説明

燃料噴射制御装置

【課題】燃料噴射量の補正値が大きくばらつくことにより、エンジンの稼働の安定性または円滑性が損なわれることを防止する。
【解決手段】フィードバック学習処理により、燃料噴射量を補正するフィードバック学習補正値を、吸入空気圧とエンジン回転数により設定された学習エリアR1〜R4ごとに算定する。イグニッションON時に行われる第1の平準化処理により、フィードバック学習処理の不慮の誤り等により生じたフィードバック学習補正値の大きなばらつきを除去する。また、いずれかの学習エリアについてフィードバック学習処理が行われたことで、フィードバック学習処理が完了した学習エリアに対応するフィードバック学習補正値と、フィードバック学習処理が完了していない学習エリアに対応するフィードバック学習補正値との間に大きなばらつきが生じた場合には、この大きなばらつきを第2の平準化処理により除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃焼室に燃料を供給する燃料噴射装置の燃料噴射量を制御する燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼室に燃料を供給する燃料噴射装置の燃料噴射量を制御する燃料噴射制御装置には、吸入空気圧およびエンジン回転数により区分された複数の運転ゾーンごとに補正値を算定し、これらの補正値を用いて燃料噴射量をきめ細かく補正する機能を備えたものが知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1に記載されたエンジン制御装置は、燃料基本噴射量、フィードバック補正値およびフィードバック学習補正値に基づいて燃料噴射量を算定する。燃料基本噴射量は、例えば、燃料温度、燃料圧力、吸入空気温度、吸入空気圧、スロットル開度、エンジン回転数、エンジン温度等に基づいて算定される。フィードバック補正値は、理想空燃比と実空燃比との間のずれに応じて燃料噴射量を補正するための値であり、排気ガス中の酸素濃度に基づいて算定される。フィードバック学習補正値は、吸入空気圧およびエンジン回転数に応じて燃料噴射量をよりきめ細かく補正するための値であり、吸入空気圧およびエンジン回転数により区分された9つの運転ゾーンごと算定される。
【0004】
このエンジン制御装置において、9つの運転ゾーンは次のように設定されている。すなわち、エンジン回転数を示すX軸と吸入空気圧を示すY軸とからなるX−Y平面を想定し、エンジン回転数について閾値X1およびX2を設定し、エンジン回転数を、エンジン回転数がX1未満の区間、エンジン回転数がX1以上X2未満の区間、およびエンジン回転数がX2以上の区間に分ける。また、吸入空気圧について閾値Y1およびY2を設定し、吸入空気圧を、吸入空気圧がY1未満の区間、吸入空気圧がY1以上Y2未満の区間、および吸入空気圧がY2以上の区間に分ける。この結果、上記X−Y平面は、エンジン回転数についての3つの区間と、吸入空気圧についての3つの区間により9つの運転ゾーンに分けられる。
【0005】
このエンジン制御装置において演算処理を行うCPUは、吸入空気圧およびエンジン回転数が大きく変化しない状態が所定時間継続する間に、フィードバック補正値による燃料噴射量の補正が過小気味になった場合に、当該吸入空気圧および当該エンジン回転数が属する運転ゾーンに対応するフィードバック学習補正値を増加させ、この増加させたフィードバック学習補正値を用いてフィードバック補正値による燃料噴射量の補正を増強する。一方、吸入空気圧およびエンジン回転数が大きく変化しない状態が所定時間継続する間に、フィードバック補正値による燃料噴射量の補正が過大気味になった場合には、当該吸入空気圧および当該エンジン回転数が属する運転ゾーンに対応するフィードバック学習補正値を減少させ、この減少させたフィードバック学習補正値を用いてフィードバック補正値による燃料噴射量の補正を抑制する。
【0006】
ところで、フィードバック学習補正値は、このように、吸入空気圧およびエンジン回転数が大きく変化しない状態が所定時間継続した後に算定されるので、フィードバック学習補正値の算定には時間がかかる。さらに、フィードバック学習補正値は、9つの運転ゾーンごとに算定されるため、すべての運転ゾーンのフィードバック学習補正値の算定が完了するまでには長い時間がかかることがある。
【0007】
エンジンの燃料の補給により燃料性状が変化したとき、このエンジン制御装置のCPUは、変化後の燃料性状に燃料噴射量を適合させるように、フィードバック学習補正値の算定・更新を行う。このとき、フィードバック学習補正値の算定・更新には、上述した事情により長い時間がかかることがある。
【0008】
そこで、このエンジン制御装置は、燃料補給を検出し、燃料補給が検出された後、最初に算定されたフィードバック学習補正値を用いて、すべての運転ゾーンに対応するフィードバック学習補正値を同時に更新する一括更新機能を備え、これによりフィードバック学習補正値の算定・更新の時間短縮を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−309978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、上記特許文献1のエンジン制御装置が自動車や自動二輪車のエンジンに適用された場合、吸入空気圧についての複数の区間において、実際の吸入空気圧が属する頻度が高い区間とそうでない区間が生じる。同様に、エンジン回転数についての複数の区間においても、実際のエンジン回転数が属する頻度が高い区間とそうでない区間が生じる。この結果、複数の運転ゾーンのうち、フィードバック学習補正値が頻繁に更新される運転ゾーンとそうでない運転ゾーンが生じる。このため、フィードバック学習補正値が運転ゾーンごとに大きくばらつくことが考えられる。また、一部のフィードバック学習補正値が算定処理の不慮の誤り等により、過大または過小となり、これが原因してフィードバック学習補正値に大きなばらつきが生じることがある。
【0011】
例えば、自動車または自動二輪車の運転に伴って吸入空気圧またはエンジン回転数の変化が繰り返され、複数の運転ゾーンにそれぞれ対応するフィードバック学習補正値が代わる代わる燃料噴射量の算定に使用された場合には、フィードバック学習補正値が運転ゾーンごとに大きくばらついていると、燃料噴射量が過大に変動し、エンジンの稼働の安定性・円滑性が損なわれる場合がある。
【0012】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、燃料噴射量の補正値が大きくばらつくことにより、エンジンの稼働の安定性または円滑性が損なわれることを防止できる燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の燃料噴射制御装置は、エンジンの燃焼室に燃料を供給する燃料噴射装置の燃料噴射量を制御する燃料噴射制御装置であって、吸入空気、燃料およびエンジンの状態に基づいて燃料噴射量を算定する燃料噴射量算定手段と、吸入空気圧およびエンジン回転数により特定される複数の範囲にそれぞれ対応する複数の補正値を記憶する補正値記憶手段と、所定時間内における燃料噴射または空燃比の状態の推移を前記複数の範囲ごとに認識することにより学習を行い、当該学習結果に基づいて前記複数の補正値を算定する補正値算定手段と、前記複数の補正値においてそれぞれの補正値の偏差を小さくする平準化処理を行う補正値平準化手段と、前記燃料噴射量算定手段により算定された燃料噴射量を、前記複数の補正値のうちの少なくともいずれか1つの補正値を用いて補正する燃料噴射量補正手段とを備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の第1の燃料噴射制御装置によれば、燃料噴射量の補正値のばらつき(偏差)が大きくなるのを防止することができ、エンジンの稼働の安定性または円滑性を維持または向上させることができる。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の第2の燃料噴射制御装置は、上述した本発明の第1の燃料噴射制御装置において、前記補正値平準化手段は、前記平準化処理において、前記複数の補正値のうちの最大値と最小値との平均値を算定し、前記複数の補正値のうち前記平均値との差が所定値以上である補正値を特定し、当該特定した補正値を前記平均値に接近するように増加または減少させることを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の燃料噴射制御装置によれば、複数の補正値のうち、ばらつきが大きい補正値のみを増減させることで、補正値の精度が低下するのを抑制しつつ、補正値の大きなばらつきを除去することができる。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の第3の燃料噴射制御装置は、上述した本発明の第1または第2の燃料噴射制御装置において、前記補正値平準化手段は、エンジンの動作開始時に前記平準化処理を行うことを特徴とする。
【0018】
本発明の第3の燃料噴射制御装置によれば、例えば自動車や自動二輪車のイグニッションON時等、エンジンの使用(再使用)を開始するときに補正値の大きなばらつきを除去することができるので、エンジンが実際に使用される間において、エンジンの安定性・円滑性を維持し、または高めることができる。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の第4の燃料噴射制御装置は、上述した本発明の第1の燃料噴射制御装置において、前記補正値平準化手段は、前記複数の範囲のうちのいずれかの範囲について前記学習が完了したときには、前記平準化処理において、前記複数の範囲のうち、前記学習が完了した範囲に対応する補正値に接近するように、前記学習が完了していない範囲に対応する補正値を増加または減少させることを特徴とする。
【0020】
本発明の第4の燃料噴射制御装置によれば、学習途中において補正値に大きなばらつきが生じるのを防止することができる。例えば、燃料入れ替えまたは燃料補給により燃料の性状が変化し、変化後の燃料性状に基づく学習により補正値が大きく変動することがある。この場合、本発明を適用しない燃料噴射制御装置では、学習途中において、学習が完了した範囲に対応する補正値と学習が完了していない範囲に対応する補正値との間の差が過大となり、複数の補正値を全体的にみると、補正値に大きなばらつきが発生することが考えられる。本発明の第4の燃料噴射制御装置によれば、このような補正値の大きなばらつきの発生を防止することができる。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の第5の燃料噴射制御装置は、上述した本発明の第1の燃料噴射制御装置において、前記複数の範囲は、少なくとも、吸入空気圧およびエンジン回転数の双方が比較的小さい第1の範囲、吸入空気圧が比較的大きくエンジン回転数が比較的小さい第2の範囲、吸入空気圧が比較的小さくエンジン回転数が比較的大きい第3の範囲、および吸入空気圧およびエンジン回転数の双方が比較的大きい第4の範囲を含み、前記補正値平準化手段は、前記第1の範囲について前記学習が完了したとき、前記平準化処理において、前記第1の範囲に対応する補正値に接近するように、前記第2、第3および第4の範囲のうち前記学習が完了していない範囲に対応する補正値を増加または減少させることを特徴とする。
【0022】
本発明の第5の燃料噴射制御装置によれば、学習途中において補正値の大きなばらつきを除去する際に、各補正値の精度が低下してしまうことを抑制できる。例えば、自動車または自動二輪車において定常走行時は、吸入空気圧およびエンジン回転数の双方が比較的小さく、吸入空気圧およびエンジン回転数が大きく変化しない。吸入空気圧およびエンジン回転数が大きく変化しない状況下においては、学習が継続的に行われるため、安定的なまたは高精度な補正値が算定される。すなわち、吸入空気圧およびエンジン回転数の双方が比較的小さい第1の範囲では、他の範囲と比較して、安定的なまたは高精度な補正値が算定され易い。したがって、学習が行われた第1の範囲に対応する補正値に、学習が行われていない他の範囲に対応する補正値を接近させることで、補正値の大きなばらつきを取り除き、かつ各補正値の精度低下を抑えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、燃料噴射量の補正値が大きくばらつくことにより、エンジンの稼働の安定性または円滑性が損なわれることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態による燃料噴射制御装置が適用されたエンジンを示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態による燃料噴射制御装置、各種センサおよび燃料噴射装置を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態による燃料噴射制御装置における学習テーブルを示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態による燃料噴射制御装置におけるフィードバック補正値算定処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態による燃料噴射制御装置におけるフィードバック学習処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態による燃料噴射制御装置における第1の平準化処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態による燃料噴射制御装置における第2の平準化処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0026】
(燃料噴射制御装置が適用されたエンジン)
図1は本発明の実施形態による燃料噴射制御装置が適用された、例えば自動二輪車のエンジンを示している。図1において、エンジン1は、シリンダブロック2、シリンダヘッド3、シリンダヘッドカバー4およびピストン5等を備えている。また、エンジン1は、燃焼室6に連通する吸気ポート7および排気ポート8、吸気ポート7および排気ポート8をそれぞれ開閉する吸気バルブ9および排気バルブ10、並びに吸気バルブ9および排気バルブ10を開閉駆動する吸気カム軸11および排気カム軸12を備えている。
【0027】
エンジン1の吸気側には、エアクリーナ13、吸気管14、スロットルボディ15、吸気マニホルド16等が設けられ、これらにより、吸気ポート7に連通する吸気通路17が形成されている。また、スロットルボディ15にはスロットルバルブ18が設けられている。一方、エンジン1の排気側には、排気マニホルド20、第1の触媒21、排気管22、第2の触媒23等が設けられ、これらにより、排気ポート8に連通する排気通路24が形成されている。
【0028】
また、シリンダヘッド3には、燃焼室6に臨むように点火プラグ31が取り付けられ、シリンダヘッドカバー4には、点火プラグ31に飛び火させるイグニッションコイル32が取り付けられている。
【0029】
また、エンジン1には、ガソリン等の燃料を貯留する燃料タンク34が燃料供給配管36等を介して接続されている。燃料タンク34内には燃料ポンプ35等が設けられている。また、シリンダヘッド3には、燃焼室6に向かって燃料を供給する燃料噴射装置37が、吸気ポート7に臨むように取り付けられている。
【0030】
また、エアクリーナ13の下流側には、吸入空気温度を検出する吸入空気温度センサ41、および吸入空気量を検出するエアフローセンサ42が取り付けられ、また、スロットルバルブ18の近傍には、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ43が取り付けられ、さらに、吸気通路17の途中には、吸入空気圧を検出する吸入空気圧センサ44が設けられている。一方、排気通路24の途中には、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ45が設けられている。他方、燃料供給配管等36により形成される燃料通路の途中には、燃料の温度を検出する燃料温度センサ46、および燃料の圧力を検出する燃料圧力センサ47が設けられている(図2参照)。さらに、エンジン1には、エンジン回転数を検出するエンジン回転センサ48が設けられている(図2参照)。
【0031】
また、これらのセンサ41〜48、燃料噴射装置37およびイグニッションコイル32等は、燃料噴射装置37の燃料噴射量を制御する燃料噴射制御装置51に電気的に接続されている。燃料噴射制御装置51は例えばエンジンコントロールユニットの一部として自動二輪車に搭載されている。
【0032】
(燃料噴射制御装置)
図2は、燃料噴射制御装置51の内部構成、および燃料噴射制御装置51に電気的に接続されたイグニッションコイル32、各種センサ41〜48および燃料噴射装置37を示す。燃料噴射制御装置51は、燃料基本噴射量を算定し、この燃料基本噴射量を、フィードバック補正値およびフィードバック学習補正値により補正することにより最終的な燃料噴射量を算定する。また、燃料噴射制御装置51は、フィードバック学習補正値に対して2通りの平準化処理を行う。
【0033】
図2に示すように、燃料噴射制御装置51は、CPU(中央演算処理装置)52、および例えば不揮発性の半導体記憶素子であるメモリ53を備えている。CPU52は、メモリ53に記憶されているコンピュータプログラムを読み取り、これを実行することにより、燃料基本噴射量算定部54、フィードバック補正値算定部55、フィードバック学習補正値算定部56、第1の補正値平準化処理部57、第2の補正値平準化処理部58および最終燃料噴射量算定部59として機能する。
【0034】
燃料基本噴射量算定部54は、例えば、燃料温度、燃料圧力、吸入空気温度、吸入空気圧、スロットル開度、エンジン回転数、エンジン温度等に基づいて燃料基本噴射量を算定する。燃料基本噴射量算定部54は、燃料基本噴射量を算定する際に、燃料噴射制御装置51に電気的に接続された燃料温度センサ46、燃料圧力センサ47、吸入空気温度センサ41、吸入空気圧センサ44、スロットル開度センサ43、エンジン回転数センサ48およびエンジン温度センサ(図示せず)等を用いて、燃料温度、燃料圧力、吸入空気温度、吸入空気圧、スロットル開度、エンジン回転数等を検出する。
【0035】
フィードバック補正値算定部55は、排気ガス中の酸素濃度に基づいてフィードバック補正値を算定する。フィードバック補正値は、理想空燃比と実空燃比との間のずれに応じて燃料噴射量を補正するための値である。フィードバック補正値は、理想空燃比と実空燃比との間の偏差を解消するための比例値と、理論空燃比とのずれの偏差の積算値である積算積分値とをフィードバック補正設定値(例えば1.0)に加算することにより算定される。フィードバック補正値算定部55は、フィードバック補正値を算定する際に、酸素濃度センサ45を用いて、排気ガス中の酸素濃度を検出する。以下、フィードバック補正値を算定する処理を「フィードバック補正値算定処理」という。フィードバック補正値算定処理については後に図4を参照しながら説明する。
【0036】
フィードバック学習補正値算定部56はフィードバック学習補正値を算定する。フィードバック学習補正値は、エンジンの稼働状況、具体的にはエンジン回転数および吸入空気圧に応じて燃料噴射量をさらに細かく補正するための値である。フィードバック学習補正値は、吸入空気圧およびエンジン回転数により区分された複数の学習エリア(複数の範囲)ごとに算定される。フィードバック学習補正値算定部56は、所定時間内における燃料噴射または空燃比の状態の推移を学習エリアごとに認識することにより学習を行い、当該学習結果に基づいてフィードバック学習補正値を学習エリアごとに算定する。以下、フィードバック学習補正値を算定する処理を「フィードバック学習処理」という。フィードバック学習処理については後に図5を参照しながら説明する。
【0037】
第1の補正値平準化処理部57は、イグニッションON時に、それぞれの学習エリアに対応するフィードバック学習補正値のばらつき(偏差)を平準化する。以下、第1の補正値平準化処理部57による平準化処理を「第1の平準化処理」という。第1の平準化処理については後に図6を参照しながら説明する。
【0038】
第2の補正値平準化処理部58は、いずれかの学習エリアについてフィードバック学習処理が行われ、この結果、フィードバック学習処理が完了した学習エリアに対応するフィードバック学習補正値とフィードバック学習処理が完了していない学習エリアに対応するフィードバック学習補正値との間にばらつき(偏差)が生じた場合に、このばらつきを平準化する。以下、第2の補正値平準化処理部58による平準化処理を「第2の平準化処理」という。第2の平準化処理については後に図7を参照しながら説明する。
【0039】
最終燃料噴射量算定部59は、燃料基本噴射量算定部54により算定された燃料基本噴射量を、フィードバック補正値算定部55により算定されたフィードバック補正値およびフィードバック学習補正値算定部56により算定されたフィードバック学習補正値により補正し、最終的な燃料噴射量を算定する。
【0040】
なお、燃料基本噴射量算定部54が燃料噴射量算定手段の具体例であり、フィードバック学習補正値算定部56が補正値算定手段の具体例であり、第1の補正値平準化処理部57および第2の補正値平準化処理部58が補正値平準化手段の具体例であり、最終燃料噴射量算定部59が燃料噴射量補正手段の具体例である。また、メモリ53が補正値記憶手段の具体例である。
【0041】
(学習テーブル)
図3は学習テーブル61を示している。学習テーブル61は、フィードバック学習処理において算定されたフィードバック学習補正値を配列したテーブルであり、メモリ53に書換可能な状態で記憶されている。
【0042】
図3に示すように、学習テーブル61は、例えば、吸入空気圧を示すX軸(横軸)とエンジン回転数を示すY軸(縦軸)とからなるX−Y平面を、吸入空気圧についての所定の閾値Xthおよびエンジン回転数についての所定の閾値Ythに基づいて4つの学習エリアR1、R2、R3、R4に区分することにより形成されている。
【0043】
学習エリアR1は、吸入空気圧が最小値Xmin以上閾値Xth未満で、かつエンジン回転数が最小値Ymin以上閾値Yth未満の領域である。学習エリアR2は、吸入空気圧が閾値Xth以上最大値Xmax以下で、かつエンジン回転数が最小値Ymin以上閾値Yth未満の領域である。学習エリアR3は、吸入空気圧が最小値Xmin以上閾値Xth未満で、かつエンジン回転数が閾値Yth以上最大値Ymax以下の領域である。学習エリアR4は、吸入空気圧が閾値Xth以上最大値Xmax以下で、かつエンジン回転数が閾値Yth以上最大値Ymax以下の領域である。
【0044】
フィードバック学習補正値は学習エリアR1、R2、R3、R4ごとに算定され、学習エリアR1、R2、R3、R4ごとに学習テーブル61に配列されてメモリ53に記憶される。また、各学習エリアR1、R2、R3、R4には固有の番号(例えば、1、2、3、4といった連番)が付されている。
【0045】
(フィードバック補正値算定処理)
図4は、フィードバック補正値算定部55により行われるフィードバック補正値算定処理の流れを示している。フィードバック補正値算定処理は、酸素濃度センサ45の温度が排気ガスによって所定の温度まで上昇し、酸素濃度センサ45からの検出信号が安定化した後に開始され、その後、例えば10m秒の周期で繰り返し行われる。
【0046】
図4に示すように、フィードバック補正値算定処理において、フィードバック補正値算定部55は、まず、酸素濃度センサ45から出力された検出信号に基づいて、現在の空燃比の状態がリッチ側にあるか否かを判断する(ステップS1)。現在の空燃比の状態がリッチ側にある場合には(ステップS1:YES)、フィードバック補正値算定部55は、空燃比をリッチ側からリーン側へ移行させるのに必要とされるフィードバック補正値の比例値を算定し(ステップS2)、さらに積分補正値を算定し、この積分補正値を積算積分値の現在値に積算することにより積算積分値を更新する(ステップS3)。空燃比をリッチ側からリーン側へ移行させるのに必要とされるフィードバック補正値の比例値はマイナスの値であり、積分補正値は絶対値であるので、積分補正値の積算積分値への積算は、積分補正値を積算積分値に減算する処理となる。
【0047】
続いて、フィードバック補正値算定部55は、ステップS2で算定した比例値と、ステップS3で更新した積算積分値をフィードバック補正設定値(例えば1.0)に加算して最終的なフィードバック補正値を算定する(ステップS6)。
【0048】
一方、ステップS1の判断の結果、現在の空燃比の状態がリーン側にある場合には(ステップS1:NO)、フィードバック補正値算定部55は、空燃比をリーン側からリッチ側へ移行させるのに必要とされるフィードバック補正値の比例値を算定し(ステップS4)、さらに積分補正値を算定し、この積分補正値を積算積分値の現在値に積算することにより積算積分値を更新する(ステップS5)。空燃比をリーン側からリッチ側へ移行させるのに必要とされるフィードバック補正値の比例値はプラスの値であり、積分補正値は絶対値であるので、積分補正値の積算積分値への積算は、積分補正値を積算積分値に加算する処理となる。
【0049】
続いて、フィードバック補正値算定部55は、ステップS4で算定した比例値と、ステップS5で更新した積算積分値をフィードバック補正設定値に加算して最終的なフィードバック補正値を算定する(ステップS6)。
【0050】
(フィードバック学習処理)
図5は、フィードバック学習補正値算定部56により行われるフィードバック学習処理の流れを示している。フィードバック学習処理は、フィードバック補正値算定処理が開始された後に開始され、その後、例えば10m秒の周期で行われる。
【0051】
フィードバック学習処理において、フィードバック学習補正値算定部56は、まず、吸入空気圧センサ44から出力された検出信号およびエンジン回転センサ48から出力された検出信号に基づき、学習テーブル61の学習エリアR1、R2、R3、R4の中から、現在の吸入空気圧および現在のエンジン回転数が属している学習エリア(以下、これを「今回の学習エリア」という。)を認識する(ステップS11)。
【0052】
続いて、フィードバック学習補正値算定部56は、今回の学習エリアが、前周期のフィードバック学習処理のステップS1において認識された学習エリア(以下、これを「前回の学習エリア」という。)と互いに同じか否か判断する(ステップS12)。
【0053】
今回の学習エリアと前回の学習エリアとが互いに同じでない場合には(ステップS12:NO)、今回の学習エリアの番号をメモリ53に記憶すると共に、タイマをリセットし、直ちにタイマをスタートさせる(ステップS13)。この場合、今周期のフィードバック学習処理はこれで終了する。
【0054】
一方、今回の学習エリアと前回の学習エリアとが互いに同じである場合には(ステップS12:YES)、続いてフィードバック学習補正値算定部56は、タイマの値が所定値に達しているか否かを判断する(ステップS14)。そして、タイマの値が所定値に達していない場合には(ステップS14:NO)、今周期のフィードバック学習処理を直ちに終了する。
【0055】
他方、今回の学習エリアと前回の学習エリアとが互いに同じであり(ステップS12:YES)、かつ、タイマの値が所定値に達している場合には(ステップS14:YES)、フィードバック学習補正値算定部56は、今回の学習エリアに対応するフィードバック学習補正値の算定を開始する。
【0056】
すなわち、吸入空気圧がXmin以上Xth未満またはXth以上Xmax以下の範囲内であり、かつエンジン回転数がYmin以上Yth未満またはYth以上Ymax以下の範囲内にある状態、すなわち、吸入空気圧とエンジン回転数が同一の学習エリアに属している状態が所定時間継続し、この結果、その間に複数回繰り返し行われたフィードバック学習処理のステップS1において同一の学習エリアが所定回数連続して認識された場合、タイマの値は所定値に達する。このような場合には、フィードバック補正値による燃料基本噴射量の補正が過小気味または過大気味になっており、これを適切に補正するフィードバック学習補正値を算定する必要がある。
【0057】
タイマの値が所定値に達した場合、フィードバック学習補正値算定部56は、フィードバック補正値の積算積分値が所定の判断基準値を超えているか否か判断する(ステップS15)。
【0058】
フィードバック補正値の積算積分値が所定の判断基準値を超えている場合には(ステップS15:YES)、フィードバック補正値による燃料基本噴射量の補正が過小気味になっているので、燃料基本噴射量の補正を増強すべく、フィードバック学習補正値算定部56は、今回の学習エリアに対応するフィードバック学習補正値を増加させ、学習テーブル61における当該フィードバック学習補正値を更新する(ステップS16)。
【0059】
一方、フィードバック補正値の積算積分値が所定の判断基準値を超えていない場合には(ステップS15:NO)、フィードバック補正値による燃料基本噴射量の補正が過大気味になっているので、燃料基本噴射量の補正を抑制すべく、フィードバック学習補正値算定部56は、今回の学習エリアに対応するフィードバック学習補正値を減少させ、学習テーブル61における当該フィードバック学習補正値を更新する(ステップS17)。
【0060】
なお、このように、フィードバック学習処理においては、吸入空気圧とエンジン回転数が同一の学習エリアに属している状態が所定時間継続しなければ、フィードバック学習補正値の更新が行われないため、1つの学習エリアに対応するフィードバック学習補正値が更新されるにはある程度時間がかかり、さらに、学習テーブル61に属するすべての学習エリアR1、R2、R3、R4に対応するフィードバック学習補正値が更新されるにはさらに長い時間がかかる。
【0061】
(第1の平準化処理)
図6は第1の補正値平準化処理部57により行われる第1の平準化処理の流れを示している。第1の平準化処理はイグニッションON時に行われる。第1の平準化処理は、主として、複数の学習エリアR1、R2、R3、R4のうち、フィードバック学習補正値が頻繁に更新される学習エリアとそうでない学習エリアが生じることに起因して起こるフィードバック学習補正値のばらつき(偏差)や、フィードバック学習処理の不慮の誤り等に起因して生じるフィードバック学習補正値のばらつき(偏差)を平準化することを目的として実施される。
【0062】
図6に示すように、第1の平準化処理において、第1の補正値平準化処理部57は、イグニッションがONになったことを認識する(ステップS21)。
【0063】
続いて、第1の補正値平準化処理部57は、すべての学習エリアR1、R2、R3、R4にそれぞれ対応するフィードバック学習補正値の中から、フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminを特定する(ステップS22)。
【0064】
続いて、第1の補正値平準化処理部57は、フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの差が所定の基準値Lr以上であるか否か判断する(ステップS23)。学習エリアR1、R2、R3、R4間においてフィードバック学習補正値に大きなばらつきが存在する場合には、フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの差が基準値Lr以上となる。
【0065】
フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの差が基準値Lr以上でない場合には(ステップS23:NO)、第1の補正値平準化処理部57は、今回の第1の平準化処理を直ちに終える。
【0066】
一方、学習エリアRpにおいて、フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの差が基準値Lr以上である場合には(ステップS23:YES)、第1の補正値平準化処理部57は、カウント値Pを0に初期化する(ステップS24)。続いて、第1の補正値平準化処理部57は、カウント値Pを1増加させた後(ステップS25)、学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpを、メモリ53に記憶された学習テーブル61から読み取る(ステップS26)。なお、カウント値Pが1のときには学習エリアRpとして学習エリアR1が選択され、カウント値Pが2のときには学習エリアRpとして学習エリアR2が選択され、カウント値Pが3のときには学習エリアRpとして学習エリアR3が選択され、カウント値Pが4のときには学習エリアRpとして学習エリアR4が選択されるものとする。
【0067】
続いて、第1の補正値平準化処理部57は、フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの平均値を算定する。そして、第1の補正値平準化処理部57は、学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpと当該平均値との差が基準値Lrの2分の1以上であるか否かを判断する(ステップS27)。すなわち、ステップS27において、第1の補正値平準化処理部57は下記の数式(F1)が成立するか否か判断する。
【0068】
|Lp−{(Lmax+Lmin)/2}|≧Lr/2 (F1)
学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpが過大または過小である場合には、数式(F1)が成立する。
【0069】
そして、数式(F1)が成立しない場合には(ステップS27:NO)、第1の補正値平準化処理部57は直ちに処理をステップS31に移行させる。
【0070】
一方、数式(F1)が成立する場合には(ステップS27:YES)、第1の補正値平準化処理部57は、学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpを、学習エリアRpにおけるフィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの平均値に接近するように増加または減少させる。
【0071】
具体的に説明すると、学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpが、フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの平均値よりも大きい場合には(ステップS28:YES)、第1の補正値平準化処理部57は、下記の数式(F2)に示す演算を行い、メモリ53に記憶された学習テーブル61において学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpの現在の値を、数式(F2)に示す演算により得られた値により置き換え、学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpを更新する(ステップS29)。
【0072】
{(Lmax+Lmin)/2}+(Lr/2)−α (F2)
なお、数式(F2)中のαは所定の設定値である。
【0073】
この結果、学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpが減少し、フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの平均値に接近する。これにより、当該フィードバック学習補正値Lpが過大でなくなる。
【0074】
一方、学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpが、フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの平均値以下である場合には(ステップS28:NO)、第1の補正値平準化処理部57は、下記の数式(F3)に示す演算を行い、メモリ53に記憶された学習テーブル61において学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpの現在の値を、数式(F3)に示す演算により得られた値により置き換え、学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpを更新する(ステップS30)。
【0075】
{(Lmax+Lmin)/2}−(Lr/2)+α (F3)
この結果、学習エリアRpに対応するフィードバック学習補正値Lpが増加し、フィードバック学習補正値の最大値Lmaxと最小値Lminとの平均値に接近する。これにより、当該フィードバック学習補正値Lpが過小でなくなる。
【0076】
続いて、第1の補正値平準化処理部57は、カウント値PがPn以上であるか否か判断する(ステップS31)。Pnは学習エリアの総数を示す数値、すなわち本実施形態においては4である。カウント値PがPn以上でない場合には(ステップS31:NO)、第1の補正値平準化処理部57は処理をステップS25に戻す。一方、カウント値PがPn以上である場合には(ステップS31:YES)、第1の補正値平準化処理部57は第1の平準化処理を終える。
【0077】
以上の第1の平準化処理によれば、イグニッションがONにされるたびに、学習エリアR1、R2、R3、R4にそれぞれ対応するフィードバック学習補正値の中に、過大または過小なフィードバック学習補正値が存在する場合には、この過大または過小なフィードバック学習補正値が、学習エリアR1、R2、R3、R4にそれぞれ対応するフィードバック学習補正値の中の最大値と最小値との平均値に接近した値に置き換えられる。これにより、学習エリアR1、R2、R3、R4にそれぞれ対応するフィードバック学習補正値の大きなばらつきが除去される。
【0078】
(第2の平準化処理)
図7は第2の補正値平準化処理部58により行われる第2の平準化処理の流れを示している。上述した第1の平準化処理に代えて第2の平準化処理を適用することができる。第2の平準化処理は例えばイグニッションON後に行われる。第2の平準化処理は、主として、燃料が入れ替えられたこと(例えば通常のレギュラーガソリンがガソホールに入れ替えられたこと)、あるいは燃料が補給されたことにより燃料の性状が変化し、これに応じていずれかの学習エリアについてフィードバック学習処理が行われ、この結果、フィードバック学習処理が完了した学習エリアに対応するフィードバック学習補正値とフィードバック学習処理が完了していない学習エリアに対応するフィードバック学習補正値との間にばらつき(偏差)が生じた場合に、このばらつきを平準化することを目的として実施される。また、第2の平準化処理においては、フィードバック学習処理が完了した学習エリアが学習エリアR1である場合と、フィードバック学習処理が完了した学習エリアが学習エリアR1以外の学習エリア、すなわち学習エリアR2、R3、R4のいずれかの学習エリアである場合とで、処理内容の異なる平準化処理を行う。
【0079】
まず、フィードバック学習処理が完了した学習エリアが学習エリアR1である場合の第2の平準化処理について説明する。図7に示すように、第2の補正値平準化処理部58は、学習エリアR1に対応するフィードバック学習補正値L1の前回値と今回値との差D1を算定する(ステップS71)。なお、各学習エリアR1、R2、R3、R4に対応するフィードバック学習補正値の今回値、すなわち最新値は、学習テーブル61に配列されてメモリ53に記憶されている。これに加え、各学習エリアR1、R2、R3、R4に対応するフィードバック学習補正値の前回値、すなわち、フィードバック学習補正値の最新値を算定したフィードバック学習処理よりも1つ前の周期のフィードバック学習処理により算定されたフィードバック学習補正値もメモリ53に記憶されている。
【0080】
続いて、第2の補正値平準化処理部58は、学習エリアR1に対応するフィードバック学習補正値L1の前回値と今回値との差D1が基準値Ds以上であるか否か判断する(ステップS72)。燃料の入替等により燃料性状が変化した後に、学習エリアR1についてフィードバック学習処理が完了し、フィードバック学習補正値が更新されている場合、差D1が基準値Ds以上となる。一方、燃料性状が変化していない場合や、燃料性状が変化しているものの、学習エリアR1についてフィードバック学習処理がまだ完了していない場合には、差D1が基準値Ds以上とならない。すなわち、第2の補正値平準化処理部58は、ステップS72の判断により、燃料性状の変化後に学習エリアR1についてフィードバック学習処理が完了したか否かを認識している。
【0081】
差D1が基準値Ds以上の場合(ステップS72:YES)、第2の補正値平準化処理部58は差D1をメモリ53に一時記憶する(ステップS73)。続いて、第2の補正値平準化処理部58は、カウント値Qを1に設定した後、直ちにカウント値Qを1増加し(ステップS74、S75)、そして、学習エリアR1に対応するフィードバック学習補正値に基づいて学習エリアR2、R3、R4に対応するフィードバック学習補正値を平準化する。
【0082】
すなわち、第2の補正値平準化処理部58は、まず、学習エリアRqに対応するフィードバック学習補正値Lqの前回値と今回値との差Dqを算定する(ステップS76)。なお、カウント値Qが2のときには学習エリアRqおよびフィードバック学習補正値Lqはそれぞれ学習エリアR2およびフィードバック学習補正値L2を意味し、カウント値Qが3のときには学習エリアRqおよびフィードバック学習補正値Lqはそれぞれ学習エリアR3およびフィードバック学習補正値L3を意味し、カウント値Qが4のときには学習エリアRqおよびフィードバック学習補正値Lqはそれぞれ学習エリアR4およびフィードバック学習補正値L4を意味する。
【0083】
続いて、第2の補正値平準化処理部58は、差Dqが基準値Dk以上であるか否かを判断する(ステップS77)。燃料性状の変化後に学習エリアRqについてフィードバック学習処理が完了し、当該学習エリアRqに対応するフィードバック学習補正値が更新されている場合には、差Dqが基準値Dk以上となる。基準値Dkは例えば基準値Dsと同じ値である。差Dqが基準値Dk以上である場合には(ステップS77:YES)、処理はステップS75に戻る。
【0084】
一方、差Dqが基準値Dk以上でない場合には(ステップS77:NO)、第2の補正値平準化処理部58は、差D1に所定の設定値βを乗じた値を、学習エリアR1に対応するフィードバック学習補正値L1の前回値に加算することにより、フィードバック学習補正値の平準化値Lavを算出する。そして、第2の補正値平準化処理部58は、学習テーブルに配列されてメモリ53に記憶された学習エリアRqに対応するフィードバック学習補正値Lqを、上記平準化値Lavに置き換え、当該フィードバック学習補正値Lqを更新する(ステップS78)。
【0085】
続いて、第2の補正値平準化処理部58は、カウント値QがQn以上であるか否かを判断する(ステップS79)。Qnは学習エリアの総数を示す数値、すなわち本実施形態においては4である。カウント値QがQn以上でない場合には(ステップS79:NO)、第2の補正値平準化処理部58は処理をステップS75に戻す。一方、カウント値QがQn以上である場合には(ステップS79:YES)、第2の補正値平準化処理部58は第2の平準化処理を終える。
【0086】
ステップS71ないしS79の処理により、学習エリアR1に対応するフィードバック学習補正値L1と、学習エリアR2、R3、R4に対応するフィードバック学習補正値L2、L3、L4との間のばらつきの程度が小さくなる。
【0087】
次に、フィードバック学習処理が完了した学習エリアが学習エリアR1以外の学習エリアである場合の第2の平準化処理について説明する。
【0088】
図7中のステップS71およびS72において、学習エリアR1に対応するフィードバック学習補正値L1の前回値と今回値との差D1が基準値Ds以上でない場合には(ステップS72:NO)、第2の補正値平準化処理58は、学習エリアR2、R3、R4のうち、燃料性状の変化後にフィードバック学習処理が完了してフィードバック学習補正値が更新された学習エリアを探し出す。
【0089】
すなわち、第2の補正値平準化処理部58は、カウント値Xを1に設定した後、直ちにカウント値Xを1増加し、学習エリアRxに対応するフィードバック学習補正値Lxの前回値と今回値との差Dxを算定し、差Dxが基準値Ds以上であるか否かを判断する(ステップS80〜S83)。なお、カウント値Xが2のときには学習エリアRxおよびフィードバック学習補正値Lxはそれぞれ学習エリアR2およびフィードバック学習補正値L2を意味し、カウント値Xが3のときには学習エリアRxおよびフィードバック学習補正値Lxはそれぞれ学習エリアR3およびフィードバック学習補正値L3を意味し、カウント値Xが4のときには学習エリアRxおよびフィードバック学習補正値Lxはそれぞれ学習エリアR4およびフィードバック学習補正値L4を意味する。
【0090】
差Dxが基準値Ds以上でなく、かつカウント値XがXn以上でない場合には(ステップS83:NO、ステップS84:NO)、第2の補正値平準化処理部58は処理をステップS81に戻す。なお、Xnは学習エリアの総数を示す数値、すなわち本実施形態においては4である。
【0091】
一方、差Dxが基準値Ds以上である場合(ステップS83:YES)、第2の補正値平準化処理部58はフィードバック学習補正値Lxをメモリ53に一時記憶する(ステップS85)。続いて、第2の補正値平準化処理部58は、カウント値Qを1に設定した後、直ちにカウント値Qを1増加し(ステップS86、S87)、そして、メモリ53に一時記憶されたフィードバック学習補正値Lxに基づいて、学習エリアR2、R3、R4のうち学習エリアRx以外の学習エリアに対応するフィードバック学習補正値を平準化する。
【0092】
すなわち、第2の補正値平準化処理部58は、まず、学習エリアRqに対応するフィードバック学習補正値Lqの前回値と今回値との差Dqを算定し、差Dqが基準値Dk以上であるか否かを判断する(ステップS88、S89)。差Dqが基準値Dk以上である場合には(ステップS89:YES)、第2の補正値平準化処理部58は処理をステップS87に戻る。
【0093】
一方、差Dqが基準値Dk以上でない場合には(ステップS89:NO)、第2の補正値平準化処理部58は、学習テーブルに配列されてメモリ53に記憶された学習エリアRqに対応するフィードバック学習補正値Lqを、ステップS85でメモリ53に一時記憶したフィードバック学習補正値Lxに置き換え、当該フィードバック学習補正値Lqを更新する(ステップS90)。
【0094】
続いて、第2の補正値平準化処理部58は、カウント値QがQn以上であるか否かを判断する(ステップS91)。カウント値QがQn以上でない場合には(ステップS91:NO)、第2の補正値平準化処理部58は処理をステップS87に戻す。一方、カウント値QがQn以上である場合には(ステップS91:YES)、第2の補正値平準化処理部58は第2の平準化処理を終える。
【0095】
ステップS80ないしS91の処理により、学習エリアR2、R3、R4に対応するフィードバック学習補正値の大きなばらつきが除去される。
【0096】
他方、燃料性状の変化が生じていない場合、あるいは燃料性状の変化後に学習エリアR1、R2、R3、R4のいずれにおいてもフィードバック学習処理が完了していない場合には、ステップS84においてカウント値XがXn以上であると判断され、第2の平準化処理は終了する。この場合には、学習エリアR1、R2、R3、R4に対応するフィードバック学習補正値に大きなばらつきがないと考えられるので、学習エリアR1、R2、R3、R4のいずれにおいてもフィードバック学習補正値の平準化は行われない。
【0097】
以上説明した通り、本発明の実施形態による燃料噴射制御装置51における第1の平準化処理によれば、学習エリアR1、R2、R3、R4間のフィードバック学習補正値の大きなばらつきをイグニッションON時に除去することができる。また、第2の平準化処理によれば、燃料入れ替えまたは燃料補給による燃料性状の変化等に応じていずれかの学習エリアについてフィードバック学習処理が行われた結果生じるフィードバック学習補正値の大きなばらつきを除去することができる。このようにフィードバック学習補正値の大きなばらつきを除去することで、例えば自動二輪車の運転に伴って吸入空気圧またはエンジン回転数の変化が繰り返され、複数の学習エリアにそれぞれ対応するフィードバック学習補正値が代わる代わる燃料噴射量の算定に使用された場合でも、燃料噴射量が過大に変動するのを防止することができ、エンジンの稼働の安定性・円滑性を維持または向上させることができる。
【0098】
また、第2の平準化処理によれば、フィードバック学習処理が完了していない学習エリアに対応するフィードバック学習補正値が、フィードバック学習処理が完了した学習エリアに対応するフィードバック学習補正値に接近するので、燃料入れ替えまたは燃料補給により燃料性状が変化した後、各学習エリアについてフィードバック学習処理を短時間に完了することができ、変化した燃料性状に応じた適切な燃料噴射を早期に実現することができる。
【0099】
なお、上述した実施形態では、第1の平準化処理または第2の平準化処理をイグニッションON時に行う場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。第1の平準化処理または第2の平準化処理を他のタイミングで行ってもよい。
【0100】
また、上述した実施形態では、フィードバック学習処理が完了した学習エリアが学習エリアR1である場合と、フィードバック学習処理が完了した学習エリアが学習エリアR1以外の学習エリアである場合とで異なる内容の第2の平準化処理を行う場合を例にあげたが、フィードバック学習処理が完了した学習エリアが学習エリアR1である場合に限り第2の平準化処理を行ってもよい。すなわち、図7中のステップS72で差D1が基準値Ds以上でない場合には処理をステップS71に戻すことにより、学習エリアR1に対応するフィードバック学習補正値L1の前回値と今回値との差D1が基準値Dsを超えるのを待つ。そして、学習エリアR1に対応するフィードバック学習補正値L1の前回値と今回値との差D1が基準値Dsを超えたとき、ステップS74ないしS79の処理を行う。
【0101】
また、本発明の燃料噴射制御装置は、通常のガソリン、ガソホール等の液体燃料を利用したエンジンに限らず、圧縮天然ガス等の気体燃料を利用したエンジンにも適用することができる。また、本発明の燃料噴射制御装置が適用されたエンジンの用途は、自動二輪車、自動車等の車両に限らない。
【0102】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う燃料噴射制御装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
1 エンジン
6 燃焼室
37 燃料噴射装置
44 吸入空気圧センサ
48 エンジン回転センサ
51 燃料噴射制御装置
52 CPU
53 メモリ(補正値記憶手段)
54 燃料基本噴射量算定部(燃料噴射量算定手段)
55 フィードバック補正値算定部
56 フィードバック学習補正値算定部(補正値算定手段)
57 第1の補正値平準化処理部(補正値平準化手段)
58 第2の補正値平準化処理部(補正値平準化手段)
59 最終燃料噴射量算定部(燃料噴射量補正手段)
61 学習テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室に燃料を供給する燃料噴射装置の燃料噴射量を制御する燃料噴射制御装置であって、
吸入空気、燃料およびエンジンの状態に基づいて燃料噴射量を算定する燃料噴射量算定手段と、
吸入空気圧およびエンジン回転数により特定される複数の範囲にそれぞれ対応する複数の補正値を記憶する補正値記憶手段と、
所定時間内における燃料噴射または空燃比の状態の推移を前記複数の範囲ごとに認識することにより学習を行い、当該学習結果に基づいて前記複数の補正値を算定する補正値算定手段と、
前記複数の補正値においてそれぞれの補正値の偏差を小さくする平準化処理を行う補正値平準化手段と、
前記燃料噴射量算定手段により算定された燃料噴射量を、前記複数の補正値のうちの少なくともいずれか1つの補正値を用いて補正する燃料噴射量補正手段とを備えていることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記補正値平準化手段は、前記平準化処理において、前記複数の補正値のうちの最大値と最小値との平均値を算定し、前記複数の補正値のうち前記平均値との差が所定値以上である補正値を特定し、当該特定した補正値を前記平均値に接近するように増加または減少させることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記補正値平準化手段は、エンジンの動作開始時に前記平準化処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記補正値平準化手段は、前記複数の範囲のうちのいずれかの範囲について前記学習が完了したときには、前記平準化処理において、前記複数の範囲のうち、前記学習が完了した範囲に対応する補正値に接近するように、前記学習が完了していない範囲に対応する補正値を増加または減少させることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記複数の範囲は、少なくとも、吸入空気圧およびエンジン回転数の双方が比較的小さい第1の範囲、吸入空気圧が比較的大きくエンジン回転数が比較的小さい第2の範囲、吸入空気圧が比較的小さくエンジン回転数が比較的大きい第3の範囲、および吸入空気圧およびエンジン回転数の双方が比較的大きい第4の範囲を含み、
前記補正値平準化手段は、前記第1の範囲について前記学習が完了したとき、前記平準化処理において、前記第1の範囲に対応する補正値に接近するように、前記第2、第3および第4の範囲のうち前記学習が完了していない範囲に対応する補正値を増加または減少させることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−79611(P2013−79611A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220383(P2011−220383)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】