説明

熱可塑性ポリマー軸受筒

熱可塑性ポリマーと円周に配向した連続の高引張弾性率繊維とから製造された軸受筒は、ポンプおよび圧縮機ならびに他の類似タイプの装置用の部品として有用である。これらの部品は、高温でおよび/または非常に腐食性の環境で有用であるかもしれず、多くの場合、必要とされる保守点検間の時間を長くし、かつ、非標準的な運転条件下で金属軸受筒より通常は良好に機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
円周に配向した連続の高引張弾性率繊維を含む熱可塑性ポリマー部品は、軸受筒などの、ポンプ、特に遠心ポンプおよび他の類似タイプの装置用の部品として有用である。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は2007年7月26日出願の米国仮特許出願第60/962,039号明細書の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
ポンプ、特に遠心ポンプは、互いに回転する多くの表面を有し、多くの場合に1表面は回転するが、他表面は固定されている。多くの場合これらは固定部品であり、金属製の軸受筒であり、ポンプからのガスおよび/または液体の漏洩を回避するために、隙間は多くの場合狭いかまたは小さいものでなければならないので、表面は互いに摩耗するおそれがある。ゴムまたは他のタイプのシールが時々使用されてもよいが、より高いもしくはより低い温度環境または腐食性環境では特に、かかるシールでは十分ではない。また多くの場合には、シールは耐荷重性(硬質)でなければならないので、金属対金属シールが使用される。しかしながら上述のように、これらは、ポンプがある期間乾燥して作動するか、またはそれが乾燥して作動させられるときに特に、すり減るおよび/または摩耗する傾向を有する。かかる軸受筒に対する類似のニーズを有する他のタイプの装置には、圧縮機および液圧式変速機が含まれる。
【0004】
改善されたタイプのシールは、平面にランダムに配向した高弾性率細断繊維を含有する、熱可塑性樹脂シール、または軸受筒であり、その平面は、密封されているシャフトの回転に垂直であり、例えば、DuPontTM Vespel(登録商標)CR−6100 Application and Installation Guide for Centrifugal Pump Stationary Wear Parts,E.I.DuPont de Nemours & Co.,Inc.(Wilmington,Delaware,USA),2007年3月を参照されたい。しかしながら、かかる部品の製造は複雑であり、高価につき、かかる用途向け部品のより安価な製造方法が望まれており、例えば、米国特許第5,470,409号明細書および米国特許第5,427,731号明細書を参照されたい。熱可塑性ポリマーから製造された軸受筒は、好ましくは良好な摩耗特性および軸受筒に対して動く表面との低い摩擦係数を有する。
【0005】
フルオロポリマーなどの熱可塑性樹脂と円周に配向した連続の高引張弾性率繊維とを含有する複合チューブ、およびそれらの製造方法は、参照により本明細書によって援用される、米国特許第4,975,321号明細書に記載されている。特に、より低い放射熱膨張係数が望ましい、軸受筒用途へのこれらのチューブの使用については全く言及されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
熱可塑性ポリマーと円周に配向した連続の高引張弾性率繊維とを含む軸受筒が本明細書に開示される。
【0007】
第2部品に対して、および第2部品との間で回転する第1部品を含み、かつ、熱可塑性ポリマーと円周に配向した連続の高引張弾性率繊維とを含む軸受筒中で前記第1および前記第2部品を接触させる装置もまた開示される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1A〜Dは、軸受筒についての様々な形状を示す。
【図2】典型的な遠心ポンプにおける本発明のフルオロポリマー軸受筒を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ある種の用語が本明細書に用いられ、それらの幾つかが以下に定義される。
【0010】
「軸受筒」または「軸受筒として機能する」とは、回転する部品の運動を制限するかまたは抑えるように設計された、また摩擦および/もしくは摩耗を低減する、ならびに/または液体および/もしくはガスに対してシールを提供し得る円筒形内張りを意味する。少なくとも1つの表面、外側または内側表面は円筒形であり、内側および外側表面は円筒形であることが好ましい。軸受筒の内側表面および外側表面のそれぞれが、第1部品および第2部品と接触し、第1および第2部品は互いに回転してもよい。軸受筒などの、有用な部品/形状は、図1A〜1Dに示される。それが内側シャフトを滑落できないときに軸受筒部品が2つ以上の要素(通常は直径にわたって切り開かれる2要素)へ分割される分割軸受筒もまた有用である。
【0011】
「高引張弾性率繊維」(HTMF)とは、ASTM方法D885−85に従って測定されたときに、約10GPa以上、好ましくは約50GPa以上、より好ましくは約70GPa以上の引張弾性率を有する繊維を意味する。この繊維が布またはトウの形態にある場合、引張弾性率測定は、当該布またはトウ中の単繊維に関して行われるであろう。繊維の2つ以上のタイプが存在する場合には、それがHTMFであるかどうかを決定するために各タイプが測定されるものとする。HTMFの要件を満たさない繊維は、存在するHTMFの総量の中に考慮されないものとし、このようにHTMFと非HTMFとが存在し得る。
【0012】
「連続の」繊維とは、約3cm以上、好ましくは少なくとも約10cm以上の長さを有する繊維を意味する。繊維が完全に連続ではなく、長さをカットされている場合、繊維長さは複合材料中で互いに重なり合うことが好ましい。複合材料中の繊維の全てが円周に配向している必要があるわけではない。
【0013】
「円周に配向した」とは、繊維が軸受筒の円形の内側または外側表面の円周にほぼ平行に配向していることを意味する。それは、円形の内側または外側表面の中心軸に垂直である必要はないが、例えば、当該軸に対してらせんを形成する角度にあってもよい。繊維は、それが円筒の軸に対して0°に配向している場合、円周に配向したとは考えられない。
【0014】
「と接触して」とは、2つの表面が少なくともある時間互いに接触することを意味する。このように軸受筒部品の円形内側表面と当該表面内の円形シャフトとの間に、シャフトが軸受筒内で回転できるように幾らかの小さな隙間があってもよい。これは、液体またはガスの薄膜が2つの表面間に存在する場合でさえ、「接触して」いると考えられる。この薄膜は潤滑油としての機能を果たし得る。
【0015】
「フルオロポリマー」とは、好ましくは少なくとも約5重量パーセントのフッ素を含有し、かつ、熱可塑性である合成有機ポリマーを意味する。
【0016】
「熱可塑性樹脂」とは、熱可塑性樹脂を溶融させ、次にそれをその融点および/またはガラス転移温度より下に冷却することによって改質することができるポリマーを意味する。かかるポリマーは架橋されていない。それらは、示差走査熱量測定法によって測定されたときに、30℃より上、好ましくは100℃より上の融点および/またはガラス転移温度を有する。好ましくは30℃より上の融点は、約3J/g以上、より好ましくは約5J/g以上の融解熱を有する。
【0017】
熱可塑性ポリマーと円周に配向した連続の高引張弾性率繊維とを含む軸受筒が本明細書に開示される。本発明の軸受筒は、ポンプおよび圧縮機ならびに他の類似タイプの装置用の部品として有用である。これらの部品は、高温でおよび/または非常に腐食性の環境で有用であるかもしれず、多くの場合、必要とされる保守点検間の時間を長くし、かつ、通常は非標準的な運転条件下で金属軸受筒より長く、良好に機能する。
【0018】
好ましくは、軸受筒の内側部品表面および外側部品表面の両方とも円形(円筒形)であり、より好ましくはこれらの円の両方の中心軸は同心である。
【0019】
好ましくは、軸受筒部品と接触する第1および第2表面の1つまたは両方は金属である。
【0020】
高引張弾性率繊維は通常の使用温度軸受筒で約1×10-5cm/cm/℃未満、より好ましくは約1×10-6cm/cm/℃未満の熱膨張係数を有することも好ましい。本明細書に開示される軸受筒の使用温度は、それが製造される熱可塑性樹脂の熱特性に大きく依存するであろう。軸受筒が広い温度範囲にわたって使用されるべきであり、そして当該温度が23℃を含む場合には、膨張係数は約23℃で測定されるべきである。当該範囲が23℃を含まない場合には、当該膨張係数はこの範囲の中点で測定されるべきである。
【0021】
有用な繊維には、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維(ワイヤ)、ガラス繊維、およびセラミック繊維が含まれる。繊維は、熱可塑性ポリマーへのそれらの接着性を向上させるためにサイジングされてもよい。最終軸受筒での繊維は、それらが、機械加工による場合のように、軸受筒の最終形成中にカットされるので、ある程度短くされてもよいが、本質的には(1メートルを超える)非常に長い繊維が軸受筒用のプレフォームの少なくとも製造においては好ましい。
【0022】
円周に配向している連続の高引張弾性繊維は、全熱可塑性ポリマー組成物の約10〜約70、より好ましくは約20〜約60容積パーセントであることが好ましい。
【0023】
軸受筒は、例えばHTMFおよびフルオロポリマーからチューブを形成するために、含浸トウまたはユニテープの形態での、HTMFをはじめとする、繊維を使用するフィラメント巻繊様(winding−like)法を記載している、参照により本明細書に援用される、米国特許第4,975,321号明細書に記載されているように製造されてもよい。繊維、トウまたはユニテープは、円筒の軸に対して90°または0°以外のある角度で巻繊法で巻かれ、それによってらせんを形成してもよい。繊維にとっての好ましい角度は、円筒の軸に対して約35°〜約55°、より好ましくは約45°である。それは次に、オートクレーブ中で圧縮成形か、またはバッグ成形によって一体化されてもよい(バッグは型の周りに置かれ、バッグは排気され、オートクレーブ中に入れられ、そして任意選択的に圧力がバッグの外側にかけられて、加熱される)。あるいはまた、含浸繊維がフィラメント巻繊法で巻き付けられる時に、それは、熱可塑性樹脂を流れさせ、そして含浸繊維が巻き取られる時に一体化するように加熱されてもよい。冷却すると、固体部品が得られる。
【0024】
含浸繊維、例えば、含浸トウは、例えば、未含浸トウを熱可塑性ポリマーまたはフルオロポリマーラテックス乳濁液または懸濁液に通し、乳濁液または懸濁液で湿ったトウが浴を出た後にポリマーを(凍結による場合のように)凝固させ、次にトウを乾燥させることによって得られてもよい。
【0025】
これは最終軸受筒を与えるかもしれないが、これらの軸受筒は多くの場合タイトサイズ許容度を有し、および/または不規則に造形されるので、チューブ様プリフォームが圧縮成形によって形成されるかもしれず、プリフォームは次に1つ以上の軸受筒へ機械加工される。これらの機械加工法は、フルオロポリマーおよびHTMFから製造される複合材料について周知であり、例えば、Vespel(登録商標)CR−6100 & 6200,General Machining Guide,E.I.DuPont de Nemours & Co.,Inc.(Wilmington,Delaware,USA),2003年を参照されたい。例えば、これらの材料は、鋸引き、穿孔、旋削、圧延および研削によって造形することができる。
【0026】
有用な熱可塑性樹脂には、フルオロポリマー、ポリ(エーテル−エーテル−ケトン)、ポリ(エーテル−ケトン)、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリオキシメチレンおよびコポリマー、サーモトロピック液晶ポリマー、ポリイミド、ポリ(エーテル−イミド)ならびにポリウレタンが含まれる。好ましくは、熱可塑性樹脂は、約150℃以上、より好ましくは約200℃以上、特に好ましくは約250℃以上の融点および/またはガラス転移温度を有する。軸受筒が使用中に化学薬品に暴露される場合、熱可塑性樹脂は、使用温度でこれらの化学薬品によって比較的影響を受けないものであるべきである。好ましい熱可塑性樹脂には、フルオロポリマー、ポリ(エーテル−エーテル−ケトン)、ポリ(エーテル−ケトン)、ポリスルフィド、ポリスルホン、サーモトロピック液晶ポリマー、およびポリイミドが含まれ、フルオロポリマーが特に好ましい。熱可塑性樹脂のブレンドもまた使用されてもよい。
【0027】
好ましいフルオロポリマーは、パーフルオロポリマー、特に、テトラフルオロエチレン(TFE)のホモポリマーおよびコポリマーである(本明細書では、テトラフルオロエチレンのホモポリマーは、その融点より上で十分に流れなくても、熱可塑性樹脂と考えられる)。TFEの有用なコポリマーには、ヘキサフルオロプロピレンまたはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)を含有するものが含まれる。熱可塑性ポリマーは約200℃以上、より好ましくは約250℃以上の融点および/またはガラス転移温度を有することが好ましい。融点、融解熱、およびガラス転移温度は、10℃/分の加熱速度を用いて、ASTM方法D3418によって測定される。融点は溶融吸熱の最大として取られるが、ガラス転移温度は転移の中間点として取られ、両方とも二次加熱で測定される。2つ以上の融点が存在する場合、ポリマーの融点は融点の最高のものとして取られる。
【0028】
他の有用なフルオロポリマーには、ポリフッ化ビニリデン、エチレンとフッ化ビニルとのコポリマー、エチレンとテトラフルオロエチレンとのコポリマー、およびポリ(クロロトリフルオロエチレン)が含まれる。フルオロポリマーは少なくとも約45重量パーセントのフッ素を含有することが好ましい。
【0029】
本軸受筒は、回転シャフトが存在する場合、および液体および/またはガスの漏洩から密封されなければならない機器のそれらのシャフトと別の要素との間に界面が存在する場合に特に多くのタイプの機器で有用である。
【0030】
このように、本軸受筒を含んでもよい機器の好ましい一タイプは、ポンプ、特に遠心ポンプである。これらの軸受筒は、片持ちおよび垂直インラインポンプならびに単段軸受間ポンプで固定摩耗リングおよびスロート軸受筒として、多段水平ポンプで固定摩耗リング、スロート軸受筒、段間軸受筒および減圧軸受筒として、ならびに垂直ポンプで固定摩耗リング、段間軸受筒、ラインシャフト軸受およびスロート軸受筒として遠心ポンプで有用である。
【0031】
図2は、本発明の軸受筒の配置および場所を示す、水平の一段階遠心ポンプの部分断面図を示す。図2は、典型的な遠心ポンプにおける本発明のフルオロポリマー軸受筒を示す。
【0032】
本発明の一実施態様は、第2部品に対して、および第2部品との間で回転する第1部品を含み、かつ、熱可塑性ポリマーと円周に配向した連続の高引張弾性率繊維とを含む軸受筒中で前記第1および前記第2部品を接触させる装置である。
【0033】
軸受筒を含んでもよい別のタイプの装置は、この軸受筒がピストンおよびライダリングとして使用されてもよい圧縮機である。他の有用な装置は液圧式変速機である。
【0034】
装置に取り付けられるとき、軸受筒は圧縮して取り付けられることが好ましい。このように部品は、軸受筒の外側表面の周りで装置の部品中に圧縮してぴったりと押し込まれてもよい。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーと円周に配向した連続の高引張弾性率繊維とを含む軸受筒。
【請求項2】
前記連続の高引張弾性率繊維が約10cm以上の長さを有する請求項1に記載の軸受筒。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーがフルオロポリマーである請求項1または2に記載の軸受筒。
【請求項4】
前記高引張弾性率繊維が炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維、ガラス繊維またはセラミック繊維である請求項1〜3のいずれか一項に記載の軸受筒。
【請求項5】
前記連続の高引張弾性率繊維が前記軸受筒の約10〜約70容積パーセントである請求項1〜4のいずれか一項に記載の軸受筒。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリマーがパーフルオロポリマーである請求項1〜5のいずれか一項に記載の軸受筒。
【請求項7】
第2部品に対して、および第2部品との間で回転する第1部品を含み、かつ、請求項1〜6のいずれか一項に記載の軸受筒中で前記第1および前記第2部品を接触させる装置。
【請求項8】
ポンプ、圧縮機または液圧式変速機である請求項7に記載の装置。
【請求項9】
遠心ポンプである請求項7に記載の装置。

【図2】
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【公表番号】特表2010−534806(P2010−534806A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518394(P2010−518394)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/071093
【国際公開番号】WO2009/015302
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】