物質の酸化方法およびその酸化装置
【課題】
環境負荷が少なく、取り扱いが容易であり、かつ比較的低コストにて物質を酸化することができる、亜酸化窒素(N2O)を含む液中における物質の酸化方法および酸化装置を提供する。
【解決手段】
亜酸化窒素(N2O)を含む溶液と物質を接触させ、該溶液に対して紫外光を照射することによって前記物質の酸化を行う物質の酸化方法であって、紫外光の照射時間により物質の酸化時間を制御することを特徴とする物質の酸化方法。
環境負荷が少なく、取り扱いが容易であり、かつ比較的低コストにて物質を酸化することができる、亜酸化窒素(N2O)を含む液中における物質の酸化方法および酸化装置を提供する。
【解決手段】
亜酸化窒素(N2O)を含む溶液と物質を接触させ、該溶液に対して紫外光を照射することによって前記物質の酸化を行う物質の酸化方法であって、紫外光の照射時間により物質の酸化時間を制御することを特徴とする物質の酸化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質を酸化する方法およびその酸化装置に関し、特に、亜酸化窒素(N2O)溶解水を用いた液中における物質の酸化に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の酸化による工業製品の製造においては、酸化剤と呼ばれる酸素含有物質と有機化合物を混合し、触媒や熱などを併用して酸化反応を行う方法が実施されている。
【0003】
例えば、ナイロンの原料であるアジピン酸の製造では、原料のシクロヘキサノンやシクロヘキサノールに対して、大量の硝酸を用いて酸化する方法(硝酸酸化)が工業的に実施されている。この方法では酸化剤として強酸である硝酸を用いることから、装置の腐食への対策に費用がかかってしまうことや、製造上での危険性を低減するために費用がかかってしまう、などの問題がある。
【0004】
またポリエステルの原料であるテレフタル酸の製造では、原料のパラキシレンに対して、空気中の酸素を用いて酸化する方法(空気酸化)が工業的に実施されている。この方法ではコバルト、マンガンおよび臭素化合物を触媒として用いているが、臭素による装置の腐食への対策に費用がかかってしまうことや、臭素による環境負荷を低減するために費用がかかってしまう、などの問題がある。
【0005】
シリコンウエハー等の物質を酸化する方法として、酸化性物質が溶解している水に基板を接触させる方法がある。例えば、酸化性物質が溶解している水は、過酸化水素水やオゾン水などである。
【0006】
過酸化水素水は、その酸化力を利用して、紙・パルプの漂白、半導体の洗浄、殺菌・消毒などに用いられている。また、オゾン水は、その酸化力を利用して上下水道の殺菌、食品・食器の殺菌、最近では半導体の洗浄などにも用いられている。
【0007】
過酸化水素水は、比較的安定であるため、各種用途に用いた後の廃液中には過酸化水素が比較的長時間残留してしまう。よって過酸化水素水廃液は環境負荷を低減するために分解処理が必要となり、工業的に大量の過酸化水素水を使用した場合などには、分解処理に要する費用が大きくなってしまうという問題がある。
【0008】
一方、オゾン水は、比較的不安定であるため、比較的短い時間で自然に分解する。しかしながら低濃度であっても人体への有害性があるために、また配管設備等の材質に与える負荷が大きいために、やはり分解処理が必要となり、処理費用が生じてしまうという問題点がある。また、オゾン水は比較的不安定であるがゆえに、その酸化力を維持した状態での長期間の貯蔵は実質的に不可能である。言いかえれば、大量に貯蔵しておいたオゾン水から、必要な時に、必要な量だけを取り出して使用するといった方法は不可能であるという不便さがある。さらに、停止状態にあるオゾン水製造装置の運転を開始してから安定的にオゾン水を供給するまでには、ある程度の装置立ち上げ時間を要する。仮に間欠的にオゾン水を使用したい場合があったとして、オゾン水を使用しない不使用時間に比べて装置立ち上げ時間の方が長い場合には、オゾン水の不使用時間にもオゾン水製造装置を常に運転状態を継続させねばならず、それに伴う無駄な原料費や無駄なランニングコストの発生が不可避になってしまう。
【0009】
物質を酸化する別な方法としては、光触媒を用いた方法がある。光触媒とは光の照射を受けたときに触媒作用を示す物質であり、その代表的なものとしては、アナターゼ型の結晶構造をもった二酸化チタンがある。二酸化チタンは約380nmよりも短い波長の光が照射されると酸化作用を示す。酸化したい目的物質が気相中に存在している場合には、二酸化チタンも気相中に存在させ、そこに光を照射することで目的物質の酸化が行われる。また酸化したい目的物質が水中に存在している場合には、二酸化チタンを水中に存在させ、そこに光を照射することで目的物質の酸化が行われる。
【0010】
二酸化チタンは、その光触媒としての酸化力を利用して、アンモニアやホルムアルデヒドなどの悪臭成分の脱臭・分解や、飲料水や排水の殺菌・浄化などに用いられている。二酸化チタンの取り扱いを容易にするため、酸化チタンは適当な基材表面に薄い膜状に固定化された形態で使用されることが多く、基本的には二酸化チタン表面に吸着した物質に対してのみ酸化作用を示す。そのため、酸化を目的とする物質自体の気相中および水中における二酸化チタン表面への拡散・吸着が律速となって、酸化速度が比較的遅いという問題点がある。
【0011】
二酸化チタンを水中で用いた場合には、二酸化チタンの表面に吸着した水分子が酸化されることで、酸化力をもったヒドロキシラジカルが生成する。このヒドロキシラジカルは非常に短い寿命しか持たず、二酸化チタンの極近傍にしか存在しえないことから、実質的にはヒドロキシラジカルの拡散に由来した、二酸化チタンから距離が離れた水中での酸化作用は認められない。このことから、過酸化水素水やオゾン水とは異なり、二酸化チタンが存在している水の中に、水への溶解性を示さない固体物質、例えば半導体基板などを浸漬させたとしても、光照射の有無に関わらず、その固体物質の表面を酸化させることはできないという問題点がある。仮に、細かい粉末状の二酸化チタンを水中に分散させて酸化速度の上昇を試みたとしても、酸化処理後の二酸化チタンの分離・回収が容易ではないという問題点がある。
【0012】
また、亜酸化窒素を用いた酸化方法についての報告もなされている。亜酸化窒素(N2O)は、常温・常圧では安定な気体であり、可視光による分解は起こらない。この亜酸化窒素の性質については、例えば、非特許文献1に記載されている。この亜酸化窒素に対して、240nmよりも波長の短い光を照射すると、亜酸化窒素は窒素分子(N2)と原子状酸素(O)とに分解することが知られている。このことは、例えば、非特許文献2に記載されている。
【0013】
気相中において発生させた原子状酸素(O)を用いて、目的物質を酸化することについては、いろいろな研究が行われてきている。例えば、Siウエハー表面の酸化に関しては、非特許文献3に記載されている。
【0014】
また、特許文献1には、シリコン基板表面の自然酸化膜を希フッ酸溶液によって除去した後、シリコン基板を約300℃に昇温し、超高純度酸素ガスをシリコン基板に接触させて分子間程度のシリコン酸化膜を形成し、次にシリコン基板を900℃まで昇温して所定の厚さの酸化膜を形成する発明が開示されている。シリコン基板の酸化は、酸素および/または酸素を含む分子を含有する溶液を用いることができ、当該溶液は、酸素が溶在する溶液、オゾンが溶在する溶液、過酸化水素水、硫酸・過酸化水素水溶液、塩酸・過酸化水素水溶液、アンモニア・過酸化水素水溶液を用いることが開示されている(特許文献1の段落0013参照)。
【0015】
さらに特許文献2は、亜酸化窒素を用い、そこから発生された酸素原子により、半導体基板表面に自然酸化物を形成する方法を開示している。この酸化物の形成は、大気圧未満の気相中において行われる。
【0016】
電子部品の製造においては、種々の目的にて、導電性材料上の選択された領域を酸化(以下、局所酸化という)し、絶縁する技術が実施されている。また、局所酸化することにより、耐薬品性の高い酸化膜層を形成し、これをマスクとして、酸化されていない領域を薬品により溶解除去し、基材を加工する技術が実施されている。さらに装飾品の製造においても、基材表面に非酸化領域と色目の異なる酸化領域や非酸化領域より着色性を向上させた酸化領域を形成し、模様とすることにより、優れた美的外観の装飾品を得ることが広く実施されている。
【0017】
この局所酸化領域は、従来フォトリソグラフィ工程を用いて、レジストパターンもしくは耐酸化性材料のパターンを形成し、これらをマスクにし、マスクに被覆されていない領域を酸化する方法、もしくは、予め基材表面に酸化層を形成した後、フォトリソグラフィ工程を用いて、レジストパターンを形成し、これらをエッチング・マスクにし、マスクに被覆されていない領域の酸化層を溶解除去し、レジストに被覆保護された領域の酸化層のみを残す方法により形成されている。従来実施されている前者のレジストを用いたフォトリソグラフィ工程を使用した局所酸化の方法を図12に示す。
【0018】
まず、図12(a)に示されるように、局所酸化する基材70上に、従来から多く使用されている液状レジストのスピンコーティング法やローラーコーディング法、ドライフィルムレジストのラミネート法などによりフォトレジスト層71を形成する。
【0019】
次に、図12(b)に示されるように、上記フォトレジスト層71に、所定パターンのマスク(レチクル)72を介しての露光を行い、更に現像を行うことにより、図12(c)に示されるように、フォトレジスト層71を、所定形状のマスクパターンに成形する。
【0020】
この後、図12(d)に示されるように、所定形状のフォトレジスト層71をマスクとして、過酸化水素水、オゾン水などの酸化剤を含む溶液を用いた湿式ケミカル酸化法、電解液中での陽極酸化法、または酸素イオン打ち込みや石英反応管を用いた熱酸化などの乾式酸化法などにより、フォトレジスト層71の開口部に相当する基材70の領域を選択的に酸化して酸化領域70aを形成する。
【0021】
局所酸化後に、プラズマを用いた乾式灰化処理やレジスト剥離液を用いた湿式処理などによりレジスト層71を除去し、図12(e)に示されるように、所望の通りの酸化領域70aが形成された基材70を得る。
【0022】
酸化領域70aは、使用目的により、図12(e)に示されるように、基材70表面に浮遊した状態(島)で形成される場合、また図12(f)に示されるように、下地層73まで達するように形成される場合がある。
【0023】
例えば、半導体装置の製造においては、シリコンウエハー上に耐酸化性材料である窒化シリコンのマスクパターンをフォトリソグラフ工程により形成し、この窒化珪素にて被覆されていない領域のシリコンをドライ酸化法にて局所的に酸化、絶縁化する素子分離(LOCOS)技術が一般的に実施されている。
【0024】
また特許文献3は、アクティブマトリクス型の反射型液晶表示装置の製造において、アルミニウムまたはタンタルなどの金属薄膜上に、フォトリソグラフ工程によりレジストパターンを形成し、このレジストパターンにて被覆されていない領域の金属薄膜を陽極酸化法にて局所的に酸化、絶縁化することにより、金属薄膜をマトリクス状に絶縁分離させる技術が開示されている。
【0025】
特許文献4は、ハードディスク等の磁気情報記録装置に用いられる薄膜磁気抵抗効果型ヘッドの製造において、導電性材料(鉄、亜鉛、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン、タンタル、銅又は銅合金、シリコン又はシリコン合金、銀、ジルコニウム、タングステン、クロム、モリブテンなど)上に、フォトリソグラフ工程によりレジストパターンを形成し、このレジストパターンにて被覆されていない領域の導電性材料を陽極酸化法、熱酸化法またはイオン注入法にて局所的に酸化、絶縁化することにより、薄膜磁気抵抗素子から信号を取り出すための引出し電極層の引出し電極形状以外の部分を絶縁化処理し絶縁部として、一対の引出し電極部を形成する技術を開示している。
【0026】
特許文献5は、半導体圧力センサーやインクジェットプリンターヘッドに代表されるシリコンウエハーを用いたミクロな精密機械部品・マイクロセンサー等を製造するマイクロマシニングにおいて、予めシリコンウエハー表面に酸化膜を付与し、その後フォトリソグラフィ工程によりレジストパターンを形成、このレジストパターンにて被覆されていない領域の酸化膜を緩衝フッ酸溶液で除去し、更に硫酸と過酸化水素水の混合系によりレジストを剥離することにより、シリコン酸化膜のパターンを得て、更にこのシリコン酸化膜パターンをマスクとして、シリコン酸化膜に被覆されていない領域をアルカリ液でエッチングする技術を開示している。
【0027】
更に特許文献6は、装飾品の製造方法において、予め基材(アルミニウム、銅、マンガン、シリコン、マグネシウム、亜鉛等)表面に酸化膜を付与し、その後フォトリソグラフィ工程によりレジストパターンを形成、このレジストパターンにて被覆されていない領域の酸化膜をアルカリ溶液で除去した後、レジストを剥離することにより、規定された領域に酸化膜パターンを形成する技術を開示している。
【0028】
【特許文献1】特許第3210370号 公報
【特許文献2】特公平4−36456号 公報
【特許文献3】特開平10−268359号 公報
【特許文献4】特開平6−338035号 公報
【特許文献5】特許第3525612号 公報
【特許文献6】特開2005―15898号
【非特許文献1】山之内直俊、武田光雄、「亜酸化窒素」、高圧ガス、Vol.13 No.3(1976)p105〜111
【非特許文献2】「気相における光化学反応」、日本化学会編,化学総説無機光化学 学会出版センターNo.39,(1983)p14〜38
【非特許文献3】K.Uno,A.Namiki,S.Zaima,T.Nakamura,N.Ohtake、「XPS Study of the Oxidation Process of Si(111) via Photochemical Decomposition of N2O by an UV Excimer Laser」、Surface Science,193(1988)、p321−335
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら上記従来のシリコン基板等の酸化方法には次のような課題がある。特許文献1は、シリコン基板の酸化に用いる溶液として、オゾンが溶在する溶液や過酸化水素水を用いるものであるため、これらの溶液の使用後の廃液を分解処理しなければならず、コスト高となってしまう。
【0030】
特許文献2は、亜酸化窒素を用いて気相中で酸化を行うため、そのガスの取り扱いが困難である。また、オゾンの発生を抑止するため、処理チャンバー等の密閉装置が必要となり、必要に応じて処理チャンバー内の温度を昇温させなければならない。このため、亜酸化窒素による酸化の製造コストが高くなってしまう。
【0031】
特許文献3〜6では、基材の局所酸化を実施する場合には、レジスト層形成(レジスト塗布)工程、露光工程、現像工程、剥離工程等の多くの工程からなるフォトリソグラフィ工程が必要であり、工程毎に異なる装置を使用する為、その取扱、管理、維持に多くの手間と労力が掛かっている。またレジスト形成工程では、レジストを硬化させる際に有機溶剤の揮発があり、現像工程では一般的に強アルカリ液や有機溶剤が多用され、更に酸化膜層をエッチングする際にも強アルカリ、フッ酸などの薬品が使用される為、薬品保管時の管理、薬品使用時の安全確保や使用後の廃液の処理が必要となり、コスト高となってしまう。
【0032】
本発明は、上記従来の課題を解決し、環境負荷が少なく、取り扱いが容易であり、かつ比較的低コストにて物質を酸化することができる、物質の酸化方法および酸化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、水中に溶解した亜酸化窒素に光を照射する方法を用いることで、上記従来の課題を一気に解決する方法を手にするに至った。すなわち本発明は、溶液を用いた物質の酸化方法であって、亜酸化窒素(N2O)を含む溶液と物質を接触させ、前記溶液に対して少なくとも240nm以下の波長の光を照射することで前記物質の酸化を行う、溶液を用いた物質の酸化方法およびその酸化装置である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、亜酸化窒素を含む溶液に物質を接触させ、そこに240nm以下の波長の光を照射することで、亜酸化窒素を解離させ、酸化力が強い原子状酸素(O)を生成させることで、物質の酸化を行うことができる。なお原子状酸素(O)の寿命はナノ秒程度と極めて短く、光の照射により解離された原子状酸素(O)が、移動して光の照射されていない領域の基材と反応する確率は極めて低く、規定された領域に光を照射することにより、規定された領域の基材のみを、光の照射により解離された原子状酸素(O)と反応させ、酸化させることができる。このことは、つまり半導体製造において用いられるものと同様なマスクを用いることで、所望の形状の酸化された領域を基板上に形成することが可能であることを示している。また、光の透過する領域を持たないマスクを目的物質の選択された領域の上に配置することで、該目的物質の選択された領域のみを遮光することで、目的物質の選択された領域についてのみ酸化を行わないことも可能である。
【0035】
気相中において240nm以下の紫外線を照射して亜酸化窒素を解離させる際、空気中の酸素が共存すれば人体や環境に有害なオゾンガス(O3)が生成されてしまうが、液中であればオゾンガスの発生を抑制することができる。さらに、亜酸化窒素をガスとして取り扱う場合には、ガス漏れ等の管理をしなければならず、取り扱いは必ずしも容易ではないが、亜酸化窒素を溶在させた水であれば、非常に取り扱いが容易である。気体と気体の溶解した溶液との間において、取り扱いの容易さに違いがあることは、一般的によく知られたことであり、例えば、塩化水素ガスは強力な刺激物質で、鼻や眼の粘膜を侵し、1000ppm以上のガスに数分間さらされると致命的となるのに対して、塩化水素の水溶液である塩酸は、37%程度の濃度にて市販されており、金属の溶解や、染料・香料・医薬・農薬などの製造原料としての用途に広く用いられている。さらに、酸化に伴う有害な副生物の発生は極めて少ないと考えられ、過酸化水素水溶液などのように廃液の分解処理は基本的に不要となり、環境負荷を小さくし、かつ処理コストを大幅に低減することができる。
【0036】
また前記溶液に対して少なくとも240nm以下の波長の光を、光の照射領域を制御しながら照射することで、前記基材の選択された領域を酸化することが可能で、煩雑なレジストを用いたフォトリソグラフィ工程を使用することなく、所望の領域を酸化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明による物質の酸化方法は、亜酸化窒素(N2O)を含む水溶液中に目的物質を存在させて、この水溶液に対して少なくとも240nm以下の波長の光を照射することでN2Oを解離させ、目的物質の酸化を行うものである。以下、この酸化方法について詳述する。
【0038】
目的物質を酸化するには、何らかの酸化活性種が目的物質と同一系内に存在した状態を作ることが必須となる。一般に酸化活性種と言われるものにはいろいろな種類があり、例えば、過酸化水素(H2O2)、オゾン(O3)、スーパーオキシド(O2−)、一重項酸素(1O2)、ヒドロキシラジカル(・OH)、原子状酸素(O)などがその範疇に入る。これらは、各々、異なった酸化力をもっている。目的物質を酸化する上では、酸化活性種のもっている酸化力は高い方が有利であるのは当然のことである。そこで我々は、極めて高い酸化力をもっている酸化活性種である原子状酸素(O)を利用して目的物質を酸化する方法についての研究を行った。
【0039】
しかしながら、水中に溶解した状態の亜酸化窒素に光を照射して、水中に原子状酸素(O)を発生させ、かつ、この水中に目的物質を存在させた状態にしておくことで、目的物質を酸化するという方法については、研究が行われておらず、またこの方法の有効性に関して詳細な知見をもつものはなかった。
【0040】
そもそも、ある特別な例外を除いて、亜酸化窒素の周囲に存在する物質が光の持つエネルギーを受け取り、この周囲の物質から亜酸化窒素へとエネルギーが移動して亜酸化窒素が解離するわけではない。ここで言う、ある特別な例外とは、亜酸化窒素が存在する気相中に水銀蒸気を共存させた状態にし、ここに光を照射して水銀を励起状態にして、この励起状態の水銀から亜酸化窒素にエネルギーを与えることによって亜酸化窒素を解離させるという、水銀の光増感分解のことであり、例えば、InternationalJournal of Chemical Kinetics,Vol4,(1972),497〜512頁のR.Simonaitis,Raymond I.Greenberg,JulianHeicklenによる「The Photolysis of N2O at 2139Å and 1849Å」に記載されている。
【0041】
つまり一般的には、亜酸化窒素の解離は、N2O分子が光の持つエネルギーを直接的に受け取ることによって引き起こされる現象であり、基本的には気相中であるか水中であるかには関係なく発生する。以上のことから、水中であっても光を照射することで亜酸化窒素の解離を引き起こすことは可能であり、これによって発生した原子状酸素(O)によって目的物質を酸化することが可能であるとの考えに至った。そして、上記したように、亜酸化窒素は、λ>240nmの光を全く吸収せず、N2OをN2とOに解離するには、λ<240nmの波長の光が望ましい。
【0042】
また、British Journalof Anaesthesia, 1972, 44(4)、310には、気相中における亜酸化窒素と水中における亜酸化窒素の吸収スペクトルが報告され、190nmの波長に吸収の最大値が存在すると示されている。
【0043】
他方、水中に溶解した亜酸化窒素を好適に分解するには、光が水によって吸収されず、大部分の光が亜酸化窒素に吸収されることが望ましい。しかし、水(H2O)による光の吸収は、167nmがピークであることが知られており、従って、少なくともそのピークより波長の長い光を照射することが望ましい。後述の実施例に開示する実験結果から、水による光の吸収を抑制するために、173nm以上の波長を照射することが望ましいと推測される。
【0044】
ここで、水中に溶解させるN2Oの濃度としては、十分な効果を得るためには10ppm以上は必要である。濃度が高いほど酸化速度が大きくなり、短時間での酸化を可能とするものの、大気圧下での光照射を行う際の、気泡の発生や雰囲気中へのN2Oの散逸による濃度変化による影響を考慮すると、5000ppm以下であることが好ましい。更に好ましくは、100ppmから4000ppmであり、最も好ましくは500ppmから3000ppmである。
【0045】
また、酸化を行う亜酸化窒素を含んだ水溶液の温度としては、水の凝固の影響を考慮すると1℃以上であることが必要であり、また水の沸騰の影響を考慮すれば、99℃以下であることが必要である。さらに、温度が高くなるほど、飽和溶解濃度が低下してしまうことと、酸化される物質自体の温度低下による酸化速度の低下を考慮すると、3℃から70℃の温度範囲が好ましく、更には5℃から60℃が好ましい。
【0046】
また、酸化を行う際に溶液が接する雰囲気の気圧としては、ある程度の減圧でもある程度加圧でも酸化は可能ではあるが、減圧に伴なう亜酸化窒素の水中からの散逸と、加圧に伴う雰囲気ガスの水中への溶解とを考慮すると、大気圧程度が好ましい。もちろん、光透過性の部材等を用いて溶液と雰囲気の気体が直接的に接触しない状態とすれば、雰囲気の気圧が大気圧程度でなくても、何ら問題はない。
【0047】
ただし、光源から発せられた240nm以下の光が溶液に入射するまでに大気中の酸素分子によって吸収されて照度が低下したり、オゾンが発生したりするのを防ぐために、光源から溶液までの空間を不活性ガスによって大気圧程度にしても良く、溶液と光源の間の任意の空間に光透過性の部材を用いた真空領域を配置しても良く、また光源自体を物質とともに溶液中に配置してもよい。
【0048】
本発明においては、亜酸化窒素を溶解させる溶媒としては240nm以下の波長の光に対する透過能力をもつものが好ましく、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、アセトニトリル、ヘキサン、ジオキサン、グリセリン、n−ペンタン、ジクロルメタンなどが好ましく、190nm付近の波長の光に対する高い透過能力をもっている水が特に好ましい。
【0049】
亜酸化窒素を含む溶液と物質を接触させて光照射を行なうに際し、該物質を亜酸化窒素を含む溶液の液中に浸漬、または溶解させてもよい。また、該物質を亜酸化窒素を含む溶液の液滴に接触させてもよい。さらに、亜酸化窒素を含む溶液を回転される物質上に滴下してもよい。
【0050】
なお、本発明において、酸化を実施しようとする物質は、亜酸化窒素を溶解した溶液中に溶解する性質の物質でもよく、また溶解しない性質の物質でもよい。溶解しない性質の物質としては、例えば、シリコン、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、タンタル、銀、ジルコニウム、タングステン、クロム、モリブテン、ニッケル、ハフニウム、ルテニウム、ニオブ、イットリウム、スカンジウム、ネオジム、ランタン、セリウム、コバルト、バナジウム、マンガン、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、ロジウム、パラジウム、カドミウム、アンチモン、またはこれらを含む合金などがあげられる。
【0051】
本発明においては、亜酸化窒素が溶解した溶液中に紫外光を照射した際に、該溶液中にて発生する原子状酸素を利用して物質を酸化するため、酸化を行う手順としては、まず該溶液と物質を接触させた状態を用意した上で紫外光を照射しても良く、また物質に紫外光を照射した状態を用意した上で該溶液を物質に接触させることによって紫外光を該溶液に照射した状態にしても良く、また該溶液に紫外光が照射された状態を用意した上で該溶液に物質を接触させても良い。
【実施例】
【0052】
上記したように、水中であっても240nm以下の光を照射することで亜酸化窒素の解離を引き起こし、これによって発生した原子状酸素(O)によって物質を酸化することできる。更に光の照射領域を制御しながら光を照射することで、基材の規定された領域のみを酸化することができる。以下、実施例を示しながら詳細に説明する。
【0053】
<メチレンブルーの酸化分解>
光触媒の酸化力評価において行われる定番的な方法として、メチレンブルーの酸化分解がある。メチレンブルーは水溶液の状態で青色を呈し、酸化されることで青色が消失して無色になる。光触媒の酸化力評価ではメチレンブルー(10ppm)水溶液の665nmの吸光度変化を測定するのが一般的である。また、メチレンブルー(10ppm)水溶液の665nmの吸光度が初期の1割程度にまで減少するためには、光触媒では数十分〜数百分程度の時間を要するのが一般的である。
【0054】
図1は、メチレンブルーの酸化分解を行った実験装置の模式図である。実験装置は、一面が開放された容器10と、容器10の真上に配置される高圧水銀ランプ20とを含む。高圧水銀ランプ20は、少なくとも240nm以下の波長を含む光を発生し、出力は1200Wである。高圧水銀ランプ20は、その光が容器10の全面を照射するように、容器10に近接して配置される。容器10内に、メチレンブルー(10ppm)と亜酸化窒素が溶解しているメチレンブルー水溶液30が充填される。
【0055】
図2は、図1に示した実験装置によるメチレンブルーの酸化分解実験結果を示すグラフであり、亜酸化窒素が約1000ppm溶解している。該グラフは、横軸に光照射時間(分)、縦軸にメチレンブルー水溶液の665nm吸光度を示す。ここである物質に入射された光の強度をIi、そこから出射された光の強度をIoとすると、光の透過率(T)は数式1によって表される。そして、そのときの吸光度は数式2によって表される。
【0056】
【数1】
【0057】
【数2】
【0058】
図2のグラフから、1分間の照射時間で約5割程度のメチレンブルーが分解され、3分間の照射時間で約9割程度のメチレンブルーが分解していることが確認された。
【0059】
図3は、図1に示した実験装置において、メチレンブルー(10ppm)とヘリウム(He)(約16ppm)が溶解している水溶液を用いてメチレンブルーの酸化分解実験を行った結果であり、光照射時間(分)とメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の関係を示すグラフである。
【0060】
ヘリウム(He)は、よく知られた不活性ガスであり、665nmにおいて光を吸収しないことが分かっている。今回は、亜酸化窒素溶解水との比較を行う上で、使用する水中に溶解してしまっている空気成分(N2,O2,CO2など)を追い出すために、水中に強制的にヘリウム(He)を溶解させた。図3のグラフからも明らかなように、亜酸化窒素を溶解している水を使った場合の結果(図2)とは異なり、1分間の照射時間ではほとんど分解が認められず、3分間の照射時間でもメチレンブルーはあまり分解していないことが確認された。つまり、図2と図3の比較から、亜酸化窒素に対して光を照射することで、メチレンブルーを酸化分解できることが確認された。
【0061】
図4は、図1に示した実験装置において、高圧水銀ランプ20を点灯しない状態で、水溶液30をただ放置した時間とメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の関係を示すグラフである。水溶液30にはメチレンブルーと亜酸化窒素が溶解しているが、240nm以下の波長の光を照射しない状態では、60分間放置しても、665nm吸光度は変化しないことが確認された。つまり、図2と図4の比較から、亜酸化窒素に対して光を照射しなければ、メチレンブルーは酸化分解されないことが確認された。
【0062】
図5は、図1に示した実験装置において、高圧水銀ランプ20によって水溶液30に紫外光の照射を開始した後、0.5分が経過した時点で、水溶液30への紫外光の照射を停止した状態とし、その時点から更に1分間が経過した時点で再び水溶液30に紫外光が照射した状態へと戻した場合のメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の変化を示すグラフである。図5のグラフから、紫外光の照射を開始するとともに水溶液中のメチレンブルーが分解するが、紫外光の照射を停止した状態にしてからの1分間にはメチレンブルーの分解も停止した状態となっており、その後、紫外光が照射した状態に戻ると同時にメチレンブルーの分解の始まることが確認された。このことから、紫外光の照射時間を選択することによって、物質の酸化時間を制御することが可能であることが確認された。
【0063】
以上の実験(図2ないし図5)は、全て室温(24℃付近)にて実施したものである。この結果から、本発明においては、紫外光の照射時間を選択することで、物質の酸化時間を制御することが可能なことが確認された。なお、本発明において、原子状酸素の寿命は極めて短く、また紫外光の照射を停止すると同時に原子状酸素の発生は停止するため、実質的には、紫外光の照射を停止することが酸化を停止することを意味している。また実験では、亜酸化窒素を解離するための光源として、高圧水銀ランプ20を使用したが、240nm以下の波長の光を発生するものであれば、高圧水銀ランプの以外の光源を使用することが可能である。ランプ出力として1200Wを用いたが、これ以外の出力で行っても酸化分解は可能である。一般に同一のランプを用いた場合、出力によって酸化分解の速度が影響を受ける。つまり、ランプ出力が小さいと酸化分解の速度は低下し、逆にランプ出力が大きいと酸化分解の速度は上昇する。所望の酸化分解速度に応じて、適宜ランプ出力を選択するようにしてもよい。
【0064】
図6は、図1の実験装置を用い、紫外線光を照射したときの亜酸化窒素水溶液(亜酸化窒素含有量約1000ppm)の吸収スペクトルを示したものである。ここには容器内にメチレンブルーは入っていない。横軸は、測定範囲200〜340nmの波長帯域を示し、縦軸は吸光度を示している。曲線C1〜C3は亜酸化窒素(N2O)の吸光度を示し、C3が3分間照射、C2が1分間照射、C1が照射なしを示している。グラフからも明らかなように、240nm以上の波長の光では、吸光度がゼロであり、光が全く吸収されていない。言い換えれば、光エネルギーの照射による亜酸化窒素の解離が行われないことがわかる。
【0065】
表1は、図6の波長205nmにおける吸光度から求めた亜酸化窒素の濃度変化を示す表である。なお、照射時間がゼロの濃度を飽和濃度(水温25℃での値)として、各々の吸光度の相対値を掛け算にて算出したものである。3分間の照射により亜酸化窒素の濃度がかなり減少しているのがわかる。
【0066】
【表1】
【0067】
また、図6に示す実験結果から、実質的にオゾン(O3)の副生物の検出はされなかった。すなわち、オゾンの最大波長(λmax)は260nmであるが、そこでの吸光度は検出限界以下であった。
【0068】
<シリコンウエハーの酸化>
次にシリコンウエハーの酸化の実験結果を説明する。図7は、シリコンウエハーの酸化を行った酸化装置の模式図である。酸化装置1は、容器40と、容器40の真上に配置される低圧水銀ランプ50とを含む。低圧水銀ランプ50は、240nm以下の波長を含む光を発生し、その出力は110Wである。好ましくは、低圧水銀ランプ50は、容器40の全面を照射するように、できるだけ容器40に近接して配置される。
【0069】
容器40は、側面および底面を含みその上面が開放され、例えばテフロン(登録商標)から形成される。容器40の底面には、一定の高さの突起42が形成され、該突起42によってシリコンウエハーWの裏面が支持される。容器40に充填される亜酸化窒素を含む水溶液60は、亜酸化窒素を約0.1%(1068ppm)程度含有するものである。シリコンウエハーWが容器40内に配置した後、シリコンウエハーWの全体が十分に浸漬される程度に亜酸化窒素水溶液60を容器40内に充填する。本例では、酸化すべきシリコンウエハーとして、その表面に存在する酸化物を予めフッ化水素水溶液にて除去したものを用いる。
【0070】
図8は、図7に示した酸化装置によりシリコンウエハーを酸化した結果を示すグラフであり、横軸に光照射時間、縦軸にシリコンウエハー表面に生成した酸化膜の厚さ(Å)の関係を示す。酸化膜の厚さは、X線光電子分光(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)によるSi2pスペクトルの波形解析により求めた。この方法については、例えば、分析化学,vol.40(1991)691〜696頁の奥田和明,伊藤秋男による「X線光電子分光法による薄い金属表面酸化膜の膜厚測定」に記載されている。図8のグラフから、1分間の光照射時間で6Å程度の酸化膜が生成され、3分間の光照射時間で10Å程度の酸化膜が生成されていることが確認された。
【0071】
図9は、図7に示した酸化装置で、ヘリウム(He)が溶解している水(ヘリウム含有量約16ppm)を用いてシリコンウエハーWを酸化したときの光照射時間とシリコンウエハー表面に生成した酸化膜の厚さの関係を示すグラフである。なお、ヘリウムは亜酸化窒素溶解水との比較を行う上で、使用する水中に溶解してしまっている空気成分(N2,O2,CO2など)を追い出すために、水中に強制的に溶解させた。図9のグラフから明らかなように、1分間の照射時間で1Å程度、3分間の照射時間でも2Å程度の酸化膜しか生成されていないことが確認された。図8との比較から、水中の亜酸化窒素に光を照射することで、この水と接触したシリコンウエハーWの表面に効率良く酸化膜を生成できることが確認された。
【0072】
上記シリコンウエハーの酸化(図8および図9)は、全て室温(24℃付近)にて実施されたものである。また、上記酸化では亜酸化窒素を解離するための光源として、低圧水銀ランプ50を使用したが、240nm以下の波長の光を発生し得るものであれば、低圧水銀ランプ以外の光源を使用してもよい。さらにランプ出力も適宜変更することが可能であり、110W以外のランプ出力で行っても酸化分解は可能である。一般的に同一ランプを用いた場合、出力によって酸化分解の速度が影響を受け、出力が小さいと酸化分解の速度は低下し、逆に出力が大きいと酸化分解の速度は上昇する。所望の酸化分解速度に応じて、出力を選ぶことが可能である。
【0073】
図10は、図7の酸化装置において各種ガスを溶解した水溶液を用いたときのシリコンウエハーWの酸化膜の挙動を示すグラフである。横軸は紫外線の照射時間(分)、縦軸は酸化膜厚(Å)である。光源として、オゾンレスタイプの高圧水銀ランプを用いた。
【0074】
グラフにおいて、G1は、N2O、G2はO2、G3は空気、G4は不活性ガス(He、N2、Ar)をそれぞれ溶在する溶液である。このグラフからも明らかなように、N2O溶解水は、他の溶解水よりも酸化レートが著しく高いことがわかる。ちなみに、N2Oは、1分の照射時間で6Å、O2は3Å、空気は2Å、他のHe、N2、Arは1〜2Åの成長であった。
【0075】
照射時間とともに、酸化レートの曲線が減少するのは、水中に存在する酸化活性種の濃度が低下することが原因の1つと考えられる。従って、水中の酸化活性種の濃度が低下しないように、未使用の亜酸化窒素を容器40内に注入すれば、酸化レートの低下を抑制することができるものと考えられる。
【0076】
次に、亜酸化窒素を含む水溶液、過酸化水素水およびオゾン水を用いて、光照射される領域と光照射されない領域を設けた際のシリコンウエハー酸化の実験結果を説明する。図11は、シリコンウエハーの酸化を行った酸化装置の模式図である。酸化装置2は、容器45と、容器45の真上に配置されるオゾンレス高圧水銀ランプ55と、更にシリコンウエハーの規定された領域への光照射を遮蔽する光遮蔽板56を含む。オゾンレス高圧水銀ランプ55は、240nm以下の波長を含む光を発生する。本実施例では図11に示すように光遮蔽板56を水溶液65の上方に配置した場合を示したが、基板と接触している水溶液へと照射する光を遮蔽できればよいため、光遮蔽板56は水溶液65中に配置してもよく、また光遮蔽板は基板と接触した状態に配置してもよい。また本発明における基板の酸化は、光のエネルギーを直接基板へと与えるものではなく、基板と接触している溶液中の亜酸化窒素へと与えるものであるため、必ずしも光が基板表面へと到達させることが必要ではなく、例えば、基板と接触している水溶液に対して、基板表面には直接には光が照射されないように横方向から光を照射して亜酸化窒素を解離させて基板を酸化してもよく、この場合には光遮蔽板は基板の横方に配置して光を遮蔽することが可能である。いずれの場合も、光が結果的に基板表面に到達しても、酸化が抑制されるような化学反応が基板自体の表面にて発生しないかぎり、本発明を実施するうえで、なんら問題はない。
【0077】
容器45は、側面および底面を含みその上面が開放され、例えばテフロン(登録商標)から形成される。容器45の底面には、一定の高さの突起43が形成され、該突起43によってシリコンウエハーWの裏面が支持される。容器45に充填される水溶液65は、亜酸化窒素を約0.1%含有する水溶液、31%過酸化水素水または4ppmオゾン水である。シリコンウエハーWが容器45内に配置された後、シリコンウエハーWの全体が十分に浸漬される程度に水溶液65を容器45内に充填する。更に、シリコンウエハーの一部を覆うように、水溶液65の上に光遮蔽板56を設置する。本例では、酸化すべきシリコンウエハーとして、その表面に存在する酸化物を予めフッ化水素水溶液にて除去したものを用い、何れの酸化処理も、室温にて1分間実施する。
【0078】
約0.1%N2O溶解水に浸漬されたシリコンウエハーWの酸化膜の厚さは、光を照射した領域では4.5Åであったのに対し、光を照射しなかった領域では検出下限(0.1Å)以下であり、酸化は全く進まなかった。31%過酸化水素水での酸化膜の厚さは、光を照射した領域では3.7Å、光を照射しなかった領域では2.7Åであり、4ppmオゾン水での酸化膜の厚さは、光を照射した領域では1.9Å、光を照射しなかった領域では3.2Åであった。即ち、光を照射しなかった領域の酸化膜厚に対する光を照射した領域の酸化膜厚の比に換算すると約0.1%N2O溶解水では45倍以上、31%過酸化水素水では1.4倍、4ppmオゾン水では0.6倍となり、オゾン水では光を照射した領域の方が酸化膜厚は減少した。この結果、過酸化水素水、オゾン水に比してN2O溶解水にて、光を照射した領域と光を照射しなかった領域の酸化力の差が非常に大きく、光の照射領域を制御することで、光が照射されていない領域を酸化することなく、光を照射した領域のシリコンのみを酸化することが可能であることが確認された。
【0079】
次に、光源としてエキシマランプを用いたときのシリコンウエハーの酸化実験について説明する。使用したエキシマランプは、172nmの波長を発光するが、これを大気中で使用すると、オゾンの発生が大きく、すなわち、光が大気によって吸収されてしまう。このため、大気による光の減衰をなくすため、窒素ガスによるパージを行いながら光を照射した。
【0080】
実験条件として、チャンバーの内容積:8リットル、窒素の流量:12リットル/分、水温:23度、水量:50ml、エキシマランプと容器の間隔:3mm、約5分のパージ中に1分間の光照射を行った。実験に用いた水溶液は、ヘリウム水溶液(ヘリウム含有量約16ppm)、亜酸化窒素水溶液(亜酸化窒素含有量約1000ppm)、酸素水溶液(酸素含有量約40ppm)の3種類である。
【0081】
ヘリウム水溶液に浸漬されたシリコンウエハーWの酸化膜の厚さは、0.4Å、亜酸化窒素水溶液では、酸化膜の厚さは、0.3Å、酸素水溶液では、0.5Åであった。この結果、いずれの水溶液においても、酸化がほとんど進行しないことが確認された。さらに、亜酸化窒素水溶液に関し、照射時間を3分間延長しても、酸化膜の厚さは変わらなかった。
【0082】
さらに、シリコンウエハー上に水滴(0.2ml)を載せ、エキシマランプと接触させた状態で光照射を行った。ここでも、上記と同様に窒素ガスによるパージを行いながら光照射した。その結果、亜酸化窒素水溶液では、酸化膜厚が0.6Å、酸素水溶液では0.4Åであり、いずれもほとんど酸化が進行しないことが確認された。
【0083】
上記実験結果から、エキシマランプから発光された光(172nm)は、大部分が水によって吸収され、それによって、亜酸化窒素がほとんど分解されず、シリコンウエハーの表面に酸化膜がほとんど成長しなかったと推測される。水の吸光度は、167nmの波長が最大であるため、水溶液に照射する光は、水の吸光度が十分に小さくなる波長よりも長波長でなければならない。同時に、亜酸化窒素による光の吸収は、240nmよりも短波長でなければならない。以上のことから、亜酸化窒素水溶液に照射する光の波長は、173nm以上であり、かつ240nm以下の範囲が望ましいと推測される。
【0084】
図7に示した酸化装置1は、低圧水銀ランプ50と容器40およびシリコンウエハーWとの距離を特に規定していない。しかし、一般的に同一光源を用いた場合、光源から酸化目的物質の極近傍に存在している亜酸化窒素までの距離が小さい方が、光の照度増加にともなって、亜酸化窒素の解離が効率的であり、酸化目的物質の酸化速度が上昇する。逆に光源から酸化目的物質の極近傍に存在している亜酸化窒素までの距離が大きい方が、光の照度減少にともなって、亜酸化窒素の解離の効率が低下し、酸化目的物質の酸化速度が低下する。基板に対して所望する酸化速度に応じて、上記の距離を変えることが可能である。
【0085】
<アルミニウムの酸化>
次に、亜酸化窒素を含む水溶液、過酸化水素水およびオゾン水を用いて、光照射される領域と光照射されない領域を設けた際のアルミニウム板の酸化の実験結果を説明する。実験は、図11に示した酸化装置2のシリコンウエハーWをアルミニウム板に変えて実施した。
【0086】
容器45は、側面および底面を含みその上面が開放され、例えばテフロン(登録商標)から形成される。容器45の底面には、一定の高さの突起43が形成され、該突起43によってアルミニウム板の裏面が支持される。容器45に充填される水溶液65は、亜酸化窒素を約0.1%含有する水溶液、31%過酸化水素水または4ppmオゾン水である。アルミニウム板が容器45内に配置した後、アルミニウム板の全体が十分に浸漬される程度に水溶液65を容器45内に充填する。更に、アルミニウム板の一部を覆うように、水溶液65の上に光遮蔽板56を設置する。本例では、酸化すべきアルミニウム板として、実験データの再現性を得る為に、リン酸水溶液による前処理にて、酸化処理前のアルミニウム板表面の自然酸化膜厚を約17Åに合わせたものを用い、何れの酸化処理も、室温にて1分間実施した。さらに酸化処理の効果は、この自然酸化膜厚からの酸化膜厚増分により確認した。
【0087】
約0.1%N2O溶解水に浸漬されたアルミニウム板の酸化膜厚増分は、光を照射した領域では10.9Åであったのに対し、光を照射しなかった領域では検出下限(1.4Å)以下であり、酸化は全く進まなかった。31%過酸化水素水での酸化膜厚増分は、光を照射した領域では2.5Å、光を照射しなかった領域では1.8Åであり、4ppmオゾン水での酸化膜厚増分は、光を照射した領域では10.4Å、光を照射しなかった領域では2.7Åであった。即ち、光を照射しなかった領域の酸化膜厚増分に対する光を照射した領域の酸化膜厚増分の比に換算すると、約0.1%N2O溶解水では7.8倍以上、31%過酸化水素水では1.4倍、4ppmオゾン水では3.9倍となった。この結果、過酸化水素水、オゾン水に比してN2O溶解水にて、光を照射した領域と光を照射しなかった領域の酸化力の差が大きく、光の照射領域を制御することで、光が照射されていない領域を酸化することなく、光を照射した領域のアルミニウムのみを酸化することが可能であることが確認された。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0089】
上記実施例では、シリコンウエハーおよびアルミニウム板の酸化についての実験を示したが、この結果から、シリコンウエハーおよびアルミニウム板以外の基材の局所酸化に適用することが可能である。また、選択的に形成された酸化領域が、従来の方法により形成された酸化領域と同様に、導電性材料である基材の選択された絶縁領域、耐薬品性の優れたエッチングの保護膜(マスク)パターン、もしくは装飾品の模様となり得ることは言うまでもない。
【0090】
酸化に用いられる亜酸化窒素水溶液は、上記実施例ではN2Oの濃度を約0.1%程度としたが、必ずしもこれに限定されるものではない。ある程度の効果を得るには、N2Oの濃度は10ppm以上必要であり、濃度が高いほど酸化速度が大きくはなるものの、大気圧下での光照射を行う際の、気泡の発生や雰囲気中へのN2Oの散逸による濃度変化による影響を考慮すると、5000ppm以下が好ましい。更に好ましくは、100ppmから4000ppmであり、最も好ましくは500ppmから3000ppmである。
【0091】
さらに光照射領域の制御方法は特に限定されるものではないが、一般的なフォトリソグラフィと同様に、基材が浸漬されている亜酸化窒素(N2O)を含む溶液の上に、選択された光の照射を遮断するマスク(レチクル)を配置する方法や、集光された細い光やレーザー光等を目的とする領域のみに照射しながら移動する方法などが用いられる。これらの光照射領域の制御方法を用いることにより、レジストを用いたフォトリソグラフィ工程を使用することなく、所望の領域を、直接且つ選択的に酸化することができる。
【0092】
さらに亜酸化窒素水溶液は、光照射によって解離された原子状酸素(O)が生成される機能が損なわれなければ、水中に他の酸素含有前駆体を含むものであっても良い。例えば、図10に示すようなO2などが混在していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、物質の酸化方法および酸化装置に関し、その利用可能性は広汎にわたる。例えば、シリコンウエハーや他の化合物半導体基板、回路基板等の酸化や、金属や樹脂等の物質の殺菌、滅菌、表面処理、脱臭、脱色、有害有機物(トリハロメタン、ダイオキシン)の分解などにおいて利用することができ、UV光の照射有無の制御やUV光照射箇所の制御による反応の制御が可能であることから、マイクロリアクターにおける液中の物質の酸化反応等においても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】メチレンブルーの酸化分解を行った実験装置の模式図である。
【図2】図1の実験装置によるメチレンブルーの酸化分解実験結果を示すグラフである。
【図3】図1の実験装置によるメチレンブルー(10ppm)とヘリウム(He)が溶解している水溶液を用いたときのメチレンブルーの酸化分解実験結果を示すグラフである。
【図4】図1の実験装置において、高圧水銀ランプを点灯しないときのメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の関係を示すグラフである。
【図5】図1の実験装置において、メチレンブルー水溶液への紫外光照射を一時的に停止した場合のメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の関係を示すグラフである。
【図6】オゾンレスタイプの高圧水銀ランプの照射による水中でのN2O濃度の変化を示すグラフである。
【図7】シリコンウエハーを酸化実験したときの酸化装置の模式図である。
【図8】図7の実験装置によるシリコンウエハーの酸化実験結果を示すグラフである。
【図9】図7の実験装置によるヘリウム(He)が溶解している水を用いたときのシリコンウエハーの酸化実験結果を示すグラフである。
【図10】オゾンレスタイプの高圧水銀ランプの照射による各種ガス溶解水中でのシリコン酸化の挙動を示すグラフである。
【図11】光照射有無によるシリコンウエハーの酸化実験をしたときの酸化装置の模式図である。
【図12】従来実施されているフォトリソグラフィ工程を用いた局所酸化の方法を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1、2:酸化装置
10、40、45:容器
30、60、65:水溶液
42、43:シリコンウエハーの支持具
20:高圧水銀ランプ
50:低圧水銀ランプ
55:オゾンレスの高圧水銀ランプ
56:光遮蔽板
70:基材
70a:基材の選択された酸化領域
71:レジスト層
72:マスク(レチクル)
73:下地層
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質を酸化する方法およびその酸化装置に関し、特に、亜酸化窒素(N2O)溶解水を用いた液中における物質の酸化に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の酸化による工業製品の製造においては、酸化剤と呼ばれる酸素含有物質と有機化合物を混合し、触媒や熱などを併用して酸化反応を行う方法が実施されている。
【0003】
例えば、ナイロンの原料であるアジピン酸の製造では、原料のシクロヘキサノンやシクロヘキサノールに対して、大量の硝酸を用いて酸化する方法(硝酸酸化)が工業的に実施されている。この方法では酸化剤として強酸である硝酸を用いることから、装置の腐食への対策に費用がかかってしまうことや、製造上での危険性を低減するために費用がかかってしまう、などの問題がある。
【0004】
またポリエステルの原料であるテレフタル酸の製造では、原料のパラキシレンに対して、空気中の酸素を用いて酸化する方法(空気酸化)が工業的に実施されている。この方法ではコバルト、マンガンおよび臭素化合物を触媒として用いているが、臭素による装置の腐食への対策に費用がかかってしまうことや、臭素による環境負荷を低減するために費用がかかってしまう、などの問題がある。
【0005】
シリコンウエハー等の物質を酸化する方法として、酸化性物質が溶解している水に基板を接触させる方法がある。例えば、酸化性物質が溶解している水は、過酸化水素水やオゾン水などである。
【0006】
過酸化水素水は、その酸化力を利用して、紙・パルプの漂白、半導体の洗浄、殺菌・消毒などに用いられている。また、オゾン水は、その酸化力を利用して上下水道の殺菌、食品・食器の殺菌、最近では半導体の洗浄などにも用いられている。
【0007】
過酸化水素水は、比較的安定であるため、各種用途に用いた後の廃液中には過酸化水素が比較的長時間残留してしまう。よって過酸化水素水廃液は環境負荷を低減するために分解処理が必要となり、工業的に大量の過酸化水素水を使用した場合などには、分解処理に要する費用が大きくなってしまうという問題がある。
【0008】
一方、オゾン水は、比較的不安定であるため、比較的短い時間で自然に分解する。しかしながら低濃度であっても人体への有害性があるために、また配管設備等の材質に与える負荷が大きいために、やはり分解処理が必要となり、処理費用が生じてしまうという問題点がある。また、オゾン水は比較的不安定であるがゆえに、その酸化力を維持した状態での長期間の貯蔵は実質的に不可能である。言いかえれば、大量に貯蔵しておいたオゾン水から、必要な時に、必要な量だけを取り出して使用するといった方法は不可能であるという不便さがある。さらに、停止状態にあるオゾン水製造装置の運転を開始してから安定的にオゾン水を供給するまでには、ある程度の装置立ち上げ時間を要する。仮に間欠的にオゾン水を使用したい場合があったとして、オゾン水を使用しない不使用時間に比べて装置立ち上げ時間の方が長い場合には、オゾン水の不使用時間にもオゾン水製造装置を常に運転状態を継続させねばならず、それに伴う無駄な原料費や無駄なランニングコストの発生が不可避になってしまう。
【0009】
物質を酸化する別な方法としては、光触媒を用いた方法がある。光触媒とは光の照射を受けたときに触媒作用を示す物質であり、その代表的なものとしては、アナターゼ型の結晶構造をもった二酸化チタンがある。二酸化チタンは約380nmよりも短い波長の光が照射されると酸化作用を示す。酸化したい目的物質が気相中に存在している場合には、二酸化チタンも気相中に存在させ、そこに光を照射することで目的物質の酸化が行われる。また酸化したい目的物質が水中に存在している場合には、二酸化チタンを水中に存在させ、そこに光を照射することで目的物質の酸化が行われる。
【0010】
二酸化チタンは、その光触媒としての酸化力を利用して、アンモニアやホルムアルデヒドなどの悪臭成分の脱臭・分解や、飲料水や排水の殺菌・浄化などに用いられている。二酸化チタンの取り扱いを容易にするため、酸化チタンは適当な基材表面に薄い膜状に固定化された形態で使用されることが多く、基本的には二酸化チタン表面に吸着した物質に対してのみ酸化作用を示す。そのため、酸化を目的とする物質自体の気相中および水中における二酸化チタン表面への拡散・吸着が律速となって、酸化速度が比較的遅いという問題点がある。
【0011】
二酸化チタンを水中で用いた場合には、二酸化チタンの表面に吸着した水分子が酸化されることで、酸化力をもったヒドロキシラジカルが生成する。このヒドロキシラジカルは非常に短い寿命しか持たず、二酸化チタンの極近傍にしか存在しえないことから、実質的にはヒドロキシラジカルの拡散に由来した、二酸化チタンから距離が離れた水中での酸化作用は認められない。このことから、過酸化水素水やオゾン水とは異なり、二酸化チタンが存在している水の中に、水への溶解性を示さない固体物質、例えば半導体基板などを浸漬させたとしても、光照射の有無に関わらず、その固体物質の表面を酸化させることはできないという問題点がある。仮に、細かい粉末状の二酸化チタンを水中に分散させて酸化速度の上昇を試みたとしても、酸化処理後の二酸化チタンの分離・回収が容易ではないという問題点がある。
【0012】
また、亜酸化窒素を用いた酸化方法についての報告もなされている。亜酸化窒素(N2O)は、常温・常圧では安定な気体であり、可視光による分解は起こらない。この亜酸化窒素の性質については、例えば、非特許文献1に記載されている。この亜酸化窒素に対して、240nmよりも波長の短い光を照射すると、亜酸化窒素は窒素分子(N2)と原子状酸素(O)とに分解することが知られている。このことは、例えば、非特許文献2に記載されている。
【0013】
気相中において発生させた原子状酸素(O)を用いて、目的物質を酸化することについては、いろいろな研究が行われてきている。例えば、Siウエハー表面の酸化に関しては、非特許文献3に記載されている。
【0014】
また、特許文献1には、シリコン基板表面の自然酸化膜を希フッ酸溶液によって除去した後、シリコン基板を約300℃に昇温し、超高純度酸素ガスをシリコン基板に接触させて分子間程度のシリコン酸化膜を形成し、次にシリコン基板を900℃まで昇温して所定の厚さの酸化膜を形成する発明が開示されている。シリコン基板の酸化は、酸素および/または酸素を含む分子を含有する溶液を用いることができ、当該溶液は、酸素が溶在する溶液、オゾンが溶在する溶液、過酸化水素水、硫酸・過酸化水素水溶液、塩酸・過酸化水素水溶液、アンモニア・過酸化水素水溶液を用いることが開示されている(特許文献1の段落0013参照)。
【0015】
さらに特許文献2は、亜酸化窒素を用い、そこから発生された酸素原子により、半導体基板表面に自然酸化物を形成する方法を開示している。この酸化物の形成は、大気圧未満の気相中において行われる。
【0016】
電子部品の製造においては、種々の目的にて、導電性材料上の選択された領域を酸化(以下、局所酸化という)し、絶縁する技術が実施されている。また、局所酸化することにより、耐薬品性の高い酸化膜層を形成し、これをマスクとして、酸化されていない領域を薬品により溶解除去し、基材を加工する技術が実施されている。さらに装飾品の製造においても、基材表面に非酸化領域と色目の異なる酸化領域や非酸化領域より着色性を向上させた酸化領域を形成し、模様とすることにより、優れた美的外観の装飾品を得ることが広く実施されている。
【0017】
この局所酸化領域は、従来フォトリソグラフィ工程を用いて、レジストパターンもしくは耐酸化性材料のパターンを形成し、これらをマスクにし、マスクに被覆されていない領域を酸化する方法、もしくは、予め基材表面に酸化層を形成した後、フォトリソグラフィ工程を用いて、レジストパターンを形成し、これらをエッチング・マスクにし、マスクに被覆されていない領域の酸化層を溶解除去し、レジストに被覆保護された領域の酸化層のみを残す方法により形成されている。従来実施されている前者のレジストを用いたフォトリソグラフィ工程を使用した局所酸化の方法を図12に示す。
【0018】
まず、図12(a)に示されるように、局所酸化する基材70上に、従来から多く使用されている液状レジストのスピンコーティング法やローラーコーディング法、ドライフィルムレジストのラミネート法などによりフォトレジスト層71を形成する。
【0019】
次に、図12(b)に示されるように、上記フォトレジスト層71に、所定パターンのマスク(レチクル)72を介しての露光を行い、更に現像を行うことにより、図12(c)に示されるように、フォトレジスト層71を、所定形状のマスクパターンに成形する。
【0020】
この後、図12(d)に示されるように、所定形状のフォトレジスト層71をマスクとして、過酸化水素水、オゾン水などの酸化剤を含む溶液を用いた湿式ケミカル酸化法、電解液中での陽極酸化法、または酸素イオン打ち込みや石英反応管を用いた熱酸化などの乾式酸化法などにより、フォトレジスト層71の開口部に相当する基材70の領域を選択的に酸化して酸化領域70aを形成する。
【0021】
局所酸化後に、プラズマを用いた乾式灰化処理やレジスト剥離液を用いた湿式処理などによりレジスト層71を除去し、図12(e)に示されるように、所望の通りの酸化領域70aが形成された基材70を得る。
【0022】
酸化領域70aは、使用目的により、図12(e)に示されるように、基材70表面に浮遊した状態(島)で形成される場合、また図12(f)に示されるように、下地層73まで達するように形成される場合がある。
【0023】
例えば、半導体装置の製造においては、シリコンウエハー上に耐酸化性材料である窒化シリコンのマスクパターンをフォトリソグラフ工程により形成し、この窒化珪素にて被覆されていない領域のシリコンをドライ酸化法にて局所的に酸化、絶縁化する素子分離(LOCOS)技術が一般的に実施されている。
【0024】
また特許文献3は、アクティブマトリクス型の反射型液晶表示装置の製造において、アルミニウムまたはタンタルなどの金属薄膜上に、フォトリソグラフ工程によりレジストパターンを形成し、このレジストパターンにて被覆されていない領域の金属薄膜を陽極酸化法にて局所的に酸化、絶縁化することにより、金属薄膜をマトリクス状に絶縁分離させる技術が開示されている。
【0025】
特許文献4は、ハードディスク等の磁気情報記録装置に用いられる薄膜磁気抵抗効果型ヘッドの製造において、導電性材料(鉄、亜鉛、アルミニウム又はアルミニウム合金、チタン、タンタル、銅又は銅合金、シリコン又はシリコン合金、銀、ジルコニウム、タングステン、クロム、モリブテンなど)上に、フォトリソグラフ工程によりレジストパターンを形成し、このレジストパターンにて被覆されていない領域の導電性材料を陽極酸化法、熱酸化法またはイオン注入法にて局所的に酸化、絶縁化することにより、薄膜磁気抵抗素子から信号を取り出すための引出し電極層の引出し電極形状以外の部分を絶縁化処理し絶縁部として、一対の引出し電極部を形成する技術を開示している。
【0026】
特許文献5は、半導体圧力センサーやインクジェットプリンターヘッドに代表されるシリコンウエハーを用いたミクロな精密機械部品・マイクロセンサー等を製造するマイクロマシニングにおいて、予めシリコンウエハー表面に酸化膜を付与し、その後フォトリソグラフィ工程によりレジストパターンを形成、このレジストパターンにて被覆されていない領域の酸化膜を緩衝フッ酸溶液で除去し、更に硫酸と過酸化水素水の混合系によりレジストを剥離することにより、シリコン酸化膜のパターンを得て、更にこのシリコン酸化膜パターンをマスクとして、シリコン酸化膜に被覆されていない領域をアルカリ液でエッチングする技術を開示している。
【0027】
更に特許文献6は、装飾品の製造方法において、予め基材(アルミニウム、銅、マンガン、シリコン、マグネシウム、亜鉛等)表面に酸化膜を付与し、その後フォトリソグラフィ工程によりレジストパターンを形成、このレジストパターンにて被覆されていない領域の酸化膜をアルカリ溶液で除去した後、レジストを剥離することにより、規定された領域に酸化膜パターンを形成する技術を開示している。
【0028】
【特許文献1】特許第3210370号 公報
【特許文献2】特公平4−36456号 公報
【特許文献3】特開平10−268359号 公報
【特許文献4】特開平6−338035号 公報
【特許文献5】特許第3525612号 公報
【特許文献6】特開2005―15898号
【非特許文献1】山之内直俊、武田光雄、「亜酸化窒素」、高圧ガス、Vol.13 No.3(1976)p105〜111
【非特許文献2】「気相における光化学反応」、日本化学会編,化学総説無機光化学 学会出版センターNo.39,(1983)p14〜38
【非特許文献3】K.Uno,A.Namiki,S.Zaima,T.Nakamura,N.Ohtake、「XPS Study of the Oxidation Process of Si(111) via Photochemical Decomposition of N2O by an UV Excimer Laser」、Surface Science,193(1988)、p321−335
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら上記従来のシリコン基板等の酸化方法には次のような課題がある。特許文献1は、シリコン基板の酸化に用いる溶液として、オゾンが溶在する溶液や過酸化水素水を用いるものであるため、これらの溶液の使用後の廃液を分解処理しなければならず、コスト高となってしまう。
【0030】
特許文献2は、亜酸化窒素を用いて気相中で酸化を行うため、そのガスの取り扱いが困難である。また、オゾンの発生を抑止するため、処理チャンバー等の密閉装置が必要となり、必要に応じて処理チャンバー内の温度を昇温させなければならない。このため、亜酸化窒素による酸化の製造コストが高くなってしまう。
【0031】
特許文献3〜6では、基材の局所酸化を実施する場合には、レジスト層形成(レジスト塗布)工程、露光工程、現像工程、剥離工程等の多くの工程からなるフォトリソグラフィ工程が必要であり、工程毎に異なる装置を使用する為、その取扱、管理、維持に多くの手間と労力が掛かっている。またレジスト形成工程では、レジストを硬化させる際に有機溶剤の揮発があり、現像工程では一般的に強アルカリ液や有機溶剤が多用され、更に酸化膜層をエッチングする際にも強アルカリ、フッ酸などの薬品が使用される為、薬品保管時の管理、薬品使用時の安全確保や使用後の廃液の処理が必要となり、コスト高となってしまう。
【0032】
本発明は、上記従来の課題を解決し、環境負荷が少なく、取り扱いが容易であり、かつ比較的低コストにて物質を酸化することができる、物質の酸化方法および酸化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、水中に溶解した亜酸化窒素に光を照射する方法を用いることで、上記従来の課題を一気に解決する方法を手にするに至った。すなわち本発明は、溶液を用いた物質の酸化方法であって、亜酸化窒素(N2O)を含む溶液と物質を接触させ、前記溶液に対して少なくとも240nm以下の波長の光を照射することで前記物質の酸化を行う、溶液を用いた物質の酸化方法およびその酸化装置である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、亜酸化窒素を含む溶液に物質を接触させ、そこに240nm以下の波長の光を照射することで、亜酸化窒素を解離させ、酸化力が強い原子状酸素(O)を生成させることで、物質の酸化を行うことができる。なお原子状酸素(O)の寿命はナノ秒程度と極めて短く、光の照射により解離された原子状酸素(O)が、移動して光の照射されていない領域の基材と反応する確率は極めて低く、規定された領域に光を照射することにより、規定された領域の基材のみを、光の照射により解離された原子状酸素(O)と反応させ、酸化させることができる。このことは、つまり半導体製造において用いられるものと同様なマスクを用いることで、所望の形状の酸化された領域を基板上に形成することが可能であることを示している。また、光の透過する領域を持たないマスクを目的物質の選択された領域の上に配置することで、該目的物質の選択された領域のみを遮光することで、目的物質の選択された領域についてのみ酸化を行わないことも可能である。
【0035】
気相中において240nm以下の紫外線を照射して亜酸化窒素を解離させる際、空気中の酸素が共存すれば人体や環境に有害なオゾンガス(O3)が生成されてしまうが、液中であればオゾンガスの発生を抑制することができる。さらに、亜酸化窒素をガスとして取り扱う場合には、ガス漏れ等の管理をしなければならず、取り扱いは必ずしも容易ではないが、亜酸化窒素を溶在させた水であれば、非常に取り扱いが容易である。気体と気体の溶解した溶液との間において、取り扱いの容易さに違いがあることは、一般的によく知られたことであり、例えば、塩化水素ガスは強力な刺激物質で、鼻や眼の粘膜を侵し、1000ppm以上のガスに数分間さらされると致命的となるのに対して、塩化水素の水溶液である塩酸は、37%程度の濃度にて市販されており、金属の溶解や、染料・香料・医薬・農薬などの製造原料としての用途に広く用いられている。さらに、酸化に伴う有害な副生物の発生は極めて少ないと考えられ、過酸化水素水溶液などのように廃液の分解処理は基本的に不要となり、環境負荷を小さくし、かつ処理コストを大幅に低減することができる。
【0036】
また前記溶液に対して少なくとも240nm以下の波長の光を、光の照射領域を制御しながら照射することで、前記基材の選択された領域を酸化することが可能で、煩雑なレジストを用いたフォトリソグラフィ工程を使用することなく、所望の領域を酸化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明による物質の酸化方法は、亜酸化窒素(N2O)を含む水溶液中に目的物質を存在させて、この水溶液に対して少なくとも240nm以下の波長の光を照射することでN2Oを解離させ、目的物質の酸化を行うものである。以下、この酸化方法について詳述する。
【0038】
目的物質を酸化するには、何らかの酸化活性種が目的物質と同一系内に存在した状態を作ることが必須となる。一般に酸化活性種と言われるものにはいろいろな種類があり、例えば、過酸化水素(H2O2)、オゾン(O3)、スーパーオキシド(O2−)、一重項酸素(1O2)、ヒドロキシラジカル(・OH)、原子状酸素(O)などがその範疇に入る。これらは、各々、異なった酸化力をもっている。目的物質を酸化する上では、酸化活性種のもっている酸化力は高い方が有利であるのは当然のことである。そこで我々は、極めて高い酸化力をもっている酸化活性種である原子状酸素(O)を利用して目的物質を酸化する方法についての研究を行った。
【0039】
しかしながら、水中に溶解した状態の亜酸化窒素に光を照射して、水中に原子状酸素(O)を発生させ、かつ、この水中に目的物質を存在させた状態にしておくことで、目的物質を酸化するという方法については、研究が行われておらず、またこの方法の有効性に関して詳細な知見をもつものはなかった。
【0040】
そもそも、ある特別な例外を除いて、亜酸化窒素の周囲に存在する物質が光の持つエネルギーを受け取り、この周囲の物質から亜酸化窒素へとエネルギーが移動して亜酸化窒素が解離するわけではない。ここで言う、ある特別な例外とは、亜酸化窒素が存在する気相中に水銀蒸気を共存させた状態にし、ここに光を照射して水銀を励起状態にして、この励起状態の水銀から亜酸化窒素にエネルギーを与えることによって亜酸化窒素を解離させるという、水銀の光増感分解のことであり、例えば、InternationalJournal of Chemical Kinetics,Vol4,(1972),497〜512頁のR.Simonaitis,Raymond I.Greenberg,JulianHeicklenによる「The Photolysis of N2O at 2139Å and 1849Å」に記載されている。
【0041】
つまり一般的には、亜酸化窒素の解離は、N2O分子が光の持つエネルギーを直接的に受け取ることによって引き起こされる現象であり、基本的には気相中であるか水中であるかには関係なく発生する。以上のことから、水中であっても光を照射することで亜酸化窒素の解離を引き起こすことは可能であり、これによって発生した原子状酸素(O)によって目的物質を酸化することが可能であるとの考えに至った。そして、上記したように、亜酸化窒素は、λ>240nmの光を全く吸収せず、N2OをN2とOに解離するには、λ<240nmの波長の光が望ましい。
【0042】
また、British Journalof Anaesthesia, 1972, 44(4)、310には、気相中における亜酸化窒素と水中における亜酸化窒素の吸収スペクトルが報告され、190nmの波長に吸収の最大値が存在すると示されている。
【0043】
他方、水中に溶解した亜酸化窒素を好適に分解するには、光が水によって吸収されず、大部分の光が亜酸化窒素に吸収されることが望ましい。しかし、水(H2O)による光の吸収は、167nmがピークであることが知られており、従って、少なくともそのピークより波長の長い光を照射することが望ましい。後述の実施例に開示する実験結果から、水による光の吸収を抑制するために、173nm以上の波長を照射することが望ましいと推測される。
【0044】
ここで、水中に溶解させるN2Oの濃度としては、十分な効果を得るためには10ppm以上は必要である。濃度が高いほど酸化速度が大きくなり、短時間での酸化を可能とするものの、大気圧下での光照射を行う際の、気泡の発生や雰囲気中へのN2Oの散逸による濃度変化による影響を考慮すると、5000ppm以下であることが好ましい。更に好ましくは、100ppmから4000ppmであり、最も好ましくは500ppmから3000ppmである。
【0045】
また、酸化を行う亜酸化窒素を含んだ水溶液の温度としては、水の凝固の影響を考慮すると1℃以上であることが必要であり、また水の沸騰の影響を考慮すれば、99℃以下であることが必要である。さらに、温度が高くなるほど、飽和溶解濃度が低下してしまうことと、酸化される物質自体の温度低下による酸化速度の低下を考慮すると、3℃から70℃の温度範囲が好ましく、更には5℃から60℃が好ましい。
【0046】
また、酸化を行う際に溶液が接する雰囲気の気圧としては、ある程度の減圧でもある程度加圧でも酸化は可能ではあるが、減圧に伴なう亜酸化窒素の水中からの散逸と、加圧に伴う雰囲気ガスの水中への溶解とを考慮すると、大気圧程度が好ましい。もちろん、光透過性の部材等を用いて溶液と雰囲気の気体が直接的に接触しない状態とすれば、雰囲気の気圧が大気圧程度でなくても、何ら問題はない。
【0047】
ただし、光源から発せられた240nm以下の光が溶液に入射するまでに大気中の酸素分子によって吸収されて照度が低下したり、オゾンが発生したりするのを防ぐために、光源から溶液までの空間を不活性ガスによって大気圧程度にしても良く、溶液と光源の間の任意の空間に光透過性の部材を用いた真空領域を配置しても良く、また光源自体を物質とともに溶液中に配置してもよい。
【0048】
本発明においては、亜酸化窒素を溶解させる溶媒としては240nm以下の波長の光に対する透過能力をもつものが好ましく、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、アセトニトリル、ヘキサン、ジオキサン、グリセリン、n−ペンタン、ジクロルメタンなどが好ましく、190nm付近の波長の光に対する高い透過能力をもっている水が特に好ましい。
【0049】
亜酸化窒素を含む溶液と物質を接触させて光照射を行なうに際し、該物質を亜酸化窒素を含む溶液の液中に浸漬、または溶解させてもよい。また、該物質を亜酸化窒素を含む溶液の液滴に接触させてもよい。さらに、亜酸化窒素を含む溶液を回転される物質上に滴下してもよい。
【0050】
なお、本発明において、酸化を実施しようとする物質は、亜酸化窒素を溶解した溶液中に溶解する性質の物質でもよく、また溶解しない性質の物質でもよい。溶解しない性質の物質としては、例えば、シリコン、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、タンタル、銀、ジルコニウム、タングステン、クロム、モリブテン、ニッケル、ハフニウム、ルテニウム、ニオブ、イットリウム、スカンジウム、ネオジム、ランタン、セリウム、コバルト、バナジウム、マンガン、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、ロジウム、パラジウム、カドミウム、アンチモン、またはこれらを含む合金などがあげられる。
【0051】
本発明においては、亜酸化窒素が溶解した溶液中に紫外光を照射した際に、該溶液中にて発生する原子状酸素を利用して物質を酸化するため、酸化を行う手順としては、まず該溶液と物質を接触させた状態を用意した上で紫外光を照射しても良く、また物質に紫外光を照射した状態を用意した上で該溶液を物質に接触させることによって紫外光を該溶液に照射した状態にしても良く、また該溶液に紫外光が照射された状態を用意した上で該溶液に物質を接触させても良い。
【実施例】
【0052】
上記したように、水中であっても240nm以下の光を照射することで亜酸化窒素の解離を引き起こし、これによって発生した原子状酸素(O)によって物質を酸化することできる。更に光の照射領域を制御しながら光を照射することで、基材の規定された領域のみを酸化することができる。以下、実施例を示しながら詳細に説明する。
【0053】
<メチレンブルーの酸化分解>
光触媒の酸化力評価において行われる定番的な方法として、メチレンブルーの酸化分解がある。メチレンブルーは水溶液の状態で青色を呈し、酸化されることで青色が消失して無色になる。光触媒の酸化力評価ではメチレンブルー(10ppm)水溶液の665nmの吸光度変化を測定するのが一般的である。また、メチレンブルー(10ppm)水溶液の665nmの吸光度が初期の1割程度にまで減少するためには、光触媒では数十分〜数百分程度の時間を要するのが一般的である。
【0054】
図1は、メチレンブルーの酸化分解を行った実験装置の模式図である。実験装置は、一面が開放された容器10と、容器10の真上に配置される高圧水銀ランプ20とを含む。高圧水銀ランプ20は、少なくとも240nm以下の波長を含む光を発生し、出力は1200Wである。高圧水銀ランプ20は、その光が容器10の全面を照射するように、容器10に近接して配置される。容器10内に、メチレンブルー(10ppm)と亜酸化窒素が溶解しているメチレンブルー水溶液30が充填される。
【0055】
図2は、図1に示した実験装置によるメチレンブルーの酸化分解実験結果を示すグラフであり、亜酸化窒素が約1000ppm溶解している。該グラフは、横軸に光照射時間(分)、縦軸にメチレンブルー水溶液の665nm吸光度を示す。ここである物質に入射された光の強度をIi、そこから出射された光の強度をIoとすると、光の透過率(T)は数式1によって表される。そして、そのときの吸光度は数式2によって表される。
【0056】
【数1】
【0057】
【数2】
【0058】
図2のグラフから、1分間の照射時間で約5割程度のメチレンブルーが分解され、3分間の照射時間で約9割程度のメチレンブルーが分解していることが確認された。
【0059】
図3は、図1に示した実験装置において、メチレンブルー(10ppm)とヘリウム(He)(約16ppm)が溶解している水溶液を用いてメチレンブルーの酸化分解実験を行った結果であり、光照射時間(分)とメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の関係を示すグラフである。
【0060】
ヘリウム(He)は、よく知られた不活性ガスであり、665nmにおいて光を吸収しないことが分かっている。今回は、亜酸化窒素溶解水との比較を行う上で、使用する水中に溶解してしまっている空気成分(N2,O2,CO2など)を追い出すために、水中に強制的にヘリウム(He)を溶解させた。図3のグラフからも明らかなように、亜酸化窒素を溶解している水を使った場合の結果(図2)とは異なり、1分間の照射時間ではほとんど分解が認められず、3分間の照射時間でもメチレンブルーはあまり分解していないことが確認された。つまり、図2と図3の比較から、亜酸化窒素に対して光を照射することで、メチレンブルーを酸化分解できることが確認された。
【0061】
図4は、図1に示した実験装置において、高圧水銀ランプ20を点灯しない状態で、水溶液30をただ放置した時間とメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の関係を示すグラフである。水溶液30にはメチレンブルーと亜酸化窒素が溶解しているが、240nm以下の波長の光を照射しない状態では、60分間放置しても、665nm吸光度は変化しないことが確認された。つまり、図2と図4の比較から、亜酸化窒素に対して光を照射しなければ、メチレンブルーは酸化分解されないことが確認された。
【0062】
図5は、図1に示した実験装置において、高圧水銀ランプ20によって水溶液30に紫外光の照射を開始した後、0.5分が経過した時点で、水溶液30への紫外光の照射を停止した状態とし、その時点から更に1分間が経過した時点で再び水溶液30に紫外光が照射した状態へと戻した場合のメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の変化を示すグラフである。図5のグラフから、紫外光の照射を開始するとともに水溶液中のメチレンブルーが分解するが、紫外光の照射を停止した状態にしてからの1分間にはメチレンブルーの分解も停止した状態となっており、その後、紫外光が照射した状態に戻ると同時にメチレンブルーの分解の始まることが確認された。このことから、紫外光の照射時間を選択することによって、物質の酸化時間を制御することが可能であることが確認された。
【0063】
以上の実験(図2ないし図5)は、全て室温(24℃付近)にて実施したものである。この結果から、本発明においては、紫外光の照射時間を選択することで、物質の酸化時間を制御することが可能なことが確認された。なお、本発明において、原子状酸素の寿命は極めて短く、また紫外光の照射を停止すると同時に原子状酸素の発生は停止するため、実質的には、紫外光の照射を停止することが酸化を停止することを意味している。また実験では、亜酸化窒素を解離するための光源として、高圧水銀ランプ20を使用したが、240nm以下の波長の光を発生するものであれば、高圧水銀ランプの以外の光源を使用することが可能である。ランプ出力として1200Wを用いたが、これ以外の出力で行っても酸化分解は可能である。一般に同一のランプを用いた場合、出力によって酸化分解の速度が影響を受ける。つまり、ランプ出力が小さいと酸化分解の速度は低下し、逆にランプ出力が大きいと酸化分解の速度は上昇する。所望の酸化分解速度に応じて、適宜ランプ出力を選択するようにしてもよい。
【0064】
図6は、図1の実験装置を用い、紫外線光を照射したときの亜酸化窒素水溶液(亜酸化窒素含有量約1000ppm)の吸収スペクトルを示したものである。ここには容器内にメチレンブルーは入っていない。横軸は、測定範囲200〜340nmの波長帯域を示し、縦軸は吸光度を示している。曲線C1〜C3は亜酸化窒素(N2O)の吸光度を示し、C3が3分間照射、C2が1分間照射、C1が照射なしを示している。グラフからも明らかなように、240nm以上の波長の光では、吸光度がゼロであり、光が全く吸収されていない。言い換えれば、光エネルギーの照射による亜酸化窒素の解離が行われないことがわかる。
【0065】
表1は、図6の波長205nmにおける吸光度から求めた亜酸化窒素の濃度変化を示す表である。なお、照射時間がゼロの濃度を飽和濃度(水温25℃での値)として、各々の吸光度の相対値を掛け算にて算出したものである。3分間の照射により亜酸化窒素の濃度がかなり減少しているのがわかる。
【0066】
【表1】
【0067】
また、図6に示す実験結果から、実質的にオゾン(O3)の副生物の検出はされなかった。すなわち、オゾンの最大波長(λmax)は260nmであるが、そこでの吸光度は検出限界以下であった。
【0068】
<シリコンウエハーの酸化>
次にシリコンウエハーの酸化の実験結果を説明する。図7は、シリコンウエハーの酸化を行った酸化装置の模式図である。酸化装置1は、容器40と、容器40の真上に配置される低圧水銀ランプ50とを含む。低圧水銀ランプ50は、240nm以下の波長を含む光を発生し、その出力は110Wである。好ましくは、低圧水銀ランプ50は、容器40の全面を照射するように、できるだけ容器40に近接して配置される。
【0069】
容器40は、側面および底面を含みその上面が開放され、例えばテフロン(登録商標)から形成される。容器40の底面には、一定の高さの突起42が形成され、該突起42によってシリコンウエハーWの裏面が支持される。容器40に充填される亜酸化窒素を含む水溶液60は、亜酸化窒素を約0.1%(1068ppm)程度含有するものである。シリコンウエハーWが容器40内に配置した後、シリコンウエハーWの全体が十分に浸漬される程度に亜酸化窒素水溶液60を容器40内に充填する。本例では、酸化すべきシリコンウエハーとして、その表面に存在する酸化物を予めフッ化水素水溶液にて除去したものを用いる。
【0070】
図8は、図7に示した酸化装置によりシリコンウエハーを酸化した結果を示すグラフであり、横軸に光照射時間、縦軸にシリコンウエハー表面に生成した酸化膜の厚さ(Å)の関係を示す。酸化膜の厚さは、X線光電子分光(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)によるSi2pスペクトルの波形解析により求めた。この方法については、例えば、分析化学,vol.40(1991)691〜696頁の奥田和明,伊藤秋男による「X線光電子分光法による薄い金属表面酸化膜の膜厚測定」に記載されている。図8のグラフから、1分間の光照射時間で6Å程度の酸化膜が生成され、3分間の光照射時間で10Å程度の酸化膜が生成されていることが確認された。
【0071】
図9は、図7に示した酸化装置で、ヘリウム(He)が溶解している水(ヘリウム含有量約16ppm)を用いてシリコンウエハーWを酸化したときの光照射時間とシリコンウエハー表面に生成した酸化膜の厚さの関係を示すグラフである。なお、ヘリウムは亜酸化窒素溶解水との比較を行う上で、使用する水中に溶解してしまっている空気成分(N2,O2,CO2など)を追い出すために、水中に強制的に溶解させた。図9のグラフから明らかなように、1分間の照射時間で1Å程度、3分間の照射時間でも2Å程度の酸化膜しか生成されていないことが確認された。図8との比較から、水中の亜酸化窒素に光を照射することで、この水と接触したシリコンウエハーWの表面に効率良く酸化膜を生成できることが確認された。
【0072】
上記シリコンウエハーの酸化(図8および図9)は、全て室温(24℃付近)にて実施されたものである。また、上記酸化では亜酸化窒素を解離するための光源として、低圧水銀ランプ50を使用したが、240nm以下の波長の光を発生し得るものであれば、低圧水銀ランプ以外の光源を使用してもよい。さらにランプ出力も適宜変更することが可能であり、110W以外のランプ出力で行っても酸化分解は可能である。一般的に同一ランプを用いた場合、出力によって酸化分解の速度が影響を受け、出力が小さいと酸化分解の速度は低下し、逆に出力が大きいと酸化分解の速度は上昇する。所望の酸化分解速度に応じて、出力を選ぶことが可能である。
【0073】
図10は、図7の酸化装置において各種ガスを溶解した水溶液を用いたときのシリコンウエハーWの酸化膜の挙動を示すグラフである。横軸は紫外線の照射時間(分)、縦軸は酸化膜厚(Å)である。光源として、オゾンレスタイプの高圧水銀ランプを用いた。
【0074】
グラフにおいて、G1は、N2O、G2はO2、G3は空気、G4は不活性ガス(He、N2、Ar)をそれぞれ溶在する溶液である。このグラフからも明らかなように、N2O溶解水は、他の溶解水よりも酸化レートが著しく高いことがわかる。ちなみに、N2Oは、1分の照射時間で6Å、O2は3Å、空気は2Å、他のHe、N2、Arは1〜2Åの成長であった。
【0075】
照射時間とともに、酸化レートの曲線が減少するのは、水中に存在する酸化活性種の濃度が低下することが原因の1つと考えられる。従って、水中の酸化活性種の濃度が低下しないように、未使用の亜酸化窒素を容器40内に注入すれば、酸化レートの低下を抑制することができるものと考えられる。
【0076】
次に、亜酸化窒素を含む水溶液、過酸化水素水およびオゾン水を用いて、光照射される領域と光照射されない領域を設けた際のシリコンウエハー酸化の実験結果を説明する。図11は、シリコンウエハーの酸化を行った酸化装置の模式図である。酸化装置2は、容器45と、容器45の真上に配置されるオゾンレス高圧水銀ランプ55と、更にシリコンウエハーの規定された領域への光照射を遮蔽する光遮蔽板56を含む。オゾンレス高圧水銀ランプ55は、240nm以下の波長を含む光を発生する。本実施例では図11に示すように光遮蔽板56を水溶液65の上方に配置した場合を示したが、基板と接触している水溶液へと照射する光を遮蔽できればよいため、光遮蔽板56は水溶液65中に配置してもよく、また光遮蔽板は基板と接触した状態に配置してもよい。また本発明における基板の酸化は、光のエネルギーを直接基板へと与えるものではなく、基板と接触している溶液中の亜酸化窒素へと与えるものであるため、必ずしも光が基板表面へと到達させることが必要ではなく、例えば、基板と接触している水溶液に対して、基板表面には直接には光が照射されないように横方向から光を照射して亜酸化窒素を解離させて基板を酸化してもよく、この場合には光遮蔽板は基板の横方に配置して光を遮蔽することが可能である。いずれの場合も、光が結果的に基板表面に到達しても、酸化が抑制されるような化学反応が基板自体の表面にて発生しないかぎり、本発明を実施するうえで、なんら問題はない。
【0077】
容器45は、側面および底面を含みその上面が開放され、例えばテフロン(登録商標)から形成される。容器45の底面には、一定の高さの突起43が形成され、該突起43によってシリコンウエハーWの裏面が支持される。容器45に充填される水溶液65は、亜酸化窒素を約0.1%含有する水溶液、31%過酸化水素水または4ppmオゾン水である。シリコンウエハーWが容器45内に配置された後、シリコンウエハーWの全体が十分に浸漬される程度に水溶液65を容器45内に充填する。更に、シリコンウエハーの一部を覆うように、水溶液65の上に光遮蔽板56を設置する。本例では、酸化すべきシリコンウエハーとして、その表面に存在する酸化物を予めフッ化水素水溶液にて除去したものを用い、何れの酸化処理も、室温にて1分間実施する。
【0078】
約0.1%N2O溶解水に浸漬されたシリコンウエハーWの酸化膜の厚さは、光を照射した領域では4.5Åであったのに対し、光を照射しなかった領域では検出下限(0.1Å)以下であり、酸化は全く進まなかった。31%過酸化水素水での酸化膜の厚さは、光を照射した領域では3.7Å、光を照射しなかった領域では2.7Åであり、4ppmオゾン水での酸化膜の厚さは、光を照射した領域では1.9Å、光を照射しなかった領域では3.2Åであった。即ち、光を照射しなかった領域の酸化膜厚に対する光を照射した領域の酸化膜厚の比に換算すると約0.1%N2O溶解水では45倍以上、31%過酸化水素水では1.4倍、4ppmオゾン水では0.6倍となり、オゾン水では光を照射した領域の方が酸化膜厚は減少した。この結果、過酸化水素水、オゾン水に比してN2O溶解水にて、光を照射した領域と光を照射しなかった領域の酸化力の差が非常に大きく、光の照射領域を制御することで、光が照射されていない領域を酸化することなく、光を照射した領域のシリコンのみを酸化することが可能であることが確認された。
【0079】
次に、光源としてエキシマランプを用いたときのシリコンウエハーの酸化実験について説明する。使用したエキシマランプは、172nmの波長を発光するが、これを大気中で使用すると、オゾンの発生が大きく、すなわち、光が大気によって吸収されてしまう。このため、大気による光の減衰をなくすため、窒素ガスによるパージを行いながら光を照射した。
【0080】
実験条件として、チャンバーの内容積:8リットル、窒素の流量:12リットル/分、水温:23度、水量:50ml、エキシマランプと容器の間隔:3mm、約5分のパージ中に1分間の光照射を行った。実験に用いた水溶液は、ヘリウム水溶液(ヘリウム含有量約16ppm)、亜酸化窒素水溶液(亜酸化窒素含有量約1000ppm)、酸素水溶液(酸素含有量約40ppm)の3種類である。
【0081】
ヘリウム水溶液に浸漬されたシリコンウエハーWの酸化膜の厚さは、0.4Å、亜酸化窒素水溶液では、酸化膜の厚さは、0.3Å、酸素水溶液では、0.5Åであった。この結果、いずれの水溶液においても、酸化がほとんど進行しないことが確認された。さらに、亜酸化窒素水溶液に関し、照射時間を3分間延長しても、酸化膜の厚さは変わらなかった。
【0082】
さらに、シリコンウエハー上に水滴(0.2ml)を載せ、エキシマランプと接触させた状態で光照射を行った。ここでも、上記と同様に窒素ガスによるパージを行いながら光照射した。その結果、亜酸化窒素水溶液では、酸化膜厚が0.6Å、酸素水溶液では0.4Åであり、いずれもほとんど酸化が進行しないことが確認された。
【0083】
上記実験結果から、エキシマランプから発光された光(172nm)は、大部分が水によって吸収され、それによって、亜酸化窒素がほとんど分解されず、シリコンウエハーの表面に酸化膜がほとんど成長しなかったと推測される。水の吸光度は、167nmの波長が最大であるため、水溶液に照射する光は、水の吸光度が十分に小さくなる波長よりも長波長でなければならない。同時に、亜酸化窒素による光の吸収は、240nmよりも短波長でなければならない。以上のことから、亜酸化窒素水溶液に照射する光の波長は、173nm以上であり、かつ240nm以下の範囲が望ましいと推測される。
【0084】
図7に示した酸化装置1は、低圧水銀ランプ50と容器40およびシリコンウエハーWとの距離を特に規定していない。しかし、一般的に同一光源を用いた場合、光源から酸化目的物質の極近傍に存在している亜酸化窒素までの距離が小さい方が、光の照度増加にともなって、亜酸化窒素の解離が効率的であり、酸化目的物質の酸化速度が上昇する。逆に光源から酸化目的物質の極近傍に存在している亜酸化窒素までの距離が大きい方が、光の照度減少にともなって、亜酸化窒素の解離の効率が低下し、酸化目的物質の酸化速度が低下する。基板に対して所望する酸化速度に応じて、上記の距離を変えることが可能である。
【0085】
<アルミニウムの酸化>
次に、亜酸化窒素を含む水溶液、過酸化水素水およびオゾン水を用いて、光照射される領域と光照射されない領域を設けた際のアルミニウム板の酸化の実験結果を説明する。実験は、図11に示した酸化装置2のシリコンウエハーWをアルミニウム板に変えて実施した。
【0086】
容器45は、側面および底面を含みその上面が開放され、例えばテフロン(登録商標)から形成される。容器45の底面には、一定の高さの突起43が形成され、該突起43によってアルミニウム板の裏面が支持される。容器45に充填される水溶液65は、亜酸化窒素を約0.1%含有する水溶液、31%過酸化水素水または4ppmオゾン水である。アルミニウム板が容器45内に配置した後、アルミニウム板の全体が十分に浸漬される程度に水溶液65を容器45内に充填する。更に、アルミニウム板の一部を覆うように、水溶液65の上に光遮蔽板56を設置する。本例では、酸化すべきアルミニウム板として、実験データの再現性を得る為に、リン酸水溶液による前処理にて、酸化処理前のアルミニウム板表面の自然酸化膜厚を約17Åに合わせたものを用い、何れの酸化処理も、室温にて1分間実施した。さらに酸化処理の効果は、この自然酸化膜厚からの酸化膜厚増分により確認した。
【0087】
約0.1%N2O溶解水に浸漬されたアルミニウム板の酸化膜厚増分は、光を照射した領域では10.9Åであったのに対し、光を照射しなかった領域では検出下限(1.4Å)以下であり、酸化は全く進まなかった。31%過酸化水素水での酸化膜厚増分は、光を照射した領域では2.5Å、光を照射しなかった領域では1.8Åであり、4ppmオゾン水での酸化膜厚増分は、光を照射した領域では10.4Å、光を照射しなかった領域では2.7Åであった。即ち、光を照射しなかった領域の酸化膜厚増分に対する光を照射した領域の酸化膜厚増分の比に換算すると、約0.1%N2O溶解水では7.8倍以上、31%過酸化水素水では1.4倍、4ppmオゾン水では3.9倍となった。この結果、過酸化水素水、オゾン水に比してN2O溶解水にて、光を照射した領域と光を照射しなかった領域の酸化力の差が大きく、光の照射領域を制御することで、光が照射されていない領域を酸化することなく、光を照射した領域のアルミニウムのみを酸化することが可能であることが確認された。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0089】
上記実施例では、シリコンウエハーおよびアルミニウム板の酸化についての実験を示したが、この結果から、シリコンウエハーおよびアルミニウム板以外の基材の局所酸化に適用することが可能である。また、選択的に形成された酸化領域が、従来の方法により形成された酸化領域と同様に、導電性材料である基材の選択された絶縁領域、耐薬品性の優れたエッチングの保護膜(マスク)パターン、もしくは装飾品の模様となり得ることは言うまでもない。
【0090】
酸化に用いられる亜酸化窒素水溶液は、上記実施例ではN2Oの濃度を約0.1%程度としたが、必ずしもこれに限定されるものではない。ある程度の効果を得るには、N2Oの濃度は10ppm以上必要であり、濃度が高いほど酸化速度が大きくはなるものの、大気圧下での光照射を行う際の、気泡の発生や雰囲気中へのN2Oの散逸による濃度変化による影響を考慮すると、5000ppm以下が好ましい。更に好ましくは、100ppmから4000ppmであり、最も好ましくは500ppmから3000ppmである。
【0091】
さらに光照射領域の制御方法は特に限定されるものではないが、一般的なフォトリソグラフィと同様に、基材が浸漬されている亜酸化窒素(N2O)を含む溶液の上に、選択された光の照射を遮断するマスク(レチクル)を配置する方法や、集光された細い光やレーザー光等を目的とする領域のみに照射しながら移動する方法などが用いられる。これらの光照射領域の制御方法を用いることにより、レジストを用いたフォトリソグラフィ工程を使用することなく、所望の領域を、直接且つ選択的に酸化することができる。
【0092】
さらに亜酸化窒素水溶液は、光照射によって解離された原子状酸素(O)が生成される機能が損なわれなければ、水中に他の酸素含有前駆体を含むものであっても良い。例えば、図10に示すようなO2などが混在していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、物質の酸化方法および酸化装置に関し、その利用可能性は広汎にわたる。例えば、シリコンウエハーや他の化合物半導体基板、回路基板等の酸化や、金属や樹脂等の物質の殺菌、滅菌、表面処理、脱臭、脱色、有害有機物(トリハロメタン、ダイオキシン)の分解などにおいて利用することができ、UV光の照射有無の制御やUV光照射箇所の制御による反応の制御が可能であることから、マイクロリアクターにおける液中の物質の酸化反応等においても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】メチレンブルーの酸化分解を行った実験装置の模式図である。
【図2】図1の実験装置によるメチレンブルーの酸化分解実験結果を示すグラフである。
【図3】図1の実験装置によるメチレンブルー(10ppm)とヘリウム(He)が溶解している水溶液を用いたときのメチレンブルーの酸化分解実験結果を示すグラフである。
【図4】図1の実験装置において、高圧水銀ランプを点灯しないときのメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の関係を示すグラフである。
【図5】図1の実験装置において、メチレンブルー水溶液への紫外光照射を一時的に停止した場合のメチレンブルー水溶液の665nm吸光度の関係を示すグラフである。
【図6】オゾンレスタイプの高圧水銀ランプの照射による水中でのN2O濃度の変化を示すグラフである。
【図7】シリコンウエハーを酸化実験したときの酸化装置の模式図である。
【図8】図7の実験装置によるシリコンウエハーの酸化実験結果を示すグラフである。
【図9】図7の実験装置によるヘリウム(He)が溶解している水を用いたときのシリコンウエハーの酸化実験結果を示すグラフである。
【図10】オゾンレスタイプの高圧水銀ランプの照射による各種ガス溶解水中でのシリコン酸化の挙動を示すグラフである。
【図11】光照射有無によるシリコンウエハーの酸化実験をしたときの酸化装置の模式図である。
【図12】従来実施されているフォトリソグラフィ工程を用いた局所酸化の方法を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1、2:酸化装置
10、40、45:容器
30、60、65:水溶液
42、43:シリコンウエハーの支持具
20:高圧水銀ランプ
50:低圧水銀ランプ
55:オゾンレスの高圧水銀ランプ
56:光遮蔽板
70:基材
70a:基材の選択された酸化領域
71:レジスト層
72:マスク(レチクル)
73:下地層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜酸化窒素(N2O)を含む溶液と物質を接触させ、該溶液に対して紫外光を照射することによって前記物質の酸化を行う物質の酸化方法であって、紫外光の照射時間により物質の酸化時間を制御することを特徴とする物質の酸化方法。
【請求項2】
前記溶液が、亜酸化窒素を溶解した水溶液であり、前記照射する紫外光の波長が、173nm〜240nmである、請求項1に記載の物質の酸化方法。
【請求項3】
紫外光の照射領域を制御する請求項1又は2に記載の物質の酸化方法。
【請求項4】
前記物質を前記溶液中に浸漬させることによって、前記溶液と接触させる、請求項1〜3のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項5】
前記物質を前記溶液中に溶解させることによって、前記溶液と接触させる、請求項1〜3のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項6】
前記物質を前記溶液の液滴に接触させる請求項1〜3のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項7】
前記溶液を回転される物質上に滴下することによって、前記溶液と前記物質を接触させる請求項6に記載の物質の酸化方法。
【請求項8】
紫外光の照射を遮蔽するマスクを前記物質上に配置する請求項1〜7のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項9】
紫外光が集束されたものである請求項1〜8のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項10】
前記物質が、シリコン、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、タンタル、銀、ジルコニウム、タングステン、クロム、モリブテン、ニッケル、ハフニウム、ルテニウム、ニオブ、イットリウム、スカンジウム、ネオジム、ランタン、セリウム、コバルト、バナジウム、マンガン、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、ロジウム、パラジウム、カドミウム、アンチモン、及びこれらを含む合金から選ばれる1種である請求項1〜9のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項11】
前記物質が半導体基板である請求項1〜10のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項12】
紫外光を不活性ガス雰囲気を介して前記溶液へ照射する請求項1〜11のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項13】
紫外光を真空雰囲気を介して前記溶液へ照射する請求項1〜11のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項14】
前記溶液中に光源と物質を配置して酸化を行う請求項1〜11のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項15】
前記溶液中に含まれる亜酸化窒素の濃度が10ppmないし5000ppmである請求項1〜14のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項16】
亜酸化窒素を含む溶液中に物質を浸漬するための容器と、該容器内の溶液に対して、紫外光を照射する手段とを有する、物質の酸化装置であって、光源から物質の極近傍に存在している亜酸化窒素までの距離を可変する手段を有することを特徴とする物質の酸化装置。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれかに記載の方法によって得られる酸化された物質。
【請求項1】
亜酸化窒素(N2O)を含む溶液と物質を接触させ、該溶液に対して紫外光を照射することによって前記物質の酸化を行う物質の酸化方法であって、紫外光の照射時間により物質の酸化時間を制御することを特徴とする物質の酸化方法。
【請求項2】
前記溶液が、亜酸化窒素を溶解した水溶液であり、前記照射する紫外光の波長が、173nm〜240nmである、請求項1に記載の物質の酸化方法。
【請求項3】
紫外光の照射領域を制御する請求項1又は2に記載の物質の酸化方法。
【請求項4】
前記物質を前記溶液中に浸漬させることによって、前記溶液と接触させる、請求項1〜3のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項5】
前記物質を前記溶液中に溶解させることによって、前記溶液と接触させる、請求項1〜3のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項6】
前記物質を前記溶液の液滴に接触させる請求項1〜3のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項7】
前記溶液を回転される物質上に滴下することによって、前記溶液と前記物質を接触させる請求項6に記載の物質の酸化方法。
【請求項8】
紫外光の照射を遮蔽するマスクを前記物質上に配置する請求項1〜7のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項9】
紫外光が集束されたものである請求項1〜8のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項10】
前記物質が、シリコン、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、タンタル、銀、ジルコニウム、タングステン、クロム、モリブテン、ニッケル、ハフニウム、ルテニウム、ニオブ、イットリウム、スカンジウム、ネオジム、ランタン、セリウム、コバルト、バナジウム、マンガン、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、ロジウム、パラジウム、カドミウム、アンチモン、及びこれらを含む合金から選ばれる1種である請求項1〜9のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項11】
前記物質が半導体基板である請求項1〜10のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項12】
紫外光を不活性ガス雰囲気を介して前記溶液へ照射する請求項1〜11のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項13】
紫外光を真空雰囲気を介して前記溶液へ照射する請求項1〜11のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項14】
前記溶液中に光源と物質を配置して酸化を行う請求項1〜11のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項15】
前記溶液中に含まれる亜酸化窒素の濃度が10ppmないし5000ppmである請求項1〜14のいずれかに記載の物質の酸化方法。
【請求項16】
亜酸化窒素を含む溶液中に物質を浸漬するための容器と、該容器内の溶液に対して、紫外光を照射する手段とを有する、物質の酸化装置であって、光源から物質の極近傍に存在している亜酸化窒素までの距離を可変する手段を有することを特徴とする物質の酸化装置。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれかに記載の方法によって得られる酸化された物質。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−8499(P2006−8499A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146361(P2005−146361)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】
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