説明

無段変速機

【課題】急減速時にバリエータの変速比できる限り最Low変速比に近づけ、次回発進時の発進性能を向上させる。
【解決手段】無段変速機4は、変速比を無段階に変更することができるバリエータ20と、バリエータ20に対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機構30とを備える。変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を変更するとき、副変速機構30を変速させつつバリエータ20を副変速機構30の変速方向と逆方向に変速させる協調変速を行うが、副変速機構30が第2変速段を選択した状態での急減速時は、協調変速を行わず、副変速機構30を第2変速段から第1変速段にダウンシフトさせつつバリエータ20もダウンシフトする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関し、特に、無段変速機がベルト式無段変速機構と副変速機構を備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ」という。)に対して前進2段の副変速機構を直列に設け、車両の運転状態に応じてこの副変速機構の変速段を変更するように構成することで、バリエータを大型化させることなく、とりうる変速比範囲を拡大した無段変速機を開示している。
【0003】
特許文献2は、このような副変速機構付き無段変速機において、副変速機構の変速段を変更する際、これに合わせてバリエータの変速比を変更することで、無段変速機全体の変速比(以下、「スルー変速比」という。)を一定に保つ制御(以下、「協調変速」という。)を開示している。この協調変速を行えば、副変速機構を変速させる際のエンジン及びトルクコンバータの速度変化が抑制され、これらの慣性トルクによる変速ショックが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−37455号公報
【特許文献2】特開平5−79554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バリエータの変速比は、車両が停車するまでに最Low変速比まで戻るよう制御される。これは、バリエータの変速比が最Low変速比まで戻らないと、次回発進時、バリエータの変速比が最Low変速比でない状態で車両を発進させることになり、十分な発進駆動力が得られず発進性能が低下するからである。
【0006】
しかしながら、上記副変速機構付き無段変速機においては、車両が停車するような急減速が行われると、車両が停車するまでにバリエータの変速比を最Low変速比まで変化させることができない可能性があった。これは、上記協調変速によれば、副変速機構を高速段から低速段に切り換える際、バリエータの変速比を一旦High側に変更する必要があり、その分、バリエータの変速比を最Low変速比まで変化させるのに時間がかかるからである。
【0007】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、急減速時にバリエータの変速比できる限り最Low変速比に近づけ、次回発進時の発進性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、車両に搭載される無段変速機であって、変速比を無段階に変更することができるバリエータと、前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機構と、前記副変速機構の変速段を変更するとき、前記副変速機構を変速させつつ前記バリエータを前記副変速機構の変速方向と逆方向に変速させる協調変速を行う協調変速手段と、前記副変速機構が第2変速段を選択した状態での急減速時、前記協調変速を行わず、前記副変速機構を前記第2変速段から前記第1変速段にダウンシフトさせつつ前記バリエータもダウンシフトする非協調変速手段と、を備えたことを特徴とする無段変速機が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、急減速時にバリエータをできる限り最Low変速比に近づけることができるので、急減速で車両が停車したとしても、次回発進時に発進駆動力が不足することがなく、良好な発進性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る無段変速機を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】変速機コントローラの内部構成を示した図である。
【図3】変速マップの一例を示した図である。
【図4】変速機コントローラによって実行される変速制御プログラムの内容を示したフローチャートである。
【図5】本発明の作用効果を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の最大変速比、「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比である。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る無段変速機を搭載した車両の概略構成図である。この車両は動力源としてエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0013】
また、車両には、エンジン1の動力の一部を利用して駆動されるオイルポンプ10と、オイルポンプ10からの油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12とが設けられている。
【0014】
変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0015】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0016】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0017】
例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。なお、以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速であるとき「変速機4が低速モードである」と表現し、2速であるとき「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0018】
変速機コントローラ12は、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0019】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ43の出力信号、変速機4の油温TMPを検出する油温センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号などが入力される。
【0020】
記憶装置122には、変速機4の変速制御プログラム(図4)、この変速制御プログラムで用いる変速マップ(図3)が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0021】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにオイルポンプ10で発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0022】
図3は記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。変速機コントローラ12は、この変速マップを参照しながら、車両の運転状態(この実施形態では車速VSP、プライマリ回転速度Npri、アクセル開度APO)に応じて、バリエータ20、副変速機構30を制御する。
【0023】
この変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比」という。)に対応する。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0/8のときの変速線)のみが示されている。
【0024】
変速機4が低速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードのときは、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。このとき、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0025】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「低速モードレシオ範囲」)と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「高速モードレシオ範囲」)とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にあるときは、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0026】
また、この変速マップ上には副変速機構30の変速を行うモード切換変速線が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比と等しい値に設定される。モード切換変速線をこのように設定するのは、バリエータ20の変速比が小さいほど副変速機構30への入力トルクが小さくなり、副変速機構30を変速させる際の変速ショックを抑えられるからである。
【0027】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、スルー変速比の実際値(以下、「実スルー変速比Ratio」という。)がモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、変速機コントローラ12は以下に説明する協調変速を行い、高速モード−低速モード間の切換えを行う。
【0028】
協調変速では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比が変化する方向と逆の方向に変更する。バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比変化と逆の方向に変化させるのは、実スルー変速比Ratioに段差が生じることによる入力回転の変化が運転者に違和感を与えないようにするためである。
【0029】
具体的には、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをLow側からHigh側に跨いで変化したときは、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(1−2変速)するとともに、バリエータ20の変速比をLow側に変更する。
【0030】
逆に、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをHigh側からLow側に跨いで変化したときは、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更(2−1変速)するとともに、バリエータ20の変速比をHigh側に変更する。
【0031】
ただし、車両が急減速する時にこの協調変速を行うと、副変速機構30が2−1変速する際にバリエータ20の変速比が一旦High側に変更されるため、バリエータ20の変速比が最Low変速比まで変化するのに時間を要し、バリエータ20の変速比が最Low変速比まで変化する前に車両が停止してしまう可能性がある。
【0032】
そこで、変速機コントローラ12は、車両の急減速を判定し、車両が急減速しているとの判定がなされた場合には、上記協調変速を行わず、車両の急減速を判定した時点から、副変速機構30の変速段を1速に制御するとともに、バリエータ20を最Low変速比に向けて最大変速度で変速させる。
【0033】
図4は変速機コントローラ12の記憶装置122に格納される変速制御プログラムの一例を示している。これを参照しながら、変速機コントローラ12が実行する変速制御の具体的内容について説明する。
【0034】
S11では、変速機コントローラ12は、図3に示した変速マップから、現在の車速VSP及びアクセル開度APOに対応する値を検索し、これを到達プライマリ回転速度DsrREVとして設定する。到達プライマリ回転速度DsrREVは、現在の車速VSP及びアクセル開度APOにおいて達成すべきプライマリ回転速度であり、プライマリ回転速度の定常的な目標値である。
【0035】
S12では、変速機コントローラ12は、到達プライマリ回転速度DsrREVを車速VSP、終減速装置6の終減速比fRatioで割って、到達スルー変速比DRatioを演算する。到達スルー変速比DRatioは、現在の車速VSP及びアクセル開度APOで達成すべきスルー変速比であり、スルー変速比の定常的な目標値である。
【0036】
S13では、変速機コントローラ12は、車両が急減速したか判定する。ここでの急減速は車両が停車するくらいの強い減速を指す。
【0037】
急減速したかは、車速VSPの単位時間あたりの変化量、すなわち減速度を求め、減速度が所定の急減速判定しきい値を超えている状態が所定時間以上継続しているかにより判定することができる。なお、急減速の判定方法はこれに限定されず、例えば、ブレーキペダルの踏圧を検出するセンサを設け、ブレーキペダルの踏圧に基づき判定するようにしてもよい。車両が急減速したと判定された場合は処理がS21に進み、そうでない場合は処理がS14に進む。
【0038】
S14では、変速機コントローラ12は、実スルー変速比Ratioを、変速開始時の値から到達スルー変速比DRatioまで所定の過渡応答で変化させるための目標スルー変速比Ratio0を設定する。目標スルー変速比Ratio0は、スルー変速比の過渡的な目標値である。所定の過渡応答は、例えば、一次遅れ応答であり、目標スルー変速比Ratio0は到達スルー変速比DRatioに漸近するように設定される。なお、実スルー変速比Ratioは、現在の車速VSPとプライマリ回転速度Npriに基づき、必要に応じてその都度演算される(以下、同じ)。
【0039】
S15では、変速機コントローラ12は、実スルー変速比Ratioを目標スルー変速比Ratio0に制御する。具体的には、変速機コントローラ12は、目標スルー変速比Ratio0を副変速機構30の変速比で割ってバリエータ20の目標変速比vRatio0を演算し、バリエータ20の実変速比vRatioが目標変速比vRatio0になるようバリエータ20を制御する。これにより、実スルー変速比Ratioは所定の過渡応答で到達スルー変速比DRatioに追従する。
【0040】
S16では、変速機コントローラ12は、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切ったか、すなわち、実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioを跨いで変化したか判定する。肯定的な判定がなされたときは処理がS17に進み、そうでない場合は処理がS20に進む。
【0041】
S17では、変速機コントローラ12は、協調変速を開始する。協調変速では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速(現在の変速段が1速であれば1−2変速、2速であれば2−1変速)を行うとともに、バリエータ20の実変速比vRatioを副変速機構30の変速比が変化する方向と逆の方向に変更し、協調変速前後で実スルー変速比Ratioに段差が生じないようにする。
【0042】
ここで、副変速機構30の変速は、締結側摩擦締結要素に油圧をプリチャージする準備フェーズ、締結側摩擦締結要素(1−2変速であればHighクラッチ33、2−1変速であればLowブレーキ32)を介したトルクの伝達が開始され、副変速機構30の変速比変化が開始されるまでのトルクフェーズ、副変速機構30の変速比変化が開始されてから変速比が一定になるまでのイナーシャフェーズ、締結側摩擦締結要素の油圧をMAX油圧まで上昇させ、締結側摩擦蹄鉄要素を完全締結させる終了フェーズを経て完了する。変速機コントローラ12は、バリエータ20の変速を、副変速機構30の変速比が実際に変化するイナーシャフェーズに合わせ、これにより、協調制御全般を通して実スルー変速比Ratioを一定に維持する。
【0043】
S18では、変速機コントローラ12は、S13と同様に車両が急減速したか判定する。急減速の判定を再び行うのは、協調変速中であっても車両が急減速した場合には協調変速を中止し、後述する非協調変速に移行させるためである。車両が急減速したと判定された場合は処理がS21に進み、そうでない場合は処理がS19に進む。
【0044】
S19では、変速機コントローラ12は、協調変速が終了したか判定する。協調変速が終了していない場合は処理がS17に戻り、終了している場合は処理がS20に進む。
【0045】
S20では、変速機コントローラ12は、変速が完了したか判定する。具体的には、変速機コントローラ12は、実スルー変速比Ratioと到達スルー変速比DRatioの偏差が所定値よりも小さくなったら変速完了と判定する。変速が完了したと判定されたら処理が終了し、そうでない場合は変速が完了したと判定されるまでS13〜S20の処理が繰り返される。
【0046】
一方、S13あるいはS18で車両が急減速していると判定されたときは、処理がS21に進む。S21では、上記協調変速を実行せず、また、上記協調変速実行中であればこれを中止し、以下に説明する非協調変速を実行する。
【0047】
非協調変速では、変速機コントローラ12は、急減速が判定された時点から、副変速機構30の変速段を1速に制御し(既に変速段が1速のときは1速保持、2速のときは2−1変速実行)、その一方で、バリエータ20を最Low変速比に向けて最大変速速度で変速させる。両者の変速は、急減速が判定された時点から同時に開始されるが、協調なく別個に実行される。
【0048】
バリエータ20の最大変速速度はプライマリプーリ21への供給油圧をドレンし、セカンダリプーリ22にライン圧を供給したときに得られる変速速度である。バリエータ20を最大変速速度で変速させるのは、車両が停止するまでにバリエータ20の変速比をできる限り最Low変速比に近づけるためである。
【0049】
続いて、上記変速制御を行うことによる作用効果について説明する。
【0050】
上記変速制御によれば、運転状態に応じて決まる到達スルー変速比DRatioが達成されるようにバリエータ20及び副変速機構30が制御され、副変速機構30の変速時には変速前後で実スルー変速比Ratioを一定に維持する協調変速が実行される(S14〜S20)。
【0051】
しかしながら、車両の急減速が判定された場合は、協調変速が実行されない、あるいは、協調変速実行中であれば協調変速が中止される。そして、急減速が判定された時点から副変速機構30の変速とバリエータ20の変速が別個に開始され、バリエータ20を最大変速速度で最Low変速比に向けて変速させる非協調変速が実行される(S13、S18、S21)。
【0052】
これにより、急減速時には、バリエータ20をできる限り最Low変速比に近づけることができ、急減速の結果、車両が停車したとしても、次回発進時に発進駆動力が不足して発進性能が低下することがなくなる(請求項1に対応する作用効果)。
【0053】
なお、協調変速が実行されないことにより、副変速機構30の変速前後で実スルー変速比Ratioに段差が生じ、変速ショックが発生するが、急減速中はそれを上回る減速度が車両に作用しているので、変速ショックが運転者に与える違和感、運転性の低下が問題になることはない。
【0054】
図5は、上記変速制御実行中に、急減速が開始された場合の様子を示したタイムチャートである。急減速が開始されると、副変速機構30の2−1変速とバリエータ20のLow側への変速が直ちに開始され、かつ、両者の変速は別個に行われる。上記協調変速が実行されないので、バリエータ20の変速比は副変速機構30の2−1変速中もLow側へと変化し続け、その分、最Low変速比までの到達時間が短縮される。
【0055】
この結果、この例では、車両が停車する前にバリエータ20の変速比が最Low変速比まで戻されており、次回の発進を問題なく行うことが可能である。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0057】
例えば、上記実施形態では、モード切換変速線が低速モード最High線上に重なるように設定されているが、モード切換変速線は、高速モード最Low線上に重なるように、あるいは、高速モード最Low線と低速モード最High線の間に設定されていてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、副変速機構30は前進用の変速段として1速と2速の2段を有する変速機構としたが、副変速機構30を前進用の変速段として3段以上の変速段を有する変速機構としても構わない。
【0059】
また、副変速機構30をラビニョウ型遊星歯車機構を用いて構成したが、このような構成に限定されない。例えば、副変速機構30は、通常の遊星歯車機構と摩擦締結要素を組み合わせて構成してもよいし、あるいは、ギヤ比の異なる複数の歯車列で構成される複数の動力伝達経路と、これら動力伝達経路を切り換える摩擦締結要素とによって構成してもよい。
【0060】
また、プーリ21、22の可動円錐板を軸方向に変位させるアクチュエータとして油圧シリンダ23a、23bを備えているが、アクチュエータは油圧で駆動されるものに限らず電気的に駆動されるものあってもよい。
【符号の説明】
【0061】
4…無段変速機
11…油圧制御回路
12…変速機コントローラ
20…バリエータ
21…プライマリプーリ
22…セカンダリプーリ
23…Vベルト
30…副変速機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される無段変速機であって、
変速比を無段階に変更することができるバリエータと、
前記バリエータに対して直列に設けられ、前進用変速段として第1変速段と該第1変速段よりも変速比の小さな第2変速段とを有する副変速機構と、
前記副変速機構の変速段を変更するとき、前記副変速機構を変速させつつ前記バリエータを前記副変速機構の変速方向と逆方向に変速させる協調変速を行う協調変速手段と、
前記副変速機構が第2変速段を選択した状態での急減速時、前記協調変速を行わず、前記副変速機構を前記第2変速段から前記第1変速段にダウンシフトさせつつ前記バリエータもダウンシフトする非協調変速手段と、
を備えたことを特徴とする無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−141066(P2012−141066A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−99479(P2012−99479)
【出願日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【分割の表示】特願2009−79679(P2009−79679)の分割
【原出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】