説明

焼肉用石焼プレート

【課題】電磁調理器で石焼プレートをロスなく加熱できるようにする。その際、多孔質な石焼プレートが伝導率の低下や加熱ムラを生じないようにする。
【解決手段】電磁調理器11のトッププレート12と接する石板13の一方の面14に、メッキでもって発熱層15を形成し、強固に密着させることで発熱層15の熱を直接石板13へ伝えるようにする。また、メッキでもって多孔質な面の穴31の中にも発熱層15を強固に密着させることで、多孔質な石焼プレート10が伝導率の低下や加熱ムラを生じないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁調理器用の焼肉用石焼プレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
石焼プレートは、肉を石の放射する遠赤外線で焦がさず素早く芯まで火を通して、旨みを逃さず短時間で美味しく焼くことができるといわれている。また、前記石焼プレートは、焼肉中の肉の余分な脂やタレなどを吸収し、焼肉特有の臭いの付着も少なくできるなどのメリットも多いので、焼肉の一つの調理形態となっている。
【0003】
ここで、石焼プレートとは、例えば、多孔質な火成岩などの溶岩を円や四角のプレート状に成型したもので、このような石焼プレートを、焼肉店では、テーブル型のガスロースターやガスコンロにセットし、使用するのが一般的であった。
【0004】
ところで、ガスロースターやガスコンロは、炎や赤熱部からの熱気や輻射熱によるロスで、周辺環境を悪化させる。また、バーナーの炎や赤熱部があって危険である。さらに、そのバーナーや赤熱部の手入れもしなければならないので手間がかかる。そのため、バーナーや赤熱部が無くて、安全、清潔でロスの無い電磁(IH)調理器を使用することが試みられている。
【0005】
ところが、電磁調理器の加熱方法は、金属板に発生する渦電流を利用したものなので、石焼プレートを電磁調理器のトッププレートにそのまま置いても加熱することができない問題があった。
【0006】
この問題を解決する一つの方法として、例えば、図4に示すように、石焼プレート1の裏面の真中に凹部2を設け、その凹部2に柱状ブロック3を嵌入して接着したものがある(特許文献1)。このブロック3は、電磁調理器のトッププレートとの接触面に磁性体4を溶射したアルミ鋳物製のものである。このようにアルミ製の柱状ブロック3を介して磁性体4で生じた熱で上方の石焼プレート1を加熱するというものである。
【0007】
【特許文献1】特開2007−75301号公報(図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の磁性体を溶射した柱状ブロックを使用する方法では、磁性体で生じた熱を、一度、アルミ鋳物製の柱状ブロックへ移動したのち、接着層を介して上方の石焼プレートを加熱する。そのため,磁性体で生じた熱を上方の石焼プレートへ、比熱の異なる二つの部材(柱状ブロックと接着材層)を介して伝えるので、その間に熱量をロスする問題がある。
【0009】
また、多孔質な石焼プレートは、柱状ブロックのとの接着面にも多数の穴が形成されている。そのため、その穴が、柱状ブロックを接着することによって塞がれてしまうと、塞がれた前記穴は、空気が閉じ込められた気泡の状態で存在することになる。このとき、気泡の空気は、断熱効果が高く、熱伝導率の低下や加熱ムラを生じる一つの要因になると考えられる。
【0010】
そこで、この発明の課題は、電磁調理器で石焼プレートをロスなく加熱できるようにし、かつ、多孔質な石焼プレートが伝導率の低下や加熱ムラを生じないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明では、電磁調理器のトッププレートと接する石板の一方の面に、メッキによる発熱層を形成し、他方の面に肉を焼く調理面を形成した構成を採用したのである。
【0012】
このような構成を採用することにより、電磁調理器のトッププレートと接する石板の一方の面に(多孔質の穴の中にも)、メッキでもって発熱用の金属の薄膜を強固に密着させることで、この発熱層で発生した熱を直接石板に伝えるようにする。こうすることで、熱の伝導ロスを少なく、加熱ムラを生じないようにする。
【0013】
このとき、発熱層が、エッチング処理による下地層、触媒化工程によるメタル化層、無電解メッキによるメッキ皮膜層、電気メッキによる仕上げ層で構成されている構成を採用することができる。
【0014】
このような構成を採用することにより、エッチング処理による下地層は、石板の一方の面を粗化することで、触媒金属が吸着し易いようにするためのものである。触媒化工程によるメタル化層は、下地層を形成した石板に、核となる触媒金属を吸着させ、その吸着させた触媒金属を酸によって金属化したものである。また、無電解メッキによるメッキ皮膜層は、メタル化した石板をメッキ液に浸漬して形成したもので、浸漬することにより石板表面とその多孔質な石板の面の穴の中にも均一なメッキ層を形成するものである。仕上げ層は、前記メッキ皮膜層に通電して電気メッキを形成したもので、この仕上げ層は、外観を整えて石板を保護すると共に、メッキ厚の調整などもできる。
このようにして多孔質な石板の表面とその表面の穴の中にもメッキを密着させて発熱層を形成するので、伝導率の低下や加熱ムラを生じないようにできる。
【0015】
また、このとき、エッチング処理による下地層が、アルカリによる脱脂後に硫酸などの酸により表面を粗化したものであり、触媒化工程によるメタル化層が、前記粗化した表面を塩化スズ溶液に浸漬した後、塩化パラジウム溶液に浸漬したものとし、かつ、上記無電解メッキによるメッキ皮膜層が、無電解銅メッキにより銅皮膜を生成したものであり、上記電気メッキによる仕上げ層がニッケル電気メッキで形成したものである構成を採用することができる。
【0016】
このような構成を採用することにより、下地層は、アルカリによる脱脂で、濡れ性を改善した後、表面を酸で化学的に粗化したもので、残った化合物を酸で除去したものである。また、メタル化層は、前記粗化した表面を塩化スズ溶液に浸漬することにより、その粗化した表面に触媒となるスズを吸着させる。こうすることで、多孔質な石板の面の多数の穴の中にスズを吸着させるのである。このスズを吸着させた前記表面を塩化パラジウム溶液に浸漬し酸化還元反応により、スズとパラジウムを置換して前記表面に金属パラジウムを生成する。この状態で銅メッキ液に浸漬することで、メッキ液中の還元剤が活性なパラジウム表面で酸化されるときに放出する電子によって銅イオンを還元し、多孔質な石板の面及び前記面の穴の中にも均一なメッキ皮膜を生成する。このとき、例えば、浸漬時間を調節すれば、銅イオンの析出する量をコントロールできるので、銅の膜厚を厚くすれば、熱伝導率を大きくできる。したがって、後述のように、仕上げ層を発熱層とすると、メッキ皮膜層が素早く全体を均一な温度にして石板を加熱することができる。
前記仕上げ層は、メッキ皮膜層が銅により金属化されているので、前記金属化された皮膜層に通電して電解ニッケルメッキを施すようにできる。このため、透磁率の高いニッケルを使用することで、高い発熱効率の発熱層を形成することができる。このとき、電磁調理器の発振周波数に合わせてメッキ厚を変えることで、抵抗率を変化させれば、発熱効率を調整できる。
一方、先の銅によるメッキ皮膜層の膜厚を極めて薄くすれば、皮膜厚の抵抗率を下げて発熱層として使用することもできる(電磁調理器の調整を要する場合もある)。このように銅膜を発熱層とすれば、銅の熱伝導率が高いので、石板を素早く加熱して温度を上げられる。このとき、仕上げ層は、前記皮膜層の保護層として構成する。
【0017】
なお、メッキ用の金属は、渦電流を生じる導体であれば、例えば、銅のような透磁率の低いものも使用できるが、透磁率の高いものの方が、磁束を集めて効率良く渦電流を発生し易いので好ましい。しかし、その発熱量は、渦電流を発生する電磁調理器の周波数、メッキの透磁率、メッキの膜厚による抵抗値及び膜厚による熱伝導率などによって変るので、適宜最適なものを用いることとする。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、上記のように構成したことにより、電磁調理噐の火力をロスせず石焼プレートを効率良く加熱できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示すように、この形態の石焼プレート10は、電磁調理器11のトッププレート12と接する石板13の一方の面14に、メッキによる発熱層15が形成され、他方の面16に肉5を焼く調理面17を形成した構造となっている。
【0021】
石板13は、火成岩などの多孔質な溶岩を円盤状や長尺状に形成したもので、この形態では長尺状に形成してある。
【0022】
また、メッキによる発熱層15は、図2に示すように、エッチング処理による下地層20、触媒化工程によるメタル化層21、無電解メッキによるメッキ皮膜層22、電気メッキで形成した仕上げ層23で構成されている。
【0023】
エッチングによる下地層20は、メッキの「のり」を良くするためのもので、図3(a)のように、カセイソーダなどのアルカリによる脱脂25で、濡れ性を改善した後、図3(b)のように、表面を硫酸などの酸で化学的に粗化26し、残った化合物を塩酸などの酸で除去したものである。
【0024】
触媒化工程によるメタル化層21は、前記下地層20の粗化26した表面を塩化スズ溶液(コロイド)に浸漬し、図3(c)のように、触媒金属であるスズ27を吸着させた後、塩化パラジウム溶液に浸漬してスズ塩を溶解し、図3(d)のように、酸化還元反応により金属パラジウム28を析出させ、析出させたパラシウム28をスズ27と置換し、置換したパラジウム28を密着させてメタル化したものである。このようにメタル化層21を設けたことにより、後述の無電解メッキでメッキ皮膜層22を形成できるようにしたものである。
【0025】
無電解メッキによるメッキ皮膜層22は、前記触媒化工程で形成したメタル化層21に、図3(e)のように、無電解銅メッキで銅による皮膜29を形成したもので、メタル化層21を銅メッキ液に浸漬し、メッキ液中の還元剤が活性なパラジウム表面で酸化されるときに放出する電子によって銅イオンを還元し、メッキ皮膜29を均一に生成したものである。
【0026】
このとき、浸漬時間を調節すれば、銅イオンの析出する量をコントロールできるので、銅のメッキ皮膜29の厚を調整することもできる。そのため、膜厚を厚くして抵抗率を低くすると、銅の熱伝導率が高いので、後述の仕上げ層23を発熱層15とすれば、その発熱を石板13の全面に均一となるよう伝導して、ムラが起きないように加熱することができる。
【0027】
仕上げ層23は、図3(f)のように、電解ニッケルメッキで構成したもので、金属化された前記皮膜層22に通電してニッケルメッキを施したものである。このとき、メッキ材として透磁率の高いニッケルを使用することで、高い発熱効率を得ることができる。また、電磁調理器11の発振周波数に合わせてメッキ厚を変えることで、抵抗率を変化させれば、発熱効率を調整できる。
【0028】
このように、メッキを行うことで、図2のように、多孔質な石板13の面に形成された多数の穴31の中にも発熱層15を形成することができる。このため、発熱層15を形成しても、柱状ブロック3を接着したもののように、空気を閉じ込めた気泡を生じない。したがって、石焼プレート10が熱量をロスせず、しかも、伝導率の低下や加熱ムラを生じないように加熱できる。さらに、メッキを行なうことで、メッキ自身が安い上に、例えば、従来(他)の方法のように、柱状ブロック3などの部材を準備する必要がない。そのため、石焼プレート10に大きなコストを掛けなくても、石焼プレート10が熱量をロスしたり、伝導率の低下や加熱ムラを生じないようにできる。
【0029】
この形態は、上記のように構成されており、この石焼プレート10は、図1のように、メッキによる発熱層15の形成された一方の面14を電磁調理噐11のトッププレート12に接するようにして載せ、電磁調理器11を作動する。すると、電磁調理器11の加熱コイル18からの磁界が、前記石板13にメッキにより形成した発熱層15を発熱させる。このため、石板13に密着して形成された発熱層15からの熱が石板13の他方の面(石焼プレート10の上面)16へ直接伝導されて調理面17を加熱し、遠赤外線を放射して肉5を焼くことができる。このため、石焼プレート10をロスなく加熱できる。また、このとき、多孔質な石板13の面に形成された多数の穴31の中にもメッキによる発熱層15が形成されているので、石焼プレート10が伝導率の低下や加熱ムラを生じないようにできる。
【0030】
なお、この形態では、電磁調理器11の特性に合わせて仕上げ層23にニッケルメッキを用いたが、これに限定されるものでではない。使用する電磁調理器11の特性に合わせてニッケルよりもマッチするものがあれば、適宜採用することができる。また、本願の石焼プレート10は、家庭用としても使用できるものである。
【実施例1】
【0031】
この実施例1は、銅によるメッキ皮膜層22を発熱層15としたものである。
すなわち、銅の膜厚を極めて薄くすると、抵抗率が高くなるため、発熱層15としたものである。このときの無電解メッキによるメッキ皮膜層22は、多孔質な石板13の面や前記面に形成された穴31の中に均一に形成することができるので、石板13を均一に発熱させることができる。このとき、仕上げ層23は、メッキ皮膜層22の保護層として作用させる。なお、他の構成及び効果は実施形態と同じなので、説明は省略する。
【0032】
このように、石焼プレートを電磁調理噐で効率良く加熱して火気を使わないようにできるので、例えば、石焼プレートをガスが引けないようなビル内のレストランで使用するようにできる。また、その際、火気を使用しないので、壁あるいは天井などへの不燃材の使用や「たれ壁」の設置などの建築基準法による内装制限も必要ないと考えられる。そのため、それらの防火用設備のコストを要しなかったり、保険料も少なくて済んだりするメリットが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態の断面図
【図2】図1の要部の拡大図
【図3】(a)〜(f)実施形態の作用説明図
【図4】従来例の断面図
【符号の説明】
【0034】
10 石焼プレート
11 電磁調理器
12 トッププレート
13 石板
14 一方の面
15 発熱層
16 他方の面
17 調理面
20 下地層
21 メタル化層
22 メッキ皮膜層
23 仕上げ層
26 粗化
27 スズ
28 パラジウム
29 銅メッキ皮膜
31 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁調理器のトッププレートと接する石板の一方の面に、メッキによる発熱層を形成し、他方の面に肉を焼くための調理面を形成した焼肉用石焼プレート。
【請求項2】
上記発熱層が、エッチング処理による下地層、触媒化工程によるメタル化層、無電解メッキによるメッキ皮膜層、電気メッキによる仕上げ層で構成されている請求項1に記載の焼肉用石焼プレート。
【請求項3】
上記エッチング処理による下地層が、アルカリによる脱脂後に硫酸などの酸により表面を粗化したものであり、触媒化工程によるメタル化層が、前記粗化した表面を塩化スズ溶液に浸漬した後、塩化パラジウム溶液に浸漬したものとし、かつ、上記無電解メッキによるメッキ皮膜層が、無電解銅メッキにより銅皮膜を生成したものであり、上記電気メッキによる仕上げ層がニッケル電気メッキで形成したものである請求項2に記載の焼肉用石焼プレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−189724(P2009−189724A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36156(P2008−36156)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(594178147)
【出願人】(506135682)
【出願人】(508049466)山本工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】