説明

熱可塑性共重合体、その製造方法、およびそれから成る熱可塑性樹脂組成物

【課題】高度な耐熱性、無色透明性を有すると同時に、低吸水性、流動性に優れ、加熱滞留時のガス量が大幅に低減された熱可塑性共重合体およびその製造方法と、ならびに該熱可塑性共重合体を含有してなる熱可塑性樹脂組成物、さらにはこれらを成形なる成形品またはフィルムを提供する。
【解決手段】 (i)脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位5〜30重量%、
(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位5〜85重量%、
(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、
(iv)グルタル酸無水物単位10〜50重量%、および、その他のビニル単量体単位および/または芳香族ビニル単量体単位を合計0〜5重量%含有する熱可塑性共重合体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、無色透明性、機械特性に優れ、特に低吸水性、流動性および滞留安定性に極めて優れた、熱可塑性共重合体及びその製造方法に関し、さらには該熱可塑性共重合体から成る熱可塑性樹脂組成物関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(以下PMMAと称する)やポリカーボネート(以下PCと称する)といった非晶性樹脂は、その透明性や寸法安定性を活かし、光学材料、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。
【0003】
近年、これらの樹脂は、特に光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイ用シート・フィルム、導光板などの、より高性能な光学材料にも幅広く使用されるようになっており、樹脂に要求される光学特性や成形加工性、耐熱性もより高度なものになっている。
【0004】
また現在、これらの透明樹脂は、テールランプやヘッドランプといった自動車等の灯具部材としても使用されているが、近年、車内空間を大きくするためやガソリン燃費を改良するために、テールランプレンズやインナーレンズ、ヘッドランプ、シールドビーム等の各種レンズと光源の間隔を小さくすること、部品の薄肉化が図られる傾向にあり、優れた成形加工性が要求されるようになっている。また、車両は過酷な条件下で使用されるため、高温多湿下での形状変化が小さいことや、優れた耐傷性、耐候性、耐油性も要求される。
【0005】
しかしながら、PMMA樹脂は、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が十分ではなく、また吸水性が高いことから高温多湿条件での形状変化が大きいといった問題があった。一方、PC樹脂は、耐熱性、耐衝撃性に優れるものの、光学的歪みである複屈折率が大きく、成形物に光学的異方性が生じること、成形加工性、耐傷性、耐油性に著しく劣るといった問題があった。
【0006】
そのため、PMMAの耐熱性および吸水性を改良する目的で、第三成分としてメタクリル酸シクロヘキシルやメタクリル酸イソボルニルといった脂環式アルキル基を有するメタクリル酸エステル単量体を導入した共重合体が開発されている(特許文献1,2参照)。しかし、吸水性を改良するためには、これら脂環式アルキル基を有するメタクリル酸エステル単位の含有量が増加し、しいては該共重合の熱安定性と機械的強度が低下するという問題があり、また耐熱性の改良効果が十分得られないという問題があった。
【0007】
一方、PMMAの耐熱性を解決する方法として分子内環化反応を利用して、グルタル酸無水物単位を導入する方法が開示されている(特許文献3,4参照)。しかしながらこれらの方法では、耐熱性は改良するが、溶融粘度が低下し、成形加工性に劣る問題があり、さらにはPMMAの吸水性の問題を解決することはできない。
【0008】
これらの問題点を解決する方法として、上記脂環式アルキル基含有メタクリル酸エステルと不飽和カルボン酸単量体単位を含有する共重合体を、加熱処理して環化反応させることにより得られるグルタル酸無水物単位および脂環式アルキル基含有メタクリル酸エステル単位を主成分とする共重合体が開示されている(特許文献5参照)。しかしながら、この特許文献に開示された重合方法では、芳香族ビニル単位の共重合量が多い場合には複屈折が大きくなり光学等方性に劣り、また、芳香族ビニル単位を共重合しない場合には、脂環式アルキル基含有メタクリル酸エステル単位が十分に共重合されず、目的とするポリマーが得られない。また、この特許文献に開示された方法においては、グルタル酸無水物単位の含有量が低いため、耐熱性および熱安定性において十分でなく、さらには、本特許文献の方法を用いて、グルタル酸無水物単位の含有量を増加させようとするために、原共重合体(a)中にメタクリル酸を多量に共重合させようとすると、本発明で目的とする精密な重合制御ができず、本発明を達成することができない。
【特許文献1】特開昭59−1518号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献2】特開昭60−115605号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献3】特開昭49−85184号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献4】特開2004−292811号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献5】特開平2−151602公報(第1−2頁、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明は、高度な耐熱性、無色透明性を有すると同時に、流動性に優れ、加熱滞留時のガス発生量が抑制され熱安定性に優れ、さらには高温多湿下での寸法安定性に極めて優れる熱可塑性共重合体、その製造方法およびこれを含有してなる熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、不飽和カルボン酸単位と脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステルを有する共重合体を特定の重合法において製造し、さらには該共重合体を加熱処理し、グルタル酸無水物単位を含有する共重合体を得ることで、従来の知見では成し得ることができなかった高度な無色透明性と耐熱性、流動性および高温多湿下での寸法安定性に優れた熱可塑性共重合体を製造可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、
〔1〕(i)下記一般式(1)で表される脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位5〜30重量%、 (ii)下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位5〜85重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、(iv) 下記一般式(3)で表されるグルタル酸無水物単位10〜50重量%、および、その他のビニル単量体単位および/または芳香族ビニル単量体単位を合計0〜5重量%含有する熱可塑性共重合体。
【0012】
【化1】

【0013】
(上記式中、R1は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R2は、炭素数5〜22の脂環式アルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【0014】
【化2】

【0015】
(上記式中、R3は水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R4は無置換または少なくとも1個の炭素が水酸基あるいはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基を示す)
【0016】
【化3】

【0017】
(上記式中、R5、R6は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
〔2〕重量平均分子量が3〜15万である前記〔1〕に記載の熱可塑性共重合体。
〔3〕(i)脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位が下記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸シクロヘキシル単位である前記〔1〕または〔2〕に記載の熱可塑性共重合体。
【0018】
【化4】

【0019】
(上記式中、R7は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
〔4〕単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸単量体5〜50重量%、脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単量体5〜30重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体15〜90重量%、芳香族ビニル単量体0〜5重量%からなる単量体混合物を、原料である単量体混合物は溶解し、単量体混合物が共重合した原共重合体(a)の溶解度が1g/100g以下である芳香族基を含有しない有機溶媒(B)中で共重合して原共重合体(a)を得る第一工程、
つづいて第一工程で得られた原共重合体(a)を加熱処理し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応による分子内環化反応を行う第二工程、
により前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の熱可塑性共重合体を製造する熱可塑性共重合体の製造方法。
〔5〕原共重合体(a)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値(ΔSP)が、1.0以上である有機溶媒(B)を用いる前記〔4〕に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
〔6〕原共重合体(a)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値(ΔSP)が、1.5〜1.7である有機溶媒(B)を用いる前記〔4〕に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
〔7〕有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステルおよびケトンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記〔4〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
〔8〕前記第二工程における加熱処理を、連続混練押出装置を用いて行うことを特徴とする前記〔4〕〜〔7〕いずれか1項に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
〔9〕連続混練押出装置が、ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出装置であることを特徴とする前記〔8〕に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
〔10〕前記第二工程で、共重合体(a)100重量部に対して、アルカリ金属化合物を0.001〜1重量部添加し、180〜380℃で加熱することにより、(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコール反応を行うことを特徴とする前記〔4〕〜〔9〕のいずれか1項記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
〔11〕(A)前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の熱可塑性共重合体50〜99重量部、および(C)ゴム質含有重合体1〜50重量部を含有してなる熱可塑性樹脂組成物。
〔12〕前記〔1〕〜〔3〕いずれか1項に記載の熱可塑性共重合体または前記〔11〕に記載の熱可塑性樹脂組成物を溶融加工してなる成形品またはフィルム。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、高度な耐熱性を有すると同時に、加熱によって共重合体中にグルタル酸無水物単位を生成させる際の着色が抑制され、近年要求されている高度な無色透明性を有し、さらには流動性、低吸水性に優れるだけでなく、加熱滞留時のガス発生量が抑制された熱可塑性共重合体が得られるようになった。従って、本発明の熱可塑性共重合体は、高温多湿下においても高度な寸法安定性を有し、また、成形加工性に優れ、成形品中の欠点(シルバー、ボイド)が少なく、さらには、無色透明性、耐熱性、機械的性質に優れた成形品を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の熱可塑性共重合体について具体的に説明する。
【0022】
本発明の熱可塑性共重合体(A)は、(i)下記一般式(1)で表される脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位5〜30重量%、 (ii)下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位5〜85重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、(iv) 下記一般式(3)で表されるグルタル酸無水物単位10〜50重量%、および、その他のビニル単量体単位および/または芳香族ビニル単量体単位を合計0〜5重量%含有する熱可塑性共重合体である。
【0023】
【化5】

【0024】
(上記式中、R1は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R2は、炭素数5〜22の脂環式アルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【0025】
【化6】

【0026】
(上記式中、R3は水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R4は無置換または少なくとも1個の炭素が水酸基あるいはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基を示す)
【0027】
【化7】

【0028】
(上記式中、R5、R6は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【0029】
本発明の熱可塑性共重合体中の前記一般式(1)で表される脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位(i)は熱可塑性共重合体(A)に低吸水性を付与し、流動性を向上させるために必須の成分であり、その含有量は熱可塑性共重合体(A)100重量%中に5〜30重量%であることが必要であり、より好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%である。脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位が5重量%以下である場合は低吸水性が十分でなく、また、30重量%以上の場合には機械的強度および熱安定性が悪化し、本発明を達成することができない。
【0030】
また、本発明の好ましい様態においては、前記脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位(i)として、下記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸シクロヘキシル単位を好ましく用いることができ、さらに最も好ましい様態においては、アクリル酸シクロヘキシル単位および/またはメタクリル酸シクロヘキシル単位を用いることができる。
【0031】
【化8】

【0032】
(上記式中、R7は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【0033】
また、本発明の熱可塑性共重合体中の前記一般式(3)で表されるグルタル酸無水物含有単位(iv)は熱可塑性共重合体(A)の耐熱性および熱安定性を付与するために必須の成分であり、その含有量は熱可塑性共重合体(A)100重量%中に10〜50重量%である必要があり、より好ましい形態においては15〜50重量%であり、さらに好ましくは25〜50重量%である。グルタル酸無水物含有単位が10重量%未満である場合、耐熱性と熱安定性が低下し、また50重量%以上の場合には流動性が低下し、成形加工性が悪化するため、いずれも本発明を達成することができない。
【0034】
また、前記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)の含有量は、熱可塑性共重合体(A)100重量%中に5〜85重量%、好ましくは10〜70重量%より好ましくは30〜65重量%である。
【0035】
また、本発明の熱可塑性共重合体(A)100重量%中に含有される不飽和カルボン酸単位(iii)の含有量は10重量%以下、すなわち0〜10重量%であり、より好ましくは0〜5重量%、最も好ましくは0〜3重量%である。不飽和カルボン酸単位(iii)が10重量%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0036】
前記不飽和カルボン酸単位(iii)としては、下記一般式(5)で表される構造を有するものが好ましい。
【0037】
【化9】

【0038】
(ただし、R8は水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0039】
また、本発明の熱可塑性共重合体(A)は必要に応じてその他のビニル単量体単位および/または芳香族ビニル単量体単位を含有することができる。その場合の含有量は、熱可塑性共重合体(A)100重量%中、その他のビニル単量体単位および/または芳香族ビニル単量体単位の合計量が5重量%以下、すなわち0〜5重量%の範囲とする必要があり、より好ましくは0〜3重量%である。特に、芳香族ビニル単量体単位の含有量が5重量%以上の場合には、無色透明性、光学等方性、耐溶剤性が低下し、本発明の目的を達成することができない。
【0040】
本発明の熱可塑性共重合体(A)における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物含有単位は、1800cm−1および1760cm−1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および芳香族ビニル単量体単位から区別することができる。また、1H−NMR法では、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。例えば、メタクリル酸シクロヘキシル単位、メタクリル酸メチル単位、メタクリル酸単位、グルタル酸無水物含有単位、およびスチレン単位からなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属は、0.5〜1.5ppmのピークはメタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、4.5ppmのピークはメタクリル酸シクロヘキシルのシクロヘキシル基のメチレン基のうち、カルボン酸エステル基と結合するメチレン基(−COO−CH−)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素である。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0041】
本発明の熱可塑性共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましい様態において3万〜15万であり、重量平均分子量はより好ましい様態においては5万〜15万である。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、多角度光散乱ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。
【0042】
このような本発明の熱可塑性共重合体(A)は、基本的には以下に示す2つの工程により製造することができる。すなわち、まず、第一工程において、脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および、後の加熱工程により上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位(iv)を与える不飽和カルボン酸単量体および、芳香族ビニル単量体単位を含むその他のビニル系単量体単位を含有する場合には、該単位を与えるビニル系単量体とを共重合させ、原共重合体(a)を製造する工程(第一工程)と、続いて、かかる原共重合体(a)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコールによる分子内環化反応を行わせることにより製造する工程(第二工程)からなる製造方法である。
【0043】
この場合、典型的には、原共重合体(a)を加熱することにより、隣接する2単位の不飽和カルボン酸単位(iii)のカルボキシル基の間の脱水反応により、あるいは、隣接する不飽和カルボン酸単位(iii)と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)の間の脱アルコール反応により、1単位の前記(iv)グルタル酸無水物含有単位が生成される。
【0044】
この際に用いられる脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単量体の好ましい例としては、下記一般式(6)
【0045】
【化10】

【0046】
(上記式中、R9は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R10は、炭素数5〜22の脂環式アルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
で表される化合物を挙げることができる。なお、上記一般式(6)で表される脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単量体は、共重合すると上記一般式(1)で表される構造の脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位(i)を与える。
【0047】
上記脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単量体の具体例としては、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸シアノノルボルニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸メンチル、アクリル酸フェンチル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸ジメチルアダマンチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、アクリル酸シクロデシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル 、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸シアノノルボルニル、メタクリル酸フェニルノルボルニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル等が挙げられ、これらは1種または2種以上同時に用いることもできる。このうち、低吸湿性の点で、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル 、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸フェンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル等が好ましい。さらに、耐熱性、低吸湿性の点でより好ましいものとしては、メタクリル酸シクロヘキシル 、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカ−4−メチルを挙げることでき、さらに最も好ましくは下記一般式(7)で表される不飽和カルボン酸シクロヘキシル単量体を用いることができる。
【0048】
【化11】

【0049】
(ただし、R11は水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0050】
なお、上記一般式(7)で表される不飽和カルボン酸シクロヘキシル単量体は、共重合すると上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸シクロヘキシル単位(i)を与える。
【0051】
これらの不飽和カルボン酸シクロヘキシル単量体の中でも、最も好ましい様態においては、アクリル酸シクロヘキシルおよび/またはメタクリル酸シクロヘキシルである。
【0052】
また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい例として、下記一般式(8)で表される化合物を挙げることができる。
【0053】
【化12】

【0054】
(ただし、R12は水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R13は炭素数1〜6の脂肪族または1個以上炭素数以下の数の水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基を示す)
【0055】
なお、上記一般式(8)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記一般式(2)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)を与える。
【0056】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−へキシル、メタクリル酸n−へキシル、アクリル酸クロロメチル、メタクリル酸クロロメチル、アクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルおよびメタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。これらのうち、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適であり、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0057】
不飽和カルボン酸単量体としては、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれの不飽和カルボン酸単量体も使用可能である。好ましい不飽和カルボン酸単量体として、下記一般式(9)
【0058】
【化13】

【0059】
(ただし、R14は水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
で表される化合物、マレイン酸、および無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられる。特に熱安定性が優れる点でアクリル酸またはメタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上を用いることができる。なお、上記一般式(9)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると上記一般式(5)で表される構造の不飽和カルボン酸単位(iii)を与える。
【0060】
本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じ、その他のビニル系単量体および/または芳香族ビニル系単量体を用いることができる。
【0061】
その他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリルなどの共重合可能なビニル系不飽和単量体を挙げることができ、該その他の不飽和単量体は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0062】
また、芳香族ビニル系単量体を使用する場合の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどを挙げることができるが、その使用量は得られる熱可塑性共重合体(A)の光学特性を損なわない範囲とする必要がある。
【0063】
第一工程で原共重合体(a)を製造する重合方法については、基本的にはラジカル重合による、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合、沈殿重合等の重合法、および塊状懸濁重合のように公知の重合法の組み合わせが好ましく用いられるが、特に本発明の共重合体中の異物、特に未溶融ポリマー等を減少し、光学材料用途で求められる低異物を達成するという観点から溶液重合、沈殿重合およびこれら重合法の組み合わせが好ましく、更に生成した原共重合体(a)の分離と回収におけるハンドリング性と低コスト化を考慮すれば、沈殿重合が最も好ましい。
【0064】
ここで、沈殿重合とは、例えば、原共重合体(a)の原料である単量体混合物は溶解し、かつ、原共重合体(a)の溶解度が1g/100g以下である溶媒中で重合反応を行う重合法と定義することができ、この場合、均一な単量体混合物を含む有機溶媒相から、重合反応が進行するに従い、原共重合体(a)を沈殿し、重合後のスラリー溶液を濾過および乾燥することにより、該原共重合体(a)を単離することができる特徴がある。
【0065】
なお、ここで、「原共重合体(a)の溶解度」とは、原共重合体(a)の有機溶媒(B)100gに対する、23℃で24時間、攪拌した後の溶解量を意味する。
【0066】
さらに、第一工程の原共重合体(a)の沈殿重合においては、単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸単量体20〜50重量%、脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単量体5〜30重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体15〜70重量%、芳香族ビニル単量体0〜5重量%からなる単量体混合物を、原料である単量体混合物は溶解し、単量体混合物が共重合した原共重合体(a)の溶解度が1g/100g以下である芳香族基を含有しない有機溶媒(B)中で共重合して原共重合体(a)を得る方法が好ましい。
【0067】
本発明においては、容易に原共重合体(a)を沈殿・析出させるため、原共重合体(a)と有機溶媒(B)に対する溶解度のバランスを考慮する必要がある。その観点から、各成分の溶解度パラメーターを考慮し、共重合種、共重合組成、反応溶媒等重合条件の設計を行うことが好ましい。
【0068】
中でも本発明においては、(i)脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(a)の溶解度パラメーターδpと有機溶媒(B)の溶解度パラメータδsの差の絶対値(ΔSP)が、1.0以上となるような共重合組成、溶媒種を選択することが好ましく、より好ましくは1.1以上であり、特に1.2以上の条件で重合を行うことが、重合中の重合槽壁面への付着がなく、さらに生成する共重合体を粉体として容易に取り出す上で好ましい。また、上記のΔSPが1.0〜1.9の範囲、より好ましくは、1.2〜1.8の範囲、さらに好ましくは1.5〜1.7の範囲で重合条件設計することにより、重合開始前の仕込み単量体混合物組成と生成する共重合体の共重合組成に大きなずれを生じさせない精密な制御を行うこと、および分子量分布のより狭い、均一性の高い分子量制御を行うことができ、第二工程を経て得られる熱可塑性共重合体(A)の熱安定性および無色透明性を大幅に向上させる効果が発現することを見出した。
【0069】
(i)脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位および(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(iii)不飽和カルボン酸単位を含む原共重合体(a)の溶解度パラメーターδpは、好ましくは、7.0〜12.0、より好ましくは、7.5〜10.5であることが望ましい。δpが7.0未満の場合には、第二工程を経て得られる熱可塑性共重合体(A)の耐熱性および耐薬品性が劣るものとなり、実用上多くの制限を受ける場合がある。δpが12.0を超える場合には、ポリマーの凝集力が強くなりすぎ、第二工程へ供給する際に粘度が高くなりすぎて取り扱い性が悪化する傾向にある。
【0070】
尚、ここで言う溶解度パラメーターは、「塗料用合成樹脂入門」、北岡協三著、p23−p31、高分子刊行会(1986)、表2−8、表2−9を参考に、Smallの方法で算出したものである。
【0071】
すなわち、smallの方法により与えられた特定の原子及び原子団の凝集エネルギー定数F(cal1/2cc1/2/mol)、密度をs(g/cc)、基本分子量をMとし、δ=(sΣF)/Mで算出される値を溶解度パラメーターδとする。なお、本発明において凝集エネルギーFはsmallの数値を用いるものとする。
【0072】
(1)単量体の溶解度パラメーター
一例として、メタクリル酸メチル(密度 0.944g/cc)の算出例を表1に示す。
【0073】
メタクリル酸メチルを構成する各成分のFは
【0074】
【表1】

【0075】
となる。したがって、メタクリル酸メチルの溶解度パラメーターδmは、
δm=0.944×947÷100=8.94
となる。
【0076】
本算出方法により求めた代表的な単量体の溶解度パラメーターを表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
(2)原共重合体(a)の溶解度パラメーターδp
本発明では、原共重合体(a)の溶解度パラメーターδpを以下の式に従い算出した。すなわち、原共重合体(a)中の各単量体のモル分率Xi(%)、各単量体の溶解度パラメーターδiから、下記式により、算出されるものである。
δp=Σ(δi × Xi/100)
【0079】
従って、原共重合体(a)の溶解度パラメーターδpを上記範囲にするためには、使用する単量体の溶解度パラメーターを考慮して組成を調整すればよい。
【0080】
(3)有機溶媒(B)の溶解度パラメーターδs
有機溶媒(B)の溶解度パラメーターδsは、前記原共重合体(a)の溶解度パラメーターδpの算出方法と同様にして求められる。n−ヘプタンの例を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
δs=0.676×1093÷100=7.39
【0083】
また、有機溶媒(B)が2種類以上の混合物である場合の溶解度パラメーターδsは、混合有機溶媒中の各溶媒成分のモル分率Xi(%)、各溶媒成分の溶解度パラメーターδiから、下記式により算出されるものである。
δp=Σ(δi × Xi/100)
【0084】
本発明に使用される有機溶媒(B)としては、前述の沈殿重合法を可能とする有機溶媒であれば、特に制限はなく、原共重合体(a)との関係が上記範囲内にあるものが好ましいが、具体例としては脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトン、エーテル、アルコール類から選ばれる1種以上などを挙げることができる。中でも、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトンから選ばれる1種以上が好ましく、特に、生成する共重合体の共重合組成および分子量の分布をより精密に制御するという点で、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステルから選ばれる1種以上を好ましく使用することができ、上記したような原共重合体(a)との関係が好ましい範囲となるよう選択することがより好ましい。
【0085】
本発明に使用される脂肪族炭化水素としては、炭素数が5〜10の直鎖状、側鎖を有するもの、脂環式のものを挙げることができる。具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカンおよびそれらの種々の異性体を挙げることができる。
【0086】
本発明に使用されるカルボン酸エステルとは、飽和脂肪族カルボン酸および飽和アルコールからなるエステルであり、飽和カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを、また飽和アルコールとしては炭素数1〜10で直鎖状および分岐状のものを挙げることができる。好ましいカルボン酸エステルとしては、ギ酸−n−プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸−n−ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸−n−ペンチル、ギ酸−n−ヘキシル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−n−ペンチル、酢酸−n−ヘキシル、酢酸−n−ヘプチル、酢酸−n−オクチル、酢酸−n−ノニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−n−ペンチル、プロピオン酸−n−ヘキシル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸−n−ブチル、酪酸イソブチル、酪酸−n−ペンチル、酪酸−n−ヘキシルなどの種々の異性体を挙げることができる。
【0087】
本発明に使用されるケトンとは、炭素数1〜10で直鎖状および分岐状の飽和脂肪族基からなるケトンであり、具体例としては、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどを挙げることができる。
【0088】
中でも、本発明では、脂肪族炭化水素およびカルボン酸エステルの混合物が好ましく使用することができる。この場合、脂肪族炭化水素とカルボン酸エステルの好ましい混合比は、特に制限はないが、重量比で5/95〜70/30の範囲が好ましくは、10/90〜50/50、とりわけ20/80〜40/60が好ましい。混合比が5/95より小さいと、重合中に生成した共重合体が反応槽へ固着する傾向が見られる。また、混合比が70/30より大きいと、共重合体の粒子径が極めて微細でハンドリング性に劣る傾向が見られる。
【0089】
なお、本発明の製造方法において沈殿重合する際、その重合反応系に水を用いると共重合組成の精密に制御しにくくなる場合があり、水は共重合組成の制御が可能な範囲にとどめるべきであり、有機溶媒等重合反応系に用いる成分が不純物として水を極く少量含む場合を除き、水は積極的に添加しないことが最も好ましい。
【0090】
第一工程における重合温度については、任意に設定することが可能であるが、好ましくは使用する有機溶媒の沸点以下の温度が好ましい。中でも、100℃以下の重合温度で重合することが好ましく、90℃以下の重合温度で重合することがより好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。また重合時間は、必要な重合率を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましく、90〜240分間の範囲が特に好ましい。
【0091】
また、第一工程における、重合液中の溶存酸素濃度を5ppm以下に制御することが、加熱処理後の熱可塑性共重合体(A)の優れた無色透明性、滞留安定性および熱安定性を達成することができるため、好ましい。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために好ましい溶存酸素濃度の範囲は0.01〜3ppmであり、さらに好ましくは0.01〜1ppmである。溶存酸素濃度が5ppmを超える場合、加熱処理後の熱可塑性共重合体(A)が着色する傾向が見られ、また熱可塑性共重合体(A)の熱安定性が低下するため、本発明の目的を達することができない。ここで、本発明における、溶存酸素濃度は、重合液中の溶存酸素を溶存酸素計(例えばガルバニ式酸素センサである飯島電子工業株式会社製、DOメーターB−505)を用いて測定した値である。溶存酸素濃度を5ppm以下にする方法については、重合容器中に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを通じる方法、重合液に直接不活性ガスをバブリングする方法、重合開始前に不活性ガスを重合容器に加圧充填した後、放圧を行う操作を1回若しくは2回以上行う方法、単量体混合物を仕込む前に密閉重合容器内を脱気した後、不活性ガスを充填する方法、重合容器中に不活性ガスを通じる方法を例示することができる。
【0092】
本発明において、原共重合体(a)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物全体を100重量%として、脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単量体が5〜30重量%、より好ましくは5〜25重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が15〜70重量%、より好ましくは20〜70重量%、不飽和カルボン酸単量体が15〜50重量%、より好ましくは20〜45重量%である。
【0093】
不飽和カルボン酸単量体の含有量が15重量%未満の場合には、原共重合体(a)の加熱により、熱可塑性共重合体(A)を製造する際に、上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位(i)の生成量が少なくなり、熱可塑性共重合体(A)の耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体(iii)の含有量が50重量%を超える場合には、原共重合体(a)の加熱により、熱可塑性共重合体(A)を製造する際に、不飽和カルボン酸単位(iii)が多量に残存する傾向があり、熱可塑性共重合体(A)の無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0094】
これらに共重合可能な他のビニル系単量体および/または芳香族ビニル単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜5重量%である。特に、芳香族ビニル単量体を使用する場合には、得られる熱可塑性共重合体(A)の光学特性の観点から芳香族ビニル単量体の含有量を0〜5重量%とする必要があり、より好ましい割合は0〜3重量%である。
【0095】
また、前記のように、本発明の熱可塑性共重合体(A)は、重量平均分子量が3万〜15万であることが好ましい。このような分子量を有する熱可塑性共重合体(A)は、原共重合体(a)の製造時に、原共重合体(a)を重量平均分子量で3万〜15万に予め制御しておくことにより、達成することができる。
【0096】
原共重合体(a)の分子量制御方法については、例えば、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤の添加量、あるいはアルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤の添加量等により、制御することができる。特に、重合の安定性、取り扱いの容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を制御する方法が好ましく使用することができる。
【0097】
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタンまたはn−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0098】
これらアルキルメルカプタンの添加量としては、好ましい分子量に制御するために、単量体混合物の全量100重量部に対して、0.2〜5.0重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜4.0重量部、さらに好ましくは0.4〜3.0重量部である。
【0099】
本発明において特定の重合溶媒である有機溶媒(B)中で共重合することにより得られた原共重合体(a)を含む有機溶媒スラリーに関し、共重合が終了した段階のスラリーにおいて、前スラリーの全重量に占める原共重合体(a)の割合は特に制限はないが、生産性の観点から5重量%以上であることが好ましく、より好ましくは7重量%以上であり、更に好ましくは10重量%以上である。
【0100】
また、前記有機溶媒スラリーは、例えば、遠心分離機により固液分離することにより、原共重合体(a)と有機溶媒(B)とを分離・分別できる(以降該固液分離工程を第一ろ過と呼ぶことがある)。第一ろ過における原共重合体(a)スラリーの固液分離の方法については、特に制限はなく、通常の遠心分離機、加圧ろ過機、吸引ろ過機、振動ろ過機、ベルトフィルターなどを好ましく用いることにより、原共重合体(a)のケークを得ることができる。
【0101】
また、さらに必要であれば、有機溶媒(B)を数%程度含有する共重合体(a)を棚段式乾燥機、コニカルドライヤー、遠心式乾燥機などにより乾燥することにより、有機溶媒(B)を含有しない原共重合体(a)を製造することも可能である。
【0102】
もっと簡便には、可能であれば、スプレードライヤーにより原共重合体(a)を回収すると同時に、乾燥ポリマーとし、有機溶媒(B)を回収することもできる。
【0103】
かくして、本発明の特定の有機溶媒(B)中で共重合して得た原共重合体(a)のケークから得た原共重合体(a)粒子は、有機溶媒(B)以外の有機溶媒中で共重合を行って得た原共重合体のケークを洗浄して得た粒子と比較して、粘着性もなく、粒子の移動時の粒子の舞い上がりもなく、ろ過時または乾燥時の粒子同士の合着もないため、第二工程と第ニ工程に先立った洗浄および/または乾燥等の作業において、極めてハンドリング性に優れるものである。さらには、第二工程を経て得られる本発明の共重合体の無色透明性を向上させることができる。
【0104】
さらに、本発明においては、第一工程において得られた、本発明の特定の有機溶媒(B)中で共重合した原共重合体(a)を含む有機溶媒スラリー(以下原共重合体(A)スラリーと呼ぶ)を、第二工程での処理に先立ち、以下の洗浄工程を実施することができる。
【0105】
すなわち、原共重合体(a)スラリーを第一ろ過により固液分離した後、得られた原共重合体(a)のケークに水を添加し、5〜120℃の温度で洗浄し、該洗浄液から、5〜120℃にて再度固液分離(以降第二ろ過と呼ぶことがある)し、洗浄後の原共重合体(a)を得て、次いで、原共重合体(a)を用いて前記第二工程を行うことにより揮発成分が少なく、極めてハンドリング性に優れる原共重合体(a)粒子を得ることができる。ここで、第二ろ過後の原共重合体(a)のケーク中の揮発分含有量は、特に制限はなく、通常50〜90重量%である。特定の有機溶媒(B)中で共重合して得た原共重合体(a)のケークに前記の洗浄を施した場合、原共重合体(a)の数平均粒子径は特に制限はないが、1〜20000μmの範囲に制御され、好ましくは1〜2000μmの範囲、より好ましくは2〜1000μmの範囲、特に好ましくは2〜500μmの範囲に制御される。なお、ここで言う数平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、150倍または1万倍で観察し、1次粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径を表す。
【0106】
上記数平均粒子系を制御する方法としては、前記第一ろ過によって固液分離されて得られた原共重合体(a)のケークに水を添加し、攪拌下加熱することにより、原共重合体(a)を洗浄するとともに、ポリマー粒子を凝集させ、粒子を前記の特定の範囲に制御する。洗浄時に添加する水の量は、特に制限はないが、前記第一ろ過で得られたケーク100重量部に対して、200〜2000重量部であることが好ましく、より好ましくは200〜1000重量部、最も好ましくは200〜600重量部である。水の添加量が200重量部以下の場合、洗浄効果が低下する傾向にある。水の添加量が2000重量部を超える場合、廃水処理負荷が大きくなるため、好ましくない。
【0107】
また、第一ろ過によって得られた共重合体ケークと水の比率を上記範囲とすることにより、洗浄液中の共重合体(a)の濃度を好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは1〜30重量%、最も好ましくは1〜20重量%とすることができる。ここで、洗浄液中の原共重合体(a)の濃度は以下のように計算される。
洗浄液中の原共重合体(a)の濃度(重量%)
=100×(1−α/100)×(原共重合体ケーク量(重量部))/(原共重合体ケーク量(重量部)+水添加量(重量部))。
α:共重合体ケークの揮発分含有量(重量%)
【0108】
なお、共重合体ケーク中の揮発分含有量(重量%)は該ケークを真空乾燥機中、140℃にて30分間加熱した時の重量変化より、下式にて算出した値である。
共重合体ケーク中の揮発分含有量(重量%)=重量減少率(%)
=[(加熱処理前重量−加熱処理後重量)/加熱処理前重量]×100。
【0109】
上記洗浄操作を実施する装置については、洗浄温度を上記範囲内に制御できるものであれば、特に制限はなく、通常の攪拌機を備えたオートクレーブ等を使用することができる。なお、洗浄に際しては原共重合体(a)のスラリー及び/またはそれに添加する水を予熱しておくことも可能である。
【0110】
本発明においては、洗浄温度および第二ろ過温度には特に制限はないが、5〜120℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは50〜120℃の範囲である。洗浄温度および第二ろ過温度が5℃未満の温度の場合は、洗浄効果が低下する傾向にある。
【0111】
上記洗浄操作により得られた水スラリーの固液分離(第二ろ過)の方法については、上記温度にてろ過が可能なものであれば、特に制限はなく、通常の遠心分離機、加圧ろ過機、吸引ろ過機、振動ろ過機、ベルトフィルターなどを好ましく用いることができるが、固液分離後の揮発分を低減し、その後の乾燥工程の負荷を低減するという観点から、遠心分離が説くに好ましい。本発明の洗浄方法を実施することにより、第二ろ過後の共重合体の揮発分含有量を10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは20〜50重量部とすることができ、その後の乾燥工程の負荷を低減することが可能となる。
【0112】
さらに必要であれば、上記洗浄操作によって得られた水および有機溶媒(B)を含有する原共重合体(a)ケークを棚段式乾燥機、コニカルドライヤー、遠心式乾燥機などにより乾燥することにより、有機溶媒(B)を含有しない原共重合体(a)を製造することも可能である。
【0113】
また、本発明で得られる原共重合体(a)は、前記好ましい態様の製造方法において、重量平均分子量(以下Mwと呼ぶことがある)が2000〜1000000範囲にあるものを得ることができ、より好ましい様態においては、2000〜500000の範囲にあるものを得ることができ、更に好ましくは2000〜200000の範囲であり、特に好ましくは5000〜100000の範囲である。Mwが2000未満の場合には、原共重合体(a)を有機溶媒(B)中に分散質として沈殿、析出できない場合があり、本発明の目的に沿わないことがある。また、重合体が脆く、機械的な性質が劣悪になる傾向にある。Mwが1000000を超える場合には、溶融成形や溶液塗工した製品に十分に溶融、または溶解しない高分子量物が異物として残りやすくなる傾向にありフィッシュアイやハジキの欠点が出やすくなる傾向にある。
【0114】
また、本発明の原共重合体(a)の分子量分布は特に制限はないが、2.0〜3.0の範囲が好ましく、分子量分布の下限は好ましくは2.05以上であり、より好ましくは2.25以上、更に好ましくは2.3以上である。一方、本発明の共重合体における分子量分布の上限は、好ましくは2.95以下であり、より好ましくは2.9以下である。本発明の原共重合体(a)の分子量分布が2.0未満では、溶融時の溶融粘度が高くなる傾向にある。本発明の原共重合体(a)の分子量分布が3.0を越える場合、分子内環化反応を経て得られる分子量分布が増大する傾向にある。
【0115】
また、原共重合体(a)のシーケンスとしては特に制限はないが、(iii)不飽和カルボン酸単位が10連続以上で連なる配列(10連シーケンス)が少量であることが好ましく、より好ましくは(iii)不飽和カルボン酸単位の10連シーケンス全く有しないことであり、更に好ましくは5連続以上で連なる配列(5連シーケンス)を含有しないことである。このようなシーケンスを有する原共重合体(a)を得る方法としては、有機溶媒(B)中で沈殿重合を行うことが好ましい。(iii)不飽和カルボン酸単位の10連シーケンスが存在する場合、分子内環化反応の後に残存する(iii)不飽和カルボン酸単位量が多くなる傾向にある。
【0116】
本発明における、原共重合体(a)を加熱し、脱水および/または脱アルコールにより分子内環化反応を行い、熱可塑性共重合体(A)を製造する方法は、特に制限はないが、原共重合体(a)を、ベントを有する連続溶融混練装置を用いる方法や不活性ガス雰囲気または真空下で加熱脱揮するバッチ式溶融混練装置を用いる方法が好ましい。酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、系内を窒素などの不活性ガスで十分に置換することが好ましい。溶融混練装置としては、例えば、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合型連続混練押出装置、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、中でもベントを有する二軸押出装置や複数の凸レンズ型および/または楕円型の板状パドルを備えた連続式二軸反応装置、さらには二軸・単軸複合型連続混練押出装置を好ましく用いることができる。
【0117】
複数の凸レンズ型および/または楕円型の板状パドルを備えた連続式二軸反応装置は、スケール付着のない、いわゆるセルフクリーニング性の高い装置であり、また、中空洞(シリンダ)の離れた位置に原料供給口と吐出口とを備え、この胴の外周に温度制御用ジャケットを備えており、また、中空洞の内部には胴の長手方向に平行に位置する2本の撹拌軸を備え、撹拌軸は互いに近接するように固定された複数個の上記板状パドルを有することを特徴とする。このような押出機としては、具体的には、栗本鉄工所社製「KRCニーダー」を好ましく使用することができる。
【0118】
これらの溶融混練装置の中でも、特に好ましくは、後述の通り環化反応を完結し、得られるグルタル酸無水物含有共重合体のガス発生量抑制しながら、着色抑制することを可能とする観点から、二軸・単軸複合型連続混練押出装置を使用することが最も好ましい。二軸・単軸複合型連続混練押出装置としては、例えば特開2004−307834号公報(第1−2頁、実施例)に記載された装置を用いることが好ましい。
【0119】
また、これらの装置は、窒素などの不活性ガスが導入可能な構造を有したものが、より好ましい。例えば、二軸押出機あるいは二軸・単軸複合型連続混練押出装置に、窒素などの不活性ガスを導入する方法としては、ホッパー上部および/または下部より、10〜100リットル/分程度の不活性ガス気流の配管を繋ぐ方法などが挙げられる。
【0120】
加熱脱揮する温度は環化反応が進行する温度であれば特に制限はないが、180〜380℃が好ましく、より好ましくは250〜360℃の範囲である。この温度範囲で加熱脱気を行うことで、環化反応を完結させ、得られる熱可塑性共重合体(A)のガス発生量を低減することができる。
【0121】
また、この際の加熱脱揮する時間は、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、10分間〜60分間が好ましく、より好ましくは10分間〜30分間、とりわけ好ましくは10〜20分間の範囲である。押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機スクリューの長さをL、直径をDとすると、L/Dが40以上110以下であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向や成形滞留時に色調が悪化する傾向がある。押出機のL/Dが110より大きい場合、押出機の機械的強度や構造上の問題のため、現実的な利点が小さくなるため好ましくない。
【0122】
さらに本発明では、原共重合体(a)を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリおよび塩化合物から選ばれた1種以上を添加することができる。その添加量は、原共重合体(a)100重量部に対し、0.01〜1重量部程度が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩、各種アルキルアンモニウム塩を含むアンモニウム塩等が挙げられる。等が挙げられる。ただし、その触媒の色が熱可塑性共重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。中でも、アルカリ金属を含有する化合物が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられる。とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、および酢酸ナトリウムが好ましく使用することができる。
【0123】
かくして得られる熱可塑性共重合体(A)はガラス転移温度(Tg)が120℃以上の優れた耐熱性を有しており、好ましい様態においては130℃以上であり、より好ましい様態においては150℃以上である。また、上限としては、通常、170℃程度である。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度(Tg)である。
【0124】
また、本発明の熱可塑性共重合体(A)は、黄色度(Yellowness Index)の値が5以下と着色が極めて抑制され、さらに好ましい態様においては4以下、最も好ましい態様においては、3以下と極めて優れた無色性を有する。これによって、後述する熱可塑性共重合体(A)を含む本発明の熱可塑性樹脂組成物の黄色度も5以下、より好ましくは4以下、最も好ましくは3以下とすることができる。また、熱可塑性共重合体(A)の黄色度の値が大きい場合は、熱可塑性共重合体(A)の一部が熱分解を起こし、透明性が低下する傾向にある。この点でも、熱可塑性共重合体(A)の黄色度が上記の範囲にあることが好ましい。なお、ここでいう黄色度(Yellowness Index)とは、熱可塑性共重合体(A)もしくは本発明の熱可塑性樹脂組成物を射出成形し、得られた厚さ2mm成形品をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定したYI値である。
【0125】
また、本発明の熱可塑性共重合体(A)は吸水率が0.8重量%以下、より好ましくは0.6重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下であり、これまでのグルタル酸無水物単位含有の熱可塑性共重合体では到達することができなかった極めて高度な低吸水率性を有しており、高温多湿下での寸法安定性に極めて優れる特徴を有する。なお、ここで言う吸水率とは、熱可塑性共重合体(A)のガラス転移温度+150℃で射出成形して得られた70mm×70mm×2mm成形品を、23℃の純水中に24時間浸漬した前後の成形品の重量変化から、下式より算出した値(重量%)である。
吸水率(重量%)=(浸漬後の重量−浸積前の重量)/浸積前の成形品の重量×100
【0126】
また、本発明の熱可塑性共重合体(A)は、好ましい様態において、その光弾性係数が、8×10−12Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは、6×10−12Pa−1以下、最も好ましくは4×10−12Pa−1以下の優れた光学等方性を有する。また、光弾性係数の下限としては通常、2×10−12Pa−1程度である。なお、ここで言う光弾性係数とは、流延法により得た厚さ約100μm(100±5μm)の無配向フィルムを1.5倍に一軸延伸を行った際の応力(σ)と、この延伸フィルムをエリプソメーター(大塚電子株式会社製、LCDセルギャップ検査装置 RETS−1100)を用いて23℃で、レーザー光をフィルムサンプル面に対して90°の角度で照射し、透過光の633nmで測定したリターデーション(Re)および上記延伸フィルムの23℃での厚み(d)を基に下記式により算出される値である。
光弾性係数=Re(nm)/d(nm)/σ(Pa)
【0127】
また、本発明の熱可塑性共重合体(A)はガラス転移温度+150℃、剪断速度12/秒にて測定した溶融粘度が50000ポイズ以下であることが、流動性の観点から好ましく、さらに好ましくは30000ポイズ以下、より好ましくは20000ポイズ以下である。なお、ここで言う溶融粘度とは東洋精機社製キャピログラフ1C型(ダイス径φ1.0mm、ダイス長5.0mm)を用いて、上記温度および剪断速度で測定した溶融粘度(ポイズ)である。
【0128】
また、本発明の熱可塑性共重合体(A)はガラス転移温度+150℃で30分間加熱した時の加熱減量が1.0重量%以下であることが必要であり、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下である。
【0129】
さらに、本発明の熱可塑性共重合体の製造時には、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、その添加剤保有の色が本発明の熱可塑性共重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0130】
また、本発明においては、上記の熱可塑性共重合体(A)にゴム質含有重合体(C)を含有することにより、熱可塑性共重合体(A)の優れた特性を大きく損なうことなく優れた耐衝撃性を付与することができる。
【0131】
本発明で用いるゴム質含有重合体(C)は、1以上のゴム質重合体を含む層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の層から構成され、かつ、内部に1層以上のゴム質重合体を含む層を有する構造の、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体や、ゴム質重合体の存在下に、ビニル単量体などからなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体等が好ましく使用できるが、特に多層構造重合体が透明性・着色の少なさの点で優れており、好ましい。
【0132】
前記多層構造重合体を構成する層の数は、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に1層以上のゴム層(コア層)を有する多層構造重合体であることが好ましい。多層構造重合体において、ゴム層の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、アクリル系単量体、シリコーン系単量体、スチレン系単量体、ニトリル系単量体、共役ジエン系単量体、ウレタン結合を生成する単量体、エチレン系単量体、プロピレン系単量体、イソブテン系単量体などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴムとしては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン系単位、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン系単位、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル系単位およびブタジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン系単位から構成されるゴムである。また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴムも好ましい。例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位およびジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン系単位から構成されるゴム、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン系単位から構成されるゴム、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系単位およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン系単位から構成されるゴム、およびアクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル系位体、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン系単位およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン系単位から構成されるゴムなどが挙げられる。これらのうち、アクリル酸アルキルエステル単位、および、置換または無置換のスチレン単位を含有する重位であるゴムが、透明性および機械特性の点から、最も好ましい。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位およびブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分から構成される共重合体を架橋させたゴムも好ましい。
【0133】
前記多層構造重合体において、ゴム層以外の層の種類は、熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されるものではないが、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体成分であることが好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位およびその他のビニル単位などから選ばれる1種以上の単位を含有する重合体が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含有する重合体が好ましく、それに加えて不飽和グリシジル基含有単位、不飽和カルボン酸単位および不飽和ジカルボン酸無水物単位から選ばれる1種以上の単位を含有する重合体がより好ましい。
【0134】
上記不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸クロロメチル、メタクリル酸クロロメチル、アクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルおよびメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられる。耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、アクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0135】
上記不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、およびさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられる。特に熱安定性が優れる点でアクリル酸およびメタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【0136】
上記不飽和グリシジル基含有単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではなく、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルおよび4−グリシジルスチレンなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、アクリル酸グリシジルまたはメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0137】
上記不飽和ジカルボン酸無水物単位の原料となる単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸および無水アコニット酸などが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、無水マレイン酸が好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0138】
また、上記脂肪族ビニル単位の原料となる単量体としては、エチレン、プロピレンおよびブタジエンなどを用いることができる。上記芳香族ビニル単位の原料となる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンおよびハロゲン化スチレンなどを用いることができる。上記シアン化ビニル単位の原料となる単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどを用いることができる。上記マレイミド単位の原料となる単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(p−ブロモフェニル)マレイミドおよびN−(クロロフェニル)マレイミドなどを用いることができる。上記不飽和ジカルボン酸単位の原料となる単量体としては、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸およびフタル酸などを用いることができる。上記その他のビニル単位の原料となる単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを用いることができる。これらの単量体は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0139】
本発明のゴム質重合体(C)は、その多層構造において、最外層(シェル層)の種類は、上述のとおり不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位およびその他のビニル単位などの1種類以上の単位を含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物単位などを含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が好ましい。
本発明の熱可塑性共重合体との溶融混練に供するゴム質重合体として、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体を最外層とする多層構造重合体を用いることが最も好ましい。
【0140】
最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体である場合、加熱することにより、前述した本発明の共重合体の製造時と同様に、分子内環化反応が進行し、前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位が生成する。従って、最外層に不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および不飽和カルボン酸単位を含有する重合体を有する多層構造重合体を熱可塑性共重合体(A)に配合して溶融混練する際の加熱により、最外層に前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位を含有する多層構造重合体が得られる。これにより、連続相(マトリックス相)となる本発明の共重合体中に、前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位を含有する多層構造重合体が良好に分散することが可能となり、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性等の機械特性向上とともに、極めて高度な透明性が発現しうるものと考えられる。
【0141】
ここでいう不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の原料となる単量体としては、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらにはアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルがより好ましく使用される。
【0142】
また、不飽和カルボン酸単位の原料となる単量体としては、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましく、さらにはメタクリル酸がより好ましく使用される。
【0143】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中に含有せしめるゴム質重合体(C)の好ましい例としては、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位/メタクリル酸共重合体であるもの、コア層がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル共重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、コア層がブタンジエン/スチレン共重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、およびコア層がアクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるものなどが挙げられる。ここで、“/”は共重合を示す。さらに、ゴム層または最外層のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。中でも、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位からなる共重合体であるもの、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン共重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物含有単位/メタクリル酸重合体であるものが、連続相(マトリックス相)である本発明の共重合体との屈折率を近似させること、および樹脂組成物中での良好な分散状態を得ることが可能となり、近年より高度化する要求を満足しうる透明性が発現するため、好ましく使用することができる。
【0144】
多層構造重合体の平均粒子径については、0.01μm以上、1000μm以下であることが好ましい。平均粒子径は、0.02μm以上、100μm以下がより好ましく、0.05μm以上、10μm以下がさらに好ましく、0.05μm以上、1μm以下が最も好ましい。上記の範囲未満では得られる熱可塑性組成物の衝撃強度が低下する傾向を生じ、上記の範囲を越えると透明性が低下する場合がある。なお、多層構造重合体の平均粒子径は、小角光散乱測定によるギニエプロットあるいは透過型電子顕微鏡写真から算出することができる。
【0145】
本発明の多層構造重合体において、コアとシェルの重量比は、多層構造重合体全体に対して、コア層が30重量%以上、90重量%以下であることが好ましく、コア層が50重量%以上、90重量%以下であることがより好ましく、さらに、60重量%以上、80重量%以下であることが特に好ましい。
【0146】
本発明の多層構造重合体としては、上述した条件を満たす市販品を用いてもよく、また公知の方法により作製して用いることもできる。
【0147】
多層構造重合体の市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製”メタブレン(登録商標)”、鐘淵化学工業社製”カネエース(登録商標)”、呉羽化学工業社製”パラロイド(登録商標)”、ロームアンドハース社製”アクリロイド(登録商標)”、ガンツ化成工業社製”スタフィロイド(登録商標)”およびクラレ社製”パラペット(登録商標)SA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0148】
また、ゴム質含有重合体として使用されるゴム質含有グラフト共重合体の具体例としては、ゴム質重合体の存在下に、不飽和カルボン酸エステル単量体(その具体例は前述と同様である)、不飽和カルボン酸単量体(その具体例は前述と同様である)、芳香族ビニル単量体(その具体例は前述と同様である)、および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体(その具体例は前述と同様である)の1種以上から選択される単量体(混合物)を(共)重合せしめたグラフト共重合体が挙げられる。
【0149】
グラフト共重合体に用いられるゴム質重合体としては、ジエンゴム、アクリルゴムおよびエチレンゴムなどが使用できる。具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−イソプレン共重合体、およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0150】
本発明におけるグラフト共重合体を構成するゴム質重合体の重量平均粒子径は、0.1〜0.5μm、特に0.15〜0.4μmの範囲が好ましい。上記の範囲未満では得られる熱可塑性組成物の衝撃強度が低下する傾向を生じ、上記の範囲を越えると透明性が低下する場合がある。なお、ゴム質重合体の重量平均粒子径は「Rubber Age, Vol.88, p.484−490 (1960), by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法、つまりアルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0151】
本発明におけるグラフト共重合体は、ゴム質重合体10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%の存在下に、上記の単量体(混合物)20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは40〜70重量%を共重合することによって得られる。ゴム質重合体の割合が上記の範囲未満、または上記の範囲を越える場合には、衝撃強度や表面外観が低下する場合がある。
【0152】
なお、グラフト共重合体は、ゴム質重合体に単量体混合物をグラフト共重合させる際に生成する、グラフトしていない共重合体を含んでいてもよい。衝撃強度の観点からは、グラフト率は10〜100%であることが好ましい。ここで、グラフト率とは、ゴム質重合体に対するグラフトした単量体混合物の重量割合である。また、グラフトしていない共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度は、0.1〜0.6dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられる。
【0153】
本発明におけるグラフト共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には、特に制限はないが、0.2〜1.0dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられ、より好ましくは0.3〜0.7dl/gのものである。
【0154】
本発明におけるグラフト共重合体の製造方法には、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合などの公知の重合法および塊状懸濁重合のようにこれら重合法の組み合わせにより得ることができる。
また、本発明の熱可塑性共重合体およびゴム質含有重合体のそれぞれの屈折率が近似している場合、透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができるため、好ましい。具体的には、両者の屈折率の差が0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、とりわけ0.01以下であることが好ましい。このような屈折率条件を満たすためには、本発明の熱可塑性共重合体の各単量体単位組成を調整する方法、および/またはゴム質含有重合体に使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成を調製する方法などが挙げられる。
【0155】
なお、ここで言う屈折率差とは、以下に示す方法で測定した値である。本発明の共重合体が可溶な溶媒に、本発明の熱可塑性樹脂組成物を適当な条件で十分に溶解させ白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離する。この可溶部分(本発明の共重合体を含む部分)と不溶部分(ゴム質含有重合体を含む部分)をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を屈折率差と定義する。
【0156】
また、樹脂組成物中での本発明の熱可塑性共重合体とゴム質含有重合体(C)の共重合組成および分子量分布については、上記の溶媒による可溶成分と不溶成分の分離操作の後に、各成分を個別に分析する。
【0157】
本発明において、本発明の熱可塑性共重合体とゴム質含有重合体を配合する際の重量比は、99/1〜50/50の範囲であることが好ましく、さらに、99/1〜60/40の範囲であることがより好ましく、特に99/1〜70/30の範囲であることが最も好ましい。
【0158】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する際には、本発明の熱可塑性共重合体とゴム質含有重合体(C)とを、適度な剪断場の下で加熱溶融混合する方法を用いる。製造する熱可塑性樹脂組成物中のゴム質含有重合体粒子の凝集を抑制するためには、比較的低温、かつ回転数を低めにして剪断力があまりかからないように溶融混練することが好ましい。具体的にはニーディングゾーンにおける樹脂温度をTとすると、(本発明の共重合体のTg+100℃)≦T≦(ゴム質含有重合体の1%分解温度)の範囲に制御することが好ましく、さらには、(本発明の共重合体のTg+120℃)≦T≦(ゴム質含有重合体の0.5%分解温度)の範囲に制御することが一層好ましい。ここで、ゴム質含有重合体の1%分解温度とは、窒素中での示差熱重量同時測定装置(セイコー電子工業社製、TG/DTA−200)を用いて、100〜450℃の温度領域を20℃/分の昇温速度で行った加熱試験により、加熱前の重量を100%とした時の重量減少率が1%に達した時の温度である。樹脂温度が本発明の範囲より低い場合、溶融粘度が極めて高くなり、溶融混練が事実上不可能となり好ましくない。また、樹脂温度が本発明の範囲より高い場合、ゴム質含有重合体(C)の再凝集および着色が著しくなり、好ましくない。
【0159】
かくして得られる本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性を表す指標の1つであるヘイズ値(濁度)が、3%以下が好ましく、より好ましくは1%以下である。これにより高度な透明性を有する。また、ヘイズ値の下限としては通常、0.5%程度である。
【0160】
なお、上記熱可塑性樹脂組成物の全光線透過率およびヘイズは、いずれも射出成形により得た厚さ2mm成形品を、JIS−K7361およびJIS−K7136に従い、測定した値である。
【0161】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましい様態において、その光弾性係数が、8×10−12Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは6×10−12Pa−1以下、最も好ましくは4×10−12Pa−1以下の優れた光学等方性を有する。また、光弾性係数の下限としては通常、2×10−12Pa−1程度である。なお、ここで言う光弾性係数とは、流延法により得た厚さ約100μm(100±5μm)の無配向フィルムを1.5倍に一軸延伸を行った際の応力(σ)と、この延伸フィルムをエリプソメーター(大塚電子株式会社製、LCDセルギャップ検査装置 RETS−1100)を用いて23℃で、レーザー光をフィルムサンプル面に対して90°の角度で照射し、透過光の633nmで測定したリターデーション(Re)および上記延伸フィルムの23℃での厚み(d)を基に下記式により算出される値である。
光弾性係数=Re(nm)/d(nm)/σ(Pa)
【0162】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は含有する熱可塑性共重合体(A)のガラス転移温度+150℃、剪断速度5/秒にて測定した溶融粘度が50000ポイズ以下の、流動性の優れた流動性を有する。溶融粘度は、さらに好ましくは30000ポイズ以下、より好ましくは20000ポイズ以下である。なお、ここで言う溶融粘度とは東洋精機社製キャピログラフ1C型(ダイス径φ1.0mm、ダイス長5.0mm)を用いて、上記温度および剪断速度で測定した溶融粘度(ポイズ)である。
【0163】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は吸水率が0.8重量%以下、より好ましくは0.6重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下であり、高度な低吸水率性を有しており、高温多湿下での寸法安定性に極めて優れる特徴を有する。なお、ここで言う吸水率とは、熱可塑性共重合体(A)のガラス転移温度+150℃で射出成形して得られた熱可塑性組成物の70mm×70mm×2mm成形品を、23℃の純水中に24時間浸漬した前後の成形品の重量変化から、下式より算出した値(重量%)である。
吸水率(重量%) =(浸漬後の重量−浸積前の重量)/浸積前の成形品の重量×100
【0164】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は含有する熱可塑性共重合体(A)ガラス転移温度+150℃で30分間加熱した時の加熱減量が1.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下と加熱滞留時のガス発生量が抑制され、成形加工性に優れ、欠点(シルバー、ボイド)の少ない成形品を与えることができる。
【0165】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、その熱変形温度が100℃以上であることが好ましく、より好ましくは110℃以上、特に好ましくは115℃以上である。これにより極めて優れた耐熱性を有する。また、熱変形温度の上限としては通常、140℃程度である。なお、ここで言う熱変形温度とは、射出成形により得た厚さ6.4mm成形品を、ASTM D648に従い測定した値を示す。
【0166】
また、本発明では、ゴム質含有重合体(C)に加えて、更にモノホスファイト系化合物を含有することができる。これにより、ゴム質含有重合体(C)の分解が抑制され大幅な着色抑制、流動性向上効果が得られるため好ましく使用できる。
【0167】
本発明で用いるモノホスファイト系化合物とはその分子内に1個のリン原子を持ち3個の有機基が結合した有機亜リン酸エステルであり、耐熱性の点から分子量300〜2000が好ましく、さらに分子量350〜1500の範囲であることがより好ましく、特に分子量400〜1000の範囲であることが最も好ましい。分子量が300以下では溶融混練時に揮発しやすく着色抑制、流動性向上効果が得られ難く、分子量が2000以上の場合には異物化しやすく高度な透明性が得られない問題がある。さらに、性状として液体または固体などの形態があるが使用に際しての制限はなく、液体の場合粘度1〜10000mPa・sの範囲であることが好ましく、さらに粘度2〜7000mPa・sの範囲であることがより好ましく、特に粘度5〜5000mPa・sの範囲であることが最も好ましい。または固体性状の場合、融点60〜220℃の範囲が好ましく、さらに融点80〜210℃の範囲がより好ましく、特に融点100〜200℃の範囲が最も好ましい。さらに、有機亜リン酸エステルの3個の酸素原子の内2個以上が芳香族残基と結合しているされる環状モノホスファイト系化合物、または、有機亜リン酸エステルの3個の酸素原子の内少なくとも1つが芳香族残基と結合しているモノホスファイト系化合物であることが好ましい。具体的なホスファイト系化合物としては、、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,5−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ミックスドモノおよびジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンホスフォナイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト等が挙げられる。
【0168】
この中で、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,5−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイトが特に好ましく利用できる。これらの特定のホスファイト系化合物を1種または2種以上併用して使用する事が可能である。
【0169】
本発明で用いるモノホスファイト系化合物には、さらにヒンダードフェノール系またはチオエーテル系化合物を併用することが可能である。ヒンダ−ドフェノ−ル系化合物、チオエーテル系化合物を少なくとも一種を併用させることによりゴム質含有重合体の分解がさらに抑制され大幅な色調改良効果が得られる。
【0170】
具体的なヒンダ−ドフェノ−ル系化合物としては分子量400以上のものが好ましく、具体的には、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、1,6−へキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト]、N,N’−ヘキサメチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナマミド)、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサピロ[5.5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0171】
具体的なチオエーテル系化合物はとしては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)などが挙げられる。
【0172】
本発明の熱可塑性共重合体(A)にゴム質重合体(C)および必要に応じてホスファイト系化合物を含有する樹脂組成物を製造する方法としては、本発明の原共重合体(a)を加熱処理装置内で加熱処理し、本発明の共重合体を製造する際、ゴム質含有重合体(C)と原共重合体(a)の合計量100重量部に対して0.001〜5重量部のホスファイト系化合物を原共重合体(a)と同時に添加し溶融混練する方法、本発明の熱可塑性共重合体を製造する過程、該加熱処理途中の段階でゴム質含有重合体(C)と原共重合体(a)との合計量100重量部に対して0.001〜5重量部のホスファイト系化合物を添加し溶融混練する方法、本発明の熱可塑性共重合体を製造した後、本発明の熱可塑性共重合体とゴム質含有重合体(C)の合計量100重量部に対して0.001〜5重量部のホスファイト系化合物を溶融混練する方法等が挙げられる。使用できる加熱処理装置としては制限はなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合型連続混練押出装置、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダー混練機等が好ましく使用できる。
【0173】
また、本発明の熱可塑性共重合体(A)、および更にゴム質重合体(C)を含む熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など、から選ばれた一種以上をさらに含有させることができる。また高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料、染料、蛍光増白剤などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性共重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。 本発明の熱可塑性共重合体および熱可塑性樹脂組成物は、機械的特性、成形加工性にも優れており、溶融成形可能であるため、押出成形、射出成形、プレス成形などが可能であり、フィルム、シート、管、ロッド、その他の希望する任意の形状と大きさを有する成形品に成形して使用することができる。
【0174】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるシートまたはフィルムの製造方法には、公知の方法を使用することができる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法等の製造方法が使用できる。好ましくは、インフレーション法、T−ダイ法、キャスト法またはホットプレス法が使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明のフィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。
【0175】
また、流延法により本発明のフィルムを製造する場合、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤が使用可能である。好ましい溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン等である。該フィルムは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を前記の1種以上の溶剤に溶かし、その溶液をバーコーター、Tダイ、バー付きTダイ、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱フィルム、スチールベルト、金属箔などの平板または曲板(ロール)上に流延し、溶剤を蒸発除去する乾式法、あるいは溶液を凝固液で固化する湿式法等を用いることにより製造できる。
【0176】
本発明により製造された熱可塑性共重合体および熱可塑性樹脂組成物は、その優れた耐熱性、無色透明性および滞留安定性を活かして、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0177】
本発明の熱可塑性共重合体および熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の具体的用途としては、例えば、電気機器のハウジング、OA機器のハウジング、各種カバー、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルターおよび点火装置ケースなどが挙げられる。また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品として、カメラ、VTR、プロジェクションTVなどの撮影用レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなど、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板、各種ディスク基板保護フィルム、光ディスクプレイヤーピックアップレンズ、光ファイバー、光スイッチ、光コネクターなど、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、ピックアップレンズ、タッチパネル用導光フィルム、カバーなど、自動車などの輸送機器関連部品として、テールランプレンズ、ヘッドランプレンズ、インナーレンズ、アンバーキャップ、リフレクター、エクステンション、サイドミラー、ルームミラー、サイドバイザー、計器針、計器カバー、窓ガラスに代表されるグレージングなど、医療機器関連部品として、眼鏡レンズ、眼鏡フレーム、コンタクトレンズ、内視鏡、分析用光学セルなど、建材関連部品として、採光窓、道路透光板、照明カバー、看板、透光性遮音壁、バスタブ用材料などにも適用することができ、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【実施例】
【0178】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各測定および評価は次の方法で行った。
【0179】
(1)重量平均分子量・分子量分布
得られた共重合体をテトラヒドロフランに溶解して、測定サンプルとした。テトラヒドロフランを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて、重量平均分子量(絶対分子量)、数平均分子量(絶対分子量)を測定した。分子量分布は、重量平均分子量(絶対分子量)/数平均分子量(絶対分子量)で算出した。
【0180】
(2)各成分組成
重ジメチルスルフォキシド中、30℃で1H−NMRを測定し、各共重合単位の組成決定を行った。
【0181】
(3)溶解度パラメータ差(ΔSP値)
「塗料用合成樹脂入門」、北岡協三著、p23−p31、高分子刊行会(1986)、表2−8、表2−9を参考に、Smallの方法で、下記(イ)、(ロ)に従い、原共重合体(a)の溶解度パラメーターδpおよび有機溶媒(B)の溶解度パラメーターδs算出し、その差の絶対値を溶解度パラメータ差として求めた。
【0182】
(イ)原共重合体(a)の溶解度パラメーターδp
共重合体(A)中の各単量体単位のモル分率Xi、各単量体の溶解度パラメーターδiから、下記式により、算出した。
δp=Σ(δi × Xi/100)
【0183】
(ロ)有機溶媒(B)の溶解度パラメーターδs
前記原共重合体(a)の溶解度パラメーターδpの算出方法と同様にして算出した。また、有機溶媒(B)が2種類以上の混合物である場合の溶解度パラメーターδsは、混合有機溶媒中の各溶媒成分のモル分率Xi(%)、各溶媒成分の溶解度パラメーターδiから、下記式により算出した。
δp=Σ(δi × Xi/100)
【0184】
(4)溶解度
得られた原共重合体(a)を共重合に使用した有機溶媒(B)100gに添加し、23℃で24時間攪拌して溶解試験を行った後の溶液状態を目視観察し、溶解する原共重合体(a)の重量を評価した。
【0185】
(5)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。
【0186】
(6)透明性(全光線透過率、ヘイズ)
得られた熱可塑性共重合体を、ガラス転移温度+140℃で射出成形し、得た厚さ1mm成形品の23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ(曇度)(%)を東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて測定し、透明性を評価した。
【0187】
(7)黄色度(Yellowness Index)
得られた熱可塑性共重合体を、ガラス転移温度+140℃で射出成形し、得た厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定した。
【0188】
(8)アイゾット衝撃強度(Izod衝撃値)
得られた熱可塑性共重合体(A)、熱可塑性樹脂組成物のそれぞれについて、熱可塑性共重合体のガラス転移温度+150℃(熱可塑性樹脂組成物の場合、マトリックスである熱可塑性共重合体のガラス転移温度+150℃)の温度にて射出成形を行って得た厚さ1/2インチのノッチ付試験片を用いて、ノッチ付アイゾット衝撃強度をASTM D256に準拠し、23℃にて測定した。
【0189】
(9)破断伸度
本発明の熱可塑性樹脂組成物を、幅200mmのフィルム製造用T−ダイを備えた40mm直径のベント付き単軸押出機に供し、280℃で10kg/hの速度で押出し、厚みが0.1mmのフィルムを得た。得られたフィルムからASTM−1号ダンベルを打ち抜いて試験片を作成し、JIS K−7113に従い、引張破断伸度を測定した。
【0190】
(10)光弾性係数
本発明の熱可塑性樹脂組成物を、メチルエチルケトンに溶解させ、25重量%濃度の溶液を得た。得られた溶液を用いて、流延法により、厚さ約100μm(100±5μm)の無配向フィルムを得た。該無配向フィルムを熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度+5℃で1.5倍に0.5mm/secの速度で一軸延伸を行い、応力(σ)の測定を行った。この延伸フィルムをASTM D542に準じて、エリプソメーター(大塚電子株式会社製、LCDセルギャップ検査装置 RETS−1100)を用いて23℃で、レーザー光をフィルムサンプル面に対して90°の角度で照射し、透過光の633nmでのリターデーション(Re)を測定した。また、ミツトヨ製デジマティックインジケーターを用いて、上記延伸フィルムの23℃での厚み(d)を測定し、これらを基に下記式により光弾性係数を算出した。
光弾性係数=Re(nm)/d(nm)/σ(Pa)
【0191】
(11)屈折率、屈折率差
本発明の熱可塑性樹脂組成物にアセトンを加え、4時間還流した後、9,000rpmで30分間遠心分離することにより、アセトン可溶分(A成分)と不溶分(B成分)に分離した。これらを、それぞれ60℃で5時間減圧乾燥した。得られたそれぞれの固形物を250℃でプレス成形し、厚さ0.1mmのフィルムとした後、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製、DR−M2)によって、23℃、550nm波長における屈折率を測定した。A成分の屈折率とB成分の屈折率の差の絶対値を屈折率差とした。
【0192】
(12)吸水率
熱可塑性共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物それぞれについて、熱可塑性共重合体(A)のガラス転移温度+150℃で射出成形して得られた70mm×70mm×2mm成形品を、23℃の純水中に24時間浸漬した前後の成形品の重量変化から、下式より吸水率を算出した。
吸水率(重量%)=(浸漬後の重量−浸積前の重量)/浸積前の成形品の重量×100。
【0193】
(13)溶融粘度
本発明の熱可塑性共重合体または熱可塑性樹脂組成物のペレットを、東洋精機社製キャピログラフ1C型(ダイス径φ1mmダイス長5mm)を用いて、温度280℃、剪断速度5/秒にて測定した。
【0194】
(14)滞留時のガス発生量
得られた熱可塑性共重合体ペレットを80℃で12時間予備乾燥し、280℃に温調した加熱炉内で30分間加熱処理した前後での重量を測定し、下式により算出した重量減少率を滞留時の発生ガス量として評価した。
重量減少率(%)=[(加熱処理前重量−加熱処理後重量)/加熱処理前重量]×100。
【0195】
<参考例1〜8:原共重合体(a)の製造>
(a−1)
(i)重合工程:原共重合体スラリー(a−1)の合成
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記(イ)の混合物質を供給して、250rpmで撹拌しながら溶解し、系内を10L/分の窒素ガスで120分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら95℃に昇温した。下記(ロ)の混合物質を40分間で逐次添加し、さらに60分間保った後、重合を終了し、原共重合体スラリー(a−1)を得た。得られたスラリー少量をサンプリングし、定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過し、80℃で12時間乾燥を行い、得られたパウダー状の共重合体の分析を行った結果、重合率55%、GPC測定による重量平均分子量は12.4万、分子量分布(Mw/Mn)は3.11であった。また、1H−NMRによる共重合組成はメタクリル酸シクロヘキシル単位(CHMA)/メタクリル酸メチル単位(MMA)/メタクリル酸単位(MAA)(重量比)=7/65/28であった。
混合物質(イ):
メタクリル酸シクロヘキシル 10重量部、
メタクリル酸メチル 65重量部、
メタクリル酸 25重量部、
n−ヘプタン 175重量部、
酢酸ブチル 525重量部、
n−ドデシルメルカプタン 1.0重量部。
混合物質(ロ):
n−ヘプタン 25重量部、
酢酸ブチル 75重量部、
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部。
【0196】
(ii)洗浄工程
上記(a)重合工程で得られた原共重合体スラリー(a−2)を加圧ろ過機(三菱化工機械社製)にて25℃で固液分離し、原共重合体ケークを得た。続いて、得られたケークをバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100部に対して400部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から90分間洗浄操作を行った。続いて、得られたスラリーを80℃に保ったまま、加圧ろ過機に移送し、80℃にて固液分離し、さらに80℃で12時間乾燥を行い、粒子状の原共重合体(a−1)を得た。GPC測定による重量平均分子量は12.4万、分子量分布(Mw/Mn)は3.05であった。原共重合体(a−1)の共重合組成はメタクリル酸シクロヘキシル単位(CHMA)/メタクリル酸メチル単位(MMA)/メタクリル酸単位(MAA)(重量比)=7/65/28であり、洗浄前と同一であった。
【0197】
(a−2)
前記(a−1)中の混合物質(イ)および(ロ)を下記の組成に変更した以外は、(a−1)と同様の製造方法で原共重合体スラリー(a−2)を重合率77%で得た。洗浄工程に得られた原共重合体(a−3)の特性を表4に示す。
混合物質(イ):
メタクリル酸シクロヘキシル 20重量部、
メタクリル酸メチル 55重量部、
メタクリル酸 25重量部、
n−ヘプタン 175重量部、
酢酸ブチル 525重量部、
n−ドデシルメルカプタン 1.0重量部。
混合物質(ロ):
n−ヘプタン 25重量部、
酢酸ブチル 75重量部、
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部。
【0198】
(a−3)
連鎖移動剤であるn−ドデシルメルカプタンの添加量を1.2重量部に変更した以外は、(a−1)と同様の製造方法で原共重合体スラリー(a−3)を重合率75%で得た。洗浄工程後に得られた原共重合体(a−3)の特性を表4に示す。
【0199】
(a−4)
前記(a−1)中の混合物質(イ)および(ロ)を下記の組成に変更した以外は、(a−1)と同様の製造方法で原共重合体スラリー(a−4)を重合率77%で得た。洗浄工程後に得られた原共重合体(a−4)の特性を表4に示す。
混合物質(イ):
メタクリル酸シクロヘキシル 10重量部、
メタクリル酸メチル 65重量部、
メタクリル酸 25重量部、
スチレン 3重量部、
n−ヘプタン 175重量部、
酢酸ブチル 525重量部、
n−ドデシルメルカプタン 1.0重量部。
混合物質(ロ):
n−ヘプタン 25重量部、
酢酸ブチル 75重量部、
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部。
【0200】
(a−5)
前記(a−1)中の混合物質(イ)および(ロ)を下記の組成に変更した以外は、(a−1)と同様の製造方法で原共重合体スラリー(a−5)を重合率76%で得た。洗浄工程後に得られた原共重合体(a−5)の特性を表4に示す。
混合物質(イ):
メタクリル酸シクロヘキシル 10重量部、
メタクリル酸メチル 73重量部、
メタクリル酸 17重量部、
n−ヘプタン 175重量部、
酢酸ブチル 525重量部、
n−ドデシルメルカプタン 1.0重量部。
混合物質(ロ):
n−ヘプタン 25重量部、
酢酸ブチル 75重量部、
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部。
【0201】
(a−6)
前記(a−1)中の混合物質(イ)および(ロ)を下記の組成に変更した以外は、(a−1)と同様の製造方法で原共重合体スラリー(a−6)を重合率77%で得た。洗浄工程後に得られた原共重合体(a−6)の特性を表4に示す。
混合物質(イ):
メタクリル酸シクロヘキシル 10重量部、
メタクリル酸メチル 82重量部、
メタクリル酸 8重量部、
n−ヘプタン 175重量部、
酢酸ブチル 525重量部、
n−ドデシルメルカプタン 1.0重量部。
混合物質(ロ):
n−ヘプタン 25重量部、
酢酸ブチル 75重量部、
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部。
【0202】
(a−7)
前記(a−1)中の混合物質(イ)および(ロ)を下記の組成に変更した以外は、(a−1)と同様の製造方法で原共重合体スラリー(a−7)を重合率76%で得た。洗浄工程後に得られた原共重合体(a−7)の特性を表4に示す。
混合物質(イ):
メタクリル酸メチル 75重量部、
メタクリル酸 25重量部、
n−ヘプタン 175重量部、
酢酸ブチル 525重量部。
混合物質(ロ):
n−ヘプタン 25重量部、
酢酸ブチル 75重量部、
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部。
【0203】
(a−8)
特許文献5に開示された方法に従い、下記単量体混合物を調整し、1L/hの速度で連続して2Lのジャケット付き完全混合型反応器に供給し、125℃の温度で重合を行い、原共重合体(a−8)重合溶液を得た。この重合液を140℃、30分真空乾燥機中で加熱した時の加熱減量から固形分を測定した結果、40.0重量%であった。また、重合率は50%、重量平均分子量は10.5万、Mw/Mnは2.88であり、さらに原共重合体(a−8)の共重合組成はメタクリル酸シクロヘキシル単位(CHMA)/メタクリル酸メチル単位(MMA)/メタクリル酸単位(MAA)(重量比)=15/65/10であった。
メタクリル酸シクロヘキシル 21重量部、
メタクリル酸メチル 64重量部、
メタクリル酸 9重量部、
スチレン 6重量部、
エチルベンゼン 11重量部、
n−オクチルメルカプタン 0.05重量部、
1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン
0.005重量部。
【0204】
(a−9)
前記(a−8)中の単量体混合物を下記の組成に変更した以外は、(a−8)と同様の製造方法で重合を実施したが、重合初期から溶媒不溶の膨潤・ゲル状物が生成し、均一系での重合が困難となり、さらには攪拌不能となったため、重合率を上げることができず、重合率22%で終了した。得られた原共重合体(a−9)の特性を表4に示す。
メタクリル酸シクロヘキシル 10重量部、
メタクリル酸メチル 65重量部、
メタクリル酸 25重量部、
エチルベンゼン 11重量部、
n−オクチルメルカプタン 0.05重量部、
1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン
0.005重量部。
【0205】
(a−10)
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記混合物質を供給し、250rpmで撹拌しながら、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を撹拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点を重合開始とし、内温を80℃に90分間保ち、90℃に昇温した後、さらに90分間保ち、重合を終了した。反応系を室温まで冷却し、不溶な沈殿物のないポリマー溶液(a−10)を得た。該ポリマー溶液(a−10)を多量のイオン交換水に滴下し得られたパウダーを80℃で乾燥したが、重合溶媒であるエチレングリコールモノエチルエーテルを完全除去するのに、72時間を要した。得られた共重合体(a−10)の重量平均分子量は10万であった。
メタクリル酸シクロヘキシル 10重量部、
メタクリル酸メチル 65重量部、
メタクリル酸 25重量部、
エチレングリコールモノエチルエーテル 200重量部
2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル 0.3重量部。
【0206】
参考例1〜8で得られた原共重合体(a)の各成分組成および共重合結果を表4に示す。
【0207】
【表4】

【0208】
参考例9:ゴム質含有重合体(C)の作成
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に脱イオン水120重量部、炭酸カリウム0.5重量部、スルフォコハク酸ジオクチル0.5重量部、過硫酸カリウム0.005重量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、アクリル酸ブチル53重量部、スチレン17重量部、メタクリル酸アリル(架橋剤)1重量部を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、コア層重合体を得た。次いで、メタクリル酸メチル21重量部、メタクリル酸9重量部、過硫酸カリウム0.005重量部の混合物を90分かけて連続的に添加し、さらに90分間保持して、シェル層を重合させた。この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、2層構造のゴム質含有重合体(C)を得た。電子顕微鏡で測定したこの重合体粒子の数平均粒子径は155nmであった。
【0209】
実施例1〜6、比較例1〜5:熱可塑性共重合体(A−1)〜(A−10)の製造
参考例1〜10で得られた原共重合体(a−1)〜(a−10)100重量部に、触媒として酢酸リチウム0.2重量部を配合し、を38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/hにて、それぞれ表1に示すシリンダ温度条件で分子内環化反応を行い、ペレット状のグルタル酸無水物含有熱可塑性共重合体(A)を得た。
【0210】
実施例1〜6および比較例1〜4の結果を纏めたものを表5,6に示す。
実施例1〜6および比較例1〜4から、第一工程において、原料である単量体混合物は溶解し、原共重合体(a)は溶解しない特定の有機溶媒中で重合して得られる本発明の熱可塑性共重合体は、高度な透明性、耐熱性、優れており、特に流動性に優れ、かつ加熱時のガス発生が極めて少ないことがわかる。
【0211】
一方、比較例1より、熱可塑性共重合体(A)中に脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位が存在しない場合には、低吸水性が十分でなく、また溶融粘度が高く、十分な流動性が得られないことがわかる。
【0212】
また、比較例2では、前述の特許文献5、実施例1に開示された方法で重合および環化反応を実施したが、グルタル酸無水物単位の含有量が低く、耐熱性が十分でなく、また環化反応が完結していないため、ガス発生量の点で十分でない。
【0213】
さらには、比較例3では、特許文献5に示されたとおり参考例9で得られた重合溶液を高温真空下で環化反応を試みたが、参考例9の第一工程において、原共重合体(a)の重合制御が不十分であったため、脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位量が十分量共重合されておらず、低吸水性の点で十分でない。
【0214】
さらに本発明の熱可塑性共重合体は、PMMA(比較例5)と比較しても、高度な無色透明性と耐熱性および低吸水性を有し、かつ加熱滞留時のガス発生量が抑制されていることがわかる。
【0215】
【表5】

【0216】
【表6】

【0217】
〔実施例7〜12、比較例6〜10〕
上記の実施例1〜6および比較例1〜4で得られた熱可塑性共重合体(A)および参考例9で得られたゴム質重合体(C)を表6に示した組成で配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いてシリンダー温度280℃、スクリュー回転数100rpmで混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。次いで、得られたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を射出成形機(住友重機械工業社製 SG75H−MIV)に供して、各試験片を成形した。成形条件は成形温度:(熱可塑性共重合体(A)のガラス転移温度+150)℃、金型温度:80℃、射出時間:5秒、冷却時間:10秒、成形圧力:金型に樹脂が全て充填される圧力(成形下限圧力)+1MPaで行った。
【0218】
なお、比較例10には、熱可塑性共重合体(A)の代わりに、PMMA(「デルペット(登録商標)80N(旭化成社製)」を、ゴム質重合体(C)の代わりに、三菱レイヨン社製”メタブレン(登録商標)W377”(コア;アクリル重合体、シェル;メタクリル酸メチル重合体)を使用し、評価した結果を表7に示す。
【0219】
【表7】

【0220】
実施例7〜12および比較例6〜10の比較より、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、実施例1〜6で得られた熱可塑性共重合体(A)含有することで、優れた低吸水性と流動性を有し、および加熱時のガス発生を抑制することができる。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高度な透明性、耐熱性、靭性に優れており、特に流動性に優れ、かつ加熱時のガス発生が極めて少ないことがわかる。一方、本発明範囲外の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性共重合体の色調、流動性、低吸水性、発生ガス量の点で劣ることがわかる。
【0221】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物は、PMMAとアクリル系ゴム質重合体の組成物(比較例10)と比較しても、高度な無色透明性とを有し、かつ加熱滞留時のガス発生が抑制されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記一般式(1)で表される脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位5〜30重量%、 (ii)下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位5〜85重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、(iv) 下記一般式(3)で表されるグルタル酸無水物単位10〜50重量%、および、その他のビニル単量体単位および/または芳香族ビニル単量体単位を合計0〜5重量%含有する熱可塑性共重合体。
【化1】

(上記式中、R1は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R2は、炭素数5〜22の脂環式アルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【化2】

(上記式中、R3は水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R4は無置換または少なくとも1個の炭素が水酸基あるいはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基を示す)
【化3】

(上記式中、R5、R6は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【請求項2】
重量平均分子量が3〜15万である請求項1に記載の熱可塑性共重合体。
【請求項3】
(i)脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単位が下記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸シクロヘキシル単位である請求項1または2に記載の熱可塑性共重合体。
【化4】

(上記式中、R7は水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す。)
【請求項4】
単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸単量体5〜50重量%、脂環式アルキル基含有不飽和カルボン酸エステル単量体5〜30重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体15〜90重量%、芳香族ビニル単量体0〜5重量%からなる単量体混合物を、原料である単量体混合物は溶解し、単量体混合物が共重合した原共重合体(a)の溶解度が1g/100g以下である芳香族基を含有しない有機溶媒(B)中で共重合して原共重合体(a)を得る第一工程、
つづいて第一工程で得られた原共重合体(a)を加熱処理し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応による分子内環化反応を行う第二工程、
により請求項1〜3のいずれか1項記載の熱可塑性共重合体を製造する熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項5】
原共重合体(a)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値(ΔSP)が、1.0以上である有機溶媒(B)を用いる請求項4に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項6】
原共重合体(a)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値(ΔSP)が、1.5〜1.7である有機溶媒(B)を用いる請求項4に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項7】
有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステルおよびケトンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記第二工程における加熱処理を、連続混練押出装置を用いて行うことを特徴とする請求項4〜7いずれか1項に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項9】
連続混練押出装置が、ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出装置であることを特徴とする請求項8に記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項10】
前記第二工程で、共重合体(a)100重量部に対して、アルカリ金属化合物を0.001〜1重量部添加し、180〜380℃で加熱することにより、(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコール反応を行うことを特徴とする請求項4〜9のいずれか1項記載の熱可塑性共重合体の製造方法。
【請求項11】
(A)請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性共重合体50〜99重量部、および(C)ゴム質含有重合体1〜50重量部を含有してなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜3いずれか1項に記載の熱可塑性共重合体または請求項11に記載の熱可塑性樹脂組成物を溶融加工してなる成形品またはフィルム。

【公開番号】特開2007−191706(P2007−191706A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341411(P2006−341411)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】