説明

無線通信装置及び無線通信装置を備えた空気入りタイヤ

【課題】空気入りタイヤの内部に無線通信装置が設置された場合でも、空気入りタイヤが弾性変形を繰り返すことによる故障の発生を抑制できる無線通信装置、及び当該無線通信装置を備えた空気入りタイヤの提供。
【解決手段】本発明に係る無線通信装置100は、無線信号を送信または受信し、板状の金属により形成されるアンテナ10を備え、空気入りタイヤの内部に設置され、アンテナ10には、所定方向に沿って延びる複数の切り込みが形成される。切り込みは、アンテナ10の端部12から切り込まれ、アンテナ10内で終端する複数の端部切り込み20及び、端部切り込み30と、両端がアンテナ10内で終端する複数の内部切り込み40とを含む。アンテナ10は、アンテナ10が所定方向に対して、略垂直方向に引き延ばされた状態で設置されることを要旨とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号を送信または受信し、板状の金属により形成されるアンテナを備え、空気入りタイヤの内部に設置される無線通信装置及び無線通信装置を備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤに充填された空気の内圧や、空気入りタイヤ内部の温度を監視するため、その内部、例えば、サイドウォール部に、センサーモジュールや無線通信機によって構成される無線通信装置を貼り付ける、或いは、埋め込む方法が広く用いられている。
【0003】
このような無線通信装置には、無線信号を送信又は受信するアンテナが備えられる。アンテナを低弾性の樹脂で保護し、サイドウォール部に埋め込むもしくは貼り付ける方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−323339号公報(第5頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような空気入りタイヤにおいて、アンテナは、低弾性の樹脂層により保護されても、空気入りタイヤの転動に伴って、サイドウォール部が弾性変形を繰り返すことにより、樹脂が破断及びアンテナが破断してしまう問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、空気入りタイヤの内部に無線通信装置が設置された場合でも、空気入りタイヤが弾性変形を繰り返すことによる故障の発生を抑制できる無線通信装置、及び当該無線通信装置を備えた空気入りタイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有している。まず、本発明の第1の特徴は、無線信号を送信または受信し、金属の薄板により形成される少なくとも1つのアンテナ(例えば、アンテナ10)を備え、空気入りタイヤ(空気入りタイヤ1)の内部に設置される無線通信装置(例えば、無線通信装置100)であって、前記アンテナには、少なくとも所定方向(例えば、タイヤ径方向D)に沿って延びる複数の切り込みが形成され、切り込みは、前記アンテナの端部(例えば、端部12、端部14)から切り込まれ、前記アンテナ内で終端する複数の端部切り込み(例えば、端部切り込み20及び端部切り込み30)を含み、隣接する前記切り込みは、少なくとも一部がオーバーラップするように形成され、前記アンテナは、前記所定方向に対して、略垂直方向(例えば、タイヤ周方向R)に引き延ばされた状態で設置されることを要旨とする。
【0008】
このような、無線通信装置によれば、アンテナには、所定方向に沿って延びる複数の切り込みが形成される。切り込みには、アンテナの端部から切り込まれる複数の端部切り込みが含まれ、隣接する切り込みは、少なくとも一部がオーバーラップするように形成される。つまり、アンテナには、当該略垂直方向に沿って連続する部分が無くなる。このため、アンテナは、当該略垂直方向に伸縮可能となる。更に、アンテナは、所定方向に対して、略垂直方向に引き延ばされた状態で設置されるため、当該略垂直方向に沿って伸縮しやすい状態で設置される。
【0009】
つまり、空気入りタイヤが、当該略垂直方向に沿って、弾性変形を繰り返す場合、アンテナは、空気入りタイヤの弾性変形量に追従できる。従って、空気入りタイヤが弾性変形を繰り返すことによる無線通信装置の故障の発生を抑制できる。
【0010】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記切り込みは、両端が前記アンテナ内で終端する複数の内部切り込み(例えば、内部切り込み40)を含むことを要旨とする。
【0011】
本発明の第3の特徴は、本発明の第1又は2の特徴に係り、隣接する前記切り込みの間隔(間隔P)は、略同一であり、前記切り込みの長さ(長さL)は、略同一であることを要旨とする。
【0012】
本発明の第4の特徴は、本発明の第1乃至3の何れか一つの特徴に係り、前記無線通信装置は、前記空気入りタイヤのサイドウォール部(サイドウォール部3)に設けられ、前記所定方向は、タイヤ径方向(タイヤ径方向D)であることを要旨とする。
【0013】
本発明の第5の特徴は、本発明の第1乃至4の何れか一つの特徴に係り、前記無線通信装置の表面は、被覆材によってコーティングされることを要旨とする。
【0014】
本発明の第6の特徴は、無線信号を送信または受信し、板状の金属により形成されるアンテナ(アンテナ10)を備えた無線通信装置(無線通信装置100)が内部に設置された空気入りタイヤ(空気入りタイヤ1)であって、前記アンテナには、所定方向に沿って延びる複数の切り込みが形成され、切り込みは、前記アンテナの端部(例えば、端部12、端部14)から切り込まれ、前記アンテナ内で終端する複数の端部切り込み(端部切り込み20及び端部切り込み30)と、両端が前記アンテナ内で終端する複数の内部切り込み(内部切り込み40)とを含み、前記アンテナは、前記アンテナが前記所定方向に対して、略垂直方向に引き延ばされた状態で設置されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の特徴によれば、空気入りタイヤの内部にアンテナが設置された場合でも、空気入りタイヤが弾性変形を繰り返すことによる故障の発生を抑制できる無線通信装置、及び当該無線通信装置を備えた空気入りタイヤの提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る無線通信装置を備えた空気入りタイヤのトレッド幅方向に沿った一部断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る無線通信装置の一部を示した正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る無線通信装置の一部を示した正面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る無線通信装置の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る無線通信装置の製造方法を示すための図である。具体的には、図5(a)、(b)、(c)、(d)は、無線通信装置の正面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る無線通信装置の製造方法を示すための図である。具体的には、図6(e)は、無線通信装置の側面図である。図6(f)は、無線通信装置の断面図である。図6(g)は、無線通信装置の正面図である。
【図7】本発明の実施形態の変形例に係る無線通信装置の正面図である。
【図8】本発明の実施形態の変形例に係る無線通信装置を示す図である。具体的には、図8(a)は無線通信装置の正面図である。図8(b)は、無線通信装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る無線通信装置及び空気入りタイヤの実施形態、その他の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0018】
したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0019】
[実施形態]
本実施形態においては、(1)空気入りタイヤの構成、(2)無線通信装置の詳細構成、(3)無線通信装置の製造方法、(4)変更例、及び、(5)作用・効果について説明する。
【0020】
(1)空気入りタイヤの構成
図1は、本発明の実施形態に係る無線通信装置100を備えた空気入りタイヤ1のトレッド幅方向Wに沿った一部断面図である。
【0021】
無線通信装置100は、空気入りタイヤ1の内部に設置される。具体的には、無線通信装置100は、サイドウォール部3の内部に埋設される。無線通信装置100は、架硫後のサイドウォール部3の内部表面に貼り付けられてもよい。
【0022】
図1に示すように、空気入りタイヤ1は、一対のビード部2と、一対のサイドウォール部3と、カーカス層4 と、ベルト層5と、トレッド部6とにより構成される。
【0023】
ビード部2は、タイヤ周方向Rに沿ってリング状に形成されており、トレッド幅方向Wに沿ってタイヤの両端にそれぞれに備えられている。
【0024】
カーカス層4は、サイドウォール部3の骨格を構成しており、荷重や衝撃に耐え、タイヤ構造を保持するための層である。具体的には、カーカス層4は、非金属からなるコードが、ゴムに含浸されている。上記コードは、ラジアル方向(タイヤ径方向D)に沿って配置される。カーカス層4のトレッド幅方向Wに沿った両端部は、ビード部2で折り返されている。なお、空気入りタイヤ1が、トラック・バスなどの重荷重用のタイヤである場合、カーカス層4は、金属からなるコードが、ゴムに含浸されている。
【0025】
ベルト層5は、タイヤ周方向Rに沿ってカーカス層4と後述するトレッド部6との間に配置される。
【0026】
(2)無線通信装置の詳細構成
無線通信装置100の詳細構成について、図2、3を用いて説明する。図2は、本発明の実施形態に係る無線通信装置100の一部を示した正面図である。図3は、本発明の実施形態に係る無線通信装置100の一部を示した正面図である。特に、図3は、タイヤ径方向Dに沿って無線通信装置100が引き延ばされて設置されている様子を示す。
【0027】
図2に示すように、無線通信装置100は、無線信号を送信または受信し、板状の金属により形成されるアンテナ10と、トランスポンダチップ60とを備える。アンテナ10は、300Hz〜3GHzの周波数に対応する。アンテナ10の表面は、弾性体、具体的にはゴム等によってコーティングされる。アンテナ10は、縦長状に形成され、空気入りタイヤ1の製造情報、例えば、シリアル番号等の情報を含む無線信号を送信または受信する。サイドウォール部3に配置されるアンテナ10の長手方向は、タイヤ周方向Rに沿って配置される。アンテナ10は、導電性の材料により形成されている。具体的にはアンテナ10は、鋼、アルミ等の金属により形成されることが好ましい。具体的には、アンテナ10には、複数の端部切り込み20と、複数の端部切り込み30と、複数の内部切り込み40とが形成される。端部切り込み20、端部切り込み30、及び内部切り込み40は、所定方向に沿って延びる。本実施形態における所定方向は、タイヤ径方向Dである。端部切り込み20、端部切り込み30、及び内部切り込み40は、同一方向に沿って同一の長さに形成され、隣接する切り込みの間隔は略同一である。具体的には、端部切り込み20、端部切り込み30、及び内部切り込み40は、タイヤ径方向Dに沿って長さLを有する。長さLは、2〜30mmに設定される。隣接する切り込みの間隔は、間隔Pに設定される。間隔Pは、0.5〜4mmに設定される。隣接する切り込みは、所定方向に対して、略垂直方向に対して、少なくとも一部がオーバーラップするように設けられる。例えば、切り込み46(後述)は、タイヤ周方向Rに対して、切り込み42(後述)及び切り込み48(後述)に少なくとも一部がオーバーラップするように形成される。
【0028】
端部切り込み20は、アンテナ10の一方の端部12から切り込まれ、端部12の反対側に位置する他方の端部14に向かって延び、アンテナ10内で終端する。
【0029】
端部切り込み30は、アンテナ10の端部14にから切り込まれ、端部12に向かって延び、アンテナ10内で終端する。端部切り込み30は、内部切り込み40に対向し、内部切り込み40に対応する位置に形成される。
【0030】
内部切り込み40は、端部12から端部14に向かって延び、両端がアンテナ10内で終端する。内部切り込み40は、隣り合う端部切り込み20の間の略中心かつ、隣り合う端部切り込み30の間の略中心に位置する。内部切り込み40には、切り込み42と、切り込み44と、切り込み46、切り込み48が含まれる。
【0031】
切り込み42は、隣接する端部切り込み20の終端部を結ぶ第1仮想線22と交差する。切り込み42は、第1仮想線22を基準として、端部12側に比べて、端部14側に延びる長さが長い。
【0032】
切り込み44は、隣接する端部切り込み30の終端部を結ぶ第2仮想線32と交差する。切り込み44は、第2仮想線32を基準として、端部14側に比べて、端部12側に延びる長さが長い。
【0033】
無線通信装置100のアンテナ10について、図3を用いて、更に説明する。図3に示すように、無線通信装置100を構成するアンテナ10は、アンテナ10が引き延ばされることによって、格子状に形成された状態で設置される。アンテナ10は、切り込みが延びる方向である所定方向(本実施形態におけるタイヤ径方向D)に対して、略垂直方向に引き延ばされる。つまり、本実施形態において、アンテナ10は、タイヤ周方向Rに沿って、引き延ばされる。アンテナ10は、空気入りタイヤ1の転動に伴って、サイドウォール部3が弾性変形、具体的には、タイヤ周方向Rに沿った変形を繰り返した場合に、タイヤ周方向Rに沿って伸縮する。
【0034】
具体的には、端部切り込み20、端部切り込み30、及び内部切り込み40が、タイヤ周方向Rに沿って引き延ばされる。例えば、内部切り込み40の切り込み42は、タイヤ周方向Rに沿って延ばされることにより、辺42a、辺42b、辺42c、辺42dを辺とする菱形の開口が形成される。サイドウォール部3が更に弾性変形する場合、切り込み42が形成する菱形状は、タイヤ周方向Rに沿った対角線が、長くなり、タイヤ径方向Dに沿った対角線が短くなる。アンテナ10のタイヤ径方向Dに沿った長さを長さL2とし、タイヤ周方向Rに沿った長さを長さP2とした場合、長さL2と長さP2との比は、1:0.2〜1:2の範囲にある。長さL2と長さP2との比は、1:0.3〜1:1の範囲にあることが好ましい。
【0035】
以下、端部切り込み20、端部切り込み30、切り込み44、切り込み46、及び切り込み48が引き延ばされる状態は、切り込み42と同様であるため詳細の説明は省略する。
【0036】
トランスポンダチップ60は、アンテナ10に接合されることにより、無線通信装置100に固定される。トランスポンダチップ60は、空気入りタイヤに充填された空気の内圧や、空気入りタイヤ内部の温度を監視するセンサーモジュールである。具体的には、トランスポンダチップ60は、無線通信装置100を構成する電子回路部と、メモリと、圧力センサと、温度センサと、電源とを備える。メモリは、空気入りタイヤの製造情報、例えば、シリアル番号等のID情報を記憶する。電源は、例えば、コイン型の電池でもよく、空気入りタイヤの振動によって生じるエネルギーに基づき電力を発生させる発電モジュール型の電池でもよい。無線通信装置100が、Tire Pressure Monitoreing System(タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム)として、空気入りタイヤの空気圧や、温度を送信する場合、アンテナ10は、300〜500MHzの周波数帯域を用いる。無線通信装置100が、Radio Frequency IDentification(いわゆる、RFID)として、空気入りタイヤのID情報を送信する場合、アンテナ10は、800MHz〜3GHzの周波数帯域を用いる。
【0037】
(3)無線通信装置の製造方法
次に、本実施形態に係る無線通信装置の製造方法について、図4乃至6を用いて説明する。図4は、本実施形態に係る無線通信装置のアンテナの製造方法を示すフローチャートである。図5、6は、本実施形態に係る無線通信装置のアンテナの製造方法を示すための図である。具体的には、図5(a)、(b)、(c)、(d)、図6(g)は、無線通信装置のアンテナの正面図である。図6(e)は、無線通信装置のアンテナの側面図である。図6(f)は、無線通信装置のアンテナの断面図である。具体的には、無線通信装置のアンテナの製造方法は、(3.1)準備工程、(3.2)切り込み形成工程、(3.3)トランスポンダチップ接合工程、(3.4)張力付加工程、(3.5)プレス工程、及び(3.6)切断工程を含む。
【0038】
(3.1)薄板準備工程
図4、図5(a)に示すように、ステップS1の薄板準備工程では、板状の金属を準備して所定の形状に加工する。
【0039】
(3.2)切り込み形成工程
図4、図5(b)に示すように、ステップS2の切り込み形成工程では、板状の金属に切り込みを入れる。具体的には、端部切り込み20、端部切り込み30、及び内部切り込み40を形成する。また、トランスポンダチップ60が接合される領域の薄板をカットする。
【0040】
(3.3)トランスポンダチップ接合工程
図4、図5(c)に示すように、ステップS3のトランスポンダチップ接合工程では、トランスポンダチップ60をアンテナ10に接合する。
【0041】
(3.4)張力付加工程
図4、図5(d)に示すように、ステップS4の張力付加工程では、アンテナ10に所定の張力を付加することにより、アンテナ10が引き延ばされた状態にする。具体的には、端部切り込み20、端部切り込み30、及び内部切り込み40を開口した状態でゴムなどの伸縮シート50を重ねることにより、アンテナ10が引き延ばされた状態にする。なお、引き延ばされた状態のアンテナ10の長さL3は、30〜150mmに設けられる。
【0042】
(3.5)プレス工程
図4、図6(e)に示すように、ステップS5のプレス工程では、アンテナ10に伸縮シート50を重ねた状態でアンテナ10の厚み方向より圧力を加える。これにより、無線通信装置100の表面は、被覆材、例えば、ゴム等によってコーティングされる。従って、アンテナ10は、格子状に引き延ばされた状態で設置される。
【0043】
(3.6)切断工程
図4、図6(f)に示すように、ステップS6の切断工程では、複数の無線通信装置100が連なった状態のシートを切断することで、各無線通信装置100を形成する。
【0044】
(4)変更例
上述した実施形態に係る無線通信装置100は、以下のように変更してもよい。なお、上述した実施形態に係る無線通信装置100と同一部分には同一の符号を付して、相違する部分を主として説明する。
【0045】
(4.1)変更例1
変更例1に係る無線通信装置100Aの構成について、図面を参照しながら説明する。図7(a)は、変更例1に係る無線通信装置100Aを示す正面図である。
【0046】
上述した第1実施形態では、無線通信装置100のアンテナ10には、多数の端部切り込み20、端部切り込み30、及び、内部切り込み40が形成されている。これに対して、変更例1では、図7(a)に示すように、2つの端部切り込み20A、2つの端部切り込み30A、及び、2つの内部切り込み40Aが形成されている。このように、本発明の切り込み、具体的には、端部切り込み20A、端部切り込み30A、及び、内部切り込み40Aは、少なくとも複数形成されていればよい。
【0047】
(4.2)変更例2
変更例2に係る無線通信装置100Bの構成について、図面を参照しながら説明する。図7(b)は、変更例2に係る無線通信装置100Bを示す正面図である。
【0048】
上述した第1実施形態では、無線通信装置100のアンテナ10には、同一方向に平行に延びる切り込みが形成されている。これに対して、変更例2では、図7(b)に示すように、端部切り込み20B、端部切り込み30B、及び、内部切り込み40Bが、所定方向に沿って延びるものの、平行には、延びていない。このように、本発明の切り込み、具体的には、端部切り込み20B、端部切り込み30B、及び、内部切り込み40Bは、所定方向に延びていればよい。
【0049】
(4.3)変更例3
変更例3に係る無線通信装置100Cの構成について、図面を参照しながら説明する。図7(c)は、変更例3に係る無線通信装置100Cを示す正面図である。
【0050】
上述した第1実施形態では、無線通信装置100のアンテナ10では、内部切り込み40は、隣り合う端部切り込み20の間の略中心かつ、隣り合う端部切り込み30の間の略中心に形成される。これに対して、変更例3では、図7(c)に示すように、内部切り込み40Cは、端部切り込み20C及び端部切り込み30Cと略同一直線状に形成されてもよい。
【0051】
(4.4)変形例4
変形例4に係る無線通信装置100Eの構成について、図8を用いて説明する。なお、以下の変形例においては、実施形態と異なる点を主に説明し、重複する説明を省略する。図8(a)は、本発明の実施形態の変形例に係る無線通信装置100Eの正面図である。図8(b)は、図8(a)の側面図である。
【0052】
図8に示すように、無線通信装置100Eには、トランスポンダチップ60Eが備えられ、トランスポンダチップ60Eの両側には、アンテナ10Eが備えられる。アンテナ10Eには、少なくとも所定方向に沿って延びる複数の切り込みが形成される。具体的には、切り込みは、複数の端部切り込み20Eと、複数の端部切り込み30Eとを含む。
【0053】
端部切り込み20E及び端部切り込み30Eは、アンテナ10Eの端部から切り込まれ、アンテナ10E内で終端する。隣接する端部切り込み20E及び端部切り込み30Eは、少なくとも一部がオーバーラップするように形成される。
【0054】
図8(b)に示すように、アンテナ10Eは、所定方向に対して、略垂直方向に引き延ばされることで、側面視において、ギザギザ状になって設置される。
【0055】
このような無線通信装置100Eによれば、アンテナ10Eには、両端がアンテナ10E内で終端する複数の内部切り込みが形成されていなくても、当該所定方向に対して、略垂直方向に連続する部分が無くなる。このため、アンテナ10Eは、当該略垂直方向に伸縮可能となる。更に、アンテナ10Eは、所定方向に対して、略垂直方向に引き延ばされた状態で設置されるため、当該略垂直方向に沿って伸縮しやすい状態で設置される。
【0056】
つまり、空気入りタイヤが、当該略垂直方向に沿って、弾性変形を繰り返す場合、アンテナ10Eは、空気入りタイヤの弾性変形量に追従できる。従って、空気入りタイヤが弾性変形を繰り返すことによる無線通信装置100Eの故障の発生を抑制できる。
【0057】
(5)作用・効果
以上説明したように、本実施形態によれば、アンテナ10には、所定方向(タイヤ径方向D)に沿って延びる複数の切り込みが形成される。切り込みには、アンテナ10の端部12(又は端部14)から切り込まれる複数の端部切り込み20及び複数の端部切り込み30と、内部切り込み40とが含まれ、隣接する切り込みは、少なくとも一部がオーバーラップするように形成される。
【0058】
つまり、アンテナ10には、所定方向に対して、略垂直方向であるタイヤ周方向Rに沿って連続する部分が無くなる。このため、アンテナ10は、タイヤ周方向Rに伸縮可能となる。更に、アンテナ10は、タイヤ周方向Rに引き延ばされた状態で設置されるため、タイヤ周方向Rに沿って伸縮しやすい状態で設置される。
【0059】
つまり、空気入りタイヤ1が、タイヤ周方向Rに沿って、弾性変形を繰り返す場合、アンテナは、空気入りタイヤ1の弾性変形量に追従できる。従って、空気入りタイヤ1が弾性変形を繰り返すことによる無線通信装置100の故障の発生を抑制できる。
【0060】
本実施形態によれば、切り込みは、端部切り込み20及び端部切り込み30に加えて、両端がアンテナ10内で終端する複数の内部切り込み40を含む。このため、アンテナ10が所定方向に対して、略垂直方向に引き延ばされた際に、切り込みは、格子状に形成される。このため、切り込みは、更に伸縮しやすい状態で設置されるため、アンテナ10は、空気入りタイヤ1の弾性変形量に更に追従できる。
【0061】
本実施形態によれば、隣接する切り込みの間隔Pは、略同一であり、切り込みの長さLは、略同一である。このため、空気入りタイヤ1の変形量に応じて、切り込みが均等に伸縮する。つまり、切り込みは、各片の長さが等しい菱形状に引き延ばされる。このため、切り込みの一部に応力が集中することによる故障を招くことを更に抑制できる。
【0062】
本実施形態によれば、カーカス層4を構成するコードは、タイヤ径方向Dに沿って配置される。つまり、サイドウォール部3は、カーカス層4を構成するコードにより補強されるため、サイドウォール部3は、タイヤ径方向Dよりもタイヤ周方向Rに沿って変形しやすい。無線通信装置100は、空気入りタイヤ1のサイドウォール部3に設けられ、切り込みは、タイヤ径方向Dに沿って延びる。つまり、切り込みは、サイドウォール部3のタイヤ周方向Rに沿った変形に応じて、伸縮しやすい形状に形成される。従って、空気入りタイヤ1が弾性変形を繰り返すことによる故障の発生確率を効果的に低減できる。
【0063】
無線通信装置100を構成するアンテナ10は、板状の金属により形成されるため、アンテナ10の厚み方向、つまり無線通信装置100の厚み方向への耐久性が懸念される場合がある。そのため、空気入りタイヤ1の内部に貼り付ける、或いは、埋め込む前においても耐久性を備えることが好ましい。本実施形態によれば無線通信装置100の表面は、被覆材によってコーティングされるため、空気入りタイヤ1の内部に設置される前における無線通信装置100としての耐久性が向上する。
【0064】
本実施形態によれば、空気入りタイヤ1には、無線信号を送信または受信し、板状の金属により形成される少なくとも1つのアンテナ10を備えた無線通信装置100が内部に設置される。このため、空気入りタイヤ1が弾性変形を繰り返すことによる故障の発生確率を低減できる無線通信装置100を備えた空気入りタイヤ1を提供できる。
【0065】
[比較評価]
次に、本発明の効果を更に明確にするために、以下の比較例及び実施例に係る空気入りタイヤを用いて行った比較評価について説明する。具体的には、(1)評価方法、(2)評価結果について説明する。なお、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0066】
(1)評価方法
2種類の無線通信装置をそれぞれ備えた空気入りタイヤを用いて、空気入りタイヤの弾性変形を繰り返すことに対する耐久性について評価を行った。空気入りタイヤに関するデータは、以下に示す条件において測定された。
【0067】
・ 内圧 :ETRTO記載の標準内圧
(耐久性比較試験)
評価方法 :各空気入りタイヤを車両に装着して、悪路を走行し、各無線通信装置が、故障に至るまでの時間(寿命)を測定した。
【0068】
実施例1の空気入りタイヤは、第1実施形態に係る無線通信装置100を備える空気入りタイヤ1と同一である。実施例2の空気入りタイヤに備えられる無線通信装置のアンテナは、フィルム上に金属箔等の金属層を設けることにより形成される点で、実施例1のアンテナと異なる。具体的には、実施例2のアンテナには、フィルム及び金属層に切り込みが形成されている。なお、実施例1及び実施例2の切り込みの長さLは、5mmに設定され、間隔Pは、1mmに設定される。
【0069】
比較例の空気入りタイヤに設置される無線通信装置は、実施例の無線通信装置100と比べて、切り込みが形成されておらず、アンテナは、アルミからなる薄板により形成される。
【0070】
(2)評価結果
各無線通信装置の評価結果について、表1を参照しながら説明する。なお、評価結果は、比較例の空気入りタイヤに備えられた無線通信装置の寿命を100として指数表示する。なお、数値は、100より大きくなるに連れて優れた数値を示したことを意味する。
【表1】

【0071】
表1に示すように、比較例の空気入りタイヤに備えられた無線通信装置は、実施例の空気入りタイヤに備えられた無線通信装置と比べて、寿命が短かった。
【0072】
[その他の実施形態]
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0073】
上述した実施形態において、無線通信装置100のアンテナ10は、板状の金属により形成されるが、これに限られず、フィルム上に金属箔等の金属層を設け、フィルム及び金属層に切り込みを形成することでアンテナを形成してもよい。
【0074】
上述した実施形態において、無線通信装置100は、サイドウォール部3に配置されるが、これに限られず、例えば、トレッド部に配置されてもよい。この場合、トレッド部で繰り返し生じる弾性変形を考慮して、弾性変形が起こる方向に沿って、切り込みが引き延ばされるように配置することがより好ましい。
【0075】
上述した実施形態において、無線通信装置100は、サイドウォール部3にタイヤ径方向Dに沿って切り込みを形成しているが、これに限られず、空気入りタイヤに求められる用途に応じて、切り込みの配置を変更してもよい。
【0076】
上述した実施形態の無線通信装置のアンテナの製造方法において、ステップS5のプレス工程は、ステップS6の切断工程の前に設けられるが、これに限られず、例えば、ステップS6の切断工程の後に設けられてもよい。
【0077】
上述した実施形態において、無線通信装置100の表面は、弾性体、具体的にはゴム等によってコーティングされるがこれに限られず、例えば、コーティングされない状態で、サイドウォール部3に埋め込まれてもよい。
【0078】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0079】
D…タイヤ径方向、P…間隔、R…タイヤ周方向、W…トレッド幅方向、1…空気入りタイヤ、2…ビード部、3…サイドウォール部、4…カーカス層、5…ベルト層、6…トレッド部、10、10E…アンテナ、12、14…端部、20、20A、20B、20C、20E…端部切り込み、22…第1仮想線、30、30A、30B、30C、30E…端部切り込み、32…第2仮想線、40、40A、40B、40C…内部切り込み、42、44、46、48…切り込み、42a、42b、42c、42d…辺、50…伸縮シート、60、60E…トランスポンダチップ、100、100A、100B、100C、100E…無線通信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号を送信または受信し、板状の金属により形成される少なくとも1つのアンテナを備え、空気入りタイヤの内部に設置される無線通信装置であって、
前記アンテナには、少なくとも所定方向に沿って延びる複数の切り込みが形成され、
前記切り込みは、前記アンテナの端部から切り込まれ、前記アンテナ内で終端する複数の端部切り込みを含み、
隣接する前記切り込みは、少なくとも一部がオーバーラップするように形成され、
前記アンテナは、前記所定方向に対して、略垂直方向に引き延ばされた状態で設置される無線通信装置。
【請求項2】
前記切り込みは、両端が前記アンテナ内で終端する複数の内部切り込みを含む請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
隣接する前記切り込みの間隔は、略同一であり、
前記切り込みの長さは、略同一である請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記無線通信装置は、前記空気入りタイヤのサイドウォール部に設けられ、
前記所定方向は、タイヤ径方向である請求項1乃至3の何れか一項に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記無線通信装置の表面は、被覆材によってコーティングされる請求項1乃至4の何れか一項に記載の無線通信装置。
【請求項6】
無線信号を送信または受信し、板状の金属により形成される少なくとも1つのアンテナを備えた無線通信装置が内部に設置された空気入りタイヤであって、
前記アンテナには、少なくとも所定方向に沿って延びる複数の切り込みが形成され、
前記切り込みは、前記アンテナの端部から切り込まれ、前記アンテナ内で終端する複数の端部切り込みを含み、
隣接する前記切り込みは、少なくとも一部がオーバーラップするように形成され、
前記アンテナは、前記所定方向に対して、略垂直方向に引き延ばされた状態で設置される空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−285023(P2010−285023A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139257(P2009−139257)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】