説明

焼却残渣の溶融炉および溶融炉の保守方法

【課題】NaClやKClの塩化物により、炉壁(耐火物)が剥離するのを抑制し、炉壁の長寿命化を図り得る焼却残渣の溶融炉を提供する。
【解決手段】焼却残渣の溶融室1を有する炉本体3の溶融スラグを貯溜する貯溜本体部3aの内壁面に、内側から順番に、第1耐火材4および第2耐火材5を設けるとともに、炉本体3と第2耐火材5との間を吸引し得る吸引用ノズル11を設け、上記第1耐火材4として、炭化物(SiC)を略80%(質量%)含有し、残部を炭素(C)および酸化アルミニウム(Al)としたものであり、保守作業時に、吸引用ノズル11にて第1耐火材4の外周面を減圧させて、第1耐火材4に滲み込んだ塩化物を均一に拡散させ得るようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却残渣を溶融させてなる溶融スラグ中の塩化物を、炉壁に設けられた耐火物に、均一に浸透(拡散)させ得る焼却残渣の溶融炉および溶融炉の保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物は増加する傾向にあり、多くの廃棄物の処理は焼却によるものが主であるが、最終的に発生した灰や煤塵(飛灰)は、最終処分場に埋め立て処分される。しかしながら、最終処分場が逼迫している昨今では、灰や煤塵の減容化を図る目的で、より高温下でこれらを溶融する処理が進められている。
【0003】
この溶融を行うための溶融炉は、1400〜1500℃の高温が必要であり、安定した運転のためには炉壁に用いる耐火物が重要な役割を担っている。また,炉に冷却構造を持たせることで耐火物自体の温度を低減させ、接触部表面に灰溶融物すなわち溶融スラグを付着させることで、耐火物を保護する試みがなされている。
【0004】
このような溶融炉の場合、炉材としては冷却を効果的に行うために、熱伝導率の高い材料が用いられ、通常は酸化物ではなく、炭化物、窒化物、ホウ化物などの非酸化物を含有した材料が用いられている。
【0005】
しかしながら、これらの材料によると、溶融スラグに含まれる酸素により酸化され、溶融スラグと反応して時間の経過とともに溶解して減肉が進み(溶損)、また焼却灰や煤塵に含まれているNaClやKClのような塩化物が耐火物内部に浸透し、組織の密度変化をもたらすことによる剥離が生じて短時間で減肉してしまうという問題がある。
【0006】
ところで、溶損の場合は定期的な炉内計測等により減肉速度の推定や炉修時期の予測が可能であるが、浸透が生じた場合の密度変化による剥離損傷は、上述したように、極めて短時間で発生するため、予測は不可能に近い。
【0007】
したがって、浸透物による組織変化を如何にして防ぐかが、安定運転を行うための重要事項になっており、このため、NaClやKClなどの塩化物を溶融炉稼動中に除去する方法として、新たに排出口を設けるようにした構造が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−50530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,上記の構造によると、排出口に塩化物に濡れ易い材料を使用しているために閉塞が生じたり、また溶融スラグに残存するNaClやKClが耐火物中に均一に分布せず、しかも除去できないために、NaClやKCl分が多く分布する箇所を中心に耐火物への浸透が進み、結果的には剥離が生じ、耐火物の長寿命化を図ることができないという課題がある。
【0009】
そこで、本発明は、NaClやKClの塩化物により、耐火物が剥離するのを抑制して長寿命化を図り得る焼却残渣の溶融炉および溶融炉の保守方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る焼却残渣の溶融炉は、焼却残渣の溶融室を有する炉本体の少なくとも溶融スラグを貯溜する貯溜本体部の内壁面に、炭化物、窒化物およびホウ化物のうち少なくとも1種類からなる非酸化物成分を含む耐火物を設けるとともに、この貯溜本体部に、上記耐火物に滲み込んだ溶融スラグの塩化物を移動・拡散させるために、当該耐火物の外周面を吸引し得る吸引用ノズルを設けたものである。
【0011】
また、本発明の請求項2に係る焼却残渣の溶融炉は、焼却残渣の溶融室を有する炉本体の少なくとも溶融スラグを貯溜する貯溜本体部の内壁面に、炭化物、窒化物およびホウ化物のうち少なくとも1種類からなる非酸化物成分を含む耐火物を設けるとともに、上記耐火物に滲み込んだ溶融スラグの塩化物を移動・拡散させるために、上記炉本体に溶融室内を加圧し得る加圧用ノズルを設けたものである。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る焼却残渣の溶融炉は、焼却残渣の溶融室を有する炉本体の少なくとも溶融スラグを貯溜する貯溜本体部の内壁面に、炭化物、窒化物およびホウ化物のうち少なくとも1種類からなる非酸化物成分を含む耐火物を設け、
上記耐火物に滲み込んだ溶融スラグの塩化物を移動・拡散させるために、上記炉本体に、耐火物の外周面を吸引し得る吸引用ノズルを設けるとともに上記溶融室内を加圧し得る加圧用ノズルを設けたものである。
【0013】
また、本発明の請求項4に係る焼却残渣の溶融炉は、焼却残渣の溶融室を有する炉本体の少なくとも溶融スラグを貯溜する貯溜本体部の内壁面に、炭化物、窒化物およびホウ化物のうち少なくとも1種類からなる非酸化物成分を含む耐火物を設け、
上記耐火物に滲み込んだ溶融スラグの塩化物を移動・拡散させるために、上記貯溜本体部を鉛直軸心回りで回転自在に支持するとともに当該貯溜本体部を回転させる回転駆動手段を具備したものである。
【0014】
また、本発明の請求項5に係る焼却残渣の溶融炉は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の溶融炉の炉本体と耐火物との間に水または水蒸気を供給して塩化物を水溶状態で回収し得る塩化物回収手段を具備したものである。
【0015】
また、本発明の請求項6に係る溶融炉の保守方法は、請求項4に記載の溶融炉の保守作業時に、貯溜本体部を回転駆動手段により鉛直軸心回りで回転させる方法である。
さらに、本発明の請求項7に係る溶融炉の保守方法は、請求項5に記載の溶融炉の保守作業時に、炉本体と耐火物との間に水または水蒸気を供給して塩化物を水溶状態で回収する方法である。
【発明の効果】
【0016】
上述した各溶融炉の構成および保守方法によると、耐火物の外周面を減圧し若しくは耐火物の溶融スラグとの接触する内周面側を加圧することにより、または溶融炉の保守作業時に、炉本体を回転させることにより、塩化物を耐火物の厚さ方向で移動させることができ、したがってその移動に伴う厚さと直交する面内での移動により塩化物の濃度の均一化(拡散)を図ることができるので、濃度差に起因する剥離損傷を防止でき、延いては、耐火物の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る焼却残渣の溶融炉および溶融炉の保守方法について説明する。
まず、本発明の要旨について概略的に説明すると、焼却残渣を溶融させた場合、その溶融物である溶融スラグ中には、少なくとも、NaClやKClなどの塩化物が多く含まれており、この塩化物が炉本体の内壁面に設けられた耐火物(耐火材ともいう)に滲み込むことになるが、耐火物中での塩化物の濃度にできるだけ偏り(所謂、濃度むら)が生じないようにすることにある。
【0018】
このため、溶融スラグ中の塩化物を、耐火物内周面(表面)から強制的に引き込むことによりまたは耐火物外周面(表面)から強制的に引き出すようにして、すなわち塩化物を耐火物の厚さ方向で強制的に移動させることにより、壁面に沿う方向での移動および拡散(移動・拡散)をさそうことにより、耐火物中での塩化物の濃度むらを減らすようにしたものである。
【0019】
以下、そのための溶融炉の構成および耐火物中の塩化物の濃度むらを減じる保守方法(保守点検方法ともいう)について説明する。
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1に係る焼却残渣の溶融炉および溶融炉の保守方法すなわち保守作業について説明する。
【0020】
まず、焼却残渣の溶融炉を図1に基づき説明する。
この溶融炉は、大きく分けて、溶融室1を有するとともに焼却残渣の投入口2を有し且つ加熱手段(図示しないが、例えば加熱ヒータ、プラズマ発生用電極など)が設けられた例えば円筒状の炉本体3と、この炉本体3の溶融室1および投入口2の内壁面全体に所定厚さでもって配置された耐火物4とから構成されている。
【0021】
上記炉本体3は、焼却残渣の溶融物、すなわち溶融スラグMを貯溜する貯溜本体部3aと、溶融室1全体を覆う蓋部3bとから構成されており、投入口2は蓋部3b側に設けられている。
【0022】
上記貯溜本体部3aの内壁面と炉本体3の内壁面全体に設けられる耐火物4との間には、別の耐火物5が配置されているとともに、この貯溜本体部3aの所定位置(例えば、壁部の上方寄り位置または下方寄り位置)には、吸引用ノズル11が設けられている。この吸引用ノズル11には、吸引ファン(吸引手段の一例で、真空ポンプでもよい)12などが接続されている。上記炉本体3の大きさとしては、例えば直径(外径)が1m、高さが50cmのものが用いられており、したがって耐火物4,5は円筒状に形成されている。
【0023】
なお、貯溜本体部3aにおける耐火物については、溶融スラグMに直接接触する側の耐火物4を第1耐火物と称するとともに、その外側の別の耐火物5を第2耐火物と称して説明し、また耐火物の溶融スラグと接触する内周面側を稼動面側とも称し、炉本体(所謂、炉殻である)と接触する外周面側を背面側とも称する。
【0024】
上記第1耐火物4としては、主成分である炭化物(非酸化物の一例)、例えばSiCが50〜95%(耐火物としての機能を発揮し得るのに好適な範囲である)、残部が副成分としてのC(炭素)およびAl(酸化アルミニウム)が含有されたものが使用される。この副成分は、化学的性質、機械的性質などを付与するためのものである。
【0025】
具体的には、炭化物であるSiCが80%程度、副成分としてのCおよびAlが20%程度の割合で含有されたものが使用され、また副成分の内訳は、例えばCが2%程度およびAlが18%程度の割合で含有される。
【0026】
なお、耐火物の製造時には、結合剤が数%、例えば3〜5%程度(主成分と副成分との合計を100とした場合の3〜5という意味である)添加される。
また、上記第2耐火物5としては、上記第1耐火物4と同一の材料が用いられるとともに当該第1耐火物4よりも粗くされて通気性が良くされている。つまり、第2耐火物5は、第1耐火物4の外面全体(底部外面および側部外面)に配置されて、空気の流れを分散させる機能を有している。
【0027】
なお、上記貯溜本体部3aと蓋部3bとの接合用フランジ同士間には、シール材6が配置されている。
この溶融炉において、投入口2から焼却残渣が溶融室1内に投入されると、加熱手段により加熱されて溶融スラグMとなり、溶融炉から取り出された後、固形化などの処理が行われる。
【0028】
そして、焼却残渣の溶融時においては、吸引ファン12により吸引用ノズル11を介して炉本体3から空気が吸引されており、通気性のよい第2耐火物5を介して第1耐火物4の外周面全体が減圧(例えば、稼動時の圧力に対して−0.001MPaの減圧)されるため、第1耐火物4の内周面側に滲み込んだ塩化物が外周面側に吸引されて移動する。この移動する最中に、塩化物は徐々に円周面に沿って拡がり、すなわち第1耐火物4の内部で拡散されて、濃度むらが減少される。
【0029】
なお、空気を吸引しない場合、塩化物の耐火物における半径方向(厚さ方向)での濃度は、溶融スラグに接触する内周面側(稼動面側)よりも外周面側(背面側)の方が少し高くなっているとともに、その壁面に沿う面内(円筒面内)では濃度むらが生じており、したがって密度変化が生じているため、このままの状態であると剥落が発生することになる。
【0030】
また、溶融炉の保守を行う際に下記の作業が行われる。
すなわち、溶融炉を停止させた状態(溶融スラグが排出されている)で、吸引用ノズル11に配管(図示せず)を接続するとともに、この配管から水または水蒸気を供給して第2耐火物5の外周面に水または水蒸気を吹き付け(供給する)、そして配管を介して水または水蒸気を吸引により回収する(吸引用ノズル、配管、水または水蒸気の供給装置および吸引ファン、真空ポンプなどの吸引手段により、塩化物回収手段が構成される)。
【0031】
この回収された水または水蒸気を乾燥させたところ、純度90%以上のNaClとKClとの混合物が得られた。この混合物すなわち塩化物は工業塩の原料として、十分に、再利用が可能であることが確認された。なお、水または水蒸気の吹付量は耐火物の面積1m当たり10リットル/hであり、またその吹き付けは間欠的に行った。
【0032】
このように、耐火物の外周面側、すなわち第2耐火物5と炉本体3との間を減圧することにより、第1耐火物4中の塩化物をその厚さ方向で移動させることができ、しかもその移動に伴い耐火物の厚さと直交する面内での移動が生じることにより、塩化物の濃度の拡散化、すなわち濃度むらを減少させることができるので、濃度差に起因する剥離損傷を防止でき、延いては、耐火物の長寿命化を図ることができる。
【0033】
また、溶融炉の保守作業時に、水または水蒸気を第2耐火物5の外周面側に吹き付けた後、これら水または水蒸気を回収し、そしてこの水または水蒸気を乾燥させることにより、塩化物を回収して再利用をすることができるので、経済的である。
【0034】
なお、上記実施の形態1においては、溶融時に吸引するように説明したが、保守作業時に行うようにしてもよい。
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2に係る焼却残渣の溶融炉およびその保守方法について説明する。
【0035】
上記実施の形態1においては、貯溜本体部に設けられた耐火物の外周面を減圧させるように説明したが、本実施の形態2においては、溶融室内を、すなわち耐火物の内周面を加圧させるようにしたものである。なお、本実施の形態2と実施の形態1と異なる箇所は加圧機能を付加しただけであるため、実施の形態1と同一の構成部材については、同一の部材番号を付して簡単に説明する。
【0036】
図2に示すように、この溶融炉は、炉本体3の蓋部3bの投入口2の上方に、空気の供給口(空気供給管でもある)21を設けるとともに、この供給口21に空気の送風ファン(加圧手段の一例で、空気圧縮機などでもよい)22を接続したものである。
【0037】
したがって、溶融時に、送風ファン22により空気を溶融室1内に押し込む(例えば、稼動時の圧力に対して0.001MPaの増圧)とともに吸引ファン12により外周面にて吸い込む(例えば、稼動時の圧力に対して−0.001MPaの減圧)ことにより、耐火物4に滲み込んだNaClやKClなどの塩化物を、一層、内周面側から外周面側に移動させることができ、この移動により、塩化物は耐火物3内でより拡散されることになる。
【0038】
この場合も、実施の形態1と同様に、溶融炉の保守作業時に、吸引用ノズル11に配管(図示せず)を接続するとともに、この配管から水または水蒸気を供給して第2耐火物5の外周面側に水または水蒸気を吹き付け(供給し)、そして配管を介して、塩化物を含んだ水または水蒸気を吸引により回収する(吸引用ノズル、配管、水または水蒸気の供給装置および吸引手段により、塩化物回収手段が構成される)。
【0039】
したがって、本実施の形態2においても、実施の形態1と同様の効果、正確に言うと、加圧が行われている分だけ一層、塩化物の濃度むらを減少させることができる。
なお、本実施の形態2においては、吸引ファン12に加えて送風ファン22を設けたが、送風ファン22により溶融室1内を加圧するだけでもよく、この場合、貯溜本体部3a側には、例えば空気抜き用の開口部(またはノズル)を形成しておけばよい。この場合、保守作業時においては、例えばこの開口部を介して、水または水蒸気の供給およびその回収を吸引手段により行えばよい。
【0040】
なお、上記実施の形態2においては、溶融時に加圧および吸引するように説明したが、保守作業時に行うようにしてもよい。
[実施の形態3]
本発明の実施の形態3に係る焼却残渣の溶融炉およびその保守方法について説明する。
【0041】
上記各実施の形態においては、耐火物の外周面を減圧、または耐火物の外周面を減圧するとともに内周面を加圧するようにしたが、本実施の形態3においては、保守作業時に、耐火物を回転させて当該耐火物に滲み込んでいる塩化物に遠心力を付与するようにしたものである。
【0042】
本実施の形態3に係る溶融炉は、図3および図4に示すように、大きく分けて、溶融室31を有するとともに焼却残渣の投入口32を有し且つ加熱手段(図示しないが、例えば加熱ヒータ、プラズマ発生用電極など)が設けられた炉本体33と、この炉本体33の溶融室31および投入口32の内壁面に所定厚さでもって配置された実施の形態1と同様の第1耐火物34および第2耐火物35とから構成されている。また、炉本体33の貯溜本体部33aの適所には、水または水蒸気を供給および排出するためのノズル36が設けられている。なお、貯溜本体部33aと蓋部33bとの間には、シール材37が設けられている。
【0043】
さらに、上記炉本体33の底部には、中心に軸部38aが垂下されてなる上側支持板体38が固定されるとともに、炉本体33の下方には、上記上側支持板体38を複数個の球体(軸受用ボール)39を介して回転自在に支持する下側支持板体40が配置され、また下側支持板体40の中心を挿通された上側支持板体38の軸部38aの下部に従動側歯車41が取り付けられるとともに、この従動側歯車41に噛合する駆動側歯車42を有する電動機43が具備されたものである。なお、上記各支持板体38,40の表面には、球体39を案内する溝部38b,40aがそれぞれ形成されている。
【0044】
また、本実施の形態3においては、第2耐火物35は第1耐火物34の側壁部34aの周囲にだけ配置されるとともに、この第1耐火物34の側壁部34aおよび第2耐火物35は、それぞれレンガとして積み上げられている。なお、両耐火物34,35同士の目地が一致しないように積み上げられている。
【0045】
したがって、電動機43を駆動することにより、炉本体31全体を、所定速度でもって鉛直軸心周りで回転させることができる。
上記構成において、保守作業時に、電動機43により炉本体33を例えば毎分10回転の速度でもって回転させると、第1耐火物34に滲み込んでいるNaClやKClなどの塩化物に遠心力が作用して外周側に移動するとともに、目地を介しても、塩化物は外側の第2耐火物35に移動し、結果として塩化物の濃度むらが解消される。
【0046】
そして、その後、実施の形態1と同様に、ノズル36に配管(図示せず)を接続するとともに、この配管から水または水蒸気を供給して第2耐火物35の外周面側に水または水蒸気を吹き付け(供給し)、且つ配管を介して、塩化物を含んだ水または水蒸気を吸引により回収し得るようにされている。したがって、このノズル36には、水若しくは水蒸気の供給装置または吸引装置が接続され、これらにより、塩化物回収手段が構成される。
【0047】
上述した構成および保守作業により、実施の形態1と同様の効果が得られる。
ところで、上記各実施の形態においては、耐火物として、炭化物(SiC)を含有させたものを用いたが、例えば炭化物の代わりの非酸化物として、窒化物[Si(窒化珪素),AlN(窒化アルミニウム),ZrN(窒化ジルコニウム)]またはホウ化物[ZrB(硼化ジルコニウム),BC(炭化硼素)]を、炭化物と同様の割合で含有させたものを用いてもよい。また、炭化物、窒化物およびホウ化物のうち、2種以上の成分を組み合わせたものを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態1に係る溶融炉の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る溶融炉の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態3に係る溶融炉の断面図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 溶融室
2 投入口
3 炉本体
3a 貯溜本体部
3b 蓋部
4 耐火物(第1耐火物)
5 耐火物(第2耐火物)
11 吸引用ノズル
12 吸引ファン
21 空気供給口
22 送風ファン
31 溶融室
32 投入口
33 炉本体
33a 貯溜本体部
33b 蓋部
34 耐火物(第1耐火物)
35 耐火物(第2耐火物)
36 ノズル
38 上側支持板体
39 球体
40 下側支持板体
41 従動側歯車
42 駆動側歯車
43 電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却残渣の溶融室を有する炉本体の少なくとも溶融スラグを貯溜する貯溜本体部の内壁面に、炭化物、窒化物およびホウ化物のうち少なくとも1種類からなる非酸化物成分を含む耐火物を設けるとともに、この貯溜本体部に、上記耐火物に滲み込んだ溶融スラグの塩化物を移動・拡散させるために、当該耐火物の外周面を吸引し得る吸引用ノズルを設けたことを特徴とする焼却残渣の溶融炉。
【請求項2】
焼却残渣の溶融室を有する炉本体の少なくとも溶融スラグを貯溜する貯溜本体部の内壁面に、炭化物、窒化物およびホウ化物のうち少なくとも1種類からなる非酸化物成分を含む耐火物を設けるとともに、上記耐火物に滲み込んだ溶融スラグの塩化物を移動・拡散させるために、上記炉本体に溶融室内を加圧し得る加圧用ノズルを設けたことを特徴とする焼却残渣の溶融炉。
【請求項3】
焼却残渣の溶融室を有する炉本体の少なくとも溶融スラグを貯溜する貯溜本体部の内壁面に、炭化物、窒化物およびホウ化物のうち少なくとも1種類からなる非酸化物成分を含む耐火物を設け、
上記耐火物に滲み込んだ溶融スラグの塩化物を移動・拡散させるために、上記炉本体に、耐火物の外周面を吸引し得る吸引用ノズルを設けるとともに上記溶融室内を加圧し得る加圧用ノズルを設けたことを特徴とする焼却残渣の溶融炉。
【請求項4】
焼却残渣の溶融室を有する炉本体の少なくとも溶融スラグを貯溜する貯溜本体部の内壁面に、炭化物、窒化物およびホウ化物のうち少なくとも1種類からなる非酸化物成分を含む耐火物を設け、
上記耐火物に滲み込んだ溶融スラグの塩化物を移動・拡散させるために、上記貯溜本体部を鉛直軸心回りで回転自在に支持するとともに当該貯溜本体部を回転させる回転駆動手段を具備したことを特徴とする焼却残渣の溶融炉。
【請求項5】
炉本体と耐火物との間に水または水蒸気を供給して塩化物を水溶状態で回収し得る塩化物回収手段を具備したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の焼却残渣の溶融炉。
【請求項6】
請求項4に記載の溶融炉の保守作業時に、貯溜本体部を回転駆動手段により鉛直軸心回りで回転させることを特徴とする溶融炉の保守方法。
【請求項7】
請求項5に記載の溶融炉の保守作業時に、炉本体と耐火物との間に水または水蒸気を供給して塩化物を水溶状態で回収することを特徴とする溶融炉の保守方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−70036(P2008−70036A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248808(P2006−248808)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】