説明

田植機

【課題】操作性がよく、走行状況や作業状況に応じて、エンジンの回転数及び無段変速装置の変速比を適切に変更することができる田植機を提供する。
【解決手段】エンジン14と、前記エンジン14の回転数を変更する第一モータ61と、前記エンジン14からの動力を変速するHMT110と、前記HMT110の変速比を変更する第二モータ62と、走行速度を変更操作する変速ペダル26と、前記変速ペダル26の操作量を検出するポテンショメータ26aと、前記ポテンショメータ26aの検出値に基づいて、前記第一モータ61及び前記第二モータ62を制御する制御装置60と、を備える田植機1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、エンジンからの動力を変速する無段変速装置と、を備える田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンからの動力を、無段変速装置で変速して走行部及び植付部に伝達する構成の田植機は公知となっている(例えば特許文献1や特許文献2参照)。このような田植機においては、アクセルレバーを操作してエンジンの回転数を設定した後に、変速ペダルを操作して無段変速装置の変速比を変更することで、走行速度(作業時には作業速度)の変更を行う構成とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−83421号公報
【特許文献2】特許第4067310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記田植機においては、作業者がアクセルレバー及び変速ペダルを別々に操作して、エンジンの回転数及び無段変速装置の変速比を変更する構成であるため、操作が煩わしいという問題があった。また、作業者が、田植機の走行状況(例えば、圃場に出入りする状況)や作業状況(例えば、泥濘で植付作業を行う状況)に応じて、エンジンの回転数と無段変速装置の変速比を適切に変更することができないという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記の如き課題を鑑みてなされたものであり、操作性がよく、走行状況や作業状況に応じて、エンジンの回転数及び無段変速装置の変速比を適切に変更することができる田植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
請求項1においては、エンジンと、前記エンジンの回転数を変更する第一アクチュエータと、前記エンジンからの動力を変速する無段変速装置と、前記無段変速装置の変速比を変更する第二アクチュエータと、走行速度を変更操作する変速操作具と、前記変速操作具の操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作量検出手段の検出値に基づいて、前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御する制御装置と、を備える田植機である。
【0008】
請求項2においては、前記制御装置には、前記エンジンの燃費効率に係るマップ、前記無段変速装置の変速効率に係るマップ、前記エンジンの排ガス排出率に係るマップ及び前記エンジンの負荷率に係るマップ、のうち少なくとも一つが記憶され、該記憶されたマップ及び前記操作量検出手段の検出値に基づいて、前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御するものである。
【0009】
請求項3においては、前記エンジンから分岐してPTO出力軸に動力が伝達されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、操作量検出手段の検出値に基づいて、第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御することで、田植機の走行速度や作業速度を変更することができる。従って、作業者が変速操作具のみで田植機の走行速度や作業速度を変更することができ、操作性が向上する。また、田植機の走行状況や作業状況に応じて、エンジンの回転数及び無段変速装置の変速比を適切に変更することができる。
【0012】
請求項2においては、燃費効率に係るマップに基づいて第一アクチュエータ及び第二アクチュエータを制御することで、燃費を向上させることができる。また、変速効率に係るマップに基づいて第一アクチュエータ及び第二アクチュエータを制御することで、全速度域で変速効率を向上させることができる。また、排ガス排出率に係るマップに基づいて第一アクチュエータ及び第二アクチュエータを制御することで、排ガスを低減することができる。また、エンジンの負荷率に係るマップに基づいて第一アクチュエータ及び第二アクチュエータを制御することで、傾斜等でエンジンが過負荷となった場合でも確実に走行することができる。
【0013】
請求項3においては、エンジンの回転数を変更することで、PTO出力軸の回転数を変更することができる。従って、増減速ギヤや変速機構が不要となり、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る田植機1の全体側面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る田植機1のミッションケース100内部の動力伝達構造及び制御の構成を示す図。
【図3】エンジン14の回転数と正味平均有効圧力との関係を示すマップ。
【図4】田植機1の作業速度とHMT110の全効率との関係を示すマップ。
【図5】エンジン14の回転数とNOx濃度との関係を示すマップ。
【図6】エンジン14の回転数とエンジン14の出力との関係を示すマップ。
【図7】本発明の一実施形態に係る田植機1の別実施形態のミッションケース100内部の動力伝達構造及び制御の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図1を用いて、本発明の一実施形態に係る田植機1の全体構成について説明する。なお、本実施形態においては、田植機は八条植えの田植機とするが、これは特に限定するものではなく、例えば六条植えや十条植えの田植機であってもよい。
【0016】
図1に示すように、田植機1は、走行部10と植付部40とを有し、走行部10により走行しながら、植付部40により苗を圃場に植え付けることができるように構成される。植付部40は、走行部10の後方に配置されて、この走行部10の後部に昇降機構30を介して昇降可能に連結される。
【0017】
昇降機構30は、走行部10と植付部40との間に設けられる。具体的には、トップリンク31とロワリンク32とが走行部10と植付部40との間に架設され、昇降用シリンダがロワリンク32と走行部10との間に連結される。そして、この昇降用シリンダの伸縮動作によって、植付部40が走行部10に対して上下方向に回動可能、即ち昇降可能とされる。
【0018】
走行部10においては、エンジン14が車体フレーム11の前部に設けられて、ボンネット15により被覆される。ミッションケース100が車体フレーム11の前部に支持されて、エンジン14の後方に配置される。フロントアクスルケース16が車体フレーム11の前部に支持され、前車輪12が当該フロントアクスルケース16の左右両側に取り付けられる。リヤアクスルケース17が車体フレーム11の後部に支持され、後車輪13が当該リヤアクスルケース17の左右両側に取り付けられる。
【0019】
走行部10においては、車体フレーム11の前後中途部に運転操作部20が設けられる。運転操作部20の前部には、ダッシュボード21が配置され、ダッシュボード21の左右中央部には、操向ハンドル24が配置され、操向ハンドル24の後方には、運転席22が配置され、運転席22の下方には、一部を乗降用ステップとする車体カバー23が配置される。運転操作部20においては、主変速レバー25や変速ペダル26を含む複数の操作具が配置され、これらの操作具によって、走行部10および植付部40に対して適宜の操作を行うことが可能とされる。
【0020】
植付部40においては、植付ミッションケース47が植付フレーム49の下部中央付近に支持されて、伝動軸が当該植付ミッションケース47から左右両側方に延設される。四つの植付伝動ケース46がそれぞれ伝動軸から後方に延設されて、左右方向に適宜の間隔をとって配置される。
【0021】
ロータリケース44が各植付伝動ケース46の後端部左右両側に回動自在に支持される。ロータリケース44は植付条数と同数、即ち本実施形態では八つ備えられる。そして、二つの植付爪45が、ロータリケース44の回転支点を挟むように、このロータリケース44の長手方向両側にそれぞれ取り付けられる。
【0022】
苗載台41が植付伝動ケース46の上方に前高後低の傾斜状態で配置される。苗載台41は、植付フレーム49の後部にガイドレールを介して左右方向に往復動可能に取り付けられる。苗載台41は、横送り機構により左右往復横送り可能とされる。
【0023】
複数条(8条)の苗マット載置部を備える苗載台41は、それぞれの下端側が一つのロータリケース44と対向するように、左右方向に並べられる。そして、苗マットが各苗載台41に載置されて、ロータリケース44の回転時に植付爪45により1株の苗が当該苗載台41上の苗マットから切り取り可能とされる。
【0024】
植付部40においては、圃場面を整地する複数のフロート42と、旋回後の荒れた枕地を整地する整地ロータ43と、がそれぞれ上下動自在となるように植付フレーム49に支持されている。また、圃場に線引きを行う左右の線引きマーカ48が植付フレーム49の左右両側に回動可能に支持される。
【0025】
以下では、図2を用いて、ミッションケース100内部の動力伝達構造について説明する。
【0026】
エンジン14の動力は、ミッションケース100内部に設けられた動力伝達機構を介して、前車輪12及び後車輪13、植付部40に伝達される。ミッションケース100内部には、油圧−機械式無段変速機(HMT:HydroMechanicalTransmission)110と、主クラッチ130と、主変速機構140と、制動装置150と、が搭載される。
【0027】
エンジン14は、調速装置14aにより燃料噴射量を調整して、動力(回転数)を増減させることが可能に構成される。エンジン14の動力は、Vベルトや、プロペラシャフトを介してミッションケース100の入力軸101に伝達される。
【0028】
HMT110は、無段変速装置であり、可変容量式の油圧ポンプ111と、固定容量式の油圧モータ112と、遊星歯車機構120と、を有する。ミッションケース100の入力軸101から入力された動力は、油圧ポンプ111を駆動し、この油圧ポンプ111からの圧油を油圧モータ112に送油して油圧モータ112のモータ軸113を回転させる。
【0029】
油圧ポンプ111の可動斜板111aには、ミッションケース100に設けられた変速アーム100aが連動連結され、この変速アーム100aの回動操作により可動斜板111aの角度が変更可能に構成される。油圧ポンプ111のポンプ出力軸114には、伝動ギヤ115が固定されるとともに、その端部でHMT110のチャージポンプ71や昇降機構30のチャージポンプ72に動力が伝達される。
【0030】
油圧モータ112のモータ軸113には、サンギヤ121が軸支され、このサンギヤ121のボス部には遊転可能にプラネタリキャリア122が軸支されるとともに、サンギヤ121の回りに三つのプラネタリギヤ123・123・123が回転自在に設けられる。また、三つのプラネタリギヤ123・123・123にはリングギヤ124が外嵌されて、係合される。このように、サンギヤ121、プラネタリキャリア122、三つのプラネタリギヤ123・123・123、リングギヤ124によって遊星歯車機構120が形成され、HST系統の動力とギヤ系統の動力とが合成される。
【0031】
このようなHMT110においては、変速アーム100aを回動操作して、油圧ポンプ111の可動斜板111aの角度を変更することで、その角度に対応する圧油が油圧ポンプ111から送油される。そして、油圧ポンプ111からの送油量に応じて、油圧モータ112のモータ軸113の動力(回転速度)が変更されて、この動力に対応する速度でサンギヤ121が回転する。一方、油圧ポンプ111のポンプ出力軸114が回転することで、伝動ギヤ115及びプラネタリキャリア122が回転して、プラネタリギヤ123・123・123が回転する。
【0032】
その後、遊星歯車機構120により、サンギヤ121の動力と、プラネタリギヤ123・123・123の動力と、が合成されて、合成出力軸102が変速アーム100aの位置に応じた速度で回転又は停止することとなる。このようにして、HMT110の変速比が変更される。なお、合成出力軸102の回転速度は、エンジン14の回転数及びHMT110の変速比に対応する速度となる。
【0033】
主クラッチ130は、HMT110から合成出力軸102への動力の伝達の可否を切り替えるものである。主クラッチ130は、リングギヤ124と合成出力軸102との間に介設される。主クラッチ130においては、クラッチシフター131が摺動することで、リングギヤ124と合成出力軸102とが連結または、連結解除される。こうして、リングギヤ124の動力が合成出力軸102に伝達される。又は、伝達されない。
【0034】
主変速機構140は、HMT110からの動力を複数段に変速するものである。主変速機構140は、合成出力軸102に順次固設された後進側入力ギヤ141、前進ギヤ142及び移動ギヤ143と、カウンタ軸103に固設された後進側出力ギヤ144及び後進ギヤ145と、走行伝動軸104に摺動可能に設けられたスライダ146と、で主に構成される。前記後進側入力ギヤ141と、前記後進側出力ギヤ144とが噛合されて、合成出力軸102の動力が常時、カウンタ軸103に伝達される。
【0035】
スライダ146には、小径ギヤ146a及び大径ギヤ146bが形成される。該スライダ146は、主変速レバー25の操作により走行伝動軸104に対して摺動して、小径ギヤ146aが前進ギヤ142と噛合することで前進に、大径ギヤ146bが移動ギヤ143と噛合することで移動に、大径ギヤ146bが後進ギヤ145と噛合することで後進に、小径ギヤ146a及び大径ギヤ146bが何れのギヤにも噛合しない場合に中立に、それぞれ切り替える構成とされる。
【0036】
制動装置150は、主変速機構140の出力軸となる走行伝動軸104の回動を制動するものである。制動装置150は、走行伝動軸104の一端に設けられる。制動装置150においては、ブレーキアームの回動操作により、当該制動装置150が作動可能に構成される。
【0037】
走行伝動軸104の他端には、フロント側伝動ギヤ161が固設されて、該フロント側伝動ギヤ161は、差動装置162の入力ギヤと噛合される。そして、走行伝動軸104の動力が、差動装置162を介して左右のフロント出力軸105に伝達されて、左右のフロント出力軸105に伝達された動力は、フロントアクスルケース16内の伝達機構を介して、前車輪12に伝達される。なお、差動装置162は、フロントデフロック装置163によりロック可能とされる。
【0038】
走行伝動軸104の中途部には、リヤ側第一伝動ギヤ171が固設されて、該リヤ側第一伝動ギヤ171は、伝動軸106の一端に遊嵌されたリヤ側第二伝動ギヤ172と噛合され、該リヤ側第二伝動ギヤ172がリヤ側伝動軸107の一端に固設されたリヤ側第三伝動ギヤ173と噛合される。リヤ側伝動軸107の他端には、ベベルギヤ174が固設されて、このベベルギヤ174と噛合するベベルギヤ175が、リヤ出力軸108の一端に固設される。そして、走行伝動軸104の動力が、リヤ側伝動軸107を介して、リヤ出力軸108に伝達されて、リヤ側伝動軸107に伝達された動力は、リヤアクスルケース17内の伝達機構を介して、後車輪13に伝達される。
【0039】
合成出力軸102の一端には、PTO側第一伝動ギヤ181が固設されて、該PTO側第一伝動ギヤ181は、走行伝動軸104の他端に遊嵌されたPTO側第二伝動ギヤ182と噛合され、該PTO側第二伝動ギヤ182が伝動軸106の中途部に固設されたPTO側第三伝動ギヤ183と噛合される。伝動軸106の他端には、ベベルギヤ184が固設されて、このベベルギヤ184と噛合するベベルギヤ185が、PTO出力軸109の一端に固設される。そして、合成出力軸102の動力が、伝動軸106を介して、PTO出力軸109に伝達される。
【0040】
PTO出力軸109に伝達された動力は、株間変速ケース51に内装される増減速ギヤや変速機構で変速されて、植付クラッチや植付ミッションケース47などを介して横送り機構及び各ロータリケース44に伝達される。これにより、横送り機構が作動して、苗載台41が左右方向に摺動することとなり、また、ロータリケース44が回転作動して、二つの植付爪45が交互に苗を苗載台41上の苗マットから取り出して圃場に植付可能とされる。
【0041】
以下では、図2を用いて、本発明の第一実施形態に係る田植機1の制御の構成について説明する。
【0042】
図2に示すように、変速ペダル26は、田植機1の作業速度(走行速度)を変更するための変速操作具である。変速ペダル26はダッシュボード21の右下方に配置される。変速ペダル26は、ポテンショメータ26aにより、その操作量が検出可能とされる。ポテンショメータ26aは、変速ペダル26を操作することで回動する検出軸の回動角を検出する構成とされる。ポテンショメータ26aは、制御装置60と接続され、その検出値(変速ペダル26の操作量)を制御装置60に送信する。なお、変速操作具として、ペダルではなく、レバーや、プッシュスイッチとすることも可能である。
【0043】
モード選択スイッチ27は、田植機1の制御モードを選択するための操作具である。モード選択スイッチ27は、ダッシュボード21に設けられる。モード選択スイッチ27は、田植機1を「燃費効率モード」、「変速効率モード」、「排ガス低減モード」、「負荷モード」、「自動モード」、の五つの制御モードに選択可能に構成される。モード選択スイッチ27は、制御装置60と接続され、選択された制御モードに対応する信号を制御装置60に送信する。
【0044】
制御装置60は、第一モータ61及び第二モータ62を制御するものである。制御装置60は、走行部10の任意の位置に設けられる。制御装置60は、具体的にはCPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。制御装置60には、第一モータ61及び第二モータ62の動作を制御するための各種プログラムやマップが予め記憶される。
【0045】
第一モータ61は、エンジン14の回転数を変更するためのアクチュエータである。第一モータ61は、具体的には、ブラスレスDCモータやステッピングモータ等とされる。第一モータ61は、制御装置60と接続され、制御装置60から送信される信号に基づいて駆動する。第一モータ61の出力軸は、リンク機構を介して、エンジン14の調速装置14aと連結される。第一モータ61により、調速装置14aが駆動され、エンジン14の回転数を変更することができる。なお、本実施形態において、調速装置14aは、エンジン14の出力を検出するための出力検出手段を兼ねている。
【0046】
第二モータ62は、HMT110の変速比を変更するためのアクチュエータである。第二モータ62は、具体的には、ブラスレスDCモータやステッピングモータ等とされる。第二モータ62は、制御装置60と接続され、制御装置60から送信される信号により駆動する。第二モータ62の出力軸は、リンク機構を介して、変速アーム100aに連結される。第二モータ62により変速アーム100aが回動されて、油圧ポンプ111の可動斜板111aの傾斜角度が変更され、HMT110の変速比を変更することができる。
【0047】
エンジン回転数検出手段63は、エンジン14の回転数を検出するものである。エンジン回転数検出手段63は、例えば、エンジン14のフライホイールやクランク軸の回転数を検出する構成とされる。エンジン回転数検出手段63は、具体的には、磁気ピックアップコイルやロータリエンコーダ等で構成される。エンジン回転数検出手段63は、制御装置60と接続され、その検出信号を制御装置60に送信する。
【0048】
このような田植機1においては、制御装置60は、ポテンショメータ26aの検出値に基づいて、第一モータ61及び前記第二モータ62を制御することで、田植機1の走行速度や作業速度を変更することができる。すなわち、従来のように、二つの操作具でなく一つの操作具(変速ペダル26)のみで、走行速度や作業速度を変更する構成であるので、田植機1の操作性が向上する。また、田植機1の走行状況、例えば、圃場に出入りする状況や、トラックに搬入出する状況等に応じて、エンジン14の回転数及びHMT110の変速比を適切に変更することができる。また、田植機1の作業状況、例えば、エンジン14の燃料消費量が大きい状態で植付作業を行う状況、エンジン14の排ガス排出率が大きい状態で植付作業を行う状況、泥濘や溝にはまった状態で植付作業を行う状況等に応じて、エンジン14の回転数及びHMT110の変速比を適切に変更することができる。
【0049】
以下では、図2及び図3を用いて、本発明の第一実施形態に係る田植機1の具体的な制御態様について説明する。
【0050】
図3は、エンジン14の回転数と正味平均有効圧力との関係を示す図である。制御装置60には、図3に示すマップが予め記憶されている。ここで、正味平均有効圧力とは、エンジン14の1サイクル中におけるシリンダ内の圧力の平均値を言う。当該マップは、エンジン14の特性を示すものであり、試験等により予め導き出されるものとされる。なお、図3は例示であり、本発明に係るエンジン14の特性はこれに限るものではない。
【0051】
図3中の実線は、エンジン14の等燃費曲線を示している。等燃費曲線とは、エンジン14の出力あたりの燃料消費量(以下、単に「燃料消費量」と記す)を各エンジン回転数、及び各正味平均有効圧力ごとに計測し、同じ燃料消費量の点を結んだものである。図3中の等燃費曲線のうち、一番内側に位置する等燃費曲線内の領域(以下、「最小燃費領域」と記す)が最も燃料消費量が小さく(燃費が良く)、外側の等燃費曲線に向かって燃料消費量が大きく(燃費が悪く)なる。つまり、図3は、エンジン14の燃費効率に係るマップとされる。
【0052】
制御装置60は、エンジン14の正味平均有効圧力を常時算出する。すなわち、制御装置60には、前記調速装置14aの燃料噴射パターン(例えば、燃料噴射量、燃料の噴射回数、燃料の噴射タイミング等)と正味平均有効圧力との関係を示すマップが予め記憶され、前記調速装置14aの燃料噴射パターンから前記マップに基づいて、エンジン14の正味平均有効圧力を常時算出する。
【0053】
このような田植機1において、モード選択スイッチ27で「燃費効率モード」が選択された上で変速ペダル26が操作されると、制御装置60は、ポテンショメータ26aで検出した変速ペダル26の操作量に基づいて第一モータ61及び第二モータ62を制御して、エンジン14の回転数及びHMT110の変速比を変更し、ひいては作業速度(走行速度)を変更する。この際、制御装置60は、エンジン回転数検出手段63で検出したエンジンの回転数と、算出した正味平均有効圧と、から図3中のエンジン14の状態に対応する位置を把握して、図3中のエンジン14の状態に対応する位置が、最小燃費領域内に位置するように、又は最小燃費領域に近接するように第一モータ61及び第二モータ62を制御する。
【0054】
例えば、エンジン14の回転数がN1、正味平均有効圧力がP1であり、エンジン14の状態に対応する位置がX1であるものとする。このような場合、制御装置60は、白抜き矢印に示すように、エンジン14の回転数をN1からN2に低下させるとともに正味平均有効圧をP1からP2に増大させて、最小燃費領域内のX2に位置するように第一モータ61及び第二モータ62を制御する。このように、エンジン14の燃費効率に係るマップ及びポテンショメータ26aの検出値に基づいて、第一モータ61及び第二モータ62を制御することで、同じ作業速度であっても、エンジン14の燃料消費を抑えることが可能となり、燃費を向上させることができる。
【0055】
以下では、図2及び図4を用いて、本発明の第二実施形態に係る田植機1の具体的な制御態様について説明する。
【0056】
図4は、HMT110の変速効率に係るマップであり、詳細には、田植機1の作業速度とHMT110の全効率との関係を示すマップである。HMT110の全効率は、図2に示す油圧ポンプ111及び油圧モータ112で構成される油圧変速機構の有効動力と、伝動ギヤ115及びプラネタリキャリア122で構成されるギヤ変速機構の有効動力と、の和とされる。当該マップは、HMT110の特性を示すものであり、試験等により予め導き出されるものとされる。なお、図4は例示であり、本発明に係るHMT110の特性はこれに限るものではない。
【0057】
このような田植機1において、モード選択スイッチ27で「変速効率モード」が選択された上で変速ペダル26が操作されると、制御装置60は、ポテンショメータ26aで検出した変速ペダル26の操作量に基づいて第一モータ61及び第二モータ62を制御して、エンジン14の回転数及びHMT110の変速比、ひいては作業速度を変更する。この際、制御装置60は、HMT110全体における全効率が高くなるように、つまり、HMT110の変換効率が向上するように第一モータ61及び第二モータ62を制御する。
【0058】
例えば、変速ペダル26の操作量に対応する作業速度がV1であり、作業速度V1時におけるHMT110の全効率がE1であるものとする。このような場合、制御装置60は、全効率E1が、最も高くなる変速比となるように、すなわち、HMT110は、ギヤ有効動力のみで変速するように第二モータ62を制御する。そして、制御装置60は、この全効率が最も高くなる変速比と、変速ペダル26の操作量に対応する作業速度V1と、から、適切なエンジン14の回転数を算出して、この回転数となるように第一モータ61を制御する。
【0059】
この状態から、変速ペダル26の操作により、この変速ペダル26の操作量に対応する作業速度がV1からV2に変化して、この作業速度V2時におけるHMT110の全効率をE2とした場合、制御装置60は、白塗り矢印に示すように、全効率E2が、最も高くなる変速比となるように、すなわち、HMT110は、V1時と同様にギヤ有効動力のみで変速するように第二モータ62を制御する。そして、制御装置60は、この全効率が最も高くなる変速比と、作業速度V2と、に対応するエンジン14の回転数となるように第一モータ61を制御する。このように、HMT110の変速効率に係るマップ及びポテンショメータ26aの検出値に基づいて、第一モータ61及び第二モータ62を制御することで、全作業速度領域で、HMT110における全効率が高い状態で作業を行うことができる。
なお、低速側で微小な変速が必要な場合は、油圧有効動力の全効率に対する割合を大きくすることも可能である。
【0060】
以下では、図2及び図5を用いて、本発明の第三実施形態に係る田植機1の具体的な制御態様について説明する。
【0061】
図5は、エンジン14の排ガス排出率に係るマップであり、詳細には、エンジン14の回転数と排ガス中のNOx濃度との関係を示すマップである。制御装置60には、図5に示すマップが予め記憶されている。当該マップは、エンジン14の特性を示すものであり、試験等により予め導き出されるものとされる。なお、図5は例示であり、本発明に係るエンジン14の特性はこれに限るものではない。また、排ガス中のPM濃度やHC濃度を示すマップであってもよい。
【0062】
このような田植機1において、モード選択スイッチ27で「排ガス効率モード」が選択された上で変速ペダル26が操作されると、制御装置60は、ポテンショメータ26aで検出した変速ペダル26の操作量に基づいて第一モータ61及び第二モータ62を制御して、エンジン14の回転数及びHMT110の変速比を変更し、ひいては作業速度を変更する。この際、制御装置60は、前記マップに基づいて排ガス中のNOx濃度が低下するように第一モータ61及び第二モータ62を制御する。
【0063】
例えば、エンジン14の回転数がN3であり、この回転数N3に対応するNOx濃度がC1であるものとする場合、制御装置60は、白抜き矢印に示すように、エンジン14の回転数がN3からN4に上昇するように第一モータ61を制御して、NOx濃度をC2に低下させる。そして、制御装置60は、エンジン14の回転数N4と、変速ペダル26の操作量に対応する作業速度と、から、適切なHMT110の変速比を算出して、この変速比となるように第二モータ62を制御する。このように、エンジン14の排ガス効率に係るマップ及びポテンショメータ26aの検出値に基づいて、第一モータ61及び第二モータ62を制御することで、同じ作業速度であっても、NOx濃度を低くすることが可能となり、排ガスを低減することができる。
【0064】
以下では、図2及び図6を用いて、本発明の第四実施形態に係る田植機1の具体的な制御態様について説明する。
【0065】
図6は、エンジン14の負荷率に係るマップであり、詳細には、エンジン14の回転数とエンジン14の出力(負荷)との関係を示すマップである。制御装置60には、図6に示すマップが予め記憶されている。図6中の実線は、各回転数における最大出力となる点を結んだ出力曲線であり、この出力曲線上では、エンジン14の負荷率(本実施形態においては、エンジン14の最大出力に対する実際の出力の割合)が100%とされる。図6中の出力曲線における下側の領域は、エンジン14が作動する作動領域とされ、上側の領域は、エンジン14が停止する停止領域とされる。当該マップは、エンジン14の特性を示すものであり、試験等により予め導き出されるものとされる。なお、図6は例示であり、本発明に係るエンジン14の特性はこれに限るものではない。
【0066】
制御装置60は、エンジン14の出力を常時算出する。すなわち、制御装置60には、前記調速装置14aの燃料噴射パターン(例えば、燃料噴射量、燃料の噴射回数、燃料の噴射タイミング等)とエンジンの出力との関係を示すマップが予め記憶され、前記調速装置14aの燃料噴射パターンから前記マップに基づいて、エンジン14の出力を常時算出する。
【0067】
このような田植機1において、モード選択スイッチ27で「負荷モード」が選択された上で変速ペダル26が操作されると、制御装置60は、ポテンショメータ26aで検出した変速ペダル26の操作量に基づいて第一モータ61及び第二モータ62を制御して、エンジン14の回転数及びHMT110の変速比、ひいては作業速度を変更する。この際、泥、溝、傾斜等でエンジン14に過剰な負荷がかかった場合であっても、制御装置60は、エンジン回転数検出手段63で検出したエンジンの回転数と、算出したエンジンの出力と、から図6中のエンジン14の状態に対応する位置を把握して、図6中のエンジン14の状態に対応する位置が、作動領域内に位置するように、第一モータ61及び第二モータ62を制御する。
【0068】
例えば、エンジン14の回転数がN5、エンジン14の出力がW1であり、エンジン14の状態に対応する位置がY1であるものとする。このような場合に、エンジン14に過剰な負荷(対応するエンジン14の出力がW2)が掛かかり、エンジン14の回転数が低下すると、制御装置60は、エンジン14の状態に対応する位置が作動領域内のY2に位置するように、エンジン14の回転数をN5からN6に上昇させ(図6中の二点鎖線の矢印)、この回転数N6と、変速ペダル26の操作量に対応する作業速度と、から、適切なHMT110の変速比を算出して、この変速比となるように第一モータ61及び第二モータ62を制御する。このように、エンジン14の負荷率に係るマップ及びポテンショメータ26aの検出値に基づいて、第一モータ61及び第二モータ62を制御することで、傾斜等でエンジン14が過負荷となった場合でも作業速度が低下せず、確実に作業を行うことができる。
【0069】
さらに、モード選択スイッチ27で「自動モード」が選択されると、前記四つの制御モード(「燃費効率モード」、「変速効率モード」、「排ガス低減モード」、「負荷モード」)のうち、田植機1の走行状況や作業状況に応じて、適切な制御モードが自動で選択される。例えば、通常作業時は、「燃費効率モード」で作業を行い、泥、溝、傾斜等でエンジン14が過負荷となると、「負荷モード」に自動で切り替わる。
【0070】
なお、本発明の一実施形態に係る田植機1において、複数の制御モードを兼ねる構成とすることも可能である。例えば、「燃費効率モード」と「変換効率モード」を兼ねることで、燃料消費量を更に低減することができる。また、「排ガス効率モード」と「負荷モード」を兼ねることで、排ガスを低減しつつ、傾斜等でエンジン14が過負荷となった場合でも確実に作業を行うことができる。
【0071】
また、本発明の一実施形態に係る田植機1は、第一モータ61及び第二モータ62を個々に制御することで、エンジン14の回転数とHMT110の変速比とが任意に変更可能であるので、HMT110を介さずにエンジン14から分岐してPTO出力軸109に動力が伝達されるように構成することも可能である。例えば、図7に示すように、油圧ポンプ111のポンプ出力軸114にベベルギヤ191が固設されて、このベベルギヤ191と噛合するベベルギヤ192が、PTO出力軸109の一端に固設されて、エンジン14の動力が、HMT110で変速されず、PTO出力軸109に伝達されるように構成される。
【0072】
この場合は、制御装置60は、第一モータ61を制御してエンジン14の回転数を変更することで、PTO出力軸109の回転数を任意の回転数に変更することができる。従って、株間変速ケース51に内装される増減速ギヤや変速機構が不要となり、コストを低減することができる。なお、制御装置60は、エンジン14の回転数と、変速ペダル26の操作量(作業速度)と、に対応するHMT110の変速比となるように第二モータ62を制御することとなる。
【0073】
同様に、エンジン14から分岐して走行伝動軸104に動力が伝達されるように構成することも可能である。これにより、走行側の増減速ギヤや変速機構が不要となり、コストを低減することができる。
【0074】
以上のように、本発明の一実施形態に係る田植機1においては、エンジン14と、前記エンジン14の回転数を変更する第一アクチュエータとなる第一モータ61と、前記エンジン14からの動力を変速する無段変速装置となるHMT110と、前記HMT110の変速比を変更する第二アクチュエータとなる第二モータ62と、走行速度を変更操作する変速操作具となる変速ペダル26と、前記変速ペダル26の操作量を検出する操作量検出手段となるポテンショメータ26aと、前記ポテンショメータ26aの検出値に基づいて、前記第一モータ61及び前記第二モータ62を制御する制御装置60と、を備える田植機1である。これにより、ポテンショメータ26aの検出値に基づいて、第一モータ61及び前記第二モータ62を制御することで、田植機1の走行速度や作業速度を変更することができる。従って、作業者が変速ペダル26のみで田植機1の走行速度や作業速度を変更することができ、操作性が向上する。また、田植機の走行状況や作業状況に応じて、エンジン14の回転数及びHMT110の変速比を適切に変更することができる。
【0075】
また、前記制御装置60には、前記エンジン14の燃費効率に係るマップ、前記HMT110の変速効率に係るマップ、前記エンジン14の排ガス排出率に係るマップ及び前記エンジン14の負荷率に係るマップ、のうち少なくとも一つが記憶され、該記憶されたマップ及び前記ポテンショメータ26aの検出値に基づいて、前記第一モータ61及び前記第二モータ62を制御するものである。これにより、燃費効率に係るマップに基づいて第一モータ61及び第二モータ62を制御することで、燃費を向上させることができる。また、変速効率に係るマップに基づいて第一モータ61及び第二モータ62を制御することで、全速度域で変速効率を向上させることができる。また、排ガス排出率に係るマップに基づいて第一モータ61及び第二モータ62を制御することで、排ガスを低減することができる。また、エンジン14の負荷率に係るマップに基づいて第一モータ61及び第二モータ62を制御することで、傾斜等でエンジン14が過負荷となった場合でも確実に走行することができる。
【0076】
また、前記エンジン14から分岐してPTO出力軸109に動力が伝達されるものである。これにより、エンジン14の回転数を変更することで、PTO出力軸109の回転数を変更することができる。従って、増減速ギヤや変速機構が不要となり、コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 田植機
14 エンジン
26 変速ペダル(変速操作具)
26a ポテンショメータ(操作量検出手段)
60 制御装置
61 第一モータ(第一アクチュエータ)
62 第二モータ(第二アクチュエータ)
100 ミッションケース
109 PTO出力軸
110 HMT(無段変速装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの回転数を変更する第一アクチュエータと、
前記エンジンからの動力を変速する無段変速装置と、
前記無段変速装置の変速比を変更する第二アクチュエータと、
走行速度を変更操作する変速操作具と、
前記変速操作具の操作量を検出する操作量検出手段と、
前記操作量検出手段の検出値に基づいて、前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御する制御装置と、を備える田植機。
【請求項2】
前記制御装置には、前記エンジンの燃費効率に係るマップ、前記無段変速装置の変速効率に係るマップ、前記エンジンの排ガス排出率に係るマップ及び前記エンジンの負荷率に係るマップ、のうち少なくとも一つが記憶され、該記憶されたマップ及び前記操作量検出手段の検出値に基づいて、前記第一アクチュエータ及び前記第二アクチュエータを制御する請求項1に記載の田植機。
【請求項3】
前記エンジンから分岐してPTO出力軸に動力が伝達されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−172668(P2012−172668A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38880(P2011−38880)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】