説明

燃料貯留システム

【課題】 製造コストやレイアウトの自由度を犠牲にすることなく燃料電池の故障を未然に防止することができる燃料貯留システムを提供する。
【解決手段】 供給される燃料を内部に貯留する燃料タンク1と、充填口10と、充填口10と燃料タンク1との間に配置され、供給される燃料が不良か否かを検出する不良燃料検知部8と、周囲に警告を発する警告灯87と、不良検出部8から出力される信号を受けて警告灯87を作動させるECU100とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に供給された燃料に不純物が含有されている場合に、適切な処置をとるようにした燃料貯留システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を用いたシステムとして、例えば燃料電池車は、燃料ガスである水素をタンクに蓄えるようになっており、天然ガス車と同様に、水素供給ステーションにおいて車体に設けた充填口にノズルを装着して水素を注入するようになっている。燃料電池車に供給される水素に不純物が含まれていると、燃料電池が機能不全を来すことがあるため、水素の品質には天然ガス燃料と比較して厳しい注意を払わなければならない。このため、燃料電池車に供給される水素には、燃料規格が設けられて不純物の量などの規定がなされており、水素供給ステーションは、規格に沿った水素を燃料電池車に供給するようにしている。
【0003】
しかしながら、水素供給ステーションの設備の故障で不純物が水素に混入したり、意図的に油や水などが注入されるなどして燃料規格外の不良燃料が供給される可能性がある。あるいは、水素供給ステーションにおいて圧縮水素を冷却した際に発生する結露水が水素に混入されることが考えられ、そのような事態が生じると燃料電池が機能不全に陥る。
【0004】
特許文献1および特許文献2には、水素を水素分離膜などのフィルターに通して水などの不純物を分離する技術が開示されている。また、特許文献3には、不純物センサとして別の燃料電池を上流側に配置する技術が開示されている。さらに、特許文献4には、COガス濃度を検出して水素の供給量を増減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−166515号公報
【特許文献2】特開2005−216708号公報
【特許文献3】特開2008−243430号公報
【特許文献4】特開平6−223856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、水素に混入される不純物の量は未知であるため、フィルター等で不純物を除去する上記従来技術では、フィルターの容量を可能な限り大きくする必要がある。しかしながら、それでは製造コストや重量が増加するとともに、車両の場合に重要な車載レイアウトの自由度が低下してしまうという問題がある。また、上記従来技術では、不良燃料が混入されても車両の運行が続けられてしまうため、燃料電池が故障するまで判らないという安全上の問題もある。
【0007】
したがって、本発明は、製造コストやレイアウトの自由度を犠牲にすることなく燃料電池の故障を未然に防止することができる燃料貯留システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料貯留システムは、供給される燃料を内部に貯留する貯留容器と、燃料を貯留容器へ通流させる充填部と、充填部と貯留容器との間に配置され、供給される燃料が不良か否かを検出する不良燃料検知部と、周囲に警告を発する警告部と、不良検出部から出力される信号を受けて警告部を作動させる制御部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記構成の燃料貯留システムにあっては、燃料が不良であることを不良燃料検知部が検出すると、警告部が周囲に警告を発するから、周囲の者は燃料の供給を停止するなど適切な処置をとることができる。したがって、大容量のフィルター等を備えることなく燃料電池の故障を未然に防止することができる。
【0010】
ここで、不良燃料検知部は、燃料に含まれる液体により電気的スイッチングを生じて供給される燃料が不良か否かを検出するように構成することができる。たとえば、不良燃料検知部は、燃料に含まれる液体が溜まってフロートを上昇させることにより、電気的スイッチングを生じさせるように構成することができる。あるいは、不良燃料検知部は、互いに接近した一対の接点を備え、接点の間に燃料に含まれる液体が付着することにより電気的スイッチングを生じさせるように構成することができる。
【0011】
また、充填部および貯留容器が接続されて供給される燃料を消費する燃料電池と、充填部および貯留容器と燃料電池との間に配置された遮断弁とを備えることができる。そして、制御部は、不良燃料検知部から出力される信号を受けて遮断弁を閉じる。このような態様では、燃料電池への不良燃料の供給が自動的に阻止されるから、燃料電池の故障を確実に防止することができる。また、このような態様は、燃料電池車に適用することができる。
【0012】
さらに、充填部は、弁を有し、その開閉により燃料の貯留容器への流通可否を設定可能とすることができ、制御部は、不良燃料検知部から出力される信号を受けて警告部を作動させるとともに、充填部を閉じて燃料の流通を阻止するように構成することができる。このような態様では、燃料貯留システムの上流側で不良燃料が遮断されるので、メンテナンスが軽減される。
【0013】
なお、本発明において警告の種類は任意である。たとえば、インジケータパネルに警告灯や警告メッセージを点灯させたり、車両のヘッドライトやウインカーを点滅させたりすることができる。また、音声による警告も可能である。さらに、警告の他に、エンジンが始動しないようにしたり、アクセルペダルを踏んでも応答しないようにすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料貯留システムによれば、製造コストや車載性を犠牲にすることなく燃料電池の故障を未然に防止することができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の燃料貯留システムを示す系統図である。
【図2】実施形態における不良燃料検知部を示す断面図である。
【図3】実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の他の実施形態の燃料貯留システムを示す系統図である。
【図5】実施形態における絶縁抵抗計の抵抗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図3を参照して燃料電池システムを車両に搭載した場合の本発明の一実施形態を説明する。図1は実施形態の燃料貯留システムを示す系統図であり、燃料電池車の燃料供給系と制御系を示している。図1において符号1は燃料タンク(貯留容器)であり、燃料タンク1は内部に水素を貯留するようになっている。燃料タンク1の端部には容器弁2が取り付けられ、容器弁2には充填供給配管3が接続されている。
【0017】
図1において符号15は燃料電池である。なお、以下の説明においては、燃料電池側を下流側、その逆側を上流側と称する。燃料電池15と燃料タンク1との間の充填供給配管3には、システム減圧弁4とシステム電磁弁5が接続されている。システム電磁弁5の上流側には逆止弁6が接続され、これらシステム電磁弁5および逆止弁6の中間に充填供給配管3が接続されている。逆止弁6には充填用配管7が接続され、逆止弁6は、燃料タンク1内の水素が上流側へ流れるのを防止する。
【0018】
充填用配管7には、不良燃料検知部8、充填遮断弁(弁、充填部)9、および充填口(充填部)10が上流側へ向けこの順番で接続されている。図2は不良燃料検知部8の詳細を示す図である。図において符号80はフィルタハウジングである。フィルタハウジング80は縦長の略円筒状をなし、その上端部には燃料供給口81と燃料排出口82が形成されている。燃料排出口82は、フィルタハウジング80の側面から内側に伸び、そこからL字状に屈曲して下方へ伸びており、その下方を向く開口部にはフィルタエレメント83が取り付けられている。フィルタエレメント83は有底円筒状をなし、その外周部に多孔質のフィルタ材が設けられている。したがって、充填用配管7により送られて来た燃料は、燃料供給口81からフィルタハウジング80の内部に供給され、フィルタエレメント83の外周部を通過して内部に流れ、燃料排出口82から充填用配管7に送り出される。その際に、燃料に含まれている水分、油分等の液体は、フィルタ材に捕捉される。
【0019】
フィルタハウジング80の底部には、センサハウジング84が取り付けられている。センサハウジング84の上端部には、円筒状のガイド部84aが形成され、ガイド部84aには磁気スイッチ84bが収容されている。また、ガイド部84aの外周には、リング状のフロート85が上下方向に摺動自在に嵌合させられている。フロート85の内周面の下端部には、磁石86が取り付けられている。フィルタエレメント83で捕捉された液体は、量が溜まると下方へ滴下する。また、燃料に含まれる液体は、フィルタハウジング80の内壁面に付着して下方へ垂れてゆく。そして、液体はフィルタハウジング80の底に溜まり、浮力でフロート85が持ち上げられる。
【0020】
磁気スイッチ84bはECU(制御部)100に接続されており、磁石86が接近して磁気スイッチ84bがオンになると、その信号はECU100に出力される。この場合、ECU100は、警告灯(警告部)87を点灯し、アクセサリスイッチ88およびイグニッションスイッチ89の操作を無効にする。
【0021】
次に上記構成の燃料貯留システムの動作を説明する。燃料を燃料タンク1に充填するには、水素供給ステーションにおいてノズル(図示略)を充填口10に気密に装着して燃料を供給する。水素供給ステーションでは、燃料を高圧にして貯留するので、圧縮されて高温になった燃料を冷却することが行われる。この冷却の際に、燃料に含まれる水蒸気が凝縮し、水が燃料に混入することがある。そのような水は、燃料とともに燃料貯留システムに供給される。
【0022】
充填口10から供給された燃料は、充填遮断部9、不良燃料検知部8、逆止弁6を経由して燃料タンク1に充填される。なお、このときシステム電磁弁5は閉じられているので燃料が燃料電池15に供給されることはない。また、燃料電池15を作動させる場合には、システム電磁弁5を開き、システム減圧弁4の開度を調節して燃料を燃料電池15に供給する。
【0023】
ここで、燃料に含まれている液体は、不良燃料検知部8で捕捉され、フィルタハウジング80の底部に溜まってゆく。この液体には、種々の不純物が含まれているので、燃料は浄化される。そして、フィルタハウジング80に溜まった液体Lの水位が上昇するに従ってフロート85が浮力で上昇し、磁石86が磁気スイッチ84bに接近する。なお、これ以降の動作は図3を参照して説明する。
【0024】
まず、アクセサリスイッチ88がオンにされると(ステップS1)、ECU100は、磁気スイッチ84bから出力された信号の有無を判断し(ステップS2)、その信号がない場合にはイグニッションスイッチ89がオンにされたか否かを判断する(ステップS3)。イグニッションスイッチ89がオンにされていない場合には、ステップS1に戻って以上の処理を繰り返す。一方、イグニッションスイッチ89がオンにされている場合には、システム電磁弁5を開いて燃料電池15に燃料を供給する。
【0025】
フィルタハウジング80の底部に溜まった液体Lの水位が上昇し、磁石86により磁気スイッチ84bがオンになると、ステップS2での判断結果は「YES」となり、ECU100は警告灯87を点灯させる(ステップS4)。これにより、運転者や同乗者あるいは水素ステーションの従業員は、不良燃料検知部8に溜まった液体の量が限界に達したことを知ることができるので、不良燃料検知部8を交換するなどの適切な処置をとることができる。また、仮に、警告灯の点灯に気付かず、イグニッションスイッチ89をオンにした場合であっても、ECU100はシステム電磁弁5を閉じて燃料電池15に燃料を供給しない(ステップS5)。なお、イグニッションスイッチ89がオンにされていない場合には、ステップ1に戻って以上の処理を繰り返す。
【0026】
上記構成の燃料貯留システムでは、不良燃料が供給されると、フィルタハウジング80内で分離した液体の水位が上昇して磁気スイッチ84bがオンとなり、警告灯87が点灯されるから、周囲の者は燃料の供給を停止し、不良燃料検知部8を交換するなど適切な処置をとることができる。したがって、大容量のフィルター等を備えることなく燃料電池15の故障を未然に防止することができる。
【0027】
特に上記実施形態では、警告灯87を点灯させるだけでなくシステム電磁弁5を閉じて燃料電池15に燃料を供給しないようにしているから、燃料電池15への不良燃料の供給が自動的に阻止され、燃料電池15の故障を確実に防止することができる。
【0028】
なお、上記実施形態においては、図3に示すように、警告灯87を点灯させるとともに充填遮断弁9を閉じることもできる(ステップS7)。このような態様では、燃料タンク1よりも上流側で不良燃料が遮断されるので、メンテナンスが軽減されるという利点がある。
【0029】
図4および図3は、本発明の他の実施形態を示す図である。図4において符号90は、不良燃料検知部であり、符号91はハウジングである。ハウジング91の両側面には、燃料供給口92と燃料排出口93が設けられ、これら燃料供給口92および燃料排出口93は、充填用配管7(図1参照)に接続されている。ハウジング91の内部には、絶縁抵抗計94が設けられている。絶縁抵抗計94は、一対の電極(接点)95を上下方向に接近して配置したものであり、両電極95間には電圧が印加されている。そして、燃料電池に含まれる液体が電極95と接触して電極95に付着すると、両電極95間が導通して抵抗率が変化し、その信号がECU100に出力される。
【0030】
すなわち、空気の絶縁抵抗は非常に大きいため、オイル等の異物が付着して両電極95間を橋渡しすると抵抗率が低下する。一般に、油の抵抗率は1012〜1015Ωcmであるため、図4に示すように、絶縁抵抗計94が示す抵抗率が1015Ωcm以下となったときにECU100は異常と判断し、警告灯87を点灯させたりアクセサリスイッチ88やイグニッションスイッチ89の操作を無効にする。したがって、大容量のフィルター等を備えることなく燃料電池15の故障を未然に防止することができる。
【0031】
上記実施形態は、燃料に含まれる液体を分離する機能はないが、液体を貯留せずに電極95に付着させる構成であるから、不良燃料が供給されたら迅速に異常が検知される。したがって、不良燃料が大量に燃料タンク1に充填されるのを防止することができる。なお、この実施形態では、燃料中に含まれる液体を効率よく電極95に付着させる構成を採用することが望ましい。たとえば、電極95を冷却して燃料に含まれる水蒸気を凝縮し、水分を電極95に付着させるようにすることができる。あるいは、燃料の流れが電極95に集中するように整流板などを配置することができる。また、上方の電極95をテーパ状に形成し、電極95に付着した液体が重力で中央部に集まるように構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、システムを小型化および軽量化しつつ燃料電池の故障を確実に防止することができるので、定置型の燃料電池システムや、厳しい信頼性が要求される燃料電池車に適用して極めて有望である。
【符号の説明】
【0033】
1 燃料タンク(貯留容器)
8 不良燃料検知部
9 充填遮断弁(弁、充填部)
10 充填口(充填部)
85 フロート
87 警告灯(警告部)
95 電極(接点)
100 ECU(制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される燃料を内部に貯留する貯留容器と、
燃料を前記貯留容器へ通流させる充填部と、
前記充填部と前記貯留容器との間に配置され、供給される燃料が不良か否かを検出する不良燃料検知部と、
周囲に警告を発する警告部と、
前記不良検出部から出力される信号を受けて前記警告部を作動させる制御部と、
を備えたことを特徴とする燃料貯留システム。
【請求項2】
前記不良検出部は、燃料に含まれる液体により電気的スイッチングを生じて供給される燃料が不良か否かを検出することを特徴とする請求項1に記載の燃料貯留システム。
【請求項3】
前記不良燃料検知部は、燃料に含まれる液体が溜まってフロートを上昇させることにより電気的スイッチングを生じさせることを特徴とする請求項2に記載の燃料貯留システム。
【請求項4】
前記不良燃料検知部は、互いに接近した一対の接点を備え、接点の間に燃料に含まれる液体が付着することにより電気的スイッチングを生じさせることを特徴とする請求項2に記載の燃料貯留システム。
【請求項5】
前記充填部および前記貯留容器が接続され、供給される燃料を消費する燃料電池と、前記充填部および前記貯留容器と前記燃料電池との間に配置された遮断弁とを備え、前記制御部は、前記不良燃料検知部から出力される信号を受けて前記遮断弁を閉じることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の燃料貯留システム。
【請求項6】
前記充填部は、弁を有し、その開閉により燃料の前記貯留容器への流通可否を設定可能とされ、
前記制御部は、前記不良燃料検知部から出力される信号を受けて前記警告部を作動させるとともに、前記充填部を閉じて燃料の流通を阻止することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の燃料貯留システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−242952(P2010−242952A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95588(P2009−95588)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】