説明

物標検出装置

【課題】アンテナ素子数を増加させることなく、静止した複数物標の検出性能を向上させる。
【解決手段】FMCW波の送受信動作を必要なスナップショットの必要数だけ繰り返すと共に、送受信動作毎に、FMCW波の中心周波数を変化させる(S110〜S130)。送受信動作(スナップショットSSi,i=1〜4)毎に、ビート信号データをFFT処理することで周波数スペクトラムを求め、その周波数スペクトラム上でピークとなる対象周波数kのデータx1(k)〜xN(k)を、全受信チャンネルCH1〜CHNから抽出し,配列した受信ベクトルXi(k)を生成し、受信ベクトルXi(k)のそれぞれについて相関行列Rxx_ssi(k)を求める。更に、相関行列Rxx_ssi(k)を、対象周波数k毎に平均(時間平均)した平均相関行列HRxx(k)を算出し、平均相関行列HRxx(k)から求めたMUSICスペクトラムにより、物標が存在する方位を求める(S140〜S180)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探査波を反射した物標に関する情報を、受信信号から生成される相関行列を用いて検出する物標検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナを用いて、アレーアンテナに同時に到来する複数の電波の到来方向を推定する手法として、各アンテナ素子が受信した受信信号間の相関を表す相関行列に基づいて角度スペクトラムを生成し、この角度スペクトラムを解析することで高分解能な方位検出を行う、いわゆるスーパーレゾリューション法が知られている。
【0003】
ところで、この種の手法では、各到来波が互いに無相関であることを前提としているため、相関の強い到来波が存在する場合には、方位の検出精度が低下する。
例えば、車載レーダ装置であれば、個々に検出すべき複数の物標(他車両や路側物等)とレーダ装置を搭載した自車両とがいずれも停止している場合には、各物標と自車両との相対的な位置関係が変化しないため、各物標からの到来波(反射波)は互いに強い相関関係を有した(つまり、同様な位相変化をする)ものとなる。
【0004】
これに対して、アレーアンテナの一部を使用して互いに異なる複数のサブアレーを形成し、そのサブアレー毎に求めた相関行列を平均したもの(平均相関行列)を用いることで到来波間の相関を抑圧する空間平均法(例えば、非特許文献1参照)が知られている。
【0005】
即ち、相関のある到来波の位相関係は、受信位置によって異なるため、受信位置を適当に移動させた相関行列の平均値を求めれば、その平均効果により、各到来波間の相関を抑圧できるのである。
【0006】
また、到来波間の相関を十分に抑圧するためには、相関行列の生成に用いる受信ベクトル(ひいては個々の受信ベクトルから生成される個別の相関行列)の数(以下では「スナップショット」と称する)を多くすることが望ましい。
【0007】
このため、定期的に測定を繰り返してリアルタイムで物標の検出を行う車載レーダ装置等では、測定毎に相関行列が生成されるため、過去に生成された相関行列を利用することでスナップショット数を確保する、いわゆる時間平均法(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照)を用いることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−40806号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】菊間信良著、「アダプティブアンテナ技術」第1版、オーム社、平成15年10月10日発行、P114,P142)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、空間平均法では、サブアレーを構成するアンテナ素子数によって、相関行列の次元、ひいては同時に検出可能な到来波の数が決まるため、装置全体としてのアンテナ素子数が一定であれば、検出可能な到来波の数が減少し、逆に、検出可能な到来波の数を確保しようとすると、アンテナ素子の数が増加し、ひいては装置のサイズが大型化してしまうという問題があった。
【0011】
また、空間平均法を使用することなく時間平均法だけを使用した場合には、静止した複数の物標を検出する場合に、これら物標からの到来波間の相関を十分に抑圧することができず、検出性能が低下してしまう場合があるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するために、アンテナ素子数を増加させることなく、静止した複数物標の検出性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明の物標検出装置では、送受信手段が、探査波を送信すると共に該探査波の反射波を受信する送受信動作を繰り返し実行し、相関行列生成手段が、送受信動作毎に送受信手段から取得した受信信号に基づいて相関行列を生成し、予め設定された規定数の相関行列を時間平均した平均相関行列を生成する。そして、相関行列生成手段にて生成された平均相関行列を用いて前記探査波を反射した物標に関する情報である物標情報を求める。
【0014】
但し、周波数制御手段は、平均相関行列を生成するために実行される規定数回分の送受信動作のうち、少なくとも1回は、探査波の周波数の設定が他とは異なるように送受信手段を動作させる。
【0015】
即ち、相関のある反射波同士であっても、両者の位相関係は周波数によって異なったものとなるため、互いに周波数の設定が異なる探査波(ひいては反射波)に基づいて生成された複数の相関行列の平均値を求めれば、その平均効果により、各反射波間の相関が抑圧されることになる。なお、周波数の設定とは、探査波の周波数が一定である場合には、周波数そのもののことであり、探査波の周波数を一定の範囲で変化させる場合には、例えば、その中心周波数等のことである。
【0016】
従って、本発明の物標検出装置によれば、アンテナ素子数を増やしたり、検出可能な物標数を減少させることなく、相対的な位置関係が変化しない複数の物標を検出する場合の検出性能を向上させることができる。
【0017】
ところで、本発明の物標検出装置において、送受信手段が、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナを使用し、各アンテナ素子に対応したチャンネル毎に探査波の送信又は反射波の受信を行う場合、相関行列生成手段が、各チャンネルにて同時に取得された受信信号を要素とする受信ベクトルに基づいて相関行列を生成することによって、物標が存在する方位(物標情報の一つ)についての検出精度を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の物標検出装置では、相関行列生成手段が、単一のアンテナ素子にて時系列的に取得された受信信号を要素とする受信ベクトルに基づいて前記相関行列を生成することにより、物標との相対速度(物標情報の一つ)についての検出精度を向上させることができる。
【0019】
更に、本発明の物標検出装置において、探査波が、搬送波を断続してなるパルス波、搬送波をFM変調してなるFMCW波、無変調の搬送波であるCW波のいずれかである場合、周波数制御手段は、搬送波の周波数を変化させるように構成すればよい。
【0020】
また、本発明の物標検出装置において、送受信手段は、搬送波の周波数をPLL回路を用いて変化させるように構成されていることが望ましい。このようにPLL回路を用いることによって、周波数精度の高い搬送波を、簡易な構成で安価に生成することができる。
【0021】
また、本発明の物標検出装置が、当該物標検出装置を搭載した移動体の挙動を表す情報を取得する情報取得手段を備えている場合、周波数制御手段は、情報取得手段による取得情報が移動体の停止を示している場合にのみ、探査波の周波数の設定を、規定数回分の送受信動作のうち少なくとも1回は異ならせることが望ましい。
【0022】
即ち、各物標からの到来波(反射波)が互いに強い相関関係を有したものとなるという問題が生じるのは、移動体が停止している場合であるため、探査波の周波数を異ならせる制御を、その必要な場合だけ実行することにより、当該装置の負荷を軽減することができる。
【0023】
更に、周波数制御手段は、情報取得手段による取得情報が移動体の移動を示している場合には、探査波の周波数の設定を、規定数回分の送受信動作間で不変とする制御を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態の車載レーダ装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】第1実施形態において信号処理部が実行する物標情報生成処理の内容を示すフローチャート。
【図3】第1実施形態において送信するレーダ波の周波数、及び受信信号に基づいて生成するMUSICスペクトラムの概略を示す説明図。
【図4】位置関係が変化しない二つの物体からの反射波が有する位相関係が、スナップショット毎に変化する様子を模式的に示した説明図。
【図5】第2実施形態の車載レーダ装置の全体構成を示すブロック図。
【図6】第2実施形態において信号処理部が実行する物標情報生成処理の内容を示すフローチャート。
【図7】第2実施形態において送信するレーダ波の周波数、及び受信信号に基づいて生成するMUSICスペクトラムの概略を示す説明図。
【図8】他の実施形態において送信するレーダ波の周波数、及び受信信号に基づいて生成するMUSICスペクトラムの概略を示す説明図。
【図9】従来装置において送信するレーダ波の周波数、及び受信信号に基づいて生成するMUSICスペクトラムの概略を示す説明図。
【図10】第3実施形態において信号処理部が実行する物標情報生成処理の内容を示すフローチャート。
【図11】第3実施形態において送信するレーダ波の周波数を、停車中の場合および移動中の場合について示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[第1実施形態]
<全体構成>
図1は、本発明が適用された車載レーダ装置の全体構成を表すブロック図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の車載レーダ装置2は、送信アンテナASを介してミリ波帯のレーダ波を送信する送信器4と、送信器4から送出され先行車両や路側物等といった物標に反射したレーダ波(以下、反射波という)を、一列に等間隔で配置されたN個のアンテナ素子AR1〜ARNからなる受信アンテナアレー5にて受信し、後述するN個のビート信号B1〜BNを生成する受信器6と、受信器6が生成するビート信号B1〜BNを、それぞれサンプリングしてデジタルデータ(以下、ビート信号データという)D1〜DNに変換するN個のAD変換器AD1〜ADNからなるAD変換部8と、AD変換器AD1〜ADNを介して取り込んだビート信号データD1〜DNに基づいて各種処理を実行する信号処理部10とを備えている。
【0027】
このうち送信器4は、ミリ波帯の高周波信号を発生させ制御信号に従って発振周波数を制御可能な高周波発振器12と、信号処理部10から指定された中間周波数帯(数百kHz〜数MHz程度)の周波数を中心として、予め設定された周波数範囲で周波数が増減する周波数変調された基準信号を生成する基準信号生成部14と、高周波発振器12の出力を分周してなる分周信号の位相と基準信号生成部14で生成された基準信号の位相とを比較し、両信号の位相が一致するように高周波発振器12の発振周波数を変化させるための制御信号を発生させるPLL回路16と、高周波発振器12の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器18とを備えており、送信信号Ssを送信アンテナASへ供給し、ローカル信号Lを受信器6へ供給するように構成されている。
【0028】
なお、基準信号生成部14は、信号処理部10によって4種類の中心周波数を指定できるように構成されており、各周波数を指定することによって高周波発振器12から出力される周波数変調された高周波信号は、図3(a)に示すように、いずれも、電波法における下限周波数から上限周波数の範囲内に収まるように設定されている。
【0029】
一方、受信器6は、アンテナ素子ARi毎に、その受信信号Sriにローカル信号Lを混合し、これら信号の差の周波数成分であるビート信号Biを生成する高周波用ミキサMXiと、ビート信号Biを増幅する増幅器AMPiと備えている。なお、増幅器AMPiは、ビート信号Biから不要な高周波成分を取り除くフィルタ機能も有している。
【0030】
以下では、各アンテナ素子ARiに対応して受信信号Sriからビート信号データDiを生成するための構成MXi,AMPi,ADiを、一括して受信チャネルCHiと呼ぶ。
このように構成されたレーダ装置2では、基準信号生成部14で生成された基準信号の周波数を逓倍した周波数を有し且つ周波数変調された連続波(FMCW)からなるレーダ波が、送信器4によって送信アンテナASを介して送信され、その反射波が受信アンテナアレー5にて受信されると、各受信チャネルCHiでは、アンテナ素子ARiからの受信信号Sriを、ミキサMXiにて送信器4からのローカル信号Lと混合することにより、これら受信信号Sriとローカル信号Lとの差の周波数成分であるビート信号Biを生成し、このビート信号Biを増幅器AMPiにて増幅すると共に不要な高周波成分を除去した後、AD変換器ADiにてサンプリングしてビート信号データDiに変換する。
【0031】
<信号処理部>
次に、信号処理部10は、CPU,ROM,RAMからなる周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、AD変換部8からデータを入力する入力ポートや高速フーリエ変換(FFT)処理を実行するためのデジタルシグナルプロセッサ(DSP)等を備えている。
【0032】
そして、信号処理部10では、収集したビート信号データDiに基づいて、レーダ波を反射した物標が存在する方位や、その物標との距離や相対速度を求める物標情報生成処理等を実行する。
【0033】
ここで、信号処理部10が実行する物標情報生成処理の詳細を、図2に示すフローチャートに沿って説明する。
なお、本処理は、予め設定された一定間隔毎に繰り返し起動される。
【0034】
本処理が起動すると、S110では、基準信号生成部14に対して中心周波数を指定する指令を出力する。但し、本ステップが実行される毎に、指定される周波数が順番に変化するようにされている。
【0035】
S120では、FMCW波の1周期分のデータ(以下、スナップショットともいう)を収集し、S130では、信号処理部10が指定可能な全ての周波数(ここでは4種類)についてデータを収集したか否かを判断する。
【0036】
S130にて、否定判断された場合は、S110に戻って、データを収集していない周波数についてデータの収集を行い、肯定判断された場合は、必要な数のスナップショットが得られたものとして、S140に進む。
【0037】
S140では、全受信チャネルCH1〜CHNについて、送信信号Ssの周波数が漸増する上り変調区間、及び周波数が漸減する下り変調区間の変調区間毎、且つスナップショット毎に、FFT処理を実行する。
【0038】
S150では、そのFFT処理の結果として得られる周波数スペクトラムに基づき、その周波数スペクトラム上でピークとなる周波数を対象周波数kとして、スナップショットSSi(i=1〜4)毎に、全受信チャンネルCH1〜CHNから対象周波数kのデータx1(k)〜xN(k)を抽出して配列してなる受信ベクトルXi(k)((1)式参照)を生成する。更に、そのスナップショットSSi毎かつ対象周波数k毎に生成された受信ベクトルXi(k)のそれぞれについて、(2)式に従って、個別相関行列Rxx_ssi(k)を算出する。
【0039】
【数1】

【0040】
S160では、S150にて算出された個別相関行列Rxx_ssi(k)を、対象周波数k毎に平均(時間平均)した平均相関行列HRxx(k)を算出する((3)式参照)。
S170では、その求めた平均相関行列HRxx(k)の固有値分解を行い、予め設定されたノイズレベルの値より大きい固有値の数を到来波数Lとして求め、更に、求めた到来波数Lと雑音領域の固有値((4)式参照)とに基づき、(5)式で定義された評価関数PMU(θ)を用いて角度スペクトラム(MUSICスペクトラム)を求める。
【0041】
【数2】

【0042】
S180では、そのMUSICスペクトラムをヌルスキャンすることで、アンテナ素子AR1〜ARNが受信した反射波の到来方向、即ち、検出すべき物標が存在する方位を求める。
【0043】
【数3】

【0044】
なお、S170〜S180の処理は、対象周波数k毎に求めた平均相関行列HRxx(k)毎に行われ、対象周波数k毎に、横軸が方位に対応したMUSICスペクトラム(図3(b)参照)が得られる。また、平均相関行列HRxx(k)から評価関数PMU(θ)を得る手法は、例えば、非特許文献1などに記載されている通り周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0045】
S190では、上り変調時と下り変調時とで同じ方位にあるピーク周波数同士を組み合わせるペアマッチを行い、S200では、その組み合わされたピーク周波数から、FMCWレーダにおける周知の手法を用いて物標との距離,相対速度を求め、これら距離,相対速度を、先のS180で求めた方位と共に物標情報として出力して、本処理を終了する。
【0046】
<効果>
以上説明したように、車載レーダ装置2では、送受信動作を実行する毎に相関行列Rxx_ssi(k)を生成すると共に、平均相関行列HRxx(k)を生成するのに必要な4回分の送受信動作では、いずれも使用する周波数範囲の一部が互いに異なるようにされている。
【0047】
これにより、複数の反射波が互いに強い相関を有していたとしても、これら反射波の位相関係は、図4に示すように、送受信動作(スナップショットSS1〜SS4)毎に互いに異なったものとなる。その結果、送受信動作毎に生成される相関行列Rxx_ssi(k)を平均してなる平均相関行列HRxx(k)は、その平均効果により、各反射波間の相関が十分に抑圧されたものとなる。
【0048】
従って、車載レーダ装置2によれば、アンテナ素子数を増やしたり、検出可能な物標数を減少させたりすることなく、相対的な位置関係が変化しない(即ち、反射波が強い相関関係を有する)複数の物標を検出する場合の検出性能を向上させることができる。
【0049】
なお、図9(a)は、位置関係が変化せず且つ方位が接近した二つの物標が存在する場合に、レーダ波の中心周波数を変化させることなく、4回の送受信動作を実行する(図9(a)参照)ことによって得られた受信信号から、本実施形態の手法と同様に平均相関行列を求め、その結果から算出されたMUSICスペクトラムを示したものである。この場合、二つの物標からの反射波は強い相関を有したものとなるため、MUSICスペクトラム上では、連続した一つのピークとして検出されるが、車載レーダ装置2では、図3(b)に示すように、分離した二つのピークとして検出される。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
【0050】
<全体構成>
図5は、車載レーダ装置2aの全体構成を表すブロック図である。
なお、車載レーダ装置2aは、上述した車載レーダ装置2とは、受信系の構成、及び信号処理部10での処理内容が異なるだけであるため、この異なる部分を中心に説明する。
【0051】
図5に示すように、車載レーダ装置2aでは、受信系の構成が、1個のアンテナ素子AR,1個のミキサMX,1個の増幅器AMP,1個のAD変換器ADで構成されている。
また、基準信号生成部14は、信号処理部10から指定された中間周波数帯の周波数を有する非変調の基準信号を生成するように構成されている。
【0052】
このように構成されたレーダ装置2aでは、基準信号生成部14で生成された基準信号の周波数を逓倍した一定周波数を有する連続波(CW)からなるレーダ波が、送信器4によって送信アンテナASを介して送信され、その反射波がアンテナ素子ARにて受信されると、そのアンテナ素子ARからの受信信号Srを、ミキサMXにて送信器4からのローカル信号Lと混合することにより、これら受信信号Srとローカル信号Lとの差の周波数成分であるビート信号Bを生成し、このビート信号Bを増幅器AMPにて増幅すると共に不要な高周波成分を除去した後、AD変換器ADにてサンプリングしてビート信号データDに変換する。
【0053】
<物標情報生成処理>
次に、信号処理部10が実行する物標情報生成処理の詳細を、図6に示すフローチャートに沿って説明する。
【0054】
なお、本処理は、予め設定された一定間隔毎に繰り返し起動される。
本処理が起動すると、S210では、基準信号生成部14に対して周波数を指定する指令を出力する。但し、本ステップが実行される毎に、指定される周波数が順番に変化するようにされている。
【0055】
S220では、指定された周波数のCW波について予め設定された規定個(N個)のデータ(以下、スナップショットともいう)を収集し、S230では、信号処理部10が指定可能な全ての周波数(ここでは4種類)についてデータを収集したか否かを判断する。
【0056】
S230にて、否定判断された場合は、S210に戻って、データを収集していない周波数についてデータの収集を行い、肯定判断された場合は、必要な数のスナップショットが得られたものとして、S240に進む。
【0057】
S240では、スナップショットSSi(i=1〜4)毎に、収集した規定個のデータx1〜xNを配列してなる受信ベクトルXi((6)式参照)を生成し、そのスナップショットSSi毎に生成された受信ベクトルXiのそれぞれについて、(7)式に従って、個別相関行列Rxx_ssiを算出する。
【0058】
【数4】

【0059】
S250では、S240にて算出された全ての個別相関行列Rxx_ss1〜Rxx_ss4を平均(時間平均)した平均相関行列HRxxを算出する((8)式参照)。
【0060】
【数5】

【0061】
S260では、その求めた平均相関行列HRxxを用いて、第1実施形態におけるS170と同様に、MUSICスペクトラムを求める。これにより、図7(b)に示すように、横軸がビート周波数に対応したMUSICスペクトラムが得られる。
【0062】
S270では、そのMUSICスペクトラムをヌルスキャンすることで、アンテナ素子AR1〜ARNが受信した反射波のビート周波数を抽出し、その抽出したビート周波数から、CWレーダにおける周知の手法を用いて、レーダ波を反射したL個の物体について、その物体との相対速度をそれぞれ算出し、その算出した相対速度を物標情報として出力して、本処理を終了する。
【0063】
<効果>
以上説明したように、車載レーダ装置2aでは、第1実施形態の車載レーダ装置2と同様に、送受信動作を実行する毎に相関行列Rxx_ssiを生成すると共に、平均相関行列HRxxを生成するのに必要な4回分の送受信動作では、いずれも使用する周波数範囲の一部が互いに異なるようにされている。
【0064】
従って、車載レーダ装置2aによれば、平均相関行列HRxxは、各反射波間の相関が十分に抑圧されたものとなるため、アンテナ素子数を増やしたり、検出可能な物標数を減少させたりすることなく、相対的な位置関係が変化しない(即ち、反射波が強い相関関係を有する)複数の物標を検出する場合の検出性能を向上させることができる。
【0065】
また、車載レーダ装置2aでは、単一のアンテナ素子にて時系列的に取得された受信信号(ビート信号)を要素とする受信ベクトルXiに基づいて個別相関行列Rxx_ssiを生成し、その個別相関行列を時間平均してなる平均相関行列HRxxを用いて生成したMUSICスペクトラムからビート周波数を抽出するようにされている。
【0066】
従って、車載レーダ装置2aによれば、受信信号(ビート信号)を直接FFT処理してビート信号を抽出する場合と比較して、レーダ波を反射した物体からの反射波に基づくビート周波数を高分解能で検出することができ、接近した周波数を有するビート信号であっても、個別に分離して抽出することができる。
[第3実施形態]
次に第3実施形態について説明する。
【0067】
本実施形態では、信号処理部10が実行する物標情報生成処理の内容が、第1実施形態のものとは一部異なるだけであるため、この相違点を中心に説明する。
なお、信号処理部10は、自車両の挙動を検出するセンサ(ここでは車速センサ)から検出結果を取得できるように構成されている(図示せず)。
【0068】
<物標情報生成処理>
図10は、信号処理部10が実行する物標情報生成処理の内容を示すフローチャートである。
【0069】
本処理が起動すると、図10に示すように、まず、S100では、車速センサから検出結果を取得し、S101では、その検出結果に従って、自車両が停止している(車速が0km/h、又は、自車の車速センサのセンシング分解能(例えば、2km/h)以下の車速、或いはその分解能近傍の車速である)か否かを判断する。
【0070】
S101にて肯定判断(即ち、自車両は停車中であると判断)した場合は、S110に移行し、以下、第1実施形態の場合と同様にS110〜S200の処理を実行する。
一方、S101にて否定判断(即ち、自車両は移動中であると判断)した場合は、S102に移行する。
【0071】
S102では、基準信号生成部14に対して中心周波数を指定する指令を出力する。なお、S110の場合とは異なり、本ステップが繰り返し実行されても、指定される周波数は常に一定となるようにされている。
【0072】
S103では、FMCW波の1周期分のデータ(以下、スナップショットともいう)を収集し、続くS104では、信号処理部10が予め指定された必要数(例えば、4つ)のデータ(スナップショット)を収集したか否かを判断する。
【0073】
S104にて否定判断された場合は、S102に戻って、S102〜S103の処理を繰り返し、一方、S104にて肯定判断された場合は、必要な数のスナップショットが得られたものとして、S140に進む。
【0074】
以下、第1実施形態の場合と同様にS140〜S200の処理を実行する。
ここで図11は、本処理を起動する毎に取得される必要数(4つ)のスナップショットSS1からSS4において実行される周波数変調の一例であり、(a)が自車両が停止中(S101:YES)の場合、(b)が自車両が移動中(S101:NO)の場合である。
【0075】
<効果>
本実施形態では、物標からの反射波間に強い相関関係が生じてしまう自車両停車中のみスナップショット毎にFMCW波の周波数を異ならせる制御を行うようにされているため、制御負荷を軽減することができる。
【0076】
なお、本実施形態では、自車速によって周波数変調の仕方を切り替える技術を、第1実施形態として示した装置に適用した例を示したが、この技術を第2実施形態として示した装置に適用してもよい。
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるもの
ではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様にて実施することが可能である。
【0077】
例えば、上記第2実施形態では、単一周波数のCW波を用いているが、図8(a)に示すように、複数周波数(図では2周波)のCW波を用いてもよい。
この場合、同時に送信する周波数のうち高い方をfai、低い方をfbi(iはスナップショットSS1〜SS4を識別するための識別子)として、fai,fbiのそれぞれについて平均相関行列HRxx_a,HRxx_bを算出して、距離や速度の算出に用いればよい。
【0078】
また、FMCW波やCW波を使用するレーダ装置の代わりに、パルス波を連続的に送信して、ゲート信号(送信信号を遅延させた信号)と受信信号との相関を求めることにより、パルス波を送信してから反射波を受信するまでの遅延時間を求める周知のパルスレーダ装置に適用してもよい。
【0079】
この場合、距離を測定する1回の測定周期毎に、パルス波の周波数を変化させると共に、各測定周期では、相関値が最大となるタイミングの前後規定個の受信信号を用いて受信ベクトル、ひいては相関行列を生成するように構成すればよい。
【0080】
また、第1実施形態において、各チャンネルでビート周波数を求める際に、FFT処理により得られる周波数スペクトラムを用いる代わりに、チャンネル毎の相関行列から得られるMUSICスペクトラムを用いるように構成してもよい。
【0081】
上記第1実施形態では、受信アンテナを複数のアンテナ素子で構成することで、複数の受信チャンネルを設けているが、送信アンテナを複数のアンテナ素子で構成することで、複数の送信チャンネルを設けたり、送信アンテナ,受信アンテナのいずれもを複数のアンテナ素子で構成することで、複数のチャンネルを設けたりしてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、相関行列に基づいてMUSICスペクトラムを生成する場合について説明したが、これに限らず、相関行列に基づいて角度スペクトラムを生成し、この角度スペクトラムを解析することで高分解能な方位検出を行う、いわゆるスーパーレゾリューション法であれば、いずれを用いてもよい。
【符号の説明】
【0083】
2,2a…車載レーダ装置 4…送信器 5…受信アンテナアレー 6…受信器 8…AD変換部 10…信号処理部 12…高周波発振器 14…基準信号生成部 16…PLL回路 18…分配器 AD…AD変換器 AMP…増幅器 AR…アンテナ素子 AS…送信アンテナ MX…ミキサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探査波を送信すると共に該探査波の反射波を受信する送受信動作を繰り返し実行する送受信手段と、
前記送受信動作毎に前記送受信手段から取得した受信信号に基づいて相関行列を生成し、予め設定された規定数の前記相関行列を時間平均した平均相関行列を生成する相関行列生成手段と、
を備え、前記相関行列生成手段にて生成された平均相関行列を用いて前記探査波を反射した物標に関する情報である物標情報を求める物標検出装置において、
前記平均相関行列を生成するために実行される前記規定数回分の送受信動作のうち、少なくとも1回は、前記探査波の周波数の設定が他とは異なるように前記送受信手段を動作させる周波数制御手段を設けたことを特徴とする物標検出装置。
【請求項2】
前記送受信手段は、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナを使用し、各アンテナ素子に対応したチャンネル毎に前記探査波の送信又は前記反射波の受信を行い、
前記相関行列生成手段は、前記各チャンネルにて同時に取得された受信信号を要素とする受信ベクトルに基づいて前記相関行列を生成し、
前記物標情報として前記物標が存在する方位を求めることを特徴とする請求項1に記載の物標検出装置。
【請求項3】
前記相関行列生成手段は、単一のアンテナ素子にて時系列的に取得された受信信号を要素とする受信ベクトルに基づいて前記相関行列を生成し、
前記物標情報として前記物標との距離及び相対速度のうち少なくとも一つを求めることを特徴とする請求項1に記載の物標検出装置。
【請求項4】
前記探査波は、搬送波を断続してなるパルス波、搬送波をFM変調してなるFMCW波、無変調の搬送波であるCW波のいずれかであり、
前記周波数制御手段は、前記搬送波の周波数を変化させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の物標検出装置。
【請求項5】
前記送受信手段は、搬送波の周波数をPLL回路を用いて変化させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の物標検出装置。
【請求項6】
当該物標検出装置を搭載した移動体の挙動を表す情報を取得する情報取得手段を備え、
前記周波数制御手段は、前記取得情報が前記移動体の停止を示している場合にのみ、前記探査波の周波数の設定を、前記規定数回分の送受信動作のうち少なくとも1回は異ならせることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の物標検出装置。
【請求項7】
当該物標検出装置を搭載した移動体の挙動を表す情報を取得する情報取得手段を備え、
前記周波数制御手段は、前記情報取得手段による取得情報が前記移動体の移動を示している場合に、前記探査波の周波数の設定を、前記規定数回分の送受信動作間で不変とし、前記取得情報が前記移動体の停止を示している場合にのみ、前記探査波の周波数の設定を、前記規定数回分の送受信動作のうち少なくとも1回は異ならせることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の物標検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−25928(P2010−25928A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143437(P2009−143437)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】