説明

熱可塑性難燃樹脂組成物、該樹脂組成物からなる難燃繊維および難燃繊維の製造方法

【課題】難燃性およびドリップ抑制の効果に優れ、かつ熱処理を伴う成形加工時にベンゼンの発生量が抑制され、生産時の安全性を満足できる熱可塑性難燃樹脂組成物、それを用いた難燃繊維、および該難燃繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】オルガノポリシロキサンとリン化合物を含有する熱可塑性樹脂から構成される樹脂組成物において、オルガノポリシロキサンがフェニル基を有した特定のオルガノポリシロキサンであり、リン化合物が該熱可塑性樹脂組成物に対してリン元素換算で20〜500ppm含有していることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物、それを用いた難燃繊維、および該難燃繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化合物とフェニル基を有するオルガノポリシロキサンが添加された熱可塑性難燃樹脂組成物および該熱可塑性難燃樹脂組成物からなる難燃繊維に関するものである。特に、難燃性、ドリップ抑制の効果に加えて、溶融紡糸時等の熱処理を伴う成形加工時におけるベンゼンの発生量が抑制され、難燃繊維を安全に製造可能な難燃性熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、易燃焼性樹脂、易燃焼性繊維などの素材の難燃化手法として、含塩素系難燃剤、含臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤、またはハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤を含有させた素材が数多く提案されている。しかしながら、これらの素材は難燃性には優れるものの、ハロゲン系難燃剤は燃焼時にハロゲン化ガスを発生する懸念があるなどの問題があり、これらの問題を解決するために数多くの検討がなされている。
【0003】
例えばハロゲン元素やアンチモン元素を含まないリン化合物を使用したリン系難燃剤を含有した素材が数多く提案されているが、難燃性はハロゲン系、アンチモン系難燃剤よりも低く、難燃性能は不十分である。
【0004】
これら問題を解決するためにハロゲン元素、アンチモン元素、リン元素を含まないシリコーン系化合物を使用した検討が行われている。このシリコーン系化合物とは1官能性のR3SiO0.5(M単位)、2官能性のR2SiO1.0(D単位)、3官能性のRSiO1.5(T単位)、4官能性のSiO2.0(Q単位)で示される構造単位のいずれかから構成されるものである。
【0005】
このシリコーン系化合物を利用して難燃性を付与する例として、非シリコーンポリマーとモノオルガノシロキサンとの混練物からなる溶融加工可能なポリマー組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
確かにこの例ではハロゲン元素やアンチモン元素、リン元素を含まず、ある程度の難燃性を発現することが可能であるが、難燃性を発現するためには非シリコーンポリマーとモノオルガノシロキサンの配合比を10:1乃至1:5の範囲にすることが必要であり、モノオルガノシロキサンの添加量が多く、コストアップや非シリコーンポリマーの物性低下を招く問題がある。また、ドリップを抑制することはできないといった課題がある。
【0007】
また、熱可塑性樹脂の難燃性およびドリップ抑制性を改善することを目的として、芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)と、式R2 SiO1.0で示される単位と式RSiO1.5 で示される単位を持ち、重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつ、前記Rがフェニル基であるシリコーン樹脂(B)とを含有する難燃性樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
かかるフェニル基を有するシリコーン樹脂を使用する難燃性樹脂組成物は、難燃性およびドリップ抑制という技術的効果に優れるものである。ところが、かかる難燃性樹脂組成物を熱処理を伴う成形加工により紡糸等をした場合、特に難燃繊維に加工するために溶融紡糸した場合に、製造時の熱によりシリコーン樹脂が熱分解し側鎖のフェニル基が脱離して有毒物質であるベンゼンが発生するといった安全上の課題があり、該熱可塑性難燃樹脂組成物および難燃繊維を製造する際には、排気設備などの安全設備が必要になるという問題があった。
【特許文献1】特開昭54−36365号公報
【特許文献2】特開平10−139964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような現状に鑑み、熱可塑性樹脂組成物および繊維構造物の難燃性およびドリップ抑制の効果に優れ、かつ熱処理を伴う成形加工時にベンゼンの発生量が抑制され、生産時の安全性を満足できる熱可塑性難燃樹脂組成物を提供すること、ドリップ抑制の効果を有する難燃性繊維を提供すること、および該熱可塑性難燃樹脂組成物を溶融紡糸することにより難燃性繊維を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱可塑性難燃樹脂組成物は、オルガノポリシロキサンとリン化合物を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、下記(A)および(B)を満たすことを特徴とするものからなる。
(A)オルガノポリシロキサンが下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンであること
(C65m1m2SiXn(4-m1-m2-n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕
(B)リン化合物を該熱可塑性樹脂組成物全体に対してリン元素換算で20〜500ppmである量を含有していること
【0011】
また、本発明に係る難燃繊維は、このような熱可塑性難燃樹脂組成物からなる。本発明に係る難燃繊維の製造方法は、(C)ポリエステル、ポリアミドおよびポリオレフィンからなる群から選ばれた1種類以上の熱可塑性樹脂、(A)熱可塑性樹脂組成物全体に対して1〜50重量%となる量の下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン、および(B)熱可塑性樹脂組成物全体に対してリン元素換算で20〜500ppmとなる量のリン化合物からなる熱可塑性難燃樹脂組成物を、200℃〜350℃での熱処理を伴う成形加工を行い、紡糸時のベンゼン発生量が1.0ppm未満であることを特徴とする方法からなる。
(C65m1m2SiXn(4-m1-m2-n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、難燃樹脂素材や難燃繊維素材として、具体的には、産業用途、衣料用途、非衣料用途などにおいて、難燃性が高く、ドリップ抑制の効果に優れ、且つ熱処理を伴う成形加工時にベンゼンの発生量が抑制され、安全に生産可能な熱可塑性難燃樹脂組成物と、該熱可塑性難燃樹脂組成物からなる難燃繊維を提供でき、かつ、該熱可塑性難燃樹脂組成物を溶融紡糸することにより所望の難燃繊維を製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
熱可塑性樹脂は本発明に係る熱可塑性難燃樹脂組成物の主成分であり、ポリエステル、ポリアミドおよびポリオレフィンから選ばれた樹脂が好適に使用することができ、特に、ポリエステルが好適に使用できる。本発明において、これらの熱可塑性樹脂は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
このようなポリエステルとして具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸等が挙げられる。なかでも本発明では、最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適である。また、これらのポリエステルには、共重合成分としてアジピン酸、イソフタル酸、セバシン酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオキシ化合物、p−(β−オキシエトキシ)安息香酸等のオキシカルボン酸及びそのエステル形成物誘導体等が共重合されていてもよい。
【0015】
前記ポリアミドとして具体的には、−CONH−の繰り返し構造を持つナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等が挙げられる。
【0016】
前記ポリオレフィンとして具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0017】
本発明では、熱可塑性樹脂としてポリエステルを選択することにより、熱可塑性樹脂および該熱可塑性樹脂からなる繊維構造物の燃焼時のドリップ抑制の効果および難燃性が飛躍的に向上するものであり、特に溶融紡糸等の熱処理時にベンゼンの発生量が抑制され、安全に製造することが可能である。
【0018】
熱可塑性樹脂は、熱可塑性難燃樹脂組成物に対して重量比で50%以上含有していることが好ましく、70%以上含有していることがさらに好ましい。しかし、ドリップ抑制の効果、難燃性、樹脂組成物の物性、生産安定性などの低下が無い範囲で、他の有機ポリマーや無機化合物とのブレンド、アロイ、コンポジットなどを用いることも可能である。
【0019】
本発明に係る熱可塑性難燃樹脂組成物は下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンを含有することを第1の特徴とする。該オルガノポリシロキサンは、フェニル基を有するオルガノポリシロキサンであって、(A)下記一般式(1)で表される。
【0020】
一般式:
(C65m1m2SiXn(4-m1-m2-n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である。〕
【0021】
かかる構造上の特徴を満たすフェニル基を有するオルガノポリシロキサンを選択することにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物は難燃性およびドリップ抑制効果に優れたものとなる。さらに、後述するリン化合物の含有量を満たすことで熱処理を伴う成形加工時であっても、有害性の高いベンゼンの発生を抑制することができる。
【0022】
本発明の熱可塑性難燃樹脂組成物の軟化点は200℃〜350℃であることが好ましい。軟化点とは熱可塑性難燃樹脂組成物が変形を開始する温度であり、熱可塑性樹脂組成物の溶融成形は軟化点以上で行われることが多い。200℃より低い場合は本発明の熱可塑性難燃樹脂組成物を用いなくてもベンゼンの発生が少ないため本発明による効果が得られにくく、軟化点が350℃より高い場合は成形加工時にベンゼンが発生する傾向にあり好ましくない。
【0023】
本発明で用いられるオルガノポリシロキサンは、上述の如く、一般組成式(1)で表されることを第一の特徴とする。
(C65m1m2SiXn(4-m1-m2-n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である。〕
【0024】
上記Rは水素原子またはアルコキシ基を除いた一価の有機基であり、炭素原子数1以上10以下の置換または非置換の一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン置換アルキル基などが好適である。特に、工業的にはメチル基とフェニル基が好ましく、得られるオルガノポリシロキサンを難燃剤に用いる場合には、Rがアリール基、特にはフェニル基であることが好ましい。
【0025】
上記官能基Xは、シラノール基(−OH)またはシラノール基(−OH)の水素原子が所定の官能基R’で置換されてなる加水分解性基(−OR’)であり、かかる官能基Xは、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の難燃性、ドリップ抑制の効果および生産安定性を改善するために必須となる官能基である。上記官能基(−OR’)に代えて、例えばトリメチルシロキシ基(−OSi(CH33)のような加水分解性を持たない官能基を選択した場合、該オルガノポリシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物の難燃性が低下し、燃焼時のドリップが発生する場合がある。
【0026】
前記オルガノポリシロキサンの製造方法は特に限定されるものではない。例えば、目的とするオルガノポリシロキサンの分子構造及び分子量に従ってフェニルクロロシラン類およびフェニルアルコキシシラン類からなる群から選択される少なくとも1種のフェニル基を有するオルガノシラン類および任意でそれ以外のオルガノクロロシラン類に適宜の水を反応させた後、必要に応じて縮合反応促進触媒を用いて更に高分子量化し、また、添加した有機溶媒、副生する塩酸や低沸点化合物を除去することによってシラノール基(−OH)を含有したオルガノポリシロキサンを得ることができる。更に、アルコール系化合物またはフェノール系化合物を添加して、オルガノポリシロキサン中のシラノール基(−OH)の一部または全部と反応させることにより、オルガノポリシロキサン中に、該シラノール基の水素原子を置換して、アルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンを製造することができる。これらの加水分解性基(X’)を有するオルガノポリシロキサンは、下記一般式(3)で表すことができる。
【0027】
一般式:(C65aR’bSiX’c(4-a-b-c)/2 (3)
〔式中、R’は水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、X’はOH基またはアルコキシ基であり、a,b,cは0.3≦a≦1.8、0≦b≦1.5、1.0≦a+b<2.0、0.2≦a/(a+b)≦1.0、0≦c≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である。〕
【0028】
フェニルクロロシラン類の具体例としては、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリフェニルクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン等が例示される。
【0029】
フェニルアルコキシシラン類の具体例としては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン等が例示される。
【0030】
その他のオルガノクロロシラン類の具体例として、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等のアルキルクロロシラン;トリフルオロプロピルトリクロロシラン、トリフルオロプロピルメチルジクロロシラン等のフッ化アルキルクロロシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジエトキシシラン等のフッ化アルキルアルコキシシランが例示される。
【0031】
中でも、難燃性の観点から該オルガノクロロシランがフェニルクロロシランとアルキルクロクロロシランを100:0〜1:99の比で混合したものであり、オルガノアルコキシシランがフェニルアルコキシシランとアルキルアルコキシシランを100:0〜1:99の比で混合したものであることが好ましい。ここで、フェニルクロロシラン、アルキルクロロシラン、フェニルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシランは前記に例示したシラン類が例示される。オルガノクロロシランがフェニルクロロシランとアルキルクロクロロシランの混合比あるいはフェニルアルコキシシランとアルキルアルコキシシランの混合比は100:0〜50:50であることが更に好ましく、100:0〜90:10であることが難燃性の点から特に好ましい。
【0032】
前記の一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンは、その重量平均分子量が500〜1000の範囲にあるフェニル基および加水分解性基(X’)を有する一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサンを、有機溶媒中で縮合反応促進触媒を用いて縮重合させることにより、更に高分子量化することによっても得ることができる。かかる高分子量化により得られた一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンは、重量平均分子量Mwが1,500〜10,000の範囲にあることが好ましく、2,000〜7,500の範囲であることが特に好ましい。
【0033】
上記のオルガノポリシロキサン原料を調製するための縮合反応促進触媒には、公知の縮合触媒を用いることができるが、本発明においては、リン化合物を縮合触媒として用いることが好ましく、特に、ホスフィンオキシドであるリン化合物を縮合触媒として用いることが好ましく、これにより、オルガノポリシロキサンの耐熱性が向上しベンゼンの発生量が抑制されるという利点がある。これらのリン化合物は、後述する(B)リン化合物と同様であり、縮合反応促進触媒としてのリン化合物の使用量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物全体に対してリン元素換算で20〜500ppmである量となる範囲内であることが必要である。
【0034】
かかるリン化合物をオルガノポリシロキサンの縮合反応促進触媒として使用することにより、前記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンとリン化合物を別々に本発明の熱可塑性樹脂組成物に配合することが不要となり該熱可塑性樹脂組成物の製造工程が簡略化できる。また、得られる熱可塑性樹脂組成物中におけるリン化合物の分散性、配合安定性がさらに改善され、該熱可塑性樹脂組成物の難燃性およびドリップ抑制効果が改善され、成形加工時に有害性の高いベンゼンの発生を抑制することができる実益がある。
【0035】
すなわち、本発明で用いられる前記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンは、フェニルクロロシラン類およびフェニルアルコキシシラン類からなる群から選択される少なくとも1種のフェニル基を有するオルガノシラン類、または下記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサンを、リン化合物の存在下に縮重合反応させることにより得られたオルガノポリシロキサンであることが好ましく、ホスフィンオキシドであるリン化合物の存在下に縮重合反応させることにより得られたオルガノポリシロキサンであることが特に好ましい。さらに、該オルガノポリシロキサンの重量平均分子量Mwが1,500〜10,000の範囲にあることが好ましく、2,000〜7,500の範囲であることが特に好ましい。
一般式:(C65aR’bSiX’c(4-a-b-c)/2 (3)
〔式中、R’は水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、X’はOH基またはアルコキシ基であり、a,b,cは0.3≦a≦1.8、0≦b≦1.5、1.0≦a+b<2.0、0.2≦a/(a+b)≦1.0、0≦c≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である。〕
【0036】
オルガノポリシロキサン原料を調製するための縮合反応促進触媒として好適なリン化合物は、下記一般式(2)で表されるホスフィンオキシドである。
【0037】
【化1】

[式中、R1、R2およびR3は炭素数1〜15の炭化水素基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0038】
上記ホスフィンオキシドとして、さらに具体的には、トリメチルホスフィンオキシド、トリエチルホスフィンオキシド、トリプロピルホスフィンオキシド、トリイソプロピルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、ジフェニル−2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド等を例示することができ、最も好適にはトリフェニルホスフィンオキシドである。
【0039】
その他の縮合反応促進触媒として、有機酸スズ塩、有機酸チタン塩、有機酸ジルコニウム塩、有機酸アルミニウム塩などの有機酸金属塩が挙げられる。また、これらの触媒は単独で用いてもよく、2種類以上で使用してもよい。なお、一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンに含まれる金属元素の全含有量は、10ppm以下であることが好ましく、金属元素を含む縮合反応促進触媒、特に有機酸金属塩である縮合反応促進触媒を実質的に含有しないことが好ましい。オルガノポリシロキサン中の金属元素の全含有量が10ppmを超えると、オルガノポリシロキサンの耐熱性が低下し、ベンゼンの発生量が増加する場合があるためである。
【0040】
これらの縮合反応促進触媒の使用量は任意であるが、上記のオルガノポリシロキサン原料の固形分に対し、0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜1質量%であることが特に好ましい。前記下限未満の使用量では、該オルガノポリシロキサン原料を製造するための工程が長時間を要し、作業効率が低下する可能性がある。一方、該触媒の使用量が前記上限を超えると、該オルガノポリシロキサン原料を製造するための反応の制御が困難になり、製造後のオルガノポリシロキサンの物性が経時的に変化するおそれがある。さらに、工業上、大量の縮合反応促進触媒を使用することは経済的ではない。なお、本発明において、縮合反応促進触媒であるリン化合物は、後述する(B)リン化合物のホスフィンオキシドと同様であり、縮合反応促進触媒としてのリン化合物の使用量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物全体に対してリン元素換算で20〜500ppmである量となる範囲内であることが必要である。
【0041】
加水分解縮合反応または縮合反応の温度と時間は、原料の反応性や、実施スケールにより変化する場合があるが、通常は10〜150℃の温度で1〜29時間の反応時間を選択することができる。また、オルガノポリシロキサンの重量平均分子量Mwが1,500〜10,000の範囲に達したことは、反応溶液のGPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)を測定することにより、容易に確認することができる。
【0042】
また、上記加水分解縮合反応または縮合反応に用いる有機溶媒は、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などの溶剤から選択することができる。
【0043】
また、オルガノポリシロキサンを含有した熱可塑性難燃性樹脂の難燃性、ドリップ抑制性、溶融成形性の改善を目的として、分子中のシラノール基(−OH)の一部または全部をアルコール系化合物またはフェノール系化合物と反応させることにより、シラノール基の一部または全部をアルコキシ化することができる。
【0044】
オルガノポリシロキサン原料のシラノール基と反応させるアルコール系化合物として、n−オクタノール、2オクタノール、ノニルアルコール、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノール、5−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、デシルアルコール、イソデシルアルコール、ウンデシルアルコール、2−ウンデカノール、ドデシルアルコール、2−ドデカノールなどが挙げられるが、炭素原子数8以上のアルコール系化合物であればこの限りではない。また、シラノール基と反応させるフェノール系化合物の具体例として、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3,5−トリメチルフェノール、2−ビニルフェノール、4−ビニルフェノール、2−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2−アリルフェノール、2−n−プロピルフェノール、2−イソプロピルフェノール、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、4−n−ブチルフェノール、2−s−ブチルフェノール、4−s−ブチルフェノール、3−t−ブチルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−s−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、4−n−ペンチルフェノール、4−t−ペンチルフェノール、2,4−ジ−t−ペンチルフェノール、4−n−ヘキシルフェノール、4−n−ヘプチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、4−n−オクチルフェノール、4−t−オクチルフェノール、4−ノニルフェノール、2,4−ジ−ノニルフェノール、4−ドデシルフェノール、2−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、4−α−クミルフェノール、2,4,6−トリ(α−メチルベンジル)フェノール1−ナフトール、α−ナフトール、β−ナフトールなどが挙げられるが、フェノール系化合物であればこの限りではない。中でも、p−フェニルフェノール、p−α−クミルフェノール、3−メチル−4−イソプロピルフェノールが取り扱い性も容易であり、且つ、得られたオルガノポリシロキサンを含有した熱可塑性難燃性樹脂の難燃性、ドリップ抑制性、溶融成形性が良好であり、好ましい。
【0045】
アルコール系化合物またはフェノール系化合物とシラノール基(−OH)含有オルガノポリシロキサン原料は、任意の条件下で反応させることができ、シロキサン原料を含む有機溶媒中で反応させてもよく、乾燥後のシロキサン原料と直接溶融混練してもよい。
【0046】
例えば、有機溶媒中でシラノール基(−OH)含有オルガノポリシロキサン原料の重量平均分子量が、1,500〜10,000の範囲に達したことを確認後、反応溶液を冷却し、前記のアルコール系化合物またはフェノール系化合物を1種類または二種類以上を添加して、系内から出てくる水分を抜きながら、加熱攪拌することにより下記一般組成式(1−1)で表されるオルガノポリシロキサンを得ることができる。
【0047】
(C65m1m2Si(−OR4n1(−OH)n2(4-m1-m2-n1-n2)/2 (1−1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、R4は置換または非置換のアリール基、シクロアルキル基、炭素原子数8以上の直鎖状および分岐状アルキル基から選択された一価の炭化水素基であり、m1,m2,n1,n2は0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0<n1≦1.5、0≦n2≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n1+n2≦3.0を満たす数である。〕
【0048】
同様に、有機溶媒中でシラノール基(−OH)含有オルガノポリシロキサン原料の重量平均分子量が、1,500〜10,000の範囲に達したことを確認後、反応溶液を冷却し、脱水、溶媒除去等の公知の方法で後処理を行なうことにより、所定の重量平均分子量Mwを有するシラノール基(−OH)含有オルガノポリシロキサン原料を乾燥固体として得ることができる。該オルガノポリシロキサン原料の乾燥固体を反応容器に移し、前記のアルコール系化合物またはフェノール系化合物を1種類または2種類以上を添加して、系内から発生する水分を抜きながら、150〜350℃で加熱融解させ、シラノール基(−OH)含有オルガノポリシロキサン原料と前記のアルコール系化合物またはフェノール系化合物を溶融反応することにより、上記と同様の一般組成式(1−1)で表されるオルガノポリシロキサンを得ることができる。
【0049】
本発明のオルガノポリシロキサンを含有した熱可塑性樹脂組成物は、(B)リン化合物を該熱可塑性樹脂組成物に対してリン原子換算で20〜500ppm含有していることを第2の特徴とする。ここで、熱可塑性樹脂組成物とはオルガノポリシロキサンを含んだ熱可塑性樹脂全量に対するリン化合物の含有量であり、リン化合物が縮合反応促進触媒としてオルガノポリシロキサン中に含有していてもよい。
【0050】
リン化合物の含有量が20ppmより少ない場合、前記一般式(1)で表されるフェニル基を有するオルガノポリシロキサンの熱分解を抑制することができず、側鎖のフェニル基が脱離し有害な化合物であるベンゼンが多く発生する。また、500ppmを超えるとベンゼン発生の抑制効果が頭打ちになり経済的に不利となるうえ、燃焼時のドリップ抑制効果がなくなる場合がある。更に、成形加工時にリン化合物がブリードアウトし口金へ付着して口金を汚染するなどの現象が生じることがある。
【0051】
前記リン化合物としてはリン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスフィン化合物、ホスフィナイト化合物、ホスホナイト化合物、ホスフィンオキシド、ホスフィネート化合物、ホスホネート化合物が挙げられる。
【0052】
中でも下記一般式(2)で表されるホスフィンオキシドを含有した熱可塑性樹脂組成物は、人体に有害なベンゼンの発生量が特に少なく好ましい。
【化2】

[式中、R1、R2およびR3は炭素数1〜15の炭化水素基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0053】
一般にホスフィンオキシドおよびホスフィンオキシドの構造要素を分子内に含む有機リン化合物が上記一般式(2)に該当する。
【0054】
ホスフィンオキシドの具体例としては、例えばトリメチルホスフィンオキシド、トリエチルホスフィンオキシド、トリプロピルホスフィンオキシド、トリイソプロピルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、ジフェニル−2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド等が挙げられる。最も好適には、トリフェニルホスフィンオキシドである。
【0055】
該リン化合物を添加する時期は特に限定されない。オルガノポリシロキサンの製造時に縮合反応促進触媒や添加物として添加してもよく、熱可塑性樹脂の製造時に添加してもよい。また、オルガノポリシロキサンと熱可塑性樹脂を混合する際に同時にリン化合物を添加してもよい。
【0056】
該リン化合物を添加する場合、オルガノポリシロキサンの製造時に用いられる縮合反応促進触媒として該リン化合物を添加することが最も好ましい。かかる製造方法により、オルガノポリシロキサンの耐熱性が飛躍的に向上し、得られる熱可塑性樹脂の溶融成形時のベンゼン発生量が少なくなるためである。また、該リン化合物は、縮合反応促進触媒である前記一般式(2)で表されるホスフィンオキシドであることが好ましい。
【0057】
次に本発明の熱可塑性難燃樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0058】
本発明の熱可塑性難燃樹脂組成物は前記した(A)オルガノポリシロキサンおよび(B)リン化合物を含有する樹脂組成物であり、成分(A)であるオルガノポリシロキサンは、公知の方法により熱可塑性樹脂組成物中に添加することができる。例えば、二軸押し出し機やバンバリーミキサーなどにより熱可塑性樹脂とオルガノポリシロキサンを混合する方法が挙げられるが、熱可塑性樹脂中に混合、分散されればこれに限るものではない。
【0059】
また、樹脂組成物に対するオルガノポリシロキサンの含有量は1〜50重量%であり、2〜20重量%が好ましい。オルガノポリシロキサンの含有量が前記範囲より少ない場合には十分な難燃性能を発現せず、まだ逆に多い場合には、熱可塑性樹脂、特にポリエステル系の熱可塑性樹脂が持つ物理的性質を損なうだけでなく、ポリエステル繊維を製造する際の、操業性も低下するので好ましくない。
【0060】
本発明の熱可塑性難燃樹脂組成物は、熱処理を伴う成形加工時にベンゼンの発生量が抑制されるため、熱処理を伴う成形加工によって、安全に繊維、フィルムまたはシートを生産することができる。特に繊維として用いると難燃性およびドリップ抑制の効果を発現し好ましい。
【0061】
繊維の製造方法については特に限定されないが、熱処理を伴う成形加工として、溶融紡糸工程、延伸工程を経て製造する方法が好適に用いられる。
【0062】
溶融紡糸工程とは、熱可塑性樹脂組成物の軟化点より高い温度、特に結晶性樹脂に関しては融点より高い温度において溶融させ、ノズルを通して糸状に加工する工程のことを言う。
【0063】
延伸工程としては、例えば、回転速度を変更した一対以上のローラ間で延伸する手法がある。
【0064】
(A)オルガノポリシロキサンおよび(B)リン化合物を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる難燃繊維は繊維構造物中に主成分として含有していることが好ましく、繊維構造物に対して重量比で70%以上含有していることが好ましいがこの限りではなく、ドリップ抑制の効果や難燃性、樹脂組成物の物性低下や加工特性の低下が無い範囲で他の繊維との混紡や混繊などが可能である。
【0065】
また、本発明の繊維はフィラメントやステープルとして好適に用いることが可能であり、例えば衣料用途のフィラメントとしては単糸繊度が0.1dtexから十数dtexの範囲であり、総繊度としては50dtexから300dtexでフィラメント数が10から100本の範囲である。また、このようにして得られたフィラメントは例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織し、繊維構造物として得ることができる。また、このときの繊維構造物の質量は50g/m2以上500g/m2以下の範囲である。
【0066】
また、例えば産業用途のフィラメントとしては、単糸繊度が十数dtexから数百dtexの範囲であり、総繊度としては数百dtexから数千dtexでフィラメント数が10から100本の範囲である。また、このようにして得られたフィラメントは衣料用途と同様に例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織し、繊維構造物として得ることができる。また、このときの繊維構造物の質量は300g/m2以上1500g/m2以下の範囲である。
【0067】
このようにして本発明のオルガノポリシロキサンを含有する繊維は織物や編み物、不織布などの布帛形態として得ることが可能であり、繊維製品として特にドリップ抑制の効果や難燃性が必要な繊維製品、例えばカーシートやカーマットなどの車両内装材、カーテン、カーペット、椅子張り地などのインテリア素材、衣料素材などでドリップが抑制され、且つ難燃性を発現する繊維製品として好適に用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例で本発明を具体的に説明する。なお、下記の例において、「部」または「%」とあるのはそれぞれ「重量部」または「質量%」である。オルガノポリシロキサンの重量平均分子量、ガラス転移点は以下に示す方法によりそれぞれ測定した。また、オルガノポリシロキサンの平均構造式は29Si−NMRおよび1H−NMRを用いて同定した。
【0069】
(1)重量平均分子量
下記分析装置により平均分子量ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより求めた標準ポリスチレン換算重量平均分子量で評価した。
・装置:HLC−8120GPC(東ソー株式会社製)
・カラム:TSKgelG1000HHR(東ソー株式会社製)
・測定温度:40℃(カラムオーブン温度)
・流速:1cc/分
・クロロホルム試料:オルガノポリシロキサンを1%クロロホルム溶液として使用
【0070】
(2)熱可塑性難燃樹脂組成物のリン含有量の定量
蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)により求めた。
【0071】
(3)熱可塑性難燃樹脂組成物の軟化点測定
加熱浴槽中の金属フレームに熱可塑性難燃樹脂組成物のチップを置き、中央部に先端を平坦に仕上げた直径1mmの針をのせ、針の上部に1Kgの荷重を加えた状態で50±5℃/hrの速度で温度を上昇させ、針が1mm侵入した時の温度を測定した。
【0072】
(4)29Si−NMR
JNM−EX400(日本電子株式会社製)を使用して、四塩化炭素を溶媒として1H−核および29Si−核磁気共鳴スペクトル分析を行い、オルガノポリシロキサンのシラノール基量を算出した。
【0073】
(5)チップのベンゼン発生量測定
熱可塑性難燃性樹脂組成物を窒素40ml/minを通気しながら300℃で60分加熱処理した時の発生ガス成分を吸着管(吸着剤Tenax−GR)に捕集した。捕集した吸着管を260℃で15分加熱し、捕集したガスを脱着させてガスクロマトグラフィーにて樹脂組成物1gに対するベンゼンの発生量を定量した。
・装置:ヒューレットパッカード社製HP5890
・カラム:DB−5 30m×0.25mmID×0.5μm
・カラム温度:40℃〜280℃(昇温速度6℃/min)
【0074】
(6)溶融紡糸時ベンゼン量測定
検知管(ガステック社製ベンゼン用121SP)を用い、紡糸口金表面より10cm下方部のベンゼン量を測定し、1ppmより低い量を許容範囲内とした。
【0075】
(7)ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
【0076】
[実施例1]
撹拌機付きフラスコにフェニルシルセスキオキサン(分子量:1000、シラノール基含有量:8.0重量%)1000g及びトルエン700gを加え完全溶解させた。次いで、縮合触媒としてトリフェニルホスフィンオキシド(TPPO)10gを混合し加え、トルエンリフラックス温度(110℃)まで加熱した。系内から出てくる水分を抜きながら、4時間縮合反応を継続した。その後、反応後のトルエン溶液をスプレードライヤーで乾燥させ、白色粉体を得た。得られた、オルガノポリシロキサンの分子量は2100、シラノール基の含有量は6.2%であった。
【0077】
次いで、攪拌機付フラスコに、前記の縮合反応により得られたオルガノポリシロキサン1000g、3−メチル−4−イソプロピルフェノール27gを加え、230℃に加熱し完全に溶融させた後、攪拌しながら系内から出てくる水分を抜き4時間縮合反応した。その後、10Torrまで減圧し1時間反応した後、冷却固化して無色透明のオルガノポリシロキサンを得た。得られたオルガノポリシロキサンの重量平均分子量は4,400であり、ガラス転移点は140℃であった。
【0078】
次にオルガノポリシロキサン10重量%と固有粘度(IV):0.65のポリエチレンテレフタレート90重量%をL/D:32.5、混練温度280℃、スクリュー回転数300rpmの条件で二軸押出機を用いて混練し、樹脂組成物を得た後、3mm角のチップにカッティングした。
【0079】
得られたチップのリン含有量は105ppmであり、軟化点は260℃だった。また、熱分解ガスを測定したところベンゼンの発生量は0μg/gだった。チップを真空乾燥機で150℃、12時間、2Torrで乾燥した後、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/min、口金口径0.23mm−24H(ホール)、吐出量40g/minの条件で紡糸を行い、未延伸を得た。紡糸時の口金下10cmでのベンゼン発生量を検知管(ガステック社製ベンゼン用121SP)を用いて測定したところ、0.0ppmであった。
【0080】
次いで延伸機を用いて加工速度400m/min、延伸温度90℃、セット温度130℃の条件で延伸糸の繊度が85dtex−24フィラメントになるような延伸倍率で延伸を行い、延伸糸を得た。その後、得られた延伸糸を筒編み機で編物の繊維構造物を作製し、炭酸ナトリウム0.2g/L、界面活性剤0.2g/L(”グランアップ”US20)、処理温度/時間60℃/30分で精練し、JIS L1091 D法(1992)に準じて接炎回数とドリップ回数を評価した。なお、ドリップ回数とは燃焼評価中に試料から滴下物が滴下した回数である。
【0081】
その結果、表1に示す通り、ドリップ回数は0回であり、接炎回数も10回以上であり、難燃性、ドリップ抑制効果に優れる結果が得られた。
【0082】
[実施例2]
縮合触媒であるTPPOの添加量を5gに変更した以外は、実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例3]
縮合触媒であるTPPOの添加量を20gに変更した以外は、実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0084】
[実施例4]
縮合触媒であるTPPOの添加量を20gに変更し、オルガノポリシロキサンとポリエチレンテレフタレートの配合比を、オルガノポリシロキサン20重量%と固有粘度(IV):0.65のポリエチレンテレフタレート80重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例5]
フェニルシルセスキオキサンの縮合触媒を、TPPO10gからトリオクチルホスフィンオキサイド(TOPO)14gに変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例6]
フェニルシルセスキオキサンの縮合触媒を2−エチルヘキサン酸ジルコニウム5gとTPPO5gに変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。得られたチップのベンゼン発生量は40μg/gであり、溶融紡糸時のベンゼンの発生量は0.4ppmでありやや多い傾向にあるが許容範囲内であった。
【0087】
[実施例7]
撹拌機付きフラスコにフェニルシルセスキオキサン(分子量:1000、シラノール基含有量:8.0重量%)1000g及びトルエン700gを加え完全溶解させた。次いで、縮合触媒として2−エチルヘキサン酸ジルコニウム10gを混合し加え、トルエンリフラックス温度(110℃)まで加熱した。系内から出てくる水分を抜きながら、7時間縮合反応を継続した。その後、反応後のトルエン溶液をスプレードライヤーで乾燥させ、白色粉体を得た。得られた、オルガノポリシロキサンの分子量は5400でありシラノール基の含有量は4.4%であった。
【0088】
次いで、攪拌機付フラスコに、前記の縮合反応により得られたオルガノポリシロキサン1000g、3−メチル−4−イソプロピルフェノール20gを加え、230℃に加熱し完全に溶融させた後、攪拌しながら系内から出てくる水分を抜き4時間縮合反応した。その後、10Torrまで減圧し1時間反応した後、冷却固化して無色透明のオルガノポリシロキサンを得た。得られたオルガノポリシロキサンの重量平均分子量は6200であり、ガラス転移点は186℃であった。
【0089】
次に、オルガノポリシロキサン10重量%、TPPO 0.1重量%及び固有粘度(IV):0.65のポリエチレンテレフタレート89.9重量%をL/D:32.5、混練温度280℃、スクリュー回転数300rpmの条件で二軸押出機を用いて混練し、樹脂組成物を得た後、3mm角のチップにカッティングした。
【0090】
得られたチップのリン含有量は95ppmであり、軟化点は260℃だった。また、熱分解ガスを測定したところベンゼンの発生量は60μgだった。得られたチップを用いて、乾燥、紡糸、延伸は実施例1と同様にして行った。溶融紡糸時のベンゼン発生量が0.4ppmとやや高めとなったが許容範囲内であった。結果を表1にまとめた。
【0091】
[実施例8]
撹拌機付きフラスコにフェニルシルセスキオキサン(分子量:1000、シラノール基含有量:8.0重量%)1000g及びトルエン700gを加え完全溶解させた。次いで、縮合触媒としてTPPOを10g混合して加え、トルエンリフラックス温度(110℃)まで加熱した。系内から出てくる水分を抜きながら、4時間縮合反応を継続した。その後、反応後のトルエン溶液をスプレードライヤーで乾燥させ、白色粉体を得た。得られた、オルガノポリシロキサンの分子量は2100、シラノール基の含有量は6.2%だった。
【0092】
次いで、攪拌機付フラスコに縮合により得られたオルガノポリシロキサン1000g、3−メチル−4−イソプロピルフェノール27gを加え、230℃に加熱し完全に溶融させた後、攪拌しながら系内から出てくる水分を抜き4時間縮合反応した。その後、10Torrまで減圧し1時間反応した後、冷却固化して無色透明のオルガノポリシロキサンを得た。得られたオルガノポリシロキサンの重量平均分子量は4,400であり、ガラス転移点は140℃であった。
【0093】
次にオルガノポリシロキサン2.5重量%と固有粘度(IV):0.65のポリエチレンテレフタレート82.5重量%およびポリエーテルイミド(GE社製Ultem1010)15重量%をL/D:32.5、混練温度280℃、スクリュー回転数300rpmの条件で二軸押出機を用いて混練し、樹脂組成物を得た後、3mm角のチップにカッティングした。得られたチップのリン含有量は25ppmであり、軟化点は260℃だった。また、熱分解ガスを測定したところベンゼンの発生量は0μg/gだった。
【0094】
チップを真空乾燥機で150℃、12時間、2Torrで乾燥した後、紡糸温度295℃、紡糸速度1500m/min、口金口径0.23mm−24H(ホール)、吐出量40g/minの条件で紡糸を行い、未延伸を得た。紡糸時の口金下10cmでのベンゼン発生量を検知管(ガステック社製ベンゼン用121SP)を用いて測定したところ、0.0ppmであった。
【0095】
ついで延伸機を用いて加工速度400m/min、延伸温度90℃、セット温度130℃の条件で延伸糸の繊度が85dtex−24フィラメントになるような延伸倍率で延伸を行い、延伸糸を得た。その後、得られた延伸糸を筒編み機で編物の繊維構造物を作製し、炭酸ナトリウム0.2g/L、界面活性剤0.2g/L(”グランアップ”US20)、処理温度/時間60℃/30分で精練し、JIS L1091 D法(1992)に準じて接炎回数とドリップ回数を評価した。なお、ドリップ回数とは燃焼評価中に試料から滴下物が滴下した回数である。その結果を表1に示す。
【0096】
[比較例1]
縮合触媒を2−エチルヘキサン酸ジルコニウム10gに変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。得られたチップのベンゼン発生量は100μg/gであり、溶融紡糸時のベンゼンの発生量は1.1ppmであり、許容範囲を超える値であった。
【0097】
以上の実施例1〜8および比較例1の熱可塑性樹脂組成物および該熱可塑性樹脂からなる難燃繊維の特性についてまとめた結果を表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1に示す通り、実施例1〜8で得られたリン原子を含有した熱可塑性難燃樹脂組成物はベンゼンの発生量が少なく、紡糸時の作業環境の安全性に優れたものであり、該樹脂組成物より得られた繊維は難燃性、ドリップ抑制効果も優れるものであった。
【0100】
特に、オルガノポリシロキサンの縮合触媒がリン化合物(ホスフィンオキシド)である実施例1〜5および実施例8で得られた熱可塑性難燃樹脂組成物はベンゼンの発生量がほぼ完全に抑制され、繊維の難燃性、ドリップ抑制効果も最も優れるものであった。これに対して、有機酸金属塩(エチルへキサン酸ジルコニウム)をオルガノポリシロキサンの縮合触媒として使用あるいはリン化合物と併用し、さらにリン化合物を含む実施例6,7で得られた熱可塑性難燃樹脂組成物はベンゼンの発生量が許容範囲内で抑制され、繊維の難燃性、ドリップ抑制効果に優れるものであった。しかし、実施例6,7では、ベンゼンの発生を完全に抑制することはできなかった。
【0101】
一方、リン化合物を含有しない比較例1で得られた熱可塑性難燃樹脂組成物では、ベンゼンの発生量が非常に多く、作業環境のベンゼンの濃度が上昇し安全性が低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る熱可塑性難燃樹脂組成物は、難燃性および接炎時のドリップ抑制効果、熱処理を伴う成形加工時のベンゼン発生量の抑制が要求される各種産業用途、衣料用途、非衣料用途における難燃樹脂素材や難燃繊維素材として好適に用いることができる。とくに本発明によれば、この熱可塑性樹脂からなり、難燃性および接炎時のドリップ抑制効果に優れる繊維構造物を、ベンゼンの発生量を抑制して、安定的に製造することができる。これらの繊維構造物からなる繊維製品は、難燃性および接炎時のドリップ抑制効果に優れるため、カーシートやカーマットなどの車両内装材、カーテン、カーペット、椅子張り地などのインテリア素材、衣料素材等の難燃性が要求される繊維製品に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンとリン化合物を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、下記(A)および(B)を満たすことを特徴とする熱可塑性難燃樹脂組成物。
(A)オルガノポリシロキサンが下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンであること
(C65m1m2SiXn(4-m1-m2-n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕
(B)リン化合物を該熱可塑性樹脂組成物全体に対してリン元素換算で20〜500ppmである量を含有していること
【請求項2】
リン化合物が下記一般式(2)で表されるホスフィンオキシドであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性難燃樹脂組成物。
【化1】

[式中、R1 、R2 およびR3 は炭素数1〜15の炭化水素基を示し、それぞれ同一であっても異なっていても良い]
【請求項3】
リン化合物がトリフェニルホスフィンオキシドであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性難燃樹脂組成物。
【請求項4】
リン化合物がオルガノポリシロキサンの縮合反応促進触媒であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性難燃樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)に記載の成分であるオルガノポリシロキサンが、フェニルクロロシラン類およびフェニルアルコキシシラン類からなる群から選択される少なくとも1種のフェニル基を有するオルガノシラン類、または下記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサンを、リン化合物の存在下に縮重合反応させることにより得られたオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性難燃樹脂組成物。
(C65aR’bSiX’c(4-a-b-c)/2 (3)
〔式中、R’は水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、X’はOH基またはアルコキシ基であり、a,b,cは0.3≦a≦1.8、0≦b≦1.5、1.0≦a+b<2.0、0.2≦a/(a+b)≦1.0、0≦c≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕
【請求項6】
前記(A)に記載の成分であるオルガノポリシロキサンの重量平均分子量(Mw)が1500〜10000の範囲であり、前記(B)に記載の成分が前記一般式(2)で表されるホスフィンオキシドであることを特徴とする請求項2または5に記載の熱可塑性難燃樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)に記載の成分であるオルガノポリシロキサンに含まれる金属元素の全含有量が、該オルガノポリシロキサン全体に対して10ppm以下であることを特徴とする請求項1,3,5,6のいずれかに記載の熱可塑性難燃樹脂組成物。
【請求項8】
軟化点が200℃〜350℃である請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性難燃樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性難燃樹脂組成物からなる難燃繊維。
【請求項10】
(C)ポリエステル、ポリアミドおよびポリオレフィンからなる群から選ばれた1種類以上の熱可塑性樹脂、(A)熱可塑性樹脂組成物全体に対して1〜50重量%となる量の下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン、および(B)熱可塑性樹脂組成物全体に対してリン元素換算で20〜500ppmとなる量のリン化合物からなる熱可塑性難燃樹脂組成物を、200℃〜350℃での熱処理を伴う成形加工を行い、紡糸時のベンゼン発生量が1.0ppm未満であることを特徴とする難燃繊維の製造方法。
(C65m1m2SiXn(4-m1-m2-n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕

【公開番号】特開2009−144003(P2009−144003A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320856(P2007−320856)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】