説明

熱硬化性シリコーン樹脂組成物

【課題】透明性に優れ、かつ、高屈折率を有する熱硬化性シリコーン樹脂組成物、その製造方法、該組成物のシート状成形体及び該組成物で封止している光半導体装置を提供すること。
【解決手段】分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体と、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子とを重合反応させて得られ、前記シリコーン誘導体が分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体を2種以上含有し、前記重合反応を該金属酸化物微粒子の存在下に、該シリコーン誘導体を2段階以上に分けて添加して行う、熱硬化性シリコーン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性シリコーン樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、透明性に優れ、かつ、高屈折率を有する熱硬化性シリコーン樹脂組成物、その製造方法、該組成物のシート状成形体及び該組成物で封止している光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂は、有機高分子からなる材料に比べて、耐熱性や耐光性に優れることから、高耐久性が必要な電子材料分野においての使用が増えている。なかでも、高輝度の光半導体封止材料、使用環境が厳しく耐久性を要する太陽電池用フィルム、使用条件が厳しいレンズ等においては、シリコーン樹脂が汎用されている。
【0003】
シリコーン樹脂の問題点としては、屈折率が低いことが知られている。一般的なシリコーン樹脂の屈折率は1.4前後であり、汎用されている有機高分子からなる材料と比較しても、0.1程度低い値である。このように低い屈折率を有するシリコーン樹脂は、例えば、高輝度の光半導体封止材料においては、省エネルギーの観点から、光取り出し効率の向上が求められていることから、屈折率の向上が急務の課題となっている。
【0004】
これに対して、シリコーン樹脂そのものの屈折率を向上させる手段として、特許文献1では、シリコーン樹脂に嵩高い芳香族置換基を導入する技術が報告されている。それによると、ケイ素の置換基として屈折率の高いフェニル基を導入することにより、屈折率を1.4から1.5強にまで向上することが可能となる。
【0005】
また、酸化チタン、酸化ジルコニア、チタン酸バリウム等の高屈折率金属酸化物を樹脂中に分散させることにより、樹脂の屈折率を調整する方法が検討されている。しかし、一般的に、親水性の金属酸化物粒子を、疎水性かつ撥水性のシリコーン樹脂中に分散させることは困難であり、特に、透明性が要求される用途には適用が難しい。
【0006】
そこで、特許文献2では、シリコーン樹脂に酸化チタン粒子を分散させるために、粒子に親和性を有するアクリル部位と、シリコーン樹脂に親和性を有するシリコーン部位とを共重合させた金属酸化物微粒子分散剤が開示されている。また、特許文献3では、シリコーンと構造的に似通っているケイ素酸等を利用して酸化チタンを分散させる方法が報告されている。
【0007】
一方、ゾル−ゲル法などに基づいて調製される粒子は、一般的に一次粒子サイズが数nmから数十nm程度に制御可能であり、単分散性に優れているという利点がある。ゾル−ゲル法は、通常、水−アルコール系で反応が行われるため、得られる粒子を樹脂に分散させようとすると、該粒子の分散媒を樹脂溶解用の溶媒に置換する必要がある。しかしながら、単純に、溶媒を置換しようとしても微粒子表面と溶媒との親和性が低く、粒子が凝集することが多い。そこで、ゾル−ゲル法で調製した粒子を、シランカップリング剤等の表面処理剤で処理した後に溶媒置換を行う方法が開示されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2005−76003号公報
【特許文献2】特開2006−131547号公報
【特許文献3】特開平9−208438号公報
【特許文献4】特開2007−119617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法は、フェニル基の導入量を多くすると、樹脂が硬く脆くなるため、その利用方法が限定されるだけでなく、さらに導入量を増やすと、シリコーン樹脂そのものが結晶化することにより透明性が低下する等の問題がある。
【0009】
特許文献2に開示されている金属酸化物微粒子分散剤を使用すると、10μm程度の薄膜では比較的透明性を保てるが、それ以上の厚膜になると透明性が大きく低下する。特許文献3の方法は、分散性に加えて分散安定性に問題がある。
【0010】
また、特許文献4に拠って表面処理剤を用いて金属酸化物を樹脂中に分散させる場合には、表面処理剤と樹脂との相性がよくないと、粒子が凝集を起こして透明性が損なわれるという問題が生じる。また、粒子は、極性変化等の僅かな環境変化により表面特性が変化するため、均一に表面処理することが難しく非常に扱いにくいという問題がある。さらに、疎水性のシリコーン樹脂に粒子を分散させるには、該粒子を大量の疎水性の表面処理剤で処理する必要があるが、これら疎水性の表面処理剤は一般的に屈折率が低く、大量に処理すると粒子全体の屈折率が低下し、樹脂に分散してもそれほど屈折率向上効果が示されない等の問題がある。また、芳香族基を有するシリコーン樹脂では該粒子の分散がさらに難しい。
【0011】
一方、金属酸化物粒子を樹脂中に多く分散させると、樹脂組成物そのものが硬く、脆くなるため、そのハンドリングが難しい。成型性や加工性を向上させるために、シリコーン樹脂の分子量を高くすると、樹脂の疎水性が高まり、一般に親水性の高屈折率金属酸化物微粒子の分散はさらに困難となる。
【0012】
本発明の課題は、透明性に優れ、かつ、高屈折率を有する熱硬化性シリコーン樹脂組成物、その製造方法、該組成物のシート状成形体及び該組成物で封止している光半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決する為に検討を重ねた結果、分子末端に反応性の3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体と、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子とを段階的に重合反応させることで、シリコーン誘導体と高屈折率を有する金属酸化物微粒子とを段階的に一体化させて該微粒子の分散を向上させることが可能となり、透明性に優れ、高屈折率を有する、熱硬化性シリコーン樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、
〔1〕 分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体と、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子とを重合反応させて得られ、前記シリコーン誘導体が分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体を2種以上含有し、前記重合反応を該金属酸化物微粒子の存在下に、該シリコーン誘導体を2段階以上に分けて添加して行う、熱硬化性シリコーン樹脂組成物、
〔2〕 分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体と、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子とを2段階以上で重合反応させる工程を含む、熱硬化性シリコーン樹脂組成物の製造方法、
〔3〕 前記〔1〕記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物を基材の上に塗工して乾燥することにより成形させる、シリコーン樹脂シート、ならびに
〔4〕 前記〔1〕記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物を用いて光半導体素子を封止してなる光半導体装置
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、透明性に優れ、かつ、高屈折率を有するという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体と、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子とを含有する熱硬化性シリコーン樹脂用組成物を重合反応させて得られるが、前記シリコーン誘導体が分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体を2種以上含有し、さらに、前記重合反応を該金属酸化物微粒子の存在下にて該シリコーン誘導体を2段階以上に分けて添加して行うことに大きな特徴を有する。
【0017】
シリコーン樹脂は、疎水性であり、かつ、撥水性が高いことから、親水性の金属酸化物微粒子を分散させることは難しい。そこで、本発明では、シリコーン樹脂として、分子末端に反応性の3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体を用い、さらに、金属酸化物微粒子として、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子を用いることで、両者を重合反応させることにより、該微粒子がシリコーン樹脂に結合した状態で分散させることが可能となる。しかし、シリコーン誘導体の官能基の全てを金属酸化物微粒子と一括で重合させてしまうと、金属酸化物微粒子を介した架橋が多くなるために、得られる組成物が硬くなり、脆くなる。そこで、重合反応を2段階以上に分けて行うことにより、架橋程度を調整することが可能となって金属酸化物微粒子の良好な分散状態を形成することができ、透明性に優れ、高屈折率を有する熱硬化性シリコーン樹脂組成物を得ることができる。
【0018】
本発明における熱硬化性シリコーン樹脂用組成物は、分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体(以下、単に、シリコーン誘導体ともいう)、及び微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子(以下、単に、金属酸化物微粒子ともいう)を含有する。
【0019】
分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体、即ち、3官能性アルコキシシランとしては、式(I):
【0020】
【化1】

【0021】
〔式中、OR1 はアルコキシ基を示し、R1 は、炭素数1〜4の、直鎖又は分子鎖のアルキル基を示し、Xは、炭素数1〜12の、直鎖又は分子鎖のアルキル基であり、末端にヘテロ原子を含んでいてもよく、あるいは末端がエポキシ基、1級、2級もしくは3級のアミノ基、(メタ)アクリロイル基、シクロヘキシルエポキシ基、又は芳香族基を有していてもよい〕
で表される化合物であることが好ましい。
【0022】
式(I)中のOR1 はアルコキシ基を示し、R1 は、炭素数1〜4の、直鎖又は分子鎖のアルキル基を示す。R1 の炭素数は、微粒子表面での反応性、加水分解速度の観点から、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられ、これらのなかでも、R1 はメチル基、又はエチル基であることが好ましい。
【0023】
式(I)中のXは、炭素数1〜12の、直鎖又は分子鎖のアルキル基を示し、末端にヘテロ原子を含んでいてもよく、あるいは末端がエポキシ基、1級、2級もしくは3級のアミノ基、(メタ)アクリロイル基、シクロヘキシルエポキシ基、又は芳香族基を有していてもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルとの総称である。
【0024】
かかる式(I)で表される3官能性アルコキシシランとしては、2-〔(3,4)-エポキシシクロヘキシル〕エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、(N-フェニル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明においては、金属酸化物微粒子との反応性の観点から、金属酸化物微粒子とシリコーン誘導体との重合反応は2段階以上に亘って行うが、具体的には、金属酸化物微粒子の存在下に、シリコーン誘導体を2段階以上に分けて添加して重合反応させる。各重合反応の段階によって添加するシリコーン誘導体は同一でも異なってもよいが、金属酸化物微粒子表面の親水性が高いので、水/アルコールの混合溶剤等の高極性溶媒中で微粒子表面と効率よく反応することができる1段階目のシリコーン誘導体としては、分子量160以下の低分子量3官能性アルコキシシランが好ましく、高溶解性及び高屈折率の観点から、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等の分子量が120〜160の3官能性アルコキシシランが好ましい。2段階目の重合反応において金属酸化物微粒子と重合させる3官能性アルコキシシランとしては、1段階目の反応により疎水性が高まることから、式(I)で表わされる化合物のうち、式(I)中のXが炭素数3以上の置換基で示される化合物等の比較的疎水性の高いアルコキシシランが挙げられる。本明細書において、シリコーン誘導体の分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0026】
2段階目の重合反応において用いる3官能性アルコキシシランは、得られる樹脂組成物の高屈折率の観点から、屈折率が1.39以上が好ましく、1.40以上がより好ましい。なお、本明細書において、屈折率は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0027】
本発明における金属酸化物微粒子は、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子である。
【0028】
微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、チタン酸鉛、二酸化ケイ素等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、高屈折率の観点から、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、及び二酸化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。なお、酸化チタンとしては、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタンのいずれを用いてもよい。
【0029】
金属酸化物微粒子における反応性官能基としては、ヒドロキシル基、イソシアネート基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基、エポキシ基、ビニル型不飽和基、ハロゲン基、イソシアヌレート基などが例示される。
【0030】
金属酸化物微粒子の微粒子表面における反応性官能基の含有量は、微粒子量、微粒子の表面積、反応した表面処理剤量などから求めることができるが、本発明では、表面処理剤との反応量が微粒子重量の0.1重量%以上となる微粒子を「微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子」という。ここで、該反応量を反応性官能基の含有量とし、金属酸化物微粒子における含有量は0.1重量%以上であれば、特に限定されない。なお、本明細書において、金属酸化物微粒子表面における反応性官能基の含有量は、後述の実施例の方法により測定することができ、「反応性官能基の含有量」とは、反応性官能基の「含有量」及び/又は「存在量」のことを意味する。
【0031】
また、金属酸化物微粒子の微粒子表面における反応性官能基の含有量は、例えば、メチルトリメトキシシランを有機溶媒に溶解した溶液と微粒子を反応させることにより低減することができる。また、微粒子を高温で焼成することにより、微粒子表面の反応性官能基量を低減させることができる。
【0032】
金属酸化物微粒子は、公知の方法で製造されたものを用いることできるが、なかでも、粒子の大きさの均一性や微粒子化の観点から、水熱合成法、ゾル−ゲル法、超臨界水熱合成法、共沈法、及び均一沈殿法からなる群より選ばれる少なくとも1つの製造方法により得られたものが好ましい。
【0033】
金属酸化物微粒子の平均粒子径は、組成物を成形体としたときの透明性の観点から、好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜70nm、さらに好ましくは1〜20nmである。本明細書において、金属酸化物微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法での粒子分散液の粒子径測定あるいは透過型電子顕微鏡による直接観察により測定することができる。
【0034】
なお、金属酸化物微粒子は、凝集を抑制する観点から、分散液中に調製されたものを用いてもよい(「金属酸化物微粒子分散液」ともいう)。分散媒としては水、アルコール、ケトン系溶媒、アセトアミド系溶媒などが挙げられ、水、メタノール、メチルブチルケトン、ジメチルアセトアミドを用いることが好ましい。分散液中の金属酸化物微粒子の量(固形分濃度)は、効率的に微粒子表面で反応を行う観点から、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは20〜40重量%、さらに好ましくは25〜40重量%である。このような金属酸化物微粒子分散液は、酸化チタンとして触媒化成社のNEOSUNVEILあるいはQUEEN TITANICシリーズ、多木化学社のタイノック、酸化ジルコニウムとして第一希元素化学工業社のZSLシリーズ、住友大阪セメント社のNZDシリーズ、日産化学社のナノユースシリーズなどの市販のものを用いることができる。
【0035】
金属酸化物微粒子の含有量は、シリコーン誘導体100重量部に対して、好ましくは1〜70重量部、より好ましくは10〜60重量部、さらに好ましくは20〜50重量部である。
【0036】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂用組成物は、前記シリコーン誘導体、及び、金属酸化物微粒子に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0037】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、例えば、前記金属酸化物微粒子分散液に、分子量が160以下の3官能性アルコキシシランを含有する樹脂溶液を40〜80℃で混合した後、100℃以下の低沸点溶剤を留去し、100〜110℃で10〜60分間反応(1段階目の重合反応)させた反応物に、さらに、屈折率が1.39以上の3官能性アルコキシシランを含有する樹脂溶液を40〜80℃で重合反応(2段階目の重合反応)させることにより調製することができる。なお、1段階目の重合反応における樹脂溶液としては、金属酸化物微粒子表面の親水性の観点から、水/アルコールの混合溶剤、水とアルコールの重量比は好ましくは1/1〜1/3、で3官能性アルコキシシランを溶解した液を、2段階目の重合反応における樹脂溶液としては、3官能性アルコキシシランの溶解性や反応性の観点から、アルコール及び/又はエーテルで3官能性アルコキシシランを溶解した液を調製することが好ましい。
【0038】
また、得られた熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、例えば、表面を剥離処理した離型シート(例えば、ポリエチレン基材)の上にキャスティング、スピンコーティング、ロールコーティングなどの方法により、適当な厚さに塗工し、溶媒の除去が可能な程度の温度で乾燥することによりシート状に成形することができる。従って、本発明は、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物を基材の上に塗工して乾燥することにより成形する、シリコーン樹脂シートを提供する。シートとしては、厚さが10〜1000μm程度のものが例示される。なお、樹脂溶液を乾燥させる温度は、樹脂や溶媒の種類によって異なるため一概には決定できないが、80〜150℃が好ましい。また、乾燥は2段階に分けて行ってもよく、その場合、1段階目の温度は90〜120℃、2段階目の温度は130〜150℃が好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、透明性に優れることから光透過性が高く、例えば、10〜500μm厚のシート状に成形された場合、400〜700nmの波長を有する入射光に対する透過率が、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90〜100%である。なお、本明細書において、光透過率は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0040】
また、本発明の樹脂組成物の屈折率は、例えば、10〜500μm厚のシート状に成形された場合、好ましくは1.40〜1.62、より好ましくは1.42〜1.62、さらに好ましくは1.44〜1.62である。
【0041】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物の好ましい製造方法は、分子量が160以下の3官能性アルコキシシランと金属酸化物微粒子とを重合させる工程〔以下工程(1)という〕、及び、工程(1)で得られた重合物と、屈折率が1.39以上の3官能性アルコキシシランとを反応率が20〜70%に達するまで重合反応させる工程〔以下工程(2)という〕を含む方法である。なお、本明細書において反応率(%)とは、シリコーン誘導体と金属酸化物微粒子との重合反応終了時点の反応率のことをいい、具体的には、例えば、150℃の乾燥機に3時間放置する前後の重量変化を測定し、生成反応水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の式より算出することができる。
【0042】
工程(1)の具体例としては、例えば、金属酸化物微粒子分散液に、メタノール、2-メトキシエタノール等の有機溶剤を添加して攪拌した液に、分子量が160以下の3官能性アルコキシシランをメタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メトキシエタノール等のアルコールに好ましくは20〜50重量%の濃度になるように溶解して調製した樹脂溶液を40〜80℃で滴下混合し、100〜110℃で10〜60分間反応させる工程が挙げられる。
【0043】
工程(2)の具体例としては、例えば、工程(1)で得られた重合物に、さらに、屈折率が1.39以上の3官能性アルコキシシランを2-プロパノール、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等の有機溶剤に好ましくは20〜50重量%の濃度になるように溶解して調製した樹脂溶液を滴下混合し、40〜80℃で0.2〜2時間反応させて、最終的に、重合反応の反応率が20〜70%に達するよう反応させる工程等が挙げられる。なお、工程(1)及び工程(2)で得られた反応液は、減圧下にて溶媒を留去して濃縮させる工程等に供して、濃度及び粘度を適宜調整することができる。
【0044】
かくして得られる熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、光透過性が高く、かつ、高い屈折率を示すことから、例えば、青色又は白色LED素子を搭載した光半導体装置(液晶画面のバックライト、信号機、屋外の大型ディスプレイ、広告看板等)に用いられる光半導体素子封止材として好適に使用し得るものである。従って、本発明はまた、前記熱硬化性シリコーン樹脂組成物を用いて光半導体素子を封止する光半導体装置を提供する。
【0045】
本発明の光半導体装置は、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物を光半導体素子封止材として用いて、LED素子を封止することにより製造することができる。具体的には、LED素子が搭載された基板の上に、キャスティング、スピンコーティング、ロールコーティングなどの方法により適当な厚さに本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物をそのまま塗布し、加熱、乾燥することにより、光半導体装置を製造することができる。
【0046】
本発明の光半導体装置は、光透過性が高く、かつ、高い屈折率を示す熱硬化性シリコーン樹脂組成物を光半導体素子封止材として含有するために、青色又は白色LED素子を搭載した光半導体装置であっても、発光輝度を高い状態で取り出すことが可能となり、好適に使用することができる。封止前のLED素子の輝度を100%とした場合、本発明の光半導体装置の光取り出し効率は高ければ高いほど好ましいが、好ましくは170%以上、より好ましくは170〜190%である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0048】
〔シリコーン誘導体の分子量〕
ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算にて求める。
【0049】
〔シリコーン誘導体及びシリコーン樹脂組成物の屈折率〕
プリズムカップラー(SPA-4000、サイロン社製)を用いて、25℃、633nmにおける屈折率を測定する。
【0050】
〔金属酸化物微粒子の平均粒子径〕
本明細書において、金属酸化物微粒子の平均粒子径とは一次粒子の平均粒子径を意味し、金属酸化物微粒子の粒子分散液について動的光散乱法で測定して算出される体積中位粒径(D50)のことである。
【0051】
〔金属酸化物微粒子表面における反応性官能基の含有量〕
微粒子分散液に表面処理剤としてエチルトリメトキシシランを加えて反応させ、遠心分離もしくはpH変動によって微粒子を凝集沈降させて、濾別回収、洗浄、乾燥し、示差熱熱重量分析によって重量減量を求めて含有量を算出する。
【0052】
〔シリコーン樹脂組成物の光透過性〕
分光光度計(U-4100、日立ハイテク社製)を用いて、400〜800nmの可視光領域の透過スペクトルを測定し、400nmにおける透過率を算出する。
【0053】
実施例1〜16及び比較例1〜2
攪拌機、還流冷却機、及び窒素導入管を備えた容器に、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子として、平均粒子径5nmの酸化ジルコニウムの水分散液(商品名「NZD-3005」、住友大阪セメント社製、固形分濃度40重量%、反応性官能基として水酸基を含有、反応性官能基含有量1.0重量%以上)5.0g(シリコーン誘導体100重量部に対する使用量は、実施例2及び16は22重量部、それ以外は29重量部)を加え、さらにメタノール5.0g、2-メトキシエタノール5.0gを添加し、濃塩酸を用いて液のpHを2〜3に調整後、攪拌しながら60℃に昇温した。そこに、分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体として、表1に示す量の表1に示す1段階目のシリコーン誘導体をメタノール5.0gに溶解した液を、20分かけて滴下ロートを用いて滴下して、減圧下、メタノールを留去して濃縮後、100℃で30分反応させた(1段階目の反応)。その後、60℃まで冷却し、2-プロパノール5.0gを添加攪拌して均一な溶液とし、そこに、表1に示す量の表1に示す2段階目のシリコーン誘導体をテトラヒドロフラン3.0gに溶解した液を、20分かけて滴下ロートを用いて滴下して、60℃で1時間反応後(2段階目の反応)、室温(25℃)まで冷却して、実施例1〜16及び比較例1〜2の熱硬化性シリコーン樹脂組成物A〜P及びR〜Sを得た。得られた組成物は、減圧下、溶媒及び水を留去して濃縮後、一部を採取して150℃の乾燥機に3時間放置した際の重量変化から反応率を求めた。また、組成物は、剥離処理を施したPET基材上に膜厚100μmになるように塗工して、100℃で1時間、150℃で1時間加熱することにより、組成物の成形体(シート)を調製した。重合反応終了時の反応率、ならびに得られた組成物の成形体の400nmにおける透過率、及び屈折率を表1に示す。なお、比較例1、2の組成物については、シリコーン誘導体と金属酸化物微粒子との重合反応がおこらず、シリコーン誘導体の縮合反応のみが進行し、良好な組成物を得ることができなかった。
【0054】
実施例17
実施例1において、2段階目のシリコーン誘導体を滴下後、反応させずにすぐに室温(25℃)まで冷却した以外は、実施例1と同様にして実施例17の熱硬化性シリコーン樹脂組成物及びその成形体を得た。組成物Q及びその成形体を得た。金属酸化物微粒子の使用量はシリコーン誘導体100重量部に対して29重量部であった。
【0055】
比較例3
実施例1において、シリコーン誘導体(KBM13)4.0gをメタノール5.0gに添加攪拌して調製した溶液を、金属酸化物微粒子水分散液に滴下して100℃にて反応させ、そこに、シリコーン誘導体(KBM13)3.0gを2-プロパノール3.0gに添加攪拌して調製した溶液を滴下して60℃にて反応させる代わりに、シリコーン誘導体(KBM103)10.0gを2-プロパノール10.0gに添加攪拌して調製した溶液を金属酸化物微粒子水分散液に滴下して60℃にてのみ反応させる以外は、実施例1と同様にして熱硬化性シリコーン樹脂組成物Tを調製した。金属酸化物微粒子の使用量はシリコーン誘導体100重量部に対して20重量部であった。しかし、シリコーン誘導体と金属酸化物微粒子との重合反応がおこらず、シリコーン誘導体の縮合反応のみが進行し、良好な組成物を得ることができなかった。
【0056】
比較例4
実施例1において、シリコーン誘導体(KBM13)4.0gをメタノール5.0gに添加攪拌して調製した溶液を金属酸化物微粒子水分散液に滴下し、メタノールを留去し、100℃にて反応させて、さらに、シリコーン誘導体(KBM13)3.0gを2-プロパノール3.0gに添加攪拌して調製した溶液を金属酸化物微粒子水分散液に滴下して60℃で反応させる代わりに、シリコーン誘導体(KBM13)4.0gをメタノール5.0gに添加攪拌して調製した溶液を金属酸化物微粒子水分散液に滴下して高温せずに、次いで、シリコーン誘導体(KBM13)3.0gを2-プロパノール3.0gに添加攪拌して調製した溶液を金属酸化物微粒子水分散液に滴下して、60℃にて併せて反応させる以外は、実施例1と同様にして熱硬化性シリコーン樹脂組成物Uを調製した。金属酸化物微粒子の使用量はシリコーン誘導体100重量部に対して29重量部であった。しかし、シリコーン誘導体と金属酸化物微粒子との重合反応がおこらず、シリコーン誘導体の縮合反応のみが進行し、良好な組成物を得ることができなかった。
【0057】
なお、表1に示すシリコーン誘導体は以下の通りであり、いずれも信越化学社製である。
〔3官能性アルコキシシラン〕
メチルトリメトキシシラン:商品名「KBM13」、分子量136.2、屈折率1.369
フェニルトリメトキシシラン:商品名「KBM103」、分子量198.3、屈折率1.473
ヘキシルトリメトキシシラン:商品名「KBM3063」、分子量206.4、屈折率1.406
ビニルトリメトキシシラン:商品名「KBM1003」、分子量148.2、屈折率1.397
2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン:商品名「KBM303」、分子量246.4、屈折率1.448
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:商品名「KBM403」、分子量236.3、屈折率1.427
p-スチリルトリメトキシシラン:商品名「KBM1403」、分子量224.3、屈折率1.501
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン:商品名「KBM503」、分子量248.4、屈折率1.429
3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン:商品名「KBM5103」、分子量234.4、屈折率1.427
N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン:商品名「KBM603」、分子量222.4、屈折率1.445
3-アミノプロピルトリメトキシシラン:商品名「KBM903」、分子量179.3、屈折率1.422
N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン:商品名「KBM573」、分子量255.4、屈折率1.504
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン:商品名「KBM803」、分子量196.4、屈折率1.440
デシルトリメトキシシラン:商品名「KBM3103C」、分子量262.5、屈折率1.421
エチルトリメトキシシラン:商品名「LS-890」、分子量150.3、屈折率1.384
〔2官能アルコキシシラン〕
3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン:商品名「KBM502」、分子量232.4、屈折率1.433
ジメチルメトキシシラン:商品名「KBM22」、分子量120.2、屈折率1.371
【0058】
【表1】

【0059】
結果、実施例の組成物は、光透過率及び屈折率が高く、良好な組成物であった。一方、比較例1、2の組成物は、2官能性アルコキシシラン自身が反応して疎水性の高いシリコーンが生成するため、親水性の高い金属酸化物微粒子と反応しないか、反応しても分散が不十分となり凝集して白濁を生じたと推定される。比較例3、4の組成物は、溶解度パラメータが小さく、疎水性の高いシリコーン誘導体を一括して反応させたため、金属酸化物微粒子と反応しないか、反応しても分散が不十分となり凝集して白濁を生じたと推定される。
【0060】
試験例1(光半導体封止)
実施例1の熱硬化性シリコーン樹脂組成物A(屈折率1.61)を用いて、青色LED(商品名「C460MB290」、クリー社製)に定法に従い封止を行った。封止前後の青色LEDの明るさを瞬間マルチ測光システム(MCPD-3000、大塚電子社製)により測定し、下記の式に従って光取り出し効率を求めた。なお、参考品としては、市販品のシリコーンエラストマー(商品名「KE-1052」、信越化学社製、屈折率1.40)を用いた。
光取り出し効率(%)=(封止後の輝度/封止前の輝度)×100
【0061】
結果、参考品の光取り出し効率は160%であるのに対し、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物Aの光取り出し効率は186%であり、大幅に向上していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物は、例えば、液晶画面のバックライト、信号機、屋外の大型ディスプレイや広告看板等の半導体素子を封止するものとして好適に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体と、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子とを重合反応させて得られ、前記シリコーン誘導体が分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体を2種以上含有し、前記重合反応を該金属酸化物微粒子の存在下に、該シリコーン誘導体を2段階以上に分けて添加して行う、熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
シリコーン誘導体が、式(I):
【化1】

〔式中、OR1 はアルコキシ基を示し、R1 は、炭素数1〜4の、直鎖又は分子鎖のアルキル基を示し、Xは、炭素数1〜12の、直鎖又は分子鎖のアルキル基であり、末端にヘテロ原子を含んでいてもよく、あるいは末端がエポキシ基、1級、2級もしくは3級のアミノ基、(メタ)アクリロイル基、シクロヘキシルエポキシ基、又は芳香族基を有していてもよい〕
で表される化合物を含有してなる、請求項1記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
金属酸化物微粒子の平均粒子径が1〜100nmである、請求項1又は2記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
金属酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、シリカ、アルミナ、及び酸化ハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3いずれか記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
重合反応終了時の全体反応率が20〜70%である、請求項1〜4いずれか記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項6】
微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子の分散液中で、該微粒子と、分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体とを重合反応させる、請求項1〜5いずれか記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物。
【請求項7】
分子末端に3官能アルコキシシリル基を有するシリコーン誘導体と、微粒子表面に反応性官能基を有する金属酸化物微粒子とを2段階以上で重合反応させる工程を含む、熱硬化性シリコーン樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物を基材の上に塗工して乾燥することにより成形させる、シリコーン樹脂シート。
【請求項9】
請求項1〜6いずれか記載の熱硬化性シリコーン樹脂組成物を用いて光半導体素子を封止してなる光半導体装置。

【公開番号】特開2010−144136(P2010−144136A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325924(P2008−325924)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】