説明

照射を受けた熱可塑性強化剤を含有する熱硬化性樹脂

照射を受けた熱可塑性強化剤で強化され、溶剤誘起のマイクロクラック形成のレベルを減少させた熱硬化性樹脂が提供される。熱可塑性強化剤は、十分な量の高エネルギー放射線(例えば、電子ビーム又はガンマ線)で処理され、熱可塑性強化剤の非照射タイプを使用している同じ強化熱硬化性樹脂と比較した場合、硬化樹脂中の溶剤誘起によるマイクロクラック形成の減少を引き起こす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、概して、熱可塑性強化剤(toughening agent)で強化された熱硬化性樹脂マトリックスを含む複合材料に関する。より詳細には、本発明は、そのような熱可塑性物質で強化した樹脂マトリックス中で発生することが知られている、溶剤誘起のマイクロクラック形成を減少させることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の記述
典型的な複合材料の2つの主要な成分は、ポリマー樹脂マトリックス及び繊維状強化剤である。航空宇宙産業においては、熱硬化性樹脂は、種々の樹脂マトリックス中の主要成分の1つとして、通常使われている。エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂は、一般的な熱硬化性樹脂である。熱可塑性強化剤の各種の量を加えることによってこれらの熱硬化性樹脂を「強化する」ことは、普及している操作である。ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)及びポリエーテルイミド(PEI)は、日常的に熱硬化性樹脂に加えられてきた熱可塑性強化剤のいくつかの例である。
【0003】
他の多くのポリマー樹脂の様に、熱硬化性樹脂は、硬化樹脂に接触する溶剤などの特定の液体による攻撃(attack;腐食)に対して脆弱であり得る。例えば、航空宇宙産業における多くの下塗剤及び塗料が、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、キシレン、トルエン、イソブチルアセテート、エタノール、n−ブチルアセテート、イソプロピルアルコール、グリコールエーテル及びグリコールエステルなどの種々の溶剤を使用している。これらの溶剤の多くは、完成複合部品の下塗剤及び/又は塗料の塗布中に、樹脂表面を攻撃することが知られている。この攻撃の結果は、樹脂内の様々な深さに貫通し得るマイクロクラックの形成である。これらのマイクロクラックには、完成複合部品の物理的強度への実質的で有害な作用があり得る。
【0004】
また複合部品は、部品の再塗装に先立って複合部品を洗浄又は古い塗料を除去するために使用される、種々の溶剤又は腐食性の液体にさらされることもある。塗膜剥離液としては、典型的には、アセトン、MEK及び塩素化炭化水素などの樹脂マトリックス中でマイクロクラックを形成しかねない強溶剤が挙げられる。加えて、複合部品の耐用期間中に、樹脂マトリックスを、マイクロクラックを形成する溶剤又は液体に意図せずにさらしてしまう可能性がある。例えば、樹脂マトリックスは、複合部品が設置されている所与の流体系内での漏出のために、溶剤又は他のおそらく有害な液体にさらされることもある。
【0005】
熱可塑性強化剤として、PES及び/又はPEES、又はこれらのコポリマーを含むエポキシベースのマトリックス樹脂は、航空宇宙用途にかなり一般的な樹脂マトリックスである。しかし多くの場合、最終的な強化エポキシ樹脂は、溶剤の攻撃及びその結果生じる複合部品の機械的安定性に対する悪影響を伴うマイクロクラックの形成に対して、脆弱である。望ましくないマイクロクラックの形成を回避する1つの手法は、PES及び/又はPEESの化学反応性のグレードを用いることである。例えば、エポキシ樹脂の強化に通常使用される水酸基末端のPESの代わりに、アミノ基末端のPESを用いることにより、マイクロクラック形成の減少が達成された。しかし、アミノ基末端のPESは、化学反応性がより低い水酸基末端のPESに比べて、調製が難しく費用がかかってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記を考えると、溶剤誘起のマイクロクラック発生に対する熱可塑性物質で強化した熱硬化性マトリックス樹脂の脆弱さを解消する又は少なくとも実質的に減少させる、簡単で効果的でコスト効率の良い方法を開発することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、熱可塑性強化剤で強化され、溶剤誘起のマイクロクラック形成のレベルが減少した熱硬化性樹脂が提供される。本発明は、熱可塑性強化剤を高エネルギー放射線で処理すると、熱可塑性強化剤の非照射タイプを使用する同じ強化熱硬化性樹脂に比べて、溶剤誘起のマイクロクラックの形成の減少が起こるという発見に基づいている。
【0008】
本発明は、樹脂組成物の硬化及び未硬化の両形態、並びに未硬化樹脂を含有するプリプレグ及び最終製品を扱う。樹脂組成物には、熱硬化性樹脂成分、照射を受けた(irradiated)熱可塑性強化剤及び硬化剤が含まれる。照射を受けた熱可塑性強化剤は、熱硬化性樹脂成分と硬化剤を混合する前に形成される。いかなる特定の理論にも制約されることを望まないが、強化剤を高エネルギー放射線に曝露すると、熱可塑性ポリマーの分岐が起こり、これが熱可塑性ポリマー分子量の測定可能な増大をもたらすと考えられる。観察された強化熱硬化性樹脂マトリックスのマイクロクラック形成の減少の原因と考えられるのは、この放射線に誘起された分岐である。
【0009】
本発明によれば、照射を受けた熱可塑性強化剤の使用により、得られる強化樹脂の他の物理的性質に悪影響を与えることなく、溶剤誘起のマイクロクラック発生の所望の減少が提供されることが発見された。このことは、樹脂マトリックスの物理的強度及び靭性(toughness)が熱可塑性強化剤の変性によって損われないことが不可欠である航空宇宙及び他の高応力用途において、特に重要である。
【0010】
熱硬化性樹脂及び硬化剤との混合に先立つ、強化剤の放射線前処理による照射を受けた熱可塑性強化剤の形成は、非照射強化剤で典型的に観察される溶剤誘起のマイクロクラック数を実質的に減少させるための、簡単で効果的でコスト効率の良い方法である。放射線前処理プロセスは、熱可塑性強化剤が使用前に簡単且つ容易に照射されるため、大規模且つ大量操業によく適している。さらなる利点として、放射線処理は熱可塑性強化剤の永続的変化を引き起こすと考えられており、そのため、照射を受けた強化剤は使用前に無期限に保存できる安定な添加剤である。
【0011】
別の利点として、熱可塑性剤を処理するために使用される放射線の種類及び量は、正確に管理することができる。このことにより、商業規模の量の照射を受けた熱可塑性強化剤の特性及び品質を、確立した品質保証目標内に維持できることが保証される。
【0012】
本発明の上記の及び他の多くの特徴及び付随する利点は、以下の詳細な説明を参照することにより、より良く理解されるようになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、熱可塑性強化剤で強化された任意の熱硬化性樹脂中のマイクロクラックの形成を減少させるために使用することができる。このような樹脂は、典型的には、熱硬化性樹脂成分、熱可塑性強化剤及び硬化剤を含む。加えて、樹脂は、このような樹脂に一般に使用される既知の添加剤及び/又は充填剤を任意の数含有してもよい。本発明は、基本的に、十分な量の高エネルギー放射線で熱可塑性強化剤の全体又は少なくともかなりの部分を前処理して、照射を受けた熱可塑性強化剤を形成することを含み、これを非照射強化剤の代わりに使用する場合、硬化樹脂中のマイクロクラック形成の減少が実現される。本発明は、エポキシ、シアネートエステル及びビスマレイミド樹脂に適用できる。エポキシ樹脂が好ましいものである。
【0014】
エポキシ樹脂は、1つ又は複数の二官能、三官能及び四官能エポキシ樹脂の混合物であり得る。本発明は、主に三官能及び四官能の樹脂を含むエポキシ樹脂中のマイクロクラック形成を減少させることに、特によく適している。この種類のエポキシ樹脂は、特に、航空宇宙産業の構造体などの高性能用途に好ましい。二官能、三官能及び四官能エポキシ樹脂の相対的な量及び種類は、広範囲に変動させてもよい。例えば、熱硬化性樹脂成分は、0〜60wt%の二官能エポキシ樹脂、0〜80wt%の三官能エポキシ樹脂及び0〜80wt%の四官能エポキシ樹脂を含んでもよい。より好ましくは、熱硬化性樹脂成分は、0〜40wt%の二官能エポキシ樹脂、20〜60wt%の三官能エポキシ樹脂及び20〜60wt%の四官能エポキシ樹脂を含む。最も好ましいものは、0〜20wt%の二官能エポキシ樹脂、40〜60wt%の三官能エポキシ樹脂及び40〜60wt%の四官能エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂である。
【0015】
熱硬化性樹脂成分を形成するために使用される二官能エポキシ樹脂は、航空宇宙産業の複合材料で一般的に使用される任意の適切な二官能エポキシ樹脂としてもよい。この樹脂は、2つのエポキシ官能基を有する任意の適切なエポキシ樹脂を含むことが理解されよう。二官能エポキシ樹脂は、飽和、不飽和、環状脂肪族、脂環式(alicyclic)又は複素環式エポキシ樹脂であり得る。
【0016】
例示的な二官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(任意選択で臭素化される)、フェノール−アルデヒド付加物のグリシジルエーテル、脂肪族ジオールのグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、Epikote、Epon、芳香族エポキシ樹脂、エポキシ化オレフィン、臭素化樹脂、芳香族グリシジルアニリン、複素環グリシジルイミジン及びアミド、フッ素化エポキシ樹脂をベースとしたもの、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。二官能エポキシ樹脂は、好ましくは、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ジグリシジルジヒドロキシナフタレン、又はこれらの任意の組合せから選択される。最も好ましいものは、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル及びビスフェノールFのジグリシジルエーテルである。ビスフェノールAのジグリシジルエーテル及びビスフェノールFのジグリシジルエーテルは、Huntsman Advanced Materials(Brewster、NY)から、商品名Aralditeで市販されている。単一の二官能エポキシ樹脂は、単独、又は他の二官能エポキシ樹脂との任意の適切な組合せで使用してもよい。
【0017】
三官能及び四官能エポキシ樹脂は、飽和、不飽和、環状脂肪族、脂環式又は複素環式エポキシ樹脂であり得る。例示的な三官能及び四官能エポキシ樹脂としては、フェノール及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール−アルデヒド付加物のグリシジルエーテル;芳香族エポキシ樹脂;三官能脂肪族グリシジルエーテル、脂肪族ポリグリシジルエーテル;エポキシ化オレフィン;臭素化樹脂;芳香族グリシジルアミン;アミノフェノールのポリグリシジル誘導体;複素環グリシジルイミジン及びアミド;フッ素化エポキシ樹脂をベースにしたもの、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0018】
三官能エポキシ樹脂は、化合物の骨格内のフェニル環上に、直接的か間接的かのどちらかで置換された3つのエポキシ基を有するものとして理解されるであろう。四官能エポキシ樹脂は、化合物の骨格内のフェニル環上に、直接的か間接的かのどちらかで置換された4つのエポキシ基を有するものとして理解されるであろう。フェニル環は、他の適当な非エポキシの置換基でさらに置換されてもよい。適当な置換基としては、例として、水素、ヒドロキシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシル、アリール、アリールオキシル、アラルキルオキシル、アラルキル、ハロ、ニトロ又はシアノ基である。適切な非エポキシの置換基は、エポキシ基で占められていない任意の位置でフェニル環に結合し得る。
【0019】
適切な四官能エポキシ樹脂としては、三菱ガス化学株式会社(東京都千代田区、日本)からTetrad−Xの名前で市販されている、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、及びCVC Chemicals(Morristown、New Jersey)から入手可能な、Erisys GA−240が挙げられる。
【0020】
例示的な三官能エポキシ樹脂としては、Huntsman Advanced Materials(Brewster、New York)からAraldite MY0500又はMY0510として市販されている、パラアミノフェノールのトリグリシジルエーテル、並びにHuntsman Advanced Materials(Brewster、New York)から商品名Araldite MY0600、及び住友化学株式会社(大阪市、日本)から商品名ELM−120でこれもまた市販されている、メタアミノフェノールのトリグリシジルエーテルが挙げられる。他の市販されている三官能エポキシ樹脂の例としては、Tactix742として入手可能な、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタンのトリグリシジルエーテル、及びEpalloy9000としてCVC Chemicalsから入手可能な、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンのトリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0021】
例示的な四官能エポキシ樹脂としては、Huntsman Advanced Materials(Brewster、New York)jからAraldite MY9512として市販されている、メチレンビスアニリンのテトラグリシジルアミン、並びにHuntsman Advanced Materials(Brewster、New York)からAraldite MY720及びMY721として、又は住友化学株式会社(大阪市、日本)からELM434としてこれもまた市販されている、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(TGDDM)が挙げられる。
【0022】
熱硬化性樹脂成分を形成するために使用され得る例示的なシアネートエステル樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールS、チオジフェノールのシアネートエステル、及びフェノールの5−ノルボルネン−2,3−シクロペンタンとの付加物のシアネートエステルが挙げられる。市販されているシアネートエステル樹脂の例としては、Huntsman Advanced Materialsから入手可能な、Arocy L10、Arocy T10、Arocy B10及びArocy M10が挙げられる。個別のシアネートエステル樹脂は、単独で、又は航空宇宙産業で用いられる典型的な配合により、他の種類のシアネートエステル樹脂と組み合わせて、及び/又は他のエポキシ樹脂と組み合わせて使用してもよい。
【0023】
熱硬化性樹脂成分を形成するために使用され得る例示的なビスマレイミド樹脂としては、メチレンビスアニリン、ジアミノベンゼン、ジアミノトルエン及びヘキサメチレンジアミンのビスマレイド誘導体、並びにビスフェノールAのジアリル誘導体などのジアリル誘導体が挙げられる。市販されているビスマレイミド樹脂の例としては、商品名HomideでHOS technik、St.Stefan、オーストリアにより供給されている樹脂、及び商品名MatrimidでHuntsmanにより供給されている樹脂が挙げられる。個別のビスマレイミドは、単独で、又は航空宇宙産業で用いられる典型的な配合により、他の種類のビスマレイミド樹脂及び/又は他の熱硬化性樹脂と組み合わせて使用してもよい。
【0024】
熱硬化性樹脂成分は、典型的には、未硬化樹脂組成物又はマトリックス中の主成分である。熱硬化性樹脂成分の量は、未硬化樹脂組成物全量の40wt%から90wt%の範囲となる。好ましくは、熱硬化性樹脂成分は、60wt%から80wt%の量で存在する。
【0025】
熱可塑性強化剤は、航空宇宙産業用の熱硬化性樹脂の強化のために使用される、典型的な熱可塑性材料の任意のものであってよい。強化剤は、ホモポリマー、コポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー又はターポリマーの形態であり得るポリマーである。熱可塑性強化剤は、炭素−炭素結合、炭素−酸素結合、炭素−窒素結合、ケイ素−酸素結合及び炭素−硫黄結合から選択される単結合又は多重結合を有する熱可塑性樹脂である。ポリマー中では、以下の部分、アミド部分、イミド部分、エステル部分、エーテル部分、カーボネート部分、ウレタン部分、チオエーテル部分、スルホン部分及びカルボニル部分を、ポリマーの主骨格かポリマーの主骨格に付いた側鎖内のどちらかに組み込む、1つ又は複数の繰り返し単位が存在し得る。熱可塑性ポリマーの粒子は、結晶か非晶質か部分的な結晶かのいずれかであり得る。
【0026】
強化剤として使用される熱可塑性材料の好適な例としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリーレート、ポリエーテル、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン及びポリエーテルケトンが挙げられる。ポリエーテルスルホン及びポリエーテルエーテルスルホンが、熱可塑性材料の好ましい種類である。しかし、所与の熱硬化性樹脂内のマイクロクラック発生の量を減少させる照射を受けた熱可塑性強化剤を提供するために、下記に記載したような高エネルギー放射線での処理を適用できるならば、他の種類の熱可塑性材料を使用してもよい。未硬化樹脂組成物中に存在する強化剤の量は、典型的には、5から50wt%の範囲となる。好ましくは、強化剤の量は、15wt%から30wt%の範囲となる。
【0027】
市販の熱可塑性強化剤の例としては、住友化学株式会社(大阪市、日本)から入手可能な、Sumikaexcel5003P PES、及びSolvay Engineered Polymers、Auburn Hills、米国から入手可能の、エーテルスルフォン及びエーテルエーテルスルホンがモノマー単位のコポリマーである、Solvay Radel Aが挙げられる。任意選択で、これらのPES又はPES−PEESのコポリマーは、密度を高めた形態で使用してもよい。高密度化プロセスは、米国特許第4945154号に記載されている。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも1つの硬化剤を含む。好適な硬化剤は、エポキシ官能化合物の硬化を促進するもの、及び特にそのようなエポキシ化合物の開環重合を促進するものである。好ましい硬化剤としては、エポキシ官能化合物(単数又は複数)の開環重合において、これと重合する化合物がある。そのような硬化剤の2つ以上を組み合わせて用いることができる。シアネートエステル樹脂及びビスマレイミド樹脂に関しては、硬化剤は、航空宇宙産業で使用される典型的な硬化剤の任意のものとすることができる。例えば、シアネートエステルは、加熱により簡単に硬化させるか、又は、金属カルボキシレート、並びにコバルト、銅、マンガン及び亜鉛のアセチルアセトネートなどの金属キレートを、ノニルフェノールなどの他の添加剤と一緒に加えることによって触媒され得る。
【0029】
エポキシベースの熱硬化性樹脂成分の硬化に使用する好適な硬化剤としては、無水物、特に、ナド酸無水物(NA)、メチルナド酸無水物(MNA)、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物(HHPA)、メチルテトラヒドロフタル酸無水物(MTHPA)、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(MHHP)、エンドメチレン−テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサクロロエンドメチレン−テトラヒドロフタル酸無水物(Chlorentic Anhydride)、無水トリメリット酸、ピロメリト酸二無水物、無水マレイン酸(MA)、無水コハク酸(SA)、ノネニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物(DDSA)、ポリセバシン酸ポリ無水物、及びポリアゼライン酸ポリ無水物などのポリカルボン酸無水物が挙げられる。
【0030】
さらに、好適なエポキシ硬化剤は、芳香族アミンを含むアミンであり、例えば、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノ−ジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、並びに4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)及び3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)などのポリ−アミノスルホン、ビス(4−アミノ−3−メチル−5−イソプロピルフェニル)メタン、ジエチルトルエンジアミン、1,3−プロパンジオールビス(4−アミノベンゾエート)、ビス(4−アミノ−フェニル)フルオレン)などのフルオレン誘導体である。
【0031】
本発明においては、多種多様の市販組成物を硬化剤として使用し得る。好ましい市販のジシアンジアミドの1つは、Evonik Industries(Marl、ドイツ)から入手可能な、Dyhard100である。
【0032】
さらなる、好適なエポキシ硬化剤としては、イミダゾール(1,3−ジアザ−2,4−シクロペンタジエン)、2−エチル−4−メチルイミダゾール、及びAir Products&Chemicals、Inc.(Allentown、Pennsylvania)から入手可能なAnchor1170などの、三フッ化ホウ素アミン錯体が挙げられる。
【0033】
硬化剤(単数又は複数)は、適当な温度で樹脂組成物と組み合わせた場合に、これらが樹脂組成物に硬化をもたらすように選択される。樹脂成分の十分な硬化をもたらすために必要とする硬化剤の量は、硬化させる樹脂の種類、所望の硬化温度及び硬化時間を含む多くの因子によって変動する。各々の特定の状況に要求される硬化剤の特定量は、十分に確立された日常の実験により決定することができる。
【0034】
例示的な好ましい硬化剤としては、ジシアンジアミド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)及び3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)が挙げられる。ジシアンジアミドは、好ましくは、樹脂組成物全量の0wt%から10wt%の間の量で存在する。4,4’−DDS及び3,3’−DDSの硬化剤は、未硬化樹脂組成物の5wt%から45wt%に及ぶ量で存在する。好ましくは、これらのポリアミノスルホン硬化剤のどちらか又は両方は、10wt%から30wt%に及ぶ量で存在する。
【0035】
未硬化樹脂組成物には、また、効果促進剤又は改質剤などのさらなる成分を含めることもできる。効果促進剤又は改質剤は、例えば、可撓性付与剤、強化剤/強化粒子、硬化促進剤、コアシェルゴム、難燃剤、湿潤剤、顔料/染料、紫外線吸収剤、抗真菌性化合物、充填剤、導電性粒子及び粘度調整剤から選択され得る。
【0036】
好適な硬化促進剤は、航空宇宙産業用途で一般に使用される尿素化合物の任意のものである。単独で又は組み合わせて使用され得る硬化促進剤の具体的な例は、N,N−ジメチル,N’−3,4−ジクロロフェニル尿素、N’−3−クロロフェニル尿素であり、好ましくは、Evonik Industries(Marl、ドイツ)からDyhard UR500として市販されている、N,N−(4−メチル−m−フェニレン)ビス[N’,N’−ジメチル尿素]である。
【0037】
好適な充填剤としては、例として次に挙げる、シリカ、アルミナ、チタニア、ガラス、炭酸カルシウム、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムの単独の又は組み合わせた任意のものがある。
【0038】
好適な導電性粒子としては、例として次に挙げる、銀、金、銅、アルミニウム、ニッケル、導電グレードの炭素、バックミンスターフラーレン、カーボンナノチューブ及び炭素ナノ繊維の単独の又は組み合わせた任意のものがある。例えば、ニッケル被覆炭素粒子、及び銀又は銅被覆ガラス粒子の金属被覆充填剤もまた使用し得る。
【0039】
照射を受けた強化剤を形成するために使用する熱可塑性材料は、好ましくは粒子形態で提供される。しかし、熱可塑性材料は、材料に高エネルギー放射線を均一に当てることができるならば、フレーク、顆粒、フィルム又は液体などの他の形態で提供されてもよい。熱可塑性材料に照射するために用いる放射線の量及び種類は、未硬化樹脂組成物を作製するために使用している熱硬化性及び熱可塑性材料の特定の種類により変更してもよい。電子ビーム又はガンマ線で熱可塑性材料を照射することが、好ましい。電子ビームで達成される同じレベルの放射線曝露が得られるなら、X線、中性子ビーム及び陽子ビームなどの他の高エネルギー放射線ビームを用いてもよい。電子ビームの使用が、特に好ましい。
【0040】
熱可塑性材料を、材料の均一な曝露を実現する任意の様式で、高エネルギー放射線源に曝露することができる。好ましくは、熱可塑性材料は粒子形態であり、その粒子径は、0.2ミクロンから100ミクロンに及ぶ。1ミクロンから100ミクロンの粒子径が好ましい。粒子を、粒子の流動床又は粒子の固定床として、高エネルギー放射線源に曝露することができる。粒子が固定床の形態にある場合、粒子床の厚さは、1mmから100mmとするべきである。この種の固定床は、粒子層の両側を高エネルギー放射線源に曝すことによって均一に照射することができる粒子の層を形成する。両側がほぼ同じ程度の放射線曝露を受けるのであれば、粒子層の2つの側面を、同時に又は交互に曝露することができる。照射は、数回の一連の低レベルの曝露又は1回のより高レベルの曝露で行うことができる。粒子を電子ビーム放射線に曝露する場合、およそ10mmから40mmの厚さを有する固定粒子床が好ましい。
【0041】
熱可塑性材料は、被ばく線量に著しく影響を及ぼさないものであれば、バッグ、箱、袋又は他の種類の容器を含む適当な容器内に、照射のために収容してもよい。紙袋、ポリエチレンバッグ及び段ボール箱は、非常に適している。
【0042】
熱可塑性ポリマーの放射は、組成を制御した雰囲気中又は通常の周囲空気若しくは(部分又は完全)真空中で行うことができる。例えば、照射を受けたポリマーで多様な化学種を発生させるために、雰囲気から酸素を除去したり、そこに特定の揮発性化合物又はガスを加えてもよい。
【0043】
粒子が受ける放射線曝露量は、X線光電子分光法(XPS)で測定したとき、熱可塑性材料中の炭素−炭素結合の濃度をわずかに増大させるのに十分な量でなければならない。このことは、ポリマーのある種の化学分岐又はグラフトにも合致する。ある種のプロトンの濃度上昇もまた、H NMRスペクトルにおいて見られる。例えば、放射線に曝露した試料中で、7.4から7.9ppmの間にある全プロトンの積分値が、0.03から0.04(芳香族プロトンの8.0ppmにおけるピークに対して、1.000の値を取った)に増大した。放射線曝露量は、ポリマーの化学的挙動に悪影響を与えることなく、所望のプロトン濃度及び/又は炭素−炭素結合濃度の増大が観察されるような量でなければならない。例えば、照射を受けたポリマーを溶剤手段で続いて処理することが所望される場合、放射線曝露は、MEK及びN−メチルピロリドンなどの熱可塑性材料用の通常の溶剤中の照射粒子の溶解度に、大幅に影響を与えるべきではない。
【0044】
粒子が、所望の放射線曝露量を受けたことを確認する別の方法は、熱可塑性粒子の色を観察することである。粒子の色が、通常の白色又は薄い淡黄色から、淡黄色又は琥珀色に変わる時、所望の放射線曝露量に到達する。加えて、熱可塑性粒子の分子量を用いて、適当な放射線曝露量を決定することができる。分子量は、5から100%に増大するはずである。放射線曝露による分子量の好ましい増大は、およそ10から100%である。
【0045】
熱可塑性粒子が、十分な高エネルギー放射線を受けたことを確認する別の方法は、熱可塑性粒子の照射に起因する、所与のエポキシ/熱可塑性粒子混合物の曇り点温度の減少を測定することである。曇り点温度は、摂氏2度から20度、好ましくは、摂氏5度から15度減少するはずである。エポキシ樹脂の曇り点温度は、所与のエポキシ樹脂中に充填する様々なタイプの熱可塑性材料の適合性を決定することができる測定値である。試験される熱可塑性ポリマーは、透明な溶液を生成するために液状樹脂に完全に溶解させる。次に、温度をゆっくり(例えば、1分間に1度)上昇させる。ポリマー/樹脂の混合物が濁りを示し始めた時点で、曇り点を記録する。曇り点は、ポリマー濃度、ポリマーの分子量及びエポキシの種類によって変化する。典型的には、PES/ビスフェノールAのジグリシジルエーテル系では、最小曇り点は、PESが約2〜4重量%の時に生じる。ビスフェノールAがベースのエポキシ樹脂は、このPESとの曇り点現象を特に示しやすい。
【0046】
例として、2wt%の非照射熱可塑性粒子(例えば、PES又はPES/PEES混合物)を溶解させた、標準的なビスフェノールAエポキシ樹脂の曇り点は、約100℃と105℃の間の曇り点温度であるはずである。照射を受けた熱可塑性強化剤を形成するために、本発明に従って熱可塑性粒子に照射する場合、曇り点温度は、5℃から15℃減少するべきである。好ましくは、曇り点温度は約10℃減少するであろう。
【0047】
上記の照射を受けた熱可塑性粒子の物理的/化学的性質の変化は、粒子に、50〜300キログレイ(kGy)の電子ビーム放射線又はガンマ線放射線のどちらかを当てることにより、常に得られることが分かった。1グレイ(Gyと略記される)の放射線は、物質の1kg当たり1ジュールの吸収に相当する。粒子に100から275kGyの放射線を当てることが好ましく、250kGy前後の放射線を当てることが特に好ましい。
【0048】
標準的な樹脂及びプリプレグマトリックスの工程処理に従って未硬化樹脂組成物を形成するために、照射を受けた熱可塑性強化剤が、これの非照射対応物と同様に使用される。一般に、種々の熱硬化性樹脂、熱可塑性材料、及び照射を受けた熱可塑性材料を90℃で共に混合し、熱可塑性材料を分散させ、次に130℃まで加熱し熱可塑性材料を溶解する。次に、混合物を90℃以下に冷却してもよく、それから成分の残り(もしあれば、追加の照射を受けた強化剤、硬化剤及び添加剤/充填剤)を樹脂中に混合し、未硬化樹脂組成物を形成する。
【0049】
マイクロクラック形成の減少を最大限にするために、特定の樹脂配合に使用する熱可塑性強化剤のほぼ全てを上記の放射線で前処理することが好ましい。しかし、硬化した樹脂中にマイクロクラック形成の減少が観察されるならば、照射を受けた熱可塑性強化剤を少量の非照射熱可塑性強化剤と混合してもよい。熱可塑性強化剤の30wt%未満が、非照射のものであることが好ましい。
【0050】
未硬化樹脂組成物は、耐マイクロクラック発生が望まれる多種多様の用途で使用され得る。主要な用途はプリプレグの形成におけるもので、そこでは、未硬化樹脂組成物が既知のプリプレグ製造技術の任意のものに従って繊維強化材(fibrous reinforcement)に塗布される。繊維強化材に、未硬化樹脂を完全に又は部分的に含浸させてもよい。後者の場合、未硬化樹脂を繊維強化材に近接し接触する別個の層として繊維強化材に塗布してもよいが、実質的には繊維強化材に含浸させない。プリプレグは一般に両側を保護フィルムで覆い、早期硬化を避けるために、一般に室温をはるかに下回って維持する温度で貯蔵及び出荷のために巻き上げておく。未硬化樹脂組成物は、他のプリプレグ製造方法及び貯蔵/出荷システムの任意のもので使用してもよい。
【0051】
プリプレグの繊維強化材は、合成若しくは天然繊維又はこの組合せを含む、ハイブリッド繊維系又は混合繊維系から選択することができる。繊維強化材は、好ましくは繊維ガラス、炭素又はアラミド(芳香族ポリアミド)繊維などの、任意の適当な材料から選択され得る。繊維強化材は、好ましくは炭素繊維である。
【0052】
繊維強化材は、亀裂の入った(すなわち、延伸破断した)若しくは選択的に不連続な繊維、又は連続繊維を含んでもよい。亀裂の入った又は選択的に不連続な繊維を使用すると、完全に硬化させる前の複合材料のレイアップ(lay−up)が容易になり、その成形能を向上させ得る。繊維強化材は、織布、非けん縮繊維、不織布、単一方向繊維、又は擬似等方性の細断したプリプレグなどの多軸の織物構造の形態であり得る。織布の形態は、平織、朱子織(satin weave)又は斜文織(twill weave)形式から選択し得る。非けん縮及び多軸形態には、多数の層(plies)及び繊維配向があり得る。このような形式及び形態は、複合材料強化材の分野でよく知られており、Hexcel Reinforcements(Dagneux、フランス)を含む、多くの企業から市販されている。
【0053】
本発明の未硬化樹脂を使用して作製されるプリプレグは、連続テープ、トウプレグ(towpreg)、織布又は細断した寸法のもの(細断及び切断作業は、含浸後の任意の時点で行い得る)の形態であり得る。プリプレグは、接着フィルム又は表面フィルムであってもよく、織布形態、編物形態の双方、及び不織布の形態の様々な形態中に、追加として埋め込んだキャリアーを有してもよい。プリプレグは、完全に含浸させるか、例えば硬化中の空気除去を促進するために部分的にのみ含浸させてもよい。
【0054】
プリプレグは、複合部品の形成に使用される標準技術の任意のものを用いて成型し得る。典型的な場合には、1つ又は複数のプリプレグの層を適当な金型に設置し、硬化させ、最終複合部品を形成する。本発明のプリプレグは、当技術分野で既知の任意の適当な温度、圧力及び時間条件を用いて、完全又は部分的に硬化させ得る。典型的な場合、プリプレグは、オートクレーブ内で約180℃の温度で硬化される。複合材料は、別法として、紫外−可視放射線、マイクロ波放射線、電子ビーム、ガンマ放射線、又は他の適当な熱放射線若しくは非熱的放射線から選択される方法を用いて硬化させてもよい。
【0055】
本発明による例示的な未硬化樹脂組成物は、約22wt%から25wt%のビスフェノールF又はAのジグリシジルエーテル、約25wt%から30wt%のトリグリシジル−(m又はp)−アミノフェノール(三官能エポキシ樹脂)、約17wt%から21wt%のジアミノジフェニルスルホン(主に、硬化剤としての4,4−DDS)、及び上記のように照射された約20wt%から35wt%のPES、PEES又はPES/PEESを含む。
【0056】
実施例は、以下のとおりである。
【0057】
(例1)
照射を受けた熱可塑性強化剤の調製
本発明による7つの典型的な照射を受けた熱可塑性強化剤を、以下のように調製した。
【0058】
PES/PEES粉末(Solvay Radel A105P SFPグレード)の1kgの試料6つを、ポリエチレンバッグ内部に個別に密封し、最終的な厚さを約25mmとした。次に、6つのバッグを、約20cm×30cmの平らな段ボール紙箱内に密封した。紙箱を、総量が64、128及び255kGyの電子ビーム、並びに総量が51、100及び200kGyのガンマ放射線に曝露した。ビームによる粉末の十分な被照射域を確保するために、曝露の途中で箱を回転させた。得られた6つの粉末は、出発粉末の灰白色に比べて、淡黄色であった。255kGyで照射した粉末は、64kGyで照射した粉末よりも若干黄色がかっていた。
【0059】
PES粉末(Sumikaexcel 5003P)の1kg試料も、またポリエチレンバッグの内部に密封し、最終的な厚さを約25mmとし、次に約20cm×30cmの平らな段ボール紙箱内に密封した。紙箱を、275kGyの電子ビームに曝露した。得られた粉末は、出発粉末の灰白色に比べて、淡黄色であった。
【0060】
炭素−炭素及び炭素−水素結合濃度の若干の上昇以外は、粉末の化学組成の有意な違いは、X線光電子分光法(XPS)分析では検出されなかった。以前に言及したように、これは、ある種の化学分岐及びグラフトにも一致している。255kGyで照射した粉末は、約5%のC1sシグナルの上昇があった。全ての照射粉末は、PES及びPEES用の、ジメチルスルホキシド及びN−メチルピロリドンを含む通常の溶剤中に完全に溶解できた。
【0061】
(例2)
三官能及び四官能エポキシ樹脂を有する樹脂組成物の調製並びに試験
以下の方法を用いて、例1で調製した照射を受けた熱可塑性強化剤と組み合わせて、三官能及び四官能エポキシ樹脂を含有する例示的な未硬化樹脂組成物を調製した。
【0062】
メチレンビスアニリンのテトラグリシジルアミン(Araldite MY9512)737g及びp−アミノフェノールのトリグリジジル誘導体(MY0510)654gを、室温でWinkworthミキサーに加え、加熱を開始した。照射PES/PEES又はPES粉末442gを加え、分散するまで混合した。混合物を130℃まで加熱し、2時間混合し照射粉末を溶解させた。混合物を、90℃〜100℃に冷却した。この段階で、MY0510及びジシアンジアミド(Dyhard100)の50/50ブレンド167gを加え、分散するまで混合し未硬化樹脂組成物を得た。7つの異なる未硬化樹脂組成物を、例1で調製した7つの照射PES/PEES及びPES粉末を用いて、調製した。
【0063】
7つの未硬化樹脂組成物を用いて、Dixon Coater及びAkrosilのリリースペーパー(NAT120G GL SILOX G1D/D8B)を利用し7つの樹脂フィルムを形成した。ロールギャップ0.005インチ(0.013cm)、ラインスピード2.0m/分で、ローラー温度を80℃とした。得られたフィルムを用いて、繊維重量が280g/mで5−通糸(harness)構造の、3K Torayca T300ファイバーの炭素繊維織物上でプリプレグを調製した。この織物は、G0803 5 1200としてHexcel Reinforcments、Dagneuxから市販されている。フィルムを、織物の両側に縦糸方向に従って敷いた。調製したプリプレグから300mm×300mmの正方形を切り取り、真空バッグの下に少なくとも10分間設置し、プリプレグの十分な圧密化を確保した。7つの異なる未硬化樹脂組成物を含有する試験板を、0/90°に配向させた8層の正方形のプリプレグを用いて作製した。試験板を、標準型オートクレーブ中で、加熱速度1〜2℃、最大温度175℃(滞留時間1時間)及び冷却速度3℃で硬化させた。
【0064】
溶剤誘起のマイクロクラック発生を試験するために、各試験板から20mm×10mmの試料を切り取り、Struers Epofix樹脂中にはめ込んだ。はめ込んだ試料を少なくとも12時間かけて硬化させ、Beuhler PowerPro 5000 研削/研磨機で研磨した。研磨試料は、試料調製中にマイクロクラックが発生していないことを確かめるために、溶剤にさらす前にマイクロクラックの評価をした。次に、試料を、研磨面を上方に向けてMEK中に浸漬させた。1日、2日及び7日後、各試料を、溶剤から取り出し、Leica DM L光学顕微鏡を使って、初回観察では50倍の倍率を用いて評価し、推定クラックに焦点を合わせる場合は倍率を上げて評価した。その後に、試料を研磨面を上方に向けてMEK中に浸漬させた。評価後に、各試料を溶剤中に再浸漬させた。
【0065】
255kGyの電子ビームで照射したPES/PEESを含有する研磨樹脂試料においては、7日目に少数のみの細かいマイクロクラックを観察するまで、マイクロクラックは観察されなかった。275kGyの電子ビームで照射したPESを含有する試料は、14日目以降でさえクラックを発生しなかった。
【0066】
表1は、MEK中の1日、7日及び14日後のマイクロクラックの激しさの度合いを示す。マイクロクラック発生の激しさの度合いを1から10までにランク付けし、1を激しいクラック発生とし、10をクラック発生皆無とした。評点付けは、クラックの大きさ及び量の両方の視覚的評価に基づいている。
【表1】

【0067】
(比較例1)
比較のための未硬化樹脂組成物は、本発明に従って照射した粉末の替わりに、非照射PES/PEES粉末(Solvay Radel A105P SFPグレード)及び非照射PES粉末(Sumikaexcel 5003P)を使用したことを除いては、例2と同様に作製した。
【0068】
2つの比較試験試料を、比較のための未硬化樹脂組成物を使用して調製した。2つの比較試験試料は、例2と同様に試験を行った。1日目に、非照射PES/PEES粉末がベースの比較試験試料において多数の有意なクラックが観察された。1日目に、100を超えるマイクロクラックが、非照射PES粉末がベースの比較試験試料において観察された。
【0069】
表2は、MEK中の1日、7日及び14日後のマイクロクラックの激しさの度合いを示す。この場合も、マイクロクラック発生の激しさの度合いを1から10までにランク付けし、1を激しいクラック発生とし、10をクラック発生皆無とした。評点付けは、クラックのサイズ及び量の両方の視覚的評価に基づいている。
【表2】

【0070】
(例3)
照射PES及びPES/PEESを用いて作製した積層板の機械的性能
照射PES及びPES/PEESコポリマーの使用に起因して減少したマイクロクラック発生の機械的性能上の利益を、硬化複合積層板の層間せん断強度(Interlaminar Shear Strength)(ILSS)の決定により測定した。比較例1に記載した非処理のPES及びPES/PEESから作製した積層板のILSS、並びに例1に記載した電子ビームで処理したPES及びPES/PEESを用いて作製した積層板のILSSを、試験方法EN2563に従って測定した。1組の試験試料はMEK溶剤にさらさず、第2の組は試験に先立ってMEK溶剤に6日間浸漬させた。溶剤にさらした後のILSSの減少は、試料中のマイクロクラック発生量の尺度である。試験結果を、表3に示す。これらのILSS試験は、本発明に従って照射PESを組み入れている樹脂及びプリプレグから作製した積層板の、MEK溶剤にさらした後の機械的性能の向上を実証している。
【表3】

【0071】
このように本発明の例示的な実施形態を説明してきたが、開示した範囲は単に例示的であり、本発明の範囲内で様々な他の代替、改造及び改変を行い得ることを当業者は留意するべきである。したがって、本発明は上記の実施形態に制限されず、以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂成分、照射を受けた熱可塑性強化剤、及び硬化剤を含む未硬化樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂成分が、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、及びビスマレイミド樹脂からなる群から選択される、請求項1に記載の未硬化樹脂組成物。
【請求項3】
前記の照射を受けた熱可塑性強化剤が、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、及びポリフェニルスルホンからなる群から選択される、請求項2に記載の未硬化樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤が、ジシアンジアミド及び芳香族アミンからなる群から選択される、請求項3に記載の未硬化樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の未硬化樹脂、及び繊維強化材を含むプリプレグ。
【請求項6】
前記繊維強化材が、炭素繊維、ガラス繊維、及びセラミック繊維からなる群から選択される、請求項5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂成分が、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂及びビスマレイミド樹脂からなる群から選択される、請求項6に記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記の照射を受けた熱可塑性強化剤が、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、及びポリフェニルスルホンからなる群から選択される、請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記硬化剤が、ジシアンジアミド及び芳香族アミンからなる群から選択される、請求項8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
硬化させた請求項1に記載の樹脂を含む、樹脂製品。
【請求項11】
前記未硬化樹脂を硬化させた、請求項5に記載のプリプレグを含む、複合製品。
【請求項12】
熱硬化性樹脂成分と、照射を受けた熱可塑性強化剤及び硬化剤とを混合するステップを含む、未硬化樹脂組成物を製造する方法。
【請求項13】
前記熱硬化性樹脂成分が、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、及びビスマレイミド樹脂からなる群から選択される、請求項12に記載の未硬化樹脂組成物を製造する方法。
【請求項14】
前記の照射を受けた熱可塑性強化剤が、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、及びポリフェニルスルホンからなる群から選択される、請求項13に記載の未硬化樹脂組成物を製造する方法。
【請求項15】
前記硬化剤が、ジシアンジアミド及び芳香族アミンからなる群から選択される、請求項14に記載の未硬化樹脂組成物を製造する方法。
【請求項16】
請求項1に記載の未硬化樹脂組成物を繊維強化材と組み合わせるステップを含む、プリプレグを製造する方法。
【請求項17】
請求項1に記載の未硬化樹脂組成物を硬化させるステップを含む、樹脂製品を製造する方法。
【請求項18】
請求項5に記載の前記プリプレグ中に存在する前記未硬化樹脂を硬化させるステップを含む、複合製品を製造する方法。
【請求項19】
熱可塑性強化剤を熱硬化性樹脂成分に加えることによる、強化された熱硬化性樹脂組成物の製造において、前記熱硬化性樹脂への前記熱可塑性強化剤の添加に先立って、前記熱可塑性強化剤を高エネルギー放射線で照射することにより、前記の強化された熱硬化性樹脂組成物の耐溶剤性を高めることを含む改善がなされた方法。
【請求項20】
前記熱硬化性樹脂成分がエポキシ樹脂を含み、前記熱可塑性強化剤がポリエーテルスルホン又はポリエーテルエーテルスルホンである、請求項19に記載の強化された熱硬化性樹脂の耐溶剤性を高める方法。

【公表番号】特表2011−516712(P2011−516712A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504545(P2011−504545)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【国際出願番号】PCT/IB2008/000969
【国際公開番号】WO2009/127891
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(504132032)ヘクセル コンポジット、リミテッド (20)
【Fターム(参考)】