説明

物体検出装置

【課題】物体情報を格納する際の優先順位を設定することにより、物体検出処理を適切かつ迅速に行える物体検出装置を提供する。
【解決手段】車両の周囲の物体を検出する物体検出装置1であって、物体の車両に対する相対距離及び相対速度についての物体情報を取得し、取得された複数の物体情報を格納するに際し、車両に対し離反する離反移動物の物体情報に対し離反移動物以外の物体の物体情報を優先的に格納する。これにより、制御システムに必要となる物体情報を優先的に格納することができる。このため、制御システムに必要な物体情報を取りこぼすことを低減でき、物体検出処理を適切かつ迅速に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設置される物体検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、物体検出を行う物体検出装置として、特開平6−150195号公報に記載されるように、レーダなどの物体検知器を用いて物体の位置を検出する物体検出装置が知られている。この装置は、物体が存在している確信度が所定値未満の物体に関する記憶内容を消去している。
【特許文献1】特開平6−150195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような物体検出装置にあっては、物体検出を迅速に行うことが困難な場合がある。例えば、物体検出を行うに際し多数の物体が一度に検知された場合、検知された物体の情報を全て記憶し、その物体の情報に基づいて物体検出処理を行うとすると、多大な処理を要し、物体検出時間が長くなる。このため、物体検出の更新周期が長くなり、物体検出を迅速に行えなくなってしまう。
【0004】
そこで本発明は、物体情報を格納する際の優先順位を設定することにより、物体検出処理を適切かつ迅速に行える物体検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明に係る物体検出装置は、車両の周囲の物体を検出する物体検出装置において、前記物体の前記車両に対する相対距離及び相対速度についての物体情報を取得する情報取得手段と、前記情報取得手段により取得された複数の物体情報を格納するものであって、前記車両に対し離反する離反移動物の物体情報に対し離反移動物以外の物体の物体情報を優先的に格納する情報格納手段とを備えて構成されている。
【0006】
この発明によれば、離反移動物以外の物体、すなわち接近移動物及び停止物体の物体情報を離反移動物の物体情報より優先して格納することにより、制御システムに必要となる物体情報を優先的に格納することができる。このため、制御システムに必要な物体情報を取りこぼすことを低減でき、物体検出処理を適切かつ迅速に行える。
【0007】
また本発明に係る物体検出装置において、前記情報格納手段は、離反移動物以外の物体の物体情報について確定した物体情報を仮確定の物体情報より優先的に格納することが好ましい。
【0008】
この発明によれば、離反移動物以外の物体の物体情報について確定した物体情報を仮確定の物体情報より優先的に格納することにより、制御システムに必要となる物体情報を優先的に格納することができる。このため、制御システムに必要な物体情報を取りこぼすことを低減でき、物体検出処理を適切かつ迅速に行える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、物体情報を格納する際の優先順位を設定することにより、物体検出処理を適切かつ迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は本発明の実施形態に係る物体検出装置の構成概要図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る物体検出装置1は、車両2に設置されるレーダ3、4及び5により車両の周囲の物体(物標)を検出する装置であり、例えば衝突を防止するプリクラッシュブレーキアシストシステム、プリクラッシュシートベルトシステム、渋滞時の先行車両追従のオートクルーズコントールシステムなどの物体検出手段として用いられる。
【0013】
本実施形態に係る物体検出装置1のレーダ3、4は、車両2の前側方を検知する物体検知手段として機能するものであって、車両2の前後方向に対し交差する方向の検知中心軸を有し、その検知中心軸の方向を中心に所定の角度範囲で検知を行う。例えば、レーダ3は、車両2の左前部に取り付けられ、車両2の左斜め前方を検知中心軸の方向として設置され、車両2の左斜め前方の領域をセンシングしている。また、レーダ4は、車両2の右前部に取り付けられ、車両2の右斜め前方を検知中心軸の方向として設置され、車両2の右斜め前方の領域をセンシングしている。
【0014】
レーダ3、4としては、例えばミリ波レーダが用いられ、好ましくはFM−CW方式のミリ波レーダが用いられる。レーダ3、4は、検知領域に所定の周波数の電波を発信し、物体などにより反射する観測波を受信する。この受信信号を信号解析することにより、物体の車両2に対する相対速度、車両2からの距離を検出することができる。
【0015】
レーダ5は、車両2の前方を検知する物体検知手段として機能するものであって、車両2の前方を検知中心方向とし、その検知中心軸の方向を中心に所定の角度範囲を検知している。例えば、レーダ5は、車両2の前部中央位置に取り付けられ、車両2の前方を検知方向として設置され、車両2の前方領域をセンシングしている。
【0016】
このレーダ5としては、例えばミリ波レーダが用いられ、好ましくはFM−CW方式のミリ波レーダが用いられる。レーダ5は、検知領域に所定の周波数の電波を発信し、物体などにより反射する観測波を受信する。この受信信号を信号解析することにより、物体の車両2に対する相対速度、車両2からの距離を検出することができる。
【0017】
レーダ3、4は、レーダ5と同様な範囲の検知領域を検知できるものを用いてもよいが、レーダ5より検知距離の短いものを用いてもよい。この場合であっても、他車の側方からの接近を十分に検知することができ、レーダ3、4の作動時の消費電力を低く抑えることができる。
【0018】
これらのレーダ3〜5は、車両周囲にある物体の車両に対する相対距離及び相対速度を取得することができ、物体情報取得手段として機能する。なお、本実施形態では、三つのレーダ3〜5を備える場合について説明するが、レーダ3、4又はレーダ5のみを備えるものであってもよい。
【0019】
物体検出装置1は、ECU(Electronic ControlUnit)6を備えている。ECU6は、物体検出装置1の装置全体の制御を行うものであり、例えばCPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されている。
【0020】
ECU6は、レーダ3、4及び5と接続され、それぞれの検知信号を入力する。そして、ECU6は、これらの検知信号の信号処理を行い、検知領域にある物体等の相対速度、車両2までの距離を演算する。その際、ECU6は、検知した物体に対しトラッキングを行い、所定の回数、時間など継続して検知されるものについて実在する物体として認識する。
【0021】
このとき、ECU6は、レーダ3〜5により取得された複数の物体情報を格納する情報格納手段として機能し、取得した物体の相対距離、相対速度などの物体情報を優先順位に従って格納し、物体検出処理の優先順位を設定する。
【0022】
物体検出装置1には、車速センサ7が備えられている。車速センサ7は、車両2の走行速度を検出する車速検出手段として機能するものであり、例えば車輪速センサが用いられる。車速センサ7は、ECU6に接続され、検出信号をECU6に入力する。
【0023】
また、物体検出装置1には、報知部8を設けることが好ましい。報知部8は、車両2に接近する物体を検知した場合に、そのことを車両2の運転者に報知する報知手段として機能するものである。この報知部8としては、運転者に物体接近を報知できるものであればいずれのものでもよく、例えばランプ点灯、LED点灯、液晶表示など視覚を通じて故障発生を報知するもの、ブザー、音声などにより聴覚を通じて故障発生を報知するものなどが用いられる。報知部8は、ECU6と接続され、ECU6から報知指示信号が出力された際に報知動作を行う。
【0024】
次に、本実施形態に係る物体検出装置1の動作について説明する。
【0025】
図2は本実施形態に係る物体検出装置1の物体情報格納処理を示すフローチャートである。この図2の制御処理は、例えばECU6によって繰り返し実行され、レーダ3〜5の検知信号を取得するごとに行われるものである。
【0026】
まず、図1において、本実施形態に係る物体検出装置1は、レーダ5から車両の前方の方向に送信波を送信し、物体で反射してくる反射波を受信して物体までの距離、物体の相対速度を検出する。例えば、レーダ5の送信波の周波数を上昇、下降させ、送信波と反射波をミキシングしてビート信号を抽出し、このビート信号における上昇区間のビート周波数fbu、下降区間のビート周波数fbdを組み合わせて物体のまでの距離、物体の相対速度を算出する。
【0027】
また、レーダ3、4から車両の前側方の方向に送信波を送信し、物体での反射する反射波を受信して物体までの距離、物体の相対速度を検出する。この場合もレーダ5と同様にして、レーダ3、4の送信波の周波数を上昇、下降させ、送信波と反射波をミキシングしてビート信号を抽出し、このビート信号における上昇区間のビート周波数fbu、下降区間のビート周波数fbdを組み合わせて物体のまでの距離、物体の相対速度を算出する。
【0028】
レーダ3〜5を用いて取得された距離、相対速度の物体情報は、ECU6のメモリに格納される。物体情報の格納処理は、以下のように行われる。なお、物体情報の格納処理は、各レーダ3〜5の物体情報ごとに行ってよいし、レーダ3〜5の全ての物体情報をまとめて行ってもよい。
【0029】
物体情報の格納処理として、まず、図2のS10に示すように、物体の車両に対する相対速度Vrが正の値であるか否かが判断される。このS10にて物体の車両に対する相対速度Vrが正の値である場合には、物体が車両から離れていく離反移動物であると判断され、相対速度Vrと距離を乗じた値の順に物体情報が格納される(S14)。この場合、例えば相対速度Vrと距離を乗じた値が小さい順に優先して物体情報を格納することが好ましい。これにより、相対速度Vrと距離を乗じた値が小さい順に物体検出処理が可能となる。
【0030】
一方、S10にて物体の車両に対する相対速度Vrが正の値でない場合には、物体が車両から離れていかない停止物又は車両に接近する接近移動物であると判断され、衝突時間TTC(Time To Collision)の順に物体情報が格納される(S12)。この場合、衝突時間TTCの短い順に優先して物体情報を格納することが好ましい。これにより、衝突時間TTCが短い時間の順に物体検出処理が可能となる。物体の衝突時間TTCは、物体の相対距離、相対速度に基づいて演算すればよい。
【0031】
また、S10にて物体の車両に対する相対速度Vrが正の値でないと判断された物体情報は、S10にて物体の車両に対する相対速度Vrが正の値であると判断された物体情報に優先してメモリに格納される。これにより、接近移動体や停止物体の物体情報が優先的に物体検出処理されることとなる。
【0032】
そして、S16に移行し、離反移動物以外の物体の物体情報であって確定した物体情報が衝突時間TTCの短い順に格納される。これにより、離反移動物以外の物体、すなわち接近移動物及び停止物体の物体情報のうち確定した物体情報が優先的に物体検出処理されることとなる。ここで、確定した物体情報とは、複数回検出されて信頼性の高い物体情報であり、例えば設定回数以上連続して検出された物体情報である。このS16の処理において、確定した物体情報が一時的な外挿状態である場合には、今回の予測値に基づいて衝突時間TTCを演算すればよい。一時的な外挿状態とは、確定した物体情報が一時的に検出されない状態であり、この検出値として予測値若しくは推定値が格納される。
【0033】
そして、S18に移行し、離反移動物以外の物体の物体情報であって今回検出された仮確定の物体情報が衝突時間TTCの短い順に格納される。これにより、離反移動物以外の物体、すなわち接近移動物及び停止物体の物体情報のうち今回検出された仮確定した物体情報が確定した物体情報に次いで優先的に物体検出処理されることとなる。ここで、仮確定した物体情報とは、一回以上検出された物体情報であって設定回数以上連続して検出されておらず確定した物体情報に至らない情報である。
【0034】
そして、S20に移行し、離反移動物以外の物体の物体情報であって今回検出されなかった仮確定の物体情報及び今回初めて検出された仮確定の物体情報が車両との相対距離の短い順に格納される。これにより、離反移動物以外の物体、すなわち接近移動物及び停止物体の物体情報のうち今回検出されなかった仮確定の物体情報及び今回初めて検出された仮確定の物体情報が今回検出された仮確定の物体情報に次いで優先的に物体検出処理されることとなる。このS20の処理において、仮確定した物体情報が一時的な外挿状態である場合には、今回の予測値に基づいて相対距離を演算すればよい。
【0035】
そして、S22に移行し、離反移動物以外の物体の物体情報であって連続外挿状態の確定の物体情報が衝突時間TTCの短い順に格納される。これにより、離反移動物以外の物体、すなわち接近移動物及び停止物体の物体情報のうち連続外挿状態の仮確定の物体情報が今回検出されなかった仮確定の物体情報及び今回初めて検出された仮確定の物体情報に次いで優先的に物体検出処理されることとなる。ここで、連続外挿状態の確定の物体情報とは、確定した物体情報であって、設定回数連続して外挿状態であり情報として有効性を失った情報である。
【0036】
そして、S24に移行し、離反移動物の物体情報であって仮確定の物体情報が車両との相対距離の短い順に格納される。これにより、離反移動物の物体情報であって仮確定の物体情報が離反移動物以外の物体の物体情報に次いで優先的に物体検出処理されることとなる。
【0037】
そして、S26に移行し、離反移動物の物体情報であって確定の物体情報が車両との相対距離の短い順に格納される。これにより、離反移動物の物体情報であって確定の物体情報が離反移動物の物体情報であって仮確定の物体情報に次いで優先的に物体検出処理されることとなる。S26の処理を終了後、物体情報格納処理の一連の制御処理を終了する。
【0038】
このような物体情報格納処理によれば、接近移動物及び停止物体の物体情報を離反移動物の物体情報より優先して格納することができる。また、接近移動物及び停止物体の物体情報のうち確定した物体情報を仮確定の物体情報より優先して格納することができる。このため、車両との衝突危険性の高い物体の物体情報を優先的に格納することができる。すなわち、プリクラッシュブレーキアシストシステムなどの制御システムが必要とする物体情報を優先的に格納することができる。
【0039】
そして、ECU6に格納された物体情報は、制御システム側に出力される。すなわち、優先的に格納された順に物体情報が制御システム側に出力される。制御システムは、物体情報に応じて運転支援制御などを実行する。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る物体検出装置1によれば、接近移動物及び停止物体の物体情報を離反移動物の物体情報より優先して格納することができる。また、接近移動物及び停止物体の物体情報のうち確定した物体情報を仮確定の物体情報より優先して格納することができる。このため、車両との衝突危険性の高い物体の物体情報を優先的に格納することができる。すなわち、プリクラッシュブレーキアシストシステムなどの制御システムが必要とする物体情報を優先的に格納することができる。
【0041】
これにより、この物体情報の格納状態に応じて物体情報をプリクラッシュブレーキアシストシステムなどの制御システム側に出力することによって、制御システムが必要とする物体情報を確実に制御システム側に出力することができる。
【0042】
また、制御システムにおいて必要性の高い物体情報を優先的に格納することにより、重要な物体情報を取りこぼすことを低減でき、物体検出性能を高めることができる。
【0043】
また、制御システムにおいて必要性の高い物体情報を優先的に格納することにより、物体情報の出力サイクルを遅らせることなく、システム側へ認識物体の物体情報を出力し続けることができる。
【0044】
さらに、優先順位を決めて物体情報を格納することにより、制御システムが必要とする物体情報を取りこぼすことなく最適な物体検出の更新周期を実現することができる。このため、制御システムに対する応答性能及び物体検出装置の認識性能の両方を向上させることができる。
【0045】
なお、上述した各実施形態は本発明に係る物体検出装置の一例を示すものである。本発明に係る物体検出装置は、このようなものに限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しないように実施形態に係る物体検出装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0046】
例えば、本実施形態では、複数のレーダ3〜5を備えた物体検出装置に適用した場合について説明したが、一つのレーダを備えた物体検出装置に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る物体検出装置の構成概要図である。
【図2】図1の物体検出装置における物体情報格納処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1…物体検出装置、2…車両、3〜5…レーダ、6…ECU、7…車速センサ、8…報知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲の物体を検出する物体検出装置において、
前記物体の前記車両に対する相対距離及び相対速度についての物体情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段により取得された複数の物体情報を格納するものであって、前記車両に対し離反する離反移動物の物体情報に対し離反移動物以外の物体の物体情報を優先的に格納する情報格納手段と、
を備えた物体検出装置。
【請求項2】
前記情報格納手段は、離反移動物以外の物体の物体情報について確定した物体情報を仮確定の物体情報より優先的に格納することを特徴とする請求項1に記載の物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−83647(P2009−83647A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255585(P2007−255585)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】