説明

熱可塑性共重合体の製造方法および熱可塑性共重合体

【課題】 耐熱性、無色透明性に優れ、揮発成分の含有量が抑制された熱安定性に優れる熱可塑性共重合体を、経済的に優位に製造する方法を提供する。
【解決手段】(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(ii)不飽和カルボン酸単位を含む共重合体(A)を製造し、分子内環化反応を行うことにより、(iii)グルタルイミド単位および(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性共重合体(B)を製造するに際し、特定量の連鎖移動剤とラジカル重合開始剤を含有してなる原料混合液を連続重合し、重合体重合溶液(a)を製造する工程(重合工程)と、該重合溶液(a)連続的に未反応単量体を分離除去する工程(脱揮工程)、および前記脱揮工程で得られた共重合体(A)を、加熱処理する工程(環化工程)を含む熱可塑性共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、成形加工特性、無色透明性に優れ、とりわけ熱安定性に優れたグルタルイミド単位含有熱可塑性共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと称する)やポリカーボネート(以下、PCと称する)といった非晶性樹脂は、その透明性や寸法安定性を活かし、光学材料、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。
【0003】
近年、これらの樹脂は、特に光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイ用シート・フィルム、導光板などの、より高性能な光学材料にも幅広く使用されるようになっており、樹脂に要求される光学特性や成形加工性、耐熱性もより高度なものになっている。
【0004】
また現在、これらの透明樹脂は、テールランプやヘッドランプといった自動車等の灯具部材としても使用されているが、近年、車内空間を大きくするためやガソリン燃費を改良するために、テールランプレンズやインナーレンズ、ヘッドランプ、シールドビーム等の各種レンズと光源の間隔を小さくすること、部品の薄肉化が図られる傾向にあり、優れた成形加工性が要求されるようになっている。また、車両は過酷な条件下で使用されるため、高温多湿下での形状変化が小さいことや、優れた耐傷性、耐候性、耐油性も要求される。
【0005】
しかしながら、PMMA樹脂は、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が十分ではないといった問題があった。一方、PC樹脂は、耐熱性、耐衝撃性に優れるものの、光学的歪みである複屈折率が大きく、成形物に光学的異方性が生じること、成形加工性、耐傷性、耐油性に著しく劣るといった問題があった。
【0006】
そのため、PMMAの耐熱性を改良する目的で、耐熱性付与成分としてマレイミド系単量体あるいは無水マレイン酸単量体等を導入した樹脂が開発されている。しかし、マレイミド系単量体は高価であると同時に反応性が低く、無水マレイン酸は熱安定性が悪いという問題があった。
【0007】
また、PMMAを溶融下、アンモニア、第一級アミンと反応させて得たグルタルイミド単位を含有する重合体が開示されている(例えば特許文献1、特許文献2)。これにより、耐熱性は向上するものの、該製造法では、アンモニアあるいは第一級アミンの残存による色調の悪化や滞留安定性および引張強度が低下するといった問題があり、また、グルタルイミド単位の含有量の制御が難しく、特にグルタルイミド単位を低含量範囲で高精度に調節することも困難であった。さらに該製造法では、重合体の構造中に副生した不飽和カルボン酸単位およびグルタル酸無水物単位が必ず含まれるため、例えば光学補償フィルム等の光学フィルム用途に用いる際には、湿熱条件下で面内位相差および厚み方向位相差が低下し、また、加工時の溶融条件下ではゲル化や脱炭酸反応による色調の悪化や引張強度等の機械特性の低下が生じる傾向にあった。さらに、他の樹脂とのアロイとして用いる際にはゲル化等が生じることがあるなどの制約があった。
【0008】
そこで、重合体中の不飽和カルボン酸単位およびグルタル酸無水物単位を、例えばオルトギ酸エステルを用いて、あるいは炭酸ジメチル等のアルキル化剤とトリエチルアミン等の塩基性化合物および必要に応じて酸化防止剤とを併用して、エステル基に変換する方法が開示されている(例えば特許文献3、特許文献4および特許文献5)。しかし、アルキル化剤による不飽和カルボン酸単位およびグルタル酸無水物単位の完全エステル化は極めて困難であり、完全エステル化を目指した操作は、同時に重合体の色調悪化、滞留安定性および引張強度を低下させるものであった。また、アルキル化剤や副生成物の残存等により引張強度等の機械特性が低下する傾向にあり、さらに未溶融異物、有機溶媒に未溶解の異物の原因になることもあった。また、他の樹脂とのアロイとして用いる場合にも、得られるアロイの色調(黄色度)が悪化する傾向にあった。
【0009】
一方、グルタルイミド単位を含有する重合体の他の製造法として、(メタ)アクリル酸エステル単位と(メタ)アクリルアミド単位からなる前駆共重合体を試験管内で静置させ加熱する方法が開示されている(例えば特許文献6)。しかし、該製造法のように静置下で加熱を行った場合、分子内環化反応の飽和または完結に5時間以上の長時間を要し、色調の悪化の傾向があった。また静置下であることから、局所的に生じる温度差から反応が不均一なる傾向があり、さらに分子内環化反応で発生するアルコール等が共重合体より放出されにくいことから、分子内環化反応が促進されずにグルタルイミド単位の含有量等の組成分布が増大しヘイズおよび色調の悪化、また、滞留安定性が低下し、加熱条件によっては分子間でのイミド架橋体が生成して引張強度および耐湿熱性が低下する傾向にあった。
【0010】
そこで、該前駆共重合体を有機溶媒中、塩基性または酸性触媒の存在下で分子内環化反応せしめて、グルタルイミド単位を含有する重合体を製造する方法が開示されている(例えば特許文献7および特許文献8)。しかし、該製造法においては、前駆共重合体の製造工程および環化工程、さらには目的共重合体の洗浄工程にも大量の溶媒を使用する上、回分式であることから生産性に課題があった。また、該製造法での洗浄工程を省略あるいは洗浄が不十分な場合には、環化反応に用いた触媒が重合体中にそのまま、あるいはカウンターイオン、もしくは変性物として残存し、色調が悪化したり、また、滞留安定性および耐湿熱性が低下する傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4246374号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭58−5306号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】日本特許第2980565号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2002−338624号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2007−9191号公報(11頁、実施例7〜9)
【特許文献6】特開昭60−20904号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平2−153904号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開平7−196732号広報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、高度な耐熱性、無色透明性に優れ、成形加工特性を有すると同時に、残存する揮発成分が低減した熱安定性に優れた熱可塑性共重合体を、工業的に有利に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、グルタルイミド単位を含有する熱可塑性共重合体の前駆体である、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位およびアクリル系アミド単位を含有する共重合体を製造するに際し、特定条件下で塊状重合または溶液重合を行い、続いて特定条件で脱揮することにより未反応単量体または未反応単量体と重合溶媒からなる混合物を分離除去し、さらに続いて、特定条件下で分子内環化反応を行うことにより、従来の知見では成し得ることができなかった、無色透明性、熱安定性に優れた成形加工特性、低異物を満足する高品質を有し、共重合体から未反応単量体や重合溶媒との分離が容易な経済的にも優位にグルタルイミド含有共重合体の製造をすることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち本発明は、
〔1〕(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(ii)下記一般式(1)で表されるアクリル系アミド単位を含む共重合体(A)を製造し、続いて、該共重合体(A)を加熱処理し、分子内環化反応を行うことにより、(iii)下記一般式(2)で表されるグルタルイミド単位および(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性共重合体(B)を製造するに際し、
<重合工程>
原料である不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および下記一般式(3)で表されるアクリル系アミド単量体を含む単量体混合物、連鎖移動剤、および重合温度における半減期が0.01〜60分であるラジカル重合開始剤を含有してなる原料混合液を重合槽に供給し、共重合体(A)と未反応単量体混合物からなる重合溶液(a)を連続的に製造する工程、
<脱揮工程>
前記重合工程に引き続いて、重合工程で得られた重合溶液(a)を連続式脱揮装置に供給し、温度100℃以上280℃未満で、圧力が200Torr以下の減圧下において、連続的に脱揮し、未反応単量体を分離除去する工程、
<環化工程>
前記脱揮工程に引き続き、共重合体(A)を250℃以上350℃以下の温度で連続混練押出装置中で加熱処理する工程、
を含むことを特徴とする熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
【0015】
【化1】

【0016】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【0017】
【化2】

【0018】
(ただし、R3、R4は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【0019】
【化3】

(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
〔2〕前記重合工程において、共重合体(A)を溶解する有機溶媒(C)を単量体100重量部に対して1〜200重量部含有し、脱揮工程において、重合工程で得られた重合溶液(a)から未反応単量体および有機溶媒(C)を除去することを特徴とする前記〔1〕に記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔3〕前記有機溶媒(C)がケトンまたはエステルであることを特徴とする前記〔2〕に記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔4〕前記重合工程における重合槽が完全混合型反応槽であることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔5〕前記連続式脱揮装置が、筒状の容器と複数の攪拌素子を回転軸に取り付けた撹拌装置を有し、筒部の一端に重合溶液(a)を供給する供給口と、他端に脱揮後の共重合体(A)を取り出す吐出口を有することを特徴とする前記〔1〕〜〔4〕いずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔6〕前記連続式脱揮装置がベントを有する二軸押出装置であることを特徴とする前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔7〕前記連続式脱揮装置が複数の凸レンズ型および/または楕円型の板状パドルを備えた連続式二軸反応装置であることを特徴とする前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔8〕前記脱揮工程で得られた共重合体(A)を熱水で洗浄し、アクリル系アミド単量体を抽出除去する洗浄工程を含むことを特徴とする前記〔1〕〜〔7〕のいずれか記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔9〕前記環化工程直前の共重合体(A)中の未反応アクリル系アミド単量体含有量が1重量%以下であることを特徴とする前記〔8〕に記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔10〕前記重合工程において、連鎖移動剤の添加量が、単量体混合物100重量部に対して0.1〜1.5重量部であることを特徴とする前記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔11〕前記重合工程において、ラジカル重合開始剤の添加量が、単量体混合物100重量部に対して0.001〜2.0重量部であることを特徴とする前記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔12〕前記熱可塑性共重合体(B)の重量平均分子量が3〜20万であることを特徴とする前記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔13〕前記重合工程における単量体混合物が、単量体混合物の合計を100重量%として、下記一般式(3)で表されるアクリル系アミド1〜50重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル50〜99重量%および、その他共重合可能な単量体成分0〜10重量%からなることを特徴とする前記〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
【0020】
【化4】

【0021】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
〔14〕前記熱可塑性共重合体(B)が、(iii)グルタルイミド単位を1〜50重量%含有することを特徴とする上記〔1〕〜〔13〕いずれか1項に記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法、
〔15〕前記〔1〕〜〔14〕いずれかに記載の製造法により得られることを特徴とする熱可塑性共重合体(B)、
〔16〕前記〔15〕に記載の熱可塑性共重合体(B)からなる成形品、
〔17〕前記〔15〕に記載の熱可塑性共重合体(B)からなる光学フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、高度な耐熱性、無色透明性に優れた成形加工特性を有すると同時に、残存する揮発成分が低減した熱安定性に優れた熱可塑性共重合体を、工業的に有利に製造することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の熱可塑性共重合体(B)の製造方法について具体的に説明する。
【0024】
本発明の熱可塑性共重合体(B)とは、(iii)下記一般式(2)で表されるグルタルイミド単位および(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性共重合体である。
【0025】
【化5】

【0026】
(ただし、R3、R4は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【0027】
本発明の上記一般式(2)で表されるグルタルイミド単位を含有する熱可塑性共重合体の製造方法は、基本的には以下に示す2つの工程により製造される。すなわち、後の加熱工程により上記(iii)一般式(2)で表されるグルタルイミド単位を与える不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体及びアクリル系アミド単量体と、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体とを共重合させ、共重合体(A)を含有する重合溶液(a)を製造する工程(重合工程)と、続いて、該重合溶液(a)をポンプにより連続的に脱揮装置に供給し、減圧下で加熱し、連続的に未反応単量体を分離除去する工程(脱揮工程)と、さらに前記脱揮工程で得られた共重合体(A)を、加熱処理し、分子内環化反応を行わせることにより製造する工程(環化工程)からなる製造方法である。この場合、典型的には、共重合体(A)を加熱することにより隣接する(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と(ii)アクリル系アミド単位とからアルコールの脱離により1単位の前記グルタルイミド単位が生成される。
【0028】
重合工程に用いられるアクリル系アミド単量体としては特に制限はなく、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれのアクリル系アミド単量体も使用可能である。好ましいアクリル系アミド単量体として、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化6】

【0030】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【0031】
ここで、Rの炭素数1〜20の有機残基としては特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、構造中にヘテロ原子を含んでもよいが、Rとして好ましくは、水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換されたフェニル基、炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基から選ばれる基であり、より好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基、無置換またはハロゲン基あるいはアルキル基で置換されたフェニル基、炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基から選ばれる基であり、更に好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基から選ばれるいずれかであり、特に好ましくはメチル基である。
【0032】
また、Rの炭素数1〜20の有機残基としては特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく構造中にヘテロ原子を含んでもよい。Rとして好ましくは、水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された芳香族基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された脂環式炭化水素基、炭素数1〜20のヒドロキシアルキル基から選ばれるいずれかであり、より好ましくは、水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基、無置換またはハロゲンあるいはアルキル基で置換されたフェニル基から選ばれる基、炭素数3〜6の脂環式炭化水素基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基から選ばれる基から選ばれる基であり、更に好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基から選ばれるいずれかであり、特に好ましくは水素原子またはメチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0033】
アクリル系アミド単量体の好ましい具体例としては、特に制限はないが、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、ブトキシメチルメタクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−ブチルメタクリルアミド、N−イソブチルアクリルアミド、N−イソブチルメタクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−tert−ブチルメタクリルアミド、N−n−ペンチルアクリルアミド、N−n−ペンチルメタクリルアミド、N−n−へキシルアクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−シクロヘキシルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−ベンジルメタクリルアミド、N−クロロフェニルアクリルアミド、N−クロロフェニルメタクリルアミド、N−ジクロロフェニルアクリルアミド、N−ジクロロフェニルメタクリルアミド、N−トリクロロフェニルアクリルアミド、N−トリクロロフェニルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどの単量体が例示できる。中でも、光学特性、熱安定性が優れる点で、アクリルアミド、メタクリルアミドが好ましく、より好ましくはメタクリルアミドである。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【0034】
なお、上記一般式(3)で表されるアクリル系アミド単量体は、共重合すると下記一般式(1)で表される構造の(ii)アクリル系アミド単位を与える。
【0035】
【化7】

【0036】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【0037】
また不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記一般式(4)で表されるものを挙げることができる。
【0038】
【化8】

【0039】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは炭素数1〜22の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0040】
ここで、Rの炭素数1〜20の有機残基としては特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、構造中にヘテロ原子を含んでもよい。Rとして好ましくは、水素、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された芳香族基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された脂環式炭化水素基から選ばれる基であり、より好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基、無置換またはハロゲンあるいはアルキル基で置換されたフェニル基から選ばれるいずれかであり、更に好ましくは水素および無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0041】
の炭素数1〜22の有機残基としては特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく構造中にヘテロ原子を含んでもよい。Rとして好ましくは、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された芳香族基、無置換またはハロゲンあるいは脂肪族炭化水素基で置換された炭素数1〜22の脂環式炭化水素基、炭素数1〜20のヒドロキシアルキル基から選ばれるいずれかであり、より好ましくは、水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基、無置換またはハロゲンあるいはアルキル基で置換されたフェニル基から選ばれる基、炭素数3〜6の脂環式炭化水素基、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基から選ばれる基から選ばれる基であり、更に好ましくは水素原子、無置換またはハロゲンで置換された炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0042】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、トリフルオロエチルメタクリレート、などの単量体が例示できる。中でも、光学特性、熱安定性に優れる点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、とりわけメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0043】
なお、上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると下記一般式(5)で表される構造の(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0044】
【化9】

【0045】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは炭素数1〜22の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0046】
また、第一工程においては、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル系単量体を用いてもかまわない。その他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、特に制限はないが、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体などを挙げることができるが、透明性、複屈折率、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0047】
本発明においては、重合工程を、上記単量体混合物と重合開始剤および連鎖移動剤を含み、実質的に溶媒を含まない状態で重合する方法(塊状重合法)または、さらに共重合体(A)に可溶な有機溶媒(C)を添加する重合法(溶液重合法)とすることできる。これらの重合方法を採用することにより、従来の技術では到達することができなかった高度な無色透明性を有する熱可塑性共重合体(B)を得ることができる。
【0048】
さらに、前記重合工程において、原料を連続的に供給し、連続重合により共重合体溶液(a)を製造し、さらに重合溶液(a)を、脱揮工程に連続的に供給し、脱揮工程と環化工程を行い、連続的に熱可塑性共重合体(B)を製造する連続塊状重合または連続溶液重合とすることが好ましい。
【0049】
本発明に使用される有機溶媒(C)としては、前述の通り、共重合体(A)が可溶な有機溶媒であれば、特に制限はないが、ケトン、エステル、エーテル、アミド、アルコール類、から選ばれる1種以上を好ましく用いることができ、より好ましくはケトン、エステルであり、とりわけケトンが好ましい。具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メトキシ−2−プロパノール、テトラグライムなどの公知の溶媒を使用することができ、特にメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが好ましい。
【0050】
有機溶媒(C)を添加する場合の添加量は、重合反応の安定性、脱揮工程での回収性および重合工程へのリサイクル性の観点から、単量体混合物100重量部に対して1〜200重量部が好ましく、より好ましくは1〜150重量部である。また、重合反応が十分制御できる範囲においては有機溶媒を実質的に含まない塊状重合法も好ましく用いることができる。
【0051】
有機溶媒(C)の添加量が200重量部を越える場合、後の脱揮工程および環化工程において、溶媒除去が不十分となり、熱可塑性共重合体(B)の発生ガス量が増大し、熱安定性が低下するため好ましくない。一方、発生ガス量低減のために残存溶媒を低減させるには、脱揮および環化工程において、高温・長時間の処理を必要とするために、熱可塑性共重合体(B)が著しく着色するため、好ましくない。
【0052】
本発明においては、重合工程における、単量体混合物の溶存酸素濃度を5ppm以下に制御することが、加熱処理後の熱可塑性共重合体(B)の優れた無色透明性、滞留安定性および熱安定性を達成することができるため、好ましい。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために好ましい溶存酸素濃度の範囲は0.01〜3ppmであり、さらに好ましくは0.01〜1ppmである。溶存酸素濃度が5ppmを超える場合、加熱処理後の熱可塑性共重合体(B)が着色する傾向が見られ、また熱可塑性共重合体(B)の熱安定性が低下するため、本発明の目的を達することができない。ここで、本発明における、溶存酸素濃度は、重合液中の溶存酸素を溶存酸素計(例えばガルバニ式酸素センサーである飯島電子工業株式会社製、DOメーターB−505)を用いて測定した値である。溶存酸素濃度を5ppm以下にする方法については、重合容器中に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを通じる方法、重合液に直接不活性ガスをバブリングする方法、重合開始前に不活性ガスを重合容器に加圧充填した後、放圧を行う操作を1回若しくは2回以上行う方法、単量体混合物を仕込む前に密閉重合容器内を脱気した後、不活性ガスを充填する方法、重合容器中に不活性ガスを通じる方法を例示することができる。
【0053】
重合工程で用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量%として、アクリル系アミド単量体が1〜50重量%、より好ましくは3〜45重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体は好ましくは50〜99重量%、より好ましくは55〜97重量%、これらに共重合可能な他のビニル系単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜35重量%、特に好ましい割合は0〜10重量%である。
【0054】
アクリル系アミド単量体量が3重量%未満の場合には、共重合体(A)の加熱による上記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の生成量が少なくなり、耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、アクリル系アミド単量体量が50重量%を超える場合には、共重合体(A)の加熱による環化反応後に、アクリル系アミド単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0055】
本発明に使用される重合開始剤は、上述の重合温度における半減期が、0.1〜60分より好ましくは1〜30分、最も好ましくは2〜20分であるラジカル重合開始剤を使用することが重要である。この半減期が0.1分より短いとラジカル重合開始剤が重合反応槽に均一に分散する前に分解してしまうため、ラジカル重合開始剤の効率(開始効率)が低下してしまい、その使用量が増大し、最終的に得られる熱可塑性共重合体の熱安定性が低下する。一方、半減期が60分より長いと、重合槽内に重合塊(スケーリング)が生成し、重合を安定に運転することが困難となり、さらには重合終了後も重合溶液(a)中に未反応のラジカル重合開始剤が残存するために、その後の脱揮または環化工程や、成形加工時に残存ラジカル重合開始剤により、樹脂が着色するなど、高度な無色透明性が得られず、いずれの場合もほん発明の目的を達成することができない。
【0056】
なお、本発明における「ラジカル重合開始剤の半減期」とは日本油脂(株)または和光純薬(株)等の公知の製品カタログに記載の値を採用した。
【0057】
このようなラジカル重合開始剤としては、例えばtert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサネート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物、または2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、2、2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等から重合温度を考慮して選択することができる。
【0058】
また、ラジカル重合開始剤の使用量は重合温度、重合時間(平均滞留時間)、目標とする重合率によって決定されるものであるが、好ましくは単量体混合物100重量部に対し、0.001〜2.0重量部、より好ましくは0.01〜2.0重量部、さらに好ましくは0.01〜1.0重量部である。
【0059】
また、本発明においては、分子量を制御する目的で、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤を単量体混合物100重量部に対して、0.1〜2.0重量部を添加する必要がある。本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0060】
上記連鎖移動剤の添加量を本発明の範囲で重合することで、共重合体(A)の重量平均分子量(以下Mwとも言う)を30000〜200000、好ましくは、50000〜200000に制御することができる。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーでヘキサフルオロイソプロバノールを溶離溶媒として測定した、PMMA標準ポリマー換算分子量での重量平均分子量を示す。
【0061】
Mwが30000以上ものは、熱可塑性共重合が脆いことはなく、機械的性質が良好なものとなり好ましい。また、Mwが200000以下のものは、溶融成形や溶液塗工した製品に十分に溶融、または溶解しない高分子量物が異物として残ることがないので、フィッシュアイやハジキの欠点が出ないので好ましい。
【0062】
また、本発明において、発明者らは、重合工程を塊状重合法や溶液重合法を選択することにより、実質的に均一混合された状態で重合反応が進行し、均質な分子量分布を有する共重合体が得られることを見出した。このため、好ましい態様においては共重合体(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が、1.5〜4.0、より好ましい態様においては1.5〜3.0、さらに好ましい態様においては1.5〜2.5の範囲のものが得られる。分子量分布が上記範囲にある場合には、得られる熱可塑性共重合体が成形加工性に優れる傾向があり、好ましく使用することができる。尚、本発明でいう分子量分布(Mw/Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーでヘキサフルオロイソプロバノールを溶離溶媒として測定した、PMMA標準ポリマー換算分子量での重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から算出した数値を示す。本発明の重合工程で使用する重合反応槽としては、均一混合が可能となり、均質な重合溶液(a)が得られる観点から、完全混合型反応槽を用いることが好ましい。
【0063】
また、重合反応と攪拌による発熱が生じることから、除熱及び場合により加熱することによって、重合温度を制御する。温度制御は、ジャケット、熱媒循環による伝熱除熱または加熱、モノマー混合物の冷却供給、加温供給などの方法が挙げられる。
【0064】
また、重合温度は、60℃〜160℃の範囲であることが好ましい。重合温度を、上記範囲に制御することによりゲル効果による重合速度の加速現象を抑制し、かつ、高温重合時に生成する二量体生成を抑制できることから、熱安定性に優れる熱可塑性共重合体(B)を効率よく製造することができる。
【0065】
また、重合時間は、目標とする重合率、重合温度、開始剤の種類・使用量によって決定されるが、1〜10時間の範囲が好ましく、より好ましくは1〜7時間である。この範囲にすることにより、重合制御が安定するとともに、品質の高いメタクリル系樹脂組成物を製造することができる。滞在時間が1時間より短いと、ラジカル重合開始剤の使用量を増加させる必要があり、重合反応の制御が困難になる。好ましくは、2時間以上である。10時間を超えると生産性が低下するので、より好ましくは7時間以下である。
【0066】
ここで、本発明の製造方法が、前述の連続重合法である場合の重合時間に相当する重合槽中の重合溶液(a)の平均滞留時間についても、同様に目標とする重合率、重合温度、開始剤の種類・使用量によって決定されるが、1〜10時間であることが好ましく、より好ましくは1〜7時間である。この範囲にすることにより、連続重合法においても、重合制御が安定するとともに、品質の高いメタクリル系樹脂組成物を製造することができる。
【0067】
かくして本発明の重合条件によって重合反応を行うことにより、得られる重合溶液(a)中の重合体含有率を20〜80質量%の範囲に制御することができ、より好ましい態様においては、重合体含有率が30〜80質量%の範囲、さらに好ましくは50〜70質量%である。ここで、重合体含有率は、重合溶液(a)をN,N−ジメチルホルムアミドで希釈し、該希釈溶液を水に再沈殿させ、乾燥して得られた共重合体(a)の重量を測定し、下式で算出した値である。
重合体含有量(重量%)={(S0−A1)/S0}×100
なお、ここで各記号は下記の数値を示す。
A1=乾燥後の共重合体(A)の重量(g)
S0=重合溶液(a)の重量(g)
【0068】
重合体含有率が20重量%、次の脱揮工程および環化工程において、揮発成分を脱揮より高温・長時間の処理を必要としいては得られる熱可塑性共重合体(B)の着色や熱劣化を引き起こすので好ましくない。一方、重合体含有率を80%、混合および伝熱が十分に行うことができず安定して重合反応を行うことができず好ましくない。すなわち、重合溶液(a)中の重合体含有率を本発明の範囲内に制御することにより安定にかつ経済的に有利に製造することが可能となる。
【0069】
また、本発明の重合条件で得られた重合溶液(a)の溶液粘度は0.1〜100Pa・sの範囲にあるため、重合率(φ)が50〜80%の高重合率においても、高粘度化による重合の加速反応、いわゆるゲル効果が抑制でき、安定して重合を行うことができ、さらには、溶液粘度が上記範囲にあることから、ポンプにより容易に、脱揮工程の脱揮装置に供給することが可能となる。ここで、本発明における重合溶液(a)の溶液粘度とは、振動粘度計(CBCマテリアルズ(株)社製 VM−100A)を用いて、重合溶液(a)を30℃に保持して測定した数値であり、また、重合率(φ)は、ガスクロマトグラフによって定量した未反応単量体より計算した値を示す。
【0070】
本発明の特徴は、重合工程によって得られた重合溶液(a)を、続く脱揮工程において、連続式脱揮装置に供給し、未反応単量体、または未反応単量体と重合溶媒からなる混合物を分離除去することにより、後述する環化工程において、効率よく脱アルコールが進行し、塊状重合法または溶液重合法を用いても、得られる熱可塑性共重合体(B)に残存する未反応単量体や重合溶媒が低減され、熱安定性に優れることを見出し、本発明に到達した点にある。
【0071】
この脱揮工程における脱揮温度は100以上280℃未満、より好ましくは120以上280℃未満とすることが重要であり、100℃以下では脱揮が不十分となるため、次の環化工程でも十分に未反応単量体または重合溶媒である有機溶媒(C)が除去されず、結果として得られる熱可塑性共重合体(B)の熱安定性が低下する。また、280℃以上の場合は、残存する未反応単量体と前駆体ポリマーである共重合体(A)の熱劣化により、得られる熱可塑性共重合体(B)が着色し、無色透明性が低下する。
【0072】
また、脱揮工程においては、圧力が200Torr以下の減圧条件下であることが重要であり、より好ましくは100Torr以下、最も好ましくは50Torr以下である。圧力の下限については、特に制限は無いが、実質的には0.1Torr以上である。
【0073】
脱揮工程における圧力が200Torr以上であると、前述の温度範囲で脱揮を行っても、効率よく未反応単量体または未反応単量体と重合溶媒の混合物を分離除去することができず、しいては次の環化反応が不十分となり、得られる熱可塑性共重合体(B)の熱安定性が低下し、本発明の目的を達成できない。
【0074】
このような脱揮を行う連続式脱揮装置としては、筒状の容器と複数の攪拌素子を回転軸に取り付けた撹拌装置を有し、筒部の一端に重合溶液(a)を供給する供給口と、他端に脱揮後の共重合体(A)を取り出す吐出口を有する装置を好ましく用いることができる。
【0075】
回転軸の数に制限はないが、通常1〜5本であり、さらには2〜4本が好ましく、より好ましくは回転軸を2本有する2軸撹拌装置が好ましい。
【0076】
また、攪拌素子の個数は10〜50が好ましく、20〜30個がさらに好ましい。攪拌素子の形状は、特に制限はなく、多葉形(例えばクローバーの葉の形など)でもよく、適宜穴や凹凸を有するものでもよく、船のスクリュウや扇風機の羽根のような形でもよく、その他色々の応用が可能である。また、攪拌素子をスクリュウ形にすれば反応物を送る作用が得られるため好ましく用いることができる。
【0077】
具体的には、ベントを有する連続二軸混練装置やバッチ式溶融混練装置が好ましく、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、二軸・単軸複合型連続混練押出装置、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機を挙げることができる。
【0078】
これらの連続式脱揮装置の中でも特にベントを有する二軸押出装置や複数の凸レンズ型および/または楕円型の板状パドルを備えた連続式二軸反応装置を好ましく用いることができる。
【0079】
複数の凸レンズ型および/または楕円型の板状パドルを備えた連続式二軸反応装置は、スケール付着のない、いわゆるセルフクリーニング性の高い装置であり。また、中空洞(シリンダ)の離れた位置に原料供給口と吐出口とを備え、この胴の外周に温度制御用ジャケットを備えており、また、中空洞の内部には胴の長手方向に平行に位置する2本の撹拌軸を備え、撹拌軸は互いに近接するように固定された複数個の上記板状パドルを有することを特徴とする。
【0080】
このような押出機としては、具体的には、栗本鉄工所社製「KRCニーダー」を好ましく使用することができる。
【0081】
これらの連続式二軸装置は、比較的大きなシリンダ内容積(有効容積)を保有しているため、十分な加熱反応時間を確保することができ、パドルの形状および/または配列を任意に設定することにより、加熱反応時間(滞留時間)を任意に制御することが可能であるため、効率よく揮発成分を除去することができる。
【0082】
上記の有効容積とは、上記の各種パドルを備えた撹拌軸をシリンダ内に挿入した状態での空間容積V(cm)をいう。ここで、上記の各種パドルを備えた撹拌軸を挿入しない状態での空間容積をV’(cm)とし、有効容積率を下式により算出することができる。
有効容積率(%)=(V/V’)×100
【0083】
この際、有効容積率が35%以上、とりわけ40%以上である加熱処理装置を好ましく使用することができる。有効容積率の上限は通常50%程度である。
【0084】
ここで、空間容積VまたはV’については、設計図面上からの計算により、算出することも可能だが、実験的に、上記の各種パドルを備えた撹拌軸をシリンダ内に挿入した状態、あるいは未挿入状態で、かつ、吐出口、ベント口などを閉塞させた状態で、原料口から水を導入して、シリンダ内が水で充満される量を測定することにより、知ることができる。
【0085】
かくして本発明の脱揮工程を経て得られる共重合体(A)は、残存する未反応単量体または未反応単量体と重合溶媒の混合物(以下、総称して揮発成分と呼ぶことがある)の含有量が10重量%以下、好ましい態様においては5重量%以下とすることができ、続く環化工程において、効率よく脱アルコールを進行させることが可能である。脱揮工程後の共重合体(A)における揮発成分の含有量の下限に特に制限は無いが、実質的には0.1重量%以上である。
【0086】
また、本発明においては、上記脱揮工程で除去した未反応単量体または、未反応単量体と有機溶媒(C)の混合物(以下、総称して揮発成分と呼ぶことがある)を回収し、重合工程において再利用することが好ましい。
【0087】
揮発成分は脱揮工程において、減圧加熱状態で気化させられるため、当該揮発成分を回収する方法としては、コンデンサー付き蒸留機などの公知の冷却装置に通じ、揮発成分を回収することにより、そのまま再度、重合工程においてリサイクルすることができる。
また、本発明においては上記脱揮工程後の共重合体(A)中の未反応単量体、とりわけ未反応アクリル系アミド単量体をさらに減少させるために、環化工程前に共重合体(A)を洗浄する洗浄工程を設けてもよい。共重合体(A)の洗浄方法は、特に制限はないが、例えば共重合体(A)をペレット化して熱水中で撹拌する方法、あるいは公知の向流接触方式の連続抽出装置に共重合体(A)を供給して熱水で処理する方法などが挙げられる。
【0088】
上記の洗浄工程に用いる溶媒は、共重合体(A)が溶解または膨潤せず、かつ未反応単量体が溶解する溶媒であれば良く、特に制限はないが、洗浄効率の観点から熱水が好ましい。ここでの熱水の温度は50℃以上が好ましく、オートクレーブ等を用い加圧することで100℃以上とすることも可能である。熱水の温度の上限は特に制限はないが、実質的には250℃以下が好ましい。
【0089】
上記の洗浄工程を経た場合には洗浄後の共重合体(A)は、例えば濾過器あるいは遠心分離器などの装置を用いて固液分離でき、さらに棚段式乾燥機、コニカルドライヤー、遠心式乾燥機などによって乾燥することにより、後の環化工程に用いることができる。
かくして洗浄工程を経て得られる共重合体(A)は、未反応アクリル系アミド単量体の含有量が3重量%以下、より好ましい態様においては1重量%以下、とりわけ好ましくは0.5重量%以下に減少でき、後の環化工程で得られる熱可塑性共重合体(B)の透明性、色調および、ガス発生量低減の観点から好ましい。洗浄工程後の共重合体(A)における未反応単量体の含有量の下限に特に制限は無いが、実質的には0.1重量%以上である。
【0090】
本発明における環化工程、すなわち共重合体(A)を加熱し、脱アルコールにより分子内環化反応を行いグルタルイミド単位を含有する熱可塑性共重合体を製造する際には、環化装置として連続混練押出装置を用い、250〜350℃、より好ましくは280〜350℃の範囲で行うことが重要である。
【0091】
環化装置として、バッチ式の混練装置や静置型の真空高温槽を用いた場合、環化反応を完結させるために長時間を要するため、樹脂が着色し、高度な無色透明性が得られず、本発明の目的を達成できない。
【0092】
また、環化温度が250℃以下では、環化反応が不十分となり、得られる熱可塑性共重合体(B)の熱安定性が低下し、また、当該温度で環化反応を完結させようとすると、環化反応に長時間を要するために、熱劣化により樹脂が着色する。一方、環化温度が、350℃以上では、熱劣化により樹脂が着色し、高度な無色透明性が得られず、温度範囲が上記を外れた場合は、いずれも本発明の目的を達成できない。
【0093】
環化工程における連続混練押出装置としては、具体的には、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機、連続式のニーダータイプの混練機などを用いることができ、とりわけ二軸押出機が好ましく使用することができる。
【0094】
また、本発明の環化工程においては、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。
【0095】
また、この際の環化工程における加熱処理時間も特に限定されず、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間、好ましくは2分間〜30分間、とりわけ3〜20分間の範囲が好ましい。特に、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機のスクリュー直径(D)とスクリューの長さ(L)の比(L/D)が40以上であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向や成形滞留時に色調が大幅に悪化する傾向がある。
【0096】
また、上記環化工程で用いる連続式混練押出機の中でも、二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、極めて無色透明性、機械特性に優れる熱可塑性共重合体が得られる傾向があるため、好ましく使用することができる。ここで、二軸・単軸複合型連続混練押出機とは、押出機ケーシング内に、スクリュー部を形成した第1軸および第2軸が並列に配置された二軸スクリュー部、および二軸スクリュー部より延長された第1軸が配置された単軸スクリュー部を有し、かつ前記二軸スクリュー部と単軸スクリュー部の連通部に流量調節機構を備え、前記ケーシングに二軸スクリュー部に連通する原料供給口を備えるとともに、前記延長された第1軸の端部に連通する吐出口を備えた二軸・単軸複合型連続混練押出機を言い、市販されているこのタイプの押出機としては、CTE社製の「HTM型押出機」が挙げられる。原料となる共重合体(A)を、連続式で加熱処理し環化反応を進行させる際、反応の進行に従い、溶融粘度が高くなることに起因し、押出装置のせん断による発熱が大きくなり、分子主鎖の熱分解による着色が大きくなる傾向が見られる。また、該せん断発熱は、単軸スクリューよりも二軸スクリューで溶融混練した場合に大きくなる。一方、反応速度の観点からは、二軸スクリューで溶融混練することが好ましい。以上のことから、特定の二軸・単軸複合型連続混練押出機を用いることにより、溶融粘度が比較的低い反応初期段階では、二軸スクリューで、十分な反応速度を確保しながら、溶融粘度が比較的高くなる反応後期段階では、せん断発熱を抑制した単軸スクリュー部で加熱処理することにより、分子主鎖の熱分解が抑制されるため、得られるグルタルイミド含有単位を含有する熱可塑性共重合体(A)は特に色調、機械特性に優れるものと推察される。
【0097】
また、本発明においては、連続式混練押出機として、複数の凸レンズ型および/または楕円型の板状パドルを備えた連続式二軸反応装置も、極めて無色透明性、機械特性に優れる熱可塑性共重合体が得られる観点から好ましく用いることができる。この種の装置は、スケール付着のない、いわゆるセルフクリーニング性の高い装置である。また、中空洞(シリンダ)の離れた位置に原料供給口と吐出口とを備え、この胴の外周に温度制御用ジャケットを備えており、また、中空洞の内部には胴の長手方向に平行に位置する2本の撹拌軸を備え、撹拌軸は互いに近接するように固定された複数個の上記板状パドルを有することを特徴とする。
【0098】
このような押出機としては、具体的には、栗本鉄工所社製「KRCニーダー」を好ましく使用することができる。
【0099】
また、本発明における環化工程で用いる連続混練押出装置には、これに窒素などの不活性ガスが導入可能な構造を有した装置であることがより好ましい。例えば、窒素などの不活性ガスを導入する方法としては、ホッパー上部および/または下部より、10〜100リットル/分程度の不活性ガス気流の配管を繋ぐ方法などが挙げられる。
【0100】
また、本発明の原共重合体(A)を加熱処理する時間は特に限定されず、所望の共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常は3分間〜150分間、好ましくは5分間〜120分間の範囲が好ましい。
【0101】
本発明の熱可塑性共重合体(B)中の前記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に制限はないが、好ましくは熱可塑性共重合体100重量%中に好ましくは1〜50重量%、より好ましくは1〜40重量%、更に好ましくは3〜30重量%、とりわけ3〜10重量%が好ましい。
【0102】
また、本発明の熱可塑性共重合体における各成分単位の定量には、一般にプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。H−NMR法では、例えば、グルタルイミド単位、メタクリル酸メチル単位からなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸メチル単位およびグルタルイミド単位のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.4〜3.7ppmのピークはメタクリル酸メチル単位のカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、10.3〜10.8ppmのピークはグルタルイミドの水素(N−)と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分として、スチレンを含有する場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0103】
本発明においては、共重合体(A)の脱アルコール反応を十分に行うことにより熱可塑性共重合体中に含有されるアクリル系アミド単位量は10重量%以下、すなわち0〜10重量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜5重量%である。アクリル系アミド単位が10重量%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0104】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は0〜35重量%であることが好ましいが、より好ましくは10重量%以下、すなわち0〜10重量%であり、さらに好ましくは0〜5重量%である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が多すぎると、無色透明性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0105】
本発明の熱可塑性共重合体(B)は、重量平均分子量(以下Mwとも言う)が、好ましくは、30000〜200000、より好ましくは、50000〜200000であることが望ましい。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーでヘキサフルオロイソプロバノールを溶離溶媒として測定した、PMMA標準ポリマー換算分子量での重量平均分子量を示す。
【0106】
かくして得られる本発明の熱可塑性共重合体(B)は、ガラス転移温度が120℃以上と優れた耐熱性を有し、実用耐熱性の面で好ましい。また、好ましい態様においてはガラス転移温度が130℃以上の極めて優れた耐熱性を有する。また、上限としては、通常160℃程度である。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度である。
【0107】
また、本発明の製造方法により製造される熱可塑性共重合体(B)は、好ましい態様において、黄色度(Yellowness Index)の値が3以下と着色が抑制され、さらに好ましい態様においては2以下と極めて高度な無色透明性を有する。上記において黄色度はガラス転移温度+140℃で射出成形した厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、測定した値である。黄色度の下限は、特に制限はなく、低いほど好ましいが、通常1程度である。
【0108】
また、本発明の製造方法により製造される熱可塑性共重合体(B)は、残存する未反応単量体または未反応単量体と重合溶媒の混合物(以下、総称して揮発成分と呼ぶことがある)の含有量が5重量%以下、好ましい態様においては3重量%以下に抑制され、さらには、ガラス転移温度+130℃で60分間加熱した時の加熱減量(以下ガス発生量と呼ぶことがある)が好ましい態様において2.0重量%以下、さらに好ましい態様においては1.0重量%、最も好ましくは0.5重量%以下であり、従来の方法では達成し得なかった高度な熱安定性を有する。揮発成分の含有量およびガス発生量の下限は、特に制限はなく、低いほど好ましいが、通常0.1重量%程度である。
【0109】
また、本発明の熱可塑性共重合体(B)は、ガラス転移温度+130℃、剪断速度12/秒にて測定した溶融粘度に特に制限はないが、好ましい態様において100〜20000Pa・s以下であり、さらに好ましい態様において100〜10000Pa・s、最も好ましい態様においては100〜5000Pa・s以下の高度な流動性を有し、成形加工性に優れる特徴がある。なお、ここで言う溶融粘度とは東洋精機社製キャピログラフ1C型(ダイス径φ1.0mm、ダイス長5.0mm)を用いて、上記温度および剪断速度で測定した溶融粘度(Pa・s)である。
【0110】
さらに、本発明の熱可塑性共重合体(B)の製造時には、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、その添加剤保有の色が本発明の熱可塑性共重合体(B)に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0111】
本発明により製造された熱可塑性共重合体(B)は、その優れた耐熱性、無色透明性および滞留安定性を活かして、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0112】
本発明により製造された熱可塑性共重合体(B)からなる成形品の具体的用途としては、例えば、電気機器のハウジング、OA機器のハウジング、各種カバー、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルターおよび点火装置ケースなどが挙げられる。また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品として、カメラ、VTR、プロジェクションTVなどの撮影用レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなど、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板、各種ディスク基板保護フィルム、光ディスクプレイヤーピックアップレンズ、光ファイバー、光スイッチ、光コネクターなど、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、ピックアップレンズ、タッチパネル用導光フィルム、カバーなど、自動車などの輸送機器関連部品として、テールランプレンズ、ヘッドランプレンズ、インナーレンズ、アンバーキャップ、リフレクター、エクステンション、サイドミラー、ルームミラー、サイドバイザー、計器針、計器カバー、窓ガラスに代表されるグレージングなど、医療機器関連部品として、眼鏡レンズ、眼鏡フレーム、コンタクトレンズ、内視鏡、分析用光学セルなど、建材関連部品として、採光窓、道路透光板、照明カバー、看板、透光性遮音壁、バスタブ用材料などにも適用することができ、これら各種の用途にとって極めて有用であり、とりわけ偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルムなどの光学フィルムに有用である。
【0113】
本発明の熱可塑性共重合体(B)からなる光学フィルムの製造方法には、公知の方法が使用できる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、溶液キャスト法、エマルション法、ホットプレス法等の製造方法が使用できる。好ましくは、T−ダイ法、溶液キャスト法またはホットプレス法が使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明の熱可塑性共重合体(B)のフィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。また、溶液キャスト法により本発明の熱可塑性共重合体(B)のフィルムを製造する場合、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶媒が使用できる。好ましい溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン等である。溶液キャスト法により本発明の熱可塑性共重合体(B)のフィルムを製造する場合、熱可塑性共重合体を前記の1種以上の溶媒に溶かし、その溶液をバーコーター、T−ダイ、バー付きT−ダイ、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱フィルム、スチールベルト、金属箔などの平板または曲板(ロール)上に流延し、溶媒を蒸発除去する乾式法、あるいは溶液を凝固液で固化する湿式法等を用いることにより製造できる。
【0114】
本発明の熱可塑性共重合体(B)からなるフィルムは、単層であっても、さらには多層であっても良い。
【0115】
本発明の熱可塑性共重合体(B)からなるフィルムは、延伸を施さずにそのままでもよいが、得られるフィルムの靱性の観点から、未延伸フィルムを成形した後、一軸延伸あるいは二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することが好ましい。延伸を行うことで、フィルムの靱性を向上させることができる。
【0116】
フィルムの延伸は、未延伸フィルムを成形した後、すぐに連続的に行っても良い。ここで、上記「未延伸フィルム」の状態が瞬間的にしか存在しない場合があり得る。瞬間的にしか存在しない場合には、その瞬間的な、フィルムが形成された後延伸されるまでの状態を未延伸フィルムという。また、未延伸フィルムとは、その後延伸されるのに十分な程度にフィルム状になっていれば良く、完全なフィルムの状態である必要はなく、もちろん、完成したフィルムとしての性能を有さなくても良い。また、必要に応じて、未延伸フィルムを成形した後、一旦フィルムを保管もしくは移動し,その後フィルムの延伸を行っても良い。未延伸フィルムを延伸する方法としては、従来公知の任意の延伸方法が採用され得る。具体的には、例えば、ロールや熱風炉を用いた縦延伸、テンターを用いた横延伸、およびこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等がある。また、縦と横を同時に延伸する同時二軸延伸方法も採用可能である。ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を採用しても良い。
【0117】
本発明の熱可塑性共重合体(B)からなるフィルムは、一軸延伸フィルムの状態で最終製品とすることができる。さらに、延伸工程を組み合わせて行って二軸延伸フィルムとしても良い。二軸延伸を行う場合、本発明の目的を損なわない範囲で、縦延伸と横延伸の温度や倍率などの延伸条件を同等もしくは、意図的に変えてもよい。
【0118】
フィルムの延伸温度および延伸倍率は、得られたフィルムの位相差、機械的強度および表面性、厚み精度を指標として適宜調整することができる。延伸温度の範囲は、DSC法によって求めたフィルムのガラス転移温度をTgとしたときに、好ましくは、Tg−30℃〜Tg+30℃の範囲である。より好ましくは、Tg−10℃〜Tg+30℃の範囲である。さらに好ましくは、Tg〜Tg+30℃以下の範囲である。延伸温度が高すぎる場合、フィルムが軟化・溶融する傾向があり、延伸が困難となるばかりか、得られたフィルムの厚みむらが大きくなりやすく好ましくない。延伸温度がTg−30℃以下であると、延伸時にフィルムに応力がかかり、フィルムが破れる等の工程上の問題を引き起こしやすく好ましくない。
【0119】
また、好ましい延伸倍率は、延伸温度にも依存するが、1.1倍〜5.0倍の範囲であり、より好ましくは、1.1倍〜4.0倍、さらに好ましくは、1.1倍〜3.0倍、最も好ましくは1.1〜2.5倍である。
【0120】
かくして得られる、本発明の熱可塑性共重合体(B)からなるフィルムの厚みは、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは15〜170μm、最も好ましくは20〜150μmである。フィルム厚みを上記範囲に制御するには、延伸前の「未延伸フィルム」の厚みを調節することにより可能である。
【0121】
ここで、本発明のフィルムの熱可塑性共重合体(B)からなる厚みとは、フィルムを50mm×50mm四方に切り出したフィルムの厚みを測定した平均値である。
【0122】
また、フィルム化の際に、本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤等の加工性改良剤、あるいは、フィラーなどの公知の添加剤やその他の重合体を含有していてもかまわない。
【0123】
本発明の熱可塑性共重合体(B)からなるフィルムに紫外線吸収剤を含有させることにより、耐候性を向上する他、本発明の光学フィルムを用いる液晶表示装置の耐久性も改善することができ実用上好ましい。紫外線吸収剤としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−t−ブチルフェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノールなどのトリアジン系紫外線吸収剤、オクタベンゾン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤等が挙げられ、また、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系光安定剤やビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤も使用できる。
【実施例】
【0124】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各測定および評価は次の方法で行った。
【0125】
(1)重合体含有量(固形分)(重量%)
重合工程で得られた重合溶液(a)5gをN,N−ジメチルホルムアミド50gに溶解し、水500gに再沈殿し、濾過後、140℃にて1時間真空乾燥して、共重合体(A)の白色粉末を得た。得られた共重合体(A)の重量を測定し、下記式から重合溶液(a)中の重合体含有率を算出した。
重合体含有量(重量%)={(S0−A1)/S0}×100
なお、各記号は下記の数値を示す。
A1=乾燥後の共重合体(A)の重量(g)
S0=重合溶液(a)の重量(g)。
【0126】
(2)重合率(φ)
ガスクロマトグラフにより重合溶液(a)および仕込み原料溶液中の各未反応単量体濃度(重量%)を定量し、下式より算出した。
重合率(φ)=100×(1−M1/M0)
なお、各記号は下記の数値を示す。
M1=重合溶液(a)中の各未反応単量体濃度の合計(重量%)
M0=仕込み原料溶液中の各単量体濃度の合計(重量%)。
【0127】
(3)揮発成分の含有量
環化工程に導入する前の共重合体(A)および環化後の熱可塑性共重合体(B)各1gをテトラヒドロフラン20gに溶解し、ガスクロマトグラフにより残存する未反応単量体および/または有機溶媒(C)を定量し、下式より揮発成分の含有量を算出した。
揮発成分含有量(重量%)={(α+β)/P1}×100
なお、各記号は下記の数値を示す。
α =ガスクロマトグラフより定量した残存モノマーの重量(g)
β =ガスクロマトグラフより定量した有機溶媒(C)の重量(g)
P1=サンプリングした共重合体(A)または熱可塑性重合体(B)の重量(g)。
【0128】
(4)重量平均分子量・分子量分布
得られた共重合体(A)および熱可塑性共重合体(B)5mgをヘキサフルオロイソプロパノール5gに溶解して、測定サンプルとした。ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として、示差屈折率計を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて、PMMA標準ポリマー換算分子量として重量平均分子量、数平均分子量を測定した。分子量分布は、重量平均分子量/数平均分子量で算出した。
【0129】
(5)各成分組成分析
重ジメチルスルホキシド中、30℃でH−NMRを測定し、各共重合単位の組成決定を行った。
【0130】
(6)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。
【0131】
(7)透明性(全光線透過率、ヘイズ)
得られた熱可塑性共重合体をガラス転移温度+140℃で射出成形し、得た厚さ1mm成形品の23℃での全光線透過率(%)を東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて測定し、透明性を評価した。
【0132】
(8)黄色度(Yellowness Index)
得られた熱可塑性共重合体を、ガラス転移温度+140℃で射出成形し、得た厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定した。
【0133】
(9)滞留時のガス発生量
得られた熱可塑性共重合体(B)ペレット5gを80℃で12時間予備乾燥し、ガラス転移温度+130℃に温調した加熱炉内で60分間加熱処理した前後での重量を測定し、下式により算出した重量減少率を滞留時のガス発生量として評価した。
重量減少率(重量%)={(W0−W1)/W0}×100
なお、各記号は下記の数値を示す。
W0=加熱処理前の熱可塑性共重合体(B)の重量(g)
W1=加熱処理後の熱可塑性共重合体(B)の重量(g)。
【0134】
(10)熱可塑性共重合体(B)の溶融粘度
得られた熱可塑性共重合体(B)ペレットを80℃で12時間予備乾燥し、東洋精機社製キャピログラフ1C型(ダイス径φ1mmダイス長5mm)を用いて、ガラス転移温度+130℃、剪断速度12/秒にて測定した。
【0135】
(11)位相差(面内位相差および厚み位相差)
得られたフィルムを40mm×40mmの大きさに切削し、楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA−WPR」)に供し、平行ニコル回転法により、面内位相差(Re)および厚み位相差(Rth)について、フィルム中央の値を測定した。
【0136】
実施例1:熱可塑性共重合体(B−1)の製造
(重合工程)
容量が20リットルで、ダブルヘリカル型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、20L/分の窒素ガスで15分間バブリングした下記処方の単量体混合物を3kg/hの速度で連続的に供給し、50rpmで撹拌し、内温が130℃に制御し、平均滞留時間6時間で、連続重合を行った。重合率は80%であり、得られた共重合体溶液(a)の共重合体(A)含有量すなわち固形分は40重量%であった。また、共重合体溶液(a)の溶液粘度を30℃で測定した結果、60Pa・sであった。得られた共重合体溶液(a)10gを40gのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、500mLの水に再沈殿させることで、パウダー状の共重合体(A−1)を得た。
メタクリルアミド 18重量部
メタクリル酸メチル 82重量部
1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン 0.04重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.8重量部
メチルエチルケトン 100重量部。
【0137】
(脱揮工程)
続いて共重合体(A−1)を含む重合溶液(a)をギアポンプにより44mmφ二軸押出機(TEX−44(日本製鋼所社製、L/D=28.0、ベント部:3箇所))に、供給速度3.0kg/hで供給し、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、シリンダ温度220℃、ベント部分より減圧し、圧力20Torrにて脱揮を行った。この時点で、脱揮後の共重合体(A)をサンプリングし、含有する揮発成分を測定した結果、表2に示すように5.1重量%であった。
【0138】
(環化工程)
続いて、38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所))に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量3.0kg/h、シリンダ温度300℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(B−1)を得た。得られた熱可塑性共重合体(B−1)の各成分組成および特性を表3に示した。
【0139】
実施例2〜3:熱可塑性共重合体(B−2)および(B−3)の製造
(重合工程)
表1に示すように連鎖移動剤であるn−ドデシルメルカプタンの重量部数を変更した以外は実施例1と同様の製造方法で、共重合体(A−2)および(A−3)を得た。得られた共重合体溶液(a)および共重合体(A−2)および(A−3)の各成分組成および特性を表1に示した。
【0140】
(脱揮工程および環化工程)
続いて表2に示すように実施例1と同様の製造方法で、熱可塑性共重合体(B−2)および(B−3)を得た。得られた熱可塑性共重合体(B−1)および(B−3)の各成分組成および特性を表3に示す。
【0141】
実施例4〜6:熱可塑性共重合体(B−4)〜(B−6)の製造
(重合工程)
原料を表1に示すように仕込み単量体組成および連鎖移動剤であるn−ドデシルメルカプタンの重量部数を変更した以外は、実施例1と同様の製造方法で共重合体(A−4)〜(A−6)を得た。得られた共重合体溶液(a)および共重合体(A−4)〜(A−6)の各成分組成および特性を表1に示した。
【0142】
(脱揮工程および環化工程)
続いて表2に示すように実施例1と同様の製造方法で、熱可塑性共重合体(B−4)〜(B−6)を得た。得られた熱可塑性共重合体(B−4)および(B−6)の各成分組成および特性を表3に示す。
【0143】
実施例7:熱可塑性共重合体(B−7)の製造
(洗浄工程)
実施例1の製造方法により得た共重合体(A−1)およびイオン交換水を攪拌機付きオートクレーブに供給して80℃まで昇温し、3時間撹拌した。冷却後、濾過により固液分離して棚段式乾燥機にて乾燥し、共重合体(A−1)の洗浄品を得た。
【0144】
(環化工程)
実施例1と同様の製造方法で、共重合体(A−1)の洗浄品より熱可塑性共重合体(B−7)を得た。得られた熱可塑性共重合体(B−7)の各成分組成および特性を表2および3に示す。
【0145】
実施例8:熱可塑性共重合体(B−8)の製造
(洗浄工程)および(環化工程)
表2に示すように共重合体(A−5)を用いた以外は、実施例7と同様の製造方法で熱可塑性共重合体(B−8)を得た。得られた熱可塑性共重合体(B−8)の各成分組成および特性を表2および3に示す。
【0146】
比較例1:熱可塑性共重合体(B−9)の製造
(重合工程)
実施例1と同様の製造方法で、共重合体溶液(a)を得た。
【0147】
(脱揮および環化工程)
続いて重合工程で得られた共重合体溶液(a)をギアポンプにより38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所))に供給し、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量3.0kg/h、シリンダ温度300℃で脱揮および環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性共重合体(B−9)を得た。得られた(B−9)の各成分組成および特性を表3に示す。
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【0150】
【表3】

【0151】
実施例9:熱可塑性共重合体(B−7)のフィルムの製造
実施例7で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(B−7)を、リップ間隔0.6mmに調整したT−ダイ付き二軸溶融混練機HK−25D(パーカーコーポレーション社製)に供し、260℃の温度で溶融製膜を実施した。ドラム温度を130℃とし、巻き取り速度を調整することにより、約80μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムをフィルム自動二軸延伸装置IMC−11A9型(井元製作所製)に供し、140℃の温度で、1.5倍同時二軸延伸を実施し、平均厚み40μmのフィルムを得た。得られたフィルムの面内位相差(Re)は0.6nm、厚み位相差(Rth)は1.1nmであった。
【0152】
実施例1〜6および比較例1から、本発明の製造方法は、重合工程において特定の重合条件下で塊状重合または溶液重合し、さらには得られた重合溶液から未反応単量体を除去する脱揮を行った後、特定条件で環化反応を行うことで、滞留時も発生ガス量の少ない高度な耐熱性、熱安定性を有しながら、無色透明性に優れた熱可塑性共重合体(B)を製造できることがわかる。さらに実施例7および8から、共重合体(A)の熱水洗浄工程を追加することで、さらに無色透明性に優れ、発生ガス量の少ない熱可塑性共重合体(B)を製造できることがわかる。
【0153】
一方、本発明範囲外の方法で重合を行った場合、加熱処理後の熱可塑性共重合体の色調、およびガス発生量の点で劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および(ii)下記一般式(1)で表されるアクリル系アミド単位を含む共重合体(A)を製造し、続いて、該共重合体(A)を加熱処理し、分子内環化反応を行うことにより、(iii)下記一般式(2)で表されるグルタルイミド単位および(i)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性共重合体(B)を製造するに際し、
<重合工程>
原料である不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および下記一般式(3)で表されるアクリル系アミド単量体を含む単量体混合物、連鎖移動剤、および重合温度における半減期が0.01〜60分であるラジカル重合開始剤を含有してなる原料混合液を重合槽に供給し、共重合体(A)と未反応単量体混合物からなる重合溶液(a)を連続的に製造する工程、
<脱揮工程>
前記重合工程に引き続いて、重合工程で得られた重合溶液(a)を連続式脱揮装置に供給し、温度100℃以上280℃未満で、圧力が200Torr以下の減圧下において、連続的に脱揮し、未反応単量体を分離除去する工程、
<環化工程>
前記脱揮工程に引き続き、共重合体(A)を250℃以上350℃以下の温度で連続混練押出装置中で加熱処理する工程、
を含むことを特徴とする熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【化1】

(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【化2】

(ただし、R3、R4は、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【化3】

(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【請求項2】
前記重合工程において、共重合体(A)を溶解する有機溶媒(C)を単量体100重量部に対して1〜200重量部含有し、脱揮工程において、重合工程で得られた重合溶液(a)から未反応単量体および有機溶媒(C)を除去することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒(C)がケトンまたはエステルであることを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程における重合槽が完全混合型反応槽であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項5】
前記連続式脱揮装置が、筒状の容器と複数の攪拌素子を回転軸に取り付けた撹拌装置を有し、筒部の一端に重合溶液(a)を供給する供給口と、他端に脱揮後の共重合体(A)を取り出す吐出口を有することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項6】
前記連続式脱揮装置がベントを有する二軸押出装置であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項7】
前記連続式脱揮装置が複数の凸レンズ型および/または楕円型の板状パドルを備えた連続式二軸反応装置であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項8】
前記脱揮工程で得られた共重合体(A)を熱水で洗浄し、アクリル系アミド単量体を抽出除去する洗浄工程を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項9】
前記環化工程直前の共重合体(A)中の未反応アクリル系アミド単量体含有量が1重量%以下であることを特徴とする請求項8記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項10】
前記重合工程において、連鎖移動剤の添加量が、単量体混合物100重量部に対して0.1〜1.5重量部であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項11】
前記重合工程において、ラジカル重合開始剤の添加量が、単量体混合物100重量部に対して0.001〜2.0重量部であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項12】
前記熱可塑性共重合体(B)の重量平均分子量が3〜20万であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項13】
前記重合工程における単量体混合物が、単量体混合物の合計を100重量%として、下記一般式(3)で表されるアクリル系アミド1〜50重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル50〜99重量%および、その他共重合可能な単量体成分0〜10重量%からなることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【化4】

(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す。)
【請求項14】
前記熱可塑性共重合体(B)が、(iii)グルタルイミド単位を1〜50重量%含有することを特徴とする請求項1〜13いずれか1項に記載の熱可塑性共重合体(B)の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14いずれかに記載の製造法により得られることを特徴とする熱可塑性共重合体(B)。
【請求項16】
請求項15に記載の熱可塑性共重合体(B)からなる成形品。
【請求項17】
請求項15に記載の熱可塑性共重合体(B)からなる光学フィルム。

【公開番号】特開2009−227971(P2009−227971A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37566(P2009−37566)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】