説明

熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】熱可塑性樹脂と混和性のよい新規重合体と熱可塑性樹脂を含む樹脂の提供。
【解決手段】(a)下記式(1)で表される末端修飾重合体および(b)熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物。


(式中、R1及びR2は1価の有機基を示すか、又はR1とR2が結合して隣接する炭素原子と共に環構造を形成してもよい。R4は水素原子またはメチル基であり、R5は1価の有機基を示す。R6は1価の有機基を示す。lは1〜10の数を示し、mは10〜1000の数を示し、nは1〜5の数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と混和性のよい新規重合体と熱可塑性樹脂とを含有する熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合の制御に関する研究に多大な努力がなされ、近年、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)(非特許文献1−5)や原子移動ラジカル重合(ATRP)(非特許文献6,7)等の方法が報告されている。RAFT重合は、機能的なポリマーの合成法として広く使用されており、そのほとんど全てが、重合の後に、それぞれの末端鎖にチオカルボニルチオ基を有する。チェン(Chen)らは、クマリン系色素のような機能性モノマー単位をRAFT剤に導入し、このような独特のRAFT重合法を使って、機能的な各種モノマー単位がポリマー鎖における末端ユニットとして挿入されることを報告している(非特許文献8)。
チェンらは、例えば、水素結合、相溶化、マクロ相分離、表面改質等のポリマーの力学的性質を正確にコントロールするための様々な方法について検討している。そして水素結合間の相互作用は、擬似架橋点と見なされ、温度変化を通して動的にも可逆的にもコントロールされることがわかっている。
一方、ヒドロキシスチレン(HSt)ユニットが、ポリスチレン(PSt)とポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(エチルメタクリレート)(PEMA)、ポリ(ブチルメタクリレート)(PBMA)のようなポリ(アルキルメタクリレート)との混合のための混和促進剤として機能することはよく知られている(非特許文献9−17)。このような混合において、ポリ(アルキルメタクリレート)と混和したPStを提供するために、エステル基中のカルボニル基は、水素結合の相互作用を通して、PSt鎖に挿入された多くのHStユニット中におけるヒドロキシル基と有効的に相互作用することができる。
【非特許文献1】Y. K. Chong, J. Krstina, T. P. T. Le, G. Moad, A. Postma, E. Rizzardo, S. H. Thang, Macromolecules 2003, 36, 2256-2272.
【非特許文献2】J. Chiefari, R. T. A. Mayadunne, C. L. Moad, G. Moad, E. Rizzardo, A. Postma, M. A. Skidmore, S. H. Thang, Macromoleules 2003, 36, 2273-2283.
【非特許文献3】R. T. A. Mayadunne, E. Rizzardo, J. Chiefari, J. Krstina, G. Moad, A. Postma, S. H. Thang, Macromolecules 2000, 33, 243-245.
【非特許文献4】J. Chiefari, Y. K. Chong, F. Ercole, J. Krstina, J. Jeffery, T. P. T. Le, R. T. A. Mayadunne, G. F. Meijs, C. L. Moad, G. Moad, E. Rizzardo, S. H. Thang, Macromolecules 1998, 31, 5559-5562.
【非特許文献5】Y. K. Chong, T. P. T. Le, G. Moad, E. Rizzardo, S. H. Thang, Macromolecules 1999, 32, 2071-2074.
【非特許文献6】K. Matyjaszewski, J. Xia, Chem. Rev. 2001, 101, 2921.
【非特許文献7】M. Kamigaito, T. Ando, M. Sawamoto, Chem. Rev. 2001, 101, 3689.
【非特許文献8】M. Chen, K. P. Ghiggino, A. W. H. Mau, E. Rizzardo, W. H. F. Sasse, S. H. Thang, G. J. Wilson, Macromolecules 2004, 37, 5479-5481.
【非特許文献9】C. J. Serman, P. C. Painter, M. M. Coleman, Polymer 1991, 32(6), 1049-1058.
【非特許文献10】X. Zhang, K. Takegoshi, K. Hikichi, Macromolecules 1991, 24, 5756-5762.
【非特許文献11】D. Li, J. Brisson, Polymer 1998, 39, 793-800.
【非特許文献12】C.-T. Chen, H. Morawetz, Macromolecules 1989, 22, 159-164.
【非特許文献13】C. J. Serman, Y. Xu, P. C. Painter, M. M. Coleman, Macromolecules 1989, 22, 2015-2019.
【非特許文献14】D. Li, J. Brisson, Macromolecules 1996, 29, 868-874.
【非特許文献15】J. Dong, Y. Ozaki, Macromolecules 1997, 30, 286-292.
【非特許文献16】Y. Xu, J. Graf, P. C. Painter, M. M. Coleman, Polymer 1991, 32, 3103-3118.
【非特許文献17】C.-L. Lin, W.-C. Chen, C.-S. Liao, Y.-C. Su, C.-F. Huang, S.-W. Kuo, F.-C. Chang, Macromoles 2005, 38, 6435-6444.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、熱可塑性樹脂と混和性のよい新規重合体と熱可塑性樹脂とを含有する新規熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
斯かる実情に鑑み、本発明者らは、重合体中のヒドロキシスチレン(HSt)ユニットの水素結合相互作用における寄与について鋭意研究を行ったところ、下記式(1)で表される末端修飾重合体が熱可塑性樹脂と混和性が良いことを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、(a)下記式(1)で表される末端修飾重合体および(b)熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R1及びR2は1価の有機基を示すか、又はR1とR2が結合して隣接する炭素原子と共に環構造を形成してもよい。R4は水素原子またはメチル基であり、R5は1価の有機基を示す。R6は1価の有機基を示す。lは1〜10の数を示し、mは10〜1000の数を示し、nは1〜5の数を示す。)
【0007】
また、本発明は、(a)上記式(1)で表される末端修飾重合体と、(b)熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の(a)末端修飾重合体は熱可塑性樹脂と混和性が良いため、得られる熱可塑性樹脂組成物は透明である。また本発明の製造法によれば、該熱可塑性樹脂組成物を工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の(a)成分の末端修飾重合体は、下記式(1)で表される。
【0010】
【化2】

【0011】
式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立して1価の有機基を示すが、該有機基としては、炭化水素基、アミド基、アシル基、アルコキシ基が挙げられる。このうち炭化水素基が好ましく、炭素数1〜30の飽和又は不飽和炭化水素基が好ましい。炭化水素基の具体例としてはアルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基等が挙げられ、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜10の芳香族炭化水素基等が好ましい。また、R1とR2が結合して隣接する炭素原子と共に形成する環としては、炭素数5〜8の飽和又は不飽和の環状炭化水素基が挙げられ、具体的には、シクロペンチル、シクロヘキシル基等が挙げられる。
4は、水素原子またはメチル基を示す。
5は、1価の有機基を示すが、該有機基としては、炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基が挙げられる。このうち炭化水素基としては、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜30の脂環族炭化水素基、または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基等がより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ベンジル基等が特に好ましい。アルコキシ基としては、例えば、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、直鎖状、分枝状又は環状のアルコキシ基が挙げられ、より具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。また、アリールオキシ基としては、炭素数が6〜30、好ましくは6〜12であることが好ましく、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基が特に好ましい。
6は、1価の有機基を示すが、該有機基としては、炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基が挙げられる。このうち炭化水素基としては、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜30の脂環族炭化水素基、または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基等がより好ましく、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が特に好ましい。アルコキシ基としては、例えば、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6の直鎖状、分枝状又は環状のアルコキシ基 が挙げられ、より具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。また、アリールオキシ基としては、炭素数が6〜30、好ましくは6〜12であることが好ましく、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基が特に好ましい。
lの値は1〜10の数を示すが、1〜5であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。mは、他の樹脂との混和性の観点から10〜1000の数を示すが、10〜200が好ましく、特に20〜100が好ましい、nは1〜5の数を示すが、1が好ましい。
【0012】
式(1)で表される末端修飾重合体は、例えば、下記式(3)と下記式(4)で表される化合物とを反応させ下記式(2)で表される化合物を得る工程と(工程1)、次いで下記式(2)で表される化合物と下記式(5)で表される化合物とを反応させて下記式(1−1)で表される化合物を得て(工程2−1)、必要に応じてR3で示される保護基を水素原子に置換して下記式(1−2)で表される化合物を得ること(工程2−2)により製造することができる
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R1、R2、R6、l及びnは前記と同じものを示す。R3は保護基を示す。)
ここで、R3で示される保護基としては、アルキル基、アシル基、アルキルシリル基、脂環族基等が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基が挙げられ、i−プロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基等が好ましい。
また、アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、バレリル基、ピバロイル基、イソバレリル基、ラウリロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピペロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、オレオイル基、マレオイル基、フマロイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、p−トルエンスルホニル基、メシル基等を挙げることができる。
アルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ−i−プロピルシリル基、ジメチル−i−プロピルシリル基、ジエチル−i−プロピルシリル基、ジメチルエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、トリベンジルシリル基、トリ−p−キシリルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、t−ブチルメトキシフェニルシリル基等が挙げられる。
脂環族基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、1−メチルシクロペンチル基、1−エチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−エチルシクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、p−メトキシシクロヘキシル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、テトラヒドロチオフラニル基、3−ブロモテトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロチオピラニル基、3−テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド基、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基等シクロプロピル基、シクロペンチル基、1−メチルシクロペンチル基、1−エチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−エチルシクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、p−メトキシシクロヘキシル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、テトラヒドロチオフラニル基、3−ブロモテトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロチオピラニル基、3−テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド基、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基等を挙げることができる。
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、l、m及びnは前記と同じものを示す。)
【0017】
工程1
化合物(3)は、文献1(Y. K. Chong, J. Krstina, T. P. T. Le, G. Moad, A. Postma, E. Rizzardo, S. H. Thang, Macromolecules 2003, 36, 2256-2272)に記載の手順に従って、例えばジチオ安息香酸クミルとアゾイソブチロニトリル(AIBN)から合成することができる。化合物(2)は、化合物(3)に対して、化合物(4)を0.8〜1.2モル、好ましくは等モル反応させることが好ましい。触媒としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1'-アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル等公知のものを用いることができる。また、溶媒としては、クロロベンゼン、トルエン、ベンゼン等公知のものを用いることができる。また、反応温度は、好ましくは室温〜100℃、特に好ましくは50℃〜90℃で、反応時間は好ましくは1〜50時間、特に好ましくは、10〜20時間である。
なお、ここで得られた化合物(2)は、新規化合物であり、化合物(1)を得るための製造中間体として重要である。
【0018】
工程2
ここでは、化合物(2)とスチレンとを反応させた後に、Rで示される保護基を水素原子に置換する。
化合物(2)とスチレンの反応は、上記化合物(3)と化合物(4)の反応と同様の触媒及び溶媒を使用することができる。
スチレンの量は、目的物の化合物(1)の繰り返し単位数であるmによって適宜決定すればよいが、化合物(2)に対し、好ましくは10〜1000倍モル、特に好ましくは、50〜200倍モルである。また、反応温度は、好ましくは50〜180℃、特に好ましくは80℃〜150℃で、反応時間は好ましくは1〜80時間、特に好ましくは、10〜50時間である。
【0019】
この反応の後、R3で示される保護基を脱離する。脱離方法は保護基の種類によって異なるが、例えば、常法により加水分解すればよい。
このようにして得られた反応物は、常法により精製することができる。
【0020】
本発明に用いられる(b)熱可塑性樹脂については、特に制限はなく、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、環状オレフィン系重合体、ジエチレングリコールジメタクリレートやジビニルベンゼンなどの配合により緩やかな架橋構造を導入した任意の熱可塑性樹脂を用いることができる。また、好適な熱可塑性樹脂としては、環状オレフィン系重合体が挙げられ、特に好適な熱可塑性樹脂としては、下記一般式(6)〜(14)で表される繰り返し単位から選ばれた少なくとも1種の繰り返し単位を含み、ポリスチレン換算数平均分子量が10,000〜300,000の重合体が挙げられる。
【0021】
【化5】

【0022】
[式(6)中、A1〜A4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示し、mは0または1である。]
【0023】
【化6】

【0024】
[式(7)中、A1〜A4、およびmは式(6)と同じ]
【0025】
【化7】

【0026】
[式(8)中、B1〜B4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基、加水分解性のシリル基、または−(CH2kXで表される極性基を示し、B1〜B4の少なくとも1つは加水分解性のシリル基、または−(CH2kXで表される極性基から選ばれた置換基である。ここで、Xは−C(O)OR21または−OC(O)R22であり、R21,R22は水素、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基であり、kは0〜3の整数である。また、B1〜B4は、B1とB3またはB2とB4から形成される炭化水素環、もしくはイミド、カルボン酸無水物などの複素環構造あるいはB1とB2またはB3とB4から形成されるアルキリデニル、イミド、カルボン酸無水物であってもよい。pは0〜2の整数を示す。]
【0027】
【化8】

【0028】
[式(9)中、R1〜R14はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0029】
【化9】

【0030】
[式(10)中、R1〜R12はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0031】
【化10】

【0032】
[式(11)中、R1〜R16はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0033】
【化11】

【0034】
[式(12)中、R1〜R20はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基から選ばれた置換基を示す。]
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(a)末端修飾ポリスチレンの配合量は、混和性の観点から組成物全重量に基づき0.5〜99.5重量%が好ましく、20〜90重量%がより好ましい。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(b)熱可塑性樹脂の配合量は、混和性の観点から組成物全重量に基づき0.5〜99.5重量%が好ましく、20〜90重量%がより好ましい。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するには、式(1)で表される末端修飾重合体と、(b)熱可塑性樹脂とを常法により混合すればよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
製造例1.末端修飾ポリスチレンの調製
(原料)
モノマー:スチレン(東京化学工業株式会社)および4-tert-ブトキシスチレン(北興化学工業株式会社)を、水相が完全に中和されるまで、5%水酸化ナトリウム水溶液および精製水で洗浄し、それから、硫酸マグネシウムを使って乾燥し、使用前に減圧下でCaH2を用いて蒸留した。
ブチルメタクリレート(東京化学工業株式会社)は使用前に蒸留された。
溶媒:クロロベンゼン(和光純薬工業株式会社)はCaH2で蒸留された。
開始剤:2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、99%、和光純薬工業株式会社)はアセトンから再結晶化された。
連鎖移動剤:2−シアノプロピル−2−イル−ジチオ安息香酸塩(CTA1)(式(3)の化合物)は、文献1(Y. K. Chong, J. Krstina, T. P. T. Le, G. Moad, A. Postma, E. Rizzardo, S. H. Thang, Macromolecules 2003, 36, 2256-2272)に記載の手順に従って、ジチオ安息香酸クミルとAIBNから合成された。トルエン中、60℃で、ポリ(ブチルメタクリレート)は、ブチルメタクリレートとAIBNをフリーラジカル重合することにより合成された。
PBMAのMnとMw(分子数および平均分子量)は、サイズ排除クロマトグラフィーによって測定され、それぞれ82000、170000であった。
【0040】
同定方法:
ポリマーの分子量は、屈折率および紫外線検出器付のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(TOSOH HLC-8220 SEC system)で測定され、溶出液としてクロロホルムを用いた。
分子数や分子量(MnおよびMw)は、低い多分散度を有するポリスチレンを基準とし検量線によって計算された。
示差走査熱量測定法(DSC)は、20mL/minで窒素をフローし、10℃/minの一定速度で加温する条件の下、Seiko DSC 6200により行った。
1Hおよび13C NMRスペクトルは、内部基準物質をテトラメチルシランとして、Varian UNITY INOVA 400で測定した。
UV可視スペクトルは、JASCO V-750紫外可視近赤外分光光度計によって測定した。
ブレンドフィルムの走査型電子顕微鏡法(SEM)は、加速電圧25kVで後方散乱電子(BSE)検出器を備え付けたHITACHI S3000N 走査型電子顕微鏡で行った。
【0041】
工程1:連鎖鎖移動剤-2(CTA2)(式(2)の化合物)の合成
tert-ブトキシスチレン(BSt)の1ユニットを含む連鎖移動剤(CTA2)を製造するためにチェン(Chen)らに報告された手順を適用した(スキーム 1)(文献8)。
【0042】
【化12】

【0043】
CTA1(3.30g, 14.9 mmol)、BSt(2.62g, 14.9 mmol)、AIBN(0.048g,0.29 mmol)およびクロロベンゼン(10 ml)の混合物は、固体−圧縮−解凍の3サイクルを通して、密閉減圧下で脱ガスされ、70℃のオイルバスで24時間加熱した。
粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/エチルアセテート(9/1(v/v))で分離精製し、橙色の固体として最終生成物(3.5g)を収率60%で得た。
【0044】
1H NMR(400 MHz, CDCl3, ppm): δ 1.26(s, 3H, -CH3), 1.35(s, 9H, -C(CH3)3), 1.44(s, 3H, -CH3), 2.3-2.5(m, 2H, -CH2-), 5.3(q, 1H, -CH(Ar)-), 7.0(dd, 2H, Ar-H), 7.3-7.4 (m, 4H, Ar-H), 7.6(m, 1H, p-Ar-H(ジチオ安息香酸塩) ), 7.9(m, 2H, m-Ar-H(ジチオ安息香酸塩) )
【0045】
13C NMR(100 MHz, CDCl3, ppm): δ 26.8(CH3), 28.0(CH3), 28.9(OC(CH3)3), 31.8(C(CH3)2CN), 45.0(CCH2CH), 52.0(CH-Ar), 79.0(OC(CH3)3), 124.0(CN), 124.6,127.0, 128.4, 129.2, 132.7, 133.0, 144.8 (Ar), 155.8 (Ar-COC(CH3)3), 226.2(C=S)
UV-可視(CH2Cl2): λmax= 307, 496 nm.
融点:69.7℃
【0046】
工程2:ドロキシスチレンα鎖末端1ユニットを有するポリスチレン(P−HS)の合成
次の手順はtert-ブトキシスチレンα末端基を有するポリスチレン(P−BS)を得るための典型的な方法である(スキーム 2)。
【0047】
【化13】

【0048】
スキーム 2. スチレンとCTA2のRAFT重合によるヒドロキシスチレンα‐末端基を1つ有するポリスチレン(P-HS)の合成および、それに続く脱保護化.
【0049】
ガラス製アンプル中にスチレン(14 ml, 12.614 g, 121 mmol)およびCTA 2(0.481g, 1.21 mmol)の混合物が固体−圧縮−解凍の3サイクルを通して、脱ガスされた。そのアンプルは減圧下で密閉され、110℃で、24時間加熱された。液体窒素によってすばやく冷却することによりポリマー化を停止し、反応混合物に過剰のメタノールを加えてポリマーを析出させ、ろ過により単離し、50℃で減圧乾燥した。ポリマー収率は、重量測定法により、メタノールに不溶のポリマー重量から算出された。
P−BSは、tert-ブトキシ基の加水分解によって、α鎖末端基にヒドロキシスチレンユニットを1つ有するポリスチレン(P−HS)に変換された。反応の代表的な手順は以下に記載される。
P−BS(Mn= 6700, 4.9 g, 0.73 mmol)を、トルエン/メタノール混合液(7・2(v/v))に溶かし、濃硫酸(97%, 0.39 g, 3.9 mmol)を加えた。窒素気流下、60℃でその混合物を一晩攪拌し、中和のために、50%乳酸ナトリウム水溶液(3 ml, 15.5 mmol)を加えた。生成したポリマーP−HSは、テトラヒドロフランに溶かし、メタノールで析出させるという2つのサイクルによって精製され、50℃で減圧乾燥された。
【0050】
参考例
ω-末端基の、ジチオ安息香酸塩から2-シアノプロピル基への変換:
ペリエ(Perrier)らの報告(S. Perrier, P. Takolpuckdee, C. A. Mars, Macromolecules 2005, 38, 2033-2036.)に記載の手順によって、P−BSおよびP−HSのジチオ安息香酸部分を、2-シアノプロピル ω-末端基に変換した(スキーム 3)。
【0051】
【化14】

スキーム 3. ω-末端基における、ジチオ安息香酸から2-シアノプロピル基への変換
【0052】
代表的な実験において、ジチオ安息香酸ω-末端基(0.9968 g, 0.118 mmol)を有するP−BS(Mn=8500, Mw/Mn=1.09)とAIBN(0.56 g, 3.4 mmol)を、トルエン10mlに溶解した。その溶液は、2時間窒素攪拌することによって脱ガスされ、90℃で2時間加熱された。反応後、溶液を冷まし、ポリマーを、過剰のメタノールで析出し、白色パウダーを得た。1H-NMR解析から、そのポリマーは、2-シアノプロピルω-末端基を1ユニット有するポリスチレン(P−BC)であることが分かった。収率:91% Mn=8300; Mw/Mn= 1.13
【0053】
実施例1
ブレンドフィルムの合成:
組成比(50/50 (wt/wt))のポリマーブレンドは、溶媒としてジクロロメタンを用い、従来の溶液流延法により合成された。5 wt%のポリマー混合物を含有する溶液は、完全に溶解されるまで1時間攪拌され、ガラス製のペトリ皿の上に置かれた。溶液はゆっくり室温で24時間、濃縮され、生成したキャスト・フィルムは24時間、室温で減圧下、完全に乾燥された。
【0054】
α鎖末端基にヒドロキシスチレン1ユニットを有するポリスチレンの製造:
それぞれのα鎖末端に1つのtert-ブトキシスチレンを有するポリスチレン(P−BSと表記される)を、チオカルボニルチオ基を有する連鎖移動剤(CTA2)で、110℃でRAFT重合法により合成した。ポリマー化の結果を表1にまとめる。
【0055】
【表1】

【0056】
このポリマー化の制御/本来の性質については動力学的(速度論的)に解析した。図1 (a)に、[M]0/[CTA 2]0=300/1([M]0と[CTA 2]0は、それぞれモノマーとCTA2の初期濃度、[M]tは時間tにおけるモノマーの濃度を表す)の条件において、ポリマー時間に対するln([M]0/[M]t)の変化を示す。ln([M]0/[M]t)のプロットは直線であり、一次速度式によく類似していた。SEC解析により平均分子量Mnを見積もると、Mnは変換率の増加に対して、直線的に増加し(図 1(b)、ポリマー化は制御されていることを表している。多分散度の値(PDI)、Mw/Mnはポリマー化の間、1.15以下に保持された。得られたP-BSの1H-NMRスペクトルは、ポリスチレン特有のシグナルと、αおよびω末端基由来のマイナーなシグナルを示し(図2)、これらのマイナーなシグナルは、表1で得られたMn値と同様のP−BSのMn値を表した。これらの結果から、開始剤としてのスチレンとCTA2のRAFT重合がよく進行し、低い多分散度である、1つのtert-ブトキシスチレン(α鎖末端)ユニットと1つのジチオ安息香酸(ω鎖末端基)を有するP−BSを得たことが分かった(スキーム 4)。
【0057】
【化15】

【0058】
表1に示すように、[M]0/[CTA 2]0の比を変化させることにより、分子量2200-20100の各種P−BSを得た。表1のサンプル名は、合成P−BSの特性、つまり、平均分子量とαおよびω末端の化学構造をそれぞれ表しており、例えば、P−22BSは、Mn=2200、α鎖末端基としてtert-ブトキシスチレンユニット、ω鎖末端基としてジチオ安息香酸を有するポリマーを表している。
ポリスチレンのα鎖末端基であるtert-ブトキシスチレンは、酸性条件下、60℃でtert-ブチル基の脱保護化することにより、ヒドロキシスチレンに変換された。tert-ブチル保護基が完全に除去されたことは、13C-NMR解析により分かった。図3に、P−22BSを脱保護化する前後の13C NMRスペクトルを示す。29ppmにおけるシャープなシグナルは、tert-ブチル基の3つのメチル基の炭素原子に帰属するものであり、加水分解後、消失した。P−BSにおけるtert-ブチル基の脱保護化は、定量的に進行し、α鎖末端基に1つのヒドロキシスチレンを有するポリマー(P−HS)を得た。
【0059】
試験例
ポリ(ブチルメタクリレート)とのブレンドおよびSEM観測:
α鎖末端基は異なるが、同様のω鎖末端(ジチオ安息香酸)を有するポリスチレンである、P−HS、P−BSおよびP−StS (スキーム4)を、ポリ(ブチルメタクリレート)(PBMA)と50/50(wt/wt)の配合比でブレンドした。PBMAはポリスチレンと比べてより長い鎖(Mn=82000, Mw=170000)を有する。最小のMn値を有するポリスチレン:P−22BS,P−22HS,P−25StSの場合、PBMAとの混和性が良いことから、α末端基の化学構造に関係なく、透明なフィルムが形成されることが分かった。P−44〜153BSとPBMAのブレンドフィルムは相分離するために、不透明なフィルムであった。P−51〜130StSとPBMAのブレンドフィルムにおいても同様に、不透明なフィルムであることが観測された。一方、Mnが2200-8400であるP−HSとPBMAとのブレンドフィルムは透明であった。これらの結果から、鎖末端のヒドロキシスチレン1ユニットは、混和促進剤として効率的に機能したことが示唆される。
図4に、PBMA/P−85BS(×200)とPBMA/P−85HS(×3000)のSEM像が後方散乱電子(BSE)から形成された、ブレンドフィルムの代表的なSEM像を示す。
PBMA/P−85BSのブレンドフィルムは、直径10-20μmのPBMAドメイン(明るい部分)の形成によって示されるマクロ相分離を示した(図4(a))。一方で、PBMA/P−85HSブレンド(×3000)においては、ドメインは観測されず、DSC測定によって観測された混和性を反映していた(図4(b))。
【0060】
α鎖末端HSt1ユニットの、PBMA/ポリスチレンブレンドの熱特性に対する寄与:
ポリマーブレンドの熱特性を測定するための従来の方法は、示差走査熱量測定法(DSC)である。3種のブレンド:PBMA/P−BS、PBMA/P−StSおよびPBMA/P−HSの混和性および熱安定性を測定するため、10℃/minの一定加熱速度でDSC測定が行われた。DSCサーモグラムは、図5,6および7に示され、解析結果を表2にまとめた。
図5にPBMA/P−BS系のDSCサーモグラムを示した。透明なフィルムであるPBMA/P−22BSは、50℃付近で、1つのガラス転移Tgを示した。不透明なフィルムを形成する、P−44〜201BSと他のPBMA/P−BSブレンドにおいては、2つのガラス転移点:Tg1とTg2を、それぞれ40℃および100℃付近に観測し、成分が混和していない(非混和性)あるいは部分的に混和していることを示した。Tg1とTg2の値は、PBMAの豊富なドメイン、あるいはP−BSの豊富なドメインのガラス転移に依存しなければならない。図5(b)-(f)及び表2に示されるように、Tg1とTg2値は、Mn値の増加に伴って、PBMAのガラス転移温度(31℃)およびP−BSホモポリマーのガラス転移温度(84-102℃)のそれぞれに接近した。これらの結果は、PBMAの豊富なドメインにおけるP−BS量が、P−BSのMn値の増加に伴い、徐々に減少したことを示唆する。ブレンドフィルムのTg2値は、P−BSホモポリマーのTg値とほぼ等しく、マトリックスがフリーのP−BSホモポリマーによって占められることを示唆した。
PBMA/P−StSブレンドフィルムのDSCサーモグラムは図6に示され、PBMA/P−BSブレンドフィルムにおいて得られた結果とほぼ同様であり、単一tert-ブトキシα鎖末端基の、PBMAとの混和性に対する影響がほとんどないことを示した。
図7はPBMA/P−HSブレンドフィルムのDSCサーモグラムを示す。これらのサーモグラムは、PBMA/P−22〜85HSブレンドにおいて、50℃付近に1つのガラス転移点を示し、これらのブレンドの混和性と、均一のアモルファス相の間接的に存在していることを強く支持している。ブレンドフィルムの混和性に対する上記の結果は、ポリスチレンに導入されたα鎖末端ヒドロキシスチレン1ユニットが、PBMAとの混和性に有意に寄与することを明確に表している。
【0061】
【表2】

【0062】
α末端にtert-ブトキシスチレン或いはヒドロキシスチレンを1ユニット有する特定のポリスチレン(P−BS或いはP−HS)は、特定の連鎖移動剤、CTA2を用いてスチレンのRAFT重合し、続く脱保護化反応によって合成された。制御された/無制御のポリマー化により、Mn値が2200-20100で低いPDI値(Mw/Mn=1.09-1.16)の特定のポリスチレンを得ることができる。PBMAとP−HSからなるブレンドはP−HSのMn値が2200-8500である混和システムであった。ポリスチレンのα鎖末端にヒドロキシスチレンを1ユニット有する場合、PBMAとの混和において有意な効果を有し、相当するMn値を有するホモ‐ポリスチレンと区別できた。
【0063】
実施例2:ARTON/ポリスチレンブレンドフィルムの作製
末端修飾ポリスチレン(P−HSt, P−BSt, P−St)とARTON(JSR社製、G7810、Mw = 170000; Tg 168℃)とを重量比50/50で混合し、この混合物をジクロロメタンに溶解して5wt%溶液を調製した。この溶液をフラットシャーレに移し、室温常圧下で1日、さらに室温真空下で1日乾燥させてキャストフィルムを作成した。用いられたそれぞれの末端修飾ポリスチレンの化学構造を次に分子量を表3に示す。
【0064】
【化16】

【0065】
【表3】

【0066】
得られたそれぞれのブレンドフィルムの目視観察の結果を表4に示す。末端にヒドロキシスチレンを有するポリスチレン(P−HSt22〜100)は2200から10000の分子量において透明なブレンドフィルムが得られ、ARTONと相溶していることを示唆する。一方、末端がブトキシスチレン(P−BSt62, 100)またはスチレン(P−St61)のブレンドフィルムでは不透明なフィルムが得られ、これらは非相溶系であることが示唆される。
【0067】
【表4】

【0068】
ARTON/ポリスチレンブレンドフィルムの示差走査熱量測定
ブレンドフィルムのガラス転移温度(Tg)の測定は、セイコーインスツルメント社製の示差走査熱量計(DSC)DSC6200を用いて測定した。キャリアーガスとして窒素ガスを20ml/分で流し、サンプルをアルミパン中に入れて、昇温速度10℃/分で行った。
図8は末端にヒドロキシスチレンを有するポリスチレン(P−HSt22〜100)がブレンドされたARTONフィルムのDSC測定結果を示している。これらは、透明なフィルムが得られている系である。全てのフィルムにおいて単一のTgが観測され、その値は、ARTONとP−HStのホモポリマーのガラス転移温度の中間の温度であった。この結果は、ARTONとP−HStのブレンド系が相溶系であることを強く示唆しており、目視観察結果と矛盾しない。ブレンドフィルムとそれぞれのホモポリマーのガラス転移温度を表5に示す。一方、末端がブトキシスチレン(P−BSt)またはスチレン(P−St)の系においては、図9に示すように100℃付近の低温側と130℃から150℃の範囲にある高温側の二つのガラス転移温度が観測された。これらの結果は、これらの系が非相溶であることを示唆している。ほぼ同じ分子量をもち末端の化学構造が異なるP−HSt62、P−BSt62、P−St61の三種類のポリスチレンにおいてARTONとの相溶性を比較すると、末端にヒドロキシスチレンが導入されることにより顕著に相溶性が向上していることは明らかである。
【0069】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】スチレンのRAFT重合のポリマー化時間に対する一次速度式プロットを示す図である。
【図2】ポリマーのNMRスペクトルを示す図である。
【図3】ポリマーの13C-NMRスペクトルを示す図である。
【図4】ブレンドフィルムの後方散乱電子SEM写真である。
【図5】PBMA/P-BSブレンドフィルムのDSCサーモグラムを示す図である。
【図6】PBMA/P−StSブレンドフィルムのDSCサーモグラムを示す図である。
【図7】PBMA/P-HSブレンドフィルムのDSCサーモグラムを示す図である。
【図8】ARTON/P−HStブレンドフィルムのDSC測定結果を示す図である。
【図9】ARTON/P−BSt, ARTON/P−StブレンドフィルムのDSC測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記式(1)で表される末端修飾重合体および(b)熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1及びR2は1価の有機基を示すか、又はR1とR2が結合して隣接する炭素原子と共に環構造を形成してもよい。R4は水素原子またはメチル基であり、R5は1価の有機基を示す。R6は1価の有機基を示す。lは1〜10の数を示し、mは10〜1000の数を示し、nは1〜5の数を示す。)
【請求項2】
熱可塑性樹脂が環状オレフィン系重合体である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(a)下記式(1)で表される末端修飾重合体と、(b)熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【化2】

(式中、R1及びR2は1価の有機基を示すか、又はR1とR2が結合して隣接する炭素原子と共に環構造を形成してもよい。R4は水素原子またはメチル基であり、R5は1価の有機基を示す。R6は1価の有機基を示す。lは1〜10の数を示し、mは10〜1000の数を示し、nは1〜5の数を示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−65084(P2010−65084A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230300(P2008−230300)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】