物体識別装置
【課題】装置の簡易化およびコスト低減が図れる物体識別装置の提供。
【解決手段】超音波を測定対象Mに向けて送出する送信器103と、測定対象Mからの反射波を受信する受信器104と、受信器104の受信情報に基づいて反射波の振幅と周波数との関係を表す周波数特性を算出する信号解析部105と、周波数特性に基づいて測定対象Mの材質的特徴を判別する物性識別部106および物体分類部107とを備える。受信器104により受信される反射波の周波数特性は測定対象の構造により変化し、その変化から平坦な物体と繊維などの複雑な構造物とを容易に識別することができる。
【解決手段】超音波を測定対象Mに向けて送出する送信器103と、測定対象Mからの反射波を受信する受信器104と、受信器104の受信情報に基づいて反射波の振幅と周波数との関係を表す周波数特性を算出する信号解析部105と、周波数特性に基づいて測定対象Mの材質的特徴を判別する物性識別部106および物体分類部107とを備える。受信器104により受信される反射波の周波数特性は測定対象の構造により変化し、その変化から平坦な物体と繊維などの複雑な構造物とを容易に識別することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両等に搭載される物体識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波センサと赤外線センサとを用いて、検知エリア内の物体を人体と識別する人体検知装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−186049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、超音波と赤外線とを用いているため、それぞれ専用の送・受信器を設けるとともに、情報を統合するための処理装置とが必要となり、装置が大型化するとともに、コストアップの要因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による物体識別装置は、超音波を測定対象に向けて送出する送信手段と、測定対象からの反射波を受信する受信手段と、受信手段の受信情報に基づいて反射波の振幅と周波数との関係を表す周波数特性を算出する算出手段と、周波数特性に基づいて測定対象の材質的特徴を判別する判別手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、超音波を測定対象に向けて送出し、その反射波の受信情報から測定対象の材質的特徴が判別できるので、従来のように超音波と赤外線とを用いる装置に比べ装置の簡易化およびコスト低減が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
−第1の実施形態−
図1は本発明による物体識別装置の第1の実施形態を示す図であり、車両に搭載される物体識別装置の概略構成を示すブロック図である。図1に示す物体識別装置は、制御装置100,発振器101,送信器103および受信器104を備えている。入出力I/F,メモリ,CPUなどで構成される制御装置100には、機能構成として送信制御部102,信号解析部105,物性識別部106および物体分類部107を備えている。
【0008】
送信制御部102は、発振器101および信号解析部105に、送信信号の波形と中心周波数に関する指示を出力する。発振器101は電磁波発生器と周波数制御器(不図示)とから構成されており、送信制御部102より入力された波形と中心周波数に基づく送信信号を送信器103に出力する。送信器103は、発振器101からの送信信号に基づいて超音波を発生するものであり、例えば、熱誘起型超音波発生素子が用いられる。
【0009】
図2は、熱誘起型超音波発生素子の一例を示す図である。熱誘起型超音波発生素子は、単結晶シリコンからなる基板103aに多孔質シリコンから成る断熱層103bを形成し、その断熱層103bの上に発熱部103cを形成したものである。発熱部103cは、ジュール熱を発生する電気抵抗体や、ペルチエ効果による発熱/吸熱を行うペルチエ素子で構成される。
【0010】
発振器101により発熱部103cに通電すると発熱部103cが発熱し、通電を停止すると発熱は停止する。そのため、通電のオン・オフを繰り返すと、オン・オフに合わせて発熱部103cの温度は高・底を繰り返す。この発熱部103cの温度の高・低に伴って、発熱部103aに接触する媒質(空気)の温度も高・低を繰り返す。その結果、媒質密度の大・小の繰り返しが図示上方に進行し、媒質中に粗密波が生成される。本実施の形態では、超音波帯域の疎密波を発生させる。
【0011】
上述したように、発熱部103cを断熱性に優れた多孔質シリコンで形成することで、発熱部103cで発生した熱が媒質側に伝達され易くなる。また、基板103aを単結晶シリコンとすることで、基板103aの定常的な温度上昇が抑制される。なお、送信器103の指向性は、発熱部103aのサイズと進行波(疎密波)の周波数によって決定され、例えば、発熱部103aのサイズが20mm×20mmの矩形、周波数が160kHzの場合には、約10degとなる。(参考文献; 渡部他,”熱誘起ナノシリコン超音波源の指向性に関する研究”, pp461-464, Proceeding of “11th symposium of Microjoining an d Assembly Technology in Electronics(Mate2005)”, Feb. 2005)。
【0012】
図1に戻って、超音波は測定対象Mで反射され、その反射波は受信器104によって受信される。受信器104には、例えば、受音部にピエゾ素子などを用いたマイクロホンなどが使用され、超音波を圧電変換して得られた受信信号は増幅器により増幅されて検出される。なお、圧電変換素子に代えて、一般的な静電容量型の素子を受音部に用いても良い。
【0013】
信号解析部105は、送信制御部102からの信号情報(送信信号の波形と中心周波数)と受信器104からの受信信号の信号波形に基づいて、測定対象Mからの反射波の時間波形や周波数特性を算出する。物性識別部106は、所定の周波数帯域(例えば60kHz〜80kHz帯と設定)の周波数特性に対して、統計学的手法を用いて測定対象の周波数特性に関する特徴量を算出する。例えば、周波数特性の振幅値を対数表示してデータを線形近似し、線形近似により得られる直線の勾配を特徴量とする。物体分類部107は、物性識別部106で算出された特徴量を既知の完全反射体の周波数特性と比較することにより、測定対象を分類する。
【0014】
《物体識別装置の動作説明》
次に、第1の実施形態の物体識別装置の基本動作を、図3に示すフローチャートに基づいて説明する。車両に搭載される物体識別装置の場合、周囲の物体が人物であるか否かを判別する必要があり、図3に示す識別処理ではそのような判別を行う場合について、すなわち、、繊維・被服識別に関する算出処理を示した。ステップS201では、送信器103から測定対象Mに向けて超音波を送出する。送信制御部102からの指示により、発振器101は周波数変調された電気信号を送信器103へ送出し、送信器103は入力された電気信号に基づいて超音波を発生する。
【0015】
このときの周波数変調は、例えば、100msecの間に10kHz〜50kHz帯で変調するように設定される。なお、周波数変調は連続的であっても、ステップ周波数毎に変化させてもよく、送信波形は連続波であってもパルス波であってもよい。
【0016】
ステップS202では、測定対象Mからの反射波を受信器104で受信する。受信器104は、反射波に応じた電気信号を信号解析部105へと出力する。ステップS203では、信号解析部105は、受信器104から入力された電気信号の周波数特性を算出する。
【0017】
図4は、受信波の周波数特性に関して得られた実験データの一例を示したものである。縦軸は受信器104から出力された信号強度(デシベル値)を表しており、横軸は周波数である。測定対象Mとしては、ベニヤ板の場合(L1)、フェルトを密に5枚重ねた場合(L2)、フェルトを隙間を空けて5枚重ねた場合(L3)の3種類について示した。
【0018】
図4の曲線L1,L2をそれぞれ線形近似した場合、概略の変化は図5のL10,L20のようになる。図4や図5に示すように、反射波の周波数が高まるにつれて信号強度は小さくなっており、特性曲線は右下がりの傾向を有している。この右下がりの勾配量は繊維構造のフェルトの方が大きく、さらに、同じフェルトを重ねた場合には、隙間を空けて重ねた場合の方が、勾配量は大きくなる。これらの勾配量を比較する場合、図4,5に示すように、周波数f1〜f2の帯域において、繊維物体(フェルト)の勾配量と反射物体(ベニヤ)の勾配量との違いが明確に現れている。
【0019】
超音波の伝播は、媒質の“密度”および“弾性”と、音波の“周波数“によっておおよその特性を算出することができる。とくに繊維の場合は、超音波の伝播する部分が繊維構造中の“空気”部分であるため、“周波数”を変調させて伝播強度を求めることで、反射系における完全反射体と繊維との違いを“密度”と“弾性”によって、よく分類することができる。
【0020】
周波数の減衰特性は音速が大気と比べ小さい領域へシフトし、周波数の減衰特性が大気減衰より低周波側で見られる。例えば、フェルトのような繊維物体内の場合には、音波伝播速度は100m/s〜400m/sとなり、60kHz〜80kHzの帯域において減衰特性が現れる。被服の材質・形態等の違いを考慮すると、帯域50kHz〜100kHz程度の範囲で特性を検出するのが好ましい。このように、減衰特性の観察を統計学的に処理することにより、より簡便に繊維をまとった人物を検出することができる。
【0021】
車両周囲物体のうち、車両や壁など多くの路上物の場合には、固有音響インピーダンスの差から超音波は物体境界面で全反射される。これに対し、被服のような空乏の大きい物体の場合には、音波が物体の境界面を透過する性質も併せ持ち、測定対象内部における散乱と吸収を繰り返した後に反射波として到達する。そのため、反射波は測定対象Mの音響特性を情報として含んだものとなり、それが図4,5に示すような周波数特性上の変化として現われる。繊維物体の場合、繊維の隙間空間を音波が伝播すると考えられ、そのために伝播特性が低く、繊維物体内部からの反射波は小さくなってしまう。
【0022】
ステップS204では、ステップS203で算出された周波数特性を物性識別部106において統計学的手法を用いて処理し、測定対象Mに関する特徴量を算出する。例えば、周波数帯域f1〜f2における受信波周波数特性を線形近似し、その勾配量を特徴量として算出する。
【0023】
ステップS205では、物体分類部107において、ステップS204で算出された測定対象Mの特徴量を完全反射体の特徴量(基準特徴量)と比較し、「|基準特徴量−特徴量|≧所定値」か否かを判定する。ここで、所定量は、測定対象Mの特徴量が、被服の反射波の特徴量に相当するものであるか否かを判定するための基準量であり、「|基準特徴量−特徴量|≧所定値」の場合には被服の反射波の特徴量に相当すると判定される。例えば、特徴量として前述した勾配量を用いた場合、ステップS205では、「|完全反射体の勾配量−勾配量|≧所定値」として判定を行う。ここで、所定値は、たとえば送受信系の感度周波数特性や完全反射体の距離などによって定める。
【0024】
ステップS205において「|基準特徴量−特徴量|≧所定値」と判定されてステップS206に進んだ場合には、ステップS206において測定対象Mは被服を含む物体であると決定する。一方、ステップS205において「|基準特徴量−特徴量|<所定値」であると判定されてステップS207に進んだ場合には、ステップS207において測定対象Mは完全反射体と同等の性質を有する物体であると決定する。
【0025】
以上説明したように、第1の実施の形態においては、受信器104により受信される反射波の周波数特性が測定対象の構造により変化するので、その変化から平坦な物体と繊維などの複雑な構造物とを容易に識別することができる。よって、超音波に関するデバイスを設けるだけで、測定対象の分類が可能となる。また、周波数の増加に対する反射波の振幅の低下傾向に基づいて測定対象が繊維を含む物体であると識別できるので、測定対象の人物が服の枚数に係わらず人物と検出できる。特に、周波数帯域を50kHz〜100kHzと設定することで、大気減衰の影響を受けにくく遠方まで検出できる上に、繊維による特徴的な減衰を観測できるので、効率よく服生地などの繊維を検出することができる。
【0026】
−第2の実施形態−
図6は、物体識別装置の第2の実施の形態を示す図であり、図1と同様のブロック図である。基本的な構成や動作は図1に示したブロック図と同じであるが、周波数領域設定部108が制御装置100に設けられている点が異なる。この周波数領域設定部108は、反射波の振幅、すなわち、受信器103から出力される受信信号の振幅を検出し、検出された振幅に応じて物性識別部106で特徴量を算出する際の周波数帯域を設定する。物性識別部106は、周波数領域設定部108で設定された周波数帯の信号に基づく特徴量を算出することになる。
【0027】
図7は、第2の実施形態における物体識別装置の基本動作を示すフローチャートであり、図3に示したフローチャートに周波数領域設定部108に関するステップS301の処理を追加したものである。ステップS301では、ステップS202における反射波の受信結果に基づいて、物性識別部106で特徴量を算出する際の周波数帯域を設定する。
【0028】
周波数帯域設定の一例としては、既知の完全反射体に対して距離減衰の影響がなく、測定対象Mの分類のための統計演算を効率よく行えるように、次式(1)〜(3)のように設定する。S11は完全反射体の振幅に対する反射波の振幅比である。開始周波数faは周波数帯の下側の周波数である。反射波の振幅S11が大きな測定対象Mほど、帯域は高周波側に移動し、帯域の幅も広がる。
増分周波数fa=S11×100kHz …(1)
開始周波数fs=S11×100kHz+40kHz …(2)
増分帯域 α=S11×50kHz …(3)
【0029】
また、上述したように異なる振幅S11に対して帯域設定が各々異なるのではなく、複数種類の帯域設定に分類するようにしても良い。図8に示す例では、衣服の反射率(反射波の振幅)の大小によって、帯域設定を予め決められた標準モードおよび広帯域高周波モードの2種類のいずれかに設定するようにしている。このような設定とすることで、帯域設定が簡便化され、CPUの演算負荷を低減することができる。
【0030】
図8(b)に示したように、薄いTシャツのような服Aの場合、反射率が大きい。このように反射率が大きい場合には基準反射の場合と傾きの差が小さいので、より精度良く勾配量算出ができるように帯域設定を広帯域高周波モードとする。一方、トレーナーなどのように反射率が小さな服Bの場合には、帯域設定を標準モードとする。図9は、基準反射に対する服A,Bの周波数特性と、それぞれの帯域設定とを示したものである。広帯域高周波モードの場合、開始周波数がfaだけ高くなり、周波数帯域の幅もαだけ増加する。fa、αの設定は、上述した式(1)、(3)で設定するようにしても良い。
【0031】
このように、測定対象によって帯域を設定するのは、次のような理由からである。路上や屋内などの物体識別装置を想定した場合、図8(a)に示すように繊維(被服)の背面には人体が存在している。そこで、吸収特性を検出しやすい上に、複数の繊維を効率よく周波数解析するために、反射率に基づいて減衰特性の差が出やすいような帯域を設定するようにした。
【0032】
第2の実施の形態においては、上述した第1の実施の形態の作用効果に加えて、振幅に基づいて周波数帯域を設定するので、送信波の周波数帯域を効率よく選択することができ、すばやく物体を分類することができる。
【0033】
−第3の実施形態−
図10は、物体識別装置の第3の実施の形態を示す図であり、図1と同様のブロック図である。基本的な構成や動作は図1に示したブロック図と同じであるが、測距部109および大気減衰補正部110をさらに設けた点が異なる。測距部109は、送信制御部102からの信号情報と受信器104の受信信号との間の遅延時間に基づいて、測定対象Mとの距離を算出する。大気減衰補正部110は、測距部109で検出された測定対象Mまでの距離と反射波の大気による伝播減衰とに基づいて、反射波の周波数特性を補正する。
【0034】
図11は、第3の実施形態における物体識別装置の基本動作を示すフローチャートであり、図3に示したフローチャートに、測距部109および大気減衰補正部110に関するステップS401,S402の処理を追加したものである。ステップS401では、測距部109において上述した測定対象Mまでの距離を算出する。ステップS402では、次式(4)を用いた大気減衰の補正を減衰補正部110において行う。なお、式(4)において、ηは大気の粘性係数であり、ρは大気の密度である。
【数1】
【0035】
式(4)の減衰量βは1mあたりの減衰量を表しており、また、反射波の周波数に応じて異なる。周波数f=0ではβ=0であるが、f>0ではβ<0となり、ステップS202で算出された周波数特性は、大気の影響によって減衰量βだけ小さな値になっている。そこで、ステップS402の補正において、算出された周波数特性から減衰量βを減算することにより、大気減衰の影響を取り除いた補正された周波数特性が得られることになる。
【0036】
反射波の周波数がより高くなるにつれて、また、距離がより遠くなることにつれて大気減衰による影響はより大きくなる。そのため、完全反射体であっても、距離が変化すると周波数特性が変化し、誤検出の原因となる。しかしながら、上述した(4)式の減衰量βを用いることで、距離に基づいて大気減衰による影響を補正することができる。その結果、既知の完全反射体の周波数特性を一つ保持するだけで、より精度よく物体を分類検出することができる。
【0037】
−第4の実施形態−
図12は、物体識別装置の第4の実施の形態を示す図であり、図1と同様のブロック図である。基本的な構成や動作は図1に示したブロック図と同じであるが、方位検出部111および方位方向補正部112を設け、さらに、2つの検出器104a,104bを設けた点が異なる。
【0038】
ここでは、測定対象Mの方位を検出するために2つの検出器104a,104bを設け、各検出信号を方位検出部111に入力する。信号解析部105には、一方の検出器104aの信号が入力される。各検出器104a,104bによって検出される反射波の間には、受信器104a,104b間の間隔dに応じた到達経路差が生じ、検出器104a,104bの受信信号間に位相差が生じる。方位検出部111はこの位相差を検出し、受信器間距離に基づいて反射波の到来方向角θdを計測する。方位方向補正部112は、周波数特性上における送受信器指の向性の影響を排除するため、算出された到来方向角θdを用いて周波数を変化させたときの指向性の影響を算出し、周波数特性を補正する。
【0039】
図13は、第4の実施形態における物体識別装置の基本動作を示すフローチャートであり、図3に示したフローチャートに、方位検出部111および方位方向補正部112に関するステップS501,S502の処理を追加したものである。ステップS501では、二つの受信器104a,104bからの受信信号に基づいて位相差φを算出し、反射波の到来方向角θdを式(5)に基づいて計算する。
【数2】
【0040】
なお、ここでは位相差φから到来方向角θdを算出したが、到来方向角θdの計測手法はこの方法に限定されない。例えば、2つの受信器104a,104bの受信信号の強度差に基づくモノパルス方式や、パルス方式による到達時間差の計測、MUSICアルゴリズムを用いた到来波方向推定手法など、他の到来方向角の計測手法を用いてもよい。
【0041】
ステップS502では、送信器指向性の周波数変化による影響を排除するために、到来方向角θdを用いて、周波数を変化させたときの指向性による影響を算出する。なお、送信器103における周波数と指向性の関係は、式(6)によって表される(参考文献; 渡部他,”熱誘起ナノシリコン超音波源の指向性に関する研究”, pp461-464, Proceeding of “11th symposium of Microjoining an d Assembly Technology in Electronics(Mate2005)”, Feb. 2005)。式(6)において、D(θd)は角度θdにおける相対強度(θ=90度(正面)のとき1)、fは周波数、aは発熱部103c(超音波発生部)一辺の1/2倍、cは音速を表す。
【数3】
【0042】
ステップS502では、この関係式と信号解析部105で算出された周波数特性とから、周波数特性における送信器103の指向性による影響を排除するように補正する。このように、第4の実施の形態では、方位と送信器103の指向性との相関に基づいて周波数特性を補正するので、指向性の影響が除去され、全方位において精度よく物体を分類検出することができる。
【0043】
−第5の実施形態−
図14は、物体識別装置の第4の実施の形態を示す図であり、図1と同様のブロック図である。基本的な構成や動作は図1に示したブロック図と同じであるが、速度検出部113および着衣人物分類部114を設けた点が異なる。速度検出部113は、送信制御部102の送信信号周波数情報と信号解析部105の周波数情報とに基づいてドップラーシフトを算出し、測定対象Mの相対速度を算出する。着衣人物分類部114は、物体分類部107からの被服検出情報および速度検出部113による相対速度と、車両に搭載された車速センサ(不図示)からの自車両速度情報とに基づいて、着衣人物の検出を行う。
【0044】
図15は、第5の実施形態における物体識別装置の基本動作を示すフローチャートであり、図3に示したフローチャートに、速度検出部113および着衣人物分類部114に関するステップS601〜S603の処理を追加したものである。ステップS206において測定対象Mを被服物体と決定したならば、ステップS601へ進んで、速度検出部113により自車両と測定対象Mとの相対速度を算出する。
【0045】
続くステップS602では、自車両の速度とステップS601で算出された相対速度との差異に基づいて、測定対象Mが移動しているか否かを着衣人物分類部114おいて判断する。ステップS602においてYESと判断されると、ステップS603に進んで測定対象物Mを着衣人物であると決定する。一方、ステップS602でNOと判断されると、ステップS603をスキップして一連の処理を終了する。
【0046】
このように、第5の実施形態では、測定対象Mとの相対速度に基づいて着衣人物を検出するので、車両に適用した場合などのように計測環境上不確定要素が大きい状況でも、より精度よく歩行者(着衣人物)を検出することができる。
【0047】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、信号解析部105は算出手段を、物性識別部106および物体分類部107は判別手段を、着衣人物分類部114は分類手段を、周波数領域設定部108は設定手段をそれぞれ構成する。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。また、上述した実施の形態では、車両搭載用の物体識別装置を例に説明したが、車両搭載用に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による物体識別装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図2】熱誘起型超音波発生素子の一例を示す図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図3】第1の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【図4】受信波の周波数特性を示す図である。
【図5】図4の特性を線形近似した場合を示す図である。
【図6】物体識別装置の第2の実施の形態を示すブロック図である。
【図7】第2の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【図8】帯域設定を2種類に設定する場合を説明する図であり、(a)は人体と衣服とを示し、(b)は服A,Bに対する帯域設定を示す。
【図9】基準反射に対する服A,Bの周波数特性と、それぞれの設定帯域とを示す図である。
【図10】物体識別装置の第3の実施の形態を示すブロック図である。
【図11】第3の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【図12】物体識別装置の第4の実施の形態を示すブロック図である。
【図13】第4の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【図14】物体識別装置の第5の実施の形態を示すブロック図である。
【図15】第5の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
100:制御装置、101:発振器、103:送信器、104,104a,104b:受信器、102:送信制御部、105:信号解析部、106:物性識別部106、107:物体分類部、108:周波数領域設定部、109:測距部、110:大気減衰補正部、111:方位検出部、112:方位方向補正部、113:速度検出部、114:着衣人物分類部、M:測定対象
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両等に搭載される物体識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波センサと赤外線センサとを用いて、検知エリア内の物体を人体と識別する人体検知装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−186049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、超音波と赤外線とを用いているため、それぞれ専用の送・受信器を設けるとともに、情報を統合するための処理装置とが必要となり、装置が大型化するとともに、コストアップの要因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による物体識別装置は、超音波を測定対象に向けて送出する送信手段と、測定対象からの反射波を受信する受信手段と、受信手段の受信情報に基づいて反射波の振幅と周波数との関係を表す周波数特性を算出する算出手段と、周波数特性に基づいて測定対象の材質的特徴を判別する判別手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、超音波を測定対象に向けて送出し、その反射波の受信情報から測定対象の材質的特徴が判別できるので、従来のように超音波と赤外線とを用いる装置に比べ装置の簡易化およびコスト低減が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
−第1の実施形態−
図1は本発明による物体識別装置の第1の実施形態を示す図であり、車両に搭載される物体識別装置の概略構成を示すブロック図である。図1に示す物体識別装置は、制御装置100,発振器101,送信器103および受信器104を備えている。入出力I/F,メモリ,CPUなどで構成される制御装置100には、機能構成として送信制御部102,信号解析部105,物性識別部106および物体分類部107を備えている。
【0008】
送信制御部102は、発振器101および信号解析部105に、送信信号の波形と中心周波数に関する指示を出力する。発振器101は電磁波発生器と周波数制御器(不図示)とから構成されており、送信制御部102より入力された波形と中心周波数に基づく送信信号を送信器103に出力する。送信器103は、発振器101からの送信信号に基づいて超音波を発生するものであり、例えば、熱誘起型超音波発生素子が用いられる。
【0009】
図2は、熱誘起型超音波発生素子の一例を示す図である。熱誘起型超音波発生素子は、単結晶シリコンからなる基板103aに多孔質シリコンから成る断熱層103bを形成し、その断熱層103bの上に発熱部103cを形成したものである。発熱部103cは、ジュール熱を発生する電気抵抗体や、ペルチエ効果による発熱/吸熱を行うペルチエ素子で構成される。
【0010】
発振器101により発熱部103cに通電すると発熱部103cが発熱し、通電を停止すると発熱は停止する。そのため、通電のオン・オフを繰り返すと、オン・オフに合わせて発熱部103cの温度は高・底を繰り返す。この発熱部103cの温度の高・低に伴って、発熱部103aに接触する媒質(空気)の温度も高・低を繰り返す。その結果、媒質密度の大・小の繰り返しが図示上方に進行し、媒質中に粗密波が生成される。本実施の形態では、超音波帯域の疎密波を発生させる。
【0011】
上述したように、発熱部103cを断熱性に優れた多孔質シリコンで形成することで、発熱部103cで発生した熱が媒質側に伝達され易くなる。また、基板103aを単結晶シリコンとすることで、基板103aの定常的な温度上昇が抑制される。なお、送信器103の指向性は、発熱部103aのサイズと進行波(疎密波)の周波数によって決定され、例えば、発熱部103aのサイズが20mm×20mmの矩形、周波数が160kHzの場合には、約10degとなる。(参考文献; 渡部他,”熱誘起ナノシリコン超音波源の指向性に関する研究”, pp461-464, Proceeding of “11th symposium of Microjoining an d Assembly Technology in Electronics(Mate2005)”, Feb. 2005)。
【0012】
図1に戻って、超音波は測定対象Mで反射され、その反射波は受信器104によって受信される。受信器104には、例えば、受音部にピエゾ素子などを用いたマイクロホンなどが使用され、超音波を圧電変換して得られた受信信号は増幅器により増幅されて検出される。なお、圧電変換素子に代えて、一般的な静電容量型の素子を受音部に用いても良い。
【0013】
信号解析部105は、送信制御部102からの信号情報(送信信号の波形と中心周波数)と受信器104からの受信信号の信号波形に基づいて、測定対象Mからの反射波の時間波形や周波数特性を算出する。物性識別部106は、所定の周波数帯域(例えば60kHz〜80kHz帯と設定)の周波数特性に対して、統計学的手法を用いて測定対象の周波数特性に関する特徴量を算出する。例えば、周波数特性の振幅値を対数表示してデータを線形近似し、線形近似により得られる直線の勾配を特徴量とする。物体分類部107は、物性識別部106で算出された特徴量を既知の完全反射体の周波数特性と比較することにより、測定対象を分類する。
【0014】
《物体識別装置の動作説明》
次に、第1の実施形態の物体識別装置の基本動作を、図3に示すフローチャートに基づいて説明する。車両に搭載される物体識別装置の場合、周囲の物体が人物であるか否かを判別する必要があり、図3に示す識別処理ではそのような判別を行う場合について、すなわち、、繊維・被服識別に関する算出処理を示した。ステップS201では、送信器103から測定対象Mに向けて超音波を送出する。送信制御部102からの指示により、発振器101は周波数変調された電気信号を送信器103へ送出し、送信器103は入力された電気信号に基づいて超音波を発生する。
【0015】
このときの周波数変調は、例えば、100msecの間に10kHz〜50kHz帯で変調するように設定される。なお、周波数変調は連続的であっても、ステップ周波数毎に変化させてもよく、送信波形は連続波であってもパルス波であってもよい。
【0016】
ステップS202では、測定対象Mからの反射波を受信器104で受信する。受信器104は、反射波に応じた電気信号を信号解析部105へと出力する。ステップS203では、信号解析部105は、受信器104から入力された電気信号の周波数特性を算出する。
【0017】
図4は、受信波の周波数特性に関して得られた実験データの一例を示したものである。縦軸は受信器104から出力された信号強度(デシベル値)を表しており、横軸は周波数である。測定対象Mとしては、ベニヤ板の場合(L1)、フェルトを密に5枚重ねた場合(L2)、フェルトを隙間を空けて5枚重ねた場合(L3)の3種類について示した。
【0018】
図4の曲線L1,L2をそれぞれ線形近似した場合、概略の変化は図5のL10,L20のようになる。図4や図5に示すように、反射波の周波数が高まるにつれて信号強度は小さくなっており、特性曲線は右下がりの傾向を有している。この右下がりの勾配量は繊維構造のフェルトの方が大きく、さらに、同じフェルトを重ねた場合には、隙間を空けて重ねた場合の方が、勾配量は大きくなる。これらの勾配量を比較する場合、図4,5に示すように、周波数f1〜f2の帯域において、繊維物体(フェルト)の勾配量と反射物体(ベニヤ)の勾配量との違いが明確に現れている。
【0019】
超音波の伝播は、媒質の“密度”および“弾性”と、音波の“周波数“によっておおよその特性を算出することができる。とくに繊維の場合は、超音波の伝播する部分が繊維構造中の“空気”部分であるため、“周波数”を変調させて伝播強度を求めることで、反射系における完全反射体と繊維との違いを“密度”と“弾性”によって、よく分類することができる。
【0020】
周波数の減衰特性は音速が大気と比べ小さい領域へシフトし、周波数の減衰特性が大気減衰より低周波側で見られる。例えば、フェルトのような繊維物体内の場合には、音波伝播速度は100m/s〜400m/sとなり、60kHz〜80kHzの帯域において減衰特性が現れる。被服の材質・形態等の違いを考慮すると、帯域50kHz〜100kHz程度の範囲で特性を検出するのが好ましい。このように、減衰特性の観察を統計学的に処理することにより、より簡便に繊維をまとった人物を検出することができる。
【0021】
車両周囲物体のうち、車両や壁など多くの路上物の場合には、固有音響インピーダンスの差から超音波は物体境界面で全反射される。これに対し、被服のような空乏の大きい物体の場合には、音波が物体の境界面を透過する性質も併せ持ち、測定対象内部における散乱と吸収を繰り返した後に反射波として到達する。そのため、反射波は測定対象Mの音響特性を情報として含んだものとなり、それが図4,5に示すような周波数特性上の変化として現われる。繊維物体の場合、繊維の隙間空間を音波が伝播すると考えられ、そのために伝播特性が低く、繊維物体内部からの反射波は小さくなってしまう。
【0022】
ステップS204では、ステップS203で算出された周波数特性を物性識別部106において統計学的手法を用いて処理し、測定対象Mに関する特徴量を算出する。例えば、周波数帯域f1〜f2における受信波周波数特性を線形近似し、その勾配量を特徴量として算出する。
【0023】
ステップS205では、物体分類部107において、ステップS204で算出された測定対象Mの特徴量を完全反射体の特徴量(基準特徴量)と比較し、「|基準特徴量−特徴量|≧所定値」か否かを判定する。ここで、所定量は、測定対象Mの特徴量が、被服の反射波の特徴量に相当するものであるか否かを判定するための基準量であり、「|基準特徴量−特徴量|≧所定値」の場合には被服の反射波の特徴量に相当すると判定される。例えば、特徴量として前述した勾配量を用いた場合、ステップS205では、「|完全反射体の勾配量−勾配量|≧所定値」として判定を行う。ここで、所定値は、たとえば送受信系の感度周波数特性や完全反射体の距離などによって定める。
【0024】
ステップS205において「|基準特徴量−特徴量|≧所定値」と判定されてステップS206に進んだ場合には、ステップS206において測定対象Mは被服を含む物体であると決定する。一方、ステップS205において「|基準特徴量−特徴量|<所定値」であると判定されてステップS207に進んだ場合には、ステップS207において測定対象Mは完全反射体と同等の性質を有する物体であると決定する。
【0025】
以上説明したように、第1の実施の形態においては、受信器104により受信される反射波の周波数特性が測定対象の構造により変化するので、その変化から平坦な物体と繊維などの複雑な構造物とを容易に識別することができる。よって、超音波に関するデバイスを設けるだけで、測定対象の分類が可能となる。また、周波数の増加に対する反射波の振幅の低下傾向に基づいて測定対象が繊維を含む物体であると識別できるので、測定対象の人物が服の枚数に係わらず人物と検出できる。特に、周波数帯域を50kHz〜100kHzと設定することで、大気減衰の影響を受けにくく遠方まで検出できる上に、繊維による特徴的な減衰を観測できるので、効率よく服生地などの繊維を検出することができる。
【0026】
−第2の実施形態−
図6は、物体識別装置の第2の実施の形態を示す図であり、図1と同様のブロック図である。基本的な構成や動作は図1に示したブロック図と同じであるが、周波数領域設定部108が制御装置100に設けられている点が異なる。この周波数領域設定部108は、反射波の振幅、すなわち、受信器103から出力される受信信号の振幅を検出し、検出された振幅に応じて物性識別部106で特徴量を算出する際の周波数帯域を設定する。物性識別部106は、周波数領域設定部108で設定された周波数帯の信号に基づく特徴量を算出することになる。
【0027】
図7は、第2の実施形態における物体識別装置の基本動作を示すフローチャートであり、図3に示したフローチャートに周波数領域設定部108に関するステップS301の処理を追加したものである。ステップS301では、ステップS202における反射波の受信結果に基づいて、物性識別部106で特徴量を算出する際の周波数帯域を設定する。
【0028】
周波数帯域設定の一例としては、既知の完全反射体に対して距離減衰の影響がなく、測定対象Mの分類のための統計演算を効率よく行えるように、次式(1)〜(3)のように設定する。S11は完全反射体の振幅に対する反射波の振幅比である。開始周波数faは周波数帯の下側の周波数である。反射波の振幅S11が大きな測定対象Mほど、帯域は高周波側に移動し、帯域の幅も広がる。
増分周波数fa=S11×100kHz …(1)
開始周波数fs=S11×100kHz+40kHz …(2)
増分帯域 α=S11×50kHz …(3)
【0029】
また、上述したように異なる振幅S11に対して帯域設定が各々異なるのではなく、複数種類の帯域設定に分類するようにしても良い。図8に示す例では、衣服の反射率(反射波の振幅)の大小によって、帯域設定を予め決められた標準モードおよび広帯域高周波モードの2種類のいずれかに設定するようにしている。このような設定とすることで、帯域設定が簡便化され、CPUの演算負荷を低減することができる。
【0030】
図8(b)に示したように、薄いTシャツのような服Aの場合、反射率が大きい。このように反射率が大きい場合には基準反射の場合と傾きの差が小さいので、より精度良く勾配量算出ができるように帯域設定を広帯域高周波モードとする。一方、トレーナーなどのように反射率が小さな服Bの場合には、帯域設定を標準モードとする。図9は、基準反射に対する服A,Bの周波数特性と、それぞれの帯域設定とを示したものである。広帯域高周波モードの場合、開始周波数がfaだけ高くなり、周波数帯域の幅もαだけ増加する。fa、αの設定は、上述した式(1)、(3)で設定するようにしても良い。
【0031】
このように、測定対象によって帯域を設定するのは、次のような理由からである。路上や屋内などの物体識別装置を想定した場合、図8(a)に示すように繊維(被服)の背面には人体が存在している。そこで、吸収特性を検出しやすい上に、複数の繊維を効率よく周波数解析するために、反射率に基づいて減衰特性の差が出やすいような帯域を設定するようにした。
【0032】
第2の実施の形態においては、上述した第1の実施の形態の作用効果に加えて、振幅に基づいて周波数帯域を設定するので、送信波の周波数帯域を効率よく選択することができ、すばやく物体を分類することができる。
【0033】
−第3の実施形態−
図10は、物体識別装置の第3の実施の形態を示す図であり、図1と同様のブロック図である。基本的な構成や動作は図1に示したブロック図と同じであるが、測距部109および大気減衰補正部110をさらに設けた点が異なる。測距部109は、送信制御部102からの信号情報と受信器104の受信信号との間の遅延時間に基づいて、測定対象Mとの距離を算出する。大気減衰補正部110は、測距部109で検出された測定対象Mまでの距離と反射波の大気による伝播減衰とに基づいて、反射波の周波数特性を補正する。
【0034】
図11は、第3の実施形態における物体識別装置の基本動作を示すフローチャートであり、図3に示したフローチャートに、測距部109および大気減衰補正部110に関するステップS401,S402の処理を追加したものである。ステップS401では、測距部109において上述した測定対象Mまでの距離を算出する。ステップS402では、次式(4)を用いた大気減衰の補正を減衰補正部110において行う。なお、式(4)において、ηは大気の粘性係数であり、ρは大気の密度である。
【数1】
【0035】
式(4)の減衰量βは1mあたりの減衰量を表しており、また、反射波の周波数に応じて異なる。周波数f=0ではβ=0であるが、f>0ではβ<0となり、ステップS202で算出された周波数特性は、大気の影響によって減衰量βだけ小さな値になっている。そこで、ステップS402の補正において、算出された周波数特性から減衰量βを減算することにより、大気減衰の影響を取り除いた補正された周波数特性が得られることになる。
【0036】
反射波の周波数がより高くなるにつれて、また、距離がより遠くなることにつれて大気減衰による影響はより大きくなる。そのため、完全反射体であっても、距離が変化すると周波数特性が変化し、誤検出の原因となる。しかしながら、上述した(4)式の減衰量βを用いることで、距離に基づいて大気減衰による影響を補正することができる。その結果、既知の完全反射体の周波数特性を一つ保持するだけで、より精度よく物体を分類検出することができる。
【0037】
−第4の実施形態−
図12は、物体識別装置の第4の実施の形態を示す図であり、図1と同様のブロック図である。基本的な構成や動作は図1に示したブロック図と同じであるが、方位検出部111および方位方向補正部112を設け、さらに、2つの検出器104a,104bを設けた点が異なる。
【0038】
ここでは、測定対象Mの方位を検出するために2つの検出器104a,104bを設け、各検出信号を方位検出部111に入力する。信号解析部105には、一方の検出器104aの信号が入力される。各検出器104a,104bによって検出される反射波の間には、受信器104a,104b間の間隔dに応じた到達経路差が生じ、検出器104a,104bの受信信号間に位相差が生じる。方位検出部111はこの位相差を検出し、受信器間距離に基づいて反射波の到来方向角θdを計測する。方位方向補正部112は、周波数特性上における送受信器指の向性の影響を排除するため、算出された到来方向角θdを用いて周波数を変化させたときの指向性の影響を算出し、周波数特性を補正する。
【0039】
図13は、第4の実施形態における物体識別装置の基本動作を示すフローチャートであり、図3に示したフローチャートに、方位検出部111および方位方向補正部112に関するステップS501,S502の処理を追加したものである。ステップS501では、二つの受信器104a,104bからの受信信号に基づいて位相差φを算出し、反射波の到来方向角θdを式(5)に基づいて計算する。
【数2】
【0040】
なお、ここでは位相差φから到来方向角θdを算出したが、到来方向角θdの計測手法はこの方法に限定されない。例えば、2つの受信器104a,104bの受信信号の強度差に基づくモノパルス方式や、パルス方式による到達時間差の計測、MUSICアルゴリズムを用いた到来波方向推定手法など、他の到来方向角の計測手法を用いてもよい。
【0041】
ステップS502では、送信器指向性の周波数変化による影響を排除するために、到来方向角θdを用いて、周波数を変化させたときの指向性による影響を算出する。なお、送信器103における周波数と指向性の関係は、式(6)によって表される(参考文献; 渡部他,”熱誘起ナノシリコン超音波源の指向性に関する研究”, pp461-464, Proceeding of “11th symposium of Microjoining an d Assembly Technology in Electronics(Mate2005)”, Feb. 2005)。式(6)において、D(θd)は角度θdにおける相対強度(θ=90度(正面)のとき1)、fは周波数、aは発熱部103c(超音波発生部)一辺の1/2倍、cは音速を表す。
【数3】
【0042】
ステップS502では、この関係式と信号解析部105で算出された周波数特性とから、周波数特性における送信器103の指向性による影響を排除するように補正する。このように、第4の実施の形態では、方位と送信器103の指向性との相関に基づいて周波数特性を補正するので、指向性の影響が除去され、全方位において精度よく物体を分類検出することができる。
【0043】
−第5の実施形態−
図14は、物体識別装置の第4の実施の形態を示す図であり、図1と同様のブロック図である。基本的な構成や動作は図1に示したブロック図と同じであるが、速度検出部113および着衣人物分類部114を設けた点が異なる。速度検出部113は、送信制御部102の送信信号周波数情報と信号解析部105の周波数情報とに基づいてドップラーシフトを算出し、測定対象Mの相対速度を算出する。着衣人物分類部114は、物体分類部107からの被服検出情報および速度検出部113による相対速度と、車両に搭載された車速センサ(不図示)からの自車両速度情報とに基づいて、着衣人物の検出を行う。
【0044】
図15は、第5の実施形態における物体識別装置の基本動作を示すフローチャートであり、図3に示したフローチャートに、速度検出部113および着衣人物分類部114に関するステップS601〜S603の処理を追加したものである。ステップS206において測定対象Mを被服物体と決定したならば、ステップS601へ進んで、速度検出部113により自車両と測定対象Mとの相対速度を算出する。
【0045】
続くステップS602では、自車両の速度とステップS601で算出された相対速度との差異に基づいて、測定対象Mが移動しているか否かを着衣人物分類部114おいて判断する。ステップS602においてYESと判断されると、ステップS603に進んで測定対象物Mを着衣人物であると決定する。一方、ステップS602でNOと判断されると、ステップS603をスキップして一連の処理を終了する。
【0046】
このように、第5の実施形態では、測定対象Mとの相対速度に基づいて着衣人物を検出するので、車両に適用した場合などのように計測環境上不確定要素が大きい状況でも、より精度よく歩行者(着衣人物)を検出することができる。
【0047】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、信号解析部105は算出手段を、物性識別部106および物体分類部107は判別手段を、着衣人物分類部114は分類手段を、周波数領域設定部108は設定手段をそれぞれ構成する。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。また、上述した実施の形態では、車両搭載用の物体識別装置を例に説明したが、車両搭載用に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による物体識別装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図2】熱誘起型超音波発生素子の一例を示す図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図3】第1の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【図4】受信波の周波数特性を示す図である。
【図5】図4の特性を線形近似した場合を示す図である。
【図6】物体識別装置の第2の実施の形態を示すブロック図である。
【図7】第2の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【図8】帯域設定を2種類に設定する場合を説明する図であり、(a)は人体と衣服とを示し、(b)は服A,Bに対する帯域設定を示す。
【図9】基準反射に対する服A,Bの周波数特性と、それぞれの設定帯域とを示す図である。
【図10】物体識別装置の第3の実施の形態を示すブロック図である。
【図11】第3の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【図12】物体識別装置の第4の実施の形態を示すブロック図である。
【図13】第4の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【図14】物体識別装置の第5の実施の形態を示すブロック図である。
【図15】第5の実施形態の識別動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
100:制御装置、101:発振器、103:送信器、104,104a,104b:受信器、102:送信制御部、105:信号解析部、106:物性識別部106、107:物体分類部、108:周波数領域設定部、109:測距部、110:大気減衰補正部、111:方位検出部、112:方位方向補正部、113:速度検出部、114:着衣人物分類部、M:測定対象
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を測定対象に向けて送出する送信手段と、
前記測定対象からの反射波を受信する受信手段と、
前記受信手段の受信情報に基づいて前記反射波の振幅と周波数との関係を表す周波数特性を算出する算出手段と、
前記周波数特性に基づいて前記測定対象の材質的特徴を判別する判別手段とを備えることを特徴とする物体識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物体識別装置において、
前記判別手段は、周波数の増加に対する振幅の低下傾向の程度に基づいて、前記測定対象を繊維が含まれる物体であると判別することを特徴とする物体識別装置。
【請求項3】
請求項2に記載の物体識別装置において、
前記測定対象の相対速度を検出する速度検出手段と、
前記判定手段の判定結果および前記速度検出手段の検出結果に基づいて、前記測定対象を着衣人物と分類する分類手段とを備えたことを特徴とする物体識別装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の物体識別装置において、
前記判別手段は、前記周波数特性のうち、50kHzから100kHzの周波数帯域の一部領域または全域を含む所定周波数帯域における前記振幅の低下傾向に基づいて判別することを特徴とする物体識別装置。
【請求項5】
請求項4に記載の物体識別装置において、
前記反射波の振幅に基づいて前記所定周波数帯域を設定する設定手段を備えたことを特徴とする物体識別装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の物体識別装置において、
前記測定対象と前記受信手段との距離を検出する測距手段と、
前記測距手段で検出された距離と前記反射波の大気減衰との相関に基づいて、前記算出された周波数特性を補正する大気減衰補正手段とを備えたことを特徴とする物体識別装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の物体識別装置において、
前記測定対象の方位を検出する方位検出手段と、
前記方位検出手段の検出結果と前記送信手段の指向性との相関に基づいて、前記算出された周波数特性を補正する方位補正手段とを備えたことを特徴とする物体識別装置。
【請求項1】
超音波を測定対象に向けて送出する送信手段と、
前記測定対象からの反射波を受信する受信手段と、
前記受信手段の受信情報に基づいて前記反射波の振幅と周波数との関係を表す周波数特性を算出する算出手段と、
前記周波数特性に基づいて前記測定対象の材質的特徴を判別する判別手段とを備えることを特徴とする物体識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物体識別装置において、
前記判別手段は、周波数の増加に対する振幅の低下傾向の程度に基づいて、前記測定対象を繊維が含まれる物体であると判別することを特徴とする物体識別装置。
【請求項3】
請求項2に記載の物体識別装置において、
前記測定対象の相対速度を検出する速度検出手段と、
前記判定手段の判定結果および前記速度検出手段の検出結果に基づいて、前記測定対象を着衣人物と分類する分類手段とを備えたことを特徴とする物体識別装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の物体識別装置において、
前記判別手段は、前記周波数特性のうち、50kHzから100kHzの周波数帯域の一部領域または全域を含む所定周波数帯域における前記振幅の低下傾向に基づいて判別することを特徴とする物体識別装置。
【請求項5】
請求項4に記載の物体識別装置において、
前記反射波の振幅に基づいて前記所定周波数帯域を設定する設定手段を備えたことを特徴とする物体識別装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の物体識別装置において、
前記測定対象と前記受信手段との距離を検出する測距手段と、
前記測距手段で検出された距離と前記反射波の大気減衰との相関に基づいて、前記算出された周波数特性を補正する大気減衰補正手段とを備えたことを特徴とする物体識別装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の物体識別装置において、
前記測定対象の方位を検出する方位検出手段と、
前記方位検出手段の検出結果と前記送信手段の指向性との相関に基づいて、前記算出された周波数特性を補正する方位補正手段とを備えたことを特徴とする物体識別装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−58059(P2008−58059A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233140(P2006−233140)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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