説明

生分解性の単一相結着性親水ゲル

混合による相互侵入の前に架橋されているx種の同一でも又は異なっていてもよいポリマーの均質混合体で構成されており、単一相の親水ゲルの形態であり、上記架橋されているポリマーは、水に不溶性であり且つ互いに混和性であり、且つxが2〜5となることを特徴とする生分解性の単一相結着性親水ゲル。一実施態様において、本発明の親水ゲルは、x種のポリマーが、同一の又は異なった架橋度を有し、x種のポリマーの少なくとも一つは、架橋度x1を有し、且つx種のポリマー少なくとも一つは、架橋度x2を有し、x1は、x2以上であることを特徴とする。本発明は、本発明の親水ゲルの製造方法及びそれらの使用、例えば増粘組成物の配合又はしわの充填のための組成物の配合のための使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば審美用途又は医薬用途を有する、架橋した生分解性親水ゲルに関する。
【0002】
審美用途では、例えば、小皺、しわ及び皮膚欠損の充填、並びにボリューム増加について言及がなされるであろう。
【0003】
医療用途では、例えば、括約筋の機能不全による尿失禁の治療のための尿道周囲注入、腹膜癒着の防止のための手術後の注入、特に生体液不足の補充のための注入(特に、関節中での滑液不足の補充)、及びレーザー強膜切開による遠視のための手術後の注入について言及されるであろう。
【背景技術】
【0004】
これら全ての用途において、用いられる親水ゲルは、体内での持続性、レオロジー及び粘性の点で最適化された特性を示して、良好な「注入性(injectability)」を保証しなければならない。これらの親水ゲルは、その用途によって様々なサイズの針を用いて注入されることで適用されているが、その針は、注入後の反応を最小化するために可能な限り細い必要がある。
【0005】
これら様々な用途の最適化は、時に互換性がないので、しばしば満足しない妥協に終わる。特に、体内での持続性を伸ばすために、架橋度を増加させることが望まれるが、架橋度を増加させると、「注入性」は必然的に低下する。
【0006】
多数の解決法が提案されてきた。そして、言及が、これらのうちで、注入媒体(injection vector)中に分散された永続的な又は非常に低い生分解性の粒子に基づく組成物についてなされるであろう。この組成物は例えば、コラーゲンゲル中のPMMA(ポリメチルメタクリレート)粒子(アーテコール)、架橋したヒアルロン酸ナトリウムゲル中のアクリル系親水ゲル粒子(ダーマライブ、ダーマディープ)、又は水性媒体(aqueous vector)中のポリ乳酸若しくはポリラクチド(PLA)粒子(ニューフィル、スカルプトラ、ポリラクチドが粒子サイズによって1〜4年で吸収される)がある。
【0007】
これらインプラントは、特に固体粒子が球形ではなく且つ永続的性質を有している場合に、その固体粒子による副作用の可能性の結果として、議論の対象となっている。リストアップされた合併症のうちで、炎症、浮腫及び肉芽種について、言及される場合がある。
【0008】
本質的にヒアルロン酸ナトリウムに基づく、架橋した又は架橋していない多糖に基づく生分解性インプラントについても、言及される場合がある。
【0009】
これら不利を克服するために、従来技術の大部分の文献(例えば、特許文献1又は特許文献2)において、記載された生成物は、体内での持続性、レオロジー、及び粘性の所望の特性を示す混合物を得るために、ポリマーの混合物について実行された架橋により得られる。
【0010】
他の一つの解法は、相互侵入高分子網目(IPN)又は半相互侵入高分子網目(半IPN)の利用であり、これは特性を最適化すること及び目標とされた特性を示す組成物を得ることを可能とする。これには、例えば、特許文献3が述べる、多糖の半相互侵入網目から作られた組成物であって、架橋されない少なくとも一つの多糖の存在下で、少なくとも一つの多糖を架橋することにより得られるもの、又は特許文献4が述べる、少なくとも二つの多糖から作られ、後に架橋される(例えば放射線による)組成物であって、そのポリマーは互いに独立に架橋されているが、IPNを形成するために相互侵入しているものがある。
【0011】
注入可能な二相組成物も提案されている。特許文献5は、連続相及び親水ゲルの不溶性部分から構成されている分散相を含む組成物について述べている。その水性連続相は、分散相の部分の注入のための媒体として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】仏国特許出願番号第2,865,737号(Anteis S.A.による出願)
【特許文献2】仏国特許出願番号第2,861,734号(Corneal Industrie S.A.による出願)
【特許文献3】国際公開WO2005/061611(Innomedによる出願)
【特許文献4】米国特許第6,224,893号(MIT(Massachusetts Institute of Technology)による出願)
【特許文献5】仏国特許出願番号第2,733,427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これらの様々な解法は、完全に満足のいくものではない。
【0014】
二相ゲルに関しては、副反応に関する不利な点が、文献において述べられている。また、それらの注入性の水準が、粒子サイズの結果として不規則となり、これは制御するのが困難となりうる。
【0015】
さらに、架橋した多糖ゲルの分解にかかわる主な機構は、本質的に表面機構及びランダム機構であり、これは比較的大きい分解表面積を示す二相生成物に関して、特に述べられている。
【0016】
混合物を架橋させることにより得られる生成物、例えば特許文献1、若しくは特許文献2に記載された生成物、又はIPN若しくは半IPNに関して、それらの完全に単一な相又はその網目の相互侵入は、体内での良好な持続性、及び殆ど又は全く副反応がないことを保証する。しかしそれらは、特に天然高分子で、例えば分子量の変動に起因して、時に混合物の選択的な架橋反応の実行において、技術的な困難性が存在するので、満足する解を与えることを可能としない。これらの生成物は、あるバッチから他の一のバッチで、その物理的性質の完全な再現性を保証することを可能としないので、工業的な操業の困難性をもたらす。
【0017】
本発明は、これらの様々な不利を解決することを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、生分解性の単一相の結着性親水ゲルからなる。この親水ゲルは、混合による相互侵入の前に架橋されているx種の同一の又は異なったポリマーの均質な混合物で構成されていて、単一相の親水ゲル形態であり、上記架橋したポリマーは、水に不溶であり且つ互いに混和性であり、且つxは2〜5の間である。
【0019】
本発明のゲルの結着性及び単一相の性質とは、構成ゲルの分離の可能性のない状態で、その安定性及びその単一性を保持する上記ゲルの性質を意味していると理解される。
【0020】
「混合」という単語は、x種のポリマーの間に共有結合の生成がない状態での、それらのポリマーの並置を意味していると理解される。相互作用は、極性基と水系媒体の存在により様々なポリマー間で発生する。これら相互作用は、低エネルギーの弱い結合タイプであり、これは、分子間水素ブリッジのような力、及び実際にはイオン結合を伴う。
【0021】
このようにして得られる混合物は、IUPAC定義の意味の範囲内でIPNになっていないが、IPNに匹敵する特性を示す。これは、この定義が事前に架橋した網目の混合物を除外するからである。しかしながら、本発明では、その結着性の且つ事前に架橋したゲルは、緊密混合されて、それらの間に弱い鎖間の結合を生じる。
【0022】
それらは互いに分離できなくなって、それゆえ相互に結びついた架橋ゲルの網目を生じ、IPNのそれと同様の結着を生じる。
【0023】
そのような生成物は、IPNを採用することの不利な点を有さずに、IPN網目の有利な点を示す。そして、そのような生成物は、それぞれの構成ゲルに関して異なる架橋度(又は、そのゲルが大きく異なる分子量を有するならば、同一の架橋度)を使用することの利点によって、より密な又は疎な密度の網目を、最終的な水和の前に生成することを可能とする。そして、混合前に様々な構成ゲルの特性を測定することにより、「調節できる」レオロジー特性を有する生成物を、混合後に得ることを可能とする。
【0024】
それゆえ、その架橋反応は、孤立したポリマーについて実行することができ、そうして選択性の問題を避ける。
【0025】
それゆえ、実施は簡単であり、且つ、特に分子量において、あるバッチから他のバッチで変化しうる特性の天然生成物を用いても、実施が最終の要求を満足することを可能とする。
【0026】
さらに、その架橋条件の実施はシンプルであり、それぞれのゲルが互いに独立に架橋している。
【0027】
このようにして得られる混合物は、様々な構成ゲルのそれぞれの有利な点を兼ね備え、それらの不利を最小化しながら、粒子に基づく組成物の使用で観察される副作用をもたらさないであろう。
【0028】
結果として得られる特性における最適化及び相乗効果が、注入性及び持続性の両方の点で観察されるであろう。
【0029】
その相乗効果は、その二つのパラメーターの最適化の結果として得られる。この二つのパラメーターは、相互に互いに作用し、低架橋は注入性に好ましく且つ持続性に好ましくない、そして、高架橋は持続性に好ましく、且つ反対に、注入性に好ましくない。
【0030】
その網目のそれぞれの特性は、相互に補完する。それゆえ、最も高い弾性パラメーターを有するゲルは、非常に低架橋のゲルと比較して、その複合体の弾性パラメーターの増加をもたらすだろう。その一方で、注入性(その生成物の粘性に関する)に関して、最も低い水準の注入性を有するゲルは、その複合体の注入性の水準を低下させることを可能とするだろう。そのようにして、最終的な混合物の特性が最適化され、得られる最終混合物の弾性パラメーター及び粘性パラメーターの相乗効果を有し、これは、その構成ゲルのそれぞれの相対的な割合及び目標とする病状に従って変更されうる。
【0031】
それゆえ、x種のポリマーのそれぞれの割合を調節することによって、その混合物の粘性を変更することが可能である。過剰に流動性のある最終の混合物の場合には、高度に架橋したポリマーの添加が、注入性の適切な水準を得ることを可能とするであろう。反対に、過度に粘性のある最終混合物の場合には、弱く架橋したポリマーの添加が、その複合体の注入性の度合いを低下させることを可能とするであろう。
【0032】
目標とする用途に関わらずに、通常に用いられるよりも細い針の使用は、炎症反応及び注入後の心的外傷を減少することを可能とするであろう。
【0033】
その特性が再現可能であるので、個々の間の変動の要因から離れて、そのゲルの持続性は、知られて且つ予測可能となり、またその注入性の特性の再現性は、作用の良好な制御及び多数の副作用の除去を可能とするであろう。
【0034】
親水ゲルは、その構成のために、混合したゲルの数及び架橋度に応じた分解動力学を示すであろう。これは、分解動力学が、下記のいくつかのパラメーターに依存するからである:架橋度、ポリマーの濃度、及び架橋時に用いられるポリマーの分子量。
【0035】
分解動力学は遅くなるであろう。これは、均質混合した、持続性の異なる度合いを有するゲルが、全体の持続性を、そのゲルのランダム開裂を「希釈する」効果により、強化することを可能とするからであろう。そのランダム開裂は、皮膚中又は補充された体液中に存在しているフリーラジカル又は酵素(ヒアルロニターゼなど)のどちらかを通じてなされる。そのように作成された最終の生成物は、注入性の同等の水準に対して、完全に生分解性でありながら、より持続性を有するであろう。
【0036】
2〜x種の架橋したゲルの機械的及び化学的独立性を保持しながらその架橋密度又は化学結合密度を増加させるその網目の相互侵入の結果として、その持続性も最適化されるであろう。それゆえ、フリーラジカルのランダム攻撃は、単純な単一相のゲル(1種の網目だけで、表面で結合の弱化が早く、化学結合の密度がより低い)と比較して、統計的により少ない。ゲルの中心部への接近性は、酵素による又はCD44抗原を用いた分解に関して、さらに一層難しくなるであろう。さらに、事前に架橋したそれぞれの単一相ゲルで異なった分子量を使用することは、高密度化又は低密度化した構造又は網構造を有する網目を形成することを可能とし、それゆえさらに体内での持続性を強化することを可能とするであろう。
【発明を実施するための形態】
【0037】
一実施態様において、本発明の親水ゲルは、ポリマーが多糖から選択されることを特徴とする。
【0038】
一実施態様において、本発明の親水ゲルは、ポリマーが、ポリ乳酸及びそれらの誘導体、N−ビニルピロリドン、ポリビニル系酸、ポリアクリルアミド及びアクリル系ポリマー、並びに生体許容性誘導体からなる群から選択されることを特徴とする。
【0039】
多糖は、ヒアルロン酸、ケラタン、ヘパリン、セルロース及びセルロース誘導体、アルギン酸、キサンタン、カラギーナン、キトサン、コンドロイチン、並びにそれらの生体許容性の塩からなる群から選択される。
【0040】
一実施態様において、x種の多糖の少なくとも一つは、ヒアルロン酸及びその生体許容性の塩からなる群から選択される。
【0041】
他の一つの実施態様において、本発明の親水ゲルは、x種の多糖の少なくとも一つが、セルロース誘導体及びそれらの生体許容性の塩からなる群から選択されることを特徴とする。
【0042】
他の一つの実施態様において、本発明の親水ゲルは、x種の多糖の少なくとも一つが、コンドロイチン及びその生体許容性の塩からなる群から選択されることを特徴とする。
【0043】
他の一つの実施態様において、本発明の親水ゲルは、x種の多糖の少なくとも一つが、キトサン、並びにその生体許容性の塩及びその誘導体からなる群から選択されることを特徴とする。
【0044】
本発明の親水ゲルで使用されうる多糖は、当該分野において知られる任意の種類のものであり、且つ好ましくは細菌発酵により生じる物質から選択される。一般的に、本発明の文脈で用いられうる多糖は、約0.02MDa〜約6MDaの分子量(MW)を示し、好ましくは約0.04MDa〜約4MDa、さらに好ましくは約0.05MDa〜約3MDaを示す。
【0045】
特にヒアルロン酸及びその塩、とりわけ生理学の視点から許容されるその塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩、有利にはナトリウム塩に、選好が与えられる。
【0046】
コンドロイチン硫酸及びその塩、及びセルロース誘導体、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロース、並びにそれら2以上の混合物の使用も有利になされる。
【0047】
ヒアルロン酸ナトリウムは、皮内注入、関節内注入、腹膜内注入及び他の注入における、処置上の高い反動によって、特に有利な特性を示し、且つ優れたレオロジー特性も有するので、本発明による親水ゲルの構成ゲルは、好ましくはヒアルロン酸ナトリウムをベースとされる。
【0048】
一実施態様において、そのx種のポリマーは同一のポリマーである。一実施態様において、そのx種のポリマーは異なったポリマーである。
【0049】
一実施態様において、本発明の親水ゲルは、xが2と等しいことを特徴とする。
【0050】
特定の実施態様によると、x種の多糖の第一の多糖は、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース誘導体及びそれらの塩、並びにキサンタンからなる群から選択され、且つ第二の多糖は、コンドロイチン硫酸及びその塩、キトサン並びにその塩及びその誘導体、セルロース誘導体及びそれらの塩、並びにアルギン酸からなる群から選択される。他の一つの特定の実施態様において、x種のポリマーの第一のポリマーは、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース誘導体及びそれらの塩、並びにキサンタンからなる群から選択され、且つ第二のポリマーは、ポリ乳酸及びそれらの誘導体、並びにアクリル誘導体からなる群から選択される。
【0051】
一実施態様によると、x種のポリマーの第一のポリマーは、ヒアルロン酸ナトリウムの群から選択され、且つ第二のポリマーは、コンドロイチン硫酸及びその塩、キトサン並びにその塩及びその誘導体、セルロース誘導体及びそれらの塩、並びにアルギン酸からなる群から選択される。
【0052】
本発明による親水ゲルでは、高度に架橋された多糖の、弱く架橋した多糖に対する重量比は、使用する多糖の性質、それらの相対的な架橋度、及び目標とする最終特性にも従って、非常に幅広い割合の範囲内で変化しうる。
【0053】
一般的に、最終生成物中の高度に架橋された多糖ゲルの重量比は、0.1〜99.9%の間、好ましくは架橋度x1を示すゲル1が5〜50%で、且つ架橋度x2を示すゲル2が50〜95%であり、又はよりさらに好ましくは、架橋度x1を示すゲル1が10〜40%で、且つ架橋度x2を示すゲル2が60〜90%である。
【0054】
本発明はまた、本発明の生分解性親水ゲルの作成のための方法にも関する。この方法は、用途に応じて目標とするレオロジー特性を決める仕様を作り上げるステージを含む。
【0055】
持続性の度合いの決定に関して、弾性が目標とされるが、これは架橋度に起因する。そして、注入性の決定に関して、架橋度に関連する高剪断速度での粘性が決定される。これらのパラメーターは、開始材料に依存し、特にそれらの分子量に依存する。
【0056】
架橋度及び構成ゲルの相対的割合を決定すると、本発明による生分解性の単一相の結着性親水ゲルの作成に関する方法は、少なくとも下記のステージを含むことを特徴とする:
第一のポリマーを架橋度x1まで架橋
第二のポリマーを架橋度x2まで架橋
これら二つのポリマーの緊密混合による相互侵入
水和
水和後の最終混合による最終の相互侵入。
【0057】
例えば、水和は緩衝等張溶液への浸液又は緩衝等張溶液の添加により実行される。
【0058】
一実施態様によると、そのプロセスは、x種の架橋したポリマーを混合する前に、x種のポリマーを架橋するx個のステージを追加的に含む。
【0059】
水和は、水系媒体中で、架橋したゲルの混合物と水溶液(有利には緩衝生理水溶液)の単純な混合により、一般的には実行される。それは、使用する多糖の性質、それらの相対的な架橋度、及び予想される使用法にも従って、非常に幅広い割合の範囲内で変化しうる最終の濃度を得るように、実行される。使用されうる緩衝溶液は、例えば、約6.8〜約7.5のpHを示す浸透性生理溶液(osmolar physiological solution)となることがある。
【0060】
全ての多糖のこの最終濃度は、親水ゲルに対して、一般的に約5〜約100mg/g、好ましくは約5〜約50mg/gであり、例えば約20mg/gである。
【0061】
本発明の方法は、そのようにして、注入可能で且つ長期持続性を有する、生分解性の単一相の結着性親水ゲルを得ることを可能とする。
【0062】
上記のその作成プロセスにおいて、同一の又は異なるpH値を有する媒体中で二つの架橋ステージが実行される。これら各ステージは、酸性媒体中又は塩基性媒体中で、好ましくは塩基性媒体中で、例えばpH8〜14、好ましくは8〜13で、実行されうる。
【0063】
本発明の方法中で採用される架橋反応は、当業者に周知の反応である。多糖及び/又は架橋剤のそれぞれに関して、当業者はその多糖及び架橋剤に従った架橋条件、すなわち架橋度、温度、pHを発展又は最適化することができる。しかしながら、上述のとおり、その架橋ステージは、一定のpH、酸性pH又は塩基pHのどちらか、で実行されるように指定される。
【0064】
架橋ステージに関与する架橋剤は、一般的に、様々なタイプの二官能性又は多官能性の架橋剤である。このような架橋剤は、例えば、アルカリ媒体中のDVS(ジビニルスルホン)(米国特許第4,582,865号参照)、二官能性若しくは多官能性のエポキシ化合物(米国特許第4,716,154号参照)、カルボジイミド、又はホルムアルデヒド(英国特許第2,151,244号参照)から選択することが可能である。
【0065】
二官能性又は多官能性のポリエポキシドのタイプの物質が特に好ましく、反応が塩基性媒体中で起こり、多糖の−OH官能基を有するエーテル結合を生じ、又は反応が酸性媒体中で起こり、エステルのタイプの結合を生じる反応が起こる。国際特許出願WO2000/46253は、多糖の架橋を最適化するため、これら二つのpH条件を続けて使用する。しかしながら、水系媒体中では、酸性媒体に由来するエステル結合は、塩基性媒体に由来するエーテル結合よりも一般的に不安定であるため、架橋反応を塩基pH条件下で実行することが好ましい。
【0066】
架橋剤として、エポキシド又はその誘導体、特に1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、ジエポキシオクタン、又は1,2−ビス(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エチレンを使用できる。各架橋ステージのための1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)の使用が、さらに特に好ましい。
【0067】
各架橋ステージが、一つ又はそれより多くの架橋剤を用いて実行されうると理解されるべきであり、上述のpH条件下で、ステージの一つ又はステージのもう一つで、架橋剤は同一であっても異なっていてもよい。
【0068】
各架橋ステージの後、未反応残留架橋剤を除去するために、有利には、通常の精製技術(例えば流水洗浄、透析槽、及び他の技術)により、多糖が精製されうる。
【0069】
加えて、有利には、架橋ステージの後で、例えば、1Nの塩酸の適切な量の添加による中和ステージ(すなわち、約7のpH値まで中和)を行う。
【0070】
本発明の親水ゲルにおいて、x種のポリマーは異なる架橋度を示し、x種のポリマーの少なくとも一つは、架橋度x1を示し、且つx種のポリマーの少なくとも一つは、架橋度x2を示し、且つx1はx2より大きい。
【0071】
一実施態様において、本発明の親水ゲルでは、x種のポリマーは同一の架橋度を示し、ポリマーが異なった分子量を持ちうると理解される。
【0072】
一実施態様において、x1及びx2は、0.02〜0.4の間であり、好ましくは0.08〜0.2の間である。
【0073】
架橋の終わりで、当該分野で知られている標準のプロセス(例えば、架橋が塩基性媒体で実行された場合には酸の添加、及び架橋が酸性媒体で実行された場合には塩基の添加)に従って、得られるゲルを中和することが有利となる場合がある。
【0074】
そのプロセスの終わりで得られる混合物には、予想される用途に関して適切な注入可能な親水ゲルの形態のゲルを得るために、任意的に、追加の水和ステージを行ってもよい。
【0075】
本発明は、粘弾性添加剤組成物の配合における、本発明の親水コロイドの使用に関する。
【0076】
本発明は、しわの充填のための組成物の配合における、本発明の親水コロイドの使用に関する。
【0077】
目標とする用途は、より特には、使用される注入可能な多糖の粘弾性生成物の関連で通常みられる用途であり、又は下記の病状又は治療で、使用されうる可能性がある用途である:
美容注入:しわ、皮膚欠損、ボリューム不足(頬骨、顎、唇)の充填;
変形性関節炎の治療、滑液不足の補充又は増強するための関節への注入;
括約筋の機能不全による尿失禁の治療のための尿道周囲注入;
特に腹膜癒着を防止するための手術後の注入;
レーザーを用いた強膜切開による遠視のための手術後の注入;
硝子体腔への注入。
【0078】
より特に、美容整形において、その粘弾性特性及び持続性の特性によって、本発明による親水ゲルは下記に関して使用されうる:
細い針(例えば、27ゲージ)を用いて注入されうる、細かい、中程度の又は深いしわの充填。
より太い直径(例えば22〜26ゲージ)を有し、且つより長い長さ(例えば、30〜40mm)を有する針を通じての注入によるボリュームを出す生成物。この場合、その結着性の性質は、注入場所でそれが維持されることを保証することを可能とするであろう。
【0079】
本発明による親水ゲルは、関節手術及び歯科手術(例えば歯周ポケットの充填)においても重要な用途を有する。
【0080】
これらの実施例は決して限定されず、本発明による親水ゲルはより幅広く下記に関して提供されている:
ボリュームの充填;
ある組織内への空間の生成、それによるそれらの最適な機能への促進;
生理液不足の補充。
【0081】
本発明による親水ゲルは、事前にその中に分散させた一つの(又はそれ以上の)有効成分を放出するためのマトリクスとして、全面的に有利な用途を有することがある。「有効成分」という単語は、薬理的活性のあるあらゆる生成物、すなわち医薬活性成分、抗酸化活性成分(ソルビトール、マンニトール等)、殺菌活性成分、抗炎症活性成分、局所麻酔活性成分(リドカイン等)等を意味する。
【0082】
実際には、本発明の親水ゲルは、好ましくは精製及び親水ゲルを与える水和の後、販売されるために及び/又は直接的に使用されるために、例えばシリンジ中に、詰められることがあり、そして、本来よく知られている任意の手段により(例えば加圧滅菌により)殺菌されうる。
【0083】
他の一つの側面によると、本発明は、殺菌したシリンジ中に詰められた本発明の親水ゲルを有するキットに関する。
【0084】
本発明のゲルの特性は、下記の実施例に実証されている。
【実施例】
【0085】
架橋度:
下記の実施例中の架橋度xは、次のように定義している:
x=反応溶媒中に導入した架橋剤のモル数/反応溶媒中に導入した二糖類単位の合計数
【0086】
実施例1:
架橋ゲル1
【0087】
ステージa):非架橋ゲルの形態でのヒアルロン酸ナトリウム繊維の水和
【0088】
注入可能なグレードのヒアルロン酸ナトリウム繊維(1g、分子量:約2.7MDa)を容器に入れて秤量する。水酸化ナトリウムの1%水溶液(7.4g)を添加して、そして混合した混合物を約1時間、室温且つ900mmHgでスパチュラを用いて、均質化する。
【0089】
ステージb):架橋
【0090】
BDDE(65mg)を、先立つステージで得られた非架橋ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)ゲルに添加し、その混合した混合物を、室温で約30分間スパチュラで均質化する。その後、その混合させた混合物を、約0.14の架橋度x1を得るために、2時間20分にわたって50℃で水槽に置く。
【0091】
ステージc):中和、精製
【0092】
架橋した最終のゲルは、その後、1NのHClの添加により中和し、そしてpHを安定させるため且つ30mg/gのHAまでその水和又は膨潤を可能にするために、リン酸緩衝液の槽に置く。そのようにして、従来用いられた手段により架橋されたNaHa親水ゲルを得る。これは、約30mg/gのHA濃度を有するG1である。
【0093】
そのゲルの一部を、この濃度で保存し、そしてその他の部分は、最終的に20mg/gのHAを得るためにリン酸緩衝液の添加により希釈する。その後、このゲルを均質化し、そして加圧滅菌により殺菌したシリンジに詰める。これは、20mg/gのゲルG1を有する殺菌したシリンジである。
【0094】
架橋ゲル2
【0095】
ステージa):非架橋ゲルの形態でのヒアルロン酸ナトリウム繊維の水和
【0096】
注入可能なグレードのヒアルロン酸ナトリウム繊維(1g、分子量:約1.5MDa)を、事前に容器に入れて秤量し、そして乾燥した。水酸化ナトリウムの1%水溶液(6.3g)を添加して、そして混合した混合物を、約1時間、室温且つ900mmHgでスパチュラを用いて均質化する。
【0097】
ステージb):架橋
【0098】
BDDE(43mg)を、先立つステージで得られた非架橋ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)ゲルに添加し、その混合した混合物を、室温且つ大気圧で約30分間、スパチュラで均質化する。その後、その混合した混合物を、約0.09の架橋度x2を得るために、2時間20分にわたって50℃で水槽に置く。
【0099】
ステージc):中和、精製
【0100】
架橋した最終のゲルは、その後、1NのHClの添加により中和し、そしてpHを安定させるため且つ30mg/gのHAまでその水和又は膨潤を可能にするため、リン酸緩衝液の槽に置く。そのようにして、従来用いられた手段により架橋されたNaHa親水ゲルを得る。これは、約30mg/gのHA濃度を有するG2である。
【0101】
実施例2:
10%のG1−90%のG2の割合での、ゲル1及びゲル2の混合/相互侵入
【0102】
10%/90%でのゲルG1及びG2の混合/相互侵入
【0103】
18gの30mg/gのゲルG2を秤量し、そして先立つステージc)の終わりに得られたゲルG1(30mg/gのG1)の2gを、そこに添加する。10gのリン酸緩衝液を添加し、そして2つのゲルを、高圧下で1時間にわたってゆっくりとした機械的攪拌の下に置く。
【0104】
そのようにして得られた混合物は、20mg/gのHAを含み且つ2つの相互侵入網目を構成する均一のゲルとなる。このゲルを、その後、シリンジに詰めて、加圧滅菌する。
【0105】
実施例3:
50%−50%の割合での、ゲル1及びゲル2の混合/相互侵入
【0106】
上記の各実施例のステージc)の終わりに得られたゲル、すなわち約0.14のx1まで架橋したゲル1及び約0.09のx2まで架橋したG2(共に約30mg/gのHAの濃度を有する)を秤量して得る。これは、10gのG1+10gのG2である。
【0107】
10gのリン酸緩衝液も添加し、そして2つのゲルを高圧下で1時間にわたってゆっくりとした機械的攪拌の下に置く。
【0108】
そのようにして得られる混合物は、20mg/gのHAを含み且つ2つの相互侵入網目を構成する均一のゲルとなる。このゲルを、その後シリンジに詰めて、加圧滅菌する。
【0109】
実施例4:
実施例1及び2のゲルの特性評価:
・x1まで架橋したゲルG1
・10%のG1、及びx2まで架橋した90%のG2の混合物
・50%のG1、及び50%のG2の混合物
これら3つの最終生成物は、全て3つが20mg/gのHAの最終濃度となる。
【0110】
押出力又は「注入性」の特性評価:
【0111】
この試験は、シリンジに詰めてそして殺菌したゲルについて、27G×1/2の針を用いて、13mm/分の圧縮速度で、伸張圧縮試験機上において実行する。実施例1、2及び3のそれぞれの押出力の結果を表1に与える。
【表1】

【0112】
ゲルG1単独と比較して、架橋したゲルの相互侵入網目のより低い注入性を、明確に観測した。
【0113】
分解試験
【0114】
これら様々なゲルを、体外温度分解試験によっても特性評価した。この試験は、皮内注入されるゲルの、その後の体内持続性のシミュレーションを可能とする。これは仏国特許第2,861,734号に記載された持続性テストの仕様を基礎に発展させた。ゲル全てを、オーブンに93℃で、14時間、24時間、及び48時間にわたって配置し、各時間の後に弾性の特性評価を行った。これらさまざまなゲルに関する分解結果での傾向の曲線は、後にこれらゲルの半減期(G’=G’/2を有するのに必要な期間、時間単位、G’は、特性評価されるゲルのtでの弾性)を評価することを可能とする。得られた半減期も表2に与える。
【表2】

【0115】
事前に架橋したゲルの2つの相互侵入網目と比較すると、ゲル1単独に関しより大きな分解を観測した。
【0116】
それゆえ、より低い注入性及びそれによる手術行為のより良い制御に関して、本発明により得られたゲルの相互侵入網目の半減期は、より長くなり、体内持続性のより長い時間を保証する。
【0117】
実施例5:
本発明の親水ゲルの結着性及び単一相の性質を確認するために、3回の5分の手動遠心分離試験を、先立つ実施例で得られた20mg/gのHAを有する10/90及び50/50の混合物について実行した。
【0118】
比較によって、50%の架橋したNaHA粒子を50%の非架橋NaHA粘性生成物に分散させた「二相」タイプの生成物、例えば従来技術に記載された物質を、欧州特許第0,466,300号の手順に従って作成した。その二相は、リン酸緩衝液中に事前に水和されており、20mg/gのHAを有している。
【0119】
先立つ実施例で得られた本発明の生成物は、沈降による分離を示さない。その生成物は、遠心分離操作後に排出しても、いまだに均一の様相を有している。
【0120】
他方で、「二相」タイプの生成物は、遠心分離後に、シリンジの底に、分離した粒子を現す。もしその生成物がシリンジから排出されると、粘性生成物が最初に出て、後に粒子が出る。これは互いに結着性を有さず、シリンジの底で凝集して、そしてその注入性を特に困難にする。
【0121】
実施例6:
リン酸緩衝液の添加によるNaHA濃度の調整を伴って実施例2に記載した方法により25.5mg/gの濃度でゲル及びゲルの混合物を最終的に得るための、下記の割合での、実施例1のゲルG1及びG2の混合/相互侵入:
IPN状ゲル1:架橋度x1の70%ゲル1+架橋度x2の30%ゲル2
IPN状ゲル2:架橋度x1の50%ゲル1+架橋度x2の50%ゲル2
IPN状ゲル3:架橋度x1の30%ゲル1+架橋度x2の70%ゲル2
【0122】
その後、これらのゲルをシリンジに詰め、そして加圧滅菌により殺菌した。
【0123】
これらIPN状ゲル、及び25.5mg/gのNaHA濃度のx1まで架橋したゲル1の押出力及び弾性の特性評価:
【0124】
その押出力を、23G×1と1/4の針で、50mm/分の圧縮速度の下で、伸張/圧縮試験機(Mecmesin)を用いて特性評価する。結果を表3に与える。
【0125】
弾性は振動式レオメーター(TA Instruments、AR2000 Ex)で25℃で特性評価し、1Hzの周波数での弾性の値を記録した。結果を表3に与える。
【表3】

【0126】
3つの相互侵入ゲルに関して、弾性の上昇に対して、押出力はかなり近いが、全てゲル1の押出力よりも低く観測される。それゆえ、この架橋したゲルの相互侵入技術の使用は、様々なレオロジーの最終生成物を得ることを可能とする。ここで、弾性の上昇(それによるより良いボリュームアップ効果及び期待されるより長い持続性)は、注入性の低下に対応する。
【0127】
実施例7:
ゲル3の合成:実施例1のゲル1の手順/操作の条件に従って、ゲルを合成する。
【0128】
ステージa):非架橋ゲルの形態での、ヒアルロン酸ナトリウム繊維の水和
【0129】
このステージは実施例1のゲル1の合成のステージa)と同一である。
【0130】
ステージb):ゲルの架橋
【0131】
このステージは、実施例1のゲル1の合成のステージb)と同一であるが、BDDE(81mg)を用いている。約0.17の架橋度x3を有するゲル3を得る。
【0132】
ステージc):中和、精製
【0133】
このステージは、約30mg/gのHA濃度を有するゲルG3を得るために、実施例1のゲル1の合成のステージc)と同一とする。
【0134】
そのゲルの一部を、この濃度で保存し、そしてその他の部分は、最終的に24mg/gのHAを得るためにリン酸緩衝液の添加により希釈する。その後、このゲルを均質化した後、加圧滅菌により殺菌したシリンジに詰める。これは、24mg/gのゲルG3を有する殺菌したシリンジである。
【0135】
割合80/20でのゲル1/ゲル3の相互侵入
【0136】
30mg/gのゲルG1を16g秤量し、そして先立つステージc)の終わりに得られた30mg/gのゲルG3の4gをそこに添加する。5gのリン酸緩衝液を添加し、そして2つのゲルを、1時間にわたってゆっくりとした機械的攪拌の下に置く。
【0137】
そのようにして得られる混合物は、24mg/gのHAを含み且つ2つの相互侵入網目を構成する均一のゲルとなる。このゲルを、その後シリンジに詰めて、加圧滅菌する。
【0138】
そのゲル及び上記の相互侵入ゲルの特性評価:
・24mg/gで架橋度x3を有するゲル3、
・架橋度x1を有し且つ事前に24mg/gにされ、シリンジに詰められ、そして殺菌されたゲル1、及び、
・24mg/gの、80%ゲル1+20%ゲル3の相互侵入ゲルの混合物
【0139】
これらのゲルを押出力により特性評価する。27G×1/2の針を用いて、13mm/分の圧縮速度を用いて伸張圧縮試験機(Mecmesin)で試験を実行する。これらのゲルの各押出力の結果を表4に与える。
【0140】
これらのゲルを、実施例4に記載した体外温度分解試験によっても特性評価した。得られた半減期もまた表4に与える。
【表4】

【0141】
上記のように、この相互侵入ゲルのより低水準の注入性に対し、相互侵入ゲル、及び非常に高い度合いのx3まで架橋したゲル3に関して、同等の持続性を観測される。
【0142】
実施例8:
実施例1及び2による3つの単一相の架橋ゲルの合成:
【0143】
・ゲル4:
【0144】
ステージa):
実施例1のゲル1の合成に関するステージa)と同一であるが、約2.7MDaの分子量を有するHA1g、及び水酸化ナトリウムの1%水溶液6.8gを用いる。均質化条件は実施例1と同じである。
【0145】
ステージb):架橋
実施例1のゲル1の合成のステージb)と同一であるが、62mgのBDDEを用いる。その混合した物質を、約0.13の架橋度x4を得るために3時間にわたって50℃の水槽に置く。
【0146】
ステージc):中和、精製
30mg/gのゲル4を得るために、実施例1のゲル1の合成のステージc)と同一とする。そのゲルの一部をこの濃度で保存し、そしてその他の部分は、最終的に24mg/gのHAを得るために、リン酸緩衝液の添加により希釈する。その後、このゲルを均質化した後で、加圧滅菌により殺菌したシリンジに詰める。これは、24mg/gのゲルG4を有する殺菌したシリンジである。
【0147】
・ゲル5:
【0148】
ステージa)
ゲル4の合成のステージa)と同一である。
【0149】
ステージb):架橋
ゲル4の合成のステージb)と同一であるが、80mgのBDDEを用いる。その混合した物質を、約0.17の架橋度x5を得るために、3時間にわたって50℃の水槽に置く。
【0150】
ステージc):中和、精製
30mg/gのゲル5を得るために、ゲル4の合成のステージc)と同一とする。そのゲルの一部をこの濃度で保存し、そしてその他の部分は、最終的に24mg/gのHAを得るために、リン酸緩衝液の添加により希釈する。その後、このゲルを均質化した後で、加圧滅菌により殺菌したシリンジに詰める。これは、24mg/gのゲルG5を有する殺菌したシリンジである。
【0151】
・ゲル6:
【0152】
ステージa)
実施例1のゲル1の合成に関するステージa)と同一であるが、約1.3MDaの分子量を有するヒアルロン酸ナトリウム1g、及び水酸化ナトリウムの1%水溶液5.7gを用いる。
【0153】
ステージb):架橋
実施例1のゲル1の合成のステージc)と同一であるが、41mgのBDDEを用いる。混合した生成物を、約0.09の架橋度x6を得るために、3時間にわたって50℃の水槽に置く。
【0154】
ステージc):中和、精製
30mg/gでゲル6を得るために、先立つゲル5の合成のステージc)と同一とする。そのゲルの一部をこの濃度で保存し、そしてその他の部分は、最終的に24mg/gのHAを得るために、リン酸緩衝液の添加により希釈する。その後、このゲルを均質化した後で、加圧滅菌により殺菌したシリンジに詰める。これは、24mg/gのゲルG6を有する殺菌したシリンジである。
【0155】
ゲル4、5及び6の相互侵入(それぞれの割合:25%、5%及び70%)
【0156】
5gの30mg/gのゲルG4を秤量し、1gの30mg/gのゲルG5を秤量し、そして14gの30mg/gのゲルG6を秤量して得る。5gのリン酸緩衝液を添加し、そしてその3つのゲルを、1時間にわたってゆっくりとした機械的攪拌の下に置く。24mg/gのヒアルロン酸ナトリウムを含み、且つ3つが相互侵入している単一相の架橋ゲルで構成される、最終の単一相のゲルG7をそのようにして得る。
【0157】
3つの通常のゲル及びその相互侵入している混合物の、弾性及び押出力の特性評価:
先立つ実施例に記載された方法による。
【表5】

【0158】
ゲルG7は、三つの架橋したゲル(G4、G5及びG6)の相互侵入で構成され、注入性の水準が近いがわずかに高いゲルG6よりも約20%超高い弾性の値なのに対し、最も低い押出力を有する。
【0159】
その弾性は、ゲル4の弾性に対して10%だけ低く、その注入性の水準は40%超、優れている。
【0160】
これら相互侵入ゲルの利点が明確に把握される。
【0161】
実施例9:
架橋したHA及び架橋したCMC(カルボキシメチルセルロース)ゲルの相互侵入
・架橋したCMCゲル:ゲルG8
【0162】
ステージa):非架橋ゲルの形態のNaCMCの水和
【0163】
固有の粘度を有する1gのカルボキシメチルセルロースナトリウム(Sigma製)を容器に入れて秤量する。水酸化ナトリウムの1%水溶液(7.3g)を添加して、そして混合した混合物を、約90分、室温且つ900mmHgでスパチュラを用いて、均質化する。
【0164】
ステージb):架橋
【0165】
BDDE(37mg)を、先立つステージで得られた非架橋CMCゲルに添加し、その混合した混合物を、室温で約30分間スパチュラで均質化する。その後、その混合した混合物を、約0.19の架橋度x8を得るために、3時間にわたって50℃で水槽に置く。
【0166】
ステージc):中和、精製
【0167】
その架橋した最終のゲルは、その後、1NのHClの添加により中和し、そしてpHを安定させるため及び45mg/gのCMCまでその水和又は膨潤を可能にするために、リン酸緩衝液の槽に置く。そのようにして、従来用いられた手段により架橋されたNaCMC親水ゲルを得る。これは、約45mg/gのHA濃度を有するG8である。
【0168】
HAゲルG1及びCMCゲルG8の相互侵入
【0169】
30mg/g濃度で、0.14の水準まで架橋させたHAゲルG1を、架橋させたNaCMCゲルG8に様々な割合で添加する。HAの最終濃度を26mg/g、及びCMCの最終濃度を37mg/gに調節するために、リン酸緩衝液を添加して、そして二つのゲルを、リン酸緩衝液と共に高圧下で1時間にわたってゆっくりとした機械的攪拌の下に置く。そのようにして、下記の3つの相互侵入ゲルを得る:
ゲル9:30%G1+70%G8
ゲル10:50%G1+50%G8
ゲル11:70%G1+30%G8
【0170】
これら3つの相互侵入ゲルを、その後シリンジに詰めて、そしてレオロジー(弾性率G’)及び、27G×1/2の針を用いた13mm/分の速度の下での注入性により特性評価する。ゲルG1及びG8を、3つの相互侵入ゲルと比較するために、G1に関して26mg/g及びG8に関して37mg/gの濃度に調節もする。
【0171】
その特性評価の結果を表6に集約する。
【表6】

【0172】
5つの相互侵入ゲル又は非相互侵入ゲルに関して、事実上一定の弾性率を観測したが、各独立した架橋ゲルと比較して、相互侵入ゲルに関してより低い水準の注入性を観測し、50/50混合物(ゲル10)に関して高い相乗効果を観測した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合による相互侵入の前に架橋されているx種の同一の又は異なったポリマーの均質混合物で構成されており、単一相の親水ゲル形態であり、上記架橋されているポリマーは、水に不溶性であり且つ互いに混和性であり、且つ
xが2〜5である
ことを特徴とする、生分解性の単一相結着性親水ゲル。
【請求項2】
上記x種のポリマーが、異なる架橋度を示し、上記x種のポリマーの少なくとも一つが、架橋度x1を示し、且つ上記x種のポリマーの少なくとも一つが、架橋度x2を示し、x1が、x2以上であることを特徴とする、請求項1に記載の親水ゲル。
【請求項3】
x種のポリマーが、同一の架橋度を示すことを特徴とする、請求項1に記載の親水ゲル。
【請求項4】
上記ポリマーが、多糖から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の親水ゲル。
【請求項5】
上記多糖が、ヒアルロン酸、ケラタン、ヘパリン、セルロース及びセルロース誘導体、アルギン酸、キサンタン、カラギーナン、キトサン及びコンドロイチン並びにそれらの生体許容性の塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の親水ゲル。
【請求項6】
上記x種の多糖が、ヒアルロン酸及びその生体許容性の塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の親水ゲル。
【請求項7】
上記x種の多糖の少なくとも一つが、セルロース誘導体及びそれら生体許容性の塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の親水ゲル。
【請求項8】
上記x種の多糖の少なくとも一つが、コンドロイチン及びその生体許容性の塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の親水ゲル。
【請求項9】
上記x種の多糖の少なくとも一つが、キトサン及びその生体許容性の塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の親水ゲル。
【請求項10】
xが2であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の親水ゲル。
【請求項11】
上記x種のポリマーの第一のポリマーが、ヒアルロン酸であり、且つ上記第二のポリマーが、コンドロイチン硫酸及びその塩、キトサン並びにその塩及びその誘導体、セルロース誘導体及びそれらの塩、及びアルギン酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の親水ゲル。
【請求項12】
上記x種の多糖の第一の多糖が、ヒアルロン酸及びその塩、セルロース誘導体及びそれらの塩、並びにキサンタンからなる群から選択され、且つ上記第二の多糖が、コンドロイチン硫酸及びその塩、キトサン並びにその塩及びその誘導体、セルロース誘導体及びそれらの塩、並びにアルギン酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の親水ゲル。
【請求項13】
抗酸化剤、殺菌剤、抗炎症剤及び局所麻酔剤から単独で又は組み合わせで選択される1以上の活性成分を含むことができることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の親水ゲル。
【請求項14】
上記抗酸化剤が、マニトール及びソルビトールの単独又は組み合わせから選択される、請求項13に記載の親水ゲル。
【請求項15】
上記局所麻酔剤が、リドカインであることを特徴とする、請求項13に記載の親水ゲル。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の生分解性の単一相結着性親水ゲルを製造するための方法であって、少なくとも下記のステージを含むことを特徴とする方法:
架橋度x1までの第一のポリマーの架橋
架橋度x2までの第二のポリマーの架橋
上記二つのポリマーの緊密混合による相互侵入
水和
水和後の最終の混合による最終の相互侵入。
【請求項17】
上記x種の架橋ポリマーを混合する前に、上記x種のポリマーを架橋するx個のステージを追加的に含むことを特徴とする、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
上記架橋が、二官能性若しくは多官能性のエポキシ化合物、ジビニルスルホン、カルボジイミド、及びホルムアルデヒドからなる群から選択される多官能性架橋剤の作用により実行されることを特徴とする、請求項16及び17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
上記複数の架橋ステージで使用される架橋剤が、同一又は異なっていることを特徴とする、請求項16〜18のいずれかに記載の製造方法。
【請求項20】
上記架橋度x1が、上記架橋度x2以上であることを特徴とする、請求項16〜19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項21】
上記架橋度が、0.02〜0.4、好ましくは0.08〜0.2であることを特徴とする請求項16〜20のいずれかに記載の製造方法。
【請求項22】
増粘組成物の配合における、請求項1〜15のいずれかに記載の親水ゲルの使用。
【請求項23】
しわの充填に関する組成物の配合における、請求項1〜15のいずれかに記載の親水ゲルの使用。
【請求項24】
殺菌されたシリンジに詰められた、請求項1〜14のいずれかに記載の親水ゲルを含むキット。

【公表番号】特表2011−505883(P2011−505883A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536490(P2010−536490)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067029
【国際公開番号】WO2009/071697
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(510155117)
【Fターム(参考)】