説明

焼結型永久磁石の製造方法及び金型

【課題】変形やクラックの発生がなく磁気的配向に優れたラジアル異方性を有するリング状焼結型R-Fe-B系永久磁石の製造方法、及び前記磁石の製造に好適な金型を提供する。
【解決手段】焼結型R-Fe-B系永久磁石用粗粉(RはYを含む希土類元素の中から選択される少なくとも1種の希土類元素)を粉砕した微粉を、鉱物油、合成油又はこれらの混合油中に回収して得られたスラリーを金型のキャビティに加圧注入して磁界中で湿式成形し、得られた成形体を減圧下で加熱して前記油を除去し、真空中で焼結する焼結型永久磁石の製造方法であって、前記金型は中空構造のダイ部材とダイ部材の内周側にリング形状のキャビティを介して配置されたコアとを有し、ダイ部材にはスラリーを加圧注入するためのスラリー注入孔が設けられ、この注入孔の軸線方向が前記コアの中心から外れていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高性能なリング状焼結型R-Fe-B系永久磁石(RはYを含む希土類元素の中から選択される少なくとも1種の希土類元素である)、及びそれに用いる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
R-Fe-B系永久磁石は長い間、磁界を印加しながら金型内で乾燥微粉を成形するいわゆる乾式成形法により生産されてきた。乾式成形法では通常、原料粗粉をジェットミルで微粉砕する際に、ジェットミル内に微量の酸素を導入し、粉砕媒体である窒素ガスやArガス中の酸素濃度を所望の範囲に制御する。これは、微粉表面を強制的に酸化させるためである。この酸化処理なしに微粉砕した微粉は、大気に触れると同時に発火してしまう。酸化処理した微粉の酸素含有量は5000〜6000 ppmであり、これから得られる焼結体の酸素含有量は4000〜5000 ppmとなる。焼結体中の酸素の大部分はNd等の希土類元素と結合し、粒界に酸化物として存在する。酸化された希土類元素の分を補充するため、焼結体中の希土類元素の総量を増加させる必要があるが、そうすると焼結磁石の飽和磁束密度が低下するという問題がある。
【0003】
乾式成形法の問題を解決するため、希土類磁石用粉末と鉱物油又は合成油との混合物を配向磁界を印加した金型キャビティ内に加圧注入した後、低酸素の雰囲気中で磁界中湿式成形してリング状成形体を形成し、成形体から溶媒を除去した後、真空焼結することにより焼結希土類磁石を製造する方法が提案されている(特許文献1)。この製造方法は希土類元素の総量及び酸素含有量が少ない高性能な焼結型R-Fe-B系永久磁石を安定的に生産できる。しかしながら、配向磁界を印加した金型キャビティにスラリーを加圧注入するため、自発磁化の大きいR-Fe-B系微粉は配向磁界との相互作用による大きな拘束力を受け、金型キャビティ内への充填密度が不均一になり、その結果成形体の密度も不均一となり、焼結体の変形やクラックの発生が生じるという問題がある。またスラリーを金型キャビティに開口する注入孔からコアの中心に向かって加圧注入するために、コアに衝突して2方向に分かれたスラリーが、注入孔と180°反対側で合流し、この合流部から焼結体にクラックが発生するという問題もある。
【0004】
また、R-Fe-B系永久磁石用磁粉と、鉱物油、合成油又は植物油とのスラリーを、磁界を印加した金型キャビティ内に挿入したスラリー供給管から吐出するとともに、スラリー供給管を徐々に引き抜きながら、キャビティ内に充填されたスラリーを加圧成形し、得られたリング状成形体から溶媒を除去した後、焼結することにより焼結型R-Fe-B系永久磁石を製造する方法が提案されている(特許文献2)。この方法では金型キャビティに奥深く挿入したスラリー供給管よりスラリーをキャビティ内に吐出するため、比較的長尺のリング状成形体を成形する場合でも金型キャビティへのスラリーの充填性は良いが、スラリー供給管を金型キャビティに奥深く挿入するとともにスラリーを吐出しながらスラリー供給管を引き抜くため、スラリーの供給時間が長いという欠点がある。またスラリー供給管のあった部位が成形体に空洞として残り、これが特異点となって焼結型R-Fe-B系永久磁石にクラックが発生する原因となる。
【0005】
またラジアル異方性リング状R-Fe-B系永久磁石の製造方法として、R-Fe-B系磁石合金の急冷薄帯を粉砕することにより得られた粉末を室温で成形し、得られた成形体を不活性ガス雰囲気中でホットプレスして緻密化し、得られたホットプレス体を熱間塑性加工して、ラジアル方向に磁気的異方性が付与されたカップ体とし、この底部を切除してリング状とする方法も提案されている(特許文献3、特許文献4)。しかしながら、不活性ガス雰囲気中でのホットプレス体の熱間塑性加工は、結晶粒を粗大化させないように約700〜800℃と比較的低温で行なうので、クラックの発生を防止するために極めて低速で行なう必要がある。磁石の寸法により異なるが、1回の熱間塑性加工に要する時間は普通10〜30分であり、永久磁石の工業的な製造方法としては生産性が低い。またこのように製造した加圧加工体は端部にクラックが入りやすいので、クラック発生部を切除する必要がある。これらの理由から、この製造方法では製造コストが高い。さらに得られるリング状磁石の磁気特性のバラツキが大きい。ラジアル異方性の程度は熱間塑性加工時の変形量に依存するが、特に熱間塑性加工抵抗が大きい小口径品や長尺品では、表面磁束密度のバラツキが大きくなるという問題がある。
【特許文献1】特開平7-057914号公報(第3頁)
【特許文献2】特開平11-214216号公報(第3〜5頁)
【特許文献3】特開平9-275004号公報(第3〜5頁)
【特許文献4】特開2001-181802号公報(第2〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、変形やクラックの発生がなく磁気的配向に優れたリング状、特にラジアル異方性を有するリング状焼結型R-Fe-B系永久磁石の製造方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、前記リング状焼結型R-Fe-B系永久磁石の製造に好適な金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る焼結型永久磁石は、質量%基準で27〜33.5%のR(RはYを含む希土類元素の中から選択される少なくとも1種の希土類元素である)と、0.5〜2%のBと、0.002〜0.15%のNと、0.25%以下のOと、0.15%以下のCと、0.001〜0.05%のPと、残部Feとからなる組成を有し、保磁力iHcが1MA/m以上であることが好ましい。ここで使用する用語「焼結型永久磁石」は、着磁前及び着磁後の永久磁石材料の焼結体のいずれも包含する。保磁力は室温(25℃)で測定したものである。Pは0.003〜0.05質量%であるのが好ましく、0.008〜0.05質量%であるのがより好ましい。
【0008】
本発明に係る焼結型永久磁石は、10〜100 mmの外径、8〜96 mmの内径、及び10〜70 mmの高さを有するリング状で、外周面の軸線方向に複数の磁極が延在しているのが好ましい。本発明に係る焼結型永久磁石は、外径10〜30 mm、内径8〜28 mm、高さ10〜50 mm、特に外径10〜25 mm、内径8〜23 mm、高さ10〜40 mmの小型リング磁石とすることもできる。また本発明に係る焼結型永久磁石はラジアル異方性焼結型R-Fe-B系永久磁石であるのが好ましい。本発明に係る焼結型永久磁石の密度は7.52〜7.85 g/cm3であるのが好ましい。
【0009】
上記リング磁石の軸線の磁極に沿った表面磁束密度B0の分布は、B0の最大値の92.5%以上の範囲内にあるのが好ましい。すなわち、上記リング磁石の軸線方向における磁極上の表面磁束密度B0のバラツキは、B0の最大値の7.5%以下であるのが好ましい。ここで表面磁束密度B0のバラツキは、(B0の最大値−B0の最小値)/B0の最大値)×100(%)により表される。B0の最大値及び最小値は上記リング磁石の高さHの範囲内で測定されたものである。表面磁束密度B0の分布は、ガウスメータのプローブを上記リング磁石の外周面に垂直に対向させ、かつ前記リング磁石の軸線方向(長さ方向)に沿って移動させることにより測定する。表面磁束密度B0のバラツキは5%以内であるのがより好ましく、3%以内であるのが特に好ましい。
【0010】
本発明に係る一実施態様では、Rは27〜32質量%である。また本発明に係る別の実施態様では、Rは32質量%超かつ33.5質量%以下である。後者の場合、本発明に係る焼結型永久磁石は、質量%基準で32%超かつ33.5%以下のRと、0.5〜2%のBと、0.25%超かつ0.6%以下のOと、0.01〜0.15%のCと、0.002〜0.05%のNと、0.001〜0.05%のPと、残部Feとからなる組成を有し、10〜100 mmの外径、8〜96 mmの内径、及び10〜70 mmの高さのリング状であり、前記リングの円周方向に磁気的異方性を有し、前記リングの軸線方向における磁極上の表面磁束密度B0の分布がB0の最大値の92.5%以上の範囲内にあることが好ましい。この場合でも、表面磁束密度B0のバラツキは7.5%以内であるのが好ましく、5%以下であるのがより好ましく、3%以内であるのが特に好ましい。この焼結型永久磁石の密度は7.42〜7.75 g/cm3であるのが好ましい。
【0011】
本発明に係る焼結型永久磁石において、Feの一部は、質量%基準で0〜1%のNbと、0.01〜1%のAlと、0〜5%のCoと、0.01〜0.5%のGaと、0〜1%のCuとからなる群から選ばれた少なくとも1種で置換されていても良い。Nbは0.05〜1質量%であるのが好ましい。Alは0.01〜0.3質量%であるのが好ましい。Coは0.3〜5質量%であるのが好ましく、0.3〜4.5質量%であるのがより好ましい。Gaは0.03〜0.4質量%であるのが好ましい。Cuは0.01〜1質量%であるのが好ましく、0.01〜0.3質量%であるのがより好ましい。
【0012】
焼結型永久磁石を製造する本発明の方法は、焼結型R-Fe-B系永久磁石用粗粉(RはYを含む希土類元素の中から選択される少なくとも1種の希土類元素である)を粉砕して微粉として、直接鉱物油、合成油又はこれらの混合油中に回収してスラリーとし、前記スラリーを金型のキャビティに加圧注入して磁界中で湿式成形し、得られた成形体を減圧下で加熱して前記成形体から前記鉱物油、前記合成油又はこれらの混合油を除去し、前記成形体を真空中で焼結するもので、前記金型は中空構造のダイ部材と前記ダイ部材の内周側にリング形状のキャビティを介して配置されたコアとを有し、前記ダイ部材には前記スラリーを前記金型のキャビティに加圧注入するためのスラリー注入孔が設けられ、この注入孔の軸線方向が前記金型のコアの中心から外れていることを特徴とする。
【0013】
焼結型永久磁石を製造する本発明の方法において、前記キャビティに半径方向の配向磁界が印加されることが好ましい。
焼結型永久磁石を製造する本発明の方法において、前記スラリー注入孔の中心軸線と、前記中心軸線が前記ダイ部材の内周面と交差する点Aと前記コア中心点Oとを結ぶ直線AOとのなす角度θが5〜90°であることが好ましい。
【0014】
焼結型永久磁石を製造する本発明の金型は、焼結型R-Fe-B系永久磁石用粗粉(RはYを含む希土類元素の中から選択される少なくとも1種の希土類元素である)を粉砕して得られた微粉と鉱物油、合成油又はこれらの混合油との混合物からなるスラリーを磁界中で湿式成形するためのもので、前記金型は中空構造のダイ部材と前記ダイ部材の内周側にリング形状のキャビティを介して配置されたコアとを有し、前記ダイ部材には前記スラリーを前記金型のキャビティに加圧注入するための注入孔が設けられ、この注入孔の軸線方向が前記金型のコアの中心から外れていることを特徴とする。
【0015】
本発明の金型において、前記キャビティに半径方向の配向磁界が印加されるのが望ましい。
本発明の金型において、前記スラリー注入孔の中心軸線と、前記中心軸線が前記ダイ部材の内周面と交差する点Aと前記コア中心点Oとを結ぶ直線AOとのなす角度θが5〜90°であることが望ましい。
【0016】
本発明の焼結型永久磁石の製造方法において、前記微粉の酸素含有量が0.25質量%超かつ0.6質量%以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法により、変形やクラックの発生がなくかつ磁気的配向性に優れたリング状、特にラジアル異方性を有するリング状焼結型R-Fe-B系永久磁石を製造することができる。本発明に係る焼結型永久磁石は特にモータ等に使用するリング磁石として好適である。また前記リング状焼結型R-Fe-B系永久磁石の製造に好適な金型を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[1]組成
本発明に係る焼結型永久磁石の組成は、質量%基準で27〜33.5%のR(RはYを含む希土類元素の中から選択される少なくとも1種の希土類元素である)と、0.5〜2%のBと、0.002〜0.15%のNと、0.25%以下のOと、0.15%以下のCと、0.001〜0.05%のPと、残部Feとからなるのが好ましい。なお各元素の含有量は蛍光X線分析等により測定することができる。
【0019】
(A) 主要元素
(1) 希土類元素R
希土類元素Rの含有量は27〜33.5質量%であるのが好ましい。Rの含有量が33.5質量%を超えると、飽和磁束密度が低下するとともに、耐食性が悪くなる。一方、Rの含有量が27質量%未満であると、焼結体の緻密化に必要な液相量が不足して、焼結体の密度が低いとともに、保磁力iHcも低い。本発明に係る好ましい第一の組成ではRは27〜32質量%であり、好ましい第二の組成ではRは32質量%超かつ33.5質量%以下である。
【0020】
Oの含有量が0.25質量%超かつ0.6質量%以下の場合、Rの量は質量%基準で32%超かつ33.5%以下であるのが好ましい。Rの量が33.5質量%を超えると焼結体内部の希土類に富む相の量が多くなり、かつ形態も粗大化して耐食性が悪くなる。一方、Rの量が32質量%以下であると、焼結体の緻密化に必要な液相量が不足して焼結体の密度が低下し、磁気特性のうち残留磁束密度Brと保磁力iHcがともに低くなる。高い耐食性を必要とする焼結型永久磁石の場合、Rを32質量%以下に抑えるのが望ましい。
【0021】
(2) 硼素B
Bの含有量は0.5〜2質量%であるのが好ましい。Bの含有量が0.5質量%未満の場合、主相であるR2Fe14B相の形成に必要なBが不足し、軟磁性を有するR2Fe17相が生成して保磁力iHcが低下する。一方、Bの含有量が2質量%を超えると、非磁性相であるBに富む相が増加して、残留磁束密度Brが低下する。
【0022】
(3) 窒素N
Nの含有量は0.002〜0.15質量%であるのが好ましい。焼結体中のNは主にRリッチ相に存在し、希土類元素の一部と結合して窒化物を形成する。窒化物の形成により粒界相の陽極酸化が抑制されるため、焼結体の耐食性が向上すると考えられる。しかしNの含有量が0.15質量%を超えると、窒化物の形成により保磁力iHcの発現に必要な希土類元素が減少して、保磁力iHcが低下する。またNの含有量が0.002質量%未満では、焼結体の耐食性が低い。なおArガス雰囲気での微粉砕では窒化が起こらないため、焼結体中のNの含有量は0.002〜0.05質量%となる。
【0023】
溶解したインゴットを粗粉化する過程で大気中の窒素により微量の窒化物が生成する。この粗粉を実質的に酸素を含有しない窒素ガス又は窒素含有Arガス中でジェットミルにより微粉砕すると、さらに窒化が起こる。ここで「実質的に酸素を含有しない」とは、酸素含有量が0.001%以下、より好ましくは0.0005%以下、さらに好ましくは0.0002%以下であることを意味する。従って、得られる焼結体のNの含有量が0.15質量%を超えないように、微粉砕時のジェットミルへの単位時間当たりの粗粉供給量や、Arガスと窒素ガスの比率を調整する。
【0024】
(4) 酸素O
本発明に係る好ましい第一の組成ではOの含有量は0.25質量%以下であり、本発明に係る好ましい第二の組成ではOの含有量は0.25質量%超で0.6質量%以下である。Oの含有量が0.6質量%を超えると、希土類元素の一部が酸化物を形成するために、磁気的に有効な希土類元素の量が少なくなりすぎ、保磁力iHcが低下する。第一の組成ではRが27〜32質量%であるので、Oの含有量の上限は0.25質量%である。これに対して、第二の組成ではRが32質量%超かつ33.5質量%以下であるので、Oの含有量の上限は0.6質量%とすることができる。一方、第一の組成ではOの含有量の下限は限定的ではないが、0.05質量%であるのが好ましい。特に第一の組成では、酸素の含有量を抑え、窒素の含有量を制御することにより、高い耐食性を得ることができる。
【0025】
(5) 炭素C
Cの含有量は0.15質量%以下であるのが好ましい。Cの含有量が0.15質量%より多いと、希土類元素の一部が炭化物を形成し、磁気的に有効な希土類元素が減少して保磁力iHcが低下する。Cの含有量は0.12質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。一方、Cの含有量の下限は限定的ではないが、0.01質量%であるのが好ましい。
【0026】
(6) 燐P
R-Fe-B系永久磁石の保磁力iHcの向上には、微量のPの添加が有効であることが分かった。図1は、質量%基準で15.7%のNd、7.1%のPr、7.5%のDy、1.1%のB、2.0%のCo、0.09%のCu、0.08%のGa、x%のP、残部Feからなる組成を有する焼結体中のPの含有量xに対する保磁力iHcの変化を示す。保磁力iHcの向上はPの含有量が0.0005質量%で認められるが、0.001質量%以上のPの含有量で顕著である。0.001質量%以上では、Pの含有量の増加に従って保磁力iHcが増加する。しかし、Pの含有量が0.05質量%を超えると、焼結体の強度が低下する。従って、焼結体中のPの含有量は、0.001〜0.05質量%とする。この範囲では飽和磁化の低下は認められない。
【0027】
Pによる保磁力iHcの向上の理由は必ずしも明確ではないが、焼結体の粒界相と主相結晶粒との界面に存在する磁壁を固着するピンニングサイトにPが存在して、ピンニングサイトの組成又は形態を変化させ、磁壁の固着力を強化するためであると推定される。Pの含有量の下限は好ましくは0.003質量%であり、より好ましくは0.008質量%である。またPの含有量の上限は好ましくは0.04質量%であり、より好ましくは0.02質量%である。
【0028】
Pの含有量の制御方法は限定的でないが、(1)R-Fe-B系永久磁石用インゴットの原料金属として、Fe原料合金にPの含有量の判ったFe-P合金又はFe-B-P合金等のP含有Fe基合金を所定量配合することにより、インゴット中のPの含有量を制御する方法、(2)真空溶解により製造したR-Fe-B系永久磁石用インゴットを粗粉砕し、得られた20〜500μmの粗粉に所定量の次亜リン酸ナトリウム(NaPH2O2)を水溶液等の溶液状で混合し、乾燥することにより、R-Fe-B系永久磁石用粗粉中のPの含有量を制御する方法、及び(3)上記スラリー生成用の鉱物油、合成油又はこれらの混合油に、流動性向上剤として次亜リン酸ナトリウムをグリセリン又はエタノールの溶液状で添加して、次亜リン酸ナトリウムの割合を0.01質量%以上にし、湿式成形する方法がある。湿式成形法を利用して微粉の酸化を防止しつつ効率的に成形体を得る場合、(3)の方法が最も好ましい。
【0029】
(3)の方法において、0.001質量%未満のPの含有量となるような次亜リン酸ナトリウム溶液の添加では、スラリーの流動性の改善効果が不十分である。また鉱物油、合成油又はこれらの混合油に対して次亜リン酸ナトリウムの割合が0.5質量%を超えないように、次亜リン酸ナトリウムグリセリン溶液又は次亜リン酸ナトリウムエタノール溶液の混合量を制御するのが好ましい。
【0030】
(B) 任意元素
本発明に係る焼結型永久磁石では、Feの一部をCo、Nb、Al、Ga及びCuからなる群から選ばれた少なくとも1種で置換しても良い。各置換元素の量は焼結型永久磁石全体に対する質量百分率で表す。
【0031】
(1) コバルトCo
Coの量は5質量%以下であるのが好ましい。Coは焼結磁石のキュリー点の向上、即ち、飽和磁化の温度係数の改善をもたらす。しかし、Coの量が5質量%を超えると、残留磁束密度Br及び保磁力iHcがともに急激に低下する。Coの好ましい置換量は0.3〜5質量%であり、特に0.3〜4.5質量%である。Coの量が0.3質量%より少ないと、温度係数の改善効果が小さい。
【0032】
(2) ニオブNb
Nbの量は0〜1質量%であるのが好ましい。焼結過程で生成するNbのホウ化物は結晶粒の異常成長を抑制する。しかしNbの量が1質量%を超えると、Nbのホウ化物の生成量が多くなるため、残留磁束密度Brが低下する。またNbの量が0.05質量%より少ないと、結晶粒の異常成長の抑制効果が不十分であるので、Nbの好ましい置換量は0.05〜1質量%である。
【0033】
(3) アルミニウムAl
Alの量は0.01〜1質量%であるのが好ましい。Alは保磁力iHcを高める効果がある。Alの量が0.01質量%より少ないと、保磁力iHcの向上効果が不十分である。またAlの量が1質量%を超えると、残留磁束密度Brが急激に低下する。Alの上限値は0.3質量%であるのが好ましい。
【0034】
(4) ガリウムGa
Gaの量は0.01〜0.5質量%であるのが好ましい。微量のGaは保磁力iHcを向上させるが、Gaの量が0.01質量%より少ないと効果は不十分である。一方、Gaの量が0.5質量%を超えると、残留磁束密度Brの低下が顕著になるとともに、保磁力iHcも低下する。Gaの量は好ましくは0.03〜0.4質量%である。
【0035】
(5) 銅Cu
Cuの量は0〜1質量%であるのが好ましい。微量のCuは保磁力iHcの向上をもたらすが、Cuの量が1質量%を超えると添加効果は飽和する。またCuの添加量が0.01質量%より少ないと保磁力iHcの向上効果が不十分であるので、Cuの量は0.01〜1質量%であるのが好ましく、0.01〜0.3質量%であるのがより好ましい。
【0036】
本発明に係る第一の実施態様による焼結型永久磁石は、質量%基準で27〜32%のRと、0.5〜2%のBと、0.002〜0.15%のNと、0.05〜0.25%のOと、0.01〜0.15%のCと、0.001〜0.05%のPと、残部Feとからなる組成を有する。
【0037】
また本発明に係る第二の実施態様による焼結型永久磁石は、質量%基準で32%超かつ33.5%以下のRと、0.5〜2%のBと、0.002〜0.05%のNと、0.25%超かつ0.6%以下のOと、0.01〜0.15%のCと、0.001〜0.05%のPと、残部Feとからなる組成を有する。この組成を有する焼結体は、酸素含有量が0.005〜0.5%の雰囲気中で微粉砕した乾燥微粉を鉱物油、合成油又はこれらの混合油と混合して作製したスラリーを用いて得られる。
【0038】
いずれの実施態様の焼結型永久磁石においても、Feの一部を質量%基準で0.3〜5%のCo、0.05〜1%のNb、0.01〜1%のAl、0.01〜0.5%のGa、0.01〜1%のCuからなる群から選ばれた少なくとも1種で置換して良い。
【0039】
[2] 製造方法
(A) 微粉砕
上記組成を有する焼結型R-Fe-B系永久磁石用粗粉を、酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス及び/又はArガスからなる雰囲気中、又は酸素含有量が0.005〜0.5%の窒素ガス及び/又はArガスからなる雰囲気中で、ジェットミルにより微粉砕し、3〜6μmの平均粒径を有する微粉とする。焼結体中のN量を制御するために、ジェットミル内の雰囲気をArガスとし、その中に窒素ガスを微量導入して、Arガス中の窒素ガスの濃度を調整するのが好ましい。
【0040】
ジェットミル内を窒素ガス雰囲気にする場合、粉砕時の粗粉の供給量により磁石粉末へのNの混入度を制御し、得られる焼結体中のN量を制御するのが好ましい。なお「酸素濃度が実質的に0%」とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。このような低酸素濃度は、例えば0.001%以下であり、好ましくは0.0005%以下、より好ましくは0.0002%以下である。また0.002〜0.15質量%のNを含有する粗粉を酸素含有量が0.005〜0.5%の雰囲気中で微粉砕する場合、粗粉中の希土類元素の酸化反応が優先的に起こり、窒化反応はほとんど無視できる程度である。
【0041】
(B) スラリーの生成
ジェットミルの微粉回収口に、鉱物油、合成油又はこれらの混合油の入った容器を設置し、この容器内も窒素ガス及び/又はArガスからなる雰囲気とし、微粉を大気に触れさせずに直接鉱物油、合成油又はこれらの混合油中に回収して、スラリーとする。
【0042】
鉱物油、合成油又はこれらの混合油に、流動性向上剤として次亜リン酸ナトリウムを配合するのが好ましい。次亜リン酸ナトリウムはグリセリン又はエタノールの溶液の状態で鉱物油、合成油又はこれらの混合油に添加するのが好ましい。次亜リン酸ナトリウムのグリセリン又はエタノール溶液の濃度は特に制限されないが、鉱物油、合成油又はこれらの混合油に対する次亜リン酸ナトリウムの割合を0.01〜0.5質量%の範囲とするのが好ましい。次亜リン酸ナトリウムの割合が0.01質量%未満であると、スラリーの流動性の改善効果は不十分である。鉱物油、合成油又はこれらの混合油に次亜リン酸ナトリウムのグリセリン又はエタノールの溶液を混合すると、鉱物油、合成油又はこれらの混合油は酸性を示し、これらに回収された微粉は次亜リン酸ナトリウムと化学的に反応する。
【0043】
この結果、得られるラジアル異方性焼結型R-Fe-B系永久磁石におけるPの含有量は増加する。ラジアル異方性焼結型R-Fe-B系永久磁石中で、Pは主に希土類元素に富む非磁性の粒界相に入る。発明者等の研究の結果、焼結体中のPの含有量を0.001〜0.05質量%とするには、鉱物油、合成油又はこれらの混合油に対する次亜リン酸ナトリウムの割合を0.01〜0.5質量%にするのが好ましい。次亜リン酸ナトリウムグリセリン溶液や次亜リン酸ナトリウムエタノール溶液の添加は、鉱物油、合成油又はこれらの混合油に微粉を回収する前でも後でも良い。いずれの場合も、微粉を鉱物油、合成油又はこれらの混合油と混合してスラリーにすると、鉱物油、合成油又はこれらの混合油による大気からの遮断効果により微粉の酸化や窒化が防止される。そのため、得られる焼結体のOやNの含有量は、微粉のOやNの含有量の値と実質的に変わらない。
【0044】
(C)スラリーの成形
図2は本発明の方法に用いる成形装置の一例を示す。符号11で示す領域は成形装置の縦断面を示し、符号12で示す領域は同成形装置の金型の横断面及びその拡大図(四角で囲った領域)を示す。金型は円柱状のコア4と、円筒状ダイ部材3と、下パンチ9と、上パンチ10とを有し、これらに囲まれた空間がキャビティ6を構成する。円筒状ダイ部材3はダイスケース2に支持されている。一対の磁界発生コイル1がコア4の上下位置に配置されており、コア4を通して磁力線7をキャビティ6に印加する。ダイスケース2にはキャビティ6に開口するスラリー注入孔5が設けられている。
【0045】
スラリーを加圧注入する金型は、キャビティに開口するスラリー注入孔5の軸線方向が金型のセンターコア4の中心Oから外れているのが好ましい。スラリー注入孔4の軸線方向がコア中心Oから外れていると、加圧注入された微粉スラリーは金型コア4に垂直に衝突せずに、コア4の外周面又はダイス内周面に沿ってなめらかにほぼスパイラル状にリング状キャビティ6を満たし、高い充填密度が得られる。
【0046】
これに対して、スラリー注入孔5の軸線方向が金型コアの中心Oと一致する場合、加圧注入されたスラリーは金型コア4に垂直に衝突し、左右に分かれてスラリー注入孔5と180°反対の位置で合流衝突する。これによりいわゆる継ぎ目が生じて、得られる焼結体にクラックが発生する。
【0047】
本発明では、図2に示すように、スラリー注入孔5の中心軸線と、金型コア4の半径方向(スラリー注入孔5の中心軸線が円筒状ダイ部材3の内周面と交差する点Aとコア中心点Oとを結ぶ直線AO)との角度θ(直角又は鋭角側)は、金型キャビティ6の寸法により若干異なるが、5°〜90°、好ましくは10°〜90°であり、特に30°〜 90°である。金型キャビティ6へのスラリーの注入圧力は限定的でないが、4.9×104 Pa〜3.9×106 Pa(約0.5〜40 kgf/cm2)が好ましく、9.8×104 Pa〜2.9×106 Pa(約1〜30 kgf/cm2)がより好ましく、2.0×105 Pa〜1.5×106 Pa(約2〜15 kgf/cm2)が特に好ましい。
【0048】
スラリー中の微粉を配向させるために金型キャビティ6に印加する半径方向の配向磁界の強さは好ましくは159 kA/m(約2 kOe)以上であり、より好ましくは239 kA/m(約3 kOe)以上である。スラリーを加圧注入後、配向磁界を維持したまま加圧湿式成形を行なう。配向磁界の強さが159 kA/m(約2 kOe)未満では、微粉の配向が不十分であり、良好な磁気特性が得られない。また金型キャビティ6に159 kA/m(約2 kOe)以上の配向磁界を印加しながらスラリーを注入し、注入途中又は注入終了後に、当初の配向磁界強度よりも高い配向磁界を与えて加圧湿式成形しても良い。流動性の改善されたスラリーを上記条件で湿式成形することにより、4.0〜4.8 g/cm3という高い密度を有する成形体が得られる。
【0049】
(D) 脱油
得られた成形体を減圧下で加熱して、成形体中の鉱物油、合成油又はこれらの混合油を除去する。成形体の減圧下での加熱処理の条件は、13.3 Pa(約0.1 Torr)以下、例えば6.7 Pa(約5.0×10-2 Torr)程度の真空度、及び100℃以上、例えば200℃前後の加熱温度である。加熱時間は成形体の重量や処理量により異なるが、1時間以上が好ましい。
【0050】
(E) 焼結
成形体の焼結は、0.13 Pa(約0.001 Torr)以下、好ましくは6.7×10-2 Pa(約5.0×10-4 Torr)以下の真空度で、1000〜1150℃の範囲で行なうのが好ましい。これにより、酸素含有量が実質0%の雰囲気中で微粉砕されたスラリーを用いた焼結体では7.52〜7.85 g/cm3の密度が得られ、酸素含有量が0.005〜0.5%の雰囲気中で微粉砕されたスラリーを用いた焼結体では7.42〜7.75 g/cm3の密度が得られる。いずれの場合も、鉱物油、合成油又はこれらの混合油による大気からの遮断効果により、微粉や成形体の酸化が防止され、前者の焼結体のO含有量は0.05〜0.25質量%であり、後者の焼結体のO含有量は0.25質量%超かつ0.60質量%以下である。
【0051】
以上の通り、半径方向の配向磁界中でリング形状の金型キャビティに、流動性が改善されたスラリーをほぼスパイラル状になめらかに加圧注入することにより、高い充填性、従って高い成形体密度が得られ、成形体や焼結体に割れ、欠け、変形等が発生するのを防止することができる。従って、半径方向に配向したリング状焼結型永久磁石で、外径10〜100 mm、内径8〜96 mm、高さ10〜70 mmの寸法を有するものが得られる。特に本発明は、外径10〜30 mm、内径8〜28 mm、高さ10〜50 mmという小型のリング磁石の製造に好適である。
【0052】
また配向磁界中でなめらかなスラリーの充填が行われるので、成形体の密度は高いのみならず均一であり、従ってリング磁石の軸線方向における表面磁束密度の分布の均一化も達成できる。リング磁石の軸線方向における表面磁束密度のバラツキを7.5%以下にすると、リング磁石を回転機に用いたときに発生するコギングトルク(特により高次のコギングトルク)を十分に抑制することができる。表面磁束密度のバラツキが5%以下、特に3%以下になると、エネルギーのロスがなく、極めて静音性のよい回転機を構成することができる。
【実施例】
【0053】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお磁気特性は室温(25℃)で測定した。また粉末の平均粒径は空気透過法により測定した。
【0054】
参考例1
質量%基準で17.6%のNd、7.9%のPr、5%のDy、1.1%のB、0.08%のAl、1.5%のCo、0.1%のCu、0.01%のP、0.01%のO、0.004%のC、0.006%のN、残部Feからなる組成を有するインゴットを作製した。このインゴットを粉砕して、20〜500μmの粒径の粗粉とした。この粗粉の組成を分析したところ、質量%基準で17.5%のNd、7.7%のPr、5%のDy、1.1%のB、0.08%のAl、1.5%のCo、0.1%のCu、0.01%のP、0.15%のO、0.015%のC、0.006%のN、残部Feであった。
【0055】
この粗粉100 kgをジェットミル内に装入した後、ジェットミル内をArガスで置換し、酸素濃度を実質的に0%とした。次に窒素ガスを導入し、Arガス中の窒素ガスの濃度を0.005%とした。この雰囲気中で、圧力6.9×105 Pa(約7.0 kgf/cm2)、1時間当たりの粗粉供給量12 kg/hで粗粉を微粉砕した。ジェットミルの微粉回収口に鉱物油を満たした容器を設置し、Arガス雰囲気中で、得られた微粉を直接鉱物油中に回収した。得られた微粉の平均粒径は4.5μmであった。鉱物油の量を調整することで、得られるスラリー中の微粉濃度を75質量%とした。
【0056】
このスラリーを金型キャビティ内で796 kA/m(約10 kOe)の配向磁界を印加しながら4.9×107 Pa(約0.5 ton/cm2)の圧力で湿式成形した。配向磁界の印加方向は成形方向と垂直であった。得られた成形体を5.3 Pa(約4.0×10-2 Torr)の真空中で80℃で2時間加熱して、鉱物油を除去し、次いで6.7×10-3 Pa(約5.0×10-5 Torr)の真空中で1065℃で4時間焼結した。得られた焼結体の組成は、質量%基準で17.5%のNd、7.7%のPr、5%のDy、1.1%のB、0.08%のAl、1.5%のCo、0.1%のCu、0.010%のP、0.17%のO、0.070%のC、0.045%のN、残部Feであった。この焼結体にArガス雰囲気中で480℃×2時間の熱処理を施した。機械加工後、焼結磁石の磁気特性を測定したところ、表2に示すように良好であった。
【0057】
比較例1
Pを含有しない以外参考例1と同じ組成のインゴットを作製し、参考例1と同様にして粗粉を作製した。この粗粉の組成は、Pを含有せずかつOが0.14質量%である以外、参考例1と同じであった。この粗粉を参考例1と同様に微粉砕した。得られた微粉の平均粒径は4.5μmであった。この微粉から参考例1と同様に作製した焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で17.5%のNd、7.7%のPr、5%のDy、1.1%のB、0.08%のAl、1.5%のCo、0.1%のCu、0.16%のO、0.070%のC、0.045%のN、残部Feであった。この焼結体を機械加工し、磁気特性を測定した。結果を表2に示す。表2から、比較例1の保磁力iHcは参考例1より低いことが分かる。
【0058】
参考例2
質量%基準で19.8%のNd、8.9%のPr、1.3%のDy、1.1%のB、0.10%のAl、2.5%のCo、0.2%のNb、0.08%のGa、0.01%のO、0.003%のC、0.005%のN、残部Feからなる組成を有するインゴットを作製した。このインゴットを粉砕して、20〜500μmの粒径の粗粉とした。この粗粉の組成を分析したところ、質量%基準で19.7%のNd、8.8%のPr、1.3%のDy、1.1%のB、0.10%のAl、2.5%のCo、0.2%のNb、0.08%のGa、0.12%のO、0.013%のC、0.007%のN、残部Feであった。
【0059】
この粗粉100kgに、純水に5質量%の次亜リン酸ナトリウムを溶かした水溶液454gを混合し、真空中で乾燥した。乾燥後の粗粉の組成を分析したところ、質量%基準で19.7%のNd、8.8%のPr、1.3%のDy、1.1%のB、0.10%のAl、2.5%のCo、0.2%のNb、0.08%のGa、0.008%のP、0.16%のO、0.013%のC、0.009%のN、残部Feであった。参考例1と同様にこの粗粉を微粉砕した。得られた微粉の平均粒径は4.7μmであった。この微粉から参考例1と同様に作製した焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で19.7%のNd、8.8%のPr、1.3%のDy、1.1%のB、0.10%のAl、2.5%のCo、0.2%のNb、0.08%のGa、0.008%のP、0.18%のO、0.067%のC、0.055%のN、残部Feであった。この焼結体を機械加工し、磁気特性を測定したところ、表2に示すように良好であった。
【0060】
比較例2
参考例2と同じ粗粉100kgを、次亜リン酸ナトリウム水溶液を添加しない以外参考例1と同様に微粉砕した。得られた微粉の平均粒径は4.7μmであった。この微粉から参考例1と同様に作製した焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で19.7%のNd、8.8%のPr、1.3%のDy、1.1%のB、0.10%のAl、2.5%のCo、0.2%のNb、0.08%のGa、0.16%のO、0.067%のC、0.050%のN、残部Feであった。この焼結体を機械加工し、磁気特性を測定したところ、表2に示すように、保磁力iHcが参考例2より低かった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
実施例1
質量%基準で、19.85%のNd、8.95%のPr、1.00%のDy、1.02%のB、0.10%のAl、2.00%のCo、0.10%のCu、0.15%のO、0.04%のC、0.02%のN、残部Feからなる組成を有するR-Fe-B系永久磁石用の粗粉をジェットミルに装入し、窒素ガスで置換した後、圧力6.9×105Pa(7.0 kgf/cm2)、粗粉供給量15 kg/hで微粉砕した。得られた微粉をジェットミルの排出口に設置された鉱物油(「スーパーゾルPA30」、出光興産(株)製)中に大気に触れさせずに直接回収し、スラリーとした。
【0064】
この鉱物油には、鉱物油に対する次亜リン酸ナトリウムの割合が0.1質量%になるように、5質量%次亜リン酸ナトリウムグリセリン溶液をあらかじめ混合しておいた。スラリー中の鉱物油と微粉の質量比は1:3であった。得られた微粉の平均粒径は4.5μmであった。このようにして作製したスラリーを、図2に示す配向磁界発生コイルを配置した金型のキャビティに加圧注入して、成形した。
【0065】
スラリー注入孔5の軸線方向と金型コア4の半径方向との角度θは30°とした。キャビティに印加した半径方向の配向磁界の強度は239 kA/m(3 kOe)であり、スラリーの注入圧力は3.9×105Pa(4 kgf/cm2)であった。スラリー注入後、配向磁界強度を239 kA/m(3 kOe)に維持したまま、7.8×107Pa(0.8 ton/cm2)の圧力で磁界中で湿式成形し、外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ30.0 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.30 g/cm3であった。
【0066】
この成形体を6.7 Pa(5×10-2 Torr)の減圧下で200℃×2時間の脱油処理を行い、次いで2.7×10-2Pa(2×10-4 Torr)の減圧下で1050℃×3時間の焼結を行った。得られた焼結体は外径20.0 mm×内径15.0 mm×高さ26.0 mmの寸法、及び7.58 g/cm3の密度を有していた。焼結体に500℃×2時間の熱処理を施した後、機械加工し、外径19.6 mm×内径15.4 mm×高さ25.0 mmの寸法に仕上げた。4極着磁を行った後表面磁束密度の測定を行ったところ、表4に示すように高いピーク値を示した。
【0067】
図3に示すように、焼結体20から5mm×7mm×1mmの試料21b(1mmの厚さ方向が磁化方向)を切り出した。なお21は切り出す前の試料を示す。試料21bを厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表4に示すような高い値を示した。この焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で19.85%のNd、8.95%のPr、1.00%のDy、1.02%のB、0.10%のAl、2.00%のCo、0.10%のCu、0.17%のO、0.06%のC、0.05%のN、0.01%のP、残部Feからなっていた。試料21bをEPMAでライン分析したところ、図4に示すようにPのピークが確認できた。図4から、Pは主に結晶粒界の希土類に富む相に存在していることが分かる。
【0068】
実施例2
実施例1と同じ粗粉を実施例1と同様に微粉砕するとともに鉱物油(「スーパーゾルPA30」、出光興産(株)製)中に回収して、スラリーとした。鉱物油と微粉との質量比は1:3であった。得られた微粉の平均粒径は4.8μmであった。このスラリーに、鉱物油に対する次亜リン酸ナトリウムの割合が0.3質量%になるように、10質量%次亜リン酸ナトリウムエタノール溶液を混合した。得られたスラリーを実施例1と同様に、スラリー注入孔の軸線と金型コアの半径との角度θが5°の金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形して、外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ30.0 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.40 g/cm3であった。
【0069】
この成形体を実施例1と同様に脱油、焼結し、外径20.1 mm×内径14.9 mm×高さ26.2 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.56 g/cm3であった。この焼結体に500℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を機械加工して外径19.6 mm×内径15.4 mm×高さ25.0 mmの寸法に仕上げ、実施例1と同様に4極着磁を行った。表面磁束密度の測定を行ったところ、表4に示すように高いピーク値を示した。
【0070】
この焼結体から図3に示すように試料21bを切り出した。試料21bの切り出し位置、寸法及び磁気特性の測定条件は実施例1と同一とした。磁気特性は表4に示すように良好であった。焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で19.85%のNd、8.95%のPr、1.00%のDy、1.02%のB、0.10%のAl、2.00%のCo、0.10%のCu、0.16%のO、0.06%のC、0.04%のN、0.03%のP、残部Feであった。試料21bをEPMAでライン分析した結果、図5に示すようにPのピークが確認できた。
【0071】
実施例3
実施例1で作製したスラリーを実施例1と同様に、半径方向に239 kA/m(3 kOe)の配向磁界が印加されている金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形した。スラリーの注入圧力は3.9×105Pa(4 kgf/cm2)であった。スラリーの注入開始から0.5秒後に配向磁界の強度を398 kA/m(5 kOe)に増加させ、スラリーの注入終了後この磁界強度を維持しながら、湿式成形し、外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ30.0 mmの成形体を得た。得られた成形体の密度は4.25 g/cm3であった。
【0072】
この成形体を実施例1と同様に脱油、焼結し、外径19.9mm×内径15.1mm×高さ26.1mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.59g/cm3であった。この焼結体を実施例1と同様に熱処理し、外径19.6mm×内径15.4mm×高さ25.0mmの寸法に機械加工した。得られた製品に4極着磁をして、軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度を測定したところ、表4に示すように良好であった。また実施例1と同様に切り出した試料の磁気特性を測定したところ、表4に示すような高い値を有していた。
【0073】
実施例4
実施例1で作製したスラリーを実施例1と同様に、スラリー注入孔の軸線と金型コアの半径との角度θが45°の金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形した。ただし、金型は大口径リング磁石用に変更した。キャビティに印加した半径方向の配向磁界の強度は478 kA/m(約6 kOe)であり、注入圧力は5.9×105 Pa(約6 kgf/cm2)であった。スラリー注入後、配向磁界強度を478 kA/m(約6 kOe)に維持したまま、4.9×107 Pa(0.5 ton/cm2)の圧力で磁界中で湿式成形し、外径114.0 mm×内径95.0 mm×高さ20.5 mmの成形体を得た。得られた成形体の密度は4.28 g/cm3であった。
【0074】
この成形体を実施例1と同様に脱油、焼結し、外径92.5 mm×内径81.5 mm×高さ18 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.57 g/cm3であった。焼結体に500℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を機械加工して、外径91.5 mm×内径80.5 mm×高さ16 mmの寸法に仕上げた。16極着磁を行って軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度を測定したところ、表4に示すように良好であった。焼結体から切り出した5 mm×10 mm×2 mmの試料を厚さ方向に4枚重ねて磁気特性を測定したところ、表4に示すような高い値を有していた。
【0075】
実施例5
実施例1で作製したスラリーを実施例1と同様に、スラリー注入孔の軸線と金型コアの半径との角度θが15°の金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形した。ただし、金型は中口径の長尺リング磁石用に変更した。キャビティに印加した半径方向の配向磁界の強度は199 kA/m(約2.5 kOe)であり、注入圧力は2.0×105 Pa(約2 kgf/cm2)であった。スラリー注入後配向磁界強度を637 kA/m(8 kOe)に増加させ、この配向磁界強度を維持したまま3.9×107 Pa(0.4 ton/cm2)の圧力で磁界中で湿式成形し、外径50 mm×内径40 mm×高さ76 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.15 g/cm3であった。
【0076】
この成形体を実施例1と同様に脱油、焼結し、外径40.4mm×内径35.0mm×高さ65.2mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.59g/cm3であった。焼結体に500℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を機械加工し、外径40.0mm×内径35.4mm×高さ64.2mmの寸法に仕上げた。8極着磁を行って軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度を測定したところ、表4に示すように良好であった。焼結体から切り出した5mm×8mm×1mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表4に示すような高い値を有していた。
【0077】
比較例3
実施例1と同じ粗粉を実施例1と同様に微粉砕し、得られた微粉を鉱物油(「スーパーゾルPA30」、出光興産(株)製)中に回収して、スラリーとした。鉱物油と微粉との質量比は1:3であった。微粉の平均粒径は4.5μmであった。鉱物油に対する次亜リン酸ナトリウムの割合が1質量%になるように、5質量%次亜リン酸ナトリウムグリセリン溶液をあらかじめ鉱物油に混合しておいた。得られたスラリーを実施例1と同様に金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形し、外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ30.0 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.35 g/cm3であった。
【0078】
この成形体を実施例1と同様に脱油、焼結し、外径20.2 mm×内径15.1 mm×高さ25.9 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.58 g/cm3であった。焼結体に500℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を機械加工しようとしたが、焼結体の機械的強度が低いために加工時の負荷により割れてしまい、評価できなかった。焼結体の破片から切り出した5 mm×7 mm×1 mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定した。結果を表4に示す。焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で19.85%のNd、8.95%のPr、1.00%のDy、1.02%のB、0.10%のAl、2.00%のCo、0.10%のCu、0.16%のO、0.07%のC、0.04%のN、0.09%のP、残部Feであった。
【0079】
比較例4
実施例1と同じ粗粉を実施例1と同様に微粉砕し、得られた微粉を鉱物油(「スーパーゾルPA30」、出光興産(株)製)中に回収して、スラリーとした。鉱物油と微粉との質量比は1:3であった。微粉の平均粒径は4.5μmであった。鉱物油及びスラリーのいずれにも、流動性向上剤(次亜リン酸ナトリウムグリセリン溶液又は次亜リン酸ナトリウムエタノール溶液)を混合しなかった。このスラリーを実施例1と同様に金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形したが、加圧注入時のスラリーの流動性が悪く、金型キャビティへの充填性が低いために、得られた成形体の寸法は外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ26.5 mmであった。成形体の密度は3.80 g/cm3であった。
【0080】
この成形体を実施例1と同様に脱油、焼結し、外径19.7mm×内径14.8mm×高さ23.3mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.57g/cm3であった。上パンチ側へのスラリーの充填性が悪いために、焼結体の上パンチ側が楕円状に変形していた。変形のため、焼結体を所望の製品寸法に機械加工できなかった。焼結体に500℃×2時間の熱処理を施し、変形部以外の部位から5mm×7mm×1mmの試料を切り出した。8枚の試料を厚さ方向に重ねて磁気特性を測定した。結果を表4に示す。焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で19.85%のNd、8.95%のPr、1.00%のDy、1.02%のB、0.10%のAl、2.00%のCo、0.10%のCu、0.16%のO、0.07%のC、0.06%のN、残部Feであった。この焼結体をEPMAでライン分析したが、図6に示すように、実施例1及び2の焼結体に存在したPのピークはなかった。
【0081】
比較例5
実施例1で作製したスラリーを実施例1と同様に、スラリー注入孔の軸線方向が金型コアの半径方向と一致した(θ=0°)金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形し、外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ30.0 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.29 g/cm3であった。この成形体を実施例1と同様に脱油、焼結し、外径20.1 mm×内径15.1 mm×高さ25.9 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.60 g/cm3であった。得られた焼結体には、注入孔と180°反対の位置に長手方向のクラックが発生していた。クラックのため、この焼結体は所望の寸法に機械加工できなかった。クラックのない部位から切り出した5mm×7mm×1mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定した。結果を表4に示す。
【0082】
比較例6
実施例1で作製したスラリーを実施例1と同様に金型キャビティに加圧注入し、79.6 kA/m(1.0 kOe)の配向磁界中で湿式成形して、外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ30.0 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.32 g/cm3であった。この成形体を実施例1と同様に脱油、焼結し、外径20.3 mm×内径15.2 mm×高さ25.8 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.59 g/cm3であった。この焼結体に500℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を機械加工し、外径19.6 mm×内径15.4 mm×高さ25.0 mmの寸法に仕上げた。4極着磁を行った後表面磁束密度の測定を行ったが、表4に示すようにピーク値は実施例1より低かった。焼結体から切り出した5 mm×7 mm×1 mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表4に示すように実施例1より低かった。
【0083】
実施例6
質量%基準で22.00%のNd、5.50%のPr、5.00%のDy、1.03%のB、0.08%のAl、1.00%のCo、0.12%のCu、0.10%のGa、0.09%のO、0.03%のC、0.015%のN、残部Feからなる組成を有するR-Fe-B系永久磁石用の粗粉をジェットミルに装入し、窒素ガスで置換した後、6.4×105Pa(6.5 kgf/cm2)の圧力及び20 kg/hの粗粉供給量で微粉砕した。粉砕中、ジェットミルの内に微量の酸素を導入し、窒素ガス中の酸素濃度を0.080〜0.120%に制御した。得られた微粉の粒径は5.0μmであった。微粉の組成は、質量%基準で22.00%のNd、5.50%のPr、5.00%のDy、1.03%のB、0.08%のAl、1.00%のCo、0.12%のCu、0.10%のGa、0.48%のO、0.06%のC、0.015%のN、残部Feであった。
【0084】
この微粉を鉱物油(「スーパーゾルPA30」、出光興産(株)製)と混ぜてスラリーとした。鉱物油は、鉱物油に対する次亜リン酸ナトリウムの割合が0.2質量%になるように、5質量%次亜リン酸ナトリウムグリセリン溶液を含有していた。鉱物油と微粉の質量比は1:3であった。得られたスラリーを実施例1と同様に、半径方向に配向磁界が印加されたリング状の金型キャビティに加圧注入し、湿式成形して、外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ30.0 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.45 g/cm3であった。
【0085】
この成形体を6.7 Pa(5×10-5 Torr)の減圧下で1070℃×3時間で焼結し、外径20.3 mm×内径15.1 mm×高さ25.8 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.61 g/cm3であった。焼結体に550℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を外径19.6 mm×内径15.4 mm×高さ25.0 mmの寸法に機械加工し、8極着磁を行った。表面磁束密度の測定結果を表4に示す。また焼結体から実施例1と同じ寸法の試料を切り出し、磁気特性を測定したところ、表4に示すように良好であった。また焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で22.00%のNd、5.50%のPr、5.00%のDy、1.03%のB、0.08%のAl、1.00%のCo、0.12%のCu、0.10%のGa、0.46%のO、0.06%のC、0.015%のN、0.02%のP、残部Feであった。
【0086】
比較例7
実施例6で作製した乾燥微粉を鉱物油と混合せずに実施例6と同じ金型キャビティに充填し、239 kA/m(3kOe)の配向磁界中で7.8×107 Pa(0.8 ton/cm2)の圧力下で成形して、外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ30.0 mmの成形体を作製した。成形体の密度は3.78 g/cm3であった。この成形体を2.7 Pa(2×10-5Torr)の減圧下で1070℃×3時間で焼結し、外径20.1 mm×内径15.0 mm×高さ25.9 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.59 g/cm3であった。この焼結体に550℃×2時間の熱処理を施した後、機械加工により外径19.6 mm×内径15.4 mm×高さ25.0 mmの寸法とした。これを8極着磁し、軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度を測定したところ、表4に示すように実施例6り低かった。焼結体から切り出した5 mm×7 mm×1 mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表4に示すように実施例6より低かった。
【0087】
比較例8
実施例6の金型キャビティに実施例6で作製した乾燥微粉を鉱物油と混合せずに上から充填し、318 kA/m(4 kOe)の配向磁界中で7.8×107 Pa(0.8 ton/cm2)の圧力で成形して外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ10.0 mmの第一の成形体を作製した。次いで下パンチを降下させて、第一の成形体の上に再度乾燥微粉を充填し、7.8×107 Pa(0.8 ton/cm2)の圧力で第一の成形体と同容積で一体的な第二の成形体(外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ10.0 mm)を作製した。さらに同じ要領で3度目の充填と成形を行い、同容積の第三の成形体を一体的に作製した。得られた一体的な成形体の寸法は、外径24.5 mm×内径17.4 mm×高さ30.0 mmであった。成形体の密度は3.74 g/cm3であった。
【0088】
この成形体を、6.7 Pa(5.0×10-5 Torr)の減圧下で1070℃×3時間で焼結し、外径20.0 mm×内径14.9 mm×高さ26.1 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.58 g/cm3であった。この焼結体に550℃×2時間の熱処理を施した後、機械的加工により外径19.6 mm×内径15.4 mm×高さ25.0 mmの寸法とした。これを8極着磁し、軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度を測定したところ、表4に示すように比較例7より高かったが、実施例6より低かった。焼結体から切り出した5 mm×7 mm×1 mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表4に示すように、比較例7より高かったが、実施例6より低かった。また焼結体の三段重ね成形の継ぎ目部で表面磁束密度が局部的に低下しており、モータに組み込んだ時のコギング特性は実施例6より悪かった。
【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
実施例7
質量%基準で、20.50%のNd、9.25%のPr、0.25%のDy、1.03%のB、0.08%のAl、2.00%のCo、0.10%のCu、0.13%のO、0.04%のC、0.02%のN、残部Feからなる組成を有するR-Fe-B系永久磁石用の粗粉をジェットミルに装入し、窒素ガスで置換した後、6.9×105Pa(7.0 kgf/cm2)の圧力及び20 kg/hの粗粉供給量で微粉砕した。得られた微粉をジェットミルの排出口に設置された鉱物油(「スーパーゾルPA30」、出光興産(株)製)中に大気に触れさせずに直接回収して、スラリーとした。
【0092】
この鉱物油には、鉱物油に対する次亜リン酸ナトリウムの割合が0.2質量%になるように5質量%次亜リン酸ナトリウムグリセリン溶液をあらかじめ混合しておいた。鉱物油と微粉の質量比は1:3であった。微粉の平均粒径は4.7μmであった。このようにして作製したスラリーを図2に示すスラリー注入孔5の軸線と金型コア4の半径との角度θが45°の金型に加圧注入した。キャビティに印加した半径方向の配向磁界の強度は239 kA/m(約3 kOe)、スラリーの注入圧力は2.9×105 Pa(約3 kgf/cm2)であった。スラリー注入後、配向磁界強度を239 kA/m(約3 kOe)に維持したまま、3.9×107 Pa(約0.4 ton/cm2)の圧力で磁界中で湿式成形し、外径25.3 mm×内径17.5 mm×高さ21.8 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.40 g/cm3であった。
【0093】
この成形体を6.7 Pa(約5.0×10-2 Torr)の減圧下で180℃×4時間の脱油処理を行ない、次いで6.7×10-2Pa(約5.0×10-4 Torr)の減圧下で1040℃×3時間で焼結した。得られた焼結体の寸法は外径20.6 mm×内径15.3 mm×高さ18.8 mmであり、密度は7.56 g/cm3であった。焼結体に480℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を機械加工して、外径20.1 mm×内径15.9 mm×高さ17.2 mmの寸法に仕上げた。単重率(加工後の焼結体の重量/加工前の焼結体の重量×100%)は72.7%であった。単重率は加工率と呼ぶこともある。
【0094】
4極着磁したリング磁石の外周面上の軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度B0をホールセンサのプローブで測定した。表面磁束密度B0の測定結果から、表面磁束密度B0のピーク値(最大値)及び表面磁束密度B0のバラツキ[(B0の最大値−B0の最小値)/B0の最大値]×100(%)を求めた。結果を表6及び図7に示す。図7において、縦軸はリング磁石の軸線方向の磁極に沿った表面磁束密度B0(T)を示し、横軸はプローブをリング磁石の軸線方向に沿って移動させた距離(mm)を示す。距離Hはリング磁石の軸線方向長さ(17.2mm)に相当する。表6から明らかなように、表面磁束密度B0のピーク値は高く、表面磁束密度B0のバラツキは小さかった。
【0095】
同様に作製した焼結体20から図3に示すように4 mm×7 mm×1 mmの試料21bを切り出し、試料21bを厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表6に示すような高い値を有していた。焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で20.50%のNd、9.25%のPr、0.25%のDy、1.03%のB、0.08%のAl、2.00%のCo、0.10%のCu、0.15%のO、0.06%のC、0.05%のN、0.018%のP、残部Feであった。また試料21bをEPMAでライン分析したところ、図8に示すようにPのピークが確認できた。図8から、Pは主に結晶粒界の希土類に富む相に存在していることが分かる。
【0096】
実施例8
実施例7と同じ粗粉を実施例7と同様に微粉砕し、鉱物油(「スーパーゾルPA30」、出光興産(株)製)中に回収して、スラリーとした。鉱物油と微粉との質量比は1:3であった。得られた微粉の平均粒径は4.6μmであった。このスラリーに、鉱物油に対する次亜リン酸ナトリウムの割合が0.4質量%になるように、10質量%次亜リン酸ナトリウムエタノール溶液を混合した。このスラリーを実施例7と同様に、スラリー注入孔の軸線と金型コアの半径との角度θが30°の金型キャビティに加圧注入して、磁界中で湿式成形し、外径25.3 mm×内径17.5 mm×高さ21.8 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.35 g/cm3であった。1時間当りの成形体の製造個数は123個であった。製品の単重率は72.9%であった。
【0097】
この成形体を実施例7と同様に脱油、焼結し、外径20.6mm×内径15.3mm×高さ18.75mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.55g/cm3であった。この焼結体に480℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を機械加工して、外径20.1mm×内径15.9mm×高さ17.2mmの寸法に仕上げた。実施例7と同様に4極着磁を行った後、軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度B0の測定を行ったところ、表6に示すように表面磁束密度B0の高いピーク値を示した。また表面磁束密度B0の軸線方向のバラツキを計算したところ、表6に示すように小さかった。
【0098】
実施例7と同様に焼結体から図3に示すように試料を切り出した。磁気特性の測定の結果を表6に示す。焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で20.50%のNd、9.25%のPr、0.25%のDy、1.03%のB、0.08%のAl、2.00%のCo、0.10%のCu、0.16%のO、0.07%のC、0.06%のN、0.037%のP、残部Feであった。またこの焼結体をEPMAでライン分析した結果、図9に示すようにPのピークが確認できた。
【0099】
実施例9
実施例7で作製したスラリーを、実施例7と同様にスラリー注入孔の軸線と金型コアの半径との角度θが60°の金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形した。ただし、金型のキャビティ部の寸法は変更した。キャビティに印加した半径方向の配向磁界の強度は398 kA/m(約5 kOe)、注入圧力は5.9×105 Pa(約6 kgf/cm2)であった。スラリー注入後、配向磁界強度を398 kA/m(約5 kOe)に維持したまま、7.8×107 Pa(約0.8 ton/cm2)の圧力で磁界中で湿式成形し、外径33.4 mm×内径24.3 mm×高さ55.1 mmの成形体を得た。1時間当りの成形体の製造個数は125個であった。成形体の密度は4.45 g/cm3であった。
【0100】
この成形体を実施例7と同様に脱油、焼結し、外径27.4 mm×内径21.1 mm×高さ47.4 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.57 g/cm3であった。焼結体に480℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を機械加工して、外径26.8 mm×内径21.8 mm×高さ45.0 mmの寸法に仕上げた。製品の単重率は75.5%であった。4極着磁を行って軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度を測定したところ、そのピーク値及びバラツキは表6に示すように良好であった。焼結体から切り出した4 mm×7 mm×1 mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表6に示すような高い値を有していた。
【0101】
実施例10
実施例9で作製したスラリーを実施例9と同様に、半径方向に159 kA/m(約2 kOe)の配向磁界を印加した金型キャビティに3.9×105 Pa(約4 kgf/cm2)の圧力で注入し、磁界中で湿式成形した。スラリーの注入開始から0.5秒後に配向磁界の強度を318 kA/m(約4 kOe)に増加させ、注入終了後この磁界強度を維持しながら磁界中で湿式成形し、外径33.4 mm×内径24.3 mm×高さ54.8 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.45 g/cm3であった。1時間当りの成形体の製造個数は121個であった。
【0102】
この成形体を実施例7と同様に脱油、焼結し、外径27.4mm×内径21.1mm×高さ47.1mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.57g/cm3であった。この焼結体を実施例7と同様に熱処理し、外径26.8mm×内径21.8mm×高さ45.0mmの寸法に機械加工した。製品の単重率は6.0%であった。4極着磁をした後表面磁束密度B0を測定したところ、そのピーク値及びバラツキは表6に示すように良好であった。また実施例7と同様に切り出した試料の磁気特性を測定したところ、表6に示すような高い値を有していた。
【0103】
実施例11
実施例7で作製したスラリーを実施例7と同様に、スラリー注入孔の軸線と金型コアの半径との角度θが15°の金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形した。ただし、金型のキャビティ部の寸法は変更した。キャビティに印加した半径方向の配向磁界の強度は223 kA/m(2.8 kOe)であり、注入圧力は3.9×105 Pa(約4 kgf/cm2)であった。スラリー注入後、配向磁界強度を223 kA/m(2.8 kOe)に維持したまま、3.9×107 Pa(約0.4 ton/cm2)の圧力で磁界中で湿式成形し、外径17.9 mm×内径11.1 mm×高さ16.4 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.40 g/cm3であった。1時間当りの成形体の製造個数は140個であった。
【0104】
この成形体を実施例7と同様に脱油、焼結し、外径14.6 mm×内径9.6 mm×高さ14.2 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.58 g/cm3であった。焼結体に480℃×2時間の熱処理を施した。この焼結体を機械加工して、外径14.0 mm×内径10.0 mm×高さ12.5 mmの寸法に仕上げた。製品の単重率は69.8%であった。4極着磁を行って軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度を測定したところ、そのピーク値及びそのバラツキは表6に示すように良好であった。焼結体から切り出した3 mm×7 mm×1 mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表6に示すような高い値を有していた。
【0105】
比較例9
実施例7と同じ粗粉を実施例7と同様に微粉砕し、鉱物油(「スーパーゾルPA30」、出光興産(株)製)中に回収して、スラリーとした。鉱物油と微粉との質量比は1:3であった。得られた微粉の平均粒径は4.6μmであった。鉱物油及びスラリーには、次亜リン酸ナトリウムグリセリン溶液又は次亜リン酸ナトリウムエタノール溶液を混合しなかった。このスラリーを実施例7と同様に加圧注入し、磁界中で湿式成形した。しかし、スラリーの流動性が悪いために金型キャビティへの充填性が低く、得られた成形体の寸法は外径25.3 mm×内径17.5 mm×高さ19.5 mmであった。成形体の密度は3.85 g/cm3であった。1時間当りの成形体の製造個数は116個であった。
【0106】
この成形体を実施例7と同様に脱油、焼結し、外径20.3 mm×内径15.0 mm×高さ15.9 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.55 g/cm3であった。しかし、スラリーの充填性が悪いため、焼結体の上パンチ側の部分が楕円状に変形しており、焼結体を機械加工しても製品寸法にならなかった。焼結体に480℃×2時間の熱処理を施し、変形部以外の部位から4 mm×7 mm×1 mmの試料を切り出し、試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定した。結果を表6に示す。焼結体の組成を分析したところ、質量%基準で20.50%のNd、9.25%のPr、0.25%のDy、1.03%のB、0.08%のAl、2.00%のCo、0.10%のCu、0.15%のO、0.07%のC、0.05%のN、残部Feであった。この焼結体をEPMAでライン分析したが、図10に示すようにPのピークがないことが確認された。
【0107】
比較例10
実施例7で作製したスラリーを実施例7と同様に、スラリー注入孔の軸線方向が金型コアの半径方向である(θ=0°)金型キャビティに加圧注入し、磁界中で湿式成形し、外径25.3 mm×内径17.5 mm×高さ21.7 mmの成形体を得た。成形体の密度は4.38 g/cm3であった。1時間当りの成形体の製造個数は118個であった。この成形体を実施例7と同様に脱油、焼結し、外径20.6 mm×内径15.3 mm×高さ18.7 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.56 g/cm3であった。焼結体には、注入孔と180°反対の位置に、長手方向クラックが発生していた。クラックのため、焼結体を機械加工しても製品寸法にならなかった。クラックのない部位から切り出した4 mm×7 mm×1 mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定した。結果を表6に示す。
【0108】
比較例11
質量%基準で22.25%のNd、10.00%のPr、0.25%のDy、1.03%のB、0.07%のAl、2.00%のCo、0.12%のCu、0.10%のGa、0.15%のO、0.03%のC、0.015%のN、残部Feからなる組成を有するR-Fe-B系永久磁石用の粗粉をジェットミルに装入し、窒素ガスで置換した後、6.4×105Pa(6.5 kgf/cm2)の圧力及び30 kg/hの粗粉供給量で微粉砕した。微粉砕中、ジェットミル内に微量の酸素を導入し、窒素ガス中の酸素濃度を0.080〜0.120%に制御した。得られた微粉の粒径は4.8μmであり、その組成は質量%基準で22.25%のNd、10.00%のPr、0.25%のDy、1.03%のB、0.07%のAl、2.00%のCo、0.12%のCu、0.10%のGa、0.52%のO、0.06%のC、0.015%のN、残部Feであった。
【0109】
得られた乾燥微粉を鉱物油と混合せずに、スラリーの注入孔がなく、キャビティ深さが1/3である以外実施例7と同じ金型キャビティに上から充填し、398kA/m(約5kOe)の配向磁界中で7.8×107Pa(約0.8 ton/cm2)の圧力で第一の成形体を作製した。次いで下パンチを降下させて、第一の成形体の上に再度乾燥微粉を充填し、7.8×107Pa(0.8 ton/cm2)の圧力で第一の成形体と同容積で一体的な第二の成形体を作製した。さらに同じ要領で3度目の充填と成形を行い、同容積の第三の成形体を一体的に作製した。得られた一体的な成形体の寸法は、外径25.3 mm×内径17.5 mm×高さ21.5 mmであった。成形体の密度は3.80 g/cm3であった。1時間当りの成形体の製造個数は48個であった。
【0110】
この成形体を6.7×10-3 Pa(約5×10-5 Torr)の減圧下で1070℃×3時間で焼結し、外径20.7 mm×内径15.4 mm×高さ18.8 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.52 g/cm3であった。この焼結体に480℃×2時間の熱処理を施した。さらに機械的加工により外径20.1 mm×内径15.9 mm×高さ17.2 mmの寸法とした。製品の単重率は72.3%であった。この焼結体を4極着磁し、軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度を測定したところ、表6及び図11に示すように、実施例7よりピーク値が低く、バラツキは三段成形の接合部の影響で大きかった。焼結体から切り出した4 mm×7 mm×1 mmの試料を厚さの方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表6に示すように実施例7より低かった。また焼結体の表面磁束密度B0は三段重ね成形の接合部で局部的に低く、モータに組み込んだ時のコギングは実施例7より大きかった。
【0111】
比較例12
乾燥微粉を鉱物油と混合せずに、スラリーの注入孔がなく、キャビティ深さが1/3である以外比較例11と同じ金型キャビティに上から充填した。478 kA/m(約6 kOe)の配向磁界中で7.8×107Pa(約0.8 ton/cm2)の圧力で第一の成形体を作製した。次いで下パンチを降下させて、第一の成形体の上に再度乾燥微粉を充填し、7.8×107Pa(0.8 ton/cm2)の圧力で第一の成形体と同容積で一体的な第二の成形体を作製した。さらに同じ要領で3度目の充填と成形を行い、同容積の第三の成形体を一体的に作製した。得られた一体的な成形体の寸法は、外径33.4 mm×内径24.3 mm×高さ54.6 mmであった。成形体の密度は3.75 g/cm3であった。1時間当りの成形体の製造個数は45個であった。
【0112】
この成形体を6.7×10-3 Pa(約5×10-5 Torr)の減圧下で1070℃×3時間で焼結し、外径27.3 mm×内径21.4 mm×高さ47.5 mmの焼結体を得た。焼結体の密度は7.51 g/cm3であった。この焼結体に480℃×2時間の熱処理を施した。さらに機械的加工により外径26.8 mm×内径21.8 mm×高さ45.0 mmの寸法とした。製品の単重率は80.1%であった。これを4極着磁し、軸線方向の磁極に沿って表面磁束密度を測定したところ、表6に示すように、実施例9よりピーク値が低く、バラツキは大きかった。焼結体から切り出した4mm×7mm×1mmの試料を厚さ方向に8枚重ねて磁気特性を測定したところ、表6に示すように、実施例9より低かった。また焼結体の表面磁束密度B0は三段重ね成形の接合部で局部的に低く、モータに組み込んだ時のコギングは実施例9より大きかった。
【0113】
比較例13
質量%基準で30.0%のNd、0.90%のB、5.00%のCo、0.20%のGa、残部Feからなる組成を有する母合金を、下部に孔を有する石英ノズルに入れ、石英ノズル内を0.4 Pa(約3×10-3 Torr)に減圧した。5.3×104 Pa(約400 Torr)の圧力になるまでArガスを導入した雰囲気中で高周波により母合金を溶解し、得られた溶湯を270 g/cm3のAr圧力で、周速30 m/sで回転するBe-Cuロール上に噴出させた。これにより、平均厚さ30μmの薄帯状の合金を得た。
【0114】
薄帯状の合金を500μm以下に粗粉砕し、得られた粗粉に0.2質量%の鱗状黒鉛と0.3質量%の硼珪酸ビスマス系の低融点非晶質ガラスを混合した。得られた粗粉混合物を4.9×108Pa(約5 ton/cm2)の圧力で冷間プレスし、5.8 g/cm3の密度を有する圧粉体とした。この圧粉体を0.67 Pa(5.0×10-3 Torr)の真空中で740℃及び2×108 Pa(2 ton/cm2)でホットプレスし、7.40 g/cm3の密度を有する焼結体とした。この焼結体をさらに0.67 Pa(5.0×10-3 Torr)の真空中で740℃で熱間塑性加工し、外径22.0 mm×内径14.5 mm×高さ48.0 mmで、底部の厚さが10 mmのカップ体とした。ラジアル異方性を付与するため、1時間当りの熱間塑性加工数は3個と少なかった。カップ体の底部を機械加工により切除した。また底部と反対側でクラックが発生した端部も切除した。得られたリングの内周及び外周を機械加工し、外径20.1 mm×内径15.9 mm×高さ28.0 mmの製品寸法とした。製品の熱間塑性加工体に対する単重率は17.0%と低かった。
【0115】
このリング磁石に実施例7と同様に4極着磁を行った。表面磁束密度の測定を行ったところ、表6及び図12に示すように、実施例7よりピーク値が低く、また軸線方向両端部の表面磁束密度が低く、表面磁束密度のバラツキは大きかった。製品から切り出した4 mm×7 mm×1 mmの試料の磁気特性の測定の結果、表6に示すように、実施例7より低かった。また製品をモータに組み込んだ時のコギングは実施例7より大きかった。
【0116】
比較例14
質量%基準で28.0%のNd、0.50%のCe、0.90%のB、3.0%のCo、0.15%のGa、残部Feからなる組成の母合金から比較例13と同様に薄帯を作製し、薄帯を粉砕して粗粉とした。この粗粉から比較例13と同様に5.7 g/cm3の圧粉体を作製し、0.4 Pa(3×10-3 Torr)の真空中で720℃で7.30 g/cm3の密度にホットプレスした。得られたプレス体を比較例13と同様に0.4 Pa(3×10-3 Torr)の真空中で720℃で熱間塑性加工し、外径30.0 mm×内径19.5 mm×高さ65.0 mmで、底部の厚さが10 mmのカップ体を得た。1時間当りの熱間塑性加工数は4個であった。
【0117】
カップ体の底部を機械加工により切除した。また底部と反対側でクラックが発生した端部も切除した。得られたリングの内周及び外周を機械加工し、外径26.8 mm×内径21.8 mm×高さ45.0 mmの製品寸法とした。製品の熱間塑性加工体に対する単重率は29.1%と低かった。この製品に実施例9と同様に4極着磁を行った。表面磁束密度の測定を行ったところ、表6に示すように、実施例9よりピーク値が低く、軸線方向両端部の表面磁束密度B0が低く、表面磁束密度B0のバラツキは大きかった。製品から切り出した4 mm×7 mm×1 mmの試料の磁気特性の測定の結果、表6に示すように、実施例9より低かった。またモータに組み込んだ時のコギングは実施例9より大きかった。
【0118】
【表5】

【0119】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は高性能なラジアル異方性の焼結型R-Fe-B系永久磁石及びその製造方法に利用することができる。特に表面磁束密度の均一性に優れた高性能なラジアル異方性の焼結型R-Fe-B系永久磁石、及びその効率的な製造方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】焼結型永久磁石の保磁力iHcとPの含有量との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の方法を実施するための成形装置を示す概略図である。
【図3】(a)はリング状焼結体から試料を切り出す様子を示す概略斜視図であり、(b)はリング状焼結体から試料を切り出す様子を示す横断面図である。
【図4】実施例1の焼結体のEPMAライン分析結果を示すグラフである。
【図5】実施例2の焼結体のEPMAライン分析結果を示すグラフである。
【図6】比較例4の焼結体のEPMAライン分析結果を示すグラフである。
【図7】実施例7のリング磁石の表面磁束密度分布を示すグラフである。
【図8】実施例7の焼結体のEPMAライン分析結果を示すグラフである。
【図9】実施例8の焼結体のEPMAライン分析結果を示すグラフである。
【図10】比較例9の焼結体のEPMAライン分析結果を示すグラフである。
【図11】比較例11のリング磁石の表面磁束密度分布を示すグラフである。
【図12】比較例13のリング磁石の表面磁束密度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0122】
1 磁界発生コイル、 2 ダイスケース、 3 円筒状ダイ部材、 4 コア、
5 スラリー注入孔、 6 キャビティ、 7 磁力線、 9 下パンチ、
10 上パンチ、 11 成形装置の縦断面、 12 金型の横断面及びその拡大図、
20 焼結体、 21 切り出す前の試料、 21b 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結型R-Fe-B系永久磁石用粗粉(RはYを含む希土類元素の中から選択される少なくとも1種の希土類元素である)を粉砕して微粉として、直接鉱物油、合成油又はこれらの混合油中に回収してスラリーとし、前記スラリーを金型のキャビティに加圧注入して磁界中で湿式成形し、得られた成形体を減圧下で加熱して前記成形体から前記鉱物油、前記合成油又はこれらの混合油を除去し、前記成形体を真空中で焼結する焼結型永久磁石の製造方法であって、前記金型は中空構造のダイ部材と前記ダイ部材の内周側にリング形状のキャビティを介して配置されたコアとを有し、前記ダイ部材には前記スラリーを前記金型のキャビティに加圧注入するためのスラリー注入孔が設けられ、この注入孔の軸線方向が前記金型のコアの中心から外れていることを特徴とする焼結型永久磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結型永久磁石の製造方法において、前記キャビティに半径方向の配向磁界が印加されることを特徴とする焼結型永久磁石の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の焼結型永久磁石の製造方法において、前記スラリー注入孔の中心軸線と、前記中心軸線が前記ダイ部材の内周面と交差する点Aと前記コア中心点Oとを結ぶ直線AOとのなす角度θが5〜90°であることを特徴とする焼結型永久磁石の製造方法。
【請求項4】
焼結型R-Fe-B系永久磁石用粗粉(RはYを含む希土類元素の中から選択される少なくとも1種の希土類元素である)を粉砕して得られた微粉と鉱物油、合成油又はこれらの混合油との混合物からなるスラリーを磁界中で湿式成形するための金型であって、前記金型は中空構造のダイ部材と前記ダイ部材の内周側にリング形状のキャビティを介して配置されたコアとを有し、前記ダイ部材には前記スラリーを前記金型のキャビティに加圧注入するためのスラリー注入孔が設けられ、この注入孔の軸線方向が前記金型のコアの中心から外れていることを特徴とする金型。
【請求項5】
請求項4に記載の焼結型永久磁石の金型において、前記キャビティに半径方向の配向磁界が印加されることを特徴とする金型。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の焼結型永久磁石の金型において、前記スラリー注入孔の中心軸線と、前記中心軸線が前記ダイ部材の内周面と交差する点Aと前記コア中心点Oとを結ぶ直線AOとのなす角度θが5〜90°であることを特徴とする金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−163466(P2008−163466A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7983(P2008−7983)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【分割の表示】特願2003−349469(P2003−349469)の分割
【原出願日】平成15年10月8日(2003.10.8)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】