説明

燃焼エンジン内のNOx排出推定のための方法及び装置

本発明は、NOx排出を制御するためのシステムを供し、該制御は、NOxセンサ(7)から得られる第一測定値と、NOx推定手段から推定される第二の値との間の差異によってもたらされる誤差を算出することに基づくものである。前記センサ(7)は、適応ループで用いることができ、開放ループ又は閉鎖ループのEGR制御システムが適用されるが、(EGR制御手段からの)期待NOx排出が、定常状態でNOxセンサによって測定される排出と一致するように適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼エンジン内のNOx排出推定のための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EGRの最も重要な目標の一つは、NOx排出を減らすことである。
【0003】
今日、多くのエンジンには、例えばSCR(選択的接触還元)触媒又はNOx吸蔵還元触媒のようなNOx後処理システムが備わる。これらのシステムのNOx変換のパフォーマンスの制御は、上流のNOx濃度の推定された又は測定された値に依存する。従って、NOxセンサは、しばしば後処理システムの吸入部に載置され、該吸入部はエンジンの排出部に対応する。
【0004】
燃焼エンジンのNOx排出は、排気ガス再循環(EGR)を用いることにより大きく減少させることができる。従って、NOx排出は、EGR率の変化にとても敏感に反応するが、ここでEGR率とは、再循環される排気ガスと燃焼エンジンのシリンダに注入される総ガスとの質量比である。排出目標によれば、20%から60%のEGR率が目的とされ、それは、NOx減少率を3倍から10倍に導く。
【0005】
EGRを適用する主要な目標はNOxを減少させることなので、NOx測定装置に基づく測定コンセプトは、単純である。
【0006】
従って、NOxセンサが、EGR制御のためのフィードバック信号として用いられている。
【0007】
しかし、現在利用できるNOxセンサは、長い反応時間を示し、該反応時間は、典型的には500−1000msの時間遅延と、約500−1500msの時定数である。付け加えて、過渡動作の際の精度は、センサ測定の原理を原因として限定される。従って、EGRフィードバック・ループにおけるセンサ信号の直接使用、又は、後処理システムのための入力量としてのセンサ信号の直接使用は、しばしば、満足できない結果を与える。
【0008】
EGR制御のためには、センサの性能が貧弱であると、効果的で信頼の出来る、そして、十分速い制御が、不可能ではないにしてもとても困難な課題となる。例えセンサが、後処理システムの上流のNOx濃度の測定にのみ用いられるとしても、当該センサの遅いダイナミクスは、信頼性が高く堅牢なNOx変換効率の維持にとって厳しい問題を導くであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の主要な目的は、燃焼エンジン内のNOx排出の推定のための方法及び装置を供することであって、それは上記の課題/欠点を克服するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に従えば、当該方法は、速度が速いが潜在的に不正確なNOx排出モデルの補正を供し、該補正は、NOxセンサから得られる第一測定値と、NOx推定から得られる第二推定値との差異によるものである。
【0011】
好ましくは、当該推定は、適応フィルタによって補正され、該適応フィルタは、例えば、積算器、適応曲線又は適応マップ、又は、同様ないかなる要素又は手続でもよい。
【0012】
そのような誤差は、有利なことに、EGRを利用するエンジンの場合はEGR率を調整するために、又は、EGRを持たないエンジンの場合は、NOx推定の調整のために用いられる。
【0013】
当該方法を実装する装置は、適応ループにおいて用いられるNOxセンサを備え、開放ループ又は閉鎖ループのEGR制御システムは、(EGR制御手段からの)期待NOx排出が、定常状態のNOxセンサで測定されるNOx排出と一致するように適応される。従って、二つの態様が考察される:すなわち、第一に、仮にEGR率の測定のための何らかのセンサが存在するなら、この測定されたEGR率が補正される態様であり;第二に、仮に当該コンセプトが開放ループのEGR制御手段で用いられるなら、指示されるEGR率又はEGRアクチュエータの位置すら調整される態様である。
【0014】
EGRを持たないエンジンにとって、当該方法を行う装置はNOx推定モデルを補正し、NOx推定モデルは、例えば燃焼モデルに基づいたものであり、該補正は、該モデルによって推定される定常状態のNOx濃度が、センサから得られる濃度に一致するようにするものである。
【0015】
これらの及び更なる目的は、付随する請求項の中で述べられる装置及び方法によって実現され、該請求項は、本記述に不可欠な部分を構成する。
【0016】
本発明は、以下に詳述する記載から十全に明白となるが、それは、単なる実例であって非限定的な例によるものであり、該記載は、以下に付随する図面を参照して読まれるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1が示すのは、EGR測定装置を伴う閉鎖ループのEGR制御設定のための本発明に従った制御方式の図である。
【図2】図2が示すのは、いかなるEGR測定装置も伴わない開放ループのEGR制御設定の場合のNOxセンサを用いる制御方式の図である。
【図3】図3が示すのは、EGRを伴わないエンジンのための制御方式の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
複数の図面における同一の参照番号及び文字は、同一の又は機能的に等しい部分を意図している。
【0019】
NOx排出の推定のための有効なモデルは、複数の数値を考慮しており、該数値はNOxの形成に影響を与えるものである。これらの数値は、注入される燃料、エンジン速度、ブースト圧、ブースト空気温度、レール圧力、注入開始角、EGR率、又はその他であってよく、それらは炎の温度及び燃焼に影響を与える。
【0020】
添付された図面に従えば、ブロック5、5’、及び5”は、それぞれの図面において、前記数値/パラメータ、例えば注入される燃料、エンジン速度、その他・・・から成る入力ブロックである。
【0021】
仮に、EGR測定装置、又は、EGRをEGR率又は質量流量によって算出するための何らかのセンサのコンセプトが存在するなら、EGR率又は質量流量の測定値が、NOx推定において利用される。EGR測定値が存在しない場合は、EGR設定点又は何らかの計算されたEGR率がNOx推定において考慮される。
【0022】
図1が示すのは、EGR測定を備えるEGR閉鎖ループ制御コンセプトが存在する場合の適応コンセプトの略図である。
【0023】
ブロック3が表すのは、第一加算ノードの入力として、及び、ブロック4のためのフィード・フォワード・パスとして用いられるEGR設定点であって、前記ブロック4が表すのは、EGR制御装置である。前記第一加算ノードにおいて、前記入力からブロック2の出力が差し引かれ、該ブロック2は、EGR測定補正ブロックを表し、EGR測定はブロック1から来るものである。前記第一加算ノードの出力は、前記EGR制御ブロック4のための一つの他の入力である。
【0024】
前記ブロック2は、適応ブロック8の出力に基づいて動作し、該適応ブロック8は、例えば積算器、適応曲線又は適応マップ又はいかなる類似の要素又は手続でもよい。
【0025】
そのような適応ブロック8の入力は、NOxセンサ7から得られる第一測定値と、NOx推定ブロック6から得られる第二推定値との間の差分であって、前記ブロック6は、ブロック5によって表される、前記エンジンの複数の数値/パラメータを入力として有し、更に、前記EGR測定補正ブロック2の出力によって表される、前記エンジンの複数の数値/パラメータも入力として有する。
【0026】
推定手段6は、周知の方法によって実装することができ、例えば、Alexander Schilling “Model-Based Detection and Isolation of Faults in the Air and Fuel Paths of Common-rail DI Diesel Engines Equipped with a Lambda and a Nitrogen Oxides Sensor”, PhD thesis, Diss. ETH No.17764, ETH Zurich, Switzerland, 2008による開示に従った方法によって実装することができる。
【0027】
閉鎖ループEGR制御コンセプトの場合は、一つの実現方法は、測定EGR率又はEGR質量流量を適応方法で補正することであって、該適応方法は、測定されたNOx濃度と推定されるNOx濃度との間の差分を利用する。EGR測定は、この差分すなわち誤差が、ゼロに収束されるように補正される。当該適応方法は、積算器、適応曲線又は適応マップ、又は、いかなる類似の要素又は手続をも備えることができる。EGRの補正は、加算的(オフセット)でも、乗算的(補正率)でも可能であり、又は、いかなる他の代数的演算、補正曲線又は補正マップを用いてもよい。
【0028】
前記制御手段は、前記測定されてから補正されたEGR率又はEGR質量流量を前記設定点に強制するので、結局、前記設定点に一致する値が、NOx推定手段に送られる。従って、制御手段による収束の後、NOx推定手段は、その他のすべてのエンジンの数値が同じならば、常に同一値を算出し、従って、前記誤差はゼロとなる。前記適応方法は、前期推定NOx値を測定値に強制するので、推定されたNOxが表すのは、収束後の測定値である。従って、EGR制御手段は、NOx制御手段としてみなすことができる。NOx濃度は、EGRラインの外乱(EGR冷却器の付着物、生産物のバラつき、EGRバルブの付着物等)又はEGR測定原理(センサ・ドリフト等)があっても維持される。
【0029】
図2が示すのは、EGRフィード・フォワード制御手段を有し、EGR測定が存在しない適応コンセプトである。
【0030】
図2によれば、ブロック3’が表わすのは、EGRフィード・フォワード制御ブロック4’の一つの入力として用いられるEGR設定点である。前記EGRフィード・フォワード制御ブロック4’の一つの他の入力は、適応ブロック8’の出力であって、該適応ブロック8’は例えば、積算器等である。当該適応ブロック8’の入力は、図1と同様に、NOxセンサ7’から得られる第一測定値と、NOx推定ブロック6’から得られる第二推定値との間の差分であって、該ブロック6’は、一つの第一入力として、ブロック5’によって表される前記エンジン数値/パラメータを有し、一つの第二入力として前記EGR設定点ブロック3’の出力を有する。
【0031】
推定手段6’は、推定手段6と同様の方法で実装することができる。
【0032】
図2に描かれる開放ループEGR制御コンセプトの場合において、一つの実現手段は、適応方法によってEGRアクチュエータの位置を直接補正することであり、該方法は、測定された及び推定されたNOx濃度の間の差分を利用する。EGRアクチュエータの位置は、この差分すなわちこの誤差が、ゼロに収束するように補正される。当該適応手段は、積算器、適応曲線又は適応マップ、又は、いかなる類似の要素または手続によっても実行することができる。EGRアクチュエータの位置の補正は、加算的(オフセット)でも、乗算的(補正率)でも可能であり、又は、いかなる他の代数的演算、補正曲線又は補正マップを用いてもよい。
【0033】
前記EGR設定点は、NOx推定手段に送られる。従って、NOx推定手段は、仮に他のエンジン・パラメータの全てが同一であれば、同一値を算出する。前記適応方法は、推定NOx値を測定値に強制するので、推定NOxは、収束の後の測定値を表す。従って、EGR制御手段は、NOx制御手段としてみなすことができる。NOx濃度はEGRラインの外乱又はドリフト効果(EGR冷却器の付着物、生産物のバラつき、EGRバルブの付着物等)があっても維持される。
【0034】
図3が示すのは、EGRが存在しないエンジンのための適応方法の略図である。ここでは単純に、推定されるNOxは、定常状態の測定されたNOxと一致するように適応されている。このことは、測定装置の定常状態の正確性と、NOx推定手段の速度の速い過渡応答を保証する。当該適応は、単純な積算器(遅いIコントローラ(I−controller))、適応曲線又は適応マップ、又はいかなる類似の適応コンセプトを用いても実現することができる。
【0035】
図3によれば、ブロック6”で表されるNOx推定手段は、入力として、ブロック5”によって表される前記エンジン・パラメータ/数値と、NOx適応8”の出力との双方を入力として受け取り、前記NOx適応8”はすなわち積算器等である。そして、前記NOx適応8”の入力は、図1及び図2と同様に、NOxセンサ7”から得られる第一測定値と、前記NOx推定ブロック6”から得られる第二推定値との差分である。
【0036】
推定手段6”は、推定手段6と同様の方法で実装することができる。
【0037】
有利なことに、当該EGR測定は、EGR率又はEGR質量流量の測定を意味するが、同一の方法を、例えば、EGR制御を用いた空気の測定及び制御又は、例えば、燃料注入(例えば、レール圧、注入開始角、パイロット噴射等)のような、NOxに影響を与える如何なる設定にも適用することが可能である。更に、EGR測定の代わりに、EGR設定点を補正することも可能である。
【0038】
本発明は、コンピュータ・プログラムにおいて有利に実装することが可能であり、該コンピュータ・プログラムは、当該プログラムがコンピュータ上で実行される際、当該方法の一つ以上のステップを実行するためのプログラム・コード手段を備える。このような理由で、本発明は、当該コンピュータ・プログラム及びコンピュータ読取り可能な記録媒体も対象とし、該コンピュータ読取り可能な記録媒体は記録されたメッセージを備え、当該コンピュータ読取り可能な記録媒体はプログラム・コード手段を備え、該プログラム・コード手段は、当該プログラムがコンピュータ上で実行される際、当該方法の一つ以上のステップを実行するためのものである。
【0039】
主題となる発明の、多くの変更、修正、変化、及び他の利用や適用は、当業者にとって、その好適実施例を開示する当該明細書及び付随する図面について検討した後、明白となるであろう。そのような変更、修正、変化、及び他の利用や適用の全ては、本発明の精神や範囲を離れることはないが、本発明によって対象とされるものとみなされる。
【0040】
更なる実施の詳細は述べられないが、それは、当業者であれば上記記述の教示を根幹とする発明を実行することが可能だからである。
【符号の説明】
【0041】
1 EGR測定
2 EGR測定補正ブロック
3 EGR設定点
3’EGR設定点
4 EGR制御装置
4’EGRフィード・フォワード制御ブロック
5 入力ブロック
5’入力ブロック
5”入力ブロック
6 NOx推定ブロック
6’ 推定手段
6” NOx推定手段
7 NOxセンサ
7’ NOxセンサ
7” NOxセンサ
8 適応ブロック
8’ 適応ブロック
8” NOx適応

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の燃焼エンジンのNOx排出を推定する方法において、前記車両はNOx検知手段(7)を備え、前記方法は、前記NOx検知手段(7)から得られる第一測定値と第二推定NOx値との間の差分によって与えられる誤差値によって、NOx排出を制御するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項2】
エンジン内の前記誤差値によってEGR率を制御するステップを備え、該ステップは、前記EGR率、又はEGR質量流量、又は新鮮な空気の質量流量の測定又は算出のための複数のステップを有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
EGR測定装置を持たないエンジンにおいて、NOx推定を調整するステップを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記誤差値が適応フィルタによって除去されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記適応フィルタが、積算器、及び/又は適応曲線、及び/又は適応マップであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記適応フィルタの出力が、EGR設定点である参照値から減算され、その減算の結果がEGR制御の一つの入力であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記適応フィルタの出力が、EGRフィード・フォワード制御の一つの入力であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記誤差値が、前記NOx推定を実行するために、フィードバックされることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項9】
車両の燃焼エンジンにおけるNOx排出を推定する装置において、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法を実行する手段を備えることを特徴とする装置。
【請求項10】
燃焼エンジン内のEGRシステムを制御する装置において、請求項1、2、4、5、6、及び7のいずれか1項に記載の方法を実行する手段を備えることを特徴とする装置。
【請求項11】
コンピュータ・プログラムにおいて、前記プログラムがコンピュータ上で実行される際、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の全てのステップを実行するよう適合されているコンピュータ・プログラム・コード手段を備えることを特徴とする、コンピュータ・プログラム。
【請求項12】
自身に記録されるプログラムを有するコンピュータ読取り可能な記録媒体において、前記コンピュータ読取り可能な記録媒体は、前記プログラムがコンピュータ上で実行される際、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の全てのステップを実行するよう適合されているコンピュータ・プログラム・コード手段を備えることを特徴とする、コンピュータ読取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−515896(P2013−515896A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545320(P2012−545320)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070472
【国際公開番号】WO2011/076838
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(507304915)エフピーティ モトーレンフォアシュンク アクチェンゲゼルシャフト (10)
【Fターム(参考)】