説明

熱特性推定装置及び方法、並びに、温度推定装置及び方法、並びに、半導体装置

【課題】 半導体装置が装置に実装された状態での熱特性を求めて、ジャンクション温度の推定に適用する。
【解決手段】 本発明は、ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置の熱特性を推定する熱特性推定装置と、熱特性を利用して半導体装置のジャンクション温度を推定する温度推定装置に関する。そして、本発明の熱特性推定装置は、半導体装置のジャンクション温度が制限温度となる消費電力で半導体装置を動作させた状態で半導体装置の周囲の雰囲気温度を測定する手段と、測定した温度を利用して、半導体装置の熱特性を推定する手段とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱特性推定装置及び方法、並びに、温度推定装置及び方法、並びに、半導体装置に関し、例えば、電圧変換等を行う半導体装置の熱保護に適用し得る。
【背景技術】
【0002】
半導体装置では、半導体装置自身に流れる電流と印加される電圧によって半導体装置内部のPN接合されている接合部分(ジャンクション)に損失が発生し発熱する。この際に、半導体接合部分の温度はジャンクション温度と呼ばれている。通常、半導体装置のジャンクションには許容最大温度があり、許容最大温度を越えると半導体装置の劣化や破壊を招くおそれがある。
【0003】
従来、半導体装置のジャンクション温度を推定する技術としては、特許文献1、2の記載技術がある。
【0004】
特許文献1には、半導体のPN接合部に流れる電流とその時の周囲温度の関係からジャンクション温度を推定することについて記載されている。
【0005】
また特許文献2には、半導体装置に対する電圧と電流を測定し、ジャンクション温度を推定することについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−245756号公報
【特許文献2】特開平7−135731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に半導体装置のジャンクション温度は、「熱抵抗値×消費電力+雰囲気温度」で求められるため、正確にジャンクション温度を算出するためには、算出対象の半導体装置の熱抵抗値を求める必要がある。しかしながら、特許文献1、2の記載技術では、半導体装置が基板等に実装された状態の熱抵抗値を求めずに、ジャンクション温度を推定している。従来は、IC等の半導体装置が基板等に実装された状態では、配置される基盤や、放熱板等の設置状況により熱抵抗値が変動するため、その状態の熱抵抗値を求めるのは困難だったためである。
【0008】
そのため、IC等の半導体装置が基板等の装置に実装された状態で熱抵抗値等の熱特性を求めて、ジャンクション温度の推定に適用することができる熱特性推定装置及び方法、並びに、温度推定装置及び方法、並びに、半導体装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明は、ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置の熱特性を推定する熱特性推定装置であって、(1)上記半導体装置のジャンクション温度が上記制限温度となる消費電力で、上記半導体装置を動作させた状態で、上記半導体装置の周囲の雰囲気温度を測定する温度測定手段と、(2)上記温度測定手段の測定結果を利用して、上記半導体装置の熱特性を推定する熱特性推定手段とを有することを特徴とする。
【0010】
第2の本発明は、ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置の熱特性を推定する熱特性推定方法であって、(1)温度測定手段、熱特性推定手段とを有し、(2)上記温度測定手段は、上記半導体装置のジャンクション温度が上記制限温度となる消費電力で、上記半導体装置を動作させた状態で、上記半導体装置の周囲の雰囲気温度を測定し、(3)上記熱特性推定手段は、上記温度測定手段の測定結果を利用して、上記半導体装置の熱特性を推定することを特徴とする。
【0011】
第3の本発明は、ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置のジャンクション温度を推定する温度推定装置であって、(1)上記半導体装置の周囲の雰囲気温度を測定する温度測定手段と、(2)第1の本発明の熱特性推定装置を用いて求めた、上記半導体装置の熱特性と、上記温度測定手段の測定結果とを利用して、上記半導体装置のジャンクション温度を推定するジャンクション温度推定手段とを有することを特徴とする。
【0012】
第4の本発明は、ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置のジャンクション温度を推定する温度推定方法であって、(1)温度測定手段、ジャンクション温度推定手段を有し、(2)上記温度測定手段は、上記半導体装置の周囲の雰囲気温度を測定し、(3)上記ジャンクション温度推定手段は、上記半導体装置の熱特性と、上記温度測定手段の測定結果とを利用して、上記半導体装置のジャンクション温度を推定することを特徴とする。
【0013】
第5の本発明は、ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置であって、第1の本発明の熱特性推定装置、及び又は、第3の本発明の温度推定装置を備えたことを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、半導体装置が装置に実装された状態での熱特性を求めて、ジャンクション温度の推定に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る熱特性推定装置を備えた電源ICの機能的構成について示したブロック図である。
【図2】実施形態に係るサーマルシャットダウン回路の特性について示した説明図である。
【図3】実施形態に係る冷却制御装置(温度推定装置)を備えた電源ICの機能的構成について示したブロック図である。
【図4】実施形態に係る熱特性推定装置及び冷却制御装置を備えた電源ICの動作について示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(A)主たる実施形態
以下、本発明による熱特性推定装置及び方法、並びに、温度推定装置及び方法、並びに、半導体装置の一実施形態を、図面を参照しながら詳述する。この実施形態では、本発明の半導体装置及び温度推定装置を、それぞれ電源IC及び冷却制御装置に適用した例について説明する。
【0017】
(A−1)実施形態の構成
図1は、この実施形態の熱特性推定装置30を備えた電源IC10の全体構成を示すブロック図である。
【0018】
電源IC10は、例えば、DC−DC変換等の直流電圧を変換する電源ユニットとして機能するIC(半導体装置)であり、基板21上に実装されている。電源IC10としては、例えば、既存の直流電圧を変換(例えば、12Vの直流電圧を3.3Vに変換)する三端子レギュレータ等を適用することができる。この実施形態では、電源IC10として、三端子レギュレータを適用した例について説明する。
【0019】
図1では、電源IC10は、基板21上に実装されたものとして図示しているが、電源IC10が実装される装置(基板、シャーシ等、半導体装置を実装することができるものを含む)は限定されないものである。また、図1では、例として、基板21上には、電源IC10から供給される電力で駆動するCPU22及びメモリ23が実装されているが、基板21上に実装される構成要素も限定されないものである。
【0020】
電源IC10は、入力端子IN、グランド端子G、及び出力端子OUTと3つの端子を有している。
【0021】
直流電源装置21は、入力端子INにViの定電圧を印加している。また、可変負荷装置22は、出力端子OUTに接続されており、負荷(抵抗値)を変化させることにより電源IC10の出力電流を制御している。以下では、電源IC10から、出力端子OUTに出力される出力電流をIo、出力電圧をVoと表すものとする。直流電源装置21及び可変負荷装置22は、もともと基板21上で電源IC10を動作させるために配置されたものであっても良いし、後述する熱特性推定装置30の一部の構成要素としても良い。
【0022】
また、電源IC10の内部には、サーマルシャットダウン回路11が備えられているものとする。サーマルシャットダウン回路11は、電源IC10内部のジャンクション温度が設定値(例えば、シリコンの場合150℃程度)を超えるとIC出力電圧を低下させる等して、負荷を下げる熱保護手段である。既存の三端子レギュレータには、サーマルシャットダウン回路が備えられているものがあり、電源IC10には、このサーマルシャットダウン回路が備えられた三端子レギュレータが採用されているものとする。
【0023】
次に、熱特性推定装置30の詳細について説明する。
【0024】
熱特性推定装置30は、電源IC10の熱特性として熱抵抗値を推定するものであり、電圧計31、電流計32、温度計33、AD変換部34、及び情報処理部35を有している。
【0025】
電圧計31は、電源IC10の出力電圧Voを計測するものであり、出力端子OUT(及びグランド端子G)に接続されている。なお、電圧計31は、既存のものを適用することができる。
【0026】
電流計32は、電源IC10の出力電流Ioを計測するものであり、出力端子OUTと、可変負荷装置22との間に挿入されている。なお、電流計32は、既存のものを適用することができる。
【0027】
温度計33は、電源IC10の周囲の雰囲気温度を計測するものである。温度計33としては、例えば、熱電対を利用した温度計等、既存のものを適用することができる。温度計33により温度を計測する位置(すなわち、温度を計測する端子を配置する位置、以下、「温度計測位置」と呼ぶものとする)は、電源IC10の周囲であれば限定されないものであるが、電源IC10の本体部分(端子を除く部分)から1mm〜5mm程度離れた位置に配置することが望ましい。なお、図1では、電源IC10に放熱部12が配置されているので、電源IC10の本体部分のうち放熱部12により覆われていない露出部分の周囲を温度計測位置としても良いし、放熱部12の周囲(同様に1mm〜5mm程度離れた位置が望ましい)を温度計測位置とするようにしても良い。また、温度計33に求められる精度によっては、温度計33の温度測定を行う端子を電源IC10に接触させて測定した温度(すなわち、電源IC10の表面の温度)を、電源IC10の周囲の雰囲気温度と見なして測定するようにしても良い。
【0028】
AD変換部34は、電圧計31、電流計32、及び温度計33の測定値(アナログ)をディジタル値に変換して、情報処理部35に供給するものである。なお、電圧計31、電流計32、及び温度計33自体からディジタル値で測定値が出力される場合には、AD変換部34は省略するようにしても良い。
【0029】
情報処理部35は、電圧計31、電流計32、及び温度計33の測定結果に基づいて、電源IC10の熱特性として熱抵抗値を推定する機能等を担っている。
【0030】
情報処理部35は、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、EEPROM、ハードディスクなどのプログラムの実行構成を有する情報処理装置に、熱特性推定プログラム等をインストールすることにより構築するようにしても良い。また、情報処理部35は、ソフトウェアではなく、専用のハードウェア(専用チップ)により構築するようにしても良い。
【0031】
次に、情報処理部35において、電源IC10の熱抵抗値を求める処理について説明する。
【0032】
上述の通り、ここでは、電源IC10は、三端子レギュレータであるものとして説明しているが、三端子レギュレータ等の直流電圧を変換する半導体装置では、通常、出力段(出力バス)のトランジスタ部分が、大部分の消費電力(損失)を発生させている。そのため、三端子レギュレータでは、出力段のトランジスタのジャンクション温度が、IC全体で最も温度が高くなる部分となるが、三端子レギュレータを構成するICチップ全体の大きさは非常に微小なものであるため、チップ全体では出力段のトランジスタ以外の部分でもほぼ同じ温度になる。
【0033】
そこで、ここでは、電源IC10全体の消費電力を、三端子レギュレータの出力段のトランジスタ部分が全て消費しているものとみなし、さらに、出力段のトランジスタ部のジャンクション温度を、電源IC10全体の半導体部分(サーマルシャットダウン回路11を含む)のジャンクション温度と同じ温度であるとみなすものとする。
【0034】
なお、以下では、電源IC10に係る消費電力をP(P=(Vi−Vo)*Io)[w]、ジャンクション温度をTj[℃]、周囲の雰囲気温度をTa[℃]、熱抵抗をRt[℃/W]とする。
【0035】
そして、ジャンクション温度Tjは、電力P、周囲温度Ta、熱抵抗Rtを用いて、以下の(1)式により表される。
【0036】
Tj=Rt*P+Ta …(1)
そして、上記の(1)式を用いると熱抵抗Rtは、以下の(2)式のように表される。
【0037】
Rt=(Tj−Ta)/P=(Tj−Ta)/{(Vi−Vo)*Io}…(2)
すなわち、電源IC10を動作させて、任意の状態のTj、Ta、Vi、Vo、Ioを把握することができれば、熱特性推定装置30では、電源IC10の熱抵抗Rtを求めることができる。しかし、ジャンクション温度Tjだけは直接測定することができないため、情報処理部35では、サーマルシャットダウン回路11の特性を利用して、所定の状態における電源IC10のジャンクション温度Tjを推定する処理を行う。
【0038】
図2は、サーマルシャットダウン回路を備えた電源IC(三端子レギュレータ)の特性の例について示した説明図である。
【0039】
図2に示すように、サーマルシャットダウン回路を備えた電源ICでは、サーマルシャットダウン回路により、出力電流が所定の値(図2では、Id)を超えると、出力電圧が急激に低下する。これは、電源ICの出力電流の増加に伴って、ジャンクション温度も上昇し、ジャンクション温度がサーマルシャットダウン回路の制限温度Tdを超えたために、サーマルシャットダウン回路が動作した結果である。
【0040】
すなわち、電源IC10の出力電流Ioが上昇しIdになると、電源IC10の消費電力の増加に伴ってジャンクション温度Tjが制限温度Tdとなる。そして、電源IC10の出力電流IoがIdを超えると、ジャンクション温度Tjが制限温度Tdを超え、サーマルシャットダウン回路が動作を開始する。
【0041】
したがって、情報処理部35では、電源IC10の出力電流IoがIdの場合には、電源IC10に係るジャンクション温度TjがTdになっていると把握することができる。
【0042】
これにより、情報処理部35では、出力電流IoがIdとなるように可変負荷装置22がセットされた状態で、雰囲気温度Taを測定することにより、上記の(2)式を用いて電源IC10の熱抵抗Rtを推定することができる。この場合、上記の(2)式では、Tj=Td、Io=Id、Viは一定値であり、Taは温度計33の測定結果を用いることができる。そして、ジャンクション温度がTdを超えない状態であるのでVoも一定の値を取る。したがって、情報処理部35では、出力電流IoがIdとなるように可変負荷装置22がセットされた状態で、雰囲気温度Taを測定するだけで、上記の(2)式の要素の値を全て把握して、電源IC10の熱抵抗Rtを求めることができる。
【0043】
図1においては、熱特性推定装置30では、出力電流IoがIdとなるように可変負荷装置22を制御して、電源IC10のジャンクション温度がTdとなる状態にしているが、電源IC10の消費電力を制御する方法は、これに限定されず電源IC10の仕様に応じたその他の方法を用いても良い。
【0044】
情報処理部35が、Td及びIdを保持する方法は限定されないものである。
【0045】
Tdについては、例えば、電源IC10の仕様をカタログ等から把握し、情報処理部35に予めセットしておくようにしても良い。
【0046】
また、情報処理部35に、可変負荷装置22の抵抗値を制御することができるドライバ(図示せず)を設け、情報処理部35が、そのドライバを用いて出力電流Ioを増大させながら、電圧計31及び電流計32を用いて、出力電圧Vo及び出力電流Ioを監視するようにしても良い。この場合、情報処理部35は、可変負荷装置22の抵抗値を制御して徐々に出力電流Ioを増大させつつ、出力電圧Voの下落率を監視し、下落率が閾値以上となったときに出力電流IoがIdを超えたと認定し、下落率が閾値以上となる直前の出力電流IoをIdと認定するようにしても良い。
【0047】
また、例えば、ユーザが可変負荷装置22を操作して、出力電流Ioを増大させながら、出力電圧Vo及び出力電流Ioを、測定器により監視し、ユーザが手動でIdを把握するようにしても良い。そして、ユーザが手動で把握したIdを、情報処理部35にセットするようにしても良い。
【0048】
次に、熱特性推定装置30で推定した熱抵抗Rtを用いて、電源IC10が、基板21上で動作している間のジャンクション温度Tjを推定し、推定したジャンクション温度Tjに応じて、電源IC10を冷却する構成例について説明する。
【0049】
図3は、電源IC10に冷却制御装置40を付加した場合の機能的構成について示したブロック図である。
【0050】
図3では、電源IC10には、冷却素子13が配置されており、冷却素子13の動作は、冷却制御装置40により制御されている。冷却素子13は、例えば、ペルチェ素子や冷却ファン等、既存の冷却素子(冷却装置)を用いることができる。
【0051】
冷却制御装置40は、電源IC10のジャンクション温度Tjを推定し、ジャンクション温度Tjが所定の制限温度Tlに達すると、冷却素子13を駆動させて電源IC10を冷却させるものである。例えば、電源IC10が、ジャンクション温度が150℃でサーマルシャットダウン回路が動作する三端子レギュレータである場合には、制限温度Tlを100℃以下に設定することが望ましい。
【0052】
冷却制御装置40は、温度計41、AD変換部42、情報処理部43、冷却コントローラ44を有している。図3では、冷却制御装置40は、一つの装置として図示しているが、電源IC10のジャンクション温度を推定する処理を行う温度推定部(温度推定装置)と、温度推定部が推定したジャンクション温度に応じて冷却素子13(冷却コントローラ44)を制御する冷却制御部とに分けて構築するようにしても良い。言い換えると、冷却制御装置40は、本発明の温度推定装置に、上述の冷却制御部が付加された構成であると言える。
【0053】
温度計41は、上述の熱特性推定装置30の温度計33と同様のものであり、電源IC10の周囲の雰囲気温度を測定するものである。電源IC10には、冷却素子13が備えられているが、温度計41により正確な温度を測定するために、温度計41の温度測定位置は、電源IC10の冷却素子13に覆われていない露出部分とすることが望ましい。
【0054】
AD変換部42は、上述の熱特性推定装置30のAD変換部34とほぼ同様のものであるが、温度計41の測定値に関するアナログデジタル変換処理だけをして情報処理部43に供給する点で異なっている。
【0055】
冷却コントローラ44は、情報処理部43の制御に応じて、冷却素子13の動作をコントロールするものである。冷却コントローラ44としては、既存の冷却素子のコントローラを適用することができる。
【0056】
情報処理部43は、温度計41の測定値から、電源IC10のジャンクション温度Tjを推定する。そして、情報処理部43は、ジャンクション温度Tjが制限温度Tlに達すると、冷却コントローラ44を介して冷却素子13を動作させて電源IC10を冷却させる。
【0057】
情報処理部43は、温度計41の測定値から、上記の(1)式に、熱特性推定装置30で求めた熱抵抗Rtを適用して、電源IC10のジャンクション温度Tjを推定する。上記の(1)式では、ジャンクション温度Tjの推定に消費電力Pも必要であるが、電源IC10のジャンクション温度Tjが、サーマルシャットダウン回路11が駆動を開始するTdよりも低い温度である限り、出力電圧Voは一定の値をとり続ける。また、出力電流Ioも、可変負荷装置22の負荷に応じた値となる。したがって、図3において、冷却制御装置40は、出力電圧Vo及び出力電流Ioを測定する構成を備えておらず、情報処理部43には予め所定の消費電力Pがセットされているものとして説明している。なお、冷却制御装置40が、出力電圧Vo及び出力電流Ioを測定する構成を別途備え、測定した結果を用いてジャンクション温度Tjの推定に用いるようにしても良い。
【0058】
情報処理部43では、温度計41により雰囲気温度Taが測定される都度、上記の(1)式に、熱特性推定装置30で求めた熱抵抗Rtを適用して、電源IC10のジャンクション温度Tjを算出するようにしても良い。また、情報処理部43では、予めジャンクション温度の制限温度Tlに対応する雰囲気温度を算出しておき、算出した雰囲気温度と、測定した雰囲気温度とを比較して、電源IC10のジャンクション温度が制限温度Tl以下であるか否かを判定するようにしても良い。例えば、温度計41が熱電対を用いた温度計である場合には、熱電対は温度に比例した電圧Vtを出力するため、制限温度Tlに対応する電圧Vrを情報処理部43に予め設定しておき、VrとVtとを比較することにより、電源IC10のジャンクション温度が制限温度Tl以下であるか否かを判定するようにしても良い。
【0059】
図1では、電源IC10には放熱部12が付けられており、図3では電源IC10に冷却素子13が付けられている。したがって、冷却制御装置40の情報処理部43にセットする熱抵抗Rtは、電源IC10に冷却素子13を付けた状態で熱特性推定装置30により測定した結果に基づいた値を適用することが望ましい。
【0060】
情報処理部43が、冷却素子13の冷却動作させた後、冷却動作を停止させるタイミングについては限定されないものであるが、例えば、冷却動作を開始してから一定時間経過した後のタイミングや、ジャンクション温度Tjの推定温度が所定の閾値以下(Tl以下としても良い)となったタイミングとしても良い。
【0061】
上述の通り、温度計41の温度測定位置は電源IC10の周囲に配置されているため、温度計41により測定される温度は、電源IC10に付けられた冷却素子13の影響を受ける場合がある。したがって、冷却素子13を動作させた場合に温度計41により測定される温度は、正確に電源IC10の周囲の雰囲気温度を示さない場合があるため、その場合情報処理部43が推定するジャンクション温度Tjは、実際のジャンクション温度よりも低くなってしまう。そこで、上述のように、冷却素子13の冷却動作させた後、冷却動作を停止させるタイミングを、冷却動作を開始してから一定時間経過した後のタイミングや、ジャンクション温度Tjの推定温度が所定の閾値以下(Tl以下としても良い)となったタイミングとすることにより、十分に電源IC10を冷却することができる。
【0062】
(A−2)実施形態の動作
次に、以上のような構成を有する熱特性推定装置の動作(実施形態の熱特性推定方法)、冷却制御装置(温度推定装置)の動作(実施形態の温度推定方法)を説明する。
【0063】
図4は、熱特性推定装置30及び冷却制御装置40を備えた電源IC10の動作について示したフローチャートである。
【0064】
ここでは、電源IC10には、熱特性推定装置30及び冷却制御装置40が備えられているものとして説明する。また、図4のフローチャートでは、初期状態として、電源IC10に、冷却素子13が付けられた状態(すなわち、図3の状態)であるものとして説明する。
【0065】
まず、電源IC10の出力電流IoがIdとなるように可変負荷装置22がセットされた状態で、熱特性推定装置30により、電源IC10の周囲の雰囲気温度Taが測定される(S101)。なお、ステップS101で用いるIdは、熱特性推定装置30により測定した結果を適用するようにしても良いし、予めユーザにより測定された結果をセットしておくようにしても良い。電源IC10の出力電流IoがIdとなるように可変負荷装置22を制御することについては、ユーザが手動で行うようにしても良いし、熱特性推定装置30が図示しないドライバを介して制御するようにしても良い。
【0066】
次に、動作中に熱特性推定装置30により、電源IC10が基板21に実装された状態での熱抵抗Rtが推定される(S102)。
【0067】
次に、熱特性推定装置30により推定された熱抵抗Rtが、冷却制御装置40に与えられると、冷却制御装置40により、電源IC10が通常モードで動作している間の電源IC10の周囲の雰囲気温度Taが測定され(S103)、測定された雰囲気温度Taに基づいて、動作中の電源IC10のジャンクション温度Tjが推定される(S104)。
【0068】
なお、熱特性推定装置30で推定した熱抵抗Rtを、冷却制御装置40に与える方法については限定されないものである。例えば、ユーザが手動で冷却制御装置40に設定するようにしても良いし、装置間で情報をやりとりするバスを別途備えるようにしても良い。また、熱特性推定装置30の情報処理部35と、冷却制御装置40の情報処理部43が共通のハードウェア(情報処理装置)を用いて構成されている場合には、ソフトウェア上で情報をやりとりするようにしても良い。
【0069】
そして、冷却制御装置40では、推定されたジャンクション温度Tjが、制限温度Tlを超えているか否かが判定される(S105)。
【0070】
上述のステップS105で、ジャンクション温度Tjが、制限温度Tl以下と判定された場合には、冷却制御装置40は、上述のステップS103に戻って動作する。
【0071】
一方、上述のステップS105で、ジャンクション温度Tjが、制限温度Tlを超えたと判定された場合には、冷却制御装置40は、冷却コントローラ44を介して冷却素子13を動作させ、電源IC10の冷却を行ない(S106)、上述のステップS103に戻って動作する。
【0072】
(A−3)実施形態の効果
この実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0073】
この実施形態では、熱特性推定装置30により、電源IC10に搭載された熱保護回路(サーマルシャットダウン回路)の特性を利用して、電源IC10が基板21に実装された状態の熱抵抗値を求めることができる。
【0074】
そして、冷却制御装置40では、求めた熱抵抗値と雰囲気温度とを利用して、冷却制御電源IC10に係るジャンクション温度を推定するため、より正確なジャンクション温度を推定することができる。これにより、冷却制御装置40では、電源IC10の正確な温度を把握して冷却素子13の動作を制御することができるので、無駄な冷却をせずに効率良く冷却素子13を制御することができる。
【0075】
(B)他の実施形態
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような変形実施形態も挙げることができる。
【0076】
(B−1)上記の実施形態では、熱特性推定装置30と冷却制御装置40とは、別装置であるものとして説明したが、一つの装置として構築するようにしても良い。その際には、熱特性推定装置30側の温度計33、AD変換部34、及び情報処理部35については、それぞれ、冷却制御装置40側の温度計41、AD変換部42、及び情報処理部43と共通のハードウェアを用いて構築するようにしても良い。
【0077】
また、上記の実施形態において、熱特性推定装置30及び冷却制御装置40は、電源IC10が実装された基板21とは別の装置として構築しているが、基板21上に構築するようにしても良い。
【0078】
(B−2)上記の実施形態では、熱特性推定装置30及び冷却制御装置40(温度推定装置)の処理対象の半導体装置として電源IC10を適用した場合の例について説明したが、熱特性推定装置30及び冷却制御装置40の処理対象は、その他の半導体装置としても良い。熱特性推定装置30及び冷却制御装置40を適用する半導体装置としては、例えば、熱保護回路(サーマルシャットダウン回路等)を備える整流器や、AC−DCコンバータ等もあげられる。また、上記の実施形態では、電源IC10は、1つのIC(チップ)により構成されているものとして説明したが、熱特性推定装置30及び冷却制御装置40(温度推定装置)の処理対象の半導体装置は、複数のIC(チップ)や半導体素子等を用いて構成されたものであっても良い。
【0079】
このように、熱特性推定装置30及び冷却制御装置40の処理対象の半導体装置は、当該半導体装置の本来機能を実現する半導体部分(トランジスタ、サイリスタ、ダイオード等)に加えて、熱保護回路(サーマルシャットダウン回路等)を備える半導体装置(IC等)であれば限定されないものである。
【0080】
(B−3)上記の実施形態では、熱特性推定装置30が求めた熱抵抗値は、冷却制御装置40に与えられるものとして説明したが、単に熱特性推定装置30を熱抵抗値を推定するだけの装置として利用するようにしても良い。例えば、電源IC10を実装した装置の品質検査として、電源IC10が実装された状態の熱抵抗値を求めるようにしても良い。また、電源IC10を実装した装置を実際使用している現場(フィールド)で、同様に熱特性推定装置30を用いて電源IC10に係る検査として熱抵抗値を求めることに利用するようにしても良い。
【0081】
(B−4)上記の実施形態では、冷却制御装置40がジャンクション温度の推定に用いる熱抵抗値は、熱特性推定装置30から与えられたものとして説明したが、熱特性推定装置30以外から熱抵抗値の供給を受けるようにしても良い。
【0082】
(B−5)上記の実施形態では、熱特性推定装置30が一度熱抵抗値を推定すると、その熱抵抗値を冷却制御装置40が利用し続ける例について説明したが、例えば、熱特性推定装置30が定期又は不定期に熱抵抗値を推定する処理を行い、冷却制御装置40にセットする熱抵抗値を更新するようにしても良い。これにより、例えば、電源IC10や、電源IC10自身や周辺の部分の劣化等により、熱抵抗値が変動した場合でも、冷却制御装置40では正確な熱抵抗値を用いて、ジャンクション温度を推定することができる。
【0083】
(B−6)上記の実施形態では、本発明の温度推定装置を、冷却制御装置40に適用した例について説明したが、本発明の温度推定装置が推定したジャンクション温度が制限温度Tlを超えた場合の処理は、温度推定対象(電源IC10)の冷却に限定されないものである。例えば、本発明の温度推定装置が推定したジャンクション温度が制限温度Tlを超えた場合には、図示しない、スピーカやランプにより警報を発したり、通信により他の装置に所定の信号を送信(メッセージ送信等)するようにしても良い。
【符号の説明】
【0084】
10…電源IC、11…サーマルシャットダウン回路、12…放熱部、13…冷却素子、IN…入力端子、G…グランド端子、OUT…出力端子、Vi…入力電圧、Vo…出力電圧、Io…出力電流、21…基板、21…直流電源装置、22…可変負荷装置、22…CPU、23…メモリ、30…熱特性推定装置、31…電圧計、32…電流計、33…温度計、34…AD変換部、35…情報処理部、40…冷却制御装置(温度推定装置)、41…温度計、42…AD変換部、43…情報処理部、44…冷却コントローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置の熱特性を推定する熱特性推定装置であって、
上記半導体装置のジャンクション温度が上記制限温度となる消費電力で、上記半導体装置を動作させた状態で、上記半導体装置の周囲の雰囲気温度を測定する温度測定手段と、
上記温度測定手段の測定結果を利用して、上記半導体装置の熱特性を推定する熱特性推定手段と
を有することを特徴とする熱特性推定装置。
【請求項2】
ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置の熱特性を推定する熱特性推定方法であって、
温度測定手段、熱特性推定手段を有し、
上記温度測定手段は、上記半導体装置のジャンクション温度が上記制限温度となる消費電力で、上記半導体装置を動作させた状態で、上記半導体装置の周囲の雰囲気温度を測定し、
上記熱特性推定手段は、上記温度測定手段の測定結果を利用して、上記半導体装置の熱特性を推定する
ことを特徴とする熱特性推定方法。
【請求項3】
ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置のジャンクション温度を推定する温度推定装置であって、
上記半導体装置の周囲の雰囲気温度を測定する温度測定手段と、
請求項1に記載の熱特性推定装置を用いて求めた、上記半導体装置の熱特性と、上記温度測定手段の測定結果とを利用して、上記半導体装置のジャンクション温度を推定するジャンクション温度推定手段と
を有することを特徴とする温度推定装置。
【請求項4】
上記ジャンクション温度推定手段により推定されたジャンクション温度が、閾値に達した場合に、上記半導体装置が備える冷却部を制御して上記半導体装置を冷却させる冷却制御手段をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の温度推定装置。
【請求項5】
ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置のジャンクション温度を推定する温度推定方法であって、
温度測定手段、ジャンクション温度推定手段を有し、
上記温度測定手段は、上記半導体装置の周囲の雰囲気温度を測定し、
上記ジャンクション温度推定手段は、上記半導体装置の熱特性と、上記温度測定手段の測定結果とを利用して、上記半導体装置のジャンクション温度を推定する
ことを特徴とする温度推定方法。
【請求項6】
ジャンクション温度が制限温度を超えると、当該半導体装置の負荷を低下させる熱保護手段を備えた半導体装置において、請求項1に記載の熱特性推定装置、及び又は、請求項3に記載の温度推定装置を備えたことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−21897(P2012−21897A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160323(P2010−160323)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】