説明

燃料蒸気圧計測システム

【課題】内燃機関の運転状態に影響されず常に安定して噴射燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる燃料蒸気圧計測システムを提供すること。
【解決手段】エンジン11に燃料を供給する燃料供給システム10において、インジェクタ12に燃料を分配供給するデリバリパイプ23と、燃料ポンプ21により燃料タンク20から送出された燃料をデリバリパイプ23に供給する燃料供給管22と、デリバリパイプ23に供給された燃料の一部を燃料タンク20に還流させる燃料還流管24と、燃料還流管24に設けられ、管内の燃料の圧力を所定圧に調整するプレッシャレギュレータ28と、デリバリパイプ23に供給される燃料の蒸気圧を計測する燃料蒸気圧計測装置40とを備え、プレッシャレギュレータ28により調圧された燃料が流れる配管から分岐した分岐配管25にプレッシャレギュレータ28に対して並列配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の蒸気圧を計測する蒸気圧計測システムに関する。より詳細には、内燃機関に供給される燃料の蒸気圧を計測する蒸気圧計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、内燃機関用の燃料として、主にガソリンが使用されているが、市販されている燃料(ガソリン)の性状は必ずしも一定ではない。このため、燃料の蒸気圧にバラツキがある。特に、仕向地が異なると、燃料性状が異なる場合が多く、燃料の蒸気圧にバラツキが生じやすい。そして、燃料の蒸気圧の変化は、燃料の燃焼性へ影響を与えてしまうおそれがある。このため、現状では、仕向地ごとに内燃機関の適合が行われている。
【0003】
ところが、燃料の蒸気圧は、燃料が酸化したり、燃料が蒸発したりすること等によっても変化してしまう。このため、仕向地ごとに内燃機関の適合を行っても、すべての内燃機関において、燃料の噴射量、噴射タイミング、点火時期等を最適に制御することは困難である。そして、燃料の蒸気圧のバラツキにより、燃料の噴射量、噴射タイミング、点火時期等が最適に制御されないと、特に、内燃機関の冷間時における始動性、エミッション性能、及びドライバビリティが悪化してしまう。
【0004】
このように、すべての内燃機関において、燃料の噴射量、噴射タイミング、点火時期等を最適に制御するためには、燃料の蒸気圧(燃料性状)を計測する必要がある。そして、このような燃料性状を測定する装置として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。ここに記載されている装置は、チャンバーと被測定流体を噴出するノズルとで構成される水流ポンプと、チャンバー内の圧力を測定する圧力センサと、チャンバー内の燃料温度を検出する燃温センサと、該圧力センサと該燃温センサからの情報を受けて被測定液体の性状を算出する性状算出器とを備えている。そして、ノズルから被測定流体を噴出させることによりチャンバー内を負圧にし、燃料を気化させた時の圧力を測定することにより燃料の代表的な蒸気圧、つまり燃料性状を測定するようになっている。
【0005】
また、燃料性状を測定する別の装置として、例えば、特許文献2に記載されたものがある。ここに記載されている装置では、燃料に接して燃料性状のパラメータを検出する燃料性状パラメータ検出手段と、検出された燃料性状パラメータから燃料性状を判定する燃料性状検出手段を具備し、燃料性状パラメータ検出手段がエンジンルーム内の燃料噴射弁近傍に配設されている。これにより、燃料噴射弁近傍の燃料の性状のパラメータが検出され、それにもとづき燃料性状が判定されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−223723号公報
【特許文献2】特開平11−13568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した前者の装置では、レギュレータから還流される燃料(インジェクタからの余剰燃料)を水流ポンプに供給しており、インジェクタでの燃料使用量(噴射量)が変動すると、水流ポンプへの燃料の供給流量及び圧力が変動してしまい、精度よく蒸気圧を算出することができないという問題があった。例えば、インジェクタからの余剰燃料が少なくなるような内燃機関の運転状態においては、蒸気圧を算出することができないのである。このため、精度よく蒸気圧を算出するためには、余剰燃料が多くなる運転状態においてのみ蒸気圧を計測する(測定タイミングを制限する)、あるいは燃料ポンプをサイズアップする等の対策が必要であった。
【0008】
一方、上記した後者の装置で蒸気圧を計測するには、チャンバ内に燃料を所定量導入して、所定温度まで加熱器で燃料を加熱する必要があるため、蒸気圧を計測するまでに時間がかかってしまうという問題があった。そして、蒸気圧の計測に時間がかかるため、燃料噴射弁から噴射される噴射燃料と計測燃料との差異が生じてしまい、燃料噴射弁から噴射される噴射燃料の蒸気圧を正確に計測することができないおそれがあった。
【0009】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、内燃機関の運転状態に影響されず常に安定して噴射燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる燃料蒸気圧計測システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明は、内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射弁へ供給される燃料の蒸気圧を計測する燃料蒸気圧計測システムにおいて、前記燃料噴射弁に燃料を分配供給する燃料分配管と、燃料ポンプにより燃料タンクから送出された燃料を前記燃料分配管に供給する燃料供給管と、前記燃料分配管に供給された燃料の一部を前記燃料タンクに還流させる燃料還流管と、前記燃料還流管に設けられ、管内の燃料の圧力を所定圧に調整する燃圧調整弁と、前記燃料分配管に供給される燃料の蒸気圧を計測する燃料蒸気圧計測手段とを備え、前記燃圧調整弁により調圧された燃料が流れる配管から分岐した分岐配管に、前記燃圧調整弁に対して並列配置されていることを特徴とする。
【0011】
この燃料蒸気圧計測システムでは、燃料ポンプにより燃料タンクから燃料供給管を介して燃料分配管に供給される。そして、燃料分配管から燃料噴射弁に燃料が分配供給されて、燃料噴射弁から内燃機関に燃料が噴射供給される。このとき、燃料分配管に供給された燃料の一部が燃料還流管に分配されて燃料タンクに還流される。
ここで、燃料還流管には燃圧調整弁が設けられているため、燃圧調整弁よりも上流側の燃料配管(燃料供給管、燃料分配管、及び燃料還流管の一部)内の燃料の圧力は所定圧に調整されている。そして、燃料蒸気圧計測手段が、燃圧調整弁により調圧された燃料が流れる配管から分岐した分岐配管に燃圧調整弁に対して並列配置されている。つまり、燃料蒸気圧計測手段が一定圧力配管中に燃圧調整弁に対して並列配置されている。
【0012】
なお、燃料蒸気圧計測手段は、アスピレータと、アスピレータ内の圧力を検出する圧力検出手段と、圧力検出手段の検出結果に基づき燃料の蒸気圧を算出する蒸気圧算出手段とを備えていればよい。
このような燃料蒸気圧計測手段では、アスピレータで燃料が減圧気化され、蒸気圧が発生する。そして、アスピレータ内の圧力は、燃料の蒸気圧に基づき平衡状態となる。このとき、平衡状態におけるアスピレータ内の圧力が圧力検出手段で検知される。その後、蒸気圧算出手段により、圧力検出手段の検出結果に基づいて燃料の蒸気圧が算出される。なお、蒸気圧算出手段で算出される蒸気圧にはリード蒸気圧も含まれる。このように、燃料の蒸気圧が算出できるのは、アスピレータ内の圧力が蒸気圧(燃料性状)の違いに伴って変化するからである。このようにして、燃料蒸気圧計測手段で燃料の蒸気圧を計測することができる。
【0013】
ここで、蒸気圧は温度の関数であるから、燃料の温度が安定していないと蒸気圧を正確に計測(算出)することができない。そこで、燃料蒸気圧計測手段は、アスピレータを通過する燃料の温度を検出する燃温検出手段をさらに備えていることが好ましい。このような燃温検出手段を設けることにより、気化する前(液体状態)の燃料の温度を検出することができるので、気化した燃料の温度を検出する場合に比べ、燃料温度を精度良く検出することができる。そして、蒸気圧算出手段で、正確に検出された燃料温度を用いて、圧力検出手段の検出結果に基づいて算出した燃料の蒸気圧を補正することができるため、蒸気圧を精度良く計測(算出)することができる。
【0014】
そして、この燃料蒸気圧計測システムでは、燃料蒸気圧計測手段が一定圧力配管中に燃圧調整弁に対して並列配置されているため、燃料蒸気圧計測手段には常に安定した圧力の燃料が供給される。このため、燃料蒸気圧計測手段において、内燃機関の運転状態に影響されず常に安定して燃料噴射弁から噴射される噴射燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる。また、燃圧調整弁から還流される燃料はそのまま燃料タンクに戻るので燃圧調整弁の背圧が変化しないため、燃料の蒸気圧計測によって燃料噴射弁の噴射燃圧に悪影響を与えることがない。
【0015】
本発明に係る燃料蒸気圧計測システムにおいては、前記燃圧調整弁を2つ備えており、第1の燃圧調整弁と第2の燃圧調整弁との間に前記分岐配管が接続されていることが望ましい。
【0016】
このような構成により、第1の燃圧調整弁により燃料分配管に供給される燃料の圧力が所定圧に調整され、第2の燃圧調整弁により第1の燃圧調整弁から還流される燃料の圧力が所定圧に調整される。そして、第2の燃圧調整弁により常に所定圧に保たれた燃料が、燃料蒸気圧計測手段に供給される。このため、燃料蒸気圧計測手段において、内燃機関の運転状態に影響されず常に安定して噴射燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる。また、第2の燃圧調整弁が第1の燃圧調整弁の背圧を一定化させるため、燃料の蒸気圧計測によって燃料噴射弁の噴射燃圧に悪影響を与えることがない。
【0017】
本発明に係る燃料蒸気圧計測システムにおいては、前記燃料蒸気圧計測手段への燃料供給を制御する燃料供給制御手段を備えていることが望ましい。
【0018】
このような燃料供給制御手段を設けることにより、燃料の蒸気圧を計測するときにだけ燃料を燃料蒸気圧計測手段に供給することができる。これにより、燃料噴射弁からの噴射量(内燃機関の要求噴射量)が少ないときに燃料の蒸気圧の計測を行うことができ、燃料ポンプの流量をアップすることなく噴射燃料の蒸気圧を精度良く計測することができる。
また、内燃機関始動前に燃料の蒸気圧を計測する場合には、計測時に燃料蒸気圧計測手段へ燃料を供給し、内燃機関の始動時には燃料蒸気圧計測手段への燃料供給を停止することができるので、燃料噴射弁における必要な噴射燃圧を確保することができ、始動性を悪化させることがない。
【0019】
本発明に係る燃料蒸気圧計測システムにおいては、前記燃料蒸気圧計測手段に供給される燃料を加熱する加熱手段を備えていることが望ましい。
【0020】
このような加熱手段を設けることにより、燃料蒸気圧計測手段において、燃料の温度が低くて蒸気圧が低い状態(蒸気圧を精度良く計測することができない状態)で蒸気圧を計測することがなくなるため、噴射燃料の蒸気圧を常に精度良く計測することができる。
また、燃料蒸気圧計測手段に供給される燃料の温度を変化させることにより、複数点の蒸気圧を計測することができる。
【0021】
なお、加熱手段は、電気ヒータ等であっても良いが、内燃機関の冷却水を利用することが好ましい。この場合には、冷却水配管を燃料蒸気圧計測手段の周辺に配置するとともに流量制御弁を設け、冷却水の流量を制御することにより温調するようにすればよい。
【0022】
本発明に係る燃料蒸気圧計測システムにおいては、前記燃料ポンプから前記燃料噴射弁までの間に燃料を攪拌混合する攪拌混合手段を備えていることが望ましい。
なお、攪拌混合手段は、燃料供給管に設ければよいが、燃料供給管の他、燃料フィルタや燃料分配管に設けてもよい。
【0023】
このような攪拌混合手段を設けることにより、例えば給油後に急激に燃料性状が変わったような場合でも、燃料濃度のムラをなくすることができるため、燃料噴射弁から噴射される燃料と燃料蒸気圧計測手段に供給される燃料との差異をなくすことができる。その結果、燃料噴射弁から噴射される噴射燃料の蒸気圧を精度良く計測することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る燃料蒸気圧計測システムによれば、上記した通り、内燃機関の運転状態に影響されず常に安定して燃料噴射弁から噴射される噴射燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施の形態に係る燃料供給システムの概略を示す構成図である。
【図2】図1に示す燃料蒸気圧計測装置の概略を示す構成図である。
【図3】エンジンシステムの概略構成を示す図である。
【図4】燃料供給システムにおけるエンジン始動時における燃料供給制御の内容を示すフローチャートである。
【図5】燃料供給システムにおけるリード蒸気圧計測ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図6】アスピレータ内の流量と圧力との関係(フィード圧300kPa)を示す図である。
【図7】リード蒸気圧(物性値)とアスピレータ内の圧力との関係を示す図である。
【図8】図7の結果より求めた37.8℃における圧力を基準としたときの温度に対する変化割合(温度係数Ct)を示す図である。
【図9】燃料蒸気圧計測装置に温度センサを備えていない燃料供給システムにおけるリード蒸気圧計測ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図10】第2の実施の形態に係る燃料供給システムの概略を示す構成図である。
【図11】第3の実施の形態に係る燃料供給システムの概略を示す構成図である。
【図12】第3の実施の形態における1つの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の燃料蒸気圧計測システムを具体化した実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。以下に述べる各実施の形態は、本発明を自動車用4気筒エンジンの燃料供給システムに適用したものである。
【0027】
(第1の実施の形態)
まず、第1の実施の形態について説明する。そこで、第1の実施の形態に係る燃料供給システムについて、図1〜図3を参照しながら説明する。図1は、第1の実施の形態に係る燃料供給システムの概略を示す構成図である。図2は、図1に示す燃料蒸気圧計測装置の概略を示す構成図である。図3は、エンジンシステムの概略構成を示す図である。
【0028】
燃料供給システム10には、図1に示すように、エンジン11と、4つのインジェクタ12と、燃料タンク20と、燃料ポンプ21と、燃料供給管22と、デリバリパイプ23と、燃料還流管24と、エンジンコントロールユニット(ECU)30とが備わっている。これにより、燃料供給システム10では、ECU30の指令に基づき、燃料ポンプ21から燃料タンク20内の燃料が燃料供給管22及びデリバリパイプ23を介してインジェクタ12に供給され、インジェクタ12からエンジン11に燃料が噴射供給されるとともに、デリバリパイプ23に供給された燃料の一部が燃料還流管24を介して燃料タンク20に還流されるようになっている。
【0029】
また、燃料供給システム10には、燃料還流管24から分岐する分岐配管25と、分岐配管25の途中に配置された燃料蒸気圧計測装置40とが備わっている。これにより、燃料還流管24を介して燃料タンク20に還流される燃料の一部が分岐配管25を介して燃料蒸気圧計測装置40に供給されるようになっている。そして、燃料蒸気圧計測装置40で燃料の蒸気圧が計測されるようになっている。なお、燃料蒸気圧計測装置40による蒸気圧の計測の詳細については後述する。
【0030】
ここで、エンジン11は、図3に示すように、周知の構造を有するレシプロタイプのものである。そして、このエンジン11は、吸気通路13を通じて吸入される空気とインジェクタ12から噴射される燃料との可燃混合気を、点火プラグ35により着火して燃焼室で爆発・燃焼させ、その燃焼後の排気を排気通路14を通じて排出させることにより、ピストン15を動作させてクランクシャフト(不図示)を回転させ、動力を得るようになっている。また、エンジン11には、水温センサ33が設けられている。水温センサ33は、エンジン11の内部を流れる冷却水の温度(冷却水温)を検知し、その検出値に応じた電気信号を出力するものである。なお、水温センサ33からの出力信号は、ECU30に入力されるようなっている。
【0031】
吸気通路13には、エアフローメータ31、スロットルバルブ16、およびサージタンク17が設けられている。ここで、エアフローメータ31は、吸気通路13を通じてエンジン11に吸入される空気量(吸気量)を検出し、その検出値に応じた電気信号を出力するものである。スロットルバルブ16は、吸気通路13を通じてエンジン11に吸入される空気量(吸気量)を調節するために開閉されるものである。このバルブ16は、運転席に設けられたアクセルペダル18の操作に連動、より詳細には、アクセルペダル18に設けられたアクセルポジションセンサ19からの出力信号に応じて作動するようになっている。また、サージタンク17には吸気圧センサ32が設けられている。この吸気圧センサ32は、スロットルバルブ16より下流の吸気通路13における吸気圧を検出し、その検出値に応じた電気信号を出力するものである。なお、エアフローメータ31及び吸気圧センサ32からの出力信号は、ECU30に入力されるようなっている。
【0032】
インジェクタ12は、エンジン11における各気筒の吸気ポートに対して燃料を噴射するものである。インジェクタ12には、燃料ポンプ21から圧送された燃料が、燃料フィルタ27を通過した後に燃料供給管22を介して供給されるようになっている。このようにして供給された燃料は、ECU30からの指令に基づきインジェクタ12が作動することにより、吸気ポートへ噴射され、空気との可燃混合気を形成して各気筒に取り込まれる。なお、インジェクタ12に供給される燃料は、燃料還流管24に設けられたプレッシャレギュレータ28により所定圧(400kPa程度)に調整されている。また、プレッシャレギュレータ28により、燃料供給管22、デリバリパイプ23、及び燃料還流管24の一部(プレッシャレギュレータ28より上流側)が一定圧力配管となっている。
【0033】
エンジン11に設けられた点火プラグ35は、イグナイタ36から出力される高電圧を受けて点火動作をするものである。点火プラグ35の点火時期は、ECU30の指令によって定まるイグナイタ36による高電圧の出力タイミングにより決定される。
【0034】
ECU30には、上記した他、クランク角センサ等の各種センサ類から出力される各種信号が入力されるようになっている。そして、ECU30は、これらの入力信号に基づきエンジン11の運転状態を検出し、エンジン11の運転状態に応じた燃料供給制御及び点火時期制御等を実行するために、燃料ポンプ21、インジェクタ12、及びイグナイタ36をそれぞれ制御するようになっている。なお、燃料供給制御とは、エンジン11の運転状態に応じて、燃料ポンプ21の吐出量(ポンプモータの回転数)、およびインジェクタ12から噴射される燃料量(燃料噴射量)とその噴射タイミングを制御することである。点火時期制御とは、エンジン11の運転状態に応じてイグナイタ36を制御することにより、点火プラグ35による点火時期を制御することである。
【0035】
ECU30は、周知の構成、すなわち中央処理装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、バックアップRAM、外部入力回路及び外部出力回路等を備えている。ECU30は、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAMと、外部入力回路及び外部出力回路等とをバスにより接続してなる論理演算回路を構成している。ROMは、エンジン制御に関する所定の制御プログラムを予め記憶している。RAMは、CPUの演算結果を一時記憶するものである。バックアップRAMは、予め記憶したデータを保存するものである。CPUは、入力回路を介して入力される各種センサ等の検出値に基づき、所定の制御プログラムに従って各種制御等を実行するものである。
【0036】
そして、分岐配管25がデリバリパイプ23とプレッシャレギュレータ28との間(一定圧力配管)に接続されている。この分岐配管25には、燃料蒸気圧計測装置40が設けられている。燃料蒸気圧計測装置40は、エンジン11が搭載されている車両のエンジンルーム内でインジェクタ12の近傍に配置されている。これにより、インジェクタ12から噴射される噴射燃料と燃料蒸気圧計測装置40で蒸気圧を計測する計測燃料との差異が生じないようになっている。そして、分岐配管25の他端は、燃料タンク20に接続されている。これにより、燃料蒸気圧計測装置40を通過した燃料は、燃料タンク20に戻されるようになっている。また、プレッシャレギュレータ28から還流される燃料もそのまま燃料タンク20に戻される。このため、プレッシャレギュレータ28の背圧が変化しないため、燃料の蒸気圧計測によってインジェクタ12の噴射燃圧に悪影響を与えることがない。なお、分岐配管25の他端は、プレッシャレギュレータ28より下流側で燃料還流管24に接続してもよい。
【0037】
このように、燃料蒸気圧計測装置40は、一定圧力配管中にプレッシャレギュレータ28に対して並列配置されている。これにより、燃料蒸気圧計測装置40には、インジェクタ12に供給される常に安定した圧力の燃料が供給される。このため、燃料蒸気圧計測装置40において、エンジン11の運転状態(インジェクタ12の噴射量)に影響されず常に安定して燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる。
【0038】
この燃料蒸気計測装置40には、図2に示すように、燃料を減圧気化させるアスピレータ41と、アスピレータ41内の圧力を検出する圧力センサ42と、アスピレータ41を通過する燃料の温度(燃温)を検出する温度センサ43とが備わっている。そして、分岐配管25に流れ込む燃料がアスピレータ41を通過するようになっている。これにより、アスピレータ41で燃料が減圧気化されて蒸気圧が発生するようになっている。そして、アスピレータ41内の圧力は、燃料の蒸気圧に基づき平衡状態となる。このとき、平衡状態におけるアスピレータ41内の圧力が、圧力センサ42で検知される。なお、圧力センサ42および温度センサ43からの各出力信号は、ECU30に入力されるようになっている。
このようにして燃料蒸気圧計測装置40で検出される圧力と燃温とに基づいて、後述するようにして燃料の蒸気圧(本実施の形態ではリード蒸気圧RVP)を算出することができるようになっている。
【0039】
続いて、上記した燃料供給システム10の動作について、図4及び図5を参照しながら説明する。図4は、燃料供給システムにおけるエンジン始動時における燃料供給制御の内容を示すフローチャートである。図5は、燃料供給システムにおけるリード蒸気圧計測ルーチンの内容を示すフローチャートである。なお、燃料供給システム10における燃料供給制御は、イグニッション(IG)がONされると開始される。
【0040】
イグニッション(IG)がONされると、ECU30は、図4に示すように、ECU30に備わるRAMに記憶された現在のリード蒸気圧RVPを読み出す(ステップ1)。このリード蒸気圧RVPは、燃料の揮発性を示す指標である。なお、RAMへの現在のリード蒸気圧RVPの書き込み(記憶)処理は、後述するリード蒸気圧計測ルーチン(図5参照)の実施中に行われる。
【0041】
次に、ECU30は、水温センサ33からの信号により、エンジン11の冷却水温を検出する(ステップ2)。そして、ECU30は、ステップ2で検出した冷却水温に基づき、温度係数Ct(T2)を算出する(ステップ3)。ここで、温度係数Ct(T2)は、ステップ1で読み出したリード蒸気圧RVP(37.8℃)を「1」としたときの燃温による蒸気圧の変化割合を示すものである(図8参照)。その後、ECU30は、ステップ1で読み出したリード蒸気圧RVP(37.8℃)と、ステップ3で算出した温度係数Ct(T2)とから次式により現在の燃料蒸気圧VPを算出する(ステップ4)。
VP=RVP・Ct(T2)
【0042】
ここで、冷却水温に基づき温度係数から燃料蒸気圧を算出するのは、インジェクタ12から噴射される状態における蒸気圧を正確に算出するためである。例えば、寒冷地においては、エンジン11の暖気が終了していても、燃温が低い状態であることがあり、このような場合に燃温に基づいて燃料蒸気圧を算出すると、インジェクタ12から噴射されたときの燃料蒸気圧を正確に算出することができないからである。なお、エンジン11の運転状態によって、燃料蒸気圧を算出するための温度を、冷却水温又は燃温のいずれにするかを決定する(切り替える)ようにしてもよい。
【0043】
その後、ECU30は、算出した燃料蒸気圧に基づき始動時における燃料噴射量や点火時期などの補正量を決定する(ステップ5)。これにより、燃料供給システム10においては、始動時における燃料蒸気圧に基づく燃料増量補正が行われる。そして、ECU30は、この増量補正を行ってエンジン11を始動させる(ステップ6)。
【0044】
このように、燃料供給システム10では、ECU30がエンジン11の始動時における燃料噴射制御を燃料蒸気圧に基づき行うため、燃料性状(種類)が変化しても、高精度な燃料噴射制御を行うことができる。その結果、燃料の種類、温度に合わせエンジンが要求する最適な燃料噴射量の補正が出来るため常に安定した燃焼状態が得られ、特に冷間始動時におけるA/Fセンサの未活性時(オープン制御時)のHC低減、始動性、ドライバビリティの向上を満たすことができる。また、仕向け先の違いによる燃料性状(蒸気圧)の違いを検知できるため、燃料性状に合わせたエンジンの適合を行う必要が無くなるので、機種展開が容易になり開発工数を大幅に削減することができる。
【0045】
そして、エンジン11が始動した後、ECU30は図5に示すリード蒸気圧計測ルーチンを実行する。このリード蒸気圧計測ルーチンが実行されると、図5に示すように、ECU30は、タイマーリセット後に(ステップS10)、圧力センサ42による圧力計測条件が満たされているか否かを判断する(ステップ11〜14)。本実施の形態では、タイマーリセットから規定時間以上経過していること(ステップ11)、アクセルポジションセンサ19の出力電圧が規定値以下、つまりアクセルペダル18が操作されていないこと(ステップ12)、バッテリ電圧が既定値(例えば、6V)以上であること(ステップ13)、給油されていないこと(ステップ14)を計測条件としている。
【0046】
上記した計測条件を満たしている場合には(S11〜S13:YES,S14:NO)、燃料蒸気圧計測装置40において、圧力センサ42によりアスピレータ41内の圧力が検出されるとともに、温度センサ43によりアスピレータ41を通過する燃料の温度T1が検出される(ステップ15,16)。
ここで、圧力センサ42により検出される圧力は、図6に示すP(T1)である。この圧力P(T1)は、アスピレータ41を燃料が通過するとき(流量Q(Qは一定))に発生する負圧Pn(一点鎖線参照)よりも、燃料が減圧気化することで発生した蒸気圧によってよって回復した(小さくなった)負圧(実線参照)となる。なお、図6は、アスピレータ内の流量と圧力との関係(フィード圧300kPa)を示す図である。
【0047】
一方、ステップ11〜13において、圧力計測条件が満たされていない場合には、ECU30は、各条件が満たされるまで以降の処理を一時的に中止する。そして、ECU30は、ステップ11〜13のすべての条件が満たされると(S11〜S13:YES)、給油されたか否かを判断する(ステップ14)。このとき、給油されていると(S14:YES)、ECU30は、タイマーをリセットして圧力計測条件(ステップ11〜14)の判定を繰り返す。
【0048】
そして、ECU30は、ステップ16で検出した燃料温度に基づき、温度係数Ct(T1)を算出する(ステップ17)。次いで、ステップ15で計測した圧力P(T1)と、ステップ17で算出した温度係数Ct(T1)とにより下記の換算式に基づき、リード蒸気圧RVP(37.8℃)を算出する(ステップ18)。
【0049】
ここで、リード蒸気圧及び任意の温度における蒸気圧(揮発性)を算出する換算式について、図7及び図8を参照しながら説明する。図7は、リード蒸気圧(物性値)とアスピレータ内の圧力との関係を示す図である。図8は、図7の結果より求めた37.8℃における圧力を基準としたときの温度に対する変化割合(温度係数Ct)を示す図である。
【0050】
図7から明らかなように、圧力は、各燃温において燃料の種類に関係なくリード蒸気圧(物性値)と非常に高い相関性がある。そして、37.8℃における圧力を基準としたときの温度変化に対し、圧力の変化割合は図8に示すように、燃料の種類に関係なく、ある割合で変化する。従って、アスピレータ41での圧力と燃料温度とを検出することができれば、リード蒸気圧と任意の温度における燃料蒸気圧(揮発性)も簡単に算出することができる。
また、燃料蒸気圧計測装置40にはインジェクタ12に供給される常に安定した圧力の燃料が供給されるため、エンジン11の運転状態に影響されず常に安定してインジェクタ12から噴射される噴射燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる。
【0051】
そして、上記結果から得られるリード蒸気圧RVPの換算式は以下に示す通りである。
RVP=1/Ct(T1)・A0・P(T1)+B0
0:基準温度(37.8℃)の傾き
0:基準温度(37.8℃)の切片
また、任意の温度における蒸気圧VPの換算式は以下に示す通りである。
VP(T2)=RVP・Ct(T2)
【0052】
その後、ECU30は、このようにしてリード蒸気圧RVP(37.8℃)を算出すると、算出したリード蒸気圧RVP(37.8℃)を現在のリード蒸気圧RVPとしてRAMに上書きする。これにより、先回のリード蒸気圧RVPが消去されて、現在のリード蒸気圧RVPが記憶される。そして、このようにして記憶された現在のリード蒸気圧RVPが次回のエンジン始動時に読み出される(ステップ1参照)。
【0053】
ここで、燃料蒸気圧計測装置40に温度センサ43を備えていない場合の蒸気圧計測について、図9を参照しながら説明する。図9は、燃料蒸気圧計測装置に温度センサを備えていない燃料供給システムにおけるリード蒸気圧計測ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【0054】
この燃料供給システムでも、エンジン11が始動されると、ECU30がリード蒸気圧計測ルーチンを実行する。このリード蒸気圧計測ルーチンが実行されると、図9に示すように、ECU30は、圧力計測条件(ステップ30,31)が満たされているか否かを判断する。この計測条件は、上記した形態とは異なり、給油がされたこと(ステップ30)、及び先回のエンジン停止後より規定時間以上経過していること(ステップ31)としている。なお、ステップ31における規定時間としては、燃温とエンジン11の冷却水温とが同じ温度になるまでの時間を設定すればよい。
【0055】
上記の圧力計測条件が満たされると、ECU30は、圧力センサ42からの信号に基づき圧力(P(T))を検出し(ステップ32)、水温センサ33からの信号に基づきエンジン11の冷却水温を検出する(ステップ33)。そして、ECU30は、ステップ33で検出した冷却水温に基づき、温度係数Ct(T)を算出する(ステップ34)。次いで、ステップ32で検出した圧力P(T)と、ステップ34で算出した温度係数Ct(T)とにより上記した換算式に基づき、リード蒸気圧RVP(37.8℃)を算出する(ステップ35)。その後、ECU30は、算出したリード蒸気圧RVP(37.8℃)を現在のリード蒸気圧RVPとしてRAMに上書きする。これにより、先回のリード蒸気圧RVPが消去されて、現在のリード蒸気圧RVPが記憶される(ステップ36)。
【0056】
そして、次回のエンジン11の始動時に、ECU30により、ステップ36で記憶された現在のリード蒸気圧RVPが読み込まれ、その時のエンジン11の冷却水温から算出した温度係数(Ct(T2))に基づき燃料蒸気圧VPが算出される。そして、この燃料蒸気圧VPをもとに燃料噴射量補正が行われて、エンジン11が始動する(図4参照)。
【0057】
以上、詳細に説明したように第1の実施の形態に係る燃料供給システム10では、燃料蒸気圧計測装置40が、デリバリパイプ23とプレッシャレギュレータ28との間で燃料還流管24から分岐した分岐配管25に配置されている。つまり、燃料蒸気圧計測装置40は、一定圧力配管中にプレッシャレギュレータ28に対して並列配置されている。このため、燃料蒸気圧計測装置40には、インジェクタ12に供給される常に安定した圧力の燃料が供給される。従って、第1の実施の形態に係る燃料供給システム10では、エンジン11の運転状態に影響されず常に安定してインジェクタ12から噴射される噴射燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる。
【0058】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態に係る燃料供給システムは、第1の実施の形態と基本的な構成をほぼ同じくするが、燃料蒸気圧計測装置への燃料の供給を制御する電磁弁が設けられている点、燃料蒸気圧計測装置への供給燃料を加熱する加熱装置が設けられている点、及び燃料供給管の途中にミキサを備えている点が異なる。このため、以下ではこの相違点を中心に、第2の実施の形態に係る燃料供給システムについて、図10を参照しながら説明する。図10は、第2の実施の形態に係る燃料供給システムの概略を示す構成図である。
【0059】
第2の実施の形態に係る燃料供給システム10aでは、図10に示すように、分岐配管25の燃料蒸気測定装置40より上流側に電磁弁45が設けられている。この電磁弁45は、ECU30に接続されておりECU30からの指令に基づき分岐配管25を開閉するようになっている。このため、電磁弁45の開閉を制御することにより、燃料蒸気測定装置40への燃料供給を制御することができる。
【0060】
また、エンジン11の冷却水が流れる冷却水配管47が、燃料蒸気圧計測装置40及び電磁弁45の周辺に取り回されて配置されている。この冷却水配管47には流量調整弁48が設けられており、流量調整弁48により冷却水の流量を調整することができるようになっている。このように構成された加熱装置46により、燃料蒸気圧計測装置40に供給される燃料の温調を行うことができる。
【0061】
さらに、燃料供給管22にミキサ49が設けられている。このミキサ49は、一定量の燃料を取り込み、その内部で攪拌混合することができるものである。このようなミキサ49を設けることにより、例えば給油後に急激に燃料種類が変わったような場合でも、燃料濃度のムラをなくすることができるため、インジェクタ12から噴射される燃料と燃料蒸気圧計測装置40に供給される燃料との差異をなくすことができる。
【0062】
さらにまた、ドアロックコントローラ50が備わっており、ドアロックコントローラ50の動作情報がECU30に入力されるようになっている。これにより、ドアロックコントローラ50からの情報に基づき、エンジン11が始動される予兆を検知することができるようになっている。
【0063】
従って、第2の実施の形態に係る燃料供給システム10aでは、燃料の蒸気圧を計測するときにだけ電磁弁45を開状態とすることにより、燃料を燃料蒸気圧計測装置40に供給することができる。このため、インジェクタ12からの燃料噴射量が少ないときに燃料の蒸気圧の計測を行うことができ、燃料ポンプ21の流量をアップすることなく噴射燃料の蒸気圧を精度良く計測することができる。
【0064】
そして、エンジン11の始動前に燃料の蒸気圧を計測する場合には、電磁弁45により、計測時に燃料蒸気圧計測装置40へ燃料を供給し、エンジン11の始動時には燃料蒸気圧計測装置40への燃料供給を停止することができる。従って、このような計測を行う場合でも、インジェクタ12において必要な噴射燃圧を確保することができ、始動性を悪化させることがない。また、ドアロックコントローラ50からのドアロック動作情報に基づきエンジン11が始動される予兆を検知したときに、燃料ポンプ21を作動させて燃料の蒸気圧を計測することができる。これにより、エンジン11の始動前にあらかじめ燃料の蒸気圧を計測するため、エンジン11の始動時間(IGオンからエンジン11が始動するまでの時間)が長くなることがない。
【0065】
また、加熱装置46により、燃料蒸気圧計測装置40に供給される燃料の温調を行うことができるため、燃料の温度が低くて蒸気圧が低い状態(蒸気圧を精度良く計測することができない状態)で蒸気圧を計測することがないため、噴射燃料の蒸気圧を常に精度良く計測することができる。さらに、燃料蒸気圧計測装置40に供給される燃料の温度を変化させることにより、複数点の蒸気圧を計測することもできる。
【0066】
また、ミキサ49により、インジェクタ12から噴射される燃料と燃料蒸気圧計測装置40に供給される燃料との差異が生じないようにしているため、例えば給油後に急激に燃料性状が変わったような場合でも、噴射燃料の蒸気圧を精度良く計測することができる。
【0067】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態に係る燃料供給システムは、第1の実施の形態と基本的な構成をほぼ同じくするが、プレッシャレギュレータが2つ備わっている点と分岐配管の分岐点が異なっている。このため、以下ではこの相違点を中心に、第3の実施の形態に係る燃料供給システムについて、図11を参照しながら説明する。図11は、第3の実施の形態に係る燃料供給システムの概略を示す構成図である。
【0068】
第3の実施の形態に係る燃料供給システム10bでは、図11に示すように、燃料還流管24にプレッシャレギュレータ28の他に、プレッシャレギュレータ29が設けられている。このプレッシャレギュレータ29は、プレッシャレギュレータ28の下流側に配置されており、設定圧はプレッシャレギュレータ28の設定圧の約半分である。
そして、プレッシャレギュレータ28とプレッシャレギュレータ29との間に分岐配管25が接続されている。この分岐配管25には、燃料蒸気圧計測装置40が設けられている。これにより、燃料蒸気圧計測装置40には、プレッシャレギュレータ29により一定圧(200kPa程度)に調圧された燃料が供給される。このため、燃料蒸気圧計測装置40において、エンジン11の運転状態(インジェクタ12の噴射量)に影響されず常に安定して燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる。また、プレッシャレギュレータ28の背圧が変化しないため、燃料の蒸気圧計測によってインジェクタ12の噴射燃圧に悪影響を与えることもない。
【0069】
従って、インジェクタ12の噴射燃圧を調整するプレッシャレギュレータ28からの還流される燃料を使用して蒸気圧を計測する場合であっても、第3の実施の形態に係る燃料供給システム10bのような構成にすることにより、プレッシャレギュレータ29によってプレッシャレギュレータ28から還流されて燃料蒸気圧計測装置40に供給される燃料の圧力を常に安定させることができる。このため、燃料蒸気圧計測装置40において、エンジン11の運転状態に影響されず常に安定して燃料の蒸気圧を精度良く瞬時に計測することができる。
【0070】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した第2の実施の形態では、ミキサ49を燃料供給管22に設けているが、ミキサ49を燃料フィルタ27やデリバリパイプ23に設けることもできる。また、燃料蒸気圧計測装置40に供給される燃料をエンジン11の冷却水によって加熱しているが、電気ヒータ等によって燃料を加熱することもできる。
【0071】
また、上記した第3の実施の形態に係るシステムに第2の実施の形態で説明した構成を任意に組み合わせることもできる。例えば、電磁弁45を設けるとともに、ドアロック動作情報に基づきエンジン11の始動前に燃料ポンプ21を作動させて燃料の蒸気圧を計測することができるようにする場合には、図12に示すようなシステム構成にすればよい。
【0072】
また、上記した実施の形態では、演算処理や記憶が簡単になることから燃料の蒸気圧を算出するのに、ECU30はリード蒸気圧RVPを記憶するようになっているが、リード蒸気圧の代わりに、圧力センサ42で検出された圧力とそのとき温度センサ43で検出された燃温との2変数をそのまま記憶して、その2変数を用いて燃料の蒸気圧を算出することもできる。あるいは、圧力センサ42で検出された圧力とそのとき温度センサ43で検出された燃温との2変数から算出できる特定温度の蒸気圧をリード蒸気圧の代わりに代表値として記憶し、その特定温度の蒸気圧を用いて燃料の蒸気圧を算出することもできる。
【符号の説明】
【0073】
10 燃料供給システム
11 エンジン
12 インジェクタ
20 燃料タンク
21 燃料ポンプ
22 燃料供給管
23 デリバリパイプ(燃料分配管)
24 燃料還流管
25 分岐配管
27 燃料フィルタ
28 プレッシャレギュレータ
29 プレッシャレギュレータ
30 エンジンコントロールユニット
40 燃料蒸気圧計測装置
41 アスピレータ
42 圧力センサ
43 温度センサ
45 電磁弁
46 加熱装置
49 ミキサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射弁へ供給される燃料の蒸気圧を計測する燃料蒸気圧計測システムにおいて、
前記燃料噴射弁に燃料を分配供給する燃料分配管と、
燃料ポンプにより燃料タンクから送出された燃料を前記燃料分配管に供給する燃料供給管と、
前記燃料分配管に供給された燃料の一部を前記燃料タンクに還流させる燃料還流管と、
前記燃料還流管に設けられ、管内の燃料の圧力を所定圧に調整する燃圧調整弁と、
前記燃料分配管に供給される燃料の蒸気圧を計測する燃料蒸気圧計測手段とを備え、
前記燃料蒸気圧計測手段が、前記燃圧調整弁により調圧された燃料が流れる配管から分岐した分岐配管に、前記燃圧調整弁に対して並列配置されている
ことを特徴とする燃料蒸気圧計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載する燃料蒸気圧計測システムにおいて、
前記燃圧調整弁を2つ備えており、第1の燃圧調整弁と第2の燃圧調整弁との間に前記分岐配管が接続されている
ことを特徴とする燃料蒸気圧計測システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する燃料蒸気圧計測システムにおいて、
前記燃料蒸気圧計測手段への燃料供給を制御する燃料供給制御手段を備えている
ことを特徴とする燃料蒸気圧計測システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載するいずれか1つの燃料蒸気圧計測システムにおいて、
前記燃料蒸気圧計測手段に供給される燃料を加熱する加熱手段を備えている
ことを特徴とする燃料蒸気圧計測システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載するいずれか1つの燃料蒸気圧計測システムにおいて、
前記燃料ポンプから前記燃料噴射弁までの間に燃料を攪拌混合する攪拌混合手段を備えている
ことを特徴とする燃料蒸気圧計測システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−275879(P2010−275879A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126809(P2009−126809)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】