揺動する。
【0036】
コネクティングロッド15の小径環状部15bは、出力軸3に一方向クラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されているため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に揺動リンク18が回転するときだけ、出力軸3が回転し、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各偏心機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各偏心機構4で順に回転させられる。
【0037】
図4(a)は偏心量R1が図3(a)の「最大」である場合(変速比iが最小である場合)、図4(b)は偏心量R1が図3(b)の「中」である場合(変速比iが中である場合)、図4(c)は偏心量R1が図3(c)の「小」である場合(変速比iが大である場合)の、偏心機構4の回転運動に対する揺動リンク18の揺動範囲θ2を示している。図4から明らかなように、偏心量R1が小さくなるにつれ、揺動リンク18の揺動範囲θ2が狭くなる。尚、偏心量R1が「0」であるときは、揺動リンク18は揺動しなくなる。また、本実施形態では、揺動リンク18の揺動端部18aの揺動範囲θ2のうち、入力軸2に最も近い位置を内死点、入力軸2から最も離れる位置を外死点とする。
【0038】
図5は、無段変速機1の偏心機構4の回転角度θを横軸、揺動リンク11の角速度ω2を縦軸として、偏心機構4の偏心量R1の変化に伴う角速度ω2の変化の関係を示す。図5から明らかなように、偏心量R1が大きい(変速比iが小さい)ほど揺動リンク11の角速度ω2が大きくなることが分かる。
【0039】
図6は、60度ずつ位相を異ならせた6つの偏心機構4を回転させたとき(入力軸2とピニオンシャフト7とを同一速度で回転させたとき)の偏心機構4の回転角度θに対する、各揺動リンク18の角速度ω2を示している。図6から、6つの四節リンク機構20により出力軸3がスムーズに回転されることが分かる。
【0040】
図7は、本実施形態の無段変速機1を、変速機ケースを省略した状態で示したものであり、図8は、本実施形態の無段変速機1の潤滑油の循環経路を示したものである。揺動リンク18の揺動端部18aは、出力軸3の上方側に配置されている。揺動端部18aには、コネクティングロッド15の小径環状部15bに挿通される連結ピン19が設けられている。
【0041】
一方向クラッチ17は、揺動リンク18の揺動端部18aが入力軸2側に向かう回転方向のときに、揺動リンク18の揺動速度が出力軸3の回転速度よりも速い場合には、コネクティングロッド15のトルクを出力軸3に伝達する。逆に、一方向クラッチ17は、揺動リンク18の揺動端部18aが入力軸2から離れる方向に向かう回転方向のときに、コネクティングロッド15から出力軸3へのトルク伝達を阻止して揺動リンク18が出力軸3に対して空転する。
【0042】
従って、本実施形態の無段変速機1では、コネクティングロッド15が揺動リンク18の揺動端部18aを引張るときに、出力軸3が回転する。従って、小径環状部15bの出力軸3側の内周面に単位面積当たりの負荷が大きく作用する。
【0043】
そこで、本実施形態の無段変速機1では、この大きな負荷が作用する個所に適切に潤滑油を供給すべく、小径環状部15bの上方に位置させて、出力軸3と平行に延び、内部を潤滑油が流れる油路パイプ21を配置している。
【0044】
図9及び図10を参照して、出力軸3の軸線及び揺動リンク18の揺動範囲θ2の中央に位置した状態の連結ピン19の軸線の両軸線を含む平面を境界平面22とすると、油路パイプ21は、境界平面22を境にして入力軸2から離隔する側に配置されている。また、油路パイプ21には、内部を流れる潤滑油を吐出する吐出孔21aが、6つのコネクティングロッド15に対応させて6か所に穿設されている。
【0045】
また、小径環状部15bには、揺動範囲θ2の中央に位置したときに吐出孔21aと対向するように潤滑油孔15cが穿設されている。
【0046】
コネクティングロッド15が揺動リンク18を入力軸2から離れる方向に押圧するときには、小径環状部15bと連結ピン19との間の入力軸2から離れる側に微小な隙間が生じる。そして、この隙間が生じたときに、潤滑油孔15cと吐出孔21aとが接近するようにコネクティングロッド15が作動する。
【0047】
従って、吐出孔21aから吐出した潤滑油は、コネクティングロッド15の小径環状部15bに対する相対速度を速めながら潤滑油孔15cに適切に供給することができる。
【0048】
また、小径環状部15bと連結ピン19との間の入力軸2から離れる側に微小な隙間が生じるときには、内部が負圧となって潤滑油を吸い込むスクイーズ効果が発揮されるため、小径環状部15bと連結ピン19の間を適切に潤滑及び冷却することができる。
【0049】
尚、本実施形態の無段変速機1は、コネクティングロッド15で揺動端部18aを引張るときに出力軸3に回転駆動力(トルク)が伝達されるものとして説明したが、本発明が適用される無段変速機は、これに限らず、コネクティングロッドで揺動端部を押圧するときに出力軸に回転駆動力が伝達されるものであってもよい。この場合、他の実施形態として図11及び図12に示すように、油路パイプ21を、境界平面22を境に2つに隔てられた空間のうち、入力軸2側の空間に配置し、小径環状部15bに穿設される潤滑油孔も、油路パイプ21に穿設された吐出孔に対向するように設ければよい。
【0050】
また、本実施形態においては、一方向回転阻止機構として、一方向クラッチ17を用いているが、本発明の一方向回転阻止機構は、これに限らず、揺動リンク18から出力軸3にトルクを伝達可能な揺動リンク18の出力軸3に対する回転方向を切換自在に構成される二方向クラッチ(ツーウェイクラッチ)で構成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…無段変速機、2…入力軸、2a…切欠孔、3…出力軸、4…偏心機構、5…固定ディスク、6…揺動ディスク、6a…受入孔、6b…内歯、7…ピニオンシャフト、7a…外歯、8…差動機構(遊星歯車機構)、9…サンギア、10…第1リングギア、11…第2リングギア、12…段付きピニオン、12a…大径部、12b…小径部、13…キャリア、14…駆動源(電動機)、14a…回転軸、15…コネクティングロッド、15a…大径環状部、15b…小径環状部、15c…潤滑油孔、16…ローラベアリング、17…一方向クラッチ(一方向回転阻止機構)、18…揺動リンク、18a…揺動端部、18b…突片、18c…貫通孔、19…連結ピン、20…四節リンク機構、21…油路パイプ、21a…吐出孔、22…境界平面、P1…入力中心軸線、P2…固定ディスクの中心点、P3…揺動ディスクの中心点、Ra…P1とP2の距離、Rb…P2とP3の距離、R1…偏心量(P1とP3の距離)、θ2…揺動範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、
該入力軸と平行に配置された出力軸と、
前記入力軸に偏心して設けられた固定ディスク、及び該固定ディスクに対して偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクを有する複数の偏心機構と、
前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、
該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、
一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、
前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、
前記入力軸には、前記固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、
前記揺動ディスクには前記入力軸が挿通される挿通孔が設けられ、
該挿通孔を形成する前記揺動ディスクの内周面に内歯が形成され、
該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、
前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する無段変速機の潤滑油供給構造であって、
前記コネクティングロッドの他方の端部と前記揺動リンクの揺動端部との何れか一方には、前記大径環状部よりも小径の小径環状部が設けられ、他方には、該小径環状部に挿入される連結ピンが設けられ、
前記小径環状部には、その内周面の上方側から上方に向かって外周面に開口する潤滑油孔が形成され、
該潤滑油孔は、前記小径環状部の中心軸線と前記出力軸の軸線とを含む平面を境界平面として、該境界平面よりも、前記出力軸を回転させるときに前記小径環状部と前記連結ピンとが接触する側に設けられていることを特徴とする無段変速機の潤滑油供給構造。
【請求項2】
請求項1記載の無段変速機の潤滑油供給構造において、
前記揺動リンクの揺動端部の上方に、潤滑油が流れる油路パイプが配置され、
該油路パイプに、前記揺動リンクの揺動端部が揺動範囲の中央に位置するときに、前記潤滑油孔に向かって潤滑油を吐出するための吐出孔が前記揺動端部に対応させて複数設けられることを特徴とする無段変速機の潤滑油供給構造。
【請求項3】
請求項2記載の無段変速機の潤滑油供給構造において、
前記潤滑油孔は、前記小径環状部に対する外側の開口が内側の開口よりも前記境界平面から離れるように穿設されており、
前記油路パイプは、前記境界平面よりも、前記出力軸を回転させるときに前記小径環状部と前記連結ピンとの間で接触する側に設けられていることを特徴とする無段変速機の潤滑油供給構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−251612(P2012−251612A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125373(P2011−125373)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】