説明

玉縁縫いミシン

【課題】間欠送りを良好に行う。
【解決手段】 ミシンモータ16により上下動を行う左右一対の針棒と、各針棒を上下動させる針上下動機構と、載置台11上の身頃生地Cと玉布とを保持する大押さえ41と、大押さえをパルスモータ45により布送り方向に沿って移動させる大押さえ送り機構40と、大押さえを間欠的に送りながら縫製を行う玉縁縫いミシンにおいて、大押さえ送り機構は、パルスモータの間欠的な駆動を補助するサーボモータ46を有し、サーボモータが、パルスモータの間欠駆動における立ち上がりの加速時に加速トルクを付与し、停止前の減速時に減速トルクを付与するように制御するサーボ制御手段60を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間欠送りを行う玉縁縫いミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
玉縁縫いミシンは、衣類のポケットの開口部に縫いを施すためのミシンであり、四角いスリット状のポケットの開口部を形成すると共に当該開口部に沿ってその両側に二本針で縫い目を形成し、これにより、ポケット開口部の端縁に沿って袋状に玉布の縫いつけを行う。
上述の玉縁縫いを行うために、玉縁縫いミシンは、身生地を上から押さえる一対の大押さえと、各大押さえの間で玉布を所定の形状に保持するバインダーと、ポケット開口部を形成するメス機構と、ポケット開口部に沿って二本の縫い目を形成する針上下動機構と、身生地及び玉布が縫い針の針落ち点を通過するように大押さえを所定の送り方向に移動させる大押さえ送り機構とを備え、メス機構によりポケット開口部を形成しながら、身生地及び玉布の送りを行い、玉縁縫いを行っている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−259934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の玉縁縫いミシンには、大押さえ送り機構に、パルスモータを駆動源としてベルト駆動により大押さえの送りを行う方式を採用することで、間欠送り縫い動作を行うものが存在する。
かかる玉縁縫いミシンでは、縫い針の上下動に同期してモータの駆動を行い、縫い針が布地に刺さっていない期間のみ間欠的に布地を送る制御を行っている。
【0004】
一方、上記大押さえは身生地全体を上方から押さえる構造のために大型であり、さらに、大押さえには玉布等の保持機構等も搭載されるため、総重量がかなり重くなっていた。このため、大押さえの重量化により大押さえ送り機構のイナーシャは大きくなり、タイミングベルトの伸縮の発生なども生じやすいという問題があり、静止トルクが大きく間欠送りに好適なパルスモータを使用しても、短い周期で停止と駆動を繰り返す動作を安定的に行うことができず、高速化にも対応できないという不都合があった。
特に、仮にパルスモータの出力を上げたとしても、加速・停止時の制御精度(振動等)は改善するとは限らず、オーバーシュートが大きくなり逆に振動等が増す場合もあった。
【0005】
本発明は、良好な間欠送りを行うことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、個別に縫い針を保持し、ミシンモータにより上下動を行う左右一対の針棒と、前記各針棒を上下動させる針上下動機構と、載置台上の身頃生地を玉布とともに保持する左右一対の大押さえと、前記一対の大押さえをパルスモータの駆動により所定の布送り方向に沿って移動させる大押さえ送り機構と、前記大押さえを縫い針の上下動に同期させて間欠的に送りながら縫製を行う玉縁縫いミシンにおいて、前記大押さえ送り機構は、前記パルスモータの間欠的な駆動を補助するサーボモータを有し、前記サーボモータが、前記パルスモータの間欠駆動における立ち上がりの加速時に加速トルクを付与し、停止前の減速時に減速トルクを付与するように制御するサーボ制御手段を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記サーボ制御手段は、サーボモータを、前記パルスモータの立ち上がりの加速直前に加速トルク付与を開始し、停止前の減速直前に減速トルク付与を開始するように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明では、大押さえ送り機構がパルスモータを補助するサーボモータを備え、パルスモータの間欠駆動における立ち上がり時と停止時とにそれぞれ加速の補助トルクと減速の補助トルクとを付与するので、パルスモータの駆動によるオーバーシュートを抑制し、ダンピングなどの振動を効果的に低減し、安定した間欠送りを実現することが可能となる。そして、その結果、高速の間欠送りの際にも、同様にして振動を防ぎ、動作の安定化を図ることができるので、高速間欠送り駆動の実現も可能となる。
【0009】
なお、ここでいう「サーボモータ」とは、サーボ制御が可能なブラシレスDCモータ、ACモータ(同期モータ、誘導機モータ)、DCモータ(ブラシ式)等をいうものとし、軸角度検出が行われるパルスモータは含まれないものとする。
【0010】
請求項2記載の発明では、サーボモータによる加速及び減速の補助トルクの付与を、パルスモータの立ち上がりの加速又は減速に先行して開始させるので、加減速開始時におけるパルスモータによるトルク変動を低減することができ、さらなるオーバーシュートの抑制、振動の低減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(発明の実施形態の全体構成)
以下、本発明の実施の形態である玉縁縫いミシン10について図1乃至図8に基づいて説明する。図1は玉縁縫いミシン10の全体の概略構成を示す斜視図を示し、図2は玉縁縫いミシン10の正面図である。なお、本実施の形態においては、各図中に示したXYZ軸を基準にしてミシン10の各部の方向を定めるものとする。ミシン10を水平面に設置した状態において、Z軸方向は鉛直方向となる方向を示し、X軸方向は水平且つ布送り方向Eと一致する方向を示し、Y軸方向は水平且つX軸方向に直交する方向を示す。
【0012】
玉縁縫いミシン10は、身頃生地Cと玉布とを重ねて二本の縫い針13,13で所定の長さで縫着すると共に、二本の縫い目の間を縫い方向に沿って直線状の切れ目を形成し、さらに、当該切れ目の両端部にV字状の切れ目を形成するミシンである。
かかる玉縁縫いミシン10は、縫製の作業台となる載置台としてのテーブル11と、身頃生地Cの布送り方向に延設された左右一対の大押さえ41,41によりテーブル11上の身頃生地Cを玉布と共に上方から保持すると共に大押さえ41,41を布送り方向Eに移動させることで身頃生地C及び玉布の搬送を行う大押さえ送り機構としての大押さえ送り機構40と、身頃生地Cに縫着する玉布にバインダー12を当てて当該玉布の両側縁部を折り返すバインダー機構と、大押さえ送り機構40によりX軸方向に沿って送られる身頃生地Cと玉布に二本の縫い針13,13により縫製を行う縫製手段としての針上下動機構と、縫い針13,13よりも布送り方向下流側で動メス14を昇降させて身頃生地Cと玉布に切れ目Lを形成するメス機構と、テーブル11上に設置されて針上下動機構とメス機構とを格納保持するミシンフレーム80と、直線状の切れ目の両端となる位置に略V字状の切れ目V,Vを形成するコーナーメス機構90と、上記各構成の動作制御を行う縫製制御手段としての動作制御手段60を備えている。
以下各部を詳説する。
【0013】
(テーブル及びミシンフレーム)
テーブル11はその上面がX−Y平面に平行であって、水平な状態で使用される。そして、テーブル11における縫い針13,13による針落ち位置には針板15が装着されている。針板15には、二本の縫い針13,13が個別に挿入される針穴と、メス機構の動メス14が挿通されるスリットが形成されている。
また、テーブル11上には、ミシンフレーム80のベッド部81を格納する凹部が形成されており、ミシンフレーム80は当該凹部に設置されている。さらに、テーブル11には、ミシンフレーム80の布送り方向下流側に大押さえ送り機構40とコーナーメス機構90とが配置され、布送り方向上流側にはバインダー機構(バインダー12以外は図示略)が配置されている。
【0014】
ミシンフレーム80は、主に、テーブル11に設置されるベッド部81とそこから立設された縦胴部82とその上部から水平に延設されたアーム部83とから構成されている。
そして、ミシンフレーム80の下部にはミシンモータ16が配設され、ベッド部81の内部にはミシンモータ16から図示しないベルトを介してミシンフレーム80に伝達される回転駆動力を釜機構に伝える下軸がY軸方向に沿った状態で支持されており、アーム部83の内部には針上下動機構70の上下動駆動力をミシンモータ16から伝達する上軸がY軸方向に沿った状態で支持されている。
上軸と下軸にはそれぞれプーリが固定装備されると共に、ミシンフレーム80の縦胴部82内を通されたタイミングベルトで連結されている。
【0015】
(針上下動機構)
針上下動機構は、各縫い針13,13を個別に下端部に保持する二本の針棒と、二本の針棒の保持と解除を個別に切り換え可能な針棒抱きと、ミシンモータ16の回転駆動を上下駆動に変換して針棒抱きに付与するクランク機構とを備えており、左右両方の縫い針13により縫いを行う状態といずれか片針のみで縫いを行う状態とを切り換え可能としている。
【0016】
(メス機構)
メス機構は、直線状の切れ目を形成する動メス14と、動メス14を上下動させるメスモータ17と、メスモータ17による動力伝達と動力切断とを切り換えるエアシリンダ14aとを備えている。
上記動メス14は、二本針13,13に隣接すると共に当該二本針13,13よりも布送り方向下流側(図2における左方)に配置されている。
メスモータ17は、身頃生地Cの送り動作と共に回転駆動を行い、伝達機構により動メス14を上下動させて、メス幅に応じた切れ目を繰り返し形成して直線状の切れ目を形成する。
【0017】
(バインダー機構)
バインダー機構は、断面形状が逆T字状であって玉布を巻き付けるようにセットして長手方向に沿って送り出すバインダー12と、バインダー12を昇降可能に支持する支持機構(図示略)とを有している。
支持機構は、バインダー12の昇降動作の駆動源となる図示しないエアシリンダと、当該エアシリンダを駆動する電磁弁18(図3参照)と、エアシリンダの駆動力を上下方向の移動力に替えてバインダー12に付与する複数のリンク体とを備えている。そして、縫製時には、バインダー機構は、エアシリンダによりバインダー12の先端部が二本針13,13の針落ち位置の間となるように当該バインダー12を下降させる。そして、後述する大押さえ送り機構40の一対の大押さえ部材41,41との協働によりバインダー12の断面形状となるように玉布をバインダー12に巻き付けるように保持した状態で長手方向に玉布を送り出し、身頃生地Cへの縫着が行われる。
【0018】
(大押さえ送り機構)
大押さえ送り機構40は、縫い針13,13を挟んだ両側の位置において上方から身頃生地Cを押さえる一対の大押さえ41,41と、各大押さえ41,41の下側に個別配置されると共に布送りの際に身頃生地Cを載置する二つの敷き板47(図1参照)と、二つの大押さえ41,41を昇降可能に支持する支持体42と、支持体42に対して大押さえ41,41を上下に移動させるエアシリンダ43と、エアシリンダ43の駆動を制御する電磁弁44(図3参照)と、大押さえ41,41により押さえた身頃生地Cを布送り方向Eに移動させる駆動手段としてのパルスモータ45(図2参照)と、パルスモータ45の駆動をアシストするサーボモータ46と、パルスモータ45の出力により回転するプーリ48と、サーボモータ46の出力により回転するプーリ49と、各プーリ48,49間に掛け渡されたタイミングベルト50とを備えている。
【0019】
各大押さえ41,41は長方形状の平板であって、二本針13,13を挟んでY軸方向に並んで配置されると共に、それぞれ長手方向がX軸方向に沿うように支持体42に支持されている。そして、各大押さえ41,41には、図示しないエアシリンダにより作動する玉布の押さえ板が格納されている。こられ各押さえ板により玉布の両端部をバインダー12に巻き付けるように折りたたみ、且つその状態を維持することを可能としている。
【0020】
タイミングベルト50は、X軸方向に沿って設けられ、その一端部がプーリ48に、他端部がプーリ49に掛け渡されている。また、タイミングベルト50は支持体42に連結されており、パルスモータ45の駆動により、二つの大押さえ41,41をX軸方向について任意に位置決めすることを可能としている。
さらに、上記のように、一方のプーリ48がパルスモータ45により回転駆動され、他方のプーリ49がサーボモータ46により回転駆動されるので、パルスモータ45と回転方向を一致させてサーボモータ46を駆動することで、パルスモータ45による大押さえ41の移動時のトルク付与をサーボモータ46によりアシストすることを可能としている。
なお、パルスモータ45のみが駆動を行う非アシスト時には、サーボモータ46の通電が絶たれ、サーボモータ46からトルク負荷が生じないようにされる。
【0021】
(コーナーメス機構)
コーナーメス機構90は、テーブル11の下方であって大押さえ送り機構40による大押さえ41,41の通過経路における動メス14よりも布送り方向下流側(図2における左方)に配置されており、大押さえ送り機構40によりコーナーメス91の作業位置に搬送された身頃生地Cを下方からコーナーメス91を突き通すことで直線状の切れ目の両端となる位置に略V字状の切れ目Vを形成する。
即ち、コーナーメス機構90は、コーナーメス91とコーナーメス91を上下動させるエアシリンダ92とを備えるコーナーメスユニットを縫い開始端部側と縫い終了端部側とに一つずつ備えており、さらに、固定された縫い終了側のコーナーメスユニットに対して縫い開始端部側のコーナーメスユニットをX軸方向に沿って移動位置決めする駆動モータ94と各エアシリンダ92の駆動を行う電磁弁93と備えている。
上記コーナーメス91は、上方から見たその断面形状がV字状に形成され、下方から各布地を突き通すことでV字状の切れ目Vを形成する。
【0022】
(玉縁縫いミシンの制御系)
図3は玉縁縫いミシン10の制御系を示すブロック図である。この図に示すように、動作制御手段60には、各種の制御の状態情報を表示する表示パネル64と、縫製に関する各種の設定を入力する設定スイッチ65と、縫製の開始を入力する起動スイッチ66とが図示しない入出力回路を介して接続されている。
【0023】
また、動作制御手段60には、その制御の対象となるミシンモータ16、パルスモータ45、サーボモータ46、メスモータ17、コーナーメスの駆動モータ94がそれぞれドライバ16a、45a、46a、17a、94aを介して接続されている。
また、動作制御手段60には、バインダー12の上下動を行うエアシリンダ、大押さえ41、41の昇降を行うエアシリンダ43、コーナーメス91の昇降を行うエアシリンダ92及び動メス14の待機状態と使用可能状態と切り替えるエアシリンダのそれぞれの作動を制御する電磁弁18、44、93、20がドライバ18a、44a、93a、20aを介して接続されている。
また、動作制御手段60には、ミシンモータ16により回転駆動が行われる主軸の軸角度を検出するための主軸センサ67がインターフェイス67aを介して接続されている。
【0024】
動作制御手段60は、各種の制御を行うCPU61と、制御プログラムが記憶されているROM62と、CPU61の処理に関する各種データをワークエリアに格納するRAM63と、縫製を行うための各種設定データ(例えば、送りピッチ、主軸回転数(回転速度)等)を書き換え可能に記憶する記憶手段としてのEEPROM69とを備えている。
【0025】
(間欠送りとアシスト制御)
玉縁縫いミシン10は、縫製において、連続的に一定速度で大押さえ41を移動しつつ針落ちを行う連続送りと縫い針13の上下動に同期して縫い針13が身生地Cから抜けている間に大押さえ41の移動を行う間欠送りとを行うことが可能である。連続送りは周知であるので、ここでは、間欠送りについて説明することとする。
図4はミシンモータ16により回転駆動が行われる主軸の角度変化と大押さえ41を送るパルスモータ45の駆動タイミングとの関係を示す線図であり、G1が主軸の角度変化を示し、G2はパルスモータ45の駆動タイミングを示す。図4において横軸は時間であり、帯域Bは縫い針13が身生地Cに刺さっている期間を示している。間欠送りでは、図示のように、連続的に回転を行う主軸に対して、パルスモータ45は身生地Cに刺さっている期間を回避した所定の主軸角度期間で駆動が行われる。
【0026】
図5(A)は間欠送りにおけるパルスモータ45の一回の駆動における速度指令V1とこれをアシストするサーボモータ46の速度指令V2を示す線図であり、図5(B)は間欠送りにおけるパルスモータ45の一回の駆動の際の必要トルクT1とこれをアシストするサーボモータ46の補助トルクT2を示す線図である。
【0027】
間欠送りの実行の際には、ミシンモータ16の設定回転速度(設定主軸回転数)と設定送りピッチとに従って図5(A)の速度指令V1に示すようなパルスモータ45の速度パターンが算出される。即ち、前述したCPU61は、設定スイッチ65から主軸回転数と送りピッチの設定入力を受けると、これに基づいて、間欠送りが可能な主軸角度区間を設定し、当該区間内で送りピッチ分の動作量だけパルスモータ45が駆動を行うための速度パターンを算出する。かかる速度パターンの決定方法は周知のものであり、例えば、加速期間、定速期間、減速期間の長さと定速期間の速度とを、主軸回転数により定められる時間内に送りピッチ分の動作量だけ駆動するという条件を満たすように決定する処理が行われる。
そして、縫製時には、CPU61は、主軸センサ67により主軸角度を監視して、縫い針13が身生地Cから抜けた主軸角度になると、所定周期で速度パターンに従う指令値をドライバ45aに順次出力し、パルスモータ45が速度パターンに従って駆動するよう動作制御を行う。なお、かかる動作制御は毎針ごとに行われる。
【0028】
次に、サーボモータ46によるパルスモータ45のアシスト制御について説明する。
パルスモータ45は、前述した速度指令V1に従って動作するためには図5(B)に示す必要トルクT1のトルクが必要となる。即ち、加速期間P1で正方向の高トルクを必要とし、定速期間では正方向の中程度のトルクを必要とし、減速期間P2では減速させる方向への高トルクを必要とする。なお、図5(B)において、停止期間には必要トルクが0となるように図示されているが、実際には、大押さえ41の停止状態を維持するためにパルスモータ45は静止トルクを付与している状態にある。
サーボモータ46は、上記パルスモータ45の加速期間P1の開始に先行してトルク付与を開始し、加速期間P1の終了よりも遅れてトルク付与を終了するよう動作制御が行われる。また、同様に、サーボモータ46は、上記パルスモータ45の減速期間P2の開始に先行してトルク付与を開始し、減速期間P2の終了よりも遅延してトルク付与を終了するよう動作制御が行われる。なお、加速の場合において、どの程度先行させてアシストトルク付与を開始するかは、例えば、パルスモータ45の加速又は減速トルク付与の開始の瞬間には既にアシストトルクが付与されている状態が常に確保されるのであれば開始タイミング差はわずかであっても良い。また、減速の場合も同様である。
そして、加速期間P1において、サーボモータ46により付与されるアシストトルクは、図5(B)に示すように、その付与期間を通じて均一のトルク値となるように付与され、且つ、そのトルク値はパルスモータ45の静止トルク未満となるように設定される。つまり、サーボモータ46はパルスモータ45よりも先行してアシストトルクの付与を開始するが、静止トルク未満のトルク値なので、パルスモータ45が加速を開始しない限り、大押さえ41は移動しないようになっている。
また、減速期間P2も、サーボモータ46のアシストトルクは付与期間を通じて均一となるように付与される。
【0029】
図6(A)は加速開始時においてアシストトルク付与がない場合のパルスモータ45の指令値(実線)と実際にタイミングベルト50にかかるトルク値(点線)とを示す線図であり、図6(B)は加速開始時においてアシストトルク付与が行われた場合のパルスモータ45の指令値(実線)と実際にタイミングベルト50にかかるトルク値(点線)とを示す線図である。アシストトルク付与がない場合には、図6(A)のように、立ち上がりの指令値を大きくする必要があるため、オーバーシュートが大きく発生するが、アシストトルク付与が行われると、図6(B)に示すように、立ち上がりの指令値を小さくすることができ、オーバーシュートを抑制することが可能となる。
【0030】
図7は図5(B)に示すアシストトルクの付与を実現するためのサーボモータ46の制御ブロック図を示している。
サーボモータ46はその出力軸の軸角度検出(位置検出)を行うエンコーダ46bを備えており、サーボモータ46の制御系は、エンコーダ46bの検出位置を所定周期で微分して検出速度を求める微分器51と、CPU61からの速度指令と検出速度との偏差を求めてトルク指令を出力する速度アンプ52と、サーボモータ46の電流制御によりトルクを制御するドライバ46aと、トルク指令とドライバ46aからの帰還電流との偏差に応じてモータドライバ46aへの指令を出力する電流アンプ53とを備えている。
【0031】
一方、CPU61は、前述した間欠送りにおけるパルスモータ45の一回の駆動における速度指令V1を算出すると、図5(B)の補助トルクT2のトルク付与を実現するためのサーボモータ46の速度指令V2を算出する。パルスモータ45の加速期間に対応するサーボモータの速度指令V2は、図5(A)に示すように、加速度をパルスモータ45と等しくしてパルスモータ45の加速開始よりも先行して開始させると共に、パルスモータ45の定速期間の速度よりも若干高い所定速度に到達した地点で当該速度を維持し、パルスモータ45の加速期間終了から所定期間が経過してから終了するパターンが算出される。なお、この加速時におけるサーボモータ46の速度指令V2では、パルスモータ45の定速期間の速度よりも高速まで加速する指令を算出しているが、これに限らず、パルスモータ45の定速期間の速度と等しいかそれよりも幾分低速までしか加速を行わなくとも良い。
また、パルスモータ45の減速期間に対応する速度指令V2は、図5(A)に示すように、加速度をパルスモータ45と等しくしてパルスモータ45の減速開始よりも先行して開始させてパルスモータ45よりも常に低速を維持し、停止速度(速度0)に到達するとさらに逆回転の速度指令となり、逆回転の所定速度を維持して、パルスモータ45の減速期間終了から所定期間が経過してから終了するパターンが算出される。
【0032】
かかる速度指令V2により、間欠送りの際には、主軸センサ67を監視して、パルスモータ45の速度指令V1より先行する速度指令V2の出力開始位相となった時点でCPU61から速度指令V2が出力される。これによりサーボモータ46が駆動しプーリ49に補助トルクが付与される。しかしながら、補助トルクはパルスモータ45の静止トルク未満であるためタイミングベルト50に張力が付与されるがプーリ49はほとんど回転を生じない。このため、エンコーダ46bの位置検出がフィードバックされてトルク指令値は増加するが、モータドライバ46aにはトルクリミッタが内蔵されており、定められた補助トルク(パルスモータ45の静止トルク未満の所定値)を超えないようサーボモータ46は通電制御され、大押さえ41が停止したまま補助トルクのみがタイミングベルト50に付与された状態が維持される。
そして、パルスモータ45の速度指令V1の出力開始位相が検出されると、当該速度指令V1が出力されてパルスモータ45の駆動が開始される。この時、タイミングベルト50には既に補助トルクが付与されているので図6(B)に示すようにパルスモータ45の駆動開始によるベルトに対する付与トルクの変動幅は低減され、オーバーシュートも低減される。
そして、加速期間において、速度指令V2はV1よりも常に高速となるように指令出力が行われるので、図5(B)に示すように、補助トルクT2は一定となり、大押さえ41の加速開始から定速に至るまでの動作が安定的に行われる。
以上のように、動作制御手段60及びサーボモータ46の制御系の構成は、サーボ制御手段として機能する。
【0033】
次に、減速期間において、パルスモータ45の速度指令V1より先行する速度指令V2の出力開始位相となった時点でCPU61から速度指令V2が再び出力される。これによりサーボモータ46が駆動しプーリ49に補助トルクが付与される。この時、パルスモータ45は速度指令V2よりも高速な速度指令V1に従って駆動しているので、プーリ49にはそれに抗するように減速トルクが作用する。この場合も、エンコーダ46bの位置検出がフィードバックされてトルク指令値は逆回転側に増加するが、この場合もモータドライバ46aのトルクリミッタによって定められた逆回転側への補助トルクを超えないようサーボモータ46は通電制御される。
そして、パルスモータ45の速度指令V1が減速期間に到達すると、パルスモータ45の減速が開始される。この時、タイミングベルト50には既に補助トルクが付与されているので、パルスモータ45の減速開始によるベルトに対する付与トルクの変動幅は低減される。そして、減速期間において、速度指令V2はV1よりも常に低速となるように指令出力が行われるので、図5(B)に示すように、補助トルクT2は一定となり、大押さえ41の減速開始から停止に至るまでの動作が安定的に行われる。
【0034】
(玉縁縫いミシンにおける間欠送り動作)
図8は玉縁縫いミシン10の間欠送り動作の制御フローチャートである。これに従って動作制御手段60による間欠送り動作を説明する。
まず、起動スイッチ66が押下されると(ステップS1)、パルスモータ45の駆動により大押さえ41が縫い送り方向上流側に向かってセット位置まで搬送される(ステップS2)。
大押さえ41に身生地C及び玉布がセットされると、ミシンモータ16の駆動が開始される。そして、所定の主軸位相において速度指令V2によりサーボモータ46の駆動が開始され、加速の補助トルクの付与が行われる(ステップS4)。これに続いて所定の針上位相で速度指令V1によりパルスモータ45の駆動が行われる(ステップS5)。次いで、パルスモータ45の減速期間に先行してサーボモータ46による減速の補助トルクの付与が行われる(ステップS6)。
そして、パルスモータ45の停止により大押さえが停止する(ステップS7)。そして、針落ちによる縫い目形成、動メスの駆動による直線切れ目形成等が行われると共に、針上下動機構が、バックタック縫い等の針振り機能を備える場合には、針振りも行われ(ステップS8)、縫い針13の上昇を待って(ステップS9)、縫い終了位置に到達したかを主軸回転数のカウントにより判定し(ステップS10)、未到達であればステップS4に処理を戻して送りと縫い目形成を繰り返し、縫い終了位置に到達していればパルスモータ45を駆動して大押さえ41をコーナーメスの切断位置までに移動させる(ステップS11)。そして、直線切れ目の両側にコーナーメスによる切れ目を形成し、再びパルスモータ45を駆動して、停止位置まで大押さえ41を移動させて縫製作業を終了する(ステップS12)。
【0035】
(実施の形態の効果)
玉縁縫いミシン10では、大押さえ送り機構40が駆動源であるパルスモータ45を補助するサーボモータ46を備え、パルスモータ45の間欠駆動における立ち上がり時と停止時とにそれぞれ加速の補助トルクと減速の補助トルクとを付与するので、パルスモータ45の駆動によるオーバーシュートを抑制し、ダンピング等の振動を効果的に低減し、安定した間欠送りを実現することが可能となる。そして、その結果、高速の間欠送りの際にも、同様にして振動を防ぎ、動作の安定化を図ることができるので、高速間欠送り駆動の実現も可能となる。
【0036】
また、玉縁縫いミシン10は、サーボモータ46による加速及び減速の補助トルクの付与を、パルスモータ45の立ち上がりの加速又は減速に先行して開始させるので、加減速開始時におけるパルスモータのトルク変動を低減することができ、さらなるオーバーシュートの抑制、ダンピング等の振動の低減を図ることが可能となる。
さらに、サーボモータ46による加速及び減速の補助トルクの付与を、パルスモータ45の加速期間又は減速期間の完了以後まで続けることにより、当該かく期間完了時のダンピング等の振動をより効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】発明に実施形態にかかる玉縁縫いミシンの全体の概略構成を示す斜視図を示す。
【図2】玉縁縫いミシンの正面図を示す。
【図3】玉縁縫いミシンの制御系を示すブロック図である。
【図4】主軸の角度変化と大押さえを送るパルスモータの駆動タイミングとの関係を示す線図である。
【図5】図5(A)はパルスモータの間欠送り一回の駆動における速度指令とサーボモータの速度指令を示す線図であり、図5(B)はパルスモータの一回の駆動の必要トルクとサーボモータの補助トルクを示す線図である。
【図6】図6(A)は加速時に補助トルク付与がない場合のパルスモータの指令値とタイミングベルトにかかるトルク値とを示す線図であり、図6(B)は加速時に補助トルク付与がある場合のパルスモータの指令値とタイミングベルトにかかるトルク値とを示す線図である。
【図7】補助トルクの付与を実現するためのサーボモータの制御ブロック図である。
【図8】玉縁縫いミシンの間欠送り動作の制御フローチャートである。
【符号の説明】
【0038】
10 玉縁縫いミシン
11 テーブル(載置台)
13 縫い針
16 ミシンモータ
40 大押さえ送り機構
41 大押さえ
45 パルスモータ
46 サーボモータ
60 動作制御手段(サーボ制御手段)
61 CPU
62 ROM
C 身頃生地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別に縫い針を保持し、ミシンモータにより上下動を行う左右一対の針棒と、
前記各針棒を上下動させる針上下動機構と、
載置台上の身頃生地を玉布とともに保持する左右一対の大押さえと、
前記一対の大押さえをパルスモータの駆動により所定の布送り方向に沿って移動させる大押さえ送り機構と、
前記大押さえを縫い針の上下動に同期させて間欠的に送りながら縫製を行う玉縁縫いミシンにおいて、
前記大押さえ送り機構は、前記パルスモータの間欠的な駆動を補助するサーボモータを有し、
前記サーボモータが、前記パルスモータの間欠駆動における立ち上がりの加速時に加速トルクを付与し、停止前の減速時に減速トルクを付与するように制御するサーボ制御手段を備えることを特徴とする玉縁縫いミシン。
【請求項2】
前記サーボ制御手段は、サーボモータを、前記パルスモータの立ち上がりの加速直前に加速トルク付与を開始し、停止前の減速直前に減速トルク付与を開始するように制御することを特徴とする請求項1記載の玉縁縫いミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−68913(P2010−68913A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237912(P2008−237912)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】