説明

無線通信装置およびこれを用いた車車間通信システム

【課題】PIAAが用いられる受信方式と用いられない受信方式の何れかを、状況に応じて適切に採用することが可能となる無線通信装置を提供する。
【解決手段】特定の周波数帯を用いて送信された所望信号を無線受信する無線通信装置であって、該特定の周波数帯に隣接した周波数帯についての受信電力を検出する受信状況検出部と、該検出の結果に基づいて、前記無線受信の方式を、PIAAが用いられるPIAA受信方式と、PIAAが用いられない非PIAA受信方式と、の何れかに設定する受信方式設定部と、を備えた無線通信装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を行う無線通信装置、およびこれを用いた車車間通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
交通事故の抑制などを目的として、2012年頃を目処に、車車間通信システムのサービス開始が予定されている。車車間通信システムは、ITS[Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム]を構築するため、走行中の車同士で位置情報などの交換を可能とするものである。これにより、周辺の他の車の走行状況が把握されるため、衝突事故などを極力回避することが可能となる。
【0003】
なお、車車間通信システムで使用される周波数帯としては、図8に示すように、715〜725MHzの周波数帯が予定されている。また、車車間通信システムの使用周波数帯の低域側は、5MHzのガードバンドを挟んで、地上デジタルテレビジョン放送(以下「DTV放送」と称すことがある)システムの使用周波数帯が隣接しており、同じく高域側には、5MHzのガードバンドを挟んで、電気通信システム(上り回線)の使用周波数帯が隣接している。
【0004】
このように、車車間通信システムの使用周波数帯の両端には、他システムの使用周波数帯が近接している。そのため、これらの他システムから受ける干渉波(被干渉)によって、車車間通信システムの受信性能が劣化するということが懸念される。
【0005】
一般的に干渉波の抑圧に関しては、従来、アダプティブアレイアンテナの技術が有効とされてきた。また非特許文献2や非特許文献3には、パワーインバージョンアダプティブアレイ(PIAA)についての言及がなされている。PIAAによれば、干渉波の電力に応じてアダプティブアレイアンテナの指向性を制御し、干渉波に対してヌルを形成することによって、被干渉を効果的に抑圧することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−271240号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】菊間信良著,「アダプティブアンテナ技術」,第1版,株式会社オーム社,平成15年10月10日,p.35−37
【非特許文献2】菊間信良著,「アダプティブアンテナ技術」,第1版,株式会社オーム社,平成15年10月10日,p.85−90
【非特許文献3】笹岡秀一著,「移動通信」,第1版,株式会社オーム社,平成10年5月25日,p.291−293
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したPIAAを用いれば、車車間通信システムのように、他システムが近接している無線通信システムであっても、他システムによる被干渉を効果的に抑圧することが可能と考えられる。しかしながらPIAAの性質上、干渉波の電力が比較的小さい状況下では、PIAAが用いられることによって、却って受信品質が低下することがある。そのためこのような状況では、PIAAが用いられないことが望ましい。
【0009】
本発明は上述した問題点に鑑みて、PIAAが用いられる受信方式と用いられない受信方式の何れかを、状況に応じて適切に採用することが可能となる無線通信装置、および車車間通信システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る無線通信装置は、特定の周波数帯を用いて送信された所望信号を無線受信する無線通信装置であって、該特定の周波数帯に隣接した周波数帯についての受信電力(「干渉波電力」とする)を検出する受信状況検出部と、該検出の結果に基づいて、前記無線受信の方式を、PIAAが用いられるPIAA受信方式と、PIAAが用いられない非PIAA受信方式と、の何れかに設定する受信方式設定部と、を備えた構成とする。
【0011】
本構成によれば、干渉波電力に応じて、無線受信の方式が、PIAA受信方式と非PIAA受信方式の何れかに設定される。そのため、PIAAが用いられる受信方式と用いられない受信方式の何れかを、状況に応じて適切に採用することが可能となる。
【0012】
また上記構成としてより具体的には、前記受信状況検出部は、前記特定の周波数帯についての受信電力(「希望波電力」とする)をも検出し、前記受信方式設定部は、希望波電力と干渉波電力との比を算出し、該算出の結果に基づいて、前記無線受信の方式を、PIAA受信方式と非PIAA受信方式の何れかに設定する構成としてもよい。
【0013】
また上記構成としてより具体的には、前記所望信号は、車車間通信を行うための信号であり、前記隣接した周波数帯の一つは、該車車間通信システムの使用周波数帯と、地上デジタル放送システムの使用周波数帯との間に介在するガードバンドである構成としてもよい。
【0014】
また上記構成としてより具体的には、前記所望信号は、車車間通信を行うための信号であり、前記隣接した周波数帯の一つは、該車車間通信システムの使用周波数帯と、電気通信システムの使用周波数帯との間に介在するガードバンドである構成としてもよい。
【0015】
また上記構成としてより具体的には、前記非PIAA受信方式は、複数のアンテナ素子を用いるダイバーシティ受信方式、または、単一のアンテナ素子を用いるシングル受信方式である構成としてもよい。
【0016】
また本発明に係る車車間通信システムは、上記構成の無線通信装置を複数有し、該無線通信装置の各々は、互いに715MHzから725MHzまでの周波数帯を用いた車車間通信を実行する構成とする。
【0017】
本構成によれば、地上デジタル放送システム、もしくは電気通信システムによる被干渉
を抑圧し、良好な車車間通信を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
上述した通り、本発明に係る無線通信装置によれば、干渉波電力に応じて、無線受信の方式が、PIAA受信方式と非PIAA受信方式の何れかに設定される。そのため、PIAAが用いられる受信方式と用いられない受信方式の何れかを、状況に応じて適切に採用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る無線通信装置の構成図である。
【図2】当該無線通信装置の使用状態に関する説明図である。
【図3】当該無線通信装置における他車情報受信部の構成図である。
【図4】当該他車情報受信部におけるRF信号処理部の構成図である。
【図5】当該他車情報受信部におけるRF信号処理部の別の構成図である。
【図6】本実施形態に係る各フィルタのフィルタ特性に関する説明図である。
【図7】当該無線通信装置におけるデジタル信号処理部の構成図である。
【図8】車車間通信システム等の使用周波数帯に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、車車間通信を実行する無線通信装置を例に挙げ、以下に説明する。当該無線通信装置は、四輪自動車などの車に搭載されて使用されるものであり、車車間通信、すなわち、自機を搭載した車(自車)の走行状況等を表す自車情報の送信や、自車の近くを走行する他の車(他車)の走行状況等を表す他車情報の受信などを実行する。
【0021】
何れかの無線通信装置が自車情報を送信すると、他の無線通信装置は、当該情報を他車情報として受信することになる。なお車車間通信システムの使用周波数帯は、715MHzから725MHzまでの周波数帯となっている。
【0022】
図1は、当該無線通信装置の構成図である。本図に示すように、無線通信装置9は、他車情報受信部1、自車情報送信部2、演算制御部3、走行状況検出部4、および情報表示部5などを備えている。また無線通信装置9は、図2に示すように、各車両9aに1台ずつ搭載されて用いられる。
【0023】
他車情報受信部1は、アンテナを介して、外部から他車情報の信号を受信する。そして当該信号に所定の処理を施して、演算制御部3に伝送する。他車情報受信部1のより詳細な構成や動作内容等については、改めて説明する。
【0024】
自車情報送信部2は、演算制御部3から受取った自車情報の信号に、変調処理(例えば、OFDM変調)等を施し、アンテナを用いて、この信号を外部(他車に搭載された無線通信装置)に向けて送信する。なお、自車情報送信部2で用いられるアンテナは、他車情報受信部1で用いられるアンテナと共通になっていても構わない。
【0025】
演算制御部3は、例えばCPUによって形成されており、各種情報に基づいた演算や、無線通信装置9における各部の制御を行う。これにより、無線通信装置9の機能を発揮するために必要な各種処理が実行される。例えば演算制御部3は、他車情報受信部1から受取った他車情報、および走行状況検出部4の検出結果に基づいて、他車や自車の走行状況等を情報表示部5に表示させる。また演算制御部3は、走行状況検出部4の検出結果に基づいて自車情報を生成し、この自車情報を自車情報送信部2に送出する。
【0026】
走行状況検出部4は、GPSシステムや加速度センサなどを備えており、演算制御部3の指示に応じて、自車の走行状況に関わる各種の情報を検出する。なお、検出される情報としては、自車の走行速度や現在位置の情報などが挙げられる。これらの情報が、自車情報に含まれることとなる。
【0027】
情報表示部5は、ディスプレイを備えており、演算制御部3の指示に応じて、自車および他車の走行状況に関わる情報を表示する。より具体的には、自車および他車の現在位置を示す地図情報や、走行速度および走行方向を示す文字情報などを表示する。これにより運転者は、例えば衝突事故のおそれがある危険な状況を、事前に察知して回避することができ、より安全な運転を行うことが可能となる。またこれらの走行状況に関わる情報が、音声等として出力されるようにしても構わない。
【0028】
次に、他車情報受信部1のより詳細な構成について、図3などを参照しながら、以下に説明する。図3に示すように、他車情報受信部1は、アンテナ10、RF信号処理部11、A/D変換部12、LPF[Low Pass Filter]13、BPF[Band Pass Filter]14、ウェイト乗算器15、ウェイト制御部16、加算器17、LPF18、受信方式制御部19、およびデジタル信号処理部20などを備えている。
【0029】
なお、他車情報受信部1における前段の部分(アンテナ10からウェイト乗算器15まで)は、複数の系列(ここでは図3に示すように、第1系列と第2系列)からなっているが、それぞれ同等の構成となっている。また本実施形態では2系列が設けられているが、3系列以上が設けられるようにしても良い。
【0030】
RF信号処理部11は、図4に示すように、RFフィルタ31、LNA[Low Noise Amplifier]32、RFフィルタ33、ミキサ34、およびLPF35を有している。アンテナ10によって受取られたRF[Radio Frequency]信号(他車情報を含む信号)は、RFフィルタ31(挿入損の小さい、比較的緩いフィルタ)を通った後、LNA32によって増幅され、さらにRFフィルタ33(比較的急峻なフィルタ)を通る。
【0031】
なおこれらのRFフィルタ(31、33)は、希望波成分C(車車間通信システムの使用周波数帯の成分)以外の成分が減衰するようなフィルタ特性を有している。しかし、DTV放送システムや電気通信システムの電波が強いような場合は、これらの電波が干渉波としてガードバンドに漏れ込むことがある。その結果、干渉波成分I(ガードバンドの成分)が除去されきれずにRFフィルタ(31、33)を通過し、後段側に伝送されることがある。
【0032】
そしてRFフィルタ33を通過した信号は、ミキサ34による周波数変換処理によってBB信号に変換され、LPF35によってフィルタ処理がなされる。このようにしてRF信号処理部11は、アンテナ10によって受取られたRF信号をBB信号に変換する。なお上述したRF信号処理部11の構成は、ダイレクトコンバージョンの手法が適用された場合の構成例であり、スーパーヘテロダインの手法が適用された場合の構成例は、図5に示す通りとなる。
【0033】
すなわちRF信号処理部11は、RFフィルタ31、LNA32、RFフィルタ33、ミキサ34、IFフィルタ36、およびミキサ37を有する。アンテナ10によって受取られたRF信号は、RFフィルタ31(挿入損の小さい、比較的緩いフィルタ)を通った後、LNA32によって増幅され、さらにRFフィルタ33(比較的急峻なフィルタ)を通る。
【0034】
そしてRFフィルタ33を通過した信号は、ミキサ34による周波数変換処理によってIF(中間周波数)信号に変換され、IFフィルタ36によってフィルタ処理がなされた後、ミキサ37による周波数変換処理によってBB信号に変換されることになる。なお、ダイレクトコンバージョンおよびスーパーヘテロダインの何れの手法が用いられる場合も、BB信号は、IとQの信号(I軸とQ軸の信号)として生成される。
【0035】
図3に戻り、A/D変換部12は、RF信号処理部11から伝送されたアナログ信号(BB信号)を、デジタル信号に変換する。変換されたBB信号は、LPF13、BPF14、およびウェイト乗算器15の各々に伝送される。
【0036】
LPF13は、伝送されてきたBB信号から希望波成分Cのみを抜き出すための、デジタルフィルタである。LPF13によって抜き出された希望波成分Cは、受信方式制御部19およびデジタル信号処理部20に伝送される。またBPF14は、伝送されてきたBB信号から干渉波成分Iのみを抜き出すための、デジタルフィルタである。BPF14によって抜き出された干渉波成分Iは、ウェイト制御部16および受信方式制御部19に伝送される。
【0037】
ここで、BB信号について、正の周波数および負の周波数の概念を用いた周波数配置は、図6に示す通りとなる。車車間通信システムの使用周波数帯の低域側は、ガードバンドを介して、DTV放送システムの使用周波数帯が隣接しており、同じく高域側は、ガードバンドを介して、電気通信システム(上り回線)の使用周波数帯が隣接している。なお現実の世界では、負の周波数は折り返されて、正の周波数に重なっている。
【0038】
そしてLPF13のフィルタ特性は、概ね、図6にCLPFで示す通りとなり、BPF14のフィルタ特性は、概ね、図6にCBPFで示す通りとなる。LPF13およびBPF14は、それぞれ、実数係数のFIRフィルタ等をIとQの信号に適用することで、このようなフィルタ特性を実現し、希望波成分Cおよび干渉波成分Iを抜き出すことができる。
【0039】
ウェイト制御部16は、各系列のBPF14から伝送された干渉波成分Iに基づいて、干渉波成分Iを最小にするように、各系列に対するウェイト(係数)を決定する。より具体的には、パワーインバージョンアダプティブアレイ(PIAA)(非特許文献2及び3参照)に従って、例えば、以下の評価関数J1が最小となるように、各ウェイトが決定される。
1=E[α|0−wHX|2+β|0−wHY|2
なお、Xは、高域側のガードバンド信号(干渉波成分I)のベクトルを、Yは、低域側のガードバンド信号(干渉波成分I)のベクトルを、wは、求めるウェイトベクトルを、それぞれ表している。
【0040】
また上式における、αとβは、それぞれ定数を表している。例えば、α=1、β=0とするときは、車車間通信システムの使用周波数帯域(715MHz〜725MHz)の高域側に隣接するガードバンド(725MHz〜730MHz)の信号の2乗の期待値である評価関数J1が最小になるようにウェイトが決定され、車車間通信システムの使用周波数帯域(715MHz〜725MHz)の高域側に隣接するガードバンド帯域(725MHz〜730MHz)の信号電力が最小となる。
【0041】
なおウェイトを決定する処理においては、第1系列に対するウェイトの初期値をW1(=1+j0)、第2系列に対するウェイトの初期値をW2(=1+j0)としておくとともに、W1を固定(拘束条件)とし、W2のみを変化させるようにしても構わない。また決定された各ウェイトは、対応する系列のウェイト乗算器15に伝送されることとなる。
【0042】
ウェイト乗算器15は、A/D変換部12から伝送されたBB信号と、ウェイト制御部16から伝送されたウェイトとを乗算する。また加算器17は、各ウェイト乗算器15の出力を加算して合成し、LPF18に伝送する。
【0043】
LPF18は、LPF13と同等の機能を有するデジタルフィルタであり、加算器17から伝送された信号から希望波成分Cのみを抜き出す。LPF18によって抜き出された希望波成分Cは、デジタル信号処理部20に伝送される。
【0044】
受信方式制御部19は、各系列のLPF13から伝送された希望波成分Cと、各系列のBPF14から伝送された干渉波成分Iの電力を検出する。なお希望波成分Cの電力は、車車間通信システムの使用周波数帯についての受信電力を、干渉波成分Iの電力は、ガードバンドについての受信電力を、それぞれ表していると言える。そして受信方式制御部19は、これらの検出結果に基づいて、他車情報受信部1における受信動作の方式(受信方式)を設定する。
【0045】
より具体的には、希望波成分Cと干渉波成分Iとの電力の比(CIR)が、所定の閾値より小さい場合は、受信方式を、PIAAを用いたもの(PIAA受信方式)に設定する。逆に、CIRが、所定の閾値より大きい場合は、受信方式を、PIAAを用いないもの(非PIAA受信方式)に設定する。
【0046】
なお、CIRの大きさだけでなく、CIRもしくは干渉波成分Iの時間的変化の度合も考慮して、受信方式が決定されるようにしても良い。例えば、CIRが所定の閾値より小さく、かつ、CIRの時間的変化が所定条件よりも緩やかである場合には、受信方式がPIAA受信方式に設定され、そうでない場合は、受信方式が非PIAA受信方式に設定されるようにしても良い。
【0047】
また、希望波成分Cの電力を考慮せずに、受信方式が決定されるようにしても良い。例えば、干渉波成分Iの電力が所定の閾値より大きい場合に、受信方式がPIAA受信方式に設定され、そうでない場合は、受信方式が非PIAA受信方式に設定されるようにしても良い。この手法が採用される場合は、希望波成分Cの電力を検出するための装置や処理を、省略することが可能である。
【0048】
また受信方式制御部19は、現在設定されている受信方式を実現させるための制御信号を、デジタル信号処理部20に送出する。これによりデジタル信号処理部20は、以下に説明するように、現在設定されている受信方式に応じた動作を実行する。
【0049】
デジタル信号処理部20は、図7に示すように、同期処理部(41a〜41c)、伝送路推定処理部42、デインタリーブ処理部43、およびビタビ復号処理部44等を備えている。
【0050】
そしてPIAA受信方式の設定時において、同期処理部41aは、LPF18から出力された信号を受取る。一方、非PIAA受信方式の設定時においては、同期処理部41bは、第1系列のLPF13から出力された信号を受取り、同期処理部41cは、第2系列のLPF13から出力された信号を受取る。
【0051】
そして何れの同期処理部(41a〜41c)も、受取った信号に対して、AGC[Automatic Gain Control]制御、パケット検出、シンボル同期、および周波数同期などの処理を実行する。また同期処理部(41a〜41c)は、これらの処理を実行した後、高速フーリエ変換によって、時間軸信号を周波数軸信号に変換する処理をも実行し、変換後の信号を、伝送路推定処理部42に送出する。
【0052】
伝送路推定処理部42は、PIAA受信方式の設定時においては、同期処理部41aから送出された信号に関して、伝送路推定およびと等化の処理を実行する。その後、当該信号は後段側に送出される。また伝送路推定処理部42は、非PIAA受信方式の設定時においては、同期処理部41bおよび同期処理部41cから送出された各信号に関して、伝送路推定、等化、および最大比合成(ダイバーシティ受信方式を実現するためのもの)の処理を実行する。その後、当該信号は後段側に送出される。
【0053】
デインタリーブ処理部43は、伝送路推定処理部42から送出された信号(他車情報の送信側においてインタリーブが施されている)に対して、デインタリーブを施した後、当該信号を後段側に送出する。またビタビ復号処理部44は、デインタリーブ処理部43から送出された信号(送信側において畳み込み符号化が施されている)に対して、ビタビ復号を施した後、当該信号を演算制御部3に送出する。その結果、演算制御部3は、他車情報を取得することが可能となる。
【0054】
上述した構成の他車情報受信部1によれば、干渉波の受信電力が比較的高い状況(つまり、PIAAの適用が好ましい状況)では、被干渉を効果的に抑圧し得るPIAAを用いて、他車情報の受信が実現される。その一方で、干渉波の受信電力が比較的低い状況(つまり、PIAAの適用が好ましくない状況)では、PIAA以外の受信方式によって、他車情報の受信が実現される。このように無線通信装置9においては、そのときの電波受信状況に応じて、適切な受信動作の方式が自動的に決定されて、採用されることになる。
【0055】
また、受信方式が非PIAA受信方式に設定されている場合、他車情報受信部1は、複数のアンテナ素子を用いるダイバーシティ受信方式による受信動作を実行するようになっているが、これ以外の方式によって受信動作が実行されるようにしても構わない。例えば、単一のアンテナ素子を用いるシングル受信方式によって、受信動作が実行されるようにしても構わない。この場合、シングル受信方式による受信動作が実現されるように、デジタル信号処理部20などが構成される。
【0056】
一般的に、ダイバーシティ受信方式とシングル受信方式とを比較すると、ダイバーシティ受信方式は、受信品質の面で優れており、シングル受信方式は、省電力の面で優れているといえる。従って製品設計等の段階において、受信品質を重視する場合は、非PIAA受信方式をダイバーシティ受信方式とし、省電力を重視する場合は、非PIAA受信方式をシングル受信方式とすれば良い。また同一の無線受信装置9において、ダイバーシティ受信方式の機能とシングル受信方式の機能の両方を備えるようにしておき、非PIAA受信方式として何れの受信方式を採用するかが、ユーザによって指定可能であるようにしても良い。
【0057】
なお無線通信装置9では、ガードバンドに干渉波の漏れ込みがある場合に、この漏れ込みの度合に応じて、受信方式が適切に設定されるようになっている。ここで、ガードバンドに希望波成分Cの漏れ込みがある場合を想定すると、希望波成分Cの電力レベルは、干渉波成分Iの電力レベルより十分大きいと考えられるため、希望波成分Cと干渉波成分Iとの電力の比(CIR)も比較的大きくなり、受信方式は非PIAA方式に設定されることとなる。このように、無線通信装置9では、ガードバンドに希望波成分Cの漏れ込みがある場合であっても、受信方式を適切に設定することが可能となっている。
【0058】
以上に説明した通り、無線通信装置9は、715〜725MHzの周波数帯を用いて送信された車車間通信を行うための信号を無線受信するものであって、当該周波数帯に隣接した各ガードバンドについての受信電力(干渉波成分Iの電力=干渉波電力)、および、当該周波数帯についての受信電力(希望波成分Cの電力=希望波電力)を検出する機能部(受信状況検出部)と、希望波電力と干渉波電力との比を算出し、該算出の結果に基づいて、車車間通信における無線受信の方式を、PIAA受信方式と非PIAA受信方式の何れかに設定する機能部(受信方式設定部)を備えている。
【0059】
そのため無線通信装置9によれば、PIAAが用いられる受信方式と用いられない受信方式の何れかを、状況に応じて適切に採用することが可能となっている。つまり、干渉波電力が比較的大きい場合に、PIAAが用いられる受信方式が採用され、そうでない場合は、PIAAが用いられない受信方式が採用されるようになっている。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの内容に限定されるものではない。また本発明の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない限り、種々の改変を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、車車間通信を行う無線通信装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 他車情報受信部
2 自車情報送信部
3 演算制御部
4 走行状況検出部
5 情報表示部
9 無線通信装置
9a 車両
11 RF信号処理部
12 A/D変換部
13 LPF
14 BPF
15 ウェイト乗算器
16 ウェイト制御部
17 加算器
18 LPF
19 受信方式制御部
20 デジタル信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の周波数帯を用いて送信された所望信号を無線受信する無線通信装置であって、
該特定の周波数帯に隣接した周波数帯についての受信電力(「干渉波電力」とする)を検出する受信状況検出部と、
該検出の結果に基づいて、前記無線受信の方式を、PIAAが用いられるPIAA受信方式と、PIAAが用いられない非PIAA受信方式と、の何れかに設定する受信方式設定部と、
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記受信状況検出部は、
前記特定の周波数帯についての受信電力(「希望波電力」とする)をも検出し、
前記受信方式設定部は、
希望波電力と干渉波電力との比を算出し、該算出の結果に基づいて、前記無線受信の方式を、PIAA受信方式と非PIAA受信方式の何れかに設定することを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記所望信号は、車車間通信を行うための信号であり、
前記隣接した周波数帯の一つは、該車車間通信システムの使用周波数帯と、地上デジタル放送システムの使用周波数帯との間に介在するガードバンドであることを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記所望信号は、車車間通信を行うための信号であり、
前記隣接した周波数帯の一つは、該車車間通信システムの使用周波数帯と、電気通信システムの使用周波数帯との間に介在するガードバンドであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記非PIAA受信方式は、
複数のアンテナ素子を用いるダイバーシティ受信方式、または、単一のアンテナ素子を用いるシングル受信方式であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の無線通信装置。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載の無線通信装置を複数有し、
該無線通信装置の各々は、互いに715MHzから725MHzまでの周波数帯を用いた車車間通信を実行することを特徴とする車車間通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−288097(P2010−288097A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140665(P2009−140665)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】