説明

生物指標作製方法、作製装置及び生物指標

【課題】菌が担体に均一に付着した生物指標を作製することができる生物指標作製方法、作製装置及び生物指標を提供する。
【解決手段】担体31に所定個数の菌32を付着させて生物指標30を作製するための方法であって、所定濃度の菌液11を調整し、その菌液11を微細液滴サイズでパルス的に噴射して担体31に所定個数の菌32を付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌装置による滅菌処理の効果を判定するために用いる生物指標作製方法、作製装置及び生物指標に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、滅菌処理の良否を検出するために、菌懸濁液(菌液)を担体に滴下する、もしくは担体を菌液に含浸させて対象とする菌を接種して生物指標(BI:Biological Indicator)を作製し、そのBIを調査して行っている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているBIの作製方法では、指標とする菌を含む菌液をキャリア(担体)にピペット等で滴下し、そのキャリア及び菌液を一次包装して生物指標を作製している。
【0004】
【特許文献1】特表平8−505536号公報
【特許文献2】特開2001−245962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の生物指標作製方法では、ピペット等により担体に菌液を滴下する作製方法であったり、菌液中に担体を含浸させる作製方法であったため、作製された生物指標には、付着させた菌の分布が一様でないといった問題があった。
【0006】
特に、ステンレス等、菌液が染み込まない担体を使用する場合、滴下した菌液を乾燥させる際に、菌が担体の縁に集まってしまう。紙や繊維等、菌液が染み込む担体を使用する場合、繊維に菌液を滴下させると、繊維内部に菌が沈み込み、菌の付着状態にムラができてしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、担体に菌が均一に付着した生物指標を作製することができる生物指標作製方法、作製装置及び生物指標を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、担体に所定個数の菌を付着させて生物指標を作製するための方法であって、所定濃度の菌液を調整し、その菌液を微細液滴サイズでパルス的に噴射して担体に所定個数の菌を付着させる生物指標作製方法である。
【0009】
請求項2の発明は、担体に噴射される微細液滴をカウントしながら菌を付着させる請求項1記載の生物指標作製方法である。
【0010】
請求項3の発明は、微細液滴中に含有される菌を光学的に検出し、その菌を検出した液滴数をカウントして所定個数の菌を付着させる請求項2記載の生物指標作製方法である。
【0011】
請求項4の発明は、菌液は、微細液滴中に菌が最大1個含まれる濃度に調整される請求項1〜3いずれかに記載の生物指標作製方法である。
【0012】
請求項5の発明は、担体に所定個数の菌を付着させて生物指標を作製するための装置であって、所定濃度の菌液を溜める菌液タンクと、その菌液タンク内の菌液を所定の微細液滴サイズにして担体にパルス的に噴射する液滴パルス噴射手段とを備えた生物指標作製装置である。
【0013】
請求項6の発明は、上記液滴パルス噴射手段は、上記菌液タンクに接続される流路が形成され、その流路には電圧を印加することにより流路内の菌液を噴射させる圧電素子が設けられ、上記流路の菌液噴射側は所定の微細液滴サイズに調整された径のノズルに形成されてなる請求項5記載の生物指標作製装置である。
【0014】
請求項7の発明は、上記液滴パルス噴射手段は、上記菌液タンクに接続される流路が形成され、その流路には流路内の菌液を加熱するヒータが設けられ、上記流路の菌液噴射側は所定の微細液滴サイズに調整された径のノズルに形成されてなる請求項5記載の生物指標作製装置である。
【0015】
請求項8の発明は、上記液滴パルス噴射手段には、担体に噴射される微細液滴の個数をカウントするカウンタが設けられている請求項5〜7いずれかに記載の生物指標作製装置である。
【0016】
請求項9の発明は、上記カウンタは、上記流路の一側に光源を設けると共に他側に光学センサを設けて流路を交叉する光路を形成してなる請求項8記載の生物指標作製装置である。
【0017】
請求項10の発明は、上記菌液タンクは、菌液を撹拌された状態に維持する撹拌器、超音波発生器或いは水流ポンプを備える請求項5〜9いずれかに記載の生物指標作製装置である。
【0018】
請求項11の発明は、上記菌液には、菌を担体へ付着させるための接着剤が混合されている請求項5〜10いずれかに記載の生物指標作製装置である。
【0019】
請求項12の発明は、上記担体には、界面活性剤が塗布されている請求項5〜11いずれかに記載の生物指標作製装置である。
【0020】
請求項13の発明は、上記菌液タンクと、上記液滴パルス噴射手段と、担体とを防塵容器内に収容した請求項5〜12いずれかに記載の生物指標作製装置である。
【0021】
請求項14の発明は、上記担体の周辺に、担体の周辺を局所的に排気する排気手段が設けられた請求項5〜13いずれかに記載の生物指標作製装置である。
【0022】
請求項15の発明は、上記担体及び/又は上記液滴パルス噴射手段は、担体及び/又は液滴パルス噴射手段を移動可能にする移動手段上に固定された請求項5〜14いずれかに記載の生物指標作製装置である。
【0023】
請求項16の発明は、上記菌液タンクは、上記菌液を冷却する冷却手段を備える請求項5〜15いずれかに記載の生物指標作製装置である。
【0024】
請求項17の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の生物指標作製方法で作製されたことを特徴とする生物指標である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、菌を担体に均一に付着させ、滅菌評価を再現性よく安定して行うことができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0027】
まず、本実施の形態の作製方法によって作製される生物指標について説明する。
【0028】
図2に示すように、生物指標30は、担体31上に菌32が付着され、その担体31を一次包装してなるものである。担体31としては、ろ紙、ステンレス板、ガラス繊維、樹脂等が挙げられる。本実施の形態では、担体の形状を、直径1cmの円形、或いは4mm×20mmの長方形に形成した。菌32が付着した担体31を包む一次包装用の包装材は、主に透明フィルム33とガス透過性シート34とからなる。ガス透過性シート34は、菌を透過させないがガス(水蒸気を含む)を透過させるシートである。ガス透過性シート34は、滅菌処理する前は、塗布した菌の外部への飛散を防止する役目をし、滅菌処理した後は操作時のコンタミネーションを防止する。ガス透過性シート34としては、滅菌紙、グラシン紙、タイベック(登録商標)等が挙げられる。透過性シート34としてグラシン紙を用いた場合、一般に透明フィルム33は使用されず、グラシン紙のみで一次包装される。
【0029】
菌の種類は、滅菌処理(滅菌処理評価試験)に使用する滅菌ガスによってそれぞれ選択される。例えば、蒸気による滅菌処理の評価を行う場合にはGeobacillus stearothermophilus(ゲオバチルスステアロサーモフィラス)、EOG(酸化エチレンガス)による滅菌処理の場合にはBacillus atrophaeus(枯草菌)、放射線による滅菌処理の場合にはBacillus pumilus(バチルスプミルス)をそれぞれ含む菌液を使用する。
【0030】
図1は本発明に係る好適な第1の実施の形態の生物指標作製装置を示した概略図である。
【0031】
図1に示すように、生物指標作製装置10は、所定濃度の菌液11を溜める菌液タンク12と、その菌液タンク12内の菌液11を所定の液滴サイズにして担体31にパルス的に噴射する液滴パルス噴射手段13とを備える。
【0032】
菌液11は、別途培養された菌を含む純粋或いは生理食塩水等の液体であり、所定の濃度に調整されて菌液タンク12内に貯水されている。
【0033】
図3に示すように、液滴パルス噴射手段13は、菌液タンク12に接続される流路14が形成され、その流路14には電圧を印加することにより流路14内の菌液を噴射させる圧電素子15が設けられ、流路14の菌液噴射側は所定の液滴サイズに調整された径のノズル16に形成されてなるものである。圧電素子15は、電圧が印加されると変形する材料で形成され、この変形を利用して流路14の一部を押し縮め、ノズル16から液滴を噴出させる。電圧を切れば圧電素子15は元の形状に戻る。
【0034】
すなわち、液滴パルス噴射手段13は、超微細な圧電素子と流路を備えた超微細インクジェット技術を利用したMEMSデバイスである。
【0035】
図1に戻り、菌液タンク12には、菌液タンク12内の菌液11を撹拌する撹拌手段が設けられている。本実施の形態では、撹拌手段として水流ポンプが設けられている。水流ポンプは、ポンプ本体21と、ポンプ本体21と菌液タンク12との間に接続された吸水路22及び排水路23とを備える。菌液タンク12は下部が錐状に尖端した形状に形成され、菌液タンク12の最下部に、吸水路22が接続され、菌液タンク12の中央部から上部あたりに排水路23が接続されている。
【0036】
これにより、常時、ポンプ21を駆動すると、菌液タンク12の最下部に沈んだ菌を含む菌液を吸水路22から汲み上げると共に、菌液タンク12の上部あたりに排水されて常に撹拌された状態に維持される。菌液タンク12内の菌液11は場所によらず濃度を略一定に保つことができる。
【0037】
撹拌手段としては、水流ポンプの他に、菌液中に撹拌子を入れると共に、菌液タンク12外側に設けられる攪拌器や、菌液に超音波による波を発生させて撹拌する超音波発生器でもよい。
【0038】
さらに、液滴パルス噴射手段13には、担体31に噴射される微細液滴の個数をカウントするカウンタが設けられている。本実施の形態では、流路14の一側(図中、下側)に光源17を設けると共に、他側(図中、上側)に光学センサ18を設けて、光源17と光学センサ18とでカウンタを構成している。液滴パルス噴射手段13の本体(流路を形成する枠体)をガラスや樹脂等の光学的に透明な材料で形成すると、光源17を出射し流路14を介して光学センサ18に到達する光路19が形成される。
【0039】
光源17より出射される光は、紫外光、可視光、近赤外光のいずれでもよい。ただし、流路14内を通過する菌を滅する等、影響を付与しない光が選択される。
【0040】
液滴パルス噴射手段13の流路径は、菌の直径の2〜5倍に形成されるのが好ましい。菌の直径が2μm程度であるとすると、流路径は4〜20μmに形成するのが好ましい。
【0041】
噴射される液滴のサイズは、流路径(ノズル径)と、圧電素子15の菌液押し込み量とに依存する。直径が4μmより小さいサイズの液滴を噴射させると、液滴の噴射間隔が短か過ぎるため、光学センサ18で計測される菌の個数に誤差が生じる可能性がある。また、直径が20μmより大きい液滴を噴射させると、担体31に付着する菌液が大きすぎるため、1つの液滴に複数の菌が含有する確率が高くなり、よって付着する菌の分布が均一になりにくい。
【0042】
担体31は、液滴パルス噴射手段13のノズル16に対向して移動手段として担体保持部20が設けられ、その担体保持部20上に固定されている。担体保持部20は、例えばX−Yステージであり、担体31を一平面方向(図中、上下方向及び紙面垂直方向)で移動させることができる。
【0043】
図1では、液滴パルス噴射手段13の液滴噴射方向が横方向に記されているが、液滴パルス噴射手段13は、いずれの方向を向いて設けられていてもよい。実際には、重力の影響が無視できる程度に、担体31とノズル16間の距離が短く、かつ液滴サイズが微小であるためである。
【0044】
さて、本実施の形態の生物指標作製方法は、所定濃度の菌液11を調整し、その菌液11を所定の微細液滴サイズでパルス的に噴射して担体31に所定個数の菌を付着させて生物指標30を作製することを特徴としている。
【0045】
一般に滅菌効果試験に使用される生物指標には、1つの担体上に106個(BIによっては102〜108個)の菌が付着されている。菌液11の濃度は、1つの担体31に付着させる個数に応じて、所定の濃度に調整する。
【0046】
まず、圧電素子15に電圧を印加し、その電圧印加を停止する等して、流路14内の空気を押し出すと共に、菌液タンク12内の菌液11を流路14内に浸入させた状態にする。
【0047】
液滴パルス噴射手段13において、圧電素子15に電圧を印加する(ON)と圧電素子15は流路14を押し縮め、流路14内の菌液がノズル16から液滴として噴射する。液滴を噴射させた後(液滴の噴射と略同時に)、電圧印加を停止させる(OFF)と流路14を押し縮めていた圧電素子15は元の形状に戻り、菌液タンク12から菌液11が流路14内に浸入する。圧電素子15のONとOFFを微小時間間隔で繰り返すことで、菌液11をノズル16からパルス的に噴射させることができる。なお、「パルス的に」とは、菌液11を微小な液体の粒(液滴)として断続的に噴出すると共に、液滴を噴出する間隔が非常に短いことを意味している。
【0048】
液滴を所定回数噴射した後、担体保持部20の駆動により担体31を微小距離だけ移動させ、担体31上の別の位置に液滴を噴射させる。この担体31の移動と液滴の噴射とを繰り返して、担体31への菌液の付着を終了する。その後、菌液11が付着した担体31を乾燥させ、一次包装して生物指標30が得られる。
【0049】
本実施の形態の生物指標作製方法によれば、菌液11を所定濃度に調整することで、噴射時の液滴には一定数の菌が含まれ、その液滴をパルス的に担体に噴射すると共に、液滴噴射を担体31上で走査させることにより、担体31表面に付着した菌の濃度を2次元的に制御し、担体31に菌が均一に付着した生物指標を作製することができる。また、菌の分布状態が安定した再現性のある生物指標を作製することができる。
【0050】
本実施の形態では、所定の濃度に調整した菌液を、撹拌手段が設けられた菌液タンク12に貯水しているので、菌液タンク12内では菌液11の濃度が均一になり、担体31に付着させる菌の分布を均一にすることができる。
【0051】
本実施の形態では圧電素子15を用いて液滴を噴射させているので、菌液11に温度変化を付与することがない。よって、熱に弱い菌を付着させた生物指標を作製することができる。
【0052】
また、液滴パルス噴出手段13では、液滴を噴射させる際に、流路14を通過した菌をカウントしている。本実施の形態では、光源17から流路14を介して光学センサ18に到達する光の光量を常時検知している。そこで、流路14を菌が通過した時には、光学センサ18で検知される光の光量に変化が生じる。したがって、光量の変化した回数が、流路14を通過した菌の数、つまり担体31に付着させた菌の数となる。
【0053】
このように、液滴パルス噴射手段13にカウンタを設け、生物指標の作製中に、担体に付着させた菌数をカウントしているので、生物指標作製後に生物学的に菌数を測定しなくとも、作製された生物指標1枚当たりの菌数を知ることができる。
【0054】
また、カウンタにより菌の数を把握することができるので、担体31に付着させる菌の個数を制御することができる。すなわち、カウンタの示す数が、担体31に付着させる菌の総個数になった時点で液滴の噴射を終了させれば、所望の個数の菌が付着した生物指標を得ることができる。
【0055】
上述の説明では、所定回数液滴を噴射させた後に担体31を移動させるように制御していたが、菌をカウントする毎に担体31を移動させるように、担体保持部20の駆動を制御してもよい。
【0056】
さらに、1つの液滴中に菌が最大1個含まれる濃度に菌液を調整するのが好ましい。複数の菌が含まれた液滴を噴射してしまうと、担体上の菌の分布にムラができやすい。ここで、「最大1個含まれる」とは、1つの液滴には0個または1個の菌が含まれること意味する。
【0057】
ここで、菌液11の濃度と微細液滴サイズについて具体的に説明する。本実施の形態では、液滴の直径を20μmとした。直径20μmの液滴の体積は、約4pl(×10-12リットル)となる。噴射する菌液の濃度を108個/mlとすると、液滴1滴に含まれる菌数は、0.42個となる。したがって、略液滴2個に菌が1個含まれる割合で液滴が噴射される。一般に、生物指標に付着させる菌の数は、担体1つ当たり106個である。106個の菌を付着させるとすると、担体に吹き付ける液滴の総数は約2.4×106滴となる。よって、具体的には、2回液滴を噴射させる毎に担体31を微小移動させ、2.4×106回液滴を噴射させた時点で液滴の噴射を終了させればよい。
【0058】
また、担体31に噴射する液滴の大きさ及び菌液11の濃度は適宜選択してもよい。例えば、液滴の直径を10μm、すなわち液滴の体積を約0.52plとし、菌液の濃度を109個/mlとすると、液滴1滴に含まれる菌数は0.52個となる。したがって、略液滴2個に1個含まれる割合で菌液が噴射されることになり、1つの担体に106個の菌を付着させるために、担体31に吹き付ける液滴の数は、約1.9×106滴となる。
【0059】
菌液11には、接着剤を混入させてもよい。接着剤を混入させることで、微細液滴を飛散させることなく担体31に付着させることができる。接着剤としては、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0060】
また、液滴を噴射させる以前に、担体31に界面活性剤を塗布してもよい。界面活性剤を塗布することで、微細液滴を担体31に噴射させた際に、菌が担体内部に沈むことを防ぎ、担体表面に菌を付着させることができる。界面活性剤としては、ポリエチレングリコール、グリセリン、或いはアルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0061】
菌液タンク12には、図示されない冷却手段を設けてもよい。菌は温度によって形態が変化するので、菌液11の温度が変化すると菌液11の濃度が変化する。そこで、冷却手段により菌液11の温度を一定に保ち、菌液11の濃度を安定化させることができる。
【0062】
本実施の形態では、担体保持部20により担体31を微小移動させながら担体31に菌を付着させたが、液滴パルス噴射手段13を移動させながら担体31に菌を付着させてもよい。また、担体保持部20、液滴パルス噴射手段13の両方を互いに異なる方向に移動させながら菌を付着させてもよい。例えば、図1において、担体保持部20を上下方向に移動させると共に、液滴パルス噴射手段13を紙面垂直方向に移動させる。
【0063】
菌液タンク12内の菌液11は、菌を培養した後、遠心分離処理等により、芽胞の形態の菌が含まれた菌液としているが、菌液11中の菌は、芽胞の形態のものと栄養細胞の形態のものとが混在する場合がある。滅菌処理評価試験において芽胞の滅菌について評価する場合、作製する生物指標は芽胞の個数が重要である。したがって、カウンタでは芽胞と栄養細胞との両方をカウントしてしまい、実際に付着される芽胞の個数は、カウンタが示す数値より小さくなってしまう。
【0064】
そこで、芽胞が通過した時検知される光量と、栄養細胞が通過した時検知される光量の閾値を予め調べておき、光学センサ18において検知された光量が閾値を超えたときを芽胞が通過した場合とすれば、通過した菌が芽胞であることを判別してカウントすることもできる。なぜなら、芽胞は強固な芽胞殻を有し、栄養細胞は芽胞殻を持たないので、光の透過性を低下させる芽胞殻を有する芽胞の方が検知される光量が小さいためである。
【0065】
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0066】
図4に示すように、本実施の形態の生物指標作製装置40は、防塵容器41内に図1に示した担体保持部20、菌液タンク12及び菌液噴射手段13(以下、図1に示した生物指標作製装置10を生物指標作製装置本体10とする)が収容されている。ここで、防塵容器41とは、生物指標作製装置本体10をバイオクリーン環境下に保持するべく、装置本体10を収容する容器(チャンバ)42にHEPAフィルタ等のクリーンフィルタ43が設けられてなるものであって、内部に微小な塵やゴミ等が存在しない容器である。
【0067】
防塵容器41内には、制御機器44、担体ソーター45、乾燥部46、一時保管部及び包装部47が設けられている。さらに、担体保持部20の周辺(少なくとも、担体保持部20と液滴パルス噴射手段13との間辺り)に、担体保持部20の周辺を局所的に排気する排気手段が設けられている。排気手段は、例えば、防塵容器41外に設けられた局所排気用ファン48と、担体保持部20の周辺でに開口すると共に局所排気用ファン48に接続される吸気ダクト49と、吸気ダクト49内に設けられるフィルタ50とからなる。
【0068】
制御機器44は、液滴パルス噴射手段13の圧電素子15の駆動、担体保持部20の駆動等、装置本体10の駆動部分を制御する機器である。担体ソーター45は、複数の担体31を備え、担体保持部20に担体31を送る部材である。乾燥部46は、菌液11が付着された担体31を乾燥させる部材である。包装部47は、生物指標作製装置本体10によって菌が付着された担体31を、一次包装する部材である。
【0069】
本装置40では、担体ソーター45から担体保持部20に担体31が送られた後、その担体31は、生物指標作製装置本体10によって菌液11が付着され、乾燥部46で乾燥される。乾燥された担体31は、一時保管部で次の工程を待つべく保管され、包装部47で一次包装され図2に示した生物指標30が得られる。
【0070】
生物指標作製装置本体10を防塵容器41内に収容し、その容器41内で生物指標30を作製しているので、菌液11及び担体31が塵や微細なゴミの多い外部と遮断され、作製される生物指標30へのコンタミネーション発生を防ぐことができる。
【0071】
また、担体保持部20の周辺に開口した排気手段を設けたことにより、菌の付着時に菌が飛散した場合、飛散した菌は吸気ダクト48から吸入されてフィルタ50で集められるので、菌の外部への漏洩を防止することができる。
【0072】
図5は好適な第3の実施の形態の生物指標作製方法を示した概略図である。
【0073】
基本的な構成部分は、上述した図1の生物指標作製装置とほぼ同様であり、同一構成部分には、図1の場合と同一の符号を付してある。
【0074】
図5に示すように、本実施の形態の生物指標作製装置51は、液滴パルス噴射手段52において、圧電素子15の代わりにヒータ53を設けた点が第1の実施の形態の生物指標作製装置10と異なる点である。
【0075】
液滴パルス噴射手段52の流路14の下部にヒータ53が埋め込まれている。このヒータ53で菌液11を加熱、気化させることで、菌液11に泡を発生させ、泡の膨張する力でノズル16から液滴を噴出させる。加熱を停止させれば泡はすぐに消滅すると共に、菌液タンク12から菌液11が流路14内に浸入する。上述の圧電素子15の場合と同様に、ヒータ53のON、OFFを微小時間間隔で繰り返して、パルス的に液滴を噴射させることができる。したがって、本実施の形態の生物指標作製装置51においても図1の生物指標作製装置10と同様の作用効果を有する。
【0076】
さらに、本実施の形態の生物指標作製装置51では、ヒータ53によって菌液11を加熱することにより、熱に弱い栄養細胞を死滅させ、芽胞菌のみを担体31に付着させることができる。
【0077】
次に、好適な第4の実施の形態について説明する。
【0078】
図6に示すように、生物指標作製装置60は、4つの液滴パルス噴射手段63a〜63dを1つの基板61に形成したものである。各液滴パルス噴射手段61aは、それぞれノズル15aと圧電素子16aと、菌液タンク群62から圧電素子16aまで菌液を流す流路64aとが形成されている。本実施の形態では、複数の液滴パルス噴射手段63a〜63dを設けると共に、各流路64aに接続されて複数の菌液タンク(図示しないが菌液タンク群62内)を設けている。これにより、各菌液タンクにはそれぞれ種類の異なる菌を含む菌液が溜めることができるので、1つの装置で、様々な種類の菌が付着した生物指標を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】好適な第1の実施の形態の生物指標作製装置を示す概略図である。
【図2】生物指標を示す断面図である。
【図3】液滴パルス噴射手段を示す断面図である。
【図4】好適な第2の実施の形態の生物指標作製装置を示す概略図である。
【図5】好適な第3の実施の形態の生物指標作製装置を示す概略図である。
【図6】好適な第4の実施の形態の生物指標作製装置の液滴パルス噴射手段を示す上面図である。
【符号の説明】
【0080】
10 生物指標作製装置
11 菌液
12 菌液タンク
13 液滴パルス噴射手段
14 流路
15 圧電素子
17 光源
18 光学センサ
31 担体
32 菌
41 防塵容器
53 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に所定個数の菌を付着させて生物指標を作製するための方法であって、
所定濃度の菌液を調整し、その菌液を微細液滴サイズでパルス的に噴射して担体に所定個数の菌を付着させることを特徴とする生物指標作製方法。
【請求項2】
担体に噴射される微細液滴をカウントしながら菌を付着させる請求項1記載の生物指標作製方法。
【請求項3】
微細液滴中に含有される菌を光学的に検出し、その菌を検出した液滴数をカウントして所定個数の菌を付着させる請求項2記載の生物指標作製方法。
【請求項4】
菌液は、微細液滴中に菌が最大1個含まれる濃度に調整される請求項1〜3いずれかに記載の生物指標作製方法。
【請求項5】
担体に所定個数の菌を付着させて生物指標を作製するための装置であって、
所定濃度の菌液を溜める菌液タンクと、その菌液タンク内の菌液を所定の微細液滴サイズにして担体にパルス的に噴射する液滴パルス噴射手段とを備えたことを特徴とする生物指標作製装置。
【請求項6】
上記液滴パルス噴射手段は、上記菌液タンクに接続される流路が形成され、その流路には電圧を印加することにより流路内の菌液を噴射させる圧電素子が設けられ、上記流路の菌液噴射側は所定の微細液滴サイズに調整された径のノズルに形成されてなる請求項5記載の生物指標作製装置。
【請求項7】
上記液滴パルス噴射手段は、上記菌液タンクに接続される流路が形成され、その流路には流路内の菌液を加熱するヒータが設けられ、上記流路の菌液噴射側は所定の微細液滴サイズに調整された径のノズルに形成されてなる請求項5記載の生物指標作製装置。
【請求項8】
上記液滴パルス噴射手段には、担体に噴射される微細液滴の個数をカウントするカウンタが設けられている請求項5〜7いずれかに記載の生物指標作製装置。
【請求項9】
上記カウンタは、上記流路の一側に光源を設けると共に他側に光学センサを設けて流路を交叉する光路を形成してなる請求項8記載の生物指標作製装置。
【請求項10】
上記菌液タンクは、菌液を撹拌された状態に維持する撹拌器、超音波発生器或いは水流ポンプを備える請求項5〜9いずれかに記載の生物指標作製装置。
【請求項11】
上記菌液には、菌を担体へ付着させるための接着剤が混合されている請求項5〜10いずれかに記載の生物指標作製装置。
【請求項12】
上記担体には、界面活性剤が塗布されている請求項5〜11いずれかに記載の生物指標作製装置。
【請求項13】
上記菌液タンクと、上記液滴パルス噴射手段と、担体とを防塵容器内に収容した請求項5〜12いずれかに記載の生物指標作製装置。
【請求項14】
上記担体の周辺に、担体の周辺を局所的に排気する排気手段が設けられた請求項5〜13いずれかに記載の生物指標作製装置。
【請求項15】
上記担体及び/又は上記液滴パルス噴射手段は、担体及び/又は液滴パルス噴射手段を移動可能にする移動手段上に固定された請求項5〜14いずれかに記載の生物指標作製装置。
【請求項16】
上記菌液タンクは、上記菌液を冷却する冷却手段を備える請求項5〜15いずれかに記載の生物指標作製装置。
【請求項17】
請求項1〜4いずれかに記載の生物指標作製方法で作製されたことを特徴とする生物指標。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−175012(P2007−175012A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378867(P2005−378867)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】