説明

産業機械用制御回路

【課題】 作業機系回路の作業機を作動させていないときのエネルギーロスを最小限に抑えるとともに、オペレータが運転席に着座していないとき、作業機が作動しないようにする。
【解決手段】 オペレータが運転席に着座していないとき、パイロット通路3をタンクTに連通し、運転席に着座に着座しているとき、パイロット通路3とタンクTとの連通を遮断するセキュリティーバルブ32を設ける。また、パイロット切換手段22〜24を介してパイロット通路3をタンクTに連通している状態で、可変吐出ポンプ機構Pは制御流量とあらかじめ設定した流量を加えた流量を吐出し、パイロット切換手段22〜24を切り換えてパイロット通路3とタンクTの連通を遮断し、流量制御弁16からの流量をレギュレータ2に導いたとき、可変吐出ポンプ機構Pは、上記制御流量Q1に設定流量Q3を加えた流量以上の流量を吐出する構成にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばフォークリフト等の産業機械に用いる産業機械用制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のものとして特許文献1に記載された制御回路が従来から知られている。この従来の制御回路は、ポンプに優先弁を接続するとともに、この優先弁の制御流ポートをステアリング系回路に接続し、余剰流ポートを作業機系回路に接続している。
そして、ポンプから吐出された流量のうち、一定流量すなわち制御流量は上記制御流ポートを介してステアリング系回路に優先的に供給し、ポンプの吐出容量から上記制御流量を差し引いた余剰流量を、常に作業機系回路に供給する。
【0003】
そして、上記作業機系回路には複数の切換弁を接続するとともに、これら切換弁をパラレルに接続する供給流路に、セキュリティーバルブを接続している。このセキュリティーバルブは、通常は閉位置を保っているが、作業機の緊急停止を必要とするとき、開位置を保って上記供給流路をタンクに導くようにしている。このように供給流路がタンクに導かれれば、作業機系回路に接続した作業機が動作しなくなる。
【特許文献1】特開2000−335895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにした従来の制御回路では、緊急時に、セキュリティーバルブを介して、供給流路をタンクに導くようにしているので、このセキュリティーバルブには通常の供給流量と同じ量すなわち大流量が通過することになる。しかし、バルブに大流量を流すためには、ポペット弁を用いなければならなくなり、それだけ構成が複雑になり、その分、コストアップにつながるという問題があった。
この発明の目的は、セキュリティーバルブの構成を簡略化できる産業機械用制御回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、レギュレータを備えた可変吐出ポンプ機構と、この可変吐出ポンプ機構に接続された優先弁と、この優先弁の制御流ポートに接続したステアリング系回路と、優先弁の余剰流ポートに接続した作業機系回路と、上記レギュレータのパイロット通路と上記優先弁の上流側とを接続する通路に設けるとともに、あらかじめ設定した流量を上記パイロット通路に供給するための流量制御弁とを備え、作業機系回路に設けた作業機系切換弁を中立位置に保っているとき、上記パイロット通路をタンクに連通して流量制御弁からの流量をタンクに導く一方、上記作業機系切換弁を操作位置に切り換えたとき、上記パイロット通路とタンクの連通を遮断して流量制御弁からの流量をレギュレータに導くパイロット切換手段を設けてなり、パイロット切換手段を介してパイロット通路をタンクに連通している状態で、可変吐出ポンプ機構は制御流量とあらかじめ設定した流量とを加えた流量を吐出し、パイロット切換手段を切り換えてパイロット通路とタンクの連通を遮断し、流量制御弁からの流量をレギュレータに導いたとき、可変吐出ポンプ機構は、上記制御流量に設定流量を加えた流量以上の流量を吐出する構成にし、かつ、上記パイロット切換手段の上流側にセキュリティーバルブを設け、このセキュリティーバルブは、オペレータの着座確認信号が入力したとき、上記パイロット通路とタンクとの連通を遮断し、上記着座確認信号が入力しない限り、パイロット通路をタンクに連通する構成にした点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0006】
第1の発明によれば、セキュリティーバルブは、ポンプ機構のレギュレータを制御するパイロット流量をドレンするだけで足りるので、従来のように作業機に供給する流量すなわち大流量を通過させる必要がなくなる。したがって、セキュリティーバルブの構成を簡略化でき、その分、コストダウンにつながる。
なお、この第1の発明の場合には、作業機系回路に接続した作業機を作動していないときには、可変吐出ポンプ機構は、ステアリング系回路が必要とする制御流量に、あらかじめ設定した流量を加算した流量を吐出すればよいので、そのエネルギーロスも少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1はフォークリフトの実施形態を示すもので、可変吐出ポンプ機構Pは、可変吐出ポンプ1とレギュレータ2とを備えている。そして、レギュレータ2にはパイロット通路3を接続しているが、このパイロット通路3の圧力がタンク圧のとき、レギュレータ2が可変吐出ポンプ1の吐出量を、あらかじめ設定した最少流量に設定する。パイロット通路3の圧力が上昇すれば、レギュレータ2が可変吐出ポンプ1の吐出量を、上記最少流量以上の流量に増大させる。
【0008】
上記のようにした可変吐出ポンプ1には供給通路4を接続するとともに、この供給通路4は優先弁5の流入ポート6に連通させている。このようにした優先弁5は、その制御流ポート7をステアリング系回路8に接続し、余剰流ポート9を作業機系回路10に接続している。そして、この優先弁5はステアリング系回路8に制御流量Q1を優先的に供給し、この制御流量Q1以上の余剰流量Q2を作業機系回路10に供給するが、上記制御流量Q1は制御オリフィス11とスプリング12とによって決められる。すなわち、上記優先弁5は、その一方のパイロット室5aに制御オリフィス11の上流側の圧力を導き、他方のパイロット室5bに制御オリフィス11の下流側の圧力を導く構成にするとともに、上記他方のパイロット室5bにスプリング12を設けている。
【0009】
このようにした優先弁5は、制御オリフィス11前後の差圧が、スプリング12のバネ力に等しくなるように作動する。言い換えると、制御オリフィス11前後の差圧を一定に保って、ステアリング系回路8に供給される制御流量Q1を常に一定に保つようにしている。そして、上記制御流量Q1以上の余剰流量Q2が流入ポート6に流入したときには、その余剰流量Q2を余剰流ポート9から流出するものである。したがって、流入ポート6に流入する流量が制御流量Q1以下であれば、余剰流ポート9から流出される余剰流量Q2はゼロということになる。
なお、図中符号13,14はダンパーオリフィスである。
【0010】
また、上記供給通路4であって、優先弁5の上流側には中継通路15を接続しているが、この中継通路15は、供給通路4と前記パイロット通路3とを連通するものである。このようにした中継通路15には流量制御弁16を接続している。この流量制御弁16は、供給通路4に供給された流量のうち、レギュレータ2に対するパイロット圧を発生させるために必要な最少流量をパイロット流量Q3としてパイロット通路3に導くものである。そして、前記した可変吐出ポンプ機構Pは、パイロット通路3の圧力がゼロのとき、最少吐出流量を確保するが、その最少吐出流量は、制御流量Q1+パイロット流量Q3となるようにあらかじめ設定されている。
【0011】
一方、優先弁5の余剰流ポート9に接続した作業機系回路10には、リフトシリンダ17を制御する第1作業機系切換弁18と、チルトシリンダ19を制御する第2作業機系切換弁20と、図示していないアタッチメントである作業機を制御する第3作業機系切換弁21とを備えている。これら第1,2,3作業機系切換弁18,20,21のそれぞれは、センターオープンタイプで、それらが図示の中立位置にあるとき、余剰流ポート9から流出した作動流体をタンクTに環流させる。また、上記第1,2,3作業機系切換弁18,20,21は、その中立位置においてパイロット通路3をタンクTに環流させるとともに、それら各切換弁18,20,21を切り換えたとき、パイロット通路3とタンクTとの連通を遮断するパイロット切換手段としてのパイロット切換通路22,23,24を設けている。言い換えると、この実施形態では、パイロット切換手段を各切換弁18,20,21と一体化している。
【0012】
さらに、上記第1作業機系切換弁18のパイロット切換通路22には、この第1作業機系切換弁18の図面右側切換位置に切り換わったときに機能する可変オリフィス25を設けている。このように可変オリフィス25を設けたのは、第1作業機系切換弁18を右側位置に切り換えたときに、パイロット通路3にパイロット圧を立たせるためである。なお、この可変オリフィス25は当該切換弁18の切換量に応じて、その開度が可変になるが、その開口面積は、第1作業機系切換弁18に接続した作業機(リフトシリンダ17)に求められる特性に応じて決められるものである。同様の趣旨で第2,3作業機系切換弁20,21にも、可変オリフィス26〜29を設けている。
また、図中符号30はメインリリーフ弁、31はステアリング系回路8のリリーフ弁である。
【0013】
上記のようにした制御回路であって、第1作業機系切換弁18の上流側には、電磁弁からなるセキュリティーバルブ32を接続している。このセキュリティーバルブ32は、そのソレノイド32aが励磁されない限り、スプリング32bの作用で、図示の開位置を保持し、第1作業機系切換弁18の上流側におけるパイロット通路3とタンクTとを連通させる。そして、上記ソレノイド32aが励磁されると、セキュリティーバルブ32は、スプリング32bに抗して切り換わって閉位置を保ち、パイロット通路3とタンクTとの連通を遮断する。このようにしたセキュリティーバルブ32は、例えば、正常運転時には、電気的なスイッチがオンになって上記ソレノイド32aを励磁し、閉位置を保つ構成にしている。
【0014】
そして、ソレノイド32aが励磁していない異常時には、開位置を保つセキュリティーバルブ32を介して、パイロット通路3がタンクTに連通する。このようにパイロット通路3がタンクTに連通すると、レギュレータ2にパイロット圧が立たないので、可変吐出ポンプ1の吐出量は、前記したようにQ1+Q3である最少流量に維持される。言い換えると、余剰流量Q2がほとんどゼロになるので、作業機系回路10側には作動流体が供給されないことになる。そのために、第1,2,3作業機系切換弁18,20,21が、不用意に切り換わったとしても、それに接続した作業機が動作したりしない。ただし、上記電気的なスイッチがオンになれば、セキュリティーバルブ32が閉じて、パイロット通路3とタンクTとの連通を遮断するので、レギュレータ2にはパイロット圧が作用する。したがって、可変吐出ポンプ1は、制御流量Q1+余剰流量Q2+パイロット流量Q3を吐出し、作業機系回路にも作動流体が供給されることになる。
【0015】
次に、上記セキュリティーバルブ32を着座確認用バルブとして用いた場合の作用を説明する。このようにセキュリティーバルブ32を着座確認用バルブとして用いる場合には、オペレータが運転席に着座していないとき、セキュリティーバルブ32が開位置を保ち、運転席に着座したとき、閉位置を保つ構成する。
今、オペレータが運転席に着座していなければ、上記したようにセキュリティーバルブ32が開位置を保つので、レギュレータ2にはパイロット圧が立たない。そのために、可変吐出ポンプ1の吐出量はQ1+Q3のみとなり、作業機系回路10には作動流体が供給されない。したがって、作業機系回路10に接続した作業機が作動しない。
【0016】
一方、オペレータが運転席に着座していれば、セキュリティーバルブ32が閉位置を保つので、パイロット通路3とタンクTとの連通は遮断される。したがって、レギュレータ2にパイロット圧が作用することになり、可変吐出ポンプ1の吐出量はQ1+Q2+Q3となり、作業機系回路10にも流量Q2の作動流体が供給されることになる。言い換えると通常運転が可能になる。
【0017】
ただし、上記通常運転時であっても、作業機系回路10の第1,2,3作業機系切換弁18,20,21を中立位置に保って、リフトシリンダ17、チルトシリンダ19およびアタッチメント用作業機を作動させていないときには、パイロット通路3がパイロット切換通路22〜24を経由してタンクTに導かれるので、パイロット通路3内はタンク圧に保たれる。パイロット通路3がタンク圧に保たれた状態では、レギュレータ2が可変吐出ポンプ1の吐出量を最少に保つが、このときの最少吐出流量は制御流量Q1+パイロット流量Q3に設定されていること前記したとおりである。
【0018】
したがって、この状態で可変吐出ポンプ1から吐出された流量のうち、制御流量Q1が優先弁5を経由してステアリング系回路8に供給され、パイロット流量Q3が流量制御弁16を経由してパイロット通路3に供給される。このように可変吐出ポンプ1の全吐出量(Q1+Q3)がステアリング系回路8とパイロット通路3に供給されるので、作業機系回路10には作動流体が供給されないことになる。
このように作業機系回路10の作業機を作動させていないときには、この作業機系回路10に作動流体が供給されないので、その分、エネルギーロスが少なくなる。このようにエネルギーロスが少ないので、この作業機系回路10において発熱もなくなる。したがって、作業機系回路10を冷却する装置なども必要なくなる。
【0019】
なお、流量制御弁16を経由してパイロット通路3に流入したパイロット流量Q3は、上記パイロット切換通路22〜24を経由してタンクTに環流する。そのために多少の圧力損失が発生するが、パイロット流量Q3を十分に少なく設定すれば、その圧力損失はほとんど無視してもよい微小なものとなる。
【0020】
上記の状態から第1,2,3作業機系切換弁18,20,21のいずれかを切り換えると、パイロット切換通路22〜24に設けた可変オリフィス25〜29が機能し、パイロット通路3の圧力を上昇させる。このようにパイロット通路3の圧力が上昇すると、それにともなってレギュレータ2が作動し、可変吐出ポンプ1の吐出量を増大させる。そして、可変吐出ポンプ1の吐出量が、制御流量Q1+パイロット流量Q3以上、すなわち制御流量Q1+パイロット流量Q3+余剰流量Q2の合計流量になると、そのうちの余剰流量Q2が、優先弁5の余剰流ポート9から流出し、第1,2,3作業機系切換弁18,20,21に供給される。
【0021】
上記のように第1,2,3作業機系切換弁18,20,21のいずれかを切り換えたときに発生する制御流量Q1+パイロット流量Q3+余剰流量Q2の合計流量は、あらかじめ設定された最大流量が確保されるようにしている。したがって、余剰流量Q2も十分に確保され、リフトシリンダ17、チルトシリンダ19およびアタッチメント用の作業機の作動には支障を来すものではない。
また、上記実施形態において、第1,2,3作業機系切換弁18,20,21に設けたパイロット切換通路22〜24をもって、この発明のパイロット切換手段としたが、このパイロット切換手段は、第1,2,3作業機系切換弁18,20,21とは別に設けてもよい。例えば、第1,2,3作業機系切換弁18,20,21の切り換え動作に関連して切り換わるオンオフ弁を設け、オンオフ弁がオフのとき、パイロット通路3とタンクTとの連通が遮断され、オンのときにパイロット通路3とタンクTとが連通する構成にしてもよい。
【0022】
なお、上記実施形態では、セキュリティーバルブ32を電磁弁で構成したが、機械的に切り換わるバルブを用いてもよいこと当然である。この場合には、オペレータが運転席を離れるときに、当該セキュリティーバルブを手動操作するか、あるいはオペレータが運転席に着座したとき、その身体の重さを機械的に検出して、それをセキュリティーバルブ32に伝達するようにしてもよい。
【0023】
また、上記セキュリティーバルブ32は、着座確認用だけでなく、いろいろなセキュリティー用に使えることもちろんである。例えば、フォークリフトなどで、制限重量以上の重量を持ち上げようとしたとき、その重量を電気的に感知してソレノイド32aを非励磁状態にして、このセキュリティーバルブ32を切り換えてもよい。
また、セキュリティーバルブ32は、正常時にノーマル状態を保ち、異常時にソレノイド32aを励磁する構成にしてもよいこと当然である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態を示す回路図である。
【符号の説明】
【0025】
P 可変吐出ポンプ機構
2 レギュレータ
3 パイロット通路
5 優先弁
7 制御流ポート
8 ステアリング系回路
9 余剰流ポート
10 作業機系回路
15 中継通路
16 流量制御弁
18 第1作業機系切換弁
20 第2作業機系切換弁
21 第3作業機系切換弁
T タンク
22〜24 パイロット切換通路
32 セキュリティーバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レギュレータを備えた可変吐出ポンプ機構と、この可変吐出ポンプ機構に接続された優先弁と、この優先弁の制御流ポートに接続したステアリング系回路と、優先弁の余剰流ポートに接続した作業機系回路と、上記レギュレータのパイロット通路と上記優先弁の上流側とを接続する通路に設けるとともに、あらかじめ設定した流量を上記パイロット通路に供給するための流量制御弁とを備え、作業機系回路に設けた作業機系切換弁を中立位置に保っているとき、上記パイロット通路をタンクに連通して流量制御弁からの流量をタンクに導く一方、上記作業機系切換弁を操作位置に切り換えたとき、上記パイロット通路とタンクの連通を遮断して流量制御弁からの流量をレギュレータに導くパイロット切換手段を設けてなり、パイロット切換手段を介してパイロット通路をタンクに連通している状態で、可変吐出ポンプ機構は制御流量とあらかじめ設定した流量とを加えた流量を吐出し、パイロット切換手段を切り換えてパイロット通路とタンクの連通を遮断し、流量制御弁からの流量をレギュレータに導いたとき、可変吐出ポンプ機構は、上記制御流量に設定流量を加えた流量以上の流量を吐出する構成にし、かつ、上記パイロット切換手段の上流側にセキュリティーバルブを設け、このセキュリティーバルブは、オペレータの着座確認信号が入力したとき、上記パイロット通路とタンクとの連通を遮断し、上記着座確認信号が入力しない限り、パイロット通路をタンクに連通する構成にした産業機械用制御回路。

【図1】
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【公開番号】特開2006−52762(P2006−52762A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233269(P2004−233269)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】