説明

生体適合性及び血液適合性ポリマー組成物

医療装置のための生体適合性コーティングが開示される。詳しくは、生体内医療装置から生物活性物質の放出を制御するように設計されたポリマーコーティングが開示される。本出願は、また、放出制御コーティングを有する血管ステント及びこれらのコーティングを製造するための関連方法を提供することを開示する。本発明の追加の実施態様には、開示された1つ又は複数のコポリマーで被覆されたステントとペプチド薬剤とが含まれる。患者においてステント植込み後再狭窄を治療又は阻止するための方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、医療装置のための生体適合性及び血液適合性コーティングに関する。更に詳細には、本発明は、医療装置からペプチドの放出を制御するように設計されたポリマーコーティングに関する。なお更に詳細には、本発明は、血管植込み物に放出制御コーティングを施すこと及びこれらのコーティングを製造するための関連方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の目的のために動物の身体上や身体全体に医療装置が用いられる。それらは、ガーゼ付絆創膏、杖、歩行器、コンタクトレンズのような簡単な生体外装置又はペースメーカー、心臓弁、血管ステント、カテーテル、血管移植片を含む複雑な植込み型装置であり得る。植込み型医療装置は、植込み物受容者と装置との間に生命を脅かす有害な生理反応の誘発を防止するために生体適合性でなければならない。
最近、植込み型医療装置にコーティングを施すために高度に生体適合性のポリマーが配合された。これらのコーティングは、植込み物の組織適合性を増大するだけでなく、生物活性物質レザバーとしても機能し得る。しかしながら、医療装置用のポリマーコーティングの設計には問題があった。全ての医療装置コーティングは、非毒性で、耐久性で且つ装置表面に充分に付着しなければならない。更に、医療装置が血液や内部臓器のような保護されていない組織と密接に接触する場合、生体適合性でなければならない。更にまた、医療装置が操作又は配置において柔軟に設計される場合には、コーティングは、亀裂、破砕、層間剥離に抵抗しなければならない。
【0003】
更に、生物活性物質(薬剤)レザバーとして作用するように意図した医療装置は、生体適合性で、構造的に安定で且つ層間剥離に抵抗性でなければならないだけでなく、配置される薬剤と化学的に適合しなければならない。更にまた、レザバーが隣接の組織へ薬剤の放出速度を制御するように意図される場合にも、用いられるポリマーは、同様に他の高度に特殊な性質を備えていなければならない。
薬剤-ポリマーの物理化学的特性とコーティング自体の機械的特性、例えば、コーティングの厚さは、ポリマーマトリックスの薬剤溶出プロファイルを決定する際に2つの最も重要な因子である。高度に適合する薬剤-ポリマーの組合わせは、通常はより均一な溶出速度になり、それ故、ほとんどの生体内適用に好ましい。ポリマー-薬剤の適合性は、薬剤-ポリマーの混和性の関数である。薬剤とポリマー担体との間の混和性、又は適合性の程度は、それらの相対的な溶解度パラメータを比較することによって確認され得る。しかしながら、下で更に充分に展開されるように、薬剤溶出速度と、生体適合性、延性、粘着性とを釣り合わせるには、それらの全体の溶解度パラメータのみに基づく単一ポリマーと薬剤とを単に適合させることを超えることが必要である。
【0004】
心臓血管疾患、特にアテローム性動脈硬化症は、依然として先進諸国の主な死因である。アテローム性動脈硬化症は、血管腔の狭細化、又は狭窄を生じる多因子遺伝病である。簡単には、血管内皮損傷から結果として生じる病的な炎症反応が、単球や血管平滑筋細胞(VSMC)を内皮下層から動脈壁の内膜層に移動させる。そこで、VSMCが増殖し細胞外マトリックスの下になり、血管壁を肥厚させるとともに血管開存性を低下させる。
狭窄冠状動脈によって引き起こされる心臓血管疾患は、一般に、冠状動脈バイパス移植(CABG)手術か又は血管形成術を用いて治療される。血管形成術は、経皮的方法であり、ここで、バルーンカテーテルを冠状動脈に挿入し、血管狭窄に達するまで進める。その後、バルーンを膨らませて、動脈の開存性を回復させる。1つの血管形成術の態様としては、動脈のステント配置が含まれる。簡単には、動脈の開存性が回復した後、バルーンを収縮させ、血管ステントを狭窄部位の血管腔に挿入させる。その後、カテーテルは冠状動脈から除去され、配置されたステントは、新しく開放された動脈が自発的に狭窄することを防止するために植込まれたままである。しかしながら、バルーンカテーテル挿入とステント配置によって血管損傷が生じることがあり、最終的に以前に開放された動脈の中でVSMC増殖や新生内膜形成が生じる。以前に開放された動脈が再閉塞されることによるこの生物学的過程が再狭窄と呼ばれる。
【0005】
臨床診療に冠内ステントを導入することにより、閉塞性冠状動脈疾患の治療が劇的に変化した。選ばれた病巣における経皮経管冠動脈形成術(PTCA)と比較してかなり再狭窄を減少させることがわかったので、ステント植込みのための適応症はかなり広がった。より選ばれずより複雑な病巣における世界的な植込み数の劇的な増加の結果として、ステント内再狭窄(ISR)が、有意な臨床的及び社会経済的な意味を有する新規な医学的な問題として確認されてきた。ISR症例の数は、1997年に世界的に治療された100,000人の患者から米国だけで2001年に推定約150,000の症例に増えている。ISRは、損傷に対する血管応答によるものであり、この応答は、内皮露出から始まり、著しい平滑筋細胞増殖後に血管再構築が完了する。
【0006】
ISRには、反応の少なくとも4つの異なった相: 血栓、炎症、増殖、血管再構築を見ることができる。ISRの治療のための従来のカテーテルベースの方法は広範囲であり、平坦なバルーン血管形成術から種々のアテレクトミーデバイス及び反復ステント留置に及ぶ。再狭窄を防止するための1つの可能な方法は、単球の局所的侵入/活性化を遮断する抗炎症性化合物の投与であり、従って、VSMC増殖及び移動の引き金となることができる成長因子の分泌が妨げられる。他の潜在的な再狭窄防止化合物としては、抗増殖剤、ラパマイシンやパクリタキセルを含む化学療法剤が挙げられる。しかしながら、抗炎症性及び抗増殖性化合物は、抗再狭窄有効量で全身的に投与された場合、毒性であり得る。更にまた、阻止されなければならない正確な細胞機能及び長期間にわたる血管開存性を達成するのに必要な阻止の期間(6ヵ月を超える)は現在知られていない。更に、各々の薬剤がそれ自体の治療期間や送達速度を必要とするものであると考えられる。それ故、抗再狭窄被覆ステントを用いた原位置、又は部位特異的ドラッグデリバリーが集中的な臨床試験の中心になってきた。一旦被覆されたステントが配置されると、組織に直接抗再狭窄剤を放出し、従って、受容者が全身系のドラッグデリバリーと関連している副作用を受けずに臨床的に有効な薬剤濃度が局所的に達成されることを可能にする。その上、治療部位に直接抗増殖剤を局在的に送達することにより、特定の細胞ターゲッティング技術の要求が排除される。
【0007】
ステントベースの抗再狭窄送達に関するヒト臨床研究によって、優れた短期抗再狭窄有効性が証明された。しかしながら、血管浸食を含む副作用が見られた。血管浸食によって、ステント不安定性が生じ、更に血管損傷になり得る。更にまた、細胞阻止の程度は、正常な再内皮化が起こらないほど広範囲であってもよい。内皮の内層は、血管弾性を維持するために、また、一酸化窒素の内在源として不可欠である。それ故、血管や細胞の損傷を最小限にしつつ、局在的抗再狭窄作用を及ぼす化合物は、ドラッグデリバリーステントの長期成功にとって不可欠である。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、医療装置コーティングを溶離する最適化された薬剤を供給するポリマーを操作することに関する。特に、本発明の教示に従って製造されるポリマーは、血行動態環境に用いることを意図した医療装置用の耐久性のある生体適合性コーティングを提供する。本発明の一実施態様においては、血管ステントは、本発明の組成物を用いた徐放性ポリマーコーティングを備えている。血管ステントは、例示のためだけに選ばれるものである。材料科学や医療装置の当業者は、本発明のポリマー組成物が医療装置の大きな範囲をコーティングするのに有効であることを理解する。それ故、例示的実施態様としての血管ステントの使用は、限定を意図しない。
本発明の両親媒性コポリマーは、医療装置にペプチド薬剤をコーティングするのに有効である。それ故、本発明の目的は、医療装置によってペプチドのドラッグデリバリーに用いられる生体適合性及び血液適合性が改善された両親媒性ポリマーを提供することである。
【0009】
用語の定義
本発明を示す前に、以下に用いられる特定の用語の定義を示すことは、その理解に役立つものである。
両親媒性: 本明細書に用いられる“両親媒性”は、非極性の水不溶性炭化水素鎖に結合された極性の水溶性基を有する分子を意味する。
動物: 本明細書に用いられる“動物”には、哺乳動物、魚、爬虫類、鳥類が含まれる。哺乳動物としては、ヒト、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシを含む霊長類が挙げられるが、これらに限定されない。
生体適合性: 本明細書に用いられる“生体適合性”は、動物に損傷又は死を引き起こさず、動物の組織との密接な接触におかれた場合にも動物が有害な反応を誘発しないあらゆる物質を意味する。有害な反応としては、炎症、感染、線維組織形成、細胞死、又は血栓症が挙げられる。
【0010】
放出制御: 本明細書に用いられる“放出制御”は、所定の速度で医療装置表面からの生物活性化合物の放出を意味する。放出制御は、生物活性化合物が散発的に予測できない方法で医療装置表面から離れず且つそうすることを特に意図しない限り生物学的環境との接触時に装置から飛び出さない(本明細書では一次速度論とも呼ばれる)ことを意味する。しかしながら、本明細書に用いられる“放出制御”という用語は、配置と関連している“飛び出し現象”を排除しない。本発明のある実施態様においては、薬剤のイニシャルバーストは、その後、より段階的な放出が続くことが望ましいものである。放出速度は、定常状態であってもよい(一般に“持効性”又はゼロ次速度論と呼ばれる)。即ち、薬剤は、所定の時間をかけて均一な量で放出される(イニシャルバースト相の有無にかかわらず)か又は勾配放出であってもよい。勾配放出は、装置表面から放出される薬剤の濃度が経時変化することを意味する。
【0011】
適合性: 本明細書に用いられる“適合性”は、本発明の教示に従って製造される制御放出コーティングに適した物理的、化学的、生物学的及び薬剤放出速度的性質の最適、又は最適に近い組み合わせをもつ組成物を意味する。物理的性質には、耐久性、弾性/延性が含まれ、化学的性質には、溶解性及び/又は混和性が含まれ、生物学的性質には、生体適合性が含まれる。薬剤放出速度論は、ゼロ次に近いか又は一次とゼロ次速度論の組合わせでなければならない。
【0012】
コポリマー: 本明細書に用いられる“コポリマー”は、ポリマー化学の当該技術において通常用いられるように定義される。コポリマーは、モノマーのような2以上の異なる単位の同時又は段階重合によって製造される巨大分子である。コポリマーには、ビポリマー(2つの異なる単位)、ターポリマー(3つの異なる単位)等が含まれる。
薬剤(1つ又は複数): 本明細書に用いられる“薬剤”には、動物において治療効果を有するあらゆる生物活性化合物が含まれる。例示的な限定されない例としては、親水性化合物、アンギオテンシン-(1-7)のようなペプチド、生物学的に活性な類似体及びそれらの誘導体を含むがこれらに限定されない抗増殖性物質が挙げられる。
延性: 本明細書に用いられる“延性、又は延性の”は、操作温度で折りたたまれ、応力がかけられ又は張力かけられた場合に、ポリマーの破壊又は亀裂に対する抵抗を特徴とするポリマー特性である。本発明のポリマーコーティング組成物に関して用いられた場合、コーティングの通常の操作温度は室温と体温との間又は約15℃〜40℃である。特定の環境におけるポリマー耐久性は、しばしばその弾性/延性の関数である。
【0013】
ガラス転移点: 本明細書に用いられる“ガラス転移点”又は“Tg”は、アモルファスポリマーがガラスのように硬く脆くなる温度である。Tgより高い温度で、ポリマーは弾性又はゴム状であり、Tgより低い温度で、ポリマーはガラスのように硬く脆い。弾性/延性の予測値としてTgを用いることができる。
【0014】
親水性: 本明細書に用いられる親水性分子又は分子の一部は、典型的には電気的に分極され且つ水素結合ができるものであり、油又は他の“非極性”溶媒より更に容易に水に溶解することを可能にする。生物活性化合物又は薬剤に関して、“親水性”という用語は、1ミリリットル当たり200マイクログラムを超える水における溶解性を有する生物活性化合物を意味する。
疎水性: 本明細書に用いられる疎水性分子又は分子の一部は、典型的には電気的に中性であり且つ水素結合しないものであり、水又は“極性”溶媒よりむしろ油又は他の“非極性”溶媒に容易に溶解することを可能にする。生物活性化合物又は薬剤に関して“疎水性”という用語は、1ミリリットル当たり200マイクログラム以下の水における溶解性を有する生物活性化合物を意味する。
【0015】
治療部位: 本明細書に用いられる“治療部位”は、血管閉塞、血管プラーク、動脈瘤部位又は他の血管関連の病状を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、最適化された薬剤を溶離する医療装置コーティングを供給するポリマーを操作することに関する。特に、本発明の教示に従って製造されるポリマーは、血行動態環境に用いることを意図した医療装置用の耐久性のある生体適合性コーティングを提供する。本発明の一実施態様においては、血管ステントは、本発明の組成物を用いた徐放性ポリマーコーティングを備えている。血管ステントは、例示のためだけに選ばれるものである。材料科学や医療装置の当業者は、本発明のポリマー組成物が医療装置の大きな範囲をコーティングするのに有効であることを理解する。それ故、例示的実施態様としての血管ステントの使用は、限定を意図しない。
【0017】
本発明の両親媒性コポリマーは、医療装置にペプチド薬剤をコーティングするのに有効である。それ故、本発明の目的は、医療装置によってペプチドのドラッグデリバリーに用いられる生体適合性及び血液適合性が改善された両親媒性ポリマーを提供することである。
本発明の両親媒性コポリマーは、医療装置をペプチド薬剤でコーティングするのに有用である。ペプチドは、標準疎水性ポリマーコーティングに用いられる溶媒と適合しない。ほとんどのポリマーの疎水性から生じる溶解性の問題を克服するために、親水性化合物、例えばポリ(エチレングリコール)(PEG)は、既知の生体適合性ポリマーのモノマー、例えば、メタクリレートと共重合することができる。PEGは、おそらく最も周知の親水性ポリマーの1つであり、ポリマーにおけるPEGの取込みは、生体適合性及び血液適合性を増大する。PEGは、親水性及び有機溶媒における溶解性に加えて、PEGを多くの臨床応用に用いられることを可能にする哺乳動物における確立された安全性プロファイルや免疫原性の欠如を含む追加の望ましい性質を有する。PEGを含有する両親媒性コポリマーは、構造や物理的性質がユニークであることからバイオマテリアル適用に用いられる。本発明のコポリマーは、PEG-メタクリレート及びシクロヘキシルメタクリレートから構成される。
【0018】
血管ステントは、医療装置コーティング科学者には特にユニークな難題がある。血管ステント(以下に“ステント”と呼ぶ)は、可撓性でなければならず、拡張可能でなければならず、生体適合性でなければならず且つ物理的に安定でなければならない。ステントは、1以上の冠状動脈の閉塞によって引き起こされる冠状動脈疾患と関連している症状を改善するために用いられる。閉塞された冠状動脈によって心筋への血流が減少することになり、虚血による狭心症、重篤な場合には心筋梗塞が引き起こされ死に至る。ステントは、一般的には、ステントがカテーテルの遠心端で膨張可能バルーンに取り付けられたカテーテルを用いて、配置される。カテーテルは、動脈に挿入され、配置部位に誘導される。多くの場合、カテーテルは、大腿動脈に又は脚又は頸動脈に挿入され、ステントは、閉塞部位の冠状血管系の中に深く配置される。
【0019】
脆弱プラーク安定化は、コーティングされた薬剤溶離血管ステントの他の適用である。脆弱プラークは、粥状成分から構成される液状コアを覆う薄い線維性被膜から構成される。成熟したアテローム性プラークの正確な組成は、かなり変動し、アテローム性プラークの構成に影響する因子はよく理解されていない。しかしながら、多くのアテローム性プラークと関連している線維性被膜は、平滑筋細胞、I及びIII型コラーゲン及び内皮細胞の単層の結合組織マトリックスから形成されている。粥状成分は、内皮下の細胞外空間に包まれた血液由来のリポタンパク及び循環血液から取り除かれた低比重脂質(LDL)で充填された組織マクロファージの分解物から構成される。(G. Pasterkamp and E. Falk. 2000. Atherosclerotic Plaque Rupture: An Overview. J. Clin. Basic Cardiol. 3:81-86)。線維性被膜と粥状成分との割合がプラーク安定性と種類を決定する。アテローム性プラークが不安定性のために破裂する傾向がある場合には、“脆弱”プラークと言われる。破裂時に粥状成分が血流に放出され、塊状の血栓形成応答を誘発し、突然冠状動脈死に至る。最近、脆弱プラークがプラークにステント挿入することによって安定化され得ることが仮定された。その上、ポリマーに分散された、又はポリマーでコーティングされた(又はその双方)マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤から構成された薬剤放出コーティングを有する血管ステントがプラークを更に安定化することができ、最終的には完全な治癒を生じる。
【0020】
動脈瘤の治療は、薬剤溶離ステントのための他の適用である。動脈瘤は、アテローム性動脈硬化症によって通常引き起こされる血管の隆起又は膨れである。動脈瘤は、大動脈の腹部部分において最もよく起こる。少なくとも15,000人のアメリカ人が毎年破裂した腹部動脈瘤で死んでいる。背部及び腹部痛の腹部大動脈瘤の両症状は、通常は致命的である症状の動脈瘤が破壊する寸前までしばしば現れない。ステント移植は、標準観血手術に代わるものとして最近現れた。ステント(ステント移植片)を含有する人工血管は、動脈瘤の部位で動脈の中で配置され、血液と動脈の薄くなった壁との間にバリヤとして作用し、それによって、動脈の圧力が低下する。ステント-移植動脈瘤のより観血的でない方法は、従来の動脈瘤修復に見られる罹患率を低下させる。更に、複数の医学的な同時罹患率が従来の動脈瘤修復の危険を極端に高くする患者はステント-移植の候補である。ステント移植は、また、関連した症状、外傷が動脈に損傷を引き起こす急性大動脈鈍的損傷の新規な治療として現れた。
【0021】
一旦治療部位が位置決めされると、ステント又は移植片が配置される。一般的には、ステントはバルーンカテーテルを用いられて配置される。バルーンがステントを膨張させ、動脈管腔を穏やかに圧縮して血管閉塞を取り除くか又は動脈瘤を安定化する。その後、カテーテルを除去し、ステントは永久的に定位置のままである。ほとんどの患者は、適切な回復期間後に通常生活に戻り、ステント挿入閉塞と関連している冠状動脈疾患の再発がない。しかしながら、場合によっては疾患過程自体によって又はステント配置の結果として動脈壁の内膜が損傷する。この損傷が複雑な生物学的応答を始め、終には血管平滑筋細胞過剰増殖や閉塞、又はステント部位の再狭窄になる。
最近、再狭窄を予防することにかなりの努力が向けられてきた。近接照射療法、エキシマレーザ、薬理学的技術を含むいくつかの技術が開発された。少なくとも観血的で最も有望な治療様式は、薬理学的方法である。好ましい薬理学的方法は、ステント配置領域に直接細胞増殖抑制剤又は細胞毒性剤の部位特異的送達を含む。部位特異的送達は、いくつかの理由のために全身系送達より好ましい。第一に、多くの細胞増殖抑制剤や細胞毒性剤は、非常に毒性であり、再狭窄を予防するのに必要な濃度で全身的に投与することができない。更に、薬剤の全身系投与は、治療部位から離れた身体位置に意図されたものでない副作用があり得る。更に、多くの薬剤は、充分に可溶性でなく、効果的に再狭窄を予防する血流からもあまりに急速に取り除かれる。それ故、治療領域に直接抗再狭窄化合物を投与することが好ましい。
【0022】
滴下バルーンと注入カテーテルを含む抗再狭窄化合物を配置するためにいくつかの技術と対応する装置が開発された。滴下バルーンカテーテルは、カテーテルの遠心端に又はその近くに膨張可能なセグメントで細孔による圧力下で孔再狭窄組成物を徐々に適用するために用いられる。膨張可能なセグメントは、ステント又は別々のセグメントを配置するために用いられるものであり得る。注入カテーテルは、加圧流体ジェットを放出することによって、又は1以上の針状の付属物を動脈壁を直接突き刺すことによって抗再狭窄組成物を投与する。最近、ニードルカテーテルが動脈の外膜に薬剤を注入するために開発された。しかしながら、再狭窄を予防する滴下カテーテルや注入カテーテルを用いた抗再狭窄組成物の投与は、依然として実験のままであり、ほとんど不成功である。直接抗再狭窄組成物投与は、いくつかの不利な点を有する。抗再狭窄組成物が滴下カテーテルを用いて動脈管腔に直接投与される場合、血流が抗再狭窄組成物を下流に治療部位から急速に流す。管腔壁又は外膜に注入される抗再狭窄組成物は、周囲組織に急速に拡散してしまう。結果として、抗再狭窄組成物は、再狭窄を予防するのに充分な濃度で治療部位に存在することができない。カテーテルベースの局所的ドラッグデリバリーと関連しているこれら及び他の不利な点の結果として、研究者らは、抗再狭窄組成物の局在的送達のために改善された方法を探究し続けている。
【0023】
現在までに開発された局在的抗再狭窄組成物送達のための最も成功した方法は、薬剤溶離ステントである。多くの薬剤溶離ステントの実施態様が開発され試験されてきた。しかしながら、安全で極めて有効なドラッグデリバリーステントを提供するためにかなりの進歩がなお必要である。ステントベースの抗再狭窄組成物送達と関連している主な難題の1つが薬剤送達速度を制御することである。一般的に言って、ドラッグデリバリー速度は、2つの一次反応速度プロファイルを有する。投与直後に血流又は組織に達する薬剤は、一次速度論に従う。図1は、理想的な一次速度論を示すグラフである。一次薬剤放出速度論は、血液又は局所組織の薬剤濃度の即時急増を示し(ピークレベル)、段階的な減少が続く(トラフレベル)。ほとんどの場合、治療レベルは数時間維持されるだけである。血液又は組織濃度が安定したままである持続時間にわたって徐々に放出される薬剤は、ゼロ次速度論に従う。図2は、グラフで理想的なゼロ次速度論を示すグラフである。ドラッグデリバリー方法及び組織/血液クリアランス速度によっては、ゼロ次速度論が長期間の持続治療レベルになる。薬剤放出プロファイルは、特定の適用を満たすように変更され得る。一般的には、ほとんどの放出制御組成物は、ゼロ次に近い速度論を示すように設計されている。しかしながら、薬剤のイニシアルバースト、又は初回負荷量が所望され(一次速度論)、より段階的な持続性薬剤放出が続く(ゼロ次に近い速度論)適用があってもよい。
【0024】
本発明は、血行動態環境に用いるのに適切な最適化された薬剤放出医療装置コーティングに関する。本発明のコーティングは、少なくとも1つの生物活性化合物又は薬剤がその中に分散したポリマーから構成される。本発明のポリマー組成物は、特に、医療装置表面にねばり強く付着し(剥離しない)、破壊せずに曲がり(延性)、浸食に抵抗し(耐久性)、生体適合性であり、且つ制御された速度で様々な薬剤を放出する医療装置コーティングを提供するように配合された。
生体適合性及び耐浸食性を増強するために数十年間ポリマーが医療装置コーティングとして用いられてきた。その上、特定の適用においては、ポリマーコーティングは電気的絶縁を与えることができる。ポリマーが生物学的薬剤溶出速度を制御するためにレザバー及び/又は拡散バリヤとして作用し得ることも当該技術において周知である。
【0025】
最近、血管ステント、血管ステント移植、尿道ステント、胆管ステント、カテーテル、膨張カテーテル、注入カテーテル、ガイドワイヤ、ペースメーカーリード、補助人工心臓、人工弁のような植込み可能な医療装置にコーティングが適用されてきた。これらのような装置は、一般的には屈曲歪みを受け、植込み、適用又はそれらの双方の間、応力を受ける。安定な生体適合性ポリマーコーティングを有するステントのような可撓性医療装置を提供することは特に難しい。
【0026】
ポリマーの固体三次構造を定義する2つの基本的分子形態がある。ポリマーは、ポリマーサブユニットの種類によっては半結晶質又はアモルファスであってもよい。半結晶質ポリマーは、剛性であり、融点未満のあらゆる温度で脆く、一般的には、ステントのような可撓性医療装置をコーティングするのに適しない。更に、薬剤又は生物活性化合物は、ポリマー結晶領域にとどまることができず、それ故、薬剤又は生物活性物質の充填は制限される。一方、アモルファスポリマーは、ガラス転移点(Tg)によっては、剛性又は弾性/延性であり得る。アモルファスポリマーのTgは、アモルファスポリマーが弾性/延性で可撓性である温度より高い。ステント適用の場合、Tgが体温より低いことが望ましい。多くのポリマー組成物は、体温よりかなり高いTgを有し、従って、装置が配置され一旦装置が植込まれてそのままの場合、ガラス状態又は剛性状態にある。“ガラス”状態のポリマーは、非弾性/延性であり、ステントが曲げられる場合、亀裂、破壊、剥離する傾向がある。破砕や剥離を受けやすいポリマーコーティングは、ステントに用いられる場合、特に望ましくない。剥離した又は破壊したステントコーティングから分離する小さいポリマー粒子は、血流によって下流に運ばれてしまい、それらが毛細血管に引っかかり心臓の臨界領域への血流を塞ぐことがある。それ故、ステントや他の可撓性医療装置は、弾性/延性であるポリマーコーティングを有すると共に装置表面に良く付着しなければならない。一般的には、これには、コーティングポリマーがアモルファスで体温のより低いガラス転移点を有することが必要である。
【0027】
しかしながら、継続的な血流力を受ける装置をコーティングするために用いられる場合、Tgが極めて低いポリマーは望ましくない。一般的には、Tgが低いほどポリマー主鎖はゴム状になる。よりゴム状のポリマーは粘着性であり得る。このことは、一部には、よりゴム状のポリマーがより高い摩擦係数を有するという事実による。それ故、極めて低いTgを有するポリマーは、ステントや他の血管植込み物に意図したコーティングポリマーを設計する場合、ポリマーブレンド又はコポリマー組成物において優位なポリマーであってはならない。更に、極めて低いTg(例えば、ゴム状)ポリマーは、それらの高自由容積のために望ましくない高速で薬剤又は生物活性物質を放出する傾向がある。
【0028】
上述の構造的及び薬剤放出プロファイル考察に加えて、ステントコーティングとして用いられるポリマーは、生体適合性でなければならない。生体適合性は、前の“用語の定義”の項で簡単に定義された数多くの因子を包含する。ポリマーが生体適合性であるための要求は、物質科学者が利用できる選択の数をかなり制限する。その上、これらの選択は、ポリマーコーティングが血流力に連続的にさらされる装置に用いられる場合、更に制限される。例えば、ステントコーティングは、長期間、非血栓形成性、非炎症性及び構造的に安定なままでなければならない。
【0029】
一般的には、医療装置コーティングとして適切な生体適合性ポリマーの2つの大きな、ある程度重なっている種類: 生体分解性ポリマー(生体再吸収性ポリマーを含む)及び非生体分解性ポリマーがある。本発明のコーティング組成物は、主に後者である。残りの考察と例示的実施態様は、非生体分解性ポリマーに関する。
非生体分解性ポリマーは、親水性、疎水性又は用いられるモノマーの極性及び疎水性モノマーと親水性モノマーとの割合によっては両親媒性であり得る。親水性ポリマーは、極性溶媒と混ざり且つ体液と接触しつつ一般的には滑らかである極性分子であり、滑らかなヒドロゲルを製造するために生医学的適用にしばしば用いられる。しかしながら、ヒドロゲルポリマーは、血行動態環境において不安定なことがあり且つ水分が多いことから物理的に完全な状態を欠くことがある。その上、多くの疎水性薬剤はヒドロゲルにほとんど分散せず、それ故、ヒドロゲルはある疎水性生物活性化合物に適切なドラッグデリバリープラットフォームではない。疎水性ポリマーは、非極性溶媒に可溶な非極性分子である。生体適合性疎水性ポリマーがあるが、しかしながら、これらの多くは血行動態環境において望ましくない高摩擦係数を有する。その上、多くの親水性薬剤は疎水性ポリマーにほとんど分散せず、それ故、多くの親水性生物活性化合物に適切なドラッグデリバリープラットフォームではない。
【0030】
それ故、本発明の教示に従って製造されたステントコーティングポリマーがもっていなければならない4つの特定の性質がある。本発明のポリマー組成物は、生体適合性、耐久性、弾性/延性でなければならず、所定の薬剤放出プロファイルを有する。他の要求には、エチレンオキシド滅菌を含むがこれに限定されない滅菌法に不活性のような処理適合性が含まれる。本発明は、本発明の教示に従って製造される新規なポリマー組成物を提供する。
放出速度は、完全に薬剤-ポリマー適合性の関数であるというわけではない。コーティング構造、ポリマー膨潤性、コーティング厚さも、役割を果たしている。本発明の医療装置が血管系に用いられる場合、コーティング寸法は、一般的にはマイクロメータ(μm)で測定される。本発明の教示と一致したコーティングは、1μmのように薄くても1000μmのように厚くてもよい。本発明の範囲内に少なくとも2つの異なったコーティング構造がある。本発明の一実施態様においては、薬剤含有コーティングは、装置表面に直接又はポリマープライマーに適用される。所望される溶解速度とプロファイルによっては、薬剤は、ポリマーマトリックスの中に完全に可溶であるか又は全体に一様に分散する。ポリマーマトリックスに存在する薬剤濃度は、0.1質量%〜80質量%の範囲にある。いずれにしても、できる限りコーティング組成物の均質性を有することが最も望ましい。この具体的な構造は、一般に、薬剤-ポリマーマトリックスと呼ばれる。
【0031】
最後に、コーティング厚さに戻ると、厚さは、一般的には、全体の薬剤放出速度とプロファイルを決定するには重要でない因子であるが、コーティングを調整するために使用し得る追加の因子である。基本的に、他の全ての物理的及び化学的因子が不変のままの場合、一定の薬剤が一定のコーティングによって拡散する速度は、コーティング厚さに正比例する。即ち、コーティング厚さを増大すると、溶出速度が増大し、逆も同じである。
我々は、ここで、本発明の適合化された放出制御コーティングに関与する他の因子のことを考える。上述したように、血行動態環境に配置される医療装置を意図したコーティングは、優れた接着性を有しなければならない。即ち、コーティングは、医療装置表面に安定して結合されなければならない。ステンレス鋼、ニチノール、アルミニウム、クロム、チタン、セラミック、及び広範囲の合成ポリマー材料及びコラーゲン、フィブリン、植物繊維を含む天然材料を含む多くの異なる材料が移植可能医療装置を製造するために使用し得る。これらの材料の全部、及びその他のものが、本発明の教示に従って製造される放出制御コーティングにおいて用いることができる。
【0032】
本発明の一実施態様は、図3に示される。図3において、構造402を有する血管ステント400は、ステンレス鋼、ニチノール、アルミニウム、クロム、チタン、セラミック、及び広範囲の合成ポリマー材料及びコラーゲン、フィブリン及び植物繊維を含む天然材料を含む限定されない群の材料より選ばれる材料から製造される。構造402は、本発明の教示に従って製造されるコーティング組成物を備えている。図4a-dは、種々のコーティング構造を示すステント400の断面図である。図4aにおいて、ステント400は、例えば、パリレンに限定されない任意の医療グレードプライマーを含む第1ポリマーコーティング402; 第2放出制御コーティング404; 及び第3バリヤ、又はキャップのコート406を有する。図4bにおいて、ステント400は、例えば、パリレンに限定されない任意の医療グレードプライマーを含む第1ポリマーコーティング402及び第2放出制御コーティング404を有する。図4cにおいて、ステント400は、第1放出制御コーティング404及び第2バリヤ、又はキャップのコート406を有する。図4dにおいて、ステント400は、放出制御コーティング404だけを有する。図5は、バルーンカテーテル501に取り付けられる本発明の教示に従って製造されるコーティング504を有する血管ステント400を示す図である。
【0033】
ポリマーが表面にどのように付着するかの我々の理解を説明することを試み、又は関与する多くの理論がある。最も重要な力には、静電気と水素結合とが含まれる。しかしながら、湿潤性、吸収、反発力を含む他の因子もまた、ポリマーがどのように異なる表面に付着するかを決定する。それ故、より均一なコーティング面を生成するためにポリマーベースコート、又はプライマーがしばしば用いられる。
本発明の放出制御コーティングは、当業者に既知のあらゆる方法で、準備刺激された又は裸の医療装置表面に適用され得る。本発明と適合する適用方法としては、吹付け、浸漬、刷毛塗り、真空蒸着、その他が挙げられるが、これらに限定されない。その上、本発明の放出制御コーティングは、キャップコートによって用いることができる。ここで用いられるキャップコートは、他のコーティングの上に適用された最も外部のコーティング層を意味する。薬剤-放出コポリマーコーティングは、プライマーコートの上に適用される。ポリマーキャップコートは、薬剤放出コポリマーコーティングの上に適用される。キャップコートは、薬剤放出を更に制御するか又は別々の薬剤を供給する拡散バリヤとして任意に役に立ってもよい。キャップコートは、ステントを保護すると共に溶出速度に効果を有しないように単にステントの表面に適用される生体適合性ポリマーであってもよい。
【0034】
ステントコーティング適用に用いられるほとんどのポリマーは、疎水性であり、このようにペプチドと用いるのに適合する溶媒に可溶でない。ペプチドを放出するのに適切なポリマーは、両親媒性ポリマーである。ほとんどのポリマーの疎水性の性質から生じる溶解性の問題を克服するために、ポリ(エチレングリコール)(PEG)のような親水性化合物が既知の生体適合性ポリマーモノマー、例えば、メタクリレートと共重合され得る。PEGは、おそらく最も周知の親水性ポリマーの1つであり、ポリマーにおけるPEGの取込みは、生体適合性及び血液適合性を増大する。PEGは、有機溶媒における親水性及び溶解性に加えて、確立された安全性プロファイル及びPEGを多くの臨床応用に用いることを可能にする哺乳動物における免疫原性がないことを含む追加の望ましい特性を有する。PEGを含有する両親媒性コポリマーは、構造及び物理的性質がユニークであることからバイオマテリアル適用に用いられる。本発明のコポリマーは、PEG-メタクリレートとシクロヘキシルメタクリレートを含む。
【0035】
本発明のコポリマーは、下記式1 (式中、a、b、nは、独立して1-100の整数であり、nは、PEG尾部の長さであり; R1は、H又は低級アルキルであり、R2は、H、置換された又は置換されていないC1-C100直鎖又は分枝鎖アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基又はシクロアルケニル基、置換された又は置換されていないフェニル基又はベンジル基、複素環基、ノルボルニル基、アダマンチル基を含むがこれらに限定されない多環式アルキルである。)の一般構造を有する。置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、酸素、窒素、イオウ、リン、ガリウム、鉄、ホウ素及びそれらの1以上の放射性同位元素が挙げられてもよいがこれらに限定されない。


【0036】
【化1】

【0037】
本発明の一実施態様は、C45を示すPEG-メタクリレートとシクロヘキシルメタクリレートのコポリマーである。
実施例は、本発明の1以上の実施態様を示すものであり、本発明を以下に記載されるものに限定するものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1
C45コポリマーの合成法
合成スキーム1
6.0gのポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(Sigma-Aldrich、分子量300)、4.0gのシクロヘキシルメタクリレート(Sigma-Aldrich)、20mLのトルエン、37mgの2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を磁気撹拌子を備えたびんで混合した。びんを密閉し、N2で20分間パージした。反応びんを、60℃に保った水浴中で撹拌しながら2時間加熱した。ポリマーを、ヘキサンで5回沈殿させた。減圧下で乾燥した後、数平均分子量(Mn) = 217,000ダルトン、重量平均分子量(Mw) = 632,000ダルトンを有するポリマーを得た。
合成スキーム2
6.0gのポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Sigma-Aldrich、分子量360)、4.0gのシクロヘキシルメタクリレート(Sigma-Aldrich)、28mLのアセトン、12mLの1-ブタノール、37mgのAIBNを、磁気撹拌子を備えたびんにおいて混合した。びんを密閉し、N2で20分間パージした。反応びんを、60℃に保った水浴中で撹拌しながら77分間加熱した。ポリマーを、ヘキサンで2回、水で3回沈殿させた。減圧下で乾燥した後、Mn = 149,000ダルトン、Mw = 1,126,000ダルトンを有するポリマーを得た。
合成スキーム3
5.0gのポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Sigma-Aldrich、分子量360)、5.0gのエチルメタクリレート(Sigma-Aldrich)、14mLのアセトン、6mLの1-ブタノール、38mgのAIBNを、磁気撹拌子を備えたびんにおいて混合した。びんを密閉し、N2で20分間パージした。反応びんを、60℃に保った水浴中で撹拌しながら3時間加熱した。ポリマーを、ヘキサンで3回、水で3回沈殿させた。減圧下で乾燥した後、Mn = 176,000ダルトン、Mw = 969,000ダルトンを有するポリマーを得た。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ポリマーコーティングからの薬剤放出と関連している理想的な一次速度論を示すグラフである。
【図2】ポリマーコーティングからの薬剤放出と関連している理想的なゼロ次速度論を示すグラフである。
【図3】本発明の抗再狭窄化合物を送達するために用いられる血管ステントを示す図である。
【図4】血管形成術及び再狭窄の危険がある解剖学的管腔にステントの部位特異的送達に用いられるバルーンカテーテルアセンブリを示す図である。
【図5】本発明の原理に従って、引っ込んでいる位置(バルーンは収縮している)における注入カテーテルの針を示す図であり、シャフトは血管内のカテーテルに取り付けられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性コポリマー及び抗再狭窄剤でコーティングされた血管ステントを含む抗再狭窄剤の放出制御を与えるための医療装置。
【請求項2】
下記式の親水性ポリマーと疎水性ポリマーを含む医療装置に放出制御コーティングを施すための両親媒性コポリマー。
【化1】

(式中、a、b、nは、1-100から整数であり; R1は、H又は低級アルキルであり、R2は、H、置換された又は置換されていないC1-C100直鎖又は分枝鎖アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基又はシクロアルケニル基、置換された又は置換されていないフェニル基又はベンジル基、複素環基、多環式アルキル基又はアルケニル基である。)
【請求項3】
R1が、C1-100アルキル、C1-100アルケニル、又はHを含む、請求項2記載の両親媒性コポリマー。
【請求項4】
R2が、メチル、エチル、シクロヘキシル、ノルボルニル、フェニル、ベンジル及びアダマンチルからなる群より選ばれる、請求項2記載の両親媒性コポリマー。
【請求項5】
前記置換基がハロゲン、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、酸素、窒素、イオウ、リン、ガリウム、鉄、ホウ素及びそれらの1以上の放射性同位元素からなる群より選ばれる、請求項2記載の両親媒性コポリマー。
【請求項6】
請求項2記載の両親媒性コポリマー及び薬剤を含む、医療装置のための薬剤含有放出制御コーティング。
【請求項7】
両親媒性コポリマーが、ポリ(エチレングリコール)(PEG)-メタクリレート-シクロヘキシルメタクリレートコポリマーである、請求項6記載の薬剤放出コーティング。
【請求項8】
前記薬剤が抗再狭窄剤である、請求項6記載の薬剤放出コーティング。
【請求項9】
前記薬剤がペプチドである、請求項8記載の薬剤放出コーティング。
【請求項10】
前記医療装置が血管ステントである、請求項6記載の薬剤放出コーティング。
【請求項11】
抗再狭窄組成物の放出制御を与えるための医療装置であって、外面、内面、第1開放端、第2開放端を含む大体円筒形状を有するステントを含み、前記内面又は外面の少なくとも1つが、哺乳動物内の組織に少なくとも1つの薬剤の抗再狭窄有効量を送達するように適合されている、前記医療装置。
【請求項12】
前記ステントが機械的に拡張可能である、請求項11記載の医療装置。
【請求項13】
前記ステントが自己拡張可能である、請求項11記載の医療装置。
【請求項14】
少なくとも1つの抗再狭窄剤が前記ステントの前記内面と前記外面双方に存在する、請求項11記載の医療装置。
【請求項15】
少なくとも1つの前記内面と外面が両親媒性コポリマーでコーティングされ、前記両親媒性コポリマーがその中に組込まれた少なくとも1つの抗再狭窄剤を有し、前記両親媒性コポリマーが前記哺乳動物の前記組織に前記少なくとも1つの抗再狭窄剤を放出する、請求項11記載の医療装置。
【請求項16】
前記ステントが、バルーンカテーテルを用いて前記組織に送達される、請求項11記載の医療装置。
【請求項17】
前記組織が解剖学的管腔である、請求項11記載の医療装置。
【請求項18】
前記組織が血管腔である、請求項17記載の医療装置。
【請求項19】
抗再狭窄量の抗再狭窄剤を含有する両親媒性コポリマーコーティングでコーティングされた血管ステント。
【請求項20】
パリレンプライマーコートを更に含む、請求項19記載の血管ステント。
【請求項21】
前記両親媒性コポリマーコーティングが、PEGメタクリレート-シクロヘキシルメタクリレートポリマーを含む、請求項19記載の血管ステント。
【請求項22】
ポリ(ブチル)メタクリレートトップコートを更に含む、請求項19記載の血管ステント。
【請求項23】
前記抗再狭窄剤がペプチドである、請求項19記載の血管ステント。
【請求項24】
前記ペプチドが、ぺプチドとポリマーの質量で約0.1%〜99%の濃度である、請求項23記載の血管ステント。
【請求項25】
前記ステントが、バルーンカテーテルを用いて哺乳動物の解剖学的管腔の組織に送達される、請求項19記載の血管ステント。
【請求項26】
少なくとも1つの抗再狭窄剤の部位特異的送達を含む、哺乳動物において再狭窄を阻止する方法。
【請求項27】
前記抗再狭窄剤が、血管ステントを用いて再狭窄の危険のある部位に送達される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記抗再狭窄剤が、注入カテーテルを用いて再狭窄の危険のある部位に送達される、請求項26記載の方法。
【請求項29】
再狭窄を阻止する方法であって、両親媒性コポリマー及び抗再狭窄有効量の抗再狭窄剤を含む放出制御コーティングを有する血管ステントを与えること含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−517662(P2008−517662A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538118(P2007−538118)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/038109
【国際公開番号】WO2006/047378
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(502129357)メドトロニック ヴァスキュラー インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】