無段変速装置および鞍乗型車両
【課題】スティックスリップ音によるライダーの不快感を抑えることができる無段変速装置および鞍乗型車両を提供する。
【解決手段】本発明に係る無段変速装置では、固定プーリ体42の軸線に垂直な平面に対する第1外周部42bの表面の傾斜角θ2は、固定プーリ体42の軸線に垂直な平面に対する第1内周部42aの表面の傾斜角θ1よりも大きい。可動プーリ体43の軸線に垂直な平面に対する第2外周部43bの表面の傾斜角θ4は、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面に対する第2内周部43aの表面の傾斜角θ3よりも大きい。そして、減速比が最大であるときに、Vベルト39の第1側面39aは、第1内周部42aと接触し且つ第1外周部42bと非接触であり、Vベルト39の第2側面39bは、第2内周部43aと接触し且つ第2外周部43bと非接触である。
【解決手段】本発明に係る無段変速装置では、固定プーリ体42の軸線に垂直な平面に対する第1外周部42bの表面の傾斜角θ2は、固定プーリ体42の軸線に垂直な平面に対する第1内周部42aの表面の傾斜角θ1よりも大きい。可動プーリ体43の軸線に垂直な平面に対する第2外周部43bの表面の傾斜角θ4は、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面に対する第2内周部43aの表面の傾斜角θ3よりも大きい。そして、減速比が最大であるときに、Vベルト39の第1側面39aは、第1内周部42aと接触し且つ第1外周部42bと非接触であり、Vベルト39の第2側面39bは、第2内周部43aと接触し且つ第2外周部43bと非接触である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速装置および鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速装置では、Vベルトが駆動プーリと被駆動プーリとに巻き付けられている。そして、ベルト式無段変速装置には、Vベルトのうち各プーリと接触する部分が複数の樹脂ブロックによって構成されているものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている無段変速装置では、Vベルトは、複数の樹脂ブロックが無端状の連結体によって連結されている。Vベルトは、プライマリシーブとセカンダリシーブとに巻き付けられている。また、プライマリシーブおよびセカンダリシーブはそれぞれ一対のシーブ半体によって構成されている。プライマリシーブのシーブ半体およびセカンダリシーブのシーブ半体のシーブ表面には、径方向に沿って所定のピッチで並んだ複数の溝が設けられている。これらの溝により、Vベルトの磨耗量が低減され、無段変速機の長寿命化を図ることができる旨が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−39177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の無段変速装置のような溝が、プーリのVベルトに接触する表面に設けられると、プーリに挟まれたVベルトがプーリから外れる際に、スティックスリップ(stick slip)音が発生し易くなる。このスティックスリップ音は、ライダーに不快感を感じさせることがある。
【0006】
本願の発明者は、研究の結果、このスティックスリップ音の発生原因を以下のように突き止めた。
【0007】
プーリの表面に溝が設けられると、Vベルトの樹脂ブロックがプーリに巻き込まれやすくなる。樹脂ブロックは、Vベルトがプーリに挟まれたときにプーリの表面に巻き込まれて変形するが、Vベルトがプーリから外れる際に解放される。このとき、樹脂ブロックは、プーリの表面に巻き込まれた状態から元の状態に戻ろうとして、プーリの表面と擦れ合う。このときの樹脂ブロックとプーリの表面との摩擦によって、スティックスリップ音が発生するのである。なお、このスティックスリップ音は、複数の樹脂ブロックがプーリから外れる度に発生するため、Vベルトが駆動されることにより繰り返し発生する。
【0008】
また、長い時間、無段変速装置が駆動されると、樹脂ブロックが磨耗してプーリの表面の形状に沿った形状となる。この場合、Vベルトの側面とプーリの表面との接触面積が大きくなり、Vベルトの側面とプーリの表面との接触圧が低下する。この接触圧が低下した状態で、上記のようにVベルトの側面がプーリの表面と擦れ合うと、スティックスリップ音が発生し易い。
【0009】
また、無段変速装置の減速比が最大のときには、被駆動プーリでのVベルトの巻き付け径が最大になる。このとき、Vベルトのうちプーリの表面と接触する部分の長さは、減速比が小さいときよりも長い。従って、Vベルトの側面とプーリの表面との接触面積が大きくなるので、Vベルトの側面とプーリの表面との接触圧が低くなる。このため、無段変速装置の減速比が最大のときには、被駆動プーリにおいてスティックスリップ音が発生し易い。しかも、無段変速装置の減速比が最大のときには、エンジンの回転速度が低いので、スティックスリップ音がライダーに聞こえ易い。このため、ライダーがスティックスリップ音によって不快に感じることがある。
【0010】
本発明の課題は、スティックスリップ音によるライダーの不快感を抑えることができる無段変速装置および鞍乗型車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る無段変速装置は、駆動軸と、駆動プーリと、被駆動軸と、被駆動プーリと、Vベルトとを備える。駆動プーリは、駆動軸に設けられる。被駆動軸は、駆動軸から離れて配置される。被駆動プーリは、被駆動軸に設けられる。被駆動プーリは、被駆動軸の軸線方向に移動可能な可動プーリ体と、被駆動軸の軸線方向に移動不可能な固定プーリ体と、を有する。Vベルトは、駆動プーリと被駆動プーリとに接触する複数の樹脂ブロックを有し、駆動プーリと被駆動プーリとに巻き付けられる。可動プーリ体及び固定プーリ体は、Vベルトに接触する表面を有する。可動プーリ体の前記表面及び固定プーリ体の前記表面のうち少なくとも一方には、周方向に延びる1又は複数の溝が設けられている。固定プーリ体は、第1内周部と、第1内周部の径方向における外方に配置される第1外周部とを有する。固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する第1外周部の表面の傾斜角は、固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する第1内周部の表面の傾斜角よりも大きい。可動プーリ体は、第2内周部と、第2内周部の径方向における外方に配置される第2外周部とを有する。可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する第2外周部の表面の傾斜角は、可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する第2内周部の表面の傾斜角よりも大きい。そして、減速比が最大であるときに、Vベルトの一方の側面である第1側面は、第1内周部と接触し且つ第1外周部と非接触である。また、減速比が最大であるときに、Vベルトの他方の側面である第2側面は、第2内周部と接触し且つ第2外周部と非接触である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、減速比が最大であるときに、被駆動プーリの表面とVベルトの樹脂ブロックとの接触面積が小さくなる。このため、被駆動プーリの表面と樹脂ブロックとの接触圧が大きくなる。これにより、減速比が最大であるときに、被駆動プーリでのスティックスリップ音の発生を抑えることができる。また、減速比が最大であるときは、無段変速装置が低速の状態である。無段変速装置が低速の状態では、エンジンはアイドリング状態のようにエンジン回転速度が低く抑えられた状態となっている。本発明では、このようなスティックスリップ音が聞こえやすい状態でスティックスリップ音の発生が抑えられるため、スティックスリップ音によるライダーの不快感を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車の側面図。
【図2】自動二輪車が備えるエンジンユニットの断面図。
【図3】駆動プーリの固定プーリ体の表面を示す図。
【図4】被駆動プーリの固定プーリ体の表面を示す図。
【図5】Vベルトの側面図。
【図6】図5におけるVI−VI断面図。
【図7】無段変速装置での変速動作を示す図。
【図8】エンジン回転速度と車速との関係を示すグラフ。
【図9】減速比が最大となっているときの被駆動プーリとVベルトとを示す断面図。
【図10】クラッチの接続が完了したときの被駆動プーリとVベルトとを示す断面図。
【図11】減速比が最大となっているときの駆動プーリとVベルトとを示す断面図。
【図12】他の実施形態に係る自動二輪車でのエンジン回転速度と車速との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車1の側面図である。なお、以下の説明では、前後左右の方向は、特に限定した記載のない限り、自動二輪車1のシート9に着座したライダーから見た前後左右の方向をいうものとする。
【0015】
<構成>
図1に示すように、自動二輪車1は、車体フレーム2と、エンジンユニット10と、前輪3及び後輪4とを備えている。
【0016】
車体フレーム2は、ヘッドパイプ2aと、メインフレーム2bと、リアフレーム2cと、ステー2dと、ブラケット2eを有する。ヘッドパイプ2aは、車体フレーム2の前端部に設けられている。ヘッドパイプ2aは、ステアリングシャフト6を回転可能に支持している。ステアリングシャフト6の上端部には、ハンドル5が接続されており、ステアリングシャフト6はハンドル5と共に回転する。ステアリングシャフト6の下端部にはフロントフォーク7が接続されており、このフロントフォーク7の下端部は前輪3を回転可能に支持している。
【0017】
メインフレーム2bの前端部は、ヘッドパイプ2aに接続されている。メインフレーム2bは、その前端部から車体後部に向かって延びている。具体的には、メインフレーム2bは、その前端部から斜め下方に向かって延びている。メインフレーム2bの後端部は、後輪4の前に位置している。メインフレーム2bの中間部には、リアフレーム2cの前端部が接続されている。リアフレーム2cは、その前端部から車体後部に向かって延びている。具体的には、リアフレーム2cは、その前端部から斜め上方に向かって延びている。リアフレーム2cの上方には、収納ケース8とシート9が配置され、リアフレーム2cは、収納ケース8とシート9とを支持している。メインフレーム2bの後端部には、ステー2dの前端部が接続されている。ステー2dは、その前端部から車体後部に向かって延びている。具体的には、ステー2dは、その前端部から斜め上方に向かって延びている。ステー2dの上端部はリアフレーム2cの中間部に接続されている。
【0018】
ブラケット2eは、板状の部材であり、メインフレーム2bの後端部に接合されている。ブラケット2eの上部には、ピボット軸12を介して、リアアーム11の前端部が取り付けられている。リアアーム11は、ピボット軸12から後方(図1においてFrに示す方向とは反対方向)に向けて延びている。リアアーム11の後端部は、後輪4を回転可能に支持している。リアアーム11は、ピボット軸12を支点として、後輪4と共に上下に揺動する。リアアーム11は、エンジンユニット10に対して独立して揺動する。
【0019】
エンジンユニット10は、車体フレーム2によって支持されている。エンジンユニット10は、メインフレーム2bの下方であって、後輪4の前に配置されている。図2に示すように、エンジンユニット10は、エンジン20と、被駆動軸27と、出力軸29と、無段変速装置30(以下、「CVT30」と呼ぶ)と、クラッチ80と、を備えている。
【0020】
エンジン20は、クランク軸21(駆動軸)と、シリンダ22と、ピストン23と、クランクケース60とを有している。シリンダ22は、クランクケース60の前方(図2においてFrの示す方向)に配置されている。シリンダ22は、前部が後部よりも上方に位置するように、僅かに傾斜した姿勢で配置されている。ピストン23は、シリンダ22内に送られた燃料と空気との混合気が燃焼することで、シリンダ22内において往復運動する。ピストン23は、コンロッド24を介して、クランク軸21に設けられたクランクピン25に連結されている。ピストン23の往復運動は、クランク軸21によって回転運動に変換されて、CVT30へ出力される。
【0021】
クランク軸21は、クランクケース60内において車幅方向(図2においてWに示す方向)に沿って配置されている。クランク軸21は、右軸部21aと、左軸部21bと、一対のクランクアーム21c,21cとを有している。クランクアーム21c,21cは、右軸部21aと左軸部21bの基部から径方向(軸の中心線に対して直交する方向)に延びており、クランクピン25を回転可能に支持している。
【0022】
左軸部21bの基部は、ベアリング69を介してクランクケース60に支持されている。左軸部21bは、その基部から左側(図2の紙面における上方)に延びている。左軸部21b上には発電機(図示せず)が設けられている。
【0023】
右軸部21aの基部は、ベアリング68を介してクランクケース60に支持されている。右軸部21aは、その基部から右側(図2の紙面における下方)に延びている。右軸部21a上には、CVT30の駆動プーリ31が設けられている。右軸部21aの端部21dは、後述する変速機ケース50によって支持されている。
【0024】
被駆動軸27は、クランク軸21から後方に離れた位置に配置されている。被駆動軸27は車幅方向に沿って配置されている。被駆動軸27上には、後述するCVT30の被駆動プーリ41と、クラッチ80とが設けられている。被駆動軸27の右側端部27aは、変速機ケース50によって支持されている。被駆動軸27の左側端部27bには、ベアリング65とベアリング63とが嵌められている。ベアリング65の外輪は、クランクケース60に支持されており、クランクケース60はベアリング65を介して被駆動軸27の端部27bを支持している。ベアリング63は、ベアリング65より左側に位置している。
【0025】
被駆動軸27の中央部27cには、ベアリング66が嵌められている。ベアリング66の外輪は、クランクケース60に固定された仕切り部材64によって支持されている。クランクケース60は、仕切り部材64及びベアリング66を介して、被駆動軸27の中央部を支持している。
【0026】
出力軸29は、被駆動軸27と車幅方向に並んで配置されている。出力軸29は、被駆動軸27の左側に位置している。出力軸29はベアリング63の外輪に嵌められており、ベアリング63は出力軸29を支持している。出力軸29の中央部29aは、ベアリング62を介してクランクケース60に支持されている。また、出力軸29上には、チェーン(図示せず)が巻き付けられたスプロケット29cが設けられている。
【0027】
CVT30は、ベルト式の無段変速機であり、駆動プーリ31と、被駆動プーリ41と、Vベルト39と、変速機ケース50と、を有している。
【0028】
駆動プーリ31は、クランク軸21の右軸部21a上に設けられている。駆動プーリ31は、固定プーリ体32と、可動プーリ体33と、プレート35とを有している。固定プーリ体32とプレート35は、軸線方向の動きが規制されている。すなわち、固定プーリ体32とプレート35は、クランク軸21の軸線方向に移動不可能である。可動プーリ体33は、固定プーリ体32とプレート35との間において、軸線方向への動きが許容されている。すなわち、可動プーリ体33は、クランク軸21の軸線方向に移動可能である。可動プーリ体33は、固定プーリ体32と軸線方向に向き合って配置されている。可動プーリ体33と固定プーリ体32との間には、Vベルト39が配置されるベルト溝が形成されており、可動プーリ体33と固定プーリ体32とに、Vベルト39の前部が巻き付けられている。このベルト溝の幅が駆動プーリ31の径方向における外方ほど大きくなるように、可動プーリ体33および固定プーリ体32のVベルト39と接触する表面(以下、単に「表面」と呼ぶ)は、駆動プーリ31の径方向(駆動プーリ31の軸線に対して直交する方向)に対して傾斜した形状となっている。
【0029】
可動プーリ体33とプレート35との間には、遠心力によって径方向へ移動するウェイトローラ34が配置されている。クランク軸21が回転すると、ウェイトローラ34は、径方向における外方に移動すると共に、可動プーリ体33を固定プーリ体32に向けて押圧する。そして、Vベルト39が可動プーリ体33に押されて駆動プーリ31の径方向における外方に移動し、Vベルト39の駆動プーリ31に巻き付けられた部分の径(以下、「巻き付け径」と呼ぶ)が大きくなることで、減速比が小さくなる。
【0030】
また、固定プーリ体32および可動プーリ体33は、アルミニウムまたはアルミニウムを一部に含む合金によって形成されている。そして、固定プーリ体32および可動プーリ体33の表面には、硬質クロムメッキが施されている。
【0031】
また、図3(a)および(b)に示すように、固定プーリ体32および可動プーリ体33の表面には、渦巻状の溝91が形成されている。溝91は、旋削加工によって、固定プーリ体32および可動プーリ体33の表面に形成されている。溝91は、周方向に延びており、径方向に所定ピッチPで並んでいる。溝91は、プーリ体32,33の軸心92を中心とした渦巻状に形成されている。上記溝91によって、プーリ体32,33の径方向の断面は、凹凸状に形成されている。図3(b)に示すように、固定プーリ体32および可動プーリ体33の表面には、クロムメッキ層93が形成されている。なお、図3(b)は、図3(a)におけるX−X断面図である。
【0032】
図2に示すように、被駆動プーリ41は、駆動プーリ31の後方に位置している。被駆動プーリ41は、被駆動軸27上に設けられ、Vベルト39を介して伝達されたトルクによって被駆動軸27と共に回転する。被駆動プーリ41は、固定プーリ体42と可動プーリ体43とを有している。
【0033】
固定プーリ体42は、軸線方向の動きが規制されている。すなわち、固定プーリ体42は、被駆動軸27の軸線方向に移動不可能である。また、固定プーリ体42は、被駆動軸27にスプラインで結合されており、被駆動軸27と一体的に回転する。固定プーリ体42は、駆動プーリ31の固定プーリ体32よりも大きな直径を有している。
【0034】
可動プーリ体43は、被駆動軸27の軸線方向へ移動可能に設けられている。また、可動プーリ体43は、被駆動軸27と共に回転する。可動プーリ体43は、固定プーリ体42と軸線方向に向き合って配置されている。可動プーリ体43と固定プーリ体42との間には、Vベルト39が配置されるベルト溝が形成されており、可動プーリ体43と固定プーリ体42とに、Vベルト39の後部が巻き付けられている。このベルト溝の幅が被駆動プーリ41の径方向における外方ほど大きくなるように、可動プーリ体43および固定プーリ体42のVベルト39に接触する表面(以下、単に「表面」と呼ぶ)は、被駆動プーリ41の径方向(被駆動プーリ41の軸線に対して直交する方向)に対して傾斜した形状となっている。なお、可動プーリ体43は、駆動プーリ31の可動プーリ体33よりも大きな直径を有している。
【0035】
可動プーリ体43の右側には、スプリング支持部材45が配置されている。スプリング支持部材45は、円盤状の部材であり、被駆動軸27と共に回転する。スプリング支持部材45と可動プーリ体43との間には、スプリング44が設けられている。スプリング支持部材45は、軸線方向への移動が規制されており、スプリング44を支持している。駆動プーリ31において可動プーリ体33がVベルト39の巻き付け径を拡大させると、被駆動プーリ41において可動プーリ体43は、スプリング44の付勢力に抗して、固定プーリ体42から離れる方向に移動する。これによって、被駆動プーリ41のVベルト39の巻き付け径が小さくなり、減速比が小さくなる。
【0036】
被駆動プーリ41の固定プーリ体42および可動プーリ体43は、ステンレス(例えば、SUS304(JIS))によって形成されている。なお、固定プーリ体42および可動プーリ体43の表面には、クロムメッキは施されていない。従って、被駆動プーリ41の表面硬度は、駆動プーリ31の表面硬度よりも低くなっている。
【0037】
また、図4(a)および図4(b)に示すように、被駆動プーリ41の表面には、駆動プーリ31の表面と同様に、渦巻状の溝91が形成されている。溝91は、旋削加工によって、固定プーリ体42および可動プーリ体43の表面に形成されている。溝91は、周方向に沿って延びており、径方向に所定ピッチPで並んでいる。溝91は、プーリ体42,43の軸心92を中心とした渦巻状に形成されている。上記溝91によって、プーリ体42,43の径方向の断面は、凹凸状に形成されている。なお、図4(b)に示すように、被駆動プーリ41の固定プーリ体42および可動プーリ体43の表面には、駆動プーリ31のようなクロムメッキ層93は形成されていない。なお、図4(b)は、図4(a)におけるY−Y断面図である。固定プーリ体42および可動プーリ体43の表面の形状については、後に詳細に説明する。
【0038】
図2に示すように、変速機ケース50は、駆動プーリ31、被駆動プーリ41、及びVベルト39を内部に収容している。変速機ケース50には、外気を取り入れる吸気口51cと、変速機ケース50内の空気を排出する排気口51dとが設けられている。吸気口51cには、吸気ダクト71が取り付けられている。外気は、ダクト先端部73(図1参照)から取り込まれ、エアクリーナ72(図1参照)において浄化された後、吸気ダクト71及び吸気口51cを通って変速機ケース50内に導入される。排気口51dには、排気ダクト74(図1参照)が接続されており、変速機ケース50内の空気は、排気口51dおよび排気ダクト74を通って外部に排出される。
【0039】
クラッチ80は、被駆動軸27からのトルクの出力軸29への伝達および遮断を切り換える。クラッチ80は、被駆動プーリ41の左側に配置されている。クラッチ80は、クラッチアウタ82と、クラッチインナ81と、複数のフリクションプレート83と、複数のクラッチプレート84とを有している。
【0040】
クラッチアウタ82は、被駆動軸27と共に回転するように設けられている。クラッチインナ81は、被駆動軸27に対して空転するように設けられている。なお、被駆動軸27上には、被駆動軸27に対して空転するギア26が設けられており、クラッチインナ81はギア26と共に回転する。
【0041】
フリクションプレート83とクラッチプレート84とは、円盤状の部材であり、クラッチアウタ82の内側において、クラッチインナ81を囲むように配置される。フリクションプレート83と、クラッチプレート84は、軸線方向に交互に並んで配置されている。フリクションプレート83は、軸線方向へ移動可能に設けられている。また、フリクションプレート83は、クラッチアウタ82と共に被駆動軸27の周りに回転するように設けられている。クラッチインナ81の内周面は、ギア26に噛み合っている。クラッチプレート84は、軸線方向へ移動可能に設けられている。クラッチプレート84は、クラッチインナ81と共に回転するように設けられている。
【0042】
複数のフリクションプレート83と、複数のクラッチプレート84とは、互いに押し付けられて連動することで、フリクションプレート83からクラッチプレート84にトルクが伝達される。クラッチ80は、自動クラッチであり、クラッチ80の接続状態および非接続状態の切換は、被駆動軸27の回転速度に応じて、自動で行なわれる。具体的には、クラッチ80は、ウェイトローラ86と、ダイアフラムスプリング(diaphragm spring)85とを有している。ウェイトローラ86は、クラッチアウタ82と共に被駆動軸27の周りを回転する。ダイアフラムスプリング85は、フリクションプレート83を軸線方向へ付勢する。複数のフリクションプレート83と、複数のクラッチプレート84とは、ウェイトローラ86とダイアフラムスプリング85との間に配置されている。被駆動軸27の回転速度が上がり、クラッチアウタ82の回転速度が上がると、ウェイトローラ86は、遠心力によって径方向における外方へ移動すると共に、フリクションプレート83をクラッチプレート84に押し付ける。これによって、クラッチ80は接続状態になる。また、被駆動軸27の回転速度が下がると、ウェイトローラ86は、径方向における内方に戻る。これにより、フリクションプレート83がクラッチプレート84から離れ、クラッチ80は非接続状態になる。
【0043】
クランク軸21の回転は、CVT30によって減速されて、被駆動軸27に伝達される。クラッチ80が接続状態である時には、被駆動軸27の回転は、クラッチ80を介してギア26に伝達される。ギア26は、被駆動軸27の前方に配置された中間軸28のギア28aに噛み合っている。また、中間軸28にはギア28bが形成され、このギア28bは出力軸29に形成されたギア29bに噛み合っている。これによって、ギア26の回転は、中間軸28を介して、出力軸29に伝達される。出力軸29の回転は、スプロケット29cと、後輪4と共に回転するスプロケット(図示せず)とに巻き付けられたチェーンを介して、後輪4に伝達される。
【0044】
Vベルト39は、駆動プーリ31と被駆動プーリ41とに巻き付けられ、駆動プーリ31から被駆動プーリ41にトルクを伝達する。図5および図6に示すように、Vベルト39は、複数の樹脂ブロック52と、連結部材53とを有する。
【0045】
図5に示すように、複数の樹脂ブロック52は、連結部材53の長手方向に沿って並んで配置されている。樹脂ブロック52は、駆動プーリ31と被駆動プーリ41とに接触する部分に設けられる。このため、樹脂ブロック52は、駆動プーリ31のベルト溝および被駆動プーリ41のベルト溝に沿うように略台形に形成されている。すなわち、樹脂ブロック52の左右の側面は、駆動プーリ31の表面および被駆動プーリ41の第1内周部42a及び第2内周部43aに沿うように傾斜している。また、樹脂ブロック52の左右の側面には、内方に向かって凹んだ凹部54がそれぞれ形成されている。凹部54には、連結部材53が嵌め込まれている。また、樹脂ブロック52は、外ブロック部52aと内ブロック部52bとを有する。外ブロック部52aは、樹脂ブロック52が被駆動プーリ41に接触している状態において、連結部材53に対して被駆動プーリ41の径方向における外方(図6における上方)に位置する部分である。内ブロック部52bは、連結部材53に対して被駆動プーリ41の径方向における内方に位置する部分である。樹脂ブロック52および連結部材53の左右の側面が、駆動プーリ31および被駆動プーリ41の表面と接触する接触面となる。
【0046】
連結部材53は、環状のベルト状の形状を有する。連結部材53は、互いに別体に形成された連結体53a,53bを有する。連結体53a,53bは、それぞれ無端状に形成されている。図6に示すように、連結体53a,53bは、各樹脂ブロック52の凹部54にそれぞれ嵌め込まれている。このように連結体53a,53bが樹脂ブロック52の凹部54に嵌め込まれることにより、複数の樹脂ブロック52同士が連結体53a,53bを介して連結されている。連結体53a,53bは、ゴムによって形成されている。連結体53a,53bの内部には、それぞれ補強用の複数の芯線55が埋め込まれている。
【0047】
<CVT30の動作>
以下、主として図2に基づいてCVT30の動作について説明する。
【0048】
CVT30では、ウェイトローラ34が駆動プーリ31の可動プーリ体33を右向きに押す力と、スプリング44が被駆動プーリ41の可動プーリ体43を左向きに押す力との大小関係によって、減速比が決定される。
【0049】
すなわち、クランク軸21の回転速度が上昇すると、ウェイトローラ34が遠心力を受けて径方向における外方に移動し、可動プーリ体33を右向きに押す。すると、可動プーリ体33は右側に移動し、駆動プーリ31でのVベルト39の巻き付け径が大きくなる。これに伴い、被駆動プーリ41でのVベルト39の巻き付け径が小さくなり、被駆動プーリ41の可動プーリ体43は、スプリング44の付勢力に対抗して右側に移動する。この結果、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が大きくなる一方、被駆動プーリ41における巻き付け径が小さくなり、減速比は小さくなる(図7(b)参照)。
【0050】
一方、クランク軸21の回転速度が低下すると、ウェイトローラ34の遠心力が小さくなるので、ウェイトローラ34は可動プーリ体33に沿って径方向における内方に移動する。このため、ウェイトローラ34が可動プーリ体33を右向きに押す力が小さくなる。すると、スプリング44の付勢力が相対的にウェイトローラ34による上記力より大きくなり、被駆動プーリ41の可動プーリ体43は左側に移動し、それに応じて駆動プーリ31の可動プーリ体33も左側に移動する。その結果、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が小さくなる一方、被駆動プーリ41におけるVベルト39の巻き付け径が大きくなり、減速比は大きくなる(図7(a)参照)。
【0051】
従って、CVT30が最も低速の状態すなわちアイドリング状態では、図7(a)に示すように、被駆動プーリ41におけるVベルト39の巻き付け径が最大となると共に、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が最小となる。これにより、減速比が最大となる。また、CVT30が最も高速の状態では、図7(b)に示すように、被駆動プーリ41におけるVベルト39の巻き付け径が最小となると共に、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が最大となる。これにより、減速比が最小となる。
【0052】
自動二輪車1でのエンジン回転速度と車速との関係を図8において実線L1a及び破線L1bで示す。実線L1aは、エンジン20のスロットルの開度が最大であるときのエンジン回転速度と車速との関係を示している。破線L1bは、エンジン20のスロットルの開度が最大よりも小さい所定の開度であるときのエンジン回転速度と車速との関係を示している。図8に示されているように、エンジン回転速度が0からN1に達するまでは、クラッチ80は非接続状態に維持されている。従って、車速は0である。エンジン回転速度がN1に達すると、クラッチ80が接続を開始する。これにより、エンジン回転速度がN1以上では、エンジン回転速度の増大に応じて、車速が徐々に増大する。車速がV1に達すると、クラッチ80の非接続状態から接続状態への切換が完了する。言い換えると、車速が0からV1までの間は、クラッチ80は半クラッチ状態である。なお、車速がV1のとき、エンジン回転速度はN2である。従って、エンジン回転速度がN1からN2までは、クラッチ80は半クラッチ状態である。そして、エンジン回転速度がN2からさらに増大すると、エンジン回転速度の増大に応じて、車速が徐々に増大する。上述したように、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径は、エンジン回転速度の増大に応じて、大きくなる。また、被駆動プーリ41における巻き付け径は、エンジン回転速度の増大に応じて、小さくなる。これにより、エンジン回転速度の増大に応じて、減速比は小さくなる。従って、クラッチ80が半クラッチ状態となっている車速が0からV1までの間であるときにも、エンジン回転速度の増大に応じて、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が大きくなる一方、被駆動プーリ41における巻き付け径が小さくなる。なお、実線L1aでは、破線L1b図8において「Low」は、クラッチ80が完全に接続しており、且つ、減速比が最大である仮想的な状態での、エンジン回転速度と車速との関係を示している。
【0053】
<被駆動プーリ41の表面の形状>
図9に示すように、固定プーリ体42は、第1内周部42aと第1外周部42bとを有する。図9は、被駆動プーリ41の軸線を通る平面における被駆動プーリ41およびVベルト39の断面図であり、減速比が最大であるときの被駆動プーリ41とVベルト39との一部を示している。なお、理解の容易のために、図9では、被駆動プーリ41にはハッチングを省略している。
【0054】
第1外周部42bは、第1内周部42aの径方向における外方に配置されている。そして、第1外周部42bの傾斜角θ2は、第1内周部42aの傾斜角θ1よりも大きくなっている。これにより、減速比が最大であるときに、すなわち、被駆動プーリ41でのVベルト39の巻き付け径が最大になるときに、固定プーリ体42の表面が樹脂ブロック52の少なくとも一部と接触しないようにされている。具体的には、固定プーリ体42の表面が、樹脂ブロック52の径方向における外方の端部を含む少なくとも一部と接触しないようにされている。すなわち、減速比が最大であるときに固定プーリ体42の第1外周部42bが外ブロック部52aの少なくとも一部と接触しないように、固定プーリ体42の表面の傾斜角θ1、θ2が設定されている。ここで、傾斜角とは、固定プーリ体42の軸線に垂直な平面と、固定プーリ体42の表面とのなす角、又は、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面と、可動プーリ体43の表面とのなす角をいう。なお、固定プーリ体42の軸線は、被駆動軸27の軸線と一致している。また、可動プーリ体43の軸線は、被駆動軸27の軸線と一致している。
【0055】
また、図9に示すように、第1外周部42bは、径方向における外方ほど傾斜角θ2が大きくなるように湾曲した形状となっている。この形状により、固定プーリ体42の第1外周部42bは、樹脂ブロック52の径方向における外方の端部を含む外ブロック部52aと接触しないようにされている。また、第1内周部42aのうち少なくともVベルト39と接触する範囲は、平坦な形状となっている。すなわち、第1内周部42aのうち少なくともVベルト39と接触する範囲において、傾斜角θ1は一定である。このため、固定プーリ体42の表面は、内ブロック部52bに接触している。
【0056】
図9において、内ブロック部52bと固定プーリ体42の表面との間の距離d1およびd2は、ゼロである。すなわち、固定プーリ体42の表面と内ブロック部52bとは接触している。また、外ブロック部52aと固定プーリ体42の表面との間の距離d3およびd4は、ゼロより大きい。距離d3は、外ブロック部52aと固定プーリ体42の表面との間の隙間の最小値である。すなわち、固定プーリ体42の表面と外ブロック部52aとは接触していない。また、d3<d4である。すなわち、外ブロック部52aと固定プーリ体42の表面との間の距離は、径方向における外方ほど大きくなっている。また、固定プーリ体42の表面の径方向における外方の先端と、固定プーリ体42の第1内周部42aの表面の延長線(二点鎖線L2参照)との間の距離をd5とすると、d3<d4<d5である。従って、固定プーリ体42の第1外周部42bは、径方向における外方ほど傾斜角が大きくなるように湾曲している。
【0057】
可動プーリ体43の表面は、固定プーリ体42の表面と径方向に対して対称な形状を有する。可動プーリ体43は、第2内周部43aと第2外周部43bとを有する。第2外周部43bは、第2内周部43aの径方向における外方に配置されている。可動プーリ体43の第2外周部43bは、固定プーリ体42の第1外周部42bと同様に湾曲した形状となっている。可動プーリ体43の第2内周部43aは、固定プーリ体42の第1内周部42aと同様に平坦な形状を有する。すなわち、第2内周部43aのうち少なくともVベルト39と接触する範囲において、傾斜角θ3は一定である。また、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面に対する第2外周部43bの傾斜角θ4は、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面に対する第2内周部43aの傾斜角θ3よりも大きい。
【0058】
なお、第1外周部42bに含まれる、ある位置での傾斜角θ2は、当該位置における第1外周部42bの接線と、固定プーリ体42の軸線に垂直な平面との間のなす角を意味する。また、第2外周部43bに含まれる、ある位置での傾斜角θ4は、当該位置における第2外周部43bの接線と、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面との間のなす角を意味する。
【0059】
図9に示すように、CVT30の減速比が最大であるときに、連結部材53の一方の側面は、第1内周部42aと第1外周部42bとの間の境界部42cに面している。また、CVT30の減速比が最大であるときに、連結部材53の他方の側面は、第2内周部43aと第2外周部43bとの間の境界部43cとに面している。より詳細には、第1外周部42bと第1内周部42aとの間の境界部42c、及び、第2内周部43aと第2外周部43bとの間の境界部43cは、固定プーリ体42の表面のうち、連結部材53の径方向における中心(図6および図9の一点鎖線L1参照)に面している。このため、CVT30の減速比が最大であるときには、内ブロック部52bの側面の全体が固定プーリ体42及び可動プーリ体43と接触するが、外ブロック部52aの側面の全体が、固定プーリ体42及び可動プーリ体43と接触しない。
【0060】
一方、上述したように、エンジン回転数、或いは、車速が増大すると、CVT30の減速比が小さくなる。すなわち、被駆動プーリ41におけるVベルト39の巻き付け径が小さくなる。従って、Vベルト39は、図9に示す位置よりも、径方向における内方へと移動する。そして、車速が、クラッチ80の接続が完了する速度V1(図8参照)に達したときには、Vベルト39は、図10に示す状態となる。具体的には、Vベルト39の一方の側面(以下、「第1側面39a」と呼ぶ)の全体が、第1外周部42bと第1内周部42aとの境界部42cよりも、径方向における内方に位置している。また、Vベルト39の他方の側面(以下「第2側面39b」と呼ぶ)の全体が、第2外周部43bと第2内周部43aとの境界部43cよりも、径方向における内方に位置している。従って、クラッチ80の非接続状態から接続状態への切換が完了したときには、Vベルトの第1側面39aの全体が第1内周部42aに接触し、Vベルトの第2側面39bの全体が第2内周部43aに接触している。なお、エンジン回転速度と車速との関係が図8の実線L1aである場合と破線L1bである場合とのいずれであっても、車速が速度V1に達したときに、Vベルト39が図10に示す状態となる。
【0061】
<駆動プーリ31の表面の形状>
図11に示すように、駆動プーリ31の固定プーリ体32の表面のうち、少なくともVベルト39と接触する範囲(以下、「第1接触表面32a」と呼ぶ)は、平坦な形状を有する。すなわち、固定プーリ体32の軸線に垂直な平面に対する第1接触表面32aの傾斜角θ5は一定である。また、駆動プーリ31の可動プーリ体33の表面のうち、少なくともVベルト39と接触する範囲(以下、「第2接触表面33a」と呼ぶ)は、平坦な形状を有する。すなわち、可動プーリ体33の軸線に垂直な平面に対する第2接触表面33aの傾斜角θ6は一定である。なお、図11では、駆動プーリ31の固定プーリ体32及び可動プーリ体33を簡略化して示している。
【0062】
<特徴>
本実施形態に係る自動二輪車1では、CVT30の減速比が最大であるときに、被駆動プーリ41の表面とVベルト39の樹脂ブロック52との接触面積が小さくなる。従って、被駆動プーリ41の表面と樹脂ブロック52との接触圧が大きくなる。これにより、CVT30の減速比が最大になるときに、被駆動プーリ41でのスティックスリップ音の発生を抑えることができる。
【0063】
また、CVT30の減速比が最大になるのは、エンジン20がアイドリング状態となっているときである。このようなスティックスリップ音が聞こえやすい状態で、スティックスリップ音の発生が抑えられるため、スティックスリップ音によるライダーの不快感を抑えることができる。
【0064】
さらに走行中には、被駆動プーリ41の内周部42a,43aとVベルト39とが接触するため、Vベルト39の樹脂ブロック52が磨耗した場合でも、樹脂ブロック52の側面は、内周部42a,43aの形状に沿った形状となる。このため、樹脂ブロック52の側面が被駆動プーリ41の外周部42b,43bと接触しない状態が維持される。従って、Vベルト39の樹脂ブロック52が磨耗した場合であっても、スティックスリップ音の発生を抑えることができる。
【0065】
また、車速が、クラッチ80の接続が完了する速度V1以上のときには、Vベルト39の側面全体が、被駆動プーリ41の表面と接触する。従って、被駆動プーリ41とVベルト39の樹脂ブロック52との接触面積が大きく確保される。このため、車速が大きいときには、被駆動プーリ41は、被駆動軸27からのトルクを確実に伝達することができる。
【0066】
また、駆動プーリ31の第1接触表面32aと第2接触表面33aとは平坦な形状を有している。従って、駆動プーリ31と樹脂ブロック52との接触面積が車速に関わらず大きく確保される。このため、駆動プーリ31は、クランク軸21からのトルクをVベルト39に確実に伝達することができる。
【0067】
また、CVT30の減速比が最大であるときに、被駆動プーリ41の表面は、外ブロック部52aとは接触しないが、連結部材53および内ブロック部52bと接触している。このため、接触面積が過度に小さくなることによりVベルト39が被駆動プーリ41に対して滑ることを抑えることができる。
【0068】
また、被駆動プーリ41および駆動プーリ31の表面に溝91が形成されることにより、Vベルト39から生じる磨耗粉が溝91に保持される。これにより、被駆動プーリ41および駆動プーリ31の表面とVベルト39との潤滑性を良好に維持することができる。また、被駆動プーリ41の溝91は、スティックスリップ音の発生要因となり得るが、本実施形態に係る自動二輪車1では、上述した被駆動プーリ41の表面の形状により、被駆動プーリ41でのスティックスリップ音の発生を抑えることができる。
【0069】
また、溝91は、旋削加工によって各プーリ31,41の表面に形成されている。このため、溝91を簡易かつ安価に実現することができる。
【0070】
また、被駆動プーリ41の第1外周部42b及び第2外周部43bの表面の湾曲した形状も、旋削加工によって形成されている。このため、第1外周部42b及び第2外周部43bの表面の湾曲した形状と溝91との加工を同時に、又は、続けて行うことができる。これにより、被駆動プーリ41の加工時の作業効率を向上させることができる。
【0071】
また、被駆動プーリ41はステンレスから形成されている。このため、第1外周部42b及び第2外周部43bの表面の湾曲した形状と溝91とを旋削加工により容易に形成することができる。また、スティックスリップ音は、アルミ製のプーリよりもステンレス製のプーリの方が発生し易い。このため、ステンレス製の被駆動プーリ41の表面が上記のように湾曲した形状とされることにより、スティックスリップ音の発生を抑えることができる。また、アルミ製の駆動プーリ31は、被駆動プーリ41のような湾曲した形状とされないことにより、駆動プーリ31の加工工程の増大を抑えることができる。
【0072】
さらに、上述したように、CVT30の減速比が最大となるのは、車速が大きいときである。そして、車速が大きいときには、ウェイトローラ34による可動プーリ体33への押付力が大きい。このため、駆動プーリ31の表面とVベルト39との接触面積が大きくなっていても、駆動プーリ31の表面とVベルト39との接触圧の低下は少ない。従って、駆動プーリ31ではスティックスリップ音は発生し難い。まして、駆動プーリ31はアルミ製なので、駆動プーリ31ではスティックスリップ音が発生し難い。さらに、たとえCVT30の減速比が最大となっているときにスティックスリップ音が発生したとしても、車速が大きい状態では、スティックスリップ音がライダーの耳に届き難い。このため、駆動プーリ31の表面が被駆動プーリ41の表面のような湾曲した形状とされなくても、ライダーにスティックスリップ音によって不快感を与えることは少ない。
【0073】
<他の実施形態>
本発明に係る無段変速装置および鞍乗型車両は、上記の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0074】
本発明に係る鞍乗型車両は、上記のような自動二輪車1に限らず、他の種類の鞍乗型車両であってもよい。例えば、スクータータイプの鞍乗型車両であってもよい。或いは、ATV(All Terrain Vehicle(全地形型車両)などの四輪バギーであってもよい。
【0075】
被駆動プーリ41の表面において湾曲が開始する位置は、減速比が最大であるときに連結部材53の中心に面する位置に限られない。すなわち、境界部42c及び境界部43cの位置は、減速比が最大であるときに連結部材53の中心に面する位置に限られない。例えば、連結部材53の中心よりも径方向における外方又は径方向における内方の位置であってもよい。
【0076】
また、本発明では、被駆動プーリ41でのVベルト39の巻き付け径が最大であるときに被駆動プーリ41の表面と外ブロック部52aの全体とが接触しないことに限られない。被駆動プーリ41の表面と外ブロック部52aの一部とが接触しないようにされてもよい。また、被駆動プーリ41の表面が、外ブロック部52a、連結部材53、および、内ブロック部52bの一部と接触しないようにされてもよい。ただし、被駆動プーリ41の表面とVベルト39との接触面積が過度に小さくなるとVベルト39が被駆動プーリ41の表面に対して滑り易くなる。このため、このようなVベルト39の滑りが生じない範囲で被駆動プーリ41の表面とVベルト39とが接触する部分が定められるとよい。
【0077】
駆動プーリ31および被駆動プーリ41の表面に溝を形成する方法としては、旋削加工以外に、研削加工などの他の切削加工であってもよい。しかし、加工の容易さの観点から、溝91を形成する方法としては旋削加工がより好ましい。また、被駆動プーリ41の表面を湾曲した形状に加工する方法についても同様に、研削加工であってもよいが、旋削加工がより好ましい。
【0078】
駆動プーリ31および被駆動プーリ41の表面の溝は、上記のような渦巻状の溝91に限定されない。例えば、各プーリ体32,33,42,43の軸心を中心とする同心円状の複数の溝が形成されてもよい。また、プーリ体32,33,42,43の全てに溝が設けられるのではなく一部のみに溝が設けられてもよい。すなわち、駆動プーリ31の固定プーリ体32と、可動プーリ体33との一方のみに溝が設けられてもよい。また、被駆動プーリ41の固定プーリ体42と可動プーリ体43との一方のみに溝が設けられてもよい。
【0079】
Vベルト39は、被駆動プーリ41の表面と接触する部分の少なくとも一部が樹脂からなるものであれば足り、必ずしも上記のような上記Vベルト39の構造に限定されない。
【0080】
被駆動プーリ41を構成する材料は、ステンレスに限らず他の鉄鋼系材料であってもよい。
【0081】
第1外周部42bの傾斜角θ2は一定であってもよい。すなわち、第1外周部42bが湾曲しているのではなく、平坦であってもよい。また、第2外周部43bの傾斜角θ4は一定であってもよい。すなわち、第2外周部43bが湾曲しているのではなく、平坦であってもよい。
【0082】
上記の実施形態において、固定プーリ体42の境界部42cは、第1内周部42aと第1外周部42bとの境界である。すなわち、境界部42cは、固定プーリ体42の表面において平坦な部分と湾曲した部分との間に位置する。ただし、第1外周部42bが平坦な形状である場合には、境界部42cは、固定プーリ体42の表面において傾斜角の異なる平坦な2つの部分の間に位置する。すなわち、境界部42cは、固定プーリ体42の表面において傾斜角が変化する部分である。同様に、可動プーリ体43の境界部43cは、第2内周部43aと第2外周部43bとの境界である。すなわち、境界部43cは、可動プーリ体43の表面において平坦な部分と湾曲した部分との間に位置する。ただし、第2外周部43bが平坦な形状である場合には、境界部43cは、可動プーリ体43の表面において傾斜角の異なる平坦な2つの部分の間に位置する。すなわち、境界部43cは、可動プーリ体43の表面において傾斜角が変化する部分である。
【0083】
第1外周部42bは、固定プーリ体42の表面のうち、境界部42cよりも径方向における外方に位置する部分の少なくとも一部に設けられればよい。すなわち、第1外周部42bは、固定プーリ体42の表面のうち、境界部42cよりも径方向における外方に位置する部分の全体ではなく、その一部であってもよい。例えば、第1外周部42bは、固定プーリ体42の表面において、境界部42cから樹脂ブロック52の幅の範囲に設けられてもよい。この場合、固定プーリ体42の表面において、境界部42cから樹脂ブロック52の幅の範囲では、どの点での接線をθ2としてもθ1よりも傾斜角が大きい。同様に、第2外周部43bは、可動プーリ体43の表面のうち、境界部43cよりも径方向における外方に位置する部分の少なくとも一部に設けられればよい。すなわち、第2外周部43bは、可動プーリ体43の表面のうち、境界部43cよりも径方向における外方に位置する部分の全体ではなく、その一部であってもよい。例えば、第2外周部43bは、可動プーリ体43の表面において、境界部43cから樹脂ブロック52の幅の範囲に設けられてもよい。この場合、可動プーリ体43の表面において、境界部43cから樹脂ブロック52の幅の範囲では、どの点での接線をθ2としてもθ1よりも傾斜角が大きい。
【0084】
上記の実施形態では、図8に示すように、車速が、クラッチ80の接続が完了する速度V1以上のときには、Vベルト39の側面全体が、被駆動プーリ41の表面と接触する。ただし、車速が速度V1以上であっても、エンジン20のスロットルの開度に応じて、Vベルト39の側面の一部のみが、被駆動プーリ41の表面と接触してもよい。例えば、図12では、スロットルの開度が大きい場合、例えば最大である場合には、実線L2aで示すように、車速とエンジン回転速度とが変化する。具体的には、速度V1までは、上記の実施形態と同様に、車速とエンジン回転速度とが変化する。クラッチ80の状態も上記の実施形態と同様である。従って、車速が速度V1に達したときに、クラッチ80の接続が完了する。ただし、図12では、車速が速度V1以上となっても、速度V2に達するまでは、概ね一点鎖線Lowで示すラインに沿ってエンジン回転速度と車速とが変化するように、CVT30が低速の状態に維持される。すなわち、車速が速度V1以上となっても、速度V2に達するまでは、Vベルト39の側面の一部のみが被駆動プーリ41の表面と接触する(図9参照)。そして、車速がV2以上になると、CVT30が高速の状態に変化する。すなわち、車速が速度V1よりも大きい速度V2以上のときには、Vベルト39の側面全体が、被駆動プーリ41の表面と接触する(図10参照)。なお、速度V2と速度V1との差は小さいことが望ましく、例えば、速度V1の1/2以下である。また、エンジン20のスロットルの開度が最大値よりも小さい所定の開度であるときには、図12において破線L2bで示すように、車速とエンジン回転速度とが変化する。この場合は、上記の実施形態と同様に、車速が速度V1以上のときに、CVT30が高速の状態となり、Vベルト39の側面全体が、被駆動プーリ41の表面と接触する(図10参照)。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、スティックスリップ音によるライダーの不快感を抑えることができる効果を有し、無段変速装置および鞍乗型車両として有用である。
【符号の説明】
【0086】
21 クランク軸(駆動軸)
31 駆動プーリ
32 固定プーリ体
33 可動プーリ体
27 被駆動軸
41 被駆動プーリ
42 固定プーリ体
43 可動プーリ体
42a 第1内周部
42b 第1外周部
43a 第2内周部
43b 第2外周部
52 樹脂ブロック
39 Vベルト
91 溝
30 CVT(無段変速装置)
53 連結部材
52a 外ブロック部
52b 内ブロック部
1 自動二輪車(鞍乗型車両)
80 クラッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速装置および鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速装置では、Vベルトが駆動プーリと被駆動プーリとに巻き付けられている。そして、ベルト式無段変速装置には、Vベルトのうち各プーリと接触する部分が複数の樹脂ブロックによって構成されているものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている無段変速装置では、Vベルトは、複数の樹脂ブロックが無端状の連結体によって連結されている。Vベルトは、プライマリシーブとセカンダリシーブとに巻き付けられている。また、プライマリシーブおよびセカンダリシーブはそれぞれ一対のシーブ半体によって構成されている。プライマリシーブのシーブ半体およびセカンダリシーブのシーブ半体のシーブ表面には、径方向に沿って所定のピッチで並んだ複数の溝が設けられている。これらの溝により、Vベルトの磨耗量が低減され、無段変速機の長寿命化を図ることができる旨が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−39177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の無段変速装置のような溝が、プーリのVベルトに接触する表面に設けられると、プーリに挟まれたVベルトがプーリから外れる際に、スティックスリップ(stick slip)音が発生し易くなる。このスティックスリップ音は、ライダーに不快感を感じさせることがある。
【0006】
本願の発明者は、研究の結果、このスティックスリップ音の発生原因を以下のように突き止めた。
【0007】
プーリの表面に溝が設けられると、Vベルトの樹脂ブロックがプーリに巻き込まれやすくなる。樹脂ブロックは、Vベルトがプーリに挟まれたときにプーリの表面に巻き込まれて変形するが、Vベルトがプーリから外れる際に解放される。このとき、樹脂ブロックは、プーリの表面に巻き込まれた状態から元の状態に戻ろうとして、プーリの表面と擦れ合う。このときの樹脂ブロックとプーリの表面との摩擦によって、スティックスリップ音が発生するのである。なお、このスティックスリップ音は、複数の樹脂ブロックがプーリから外れる度に発生するため、Vベルトが駆動されることにより繰り返し発生する。
【0008】
また、長い時間、無段変速装置が駆動されると、樹脂ブロックが磨耗してプーリの表面の形状に沿った形状となる。この場合、Vベルトの側面とプーリの表面との接触面積が大きくなり、Vベルトの側面とプーリの表面との接触圧が低下する。この接触圧が低下した状態で、上記のようにVベルトの側面がプーリの表面と擦れ合うと、スティックスリップ音が発生し易い。
【0009】
また、無段変速装置の減速比が最大のときには、被駆動プーリでのVベルトの巻き付け径が最大になる。このとき、Vベルトのうちプーリの表面と接触する部分の長さは、減速比が小さいときよりも長い。従って、Vベルトの側面とプーリの表面との接触面積が大きくなるので、Vベルトの側面とプーリの表面との接触圧が低くなる。このため、無段変速装置の減速比が最大のときには、被駆動プーリにおいてスティックスリップ音が発生し易い。しかも、無段変速装置の減速比が最大のときには、エンジンの回転速度が低いので、スティックスリップ音がライダーに聞こえ易い。このため、ライダーがスティックスリップ音によって不快に感じることがある。
【0010】
本発明の課題は、スティックスリップ音によるライダーの不快感を抑えることができる無段変速装置および鞍乗型車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る無段変速装置は、駆動軸と、駆動プーリと、被駆動軸と、被駆動プーリと、Vベルトとを備える。駆動プーリは、駆動軸に設けられる。被駆動軸は、駆動軸から離れて配置される。被駆動プーリは、被駆動軸に設けられる。被駆動プーリは、被駆動軸の軸線方向に移動可能な可動プーリ体と、被駆動軸の軸線方向に移動不可能な固定プーリ体と、を有する。Vベルトは、駆動プーリと被駆動プーリとに接触する複数の樹脂ブロックを有し、駆動プーリと被駆動プーリとに巻き付けられる。可動プーリ体及び固定プーリ体は、Vベルトに接触する表面を有する。可動プーリ体の前記表面及び固定プーリ体の前記表面のうち少なくとも一方には、周方向に延びる1又は複数の溝が設けられている。固定プーリ体は、第1内周部と、第1内周部の径方向における外方に配置される第1外周部とを有する。固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する第1外周部の表面の傾斜角は、固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する第1内周部の表面の傾斜角よりも大きい。可動プーリ体は、第2内周部と、第2内周部の径方向における外方に配置される第2外周部とを有する。可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する第2外周部の表面の傾斜角は、可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する第2内周部の表面の傾斜角よりも大きい。そして、減速比が最大であるときに、Vベルトの一方の側面である第1側面は、第1内周部と接触し且つ第1外周部と非接触である。また、減速比が最大であるときに、Vベルトの他方の側面である第2側面は、第2内周部と接触し且つ第2外周部と非接触である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、減速比が最大であるときに、被駆動プーリの表面とVベルトの樹脂ブロックとの接触面積が小さくなる。このため、被駆動プーリの表面と樹脂ブロックとの接触圧が大きくなる。これにより、減速比が最大であるときに、被駆動プーリでのスティックスリップ音の発生を抑えることができる。また、減速比が最大であるときは、無段変速装置が低速の状態である。無段変速装置が低速の状態では、エンジンはアイドリング状態のようにエンジン回転速度が低く抑えられた状態となっている。本発明では、このようなスティックスリップ音が聞こえやすい状態でスティックスリップ音の発生が抑えられるため、スティックスリップ音によるライダーの不快感を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車の側面図。
【図2】自動二輪車が備えるエンジンユニットの断面図。
【図3】駆動プーリの固定プーリ体の表面を示す図。
【図4】被駆動プーリの固定プーリ体の表面を示す図。
【図5】Vベルトの側面図。
【図6】図5におけるVI−VI断面図。
【図7】無段変速装置での変速動作を示す図。
【図8】エンジン回転速度と車速との関係を示すグラフ。
【図9】減速比が最大となっているときの被駆動プーリとVベルトとを示す断面図。
【図10】クラッチの接続が完了したときの被駆動プーリとVベルトとを示す断面図。
【図11】減速比が最大となっているときの駆動プーリとVベルトとを示す断面図。
【図12】他の実施形態に係る自動二輪車でのエンジン回転速度と車速との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車1の側面図である。なお、以下の説明では、前後左右の方向は、特に限定した記載のない限り、自動二輪車1のシート9に着座したライダーから見た前後左右の方向をいうものとする。
【0015】
<構成>
図1に示すように、自動二輪車1は、車体フレーム2と、エンジンユニット10と、前輪3及び後輪4とを備えている。
【0016】
車体フレーム2は、ヘッドパイプ2aと、メインフレーム2bと、リアフレーム2cと、ステー2dと、ブラケット2eを有する。ヘッドパイプ2aは、車体フレーム2の前端部に設けられている。ヘッドパイプ2aは、ステアリングシャフト6を回転可能に支持している。ステアリングシャフト6の上端部には、ハンドル5が接続されており、ステアリングシャフト6はハンドル5と共に回転する。ステアリングシャフト6の下端部にはフロントフォーク7が接続されており、このフロントフォーク7の下端部は前輪3を回転可能に支持している。
【0017】
メインフレーム2bの前端部は、ヘッドパイプ2aに接続されている。メインフレーム2bは、その前端部から車体後部に向かって延びている。具体的には、メインフレーム2bは、その前端部から斜め下方に向かって延びている。メインフレーム2bの後端部は、後輪4の前に位置している。メインフレーム2bの中間部には、リアフレーム2cの前端部が接続されている。リアフレーム2cは、その前端部から車体後部に向かって延びている。具体的には、リアフレーム2cは、その前端部から斜め上方に向かって延びている。リアフレーム2cの上方には、収納ケース8とシート9が配置され、リアフレーム2cは、収納ケース8とシート9とを支持している。メインフレーム2bの後端部には、ステー2dの前端部が接続されている。ステー2dは、その前端部から車体後部に向かって延びている。具体的には、ステー2dは、その前端部から斜め上方に向かって延びている。ステー2dの上端部はリアフレーム2cの中間部に接続されている。
【0018】
ブラケット2eは、板状の部材であり、メインフレーム2bの後端部に接合されている。ブラケット2eの上部には、ピボット軸12を介して、リアアーム11の前端部が取り付けられている。リアアーム11は、ピボット軸12から後方(図1においてFrに示す方向とは反対方向)に向けて延びている。リアアーム11の後端部は、後輪4を回転可能に支持している。リアアーム11は、ピボット軸12を支点として、後輪4と共に上下に揺動する。リアアーム11は、エンジンユニット10に対して独立して揺動する。
【0019】
エンジンユニット10は、車体フレーム2によって支持されている。エンジンユニット10は、メインフレーム2bの下方であって、後輪4の前に配置されている。図2に示すように、エンジンユニット10は、エンジン20と、被駆動軸27と、出力軸29と、無段変速装置30(以下、「CVT30」と呼ぶ)と、クラッチ80と、を備えている。
【0020】
エンジン20は、クランク軸21(駆動軸)と、シリンダ22と、ピストン23と、クランクケース60とを有している。シリンダ22は、クランクケース60の前方(図2においてFrの示す方向)に配置されている。シリンダ22は、前部が後部よりも上方に位置するように、僅かに傾斜した姿勢で配置されている。ピストン23は、シリンダ22内に送られた燃料と空気との混合気が燃焼することで、シリンダ22内において往復運動する。ピストン23は、コンロッド24を介して、クランク軸21に設けられたクランクピン25に連結されている。ピストン23の往復運動は、クランク軸21によって回転運動に変換されて、CVT30へ出力される。
【0021】
クランク軸21は、クランクケース60内において車幅方向(図2においてWに示す方向)に沿って配置されている。クランク軸21は、右軸部21aと、左軸部21bと、一対のクランクアーム21c,21cとを有している。クランクアーム21c,21cは、右軸部21aと左軸部21bの基部から径方向(軸の中心線に対して直交する方向)に延びており、クランクピン25を回転可能に支持している。
【0022】
左軸部21bの基部は、ベアリング69を介してクランクケース60に支持されている。左軸部21bは、その基部から左側(図2の紙面における上方)に延びている。左軸部21b上には発電機(図示せず)が設けられている。
【0023】
右軸部21aの基部は、ベアリング68を介してクランクケース60に支持されている。右軸部21aは、その基部から右側(図2の紙面における下方)に延びている。右軸部21a上には、CVT30の駆動プーリ31が設けられている。右軸部21aの端部21dは、後述する変速機ケース50によって支持されている。
【0024】
被駆動軸27は、クランク軸21から後方に離れた位置に配置されている。被駆動軸27は車幅方向に沿って配置されている。被駆動軸27上には、後述するCVT30の被駆動プーリ41と、クラッチ80とが設けられている。被駆動軸27の右側端部27aは、変速機ケース50によって支持されている。被駆動軸27の左側端部27bには、ベアリング65とベアリング63とが嵌められている。ベアリング65の外輪は、クランクケース60に支持されており、クランクケース60はベアリング65を介して被駆動軸27の端部27bを支持している。ベアリング63は、ベアリング65より左側に位置している。
【0025】
被駆動軸27の中央部27cには、ベアリング66が嵌められている。ベアリング66の外輪は、クランクケース60に固定された仕切り部材64によって支持されている。クランクケース60は、仕切り部材64及びベアリング66を介して、被駆動軸27の中央部を支持している。
【0026】
出力軸29は、被駆動軸27と車幅方向に並んで配置されている。出力軸29は、被駆動軸27の左側に位置している。出力軸29はベアリング63の外輪に嵌められており、ベアリング63は出力軸29を支持している。出力軸29の中央部29aは、ベアリング62を介してクランクケース60に支持されている。また、出力軸29上には、チェーン(図示せず)が巻き付けられたスプロケット29cが設けられている。
【0027】
CVT30は、ベルト式の無段変速機であり、駆動プーリ31と、被駆動プーリ41と、Vベルト39と、変速機ケース50と、を有している。
【0028】
駆動プーリ31は、クランク軸21の右軸部21a上に設けられている。駆動プーリ31は、固定プーリ体32と、可動プーリ体33と、プレート35とを有している。固定プーリ体32とプレート35は、軸線方向の動きが規制されている。すなわち、固定プーリ体32とプレート35は、クランク軸21の軸線方向に移動不可能である。可動プーリ体33は、固定プーリ体32とプレート35との間において、軸線方向への動きが許容されている。すなわち、可動プーリ体33は、クランク軸21の軸線方向に移動可能である。可動プーリ体33は、固定プーリ体32と軸線方向に向き合って配置されている。可動プーリ体33と固定プーリ体32との間には、Vベルト39が配置されるベルト溝が形成されており、可動プーリ体33と固定プーリ体32とに、Vベルト39の前部が巻き付けられている。このベルト溝の幅が駆動プーリ31の径方向における外方ほど大きくなるように、可動プーリ体33および固定プーリ体32のVベルト39と接触する表面(以下、単に「表面」と呼ぶ)は、駆動プーリ31の径方向(駆動プーリ31の軸線に対して直交する方向)に対して傾斜した形状となっている。
【0029】
可動プーリ体33とプレート35との間には、遠心力によって径方向へ移動するウェイトローラ34が配置されている。クランク軸21が回転すると、ウェイトローラ34は、径方向における外方に移動すると共に、可動プーリ体33を固定プーリ体32に向けて押圧する。そして、Vベルト39が可動プーリ体33に押されて駆動プーリ31の径方向における外方に移動し、Vベルト39の駆動プーリ31に巻き付けられた部分の径(以下、「巻き付け径」と呼ぶ)が大きくなることで、減速比が小さくなる。
【0030】
また、固定プーリ体32および可動プーリ体33は、アルミニウムまたはアルミニウムを一部に含む合金によって形成されている。そして、固定プーリ体32および可動プーリ体33の表面には、硬質クロムメッキが施されている。
【0031】
また、図3(a)および(b)に示すように、固定プーリ体32および可動プーリ体33の表面には、渦巻状の溝91が形成されている。溝91は、旋削加工によって、固定プーリ体32および可動プーリ体33の表面に形成されている。溝91は、周方向に延びており、径方向に所定ピッチPで並んでいる。溝91は、プーリ体32,33の軸心92を中心とした渦巻状に形成されている。上記溝91によって、プーリ体32,33の径方向の断面は、凹凸状に形成されている。図3(b)に示すように、固定プーリ体32および可動プーリ体33の表面には、クロムメッキ層93が形成されている。なお、図3(b)は、図3(a)におけるX−X断面図である。
【0032】
図2に示すように、被駆動プーリ41は、駆動プーリ31の後方に位置している。被駆動プーリ41は、被駆動軸27上に設けられ、Vベルト39を介して伝達されたトルクによって被駆動軸27と共に回転する。被駆動プーリ41は、固定プーリ体42と可動プーリ体43とを有している。
【0033】
固定プーリ体42は、軸線方向の動きが規制されている。すなわち、固定プーリ体42は、被駆動軸27の軸線方向に移動不可能である。また、固定プーリ体42は、被駆動軸27にスプラインで結合されており、被駆動軸27と一体的に回転する。固定プーリ体42は、駆動プーリ31の固定プーリ体32よりも大きな直径を有している。
【0034】
可動プーリ体43は、被駆動軸27の軸線方向へ移動可能に設けられている。また、可動プーリ体43は、被駆動軸27と共に回転する。可動プーリ体43は、固定プーリ体42と軸線方向に向き合って配置されている。可動プーリ体43と固定プーリ体42との間には、Vベルト39が配置されるベルト溝が形成されており、可動プーリ体43と固定プーリ体42とに、Vベルト39の後部が巻き付けられている。このベルト溝の幅が被駆動プーリ41の径方向における外方ほど大きくなるように、可動プーリ体43および固定プーリ体42のVベルト39に接触する表面(以下、単に「表面」と呼ぶ)は、被駆動プーリ41の径方向(被駆動プーリ41の軸線に対して直交する方向)に対して傾斜した形状となっている。なお、可動プーリ体43は、駆動プーリ31の可動プーリ体33よりも大きな直径を有している。
【0035】
可動プーリ体43の右側には、スプリング支持部材45が配置されている。スプリング支持部材45は、円盤状の部材であり、被駆動軸27と共に回転する。スプリング支持部材45と可動プーリ体43との間には、スプリング44が設けられている。スプリング支持部材45は、軸線方向への移動が規制されており、スプリング44を支持している。駆動プーリ31において可動プーリ体33がVベルト39の巻き付け径を拡大させると、被駆動プーリ41において可動プーリ体43は、スプリング44の付勢力に抗して、固定プーリ体42から離れる方向に移動する。これによって、被駆動プーリ41のVベルト39の巻き付け径が小さくなり、減速比が小さくなる。
【0036】
被駆動プーリ41の固定プーリ体42および可動プーリ体43は、ステンレス(例えば、SUS304(JIS))によって形成されている。なお、固定プーリ体42および可動プーリ体43の表面には、クロムメッキは施されていない。従って、被駆動プーリ41の表面硬度は、駆動プーリ31の表面硬度よりも低くなっている。
【0037】
また、図4(a)および図4(b)に示すように、被駆動プーリ41の表面には、駆動プーリ31の表面と同様に、渦巻状の溝91が形成されている。溝91は、旋削加工によって、固定プーリ体42および可動プーリ体43の表面に形成されている。溝91は、周方向に沿って延びており、径方向に所定ピッチPで並んでいる。溝91は、プーリ体42,43の軸心92を中心とした渦巻状に形成されている。上記溝91によって、プーリ体42,43の径方向の断面は、凹凸状に形成されている。なお、図4(b)に示すように、被駆動プーリ41の固定プーリ体42および可動プーリ体43の表面には、駆動プーリ31のようなクロムメッキ層93は形成されていない。なお、図4(b)は、図4(a)におけるY−Y断面図である。固定プーリ体42および可動プーリ体43の表面の形状については、後に詳細に説明する。
【0038】
図2に示すように、変速機ケース50は、駆動プーリ31、被駆動プーリ41、及びVベルト39を内部に収容している。変速機ケース50には、外気を取り入れる吸気口51cと、変速機ケース50内の空気を排出する排気口51dとが設けられている。吸気口51cには、吸気ダクト71が取り付けられている。外気は、ダクト先端部73(図1参照)から取り込まれ、エアクリーナ72(図1参照)において浄化された後、吸気ダクト71及び吸気口51cを通って変速機ケース50内に導入される。排気口51dには、排気ダクト74(図1参照)が接続されており、変速機ケース50内の空気は、排気口51dおよび排気ダクト74を通って外部に排出される。
【0039】
クラッチ80は、被駆動軸27からのトルクの出力軸29への伝達および遮断を切り換える。クラッチ80は、被駆動プーリ41の左側に配置されている。クラッチ80は、クラッチアウタ82と、クラッチインナ81と、複数のフリクションプレート83と、複数のクラッチプレート84とを有している。
【0040】
クラッチアウタ82は、被駆動軸27と共に回転するように設けられている。クラッチインナ81は、被駆動軸27に対して空転するように設けられている。なお、被駆動軸27上には、被駆動軸27に対して空転するギア26が設けられており、クラッチインナ81はギア26と共に回転する。
【0041】
フリクションプレート83とクラッチプレート84とは、円盤状の部材であり、クラッチアウタ82の内側において、クラッチインナ81を囲むように配置される。フリクションプレート83と、クラッチプレート84は、軸線方向に交互に並んで配置されている。フリクションプレート83は、軸線方向へ移動可能に設けられている。また、フリクションプレート83は、クラッチアウタ82と共に被駆動軸27の周りに回転するように設けられている。クラッチインナ81の内周面は、ギア26に噛み合っている。クラッチプレート84は、軸線方向へ移動可能に設けられている。クラッチプレート84は、クラッチインナ81と共に回転するように設けられている。
【0042】
複数のフリクションプレート83と、複数のクラッチプレート84とは、互いに押し付けられて連動することで、フリクションプレート83からクラッチプレート84にトルクが伝達される。クラッチ80は、自動クラッチであり、クラッチ80の接続状態および非接続状態の切換は、被駆動軸27の回転速度に応じて、自動で行なわれる。具体的には、クラッチ80は、ウェイトローラ86と、ダイアフラムスプリング(diaphragm spring)85とを有している。ウェイトローラ86は、クラッチアウタ82と共に被駆動軸27の周りを回転する。ダイアフラムスプリング85は、フリクションプレート83を軸線方向へ付勢する。複数のフリクションプレート83と、複数のクラッチプレート84とは、ウェイトローラ86とダイアフラムスプリング85との間に配置されている。被駆動軸27の回転速度が上がり、クラッチアウタ82の回転速度が上がると、ウェイトローラ86は、遠心力によって径方向における外方へ移動すると共に、フリクションプレート83をクラッチプレート84に押し付ける。これによって、クラッチ80は接続状態になる。また、被駆動軸27の回転速度が下がると、ウェイトローラ86は、径方向における内方に戻る。これにより、フリクションプレート83がクラッチプレート84から離れ、クラッチ80は非接続状態になる。
【0043】
クランク軸21の回転は、CVT30によって減速されて、被駆動軸27に伝達される。クラッチ80が接続状態である時には、被駆動軸27の回転は、クラッチ80を介してギア26に伝達される。ギア26は、被駆動軸27の前方に配置された中間軸28のギア28aに噛み合っている。また、中間軸28にはギア28bが形成され、このギア28bは出力軸29に形成されたギア29bに噛み合っている。これによって、ギア26の回転は、中間軸28を介して、出力軸29に伝達される。出力軸29の回転は、スプロケット29cと、後輪4と共に回転するスプロケット(図示せず)とに巻き付けられたチェーンを介して、後輪4に伝達される。
【0044】
Vベルト39は、駆動プーリ31と被駆動プーリ41とに巻き付けられ、駆動プーリ31から被駆動プーリ41にトルクを伝達する。図5および図6に示すように、Vベルト39は、複数の樹脂ブロック52と、連結部材53とを有する。
【0045】
図5に示すように、複数の樹脂ブロック52は、連結部材53の長手方向に沿って並んで配置されている。樹脂ブロック52は、駆動プーリ31と被駆動プーリ41とに接触する部分に設けられる。このため、樹脂ブロック52は、駆動プーリ31のベルト溝および被駆動プーリ41のベルト溝に沿うように略台形に形成されている。すなわち、樹脂ブロック52の左右の側面は、駆動プーリ31の表面および被駆動プーリ41の第1内周部42a及び第2内周部43aに沿うように傾斜している。また、樹脂ブロック52の左右の側面には、内方に向かって凹んだ凹部54がそれぞれ形成されている。凹部54には、連結部材53が嵌め込まれている。また、樹脂ブロック52は、外ブロック部52aと内ブロック部52bとを有する。外ブロック部52aは、樹脂ブロック52が被駆動プーリ41に接触している状態において、連結部材53に対して被駆動プーリ41の径方向における外方(図6における上方)に位置する部分である。内ブロック部52bは、連結部材53に対して被駆動プーリ41の径方向における内方に位置する部分である。樹脂ブロック52および連結部材53の左右の側面が、駆動プーリ31および被駆動プーリ41の表面と接触する接触面となる。
【0046】
連結部材53は、環状のベルト状の形状を有する。連結部材53は、互いに別体に形成された連結体53a,53bを有する。連結体53a,53bは、それぞれ無端状に形成されている。図6に示すように、連結体53a,53bは、各樹脂ブロック52の凹部54にそれぞれ嵌め込まれている。このように連結体53a,53bが樹脂ブロック52の凹部54に嵌め込まれることにより、複数の樹脂ブロック52同士が連結体53a,53bを介して連結されている。連結体53a,53bは、ゴムによって形成されている。連結体53a,53bの内部には、それぞれ補強用の複数の芯線55が埋め込まれている。
【0047】
<CVT30の動作>
以下、主として図2に基づいてCVT30の動作について説明する。
【0048】
CVT30では、ウェイトローラ34が駆動プーリ31の可動プーリ体33を右向きに押す力と、スプリング44が被駆動プーリ41の可動プーリ体43を左向きに押す力との大小関係によって、減速比が決定される。
【0049】
すなわち、クランク軸21の回転速度が上昇すると、ウェイトローラ34が遠心力を受けて径方向における外方に移動し、可動プーリ体33を右向きに押す。すると、可動プーリ体33は右側に移動し、駆動プーリ31でのVベルト39の巻き付け径が大きくなる。これに伴い、被駆動プーリ41でのVベルト39の巻き付け径が小さくなり、被駆動プーリ41の可動プーリ体43は、スプリング44の付勢力に対抗して右側に移動する。この結果、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が大きくなる一方、被駆動プーリ41における巻き付け径が小さくなり、減速比は小さくなる(図7(b)参照)。
【0050】
一方、クランク軸21の回転速度が低下すると、ウェイトローラ34の遠心力が小さくなるので、ウェイトローラ34は可動プーリ体33に沿って径方向における内方に移動する。このため、ウェイトローラ34が可動プーリ体33を右向きに押す力が小さくなる。すると、スプリング44の付勢力が相対的にウェイトローラ34による上記力より大きくなり、被駆動プーリ41の可動プーリ体43は左側に移動し、それに応じて駆動プーリ31の可動プーリ体33も左側に移動する。その結果、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が小さくなる一方、被駆動プーリ41におけるVベルト39の巻き付け径が大きくなり、減速比は大きくなる(図7(a)参照)。
【0051】
従って、CVT30が最も低速の状態すなわちアイドリング状態では、図7(a)に示すように、被駆動プーリ41におけるVベルト39の巻き付け径が最大となると共に、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が最小となる。これにより、減速比が最大となる。また、CVT30が最も高速の状態では、図7(b)に示すように、被駆動プーリ41におけるVベルト39の巻き付け径が最小となると共に、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が最大となる。これにより、減速比が最小となる。
【0052】
自動二輪車1でのエンジン回転速度と車速との関係を図8において実線L1a及び破線L1bで示す。実線L1aは、エンジン20のスロットルの開度が最大であるときのエンジン回転速度と車速との関係を示している。破線L1bは、エンジン20のスロットルの開度が最大よりも小さい所定の開度であるときのエンジン回転速度と車速との関係を示している。図8に示されているように、エンジン回転速度が0からN1に達するまでは、クラッチ80は非接続状態に維持されている。従って、車速は0である。エンジン回転速度がN1に達すると、クラッチ80が接続を開始する。これにより、エンジン回転速度がN1以上では、エンジン回転速度の増大に応じて、車速が徐々に増大する。車速がV1に達すると、クラッチ80の非接続状態から接続状態への切換が完了する。言い換えると、車速が0からV1までの間は、クラッチ80は半クラッチ状態である。なお、車速がV1のとき、エンジン回転速度はN2である。従って、エンジン回転速度がN1からN2までは、クラッチ80は半クラッチ状態である。そして、エンジン回転速度がN2からさらに増大すると、エンジン回転速度の増大に応じて、車速が徐々に増大する。上述したように、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径は、エンジン回転速度の増大に応じて、大きくなる。また、被駆動プーリ41における巻き付け径は、エンジン回転速度の増大に応じて、小さくなる。これにより、エンジン回転速度の増大に応じて、減速比は小さくなる。従って、クラッチ80が半クラッチ状態となっている車速が0からV1までの間であるときにも、エンジン回転速度の増大に応じて、駆動プーリ31におけるVベルト39の巻き付け径が大きくなる一方、被駆動プーリ41における巻き付け径が小さくなる。なお、実線L1aでは、破線L1b図8において「Low」は、クラッチ80が完全に接続しており、且つ、減速比が最大である仮想的な状態での、エンジン回転速度と車速との関係を示している。
【0053】
<被駆動プーリ41の表面の形状>
図9に示すように、固定プーリ体42は、第1内周部42aと第1外周部42bとを有する。図9は、被駆動プーリ41の軸線を通る平面における被駆動プーリ41およびVベルト39の断面図であり、減速比が最大であるときの被駆動プーリ41とVベルト39との一部を示している。なお、理解の容易のために、図9では、被駆動プーリ41にはハッチングを省略している。
【0054】
第1外周部42bは、第1内周部42aの径方向における外方に配置されている。そして、第1外周部42bの傾斜角θ2は、第1内周部42aの傾斜角θ1よりも大きくなっている。これにより、減速比が最大であるときに、すなわち、被駆動プーリ41でのVベルト39の巻き付け径が最大になるときに、固定プーリ体42の表面が樹脂ブロック52の少なくとも一部と接触しないようにされている。具体的には、固定プーリ体42の表面が、樹脂ブロック52の径方向における外方の端部を含む少なくとも一部と接触しないようにされている。すなわち、減速比が最大であるときに固定プーリ体42の第1外周部42bが外ブロック部52aの少なくとも一部と接触しないように、固定プーリ体42の表面の傾斜角θ1、θ2が設定されている。ここで、傾斜角とは、固定プーリ体42の軸線に垂直な平面と、固定プーリ体42の表面とのなす角、又は、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面と、可動プーリ体43の表面とのなす角をいう。なお、固定プーリ体42の軸線は、被駆動軸27の軸線と一致している。また、可動プーリ体43の軸線は、被駆動軸27の軸線と一致している。
【0055】
また、図9に示すように、第1外周部42bは、径方向における外方ほど傾斜角θ2が大きくなるように湾曲した形状となっている。この形状により、固定プーリ体42の第1外周部42bは、樹脂ブロック52の径方向における外方の端部を含む外ブロック部52aと接触しないようにされている。また、第1内周部42aのうち少なくともVベルト39と接触する範囲は、平坦な形状となっている。すなわち、第1内周部42aのうち少なくともVベルト39と接触する範囲において、傾斜角θ1は一定である。このため、固定プーリ体42の表面は、内ブロック部52bに接触している。
【0056】
図9において、内ブロック部52bと固定プーリ体42の表面との間の距離d1およびd2は、ゼロである。すなわち、固定プーリ体42の表面と内ブロック部52bとは接触している。また、外ブロック部52aと固定プーリ体42の表面との間の距離d3およびd4は、ゼロより大きい。距離d3は、外ブロック部52aと固定プーリ体42の表面との間の隙間の最小値である。すなわち、固定プーリ体42の表面と外ブロック部52aとは接触していない。また、d3<d4である。すなわち、外ブロック部52aと固定プーリ体42の表面との間の距離は、径方向における外方ほど大きくなっている。また、固定プーリ体42の表面の径方向における外方の先端と、固定プーリ体42の第1内周部42aの表面の延長線(二点鎖線L2参照)との間の距離をd5とすると、d3<d4<d5である。従って、固定プーリ体42の第1外周部42bは、径方向における外方ほど傾斜角が大きくなるように湾曲している。
【0057】
可動プーリ体43の表面は、固定プーリ体42の表面と径方向に対して対称な形状を有する。可動プーリ体43は、第2内周部43aと第2外周部43bとを有する。第2外周部43bは、第2内周部43aの径方向における外方に配置されている。可動プーリ体43の第2外周部43bは、固定プーリ体42の第1外周部42bと同様に湾曲した形状となっている。可動プーリ体43の第2内周部43aは、固定プーリ体42の第1内周部42aと同様に平坦な形状を有する。すなわち、第2内周部43aのうち少なくともVベルト39と接触する範囲において、傾斜角θ3は一定である。また、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面に対する第2外周部43bの傾斜角θ4は、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面に対する第2内周部43aの傾斜角θ3よりも大きい。
【0058】
なお、第1外周部42bに含まれる、ある位置での傾斜角θ2は、当該位置における第1外周部42bの接線と、固定プーリ体42の軸線に垂直な平面との間のなす角を意味する。また、第2外周部43bに含まれる、ある位置での傾斜角θ4は、当該位置における第2外周部43bの接線と、可動プーリ体43の軸線に垂直な平面との間のなす角を意味する。
【0059】
図9に示すように、CVT30の減速比が最大であるときに、連結部材53の一方の側面は、第1内周部42aと第1外周部42bとの間の境界部42cに面している。また、CVT30の減速比が最大であるときに、連結部材53の他方の側面は、第2内周部43aと第2外周部43bとの間の境界部43cとに面している。より詳細には、第1外周部42bと第1内周部42aとの間の境界部42c、及び、第2内周部43aと第2外周部43bとの間の境界部43cは、固定プーリ体42の表面のうち、連結部材53の径方向における中心(図6および図9の一点鎖線L1参照)に面している。このため、CVT30の減速比が最大であるときには、内ブロック部52bの側面の全体が固定プーリ体42及び可動プーリ体43と接触するが、外ブロック部52aの側面の全体が、固定プーリ体42及び可動プーリ体43と接触しない。
【0060】
一方、上述したように、エンジン回転数、或いは、車速が増大すると、CVT30の減速比が小さくなる。すなわち、被駆動プーリ41におけるVベルト39の巻き付け径が小さくなる。従って、Vベルト39は、図9に示す位置よりも、径方向における内方へと移動する。そして、車速が、クラッチ80の接続が完了する速度V1(図8参照)に達したときには、Vベルト39は、図10に示す状態となる。具体的には、Vベルト39の一方の側面(以下、「第1側面39a」と呼ぶ)の全体が、第1外周部42bと第1内周部42aとの境界部42cよりも、径方向における内方に位置している。また、Vベルト39の他方の側面(以下「第2側面39b」と呼ぶ)の全体が、第2外周部43bと第2内周部43aとの境界部43cよりも、径方向における内方に位置している。従って、クラッチ80の非接続状態から接続状態への切換が完了したときには、Vベルトの第1側面39aの全体が第1内周部42aに接触し、Vベルトの第2側面39bの全体が第2内周部43aに接触している。なお、エンジン回転速度と車速との関係が図8の実線L1aである場合と破線L1bである場合とのいずれであっても、車速が速度V1に達したときに、Vベルト39が図10に示す状態となる。
【0061】
<駆動プーリ31の表面の形状>
図11に示すように、駆動プーリ31の固定プーリ体32の表面のうち、少なくともVベルト39と接触する範囲(以下、「第1接触表面32a」と呼ぶ)は、平坦な形状を有する。すなわち、固定プーリ体32の軸線に垂直な平面に対する第1接触表面32aの傾斜角θ5は一定である。また、駆動プーリ31の可動プーリ体33の表面のうち、少なくともVベルト39と接触する範囲(以下、「第2接触表面33a」と呼ぶ)は、平坦な形状を有する。すなわち、可動プーリ体33の軸線に垂直な平面に対する第2接触表面33aの傾斜角θ6は一定である。なお、図11では、駆動プーリ31の固定プーリ体32及び可動プーリ体33を簡略化して示している。
【0062】
<特徴>
本実施形態に係る自動二輪車1では、CVT30の減速比が最大であるときに、被駆動プーリ41の表面とVベルト39の樹脂ブロック52との接触面積が小さくなる。従って、被駆動プーリ41の表面と樹脂ブロック52との接触圧が大きくなる。これにより、CVT30の減速比が最大になるときに、被駆動プーリ41でのスティックスリップ音の発生を抑えることができる。
【0063】
また、CVT30の減速比が最大になるのは、エンジン20がアイドリング状態となっているときである。このようなスティックスリップ音が聞こえやすい状態で、スティックスリップ音の発生が抑えられるため、スティックスリップ音によるライダーの不快感を抑えることができる。
【0064】
さらに走行中には、被駆動プーリ41の内周部42a,43aとVベルト39とが接触するため、Vベルト39の樹脂ブロック52が磨耗した場合でも、樹脂ブロック52の側面は、内周部42a,43aの形状に沿った形状となる。このため、樹脂ブロック52の側面が被駆動プーリ41の外周部42b,43bと接触しない状態が維持される。従って、Vベルト39の樹脂ブロック52が磨耗した場合であっても、スティックスリップ音の発生を抑えることができる。
【0065】
また、車速が、クラッチ80の接続が完了する速度V1以上のときには、Vベルト39の側面全体が、被駆動プーリ41の表面と接触する。従って、被駆動プーリ41とVベルト39の樹脂ブロック52との接触面積が大きく確保される。このため、車速が大きいときには、被駆動プーリ41は、被駆動軸27からのトルクを確実に伝達することができる。
【0066】
また、駆動プーリ31の第1接触表面32aと第2接触表面33aとは平坦な形状を有している。従って、駆動プーリ31と樹脂ブロック52との接触面積が車速に関わらず大きく確保される。このため、駆動プーリ31は、クランク軸21からのトルクをVベルト39に確実に伝達することができる。
【0067】
また、CVT30の減速比が最大であるときに、被駆動プーリ41の表面は、外ブロック部52aとは接触しないが、連結部材53および内ブロック部52bと接触している。このため、接触面積が過度に小さくなることによりVベルト39が被駆動プーリ41に対して滑ることを抑えることができる。
【0068】
また、被駆動プーリ41および駆動プーリ31の表面に溝91が形成されることにより、Vベルト39から生じる磨耗粉が溝91に保持される。これにより、被駆動プーリ41および駆動プーリ31の表面とVベルト39との潤滑性を良好に維持することができる。また、被駆動プーリ41の溝91は、スティックスリップ音の発生要因となり得るが、本実施形態に係る自動二輪車1では、上述した被駆動プーリ41の表面の形状により、被駆動プーリ41でのスティックスリップ音の発生を抑えることができる。
【0069】
また、溝91は、旋削加工によって各プーリ31,41の表面に形成されている。このため、溝91を簡易かつ安価に実現することができる。
【0070】
また、被駆動プーリ41の第1外周部42b及び第2外周部43bの表面の湾曲した形状も、旋削加工によって形成されている。このため、第1外周部42b及び第2外周部43bの表面の湾曲した形状と溝91との加工を同時に、又は、続けて行うことができる。これにより、被駆動プーリ41の加工時の作業効率を向上させることができる。
【0071】
また、被駆動プーリ41はステンレスから形成されている。このため、第1外周部42b及び第2外周部43bの表面の湾曲した形状と溝91とを旋削加工により容易に形成することができる。また、スティックスリップ音は、アルミ製のプーリよりもステンレス製のプーリの方が発生し易い。このため、ステンレス製の被駆動プーリ41の表面が上記のように湾曲した形状とされることにより、スティックスリップ音の発生を抑えることができる。また、アルミ製の駆動プーリ31は、被駆動プーリ41のような湾曲した形状とされないことにより、駆動プーリ31の加工工程の増大を抑えることができる。
【0072】
さらに、上述したように、CVT30の減速比が最大となるのは、車速が大きいときである。そして、車速が大きいときには、ウェイトローラ34による可動プーリ体33への押付力が大きい。このため、駆動プーリ31の表面とVベルト39との接触面積が大きくなっていても、駆動プーリ31の表面とVベルト39との接触圧の低下は少ない。従って、駆動プーリ31ではスティックスリップ音は発生し難い。まして、駆動プーリ31はアルミ製なので、駆動プーリ31ではスティックスリップ音が発生し難い。さらに、たとえCVT30の減速比が最大となっているときにスティックスリップ音が発生したとしても、車速が大きい状態では、スティックスリップ音がライダーの耳に届き難い。このため、駆動プーリ31の表面が被駆動プーリ41の表面のような湾曲した形状とされなくても、ライダーにスティックスリップ音によって不快感を与えることは少ない。
【0073】
<他の実施形態>
本発明に係る無段変速装置および鞍乗型車両は、上記の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0074】
本発明に係る鞍乗型車両は、上記のような自動二輪車1に限らず、他の種類の鞍乗型車両であってもよい。例えば、スクータータイプの鞍乗型車両であってもよい。或いは、ATV(All Terrain Vehicle(全地形型車両)などの四輪バギーであってもよい。
【0075】
被駆動プーリ41の表面において湾曲が開始する位置は、減速比が最大であるときに連結部材53の中心に面する位置に限られない。すなわち、境界部42c及び境界部43cの位置は、減速比が最大であるときに連結部材53の中心に面する位置に限られない。例えば、連結部材53の中心よりも径方向における外方又は径方向における内方の位置であってもよい。
【0076】
また、本発明では、被駆動プーリ41でのVベルト39の巻き付け径が最大であるときに被駆動プーリ41の表面と外ブロック部52aの全体とが接触しないことに限られない。被駆動プーリ41の表面と外ブロック部52aの一部とが接触しないようにされてもよい。また、被駆動プーリ41の表面が、外ブロック部52a、連結部材53、および、内ブロック部52bの一部と接触しないようにされてもよい。ただし、被駆動プーリ41の表面とVベルト39との接触面積が過度に小さくなるとVベルト39が被駆動プーリ41の表面に対して滑り易くなる。このため、このようなVベルト39の滑りが生じない範囲で被駆動プーリ41の表面とVベルト39とが接触する部分が定められるとよい。
【0077】
駆動プーリ31および被駆動プーリ41の表面に溝を形成する方法としては、旋削加工以外に、研削加工などの他の切削加工であってもよい。しかし、加工の容易さの観点から、溝91を形成する方法としては旋削加工がより好ましい。また、被駆動プーリ41の表面を湾曲した形状に加工する方法についても同様に、研削加工であってもよいが、旋削加工がより好ましい。
【0078】
駆動プーリ31および被駆動プーリ41の表面の溝は、上記のような渦巻状の溝91に限定されない。例えば、各プーリ体32,33,42,43の軸心を中心とする同心円状の複数の溝が形成されてもよい。また、プーリ体32,33,42,43の全てに溝が設けられるのではなく一部のみに溝が設けられてもよい。すなわち、駆動プーリ31の固定プーリ体32と、可動プーリ体33との一方のみに溝が設けられてもよい。また、被駆動プーリ41の固定プーリ体42と可動プーリ体43との一方のみに溝が設けられてもよい。
【0079】
Vベルト39は、被駆動プーリ41の表面と接触する部分の少なくとも一部が樹脂からなるものであれば足り、必ずしも上記のような上記Vベルト39の構造に限定されない。
【0080】
被駆動プーリ41を構成する材料は、ステンレスに限らず他の鉄鋼系材料であってもよい。
【0081】
第1外周部42bの傾斜角θ2は一定であってもよい。すなわち、第1外周部42bが湾曲しているのではなく、平坦であってもよい。また、第2外周部43bの傾斜角θ4は一定であってもよい。すなわち、第2外周部43bが湾曲しているのではなく、平坦であってもよい。
【0082】
上記の実施形態において、固定プーリ体42の境界部42cは、第1内周部42aと第1外周部42bとの境界である。すなわち、境界部42cは、固定プーリ体42の表面において平坦な部分と湾曲した部分との間に位置する。ただし、第1外周部42bが平坦な形状である場合には、境界部42cは、固定プーリ体42の表面において傾斜角の異なる平坦な2つの部分の間に位置する。すなわち、境界部42cは、固定プーリ体42の表面において傾斜角が変化する部分である。同様に、可動プーリ体43の境界部43cは、第2内周部43aと第2外周部43bとの境界である。すなわち、境界部43cは、可動プーリ体43の表面において平坦な部分と湾曲した部分との間に位置する。ただし、第2外周部43bが平坦な形状である場合には、境界部43cは、可動プーリ体43の表面において傾斜角の異なる平坦な2つの部分の間に位置する。すなわち、境界部43cは、可動プーリ体43の表面において傾斜角が変化する部分である。
【0083】
第1外周部42bは、固定プーリ体42の表面のうち、境界部42cよりも径方向における外方に位置する部分の少なくとも一部に設けられればよい。すなわち、第1外周部42bは、固定プーリ体42の表面のうち、境界部42cよりも径方向における外方に位置する部分の全体ではなく、その一部であってもよい。例えば、第1外周部42bは、固定プーリ体42の表面において、境界部42cから樹脂ブロック52の幅の範囲に設けられてもよい。この場合、固定プーリ体42の表面において、境界部42cから樹脂ブロック52の幅の範囲では、どの点での接線をθ2としてもθ1よりも傾斜角が大きい。同様に、第2外周部43bは、可動プーリ体43の表面のうち、境界部43cよりも径方向における外方に位置する部分の少なくとも一部に設けられればよい。すなわち、第2外周部43bは、可動プーリ体43の表面のうち、境界部43cよりも径方向における外方に位置する部分の全体ではなく、その一部であってもよい。例えば、第2外周部43bは、可動プーリ体43の表面において、境界部43cから樹脂ブロック52の幅の範囲に設けられてもよい。この場合、可動プーリ体43の表面において、境界部43cから樹脂ブロック52の幅の範囲では、どの点での接線をθ2としてもθ1よりも傾斜角が大きい。
【0084】
上記の実施形態では、図8に示すように、車速が、クラッチ80の接続が完了する速度V1以上のときには、Vベルト39の側面全体が、被駆動プーリ41の表面と接触する。ただし、車速が速度V1以上であっても、エンジン20のスロットルの開度に応じて、Vベルト39の側面の一部のみが、被駆動プーリ41の表面と接触してもよい。例えば、図12では、スロットルの開度が大きい場合、例えば最大である場合には、実線L2aで示すように、車速とエンジン回転速度とが変化する。具体的には、速度V1までは、上記の実施形態と同様に、車速とエンジン回転速度とが変化する。クラッチ80の状態も上記の実施形態と同様である。従って、車速が速度V1に達したときに、クラッチ80の接続が完了する。ただし、図12では、車速が速度V1以上となっても、速度V2に達するまでは、概ね一点鎖線Lowで示すラインに沿ってエンジン回転速度と車速とが変化するように、CVT30が低速の状態に維持される。すなわち、車速が速度V1以上となっても、速度V2に達するまでは、Vベルト39の側面の一部のみが被駆動プーリ41の表面と接触する(図9参照)。そして、車速がV2以上になると、CVT30が高速の状態に変化する。すなわち、車速が速度V1よりも大きい速度V2以上のときには、Vベルト39の側面全体が、被駆動プーリ41の表面と接触する(図10参照)。なお、速度V2と速度V1との差は小さいことが望ましく、例えば、速度V1の1/2以下である。また、エンジン20のスロットルの開度が最大値よりも小さい所定の開度であるときには、図12において破線L2bで示すように、車速とエンジン回転速度とが変化する。この場合は、上記の実施形態と同様に、車速が速度V1以上のときに、CVT30が高速の状態となり、Vベルト39の側面全体が、被駆動プーリ41の表面と接触する(図10参照)。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、スティックスリップ音によるライダーの不快感を抑えることができる効果を有し、無段変速装置および鞍乗型車両として有用である。
【符号の説明】
【0086】
21 クランク軸(駆動軸)
31 駆動プーリ
32 固定プーリ体
33 可動プーリ体
27 被駆動軸
41 被駆動プーリ
42 固定プーリ体
43 可動プーリ体
42a 第1内周部
42b 第1外周部
43a 第2内周部
43b 第2外周部
52 樹脂ブロック
39 Vベルト
91 溝
30 CVT(無段変速装置)
53 連結部材
52a 外ブロック部
52b 内ブロック部
1 自動二輪車(鞍乗型車両)
80 クラッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と、
前記駆動軸に設けられる駆動プーリと、
前記駆動軸から離れて配置される被駆動軸と、
前記被駆動軸の軸線方向に移動可能な可動プーリ体と、前記被駆動軸の軸線方向に移動不可能な固定プーリ体と、を有し、前記被駆動軸に設けられる被駆動プーリと、
前記駆動プーリと前記被駆動プーリとに接触する複数の樹脂ブロックを有し、前記駆動プーリと前記被駆動プーリとに巻き付けられるVベルトと、
を備え、
前記可動プーリ体及び前記固定プーリ体は、前記Vベルトに接触する表面を有し、
前記可動プーリ体の前記表面及び前記固定プーリ体の前記表面のうち少なくとも一方には、周方向に延びる1又は複数の溝が設けられており、
前記固定プーリ体は、第1内周部と、前記第1内周部の径方向における外方に配置される第1外周部とを有し、前記固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する前記第1外周部の表面の傾斜角は、前記固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する前記第1内周部の表面の傾斜角よりも大きく、
前記可動プーリ体は、第2内周部と、前記第2内周部の径方向における外方に配置される第2外周部とを有し、前記可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する前記第2外周部の表面の傾斜角は、前記可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する前記第2内周部の表面の傾斜角よりも大きく、
減速比が最大であるときに、前記Vベルトの一方の側面である第1側面は、前記第1内周部と接触し且つ前記第1外周部と非接触であり、前記Vベルトの他方の側面である第2側面は、前記第2内周部と接触し且つ前記第2外周部と非接触である、
無段変速装置。
【請求項2】
前記被駆動軸からのトルクの伝達及び遮断を切り換えるクラッチをさらに備え、
前記クラッチは、前記被駆動軸の回転速度の増大に応じて、非接続状態から接続状態へと切り換わり、
前記クラッチの非接続状態から接続状態への切換が完了したときには、前記Vベルトの前記第1側面の全体が前記第1内周部に接触し、前記Vベルトの前記第2側面の全体が前記第2内周部に接触している、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項3】
前記駆動プーリは、前記駆動軸の軸線方向に移動可能な可動プーリ体と、前記駆動軸の軸線方向に移動不可能な固定プーリ体と、を有し、
前記駆動プーリの固定プーリ体の表面のうち、少なくとも前記Vベルトと面する範囲において、前記駆動プーリの固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する傾斜角は一定であり、
前記駆動プーリの可動プーリ体の表面のうち、少なくとも前記Vベルトと面する範囲において、前記駆動プーリの可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する傾斜角は一定である、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項4】
前記Vベルトは、前記樹脂ブロックを連結する連結部材をさらに有し、
前記樹脂ブロックは、前記Vベルトが前記被駆動プーリに巻き付けられた状態で、前記連結部材に対して径方向における外方に位置する外ブロック部と、前記連結部材に対して径方向における内方に位置する内ブロック部と、を有し、
減速比が最大であるときに、前記被駆動プーリは、前記外ブロック部の少なくとも一部と接触しない、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項5】
減速比が最大であるときに、前記連結部材の一方の側面は、前記第1内周部と前記第1外周部との間の境界部に面しており、且つ、前記連結部材の他方の側面は、前記第2内周部と前記第2外周部との間の境界部に面している、
請求項4に記載の無段変速装置。
【請求項6】
減速比が最大であるときに、前記被駆動プーリは、前記内ブロック部に接触している、
請求項4に記載の無段変速装置。
【請求項7】
前記第1外周部は、前記固定プーリ体に垂直な平面に対する傾斜角が径方向における外方ほど大きくなるように、湾曲した形状を有し、
前記第2外周部は、前記可動プーリ体に垂直な平面に対する傾斜角が径方向における外方ほど大きくなるように、湾曲した形状を有する、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項8】
前記被駆動プーリの前記溝は、旋削加工によって形成される、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項9】
前記被駆動プーリの前記第1外周部及び前記第2外周部は、旋削加工によって形成される、
請求項8に記載の無段変速装置。
【請求項10】
前記被駆動プーリは鉄鋼系材料から形成される、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項11】
請求項1に記載の無段変速装置を備える鞍乗型車両。
【請求項1】
駆動軸と、
前記駆動軸に設けられる駆動プーリと、
前記駆動軸から離れて配置される被駆動軸と、
前記被駆動軸の軸線方向に移動可能な可動プーリ体と、前記被駆動軸の軸線方向に移動不可能な固定プーリ体と、を有し、前記被駆動軸に設けられる被駆動プーリと、
前記駆動プーリと前記被駆動プーリとに接触する複数の樹脂ブロックを有し、前記駆動プーリと前記被駆動プーリとに巻き付けられるVベルトと、
を備え、
前記可動プーリ体及び前記固定プーリ体は、前記Vベルトに接触する表面を有し、
前記可動プーリ体の前記表面及び前記固定プーリ体の前記表面のうち少なくとも一方には、周方向に延びる1又は複数の溝が設けられており、
前記固定プーリ体は、第1内周部と、前記第1内周部の径方向における外方に配置される第1外周部とを有し、前記固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する前記第1外周部の表面の傾斜角は、前記固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する前記第1内周部の表面の傾斜角よりも大きく、
前記可動プーリ体は、第2内周部と、前記第2内周部の径方向における外方に配置される第2外周部とを有し、前記可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する前記第2外周部の表面の傾斜角は、前記可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する前記第2内周部の表面の傾斜角よりも大きく、
減速比が最大であるときに、前記Vベルトの一方の側面である第1側面は、前記第1内周部と接触し且つ前記第1外周部と非接触であり、前記Vベルトの他方の側面である第2側面は、前記第2内周部と接触し且つ前記第2外周部と非接触である、
無段変速装置。
【請求項2】
前記被駆動軸からのトルクの伝達及び遮断を切り換えるクラッチをさらに備え、
前記クラッチは、前記被駆動軸の回転速度の増大に応じて、非接続状態から接続状態へと切り換わり、
前記クラッチの非接続状態から接続状態への切換が完了したときには、前記Vベルトの前記第1側面の全体が前記第1内周部に接触し、前記Vベルトの前記第2側面の全体が前記第2内周部に接触している、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項3】
前記駆動プーリは、前記駆動軸の軸線方向に移動可能な可動プーリ体と、前記駆動軸の軸線方向に移動不可能な固定プーリ体と、を有し、
前記駆動プーリの固定プーリ体の表面のうち、少なくとも前記Vベルトと面する範囲において、前記駆動プーリの固定プーリ体の軸線に垂直な平面に対する傾斜角は一定であり、
前記駆動プーリの可動プーリ体の表面のうち、少なくとも前記Vベルトと面する範囲において、前記駆動プーリの可動プーリ体の軸線に垂直な平面に対する傾斜角は一定である、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項4】
前記Vベルトは、前記樹脂ブロックを連結する連結部材をさらに有し、
前記樹脂ブロックは、前記Vベルトが前記被駆動プーリに巻き付けられた状態で、前記連結部材に対して径方向における外方に位置する外ブロック部と、前記連結部材に対して径方向における内方に位置する内ブロック部と、を有し、
減速比が最大であるときに、前記被駆動プーリは、前記外ブロック部の少なくとも一部と接触しない、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項5】
減速比が最大であるときに、前記連結部材の一方の側面は、前記第1内周部と前記第1外周部との間の境界部に面しており、且つ、前記連結部材の他方の側面は、前記第2内周部と前記第2外周部との間の境界部に面している、
請求項4に記載の無段変速装置。
【請求項6】
減速比が最大であるときに、前記被駆動プーリは、前記内ブロック部に接触している、
請求項4に記載の無段変速装置。
【請求項7】
前記第1外周部は、前記固定プーリ体に垂直な平面に対する傾斜角が径方向における外方ほど大きくなるように、湾曲した形状を有し、
前記第2外周部は、前記可動プーリ体に垂直な平面に対する傾斜角が径方向における外方ほど大きくなるように、湾曲した形状を有する、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項8】
前記被駆動プーリの前記溝は、旋削加工によって形成される、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項9】
前記被駆動プーリの前記第1外周部及び前記第2外周部は、旋削加工によって形成される、
請求項8に記載の無段変速装置。
【請求項10】
前記被駆動プーリは鉄鋼系材料から形成される、
請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項11】
請求項1に記載の無段変速装置を備える鞍乗型車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−106667(P2011−106667A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195532(P2010−195532)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
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