説明

燃料電池セパレータおよびその成形方法ならびにその成形装置

【課題】 材料密度差が少ない、したがって、強度も向上された燃料電池セパレータ、およびその成形方法(製造方法)、ならびにその成形装置(製造装置)の提供。
【解決手段】(1)密度バラツキが±15%以下で曲げ強度が15MPa以上の燃料電池セパレータ。(2)複数のノズル孔52から射出された成形材料同士を、金型面55に衝突する前に、互いに衝突させ微粒化させ、金型キャビティ54内に充填する燃料電池セパレータの成形方法。(3)ノズル51は成形材料を射出する複数のノズル孔52を有しており、該複数のノズル孔52の軸芯の延長線は、ノズル51と金型面55との間で、互いに交差している燃料電池セパレータの成形装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形された燃料電池カーボンセパレータおよびその成形方法(製造方法)ならびにその成形装置(製造装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004−160772号公報は、たとえば図6にも示すように、カーボンフィラーと溶融樹脂を含む高粘度材からなる成形材料を単一のノズル孔2をもつノズル1から金型面3に向けて射出し、金型キャビティ4内に充填させて燃料電池セパレータを成形する燃料電池セパレータの成形方法を開示している。
【特許文献1】特開2004−160772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の燃料電池セパレータの成形方法にはつぎの課題がある。
(イ)成形材料が1方向高速高粘度流体のため、金型の、成形材料が衝突した部位が削られてしまい、金型が劣化し、かつ、成形品に金型金属粉が混入して製品品質の低下を招く。
(ロ)金型が削られるのを抑制するために成形品押出し圧力を低下させれば、成形材料が微粉化されずに糸状にノズルから出てくることで、成形材料が金型キョビティ端部まで充填されにくい。
(ハ)射出完了直前では、射出圧力の低下しおよび金型に直接成形材料が衝突しくくなって、成形材料が微粉化されにくく、微細化されていない成形材料がキャビティ内に充填され、セパレータの材料密度差が発生し、材料物性(強度、ガス透過率、等)が低下し、不良品が発生するおそれがある。
【0004】
本発明の目的は、材料密度差が少ない、したがって、強度も向上された燃料電池セパレータ、およびその成形方法(製造方法)、ならびにその成形装置(製造装置)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する、そして上記目的を達成する、本発明は、つぎのとおりである。
(1) 射出成形品からなる燃料電池カーボンセパレータであって、密度バラツキが±15%以下で曲げ強度が15MPa以上の燃料電池セパレータ。
(2) カーボンを含む成形材料を複数のノズル孔から金型ゲートを通して金型キャビティに射出・充填する燃料電池セパレータの成形方法であって、複数のノズル孔から射出された成形材料同士を、該複数のノズル孔から射出された成形材料がノズル孔に対向する金型面に衝突する前に、互いに衝突させ微粒化させ、衝突後微粒化された成形材料を金型キャビティ内に充填する燃料電池セパレータの成形方法。
(3) 前記複数のノズル孔から射出された成形材料同士を、金型ゲート内または金型キャビティ内で、互いに衝突させる(2)記載の燃料電池セパレータの成形方法。
(4) 成形材料の溶融粘度が50Pa・s以上で、射出圧力が100MPa以上で射出成形を行う(2)記載の燃料電池セパレータの成形方法。
(5) 衝突後の成形材料の飛散方向が制御可能となるように、各ノズル孔から射出される成形材料の射出圧が制御可能である(2)記載の燃料電池セパレータの成形方法。
(6) ゲートとキャビティを有する金型と、前記ゲートに接続され成形材料を射出するノズルとを備えた燃料電池セパレータの成形装置であって、前記ノズルは成形材料を射出する複数のノズル孔を有しており、該複数のノズル孔の軸芯の延長線は、ノズルとノズルに対向する金型面との間で、互いに交差している燃料電池セパレータの成形装置。
(7) 前記ノズルの各ノズル孔の成形材料射出圧力が互いに独立に制御可能である(6)記載の燃料電池セパレータの成形装置。
【発明の効果】
【0006】
上記(1)の燃料電池セパレータによれば、カーボンセパレータであって、密度バラツキが±15%以下で曲げ強度が15MPa以上であるため、従来のカーボンセパレータが密度バラツキが約±50%で曲げ強度が10〜15MPaであったのに比べて、セパレータになった時に、材料密度差が少なく、したがって、強度も向上されている。上記(2)の燃料電池セパレータの製造方法で製造されたカーボンセパレータは、この密度バラツキ条件および曲げ強度条件を満足する。
上記(2)の燃料電池セパレータの成形方法によれば、成形材料を複数のノズル孔から金型ゲートを通して金型キャビティに射出・充填し、複数のノズル孔から射出された成形材料がノズル孔に対向する金型面に衝突する前に、互いに衝突されるようにしたので、衝突によって成形材料粒が微粒化し、この微粒化した成形材料が金型キャビティ内に充填されるため、成形後のセパレータの材料密度差は少なく、したがって、強度も向上されている。
上記(3)の燃料電池セパレータの成形方法によれば、複数のノズル孔から射出された成形材料同士を、金型ゲート内または金型キャビティ内で、互いに衝突させるので、すなわち、ノズルに対向する金型面の上流で衝突させるので、ノズルに対向する金型面に至った時の成形材料の各粒の質量と速度は、上流で衝突させない場合(従来)に比べて大幅に低減しており、ノズルに対向する金型面の、衝突する成形材料粒による削り取られは大幅に緩和する。これによって、従来のような、金型が劣化し、かつ、成形品に金型金属粉が混入して製品品質の低下を招く事態を抑制または防止することができる。
上記(4)の燃料電池セパレータの成形方法によれば、つぎの効果が得られる。従来は、ノズルに対向する金型面部位が削り取られるのを抑制するために、成形材料のカーボン配合量を60%以下(カーボンフィラーを少なくする)、粘度を50Pa・s以下(金型面に衝突した時に微粒化しやすい)とし、かつ、ノズル孔からの射出圧力を100MPa以下(射出速度が300mm/s以下にほぼ対応、速度を抑えることにより衝突の運動量を下げる)としていた。これに対し、本発明では、複数のノズル孔から射出された成形材料がノズル孔に対向する金型面に衝突する前に、互いに衝突されて金型面の削り取られが抑制されるので、成形材料の溶融粘度や射出圧力を従来に比べて上げることができる。上記(4)の燃料電池セパレータの成形方法では、成形材料の溶融粘度が50Pa・s以上で、射出圧力が100MPa以上で射出成形するようにしたので、溶融粘度を50Pa・s未満から50Pa・s以上に上げ、カーボン配合量を60%以上、望ましくは70%以上(従来は70%より小で、通常、60%以下)に上げることができる。これによって、セパレータの導電率をあげることができる。また、射出圧力を100MPa以上にすることにより射出速度を500mm/s以上(従来は300mm/s以下)にあげることができ、射出速度の向上により成形材料同士の衝突時の成形材料の微粒化をさらに促進でき、この微粒化の促進によって成形後の製品セパレータの材料密度差の低減、強度向上をさらにはかることができる。
上記(5)の燃料電池セパレータの成形方法によれば、各ノズル孔から射出される成形材料の射出圧が制御可能であるので、衝突後の成形材料の飛散方向が制御可能となり、流体流路やマニホールドのためにセル面内方向への均一な成形材料の飛散が困難なセパレータ射出成形において、微粒成形材料をほぼ均一にセパレータ形成用キャビティの全域に飛散させることに寄与できる。
上記(6)の燃料電池セパレータの成形装置によれば、ノズルは成形材料を射出する複数のノズル孔を有しており、複数のノズル孔の軸芯の延長線は、ノズルとノズルに対向する金型面との間で、互いに交差しているので、複数のノズル孔から射出された成形材料は、ノズルに対向する金型面に到達する前に複数のノズル孔から射出された成形材料同士が衝突して、微粒化される。この微粒化した成形材料が金型キャビティ内に充填されるため、成形後のセパレータの材料密度差は少なく、したがって、強度も向上されている。
上記(7)の燃料電池セパレータの成形装置によれば、ノズルの各ノズル孔の成形材料射出圧力が互いに独立に制御可能であるので、衝突後の成形材料の飛散方向が制御可能となり、流体流路やマニホールのためにセル面内方向への均一が成形材料の飛散が困難なセパレータ射出成形において、微粒成形材料をほぼ均一にセパレータ形成用キャビティの全域に飛散させることに寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の燃料電池セパレータ、およびその成形方法(製造方法)、ならびに成形装置(製造装置)を、図1〜図5を参照して説明する。
本発明の燃料電池セパレータが組み付けられる燃料電池は、たとえば固体高分子電解質型燃料電池10である。燃料電池10は、たとえば燃料電池自動車に搭載される。ただし、自動車以外に用いられてもよい。
【0008】
固体高分子電解質型燃料電池(セル)10は、図3〜図5に示すように、膜−電極アッセンブリ(MEA:Membrane-Electrode Assembly )とセパレータ18との積層体からなる。
膜−電極アッセンブリは、イオン交換膜からなる電解質膜11とこの電解質膜の一面に配置された触媒層からなる電極(アノード、燃料極)14および電解質膜の他面に配置された触媒層からなる電極(カソード、空気極)17とからなる。膜−電極アッセンブリとセパレータ18との間には、アノード側、カソード側にそれぞれ拡散層13、16が設けられる。
膜−電極アッセンブリとセパレータ18を重ねてセルモジュール19を構成し、セルモジュール19を積層してセル積層体とし、セル積層体のセル積層方向両端に、ターミナル20、インシュレータ21、エンドプレート22を配置し、両端のエンドプレート22をセル積層体の外側でセル積層方向に延びる締結部材(たとえば、テンションプレート24)にボルト・ナット25にて固定し、一端のエンドプレートに設けた調整ネジにてその内側に設けたバネを介してセル積層体にセル積層方向の締結荷重をかけ、燃料電池スタック23を構成する。
【0009】
セパレータ18には、発電領域において、アノード14に燃料ガス(水素)を供給するための燃料ガス流路27が形成され、カソード17に酸化ガス(酸素、通常は空気)を供給するための酸化ガス流路28が形成されている。また、セパレータ18には冷媒(通常、冷却水)を流すための冷媒流路26も形成されている。セパレータ18には、非発電領域において、燃料ガスマニホールド30、酸化ガスマニホールド31、冷媒マニホールド29が形成されている。燃料ガスマニホールド30は燃料ガス流路27と連通しており、酸化ガスマニホールド31は酸化ガス流路28と連通しており、冷媒マニホールド29は冷媒流路26と連通している。
燃料ガス、酸化ガス、冷媒は、セル内において互いにシールされている。各セルモジュール19のMEAを挟む2つのセパレータ18間は、第1のシール部材32によってシールされており、隣接するセルモジュール19同士の間は、第2のシール部材33によってシールされている。
【0010】
各セル10(1セルモジュールの場合は、セル10はセルモジュール19と同じになる)の、アノード14側では、水素を水素イオン(プロトン)と電子に変換する電離反応が行われ、水素イオンは電解質膜11中をカソード17側に移動し、カソード17側では酸素と水素イオンおよび電子(隣りのMEAのアノードで生成した電子がセパレータを通してくる、またはセル積層方向一端のセルのアノードで生成した電子が外部回路を通して他端のセルのカソードにくる)から水が生成され、次式にしたがって発電が行われる。
アノード側:H2 →2H+ +2e-
カソード側:2H+ +2e- +(1/2)O2 →H2
【0011】
セパレータ18は、カーボンセパレータ、メタルセパレータ、メタルセパレータと樹脂フレームとの組合せ、等からなるが、本発明では、セパレータ18は、カーボンセパレータ(以下、カーボンセパレータの符号も「18」とする)である。
カーボンセパレータ18は、カーボン(たとえば、鱗片状カーボン)と樹脂との混合物の成形体である。カーボンセパレータ18は、射出成形(流路成形用の凹凸をもつ一対の金型間に形成された金型キャビテイに、カーボンと樹脂の混合体からなる成形材料で樹脂部分が飴状に溶融されたものを、射出して固化させる成形方法)と、圧縮成形(カーボンと樹脂の混合体からなる成形材料で樹脂部分が軟化されたプレート状のものを、一対の金型で押圧し、金型に形成された流路の凹凸をプレートに転写して成形する成形方法)等があるが、本発明では、射出成形が対象である。
【0012】
カーボンセパレータ18には、導電性、スタック締結圧に耐える強度(曲げ強度)、ガスや水を透過させずにガス、水を分離する流体非透過性、成形性(複雑な形状のキャビティに飛散、流動して充填できる性質)、等が要求される。
【0013】
この要求を満足させるために、図1、図2に示すように、本発明の燃料電池セパレータ18は、射出成形品からなる燃料電池カーボンセパレータであって、密度バラツキが±15%以下で、かつ、曲げ強度が15MPa以上とされている。また、本発明の燃料電池カーボンセパレータ18のカーボン(カーボンフィラー、カーボンはたとえば鱗片状カーボン)の配合割合は60%以上、望ましくは70%以上、さらに望ましくは75%以上で、残りは樹脂(バインダー樹脂)である。これに対し、従来のカーボンセパレータは、密度バラツキが約±50%で、曲げ強度が10〜15MPaである。また、従来のカーボンセパレータのカーボンの配合割合は70%未満、通常、60%以下である。
【0014】
密度バラツキが±15%以下で曲げ強度が15MPa以上の条件は、燃料電池セパレータ18を、つぎに示す本発明の燃料電池セパレータの成形方法によって成形することによって、得られる。
本発明の燃料電池セパレータ18の成形方法は、カーボンを含む成形材料(カーボン配合割合が60%以上、望ましくは70%以上で残りが樹脂の成形材料で、樹脂が飴状の溶融状態にある材料)50をノズル51の複数のノズル孔52から金型ゲート53を通して金型キャビティ54に射出・充填する燃料電池セパレータ18の成形方法であって、複数のノズル孔52から射出された成形材料(ノズル孔52内では飴状で糸状であるが、ノズル孔52からゲート53内に射出された時の急激な圧力低下で糸状がちぎれて粒子状になっている)50同士を、複数のノズル孔52から射出された成形材料50がノズル51に対向する金型面55に衝突する前に、互いに衝突させ微粒化させ、衝突後微粒化された成形材料50を金型キャビティ54内に充填する燃料電池セパレータの成形方法である。
この微粒化によって、セパレータ成形品段階で、密度バラツキが±15%以下で、かつ、曲げ強度が15MPa以上となる。
これに対し、従来は、成形材料(カーボン配合割合が70%未満、通常、60%以下で残りが樹脂の成形材料で、樹脂が飴状の溶融状態にある材料)を単一のノズル孔から射出され、糸状または粒子状の成形材料がノズルに対向する金型面に当たって、微粒化され(ただし、本発明ほどには微粒化されない)、本発明の微粒子より大きく密度バラツキも大きい成形材粒子がキャビティ内に充填される。従来法では、セパレータ成形品段階で、密度バラツキが±50%以上で、かつ、曲げ強度が10〜15MPaとなる。
【0015】
複数のノズル孔52から射出された成形材料同士を、金型ゲート53内または金型キャビティ54内で、互いに衝突させる。成形材料同士の衝突によって微粒化され(衝突前に粒子であったものはさらに微粒化され)、かつ成形材料同士の衝突によって速度が低下した、衝突後の成形材料粒子または粉末は、成形材料同士の衝突によって飛散方向を変えて飛散し、一部はノズル金型面55に当たった後、金型キャビティ54内に充填され、カーボンセパレータ18となる。ついで、一対の金型56、57を型開きして、製品セパレータ18を金型から取り出す。
これに対し、従来は、単一のノズル孔から射出された成形材料は、一部は糸状に、あるいは一部は粒子状になって、ノズル対向金型面に当たり、金型面に衝突したことで微粒化され、飛散して金型キャビティに充填される。
【0016】
本発明の燃料電池セパレータの成形方法では、ノズル51から射出される前の成形材料50の溶融粘度が50Pa・s以上で、ノズル51からの射出圧力が100MPa以上で射出成形を行う。射出圧力が100MPa以上に対応する射出速度は約500mm/s以上である。図2は粘度と固体粉末配合量との関係を示すもので、配合割合が60%以上では粘度が50Pa・s以上である必要がある。
これに対し、従来は、射出速度が大きすぎると成形材料によってノズル対向金型面が削られるので、それを抑制するために、射出圧力を100MPa以下(射出速度でいうと約300mm/s以下となる)としていた。また、射出圧力が100MPa以下で射出可能とするために、成形材料の溶融粘度を50Pa・s未満とし、カーボン配合量を70%未満、通常、60%以下としていた。
【0017】
燃料電池セパレータの成形方法において、衝突後の成形材料50の飛散方向が制御可能となるように、各ノズル孔52から射出される成形材料50の射出圧を制御可能としてもよい。セパレータ18が四角形で中央にゲート53を配置した場合ゲートからセパレータ端部までの距離が、コーナ部と辺部とで異なること、また、金型にはセパレータの流体流路に対応する凹凸が形成されているため、成形材料粒子の飛散方向によって飛散容易性が異なること、などのために、キャビティ内に成形材料粒子を均一に飛散させることが難しい。そのため、各ノズル孔52から射出される成形材料50の射出圧を制御することにより、成形材料粒子の飛散方向をある程度制御できるようになり、キャビティ内に成形材料粒子を均一に飛散させるのに役立つ。
【0018】
本発明の燃料電池セパレータの成形方法を実施する本発明の燃料電池セパレータの成形装置は、ゲート(金型ゲート)53とキャビティ(金型キャビティ)54を有する一対の金型56、57と、ゲート53に接続され成形材料50を射出するノズル(射出ノズル)51とを備えた燃料電池セパレータの成形装置であって、ノズル51は成形材料50を射出する複数のノズル孔52を有しており、複数のノズル孔52の軸芯の延長線は、ノズル51とノズル51に対向する金型面55との間で、互いに交差している燃料電池セパレータの成形装置からなる。
【0019】
ノズル51は溶融粘度が50Pa・s以上の成形材料を射出圧力が100MPa以上で射出可能である。
ノズル51の各ノズル孔52の成形材料射出圧力が互いに独立に制御可能である。これによって、衝突後の成形材料50の飛散方向の方向性を、制御することが可能となっている。
【0020】
つぎに、本発明の作用・効果を説明する。
まず、本発明の燃料電池セパレータ18では、製品カーボンセパレータにおいて、製造過程で材料が微粒化されているので、製品となった段階での、密度バラツキが±5%以下で曲げ強度が30MPa以上となる。その結果、従来のカーボンセパレータが密度バラツキが約±50%で曲げ強度が10〜20MPaであったのに比べて、本発明の燃料電池セパレータ18は製品セパレータの材料密度差が少なく、したがって、曲げ強度も向上されている。
セパレータ18は20cm×25cm以上の、厚さが2mm程度のほぼ四角形のカーボン板で、ガス流路、冷却水流路の凹凸が密集して形成されており、スタック締結荷重を受け、シール部に曲げ荷重を受けやすいため、厳しい強度が要求される他、割れが生じて水素とエアとが混合すると燃料電池が成立しなくなるため、厳しい流体分離能力を要求される。また、いったん割れが生じて、割れ無し品と交換するには、スタックの組み直しが必要となり、その作業は大変なものとなる。そのような条件下において、曲げ強度が従来の10〜20MPaから約2倍の30MPa以上に向上されることは、安全性、コスト、耐久性などの点から、非常に大きな効果がある。
本発明の燃料電池セパレータの製造方法で製造されたカーボンセパレータ18は、上記の密度バラツキが±5%以下で曲げ強度が30MPa以上という密度バラツキ条件および曲げ強度条件を満足する。
【0021】
本発明の燃料電池セパレータの成形方法では、成形材料50を複数のノズル孔52から金型ゲート53を通して金型キャビティ54内に射出・充填し、複数のノズル孔52から射出された成形材料50がノズル孔52に対向する金型面55に衝突する前に、互いに衝突させられるようにしたので、成形材料50同士の衝突によって成形材料粒が微粒化し、この微粒化した成形材料が金型キャビティ54内に充填されるため、成形後のセパレータ18は、材料密度差は少なく、したがって、強度も向上されている。材料密度差が大きいと、弱い所から破損するので、部分的に強い所があっても、弱い所で破損すると全体として使えなくなるので、結局は弱いということになる。
【0022】
また、複数のノズル孔52から射出された成形材料同士を、金型ゲート53内または金型キャビティ54内で、互いに衝突させるので、すなわち、ノズル51に対向する金型面55の上流で衝突させるので、ノズル51に対向する金型面55に至った時の成形材料50の各粒の質量と速度は、上流で衝突させない場合(従来)に比べて大幅に低減しており、ノズル51に対向する金型面55の、衝突する成形材料粒による削り取られは大幅に緩和する。これによって、従来のような、金型が劣化し、かつ、成形品に金型金属粉が混入して製品セパレータの品質の低下を招くことを抑制または防止することができる。
【0023】
本発明の燃料電池セパレータの成形方法によれば、さらに、つぎの効果が得られる。
従来は、ノズルに対向する金型面部位が削り取られるのを抑制するために、成形材料のカーボン配合量を70%未満、通常、60%以下(カーボンフィラーを少なくして衝突する材料を柔らかくする)、粘度を50Pa・s以下(金型面に衝突した時に微粒化しやすい)とし、かつ、ノズル孔からの射出圧力を100MPa以下(射出速度が300mm/s以下にほぼ対応、速度を抑えることにより衝突の運動量を下げる)としていた。
これに対し、本発明では、複数のノズル孔52から射出された成形材料50がノズル孔52に対向する金型面55に衝突する前に、成形材料同士が互いに衝突されて金型面55の削り取られが抑制されるので、成形材料50の溶融粘度や射出圧力を従来に比べて上げることができる。より詳しくは、本発明の燃料電池セパレータ18の成形方法では、成形材料50の溶融粘度が50Pa・s以上で、射出圧力が100MPa以上で射出成形するようにしたので、溶融粘度を50Pa・s未満から50Pa・s以上に上げ、カーボン配合量を60%以上、望ましくは70%以上(従来は70%未満、通常、60%以下)に上げることができる。これによって、セパレータ18の導電率をあげることができる。また、射出圧力を100MPa以上にすることにより射出速度を500mm/s以上(従来は300mm/s以下)にあげることができ、射出速度の向上により成形材料同士の衝突時の成形材料50の微粒化をさらに促進でき、この微粒化の促進によって成形後の製品セパレータ18の材料密度差の低減、強度向上をさらにはかることができる。
【0024】
本発明の燃料電池セパレータの成形方法では、各ノズル孔51から射出される成形材料50の射出圧が制御可能であるので、成形材料同士の衝突後の成形材料50の飛散方向が制御可能となり、流体流路26、27、28やマニホールド29、30、31のためにセル面内方向への均一な成形材料の飛散が困難なセパレータ射出成形において、微粒成形材料50をほぼ均一にセパレータ18形成用キャビティ54の全域に飛散させることに寄与できる。
【0025】
本発明の燃料電池セパレータの成形装置では、ノズル51は成形材料50を射出する複数のノズル孔52を有しており、複数のノズル孔52の軸芯の延長線は、ノズル51とノズルに対向する金型面55との間で、互いに交差しているので、複数のノズル孔52から射出された成形材料50は、ノズル51に対向する金型面55に到達する前に複数のノズル孔52から射出された成形材料50同士が衝突して、微粒化される(従来の金型面に当たって微粒化されるものよりも微粒化が促進されている)。この微粒化した成形材料50が金型キャビティ54内に充填されるため、成形後の製品セパレータ18の材料密度差は少なく、したがって、強度(曲げ強度)も向上されている。
成形材料の微粒化を促進させる構造としては、ノズル径を小さくしたり、ノズル先端ゲート部にノズルから噴出してきた材料を衝突させる障害物を設けたり、ノズルを螺旋状にして成形材料を渦巻き状に噴出させる構造、等があるが、噴出材料の粘度が高いので、ノズルおよびその周辺に詰まりを発生させるなどの問題が生じやすい。本発明の成形装置では詰まりが生じない。
【0026】
また、ノズル51の各ノズル孔52の成形材料射出圧力が互いに独立に制御可能とした場合には、衝突後の成形材料50の飛散方向がある程度制御可能となり、流体流路26、27、28やマニホールド29、30、31のためにセル面内方向への均一な成形材料の飛散が困難なセパレータ射出成形において、微粒成形材料50をほぼ均一にセパレータ18形成用キャビティ54の全域に飛散させることに寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の燃料電池セパレータの成形方法を実施する成形装置の概略断面図である。
【図2】粘度と固体粉末配合割合(%)との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の燃料電池セパレータを組み付けた燃料電池スタックの側面図である。
【図4】図3の一部拡大断面図である。
【図5】図3のセルの正面図である。
【図6】従来の燃料電池セパレータの成形方法を実施する成形装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 (固体高分子電解質型)燃料電池
11 電解質膜
13、16 拡散層
14 アノード
17 カソード
18 セパレータ
19 セル
20 ターミナル
21 インシュレータ
22 エンドプレート
23 燃料電池スタック
24 締結部材(テンションプレート)
25 ボルト・ナット
26 冷媒流路(流体流路)
27 燃料ガス流路(流体流路)
28 酸化ガス流路(流体流路)
29 冷媒マニホールド(流体マニホールド)
30 燃料ガスマニホールド(流体マニホールド)
31 酸化ガスマニホールド(流体マニホールド)
32 ガスケット
33 接着剤
50 成形材料
51 ノズル
52 ノズル孔
53 金型ゲート
54 金型キャビティ
55 金型面
56、57 一対の金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形品からなる燃料電池カーボンセパレータであって、密度バラツキが±15%以下で曲げ強度が15MPa以上の燃料電池セパレータ。
【請求項2】
カーボンを含む成形材料を複数のノズル孔から金型ゲートを通して金型キャビティに射出・充填する燃料電池セパレータの成形方法であって、複数のノズル孔から射出された成形材料同士を、該複数のノズル孔から射出された成形材料がノズル孔に対向する金型面に衝突する前に、互いに衝突させ微粒化させ、衝突後微粒化された成形材料を金型キャビティ内に充填する燃料電池セパレータの成形方法。
【請求項3】
前記複数のノズル孔から射出された成形材料同士を、金型ゲート内または金型キャビティ内で、互いに衝突させる請求項2記載の燃料電池セパレータの成形方法。
【請求項4】
成形材料の溶融粘度が50Pa・s以上で、射出圧力が100MPa以上で射出成形を行う請求項2記載の燃料電池セパレータの成形方法。
【請求項5】
衝突後の成形材料の飛散方向が制御可能となるように、各ノズル孔から射出される成形材料の射出圧が制御可能である請求項2記載の燃料電池セパレータの成形方法。
【請求項6】
ゲートとキャビティを有する金型と、前記ゲートに接続され成形材料を射出するノズルとを備えた燃料電池セパレータの成形装置であって、前記ノズルは成形材料を射出する複数のノズル孔を有しており、該複数のノズル孔の軸芯の延長線は、ノズルとノズルに対向する金型面との間で、互いに交差している燃料電池セパレータの成形装置。
【請求項7】
前記ノズルの各ノズル孔の成形材料射出圧力が互いに独立に制御可能である請求項6記載の燃料電池セパレータの成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−216284(P2006−216284A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25800(P2005−25800)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】