説明

熱伝導性シリコーン組成物およびこれを用いる実装基板

【課題】硬化性に優れる熱伝導性シリコーン組成物およびこれを用いる実装基板の提供。
【解決手段】(A)成分;1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するシランおよび/または1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するポリシロキサン、(B)成分;ジルコニウム化合物、ならびに(C)成分;10W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材を全シリコーン成分100質量部に対して100〜3000質量部含有し、25℃における粘度が10〜1,000Pa・sであり、電子基板と半導体装置との接着剤として使用される、加熱硬化型の熱伝導性シリコーン組成物、ならびに電子基板と半導体装置とを、当該熱伝導性シリコーン組成物を用いて加熱し、接着させることによって得られる実装基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱伝導性シリコーン組成物およびこれを用いる実装基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱伝導性を有する縮合硬化型または付加型のシリコーン樹脂組成物が提案されている(特許文献1〜4)。
また本願出願人は以前に光半導体を封止するために使用される組成物を提案した(特許文献5)。
【0003】
【特許文献1】特開2008−266449号公報
【特許文献2】特開2008−101081号公報
【特許文献3】特開2006−274155号公報
【特許文献4】特開2004−352947号公報
【特許文献5】特許4385078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シリコーン樹脂組成物が付加型の場合硬化触媒である白金が電子基板上に塗布された半田フラックスによって失活してしまい、これによって組成物の硬化が阻害され、その結果得られる実装基板において電子基板と半導体装置との接着性が悪くなることがあった。
また、縮合硬化型のシリコーン樹脂組成物を室温の条件下で硬化させる場合、硬化するまでに時間を長く要したり、硬化が不十分であることがあった。
そこで、本発明は、硬化性に優れる熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、
(A)成分;1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するシランおよび/または1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するポリシロキサン、(B)成分;ジルコニウム化合物、ならびに(C)成分;10W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材を全シリコーン成分100質量部に対して100〜3000質量部含有し、25℃における粘度が10〜1,000Pa・sであり、電子基板と半導体装置との接着剤として使用することができ、加熱硬化型の熱伝導性シリコーン組成物が、硬化性に優れる(具体的には短時間で十分に硬化することができる。また半田フラックスによる硬化阻害がない。)ことを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記1〜14を提供する。
1. (A)成分;1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するシランおよび/または1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するポリシロキサン、
(B)成分;ジルコニウム化合物、ならびに
(C)成分;10W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材を全シリコーン成分100質量部に対して100〜3000質量部含有し、
25℃における粘度が10〜1,000Pa・sであり、
電子基板と半導体装置との接着剤として使用される、加熱硬化型の熱伝導性シリコーン組成物。
2. 前記(A)成分が、25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・sであり、分子鎖両末端がトリメトキシシロキシ基で封止されたポリジメチルシロキサン、
25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・sであり、分子鎖両末端がケイ素原子結合アルコキシ基を5〜50重量%含有するアルコキシシランオリゴマーで封止されたポリジメチルシロキサン、アルコシキシランのオリゴマー、および
前記シランからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1記載の熱伝導性シリコーン組成物。
3. 前記(B)成分が下記式(1)で表される化合物および/または下記式(2)で表される化合物である、上記1または2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【化1】

(式中、R1は炭素原子数1〜18の炭化水素基である。)
【化2】

(式中、R2はそれぞれ炭素原子数1〜16の炭化水素基であり、R3はそれぞれ炭素原子数1〜18の炭化水素基であり、mは1〜3の整数である。)
4. 前記(C)熱伝導性充填材が、金属、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ粉、ダイヤモンド、水酸化アルミニウム、カーボンおよびこれらを表面処理したものからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜3のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
5. 前記(B)ジルコニウム化合物の量が前記(A)成分100質量部に対して0.001〜1質量部である上記1〜4のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
6. さらに(D)成分;1分子中に2個以上のシラノール基を有するポリシロキサンを含有し、前記(D)成分の量が前記(A)成分100質量部に対して1000質量部以下である上記1〜5のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
7. さらに(E)成分;スズ化合物を含有し、前記(E)成分の量が、前記(A)成分100質量部に対して、または前記(A)成分および前記(D)成分の合計100質量部に対して、0.001〜1質量部である上記1〜6のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
8. 前記(C)熱伝導性充填材が、アルミナと窒化アルミニウムとを併用するものである上記1〜7のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
9. 前記(C)熱伝導性充填材が、平均粒子径10μm以下の熱伝導性充填材と平均粒子径10μmを超える熱伝導性充填材とを併用する上記1〜8のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
10. 前記(C)熱伝導性充填材が粉末状である上記1〜9のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
11. 電子基板と半導体装置とを、上記1〜10のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物を用いて加熱し、接着させることによって得られる実装基板。
12. 前記電子基板の材料がエポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂およびポリイミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記11に記載の実装基板。
13. 前記半導体装置のパッケージの材料がエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記11または12に記載の実装基板。
14. 前記加熱の温度が50〜200℃である上記11〜13のいずれかに記載の実装基板。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は硬化性に優れる。本発明の実装基板は放熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下詳細に説明する。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)成分;1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するシランおよび/または1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するポリシロキサン、
(B)成分;ジルコニウム化合物、ならびに
(C)成分;10W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材を全シリコーン成分100質量部に対して100〜3000質量部含有し、
25℃における粘度が10〜1,000Pa・sであり、電子基板と半導体装置との接着剤として使用される、加熱硬化型の熱伝導性シリコーン組成物である。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、ジルコニウム化合物を含有することによって加熱硬化型とすることができ、硬化性に優れる。また、熱伝導性充填材を含有することによって熱伝導性に優れ、本発明の熱伝導性シリコーン組成物から得られる硬化物は放熱性に優れる。
なお本発明の熱伝導性シリコーン組成物を以下「本発明の組成物」ということがある。
【0009】
(A)成分について以下に説明する。本発明の組成物に含有される(A)成分は、1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するシランおよび/または1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するポリシロキサンである。
(A)成分としてのシランは1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有する。例えば、1分子中1個のケイ素原子を有し、ケイ素原子にアルコキシ基が2個以上結合している化合物(以下この化合物を「シランA1」ということがある。)、1分子中2個以上のケイ素原子を有し、ケイ素原子にアルコキシ基が2個以上結合している化合物(以下この化合物を「シランA2」ということがある。)が挙げられる。
【0010】
(A)成分としてのシランは1分子中に1個以上の有機基を有することができる。
シランが有することができる有機基としては、例えば、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基が挙げられる。具体的には、例えば、アルキル基(炭素数1〜20のものが好ましい。)、γ−グリシドキシプロピル基、(メタ)アクリロキシアルキル基、アルケニル基、アリール基;これらの組合せ;これらまたはこれらの組み合わせの2価に対応するものが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチルアリル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。なかでも、耐熱着色安定性に優れるという観点から、メチル基、γ−グリシドキシプロピル基、(メタ)アクリロキシプロピル基が好ましい。
【0011】
シランA1としては、例えば、下記式(2)で表されるものが挙げられる。
Si(OR1n24-n (2)
式(2)中、nは2、3または4であり、R1はアルキル基であり、R2は有機基である。有機基は、シランの有機基に関して記載したものと同義である。
【0012】
シランA1としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランのようなジアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランのようなトリアルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロピルオキシシランのようなテトラアルコキシシラン;シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤は特に制限されない。例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランのような(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシランが挙げられる。
なお、本発明において、(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシランは、アクリロキシアルキルトリアルコキシシランまたはメタクリロキシアルキルトリアルコキシシランであることを意味する。(メタ)アクリロキシアルキル基についても同様である。
【0013】
シランA2(1分子中2個以上のケイ素原子を有し、ケイ素原子にアルコキシ基が2個以上結合している化合物)は、ケイ素原子とケイ素原子とが炭化水素基で結合されているのが好ましい態様の1つとして挙げられる。またシランA2においてケイ素原子とケイ素原子との間にはシロキサン結合を有さないのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
シランA2としては例えばビス(アルコキシシリル)アルカンが挙げられる。ビス(アルコキシシリル)アルカンとしては、例えば、下記式(VII)で表されるものが挙げられる。
【化3】

式中、R7〜R8はそれぞれアルキル基であり、R9は酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよい2価のアルカン(アルキレン基)であり、aはそれぞれ1〜3の整数である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基が挙げられる。R9としての2価のアルカンは上記の2価のアルカンと同義である。
【0014】
ビス(アルコキシシリル)アルカンとしては、例えば、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ブタン、1−メチルジメトキシシリル−4−トリメトキシシリルブタン、1,4−ビス(メチルジメトキシシリル)ブタン、1,5−ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、1−メチルジメトキシシリル−5−トリメトキシシリルペンタン、1,5−ビス(メチルジメトキシシリル)ペンタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,5−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、2,5−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(メチルジメトキシシリル)ヘキサン、1,7−ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、2,5−ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、2,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、1,8−ビス(トリメトキシシリル)オクタン、2,5−ビス(トリメトキシシリル)オクタン、2,7−ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,9−ビス(トリメトキシシリル)ノナン、2,7−ビス(トリメトキシシリル)ノナン、1,10−ビス(トリメトキシシリル)デカン、3,8−ビス(トリメトキシシリル)デカン;ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)アミンのような2価のアルカンが窒素原子を有するものが挙げられる。
【0015】
シランは、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、ビス(トリアルコキシシリル)アルカンが好ましく、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,7−ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、1,8−ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,9−ビス(トリメトキシシリル)ノナンおよび1,10−ビス(トリメトキシシリル)デカンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)アミンがさらに好ましい。
シランはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。なおシランとして使用されるビス(アルコキシシリル)アルカンは接着付与剤として使用することができる。
【0016】
ポリシロキサンについて以下に説明する。
(A)成分としてのポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有し、骨格としてポリシロキサン骨格を有する。ポリシロキサン骨格は、鎖状(直鎖、分岐)、シリコーンレジン、網目状、環状、これらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0017】
(A)成分としてのポリシロキサンとしては、例えば、式(3)で表される化合物が挙げられる。
mSi(OR′)n(4-m-n)/2 (3)
式(3)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基またはアリール基であり、R′は炭素数1〜6のアルキル基であり、mは0<m<2、nは0<n<2、m+nは0<m+n≦3である。
【0018】
炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基等が挙げられる。なかでも、耐熱性に優れるという観点から、メチル基が好ましい。アルケニル基は、炭素数1〜6のものが挙げられ、具体的には例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチルアリル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
式(3)で表される化合物において、R′の炭素数1〜6のアルキル基は例えば酸素原子のようなヘテロ原子を含むことができる。R′は例えばアシル基であってもよい。アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基が挙げられる。
【0019】
また、(A)成分としてのポリシロキサンとして例えば、少なくとも片末端にアルコキシシリル基を有し、1分子中に2個以上のアルコキシ基(アルコキシシリル基由来のもの)を有する化合物(以下これを「ポリシロキサンA1」という。)が好ましい形態として挙げられる。ポリシロキサンA1としては、例えば、分子鎖両末端がトリメトキシシロキシ基で封止されたポリジオルガノシロキサン、分子鎖両末端がケイ素原子結合アルコキシ基(ケイ素原子結合アルコキシ基としてはケイ素原子に結合する例えば炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる。具体的には例えばメトキシ基が挙げられる。)を5〜50重量%含有するアルコキシシランオリゴマーで封止されたポリジオルガノシロキサンが挙げられる。ポリシロキサンA1は、例えば、両末端シラノール基を有するポリシロキサン1モルに対してアルコキシリル基を有するシランまたはアルコキシシランオリゴマー1モル以上を脱アルコール縮合した反応物として得ることができる。
ポリシロキサンA1を製造するために使用される、アルコキシ基を有するシランとしては、例えば、上記の式(2):Si(OR1n24-nで表される化合物が挙げられる。また、ポリシロキサンA1を製造するために使用される、ケイ素原子結合アルコキシ基を5〜50重量%含有するアルコキシシランオリゴマーとして例えば、上記の式(3):RmSi(OR′)n(4-m-n)/2で表される化合物、下記式(4)で表されるメチルメトキシオリゴマーなどが挙げられる。本発明において、ケイ素原子結合アルコキシ基を5〜50重量%含有するアルコキシシランオリゴマーは、アルコキシシランオリゴマー1分子中、ケイ素原子結合アルコキシ基をアルコキシ基(例えばメトキシ基)として5〜50重量%の量で含有する。
ポリシロキサンA1を製造するために使用される、両末端シラノール基を有するポリシロキサンとしては、例えば、後述する(D)成分:ポリシロキサンとして式(1)で表されるものが挙げられる。
ポリシロキサンA1としては、例えば、下記式(IV)で表される、分子鎖両末端がトリメトキシシロキシ基で封止されたポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【化4】

式中、nは原料とした両末端シラノール基を有するポリシロキサンの分子量に対応する数値とすることができる。
式(IV)で表される化合物は、例えば両末端にシラノール基を有するポリシロキサンをテトラメトキシシラン[アルコキシ基を有するシランとして上記に例示された式(2)で表される化合物に該当する。]で変性することによって製造することができる。
【0020】
また、ポリシロキサンA1として、例えば、下記式で表される分子鎖両末端がケイ素原子結合アルコキシ基を5〜50重量%含有するアルコキシシランオリゴマーで封止されたポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【化5】

式中、R″は炭素数1〜6のアルキル基(例えばメチル基)であり、aはそれぞれ1〜100の整数であり、bはそれぞれ0〜100の整数であり、nは原料とした両末端シラノール基を有するポリシロキサンの分子量に対応する数値とすることができる。
【0021】
また、(A)成分においてポリシロキサンとして、アルコキシシランのオリゴマーを使用することができる。オリゴマーはアルコキシシリル基を有するポリシロキサンであれば特に制限されない。アルコキシシランのオリゴマーを以下「ポリシロキサンA2」ということがある。ポリシロキサンA2はグリシドキシ基のようなエポキシ基を有することができる。ポリシロキサンA2としては例えば、アルコシキシランの加水分解縮合物を使用することができる。本発明の組成物において(A)成分として含有することができる、シランの加水分解縮合物は、1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有し、シロキサン結合を有する化合物である。
加水分解縮合物を製造する際に使用されるアルコシキシランは、1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するシランであれば特に制限されない。1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するシランは上記と同義である。
アルコシキシランの加水分解縮合物はその製造について特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
アルコシキシランの加水分解縮合物の粘度は、5〜1000mPa・sであるのが好ましく、50〜500mPa・sであるのがより好ましい。またアルコシキシランの加水分解縮合物の粘度は、100mPa・s未満とすることができる。
【0022】
加水分解縮合物としては、例えば、メチルメトキシオリゴマーのようなシリコーンアルコキシオリゴマー;3−グリシドキシプロピル基を有するアルコキシシランのオリゴマーが挙げられる。シリコーンアルコキシオリゴマーは、主鎖がポリオルガノシロキサンであり、分子末端がアルコキシシリル基で封鎖されたシリコーンレジンとすることができる。メチルメトキシオリゴマーとしては、具体的には例えば、下記式(4)で表されるものが挙げられる。
【化6】

式(4)中、R″はメチル基であり、aは1〜100の整数であり、bは0〜100の整数である。
加水分解縮合物は市販品を使用することができる。加水分解縮合物の市販品としては、例えば、メチルメトキシオリゴマーとして商品名x−40−9246(重量平均分子量6,000、信越化学工業社製)、3−グリシドキシプロピル基を有するアルコキシシランオリゴマーとして商品名X−40−1053(信越化学工業社製)が挙げられる。
加水分解縮合物は、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、3−グリシドキシプロピル基を有するアルコキシシランオリゴマー、X−40−1053が好ましい。
(A)成分としてのポリシロキサンは、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、ポリシロキサンA1とポリシロキサンA2とを併用するのが好ましい。
【0023】
(A)成分は、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、
25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・sであり、分子鎖両末端がトリメトキシシロキシ基で封止されたポリジメチルシロキサン、
25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・sであり、分子鎖両末端がケイ素原子結合アルコキシ基を5〜50重量%含有するアルコキシシランオリゴマーで封止されたポリジメチルシロキサン、アルコシキシランのオリゴマー、および
シランからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0024】
(A)成分としてのポリシロキサンの粘度は硬化性により優れ、硬化時間、可使時間が適切な長さとなり、相溶性に優れるという観点から、100〜1,000,000mPa・sであるのが好ましく、500〜20,000mPa・sであるのがより好ましい。
(A)成分としてのポリシロキサンがポリシロキサンA1である場合その粘度は硬化性により優れ、硬化時間、可使時間が適切な長さとなり、相溶性に優れるという観点から、100〜1,000,000mPa・sであるのが好ましく、500〜20,000mPa・sであるのがより好ましい。
(A)成分としてのポリシロキサンがポリシロキサンA2(アルコキシシランのオリゴマー)である場合その粘度は硬化性により優れ、硬化時間、可使時間が適切な長さとなり、相溶性に優れるという観点から、5〜1000mPa・sであるのが好ましく、50〜500mPa・sであるのがより好ましい。またポリシロキサンA2の粘度は、100mPa・s未満とすることができる。
本発明において(A)成分(ポリシロキサン)の粘度はB型粘度計を用いて25℃の条件下において測定された。
【0025】
(A)成分の分子量は、硬化性により優れ、硬化時間、可使時間が適切な長さとなり、相溶性に優れるという観点から、5,000〜1,000,000であるのが好ましく、120,000〜100,000であるのがより好ましい。
なお、本発明において、(A)成分がポリシロキサンの場合、その分子量は、クロロホルムを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量であるものとする。
(A)成分はその製造について特に制限されず、例えば従来公知のものが挙げられる。(A)成分はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
(A)成分は硬化性により優れ、硬化時間、可使時間が適切な長さとなり、相溶性に優れるという観点から、シランとポリシロキサンとを併用するのが好ましい。
【0027】
シランがビス(アルコキシシリル)アルカンである場合、ビス(アルコキシシリル)アルカンの量は、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、全シリコーン成分中の0.1〜5質量%であるのが好ましい。
なお本発明において全シリコーン成分とはシリコーン樹脂を形成し得る成分の合計であることを意味し、シリコーン成分には(A)成分および必要に応じて使用することができる、後述の(D)ポリシロキサンが含まれる。したがって、シリコーン成分が(A)成分だけである場合は全シリコーン成分100質量部は(A)成分100質量部であり、シリコーン成分が(A)成分および(D)ポリシロキサンを含む場合全シリコーン成分は(A)成分および(D)成分の合計となる。
【0028】
(B)成分であるジルコニウム化合物について以下に説明する。ジルコニウム化合物はジルコニウムを含む化合物であれば特に制限されない。ジルコニウム化合物は有機基を有することができる。有機基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有することができる。ジルコニウム原子が上記のようなヘテロ原子を介して有機基と結合してもよい。ジルコニウム化合物はジルコニル化合物、有機カルボン酸塩であってもよい。ジルコニウム化合物は、硬化性により優れ、加熱硬化性、室温での組成物の粘度安定性に優れるという観点から、下記式(1)で表される化合物および/または下記式(2)で表される化合物であるのが好ましい。
【0029】
【化7】

(式中、R1は炭素原子数1〜18の炭化水素基である。)
【化8】

(式中、R2はそれぞれ炭素原子数1〜16の炭化水素基であり、R3はそれぞれ炭素原子数1〜18の炭化水素基であり、mは1〜3の整数である。)
【0030】
ジルコニウム化合物[特に式(1)で表される化合物および/または下記式(2)で表される化合物]は室温近辺でのアルコキシシリル基の加水分解縮合、アルコキシ基とシラノール基およびシラノール基同士の縮合反応が起こり難い(つまり低温での活性が低い。)。この点においてジルコニウム化合物は室温での上記加水分解縮合が速いスズ化合物とは反応機構が相違すると本願発明者らは考える。
本発明の組成物に含有されるジルコニウム化合物は、加熱によって活性化し、ケイ素結合アルコキシ基(および/またはシラノール基)を縮合させることができる。これによってジルコニウム化合物は、少なくともケイ素結合アルコキシ基またはシラノール基を有する化合物を含有する組成物を加熱によって全体的に均一に硬化させることができる。
このようにジルコニウム化合物は硬化性に優れる熱潜在性の縮合触媒として使用することができる。またジルコニウム化合物の使用量は少量とすることができる。
【0031】
式(1)で表される化合物について以下に説明する。式(1)で表される化合物はジルコニル化合物である。
【化9】

式(1)中R1は炭素原子数1〜18の炭化水素基である。炭素原子数1〜18の炭化水素基としては例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの組み合わせが挙げられる。炭化水素基は直鎖状でも分岐していてもよい。炭化水素基は不飽和結合を有することができる。炭化水素基は例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有することができる。
【0032】
脂肪族炭化水素基としては例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基のようなシクロアルキル基;ナフテン環(ナフテン酸由来のシクロパラフィン環);アダマンチル基、ノルボルニル基のような縮合環系炭化水素基が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては例えば、フェニル基、ナフチル基、アズレンが挙げられる。
なかでも硬化性により優れ、シリコーンへの溶解性、組成物の室温での粘度安定性に優れるという観点から、脂肪族炭化水素基および/または脂環式炭化水素基であるのがより好ましく、脂環式炭化水素基であるのがさらに好ましい。
【0033】
式(1)で表される化合物としては、ジオクチル酸ジルコニル、ジネオデカン酸ジルコニルのような脂肪族カルボン酸塩;ナフテン酸ジルコニル、シクロヘキサン酸ジルコニルのような脂環式カルボン酸塩;安息香酸ジルコニルのような芳香族カルボン酸塩が挙げられる。
【0034】
式(2)で表される化合物について以下に説明する。式(2)で表される化合物はアルコキシ基を有するジルコニウム金属塩である。
【化10】

式(2)中、R2はそれぞれ炭素原子数1〜16の炭化水素基であり、R3はそれぞれ炭素原子数1〜18の炭化水素基であり、mは1〜3の整数である。
式(2)においてmが2以上である場合複数のR2は同じでも異なっていてもよい。また、mが1〜2である場合複数のR3は同じでも異なっていてもよい。
【0035】
2としての炭化水素基はその炭素原子数が1〜16である。R2において炭素原子数は、硬化性により優れ、接着性、相溶性[例えば(A)成分に対する相溶性]に優れるという観点から、3〜16であるのが好ましく、4〜16であるのがより好ましい。
2における炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの組み合わせが挙げられる。炭化水素基は直鎖状でも分岐していてもよい。炭化水素基は不飽和結合を有することができる。炭化水素基は例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有することができる。R1における炭化水素基は、硬化性により優れ、接着性、相溶性に優れるという観点から、脂環式炭化水素基、脂肪族炭化水素基であるのが好ましい。
【0036】
2は、硬化性により優れ、相溶性に優れるという観点から、環状構造を有するのが好ましい。
2が有することができる環状構造としては、例えば、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの組み合わせが挙げられる。R2は環状構造のほかに例えば脂肪族炭化水素基を有することができる。
【0037】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基のようなシクロアルキル基;ナフテン環(ナフテン酸由来のシクロパラフィン環);アダマンチル基、ノルボルニル基のような縮合環系炭化水素基が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては例えば、フェニル基、ナフチル基、アズレンが挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基が挙げられる。
なかでも硬化性により優れ、相溶性に優れるという観点から、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が好ましく、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ナフテン環(R1COO−としてのナフテート基)、フェニル基がより好ましく、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ナフテン環がさらに好ましい。
【0038】
本発明において、R3としての炭化水素基はその炭素原子数が1〜18である。R3において炭素原子数は、硬化性により優れ、相溶性に優れるという観点から、3〜8であるのが好ましい。
3における炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの組み合わせが挙げられる。炭化水素基は直鎖状でも分岐していてもよい。炭化水素基は不飽和結合を有することができる。炭化水素基は例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有することができる。R3における炭化水素基は、硬化性により優れ、接着性、相溶性に優れるという観点から、脂肪族炭化水素基であるのが好ましい。
【0039】
脂肪族炭化水素基を有するR3O−(アルコキシ基)としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基(n−プロポキシ基、イソプロポキシ基)、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基が挙げられる。
なかでも硬化性により優れ、相溶性に優れるという観点から、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基(n−プロポキシ基、イソプロポキシ基)、ブトキシ基、ペンチルオキシ基であるのが好ましい。
【0040】
環状構造として脂環式炭化水素基を有するジルコニウム金属塩としては、例えば、ジルコニウムトリアルコキシモノシクロプロパンカルボキシレート、ジルコニウムジアルコキシジシクロプロパンカルボキシレート、ジルコニウムモノアルコキシトリシクロプロパンカルボキシレートのようなジルコニウムアルコキシシクロプロパンカルボキシレート;
ジルコニウムトリアルコキシモノシクロペンタンカルボキシレート、ジルコニウムジアルコキシジシクロペンタンカルボキシレート、ジルコニウムモノアルコキシトリシクロペンタンカルボキシレートのようなジルコニウムアルコキシシクロペンタンカルボキシレート;
ジルコニウムトリブトキシモノシクロヘキサンカルボキシレート、ジルコニウムジブトキシジシクロヘキサンカルボキシレート、ジルコニウムモノブトキシトリシクロヘキサンカルボキシレート、ジルコニウムトリプロポキシモノシクロヘキサンカルボキシレート、ジルコニウムジプロポキシジシクロヘキサンカルボキシレート、ジルコニウムモノプロポキシトリシクロヘキサンカルボキシレートのようなジルコニウムアルコキシシクロヘキサンカルボキシレート;
ジルコニウムトリアルコキシモノアダマンタンカルボキシレート、ジルコニウムジアルコキシジアダマンタンカルボキシレート、ジルコニウムモノアルコキシトリアダマンタンカルボキシレートのようなジルコニウムアルコキシアダマンタンカルボキシレート;
ジルコニウムトリブトキシモノナフテート、ジルコニウムジブトキシジナフテート、ジルコニウムモノブトキシトリナフテート、ジルコニウムトリプロポキシモノナフテート、ジルコニウムジプロポキシジナフテート、ジルコニウムモノプロポキシトリナフテートのようなジルコニウムアルコキシナフテートが挙げられる。
【0041】
環状構造として芳香族炭化水素基を有するジルコニウム金属塩としては、例えば、
ジルコニウムトリブトキシモノベンゼンカルボキシレート、ジルコニウムジブトキシジベンゼンカルボキシレート、ジルコニウムモノブトキシトリベンゼンカルボキシレート、ジルコニウムトリプロポキシモノベンゼンカルボキシレート、ジルコニウムジプロポキシジベンゼンカルボキシレート、ジルコニウムモノプロポキシトリベンゼンカルボキシレートのようなジルコニウムアルコキシベンゼンカルボキシレートが挙げられる。
【0042】
脂肪族炭化水素基を有するジルコニウム金属塩としては、例えば、
ジルコニウムトリブトキシモノイソブチレート、ジルコニウムジブトキシジイソブチレート、ジルコニウムモノブトキシトリイソブチレート、ジルコニウムトリプロポキシモノイソブチレート、ジルコニウムジプロポキシジイソブチレート、ジルコニウムモノプロポキシトリイソブチレートのようなジルコニウムアルコキシブチレート;
ジルコニウムトリブトキシモノ2エチルヘキサノエート、ジルコニウムジブトキシジ2エチルヘキサノエート、ジルコニウムモノブトキシトリ2エチルヘキサノエート、ジルコニウムトリプロポキシモノ2エチルヘキサノエート、ジルコニウムジプロポキシジ2エチルヘキサノエート、ジルコニウムモノプロポキシトリ2エチルヘキサノエートのようなジルコニウムアルコキシ2エチルヘキサノエート;
ジルコニウムトリブトキシモノネオデカネート、ジルコニウムジブトキシジネオデカネート、ジルコニウムモノブトキシトリネオデカネート、ジルコニウムトリプロポキシモノネオデカネート、ジルコニウムジプロポキシジネオデカネート、ジルコニウムモノプロポキシトリネオデカネートのようなジルコニウムアルコキシネオデカネートが挙げられる。
【0043】
なかでも硬化性により優れ、接着性、相溶性に優れるという観点から、環状構造として脂環式炭化水素基を有するジルコニウム金属塩、環状構造として芳香族炭化水素基を有するジルコニウム金属塩が好ましい。また同様の理由からジルコニウムトリアルコキシモノナフテート、ジルコニウムトリアルコキシモノイソブチレート、ジルコニウムトリアルコキシモノ2エチルヘキサノエート、ジルコニウムトリアルコキシモノシクロプロパンカルボキシレート、ジルコニウムトリアルコキシシクロブタンカルボキレート、ジルコニウムトリアルコキシモノシクロペンタンカルボキシレート、ジルコニウムトリアルコキシモノシクロヘキサンカルボキシレート、ジルコニウムトリアルコキシモノアダマンタンカルボキシレート、ジルコニウムトリアルコキシモノベンゼンカルボキシレート、ジルコニウムジアルコキシジナフテートが好ましく、ジルコニウムトリブトキシモノナフテート、ジルコニウムトリブトキシモノイソブチレート、ジルコニウムトリブトキシモノ2エチルヘキサノエート、ジルコニウムトリブトキシモノシクロプロパンカルボキシレート、ジルコニウムトリブトキシモノシクロペンタンカルボキシレート、ジルコニウムトリブトキシモノシクロヘキサンカルボキシレート、ジルコニウムトリアルコキシモノベンゼンカルボキシレート、ジルコニウムトリブトキシモノアダマンタンカルボキシレート、ジルコニウムジブトキシジナフテート、ジルコニウムトリプロポキシモノナフテートがさらに好ましい。
【0044】
ジルコニウム化合物は、硬化性により優れ、触媒活性の熱潜在性に優れるという観点から、1〜3個のアシル基(エステル結合)を有するアルコシキ基含有ジルコニウム金属塩であるのが好ましい。
ジルコニウム化合物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
ジルコニウム化合物はその製造について特に制限されない。ここに式(2)で表される化合物を例として取り上げてその製造方法を以下に説明する。ジルコニウム化合物の製造方法としては例えば、Zr(OR34[ジルコニウムテトラアルコキシド。R3はそれぞれ炭素原子数1〜18の炭化水素基である。R3は式(2)におけるR3と同義である。]1モルに対して、R2−COOHで表されるカルボン酸[R2はそれぞれ炭素原子数1〜16の炭化水素基である。R2は式(2)におけるR2と同義である。]1モル以上4モル未満を用いて、窒素雰囲気下、20〜80℃の条件下で攪拌することによって製造することができる。
また、Zrアルコラートとカルボン酸の反応についてはD.C.Bradley著「Metal alkoxide」Academic Press(1978)を参考とすることができる。
【0046】
ジルコニウム化合物を製造するために使用することができるZr(OR34としては、例えば、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドが挙げられる。
【0047】
ジルコニウム化合物を製造するために使用することができるカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、イソブタン酸、オクチル酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、ラウリン酸のような脂肪族カルボン酸;ナフテン酸、シクロプロパンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキシルカルボン酸(シクロヘキサンカルボン酸)、アダマンタンカルボン酸、ノルボルナンカルボン酸のような脂環式カルボン酸;安息香酸のような芳香族カルボン酸が挙げられる。
【0048】
(B)ジルコニウム化合物の量は、硬化性により優れ、触媒活性の熱潜在性に優れるという観点から、(A)成分100質量部に対して0.001〜1質量部であるのが好ましく、0.001〜0.1質量部であるのがより好ましい。
【0049】
本発明の組成物がさらに後述する(D)ポリシロキサンを含有する場合、(B)ジルコニウム化合物の量は、硬化性により優れ、触媒活性の熱潜在性に優れるという観点から、(A)成分および(D)ポリシロキサンの合計100質量部に対して0.001〜1質量部であるのが好ましく、0.001〜0.1質量部であるのがより好ましい。
【0050】
(C)成分である熱伝導性充填材について以下に説明する。本発明の組成物に含有される熱伝導性充填材は10W/m・K以上の熱伝導率を有する。
熱伝導性充填材を構成する材料としては、例えば、金属、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ粉、ダイヤモンド、水酸化アルミニウム、カーボンが挙げられる。熱伝導性充填材はその表面を表面処理剤で表面処理したものであってもよい。表面処理剤としては例えば、アルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、脂肪酸、脂肪酸エステルが挙げられる。
【0051】
熱伝導性充填材は、硬化性より優れ、熱伝導性に優れるという観点から、アルミナと窒化アルミニウムとを併用するものであるのが好ましい。
【0052】
熱伝導性充填材は、硬化性より優れ、熱伝導性に優れるという観点から、その平均粒子径が0.1μm〜50μmであるのが好ましい。
また、熱伝導性充填材は、硬化性より優れ、熱伝導性、接着性に優れるという観点から、平均粒子径10μm以下の熱伝導性充填材と平均粒子径10μmを超える熱伝導性充填材とを併用するのが好ましく、平均粒子径20μm〜40μmの熱伝導性充填材と平均粒子径0.1μm〜5μmの熱伝導性充填材とを併用するのがより好ましい。
熱伝導性充填材の平均粒子径はJIS Z 8901に準じレーザー回折法またはコールターカウンター法を用いて測定された。
熱伝導性充填材がアルミナと窒化アルミニウムとを併用する場合、硬化性より優れ、熱伝導性、接着性に優れるという観点から、窒化アルミニウムの平均粒子径は10μm以下でありアルミナの平均粒子径が10μmを超えるのが好ましく、窒化アルミニウムの平均粒子径は0.1μm〜5μmでありアルミナの平均粒子径が20μm〜40μmであるのがより好ましい。
本発明において、アルミナの平均粒子径はコールターカウンター法を用いて測定された。窒化アルミニウムの平均粒子径はレーザー回折法を用いて測定された。
【0053】
熱伝導性充填材は、硬化性より優れ、熱伝導性、接着性に優れるという観点から、その形状が粉末状であるのが好ましい。
熱伝導性充填材はそれぞれ単独でまたは2種以上を組合わせて使用することができる。
【0054】
本発明において熱伝導性充填材の量は、全シリコーン成分100質量部に対して100〜3000質量部である。このような範囲の場合、硬化性、熱伝導性、接着性に優れる。なお本発明において全シリコーン成分とはシリコーン樹脂を形成し得る成分の合計であることを意味し、シリコーン成分には(A)成分および必要に応じて使用することができる、後述の(D)ポリシロキサンが含まれる。したがって、シリコーン成分が(A)成分だけである場合は全シリコーン成分100質量部は(A)成分100質量部であり、シリコーン成分が(A)成分および(D)ポリシロキサンを含む場合全シリコーン成分は(A)成分および(D)成分の合計となる。熱伝導性充填材の量は、硬化性により優れ、熱伝導性、接着性に優れるという観点から、全シリコーン成分100質量部に対して100〜2000質量部であるのが好ましく、200〜1500質量部であるのがより好ましい。
【0055】
本発明の組成物はさらに(D)成分として1分子中に2個以上のシラノール基を有するポリシロキサンを含有することができる。本発明の組成物は硬化性により優れ、熱伝導性、接着性に優れるという観点から(D)成分をさらに含有するのが好ましい。
【0056】
本発明の組成物がさらに含有することができるポリシロキサンは、1分子中に2個以上のシラノール基を有するポリシロキサンである。ポリシロキサンは、オルガノポリシロキサンであるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
オルガノポリシロキサンが有する炭化水素基は特に制限されない。例えば、フェニル基のような芳香族基;アルキル基;アルケニル基が挙げられる。(D)成分としてのポリシロキサンの主鎖は直鎖、分岐のいずれであってもよい。(D)成分としてのポリシロキサンとしては、例えば、2個以上のシラノール基が末端に結合しているオルガノポリジアルキルシロキサンが挙げられる。
(D)成分としてのポリシロキサンは、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、2個のシラノール基が両末端に結合しているオルガノポリジメチルシロキサンであるのが好ましく、2個のシラノール基が両末端に結合している直鎖状のオルガノポリジメチルシロキサン(直鎖状オルガノポリジメチルシロキサン−α,ω−ジオール)であるのがより好ましい。(D)成分としてのポリシロキサンは例えば下記式(1)で表されるものが挙げられる。
【0057】
【化11】

式(1)中、mは、ポリシロキサンの重量平均分子量に対応する数値とすることができる。mは、作業性、耐クラック性に優れるという観点から、10〜15,000の整数であるのが好ましい。
【0058】
(D)成分としてのポリシロキサンはその製造について特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
(D)成分としてのポリシロキサンの粘度は、硬化性により優れ、硬化時間、可使時間が適切な長さとなり硬化性に優れ、硬化物物性に優れるという観点から、100〜1,000,000mPa・sであるのが好ましく、500〜20,000mPa・sであるのがより好ましい。なお本発明において(D)ポリシロキサンの粘度はB型粘度計を用いて25℃の条件下において測定された。
(D)成分としてのポリシロキサンの分子量は、硬化性により優れ、硬化時間、可使時間が適切な長さとなり硬化性に優れ、硬化物物性に優れるという観点から、5,000〜1,000,000であるのが好ましく、20,000〜100,000であるのがより好ましい。
本発明において(D)成分としてのポリシロキサンの分子量は、クロロホルムを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
(D)成分としてのポリシロキサンは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
(D)成分としてのポリシロキサンの量は、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、(A)成分100質量部に対して1000質量部以下であるのが好ましく、50〜900質量部であるのがより好ましい。
【0060】
本発明の組成物はさらに(E)成分としてスズ化合物を含有することができる。本発明の組成物は硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から(E)成分をさらに含有するのが好ましい。
【0061】
本発明の組成物がさらに含有することができるスズ化合物は、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、4価のスズ化合物が好ましい。4価のスズ化合物としては、例えば、少なくとも1個のアルキル基と少なくとも1個のアシル基とを有する4価のスズ化合物が好ましい。
本発明において、スズ化合物はアシル基をエステル結合として有することができる。
【0062】
少なくとも1個のアルキル基と少なくとも1個のアシル基とを有する4価のスズ化合物としては、例えば、式(II)で表されるもの、式(II)で表されるもののビス型、ポリマー型が挙げられる。
3a−Sn−[O−CO−R44-a (II)
式中、R3はアルキル基であり、R4は炭化水素基であり、aは1〜3の整数である。
【0063】
アルキル基は炭素原子数1以上のものが挙げられ、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基が挙げられる。
炭化水素基は特に制限されない。例えば、メチル基、エチル基のような脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの組み合わせが挙げられる。炭化水素基は直鎖状でも分岐していてもよい。炭化水素基は不飽和結合を有することができる。炭化水素基は例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有することができる。
【0064】
式(II)で表されるもののビス型としては、例えば、下記式(III)で表されるものが挙げられる。
【化12】

式中、R3、R4は式(II)と同義であり、aは1または2である。
【0065】
スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズマレエートのようなジアルキルスズ化合物[上記式(II)で表され、aが2であるもの]);ジブチルスズオキシアセテートジブチスズオキシオクチレート、ジブチルスズオキシラウレートジブチルスズビスメチルマレート、ジブチルスズオキシオレエートのようなジアルキルスズの2量体;またはジブチルスズマレートポリマー、ジオクチルスズマレートポリマー;モノブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)[上記式(II)で表されaが1であるもの]が挙げられる。
なかでも、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオレエート、ジブチルスズジラウリレート、ジブチルスズオキシアセテートジブチルスズオキシオクチレート、ジブチルスズオキシラウレートが好ましい。
スズ化合物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。スズ化合物はその製造について特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
【0066】
(E)成分:スズ化合物の量は、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、(A)成分100質量部に対して0.001〜1質量部であるのが好ましく、0.001〜0.1質量部であるのがより好ましい。
【0067】
本発明の組成物がさらに(D)ポリシロキサンを含有する場合、(E)成分:スズ化合物の量は、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、(A)成分および(D)ポリシロキサンの合計100質量部に対して0.001〜1質量部であるのが好ましく、0.001〜0.1質量部であるのがより好ましい。
【0068】
また、スズ化合物の量は、硬化性により優れ、接着性に優れるという観点から、ジルコニウム化合物1モルに対して、0.1モル以上4モル未満であるのが好ましく、0.5〜1.5モルであるのがより好ましい。
【0069】
本発明の組成物は、(A)〜(E)成分以外に、本発明の目的や効果を損なわない範囲で必要に応じてさらに添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、ジルコニウム化合物およびスズ化合物以外の硬化触媒、無機フィラーなどの充填剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、熱光安定剤、分散剤、帯電防止剤、重合禁止剤、消泡剤、硬化促進剤、溶剤、蛍光体(例えば無機蛍光体)、老化防止剤、ラジカル禁止剤、接着性改良剤、難燃剤、界面活性剤、保存安定性改良剤、オゾン老化防止剤、増粘剤、可塑剤、放射線遮断剤、核剤、カップリング剤、導電性付与剤、リン系過酸化物分解剤、顔料、金属不活性化剤、物性調整剤、接着付与剤が挙げられる。各種添加剤は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0070】
本発明の組成物は、貯蔵安定性に優れるという観点から、実質的に水を含まないのが好ましい態様の1つとして挙げられる。本発明において実質的に水を含まないとは、本発明の組成物中における水の量が0.1質量%以下であることをいう。
また、本発明の組成物は、作業環境性に優れるという観点から、実質的に溶媒を含まないのが好ましい態様の1つとして挙げられる。本発明において実質的に溶媒を含まないとは、本発明の組成物中における溶媒の量が1質量%以下であることをいう。
【0071】
本発明の組成物は、その製造について特に制限されない。例えば、(A)〜(C)成分と、必要に応じて使用することができる、(D)成分、(E)成分、添加剤とを混合することによって製造することができる。
なお、本発明の組成物がさらに(E)スズ化合物を含有する場合、あらかじめ(B)ジルコニウム化合物および(E)スズ化合物を混合させて得た混合物として使用することができる、または、(B)ジルコニウム化合物および(E)スズ化合物を別々に用いて系内に添加することができる。
【0072】
本発明の組成物は1液型または2液型として製造することが可能である。本発明の組成物を2液型とする場合、(B)ジルコニウム化合物、必要に応じて使用することができる、(D)ポリシロキサン、(E)スズ化合物を含む第1液と、(A)成分を含む第2液とを有するものとするのが好ましい態様の1つとして挙げられる。添加剤は第1液および第2液のうちの一方または両方に加えることができる。
【0073】
本発明の組成物は25℃における粘度が10〜1,000Pa・sである。このような範囲の場合、成形性、接着性に優れる。また、25℃における組成物の粘度は、成形性、接着性に優れるという観点から、50〜500Pa・sであるのが好ましく、100〜400Pa・sであるのがより好ましい。本発明において組成物の粘度はB型粘度計を用いて25℃の条件下において測定された。
【0074】
本発明の組成物は電子基板と半導体装置との接着剤として使用することができる。
本発明の組成物を適用することができる光半導体装置は実装部品であれば特に制限されない。例えば、ダイオード(LED)、有機電界素子(有機EL)、レーザーダイオード、LEDアレイのような半導体素子がパッケージされたICチップが挙げられる。ICチップのパッケージを構成する材料としては、例えば、樹脂、セラミック、ガラス、アルミニウムのような金属等が挙げられる。
本発明の組成物を適用することができる電子基板は特に制限されない。例えば、プリント基板のような電子回路基板が挙げられる。電子基板を構成する材料としては、例えば、樹脂、セラミック、ガラス、アルミニウムのような金属等が挙げられる。電子基板は例えば、ダイパッド、ボンディングパッドを有してもよい。ダイパッドとしては例えばAu製の膜状のパターンが挙げられる。ボンディングパッドも同様である。電子基板上に例えば半田、半田フラックスが適用されてもよい。
本発明の組成物の使用方法としては、部品および/または基材(例えば光半導体装置および/または電子基板)に本発明の組成物を付与し、部品と基材とを合わせて(光半導体装置を電子基板に搭載させ)本発明の組成物が付与された部分を少なくとも加熱して本発明の組成物を硬化させ部品と基材とを接着させることが挙げられる。
本発明の組成物を付与する方法は特に制限されない。例えば、ディスペンサーを使用する方法、ポッティング法、スクリーン印刷、トランスファー成形、インジェクション成形が挙げられる。
本発明の組成物は電子基板と半導体装置との接着剤以外にも、例えば、半導体レーザーおよびその回路基板と放熱板の接着剤等として使用することができる。
【0075】
本発明の組成物は加熱硬化型であり、加熱によって硬化することができる。
加熱温度は、硬化性により優れ、硬化時間、可使時間を適切な長さとすることができ、硬化物の平滑性、成形性、物性に優れるという観点から、50〜200℃であるのが好ましく、80℃〜150℃であるのがより好ましく、150℃付近がさらに好ましい。
加熱は、硬化性、透明性に優れるという観点から、実質的に無水の条件下で行うことができる。本発明において、加熱が実質的に無水の条件下でなされるとは、加熱における環境の大気中の湿度が10%RH以下であることをいう。
【0076】
本発明の組成物を加熱し硬化させることによって得られる硬化物(シリコーン樹脂)は熱伝導性を有する。得られた硬化物の熱伝導率は、放熱性に優れるという観点から、0.5W/m・K以上であるのが好ましく、2.0W/m・K以上であるのがより好ましい。硬化物の熱伝導率は、JIS R 2616に準じ、25℃の条件下において熱線法熱伝導率測定装置を用いて行われた。硬化物の熱伝導率の評価に使用された硬化物は、本発明の組成物450g程度を30mm×50mm×100mm以上となる大きさで、80℃の条件下に24時間置いて硬化させたものを使用した。
【0077】
本発明の実装基板について以下に説明する。
本発明の実装基板は、電子基板と半導体装置とを、本発明の熱伝導性シリコーン組成物を用いて加熱し、接着させることによって得られる実装基板である。
【0078】
本発明の実装基板に接着剤として使用される組成物は本発明の組成物であれば特に制限されない。
本発明の実装基板に使用される電子基板は特に制限されない。上記と同様のものが挙げられる。電子基板の材料は、組成物による接着性が高くなり、汎用性が高いという観点から、エポキシ樹脂(例えば、ガラスエポキシ)、ビスマレイミドトリアジン樹脂(例えば、三菱ガス化学社製BTレジン)およびポリイミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0079】
本発明の実装基板に使用される半導体装置は特に制限されない。上記と同様のものが挙げられる。半導体装置のパッケージの材料は、組成物による接着性が高くなり、汎用性が高いという観点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0080】
本発明の実装基板の製造方法としては例えば、光半導体装置および/または電子基板に組成物を付与し、光半導体装置を電子基板に搭載させ組成物が付与された部分を少なくとも加熱して組成物を硬化させ光半導体装置と電子基板とを接着させることが挙げられる。
組成物を光半導体装置および/または電子基板に付与する方法は特に制限されない。例えば、ディスペンサーを使用する方法、ポッティング法、スクリーン印刷、トランスファー成形、インジェクション成形が挙げられる。加熱温度は上記と同様である。
【0081】
本発明の実装基板は本発明の組成物を用いることによって、半田フラックス等による硬化阻害を受けることがなく加熱することができ硬化性に優れる。また本発明の実装基板は熱伝導性優れ光半導体装置と電子基板との接着性に優れる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明する。ただし本発明は実施例に限定されない。
【0083】
<ジルコニウム化合物の製造>
ジルコニウムトリブトキシモノナフテート[(B)ジルコニウム化合物1]
87.5質量%濃度のジルコニウムテトラブトキシド(関東化学社製)11.4g(0.026mol)とナフテン酸(東京化成社製、カルボキシ基に結合する炭化水素基の炭素原子数の平均:15、中和価220mg、以下同様。)6.6g(0.026mol)とを三ツ口フラスコに投入し窒素雰囲気下、室温で2時間程度攪拌し目的合成物とした。
なお、ナフテン酸の中和価はナフテン酸1gを中和するのに必要なKOHの量である。
合成物の定性はフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いてその分析を行った。その結果、カルボン酸由来のCOOHに帰属される1700cm-1付近の吸収が反応後は消失し、1450〜1560cm-1付近のCOOZrに由来するピークを確認した。
得られた合成物を(B)ジルコニウム化合物1とする。(B)ジルコニウム化合物1が有するナフテート基(R1COO−)中のR1の平均炭素原子数は15である。
【0084】
<評価>
下記のようにして得られたシリコーン組成物を用いて以下に示す方法で粘度、接着性、熱伝導率、体積抵抗、硬化時間、フラックスによる硬化阻害について評価した。結果を第1表に示す。
[粘度]
シリコーン組成物の粘度はB型粘度計を用い、25℃の条件下で測定された。
[接着性]
被着体として、アルミニウム(A1050)被着体またはガラス被着体を用いた。個々の被着体の上に厚さ1mmとなるように20mm×20mm程度の面積でシリコーン組成物を塗布し、それぞれを150℃の条件下で30分硬化させ積層体を得た。得られた積層体において、シリコーン組成物の硬化物と被着体の界面に2mm程度の切れ目を入れて、硬化物を被着体から剥がした。剥離後、被着体に硬化物が残った場合をCF、残らなかった場合をAFとした。
[熱伝導率]
シリコーン組成物を30mm×50mm×100mm以上となる大きさで、80℃の条件下に24時間置いて硬化させたものを使用し、京都電子工業(株)製のModel QTM−500で測定した。
[体積抵抗]
シリコーン組成物を30mm×50mm×100mm以上となる大きさで、80℃の条件下に24時間置いて硬化させたものを使用し、株式会社アドバンテスト社製超高抵抗/微小電流計を用いて測定を行った。
[硬化時間]
50gのシリコーン組成物を150℃の条件下においてシリコーン組成物の表面が硬化しタックがなくなるまでの時間を測定した。
[フラックスによる硬化阻害]
フラックスとして、アビエチン酸をトルエンに10質量%溶解させた溶液を作製した。これをガラス基材に塗布し、その上にシリコーン組成物を塗布・硬化(硬化は150℃の条件下で1時間)させ、硬化後ガラスとの界面でシリコーン組成物が完全に硬化している場合は○、未硬化またはベトツキがあるものを×とした。
【0085】
<シリコーン組成物の製造>
下記第1表に示す成分を同表に示す量(単位:質量部)で真空かくはん機を用いて均一に混合しシリコーン組成物を製造した。
なお実施例においてジルコニウム化合物およびスズ化合物をそれぞれ投入して組成物を製造した。
【0086】
【表1】

【0087】
第1表に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・(A)ポリシロキサン1:両末端トリメトキシシロキシ封鎖ジメチルポリシロキサン
(A)ポリシロキサン1は以下のとおり製造した。
500mLの3つ口フラスコに攪拌機とリフラックスコンデンサーを備え付け両末端にシラノール基を有するポリシロキサン(ポリジメチルシロキサン−α,ω−ジオール、重量平均分子量49,000、商品名ss10、信越化学工業社製。)を100質量部、テトラメトキシシランを10質量部、および酢酸を0.1質量部添加し窒素雰囲気下で100℃の条件下で6時間反応させた。1H−NMR分析によりss10が有するシラノール基の消失を確認した。得られたオルガノシロキサンを(A)ポリシロキサン1とした。(A)ポリシロキサン1は以下の式で示される、両末端がトリメトキシシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサンである。(A)ポリシロキサン1の重量平均分子量は55,000であった。ポリシロキサンの重量平均分子量はクロロホルムを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)分析によりポリスチレン換算で表わされるものである。
【化13】

また(A)ポリシロキサン1の25℃における粘度は1,500mPa・sであった。
【0088】
・(D)ポリシロキサン1:両末端シラノールジメチルポリシロキサン、商品名RF20000、信越化学工業社製、25℃における粘度20,000mPa・s
・(B)ジルコニウム化合物1:上述のとおり製造したトリブトキシナフテン酸ジルコニウム。
・(B)ジルコニウム化合物2:ナフテン酸ジルコニル、日本化学産業社製
・(E)スズ化合物1:ジブチルスズジアセテート、日東化成社製
・付加型シリコーン1:商品名KE−106、信越化学工業社製
・(C)熱伝導性充填材1:アルミナ、商品名CB−A25BC、昭和電工社製、表面処理なし、平均粒子径28μm(コールカウンター法による測定値)
・(C)熱伝導性充填材2:窒化アルミニウム粉(AlN)、商品名高純度窒化アルミニウム粉末H、トクヤマ社製、表面処理なし、平均粒子径1.13μm(レーザー回折法による測定値)
・(A)シラン1:1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、商品名KBM3066、信越化学工業社製
・(A)ポリシロキサン2:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランオリゴマー、X−40−1053、信越化学工業社製、25℃における粘度12mPa・s
【0089】
第1表に示す結果から明らかなように、熱伝導性充填材を含有しない比較例1は熱伝導性が低かった。付加型のシリコーン樹脂を含有する比較例2は接着性が低くフラックスによる硬化阻害が発生した。(B)成分;ジルコニウム化合物を含有しない比較例3は硬化時間が長く硬化性に劣った。
これに対して、実施例1〜4は短い硬化時間で十分に硬化することができ、半田フラックスによる硬化阻害を受けることがなく、硬化性に優れる。また、実施例1〜4は粘度が適正なものとなり、接着性、熱伝導性が高く放熱性に優れ、体積抵抗が高く絶縁性に優れる。
このように本発明の組成物は短い硬化時間で十分に硬化することができ、半田フラックスによる硬化阻害を受けることがなく、硬化性に優れるものである。本発明の組成物が上述の硬化性に優れることによって、これを用いる本発明の実装基板はフラックスに対する硬化阻害をなくし電子基板と半導体装置との接着性を優れたものにすることができ、硬化時間が短く生産性に優れる。
また本発明の組成物を用いて得られる本発明の実装基板は放熱性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分;1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するシランおよび/または1分子中にケイ素原子結合アルコキシ基を2個以上有するポリシロキサン、
(B)成分;ジルコニウム化合物、ならびに
(C)成分;10W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材を全シリコーン成分100質量部に対して100〜3000質量部含有し、
25℃における粘度が10〜1,000Pa・sであり、
電子基板と半導体装置との接着剤として使用される、加熱硬化型の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・sであり、分子鎖両末端がトリメトキシシロキシ基で封止されたポリジメチルシロキサン、
25℃における粘度が100〜1,000,000mPa・sであり、分子鎖両末端がケイ素原子結合アルコキシ基を5〜50重量%含有するアルコキシシランオリゴマーで封止されたポリジメチルシロキサン、
アルコシキシランのオリゴマー、および
前記シランからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が下記式(1)で表される化合物および/または下記式(2)で表される化合物である、請求項1または2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【化1】

(式中、R1は炭素原子数1〜18の炭化水素基である。)
【化2】

(式中、R2はそれぞれ炭素原子数1〜16の炭化水素基であり、R3はそれぞれ炭素原子数1〜18の炭化水素基であり、mは1〜3の整数である。)
【請求項4】
前記(C)熱伝導性充填材が、金属、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ粉、ダイヤモンド、水酸化アルミニウム、カーボンおよびこれらを表面処理したものからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記(B)ジルコニウム化合物の量が前記(A)成分100質量部に対して0.001〜1質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
さらに(D)成分;1分子中に2個以上のシラノール基を有するポリシロキサンを含有し、前記(D)成分の量が前記(A)成分100質量部に対して1000質量部以下である請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
さらに(E)成分;スズ化合物を含有し、前記(E)成分の量が、前記(A)成分100質量部に対して、または前記(A)成分および前記(D)成分の合計100質量部に対して、0.001〜1質量部である請求項1〜6のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
前記(C)熱伝導性充填材が、アルミナと窒化アルミニウムとを併用するものである請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項9】
前記(C)熱伝導性充填材が、平均粒子径10μm以下の熱伝導性充填材と平均粒子径10μmを超える熱伝導性充填材とを併用する請求項1〜8のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項10】
前記(C)熱伝導性充填材が粉末状である請求項1〜9のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項11】
電子基板と半導体装置とを、請求項1〜10のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物を用いて加熱し、接着させることによって得られる実装基板。
【請求項12】
前記電子基板の材料がエポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂およびポリイミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項11に記載の実装基板。
【請求項13】
前記半導体装置のパッケージの材料がエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項11または12に記載の実装基板。
【請求項14】
前記加熱の温度が50〜200℃である請求項11〜13のいずれかに記載の実装基板。

【公開番号】特開2012−69783(P2012−69783A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213938(P2010−213938)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】