説明

熱処理装置および熱処理方法

【課題】焼成時における膜中の異常結晶成長を防止することができる熱処理装置および熱処理方法を提供する。
【解決手段】表面に薄膜が形成された半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入されて保持部7に保持される。チャンバー6内の雰囲気置換が行われた後、光照射部5のフラッシュランプFLから半導体ウェハーWに向けてフラッシュ光が照射され、薄膜の焼成処理が行われる。フラッシュ光照射と同時に、光照射部5のハロゲンランプHLによる光照射も開始する。発光時間が極めて短く強度の強いフラッシュ光であれば、薄膜の表面温度を瞬間的に昇温することができる。このため、膜中に長時間焼成に起因した異常結晶成長が生じるのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハーや液晶表示装置用ガラス基板等の薄板状の精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)の表面に形成された薄膜の焼成処理を行う熱処理装置および熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや液晶ディスプレイなどの製造に際して、上記基板に対する薄膜形成は欠くことの出来ない重要技術である。例えば、半導体ウェハーにパターン形成を行うためのフォトリソグラフィーにおいては、ウェハー上にレジスト膜や反射防止膜を形成する。また、半導体ウェハーの表面に絶縁のための層間絶縁膜や電極配線などのための金属膜を形成することもある。さらに、液晶表示装置用のガラス基板にはシリコン(Si)の多結晶または非晶質の膜を形成することが行われている。
【0003】
これらの薄膜を形成するための技術としては、真空蒸着やスパッタリングなどの物理的気相成長法、CVD(Chemical Vapor Deposition)に代表される化学的気相成長法、および、スピンコートなどの塗布法が広く用いられている。いずれの手法を用いた場合であっても、基板上に形成した薄膜の焼成処理を行うことがある。塗布法によって形成された薄膜であれば、塗布液中の溶媒を揮発させる必要があり、スパッタリングやCVDを用いて形成された薄膜であっても焼き締めを行う場合がある。
【0004】
従来、薄膜の焼成処理は、上記の種々の手法によって表面に薄膜を形成した基板をホットプレート上に載置し、その薄膜を加熱することによって行われてきた。例えば、特許文献1には、反射防止膜の一種であるBARC(Bottom Anti-Reflection Coating)の塗布液をスピンコートによって基板に塗布し、その基板をホットプレート上に載置して加熱することにより反射防止膜の焼成処理を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−66645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるようなホットプレートでの加熱によって薄膜の焼成処理を行った場合には、膜中に異常結晶成長が生じやすいという問題があった。すなわち、加熱によって膜中の結晶粒が粗大化し、一部の結晶粒が異常成長した結果、薄膜と下地基板との境界や粒界に凹凸が生じることがあった。近年、ますますパターンの微細化が進展している状況においては、このような凹凸が高精度のパターン形成の阻害要因となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、焼成時における膜中の異常結晶成長を防止することができる熱処理装置および熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板の表面に形成された薄膜の焼成処理を行う熱処理装置において、薄膜が表面に形成された基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて前記基板を保持する保持手段と、前記チャンバー内に処理ガスを供給するガス供給手段と、前記チャンバーから排気を行う排気手段と、前記保持手段に保持された前記基板を光照射によって所定温度に温調するハロゲンランプと、前記保持手段に保持された前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理装置において、前記ハロゲンランプは、前記基板を光照射によって200℃以下の温度に温調することを特徴とする。
【0010】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る熱処理装置において、前記ガス供給手段は、前記基板の表面に形成された薄膜と反応する反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段を含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記ガス供給手段は、前記チャンバー内に付着した汚染物質と反応して当該汚染物質を除去するクリーニングガスを供給するクリーニングガス供給手段を含むことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記保持手段に保持された前記基板の表面に対向して設けられ、当該表面に対向する領域に均一な密度にて複数の吐出孔を穿設し、前記ガス供給手段から供給された処理ガスを前記複数の吐出孔から前記基板に向けて吹き出す吹き出しプレートをさらに備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6の発明は、請求項1から請求項5のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記保持手段に保持された前記基板を当該基板の主面内にて回転させる回転手段をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7の発明は、請求項1から請求項6のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記排気手段は、前記チャンバー内を大気圧よりも低い気圧に減圧する減圧手段を含むことを特徴とする。
【0015】
また、請求項8の発明は、請求項1から請求項7のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記フラッシュランプからフラッシュ光を照射すると同時に前記ハロゲンランプによる光照射を開始するとともに、フラッシュ光照射後も光照射を継続するように前記ハロゲンランプを制御するランプ制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項9の発明は、請求項1から請求項8のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記保持手段に保持された前記基板に冷却用ガスを供給して当該基板を冷却する冷却用ガス供給手段をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項10の発明は、請求項1から請求項9のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記保持手段に保持された前記基板と前記ハロゲンランプとの間を遮光するシャッター機構をさらに備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項11の発明は、基板の表面に形成された薄膜の焼成処理を行う熱処理方法において、薄膜が表面に形成された基板をチャンバー内に収容する収容工程と、前記チャンバーから排気を行う排気工程と、前記チャンバー内に処理ガスを供給するガス供給工程と、前記チャンバー内に収容された前記基板をハロゲンランプからの光照射によって所定温度に温調するハロゲン照射工程と、前記チャンバー内に収容された前記基板にフラッシュランプからフラッシュ光を照射するフラッシュ照射工程と、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、請求項12の発明は、請求項11の発明に係る熱処理方法において、前記ハロゲン照射工程では、前記基板を200℃以下の温度に温調することを特徴とする。
【0020】
また、請求項13の発明は、請求項11または請求項12の発明に係る熱処理方法において、前記ガス供給工程では、前記チャンバー内に前記基板の表面に形成された薄膜と反応する反応性ガスを供給することを特徴とする。
【0021】
また、請求項14の発明は、請求項11から請求項13のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記チャンバー内に付着した汚染物質と反応して当該汚染物質を除去するクリーニングガスを供給するクリーニング工程をさらに備えることを特徴とする。
【0022】
また、請求項15の発明は、請求項11から請求項14のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記チャンバー内に収容された前記基板を当該基板の主面内にて回転させる回転工程をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
また、請求項16の発明は、請求項11から請求項15のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記排気工程は、前記チャンバー内を大気圧よりも低い気圧に減圧する減圧工程を含むことを特徴とする。
【0024】
また、請求項17の発明は、請求項11から請求項16のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記ハロゲン照射工程は、前記フラッシュランプからフラッシュ光を照射すると同時に前記ハロゲンランプによる光照射を開始するとともに、フラッシュ光照射後も光照射を継続することを特徴とする。
【0025】
また、請求項18の発明は、請求項11から請求項17のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記ハロゲン照射工程の後に、前記基板に冷却用ガスを供給して当該基板を冷却する冷却用ガス供給工程をさらに備えることを特徴とする。
【0026】
また、請求項19の発明は、請求項11から請求項18のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記ハロゲン照射工程の後に、前記チャンバー内に収容された前記基板と前記ハロゲンランプとの間をシャッターによって遮光することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
請求項1から請求項10の発明によれば、薄膜が表面に形成された基板にフラッシュ光を照射して当該薄膜の焼成処理を行うため、薄膜の表面温度を瞬間的に上昇させて急速に下降させることができ、焼成時における膜中の異常結晶成長を防止することができる。
【0028】
特に、請求項4の発明によれば、ガス供給手段は、チャンバー内に付着した汚染物質と反応して当該汚染物質を除去するクリーニングガスを供給するクリーニングガス供給手段を含むため、薄膜の焼成処理によってチャンバー内に付着した汚染物質を除去して当該汚染物質が基板に付着するのを防止することができる。
【0029】
特に、請求項5の発明によれば、保持手段に保持された基板の表面に対向する領域に均一な密度にて複数の吐出孔を穿設した吹き出しプレートを備えるため、基板表面に均等に処理ガスを供給することができる。
【0030】
特に、請求項6の発明によれば、保持手段に保持された基板を当該基板の主面内にて回転させる回転手段を備えるため、基板面内で均一にハロゲンランプの光照射および処理ガス供給を行うことができる。
【0031】
特に、請求項7の発明によれば、排気手段がチャンバー内を大気圧よりも低い気圧に減圧する減圧手段を含むため、チャンバー内の雰囲気置換効率を向上させることができる。
【0032】
また、請求項11から請求項19の発明によれば、薄膜が表面に形成された基板にフラッシュ光を照射して当該薄膜の焼成処理を行うため、薄膜の表面温度を瞬間的に上昇させて急速に下降させることができ、焼成時における膜中の異常結晶成長を防止することができる。
【0033】
特に、請求項14の発明によれば、チャンバー内に付着した汚染物質と反応して当該汚染物質を除去するクリーニングガスを供給するクリーニング工程を備えるため、薄膜の焼成処理によってチャンバー内に付着した汚染物質を除去して当該汚染物質が基板に付着するのを防止することができる。
【0034】
特に、請求項15の発明によれば、チャンバー内に収容された基板を当該基板の主面内にて回転させる回転工程を備えるため、基板面内で均一にハロゲンランプの光照射および処理ガス供給を行うことができる。
【0035】
特に、請求項16の発明によれば、排気工程がチャンバー内を大気圧よりも低い気圧に減圧する減圧工程を含むため、チャンバー内の雰囲気置換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る熱処理装置の要部構成を示す図である。
【図2】吹き出しプレートの平面図である。
【図3】図1の熱処理装置における半導体ウェハーの処理手順を示すフローチャートである。
【図4】半導体ウェハーWの表面温度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の要部構成を示す図である。この熱処理装置1は、基板として略円形の半導体ウェハーWの表面に薄膜を形成したものにフラッシュ光を照射してその薄膜の焼成処理を行うフラッシュランプアニール装置である。図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0039】
熱処理装置1は、主たる構成として、半導体ウェハーWを収容する略円筒形状のチャンバー6と、チャンバー6内にて半導体ウェハーWを保持する保持部7と、チャンバー6内の半導体ウェハーWにハロゲン光およびフラッシュ光を照射する光照射部5と、チャンバー6内に処理ガスを供給するガス供給部8と、チャンバー6から排気を行う排気部9と、を備えている。また、熱処理装置1は、これらの各部を制御して薄膜焼成処理を実行させる制御部3を備える。
【0040】
チャンバー6は、光照射部5の下方に設けられており、略円筒状の内壁を有するチャンバー側部63、および、チャンバー側部63の下部を覆うチャンバー底部62によって構成される。また、チャンバー側部63およびチャンバー底部62によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。チャンバー6の上部開口にはチャンバー窓61が装着されて閉塞されている。
【0041】
チャンバー6の天井部を構成するチャンバー窓61は、石英により形成された円板形状部材であり、光照射部5から出射された光を熱処理空間65に透過する石英窓として機能する。チャンバー6の本体を構成するチャンバー底部62およびチャンバー側部63は、例えば、ステンレススチール等の強度と耐熱性に優れた金属材料にて形成されている。
【0042】
また、熱処理空間65の気密性を維持するために、チャンバー窓61とチャンバー側部63とは図示省略のOリングによってシールされている。すなわち、チャンバー窓61の下面周縁部とチャンバー側部63との間にはOリングを挟み込み、これらの隙間から気体が流出入するのを防いでいる。
【0043】
チャンバー側部63には、半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部66が設けられている。搬送開口部66は、図示を省略するゲートバルブによって開閉可能とされている。搬送開口部66が開放されると、図外の搬送ロボットによってチャンバー6に対する半導体ウェハーWの搬入および搬出が可能となる。また、搬送開口部66が閉鎖されると、熱処理空間65が外部との通気が遮断された密閉空間となる。
【0044】
保持部7は、保持リング71およびリング支持部72を備える。保持リング71は、石英(或いは、炭化ケイ素(SiC)等であっても良い)にて形成された円環形状の板状部材である。円環形状の保持リング71の外形は半導体ウェハーWの直径よりも大きく、内径は半導体ウェハーWの直径より若干小さい。このため、保持リング71は、その内周部にて半導体ウェハーWの周縁部を支持することができる。
【0045】
リング支持部72は、保持リング71を下方より水平姿勢にて支持する部材である。リング支持部72は、保持リング71の中心を鉛直方向に沿って貫く回転軸RXを中心として回転可能に構成されている。リング支持部72は、モータを備えた回転駆動部75によって回転される。なお、発塵のおそれのある回転駆動部75をチャンバー6の外部に設け、磁気引力によって回転駆動部75の駆動力を非接触でリング支持部72に伝達するようにしても良い。
【0046】
半導体ウェハーWの周縁部を保持リング71の内周部に載置することにより、保持部7はチャンバー6内の熱処理空間65に半導体ウェハーWを水平姿勢にて保持することとなる。そして、回転駆動部75が保持部7を回転させることにより、保持部7に保持された半導体ウェハーWもその主面内にて回転軸RXを回転中心として回転することとなる。なお、保持リング71に保持された半導体ウェハーWの中心と保持リング71自身の中心とは一致するため、回転軸RXは半導体ウェハーWの中心を貫通する。
【0047】
保持部7の保持リング71よりも内側下方にはウェハー昇降部4が設けられている。ウェハー昇降部4は、複数本(本実施の形態では3本)のリフトピン44と、リフトピン44を昇降するエアシリンダ45と、を備える。3本のリフトピン44の上端高さ位置は同一水平面内に含まれる。3本のリフトピン44はエアシリンダ45によって一括して鉛直方向に沿って昇降される。エアシリンダ45が3本のリフトピン44を上昇させると、各リフトピン44の先端が保持リング71よりも上側に突出する。また、エアシリンダ45がリフトピン44を下降させると、各リフトピン44の先端が保持リング71よりも下方に下降する。
【0048】
熱処理空間65の上部であって、チャンバー窓61の直下には、吹き出しプレート68が設けられている。図2は、吹き出しプレート68の平面図である。吹き出しプレート68は、石英にて形成された円板形状部材であり、保持部7に保持された半導体ウェハーWの表面に対向するように水平姿勢に設置されている。図2に示すように、吹き出しプレート68には、多数の吐出孔69が穿設されている。具体的には、少なくとも保持部7に保持された半導体ウェハーWの表面に対向する吹き出しプレート68の領域には均一な密度にて複数の吐出孔69が穿設されている。
【0049】
ガス供給部8は、チャンバー窓61と吹き出しプレート68との間に形成されたガス溜め空間67に処理ガスを供給する。本実施形態のガス供給部8は、不活性ガス供給部81、反応性ガス供給部84およびクリーニングガス供給部87を有する。不活性ガス供給部81は、不活性ガス供給源82とバルブ83とを備えており、バルブ83を開放することによってガス溜め空間67に不活性ガスを供給する。また、反応性ガス供給部84は、反応性ガス供給源85とバルブ86とを備えており、バルブ86を開放することによってガス溜め空間67に反応性ガスを供給する。同様に、クリーニングガス供給部87は、クリーニングガス供給源88とバルブ89とを備えており、バルブ89を開放することによってガス溜め空間67にクリーニングガスを供給する。なお、不活性ガス供給源82、反応性ガス供給源85、クリーニングガス供給源88としては、熱処理装置1内に設けられた気体タンクと送給ポンプとで構成するようにしても良いし、熱処理装置1が設置される工場の用力を用いるにようにしても良い。
【0050】
ここで、「不活性ガス」は、半導体ウェハーWの表面に形成された薄膜および半導体ウェハーWの材質との反応性に乏しいガスであり、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などである。「反応性ガス」は、半導体ウェハーWの表面に形成された薄膜との反応性に富むガスであり、酸素(O2)、水素(H2)、塩素(cl2)、水蒸気(H2O)、塩化水素(Hcl)、オゾン(O3)、アンモニア(NH3)などの他に臭素(Br)系化合物ガスやフッ素(F)系化合物ガスが該当する。また、「クリーニングガス」は、後述するようなチャンバー6内に付着した汚染物質と反応するガスであり、酸素(O2)、水素(H2)、塩素(cl2)、水蒸気(H2O)、塩化水素(Hcl)、オゾン(O3)、フッ素(F)系化合物ガスなどが該当する。本明細書においては、これら不活性ガス、反応性ガスおよびクリーニングガスを総称して処理のための「処理ガス」とする。なお、反応性ガスとクリーニングガスとは共通するガス種を含むものであり、反応性ガス供給部84とクリーニングガス供給部87とを兼用するようにしても良い。
【0051】
ガス供給部8からガス溜め空間67に供給された処理ガスは吹き出しプレート68に穿設された複数の吐出孔69から下方に向けて吐出される。このときに、ガス溜め空間67における流体の通過抵抗は吐出孔69の通過抵抗よりも小さいため、ガス供給部8から供給された処理ガスは一旦ガス溜め空間67内を拡がるように流れてから複数の吐出孔69から均一に吐出されることとなる。また、複数の吐出孔69は、保持部7に保持された半導体ウェハーWに対向する領域には均一な密度にて設けられている。従って、吹き出しプレート68からは保持部7に保持された半導体ウェハーWの表面全面に均等に処理ガスが吹き付けられることとなる。
【0052】
排気部9は、排気装置91およびバルブ92を備えており、バルブ92を開放することによって排気口93からチャンバー6内の雰囲気を排気する。排気口93は、保持部7を囲繞するようにチャンバー側部63に形成されたスリットである。排気口93が形成される高さ位置は、保持部7に保持される半導体ウェハーWと同じ高さ位置以下であり、半導体ウェハーWよりもやや下方が好ましい。保持部7を取り囲むように形成されたスリット状の排気口93から排気部9が排気を行うことによって、保持部7に保持される半導体ウェハーWの周囲から均等に気体の排出が行われることとなる。
【0053】
排気装置91としては、真空ポンプや熱処理装置1が設置される工場の排気ユーティリティを用いることができる。排気装置91として真空ポンプを採用し、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく密閉空間である熱処理空間65の雰囲気を排気すると、チャンバー6内を真空雰囲気にまで減圧することができる。また、排気装置91として真空ポンプを用いていない場合であっても、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく排気を行うことにより、チャンバー6内を大気圧よりも低い気圧に減圧することができる。
【0054】
光照射部5は、チャンバー6の上方に設けられている。光照射部5は、複数本(本実施形態では15本であるが、図1では図示の便宜上5本のみ記載)のフラッシュランプFLと、複数本(本実施形態では15本であるが、図示の便宜上4本のみ記載)のハロゲンランプHLと、フラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLの全体の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。光照射部5は、チャンバー6内にて保持部7に保持される半導体ウェハーWに石英のチャンバー窓61よび吹き出しプレート68を介してハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLからそれぞれハロゲン光およびフラッシュ光を照射する。
【0055】
本実施形態では、フラッシュランプFLとしてキセノンフラッシュランプを用いている。キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気が両端電極間の放電によってガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。
【0056】
一方、ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたタングステン(W)のフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。
【0057】
フラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLは、ともに長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。複数のフラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLの配列によって形成される平面も水平面である。また、その配列において、図1に示すように、フラッシュランプFLとハロゲンランプHLとは交互に配置されている。
【0058】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLおよび複数のハロゲンランプHLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、フラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLから出射された光を保持部7の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されて梨地模様を呈する。
【0059】
また、保持部7の保持リング71よりも下側には放射温度計58が設けられている。放射温度計58は、保持部7に保持された半導体ウェハーWの裏面から放射される放射光(赤外光または可視光)の強度を測定して半導体ウェハーWの温度を測定する。放射温度計58による温度測定結果は制御部3に伝達される。なお、放射温度計58を保持リング71よりも下側に設けているのは、ハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLからのハロゲン光およびフラッシュ光が外乱光として入射するのを防ぐためである。フィルターなどによって外乱光を適切に遮光している場合には、放射温度計58を保持リング71よりも上側に設けるようにしても良い。
【0060】
連続的に光照射を行うハロゲンランプHLは、保持部7に保持された半導体ウェハーWにハロゲン光を照射して所定温度に温調する。この際に、放射温度計58により測定される半導体ウェハーWの温度が予め設定された所定の温度となるように、ハロゲンランプHLへの電力供給量が制御部3によって制御される。すなわち、制御部3は放射温度計58の測定結果に基づいて、ハロゲンランプHLからの光照射によって温調される半導体ウェハーWの温度をフィードバック制御する。
【0061】
また、熱処理装置1は、保持部7に保持された半導体ウェハーWに冷却用ガスを供給して当該半導体ウェハーWを冷却する冷却用ガス供給部10を備える。冷却用ガス供給部10は、冷却用ガス供給源11、バルブ12および冷却ノズル13を備える。本実施形態においては、保持部7の保持リング71よりも下方に冷却ノズル13を複数設けている。冷却用ガス供給部10は、バルブ12を開放することによって複数の冷却ノズル13から保持部7に保持された半導体ウェハーWの裏面に均等に冷却用ガスを吹き付ける。「冷却用ガス」は、熱伝導係数が高く熱を吸収しやすいガスであり、ヘリウム、アルゴンなどが該当する。なお、保持部7に保持された半導体ウェハーWの裏面に均等に冷却用ガスを供給することができるのであれば、冷却ノズル13は1つであっても良い。
【0062】
また、熱処理装置1は、光照射部5およびチャンバー6の側方にシャッター機構2を備える。シャッター機構2は、シャッター板21およびスライド駆動機構22を備える。シャッター板21は、ハロゲン光に対して不透明な板であり、例えばチタン(Ti)にて形成されている。スライド駆動機構22は、シャッター板21を水平方向に沿ってスライド移動させ、光照射部5とチャンバー窓61との間の遮光位置にシャッター板21を挿脱する。スライド駆動機構22がシャッター板21を前進させると、その遮光位置にシャッター板21が挿入され、光照射部5とチャンバー窓61とが遮断される。これによって、光照射部5の複数のハロゲンランプHLから熱処理空間65の保持部7へと向かう光は遮光される。逆に、スライド駆動機構22がシャッター板21を後退させると、光照射部5とチャンバー窓61との間の遮光位置からシャッター板21が退出して光照射部5の下方が開放される。
【0063】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0064】
次に、上記構成を有する熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。図3は、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。また、図4は、半導体ウェハーWの表面温度(厳密には薄膜の表面温度)の変化を示す図である。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0065】
まず、図示省略のゲートバルブが開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入される(ステップS1)。ここで処理対象となる半導体ウェハーWは、表面に薄膜が形成された半導体基板である。半導体ウェハーWの表面に形成される薄膜は、有機系の膜であっても良いし、金属系の膜であっても良い。有機系の膜としては、エキシマレーザに対応した化学増幅型レジスト膜を含むレジスト膜、BARCやTARC(Top Anti-Reflection Coating)を含む反射防止膜、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの強誘電体膜やlow-k膜を含む層間絶縁膜などが該当する。金属系の膜としては、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、タングステン(W)、コバルト(Co)、チタン(Ti)やそれらの合金などの膜が該当する。
【0066】
このような膜が本発明に係る熱処理装置1とは別の装置にて半導体ウェハーWの表面に形成され、その半導体ウェハーWが熱処理装置1のチャンバー6に搬入される。半導体ウェハーWの表面に薄膜を形成する手法は、既述したようなスパッタリングなどの物理的気相成長法、CVDに代表される化学的気相成長法、或いはスピンコートなどの塗布法のいずれであっても良い。
【0067】
表面に薄膜が形成された半導体ウェハーWを保持した搬送ロボットのハンドが搬送開口部66からチャンバー6内に進入し、ウェハー昇降部4の直上にて停止する。続いて、3本のリフトピン44が上昇してハンドから半導体ウェハーWを受け取る。図4に示す時刻t1は、リフトピン44が半導体ウェハーWを受け取った時刻である。その後、搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出するとともに、搬送開口部66が閉鎖されることによりチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。また、受け取った半導体ウェハーWを支持する3本のリフトピン44が保持リング71よりも下方に下降する。リフトピン44が下降する過程において、半導体ウェハーWはリフトピン44から保持リング71に渡され、その内周部にて支持される。これにより、薄膜が形成された処理対象の半導体ウェハーWがチャンバー6内にて保持部7によって水平姿勢に保持される。
【0068】
熱処理空間65が密閉空間とされて半導体ウェハーWが保持部7に保持された後、チャンバー6内の雰囲気置換が実行される(ステップS2)。本実施形態においては、置換効率を高めるために、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく排気部9が熱処理空間65から排気を行うことによって、一旦チャンバー6内を大気圧よりも低い気圧に減圧している。そして、チャンバー6内が所定圧にまで減圧された後、ガス供給部8からの処理ガス供給を開始する。一旦チャンバー6内を大気圧よりも低い気圧に減圧してから処理ガスの供給を行うことによって、置換効率を高めてチャンバー6内を迅速に処理ガスの雰囲気に置換することができる。
【0069】
ガス供給部8からの処理ガス供給を開始した後も、継続して排気部9による排気を行う。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65を常に一定濃度の処理ガス雰囲気に維持しつつ、吹き出しプレート68の複数の吐出孔69から下方の半導体ウェハーWに向けて流下した処理ガスが半導体ウェハーWの周囲から排出されるという処理ガス流が形成される。なお、一旦チャンバー6内を減圧するのに代えて、排気部9による排気を開始すると同時にガス供給部8からの処理ガス供給を開始するようにしても、チャンバー6内を処理ガスの雰囲気に置換することはできる。
【0070】
ガス供給部8からチャンバー6内に供給する処理ガスは、処理対象となる半導体ウェハーWの表面に形成されている膜種および焼成処理目的に応じた適宜のものが用いられる。例えば、レジスト膜の固化(いわゆるPAB(Post Applied Bake))を行うのであれば、不活性ガス供給部81から窒素ガスなどの不活性ガスを供給し、チャンバー6内を不活性雰囲気とするのが好ましい。また、膜表面の改質処理を行うのであれば、反応性ガス供給部84から反応性ガスを供給するのが好ましい。
【0071】
本実施形態においては、チャンバー6内の雰囲気置換が行われた後、時刻t2にて制御部3の制御により光照射部5の15本のフラッシュランプFLから保持部7に保持された半導体ウェハーWに向けてフラッシュ光が照射される(ステップS3)。また、フラッシュ光の照射と同時に(つまり、時刻t2に)、制御部3の制御により光照射部5の15本のハロゲンランプHLによる光照射も開始する(ステップS4)。フラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLから放射される光の一部は直接にチャンバー6内の保持部7へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かう。
【0072】
フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予め蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。このような強烈なフラッシュ光の照射によって、半導体ウェハーWの表面に形成された薄膜の表面温度が瞬間的に処理温度T2にまで上昇する。このような短時間のフラッシュ加熱によって、半導体ウェハーWの表面に形成された薄膜の焼成処理が行われる。なお、薄膜の表面が到達する最高温度である処理温度T2は600℃以下であり、本実施形態では150℃としている。
【0073】
図4の一点鎖線にて示すのはハロゲンランプHLからのハロゲン光照射の寄与による表面温度変化であり、点線にて示すのはフラッシュランプFLからのフラッシュ光照射の寄与による表面温度変化である。実際の薄膜の表面温度変化は、これらを双方の光照射による寄与分を合算したものであり、図4では実線にて示している。同図に示すように、フラッシュランプFLからフラッシュ光照射によって薄膜の表面は瞬間的に処理温度T2にまで急速昇温されるものの、このような急速昇温は半導体ウェハーWの表面近傍のみで生じる現象であり、半導体ウェハーWの裏面にはほとんど温度変化が生じていない。このため、フラッシュ光照射のみであれば、図4の点線にて示すように、急速昇温した薄膜から下地の半導体ウェハーWへの熱伝導によって膜表面の温度は急速に下降する。
【0074】
ここで、本実施形態においては、フラッシュ光を照射すると同時にハロゲンランプHLによる光照射をも開始している。図4の一点鎖線にて示すように、ハロゲンランプHLの光照射による薄膜表面温度の上昇速度はフラッシュ光照射によるそれと比較すると顕著に遅い。このため、フラッシュ光照射と同時にハロゲンランプHLが点灯したとしても、薄膜表面の初期の急速昇温にはハロゲンランプHLの光照射はほとんど寄与しない。その一方、ハロゲンランプHLは、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下フラッシュランプFLとは異なり、連続的に点灯して光照射を行う。このため、フラッシュ光照射によって瞬間的に処理温度T2にまで昇温してから急速に降温している薄膜の表面温度をハロゲンランプHLからの光照射によって再び昇温することができる。
【0075】
ハロゲンランプHLの光照射によって薄膜は温調温度T1にまで昇温され、その温調温度T1に維持される。昇温速度の緩やかなハロゲンランプHLによる光照射であれば、半導体ウェハーWの表裏での温度差はほとんど生じることはなく、放射温度計58によって半導体ウェハーWの裏面から放射される放射光の強度を測定して表面に形成された薄膜の温度を測定することができる。そして、制御部3は、放射温度計58の測定結果に基づいて、薄膜の温度が200℃以下の温調温度T1となるようにハロゲンランプHLへの電力供給量を制御する。これにより、半導体ウェハーWの表面に形成された薄膜は概ね温調温度T1に維持されることとなる。なお、本実施形態においては、温調温度T1をフラッシュ光照射時の処理温度T2と等温の150℃としている。
【0076】
フラッシュ光照射後にもハロゲンランプHLの光照射を継続して半導体ウェハーWの表面に形成された薄膜を温調温度T1に維持しつつ所定時間待機する(ステップS5)。この間、回転駆動部75が保持部7を回転させて半導体ウェハーWを回転軸RXを回転中心として回転させる。これにより、吹き出しプレート68の複数の吐出孔69から吐出された処理ガスが半導体ウェハーWの表面全面により均等に供給されるとともに、ハロゲンランプHLからの光照射のウェハー面内照度分布の均一性も向上させることができる。
【0077】
やがて、時刻t3に到達した時点にて、シャッター機構2がシャッター板21を光照射部5とチャンバー窓61との間の遮光位置に挿入する(ステップS6)。シャッター板21が遮光位置に挿入されることによって、チャンバー6内にて保持部7に保持された半導体ウェハーWにハロゲンランプHLから照射されるハロゲン光が遮光され、半導体ウェハーWおよび薄膜の温度が降温する。フラッシュランプFLからフラッシュ光照射を行った時刻t2からハロゲンランプHLによる光照射が終了した時刻t3までの時間は1秒以下である。なお、シャッター板21が遮光位置に挿入されるのと同時にハロゲンランプHLを消灯するようにしても良い。
【0078】
また、シャッター板21が遮光位置に挿入された時刻t3以降に、冷却用ガス供給部10から保持部7に保持されている半導体ウェハーWの裏面に向けて冷却用ガスを吹き付ける(ステップS7)。これにより、半導体ウェハーWおよび薄膜の降温速度を高めることができる。
【0079】
ステップS6,S7での冷却処理によって半導体ウェハーWおよび薄膜の温度が低下した後、3本のリフトピン44が上昇して保持リング71に支持されていた半導体ウェハーWを受け取る。その後、搬送開口部66が再び開放され、搬送ロボットのハンドが搬送開口部66からチャンバー6内に進入して半導体ウェハーWの直下で停止する。続いて、リフトピン44が下降することによって、時刻t4にて半導体ウェハーWがリフトピン44から搬送ロボットに渡される。そして、半導体ウェハーWを受け取った搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出することにより、半導体ウェハーWがチャンバー6から搬出され、熱処理装置1における薄膜の焼成処理が完了する(ステップS8)。
【0080】
半導体ウェハーWが降温してから搬送開口部66を開放するまでの間に、チャンバー6内の雰囲気を再び置換するようにしても良い。例えば、処理中にチャンバー6内が反応性ガスの雰囲気とされていた場合には、これを不活性ガスの雰囲気とすることが望ましい。また、チャンバー6内を装置外部と同じ大気雰囲気に置換するようにしても良い。
【0081】
本実施形態においては、半導体ウェハーWの表面に形成された薄膜をフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射することによって加熱している。発光時間が極めて短く強度の強いフラッシュ光であれば、薄膜の表面温度を瞬間的に急速に処理温度T2にまで昇温することができる。また、フラッシュ光照射後もハロゲンランプHLからの光照射によって薄膜を温調温度T1に暫時維持しており、フラッシュランプFLが発光してからハロゲンランプHLによる光照射が終了するまでの時間は最大でも1秒である。このため、膜中に長時間焼成に起因した異常結晶成長が生じるのを防止することができる。その結果、薄膜と下地の半導体ウェハーWとの境界や膜中の粒界に凹凸が生じるのを防止することができ、高い平坦度を得ることができる。
【0082】
また、ハロゲンランプHLからの光照射による温調温度T1および温調時間とフラッシュ光照射による処理温度T2とを制御することによって、焼成された薄膜中における結晶粒径を適切な範囲に調整することができる。なお、ハロゲンランプHLの光照射による温調温度T1は、半導体ウェハーWの表面に形成されている膜種および焼成処理目的に応じて200℃以下の適宜の温度とすることができる。
【0083】
また、薄膜の膜種がシリコン中での拡散係数の高い金属膜である場合、薄膜の表面温度を短時間のうちに処理温度T2にまで上昇させ、その後の温調温度T1での温調の後速やかに降温させることにより、その金属元素の半導体ウェハーW中における異常拡散を防止することができる。
【0084】
ところで、上記のような薄膜の焼成処理を行うことによって、チャンバー6内壁に種々の汚染物質が付着することがある。例えば、焼成される薄膜から発生した昇華物が付着したり、反応性ガスがチャンバー6内壁面の金属と反応して汚染物質となることがある。このような汚染物質がチャンバー6内に付着したときには、その汚染物質と反応するクリーニングガスをクリーニングガス供給部87からチャンバー6内に供給する。これにより、汚染物質がクリーニングガスと反応して分解し、チャンバー6内から当該汚染物質を除去することができる。このようにすれば、汚染物質が半導体ウェハーWに付着して汚染するのを防止することができる。なお、クリーニングガス供給部87からクリーニングガスを供給するとともに、フラッシュランプFLおよび/またはハロゲンランプHLからチャンバー6内に光照射を行うことによって汚染物質の分解を促進するようにしても良い。
【0085】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、シャッター板21が遮光位置に挿入された時刻t3以降に冷却用ガスを供給するようにしていたが、フラッシュ光照射後にハロゲンランプHLから継続して光照射を行っているときに冷却用ガス供給部10から冷却用ガスを供給するようにしても良い。ハロゲンランプHLからの光照射と冷却用ガスの吹き付けとの協働によって半導体ウェハーWを室温から200℃以下の比較的低い温度に適切に温調することができ、特に室温近傍に温調する場合には冷却用ガスを併用するのが好ましい。
【0086】
また、上記実施形態においては、ハロゲンランプHLによる温調温度T1をフラッシュ光照射時の処理温度T2と同じにしていたが、これを異なるようにしても良い。温調温度T1が膜中の結晶粒がほとんど成長しない程度に低ければ、ハロゲンランプHLによる光照射時間を1秒〜30秒としても良い。
【0087】
また、上記実施形態においては、保持部7が保持リング71の内周部にて半導体ウェハーWを支持するようにしていたが、これに代えて、支持ピンによって半導体ウェハーWの裏面を支持するようにしても良い。
【0088】
また、複数の吐出孔69を穿設した吹き出しプレート68に代えて、またはこれに付加して、保持部7に保持される半導体ウェハーWの近傍に処理ガス供給のためのノズルを設けるようにしても良い。
【0089】
また、ガス供給部8から供給する処理ガスの種類を処理の途中で変更するようにしても良い。例えば、金属系の膜を半導体ウェハーWの表面に形成している場合において、最初は不活性ガス供給部81からチャンバー6内に不活性ガスを供給し、不活性ガス雰囲気中にてフラッシュ光照射を行って金属膜と下地のシリコンとを反応させる。次に、反応性ガス供給部84から当該金属膜と反応する反応性ガスをチャンバー6内に供給してガス種を変更する。この反応性ガスは、薄膜上面の未反応の金属と反応してエッチング処理が進行する。その後、再び不活性ガス供給部81から不活性ガスを供給してチャンバー6内を不活性ガス雰囲気に置換し、フラッシュ光照射によって残留薄膜の加熱処理を行うようにしても良い。
【0090】
また、上記実施形態においては、光照射部5に15本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、光照射部5に備えるハロゲンランプHLの本数も15本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0091】
また、本発明に係る熱処理技術によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。例えば、ガラス基板上に多結晶または非晶質のシリコンやゲルマニウム(Ge)の薄膜を形成し、その薄膜にボロン(B)やヒ素(As)などの不純物を注入し、上記の熱処理装置1によって薄膜の加熱処理を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0092】
1 熱処理装置
2 シャッター機構
3 制御部
4 ウェハー昇降部
5 光照射部
6 チャンバー
7 保持部
8 ガス供給部
9 排気部
10 冷却用ガス供給部
58 放射温度計
65 熱処理空間
68 吹き出しプレート
69 吐出孔
71 保持リング
75 回転駆動部
81 不活性ガス供給部
84 反応性ガス供給部
87 クリーニングガス供給部
93 排気口
FL フラッシュランプ
HL ハロゲンランプ
W 半導体ウェハー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に形成された薄膜の焼成処理を行う熱処理装置であって、
薄膜が表面に形成された基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内にて前記基板を保持する保持手段と、
前記チャンバー内に処理ガスを供給するガス供給手段と、
前記チャンバーから排気を行う排気手段と、
前記保持手段に保持された前記基板を光照射によって所定温度に温調するハロゲンランプと、
前記保持手段に保持された前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、
を備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記ハロゲンランプは、
前記基板を光照射によって200℃以下の温度に温調することを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱処理装置において、
前記ガス供給手段は、
前記基板の表面に形成された薄膜と反応する反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段を含むことを特徴とする熱処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記ガス供給手段は、
前記チャンバー内に付着した汚染物質と反応して当該汚染物質を除去するクリーニングガスを供給するクリーニングガス供給手段を含むことを特徴とする熱処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記保持手段に保持された前記基板の表面に対向して設けられ、当該表面に対向する領域に均一な密度にて複数の吐出孔を穿設し、前記ガス供給手段から供給された処理ガスを前記複数の吐出孔から前記基板に向けて吹き出す吹き出しプレートをさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記保持手段に保持された前記基板を当該基板の主面内にて回転させる回転手段をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記排気手段は、
前記チャンバー内を大気圧よりも低い気圧に減圧する減圧手段を含むことを特徴とする熱処理装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記フラッシュランプからフラッシュ光を照射すると同時に前記ハロゲンランプによる光照射を開始するとともに、フラッシュ光照射後も光照射を継続するように前記ハロゲンランプを制御するランプ制御手段をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記保持手段に保持された前記基板に冷却用ガスを供給して当該基板を冷却する冷却用ガス供給手段をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記保持手段に保持された前記基板と前記ハロゲンランプとの間を遮光するシャッター機構をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項11】
基板の表面に形成された薄膜の焼成処理を行う熱処理方法であって、
薄膜が表面に形成された基板をチャンバー内に収容する収容工程と、
前記チャンバーから排気を行う排気工程と、
前記チャンバー内に処理ガスを供給するガス供給工程と、
前記チャンバー内に収容された前記基板をハロゲンランプからの光照射によって所定温度に温調するハロゲン照射工程と、
前記チャンバー内に収容された前記基板にフラッシュランプからフラッシュ光を照射するフラッシュ照射工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項12】
請求項11記載の熱処理方法において、
前記ハロゲン照射工程では、前記基板を200℃以下の温度に温調することを特徴とする熱処理方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の熱処理方法において、
前記ガス供給工程では、前記チャンバー内に前記基板の表面に形成された薄膜と反応する反応性ガスを供給することを特徴とする熱処理方法。
【請求項14】
請求項11から請求項13のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記チャンバー内に付着した汚染物質と反応して当該汚染物質を除去するクリーニングガスを供給するクリーニング工程をさらに備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項15】
請求項11から請求項14のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記チャンバー内に収容された前記基板を当該基板の主面内にて回転させる回転工程をさらに備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項16】
請求項11から請求項15のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記排気工程は、前記チャンバー内を大気圧よりも低い気圧に減圧する減圧工程を含むことを特徴とする熱処理方法。
【請求項17】
請求項11から請求項16のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記ハロゲン照射工程は、前記フラッシュランプからフラッシュ光を照射すると同時に前記ハロゲンランプによる光照射を開始するとともに、フラッシュ光照射後も光照射を継続することを特徴とする熱処理方法。
【請求項18】
請求項11から請求項17のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記ハロゲン照射工程の後に、前記基板に冷却用ガスを供給して当該基板を冷却する冷却用ガス供給工程をさらに備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項19】
請求項11から請求項18のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記ハロゲン照射工程の後に、前記チャンバー内に収容された前記基板と前記ハロゲンランプとの間をシャッターによって遮光することを特徴とする熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−84756(P2012−84756A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231093(P2010−231093)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】