説明

熱弾性特性測定装置、熱弾性特性測定方法

【課題】測定対象とする試料に加工を施すことなく、試料の熱特性を高感度で測定できること。
【解決手段】試料1にパルス光L0を照射して弾性波を生じさせ、試料1との間にその試料1に生じる弾性波を伝搬するカップリング材2が充填された状態で金属薄膜11が配置され、その金属薄膜11の表面に測定光(レーザ光)を照射して表面プラズモン共鳴を生じさせるとともに、パルス光L0の照射によって試料1に弾性波を生じさせ、光検出器6により測定光L1の金属薄膜11に対する反射光L2の強度を検出する。予め、反射光L2の検出結果に基づいて、測定光L1の照射角度θを調節することにより、金属薄膜11表面の熱弾性特性を高感度で測定できる状態に調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象である試料について弾性波が生じた場合の特性変化を測定する熱弾性特性測定装置及び熱弾性特性測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスや電子情報の記録メディアの集積度が益々向上し、また、その動作速度が益々高速化する中、そのデバイス等におけるサブマイクロメートルからナノメートルの単位の高い空間分解能で熱特性(熱物性)を測定し、その測定結果に基づいて発熱対策や熱設計を行うことが非常に重要となっている。
例えば、高密度光記録デバイスはレーザ光により記録層が加熱されるが、その記録層の温度上昇は、記録層、多層薄膜及び基板等の各薄膜材料の熱特性に依存する。このため、高密度光記録デバイスについて高精度の熱設計を行うためには、それを構成する薄膜材料各々の微小領域の熱特性(熱物性)を測定することが不可欠である。また、発熱によって熱膨張する薄膜が、熱応力によって剥離する可能性を評価する上でも、薄膜材料の微小領域の熱特性を測定することは重要である。その他、Si基板とその表層膜との密着度を評価するために行われるSOIウェハの表面近傍の欠陥検出や、半導体レーザ、高周波パワーデバイス、DVD記録膜等の熱負荷が高い薄膜デバイスの熱解析、応力解析、欠陥検出及び膜の密着度評価や、光学的に不透明な金属膜の膜圧測定等のアプリケーションにおいても、薄膜材料の微小域における熱特性を測定することは重要である。
これに対し、特許文献1には、試料に加熱用のレーザ光と他の測温用のレーザ光とを照射し、測温用のレーザ光の反射光の強度を検出することにより、試料の温度変化を測定する微小領域熱物性測定装置が示されている。また、特許文献1には、反射光の変化(反射率の変化)の検出感度を高めるために、試料の表面に金属薄膜を形成させることも示されている。
【特許文献1】特開2000−121585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、試料の温度変化に起因する反射率の変化、特に微小領域での反射率の変化は非常に微小であることが多く、特許文献1に示されるように、試料の温度変化をその試料の反射率の変化(測温用のレーザ光の反射光の強度変化)として検出する場合、検出感度が悪いという問題点があった。これに対し、特許文献1に示されるように、試料の反射率変化の感度を上げるために、試料表面に金属薄膜を形成させる加工を施す場合、試料ごとに金属薄膜を形成させる加工が手間であるという問題点もあった。さらに、金属薄膜が形成された試料はもはや製品として用いることはできないため、良品と不良品とを分ける検査等には採用できないという問題点もあった。
従って、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、測定対象とする試料に加工を施すことなく、試料の熱特性を高感度で測定できる熱弾性特性測定装置及び熱弾性特性測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は、半導体や記録メディア等の所定の試料について弾性波が生じた場合の特性変化、即ち、熱弾性特性を測定する熱弾性特性測定装置或いはその方法に適用されるものであり、その特徴は、前記試料との間にその試料に生じる弾性波を伝搬する弾性波伝搬媒体が充填された状態で金属薄膜が配置され、所定の測定光照射手段によりその金属薄膜の表面に所定の測定光を照射して表面プラズモン共鳴を生じさせるとともに、所定の弾性波生成手段によって前記試料に弾性波を生じさせ、所定の反射光検出手段により前記測定光の前記金属薄膜に対する反射光の強度を検出するように構成されていることである。
これにより、試料が弾性波によって加熱されるとともに、前記弾性波伝搬媒体の屈折率が変化する結果、その媒体に接する金属薄膜の表面プラズモン共鳴の状態が変化し、これにより金属薄膜の反射率、即ち、前記反射光の強度が大きく変化する。また、弾性波による試料の加熱状態の変化と前記弾性波伝搬媒体の屈折率変化及び金属薄膜の反射率変化(即ち、前記反射光の強度変化)との間には相関関係がある。従って、上記構成によれば、試料の弾性波による微小な加熱状態の変化(熱特性)を、前記反射光の強度変化として高感度で測定できる。しかも、測定対象とする試料に加工を施すことを要さない。
【0005】
ここで、前記弾性波生成手段としては、パルス変調や正弦波変調等による強度変調を施したレーザ光を前記試料に照射する手段が考えられる。これにより、圧電素子を試料に接触させる等の手段に比べ、ごく微小な領域に高い精度でかつ非接触で弾性波を発生させることができ好適である。
また、前記反射光検出手段の検出結果に基づいて前記測定光の前記金属薄膜に対する照射角度(入射角度)を調節する測定光照射角度調節手段や、同検出結果に基づいて前記測定光の波長を調節する測定光波長調節手段を(これらの一方又は両方を)設けた構成が望ましい。
これにより、金属薄膜の表面に生じさせる表面プラズモン共鳴の状態を、熱弾性特性を高感度で測定できる状態に調節することが可能となる。
また、前記金属薄膜を保持する具体的な構成として、前記測定光及び前記反射光を透過させつつ前記金属薄膜を保持するプリズム等の金属薄膜保持手段を設けることが考えられる。
なお、前記弾性波伝搬媒体としては、液状若しくはゲル状の非圧縮性流体(例えば、水、アルコール、油等)が考えられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、試料が弾性波によって加熱されるとともに、その弾性波が金属薄膜に伝搬することにより、金属薄膜の表面プラズモン共鳴の状態が変化し、その金属薄膜に照射した測定光の反射光強度が大きく変化する。その結果、試料の弾性波による微小な加熱状態の変化(熱特性)を、前記反射光の強度変化として高感度で測定できる。しかも、測定対象とする試料ごとに金属薄膜を形成させるという加工の手間を要さず、さらに、熱弾性特性の測定専用の試料を別途用意する必要がないため、良品と不良品とを分ける検査等の幅広い分野への適用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに、図1は本発明の実施形態に係る熱弾性特性測定装置Xの概略構成を表す図、図2は熱弾性特性測定装置Xにおけるパルス光の照射方式の第1実施例を表す図、図3は熱弾性特性測定装置Xにおけるパルス光の照射方式の第2実施例を表す図、図4は表面プラズモン共鳴状態の金属薄膜における測定光の入射角と反射率との関係を表すグラフ、図5は熱弾性特性測定装置Xによる測定手順を表すフローチャートである。
【0008】
本発明の実施形態に係る熱弾性特性測定装置Xは、測定対象である試料1に弾性波を生じさせ、その弾性波が生じた場合の試料1の特性変化を測定する装置である。
以下、図1を参照しつつ、熱弾性特性測定装置Xの構成について説明する。
図1に示すように、熱弾性特性測定装置Xは、プリズム3、測定光レーザ4、測定光反射ミラー5及びその方向調節装置5a、光検出器6、レンズ7、信号処理装置8、コンピュータ9、パルスレーザ10、金属薄膜11及びパルス光反射ミラー12等を備えて構成されている。
プリズム3は、その下面に金属薄膜11が形成されており、その金属薄膜11の保持部材として機能するものである。金属薄膜11は、例えば厚さ50nm程度の薄膜であり、真空蒸着等によりプリズム3の下面に保持されている。その材質としては、金や銀等が望ましい。
また、プリズム3の下面の金属薄膜11は、試料1との間に、後述する測定光L1の照射によってその試料1に生じる弾性波を伝搬する媒体であるカップリング材2(弾性波伝搬媒体の一例)が充填された状態で配置される。このカップリング材2は、液状若しくはゲル状の非圧縮性流体(例えば、水、アルコール、油等)である。
ここで、カップリング材2は、スポイド等により試料1の表面に垂らして金属薄膜11と試料1との間に滞留させてもよく、或いは水等の粘性の低いカップリング材2を金属薄膜11と試料1との間に流して流動させてもよい。
【0009】
測定光レーザ4は、所定の波長のレーザ光(レーザビーム)である測定光L1をプリズム3の下面に形成された金属薄膜11の表面(プリズム3側の面)に照射するものであり、これにより、金属薄膜11の表面に表面プラズモン共鳴を生じさせる(測定光照射手段の一例)。
表面プラズモン共鳴とは、金属薄膜11の表面の電子波と、その表面に所定の照射角度(入射角度)で照射された光(測定光L1)とがカップリングを起こす現象をいい、この表面プラズモン共鳴が生じている状態では、照射光の反射率が著しく低下する。この表面プラズモン共鳴の発生条件は、金属薄膜11の材質や厚み、照射光(測定光L1)の照射角度及び波長、金属薄膜11に接するカップリング材2の屈折率(或いは誘電率といっても等価である)の各条件の組合せによって定まる。本実施形態では、金属薄膜11の厚み及び測定光L1の波長が一定であるものとする。このため、測定光L1の照射角度及びカップリング材2の屈折率によって表面プラズモン共鳴の発生状態が定まり、その結果、測定光L1の反射率が定まる。
ここで、熱弾性特性測定装置Xでは、測定光L1を試料1に向けて変向する測定光反射ミラー5が、方向調節装置5aによりその向き(即ち、測定光L1の試料1に対する照射角度)が調節可能に支持されている。この方向調節装置5aによって測定光Lの試料1に対する照射角度を調節することにより、金属薄膜11における表面プラズモン共鳴の発生状態を調節できる。
【0010】
図1に示すように、測定光L1は、プリズム3内にその一の側面(図1に向かって左側の傾斜面)からその面に対して垂直或いはほぼ垂直の方向に入射し、下面の金属薄膜11に反射した反射光L2は、プリズム3外へ他の側面(図1に向かって右側の傾斜面)からその面に対して垂直或いはほぼ垂直の方向に出射する。このように、プリズム3は、測定光L1及び反射光L2を透過させつつ金属薄膜11を保持する(金属薄膜保持手段の一例)。なお、金属薄膜11の保持手段は、必ずしもプリズム3でなくても、測定光L1及びその反射光L2をほとんど損失なく透過させつつ金属薄膜11を保持できるガラス等により構成される他の部材であってもかまわない。
パルスレーザ10は、例えばパルス幅が10ps(ピコsec)程度の短パルスのレーザ光L0を出力するものであり、そのパルス光L0が試料2の背面(金属薄膜11の配置側と反対側の面)に照射され、試料1に弾性波を生じさせる機能を果たす(弾性波生成手段の一例)。図1に示す例では、パルス光反射ミラー12によりパルス光L0が変向されて試料1の背面に照射されている。
なお、ここでは、試料1に弾性波を生じさせる手段として、パルス光L0(パルス変調したレーザ光)を試料1に照射するパルスレーザ10を設けているが、この他、例えば正弦波の強度変調を施したレーザ光を出力するレーザ光出力装置等、強度変調したレーザ光を試料1に照射する他の手段を採用することも考えられる。
【0011】
光検出器6は、測定光L1が金属薄膜11の表面に対して反射した反射光L2の強度を電気信号(電圧)に変換することによって検出するものであり(反射光検出手段の一例)、例えば、フォトダイオード等によって構成されている。なお、反射光L2は、レンズ7により集光されて光検出器6に入射される。
信号処理装置8は、光検出器8により検出された反射光L2の検出信号(強度信号)に対し、増幅処理やノイズ除去のためのフィルタリング処理等の信号処理を施すものである。この信号処理装置8により処理後の反射光検出信号は、コンピュータ9に取り込まれる。
コンピュータ9は、所定の制御プログラムを実行することにより、反射光検出信号を取り込んでハードディスク等の記憶装置に記録するとともに、パルスレーザ10によるパルス光L0の出力タイミングの制御及び方向調節装置5aの制御(即ち、測定光L1の試料1に対する照射角度の制御)、並びに反射光検出信号についての各種演算処理を行うものである。
ここで、図1には示していないが、測定光L1及びパルス光L0の軌道に対する試料1の相対位置を移動させる移動機構を設ければなお好適である。この移動機構により位置を移動させつつ測定を行うことにより、試料1の部位ごとの特性を容易に測定して特性分布を得ることができる。この場合の移動機構としては、例えば、試料1のエッジ部をロボットアーム等により把持することによって試料1を移動させるものや、或いはパルス光L0を透過させる透明なガラス等の材料からなる試料台に試料1を載置させ、その試料台を移動させるもの等が考えられる。
【0012】
図4は、表面プラズモン共鳴状態にある厚み50nmの金属薄膜11における測定光L1の照射角度θ(入射角)と反射率との関係を表すグラフである。
また、図4におけるグラフg1、g2及びg3の各々は、カップリング材2である水の屈折率が、所定の基準屈折率(=n0)であるとき(g1)、その基準屈折率に対して10-4分だけ変化した屈折率(=n0(1+10E−4))であるとき(g2)、及びその基準屈折率に対して10-3分だけ変化した屈折率(=n0(1+10E−3))であるとき(g3)のグラフを表す。
図4からわかるように、表面プラズモン共鳴状態にある金属薄膜11の反射率は、測定光L1の照射角度θが所定の角度(図4の例では、71.0°〜71.5°の間)である場合にほぼ0(ゼロ)に近い最低の状態となり、その前後の角度における変化が急峻となる。
また、カップリング材2の屈折率がわずか10-3分だけ変化しただけで、測定光L1の照射角度θに対する反射率の特性が、照射角度θについて0.1°程度シフトした状態となる。このように、カップリング材2の屈折率の微小な変化によって金属薄膜11における表面プラズモン共鳴の状態が変化し、金属薄膜11の反射率(即ち、反射光L2の強度)が大きく変化する。
例えば、図4のグラフの測定条件において、測定光L1の照射角度θが70.5°に設定されている場合、カップリング材2の屈折率が基準屈折率(=n0)である場合の反射率R1に対し、同屈折率が10-3分だけ変化したときの反射率R2は、約1.28倍にもなる(R2/R1≒1.28)。即ち、反射光L2の強度が約1.28倍に変化する。これにより、試料1の弾性波による微小な加熱状態の変化(熱特性)を、反射光L2の強度変化として高感度で測定できる。
【0013】
次に、図5に示すフローチャートを参照しつつ、熱弾性特性測定装置Xによる熱弾性特性の測定手順について説明する。
測定手順は、大別して測定光L1の照射角度を調整するための調整工程(S1〜S5)と、測定光L1の照射角度が調整された状態で試料1を測定する測定工程(S6〜S10)とに分けられ、事前に調整工程が行われた上で、1回又は複数回の測定工程が行われる。なお、以下に示すS1、S2、…は、処理手順(ステップ)の識別符号を表す。
<調整工程:ステップS1〜S5>
調整工程では、まず、測定光レーザ4による測定光の出力が開始される(S1)。
次に、コンピュータ9により方向調節装置5aを制御して測定光L1の試料1に対する照射角度(以下、照射角度θという)を設定し(S2)、そのときの反射光L2の強度を光検出器6及び信号処理装置8を通じて検出するとともに、検出結果をコンピュータ9によりその記憶装置(ハードディスク等)に記録する(S3)という処理が、コンピュータ9により照射角度θの設定が所定の角度範囲について終了したと判別(S4)されるまで繰り返される。
このステップS2〜S4の処理により、図4のグラフにおける縦軸(反射率)が反射光L2の強度に置き換わった対応関係である、照射角度θと反射光L2の強度との対応関係を表す情報(以下、照射角・反射光強度対応情報という)がコンピュータ9の記憶手段に記録される。
そして、コンピュータ9により、前記照射角・反射光強度対応情報に基づいて、高い測定感度が得られる設定照射角度θ0が決定され、さらに、コンピュータ9が方向調節装置5aを制御することにより、照射角度θがその決定された設定照射角度θ0となるように調節される(S5)。
このように、方向調節装置5a及びこれを制御するコンピュータ9により、光検出器6による反射光Lの強度の検出結果に基づいて、測定光L1の金属薄膜11に対する照射角度θが調節される(S2〜S5:測定光照射角度調節手段の一例)。
例えば、照射角度θの単位変化幅に対する反射光L2の強度変化幅が最も大きくなるときの照射角度θが設定照射角度θ0とされる。これにより、試料1の加熱状態変化に対する反射光L2の強度変化が大きくなるように調整でき、高い測定感度を確保することができる。
以上の調整工程は、例えば、測定対象とする試料1ごと、或いはその試料1の種類(材質や形状等)ごと等に行われる。
また、ステップS1〜S5の終了後、不図示の後処理(測定光レーザ4の停止処理等)が行われた後に当該調整工程が終了する。
【0014】
<測定工程:ステップS6〜S11>
調整工程の終了後、まず、測定工程では、照射角度θがステップS5で設定された設定照射角度θ0に保持(固定)された状態で、測定光レーザ4による測定光の出力が開始される(S6)。これにより、金属薄膜11の表面に測定光L1が照射され、金属薄膜11に表面プラズモン共鳴が生じる(測定光照射工程の一例)。
次に、コンピュータ9がパルスレーザ10を制御することにより、パルス光L0の出力条件(パルス幅や照射時間等)の設定(S7)及びその設定条件でのパルス光の出力(試料1に対する照射)(S9)が行われるとともに、パルス光の照射前後に渡る反射光L2の強度が、光検出器6及び信号処理装置8を通じて検出されるとともに、検出結果がコンピュータ9によりその記憶装置に記録される(S8、S10:反射光検出工程の一例)。このとき、パルス光L0の出力タイミング(出力状態の時間軸)と反射光L2の強度の検出タイミング(検出値の時間軸)との対応関係を表す情報や、パルス光の出力条件に関する情報も併せて記録される。
ステップS9の処理により、測定光L1が照射されている試料1に弾性波が生じ(弾性波生成工程の一例)。
このステップS7〜S10の処理が、コンピュータ9により所定の測定終了条件が成立したと判別(S11)されるまで繰り返され、その測定終了条件が成立した際に、不図示の後処理(測定光レーザ4の停止処理等)が行われた後に測定工程が終了する。
【0015】
以上に示した測定を行うことにより、試料1がパルス光L0の照射により生じた弾性波によって加熱されるとともに、その弾性波が金属薄膜11に伝搬することにより、金属薄膜11の表面プラズモン共鳴の状態が変化し、その金属薄膜11に照射した測定光の反射光L2の強度が大きく変化する。
その結果、試料1の弾性波による微小な加熱状態の変化(熱特性)を、反射光L2の強度変化として高感度で測定できる。しかも、測定対象とする試料1ごとに金属薄膜11を形成させるという加工の手間を要しない。
また、表面プラズモン共鳴が生じている状況下では、金属薄膜11の反射率は、その表層の数十nm程度の深さの部分の応力(屈折率)の変化に対して敏感であることから、熱弾性特性測定装置Xは、超短波長(例えば、数十nmの波長)の弾性波の検出に極めて有効である。
なお、ステップS7〜S10の処理により得られた測定データは、測定後にコンピュータ9により解析され、これにより試料1の熱弾性特性の評価がなされる。
例えば、パルス光L0の照射前後の反射光L2の強度の変化量、パルス光L0の出力時点から反射光L2の強度が変化するまでの時間(弾性波の試料1への到達時間に相当)、反射光L2の強度の周波数特性等が解析され、その解析結果に基づいて試料1の熱特性が評価される。より具体的には、当該熱弾性特性測定装置Xにより、熱特性が既知の基準試料についてステップS1〜S11の手順で測定してその測定データを記録しておき、その基準試料の測定データと、測定対象とする試料1の測定データとの比較によって試料1の熱特性が評価される。
【0016】
ところで、図1には、パルス光L0を試料1の背面側から照射する例について示したが、これに限るものではない。
図2は、パルス光L0が、試料2のおもて面(金属薄膜11が配置された側の面)における、金属薄膜11に対する測定光L1の照射部近傍に照射され、これにより試料1に弾性波を生じさせるパルス光の照射方式(第1実施例)を表したものである。この第1実施例では、金属薄膜11にパルス光L0を通過させる微小な孔11aが形成され、パルス光L0がプリズム3を透過して試料1に照射される。
また、図3は、パルス光L0が、試料2のおもて面における、金属薄膜11に対する測定光L1の照射部から少し離れた部分に照射され、これにより試料1に弾性波を生じさせるパルス光の照射方式(第2実施例)を表したものである。この第2実施例では、主として試料1の表層に生じて伝搬される弾性波(表面波)の影響が反射光L2の強度に反映され、試料1の表層部分の熱弾性特性を選択的に測定することが可能である。
このような図2及び図3に示すパルス光の照射方式を採用することも、本発明の実施形態の一例である。
【0017】
また、前述した実施形態では、光検出器6による反射光L2の検出結果に基づいて、測定光L1の試料1に対する照射角度θを調節する(S2〜S5)例を示したが、これ以外の構成も考えられる。
例えば、方向調節装置5aの代わりに、或いはそれに加えて、測定光レーザ4により出力される測定光L1の波長を調節可能とする波長調節装置を設け、コンピュータ9がその波長調節装置を制御することにより、光検出器6による反射光L2の検出結果に基づいて、測定光L1の波長を調節する構成とすることも考えられる(測定光波長調節手段の一例)。なお、反射光L2の検出強度に基づいて、測定光L1の照射角度θ及び波長のいずれか一方の調節、或いは両方の調節を行うことが考えられる。
このような構成によっても、試料1の加熱状態変化に対する反射光L2の強度変化が大きくなるように調整でき、高い測定感度を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、弾性波により加熱された試料の熱特性を測定する熱弾性特性測定装置或いはその方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る熱弾性特性測定装置Xの概略構成を表す図。
【図2】熱弾性特性測定装置Xにおけるパルス光の照射方式の第1実施例を表す図。
【図3】熱弾性特性測定装置Xにおけるパルス光の照射方式の第2実施例を表す図。
【図4】表面プラズモン共鳴状態の金属薄膜における測定光の入射角と反射率との関係を表すグラフ。
【図5】熱弾性特性測定装置Xによる測定手順を表すフローチャート。
【符号の説明】
【0020】
X :熱弾性特性測定装置
1 :試料
2 :カップリング材
3 :プリズム
4 :測定光レーザ
5 :測定光反射ミラー
5a :方向調節装置
6 :光検出器
7 :レンズ
8 :信号処理装置
9 :コンピュータ
10 :パルスレーザ
11 :金属薄膜
12 :パルス光反射ミラー
S1、S2、… :処理手順(ステップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の試料について弾性波が生じた場合の特性変化を測定する熱弾性特性測定装置であって、
前記試料との間に該試料に生じる弾性波を伝搬する弾性波伝搬媒体が充填された状態で配置される金属薄膜と、
前記金属薄膜の表面に所定の測定光を照射して表面プラズモン共鳴を生じさせる測定光照射手段と、
前記試料に弾性波を生じさせる弾性波生成手段と、
前記測定光の前記金属薄膜に対する反射光の強度を検出する反射光検出手段と、
を具備してなることを特徴とする熱弾性特性測定装置。
【請求項2】
前記弾性波生成手段が、強度変調したレーザ光を前記試料に照射する手段である請求項1に記載の熱弾性特性測定装置。
【請求項3】
前記弾性波生成手段が、パルス変調したレーザ光を前記試料に照射する手段である請求項2に記載の熱弾性特性測定装置。
【請求項4】
前記反射光検出手段の検出結果に基づいて前記測定光の前記金属薄膜に対する照射角度を調節する測定光照射角度調節手段を具備してなる請求項1〜3のいずれかに記載の熱弾性特性測定装置。
【請求項5】
前記反射光検出手段の検出結果に基づいて前記測定光の波長を調節する測定光波長調節手段を具備してなる請求項1〜4のいずれかに記載の熱弾性特性測定装置。
【請求項6】
前記測定光及び前記反射光を透過させつつ前記金属薄膜を保持する金属薄膜保持手段を具備してなる請求項1〜5のいずれかに記載の熱弾性特性測定装置。
【請求項7】
前記金属薄膜保持手段がプリズムである請求項6に記載の熱弾性特性測定装置。
【請求項8】
前記弾性波伝搬媒体が、液状若しくはゲル状の非圧縮性流体である請求項1〜7のいずれかに記載の熱弾性特性測定装置。
【請求項9】
所定の試料について弾性波が生じることによる特性変化を測定する熱弾性特性測定方法であって、
前記試料との間に該試料に生じる弾性波を伝搬する弾性波伝搬媒体が充填された状態で配置される金属薄膜の表面に、所定の測定光を照射して表面プラズモン共鳴を生じさせる測定光照射工程と、
前記測定光が照射されている前記試料に弾性波を生じさせる弾性波生成工程と、
前記測定光の前記金属薄膜に対する反射光の強度を検出する反射光検出工程と、
を有してなることを特徴とする熱弾性特性測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−170960(P2007−170960A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368442(P2005−368442)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】