説明

熱伝導シート

【課題】作業性に優れた熱伝導シートを提供することを課題としている。
【解決手段】複数の発熱素子の内の一発熱素子に当接されるシリコーンゴム粘着シー
トと、他発熱素子に当接されるシリコーンゴム粘着シートとを含む複数のシリコーンゴム
粘着シートが用いられ、前記一発熱素子と前記他発熱素子とを同時に覆い得る大きさを有
し前記放熱器に当接させて用いられる非粘着性の基材シートがさらに用いられており、し
かも、前記複数のシリコーンゴム粘着シートの内の一シリコーンゴム粘着シートを前記一
発熱素子に当接させることにより他シリコーンゴム粘着シートを前記他発熱素子に当接さ
せ得るように配置されて前記複数のシリコーンゴム粘着シートが前記基材シート上に積層
されていることを特徴とする熱伝導シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物粒子を含むシリコーンゴム組成物により形成されたシリコーンゴム粘
着シートが用いられてなる熱伝導シートに関し、より詳しくは、回路基板上に配置された
複数の発熱素子と、該発熱素子から発生する熱を放熱するための放熱器との間に介装され
、前記シリコーンゴム粘着シートを前記発熱素子に当接させて用いられる熱伝導シートに
関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電気・電子機器の小型化の要望にともない、内部の電子部品を高集積化させるこ
とが求められている。
そして、この電子部品の高集積化にともない、動作時に発熱を生じる素子(以下「発熱
素子」ともいう)の放熱手段が広く検討されている。
例えば、パワートランジスタなどの発熱量の大きな発熱素子には放熱フィンや放熱ブロ
ックなどの放熱器を用いた放熱手段が採用されており、パワートランジスタ内部の半導体
において生じた熱を放熱フィンや放熱ブロック側に移動させて、半導体がジャンクション
温度以上となることを防止する手法が採用されている。
【0003】
このパワートランジスタなどの発熱素子と放熱器との間には、通常、発熱素子から放熱
器へと熱を伝達するための熱伝導シートが介装されている。
この熱伝導シートは、発熱素子ならびに放熱器に対して良好な接触状態を形成させるべ
く、ゴムなどの弾性体シートが用いられて形成されている。
この熱伝導シートに用いられる弾性体シートは、無機物粒子を含むシリコーンゴム組成
物により形成されたりしており、例えば、下記特許文献1には、硬化シリコーンゴムシー
トと未硬化シリコーンゴム組成物とを積層した表面粘着性を有するシリコーンゴムシート
(以下「シリコーンゴム粘着シート」ともいう)を熱伝導シートに用いることが記載され
ている。
【0004】
また、従来の熱伝導シートにおけるシリコーンゴム粘着シートは、特許文献1に記載さ
れているような積層構造のもの以外にも単層構造のものが用いられたりもしている。
熱伝導シートに粘着性を有するシートを用いることで、例えば、発熱素子などとの密着
性を向上させることができ、発熱素子から熱をすばやく除去させることができる。
このようなことから、シリコーンゴム粘着シートを有する従来の熱伝導シートは、この
シリコーンゴム粘着シートを発熱素子に当接させて用いられている。
【0005】
ところで、電気・電子機器の回路基板上には発熱素子が複数搭載されたりしている。
従来、これら複数の発熱素子の放熱は、例えば、個々に放熱フィンなどの放熱器が取付
けられて実施されている。
このとき、個々の発熱素子に熱伝導シートと放熱器とを取り付ける作業は、発熱素子の
数と同じ回数実施されることとなる。
【0006】
近年においては、複数の発熱素子を一つの放熱器で放熱させて、放熱器の取り付けの手
間を簡略化させることが行われており、電気・電子機器のシャーシや筐体などを放熱器と
して用いて複数の発熱素子から発生する熱をシャーシや筐体などに伝達させて放熱させる
ことが行われたりもしている。
しかし、一つの放熱器で複数の発熱素子の放熱を実施させる場合には、放熱器を複数の
発熱素子に対して位置合せしなければならず、放熱器の位置の調整作業に手間を要するこ
ととなる。
【0007】
このように、回路基板上に配置された複数の発熱素子と、該発熱素子から発生する熱を
放熱するための放熱器との間に介装されて用いられ、シリコーンゴム粘着シートを発熱素
子に当接させて用いられる従来の熱伝導シートにおいては、取り付け作業性を向上させる
ことが困難である。
【特許文献1】特開2004−130646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、作業性に優れた熱伝導シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決すべく、無機物粒子を含むシリコーンゴム組成物により形成
されたシリコーンゴム粘着シートが用いられてなり、回路基板上に配置された複数の発熱
素子と、該発熱素子から発生する熱を放熱するための放熱器との間に介装され、前記シリ
コーンゴム粘着シートを前記発熱素子に当接させて用いられる熱伝導シートであって、前
記複数の発熱素子の内の一発熱素子に当接されるシリコーンゴム粘着シートと、他発熱素
子に当接されるシリコーンゴム粘着シートとを含む複数のシリコーンゴム粘着シートが用
いられ、前記一発熱素子と前記他発熱素子とを同時に覆い得る大きさを有し前記放熱器に
当接させて用いられる非粘着性の基材シートがさらに用いられており、しかも、前記複数
のシリコーンゴム粘着シートの内の一シリコーンゴム粘着シートを前記一発熱素子に当接
させることにより他シリコーンゴム粘着シートを前記他発熱素子に当接させ得るように配
置されて前記複数のシリコーンゴム粘着シートが前記基材シート上に積層されていること
を特徴とする熱伝導シートを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の発熱素子の内の一発熱素子に当接されるシリコーンゴム粘着シ
ートと、他発熱素子に当接されるシリコーンゴム粘着シートとを含む複数のシリコーンゴ
ム粘着シートと、前記一発熱素子と前記他発熱素子とを同時に覆い得る大きさを有する基
材シートとが熱伝導シートに用いられており、しかも、前記複数のシリコーンゴム粘着シ
ートの内の一シリコーンゴム粘着シートを前記一発熱素子に当接させることにより他シリ
コーンゴム粘着シートを前記他発熱素子に当接させ得るように配置されて前記複数のシリ
コーンゴム粘着シートが前記基材シート上に積層されている。
したがって、熱伝導シートの取り付け作業回数を減少させ得る。
また、厚みの異なるシリコーンゴム粘着シートを基材シート上に配置することも容易と
なり、放熱器の取り付け作業を容易なものとさせ得る。
【0011】
しかも、放熱器に当接させて用いられる前記基材シートが非粘着性であることから、基
材シートに当接された状態であっても放熱器を移動させることが容易となる。
したがって、位置調整を容易に実施させることができ、一つの放熱器で複数の発熱素子
の放熱を実施させることを容易に実施させ得る。
すなわち、熱伝導シートを作業性に優れたものとし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
【0013】
まず、熱伝導シートや放熱器を回路基板に取付ける前の状態を示した概略斜視図である
図1を参照しつつ放熱機構全体について説明する。
10は、回路基板を表し、図1における回路基板10は、全体形状が四角板状に形成さ
れており、電子部品搭載面を上面側に向けて略水平に配置されている。
11は、前記回路基板10の上面側に実装され、放熱器により放熱が実施される発熱素
子を表しており、該発熱素子11は、回路基板10の上に複数実装されている。
12は、放熱器での放熱を必要としない素子(以下「その他素子12」ともいう)であ
り、該その他素子12は、回路基板10上に配置された複数の発熱素子11の内の一発熱
素子と他発熱素子との間などに位置するように回路基板10の上に実装されている。
13は、後述する熱伝導シートならびに放熱器を回路基板10の上面側で固定するため
の固定ピンであり、該固定ピン13は、丸棒形状を有しており、回路基板10の四隅に一
本ずつ合計四本立設されている。
そして、この回路基板10の四隅に立設された固定ピン13の先端部には丸棒形状の外
周面がネジ切りされたネジ部13aが形成されている。
【0014】
図1における20は、熱伝導シートを表し、21は、熱伝導シート20を構成するシリ
コーンゴム粘着シートであり、該シリコーンゴム粘着シート21は、無機物粒子を含むシ
リコーンゴム組成物により形成されている。
また、22は、前記シリコーンゴム粘着シート21とともに熱伝導シート20を構成す
る基材シートを表している。
【0015】
熱伝導シート20には、前記シリコーンゴム粘着シート21が、放熱器による放熱を実
施させる発熱素子11の数と同数用いられており、それぞれのシリコーンゴム粘着シート
21は、発熱素子11の上面側の形状と略同一形状を有している。
【0016】
前記基材シート22には、回路基板10と略同形の四角形状を有するシート材が用いら
れており、該基材シート22の四隅には、前記固定ピン13を挿通させ得る貫通孔22a
が形成されている。
【0017】
前記シリコーンゴム粘着シート21は、回路基板10上の発熱素子11の配列に対応す
るように配置されて基材シート22上に積層されている。
すなわち、シリコーンゴム粘着シート21を上面側に向けて熱伝導シート20を回路基
板10の隣に並べた場合には、発熱素子11の配置とシリコーンゴム粘着シート21の配
置とが鏡像の関係となるように複数のシリコーンゴム粘着シート21が基材シート22上
に積層されている。
【0018】
そして、熱伝導シート20は、前記配置されたシリコーンゴム粘着シート21を下面側
に向けて当該熱伝導シート20を回路基板10上に載置させる場合において、前記基材シ
ート22の貫通孔22aに前記固定ピン13を挿通させて該固定ピン13によってガイド
させることにより、回路基板10上のそれぞれの発熱素子11にシリコーンゴム粘着シー
ト21を当接させて回路基板10上に載置させ得るように形成されている。
【0019】
図1における30は、放熱器を表しており、該放熱器30は、前記熱伝導シート20の
基材シート22と同じく、回路基板10と略同形の四角形状を有しており、金属製の板材
が用いられている。
該放熱器30の板材にも四隅に前記固定ピン13を挿通させ得る貫通孔30aが形成さ
れている。
【0020】
したがって、例えば、前記熱伝導シート20と放熱器30とは、回路基板10と図2に
示すような固定方法で固定させて放熱機構を形成させ得る。
この図2は、回路基板10上に熱伝導シート20を載置し、さらに、放熱器30を載置
した後に、前記固定ピン13のネジ部13aにナット13bを螺合させ、該ナット13b
の締め付け力により放熱器30に対して図中下方向への圧力を付勢させた状態でこれらを
固定させた様子を示す概略側面図である。
このときその他素子12が、仮に、発熱素子11に比べて、回路基板10表面からの高
さが高い状態で回路基板10の上面側に実装されている場合でも、その差がシリコーンゴ
ム粘着シート21の厚み以下であれば、特に大きな問題を生じることなく放熱器30を回
路基板10に固定させることができる。
また、この放熱器30の固定において、例えば、放熱器30の端面と回路基板10の端
面とを揃えるべく放熱器30の位置を調整する場合には、前記基材シート22が非粘着性
を有することから基材シート22との接触箇所を滑らせて位置合わせを実施することがで
き、熱伝導シート20に対して横方向への応力が加えられることを防止しつつ位置合わせ
を実施させ得る。
【0021】
なお、放熱器30の位置あわせ後にナット13bの締め付けを実施すると、ナット13
bの締め付け時において放熱器30と基材シート22との間に締め付け力によるすべりが
発生して位置ずれが生じてしまうおそれを有する。
したがって、ある程度ナット13bでの締め付けを実施し、放熱器30に下向きの力を
加えた状態で放熱器30に対して基材シート22をすべらせて熱伝導シート20の位置を
調整し、該調整後に残りの締め付け力をナット13bでの締め付けにより付与させること
が好ましい。
このような放熱器30に回路基板10方向への圧力を加えた状態での位置合わせを実施
する場合においては、織布状または不織布状などといった表裏に貫通する空隙が形成され
た基材シート22が用いられている場合には、圧力によって前記空隙を通じてシリコーン
ゴム粘着シート21が基材シート22の背面側に露出してしまうおそれがある。
したがって、放熱器30に回路基板10方向への圧力を加えた状態での位置合わせを、
より好適に実施させ得る点において、前記基材シート22には、少なくとも、シリコーン
ゴム粘着シート21の配される部分においてシリコーンゴム粘着シート21が積層されて
いる側と、放熱器30に接触する側とを連通させる空隙が形成されていないことが好まし
く、例えば、合成樹脂フィルムが基材シートに用いられていることが好ましい。
【0022】
次いで、図3を参照しつつ熱伝導シート20についてより詳しく説明する。
図3は、熱伝導シート20の一態様を例示するための図であり、図1におけるX−X’
線での熱伝導シート20の断面を表す矢視断面図である。
この図3に例示する熱伝導シート20は、前記シリコーンゴム粘着シート21と基材シ
ート22とがいずれも単層構造を有している。
【0023】
前記シリコーンゴム粘着シート21は、無機物粒子を含むシリコーンゴム組成物により
単層構造に形成されており、前記無機物粒子としては、窒化硼素、窒化アルミニウム、窒
化珪素、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭化珪素、炭酸マグネシウム
などの粒子を例示することができる。
この無機物粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、繊維状、針状
、鱗片状などを例示することができ、その粒径については、通常、平均粒径100μm程
度以下とされる。
【0024】
前記シリコーンゴム組成物に用いられるシリコーンゴムとしては、通常、前記無機物粒
子を含有させた状態でシリコーンゴム組成物に粘着性を付与し得るものが用いられ、例え
ば、付加反応型液状シリコーンゴムを用いることができる。
該付加反応型液状シリコーンゴムとしては、例えば、下記の反応式(1)による付加反
応を実施させるべくビニル基とH−Si基とを成分中に含むシリコーンの反応物が挙げら
れる。
【0025】
【化1】

【0026】
例えば、一分子中にビニル基とH−Si基の両方を有する一液性の付加反応型シリコー
ン、または、末端あるいは側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンと末端あるい
は側鎖に2個以上のH−Si基を有するオルガノポリシロキサンとの二液性の付加反応型
シリコーンの付加反応により得られたシリコーンゴムが挙げられる。
【0027】
前記一液性の付加反応型シリコーンまたは二液性の付加反応型シリコーンとしては、メ
チル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基などの有機基を持つものが例示される。
【0028】
また、これらのシリコーンに含まれるビニル基、H−Si基の割合については、特に限
定されるものではないが、通常、ビニル基1モルに対して、H−Si基が0.7〜1.2
モルとなる割合とされる。
【0029】
また、シリコーンゴム組成物に付加反応型液状シリコーンゴムを含有させる場合には、
この付加反応型液状シリコーンゴムの付加反応を促進するため反応触媒をさらにシリコー
ンゴム組成物に含有させることができる。
この反応触媒としては、白金、白金黒、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化
白金酸とオレフィンとの錯体などといった白金系触媒を例示することができる。
このような白金系触媒を用いる場合には、付加反応後のシリコーンゴムを熱伝導シート
に適した硬度(柔軟性)とし得る点において、シリコーンゴム組成物中に占める含有量を
白金量換算で100ppm以下とすることが好ましい。
【0030】
シリコーンゴム組成物におけるシリコーンゴムや無機物粒子の配合量などについては特
に限定されるものではないが、発熱素子を回路基板上に実装する際に高さのばらつきが生
じたり、傾きが生じたりした際においてもこれらを吸収し得る柔軟性をシリコーンゴム硬
化後のシリコーンゴム粘着シートに付与させることが好ましく、シリコーンゴム硬化後の
シリコーンゴム粘着シートのアスカーC硬さが10以下となるようにシリコーンゴムなら
びに無機物粒子の配合量が決定されることが好適である。
本発明においては、一つの熱伝導シートに異なる厚みのシリコーンゴム粘着シートを採
用することも可能ではあるが、構造が複雑化してしまうおそれがある。したがって、熱伝
導シートを容易に作製しうる点において同一厚みのシリコーンゴム粘着シートを用いるこ
とが好ましい。
特に、シリコーンゴム粘着シートのアスカーC硬さが4〜8であり、且つ、厚みが1〜
5mmのいずれかである場合には、一般的な回路基板において生じうる発熱素子の実装高
さばらつきや傾きを概ね吸収させることが可能となる。
【0031】
このアスカーC硬さについては、日本ゴム協会標準規格SRIS0101に準拠した硬
度測定法で得られ、例えば、高分子計器株式会社製「アスカーC型スプリング式ゴム硬度
計」を用いて測定されうる。
より具体的には、標準状態(23℃、相対湿度約55%)の環境中に12時間以上放置
したシリコーンゴム粘着シートに対して、アスカーC型スプリング式ゴム硬度計を当接さ
せてから30秒後の値を測定することで求めることができる。
【0032】
さらには、発熱素子からの熱をよりすばやく放熱器に伝達して発熱素子の温度上昇を防
止しうる点においてシリコーンゴム粘着シートの熱伝導率が1.0W/mK以上となるよ
うに無機物粒子を配合することが好ましい。
なお、熱伝導率を1.5W/mK以上にしようとすると熱伝導率に優れた無機物粒子を
多く配合する必要が生じ、シリコーンゴム粘着シートに柔軟性を付与することが困難とな
ったり、あるいは、高価な無機物粒子を用いる必要が生じて熱伝導シートの製造コストを
上昇させたりするおそれがある。
すなわち、シリコーンゴム粘着シートの熱伝導率としては、1.0〜1.5W/mKが
好適である。
【0033】
また、上記のような観点からシリコーンゴム粘着シートに用いる無機物粒子としては、
酸化アルミニウム粒子が好適である。
しかも、シリコーンゴム粘着シートのシリコーンゴム成分100重量部に対して前記酸
化アルミニウム粒子を300〜500重量部含有させることにより上記のような熱伝導率
に調整しやすくなるばかりでなく、シリコーンゴム粘着シートに適度な手切れ性(千切れ
やすさ)を付与させることができ、シリコーンゴム粘着シートの外形加工における作業性
を向上させうる。
【0034】
前記基材シート22は、非粘着性を呈する材質でシート状に成形されているものであれ
ば、特に限定されるものではなく、例えば、合成樹脂、半合成樹脂、天然樹脂、ゴム、金
属、および鉱物などの内の1種以上の材質によりフィルム状、紙状(不織布状)、あるい
は、布状(織布状)に形成されたものを用い得る。
例えば、耐熱性ならびに優れた電気絶縁性などが求められる場合には、ポリイミドフィ
ルムなどを好適に用いうる。
一般的な用途においてはポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステルフィ
ルムを好適に用いうる。
【0035】
なお、本明細書中における“非粘着性”との用語は、常温(例えば20℃)においてそ
の表面に粘着性が発揮されていないことを意図して用いているものであり、例えば、高温
(例えば40℃以上)において粘着性が発揮される場合をも含む意図で用いている。
また、粘着性を有するか否かについては、例えば、対象となるシート材よりも十分大き
な表面積を有し表面が清浄かつ平滑な金属板を用意し、静電気などを除去した状態でシー
ト材を前記金属板上に載置して指で軽く押圧した後に、前記金属板を垂直に立てた際にシ
ート材が数秒以内に落下するか否かをもって判断することができる。
【0036】
次いで、このような熱伝導シートを製造する製造方法について説明する。
例えば、まず、付加反応型液状シリコーンゴムと無機物粒子と白金系触媒等を含む未硬
化の液状のシリコーンゴム組成物を適度な粘度に調整し、該調整された液状のシリコーン
ゴム組成物を基材シート上にコーティングし、該コーティングされたものを加熱してシリ
コーンゴム組成物の硬化を実施して基材シートの上に大面積の一枚のシリコーンゴム粘着
シートを積層させた積層体を形成させる。
そして、刃型を用いて得られた積層体の打ち抜きを実施して熱伝導シートの外形加工を
実施するとともに、複数のシリコーンゴム粘着シートを基材シート上に形成させるべく、
大面積の一枚のシリコーンゴム粘着シートに対しても刃型を用いてシリコーンゴム粘着シ
ートの厚み方向中間部分に刃先を侵入させてハーフカットを実施して、基材シート上にシ
リコーンゴム粘着シートを残留させる箇所と、残留不要箇所との間に切り込みを設ける。
その後、切り込みに沿ってシリコーンゴム粘着シートを分離し、且つ、不要箇所のシリ
コーンゴム粘着シートを基材シート上から除去して、必要個所のみを基材シート上に残留
させて図3に例示のような熱伝導シートを製造することができる。
【0037】
先にも述べたように、このときシリコーンゴム粘着シートを、シリコーンゴム成分10
0重量部に対して酸化アルミニウム粒子が300〜500重量部含有されているシリコー
ンゴム組成物で形成することによりハーフカットの刃の侵入深さが浅くなってしまったと
しても容易に不要部分の除去が可能となる。
【0038】
この基材シート上に複数のシリコーンゴム粘着シートを積層させる方法については、例
えば、型枠などを用いて実施させることも可能ではあるが、型枠を用いる方法ではバッチ
式の作業となってしまうことから、生産性の観点から、液状のシリコーンゴム組成物を連
続的にコーティングする方法を採用することが好ましい。
【0039】
例えば、ロール状の基材シートを用いて、該基材シートを送り出す送り出し部と、該送
り出し部から送り出された基材シートに塗工液(未硬化状態の液状のシリコーンゴム組成
物)を塗工する塗工部と、該途後部で塗工液が塗工された基材シートを加熱して塗工液を
硬化させる加熱炉部と、該加熱炉部を通過した基材シートを巻き取る巻き取り部とを有す
る一般的な塗工機で基材シート上略全面にシリコーンゴム粘着シートを積層させた積層体
を形成させる方法を採用し得る。
【0040】
ただし、通常、シリコーンゴム粘着シートをアスカーC硬さが10以下となるように形
成しようとすると用いる液状のシリコーンゴム組成物も低粘度なものとなってしまう。
そして、低粘度の液状のシリコーンゴム組成物で、例えば、1〜5mmの比較的厚みの
厚いシリコーンゴム粘着シートを形成させようとすると、液状シリコーンゴム組成物の塗
工後、且つ、硬化前において基材シートの幅方向端部で液状のシリコーンゴム組成物の液
ダレが生じるおそれを有する。
このような液ダレが生じると形成されるシリコーンゴム粘着シートは、幅方向中央部よ
りも幅方向端部の厚みが薄くなってしまうこととなる。
【0041】
通常、20Pa・s以下の低粘度な液状のシリコーンゴム組成物を基材シート上にコー
ティングして1mm以上の厚みを有するシリコーンゴム粘着シートを形成させることは、
幅方向端部での液ダレが大きく、従来公知のコーティング方法では実質困難である。
例えば、アスカーC硬さ4〜8のシリコーンゴム粘着シートを作製する場合、シリコー
ンゴム成分100重量部に対して酸化アルミニウム粒子が300〜500重量部含有させ
て熱伝導率を1.0〜1.5W/mKと使用とすると、シリコーンゴム組成物として9〜
10Pa・sの低粘度な液状のシリコーンゴム組成物を用いることで上記硬さに形成しや
すい状態となるもののこのような低粘度なシリコーンゴム組成物を一般的なコーティング
方法で1mm以上の厚みに形成しようとすると端部で液ダレが生じてしまうこととなる。
【0042】
このことを防止すべく一回の塗工を液ダレの生じない程度とし、塗工、硬化を複数回繰
り返して、シリコーンゴム粘着シートを所定厚みとさせることも可能である。
しかし、この方法では、基材シート上にシリコーンゴム粘着シートを所定厚みに積層さ
せるために多大な手間を要することとなる。
【0043】
一方で、例えば、基材シートの幅方向両端部に液ダレ防止措置を講じた状態で塗工を実
施させることにより、一度の塗工回数で所定厚みのシリコーンゴム粘着シートを基材シー
ト上形成させることも可能である。
このような方法によれば、シリコーンゴム粘着シートの厚みのバラツキが抑制された熱
伝導シートを、工程を簡略化しつつ製造し得る。
【0044】
この液ダレ防止措置としては、例えば、基材シートの両端部を90度に折り曲げ、しか
も折り曲げた部分の寸法がシリコーンゴム粘着シートの形成厚みより大きな寸法となるよ
うに折り曲げを実施して塗工液(未硬化状態の液状のシリコーンゴム組成物)を塗工し、
該塗工液の流れをこの折り曲げ部で堰きとめて液ダレを防止し、そして、この折り曲げ状
態を保持したままシリコーンゴム組成物の硬化を実施させる方法が挙げられる。
また、シリコーンゴム粘着シートの形成厚みより厚みの厚い細幅のクッションシートを
基材シートの両端部に貼り付けて塗工を実施することで、基材シートの両端部を折り曲げ
る場合と同様に基材シートの幅方向端部において液ダレが生じることを防止することがで
きる。
【0045】
例えば、ドクターブレード方式などのコーティングにおいては、ブレードの刃先と基材
シート表面とのクリアランスを形成するシリコーンゴム粘着シートの厚みと同等に設定し
前記クッションシートなど自然状態で前記クリアランスよりも厚い厚みを有し、且つ、前
記クリアランス以下の厚みに圧縮可能な堰き止め部材を基材シートの幅方向端部に設けて
コーティングを実施することで、例えば、20Pa・s以下の低粘度な液状シリコーンゴ
ム組成物などであっても、液ダレを防止しつつ1mm以上の厚みにコーティングすること
ができる。
したがって、例えば、自然状態で5mm以上の厚みを有し、1mm以下に圧縮可能な堰
き止め部材を用いることで1〜5mm厚みのシリコーンゴム粘着シートを一種類の堰き止
め部材で作製可能となる。
【0046】
なお、本発明においては、熱伝導シートならびにその用い方を上記の例示に限定するも
のではない。
例えば、前記シリコーンゴム粘着シートや前記基材シートは、図3に例示したような単
層構造である必要はなく、本発明においては、図4に例示するような積層構造のシリコー
ンゴム粘着シート21’や基材シート22’を採用することもできる。
【0047】
図4に例示の熱伝導シート20’における、積層構造を有するシリコーンゴム粘着シー
ト21’については、例えば、外層部21x’が先に説明した粘着性を有するシリコーン
ゴム組成物で形成され、単層構造の基材シート22に用いたシート材などで内層部21y
’が形成されたものを例示することができる。
【0048】
また、例えば、積層構造を有する基材シート22’については、外層部22x’が単層
構造の基材シート22に用いたシート材などで形成され、内層部22y’が貼り合わせ用
の接着剤などで形成されたものを例示することができる。
【0049】
さらに、一つの熱伝導シート20、20’に用いられる複数のシリコーンゴム粘着シー
ト21、21’の厚みは、本発明においては、図3や、図4に例示されているような、い
ずれもが同等厚みである必要はなく、異なる厚みのシリコーンゴム粘着シート21、21
’が基材シート22、22’上に配列されていても良い。
なお、前記のような製造方法によって熱伝導シートを容易に製造させ得る点においては
、一つの熱伝導シートに用いられる複数のシリコーンゴム粘着シートは、同一厚みに形成
されていることが好ましい。
【実施例】
【0050】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるも
のではない。
【0051】
(熱伝導シートの作製)
(基材シート)
基材シートとしては、表面離型処理が施された厚み100μmのポリエチレンテレフタ
レートフィルムを用いた。
【0052】
(塗工液の調整)
下記配合により塗工液(未硬化状態の液状のシリコーンゴム組成物)を作製した。
シリコーンゴム:二液性の付加反応型シリコーン 100重量部
無機物粒子:酸化アルミニウム(平均粒径約105μm) 400重量部
なお、BH型粘度計(No.5ロータ、回転数20rpm)を用いて25℃における
上記塗工液の粘度を測定したところ、約10Pa・sであった。
【0053】
(製造例1)
前記基材シート上に開口部が26cm×30cmの四角い型枠(厚み3mm)を載置し
、前記塗工液を型枠内に流し込んで表面をならし、150℃の炉内で10分間硬化させて
基材シート上へのシリコーンゴム粘着シートの積層を実施した。
得られた積層体におけるシリコーンゴム粘着シートは、アスカーC硬度が10以下であ
り、面内の厚みをマイクロゲージ(PEACOCK MODEL H−MT)にて9箇所
測定したところ、3±0.2mmの厚み精度であった。
【0054】
(製造例2)
前記基材シートの幅方向両端部に、幅10mm厚み約3mmのブチルゴム発泡ゴムシー
トを接着し(2本の発泡ゴムシートの間の距離は、25cm)、ドクターブレード法によ
って塗工液を塗工し、160℃の炉内を6分間かけて通過させてシリコーンゴム組成物の
硬化を実施させた。
得られた積層体におけるシリコーンゴム粘着シートは、アスカーC硬度が10以下であ
り、25cm×37cmの領域において面内の厚みをマイクロゲージ(PEACOCK
MODEL H−MT)にて9箇所測定したところ、3±0.1mmの厚み精度であった

【0055】
(製造例3)
発泡ゴムシートを設けなかったこと以外は、上記製造例2と同様にして積層体を製造し
た。
得られた積層体におけるシリコーンゴム粘着シートは、アスカーC硬度が10以下であ
り、面内の厚みをマイクロゲージ(PEACOCK MODEL H−MT)にて9箇所
測定したところ、1〜3mmと大きく厚みが異なる状態であった。
【0056】
製造例2の積層体を、外形打ち抜き刃型を用いて外形加工するとともにシリコーンゴム
粘着シート分割刃型を用いて、シリコーンゴム粘着シートをハーフカットし、不要な部分
のシリコーンゴム粘着シートを除去し、複数のシリコーンゴム粘着シートが基材シート上
に積層された状態を形成させて熱伝導シートを作製した。
得られた熱伝導シートは、回路基板への装着作業性に優れるものであった。
【0057】
このことからも、本発明によれば、作業性に優れた熱伝導シートを提供しうることがわ
かる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】熱伝導シートの使用方法(放熱機構)を示す概略斜視図。
【図2】熱伝導シートの使用方法(放熱機構)を示す概略側面図。
【図3】一実施形態の熱伝導シートを示す概略断面図。
【図4】他実施形態の熱伝導シートを示す概略断面図。
【符号の説明】
【0059】
10:回路基板、11:発熱素子、20:熱伝導シート、21:シリコーンゴム粘着シ
ート、22:基材シート、30:放熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物粒子を含むシリコーンゴム組成物により形成されたシリコーンゴム粘着シートが
用いられてなり、回路基板上に配置された複数の発熱素子と、該発熱素子から発生する熱
を放熱するための放熱器との間に介装され、前記シリコーンゴム粘着シートを前記発熱素
子に当接させて用いられる熱伝導シートであって、
前記複数の発熱素子の内の一発熱素子に当接されるシリコーンゴム粘着シートと、他発
熱素子に当接されるシリコーンゴム粘着シートとを含む複数のシリコーンゴム粘着シート
が用いられ、前記一発熱素子と前記他発熱素子とを同時に覆い得る大きさを有し前記放熱
器に当接させて用いられる非粘着性の基材シートがさらに用いられており、しかも、前記
複数のシリコーンゴム粘着シートの内の一シリコーンゴム粘着シートを前記一発熱素子に
当接させることにより他シリコーンゴム粘着シートを前記他発熱素子に当接させ得るよう
に配置されて前記複数のシリコーンゴム粘着シートが前記基材シート上に積層されている
ことを特徴とする熱伝導シート。
【請求項2】
前記シリコーンゴム粘着シートのアスカーC硬さが4〜8であり、且つ、厚みが1〜5
mmである請求項1記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記シリコーンゴム粘着シートには、酸化アルミニウム粒子が含有されており、しかも
、シリコーンゴム粘着シートのゴム成分100重量部に対して前記酸化アルミニウム粒子
が、300〜500重量部含有されている請求項1または2記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記シリコーンゴム粘着シートの熱伝導率が1.0〜1.5W/mKである請求項1乃
至3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−76657(P2009−76657A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243941(P2007−243941)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】