説明

熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープ

【課題】 ICモジュール素材とICカード基材との接着に関し、ICモジュール素材とICカード基材の両方に対して十分な接着力を有し、ICカードに加わった曲げ応力や衝撃も吸収する柔軟な接着層であり、接着時間の短縮が図れることにより、さらに効率的、迅速的に生産可能で、且つ、高温下での接着剤層の変形が防止できる熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープを提供する。
【解決手段】(A)ニトリル―ブタジエンゴム32〜75重量%(B)フェノール樹脂24〜65重量%および(C)ヘキサメチレンテトラミン0.2〜9重量%(D)可塑剤0.1〜20重量%からなる樹脂組成物を(E)有機溶媒に溶解した後、有機溶媒を実質上残存しない濃度まで除去することにより、10〜150μmの厚さのフィルムをとしたことを特徴とする熱硬化型フィルム状接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からクレジットカード、金融系カード、IDカード等、プラスチック製の基材に情報記録媒体として磁気記録層或いは磁気テープが設けられた、通称磁気ストライプカードと言われるカードが一般的に知られている。近年、カード基材内部にICモジュール素材とICチップが一体となったICモジュールを装着したICカードと称されるカードの使用が増加している。このICカードは磁気カードと比較して大量のデータを記憶させることができ、物理的に複製が困難で偽造を防止できることから安全性が高く、種々の分野での利用が期待されている。このICカードに使用されるカード基材はプラスチック素材からなるが、カード自体が薄いことから日常の使用時に容易に曲がりが生じてくる。このICカードの曲がりが原因でICモジュールが物理的に故障し、更にはICチップ自体の機能をも損傷することがあり問題となっていた。これらの損傷を防ぐための方法が数多く検討されている。
【0003】
従来より、ICモジュールとICカード基材を接着固定する方法としては、シアノアクリレート系接着剤、エポキシ系接着剤、熱溶融型ホットメルト系接着剤等の接着剤が用いられてきた。 しかし、シアノアクリレート系接着剤の場合、硬化速度が速いため加工時の利便性では優れるが、硬化樹脂は硬くて脆いため、カードの曲げ応力が直接ICモジュールに伝わってしまうという欠点があった。また、液状エポキシ接着剤の場合、曲げ応力を吸収できる樹脂組成とすることは可能であるが、液状であるために接着の際にはみ出した接着剤により外観が損なわれるという問題が生じていた。
【0004】
これらの問題を接着方法の改良により対処する方法としては、薄型というカード構造であるがゆえにフィルムタイプの接着剤が好適であるが、前記のエポキシ系接着剤では、フィルム状に加工することも可能であるが、硬化反応を制御することが難しいという欠点がある。熱溶融型ホットメルト系接着剤を用いた方法としては、(1)シート状のホットメルト接着剤とウレタン系接着剤等の液状接着剤を併用する方法(特許文献1)や(2)結晶性ポリエステル樹脂に非結晶性ポリエステル樹脂およびテルペン系接着付与剤を配合したポリエステル系ホットメルト接着剤組成物を用いて成形された接着フィルム・シート(特許文献2)が提案されている。しかし、(1)の場合、液状接着剤を併用するため、作業場での汚染や品質の安定性等の観点から塗布量を正確に調整する必要があり、高い熟練と技術力を要する。(2)のポリエステル系ホットメルト接着剤組成物を使用した場合は(1)のような液状接着剤の併用はしなくても良いが、接着剤組成物が硬化した樹脂が熱可塑性であるため、製品化されたICカードが真夏の車内などの高温下に長時間放置された場合、樹脂の変形等によりICモジュールが物理的に故障し、更にはICチップ自体の機能をも損傷する欠点がある。
【0005】
一方、ICモジュール素材としては一般的にエポキシガラス、ポリイミドが使用され、ICカード基材としては一般的に塩化ビニル、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレンコポリマー(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET−G)等のプラスチック素材が使用されるが、特にエポキシガラス、ポリイミド、PET−G等は一般的に難接着材料に位置付けられ、上記のシアノアクリレート系接着剤、エポキシ系接着剤、熱溶融型ホットメルト系接着剤ではしばしば接着不良を起こす問題がある。 従って、ICカード基材とICモジュール素材の接着に関し、ICモジュール素材とICカード基材の両方に対して十分な接着力を有し、ICカードに加わった曲げ応力や衝撃も吸収する柔軟な接着層でありながら、効率的、迅速的に生産可能で、且つ、高温下での接着剤層の変形が防止できる熱硬化型フィルム状接着剤組成物の開発が望まれていた。
【0006】
この要望に対して本発明者らは、先に、特願2004−375965号(特許文献3)において特定の組成を有するニトリル―ブタジエンゴム、フェノール樹脂およびヘキサメチレンテトラミン組成物を用いて作成した熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープを提案した。該接着剤組成物および接着テープは、ICカード基材とICモジュールの接着に関し、効率的、迅速的に生産できることを可能としたフィルム状接着剤組成物であり、接着後は日常の使用に十分耐えうる接着性を有し、ICカードに加わった曲げ応力や衝撃も吸収する柔軟な接着層であるとともに、熱硬化型であるため、高温下での接着剤層の変形が防止できる接着剤組成物および接着テープである。そして生産効率等の向上を目的として該接着剤組成物および接着テープについて諸特性は維持し、かつ、接着後の性能が同等であり、更に接着時間の短縮が図れる熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープの開発が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開平9―48190号公報
【0008】
【特許文献2】特開2002―138269号公報
【0009】
【特許文献3】特願2004―375965号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、より厳しいかあるいはより制約を受けた接着条件下においても前記特許出願に記載の接着剤組成物および接着テープの諸特性を維持し、かつ、接着後の性能が同等であり、接着時間の短縮が図れる熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、(A)ニトリル―ブタジエンゴム32〜75重量%(B)フェノール樹脂24〜65重量%および(C)ヘキサメチレンテトラミン0.2〜9重量%(D)可塑剤0.1〜20重量%含有する樹脂組成物を(E)有機溶媒に溶解した後、有機溶媒を実質上残存しない濃度まで除去し、10〜150μmの厚さのフィルムとしたことを特徴とする熱硬化型フィルム状接着剤組成物をICモジュールとICカード基材との接着に用いることおよび前記フィルム状接着剤組成物を両面離型基材と2層構造とした熱硬化型フィルム状接着テープとすることにより上記課題が解決されることを見いだし、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物は、(A)〜(D)で規定された特定の樹脂組成物を有機溶媒に溶解した後、(E)有機溶媒を実質上残存しない濃度まで、除去することにより、10〜150μmの厚さのフィルムとすることに特徴があり、もし、樹脂組成物の組成が異なったり、(A)〜(D)で規定された特定の樹脂組成物を有機溶媒に溶解した後、有機溶媒を実質上残存しない濃度まで、除去することなしに10〜150μmの厚さのフィルムを作成しようとした場合、厳しい接着条件下においても同等の性能を有し、接着時間の短縮が図れる熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープを得ることはできない。
【0013】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物に用いられる(A)ニトリル―ブタジエンゴムの含有量は、フィルム状接着剤組成物中、32〜75重量%であり、好ましくは40〜70重量%であり、更に好ましくは、45〜65重量%である。32重量%未満では硬化樹脂が固くなりすぎるので曲げ応力や衝撃を吸収するには不十分であり、75重量%を越えるとフェノール樹脂の架橋度が不足して接着力そのものが低下するので好ましくない。また、本発明で用いるニトリル―ブタジエンゴムの結合ニトリル量は、本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物の性能を損なわない範囲であれば特に限定されないが、通常、20〜60%であり、好ましくは25〜55%である。ニトリル量が20%未満では接着力が低下する傾向があり、60%を越えると凝集力が高くなり過ぎるため柔軟性が低下し、接着剤層の衝撃強さが低下する傾向がある。更にニトリル―ブタジエンゴムの重量平均分子量は、通常、5〜150万であり、好ましくは10〜100万である。分子量5万未満では接着力が低下する場合があり、150万を超えると組成物が不均一になる場合がある。また、ニトリル―ブタジエンゴムは、粉状、塊状、シート状、ペレット状、エマルジョンのいずれを使用してもよく、分子鎖中にカルボキシル基、アミノ基、ビニル基を含有するタイプも使用することが出来る。
【0014】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物に用いられる(B)フェノール樹脂は、フィルム状接着剤組成物中、24〜65重量%であり、好ましくは30〜60重量%である。 フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂があり、それぞれ単独で用いても併用してもよいが、併用するほうが好ましい。併用する場合の混合比はノボラック型フェノール樹脂30〜90重量%に対しレゾール型フェノール樹脂10〜70重量%が好ましい。ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂の分子量は、特に限定されないが、ポリスチレン換算の重量平均分子量で500〜50000の範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物に用いられる(C)ヘキサメチレンテトラミンは、フィルム状接着剤組成物中、0.2〜9重量%であり、0.5〜6重量%が好ましい。0.2重量%未満であると十分な接着スピードが得られず硬化も不十分であり、9重量%を越えると加熱接着時に発生するガスにより、接着剤硬化物に不均一な部分ができるため接着強度が低下する傾向があり好ましくない。
【0016】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物に用いられる(D)可塑剤の含有量は、0.1〜20重量%であり、1.0〜15重量%が好ましい範囲である。含有量が0.1重量%未満であると従来より厳しい接着条件下では、硬化が不十分となり十分な接着力が得られず、20重量%を越えると接着剤硬化物が柔らかくなり過ぎるため十分な接着力が得られない。
【0017】
本発明における可塑剤は、特に限定されないが、ニトリル―ブタジエンゴムまたはフェノール樹脂の少なくともどちらか一方に対し相溶性を少しでも有するものが好ましく、ニトリル―ブタジエンゴム及びフェノール樹脂の両方に相溶性を有するものが更に好ましい。
可塑剤としては、脂肪族カルボン酸誘導体、芳香族カルボン酸誘導体、リン酸誘導体等が挙げられ、脂肪族カルボン酸誘導体としては、脂肪族モノカルボン酸エステル、脂肪族ジカルボン酸エステル、脂肪族トリカルボン酸エステルおよびそれらの誘導体等が挙げられる。芳香族カルボン酸誘導体としては、芳香族ジカルボン酸エステル、芳香族トリカルボン酸エステル、芳香族テトラカルボン酸エステルおよびそれらの誘導体等が挙げられる。リン酸誘導体としてはリン酸エステル等が挙げられる。
上記可塑剤のうち、式(1)〜(3)
【0018】
【化1】

(Rは置換基を有していてもよい炭素数4〜10の脂肪族基、Rは炭素数1〜3のアルキレン基、R3は炭素数4〜13のアルキル基であり、xは、0〜9の整数を表わし、かつ4≦(Rの炭素数)×X+(R3の炭素数)≦13である。mは1〜3の整数を表し、mが2〜3の場合、R2、R3及びxの組み合わせは、同一であっても異なっていてもよい。)
【0019】
【化2】

(R4は置換基を有していてもよいベンゼン骨格1個を有する芳香族基であり、nは2〜4の整数を表す。R、R3、xは前記と同じ意味を表わし、かつ4≦(Rの炭素数)×X+(R3の炭素数)≦13である。nは2〜4の整数を表し、R2、R3及びxの組み合わせは、同一であっても異なっていてもよい。)
【0020】
【化3】

(R、xは前記と同じ意味を表わし、Rは、炭素数4〜13のアルキル基又は炭素数6〜13のアリール基であり、かつ、4≦(Rの炭素数)×X+(Rの炭素数)≦13である。及びR、R、xの組み合わせは、同一であっても異なっていてもよい。)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が含まれることがより好ましい。式(1)で表わされる化合物としては、具体的には例えば、2−エチルヘキシルオレート、ブトキシエチルオレート等の脂肪族モノカルボン酸エステルおよびその誘導体、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソトリデシルアジペート、ジ(ブトキシエトキシエチル)アジペート、ジメチルアゼレート、ジイソブチルアゼレート、ジブチルアゼレート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジイソトリデシルアゼレート、ジメチルセバケート、ジイソブチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ(ブトキシジエトキシエチル)セバケート、ジイソデシルセバケート、ジイソトリデシルセバケート等の脂肪族ジカルボン酸エステルおよびその誘導体、アセチルトリブチルシトレート等の脂肪族トリカルボン酸エステルおよびその誘導体が挙げられる。
式(2)で表わされる化合物としては、具体的には例えば、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソデシルフタレート、ジイソトリデシルフタレート等の芳香族ジカルボン酸エステルおよびその誘導体、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテート等の芳香族トリカルボン酸エステルおよびその誘導体、テトラ(2−エチルヘキシル)ピロメリテート等の芳香族テトラカルボン酸エステルおよびその誘導体が挙げられる。
式(3)で表わされる化合物としては、例えば、トリブチルフォスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)フォスフェート、トリ(ブトキシエチル)フォスフェート、2−エチルヘキシル−ジフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート等のリン酸エステルが挙げられる。
これらの化合物のうち、2−エチルヘキシルオレート、ブトキシエチルオレート、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジ(ブトキシエトキシエチル)アジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソブチルセバケート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ(ブトキシジエトキシエチル)セバケート、ジイソデシルセバケート、アセチルトリブチルシトレート、トリ(ブトキシエチル)フォスフェート、2−エチルヘキシル−ジフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、クレジルジフェニルフォスフェートについては、同条件下でより強い接着力が得られるため、さらに好ましく、アセチルトリブチルシトレート、ジブトキシエトキシエチルアジペート、クレジルジフェニルフォスフェートが特に好ましい。
【0021】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物に用いられる(E)有機溶媒は、本発明における(A)〜(D)を均一に溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系化合物、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系化合物、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられ、これらのうち、ケトン系化合物が好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンがさらに好ましい。本発明の溶剤を使用して(A)〜(D)を溶解させ、一旦溶液状態とすることによりニトリル―ブタジエンゴムとフェノール樹脂、ヘキサメチレンテトラミン及び可塑剤を任意の割合で極めて均一な組成物とすることができる。
【0022】
本発明の(A)ニトリル―ブタジエンゴム32〜75重量%(B)フェノール樹脂24〜65重量%および(C)ヘキサメチレンテトラミンを0.2〜9重量%(D)可塑剤0.1〜20重量%含有する樹脂組成物を(E)有機溶媒に溶解した後、有機溶媒を実質上残存しない濃度まで除去することにより、10〜150μmの厚さのフィルムを得る方法としては、前記樹脂組成物を(E)有機溶媒に溶解し、均一な溶液としたものを離型基材上に均一の厚みに塗布後、有機溶媒を実質上残存しない濃度まで除去することにより目的とするフィルムを得る溶剤キャスト法等が挙げられる。
【0023】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物におけるフィルムの厚さは、10〜150μmであり、好ましくは10〜100μmである。10μm以下では十分な接着力が得られず、150μmを超えると接着時の圧力でフィルム層のはみ出しが発生しやすくなるため好ましくない。
【0024】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物の使用法としては、例えば、凹部を有するカード基材上に、予め個片の熱硬化型フィルム状接着剤組成物を乗せておき、この上に個片のICモジュールを乗せて、ICモジュールのICモジュール素材部分とICカード基材とを加熱接着する方法等が考えられる。
【0025】
また、本発明の熱硬化型フィルム状接着テープは、前記熱硬化型フィルム状接着剤組成物と両面離型基材の2層構造からなる接着テープであり、この熱硬化型フィルム状接着テープを用いてICモジュールをICカード基材に接着する方法としては、通常、まず第1工程(仮接着)として、ICモジュールのICモジュール素材部分と熱硬化型フィルム状接着剤組成物とを直接接触させ、離型基材側から数秒加熱し、ICモジュール素材部分と仮接着する。ここで次工程での接着圧締による接着剤のはみ出しを考え、ICモジュール中央に位置するICチップ部位には予め前記熱硬化型フィルム状接着剤組成物と両面離型基材の2層構造からなる接着テープに穴を開けておき、ICチップ部位とICカード基材側と空隙をもたせる構成とすることが好ましい。次に第2工程(本接着)として片面に離型基材のついた熱硬化型フィルム状接着剤組成物が仮接着されたICモジュールのICモジュール素材部分から離型基材を剥がし、熱硬化型フィルム状接着剤組成物の未接着の面をカード基材に接触するように装着し、ICモジュール側から数秒加熱し、ICモジュールとICカード基材の接着を行なう。この第1〜2工程は、連続して行なうことも個別に行なうこともできる。
【0026】
本発明の熱硬化型フィルム状接着テープで用いられる離型基材としては、前記第1工程(仮接着)での加熱に耐える耐熱性を有するものであれば特に限定されないが、通常、離型基材の素材としては例えば、紙、グラシン紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられ、単層であっても同一又は異なる素材からなる複数層であってもよい。複数層からなる離型基材としては、例えば、ポリエチレンやシリコンで表面処理された紙またはグラシン紙、シリコン処理またはマット処理されたポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。
【0027】
本発明の熱硬化型フィルム状接着テープで用いられる離型基材の膜厚としては、取り扱う上での作業性や仮接着時の接着力を損なわない範囲であれば特に制限されないため、離型基材の材質により異なるが、10〜150μmが好ましい。10μm未満では離型基材自身の強度が不足する場合があり、150μmを超える場合は熱の伝導性が悪くなり十分な仮接着力が得られない場合がある。
【0028】
本発明の熱硬化型フィルム状接着テープを用いてICモジュールのICモジュール素材部分とICカード基材とを加熱接着する場合、仮接着温度は、使用する離型基材によっても異なるが、離型基材が変質を起こさず、作業性に支障がない温度であれば、特に限定されず、通常は100℃以上の温度で行なわれる。仮接着温度が100℃未満の場合十分な仮接着強度が得られない場合がある。
【0029】
また第1工程(仮接着)実施後、第2工程(本接着)を実施するまでに滞留期間がある場合には、滞留期間中に離型基材が剥がれることを防止するために離型基材として重剥離タイプのものを用いることがより好ましい。
【0030】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物には、接着性を阻害しない範囲で必要に応じて粘着付与剤、帯電防止剤、着色剤、香料、溶剤、無機フィラー(シリカ、カーボンブラック)等を添加配合して使用することが出来る。
【0031】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープは、ICカード基材とICモジュールの接着に利用され、通常、接触型ICカードに適用されるが、接触型、非接触型チップを1枚のカードに搭載したコンビ型及びハイブリット型ICカード、接触、非接触を1チップで共有するマルチインターフェイス型ICカード等、あらゆるICカードに適用可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープは、ICカード基材とICモジュールの接着に関し、効率的、迅速的に生産できることを可能としたフィルム状接着剤組成物であり、接着後は日常の使用に十分耐えうる接着性を有し、ICカードに加わった曲げ応力や衝撃も吸収する柔軟な接着層でありながら、熱硬化型であるため、高温下での接着剤層の変形が防止できる。
【0033】
本発明の詳細を、実施例と比較例により本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
下記の方法により、熱硬化型フィルム状接着剤組成物および熱硬化型フィルム状接着テープを作成した。
実施例1〜12及び比較例1〜6の原液を溶剤キャスト法により両面離型基材(カイト化学社製SLB―50WD#1300 )上に塗工し、60〜130℃乾燥機中で溶剤を乾燥させ、約60μmの熱硬化型フィルム状接着剤組成物、約100μmの離型基材の2層とからなる熱硬化型フィルム状接着テープを得た。
【0035】
「剥離強度の測定」
ICモジュール素材としてエンジニアリングテストサービス(株)社製厚み0.5mmのエポキシガラス、カード基材としてエンジニアリングテストサービス(株)社製厚み0.5mmの硬質塩化ビニル、PET−Gを使用した。実施例及び比較例の熱硬化型フィルム状接着剤組成物を離型基材から剥がして両素材に挟み、エポキシガラス側から3.125cmの面積で200℃の加熱で1.5秒、2barの圧力にて接着した。接着物をオートグラフを使用して180°剥離強度を測定した結果を表1〜5に示した。尚、表中エポキシガラスはFRP、硬質塩化ビニルはPVCと略する。
【実施例1】
【0036】
PR−7031A(住友ベークライト(株)社製ノボラック型フェノール樹脂:ヘキサメチレンテトラミン含量7%)50重量部、Nipol1041(日本ゼオン(株)社製、ニトリル―ブタジエンゴム:結合アクリロニトリル量40.5%)50重量部およびATBC(田岡化学工業(株)社製、可塑剤 アセチルトリブチルシトレート)5重量部をメチルエチルケトン(以降MEKと略する。)に溶解させ、固形分30.0%とした接着剤樹脂組成物Aの溶液を調製し、この溶液と両面離型基材(カイト化学社製SLB―50WD#1300 )を用いて溶剤キャスト法により両面離型基材上に塗工し、70〜130℃乾燥機中で溶剤を乾燥させ、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Aからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープaを得た。この接着テープaについて剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【実施例2】
【0037】
PR−7031A、50重量部、Nipol1041、50重量部およびATBC、10重量部をMEKに溶解させ実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Bからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープbを得た。この接着テープbについて剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【実施例3】
【0038】
PR−7031A、50重量部、Nipol1041、50重量部およびSR−86A(田岡化学工業(株)社製、可塑剤 ジ(ブトキシエトキシエチル)アジペート)5重量部をMEKに溶解させ実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Cからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープcを得た。この接着テープcについて剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【実施例4】
【0039】
PR−7031A、50重量部、Nipol1041、50重量部およびSR−86A、10重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Dからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープdを得た。この接着テープdについて剥離強度を測定した結果を表1に示す。
【実施例5】
【0040】
PR−7031A、50重量部、Nipol1041、50重量部およびCDP(大八化学工業(株)社製、可塑剤 クレジルジフェニルフォスフェート)5重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Eからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープeを得た。この接着テープeについて剥離強度を測定した結果を表2に示す。
【実施例6】
【0041】
PR−7031A、50重量部、Nipol1041、50重量部およびCDP(大八化学工業(株)社製、可塑剤 クレジルジフェニルフォスフェート)10重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Fからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープfを得た。この接着テープfについて剥離強度を測定した結果を表2に示す。
【実施例7】
【0042】
PR−11078(住友ベークライト(株)社製、レゾール型フェノール樹脂:ヘキサメチレンテトラミン含有せず)50重量部、Nipol1041、50重量部、ヘキサメチレンテトラミン、1.0重量部およびSR−86A、5重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Gからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープgを得た。この接着テープgについて剥離強度を測定した結果を表2に示す。
【実施例8】
【0043】
PR−11078、50重量部、Nipol1041、50重量部、ヘキサメチレンテトラミン、1.0重量部およびSR−86A、10重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Hからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープhを得た。この接着テープhについて剥離強度を測定した結果を表2に示す。
【実施例9】
【0044】
PR−7031A、10重量部、PR−11078、40重量部、Nipol1041、50重量部およびSR−86A、5重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Iからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープiを得た。この接着テープiについて剥離強度を測定した結果を表3に示す。
【実施例10】
【0045】
PR−7031A、40重量部、PR−11078、10重量部、Nipol1041、50重量部およびSR−86A、5重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Jからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープjを得た。この接着テープjについて剥離強度を測定した結果を表3に示す。
【実施例11】
【0046】
PR−7031A、50重量部、NipolDN009(日本ゼオン(株)社製、ニトリル―ブタジエンゴム:結合アクリロニトリル量50%)50重量部およびSR−86A、5重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Kからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープkを得た。この接着テープkについて剥離強度を測定した結果を表3に示す。
【実施例12】
【0047】
PR−7031A、50重量部、Nipol1043、(日本ゼオン(株)社製、ニトリル―ブタジエンゴム:結合アクリロニトリル量29%)50重量部およびSR−86A、5重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Lからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープlを得た。この接着テープlについて剥離強度を測定した結果を表3に示す。
【0048】
(比較例1)
PR−7031A、50重量部およびNipol1041、50重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Mからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープmを得た。この接着テープmについて剥離強度を測定した結果を表4に示す。
【0049】
(比較例2)
PR−11078、50重量部およびNipol1041、50重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Nからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープnを得た。この接着テープnについて剥離強度を測定した結果を表4に示す。
【0050】
(比較例3)
PR−7031A、10重量部、PR−11078、40重量部およびNipol1041、50重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Oからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープoを得た。この接着テープoについて剥離強度を測定した結果を表4に示す。
【0051】
(比較例4)
PR−7031A、40重量部、PR−11078、10重量部およびNipol1041、50重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Pからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープpを得た。この接着テープpについて剥離強度を測定した結果を表5に示す。
【0052】
(比較例5)
PR−7031A、50重量部およびNipolDN009、50重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Qからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープqを得た。この接着テープqについて剥離強度を測定した結果を表5に示す。
【0053】
(比較例6)
PR−7031A、50重量部およびNipol1043、50重量部をMEKに溶解させ、実施例1と同様の操作を行ない、厚さ約60μmの接着剤樹脂組成物Rからなる接着フィルム層、厚さ約100μmの離型基材層の2層となる熱硬化型フィルム状接着テープrを得た。この接着テープrについて剥離強度を測定した結果を表5に示す。
【0054】
【表1】

( )内はPR−7031A中のヘキサメチレンテトラミン量換算値(重量部)
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICモジュールとICカード基材とを接着するための熱硬化型フィルム状接着剤組成物であって、(A)ニトリル―ブタジエンゴム32〜75重量%(B)フェノール樹脂24〜65重量%および(C)ヘキサメチレンテトラミン0.2〜9重量%(D)可塑剤0.1〜20重量%からなる樹脂組成物を(E)有機溶媒に溶解した後、有機溶媒を実質上残存しない濃度まで除去することにより、10〜150μmの厚さのフィルムとしたことを特徴とする熱硬化型フィルム状接着剤組成物。
【請求項2】
フェノール樹脂がノボラック型フェノール樹脂及びレゾール型フェノール樹脂の混合物であって、その混合比がノボラック型フェノール樹脂30〜90重量%に対しレゾール型フェノール樹脂10〜70重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱硬化型フィルム状接着剤組成物。
【請求項3】
可塑剤が式(1)〜(3)
【化1】

(Rは置換基を有していてもよい炭素数4〜10の脂肪族基、Rは炭素数1〜3のアルキレン基、R3は炭素数4〜13のアルキル基であり、xは、0〜9の整数を表わし、かつ4≦(Rの炭素数)×X+(R3の炭素数)≦13である。mは1〜3の整数を表し、mが2〜3の場合、R2、R3及びxの組み合わせは、同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】

(R4は置換基を有していてもよいベンゼン骨格1個を有する芳香族基であり、nは2〜4の整数を表す。R、R3、xは前記と同じ意味を表わし、かつ4≦(Rの炭素数)×X+(R3の炭素数)≦13である。nは2〜4の整数を表し、R2、R3及びxの組み合わせは、同一であっても異なっていてもよい。)
【化3】

(R、xは前記と同じ意味を表わし、Rは、炭素数4〜13のアルキル基又は炭素数6〜13のアリール基であり、かつ、4≦(Rの炭素数)×X+(Rの炭素数)≦13である。及びR、R、xの組み合わせは、同一であっても異なっていてもよい。)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む事を特徴とする請求項1および2記載の熱硬化型フィルム状接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3記載のフィルム状接着剤組成物を両面離型基材と2層構造として用いることを特徴とする熱硬化型フィルム状接着テープ。

【公開番号】特開2006−299131(P2006−299131A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124349(P2005−124349)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】